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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1230489
審判番号 不服2007-28410  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-18 
確定日 2011-01-14 
事件の表示 特願2001-375913「ソリッドゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月24日出願公開、特開2003-175129〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年12月10日の出願であって、平成19年3月30日に手続補正がなされ、同年9月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年11月13日に手続補正がなされ、当審において、平成22年3月16日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年5月13日に手続補正がなされ、同年7月29日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年10月4日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成22年10月4日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によってそれぞれ特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「1層又は2層以上のソリッドコアと該ソリッドコアを被覆する2層以上のカバーとを具備してなるソリッドゴルフボールにおいて、最外層カバー以外の内側カバーの少なくとも1層が、
(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体であり、且つ該ランダム共重合体の質量(金属イオンを中和する前の質量を意味する。)に対する不飽和カルボン酸含有量が16質量%以上であり、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体と、(b)結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマーと、
(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体と、
(d)上記(a),(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物と
の加熱混合物からなり、(a)成分と(b)成分との合計量100質量部に対し、(c)成分の混合量が5?80質量部、(d)成分の混合量が0.1?10質量部であり、(a)成分と(b)成分との割合が質量比で85/15?70/30である材料にて形成されると共に、最外層カバーがポリウレタン系エラストマーにて形成されることを特徴とするソリッドゴルフボール。」

第3 記載不備についての当審拒絶理由1及び2の概要
1 特許法第36条第4項違反
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された多数の数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数の数値限定の範囲に設定することの技術的意義及び臨界的意義は、当業者といえども把握できるものでない。

2 特許法第36条第6項違反
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された多数の数値限定で規定する範囲は本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められず、本願の特許請求の範囲の請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に適合するものでない。

第4 本願の発明の詳細な説明の記載について
1 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0006】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のゴルフボールに対して、熱安定性、流動性、成形性が良好で、反発性に優れたゴルフボールを得ることができるゴルフボール用材料及び該ゴルフボール用材料にて形成された成形物を構成要素として具備してなるゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された「1層又は2層以上のソリッドコアと該ソリッドコアを被覆する2層以上のカバーとを具備してなるソリッドゴルフボールにおいて、最外層カバー以外の内側カバーの少なくとも1層が、
(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体であり、且つ該ランダム共重合体の質量(金属イオンを中和する前の質量を意味する。)に対する不飽和カルボン酸含有量が16質量%以上であり、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体と、(b)結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマーと、
(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体と、
(d)上記(a),(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物と
の加熱混合物からなり、(a)成分と(b)成分との合計量100質量部に対し、(c)成分の混合量が5?80質量部、(d)成分の混合量が0.1?10質量部であり、(a)成分と(b)成分との割合が質量比で85/15?70/30である材料にて形成されると共に、最外層カバーがポリウレタン系エラストマーにて形成される」(以下「本願発明特定事項」という。)との多数の数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数の数値限定の範囲に設定することの技術的意義は、当業者といえども把握できるものでない。

2 本願の明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(1) 「【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、
(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体であり、且つ該ランダム共重合体の質量(金属イオンを中和する前の質量を意味する。)に対する不飽和カルボン酸含有量が16質量%以上であり、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体と、
(b)結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマーと、
(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体と、
(d)上記(a),(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物と
を加熱混合して得られ、しかもこの場合、(a)成分と(b)成分との合計量100質量部に対し、(c)成分の混合量が5?80質量部、(d)成分の混合量が0.1?10質量部であり、(a)成分と(b)成分との割合が質量比で85/15?70/30である加熱混合物が、熱安定性、流動性、成形性が良好で、射出成形に適しており、成形物の反発性が高く、1層又は2層以上のソリッドコアと該ソリッドコアを被覆する2層以上のカバーとを具備してなるソリッドゴルフボールのうち、最外層カバー以外の内側カバーの少なくとも1層の材料として最適な材料であることを知見した。
【0009】
従って、本発明は、下記のソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。
請求項1:
1層又は2層以上のソリッドコアと該ソリッドコアを被覆する2層以上のカバーとを具備してなるソリッドゴルフボールにおいて、最外層カバー以外の内側カバーの少なくとも1層が、
(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体であり、且つ該ランダム共重合体の質量(金属イオンを中和する前の質量を意味する。)に対する不飽和カルボン酸含有量が16質量%以上である上記ランダム共重合体を金属イオンで中和した中和物と、
(b)結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマーと、
(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体と、
(d)上記(a),(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物と
の加熱混合物からなり、(a)成分と(b)成分との合計量100質量部に対し、(c)成分の混合量が5?80質量部、(d)成分の混合量が0.1?10質量部であり、(a)成分と(b)成分との割合が質量比で95/5?70/30である材料にて形成されると共に、最外層カバーがポリウレタン系エラストマーにて形成されることを特徴とするソリッドゴルフボール。
請求項2:
(a)成分として含まれる不飽和カルボン酸の金属イオン中和物が同じ金属により中和されている請求項1記載のソリッドゴルフボール。
請求項3:
(a)成分の金属イオンがナトリウムイオンである請求項2記載のソリッドゴルフボール。
請求項4:
(c)成分が、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、及びそれらの金属イオン中和物から選ばれる1種又は2種以上である請求項1乃至3のいずれか1項記載のソリッドゴルフボール。
請求項5:
(d)成分が、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、及び炭酸リチウムより選ばれる1種又は2種以上である請求項1乃至4のいずれか1項記載のソリッドゴルフボール。
請求項6:
加熱混合物のショアD硬度が50?75である請求項1乃至5のいずれか1項記載のソリッドゴルフボール。」

