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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01V
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01V
管理番号 1230508
審判番号 不服2010-7006  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-05 
確定日 2011-01-14 
事件の表示 特願2005- 53216「地震予知法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月 7日出願公開,特開2006-234746〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年2月28日を出願日とする出願であって,平成21年7月1日付けで拒絶理由通知書が出され,同年12月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成22年4月5日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付で手続補正書が提出されたものである。

第2 平成22年4月5日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
平成22年4月5日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項2は,
「【請求項2】
設置された地点の傾斜をナノラジアンの精度で測定可能な傾斜計の地震予知のための使用であって,
設置された該傾斜計で経時的に連続して記録した経時的傾斜グラフから地震発生を予知することを特徴とする上記使用。」(下線は,補正箇所を示す。)と補正された。

2 補正の目的について
上記補正は,補正前の請求項2(平成20年2月26日付け手続補正書で補正された請求項2)に記載した発明を特定するために必要な事項である地震「前兆」を地震「予知」と限定し,さらに,傾斜計の「使用」を「設置された該傾斜計で経時的に連続して記録した経時的傾斜グラフから地震発生を予知する」と具体的に限定したものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで,本件補正後の前記請求項2に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)刊行物記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願日前に頒布された刊行物である大村一夫,地盤変動計-Tilt meter-を語る,地熱エネルギー,2003年 4月30日,第28巻第2号通巻第102号,P.65-76(以下,「刊行物1」という。)及び島崎邦彦,想定東海地震とその震源域の最近情勢,建築防災,2002年9月1日,通巻296号,P.11-16(以下,「刊行物2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。
ア 刊行物1記載の事項
(刊1-1)「また,震源地の遠い地震に対しては,地盤変動計は地震というイベントがあったことを記録するにすぎないが,直下型地震に対しては,地震発生に到るまでの間の周辺地盤の変形状況や地震発生後に変形が開放されてゆく状況を把えることが可能と考える。」(76頁右欄10?15行)

(刊1-2)「比較的動きの遅い地盤の変動をモニタリングする手法としてTilt meter(傾斜計)の利用がある。」(65頁右欄2?4行)

(刊1-3)「「Tilt meter」の仕様の特徴は,最小角度1ナノラジアン(10^(-9)ラジアン)の精度で,地盤傾動を1秒ごと?1分ごとに記録できることにある。」(66頁右欄下から6行?下から3行)

(刊行物1記載の発明)
以上のこと,特に,摘記事項(刊1-2)及び(刊1-3)からみて,刊行物1には,次の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「 設置された地点の地盤の傾動をナノラジアンの精度で測定可能な傾斜計の地盤変動をモニタリングするための使用。」
イ 刊行物2記載の事項
(刊2-1) 図1

「図1 東海地震の起こる仕組み
フィリピン海プレートの沈み込みに伴って,陸側は押されると同時に地下に引き込まれる。その結果,掛川に対して御前崎が沈降する。現在,御前崎は年間約5cmの割合で沈んでいる。ある限界に達すると陸と海とのプレートの境界が破壊してずれ,この動きによって地震波が発生する。これが東海地震である。これまで押されて地下に引きずり込まれていた陸側は,反発力によって戻り,御前崎は1m近く一気に上昇する。」(11頁右欄 図1の説明文)

(刊2-2) 図3

「図3 昭和19年(1944年)東南海地震(震源規模M7.9)の前後に観測された掛川付近の土地の傾斜変化(茂木清夫:地震,35巻,145-148ページ,1982年による)
縦軸は,水平距離700mあたりの上下の動き(上向きは,南東側の上昇)を示す。東南海地震の前日から地震直前までの間に,南東側が上昇した。」(13頁左欄 図3の説明文)

