• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22D
審判 一部無効 2項進歩性  B22D
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22D
管理番号 1230319
審判番号 無効2005-80320  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-11-08 
確定日 2011-01-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3506137号「容器、溶融金属供給方法及び溶融金属供給システム」の特許無効審判事件についてされた平成20年 3月18日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10155号平成21年 2月 4日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3506137号についての手続きの経緯の概要は、以下のとおりである。

平成12年 6月22日 国内優先出願(特願2000-188522号)
平成13年 2月14日 国内優先出願(特願2001-37159号)
平成13年 6月22日 原出願(特願2001-190494号)
平成14年 2月13日 本件分割出願(特願2002-35770号)
平成15年12月26日 本件特許権の設定登録
平成17年11月 8日 本件特許無効審判請求
平成18年 1月30日 被請求人:訂正請求書提出
平成18年 7月19日 無効審判審決(請求は成り立たない旨)
平成18年 8月24日 知的財産高等裁判所出訴
(平成18年(行ケ)第10383号)
平成19年 5月29日 判決言渡(無効審判審決取消)
平成19年 7月17日付 訂正拒絶理由通知
平成19年 8月20日 被請求人:意見書提出
平成19年 9月28日付 無効審判審決(請求項1、3、4、6に係る発 明についての特許を無効)
平成19年11月 9日 知的財産高等裁判所出訴
(平成19年(行ケ)10381号)
平成20年 1月11日 被請求人:訂正審判請求
(訂正2008-390005号)
平成20年 1月30日 差戻し決定(無効審判審決取消)
平成20年 2月 5日付 訂正請求のための指定期間通知
平成20年 3月 6日 被請求人:上申書提出
平成20年 3月18日 無効審判審決(請求項1、3、5に係る発明に ついての特許を無効)
平成20年 4月25日 知的財産高等裁判所出訴
(平成20年(行ケ)10155号)
平成21年 2月 4日 判決言渡(無効審判審決取消)

なお、被請求人は平成20年2月5日付訂正請求のための期間指定通知に対して訂正請求をしなかったので、特許法第134条の3第5項の規定により、当該期間の末日である平成20年2月18日に、平成20年1月11日付の訂正審判請求書(訂正2008-390005号)に添付された訂正した明細書又は図面を援用した訂正の請求がされたものとみなされた。

II.平成20年2月18日付け訂正請求の適否について
1.訂正の内容
(1)訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】 溶融アルミニウムを収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、外部へ溶融アルミニウムを供給することが可能で、運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられ、かつ、前記容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、
前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを具備し、
少なくとも前記流路の内径は、約65mm?約85mmであることを特徴とする容器。」
を、
「【請求項1】 溶融アルミニウムを収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、外部へ溶融アルミニウムを供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される上部開口部に大蓋が配置された容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられ、かつ、前記容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、
前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管と、
前記容器本体内を加圧するための第2の配管とを具備し、
少なくとも前記流路の内径は、約65mm?約85mmであり、 前記大蓋は、その略中央に開口部が設けられ、当該開口部には開閉可能であって、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置されており、 前記第2の配管は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられた内圧調整用の貫通孔に接続され、 前記容器本体内への加圧は、前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記第2の配管を介して前記容器本体内に加圧気体が供給されることにより行われることを特徴とする容器。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項4の記載
「【請求項4】 フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、当該容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを有し、溶融アルミニウムを収容することができる容器を用いて溶融アルミニウムを供給する方法において、
(a)前記容器内に溶融アルミニウムを導入する工程と、
(b)前記溶融アルミニウムを収容した容器を運搬車輌を用いてユースポイントまで搬送する工程と、
(c)前記ユースポイントで、前記容器内を加圧して前記流路及び前記第1の配管を介して溶融アルミニウムを導出する工程とを具備し、
少なくとも前記流路の内径は、約65mm?約85mmであることを特徴とする溶融アルミニウム供給方法。」
を、
「【請求項3】 フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、当該容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを有し、溶融アルミニウムを収容することができ、上部開口部に大蓋が配置された容器を用いて溶融アルミニウムを供給する方法において、
(a)前記容器内に溶融アルミニウムを導入する工程と、
(b)前記溶融アルミニウムを収容した容器を運搬車輌を用いて公道を介してユースポイントまで搬送する工程と、
(c)前記ユースポイントで、前記容器内を加圧して前記流路及び前記第1の配管を介して溶融アルミニウムを導出する工程と
を具備し、
少なくとも前記流路の内径は、約65mm?約85mmであり、 前記大蓋は、その略中央に開口部が設けられ、当該開口部には開閉可能であって、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置されており、 前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置には、内圧調整用の貫通孔が設けられ、 前記容器内への加圧は、前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記内圧調整用の貫通孔を介して前記容器内に加圧気体を供給することにより行うことを特徴とする溶融アルミニウム供給方法。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項6の記載
「【請求項6】(a)溶融アルミニウムを収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、外部へ溶融アルミニウムを供給することが可能で、運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される容器であって、フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、前記容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを具備する容器と、
(b)前記容器内を加圧する手段とを有し、
少なくとも前記流路の有効内径は、約65mm?約85mmであることを特徴とする溶融アルミニウム供給システム。」
を、
「【請求項5】(a)溶融アルミニウムを収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、外部へ溶融アルミニウムを供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送され、上部開口部に大蓋が配置された容器であって、フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、前記容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを具備する容器と、
(b)前記容器内を加圧する手段とを有し、
少なくとも前記流路の有効内径は、約65mm?約85mmであり、 前記大蓋は、その略中央に開口部が設けられ、当該開口部には開閉可能であって、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置され、 前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置には、内圧調整用の貫通孔が設けられており、 前記加圧する手段は、前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記内圧調整用の貫通孔を介して加圧用気体を供給するものであることを特徴とする溶融アルミニウム供給システム。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
請求項3を削除するとともに、当該削除にともない、請求項の番号の整合をとる訂正を行う。

なお、上記訂正事項の記載において、下線部が訂正部分である。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における「運搬車両により搭載されてユースポイントまで搬送される」との記載に「公道を介して」との限定を付加し、「容器」との記載に、「上部開口部に大蓋が配置された」との限定を付加し、さらに当該大蓋に「前記大蓋は、その略中央に開口部が設けられ、当該開口部には開閉可能であって、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置されており、」との限定を付加し、請求項1を引用する訂正前の請求項3の「容器本体内を加圧するための第2の配管」を取り込み、さらに、当該第2の配管に「前記第2の配管は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられた内圧調整用の貫通孔に接続され、」との限定を付加し、「内外の圧力差を調整すること」の手段を、「容器本体への加圧は、前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記第2の配管を介して前記容器本体内に加圧空気が供給されることにより行われる」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、訂正事項1は、本件特許明細書の【0103】、【0104】、【0080】、旧請求項3、【0007】、【0086】、【0029】、【0077】、【0060】、【0062】、【0087】、【0071】及び【0027】等の記載に裏付けられており、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2、3について
訂正前の請求項4、6に係る発明は、「容器」の発明である請求項1に係る発明を、それぞれ「溶融アルミニウム供給方法」、「溶融アルミニウム供給システム」と、発明のカテゴリーを単に「方法」へ変更したものであるか、「システム」として表現を単に変更したものである。
そして、訂正事項2、3は、それぞれ、「方法」、「システム」に係る発明に対して、「容器」に係る発明に対しての訂正事項1における「第2の配管」についての訂正以外の同様の訂正を行うものである。
したがって、上記1.で検討したとおり、訂正事項2、3は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項3を削除するとともに、当該削除にともない、請求項の番号の整合をとるものであって、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.無効審判の請求されていない請求項に係る発明の独立特許要件について

平成20年2月18日付け訂正請求により、無効審判請求がされている請求項は、訂正後の請求項1、3、5項となった。
一方、訂正後の請求項2、4、6に係る発明は、それぞれ訂正後の請求項1、3、5項を引用して記載されており、かつ無効審判請求がされていないことから、特許法第134条の2第5項により読み替えて準用される特許法第126条第5項の規定を満たしているか否かを検討する。

訂正後の請求項2、4、6の記載は下記のとおりである。
「【請求項2】 請求項1に記載の容器であって、
前記流路の内径は、約70mmであることを特徴とする容器。」
「【請求項4】 請求項3に記載の溶融アルミニウム供給方法であって、
前記流路の内径は、約70mmであることを特徴とする溶融アルミニウム供給方法」
「【請求項6】 請求項5に記載の溶融アルミニウム供給システムであって、
前記流路の内径は、約70mmであることを特徴とする溶融アルミニウム供給システム。」

上記のとおり、訂正後の請求項2、4、6は、それぞれが引用する請求項1、3、5において、「約65mm?約85mm」とされていた流路の内径を「約70mm」に限定するものであり、これを裏付ける記載としては、明細書の【0007】末尾に「前記流路の内径は、約70mmであることがより好ましい形態である。」旨の記載がある。
そうすると、訂正後の請求項1、3、5について、それぞれが、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない以上、これらの請求項をさらに減縮した訂正後の請求項2、4、6についても同様のことがいえる。
そして、請求項1、3、5に係る発明については、本審決の「第7.当審の判断」において後記するように、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしているし、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、これらをさらに減縮した請求項2、4、6についても、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものと認められる。
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第5項により読み替えて準用される特許法第126条第5項の規定を満たしている。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項及び第5項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

第3.本件発明
本件特許3506137号の請求項1乃至6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」乃至「本件発明6」という。また、それらをまとめて、単に「本件発明」ということもある。)は、上記のとおり訂正が認められるから、平成20年2月18日に訂正の請求をしたとみなされる平成20年1月11日付の訂正審判請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本件発明1、3、5は以下のとおりのものである。

「【請求項1】 溶融アルミニウムを収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、外部へ溶融アルミニウムを供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される上部開口部に大蓋が配置された容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられ、かつ、前記容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、
前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管と、
前記容器本体内を加圧するための第2の配管とを具備し、
少なくとも前記流路の内径は、約65mm?約85mmであり、
前記大蓋は、その略中央に開口部が設けられ、当該開口部には開閉可能であって、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置されており、
前記第2の配管は前記ハッチの中央または中央から少しずれた位置に設けられた内圧調整用の貫通孔に接続され、
前記容器本体内への加圧は、前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記第2の配管を介して前記容器本体内に加圧気体が供給されることにより行われることを特徴とする容器。」

「【請求項3】 フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、当該容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを有し、溶融アルミニウムを収容することができ、上部開口部に大蓋が配置された容器を用いて溶融アルミニウムを供給する方法において、
(a)前記容器内に溶融アルミニウムを導入する工程と、
(b)前記溶融アルミニウムを収容した容器を運搬車輌を用いて公道を介してユースポイントまで搬送する工程と、
(c)前記ユースポイントで、前記容器内を加圧して前記流路及び前記第1の配管を介して溶融アルミニウムを導出する工程と
を具備し、
少なくとも前記流路の内径は、約65mm?約85mmであり、
前記大蓋は、その略中央に開口部が設けられ、当該開口部には開閉可能であって、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置されており、
前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置には、内圧調整用の貫通孔が設けられ、
前記容器内への加圧は、前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記内圧調整用の貫通孔を介して前記容器内に加圧気体を供給することにより行うことを特徴とする溶融アルミニウム供給方法。」

「【請求項5】 (a)溶融アルミニウムを収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、外部へ溶融アルミニウムを供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送され、上部開口部に大蓋が配置された容器であって、フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、前記容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを具備する容器と、
(b)前記容器内を加圧する手段と
を有し、
少なくとも前記流路の有効内径は、約65mm?約85mmであり、
前記大蓋は、その略中央に開口部が設けられ、当該開口部には開閉可能であって、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置され、
前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置には、内圧調整用の貫通孔が設けられており、
前記加圧する手段は、前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記内圧調整用の貫通孔を介して加圧用気体を供給するものであることを特徴とする溶融アルミニウム供給システム。」

第4.請求人の主張の概要
請求人は、訂正前の本件発明1、3、4及び6の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、審判請求書に添付して甲第1号証?甲第4号証、甲第5号証-3?甲第5号証-6、及び甲第6号証-5を提出し、以下の無効理由1?3を主張している。
また、上記第2.のとおり、被請求人の平成20年2月18日付訂正請求は適法な訂正であるので、請求人が本件発明の特許を無効として請求している請求項は、上記訂正により、平成20年1月11日付の訂正審判請求書に添付された全文訂正明細書における請求項1、3、5となった。

1.無効理由1
本件発明は、甲第1号証?甲第4号証、甲第6号証-5記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。
証拠方法として提出された甲第1?4号証、甲第6号証-5は下記のとおりである。

甲第1号証:特開平11-188475号公報
甲第2号証:特公昭54-41021号公報
甲第3号証:特開平7-178515号公報
甲第4号証:特公平4-6464号公報
甲第6号証-5:特開2000-33469号公報

2.無効理由2
甲第5号証-3?甲第5号証-6の記載に照らすと、本件特許明細書の記載は、特許請求の範囲に記載された流路内径の数値限定に関して不備があるから、本件発明についての特許は、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。
証拠方法として提出された甲第5号証-3?甲第5号証-6は下記のとおりである。

甲第5号証-3:細田芳彦・朱雀英八郎著「わかり易い機械講座 油圧機械」(昭和57年4月10日第2版第6刷発行)、株式会社明現社発行、第48、49頁
甲第5号証-4:社団法人日本機械学会著「技術資料 管路・ダクトの流体抵抗」(昭和55年8月20日2刷発行)、社団法人日本機械学会発行、第1?7、26頁
甲第5号証-5:加山延太郎著「鋳物のおはなし」(1997年9月16日第1版第17刷発行)、財団法人日本規格協会発行、第16、17頁
甲第5号証-6:久保亮五ら編「岩波 理化学辞典 第4版」(1991年1月10日第4版第5刷発行)、株式会社岩波書店発行、「セラミックス」の項

3.無効理由3
本件特許明細書の記載は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の欄に記載されたストークを含む形態との対応関係に起因する不備があるから、本件発明についての特許は、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

なお、請求人が審判請求書に添付して提出した甲第5号証-1、甲第5号証-2、甲第6号証-1?甲第6号証-4、甲第7号証-1?甲第7号証-4、さらに、口頭審理陳述要領書に添付して提出した甲第8号証?甲第15号証は、下記参考資料1?19として整理された(第1回口頭審理調書の請求人側の項目3を参照)。また、請求人は審判請求書において、本件発明1、3、4、6は甲第1号証に記載された発明であるから、当該発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである旨主張していたが、当該主張は撤回された(弁駁書第5頁、及び第1回口頭審理調書の請求人側の項目2を参照)。

参考資料1:取鍋の図面(甲5-1)
参考資料2:日本坩堝株式会社からテクノメタル株式会社への送り状(甲5-2)
参考資料3:審査段階での拒絶理由通知書(甲6-1)
参考資料4:平成15年5月15日付手続補正書(甲6-2)
参考資料5:審判段階での拒絶理由通知書(甲6-3)
参考資料6:平成15年9月18日付手続補正書(甲6-4)
参考資料7:訴状抜粋(甲7-1)
参考資料8:イ号物件説明書と添付イ号図面抜粋(甲7-2)
参考資料9:証拠説明書(甲7-3)
参考資料10:訴訟で提出された証拠(甲7-4)
参考資料11:実願平1-89474号(実開平3-31063号)のマイクロフィルム(甲8)
参考資料12:特開平7-285371号公報(甲9)
参考資料13:特開平6-320255号公報(甲10-1)
参考資料14:特開昭62-289363号公報(甲10-2)
参考資料15:特開平8-20826号公報(甲11)
参考資料16:特開平1-262062号公報(甲12)
参考資料17:特開平5-293634号公報(甲13)
参考資料18:特開平8-267216号公報(甲14)
参考資料19:広辞苑の抜粋(甲15)

第5.被請求人の主張の概要
これに対し、被請求人は、答弁書、口頭審理陳述要領書、及び下記乙第1号証、乙第2号証を提出して、請求人の主張する無効理由はないから、本件特許無効審判は成り立たない旨主張している。

乙第1号証:社団法人日本機械学会著「技術資料 管路・ダクトの流体抵抗」(昭和55年8月20日2刷発行)、社団法人日本機械学会発行、第25?32頁
乙第2号証:社団法人日本機械学会著「機械工学便覧 A.基礎編 B.応用編」(2001年9月25日新版9刷発行)、社団法人日本機械学会発行、A5-73?A5-82頁