(2) 「【0066】
【発明の効果】
本発明のゴルフボール用材料は、熱安定性、流動性、成形性が良好で、反発性に優れた成形物が得られ、高性能のゴルフボールを得ることができ、本発明のゴルフボールは、上記ゴルフボール用材料の成形物を構成要素として具備してなるので、作業性よく製造でき、優れた反発性を有するものである。
【0068】
[実施例1?5、参考例、比較例1?4]
シス-1,4-ポリブタジエンを主成分とするコア材料を用いて、直径36.4mm、重量29.4g、980N(100kg)荷重負荷時の変形量を3.4mmに調整したソリッドコアを得た。
【0069】
表1,2記載の内側カバー材を上記コア上に射出成形し、厚さ1.7mmの内側カバーを形成した後、この上に更に表1,2記載の外側カバー材を射出成形し、直径42.8mmのスリーピースソリッドゴルフボールを製造した。
【0070】
各ゴルフボールについて、諸特性を下記の通り評価した。結果を表1,2に併記する。
ボール硬度
980N(100kg)荷重負荷時のボール変形量(mm)
初速度
ゴルフボール公認機関R&A(USGA)と同タイプの初速度計を使用し、R&
A(USGA)ルールに従い、測定したときの初速度
飛び性能
(株)ミヤマエ製の打撃マシンを使用したマシンテスト結果(使用クラブ:ドライバー、ヘッドスピード:45m/s)
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

(注)
アイオノマー樹脂A:
エチレン-メタクリル酸ランダム共重合体のナトリウムイオン中和物(中和前のランダム共重合体の酸含量18%)
アイオノマー樹脂B:
エチレン-メタクリル酸ランダム共重合体のナトリウムイオン中和物(中和前のランダム共重合体の酸含量20%)
アイオノマー樹脂C:
エチレン-メタクリル酸ランダム共重合体のナトリウムイオン中和物(中和前のランダム共重合体の酸含量15%)
アイオノマー樹脂D:
エチレン-メタクリル酸ランダム共重合体の亜鉛イオン中和物(中和前のランダム共重合体の酸含量18%)
ダイナロン4600P:
JSR社製、スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶ブロック共重合体
ダイナロン6100P:
JSR社製、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶ブロック共重合体」

3 上記2(2)に記載された実施例1ないし5で用いられる「アイオノマー樹脂AないしD」(【0072】参照。)について、前記「酸含量16質量%以上の不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体」に係る「5質量%以上含有する」に対応する具体的な質量%の値は記載されておらず不明である。
してみれば、前記「酸含量16質量%以上の不飽和カルボン酸の金属イオン中和物」を前記「ランダム共重合体中」に如何なる質量%含有しているかは不明であるから、「アイオノマー樹脂AないしD」を特許請求の範囲の請求項1に記載の「(a)酸含量16質量%以上の不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体」に対応する具体例として特定することができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を以てしては、「アイオノマー樹脂AないしD」を特許請求の範囲の請求項1に記載の「(a)酸含量16質量%以上の不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体」に対応する具体例として特定することができないことから、当業者が本願発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとは認められない。
また、実施例1ないし5は、請求項1に記載の「(a)成分と(b)成分との割合が質量比で85/15?70/30である材料にて形成される」のうち、「(a)成分と(b)成分との割合が質量比で70/30」とした具体例であって、それ以外の具体例は、本願の発明の詳細な説明に記載されていない。
してみれば、特許請求の範囲の請求項1に記載の「(a)成分と(b)成分との割合が質量比で70/30」以外については、「従来のゴルフボールに比して熱安定性、流動性、成形性が良好で、反発性に優れた成形物が得られ、高性能のゴルフボールを得ることができ、作業性よく製造でき、優れた反発性を有する」という本願発明の効果が奏されるとは、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載を以てしては、当業者といえども理解できない。

4 上記1ないし3のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、技術的意義が不明で、特許法第36条第4項でいう経済産業省令で定めるところによる記載がされておらず、また、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第5 本願の特許請求の範囲の記載について
本願発明は、多数の数値限定でソリッドゴルフボールを特定しようとするものである。
そこで、本願発明1特定事項に係る多数の数値限定に関する記載について、以下に検討する。
1 本願明細書に開示された発明の課題と、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の上記記載との技術的関係

(1) 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0006】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のゴルフボールに対して、熱安定性、流動性、成形性が良好で、反発性に優れたゴルフボールを得ることができるゴルフボール用材料及び該ゴルフボール用材料にて形成された成形物を構成要素として具備してなるゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
(2) しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明特定事項に係る多数の数値限定と、発明の解決しようとする課題との間の技術的関係については記載も示唆もされていない。
(3) 一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明特定事項に係る多数の数値限定に関連して、以下の記載がある。
ア 「【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、
(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体であり、且つ該ランダム共重合体の質量(金属イオンを中和する前の質量を意味する。)に対する不飽和カルボン酸含有量が16質量%以上であり、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体と、
(b)結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマーと、
(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体と、
(d)上記(a),(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物と
を加熱混合して得られ、しかもこの場合、(a)成分と(b)成分との合計量100質量部に対し、(c)成分の混合量が5?80質量部、(d)成分の混合量が0.1?10質量部であり、(a)成分と(b)成分との割合が質量比で85/15?70/30である加熱混合物が、熱安定性、流動性、成形性が良好で、射出成形に適しており、成形物の反発性が高く、1層又は2層以上のソリッドコアと該ソリッドコアを被覆する2層以上のカバーとを具備してなるソリッドゴルフボールのうち、最外層カバー以外の内側カバーの少なくとも1層の材料として最適な材料であることを知見した。
【0009】
従って、本発明は、下記のソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。
請求項1:
1層又は2層以上のソリッドコアと該ソリッドコアを被覆する2層以上のカバーとを具備してなるソリッドゴルフボールにおいて、最外層カバー以外の内側カバーの少なくとも1層が、
(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体であり、且つ該ランダム共重合体の質量(金属イオンを中和する前の質量を意味する。)に対する不飽和カルボン酸含有量が16質量%以上であり、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体と、
(b)結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマーと、
(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体と、
(d)上記(a),(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物と
の加熱混合物からなり、(a)成分と(b)成分との合計量100質量部に対し、(c)成分の混合量が5?80質量部、(d)成分の混合量が0.1?10質量部であり、(a)成分と(b)成分との割合が質量比で85/15?70/30である材料にて形成されると共に、最外層カバーがポリウレタン系エラストマーにて形成されることを特徴とするソリッドゴルフボール。
請求項2:
(a)成分として含まれる不飽和カルボン酸の金属イオン中和物が同じ金属により中和されている請求項1記載のソリッドゴルフボール。
請求項3:
(a)成分の金属イオンがナトリウムイオンである請求項2記載のソリッドゴルフボール。
請求項4:
(c)成分が、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、及びそれらの金属イオン中和物から選ばれる1種又は2種以上である請求項1乃至3のいずれか1項記載のソリッドゴルフボール。
請求項5:
(d)成分が、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、及び炭酸リチウムより選ばれる1種又は2種以上である請求項1乃至4のいずれか1項記載のソリッドゴルフボール。
請求項6:
加熱混合物のショアD硬度が50?75である請求項1乃至5のいずれか1項記載のソリッドゴルフボール。
【0010】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明は、1層又は2層以上のソリッドコアと該ソリッドコアを被覆する2層以上のカバーとを具備してなるソリッドゴルフボールであり、最外層カバー以外の内側カバーの少なくとも1層が、
(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体であり、且つ該ランダム共重合体の質量(金属イオンを中和する前の質量を意味する。)に対する不飽和カルボン酸含有量が16質量%以上であり、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有する
ランダム共重合体と、
(b)結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマーと、
(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体と、
(d)上記(a),(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物
との加熱混合物からなるゴルフボール用材料により形成されるものである。」