(刊2-3)「この昭和の中途半端で終わった地震は,名前も中途半端で東南海(とうなんかい)地震と呼ばれている。実は,この東南海地震の際には,大地のゆっくりした動きがとらえられていた。掛川-御前崎間の水準測量が地震の約1ヶ月前から行われており,地震が起きた12月7日の午前中も測量されていた(地震は昼過ぎに発生)。その結果,前日から当日午前中の間に,御前崎側が持ち上がるセンスで,土地がゆっくり傾いたことがわかった(図3)。これは,地震時の傾きと同じ方向で,震源域の一部がゆっくりとずれたらしい。最近の岩石実験やコンピュータシュミュレーションから,大地震は突然始まるのではなく,その前にゆっくりとした動きがあり,それが徐々に加速されて,ついには止まらなくなって大地震となることがわかってきた。この動きを早期発見すれば,予知が可能となる。これが「東海地震」の警戒宣言を出す体制の基となった。」(12頁左欄7行?同頁右欄8行)

(刊2-4)「『東海地震』は予知できるか?
数年前の,地震は予知できないという報道を憶えている方がいらっしゃるかもしれない。これは1997年6月に測地学審議会から出された,約30年間の地震予知計画のレビューに基づくもので,予知できないとの結論が出たかのように受け取られた方が多かったようである。しかし『東海地震』についていえば,予知できることも,できないこともある,ということに過ぎない。レビューの当該部分では,”将来発生すると考えられる『東海地震』の直前にも,東南海地震前に水準測量で捕らえられたと考えられる程度の地殻変動が起こり,またその時間的経過が東南海地震前に起こったと考えられているのと同じであった場合は,地殻変動の大きさから考えて,現在の観測網でそれを捕らえることは可能である。”と書かれている。また”前兆現象の複雑多岐性を考えると,同じ現象が『東海地震』で繰りかえされるという保証は必ずしもない。”と書かれている。
地震予知の研究は長い間続けられているが,まだ先が見えない状況だ。有力な前兆と最初は思われていても,長い期間観測を続けると,前兆がないのに地震が起こったり,前兆があるのに地震が起こらなかったりする。そして観測された結果の全てを,合理的に説明することが難しくなってくる。前兆現象の複雑多岐性とはこのような意味だ。
気象庁では,このレビューの公表に先立つ1997年4月28日の記者発表の中で”東海地震に関する直前予知については,1994年の東南海地震の際のように先行する『前兆』現象が現れることが前提となっている”とはっきり述べている。当然,『前兆』現象が現れなければ,予知を行うことはできない。さらに続けて”現在の監視体制の下で,検知能力以下の『変化』への対応は困難であるが, 現在の地殻変動検知能力の範囲内で一定レベル以上の『変化』は,検知可能であり,東海地震に先行してこのような『変化』が捕捉されれば予知できる可能性は高いと考えられる”として,基本的にレビューと同じ見解を明らかにしている。残念ながらこの発表は,同時に出されだ東海の監視を通じて得られた地震活動,地殻活動のデータについて,適時に,状況の解析・分析を行っており,東海地域における情報を,今後とも,必要に応じて発表する”と言う部分の報道に隠されてしまった。気象庁の発表に対しては,解釈をつけずに単なる事実だけを発表してもらっても対応に困ると言う防災側の発言が大きく報道された。その陰となって,「気象庁予知できない場合を認める!」(こんな見出しとなっても良いと思う)という重要なメッセージが消えてしまったのである。
警戒宣言発令のもととなる大規模地震対策特別措置法(昭和53年6月15日制定)の法解釈はよくわからないが,現在の科学水準から見て,『東海地震』に対する体制は,予知がうまくできた場合にそれが役立つようにつくられていると考えるべきであろう。決して,予知が必ずできるから作られている体制,ではない。また,繰り返しになるが,だからといって予知ができないとも言えない。可能性がある以上,できるだけのことをすべきだという
のが小生の立場である。」(12頁右欄9行?13頁右欄23行)