第6.甲号各証、参考資料の記載事項
1.無効理由1に関する証拠
(1)甲第1号証:特開平11-188475号公報
(1a)「【請求項1】 移動、昇降ならびに前方向へ傾動可能に構成された容器本体と、
前記容器本体の前部に該容器本体の底部より下方に位置する管開口部から該容器本体上部に亘って形成された外側管部と、
前記外側管部と連続してその管上部から前記容器本体下部に亘って形成された内側管部と、
前記内側管部の管下部に形成され容器本体内部と連通する連通部と、
前記容器本体に形成された気体流出入部を介して該容器本体内部を減圧しまたは加圧するための気体制御手段とを有することを特徴とする金属溶湯のラドル装置。」
(1b)「【請求項3】 容器本体内を減圧して、機外の溶湯を、前記容器本体前部に設けられた該容器本体の底部より下方に位置する管開口部から該容器本体上部に亘って形成された外側管部へ吸入し、前記外側管部と連続してその管上部から前記容器本体下部に亘って形成された内側管部ならびに前記内側管部の管下部に形成され容器本体内部と連通する連通部を経て容器本体内に汲み上げる工程と、
前記容器本体内を通常圧に戻して、前記工程で汲み上げた溶湯を、該容器本体および前記内側管部内に保持する工程と、
前記容器本体内を加圧して、該容器本体および前記内側管部内に保持された溶湯を前記外側管部の管上部を経てその管開口部から機外に注出する工程を有することを特徴とする金属溶湯の注湯方法。」
(1c)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、金属溶湯を成型機等に給湯するためのラドル装置およびその注湯方法に関する。」
(1d)「【0002】
【従来の技術】例えばアルミニウム合金の鋳造において、アルミインゴットや成型廃材等を溶解して、その溶湯を鋳型に注入して成型が行なわれる。溶解材料となるアルミニウム合金中にはアルミニウム酸化膜の生成を促進する亜鉛やマグネシウムが含有されているので、大気中で溶解保持されるアルミニウム合金溶湯には湯面に酸化膜が形成される。また、溶解材料には水分や不純物が付着、混入しており、これらが溶解時に酸化物を生成する。」
(1e)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】この発明は上記の点に鑑みて提案されたもので、清浄な溶湯を汲み上げ、溶湯の移送および注湯時においても溶湯を極力空気と接触させないようにした新規な金属溶湯のラドル装置の構造およびその注湯方法を提供しようとするものである。」
(1f)「【0011】
【発明の実施の形態】以下添付の図面に従ってこの発明を詳細に説明する。図1はこの発明のラドル装置の一実施例を示す断面図、図2はその正面図、図3はこの発明のラドル装置の溶湯汲み上げ状態を示す断面図、図4はその溶湯保持状態を示す断面図、図5はその溶湯注出状態を示す断面図、図6はラドル装置の傾動状態を示す断面図、図7はこの発明の注湯方法における汲み上げから注出工程を示す概略図、図8は同じくその注出後の工程を示す概略図である。
【0012】まず、この発明のラドル装置について説明すると、この発明装置は主として大型ダイカストマシンのための大容量のラドル装置として好適なもので、図1および図2に示したように、ラドル装置10は、容器本体11と、外側管部20と、内側管部25と、連通部30と、気体制御手段50の各部を有する。
【0013】容器本体11は、内部12にアルミニウム合金等の高温(650℃から750℃程度)の金属溶湯を収容する容器で、セラミックあるいは金属等の耐熱容器より構成される。実施例では、セラミック体14を金属板15によってバックアップしたものを示したが、経済性を考慮して金属製のものであってもよい。容器本体11は、図示のように、その両側面の軸部61を介してアーム62,62によって前方向に傾動可能に支持され、該アーム62はチェーン等の吊り下げ部材63およびホイスト等の移動昇降装置64によってレール65に対して移動、昇降可能に保持されている。なお、容器本体11の傾動機構については図示しないが、モータ等による軸61の回動あるいはワイヤ等の伸縮部材による傾動等、公知の手段が適宜選択される。
【0014】外側管部20は、前記容器本体11の前部11fに、該前記容器本体11の底部11bより下方に位置する管開口部21から該容器本体11上部に亘って形成される。符号22は外側管部20の管上部を表し、この管上部22は容器本体11の内部12の半分以上の高さ位置に形成されることが望ましい。
【0015】内側管部25は、図示のように、前記外側管部20と連続してその管上部21から前記容器本体11の下部に亘って形成される。符号26は内側管部25の管下部を表す。内側管部25を外側管部20の管上部22から下向きに形成することによって、外側管部20と内側管部25との折返し部に堰(メタルダム)24が形成される。この堰24は、後述するように、容器本体内部12および内側管部25に収容保持されている溶湯M1の自然逆流を防止する。
【0016】上記外側管部20および内側管部25は、図1に図示し請求項2の発明として記載したように、それぞれ傾斜状に形成して、断面逆V字状に形成することが製作上有利である。もちろん、垂直方向の逆U字形状とすることも可能である。また、外側管部20および内側管部25は、実施例のように、前記容器本体11と同一材によって一体に形成してもよい。なお、符号19は隔壁部である。
【0017】連通部30は、前記内側管部20の管下部26に形成され、容器本体内部12と連通する。実施例の連通部30は容器本体11の内底部13に形成されている。
【0018】気体制御手段50は、図1からよく理解されるように、容器本体11に形成された気体流出入部41,42を介して容器本体内部12を減圧しまたは加圧するためのものであって、図示のような公知の気体制御回路を含む。実施例において、符号41は容器本体11の上部に形成された制御気体の流入部、42は同じく流出部で、51、52は切換弁、53は制御気体の給排気部である。制御気体としては、窒素またはアルゴン等の不活性ガスが好ましく用いられるが、通常空気でもよい。」
(1g)「【0019】次に、上記ラドル装置10の作動を、請求項3および4の発明の注湯方法とともに説明する。請求項3の発明においては、以下説明するように、機外の溶湯を容器本体内に汲み上げる工程と、汲み上げた溶湯を保持する工程と、容器本体内に保持された溶湯を機外に注出する工程とを有する。また、請求項4の発明は、請求項3に規定する工程に、さらに、残留溶湯を機外に排出する工程を含む。
【0020】この発明の注湯方法の概略を説明すると、添付図面の図7はこの発明方法における汲み上げから注出に至る工程を示し、図8は同じくその注出後の工程を示すものである。両図におけるアルファベットの大文字符号は、ラドル装置10の位置を表し、図7の符号Aはラドル装置10が機外の溶湯汲み出し部70から溶湯を汲み上げる位置、Bは汲み上げた溶湯を保持して上昇u1した位置、Cはその前進f位置で、Dはラドル装置10が下降d1して機外の成型機90に溶湯を注出する位置である。また、図8の符号Eは注出後のラドル装置10の上昇u2位置、Fは後退r位置、Gはラドル装置10が下降d2して容器本体11を傾動して残留溶湯を排出する位置を表す。
【0021】まず、溶湯の汲み上げ工程について説明すると、図3は図8のA位置を表すものである。図の溶湯汲み出し部70は溶解保持炉75の汲み出し口で、図示しない溶解部で溶解された(アルミ)溶湯Mは溶湯保持部76で均一な温度に保持され連通口77から溶湯汲み出し部(汲み出し口)70に流入する。符号78は保持バーナーである。
【0022】この汲み上げ工程では、前記したラドル装置10の容器本体内部12が減圧される。容器本体内部12の減圧は、前記気体制御手段50の気体流出部41の切換弁51を開き、かつ気体流入部42の切換弁52を閉じ、気体給排気部53を作動して、容器本体内部12の気体を吸引することによって行なわれる。
【0023】ラドル装置10の容器本体前部11fに該容器本体11の底部11bより下方に位置するように設けられた外側管部20の管開口部21は、溶湯汲み出し部70の溶湯M内に浸漬される。このとき、外側管部20の管開口部21は、溶湯Mの表面部の酸化物Nを汲み上げないように、溶湯Mの湯面Lよりも50ないし100mm下面に浸漬することが望ましい。なお、管開口部21を溶湯M内に導入する際には、該導入部表面の酸化物Nを器具または不活性ガスの吹き付けによって除去または移動することが好ましい。
【0024】容器本体11内の減圧によって、溶湯汲み出し部70の溶湯Mは、溶湯内部に浸漬された外側管部20の管開口部21から該容器本体上部に亘って形成された外側管部20へ吸入され、前記外側管部20と連続してその管上部22から前記容器本体下部に亘って形成された内側管部25ならびに前記内側管部25の管下部26に形成され容器本体内部と連通する連通部30を経て容器本体11内に流入する。このとき、管開口部21は溶湯内部に浸漬されたまま不動であるから、溶湯が掻き乱されることなく、ラドル装置10には溶湯M表面の酸化物Nが混入されることなく、清浄な溶湯Mのみが汲み上げられる。
【0025】ラドル装置10内に所定量の溶湯M1が汲み上げられた後、前記気体制御手段50の切換弁51,52を制御して容器本体11内を通常圧に戻す。ラドル装置10内に計量器(図示せず)等を設置して切換弁の制御を自動に行なうようにしてもよい。減圧による吸引状態から開放されることによって、外側管部20内の溶湯は溶湯汲み出し部70に自然流下し、一方、内側管部25および容器本体内部12内の溶湯M1は外側管部20の管上部22の堰(メタルダム)24によって堰き止められるので、そのまま残ってラドル装置10内に保持され、溶湯M1の収容が完了する。
【0026】溶湯M1を保持したラドル装置10は、図7の符号u1のようにB位置に上昇され、成型機90に向かって符号fのようにC位置まで前進する。図4はラドルのC位置状態を表すものである。ラドル装置10内に保持された溶湯M1は大気とほとんど接触することなく、また堰24によって逆流することがなく安全に移送できる。なお、溶湯M1の収容後のラドル装置10における制御弁51,52は同図のように閉状態にしておくのが好ましい。
【0027】図5はラドル装置10に保持した溶湯M1を成型機90の溶湯注入口91に注出する状態を示し、図7の符号D状態に対応する。同図のように、ラドル装置10内に収容した溶湯M1を機外に注出する工程は、容器本体内部12の加圧によって行なわれる。すなわち、前記気体制御手段50の気体流出部41の切換弁51を閉じ、かつ気体流入部42の切換弁52を開き、気体給排気部53を作動して、容器本体内部12に制御気体を圧送する。容器本体内部12の加圧により、ラドル装置10内の溶湯M1は外側管部20の管上部22の堰(メタルダム)24を乗り超えて押し出され、外側管部20の管開口部21より成型機90の溶湯注入口91に注出される。
【0028】一定量の溶湯の注出後、前記気体制御手段50によって容器本体内部12が通常圧に戻される。図5において、符号92はプランジャスリーブ、93はプランジャ、94はゲート、95は鋳型部で、溶湯注入口91に注出された溶湯M2は、プランジャ93の前進によってゲート94より鋳型部95に導入され成型が行なわれる。
【0029】上述の工程によって、溶湯の汲み上げ、保持、注出の一サイクルが完了して、再び元の位置に戻って次のサイクルが開始される。注出工程の後にラドル装置10内に溶湯M1が残留することがあるが、次に汲み上げられる良質の溶湯と混合すれば、溶湯品質上ほとんど問題点とならない。ただし、成型サイクルが長くなったりするような場合には、ラドル装置10内の残留溶湯を排出するようにしてもよい。
【0030】請求項4の発明は、上述した工程において、さらに、溶湯M1の注出後に前記容器本体内部12および内側管部25内に残留する溶湯を該容器本体11を前方に傾動して前記外側管部20の管開口部21から機外に排出する工程を含む金属溶湯の注湯方法に係る。
【0031】図8に示したように、成型機90に溶湯を注出したラドル装置10は、D位置からE位置に上昇u2し、F位置に後退rし、溶湯汲み出し部70のG位置に下降d2する。このG位置で、残留溶湯の排出が行なわれる。図6はラドル装置10を傾動するG位置状態を表すもので、図のように、容器本体11をその軸部61から前方に傾動して、容器本体内部12および内側管部25内に残留する溶湯M3を外側管部20の管開口部21から溶湯汲み出し部70内の溶湯M中に排出する。排出される残留溶湯M3の量はわずかであるから、溶湯汲み出し部70内の溶湯M中に排出しても影響はない。この後、図7のA位置に戻し空になったラドル装置10によって、溶湯Mの汲み上げ工程が繰り返される。」
(1h)「【0032】
【発明の効果】・・・この発明の金属溶湯のラドル装置によれば、従来の開放型のラドルを使用しないので、溶湯表面の酸化物を一緒にすくい上げてしまうことがなく、しかも外側管部の管開口部は溶湯中に浸漬されたまま不動で溶湯を汲み上げるので、溶湯が掻き乱されることがなく、清浄な溶湯のみを汲み上げることができる。また、溶湯の汲み上げおよび注出は気体制御手段による容器本体内部の減圧および加圧によって行なわれるので、溶湯と空気が接触することが極力避けられる。これによって、成型機で使用される溶湯の品質管理を確実に行なうことができるようになり、鋳造品の不良率を低下させることができる。
【0033】また、この発明装置によれば、管上部の堰(メタルダム)を介して外側管部および内側管部が設けられるので、容器本体内部の溶湯の逆流が完全に防止され、また気体制御によって溶湯の汲み上げおよび注出を行なうものであるから、作業の安全性が高く、工場内の作業環境が向上する。」
(1i)【図1】には、実施例としてラドル装置が図示され、容器の上面に貫通孔が気体流出入部41、42として設けられ、気体制御手段50に配管が接続されていることが示されている。

(2)甲第2号証:特公昭54-41021号公報
甲第2号証には、第1?3図として給湯装置の一部断面側面図などが図示されるとともに、以下のように記載されている。
(2a)「特許請求の範囲
1 レール1に沿つて走行可能な台車2上に、外側が耐熱材3によつて保護されたタンク4を載置するとともに、該タンク4を台車2の両側から立設された水平面上において回転自在な支持体10において傾倒可能に装架し、更に該タンク4内に、真空源接続用バルブ5、圧縮空気接続用バルブ6を備えた操作パイプ7および溶湯8の吸収・排出用パイプ9をそれぞれ連通装備せしめたことを特徴とするダイカスト工場における給湯装置。」(第1欄第16?25行)
(2b)「まず、装置主体Cのタンク4内に溶解炉Aを溶湯8を移す場合、装置主体Cを溶解炉Aの前面に移動させて停止させ、次いでタンク4の吸入・排出用パイプ9を溶解炉Aの方向に旋回位置させ、操作パイプ7の真空源接続用バルブ5へ上記した真空源18に連らなるパイプ20のバルブ22と接続したのち、操作ハンドル14を操作してタンク4を傾倒し吸入・排出用パイプ9の開口端部を溶解炉A内に挿入する。続いてバルブ22および5を開放操作するとタンク4内を経て上記パイプ9内が負圧となり、溶解炉Aから溶湯が吸入されてタンク4内に流入する。そしてタンク4内の溶湯量が所定高さに達すると、上限感知電極棒24が作動し、ブザーあるいは点灯によつて表示するか、あるいはまた開放バルブ25を開いてタンク4内の負圧を解消し、吸入作用を停止させる。次いで上記した各バルブ22および5を閉じタンク4を元の直立状態に戻してパイプ9を溶解炉Aから取り出し、さらに台車2の走行態勢にそなえてタンク4を旋回せしめて後走行モータMを操作して装置主体Cを鋳造機Bに向つて移動させ、所定の鋳造機Bの前面に停止させて給湯作業を開始する。」(第3欄第10?32行)
(2c)「さらに又、上記実施では台車2がレール1に沿つて走行する場合について述べたが、必ずしもレール1の軌道敷を設けることなく、公知の電動式台車2等を用いるようになしても本装置の目的を達成できることは勿論である。」(第4欄第20?24行)

(3)甲第3号証:特開平7-178515号公報
(3a)「【請求項15】 回転する冷却された運搬ベルト2の上で鋳込みノズル15に通じる融解体分配器5と、調整可能なガス源13に接続されているベルト厚さ測定装置16とを持っているものにおいて、融解体分配器5が三重室として作られていて、注入室9、ガス密圧力室10および注出室11を持ち、注入室9には鋳込みノズル15に終るサイフォン14が接続されていて、調整可能なガス源13が圧力室10に接続されていることを特徴とする鋳込み装置。」
(3b)「【0028】
【実施例】本発明を以下実施例について詳細に説明する。図1は、本発明による鋳込み装置の第一実施形態の直立断面図、図2は、図1による融解体分配器の断面指示線に沿う水平断面図、図3は、本発明の第二の実施形態の直立断面図、図4は、本発明の第三の実施形態の直立断面図、図5は、本発明の第四の実施形態の直立断面図、図6は、本発明の第五の実施形態の直立断面図、および図7は、図6による鋳込みノズルと一体にされたサイフォンの拡大断面図である。
【0029】図1は、運搬ローラー3、4(4は図示されない)を介して回転する冷却された運搬ベルト2と、誘導加熱環状炉(誘導コイル5´を有する)の形の金属融解体6に対する融解体分配器5とからなる、終端寸法近傍金属ベルトを連続的に製造するための鋳込み装置を示す。
【0030】融解体分配器5は、注入室9(断面積FE)、圧力室10(断面積FO)および注出室11を持っている。圧力室10は、カバー10´によりガス密に閉鎖されている。カバー10´内にはガス接続部12が設けられていて、この接続部は調整可能なガス源13に接続されている。注出室11にはサイフォン14が接続されていて、サイフォン14は運搬ベルト平面Eの上の鋳込みノズル15に通じている。注出室11は円形断面(断面積FA)を、サイフォン14(断面積FS)と鋳込みノズル15(断面積FG)とは方形断面を持っている。」
(3c)「【0046】図6および図7による鋳込み装置は、大部分が図1および図2によるものと一致している(同じ部分は同じ符号とする)。この場合においては、注出室11は前炉として作られたサイフォン14に接続されていて、サイフォンの底24には鋳込みノズル15が入れられていて、ノズルは運搬ベルト平面Eに通じている。清浄の目的でサイフォン14に近付けるようにするためにサイフォンは取り外し可能なカバー25を持っている。鋳込みノズル15は、1つの(または複数の)栓26により閉鎖され、栓はカバー25内でガス密に導かれている。
【0047】鋳込みのために、装置は注入室9を経て(概略的示された)湯溜まり7から金属融解体6を充填される。このとき、今の場合には運搬ベルト平面Eに相当するAで示された充填レベルを超えてはならない。
【0048】鋳込みのときに、サイフォン14と鋳込みノズル15との凍結を回避するために、2つの部分は予熱される。栓26を上げてあるときに、鋳込みノズル15はガスバーナー27により加熱され、このバーナーに対してはカバー25に、開口28または案内部29が設けられている。続いて鋳込みノズル15の入口は、再び栓26により閉鎖され、サイフォン14は圧力室10内のガス圧の変化により金属融解体6を充填され、短時間後に再び空にされる。この過程は何回も繰り返される。必要な圧力平衡は、カバー25内の弁30により行われるが、この弁30はガスバーナー27の場所に配置されてもよい。」
(3d)実施例として【図1】、【図6】、【図7】が示され、溶融金属が収容される圧力室上部に大蓋が配置され、さらに、該大蓋の略中央に開口部が設けられ、開閉可能と認められる小蓋(ハッチ)が配置すること、溶融金属が流出する経路である注出室11に、フランジ様の部材を介して、別体の連通する配管であるサイフォン14を取り付けることが示されている。