イ 「【0011】
上述のとおり、上記(a)成分は、オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体の金属イオン中和物及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体の金属イオン中和物である。
…(略)…
【0015】
この場合、上記ランダム共重合体中の不飽和カルボン酸含有量は、16質量%以上であり、また30質量%以下、好ましくは28質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下であることが好ましい。なお、上記ランダム共重合体中の不飽和カルボン酸含有量とは、上記ランダム共重合体に金属イオンを中和する前の該共重合体の質量に対する不飽和カルボン酸含有量を意味する。
【0016】
ここで、(a)成分のランダム共重合体は、2種類以上のランダム共重合体を混合して用いることもできるが、この場合全ランダム共重合体中、酸含量16重量%以上の不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5重量%以上、好ましくは15重量%以上、更に好ましくは50重量%以上含むことが望ましい。」

ウ 「【0021】
本発明の(b)成分の熱可塑性エラストマーは、打撃時のフィーリング、反発性をより一層向上させるための任意成分であり、(b)成分としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、及びオレフィン系共重合体から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。これらの中では、オレフィン系エラストマーが好ましく、中でも結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマーが好ましい。
…(略)…
【0023】
上記(a)成分と(b)成分の割合は、質量比として、85/15?70/30の範囲内である。」

エ 「【0024】
次に、本発明の(c)成分は、分子量280以上1500以下の脂肪酸又はその誘導体であり、上記(a),(b)成分の樹脂と比較して分子量が極めて小さく、混合物の溶融粘度を適度に調整し、特に流動性の向上に寄与する成分である。本発明の(c)成分は、比較的高含量の酸基(誘導体)を含み、反発性の過度の損失を抑制できる。
…(略)…
【0030】
上記(c)成分の混合量は、(a),(b)成分の合計量100質量部に対し て5?80質量部、より好ましくは10?40質量部、更に好ましくは15?2 5質量部、特に18?22質量部であり、(c)成分が少なすぎると、溶融粘度 が低くなり、加工性が低下し、多すぎると耐久性が低下する。」

オ 「【0031】
本発明において、(d)成分は、上記(a)成分及び(c)成分中の酸基を中和できる塩基性金属化合物であり、本発明において不可欠な成分である。(d)成分が配合されないと、金属せっけん変性アイオノマー樹脂を単独で使用した場合には、加熱混合時に金属せっけんとアイオノマー樹脂に含まれる未中和の酸基が交換反応して多量の脂肪酸を発生させ、発生した脂肪酸は熱的安定性が低く成形時に容易に気化するため、成形不良の原因をもたらし、更に成形物の表面に付着して、塗膜密着性を著しく低下させるという問題を起こす。
…(略)…
【0033】
本発明は、このような問題を解決すべく、(d)成分として、上記(a)成分及び(c)成分中に含まれる酸基を中和する塩基性金属化合物を必須成分として配合し、成形物の反発性の改良を図るものである。
…(略)…
【0037】
上記(d)成分の混合量は、(a),(b)成分の合計量100質量部に対して0.1?10質量部であり、好ましくは0.5?8質量部、更に好ましくは1?6質量部、特に2?5質量部である。(d)成分が少なすぎると、熱安定性、反発性の向上が見られず、多すぎると、かえって耐熱性が低下する。」

(4)上記(3)から、本願発明特定事項に関する数値限定と本願明細書に開示された発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムを、当業者といえども把握できるものでない。

2 小括
上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明特定事項に関する多数の数値限定と、本願発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムについて記載も示唆もされていない。

