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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1230439
審判番号 不服2007-12350  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-27 
確定日 2011-01-13 
事件の表示 特願2004-334271「インクカートリッジ、インクカートリッジユニットおよびインクジェットプリントヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日出願公開、特開2005-145074〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年11月18日(パリ条約による優先権主張2003年11月19日、欧州特許庁)の出願であって、平成19年1月23日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年4月27日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の発明は、平成18年11月2日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「インクジェットプリンタのインクカートリッジであって、
少なくとも1つのチャンバを有するハウジングを含み、
前記チャンバは
底部にはオリフィスを有するインク流出口と、
頂部には通気オリフィスと、を含み、
前記少なくとも1つのチャンバは、インクを吸収するための多孔質貯蔵体で満たされ、
インク流出口は軟質の弾力性のある材料のリング状のシール部を有し、
前記シール部は、
前記ハウジングの底部に対向して頂部が配置される接触プレートと、前記ハウジングと対向する接触プレートと隣接し、前記オリフィスに挿入されるリング部とを含み、
前記接触プレートの底部にはハウジングの外側に配置されるシール表面が形成され、
前記シール表面の中央に流出口オリフィスが設けられ、
前記リング部は、前記流出口オリフィスと連結する流路を周設し、さらに、前記接触プレートと隣接していない方の端部において外方に突出する突出部を有し、前記突出部が円形のつば部の態様で、ハウジング内部で前記インク流出口のオリフィスを越えて突出することでシール部がオリフィス内で留められることを特徴とするインクジェットプリンタのインクカートリッジ。」


2.引用された刊行物記載の発明
(刊行物1について)
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-87266号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。)