(4)甲第4号証:特公平4-6464号公報
(4a)「特許請求の範囲
1 トラツクの荷台1の上面に所定の長さの1対の固定具4,4を上記荷台1の幅方向に所定の間隔を保ち平行に固定すると共に、その1側端部の荷台1上面には長手方向の固定具5を上記固定具4,4とコ字状をなすよう着脱自在に取付け、溶融金属を収納し開口部を密閉した取鍋2をその底面に固設したフオークリフトのフオーク差し込み用部材9,9を上記固定具4,4および5に係合して荷台1上に載置し、上記取鍋2の本体上部と荷台1上面にそれぞれ相対応して設けた少くとも3対の係止部材6と止具7の間に緊締具8を掛止め緊締し、このトラツクにより該取鍋2を運搬するようにした溶融金属の運搬方法。
2 荷台1上に所定の長さの1対の固定具4,4を上記荷台1の幅方向にその間に溶融金属を収納し開口部を密閉した取鍋2底面のフオーク差し込み用部材9,9が係合するよう所定の間隔をもつて平行に固定すると共に、その1側端部の荷台1上面には上記フオーク差し込み用部材9,9の端部を係止すべき固定具5を上記固定具4,4とコ字状をなすよう着脱自在に取付けて固定装置3を形成し、該固定装置3外側の荷台1上少くとも3個所には上記取鍋2緊締用の止具7を固設した溶融金属運搬用車輌。
3 それぞれ開口部に密閉装置を有する受湯口17および注湯口18と、本体20の上部少くとも3個所に設けた緊締用の係止部材6と、底部に設けたフオークリフトのフオーク差し込み用部材9を備えた溶融金属運搬用取鍋。」(第1欄第1行?第2欄第7行)
(4b)「〔産業上の利用分野〕
本発明はアルミニウム等の溶融金属を公道など一般道路を通つて遠隔地運搬、長時間運搬、坂道などの傾斜面運搬ができ、溶湯のまま使用者側に配送ができるようにしたトラツク等、道路上を運行する運搬用車輌による溶融金属の運搬方法に関するものである。」(第2欄第9?15行)
(4c)「〔従来の技術〕
アルミニウム等の溶融金属をフォークリフト等により工場内を運搬することは従来から行われているが、此の場合はインゴットを集中溶解炉で溶解してから取鍋に受け、ダイカスト等の鋳造設備に隣接して設けた保持炉(手許炉)に分配しているので通路は概ね平坦であり、運搬距離も長くない。従って取鍋,或はその把持方法等に特別な工夫を要せずに安全に運搬が行われている。運搬中取鍋は本体部分は蓋をして移送中の温度低下を防止しているが、注湯口は開放したままであるのが普通である。
また、車輌による溶融金属運搬の例として高炉から出銑した溶融銑鉄を運搬する混銑車があるが、この混銑車は製鐵所の敷地内に敷設した軌道上を運行するものであるから適時所望の個所に配送することができず、機動性に乏しく、また軌道上を走行するため容器等に特別の工夫も要せず、運搬時間も長くないので溶湯の温度低下も大して問題とならない。」(第2欄第16行?第3欄第12行)
(4d)「〔解決すべき問題点〕
集中溶解炉で溶解して各保持炉に分配する場合には、問題がある。即ち一種多量生産の場合は集中溶解方式が経済的であるが、多種類少量の生産には集中溶解方式は不経済であり、他の小型溶解炉、例えばるつぼ炉、小型の溶解兼保持炉等に頼らざるを得ない。集中溶解炉とこれらの小型溶解炉を併設することは設備費の負担が大きく、問題がある。また炉の保守、環境衛生等の面から考えても保持炉の方が小型であり、溶湯の酸化損失も少なく、工場内の熱気も少ないので優れている。従つて集中溶解炉を設備しなくても鋳造ができれば工場の合理化が図られる。この目的で、アルミニウム等を専門に溶解する工場から使用現場まで溶湯のまま配湯する方法が研究されており、一部にはパイプラインによる給湯設備がある。しかし、この場合でも運搬距離はせいぜい数百メートルに過ぎず、同一工場内での運搬に限られており前記混銑車と同様、適時希望の場所に配送することができず、機動性に乏しい。運搬距離がさらに長距離になれば、工場の合理化がさらに推進されるであろうことは以前から予想されていた。従つて、例えば溶湯を外部の企業から配給を受けて使用することは以前から構想されてきたが、未だ実現されないまま、今日に至つている。その原因は溶湯の放冷を防ぎ安全に運搬することが困難であつたことによる。」(第3欄第13?39行)
(4e)「即ち従来の方法で溶湯を一般道路上を運搬する場合は、公道など一般道路が工場内と異なり、坂道があつたり、車の振動が激しくなる舗装状態の悪い道路面があつたりすることから、溶湯がこぼれたり、積込んだ取鍋が横転したり、また放冷により溶湯が凝固する等の困難が予想され、実現ができなかつた。」(第3欄第40行?第4欄第2行)
(4f)「〔問題点の解決手段〕
本発明は上記の事情に鑑みなされたもので、溶融金属を密閉型の取鍋に収納し、開口部を密閉した取鍋をトラツク等道路上を運行する運搬用車輌の荷台上に載置固定して運搬することを特徴としている。
・・・長距離運搬、坂道などの傾斜運搬が可能となり、また舗装状態の悪い道路での振動に対しても緊締がゆるむことなく、従つて荷台上の取鍋は公道などの一般道路上を安全に運搬でき、また取鍋の積降しも極めて迅速容易に行うことができる。
また、取鍋な受湯口および注湯口に密閉装置を有する密閉型の取鍋で、運搬中の湯こぼれ等を完全に防止することができ、長時間運搬等の場合は保温用加熱装置を設けて溶湯の放冷凝固を防止するようにし、受湯口、注湯口の開閉もクランプハンドルにより極めて迅速に行い得るようにしたものである。」(第4欄第3?35行)
(4g)「〔実施例〕
次に本発明の詳細を実施例を示す図について説明すると、第1図において1は車輌(トラツク)の荷台、2は開口部が密閉可能な円筒形の取鍋、3は取鍋2の固定装置で、固定装置3は第2図?第4図に示す如く荷台1上に、この荷台に取鍋2を載置したとき、後に述べるように同取鍋2の底面に固着されたフオーク差し込み用部材9,9が係合するよう、所定の長さの1対の固定具4,4が所定の間隔で荷台1の幅方向に互いに平行に固定4′されており、これに対し長手方向の固定具5が上記固定具4,4の1側端部の荷台1上に固定具4,4とコ字状になるようボルト5′により着脱自在に固定されている。取鍋2は上記フオーク差し込み用部材9,9をこの固定具4,4と5に係合して荷台1上に載置され、載置後、取鍋2の本体上部の少なくとも3個所に等間隔に設けたリング状の係止部材6,6…と荷台1上に対応固定した止具7,7…の係止棒7′間に、第5図に示すターンバツクルの如き緊締具8のフツク8′を掛止め装着して緊締する。
取鍋2の底面にはフオークリフトのフオーク差し込み用部材9,9が固着されており、上記平行な固定具4,4の間隔はこの差し込み用部材9,9が内側に摺り合わせて挿入できる間隔とする。また固定具4は第3図に示す如くU型鋼10とL型鋼11と平鋼12を組合わせ溶接し、平鋼12の傾斜面により差し込み用部材9,9が容易にセツトできるようになつているが他の形態のものでもよい。また着脱自在の固定具5は適当な断面形状のものを使用することができる。図示の如く止具7は固定具5の外側の1個を頂点とするほぼ正三角形状に配置されているので、緊締後は差し込み用部材9の1側端部が固定具5に係止され、安定した状態で固定される。
上述の如くして取鍋2の下部が固定装置3により固定され、上部が緊締具8と止具7、係止部材6等により緊締されるから、荷台上を移動したりガタ付く等のことなく、長距離運搬、坂道などの傾斜運搬が可能であり、また舗装状態の悪い道路での振動に対しても緊締が緩まず、従つて荷台上の取鍋は公道など一盤道路上を安全に運搬できる。
第6図?第8図は取鍋の断面図を示し、13は外殼鉄皮、14は断熱材、15は内張り耐火材、16は蓋、17は受湯口、18は注湯口、19は受湯口小蓋、蓋16と取鍋本体20の各鉄皮はフランジ部21を締着22して接続してある。また小蓋19は第7図に示すように蝶番23により蓋16に開閉自在に取付けられ、その反対側には把手24および二叉状掛止具25が突設され、これに対し蓋16にはねじ軸26が外側方に回転自在に取付けられ、図においてねじ軸26は掛止具25の二叉部に掛止められ、ねじ軸26に螺合せしめたクランプハンドル27により小蓋19が蓋16に締着されており、ハンドル27をゆるめてねじ軸26を外側方に回動することにより小蓋19を開くことができる。
第7図において28は耐火材中に埋め込まれたヒーター、また第8図において、29は蓋16に設けたヒーターである。第6図は加熱装置を備えない取鍋を示しているが、本体20と蓋16、小蓋19等の構造は共通である。また注湯口18は1個所に設けたものを示したが、第1図に示すように2個所に設けてもよい。
第9図?第11図は注湯口18の開閉装置を示し、図中、30は鋳鉄製の注湯口ノズル、31はノズル30に嵌合する鋳鉄製のストツパーで、ストツパー31は蓋16もしくは取鍋本体20に固定された基軸32の端部に回動自在に嵌装したリング(図示せず)に上下回動自在に取付けたアーム33の先端部に取付けられ、アーム33は取鍋本体20もしくは蓋16に固定された支持板34の上縁に摺動自在に支持されて回動可能となつており、支持板34の端部に設けたスリツト34′に落込み嵌合することによりストツパー31が注湯口ノズル30に嵌合して同注湯口ノズル30を閉塞するようになつている。34″は支持板34上縁の他端部に設けた注湯口18開口時のアーム33の保持部(アームレスト)である。上記アーム33の基部を基軸32に玉接手等により上下および左右方向に回動自在に接続してもよい。
35はストツパー31を緊締するトグルクランプ装置で、上記ストツパー31の注湯口ノズル30を閉塞する位置において、アーム33がクランプ35上端部のコ字状の保持部35′に嵌合するので、クランプ35のハンドル35″を上下方向に回動することによりストツパー31をノズル30に嵌合圧着することができ、また上記と反対の操作でノズル30を開くことができる。上記ノズル30およびストツパー31を鋳鉄製とすることにより、機械的強度にすぐれ、耐久性を改善することができる上、注湯後の湯切れが良く、密閉性が改善されることが分つた。鋳鉄製であると、付着地金があつても容易に剥がすことができる。尚注湯口ノズル30とストツパー31の間にセラミツク繊維シートを介在させると、地金付着のトラブルは一層改善され、鋳鉄製ストツパーの保護および完全密閉の度合を高めることができる。
溶融金属の輸送に当つては、一例として供給者側の工場において溶解炉からポンプにより送給されて来た溶湯を取鍋2の受湯口17から送給パイプを通して取鍋2内に収納した後、小蓋19を閉じ、クランプハンドル27により緊締し、また注湯口18にはストツパー31を施し、トグルクランプ35のハンドル35″により緊締すれば取鍋2は迅速かつ完全に開口部が密閉されるので、この取鍋2を差し込み用部材9,9を介しフオークリフトによりトラツクの荷台1に積込み、上記固定装置3と緊締具8により固定して使用先の工場まで運搬することができる。
使用先の工場に着後は取鍋2の緊締6,7,8を解除し、左右方向に傾動可能なフオークリフトを使用して、取鍋2を降ろし、ストツパー31を取除いて注湯口18を開き、フオークリフトにより取鍋2を傾動して保持炉、或は直接鋳型等に直ちに注湯することができる。従つて供給者側は使用先工場の需要に応じ適時に溶融金属を配送することができる。この場合、上記固定具5を着脱自在としてあるので荷台1の左右何れの側からもフオークリフトのフオークを差し込み、取鍋2を降ろすことができ便利である。また固定具5を平行固定具4,4の左右何れの側にも取付け得るようにしておけば、フオークリフトによる取鍋2の積込みが何れの側からもできて便利である。
実施例1
(1)荷台上の固定装置
70×150mmU型鋼10と、45×45mmL型鋼11および50mm平鋼12を第3図に示すように溶接した固定具4,4を車輌の進行方向を横切る方向に適当間隔に平行に固定4′し、必要に応じさらに荷台1の面に溶接し、その一方の端部に固定具5をボルト5′により固定して固定装置3を構成し、その外側に止具7を、その1個が固定具5の外方に位置するよう固定した。係止棒7′には直径21mmの丸棒を使用した。
(2)取鍋
取鍋は厚さ約6mmの鉄板で円筒形に形成して鉄皮13とし、これに適宜補強板を設けた。内張耐火材は蓋16、小蓋19に軽量キヤスタブル、本体20の胴部断熱材14に断熱性ボード、内張耐火材15にはアルミノホウ酸を含有する耐食性キヤスタブル(アルガレフAC85日本坩堝株式会社製)をそれぞれ使用した。また底部には焼成した大形のブロツク(アルガレフAC85日本坩堝株式会社製)を嵌込んで受湯時の衝撃に耐えるようにした。取鍋の寸法はほぼ外径1100mm、高さ1200mm、内径860mm、深さ900mmでアルミニウム溶湯約900Kgを収容し、湯面の高さほぼ700mmであつた。取鍋の重量は内容物を含めほぼ2300Kgであつた。
(3)固定方法
受湯口17から730℃のアルミニウム溶湯約900Kgを受湯し、密閉した取鍋2をフオークリフトを用いてトラツクの荷台1上に載置、固定した。1台のトラツクに2基の取鍋を積込んだ。
(4)運搬方法
受湯から使用先の溶解炉に移すまでの時間は約2時間であつた。途中、坂のある一般道路を走つたが、安全に運搬することができた。2時間後の溶湯温度は約650℃であつた。
(5)使用結果
取鍋の内部等には何等異常がなく、次の運搬に使用することができた。」(第4欄第36行?第8欄第24行)
(4h)「〔発明の効果〕
本発明は上述のように溶湯を適時に使用者側に配送することができるので、使用者側において省エネルギー、歩留の向上、溶解費用の節減が図られる等の効果があり、また供給者側も溶融状態のまま配送できるので、インゴツトに鋳造する手間が省け、省エネルギーの効果があり、また製品の在庫を軽減し得る等の効果が大であり、特にアルミニウム再生工場等において極めて有効に使用することができる。また運搬中も、上述のように開口部を密閉した取鍋2の底部を車輌の荷台1上に固定装置3により固定し、取鍋2の上部を緊締具8、止具7および係止部材6等により緊締したので、荷台1上を移動したりガタ付く等のことがなく、また輸送中の荷台の傾斜、振動等により湯こぼれ等を生ずるおそれも全くなく、極めて安全に溶融金属を一般道路上を運搬し得る利点を有している。」(第9欄第16行?第10欄第4行)
(4i)第6図、第8図には、取鍋の側面と底面の外側が外殻鉄皮で覆われ、該外殻鉄皮の内側に断熱材が介挿され、該断熱材の内側に内張耐火材の内張りが設けられ、取鍋内の溶融金属に浸漬する側壁内面から該取鍋上面側の注湯口まで、上記側壁の内張耐火材を貫通して溶融金属の流路が延びている点が示され、さらに、第6乃至8図には、取鍋の上面の開口部を覆う蓋が配置され、該蓋の略中央部に受湯口が設けられ、該受湯口には開閉自在の小蓋を設けることが示されている。