3 本願明細書における具体例の開示からの検討
(1)平成22年10月4日付け手続補正により、特許請求の範囲の請求項1について、「1層又は2層以上のソリッドコアと該ソリッドコアを被覆する2層以上のカバーとを具備してなるソリッドゴルフボールにおいて、最外層カバー以外の内側カバーの少なくとも1層が、
(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体であり、且つ該ランダム共重合体の質量(金属イオンを中和する前の質量を意味する。)に対する不飽和カルボン酸含有量が16質量%以上であり、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体と、
(b)結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマーと、
(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体と、
(d)上記(a),(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物と
の加熱混合物からなり、(a)成分と(b)成分との合計量100質量部に対し、(c)成分の混合量が5?80質量部、(d)成分の混合量が0.1?10質量部であり、(a)成分と(b)成分との割合が質量比で85/15?70/30である材料にて形成されると共に、最外層カバーがポリウレタン系エラストマーにて形成されることを特徴とするソリッドゴルフボール。」と変更され、上記実施例1ないし4及び比較例1ないし4については変更されず、実施例5は参考例とされるとともに、実施例6は実施例5として繰り上げられたので、本願明細書には、実施例1ないし5、参考例及び比較例1ないし4に関する記載がある。
そして、実施例1ないし5、参考例及び比較例1ないし4のうち、比較例1ないし4は、特許請求の範囲の請求項1に記載の「(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体と、(d)上記(a),(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物の加熱混合物からなり」以外となり、本願発明に対応する実施例に相当しないことが明らかである。
また、参考例は、成分(a)のアイオノマー樹脂Aは特許請求の範囲の請求項1に記載の「(a)…(略)…16質量%以上である上記ランダム共重合体を金属イオンで中和した中和物」に相当するが、アイオノマー樹脂C(エチレン-メタクリル酸ランダム共重合体のナトリウムイオン中和物(中和前のランダム共重合体の酸含量15%)は特許請求の範囲の請求項1に記載の「(a)…(略)…16質量%以上である上記ランダム共重合体を金属イオンで中和した中和物」に相当しないから、アイオノマー樹脂Aは特許請求の範囲の請求項1に記載の「(a)成分と(b)成分との割合が質量比で85/15?70/30である材料にて形成される」以外となり、本願発明に対応する実施例に相当しないことが明らかである。

(2)そこで、実施例1ないし5について以下に検討する。
ア 実施例1ないし5における「アイオノマー樹脂AないしD」の酸含量は、前記「酸含量16質量%以上の不飽和カルボン酸の金属イオン中和物」を前記「ランダム共重合体中」に如何なる質量%含有しているかは不明であるから、「アイオノマー樹脂AないしD」を特許請求の範囲の請求項1に記載の「(a)酸含量16質量%以上の不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体」に対応する具体例として特定することができない。
してみれば、上記記載から、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「(a)酸含量16質量%以上の不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体」との数値限定に対応する具体例が、一例も記載されていないことになる。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「(a)酸含量16質量%以上の不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体」との数値限定に関し、具体例を開示していないという点からみて、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものであるとは認められない。

イ 実施例1ないし5は、いずれも、特許請求の範囲の請求項1に記載の「(a)成分と(b)成分との割合が質量比で85/15?70/30」のうち、「(a)成分と(b)成分との割合が質量比で70/30」とした具体例である。
してみれば、特許請求の範囲の請求項1に記載の「(a)成分と(b)成分との割合が質量比で70/30」の具体例のみをもって、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の「(a)成分と(b)成分との割合が質量比で95/5?70値/30」の範囲を含む発明における本願発明特定事項に関する多数の数値限定で規定される範囲の技術的意義を裏付けていると当業者といえども把握できるものではない。
したがって、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の上記記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものであるとは認められない。