(2)対比
刊行物1発明の「地盤の傾動をナノラジアン精度で測定可能な傾斜計」は,補正発明の「設置された地点の傾斜をナノラジアンの精度で測定可能な傾斜計」に相当する。
そうすると,刊行物1発明の「設置された地点の地盤の傾動をナノラジアンの精度で測定可能な傾斜計の地盤変動をモニタリングするための使用」と,補正発明の「設置された地点の傾斜をナノラジアンの精度で測定可能な傾斜計の地震予知のための使用」とは,「設置された地点の傾斜をナノラジアンの精度で測定可能な傾斜計の使用」という点で共通する。

(一致点)
「設置された地点の傾斜をナノラジアンの精度で測定可能な傾斜計の使用」

(相違点)
使用が,補正発明では「地震予知のための使用」であり,「設置された該傾斜計で経時的に連続して記録した経時的傾斜グラフから地震発生を予知することを特徴とする上記使用」であるのに対して,刊行物1発明では,かかる特定事項を具備していない点

(3)検討・判断
刊行物1には,摘記事項(刊1-1)に「地震発生に到るまでの間の周辺地盤の変形状況や地震発生後に変形が開放されてゆく状況を把えることが可能と考える。」と記載されている。ここに「地震発生に到るまでの間」と記載されているように,傾斜を経時的に測定することで,周辺地盤の変形状況を捉えることできる可能性が述べられている。
他方,刊行物2の摘記事項(刊2-1)に記載のように,地震が起こる仕組みは解明されており,陸側プレートが海側プレートの沈み込みに伴い沈降し,ある限界に達すると陸と海とのプレートの境界が破壊してずれ,地震が発生する。そして,地震後は,これまで押されて地下に引きずり込まれていた陸側陸側プレートは反発力によって戻り、一気に上昇することが技術常識として知られている。
この仕組みどおりの現象が刊行物2の図3に記載されており(摘記事項(刊2-2)),土地の傾斜変化がグラフとして観察されている。
また,予知に関して,前記図3を引用しつつ,「 掛川-御前崎間の水準測量が地震の約1ヶ月前から行われており,地震が起きた12月7日の午前中も測量されていた(地震は昼過ぎに発生)。その結果,前日から当日午前中の間に,御前崎側が持ち上がるセンスで,土地がゆっくり傾いたことがわかった(図3)。これは,地震時の傾きと同じ方向で,震源域の一部がゆっくりとずれたらしい。最近の岩石実験やコンピュータシュミュレーションから,大地震は突然始まるのではなく,その前にゆっくりとした動きがあり,それが徐々に加速されて,ついには止まらなくなって大地震となることがわかってきた。この動きを早期発見すれば,予知が可能となる。これが「東海地震」の警戒宣言を出す体制の基となった。」(摘記事項(刊2-3))と記載されており,大地震の前には,ゆっくりとした動きと,それが徐々に加速されて行く動きがあり,これらの動きを早期発見すれば予知が可能となることが分かる。そして,「これが『東海地震』の警戒宣言を出す体制の基となった。」と記載されているように,実際に実施されている手段となっていることが分かる。
以上のことから,刊行物2には,次の発明(以下,「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる。
「傾斜を経時的に連続して記録して経時的傾斜グラフから地震の発生を予知する方法。」
刊行物2発明の「経時的に連続して記録した経時的傾斜グラフから地震発生を予知する」方法は,補正発明の「経時的に連続して記録した経時的傾斜グラフから地震発生を予知する」方法に相当することは明白である。
そうすると,刊行物1発明において,刊行物1の周辺地盤の変形を捉らえることが可能という示唆の下,刊行物2発明を適用して,補正発明のごとくすることは,当業者が容易になし得たことといえる。

補正発明の作用効果,特に本願明細書の段落【0008】の「地震の予知を簡単に行うことができる。」とする作用効果も,刊行物1発明の精度の高い傾斜計を用いて,刊行物2発明の地震の予知に適用すれば,小さな変化でも見逃すことがなく,簡便に予知できることとなることは明らかである。
したがって,補正発明の作用効果は,刊行物1及び2から,当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものとはいえない。