(5)甲第6号証-5:特開2000-33469号公報
甲第6号証には、図3?13として本発明の基礎となる発明の一実施例に係るスリーブの構造を示す斜視図などが図示されるとともに、以下のように記載されている。
(5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】径方向に沿って、少なくとも強度及び気孔率が互いに異なるセラミックス質の層が配置されたことを特徴とするスリーブ。
【請求項2】径方向に沿って窒化硼素の含有量が互いに異なる複数の層が配置されたことを特徴とするスリーブ。
【請求項3】前記スリーブが該スリーブ内を溶湯が流れるものであり、
前記スリーブの径方向内方から外方に向かって、前記複数の層中の窒化硼素含有率が互いに連続的又は段階的に低くなるように、該複数の層を配置したことを特徴とする請求項2記載のスリーブ。
【請求項4】前記窒化硼素が、有効量の結晶性乱層構造窒化硼素を含む粉末を焼結してなるものであることを特徴とする請求項2又は3記載のスリーブ。
【請求項5】前記窒化硼素が、10?20重量%の結晶性乱層構造窒化硼素粉末と、残部主として窒化珪素粉末、アルミナ粉末、窒化アルミナ粉末の一種以上と、を含む原料を焼結してなることを特徴とする請求項4記載のスリーブ。
【請求項6】前記結晶性乱層構造窒化硼素粉末が、そのCuKα線による粉末X線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.5°以下であり、六方晶窒化硼素のCuKα線による粉末X線回折図における[100]、[101]及び[102]回折線に対応する各回折線の占める面積S100、S101及びS102の間にS102/(S100+S101)<0.02の関係が充たされているものであることを特徴とする請求項4又は5記載のスリーブ。
【請求項7】請求項1?6のいずれか一記載のスリーブの単体又は該スリーブを他のスリーブに嵌挿してなるスリーブを、鋳型に溶湯を注入するための流路であるプランジャスリーブとして用いたことを特徴とするダイカストマシン。」
(5b)「【0094】表3に示した上述の試料23と同様の焼結体を材料として、ダイカストマシンのプランジャスリーブを作製した。図7は、本発明の基礎となる発明の一実施例に係るスリーブを用いたプランジャスリーブの構造を示す斜視図であり、図8(A)は図7のプランジャスリーブの軸方向断面図であり、図8(B)は図7のプランジャスリーブの側面図である。
【0095】図7、図8(A)及び図8(B)を参照して、プランジャスリーブ100は、本発明の基礎となる発明の一実施例に係るスリーブからなる薄肉の内筒200と、内筒200が嵌挿された耐熱鋼製の外筒300からなる。内筒200は機械的加工性がよく寸法精度が高く、熱膨張率の等方性により耐熱衝撃性が高いため、焼きばめせずに内筒200と外筒300を一体化することができる。内筒200と外筒300の一端部には、溶湯を導入するための孔400が開けられている。プランジャスリーブ100の他端部にはフランジが形成され、ダイカストマシンのプラテンに取り付けられる。このプラテンは、固定ダイに当接し、互いに型締めされた固定ダイと可動ダイの間の鋳型に、プランジャスリーブ100内をストロークするプランジャヘッドによって押し出された溶湯が供給される。
【0096】[ダイカスト試験]以上説明したプランジャスリーブを適用したダイカストマシンを用いて、溶湯温度を下記のように代えて、アルミニウム合金を鋳造した。プランジャスリーブ100(図7参照)の寸法は、外径150φ×内径80φ×長さ528L、内筒200(図8(A)参照)の厚さを10mmtとした。また、比較のため、耐熱鋼製のメタルスリーブ単層のプランジャスリーブを用いて、同様に鋳造を行った。鋳造条件は下記のとおりである。
【0097】材質:ADC10、溶湯温度:650?710℃、潤滑剤:黒鉛含有潤滑剤。」
(5c)「【0114】
【発明の効果】本発明によれば、断熱性ないし保温性が高く、強度と耐熱衝撃性のバランスが優れたスリーブが提供される。本発明によるスリーブは、ダイカストマシンのプランジャスリーブとして有用であり、溶湯温度、溶湯の押し出し圧力などに関する鋳造条件の制限を緩和される。
【0115】また、本発明は、新規な結晶性乱層構造窒化硼素の用途を開発するものである。この新規な結晶性乱層構造窒化硼素を用いた本発明によるスリーブは、断熱性ないし保温性が高く、強度が高く、熱膨張が等方性で耐熱衝撃性が高く、潤滑性がよく、ガス抜け性がよく、溶融金属に対して濡れにくく、機械加工性がよい、という特性を有する。このようなスリーブは、ダイカストマシンのプランジャスリーブ用材料としてきわめて優れた特性を有するものであって、鋳造品における欠陥の発生が減少されると共に、断熱性の高さにより作業環境温度が低下される。
・・・・・・
【0120】上記スリーブは、機械加工性がよいため、これを用いて複雑な形状の高精度のスリーブを安価に提供できる。また、本発明によるスリーブは、高強度を必要とする構造用スリーブ、耐久性のある通気性多孔質溶融金属用鋳型用スリーブ、溶融金属と接触する保護スリーブなどの耐熱衝撃性を必要とするスリーブ用の材料として好適である。結晶性t-BN(或いは結晶性t-BNに由来する微細分散h-BN)の含有により複合セラミックス焼結体に高い滑り特性を与えることができ、この特性を任意の所望値に制御、調節することもできる。また、本発明は溶湯を保持又は流通させるための容器や給湯管(図13参照)にも好適に適用される。」

(6)参考資料11:実願平1-89474号(実開平3-31063号)のマイクロフィルム
(6a)「2.実用新案登録請求の範囲
(1) 取鍋運搬車両のエンジンの駆動軸に加圧装置である過給器が直結され、この過給器の叶出側に加圧給排気切替弁が配設される送気管の一端を接続し、この送気管の他端を取鍋運搬車両に積載される密閉構造とした移湯密閉取鍋の溶湯表面の上部空間部に連通させ、さらに、移湯密閉取鍋内に耐熱溶湯導管の一端を挿通させるとともに、耐熱溶湯導管の他端に移湯密閉取鍋とは別に設けた保持炉に移湯できる長さを有する樋を備えて成り、溶解炉から受湯した移湯密閉取鍋内溶湯の保持炉への移湯時に、エンジン回転数の上昇による過給器の加圧圧力により、移湯密閉取鍋内の溶湯を耐熱溶湯導管の一端から樋を経由して保持炉に加圧静流移湯するようにした前記加圧装置を、移湯密閉取鍋と一体に車載したことを特徴とする溶湯の移湯装置。」(実用新案登録請求の範囲)
(6b)「〔考案が解決しようとする課題〕
しかし、前述の移湯取鍋の傾注容器移湯方式は、移湯取鍋の傾注時の溶湯飛散による不安全作業であるとか、溶湯の激流でガスの巻き込みにより、比重値がバラツキを起こして、品質不良が発生する。
ついで、ポンプ方式はポンプ内で溶湯を渦流で汲み揚げるため、ガスの巻き込みは避けられない。また、動力源としてエアー及び電力を溶湯移送エネルギーに変換する効率が極めて低く、その上、イニシャル(設備費)ランニングとも高価であるという問題点がある。
そこで、この考案は上記問題点を解決するために、溶解炉から保持炉への溶湯の移湯装置を簡素化してコスト低減を図るとともに、移湯作業時の安全性を向上させることにある。
〔課題を解決するための手段〕
そのため、この考案は上述の課題を、取鍋運搬車両に積載の移湯取鍋を密閉して移湯密閉取鍋を形成し、溶解炉から保持炉への溶湯の移湯は、前記移湯密閉取鍋内の溶湯を、車載の加圧装置である過給器の加圧力によって押し上げ、保持炉に加圧静流移湯することにより解決しようとするものである。」(第3頁第7行?第4頁第10行)
(6c)実施例として第1図が示され、加圧式取鍋がフォークリフトに積載され、加圧手段をフォークリフトに設けることが示されている。

(7)参考資料13:特開平6-320255号公報
(7a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】密閉した溶湯室の底部から立上がる出湯路の上端の出湯室と、この出湯室の底面の注湯口と、前記底部から立上がる受湯路の上端の受湯室と、前記底部に連通する溝形インダクタと、ガス導入管を介して前記溶湯室の溶湯にガスを加圧する加圧ガス制御装置とからなる加圧式注湯炉において、
前記注湯口にこれを開閉する棒状のストッパを設け、前記溝形インダクタの軸心を水平より下に45°ないし90°に向けて取付け、前記ガスを不活性ガスとし、前記溶湯室の溶湯の全量を排出するように前記加圧式注湯炉を傾動させる動力傾動装置を設けることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉。
【請求項2】請求項1記載の球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉において、前記溝形インダクタの出力を、前記溶湯室の最大容量の前記溶湯の温度を定常状態で保温する以上に昇温可能な出力とすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉。
【請求項3】請求項1又は2記載の球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉において、前記出湯室及び前記受湯室をそれぞれ前記出湯路及び前記受湯路にフランジで着脱自在にすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉。
【請求項4】請求項1、2又は3記載の球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉において、前記ガス導入管の内径を50mm以上とすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉。
【請求項5】請求項1、2、3又は4記載の球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉において、前記加圧ガス制御装置の前記溶湯室側にフィルタを介装することを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉。」
(7b)「【0011】
【実施例】図1は実施例の断面図である。図において、この加圧式注湯炉1は、密閉した溶湯室2の底部2aから立上がる出湯路3の上端の出湯室4と、この出湯室4の底面の注湯口5と、底部2aから立上がる受湯路6の上端の受湯室7と、底部2aに連通する溝形インダクタ8と、ガス導入管9を介して溶湯室2の溶湯10にガスを加圧する加圧ガス制御装置11とからなる。
・・・
【0014】このような構造によれば、次の作用がある。
(1) 注湯口5のストッパ12の開閉のみで注湯と注湯停止とを行うから、出湯室4の溶湯の流動が少なくMgの消失が少ない。従来例のショット圧により溶湯を出湯室の底面を基準に上げ下げするものより溶湯の流動が少ないからである。
(2) 溝形インダクタ8の溝は上方又は斜め上方に向くから、溝から出入りする溶湯は溶湯室2の溶湯10をよく攪拌し、溝形インダクタ8と溶湯室2の溶湯の温度差が小さい。このため、注湯に必要な流動性を保つに必要な温度より余分に溝形インダクタ10の中の溶湯の温度が高すぎることがない。温度差は、従来のθ=5°では150°Cが実測されるが、θ=45°では20?50°Cと下がる。溶湯が過昇温しないから、Mgの消失が遅い。
(3) 加圧ガスにN2 などの不活性ガスを使用するから、MgがMgOに変化することが抑制されてMgの消失が遅く、スラグの堆積も遅い。
(4) 加圧式注湯炉1に動力傾動装置14を設けるから、Mgが消失した溶湯の排出が速やかに可能であり、加圧式注湯炉1が冷え過ぎないうちに、新たにMgを添加した溶湯を適温で素早く蓄えて次の注湯に備えることができ、Mgの消失を止むを得ず待つことがない。普通鋳鉄の加圧式注湯炉は24時間可動か夜間に保温電力を投入して溶湯の排出は事故時などのみであるが、球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉1では溶湯の交換期間が短いことがよい。
(5) 溝形インダクタ8は、保温する以上に充分大きく昇温可能な出力を持つから、新たにMgを添加した溶湯を適温で素早く昇温して次の注湯に備えることができ、Mgの消失を止むを得ず待つことがない。
(6) 出湯室4及び受湯室7は、フランジ16a、16bで着脱自在であるから、MgOスラグが堆積したら交換して加圧式注湯炉1全体の寿命を長くできる。
(7) ガス導入管9の内径を50mm以上とするから、MgOのスラグが堆積して加圧ガスの吸排気時間の遅れによる注湯制御精度の悪化を遅らせることができる。50mmのとき、6ヵ月以上の寿命が実証された。
(8) 加圧ガス制御装置11にフィルタ17を介装するから、加圧ガス制御装置11にMgOのスラグなどが逆流しないで加圧ガス制御装置11の性能維持ができる。」
(7c)実施例として【図1】が示され、溶湯が収容される溶湯室の上部に、蓋が配置されること、該蓋の中央に貫通孔が設けられていること、溶湯室下部から上方に向かう出湯路3にフランジ16aを介して出湯室4を取り付けることが示されている。

(8)参考資料14:特開昭62-289363号公報
(8a)「(従来の技術)
鋳物の鋳造とくに逐次に連続的な鋳造を行う鋳造ラインなどでかつてのとりべを使用する手動注湯にとって代わって用いられ始めた溶融金属の注湯炉には注湯方式として加圧式、傾動式、電磁ポンプ式などがあり、そのうち注湯精度、電力消費の面から加圧式が有利であってこの点富士時報:52(’79)、619 :三菱電機技報53(’79)、652:三菱電機技報52(’78)、450などで開示されているとおりである。
これら加圧式注湯炉は上部を密閉した貯湯室と貯湯室の下部より立上る受湯路と出湯路および貯湯室の下部に連通した溶融金属を加熱するための溝型誘導加熱部を有し、注湯に際しては注湯直前に出湯路内の湯面高さを一定位置(プリレベル)に保持するように貯湯室内へベース圧力Pを加圧しておき、出湯時には所定の注湯速度に見合うショット圧ΔPをベース圧に加えて加圧し注湯する(特開昭53-33929号公報参照)。」(第1頁右下欄第6行?第2頁左上欄第4行)
(8b)「・・・この発明は 溶融金属2を貯蔵する、上部で密閉した加圧可能な貯湯室1と、この貯湯室1の下部より立上る出湯路3とを有する注湯炉において、
出湯路3の立上り部分8が貯湯室1の底面9よりも下方に位置する
ことを特徴とする加圧式注湯炉である。
・・・さらには貯湯室1がこれに連通して貯湯室と同時に加圧可能な受湯炉を有することが実施上好適である。
この発明の構成を第1図および第2図にて具体的に示す。
図中1は貯湯室、2は溶融金属、3は出湯路、4は鋳型等へ注湯するための出湯口であり、5は他の溶湯保持容器から溶湯を受けるための受湯路、6、7は密閉するための蓋、・・・
(作 用)
・・・なお受湯路5をも加圧することによって受湯路部分の溶湯も低減できる。」(第2頁右上欄第17行?右下欄第8行)
(8c)実施例として、第1図、第2図が示され、受湯炉の上部に開閉可能な蓋7を設け、該蓋の中央から少しずれた位置に加圧用の貫通孔、配管を設けることが示されている。さらに、排出用の流路である出湯路を溶湯を貯留する容器である貯湯室の底部付近に接続することが示されている。

(9)参考資料15:特開平8-20826号公報
(9a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 取鍋本体に被せた蓋を貫通するスト-クをそなえた密閉式の取鍋の前記スト-クと溶解炉とを吸湯管により接続し、前記取鍋内を減圧して前記溶解炉内の溶湯を前記取鍋内に吸引し、前記溶湯を所定量吸引後密閉した前記取鍋内を減圧して該溶湯の真空脱ガスをおこなったのち、前記取鍋内に酸化防止用ガスを封入した状態で前記取鍋の運搬をおこない、溶湯使用装置と前記スト-クとを配湯管により接続し、前記取鍋内に加圧ガスを送入して前記溶湯を前記溶湯使用装置に加圧配湯することを特徴とする真空脱ガス方法。」
(9b)「【0002】
【従来の技術】たとえばアルミニウム、銅、亜鉛などの非鉄金属あるいはその合金などを鋳造する際に、鋳造製品の欠陥を除去し高品質化をはかるために、溶湯を収容した減圧槽内を真空にし溶湯中の有害ガスを吸引除去する真空脱ガス法が、採用されるようになった。ところが従来の真空脱ガス法においては、一般に先ず溶解炉から開放状態の取鍋内に大気中で溶湯を注湯し、この溶湯を入れた取鍋を運搬して減圧槽内に収容し、真空脱ガス後、取鍋を取出して鋳造装置等の溶湯使用装置まで運搬し、鋳造装置の保持炉へ取鍋を傾動させて配湯したり、大型鋳物の場合等は直接鋳型への注湯を取鍋を傾動させておこなっている。
【0003】このため従来の真空脱ガス法においては、取鍋への注湯時や運搬中および溶湯使用装置部における注湯時などに、溶湯の大気との接触や大気の巻込みにより、溶湯が酸化しやすく、また溶湯が大気中の水素ガスを吸収しやすく(特に高湿度のとき著しい)、折角脱ガスをおこなっていながら溶湯品質が劣化し、鋳造製品中に気泡が発生して強度が低下するという問題があった。また減圧槽への取鍋の収容、取出しにも手間がかかり、取鍋を収容する大容量の減圧槽内を減圧するのに時間がかかり、真空排気装置も大容量のものが必要であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】この発明は上記従来の問題点を解決するもので、溶湯の取鍋内への注湯から真空脱ガス後の溶湯の溶湯使用装置への配湯までの間における、溶湯の大気との接触や大気の巻込みを減らして、溶湯の品質向上および真空脱ガスの生産性向上をはかることができ、真空排気装置も小容量のもので済む真空脱ガス方法および取鍋式真空脱ガス装置を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】この出願の第1の発明の真空脱ガス方法は、取鍋本体に被せた蓋を貫通するスト-クをそなえた密閉式の取鍋の前記スト-クと溶解炉とを吸湯管により接続し、前記取鍋内を減圧して前記溶解炉内の溶湯を前記取鍋内に吸引し、前記溶湯を所定量吸引後密閉した前記取鍋内を減圧して該溶湯の真空脱ガスをおこなったのち、前記取鍋内に酸化防止用ガスを封入した状態で前記取鍋の運搬をおこない、溶湯使用装置と前記スト-クとを配湯管により接続し、前記取鍋内に加圧ガスを送入して前記溶湯を前記溶湯使用装置に加圧配湯することを特徴とする。」
(9c)「【0025】図4において保持炉71は、ヒ-タ72をそなえた炉体73内にるつぼ74を設置して成る。また81は窒素ガス供給装置で、図3における同装置と同構成を有するものであり、図3と同一部分には同一符号を付してある。91はるつぼ74内に開口するスト-ク92を先端部にそなえたライニング材で内張りした配湯管で、この配湯管91を接続口18に接続するとともに、給気接続口34にホ-ス50を介して窒素ガス供給装置81を接続する。なお93は配湯管91の端部に固着した石綿パッキンから成るシ-ル材である。
【0026】そして開閉弁36を開き、窒素ガスを取鍋1内に送入して該取鍋1内をたとえば0.1?0.5Kgf /cm2 程度に加圧し、該取鍋1内の溶湯40を配湯管91を経て保持炉71のるつぼ74内に配湯する。所定量の配湯後、図示しない他の保持炉に対して同様にして配湯をおこない、取鍋1内の溶湯40が不足状態となったら、前記の工程により溶解炉41内から新たな溶湯40を取鍋1内に吸湯し、以下同様の工程を繰返せばよい。」
(9d)実施例として【図1】、【図4】が示され、溶湯を収容する取鍋の本体の上部開口部にクランプ装置を介して開閉可能な蓋を設け、該蓋の中央から少しずれ位置に排気接続口、吸気接続口を設け、排気管、吸気管を接続すること、溶湯を取鍋から配湯する際に、加圧気体を貯留したタンクからガスを供給し、取鍋内を加圧することが示されている。

(10)参考資料16:特開平1-262062号公報
(10a)「2.特許請求の範囲
上向きの開口部を有する移動自在な溶湯保温炉と、前記開口部を密閉する炉蓋と、該炉蓋に取付けられて、入口側端部を前記溶湯保温炉内の溶湯に浸漬されると共に出口側端部を鋳造機における溶湯保持部内の底壁近傍に配設される給湯管と、前記溶湯保温炉内の溶湯を前記給湯管を通じ前記溶湯保持部に緩徐に流入させる溶湯駆動源とを備えていることを特徴とする鋳造用給湯装置。」(特許請求の範囲)
(10b)「炉蓋30は、溶湯保温炉23に対し着脱自在であって、その下面外周部に環状シール部材31を備え、そのシール部材31を溶湯保温炉23のフランジ部27に重合することによって開口部24を密閉することができる。」(第3頁左下欄第6?10行)
(10c)「また炉蓋30の中央部近傍に、それを貫通して加圧ガス用導入管(排出管を兼ねる)37が立設され、その導入管37と、前記ガス圧制御器18より延出する供給管38とが一対の半体39a、39bを持つ第1コネクタ39を介して着脱される。
これにより導入管37からのガス圧が溶湯mの表面に作用すると、その溶湯mは給湯管32を通じて保持炉3内に流入し、したがって加圧ガス供給源17、ガス圧制御器18、供給管38、第1コネクタ39および導入管37は溶湯駆動源Sを構成する。」(第3頁右下欄14行?第4頁左上欄第8行)
(10d)実施例として第1図が示され、開閉自在な炉蓋30の中央から少しずれた位置に貫通して加圧ガス用導入菅37を設けることが示されている。