4 まとめ
上記1ないし3にて検討したとおりであるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものでない。
よって、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第6 進歩性について
1 刊行物の記載事項
当審拒絶理由2で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-54588号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(1)「【0006】本発明のゴルフボールは、比較的低弾道で伸びのある飛び性能を有し、飛距離が大きく、しかもアイアンショットにおけるコントロール性が高い上、ウッド、アイアン、パターのいずれのクラブでショットした場合でも良好なフィーリングを有し、更にアイアンでコントロールショットした際における耐ササクレ性に優れ、耐久性に優れているものである。
【0007】以下、本発明につき更に詳しく説明する。本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、ソリッドコアと、これを被覆する内層カバー及び外層カバーとの2層構造からなるカバーとを有する。
【0008】ここで、上記ソリッドコアは、ゴム組成物にて形成したものが好ましい。ゴム組成物としては、基材としてポリブタジエンを使用したものが好ましい。このポリブタジエンとしては、シス構造を少なくとも40%以上有する1,4-シスポリブタジエンが好適に挙げられる。また、この基材ゴム中には、所望により該ポリブタジエンに天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴムなどを適宜配合することができる。ゴム成分を多くすることにより、ゴルフボールの反発性を向上させることができる。
【0009】また、上記ゴム組成物には、架橋剤としてメタクリル酸亜鉛、アクリル酸亜鉛等の不飽和脂肪酸の亜鉛塩、マグネシウム塩やトリメチルプロパンメタクリレート等のエステル化合物を配合し得るが、特にアクリル酸亜鉛を好適に使用し得る。これら架橋剤の配合量は、上記基材ゴム100重量部に対し、10重量部以上50重量部以下、特に20重量部以上45重量部以下とすることが好ましい。
【0010】上記ゴム組成物中には、通常、加硫剤が配合されているが、この加硫剤中には、1分間で半減期を迎える温度を155℃以下とするパーオキサイドが含まれていることが推奨され、その配合量は加硫剤全体の30重量%以上、特に40重量%以上であり、その上限は特に制限されないが、70重量%以下であることが好ましい。このようなパーオキサイドとしては、市販品を挙げることができ、例えばパーヘキサ3M(日本油脂社製)等が挙げられる。その配合量は、基材ゴム100重量部に対し、0.6重量部以上2重量部以下とすることができる。
【0011】更に、必要に応じて、老化防止剤や比重調整の充填剤として酸化亜鉛や硫酸バリウム等を配合することができる。
【0012】上記成分を配合して得られるソリッドコア組成物は、通常の混練機、例えばバンバリーミキサーやロール等を用いて混練し、コア用金型に圧縮又は射出成形し、成形体を架橋剤及び共架橋剤が作用するのに十分な温度、例えば架橋剤としてジクミルパーオキサイドを用い、共架橋剤としてアクリル酸亜鉛を用いた場合には、約130?170℃、特に150?160℃で10?40分、特に12?20分加熱硬化してソリッドコアを調製する。
【0013】上記ゴム組成物は、公知の方法で加硫・硬化させてソリッドコアを製造することができるが、その直径は30mm以上、より好ましくは33mm以上、更に好ましくは35mm以上であり、また40mm以下、より好ましくは39mm以下、更に好ましくは38mm以下とすることが好ましい。
【0014】また、このソリッドコアは、30kgの荷重を負荷した場合における変形量が1.1mm以上であることが必要であり、好ましくは1.2mm以上、より好ましくは1.4mm以上、更に好ましくは1.5mm以上であり、また好ましくは2.5mm以下、より好ましくは2.3mm以下、更に好ましくは2.1mm以下であることがよい。上記30kg荷重負荷時の変形量が上記値より小さいと、フィーリングが硬くなり、好ましくない。なお、上記変形量が大きすぎると、反発性及び耐久性が低下するおそれがある。
【0015】この場合、コア断面の硬度分布において、中心が一番軟らかく、一番硬い部分との硬度(JIS-C)差が5%以上であることが好ましく、これにより打感が軟らかく良好になる。
【0016】上記ソリッドコアの比重は1.0?1.3、より好ましくは1.05?1.25、更に好ましくは1.10?1.20であることが好ましい。
【0017】本発明において、上記内外2層のカバーは、特に制限されないが、いずれも熱可塑性樹脂にて形成することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等を挙げることができ、具体的には、ナイロン、ポリアリレート、アイオノマー樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーなどを挙げることができ、市販品としてサーリン8945(デュポン社製アイオノマー樹脂)、ハイミラン1706,同1707(三井・デュポンポリケミカル社製アイオノマー樹脂)、リルサンBMNO(エルフアトケム社製ポリアミド系樹脂)、UポリマーU-8000(ユニチカ社製ポリアリレート樹脂)などが例示される。
【0018】この場合、内層カバーは、アイオノマー樹脂、又はアイオノマー樹脂とオレフィン系エラストマーとからなる樹脂成分を主材としたものにて形成することが好ましい。
【0019】アイオノマー樹脂に更にオレフィン系エラストマーを混合することにより、各々を単独で使用したときに達し得ない特性(例えば打感や反発性)を得ることができる。オレフィン系エラストマーとしては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ゴム強化オレフィンポリマー、フレキソマー、プラストマー、酸変性物を含む熱可塑性エラストマー(スチレン系ブロックコポリマー、水素添加ポリブタジエンエチレンプロピレンゴム)、動的に加硫されたエラストマー、エチレンアクリレート、エチレンビニルアセテート等が挙げられる。具体的には、三井・デュポンポリケミカル社製「HPR」,日本合成ゴム社製「ダイナロン」等が用いられる。
【0020】アイオノマー樹脂とオレフィン系エラストマーとの混合割合は、重量比として40:60?95?5、好ましくは45:55?90:10、更に好ましくは48:52?88:12、特に55:45?85:15であることが望ましい。オレフィン系エラストマーが少なすぎると打感が硬くなりやすい。一方、これが多すぎると反発性が低下するおそれがある。
【0021】なお、上記アイオノマー樹脂は、Zn,Mg,Na,Li等のイオン中和タイプを用いることができる。この場合、比較的軟らかく、反発性の高いZn又はMgイオン中和タイプアイオノマー樹脂を5?100重量%、より好ましくは10?80重量%、更に好ましくは15?70重量%含むものであることが好ましい。
【0022】また、上記アイオノマー樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他のポリマーを配合しても差し支えない。
【0023】上記内層カバーは、また熱可塑性ポリエステルエラストマーにて形成したものも、更に軟らかく、反発性が高い点で好適である。
【0024】内層カバーは、酸化亜鉛、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機充填剤を30重量%程度又はそれ以下含んでいてもよい。好ましくはこの量を1?20重量%とする。
【0025】更に、内層カバーの比重は0.8以上、より好ましくは0.9以上、更に好ましくは0.92以上、最も好ましくは0.93以上であり、また1.2以下、より好ましくは1.16以下、更に好ましくは1.10以下、最も好ましくは1.05以下であることが好ましい。
【0026】なお、上記内層カバーの厚さは0.5mm以上、より好ましくは0.9mm以上、更に好ましくは1.1mm以上であり、3.0mm以下、より好ましくは2.5mm以下、更に好ましくは2.0mm以下であることが好ましい。
【0027】一方、外層カバーは、熱可塑性ポリウレタンエラストマー又はアイオノマー樹脂にて形成することが好ましい。ここで、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの分子構造は、ソフトセグメントを構成する高分子ポリオール化合物と、ハードセグメントを構成する単分子鎖延長剤と、ジイソシアネートからなる。
【0028】高分子ポリオール化合物としては、特に制限されるものではないが、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、コポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールのいずれでもよく、ポリエステル系ポリオールとしては、ポリカプロラクトングリコール、ポリ(エチレン-1,4-アジペート)グリコール、ポリ(ブチレン-1,4-アジペート)グリコール等、コポリエステル系ポリオールとしては、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)グリコール等、ポリカーボネート系ポリオールとしては、(ヘキサンジオール-1,6-カーボネート)グリコール等、ポリエーテル系ポリオールとしては、ポリオキシテトラメチレングリコール等が挙げられる。これらの数平均分子量は約600?5000、好ましくは1000?3000である。
【0029】ジイソシアネートとしては、カバーの耐黄変性を考慮して、脂肪族ジイソシアネートが好適に用いられる。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4(2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)などが挙げられるが、特にHDIが他の樹脂とのブレンドする際の相溶性の点から好ましい。
【0030】単分子鎖延長剤としては、特に制限されず、通常の多価アルコール、アミン類を用いることができ、具体的には1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジシクロヘキシルメチルメタンジアミン(水添MDA)、イソホロンジアミン(IPDA)などが挙げられる。
【0031】上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、粘弾性測定によるtanδピーク温度が-15℃以下、特に-16?-50℃であるものが軟らかさ、反発性の点から好ましい。
【0032】このような熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、市販品を用いることができ、例えばパンデックスT7298(-20℃),同T7295(-26℃),同T7890(-30℃)(大日本インキ化学工業社製)などのジイソシアネートが脂肪族であるものが挙げられる。なお、括弧内の数字はいずれもtanδピーク温度を示す。
【0033】上述した熱可塑性ポリウレタンエラストマーとイソシアネート化合物との反応生成物を用いることもでき、これによりアイアン打撃時の表面耐久性を更に向上させることができる。
【0034】この場合、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーに加えて、他の熱可塑性エラストマー等のポリマーを配合することができ、例えばポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、水添ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル(EVA)共重合体などを配合し得、またポリカーボネート、ポリアクリレート等の硬質樹脂を添加混合することもできる。これら他のポリマーの配合量は、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー100重量部に対し0?100重量部、好ましくは10?75重量部、更に好ましくは10?50重量部がよく、硬度調整、反発性改良、流動性改良、ソリッドコア表面との接着性の改良などに応じて適宜調節される。
…(略)…
【0046】また、上述したように、外層カバーは、アイオノマー樹脂にて形成したものであってもよく、ソリッドゴルフボールのカバー材として通常使用されるアイオノマー樹脂を主材として形成することができる。アイオノマー樹脂として具体的には、ハイミラン1605,同1706(三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン8120,同8320(デュポン社製)等を挙げることができ、2種以上のアイオノマー樹脂を組み合わせて用いることもできる。また、必要により、アイオノマー樹脂に顔料、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、可塑剤等の公知の添加剤を配合することもでき、外層カバーは、酸化亜鉛、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機充填剤を1?30重量%、特に1.5?20重量%含有してもよい。
【0047】外層カバーの比重は0.90?1.30、より好ましくは0.95?1.25、更に好ましくは1.0?1.22であることが好ましい。
【0048】上記外層カバーの厚さは0.5?2.5mm、より好ましくは0.9?2.3mm、更に好ましくは1.1?2.0mmであることが好ましい。
【0049】この場合、上記内層及び外層カバーの合計厚さ(カバー全体の厚さ)は1.0?5.5mm、より好ましくは1.5?4.5mm、更に好ましくは2.0?3.5mmとすることが好ましい。
【0050】ここで、本発明においては、上記内層カバーのショアD硬度が45以上、好ましくは47以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは52以上、最も好ましくは54以上であり、また61以下、好ましくは60以下、より好ましくは59以下、更に好ましくは58以下、最も好ましくは57以下とすることが必要である。内層カバーが軟らかすぎると反発性が低下し、逆に硬すぎると打感が硬くなる。
【0051】一方、外層カバーのショアD硬度は35以上、好ましくは38以上、より好ましくは40以上、更に好ましくは42以上であり、また55以下、好ましくは53以下、より好ましくは52以下、更に好ましくは50以下であることが必要である。外層カバーが軟らかすぎるとスピンがかかりすぎ、反発性も低下し、飛距離が低下する。逆に硬すぎると打感が硬くなり、スピン性能も低下してしまう。この場合、外層カバーの硬度は、内層カバーの硬度より軟らかく形成することが好ましい。
【0052】上記内層カバーと外層カバーとの間には、打撃時の耐久性を向上させる目的のために、接着剤層を設けることができる。この場合、接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤、ビニル樹脂系接着剤、ゴム系接着剤などを挙げることもできるが、特にはウレタン樹脂系接着剤、塩素化ポリオレフィン系接着剤を用いることが好ましい。
【0053】この場合、接着剤層の形成をディスパージョン塗装にて行うことができるが、ディスパージョン塗装に用いるエマルジョンの種類に限定はない。エマルジョン調製用の樹脂粉末としては、熱可塑性樹脂粉末でも熱硬化性樹脂粉末でも用いることができ、例えば酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)、アクリル酸エステル(共)重合樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂等を使用することができる。これらの中で、特に好ましいのはエポキシ樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、アクリル酸エステル(共)重合樹脂であり、中でも熱可塑性ウレタン樹脂が好適である。
【0054】なお、接着剤層の厚さは0.1?30μm、特に0.2?25μm、とりわけ0.3?20μmとすることが好ましい。」