したがって,刊行物1及び2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)請求人の主張について
請求人は,平成21年9月1日付け意見書において,次の旨を主張する。
(主張1)
刊行物2には,「地震予知の研究は長い間続けられているが,まだ先が見えない状況だ。」と記載されていることからしても(左欄下から13?14行参照),「プレスリップ」として知られる上記現象を地震予知のために利用するための具体的方策が知られていたと云うことはできない。

(主張2)
刊行物2には,ナノラジアンの精度で傾斜を測定できる傾斜計を用いることで地震予知が可能となることも記載されていない。

(主張3)
刊行物2は,傾斜計で記録した経時的傾斜グラフの特定の変化点が地震予知に関係することも何ら記載も示唆もしていない。

そこで,上記主張について順に検討する。
(主張1について)
刊行物2には,
「地震予知の研究は長い間続けられているが,まだ先が見えない状況だ。有力な前兆と最初は思われていても,長い期間観測を続けると,前兆がないのに地震が起こったり,前兆があるのに地震が起こらなかったりする。そして観測された結果の全てを,合理的に説明することが難しくなってくる。前兆現象の複雑多岐性とはこのような意味だ。
気象庁では,このレビューの公表に先立つ1997年4月28日の記者発表の中で”東海地震に関する直前予知については,1994年の東南海地震の際のように先行する「前兆」現象が現れることが前提となっている”とはっきり述べている。当然,「前兆」現象が現れなければ,予知を行うことはできない。さらに続けて”現在の監視体制の下で,検知能力以下の「変化」への対応は困難であるが,現在の地殻変動検知能力の範囲内で一定レベル以上の「変化」は,検知可能であり,東海地震に先行してこのような「変化」が捕捉されれば予知できる可能性は高いと考えられる”」(摘記事項(2-4))
と記載されている。
確かに,請求人の主張するように「地震予知の研究は長い間続けられているが,まだ先が見えない状況だ。」とも記載されているが,その後には,「前兆がないのに地震が起こったり,前兆があるのに地震が起こらなかったりする。」及び「当然,「前兆」現象が現れなければ,予知を行うことはできない。」と記載されているように,地震の前兆がないことがあるから,先が見えないといっているに過ぎない。
そして,「さらに続けて”現在の監視体制の下で,検知能力以下の「変化」への対応は困難であるが,現在の地殻変動検知能力の範囲内で一定レベル以上の「変化」は,検知可能であり,東海地震に先行してこのような「変化」が捕捉されれば予知できる可能性は高いと考えられる”」と記載されているように,前兆,すなわち,刊行物2の図3(摘記事項(刊2-2))で観察されたような変化が捕捉されれば,予知できる可能性は高いと考えられるとしているのである。しかも,摘記事項(刊2-3)に記載のように刊行物2の図3で観察された変化は,「東海地震」の警戒宣言を出す体制の基となっており,実用化されている予知技術であるといえる。
したがって,請求人の主張を採用することはできない。

(主張2について)
刊行物2には,ナノラジアンの精度で傾斜を測定できる傾斜計は記載されていないが,刊行物1にはそれが記載されており,上記「第2 3(3)」で検討したように,これらを組み合わせて補正発明の如く構成することは当業者が容易になし得たことといえる。
また,精度の劣る刊行物2発明の水準測量でさえ予知につながる変化を捕らえているのであるから,より精度の高い刊行物1発明のナノラジアン精度の傾斜計を用いて,予知が行い得ることはいうまでもない。
よって,請求人の主張は失当である。