2.無効理由2に関する証拠
甲第5号証-3には、「層流と乱流」に関する事項が、甲第5号証-4には、「流体」、「流体摩擦」、「管内の流れ」、「各種の損出」に関する事項が、甲第5号証の5には、「溶金の低粘度」に関する事項が、甲第5号証の6には、「セラミックス」に関する事項がそれぞれ記載されている。

第7.当審の判断
まず、無効理由2、3について検討した後、無効理由1を検討する。

1.無効理由2について
請求人は、甲第5号証-3?甲第5号証-6を引用し、「本件発明は『少なくとも前記流路の有効内径は、約65mm?約85mmである』と流路内径のみを数値限定しているが、流路内径は取鍋本体内径その他の寸法や流速など操業条件と不可分一体の関係にあるにも拘らずこれらの定義が請求項に規定していないので、発明の特定が出来ない。また、前記数値限定の根拠となる説明も、自然法則を逸脱している。即ち、流路内径の決定に当って、給湯状態が『乱流』であることを見逃し、支配的パラメータである『うず粘度ε』を考慮に入れていない。それ故、現実の給湯状態から逸脱した条件で流路内径を決定しているものであり、自然法則上及び実務上ありえない理論に基づく流路内径決定方法を採用している。」(審判請求書第6頁)旨主張する。
そこで、まず、当該数値限定に関連する、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載について考察する。
本件発明は、「少なくとも前記流路の(有効)内径は、約65mm?約85mmである」という流路内径に関する数値限定を、その発明特定事項として具備するものであるが、当該数値限定に関し、本件特許明細書の段落【0018】及び【0085】には、次のように記載されている。
「【0018】 前記流路の内径が約65mm?約85mmであることは、発明者らが配管径と圧送に必要な圧力との関係を調べた結果得られた知見である。」
「【0085】流路57及びこれに続く配管56の内径はほぼ等しく、65mm?85mm程度が好ましい。従来からこの種の配管の内径は50mm程度であった。これはそれ以上であると容器内を加圧して配管から溶融金属を導出する際に大きな圧力が必要であると考えられていたからである。これに対して本発明者等は、流路57及びこれに続く配管56の内径としてはこの50mmを大きく超える65mm?85mm程度が好ましく、より好ましくは70mm?80mm程度、更には好ましくは70mmであることを見出した。すなわち、溶融金属が流路や配管を上方に向けて流れる際に、流路や配管に存在する溶融金属自体の重量及び流路や配管の内壁の粘性抵抗の2つパラメータが溶融金属の流れを阻害する抵抗に大きな影響を及ぼしているものと考えられる。ここで、内径が65mmより小さいときには流路を流れる溶融金属はどの位置においても溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響を受けているが、内径が65mm以上となると流れのほぼ中心付近から内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め、その領域が次第に大きくなる。この領域の影響は非常に大きく、溶融金属の流れを阻害する抵抗が下がり始める。溶融金属を容器内から導出する際に容器内を非常に小さな圧力で加圧すればよくなる。つまり、従来はこのような領域の影響は全く考慮に入れず、溶融金属自体の重量だけが溶融金属の流れを阻害する抵抗の変動要因として考えられており、作業性や保守性等の理由から内径を50mm程度としていた。一方、内径が85mmを超えると、溶融金属自体の重量が溶融金属の流れを阻害する抵抗として非常に支配的となり、溶融金属の流れを阻害する抵抗が大きくなってしまう。本発明者等の試作による結果によれば、70mm?80mm程度の内径が容器内の圧力を非常に小さな圧力で加圧すればよく、特に70mmが標準化及び作業性の観点から最も好ましい。すなわち、配管径は50mm、60mm70mm、、、と10mm単位で標準化されており、配管径がより小さい方が取り扱いが容易で作業性が良好だからである。」
してみると、本件特許明細書には、流路内径の数値限定の根拠について、一通りの説明はなされているから、理論的根拠が完全か否かはともかく、その数値限定の意義は、一応理解できる程度に明らかであるといえる。そして、特定の内径寸法の流路を製造すること自体には、格別の技術的創意を要するものではないから、本件特許明細書においては、本件発明の実施に当たり、「少なくとも前記流路の(有効)内径は、約65mm?約85mmである」とすることを困難とする技術上の要因はなく、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。
また、請求人は、自然法則上及び実務上ありえない理論に基づく流路内径決定方法を採用している旨主張する。
しかしながら、上記のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がある以上、発明特定事項である数値限定について、その理論的根拠の詳細までを厳密に明らかにすることは、特許法第36条第4項の規定が要求するところではないというべきである。
確かに、本件明細書には、当該数値限定の導出に関して「溶融金属が流路や配管を上方に向けて流れる際に、流路や配管に存在する溶融金属自体の重量及び流路や配管の内壁の粘性抵抗の2つパラメータが溶融金属の流れを阻害する抵抗に大きな影響を及ぼしているものと考えられる」(段落【0085】)と記載されており、その他のパラメータの影響等については明記されていないが、そもそも本件特許明細書の「前記流路の内径が約65mm?約85mmであることは、発明者らが配管径と圧送に必要な圧力との関係を調べた結果得られた知見である」(段落【0018】)との記載によれば、本件発明における数値限定は、経験的、実験的に得られたものと解されるから、明細書の発明の詳細な説明には、その意義や科学的根拠の概略程度が示されていればよいのであって、理論的にゆるぎない程度にまで緻密で詳細な解説がなされていないということをもって本件特許明細書が記載不備となるものではない。

次に、上記数値限定に関連する、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載についてみる。
本件発明は、当該数値限定を、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項(発明特定事項)として具備するものであるが、これは、流路内径が当該数値限定の範囲に属するか否かで、特許を受けようとする発明と、そうでない発明とを区別しようとするものである。そして、当該数値限定自体、当業者が理解できないようなものではないし、この数値限定に起因して他の発明特定事項との関係等が不明確になるわけもないから、本件発明は、上記数値限定により、その発明を特定することができないとはいえず、明確でないともいえない。
また、請求人は、流路内径は取鍋本体内径その他の寸法や流速など操業条件と不可分一体の関係にあるにも拘らず、本件発明は流路内径のみを数値限定していることをもって、本件発明は特定できないと結論づけているが、本件発明を特定するために必要な事項は特許出願人自らが決定すべきものであり、特定すべき事項が足りないことをもって、ただちに発明が特定できない、ひいては発明が不明確であるとはいえない。さらに、特許法第36条第6項第2号は、特許を受けようとする発明が明確であることをその要件としているものの、特許請求の範囲において数値限定を行う場合において、その数値に関する影響因子をすべて考慮し、それらを特許請求の範囲に網羅的に記載することまで要求するものではないから、当該要件と、数値限定の影響因子を捨象することとは同列に扱われるべきものではない。
そして、前記のとおり、本件発明における数値限定は本件特許明細書において明確であるから、特許出願人が流路内径のみを発明特定事項として記載したことによって、本件発明が不明確になるとはいえない。
したがって、本件発明についての特許が、当該無効理由を有するとする請求人の主張は採用の限りではない。

3.無効理由3について
請求人は、「本件発明は『ストーク』等の部品の交換の必要がない容器の提供を目的としているものであり、これを受けて請求項1は『流路が内在したライニング』を構成要件としている。ところが、本件発明の概略図である図11の474は明らかに『ストーク』であり、その説明も『【0123】このような減圧、加圧により、配管474を通じて、流体(溶融金属や粉体)を容器から出したり、入れたりすることができる。配管473から非酸化性ガスを導入して気密領域を加圧すれば、配管474を通じて溶融金属を外部へ押し出すことができる。また配管473を排気系に接続して気密領域を減圧すれば、配管474を通じて溶融金属を外部から吸引することができる。』とあり、本件発明に『ストーク』を含むことになる。とすれば、『特許を受けようとする発明』が明確でなく、特許法第36条第6項第2項に違反する」(審判請求書第6頁)旨主張する。
確かに、本件特許明細書の図11及び段落【0123】等には、ストークに相当する部材が認められる。
しかしながら、本件発明は、流路を有するものであることを発明特定事項としているわけであるから、流路を有さず、ストークにより溶湯を外部に供給する形態を包含しないことは明らかである。
してみれば、当業者であれば、本件発明は、本件特許明細書の図11及び段落【0123】等に記載されたような、ストークに相当する部材を具備する形態を含まないものとして、その内包を明確に理解することができるから、特許請求の範囲の記載が不明瞭であるとすることはできない。
そして、ストークを使用する形態が本件特許明細書に記載されているとしても、それは本件発明とは無関係のものであるから、そのことにより発明の詳細な説明の記載が、当業者が容易に本件発明の実施をすることができないとする程度に不明確なものであるともいえない。
したがって、本件発明についての特許が、特許法第36条第4項又は第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

3.無効理由1について
(1)本件発明1について
上記平成20年(行ケ)10155号判決において、知的財産高等裁判所は、以下のとおり判示している。

【取消事由3(甲4発明と対比した本件発明1の進歩性の判断の誤り)について】
「…甲4発明の容器は、…溶湯は受湯口から取鍋内に収納され、使用先の工場では、注湯口を開きフォークリフトにより取鍋を傾動して保持炉や鋳型等に注湯する方式の、いわゆる傾動式の取鍋であると認められるところ、この傾動式の取鍋から、これを密閉された容器に溶融金属用の配管が設けられ加減圧用の配管が接続されるという構成(いわゆる加圧式)とすること自体は、甲11(特開平8-20826号公報)、甲10の2…において、加圧式の場合、注湯精度、溶湯品質等の点で傾動式よりも優れていることが記載されているから、当業者がこれを適用することは容易に想起できるものと認められる。
しかし、このことは、当業者が甲4発明から出発してこれにいわゆる加圧式の容器を採用しようと考えた後は、加圧式の容器であれば性質上当然具備するはずの構成のほかそのすべての個々の具体的構成は当然に適用できることを意味するものではない。そして、甲4発明の傾動式の容器であれば、その傾動式の容器であるという性質自体から、溶湯を出し入れするために注湯口及び受湯口が必要であることが導かれるが、加圧式の容器の場合は、一つの流路を通して溶湯の導入と導出とを行う注湯方式であり加減圧用の配管が容器に接続されていればよいのであるから、傾動式の容器で必要な受湯口及び受湯口小蓋は必須なものではない。したがって、甲4発明の傾動式の容器に接した当業者がこれを加圧式の取鍋にすることを考える際、あえて、必須なものではない受湯口及び受湯口小蓋を具備したままの構造とするのであれば、そうした構造を採用する十分な具体的理由が存する必要があるというべきである。
しかるに、…本件発明1は、容器内を加圧して容器内に導入された配管を介して容器内の溶融材料を外部に導出するという構成において、容器本体の上部には、開閉可能なハッチが設けられ、このハッチは容器内に溶融金属を供給する度に開けられるが、このハッチに内圧調整用の貫通孔を設けるという構成をとることにより、ハッチを開けて加熱器を容器内に挿入して予熱をする際に、内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができ、内圧調整に用いるための配管や孔の詰まりを未然に防止できるという作用効果を有するものである。そうすると、本件発明1と上記(2)に記載したような甲4発明とを対比すると、甲4発明は取鍋を運搬車輌に搭載し公道を介して工場間で運搬するという技術的課題を有し、その課題解決手段としては、…運搬用車輌に搭載し公道上を搬送されるに適した構成を採用しており、技術分野は同じくするものの、その技術的課題は、傾動式取鍋の安全な工場間運搬(甲4発明)と加圧式取鍋特有の内圧調整用配管の詰まりの防止(本件発明1)というように基本的に異なっており、その課題解決手段も、注湯口、受湯口の密閉手段や運搬用車両への係止手段が設けられた構成(甲4発明)と「前記第2の配管は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられた内圧調整用の貫通孔に接続され」た構成(本件発明1の相違点イ)というように異なっており、その機能や作用についても異なるものであるから、そのような甲4発明に接した当業者が、本件発明1の相違点イの構成を容易に想起することができたと認めることはできない。」

【取消事由2(甲1発明と対比した本件発明1の進歩性の判断の誤り)について】
「上記2の説示(審決注 取消事由3についての説示を指す)は、主引例の相違にかかわらず、その内容に照らして、原告の取消事由2(甲1発明と対比したときの相違点2の判断の誤り)の主張に対しても基本的に妥当する。
また、そもそも甲1発明のラドル装置は、加圧式のものであるが、甲1公報記載のとおり、清浄な溶湯を汲み上げ、溶湯の移送及び注湯時においても溶湯を極力空気と接触させないようにする(【0006】)という技術的課題の課題解決手段として、非開放型の構成を採用したものであって、本件発明1のように、加圧式の容器に開放部分であるハッチを設けるものとは、その技術思想が基本的に異なるというべきである。
したがって、そのような甲1発明に接した当業者が、本件発明1の相違点2の構成を容易に想起することができたと認めることはできず、審決の、甲1発明との相違点2について容易想到であるとした判断も誤っているというべきであるから、原告の取消事由2の主張にも理由がある。」

当審の審理は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、上記平成20年(行ケ)10155号判決の判断である上記判示事項に拘束されるものである。

よって、本件発明1は、甲第1号証?甲第4号証、甲第6号証-5記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであるとの請求人の主張は採用できない。

(2)本件発明3、5について
上記平成20年(行ケ)10155号判決において、知的財産高等裁判所は、本件発明3、5について、下記のとおり判示している。

【取消事由4(本件発明3、5の進歩性)について】
本件発明3及び5は、本件発明1の「容器」を用いた溶融アルミニウムの供給方式を、それぞれ「方法」、「システム」として特許請求をしたものであることが明らかであるから、上記2,3の説示(審決注 取消事由3,2に関する上記考察)に照らせば、本件発明1についてと同様に、本件発明3及び5についても、当業者において容易に発明をすることができたとの本件審決の判断には誤りがあるというべきである。」

当審の審理は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、上記平成20年(行ケ)10155号判決の判断である上記判示事項に拘束されるものである。

したがって、本件発明3、5についても、甲第1号証乃至甲第4号証、甲第6号証-5記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであるとの請求人の主張は採用できない。