(2)「【0070】
【実施例】以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0071】〔実施例,比較例〕常法に従い、表1,2に示すソリッドコア上に、表3に示す内層カバー、表4に示す外層カバーを順次形成すると共に、表5に示すディンプルを均一に形成し、表6,7に示すスリーピースソリッドゴルフボールを製造した。
【0072】得られたゴルフボールについて、下記方法で飛び試験を行い、またスピン量、フィーリング、耐ササクレ性、連続耐久性を評価した。結果を表6,7に示す。
【0073】飛び試験
ミヤマエ社製スイングロボットを用い、ドライバーでヘッドスピード(HS)50m/sで各ボールを20発ずつ打撃し、仰角(水平に対する高さ方向の角度)、キャリー、トータル飛距離を測定した。
<使用クラブ>
ヘッド: ブリヂストンスポーツ社製,J’s-METAL,ロフト角7.5°,ライ角57°,SUS630ステンレス,ロストワックス製法
シャフト:ハーモテックプロ,HM-70,LK(先調子),硬さX
スピン量
#W1及びサンドウェッジ(#SW,ヘッドスピード(HS)20m/s)について、インパクト直後のボールの挙動を写真撮影し、写真解像により算出した。
フィーリング
#W1及びパター(#PT)について、プロゴルファー3名により実打したときの感触を下記基準により評価した。
○:軟らかい
△:やや硬い
×:硬い
耐ササクレ性
スイングロボットにより、サンドウェッジ(#SW,ヘッドスピード38m/s)でボールを任意に2ケ所打撃し、これを目視評価した。
◎:非常に良好
○:良好
△:普通
×:劣る
連続耐久性
フライホイール打撃M/Cを用い、ヘッドスピード38m/sで繰り返し打撃して、ボールが破壊するまでの打撃回数の多少により評価した。
○:良好
△:普通
×:悪い
【0074】
【表1】

