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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1231192
審判番号 不服2008-29324  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-18 
確定日 2011-02-02 
事件の表示 特願2003-509173「超音波トランスデューサ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月 9日国際公開、WO03/03045、平成17年 4月 7日国内公表、特表2005-508667〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年6月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成13年6月27日、同年7月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年11月5日付け拒絶理由通知に対し、平成20年2月12日付け手続補正がなされたが、同年8月20日付けで拒絶査定され、これに対し、同年11月18日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正されたものである。

第2 平成20年11月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年11月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正後の本願発明
本件補正により特許請求の範囲の請求項1は、次のとおり補正された。

「【請求項1】音響撮像システムであって、2次元トランスデューサ素子マトリクスアレイを含み、前記トランスデューサはトランスデューサ本体と結合するよう構成される保護カバーを有し、前記トランスデューサ素子マトリクスアレイは前記保護カバー及び前記トランスデューサ本体に入れられ、前記保護カバーは所与の幅の組織係合領域及び前記組織係合領域の前記幅の少なくとも3倍の曲率半径を有し、前記保護カバーは前記保護カバーに入射する音響エネルギーが前記保護カバーの不均一な厚さによる合焦特性に基づき前記保護カバーにより機械的に方向付けられるよう前記2次元トランスデューサ素子マトリクス上に重ねられ、
前記音響撮像システムは、
前記保護カバーの合焦特性を補償しながら前記保護カバーを通る音響エネルギーが電子的に合焦されるよう、前記2次元トランスデューサ素子マトリクスアレイが音響エネルギーを時間に亘り前記保護カバーを通るよう発生及び送信し、複数の個別化された励起信号を時間に亘り複数の前記トランスデューサ素子へ与えるよう構成される、前記トランスデューサに結合される画像処理システムを更に含む、
音響撮像システム。」(下線は補正された箇所である。)

すると、本件補正は、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明に対して、保護カバーとして、「前記保護カバーは所与の幅の組織係合領域及び前記組織係合領域の前記幅の少なくとも3倍の曲率半径を有し」たものと限定したものを含むものである。

したがって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、「平成18年法改正前」とする。)の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。

2 引用例
(1)原査定の拒絶理由通知で引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平9-154844号(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(1-ア)「【0018】図1は本発明による超音波診断装置の実施例を示すブロック図である。この超音波診断装置は、探触子からの超音波ビームの送受信方向を二次元方向に走査して被検体内の三次元情報を収集するもので、図1に示すように、探触子35と、送波回路36と、整相回路37と、可変利得増幅器38と、検波器39と、ディジタルスキャンコンバータ(以下「DSC」と略称する)40と、表示装置41と、制御回路42とを備えている。
【0019】上記探触子35は、該探触子35からの超音波ビームの送受信方向を二次元方向に走査するもので、超音波を送受信する振動子素子を二次元方向に面状に配列して構成されている。送波回路36は、上記探触子35に対して送波パルス送出するもので、例えばl個のパルス発生器を有しており、各チャンネル毎に任意の遅延時間を与えることにより、探触子35の前方の特定距離に超音波ビームを収束させることができるようになっている。整相回路37は、上記探触子35で受信した例えばlチャンネルの反射エコーの信号(エコー信号)を入力して、そのエコー信号に所定の遅延時間を与えて特定の位置の信号に鋭い指向特性を与えるものである。なお、上記送波回路36及び整相回路37の各チャンネルに与えるべき遅延時間は、後述の制御回路42により制御されるようになっている。可変利得増幅器38は、上記整相回路37からの出力信号を入力して、その信号が被検体内からの反射エコーが発生する部位が深くなる程弱くなるのを補正するため、時間の経過と共に利得を大きくするものである。検波器39は、上記可変利得増幅器38からの出力信号を入力して、エコー信号の振幅を検出するものである。また、DSC40は、上記検波器39からの出力信号を入力して、アナログ信号をディジタル信号に変換すると共に画像メモリに書き込み、この画像メモリから読み出した画像データを標準テレビ信号に変換して出力するものである。さらに、表示装置41は、上記DSC40からの出力信号を入力して、被検体内に打ち出した超音波ビームの反射エコーから形成される断層像を表示するものである。そして、制御回路42は、上記の送波回路36,整相回路37,可変利得増幅器38及びDSC40の一連の動作を制御するものである。
【0020】ここで、本発明においては、上記探触子35は、高電圧パルス電圧によりその電圧を印加後は小さな高周波電圧により変位が生じ、小さな逆極性のパルス電圧でその特性が消える。材料を小片に分割して振動子素子を形成し、これら複数の振動子素子を二次元方向に面状に配列すると共に、上記振動子素子の両面には電極を設けて構成され、この探触子35の振動子素子を一方向に沿って動作させる選択位置を移動させるためパルス状のバイアス電圧を選択的に印加する手段が設けられると共に、上記移動方向と異なる方向にて各振動子素子の電極に接続されたスイッチの開閉により超音波ビームの走査を制御する手段が設けられている。」