第8.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1、3、5に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、また、特許法第36条第4項又は第6項第2号に規定する要件を満たしていないともいえないから、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
容器、溶融金属供給方法及び溶融金属供給システム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】溶融アルミニウムを収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、外部へ溶融アルミニウムを供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される上部開口部に大蓋が配置された容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられ、かつ、前記容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、
前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管と、
前記容器本体内を加圧するための第2の配管とを具備し、
少なくとも前記流路の内径は、約65mm?約85mmであり、
前記大蓋は、その略中央に開口部が設けられ、当該開口部には開閉可能であって、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置されており、
前記第2の配管は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられた内圧調整用の貫通孔に接続され、
前記容器本体内への加圧は、前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記第2の配管を介して前記容器本体内に加圧気体が供給されることにより行われることを特徴とする容器。
【請求項2】請求項1に記載の容器であって、
前記流路の内径は、約70mmであることを特徴とする容器。
【請求項3】フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、当該容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを有し、溶融アルミニウムを収容することができ、上部開口部に大蓋が配置された容器を用いて溶融アルミニウムを供給する方法において、
(a)前記容器内に溶融アルミニウムを導入する工程と、
(b)前記溶融アルミニウムを収容した容器を運搬車輌を用いて公道を介してユースポイントまで搬送する工程と、
(c)前記ユースポイントで、前記容器内を加圧して前記流路及び前記第1の配管を介して溶融アルミニウムを導出する工程と
を具備し、
少なくとも前記流路の内径は、約65mm?約85mmであり、
前記大蓋は、その略中央に開口部が設けられ、当該開口部には開閉可能であって、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置されており、
前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置には、内圧調整用の貫通孔が設けられ、
前記容器内への加圧は、前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記内圧調整用の貫通孔を介して前記容器内に加圧気体を供給することにより行うことを特徴とする溶融アルミニウム供給方法。
【請求項4】請求項3に記載の溶融アルミニウム供給方法であって、
前記流路の内径は、約70mmであることを特徴とする溶融アルミニウム供給方法。
【請求項5】(a)溶融アルミニウムを収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、外部へ溶融アルミニウムを供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送され、上部開口部に大蓋が配置された容器であって、フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、前記容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを具備する容器と、
(b)前記容器内を加圧する手段と
を有し、
少なくとも前記流路の有効内径は、約65mm?約85mmであり、
前記大蓋は、その略中央に開口部が設けられ、当該開口部には開閉可能であって、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置され、
前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置には、内圧調整用の貫通孔が設けられており、
前記加圧する手段は、前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記内圧調整用の貫通孔を介して加圧用気体を供給するものであることを特徴とする溶融アルミニウム供給システム。
【請求項6】請求項5に記載の溶融アルミニウム供給システムであって、
前記流路の内径は、約70mmであることを特徴とする溶融アルミニウム供給システム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば溶融したアルミニウムの搬送に用いられる容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
多数のダイキャストマシーンを使ってアルミニウムの成型が行われる工場では、工場内ばかりでなく、工場外からアルミニウム材料の供給を受けることが多い。この場合、溶融した状態のアルミニウムを収容した容器を材料供給側の工場から成型側の工場へと搬送し、溶融した状態のままの材料を各ダイキャストマシーンへ供給することが行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、こうした容器からダイキャストマシーン側への材料供給を圧力差を利用して行う技術を提唱している。すなわち、この技術は、容器内を加圧して容器内に導入された配管を介して容器内の溶融材料を外部に導出するものである。そして、このような容器としては、例えば特開平8-20826号に開示された装置を用いることが可能である。
【0004】
しかしながら、特開平8-20826号に開示された装置では、ストークが容器内の溶融金属に晒され続けるために、ストークの基材金属が酸化、腐食がして、ストークを交換する必要性がしばしば発生する、という問題がある。また、このような容器を工場間で搬送する場合には、まず容器内をガスバーナ等を用いて予熱してから容器内に溶融材料を供給しているが、特開平8-20826号に開示された装置では、予熱の際に容器内のストークが邪魔となるため、例えばストークをこれを保持する大きな蓋と共に取り外して予熱を行う必要があるため、作業性が非常に悪い、という問題もある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、ストーク等の部品交換を行う必要のない容器を提供することを目的としている。
【0006】
本発明の別の目的は、予熱を効率的に行うことができる容器を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するため、本発明の容器は、溶融アルミニウムを収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、外部へ溶融アルミニウムを供給することが可能で、運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される容器であって、フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、前記容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを具備し、少なくとも前記流路の内径は、約65mm?約85mmであることを特徴とする。前記容器本体内を加圧するための第2の配管を具備することが好ましい形態である。本発明の別の観点に係る溶融アルミニウムの供給方法は、フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、当該容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを有し、溶融アルミニウムを収容することができる容器を用いて溶融アルミニウムを供給する方法において、(a)前記容器内に溶融アルミニウムを導入する工程と、(b)前記溶融アルミニウムを収容した容器を運搬車輌を用いてユースポイントまで搬送する工程と、(c)前記ユースポイントで、前記容器内を加圧して前記流路及び前記第1の配管を介して溶融アルミニウムを導出する工程とを具備し、少なくとも前記流路の内径は、約65mm?約85mmであることを特徴とする。本発明のまた別の観点に係る溶融アルミニウムの供給システムは、(a)溶融アルミニウムを収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、外部へ溶融アルミニウムを供給することが可能で、運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される容器であって、フレームと、前記フレームの内側に設けられ、かつ、前記容器内の底部付近に開口を有し、当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと、前記配管取付部に取付けられ、前記流路に連通する第1の配管とを具備する容器と、(b)前記容器内を加圧する手段とを有し、少なくとも前記流路の有効内径は、約65mm?約85mmであることを特徴とする。前記流路の内径は、約70mmであることがより好ましい形態である。
【0008】
本発明では、溶融金属を流通させるための流路が容器本体内周の該容器本体底部に近い位置から該容器本体外周の上部に向けて延在するようになっている。すなわち、本発明では、特開平8-20826号に開示された装置と比較すると、容器内の溶融金属に晒されるストークのような部材は不要となるので、ストーク等の部品交換を行う必要はなくなる。また、本発明では、容器内にストークのように予熱を邪魔するような部材は配置されないので、予熱のための作業性が向上し、予熱を効率的に行うことができる。また容器に溶融金属を収容したのち、溶融金属の表面の酸化物等をすくい取る作業が必要なことが多い。内部にストークがあるとこの作業がやりにくい。本発明によれば容器内部にストークのような構造物がないので作業性を向上することができる。
【0009】
ここで、本発明に係る容器を使った溶融金属供給方法としては、(a)容器内を容器外よりも陰圧状態にして容器外から容器内に溶融金属を導入する工程と、(b)前記容器内から容器外に溶融金属を導出する工程とを具備することを特徴とする。ここで、陰圧状態とは、容器外の圧力>容器内の圧力とすることである。容器内を減圧する場合の他に、容器外を加圧する場合、更に容器内を減圧しかつ容器外を加圧する場合も含まれる。
【0010】
このように容器内外の圧力差を利用して溶融金属を容器内に導入することで、溶融金属を容器内に引き込むような形態の部材、例えば配管を介して溶融金属供給用の炉と容器とを連接すればよくなる。例えば樋部材を介して溶融金属供給用の炉と容器とを連接する必要がなくなるので、溶融金属が空気に触れる機会が激減し、容器内に供給された溶融金属が酸化することを極力減らすことが可能となる。従って、酸化物の除去作業を不要とし、作業性の改善を図ることができ、しかも酸化物が殆ど含まれていない溶融金属を供給することが可能となる。
【0011】
工程(b)は、前記容器内を容器外よりも陽圧状態にして容器内から容器外に溶融金属を導出することを特徴とし、例えば前記容器は、当該容器の内外を連通して設けられ、前記溶融金属を流通することが可能な第1の配管を備え、前記工程(a)及び前記工程(b)は、前記第1の配管を用いて溶融金属の導入及び導出を行うことを特徴とする。
【0012】
陽圧状態とは、容器内の圧力>容器外の圧力とすることである。容器内を加圧する場合の他に、容器外を減圧する場合、更に容器内を加圧しかつ容器外を減圧する場合も含まれる。
【0013】
本発明では、溶融金属供給用の炉から容器への溶融金属の供給及び容器からサーバへの溶融金属の供給を例えば共通の第1の配管を用いて行うことができるので、構成を非常に簡単なものとすることができる。ただし、本発明は、溶融金属の導入と導出を別の配管を使う場合も含むものである。
【0014】
本発明の溶融金属供給方法は、前記容器が、当該容器の内外を連通して設けられた第2の配管を備え、前記工程(a)及び前記工程(b)は、前記第2の配管を用いて容器内の減圧及び加圧を行うことを特徴とする。このように容器内の減圧及び加圧を共通の配管で行うことで、容器の構成を非常に簡単なものとすることができる。
【0015】
従って、本発明では、例えば容器に対して第1及び第2の配管を設けるだけで容器に対する溶融金属の導入と容器からの溶融金属の導出を行うことが可能となる。このことは、単に構成が簡略化されるだけでなく、溶融金属の酸化を激減することが可能となる。
【0016】
【0017】
【0018】
前記流路の内径が約65mm?約85mmであることは、発明者らが配管径と圧送に必要な圧力との関係を調べた結果得られた知見である。
【0019】
本発明の溶融金属供給システムは、溶融金属を収容することができる容器と、前記容器の内外を連通して設けられ、前記溶融金属を流通することが可能な配管と、前記容器内部を排気する排気系とを具備したことを特徴とする。また、本発明の溶融金属供給システムは、溶融金属を収容することができる容器と、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な第1の配管と、前記容器の内外を連通し、前記容器内を排気することが可能な第2の配管とを具備したことを特徴とする。
【0020】
本発明では、溶融金属を容器内に引き込むための配管を介して溶融金属供給用の炉と容器とを連接すればよくなるので、溶融金属が空気に触れる機会が激減し、容器内に供給された溶融金属が酸化することを極力減らすことが可能となる。従って、本発明によれば、酸化物の除去作業を不要とし、作業性の改善を図ることができ、しかも酸化物が殆ど含まれていない溶融金属を供給することが可能となる。
【0021】
本発明の溶融金属供給システムは、前記配管の前記容器内側の開口部が前記容器の下方にあることを特徴とする。これにより、容器内に配管から供給される大半の溶融金属が既に容器内に供給されている溶融金属の面より下で供給されることになり、すなわち配管から供給される大半の溶融金属がその供給の際に容器内の空気に直接触れることがなくなり、溶融金属の酸化を効果的に防止することができる。また、配管の開口部がこのような位置にあることにより、この配管を使って加圧による容器からサーバに対する溶融金属の供給が可能となる。
【0022】
【0023】
本発明の溶融金属供給方法は、容器の内部を減圧して溶融金属を吸引し、前記容器をユースポイントまで輸送し、前記容器を加圧して前記溶融金属を前記ユースポイントへ供給することを特徴とする。ここで、例えば、前記溶融金属は、アルミニウムであり、前記容器のユースポイントまでの輸送は、公道を介して行われ、前記ユースポイントでは、前記溶融したアルミニウムを使ったアルミダイキャストマシーンを使ったアルミニウムの成型が実行されることを特徴とする。
【0024】
本発明は、固体のアルミニウムから溶融したアルミニウムの生産する生産方法において、炉内でアルミニウムを溶融する工程と、前記炉と前記容器との間を配管を介して接続する工程と、前記容器内を減圧して前記配管を介して前記炉から前記容器内に溶融したアルミニウムを導入する工程と、前記容器内を加圧して前記配管を介して前記容器からサーバに対して溶融したアルミニウムを導出する工程とを具備することを特徴とする。これにより、酸化物の少ない溶融アルミニウムを生産することが可能である。
【0025】
【0026】
【0027】
本発明の溶融金属供給システムは、加圧式溶融金属供給容器と、前記加圧式溶融金属供給容器を保持しつつ昇降する昇降機構と、前記加圧式溶融金属供給容器に対して加圧用の気体を供給する加圧気体貯留タンクとを有する運搬車輌とを具備することを特徴とする。
【0028】
本発明の運搬車輌は、加圧式溶融金属供給容器を保持しつつ昇降する昇降機構と、前記加圧式溶融金属供給容器に対して加圧用の気体を供給する加圧気体貯留タンクとを具備することを特徴とする。
【0029】
本発明によれば、運搬車輌に加圧気体貯留タンクを搭載し、この加圧気体貯留タンクから加圧式溶融金属供給容器に対して加圧用の気体を供給し、この気体により溶融金属を圧送しているので、従来のように容器を傾斜させる必要がなくなる。従って、例えばフォークリフトに回動機構を設ける必要はなくなり、昇降機構を設けるだけよく、機構が非常にシンプルなものとなる。しかも、加圧手段として加圧気体貯留タンクを用いているので、例えばコンプレッサーを搭載した場合等に考えられる発電機の搭載等は不要となり、小型軽量化を図ることができる。工場内であれば、気体の補充も極めて容易である。
【0030】
上記運搬装置には、フォークリスト機構のフォーク部分に設けられ、容器の重量を計測するための計測手段(例えば圧力センサ)と、前記計測結果に基づき前記加圧気体貯留タンクから前記容器への前記気体の供給を制御する制御手段とを設けてもよい。
【0031】
かかる構成によれば、例えば容器の重量が所定以下になったとき所定量の溶融金属が容器から相手側に供給されてものとみなして気体の供給を停止し、溶融金属の供給を停止する。これにより、人手を介することなくしかも簡単な構成で特定量の溶融金属を供給することができるようなる。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
つぎに本発明の容器について説明する。ここで容器は固定して使用される場合(例えば溶融金属の溶融炉、保持炉など)も、可動に使用される場合(例えば容器など)もどちらにも適用することができる。
【0042】
本発明の容器は、気密領域を構成するフレームと、前記フレームの内側に配設された断熱材と、前記フレームおよび前記断熱材を貫通して配設された少なくとも1つの配管とを具備したものである。
【0043】
また本発明は、溶融金属を保持することができる容器において、前記炉の内部を加圧する手段と、前記炉内の内部を減圧する手段と、を具備したものである。
【0044】
フレームは内部に気密領域である閉空間を形成する。また容器全体の強度の保持の役割と、外部から断熱材を保護する役割を果たす。フレームは各種金属材料により構成することができるが、材質は容器の用途に応じて適宜選択すればよい。この選択は容器に収容する内容物の物理的性質、化学的性質を考慮してなされることが好ましい。例えば、たとえ断熱材が破けたとしてもフレームが内容物の熱や、内容物との化学反応により溶けたり割れたりしないように選択する。断熱材についても同様であって、例えば各種耐熱煉瓦が容器の用途に応じて選択される。
【0045】
配管はフレームの外部と内部の空間とのアクセスを提供するものである。この配管は複数備えてもよい。例えばこの配管に排気系を接続して内部を減圧することにより、内部の気密領域の酸素濃度、酸素活量を制御することができる。また例えばこの配管に非酸化性ガス導入系を接続することにより、内部に非酸化性ガスを供給することができる。
【0046】
さらにこの配管により、このような減圧、加圧により流体(溶融金属や粉体)を容器から出したり、入れたりすることができる。例えば複数の配管を備えた場合を考える。内容物は溶融金属であるとする。この場合、第1の配管から非酸化性ガスを導入して気密領域を加圧すれば、第2の配管を通じて溶融金属を外部へ押し出す力が働く。また第1の配管を排気系に接続して気密領域を減圧すれば、第2の配管を通じて溶融金属を外部から吸引することができる。配管は必要に応じてヒータなどで加熱する。温度は管内を流通する内容物の融点より高くなるように設定することが好ましい。このとき排気系や非酸化性ガス供給系により、溶融金属や粉体の移動だけでなく、系内の酸素濃度も制御することができる。このように本願発明においては、減圧状態を含めた圧力差の生成が、溶融金属や粉体の質量移動と酸化防止のための両方に寄与している点が大きな特徴の一つとなっている。さらに配管内の雰囲気が酸化的になると配管内に酸化物が付着し配管が詰まる。本発明では配管内の酸素濃度が制御されるだけでなく配管内に内容物を残さないようにすることもできるので、このような詰まりの問題も解決することができる。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
本発明の別の観点に係る容器は、溶融金属を貯留可能で、内圧を調整するために用いられる貫通孔を有する密閉型の容器本体と、前記容器本体内周の該容器本体底部に近い位置に設けられた開口を介して上部に向けて外部に延在する溶融金属の流路を有し、かつ、前記容器本体の内壁を覆うように設けられた耐火壁とを具備することを特徴とするものである。
【0054】