…(略)…
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】〔注〕
1 ダイナロン:日本合成ゴム社製,ブロックコポリマー,ブタジエン-スチレン共重合体水素添加物
2 ニュクレル:三井・デュポンポリケミカル社製,エチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル三元共重合体
3 ハイトレル:東レ・デュポン社製,熱可塑性ポリエステルエラストマー
4 PEBAX:エルフアトケム社製,ポリアミド系エラストマー
5 サーリン:デュポン社製,アイオノマー樹脂
6 ハイミラン:三井・デュポンポリケミカル社製,アイオノマー樹脂
7 パンデックス:大日本インキ化学工業社製,熱可塑性ポリウレタンエラストマー
【0079】
【表5】

【0080】
【表6】



(3)上記(1)及び(2)から、引用例、特にその実施例3及び4には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ソリッドコア上に、内層カバー、外層カバーを順次形成してなるスリーピースソリッドゴルフボールであって、
前記内層カバーは、オレフィン系エラストマーである「ダイナロン6100P」(日本合成ゴム社製)30重量部と、アイオノマー樹脂である「サーリン 9945」(デュポン社製)35重量部と、アイオノマー樹脂である「サーリン 8945」(デュポン社製)35重量部と、無機充填剤である二酸化チタン5.1重量部とを配合した混合物からなり、
前記外層カバーは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーである「パンデックス TR3080」(大日本インキ化学工業社製)[50,0]重量部と、熱可塑性ポリウレタンエラストマーである「パンデックス T7298」(大日本インキ化学工業社製)[50,100]重量部と、無機充填剤である二酸化チタン2.7重量部と、ジフェニルメタンジイソシアネート[0,1]重量部と、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート[1.5,0]重量部とを配合した混合物からなる、
スリーピースソリッドゴルフボール。」
(審決注:[]内の数値は、左から順にそれぞれ実施例3及び4に対応するものである。)

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「ソリッドコア」、「内層カバー」、「外層カバー」及び「ソリッドコア上に、内層カバー、外層カバーを順次形成してなるスリーピースソリッドゴルフボール」は、それぞれ、本願発明の「ソリッドコア」、「内側カバー」、「最外層カバー」及び「1層又は2層以上のソリッドコアと該ソリッドコアを被覆する2層以上のカバーとを具備してなるソリッドゴルフボール」に相当する。

(2)「サーリン 9945」(デュポン社製)は、亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体であり(特開2000-185114号公報「【0065】…(略)…サーリン9945(亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名、ショアD硬度61、曲げ剛性率220MPa)…(略)…」参照。)、「サーリン 8945」(デュポン社製)は、ナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体であり(上記特開2000-185114号公報「【0065】…(略)…デュポン社製のサーリン8945(ナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名で、ショアD硬度が63、曲げ剛性率が270MPa)…(略)…」参照。)、これらがランダム共重合体であることは自明であるから、引用発明の「『サーリン 9945』及び『サーリン 8945』」と、本願発明の「(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体であり、且つ該ランダム共重合体の質量(金属イオンを中和する前の質量を意味する。)に対する不飽和カルボン酸含有量が16質量%以上であり、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有するランダム共重合体」とは、「(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体であり、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を含有するランダム共重合体」である点で一致する。

(3)「ダイナロン6100P」(日本合成ゴム社製)は、結晶性ポリエチレンロックを有する熱可塑性エラストマーである(特開平9-313643号公報「【0023】…(略)…結晶性ポリエチレンブロックを有する熱可塑性エラストマー(ダイナロン6100P、同HSB604、同4600P(以上、日本合成ゴム(株)製)等)などが挙げられ…(略)…」参照。)から、引用発明の「ダイナロン6100P」は、本願発明の「(b)結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマー」に相当する。

(4)引用発明の「内側カバー(内層カバー)」は、「(b)成分(ダイナロン6100P)」30重量部と、「(a)成分(サーリン 9945)」35重量部と、「(a)成分(サーリン 8945)」35重量部とを含む混合物からなるものであり、それら「(a)成分」と「(b)成分」の重量比は、70/30であるから、引用発明の「内側カバー」と本願発明の「内側カバー」とは、「(a)成分と(b)成分との割合が質量比で85/15?70/30である材料にて形成される」ものである点で一致する。

(5)引用発明の「最外層カバー(外層カバー)」は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む混合物からなるものであるから、引用発明の「最外層カバー」と本願発明の「最外層カバー」とは、「ポリウレタン系エラストマーにて形成される」ものである点で一致する。

(6)上記(1)ないし(5)から、本願発明と引用発明とは、
「1層又は2層以上のソリッドコアと該ソリッドコアを被覆する2層以上のカバーとを具備してなるソリッドゴルフボールにおいて、最外層カバー以外の内側カバーの少なくとも1層が、
(a)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体であり、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を含有するランダム共重合体と、
(b)結晶ポリオレフィンブロックを持つオレフィン系エラストマーと
の混合物からなり、(a)成分と(b)成分との割合が質量比で95/5?70/30である材料にて形成されると共に、最外層カバーがポリウレタン系エラストマーにて形成される、ソリッドゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明では、前記混合物の(a)成分であるオレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体が、「ランダム共重合体の質量(金属イオンを中和する前の質量を意味する。)に対する不飽和カルボン酸含有量が16質量%以上、不飽和カルボン酸の金属イオン中和物を5質量%以上含有する」ものであり、かつ、前記混合物が、「(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体」と、「(d)上記(a),(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物」とをさらに含み、「(a)成分と(b)成分との合計量100質量部に対し、(c)成分の混合量が5?80質量部、(d)成分の混合量が0.1?10質量部」である「加熱混合物」であるのに対して、
引用発明では、前記オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体が、そのようなものであるのか明らかでなく、かつ、前記混合物が、そのような加熱混合物でない点。