(1-a)「(実施例)
第1図及び第2図を参照すると、プリントヘッド1は、プリンタ(図示していないが、当業者に周知である)の可動キャリッジ12上に固定された支持構造体10を備えている。
下方に開口しかつ構造体10の端壁18によって上方に閉塞されたキャビティ又は中間リザーバ16が、構造体10の伸長部分14に設けられている。
構造体10は、端壁18に接続されかつ該端壁18に対して略垂直方向に伸長する4本のアーム20-23を備えている。4本のアームの内、2本のアーム20、23が図示してある。各アーム、例えば、アーム20(第2図)は、構造体10の隣接し相互に垂直である2つの側壁24′、26′の2つの細長い部分24、26によって形成される。壁24′、26′、及びこれら壁24′、26′に対してそれぞれ平行で該壁24′、26′に面する他の2つの側壁(その壁28′のみ図示)は、インキカートリッジ32(第1図)を受け入れる受け入れスペース30を画成する。故に、インキカートリッジ32は端壁18と反対側の穴34を通じてスペース30内に導入しかつ該スペース30から除去することが出来る。
故に、4本のアーム20-23は、インキカートリッジ32をスペース30内に挿入する操作中、該インキカートリッジ32に対する環状ガイドとして機能する。
管状要素36が壁18に固定されて、中間リザーバ16をスペース30に連通させる。この管状要素36はスペース30内を伸長しかつ穴34方向に向けられた尖鋭端37を有している。
プリントキャリア29上にドットをプリントする当該技術分野にて周知の型式の熱インキプリント要素35すなわちプリントヘッドが、伸長部分14(第1図)上に固定されている。該プリント要素35は、中間リザーバ16を第1図及び第2図おいて下向きに閉塞しており、該要素35は、例えば本出願人による1989年1月26日付けのイタリヤ国特許出願第67044-A/89号に記載された型式の、絶縁層及び樹脂層間に介装された複数の金属層を支持するシリコン板36によって形成される。より具体的には、インキは、対応する噴出チャンバ(図示せず)に連通すると共に、プリント要素35の絶縁層の一つに設けられた複数のノズル45(第2図)を通じてキャリア29上に噴出される。該噴出チャンバは、シリコン板39を通って伸長する供給管路を介して中間リザーバに連通している。プリントキャリア29に向けられたプリント板39の外面には、伝導性領域又はパッドが配設されており、これら伝導性領域又はパッドはプリント要素35の金属層の一つを介して、噴出チャンバ内に収容されたヒータ要素(図示せず)に接続される。支持構造体10の外側に固定された扁平ケーブル53が板39上の伝導性領域又はパッドに溶接又ははんだ付けされている。
カートリッジ32(第3図及び第4図)は略平行四辺形の形状をし、正面壁44に固定された4つの側壁40、41、42、43により形成された容器33を備えている。
容器33の内部には、補助スペース46が形成されており、該補助スペース46はカートリッジ32の縦軸線A-Aに対して横方向の位置に配設されかつ正面壁44、側壁42及び正面壁44に対して垂直な内壁48と境を接している。補助スペース46は、一側部にてインキカートリッジ32の内側方向に開放する一方、反対側部にて例えば軟質ゴムのような弾性的材料から成る要素50によって閉塞されている。インキカートリッジ32を支持構造体10に取り付けたとき、補助スペース46及び閉塞要素50は管状要素36に対応する位置に配設され、このため、管状要素36は閉塞要素50に穴を開け、その端部37によってインキカートリッジの補助スペース46内に侵入する。
容器33には、インキを含浸させることの出来る連通孔を有するスポンジ状材料52が充填されている。金属グリル47が補助スペース46の開口部46′上に配設されており、このスポンジ状材料52がスペース46内に侵入するのを防止する
容器33にスポンジ状材料52が充填された後、該容器33は壁44と反対側の壁40-43の端縁に密封された蓋54によって閉塞される。
この蓋54には、外部への穴56が形成されており、蓋54と接触するスポンジ部分を外気圧に連通させる。この穴56は容器33の内部方向に伸長すると共に、蓋54上を上方に伸長するドーム58内に配設された導管57を備えている。インキカートリッジ32には、例えば、導管56(第3図参照)から空気を吸引し、インキリザーバ(図示せず)に連通ずる第2図の管36と同様のニードル管を介し閉塞体50を通って底部からインキを導入することによりインキが充填される。インキが補助スペース46を満たし、スポンジ状材料52に完全に含浸されると、インキカートリッジ32が充填されたことになる。
スポンジ材料52の毛管作用によりインキを容器内に保持するため、インキが充填されたカートリッジ32は、インキが失われることなく、任意に位置にて長時間保存することが出来る。
プリント工程を開始するためには、閉塞要素50に穴を開けた後、管状要素36の端部37が補助スペース46(第1図)内に侵入するようにして、インキが充填されたインキカートリッジ32を支持構造体10の補助スペース30(第2図)に嵌める。
プリント工程を開始する前、プリントヘッドlは吸引ステーション(図示せず)に動かされ、このステーションにてインキカートリッジ32内に収容されたインキがノズル45を通って吸引される(第2図参照)。このようにして、インキは各ノズル内にメニスカスを形成し、このメニスカスの表面張力により、スポンジ状材料52の毛管現象に起因して保持スペース46(第1図)及び補助リザーバ16内に形成された凹状部分が均衡される。この凹状部分はプリントへッド1が作動していないとき、1?5cm水柱程度であるが、プリント工程中、ある量のインキが再度、プリント要素35のリザーバ16から吸引されて、ノズル45から噴出されるインキに置換するとき、20?30cm水柱程度まで増大する。プリントヘッドlから分離した、インキカートリッジ32を使用することにより、プリンタの格納期間中、リザーバ16及びプリント要素35をインキ無しの状態に維持することが可能となり、これにより、その後のプリンタ作動時、ノズルが作動可能であるようにすることが出来る。
さらに、プリンタの作動が妨害されたとき、インキカートリッジ32は、既にヘッドlに既に取り付けられている場合、取り外し、格納することが出来る一方、インキリザーバ16及びノズル45は掃除して残留インキを除去することが出来る。この方法は、乾燥したインキがノズルに詰まるのを防止し、インキが長時間に亘りこれらの層と接触することに起因して、腐食したり、インキがプリント要素35の金属及び絶縁層に浸み込むのを最小にする。 プリントヘッド1は、又多色プリントにも使用することが出来る。第7図を参照すると、支持構造体60は色の異なるインキを収容する複数のインキカートリッジ62を備えることが出来る。支持構造体60は、例えば、4つのインキカートリッジ62(簡単化のため、2つのみ図示)を担持することが出来る。各インキカートリッジ62は第3図のインキカートリッジ32と同様であり、例えば、黒、マゼンタ、シナン及びブルーといった異なる色のインキを保持している。」(第3頁左下欄第7行?第5頁右上欄第13行)

(1-b)第1図として、





(1-c)第2図として、





(1-d)第3図、第4図として、





上記第3?4図から、閉塞要素(閉塞体)50は、その側面に設けられた溝によって、容器33の底部に設けられた孔に嵌合されているといえる。

したがって、上記の事項を総合すると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)