本発明では、溶融金属の流路が容器本体の内壁を覆うように設けられた熱伝導性の高い耐火壁により構成されているので、容器内に溶融金属を貯留したときにこの貯留されている溶融金属の熱が耐火壁を伝導し、流路は貯留されている溶融金属とほぼ等しい温度となる。従って、流路を流通する溶融金属が流路で冷却されて流路の表面に固化して付着するようなことはなくなる。すなわち、流路に溶融金属が固化して付着していくと流路(従来の配管)が詰まり易くなるが、本発明により流路の詰まりを効果的に防止することができる。また、本発明では、流路が貯留されている溶融金属とほぼ等しい温度となるので、流路の表面付近を流通する溶融金属の粘性が低下することがなくなり、より小さいな圧力差で容器からの溶融金属の導出及び容器内への溶融金属の導入を行うことができる。すなわち、本発明の容器は、溶融金属の流路を容器本体の内壁を覆うように設けられた熱伝導性の高い耐火壁より構成し、該流路を貯留されている溶融金属とほぼ等しい温度となるようにしたので、圧力差を利用して溶融金属を容器内外に導入出するようなシステムに非常に有効なものとなる。
【0055】
本発明の容器には、内圧を調整するために用いられる貫通孔が設けられているので、例えば貫通孔を介して容器内を陰圧とすることで流路を介して容器内に溶融金属を導入することが可能である。本発明では、このように流路を介して容器内に溶融金属を導入することでその流路を流通するよりホットな溶融金属により流路の表面に付着する金属が洗浄される。従って、本発明では、内圧を調整するために用いられる貫通孔を有することで流路の詰まりを効果的に防止することができる。
【0056】
本発明では、溶融金属を流通させるための流路が容器本体内周の該容器本体底部に近い位置から該容器本体外周の上部に向けて延在するようになっている。すなわち、本発明では、特開平8-20826号に開示された装置と比較すると、容器内の溶融金属に晒されるストークのような部材は不要となるので、ストーク等の部品交換を行う必要はなくなる。また、本発明では、容器内にストークのように予熱を邪魔するような部材は配置されないので、予熱のための作業性が向上し、予熱を効率的に行うことができる。
【0057】
本発明の一の形態に係る容器は、前記容器本体の内壁と前記耐火壁との間に介挿された断熱部材を更に具備することを特徴とするものである。容器は全体として保温性を高める必要があるから断熱性能の高い部材をライニングしてある。そして溶融金属に直接接する部分は、耐火系の部材をライニングしてある。本発明の容器では容器の内側と流路とを分離しているゾーンに耐火系のキャスター材料を配し、この領域の熱伝導率を意図的に大きくしている。耐火材は断熱材よりも密度、熱伝導率が大きくなるように設定する。耐火材としてはたとえが緻密質の耐火キャスターを、断熱材としては例えば断熱キャスターやボード材等をあげることができる。このような構成を採用することで、容器内の溶融金属を保温することに加えて、上記の流路へ熱が供給されやすくなる。したがって流路が外部からの影響を受けて冷えるようなことが少なくなり、流路の詰まりをより効果的に防止することができる。また溶融金属の粘性を小さく抑制することができるので、小さな圧力差で溶融金属を容器内外に導入出することが可能となる。
【0058】
本発明の一の形態に係る容器は、前記容器本体底部が前記開口に向けて前記開口が低い位置となるように傾斜していることを特徴とするものである。これにより、容器内の溶融金属が少なくなったときに、上記流路近傍の耐火材が容器内の溶融金属と接する実質的な面積が流路とは離れた場所における当該面積に比べて大きくなる。従って、上記の流路が冷えることを極力さけることができ、流路の詰まりをより効果的に防止することができ、またより小さな圧力差で溶融金属を容器内外に導入出することが可能となる。加えて、容器を傾斜させて容器内に残存する溶融金属を流路から導出することを、傾斜角を少なくしてしかも流路の詰まりを極力小さくして効率的に行うことが可能となる。
【0059】
本発明の一の形態に係る容器は、前記容器本体の上部には、開閉可能なハッチが設けられていることを特徴とするものである。
【0060】
本発明では、このようなハッチを有することで例えば容器内に溶融金属を導入するに先立ちハッチを空けてガスバーナを挿入して容器を予熱すること可能であり、このような予熱により耐火材を介して流路が温められ、流路の詰まりをより効果的に防止することができ、またより小さな圧力差で溶融金属を容器内外に導入出することが可能となる。本発明では、溶融金属を流路を介して容器内に導入する際に、上記のように予め流路を温めておくことが可能であるので、このような場合に特に有効である。
【0061】
本発明の一の形態に係る容器は、前記貫通孔が前記ハッチに設けられていることを特徴とするものである。
【0062】
上記のように容器内に溶融金属を供給するに先立ちガスバーナにより容器を予熱している。この予熱は、ハッチを開けてガスバーナを容器内に挿入することで行われる。従って、ハッチは容器内に溶融金属を供給する度に開けられるものである。本発明では、このようなハッチに内圧調整用の貫通孔を設けているので、容器内に溶融金属を供給する度に内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができる。そして、例えば貫通孔に金属が付着しているときにはその都度それを剥がせばよい。従って、本発明では、内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを未然に防止することができる。
【0063】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0064】
図1は本発明の一実施形態に係る金属供給システムの全体構成を示す図である。
【0065】
同図に示すように、第1の工場10と第2の工場20とは例えば公道30を介して離れた所に設けられている。
【0066】
第1の工場10には、ユースポイントとしてのダイキャストマシーン11が複数配置されている。各ダイキャストマシーン11は、溶融したアルミニウムを原材料として用い、射出成型により所望の形状の製品を成型するものである。その製品としては例えば自動車のエンジンに関連する部品等を挙げることができる。また、溶融した金属としてはアルミニウム合金ばかりでなくマグネシウム、チタン等の他の金属を主体とした合金であっても勿論構わない。各ダイキャストマシーン11の近くには、ショット前の溶融したアルミニウムを一旦貯留する保持炉(手元保持炉)12が配置されている。この保持炉12には、複数ショット分の溶融アルミニウムが貯留されるようになっており、ワンショット毎にラドル13或いは配管を介して保持炉12からダイキャストマシーン11に溶融アルミニウムが注入されるようになっている。また、各保持炉12には、容器内に貯留された溶融アルミニウムの液面を検出する液面検出センサ(図示せず)や溶融アルミニウムの温度を検出するための温度センサ(図示せず)が配置されている。これらのセンサによる検出結果は各ダイキャストマシーン11の制御盤もしくは第1の工場10の中央制御部16に伝達されるようになっている。
【0067】
第1の工場10の受け入れ部には、後述する容器100を受け入れるための受け入れ台17が配置されている。受け入れ部の受け入れ台17で受け入れられた容器100は、配送車18により所定のダイキャストマシーン11まで配送され、容器100から保持炉12に溶融アルミニウムが供給されるようになっている。供給の終了した容器100は配送車18により再び受け入れ部の受け入れ台17に戻されるようになっている。
【0068】
第1の工場10には、アルミニウムを溶融して容器100に供給するための第1の炉19が設けられており、この第1の炉19により溶融アルミニウムが供給された容器100も配送車18により所定のダイキャストマシーン11まで配送されるようになっている。
【0069】
第1の工場10には、各ダイキャストマシーン11において溶融アルミニウムの追加が必要になった場合にそれを表示する表示部15が配置されている。より具体的には、例えばダイキャストマシーン11毎に固有の番号が振られ、表示部15にはその番号が表示されており、溶融アルミニウムの追加が必要になったダイキャストマシーン11の番号に対応する表示部15における番号が点灯するようになっている。作業者はこの表示部15の表示に基づき配送車18を使って容器100をその番号に対応するダイキャストマシーン11まで運び溶融アルミニウムを供給する。表示部15における表示は、液面検出センサによる検出結果に基づき、中央制御部16が制御することによって行われる。
【0070】
第2の工場20には、アルミニウムを溶融して容器100に供給するための第2の炉21が設けられている。容器100は例えば容量、配管長、高さ、幅等の異なる複数種が用意されている。例えば第1の工場10内のダイキャストマシーン11における保持炉12の容量等に応じて、容量の異なる複数種がある。しかしながら、容器100を1種類に統一して規格化しても勿論構わない。
【0071】
この第2の炉21により溶融アルミニウムが供給された容器100は、フォークリフト(図示せず)により搬送用のトラック32に載せられる。トラック32は公道30を通り第1の工場10における受け入れ部の受け入れ台17の近くまで容器100を運び、これらの容器100はフォークリフト(図示せず)により受け入れ台17に受け入れられるようになっている。また、受け入れ部にある空の容器100はトラック32により第2の工場20へ返送されるようになっている。
【0072】
第2の工場20には、第1の工場10における各ダイキャストマシーン11において溶融アルミニウムの追加が必要になった場合にそれを表示する表示部22が配置されている。表示部22の構成は第1の工場10内に配置された表示部15とほぼ同様である。表示部22における表示は、例えば通信回線33を介して第1の工場10における中央制御部16が制御することによって行われる。なお、第2の工場20における表示部22においては、溶融アルミニウムの供給を必要とするダイキャストマシーン11のうち第1の工場10における第1の炉19から溶融アルミニウムが供給されると決定されたダイキャストマシーン11はそれ以外のダイキャストマシーン11とは区別して表示されるようになっている。例えば、そのように決定されたダイキャストマシーン11に対応する番号は点滅するようになっている。これにより、第1の炉19から溶融アルミニウムが供給されると決定されたダイキャストマシーン11に対して第2の工場20側から誤って溶融アルミニウムを供給するようなことをなくすことができる。また、この表示部22には、上記の他に中央制御部16から送信されたデータも表示されるようになっている。
【0073】
次に、このように構成された金属供給システムの動作を説明する。
【0074】
中央制御部16では、各保持炉12に設けられた液面検出センサを介して各保持炉12における溶融アルミニウムの量を監視している。ここで、ある保持炉12で溶融アルミニウムの供給の必要性が生じた場合に、中央制御部16は、その保持炉12の「固有の番号」、その保持炉12に設けられた温度センサにより検出された保持炉12の「温度データ」、その保持炉12の形態(後述する。)に関する「形態データ」、その保持炉12から溶融アルミニウムがなくなる最終的な「時刻データ」、公道30の「トラフィックデータ」、その保持炉12で要求される溶融アルミニウムの「量データ」及び「気温データ」等を、通信回線33を介して第2の工場20側に送信する。第2の工場20では、これらのデータを表示部22に表示する。これらの表示されたデータに基づき作業者が経験的に上記保持炉12から溶融アルミニウムがなくなる直前に保持炉12に容器100が届き、且つその時の溶融アルミニウムが所望の温度となるように該第2の工場20からの容器100の発送時刻及び溶融アルミニウムの発送時の温度を決定する。或いはこれらのデータを例えばパソコン(図示せず)に取り込んで所定のソフトウェアを用いて上記保持炉12から溶融アルミニウムがなくなる直前に保持炉12に容器100が届き、且つその時の溶融アルミニウムが所望の温度となるように該第2の工場20からの容器100の発送時刻及び溶融アルミニウムの発送時の温度を推定してその時刻及び温度を表示するようにしてもよい。或いは推定された温度により第2の炉21を自動的に温度制御しても良い。容器100に収容すべき溶融アルミニウムの量についても上記「量データ」に基づき決定してもよい。
【0075】
発送時刻に容器100を載せたトラック32が出発し、公道30を通り第1の工場10に到着すると、容器100がトラック32から受け入れ部の受け入れ台17に受け入れられる。
【0076】
その後、受け入れられた容器100は、受け入れ台17と共に配送車18により所定のダイキャストマシーン11まで配送され、容器100から保持炉12に溶融アルミニウムが供給される。
【0077】
図2に示すように、この例では、レシーバタンク101から高圧空気を密閉された容器100内に送出することで容器100内に収容された溶融アルミニウムが配管56から吐出されて保持炉12内に供給されるようになっている。なお、図2において、103は加圧バルブ、104はリークバルブである。
【0078】
ここで、保持炉12の高さは各種のものがあり、配送車18に設けられた昇降機構により配管56の先端が保持炉12上の最適位置となるように調節可能になっている。しかし、保持炉12の高さによっては昇降機構だけでは対応できない場合がある。そこで、本システムにおいては、保持炉12の形態に関する「形態データ」として、保持炉12の高さや保持炉12までの距離に関するデータ等を予め第2の工場20側に送り、第2の工場20側ではこのデータに基づき最適な形態、例えば最適な高さの容器100を選択して配送している。なお、供給すべき量に応じて最適な大きさの容器100を選択して配送してもよい。
【0079】
次に、このように構成されたシステムに好適な容器(加圧式溶融金属供給容器)100について、図3及び図4に基づき説明する。図3は容器100の断面図、図4はその平面図である。
【0080】
容器100は、有底で筒状の本体50の上部開口部51に大蓋52が配置されている。本体50及び大蓋51の外周にはそれぞれフランジ53、54が設けられており、これらフランジ間をボルト55で締めることで本体50と大蓋51が固定されている。なお、本体50や大蓋51は例えば外側が金属であり、内側が耐火材により構成され、外側の金属と耐火材との間には断熱材が介挿されている。
【0081】
本体50の外周の1箇所には、本体50内部から配管56に連通する流路57が設けられた配管取付部58が設けられている。
【0082】
ここで、図5は図3に示した配管取付部58におけるA-A断面図である。
【0083】
図5に示すように、容器100の外側は金属のフレーム100a、内側は耐火材100bにより構成され、フレーム100aと耐火材100bとの間には耐火材よりも熱伝導率の小さな断熱材100cが介挿されている。そして、流路57は容器100の内側に設けられた耐火材100bの中に形成されている。すなわち流路57は、熱伝導率の大きな耐火部材によって容器内部と分離されている。このような構成を採用することにより、容器内からの放熱が流路に伝わりやすくなる。流路の外側(容器内とは反対側)には、耐火部材の外側に断熱材を配している。耐火材は断熱材よりも密度、熱伝導率が高いものを用いる。耐火材としては例えば緻密質の耐火系セラミック材料をあげることができる。また断熱材としては、断熱キャスター、ボード材料など断熱系のセラミック材料をあげることができる。
【0084】
配管取付部58における流路57は、本体50内周の該容器本体底部50aに近い位置に設けられた開口57aを介し、該本体50外周の上部57bに向けて延在している。この配管取付部58の流路57に連通するように配管56が固定されている。配管56は、Γ状の形状を有しており、これにより配管56の一端口59は下方を向いている。より具体的には、配管56の一端口59は垂線に対して例えば10°程度傾いている。このように傾斜を持たせることによって例えば一端口59から導出される溶融金属がサーバ側に流れ落ちた際に湯面から湯滴が飛び散ることが少なくなる。
【0085】
流路57及びこれに続く配管56の内径はほぼ等しく、65mm?85mm程度が好ましい。従来からこの種の配管の内径は50mm程度であった。これはそれ以上であると容器内を加圧して配管から溶融金属を導出する際に大きな圧力が必要であると考えられていたからである。これに対して本発明者等は、流路57及びこれに続く配管56の内径としてはこの50mmを大きく超える65mm?85mm程度が好ましく、より好ましくは70mm?80mm程度、更には好ましくは70mmであることを見出した。すなわち、溶融金属が流路や配管を上方に向けて流れる際に、流路や配管に存在する溶融金属自体の重量及び流路や配管の内壁の粘性抵抗の2つパラメータが溶融金属の流れを阻害する抵抗に大きな影響を及ぼしているものと考えられる。ここで、内径が65mmより小さいときには流路を流れる溶融金属はどの位置においても溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響を受けているが、内径が65mm以上となると流れのほぼ中心付近から内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め、その領域が次第に大きくなる。この領域の影響は非常に大きく、溶融金属の流れを阻害する抵抗が下がり始める。溶融金属を容器内から導出する際に容器内を非常に小さな圧力で加圧すればよくなる。つまり、従来はこのような領域の影響は全く考慮に入れず、溶融金属自体の重量だけが溶融金属の流れを阻害する抵抗の変動要因として考えられており、作業性や保守性等の理由から内径を50mm程度としていた。一方、内径が85mmを超えると、溶融金属自体の重量が溶融金属の流れを阻害する抵抗として非常に支配的となり、溶融金属の流れを阻害する抵抗が大きくなってしまう。本発明者等の試作による結果によれば、70mm?80mm程度の内径が容器内の圧力を非常に小さな圧力で加圧すればよく、特に70mmが標準化及び作業性の観点から最も好ましい。すなわち、配管径は50mm、60mm70mm、、、と10mm単位で標準化されており、配管径がより小さい方が取り扱いが容易で作業性が良好だからである。
【0086】
上記の大蓋52のほぼ中央には開口部60が設けられ、開口部60には取っ手61が取り付けられたハッチ62が配置されている。ハッチ62は大蓋52上面よりも少し高い位置に設けられている。ハッチ62の外周の1ヶ所にはヒンジ63を介して大蓋52に取り付けられている。これにより、ハッチ62は大蓋52の開口部60に対して開閉可能とされている。また、このヒンジ63が取り付けられた位置と対向するように、ハッチ62の外周の2ヶ所には、ハッチ62を大蓋52に固定するためのハンドル付のボルト64が取り付けられている。大蓋52の開口部60をハッチ62で閉めてハンドル付のボルト64を回動することでハッチ62が大蓋52に固定されることになる。また、ハンドル付のボルト64を逆回転させて締結を開放してハッチ62を大蓋52の開口部60から開くことができる。そして、ハッチ62を開いた状態で開口部60を介して容器100内部のメンテナンスや予熱時のガスバーナの挿入が行われるようになっている。
【0087】
また、ハッチ62の中央、或いは中央から少しずれた位置には、容器100内の減圧及び加圧を行うための内圧調整用の貫通孔65が設けられている。この貫通孔65には加減圧用の配管66が接続されている。この配管66は、貫通孔65から上方に伸びて所定の高さで曲がりそこから水平方向に延在している。この配管66の貫通孔65への挿入部分の表面には螺子山がきられており、一方貫通孔65にも螺子山がきられており、これにより配管66が貫通孔65に対して螺子止めにより固定されるようになっている。
【0088】
この配管66の一方には、加圧用又は減圧用の配管67が接続可能になっており、加圧用の配管には加圧気体に蓄積されたタンクや加圧用のポンプが接続されており、減圧用の配管には減圧用のポンプが接続されている。そして、減圧により圧力差を利用して配管56及び流路57を介して容器100内に溶融アルミニウムを導入することが可能であり、加圧により圧力差を利用して流路57及び配管56を介して容器100外への溶融アルミニウムの導出が可能である。なお、加圧気体として不活性気体、例えば窒素ガスを用いることで加圧時の溶融アルミニウムの酸化をより効果的に防止することができる。
【0089】
本実施形態では、大蓋52のほぼ中央部に配置されたハッチ62に加減圧用の貫通孔65が設けられている一方で、上記の配管66が水平方向に延在しているので、加圧用又は減圧用の配管67を上記の配管66に接続する作業を安全にかつ簡単に行うことができる。また、このように配管66が延在することによって配管66を貫通孔65に対して小さな力で回転させることができるので、貫通孔65に対して螺子止めされた配管66の固定や取り外しを非常に小さな力で、例えば工具を用いることなく行うことができる。
【0090】
ハッチ62の中央から少しずれた位置で前記の加減圧用の貫通孔65とは対向する位置には、圧力開放用の貫通孔68が設けられ、圧力開放用の貫通孔68には、リリーフバルブ(図示を省略)が取り付けられるようになっている。これにより、例えば容器100内が所定の圧力以上となったときには安全性の観点から容器100内が大気圧に開放されるようになっている。
【0091】
大蓋52には、液面センサとしての2本の電極69がそれぞれ挿入される液面センサ用の2つの貫通孔70が所定の間隔をもって配置されている。これらの貫通孔70には、それぞれ電極69が挿入されている。これら電極69は容器100内で対向するように配置されており、それぞれの先端は例えば容器100内の溶融金属の最大液面とほぼ同じ位置まで延びている。そして、電極69間の導通状態をモニタすることで容器100内の溶融金属の最大液面を検出することが可能であり、これにより容器100への溶融金属の過剰供給をより確実に防止できるようになっている。
【0092】
本体50の底部裏面には、例えばフォークリフトのフォーク(図示を省略)が挿入される断面口形状で所定の長さの脚部71が例えば平行するように2本配置されている。また、本体50内側の底部は、流路57側が低くなるように全体が傾斜している。これにより、加圧により流路57及び配管56を介して外部に溶融アルミニウムを導出する際に、いわゆる湯の残りが少なくなる。また、例えばメンテナンス時に容器100を傾けて流路57及び配管56を介して外部に溶融アルミニウムを導出する際に、容器100を傾ける角度をより小さくでき、安全性や作業性が優れたものとなる。