(主張3について)
請求人の主張する「変化点」について,補正発明の特定事項になっていないので,請求人の主張を採用することはできない。

また,そもそも,「変化点」が何を意味するのか発明の詳細な説明にも具体的に記載されておらず,不明である。
例えば,本願明細書の段落【0023】には「このことから,9時39分頃(図5に矢印で示した)から始まる急勾配の変化が10時9分に発生した本震の予知に使用できることが判明した。」と記載されているように,急勾配の変化を予知に使用しているものの,「変化点」すなわち,点を予知に使用することは本願明細書に記載されていない。
また,図5には,【0023】に記載の「急勾配の変化」の直前に矢印が付与してあり,これが変化点を意味するとも解釈できるが,仮に,矢印で示されている点が変化点を意味するのであれば,時系列で観察中,矢印で示されている時点になっても,直ちに,その点が変化点となるかは不明である。その後の急勾配の変化が観察されて初めて,変化点となる時点が特定されることとなる。したがって,急勾配の変化が観察されることをもって,自動的に変化点が求まるものと理解される。
他方,刊行物2の摘記事項(刊2-3)に「前日から当日午前中の間に,御前崎側が持ち上がるセンスで,土地がゆっくり傾いたことがわかった(図3)。これは,地震時の傾きと同じ方向で,震源域の一部がゆっくりとずれたらしい。最近の岩石実験やコンピュータシュミュレーションから,大地震は突然始まるのではなく,その前にゆっくりとした動きがあり,それが徐々に加速されて,ついには止まらなくなって大地震となることがわかってきた。この動きを早期発見すれば,予知が可能となる。」と記載されているように,刊行物2の図3の12月6日から12月7日午前中のゆっくりとした動き及び,その後の,徐々に加速された動きが観察されている。そして,前記したようにこの動きを早期発見すれば予知可能となるとしているとしているのであるから,地震の予知との関連が刊行物2に記載されていることは明白である。刊行物2の図3のようなゆっくりとした動き,及び,後に続く徐々に加速された動きは,本願明細書記載の「急勾配の変化」に相当することは明らかであり,急勾配の変化が観察されれば,必然的に変化点が求まることは前述したとおりであるから,刊行物2においても変化点を求めることは可能である。
よって,請求人の主張は失当である。

(4)むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項2に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成20年2月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項2】
設置された地点の傾斜をナノラジアンの精度で測定可能な傾斜計の地震前兆を知るための使用。」

1 刊行物記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は上記「第2 3(1)」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明と上記「第2 3(1)ア」記載の刊行物1発明を対比すると,使用が,本願発明では「地震前兆を知るための使用」であるのに対して,刊行物1発明では「地盤変動をモニタリングするための使用」である点で相違する。
しかしながら,刊行物1には,摘記事項(刊1-1)に「地震発生に到るまでの間の周辺地盤の変形状況や地震発生後に変形が開放されてゆく状況を把えることが可能と考える。」と記載されている。ここで「地震発生に到るまでの間」と記載されているように,傾斜を経時的に測定することで,周辺地盤の変形状況を捉えることできる可能性が述べられているのである。
そして,刊行物1記載の「地震発生に到るまでの間の周辺地盤の変化状況」は,最終的に地震に到るのであるから,地震前兆ともいうことができる。
したがって,刊行物1において,地震前兆を把える可能性が示唆されているのであるから,これを実際に試して本願発明のごとく構成することは,当業者が容易になし得たことといえる

また仮に,刊行物1のみからは,地震前兆を把える可能性が示唆されてるにすぎず,実際の地震前兆を把えることが可能とまではいえないとしても,そのような地盤の変形状況,すなわち,地盤の傾斜が地震に結びつくことは,上記「第2 3(3)」に記したとおり刊行物2に記載されている事項である。
したがって,刊行物1発明において,刊行物1の周辺地盤の変形を捉らえることが可能という示唆の下,刊行物2発明を適用して,本願発明のごとくすることは,当業者が容易になし得たことといえる。

そして,本願発明の作用効果も,刊行物1から又は刊行物1及び刊行物2から当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものとはいえない。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明に基づいて,又は,刊行物1及び刊行物2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-15 
結審通知日 2010-11-17 
審決日 2010-11-30 
出願番号 特願2005-53216(P2005-53216)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01V)
P 1 8・ 121- Z (G01V)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 秀直  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 横井 亜矢子
秋月 美紀子
発明の名称 地震予知法  
代理人 大島 正孝  

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