「容器33を備えた、インキジェットプリンタ用のインキカートリッジ32であって、
前記容器33の内部には、スポンジ状材料52が充填されるスペースと、補助スペース46とが形成されており、
前記容器33に前記スポンジ状材料52が充填された後、該容器33は、外部への穴56が形成された蓋54によって閉塞されるとともに、
前記補助スペース46の底部には、孔が形成されており、該孔は、軟質ゴムのような弾性的材料から成る閉塞要素50によって閉塞され、該孔の縁部と、該閉塞要素50の側面に設けられた溝とが嵌合することによって、該閉塞要素50は取り付けられており、
インキカートリッジ32とは別体に設けられた管状要素36が、前記閉塞要素50に孔を開け、前記補助スペース46内に侵入することによって、インキが流出可能となる、インキカートリッジ32。」

(刊行物2について)
また、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-192518号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。)

(2-a)「【0022】図1は本発明の一実施例におけるインクジェット記録装置の概略斜視図であり、図2は本発明の一実施例におけるヘッド本体とインクタンクとの接合の一例を示す側面断面図である。図1および図2のインクジェット記録装置は、インクタンク1およびヘッド本体2からなる。インクタンク1はヘッド本体2に着脱自在に構成されている。
【0023】インクタンク1内には、多孔質材等からなるインク吸収体3が収容されている。インク吸収体3は、適度の毛細管力によりインクを保持するために、多孔質のセル8(1インチ当たりの空孔の数で示される空孔量)が均一になるようにインクタンク1内に充填されている。
【0024】インクタンク1の上面には、インクタンク1の内部と大気との連通状態を確保するための大気連通口4が設けられている。大気連通口4により、インクの消費時にインクタンク1内の負圧力が著しく高まることが防止され、インクタンク1内の空気が高温時、低圧時等の外部の環境変化により膨張したときにインクタンク1外へインクが漏出することが防止される。
【0025】さらに、インクタンク1の一方の端面にはインク供給口が設けられ、そのインク供給口にインク供給部材10が取付けられている。インク供給部材10はインク吸収体3よりも強い毛細管力を有するインク供給路11を有する。このインク供給部材10は、インク吸収体3に含浸されたインクを常にインク供給路11の先端まで吸引するためにインク吸収体3を常に圧接するようにインクタンク1に保持されている。それにより、インク供給部材10の周辺部に圧縮されたインク吸収体7が形成される。圧縮されたインク吸収体7では、圧縮されない部分よりもセル8が小さくなり、かつインク供給部材10のインク供給路11によりインクの漏出がない程度にインクが吸引されているので、インク吸収体3に含浸されたインクが効率良く消費される。
【0026】ヘッド本体2内には液路12が設けられ、さらにインクの吐出により消費した液路12中のインクを補充するためのインク液室13が設けれている。ヘッド本体2の端部には外部からの異物の侵入を防止するためのフィルター6が熱溶着、超音波溶着等により固定されている。インク液室13はフィルター6とつながっている。液路12の端部にはインクを吐出するためのインク吐出口9が設けられている。インクは、液路12ごとに設けられた複数の吐出エネルギー発生素子(図示せず)によりインク吐出口9から吐出され、紙面上に画像が形成される。」

(2-b)図1として、





(2-c)図2として、




上記図2から、インク供給部材10は、断面リング状ということができ、また、その材質については明記がないものの、通常樹脂で形成されることは明らかである。

したがって、上記の事項を総合すると、刊行物2には、以下の事項が開示されていると認められる。(以下、「刊行物2記載事項」という。)

「多孔質材等からなるインク吸収体3が収容された、インクタンク1であって、
大気連通口4と、インク供給口とが設けられ、
該インク供給口には、樹脂で形成され、断面リング状のインク供給部材10が取付けられており、
該インク供給部材10は、インク供給路11を有する、インクタンク1。」