【0093】
このように本実施形態に係る容器100では、ハッチ62に内圧調整用の貫通孔65を設け、その貫通孔65に内圧調整用の配管66を接続しているので、容器100内に溶融金属を供給する度に内圧調整用の貫通孔65に対する金属の付着を確認することができる。従って、内圧調整に用いるための配管66や貫通孔65の詰りを未然に防止することができる。
【0094】
また、本実施形態に係る容器100では、ハッチ62に内圧調整用の貫通孔65が設けられ、しかもそのハッチ62が溶融アルミニウムの液面の変化や液滴が飛び散る度合いが比較的に小さい位置に対応する容器100の上面部のほぼ中央に設けられているので、溶融アルミニウムが内圧調整に用いるための配管66や貫通孔65に付着することが少なくなる。従って、内圧調整に用いるための配管66や貫通孔65の詰りを防止することができる。
【0095】
更に、本実施形態に係る容器100では、ハッチ62が大蓋52の上面部に設けられているので、ハッチ62の裏面と液面との距離が大蓋52の裏面と液面との距離に比べて大蓋52の厚み分だけ長くなる。従って、貫通孔65が設けられたハッチ62の裏面にアルミニウムが付着する可能性が低くなり、内圧調整に用いるための配管66や貫通孔65の詰りを防止することができる。
【0096】
次に、第2の工場20における第2の炉21から容器100への供給システムを図6に基づき説明する。
【0097】
図6に示すように、第2の炉21内には溶融アルミニウムが貯留されている。この第2の炉21には供給部21aが設けられ、この供給部21aには吸引管201が挿入されている。この吸引管201は、供給部21aの溶融されたアルミニウムの液面から一端口(吸引管201の他方の先端部201b)が出没するように配置されている。すなわち、吸引管201の一方の先端部201aは第2の炉21の底部付近まで延在し、吸引管201の他方の先端部201bは供給部21aから外側に導出されている。吸引管201は、保持機構202により基本的には傾斜して保持されている。その傾斜角は例えば垂線に対して10°程度傾いており、上記容器100における配管56の先端部の傾斜と合致するようになっている。この吸引管201の先端部201bは容器100における配管56の先端部に接続されるものであり、このように傾斜を合致されることによって吸引管201の先端部201bと容器100における配管56の先端部との接続が容易となる。
【0098】
そして、配管66に減圧用のポンプ313に接続された配管67を接続する。次に、ポンプ313を作動させて容器100内を減圧する。これにより、第2の炉21内に貯留されている溶融アルミニウムが吸引管201及び配管56を介して容器100内に導入される。
【0099】
本実施形態では、特に、このように第2の炉21内に貯留されている溶融アルミニウムを吸引管201及び配管56を介して容器100内に導入するようにしているので、溶融アルミニウムが外部の空気と接触することはない。従って、酸化物が生じることがなく、本システムを用いて供給される溶融アルミニウムは非常に品質が良いものとなる。また、容器100内から酸化物を除去するための作業は不要となり、作業性も向上する。
【0100】
本実施形態では、特に、容器100に対する溶融アルミニウムの導入と容器100からの溶融アルミニウムの導出を実質的に2本の配管56、312だけを使って行うことができるので、システム構成を非常にシンプルなものとすることができる。また、溶融アルミニウムが外気に接触する機会が激減するので、酸化物の生成をほぼなくすことができる。
【0101】
図7は以上のシステムを自動車工場に適用した場合の製造フローを示したものである。
【0102】
まず、図6に示したように、第2の炉21内に貯留されている溶融アルミニウムを吸引管201及び配管56を介して容器100内に導入(受湯)する(ステップ501)。
【0103】
次に、図1に示したように、容器100を公道30を介してトラック32により第2の工場20から第1の工場10に搬送する(ステップ502)。
【0104】
次に、第1の工場(ユースポイント)10では、容器100が配送車18により自動車エンジン製造用のダイキャストマシーン11まで配送され、容器100から保持炉12に溶融アルミニウムが供給される(ステップ503)。
【0105】
次に、このダイキャストマシーン11において、保持炉12に貯留された溶融アルミニウムを用いた自動車エンジンの成型が行われる(ステップ504)。
【0106】
そして、このように成型された自動車エンジン及び他の部品を使って自動車の組み立てが行われ、自動車が完成する(ステップ505)。
【0107】
本実施形態では、上述したように自動車のエンジンが酸化物を殆ど含まないアルミニウム製であるので、性能及び耐久性のよいエンジンを有する自動車を製造することが可能である。
【0108】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
【0109】
図8は本発明の供給装置及び成形装置の構成の例を概略的に示す図である。ここでは本発明をマグネシウム合金のダイキャスト成形に適用した例を説明する。
【0110】
保持炉420は溶融状態の金属(溶湯)を保持するための炉である。保持炉420のチャンバー420aの材質は、この例では18-8ステンレススチールを用いており、さらに内側はFCの板でアルマー処理をしている。この保持炉420の中には溶融したマグネシウム合金401が収容されている。この保持炉はヒータ425により溶解温度が保たれている。また保持炉420には内部を排気する排気系421と、非酸化性ガスを供給する非酸化性ガス導入系422が接続されている。422bはガスのリザバーである。この例では排気系421は少なくとも1台の真空ポンプ421bを備えている。また非酸化性ガス導入系422は保持炉420内を加圧する機能も担っている。さらに保持炉420には内部の圧力を測定する圧力センサ(G)423、及び溶湯の温度を測定する温度センサ424を備えている。圧力センサ423としてはブルドンゲージ、ピラニーゲージ、BAゲージなど使用する圧力範囲に応じて選択して用いる。温度センサ424は、熱電対、輻射温度計などを用いることができる。
【0111】
パージ室430では溶融金属の受け渡しが行われる。このパージ室430は内部を気密に保持できるようになっている。保持炉420と同様に、パージ室430には内部を排気する排気系431と、非酸化性ガスを供給する非酸化性ガス導入系432が接続されている。この例では排気系431は少なくとも1台の真空ポンプ431bを備えている。また非酸化性ガス導入系432はパージ室430内を加圧する機能も担っている。432bはガスのリザバーである。さらにパージ室430にも内部の圧力を測定する圧力センサ(G)433が設けられている。
【0112】
保持炉420とパージ室430との間は配管440、バイパス管442により接続されている。443はバイパスバルブである。配管440には抵抗体などのヒータ441が巻き付けてある。このヒータ441により配管内部の温度はマグネシウム合金が溶融するような温度に保たれている。いまパージ室430の圧力を保持炉420の圧力よりも低くすると、溶融したマグネシウム合金401は配管440内を通って保持炉420からパージ室430へと押し出される。またパージ室430の圧力を保持炉420の圧力よりも高くすると、配管内に残っていたマグネシウム合金401はパージ室430側から保持炉420へと吸引される。いずれの場合でも系内の酸素濃度は金属の酸化が抑制するように調節される。このため金属は燃焼したり爆発することなく安全にパージ室430内のユースポイントへと供給される。また金属の酸化が抑制されるので酸化物の生成も抑制され、あるいはまったく酸化しない。このため表面も清浄で酸化物もない高品質の金属を供給することができる。さらに本発明では系内の酸素濃度は、金属の酸化が抑制されるように制御されているため有害なベリリウムなどの防燃剤を添加する必要もない。したがって作業環境も向上する。また製品、端材(バリなど)、廃棄物(製品の廃棄物や不良品)にも有害物質が含まれることはない。このため有害物質が環境中へ拡散するのを防ぐことができる。
【0113】
さてパージ室430はダイキャスト装置450の溶融金属の供給地点(ユースポイント)ともなっている。この例では、ダイキャスト装置450のローディングチャンバ451がパージ室430内に突き出すように設けられている。ローディングチャンバ451とパージ室430とは溶接などにより気密に封止されている。ローディングチャンバ451は開口部を有し、この開口部から溶融した金属(この場合マグネシウム合金1)が供給される。供給された金属は射出シリンダー452により金型側へ供給される。なおローディングチャンバ451はヒータ453により保温されている。金型454aはキャビティー型、金型454bはコア型であり、この間の空間で供給された金属は所定形状に成形される。金型454a、454bは型締め機構455a(固定側)、455b(移動側)により挟まれている。移動側の型締め機構455bは油圧シリンダー457により加圧することができる。
【0114】
本発明の成形装置によれば、供給される金属はユースポイントで酸化することはない。したがって製品中に酸化物が混入したりせず、高品質の製品を得ることができる。さらに精度も向上し、とくに薄型の成形品ではその効果は顕著である。また製品が黒ずんだりすることもなく外観も向上する。
【0115】
一般にマグネシウム合金のダイキャスト成形では20?40%もの酸化物が生じ、生産性が極めて低い。本発明によれば酸化物の生成を極めて低レベルに抑制することができる。したがって本発明によれば生産性を高め製品コストを低くすることができる。
【0116】
さらに製造工程で排出される廃棄物や、製品の使用後に生じる廃棄物には有害なベリリウムなどが含まれている。マグネシウム合金は危険物に指定されてもいる。本発明によれば廃棄物の量を低減することができ、有害物質も不用になるから、廃棄物の処理コストも低減することができる。さらに本発明の容器を使用すれば、危険物としてのマグネシウム合金も安全に搬送することができる。
【0117】
図9は本発明の供給装置の別の例を概略的に示す図である。ここでは図10に例示した保持炉420の前段に溶解炉410を設けた構成について説明する。
【0118】
図10は本発明の溶解炉の例を概略的に示す図である。溶融炉10は固体状態の金属を溶融するための炉である。溶融炉410の構成は保持炉420とよく似ている。溶融炉410のチャンバー410aの材質は、この例では18-8ステンレススチールを用いており、さらに内側はFCの板でアルマー処理をしている。この溶融炉410の中には溶融したマグネシウム合金401が投入されヒータ415により加熱される。416は隔壁である。また溶融炉410には内部を排気する排気系411と、非酸化性ガスを供給する非酸化性ガス導入系412が接続されている。412bはガスのリザバーである。この例では排気系411は少なくとも1台の真空ポンプ411bを備えている。また非酸化性ガス導入系412は溶融炉410内を加圧する機能も担っている。さらに溶融炉410には内部の圧力を測定する圧力センサ(G)413、及び溶湯の温度を測定する温度センサ414を備えている。
【0119】
溶解炉410に固体金属401bを投入するには、まず気密扉463を開けて、外部からパージ室461へ固体金属401bを導入する。気密扉463を閉じ、排気系466でパージ室461内を排気する。バイパス467を開いてパージ室461と投入室462との圧力をバランスさせた状態で、気密扉464および断熱扉465を開く。固体金属はプッシャーやドローワーなどで移動する。投入室462の底部は回転機構を有しており、この回転により固体金属は溶解炉410へと投入される。
【0120】
図11は本発明の容器の構成の例を概略的に示す図である。この容器(容器)470は、気密な気密領域を構成するフレーム471と、フレーム471の内側に配設された断熱材472と、フレーム471および断熱材472を貫通して配設された配管473、474とを備えている。また、気密領域内の温度を測定する温度センサ475も備えている。
【0121】
フレーム471は内部に気密領域である閉空間を形成する。またフレーム471は、容器470全体の強度の保持の役割と、外部から断熱材472を保護する役割を果たす。フレーム471は各種金属材料により構成することができるが、材質は容器の用途に応じて適宜選択すればよい。この選択は容器に収容する内容物の物理的性質、化学的性質を考慮してなされることが好ましい。例えば、たとえ断熱材が破けたとしてもフレームが内容物の熱や、内容物との化学反応により溶けたり割れたりしないように選択する。断熱材についても同様であって、例えば各種耐熱煉瓦が容器の用途に応じて選択される。
【0122】
配管473、474は容器470の外部と内部の空間とのアクセスを提供するものである。この配管は1本でも複数でもよい。例えばこの配管473に図示しない排気系を接続して内部を減圧することにより、内部の気密領域の酸素濃度、酸素活量を制御することができる。また例えばこの配管473に非酸化性ガス導入系を接続することにより、内部に非酸化性ガスを供給することができる。
【0123】
このような減圧、加圧により、配管474を通じて、流体(溶融金属や粉体)を容器から出したり、入れたりすることができる。配管473から非酸化性ガスを導入して気密領域を加圧すれば、配管474を通じて溶融金属を外部へ押し出すことができる。また配管473を排気系に接続して気密領域を減圧すれば、配管474を通じて溶融金属を外部から吸引することができる。配管474は必要に応じてヒータなどで加熱する。温度は管内を流通する内容物の融点より高くなるように設定することが好ましい。このとき排気系や非酸化性ガス供給系により、溶融金属や粉体の移動だけでなく、系内の酸素濃度も制御することができる。このように本願発明においては、減圧状態を含めた圧力差の生成が、溶融金属や粉体の質量移動と酸化防止のための両方に寄与している点が大きな特徴の一つとなっている。さらに配管474内の雰囲気が酸化的になると配管内に酸化物が付着し配管が詰まる。本発明では配管474内の酸素濃度が制御されるだけでなく配管内に内容物を残さないようにすることもできるので、このような詰まりの問題も解決することができる。
【0124】
図12は配管の接続に用いることができるジョイントの例を示す図である。本発明の容器は、前述の実施形態における保持炉420と実質的に等価な役割を果たすことができる。つまり保持炉420に代えて、1つまたは複数の容器470を用いることができる。このとき配管474は金属が供給される側(例えばパージ室430)との配管440と接続すればよい。
【0125】
配管474と配管440とは、例えばジョイント475により接続することができる。ジョイント475はガスケット476を備え、配管474および配管440と気密に接続される。ガスケット476が樹脂の場合には水冷ヘッド477などによりガスケットの近傍を冷却することが好ましい。銅や金などのガスケットを用いる場合には水冷ヘッド477は省略可能である。さらにこのジョイント475は配管473と排気系、ガス導入系との接続にも用いることができる。
【0126】
図13は本発明の容器の構成の別の例を概略的に示す図である。この容器480ではフレーム471は開口部を有し、この開口部はふた471bにより気密に封止される。またこの容器480は配管473により排気系476と接続されている。
【0127】
そして温度センサ475により溶融金属401の温度を測定し、測定した温度や温度の変化率に応じて排気系476を制御するコントローラ477を備えている。例えば、バルブ476bの開閉がコントローラ477により制御される。このような構成を採用することにより、本発明の容器では圧力によって系内の熱伝導度を制御することができる。
【0128】
耐熱煉瓦等の耐熱材は、その経時変化によって耐熱性能が低下する。例えば複数の容器を使用して溶融金属を輸送するばあい、容器の固体差によって溶融金属の温度が異なることがある。時には、ユーザの要求を満たさない程度まで溶融金属の温度が低下することもある。本発明の容器では、例えば溶融金属の搬送中に温度低下が認められる容器について、フレーム内を排気系により減圧し、内部の熱伝導率を小さく抑制することができる。これにより断熱材の断熱性能の低下によらず、溶融金属の温度を保持することができる。複数の容器の内容物の温度差を小さくすることもできる。また溶融金属の酸化も防止することができる。圧力制御は温度そのものではなく、温度変化の割合(例えば微分値)によって行うこともでき、この構成のほうがより的確な溶融金属の温度制御を行うことができる。
【0129】
図14は本発明の容器の構成の別の例を概略的に示す図である。この容器490は、内面に断熱材472を配したフレーム471及び蓋471bと、断熱材472の内側に配設されたヒータ491と、溶融金属401の温度を測定する温度センサ475と、測定した温度または温度の変化率に応じてヒータ475を制御するコントローラ492とを備えている。例えば温度センサ475により測定した温度の変化率に応じて、ヒータ491に電力を供給する電源493を制御することにより、金属401の温度は適切に管理されるのである。この実施形態では、温度管理の観点からは容器の気密性問われない。もちろん内部の圧力や酸素濃度は調節するほうが好ましい。とくに不安定な金属を収容する場合はそうするべきである。
【0130】
なおこの例では容器490はトラックや船舶の荷台494に搭載した様子を示している。そして荷台494には電極495が露出しており、容器を所定の場所に置くことにより容器側の電極496との電気的接続が確保される。497は碍子などの絶縁部材である。この場合、電源493はトラックに搭載することができる。またトラックのバッテリーと共用してもよい。このような構成を採用することにより高品質な金属の配送供給を行うことができる。
【0131】
図15は本発明の供給装置、容器を用いた金属の配送モデルの例を説明するための図である。
【0132】
例えば溶融金属を使用する場合、おおよそ3つの態様が考えられる。1番目はユースポイントの近傍、成形装置のある工場などに、溶解炉や保持炉を設置する場合である。2番目は成形装置ごとに小型の溶解炉を備える場合である。3番目は所定の場所で金属を溶解し、ユースポイントまで溶解した金属を配送する場合である。本発明はいずれの場合においても適用可能であり、品質の向上、安全性の向上、生産性の向上、エネルギーコストの低減をもたらす。前述の2番目の例はエネルギー的には1番不利であると考えられる。この場合たとえば図11に示すように、ユースポイントの近傍に本発明の保持炉420または本発明の容器470、480、490を配置すればよい。金属は良好な状態を保ち、かつ安全に配送される。このような構成によりエネルギーコストは大幅に削減される。さらにユースポイントに個別に配置していた溶解炉のコスト、設置スペースのコストもなくなるのである。
【0133】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ストーク等の部品交換を行う必要のない容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施形態に係る金属供給システムの構成を示す概略図である。
【図2】
本発明の一実施形態に係る容器と保持炉との関係を示す図である。
【図3】
本発明の一実施形態に係る容器の断面図である。
【図4】
図3の平面図である。
【図5】
図3における一部断面図である。
【図6】
本発明の一実施形態に係る第2の工場における第2の炉から容器への供給システムの構成を示す図である。
【図7】
本発明のシステムを使った自動車の製造方法を示すフロー図である。
【図8】
本発明の供給装置の例を概略的に示す図。
【図9】
本発明の供給装置の別の例を概略的に示す図。
【図10】
本発明の溶解炉の例を概略的に示す図。
【図11】
本発明の容器の構成の例を概略的に示す図。
【図12】
配管の接続に用いることができるジョイントの例を示す図。
【図13】
本発明の容器の構成の別の例を概略的に示す図。
【図14】
本発明の容器の構成の別の例を概略的に示す図。
【図15】
本発明の供給装置、容器を用いた金属の配送モデルの例を説明するための図。
【符号の説明】
50 本体
50a 本体の底部
57 流路
57a 流路の開口
57b 本体外周の上部
100 容器
101 レシーバタンク
313 減圧用のポンプ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-06-30 
結審通知日 2008-03-06 
審決日 2008-03-18 
出願番号 特願2002-35770(P2002-35770)
審決分類 P 1 123・ 121- YA (B22D)
P 1 123・ 536- YA (B22D)
P 1 123・ 537- YA (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 加藤 浩一
鈴木 正紀
登録日 2003-12-26 
登録番号 特許第3506137号(P3506137)
発明の名称 容器、溶融金属供給方法及び溶融金属供給システム  
代理人 井上 義隆  
代理人 眞下 晋一  
代理人 川田 篤  
代理人 折居 章  
代理人 松本 司  
代理人 折居 章  
代理人 竹田 稔  
代理人 田上 洋平  
代理人 川田 篤  
代理人 三枝 英二  
代理人 大森 純一  
代理人 竹田 稔  
代理人 森 義明  
代理人 大森 純一  
代理人 森脇 正志  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