3 判断
上記相違点について検討する。
(1)酸含量が16質量%以上であるオレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体を金属イオンで5?95モル%中和した中和物と、分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体と、これら成分中の酸基を中和できる塩基性金属化合物とを含む加熱混合物にて形成された中間層を有するゴルフボールは、本願の出願前に周知である(以下「周知技術」という。例.特開2001-218872号公報特に「【請求項2】 ソリッドコアと、該ソリッドコアに被覆形成される包囲層と、該包囲層に被覆形成される中間層と、該中間層に被覆形成されるカバーとを具備してなるマルチピースゴルフボールにおいて、上記包囲層、中間層及びカバーの少なくとも一層が(d)オレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体の金属イオン中和物100質量部、
(b)分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体5?80質量部、
(c)上記(d)、(b)成分中の酸基を中和することができる塩基性無機金属化合物0.1?10質量部
を含有してなり、メルトインデックスが1.0dg/min以上である加熱混合物にて形成されると共に、上記包囲層のショアD硬度が10?55であり、上記中間層のショアD硬度が40?63であり、上記カバーのショアD硬度が45?68であると共に、上記包囲層、中間層及びカバーの各ショアD硬度が包囲層の硬度≦中間層の硬度≦カバーの硬度の関係を満たすことを特徴とするマルチピースゴルフボール。」、「【0025】本発明の(a)成分のランダム共重合体は、上記成分を公知の方法に従ってランダム共重合させることにより得ることができる。ここで、ランダム共重合体中に含まれる不飽和カルボン酸の含量(酸含量)は、通常2質量%以上、好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、上限としては25質量%以下、好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下であることが推奨される。酸含量が少ないと反発性が低下する可能性があり、多いと材料の加工性が低下する可能性がある。【0026】本発明の(d)成分は、上述した(a)成分のランダム共重合体中の酸基を部分的に金属イオンで中和することによって得ることができる。【0027】ここで、酸基を中和する金属イオンとしては、例えば、Na^(+)、K^(+)、Li^(+)、Zn^(++)、Cu^(++)、Mg^(++)、Ca^(++)、Co^(++)、Ni^(++)、Pb^(++)等が挙げられるが、好ましくはNa^(+)、Li^(+)、Zn^(++)、Mg^(++)、Ca^(++)等が好適に用いられ、更に好ましくはZn^(++)であることが推奨される。これら金属イオンのランダム共重合体の中和度は特に限定されるものではないが、通常5モル%以上、好ましくは10モル%以上、特に20モル%以上、上限として95モル%以下、好ましくは90モル%以下、特に80モル%以下である。中和度が95モル%を超えると、成形性が低下する場合があり、5モル%未満の場合、(c)成分の無機金属化合物の添加量を増やす必要があり、コスト的にデメリットとなる可能性がある。このような中和物は公知の方法で得ることができ、例えば、上記ランダム共重合体に対して、上記金属イオンのギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物及びアルコキシド等の化合物を導入して得ることができる。」、「【0032】(b)成分の脂肪酸として、具体的には、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、べヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸などが挙げられ、特に、ステアリン酸、アラキジン酸、べヘニン酸、リグノセリン酸を好適に用いることができる。」、「【0040】ここで、塩基性無機金属化合物に使われる金属イオンとしては、例えば、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、Ca^(++)、Mg^(++)、Zn^(++)、Al^(+++)、Ni^(+)、Fe^(++)、Fe^(+++)、Cu^(++)、Mn^(++)、Sn^(++)、Pb^(++)、Co^(++)等が挙げられ、無機金属化合物としては、これら金属イオンを含む塩基性無機充填剤、具体的には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられるが、上述したように一酸化物又は水酸化物が好適で、好ましくはアイオノマー樹脂との反応性の高い酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、より好ましくは、水酸化カルシウムを好適に使用できる。」及び「【0046】本発明において、上記加熱混合物に対して、更に必要に応じて種々の添加剤を添加することができ、例えば、顔料、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などを加えることができる。また、打撃時のフィーリングを改善するために上記必須成分に加え、種々の非アイオノマー熱可塑性エラストマーを配合することができ、このような非アイオノマー熱可塑性エラストマーとして、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー等が挙げられ、特にオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーの使用が好ましい。」(審決注:前記「酸含量」は、中和前の共重合体に対する質量%であることが当業者に自明である。また、前記「95モル%」は、重量百分率に換算すると5質量%以上となる蓋然性が極めて高い数値である。)、特開2001-218873号公報、特開2001-120686号公報(これら両公報にも、上記特開2001-218872号公報と同様のことが記載されている。)参照。)。

(2)ゴルフボールにおける中間層の各成分の具体的な含有量、及び、その1成分をなすアイオノマー樹脂の中和度は、いずれも当業者が適宜決定すべき設計事項というべきものである。

(3)上記(1)及び(2)から、引用発明において、内層カバーをなす混合物の1成分であるオレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体の中和物として、酸含量が16質量%以上である不飽和カルボン酸ランダム共重合体を金属イオンで5?95モル%、重量百分率に換算して5質量%以上中和した中和物を用いるとともに、前記混合物を、分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、これら成分中の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とをさらに含む加熱混合物とし、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(4)効果について
本願発明の奏する効果は、当業者が、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
上記第4及び第5のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件及び同条第6項に規定する要件のいずれも満たしていない。
また、上記第6のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-15 
結審通知日 2010-11-17 
審決日 2010-11-30 
出願番号 特願2001-375913(P2001-375913)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A63B)
P 1 8・ 121- WZ (A63B)
P 1 8・ 536- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小齊 信之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 ソリッドゴルフボール  
代理人 小林 克成  
代理人 石川 武史  
代理人 小島 隆司  
代理人 重松 沙織  

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