3.対比
本願発明と刊行物1発明と対比すると、
まず、刊行物1発明における
「インキジェットプリンタ用のインキカートリッジ32」、
「容器33」、
「外部への穴56」、
「スポンジ状材料52」、
「スポンジ状材料52が充填されるスペース」は、
それぞれ、本願発明における
「インクジェットプリンタのインクカートリッジ」、
「少なくとも1つのチャンバを有するハウジング」、
「通気オリフィス」、
「インクを吸収するための多孔質貯蔵体」、
「少なくとも1つのチャンバ(前記少なくとも1つのチャンバは、インクを吸収するための多孔質貯蔵体で満たされ、)」に相当する。
また、刊行物1発明における
「該容器33は、外部への穴56が形成された蓋54によって閉塞されるとともに、・・・前記補助スペース46の底部には、孔が形成されており、該孔は、軟質ゴムのような弾性的材料から成る閉塞要素50によって閉塞され」た構成と、
本願発明における「前記チャンバは底部にはオリフィスを有するインク流出口と、頂部には通気オリフィスと、を含み、・・・インク流出口は軟質の弾力性のある材料のリング状のシール部を有し、」とは、
「チャンバは底部には孔と、頂部には通気オリフィスと、を含み、・・・チャンバ底部の孔は軟質の弾力性のある材料のシール部を有し、」で共通する。
そして、刊行物1発明における「前記補助スペース46の底部には、孔が形成されており、該孔は、閉塞要素50によって閉塞され、該孔の縁部と、該閉塞要素50の側面に設けられた溝とが嵌合することによって、該閉塞要素50は取り付けられており、インキカートリッジ32とは別体に設けられた管状要素36が、前記閉塞要素50に孔を開け、前記補助スペース46内に侵入することによって、インキが流出可能となる」「閉塞要素50」と、
本願発明における「前記ハウジングの底部に対向して頂部が配置される接触プレートと、前記ハウジングと対向する接触プレートと隣接し、前記オリフィスに挿入されるリング部とを含み、前記接触プレートの底部にはハウジングの外側に配置されるシール表面が形成され、前記シール表面の中央に流出口オリフィスが設けられ、前記リング部は、前記流出口オリフィスと連結する流路を周設し、さらに、前記接触プレートと隣接していない方の端部において外方に突出する突出部を有し、前記突出部が円形のつば部の態様で、ハウジング内部で前記インク流出口のオリフィスを越えて突出することでシール部がオリフィス内で留められる」「シール部」とは、
「シール部は、
チャンバ底部の孔に挿入される部材を含み、
前記部材は、ハウジング内側の端部において外方に突出する突出部を有し、前記突出部が円形のつば部の態様で、ハウジング内部で前記チャンバ底部の孔の縁部を越えて突出することでシール部がオリフィス内で留められる」構成で共通する。

したがって、両者は、
「インクジェットプリンタのインクカートリッジであって、
少なくとも1つのチャンバを有するハウジングを含み、
前記チャンバは
底部には孔と、
頂部には通気オリフィスと、を含み、
前記少なくとも1つのチャンバは、インクを吸収するための多孔質貯蔵体で満たされ、
チャンバ底部の孔は軟質の弾力性のある材料のシール部を有し、
前記シール部は、
前記チャンバ底部の孔に挿入される部材を含み、
前記部材は、ハウジング内側の端部において外方に突出する突出部を有し、前記突出部が円形のつば部の態様で、ハウジング内部で前記チャンバ底部の孔の縁部を越えて突出することでシール部がオリフィス内で留められる、
インクジェットプリンタのインクカートリッジ。」
の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点:「チャンバ底部の孔」及び「シール部」に関して、
本願発明は、「チャンバ底部の孔」は、「オリフィスを有するインク流出口」であって、
「シール部」は、「リング状」であり、「前記ハウジングの底部に対向して頂部が配置される接触プレートと、前記ハウジングと対向する接触プレートと隣接し、前記オリフィスに挿入されるリング部とを含み、
前記接触プレートの底部にはハウジングの外側に配置されるシール表面が形成され、
前記シール表面の中央に流出口オリフィスが設けられ、
前記リング部は、前記流出口オリフィスと連結する流路を周設し、さらに、前記接触プレートと隣接していない方の端部において外方に突出する突出部を有し、前記突出部が円形のつば部の態様で、ハウジング内部で前記インク流出口のオリフィスを越えて突出することでシール部がオリフィス内で留められる」ものであるのに対して、
刊行物1発明は、「チャンバ底部の孔」は、「補助スペース46」の底部の「孔」が「閉塞要素50」によって閉塞されるものであり、「インキカートリッジ32とは別体に設けられた管状要素36が、前記閉塞要素50に孔を開け、前記補助スペース46内に侵入することによって、インキが流出可能となる」ものであって、「オリフィスを有するインク流出口」、「流出口オリフィス」、「接触プレート」、「ハウジングの外側に配置されるシール表面」等を有するものではない点。


4.当審の判断
(相違点について)
上記相違点について、検討する。
刊行物2には、上記のとおり、「多孔質材等からなるインク吸収体3が収容された、インクタンク1であって、大気連通口4と、インク供給口とが設けられ、該インク供給口には、インク供給部材10が取付けられており、該インク供給部材10は、インク供給路11を有する、インクタンク1。」が記載されており、前記刊行物2記載事項における、「インクタンク1」、「多孔質材等からなるインク吸収体3」、「大気連通口4」、「インク供給口」、「樹脂で形成され、断面リング状のインク供給部材10」、「インク供給路11」は、それぞれ、本願発明における「ンクジェットプリンタのインクカートリッジ」、「インクを吸収するための多孔質貯蔵体」、「通気オリフィス」、「オリフィスを有するインク流出口」、「軟質の弾力性のある材料のリング状のシール部」、「流出口オリフィス」に相当する。
また、刊行物2記載事項においては、「前記接触プレートと隣接していない方の端部において外方に突出する突出部を有し、前記突出部が円形のつば部の態様で、ハウジング内部で前記インク流出口のオリフィスを越えて突出することでシール部がオリフィス内で留められる」に相当する構成を有していないものの、刊行物1発明も同様の構成を有しているように、円形のつば部によって嵌合・取付けを行うことは、通常の技術的手段であって、また、刊行物2記載事項においても、「ハウジングと対向する接触プレート」に相当する構成を有することは、図面の記載などから明らかである。
してみると、刊行物2記載事項の「インク供給部材10」と、本願発明の「シール部」とは、格別異ならない。
そして、インクジェットプリンタのインクカートリッジにおいて、刊行物1発明のように、閉塞要素であるシール部に、管状要素を挿入して、インクを供給するようにしたものも、本願発明や刊行物2記載事項のように、シール部自体がもともと「オリフィスを有するインク流出口」や「流出口オリフィス」を備えたものも、当該技術分野において周知であるから、刊行物1発明における「閉塞要素であるシール部」として、刊行物2記載事項のような「インク供給部材」を採用することに、格別の技術的困難性は見出せない。
加えて、刊行物1発明においては、「補助スペース46」の底部に「孔」が形成されたものであるが、このような「補助スペース46」は、管状要素を挿入して、インクを流出させるためのものであるから、刊行物2記載事項のような「インク供給部材」を採用する場合には、「補助スペース46」を設ける必要がないことは、自明の事項である。
したがって、刊行物1発明において、「チャンバ底部の孔」を、「オリフィスを有するインク流出口」とし、「シール部」として、「リング状」であり、「前記ハウジングの底部に対向して頂部が配置される接触プレートと、前記ハウジングと対向する接触プレートと隣接し、前記オリフィスに挿入されるリング部とを含み、前記接触プレートの底部にはハウジングの外側に配置されるシール表面が形成され、前記シール表面の中央に流出口オリフィスが設けられ、前記リング部は、前記流出口オリフィスと連結する流路を周設し、さらに、前記接触プレートと隣接していない方の端部において外方に突出する突出部を有し、前記突出部が円形のつば部の態様で、ハウジング内部で前記インク流出口のオリフィスを越えて突出することでシール部がオリフィス内で留められる」ものを採用することは、当業者が容易に為し得たことである。

なお、「前記リング部は、前記流出口オリフィスと連結する流路を周設し」の「周設」は意味が不明確であるが、「リング部」が、「流路」を取り囲むことによって、「流路」が設けられることを意味するものと判断した。したがって、刊行物2記載事項においても、断面リング状の「インク供給部材」が、「インク供給路11」を取り囲むことによって、「インク供給路11」が設けられているから、この構成は、「流路を周設し」に相当する。

(本願発明が奏する効果について)
そして、上記相違点によって本願発明が奏する効果も、刊行物1?2に記載された事項から予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

(まとめ)
以上のとおりであるから、相違点に係る構成の変更は、当業者が容易に為し得たことである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は刊行物1又は2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-17 
結審通知日 2009-11-24 
審決日 2009-12-07 
出願番号 特願2004-334271(P2004-334271)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塚本 丈二  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 一宮 誠
伏見 隆夫
発明の名称 インクカートリッジ、インクカートリッジユニットおよびインクジェットプリントヘッド  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  

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