(1-イ)「【0039】図8(a),(b)は本発明における探触子35の変形例(35′)を示す斜視説明図である。この変形例による探触子35′は、吸音材51′を同図(a)に示すように半円弧状柱体に形成し、この吸音材51′の曲面の円弧方向と上記柱体の中心軸Oの方向(長手方向)との二方向に、多数の振動子素子47,47,…を凸曲面状に配列したものである。このとき、振動子素子47,47,…は、同図(a)に示すように、半円弧状柱体から成る吸音材51′の長手方向に沿って第1行から第n行まで配列し、その円弧方向に沿って第1列から第m列まで配列してある。この状態で、図1に示す制御線52を介して、図8(a)に示すように、n個の行の振動子素子47のうち隣接するp個の振動子素子47のみに正のパルス電圧を印加して選択する。なお、この一群のp個の振動子素子47の位置は、上記の正あるいは負のパルス電圧を印加する制御線52の制御により、1個ずつずらして順次移動することができ、これによって行方向の走査が行える。また、列方向の走査は、前述のように図1に示すm個の電子スイッチS1?Smの制御により実施され、従来のいわゆるコンベックス型探触子によるセクタ走査と同様に、図8(b)に示す矢印uで表わした方向に超音波ビームの走査が行われる。
【0040】このような二つの方向の走査により被検体内へ打ち出す超音波ビームの状態は、図9に示すようになる。図において走査面St_(1) は、図8(a)に示す第1行からp個並んだ行までの振動子素子47に正あるいは負のパルス電圧を印加して選択された円弧方向に並ぶ振動子素子47によりセクタ走査を行ったときの第一の走査面を示している。また、他の走査面St_(n) は、第n行を移んでp個前までの行の振動子素子47に正のパルス電圧を印加して選択された振動子素子47によりセクタ走査を行ったときの第nの走査面を示している。そして、上記第一の走査面St_(1) と第nの走査面St_(n) との間には、多数のセクタ状の走査面が形成され、これら多数の走査面により立体的な走査領域Stが形成されて被検体内の三次元情報を収集することができる。
【0041】図10は図8に示す構造の探触子35′の動作による他の走査領域を示す説明図である。この場合においては、図8(a)に示す半円弧状柱体から成る吸音材51′の中心軸Oの方向に並んだ振動子素子47の信号は総て用いて整相し、超音波ビームの方向を制御するいわゆるフェーズドアレーによるセクタ走査を行い、上記吸音材51′の曲面の円弧方向に並んだ振動子素子47はバイアス電圧を制御してリニア走査を行うことにより、二次元方向の走査を行った場合の走査領域を示している。この例においては、セクタ状の第一の走査面St_(1) と第nの走査面St_(n) とで囲まれた三次元空間の情報を収集することができる。
【0042】図11は図8に示す構造の探触子35′を体腔内探触子55に応用した例を示す説明図である。この応用例においては、体腔内探触子55の長手方向(x軸方向)に図8(a)の吸音材51′の中心軸Oの方向をとり、その曲面の円弧方向を上記体腔内探触子55の表面の凸曲面の方向にとって探触子55を構成している。このようにすることにより、フェーズドアレーによるセクタ状の第一の走査面St_(1) とコンベックス型探触子と同様の動作によるセクタ状の第二の走査面St_(2) とを実施することができ、図11においてx-z面内にある第一の走査面St_(1) とy-z面内にある第二の走査面St_(2) とで、直交する二平面における走査面を持たせることができる。従って、上記走査面St_(1) とSt_(2) の断層像の形成を高速度で交互に切り換えることにより、リアルタイムで異なる二方向の断層像を全く同じ位置から観察できるバイプレーン断層像を得ることができる。
【0043】なお、上記の応用例において、振動子素子47,47,…のy-z面における断面をとり、この断面の外側面に被検体中の音速よりも速い材料から成り内側面より外側面の曲率半径が大きく形成された音響レンズ56を、図12に示すように接着すると、上記振動子素子47,47,…から発射される超音波ビームに収束作用を与えることができる。この場合は、超音波ビームの方位分解能を向上させることができる。」

(1-ウ)「【0045】なお、上記の変形例において、図15に示すように、探触子35″の中心軸Oを含む断面をとり、この断面の外周面に被検体中の音速よりも遅い材料、例えばシリコンゴムから成り断面が凸状に形成された音響レンズ56′を接着すると、振動子素子47,47,…から発射される超音波ビームに収束作用を与えることができる。この場合は、リニア走査方向における超音波ビームの方位分解能を向上させることができる。そして、図13に示す変形例による探触子35″は、特に経直腸用の体腔内走査を実現するのに有効である。」

これらの記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「超音波診断装置であって、超音波を送受信する振動子素子を二次元方向に面状に配列したものを有する探触子35と、振動子素子全体に接着された音響レンズ56を有し、
音響レンズ56は、振動子素子に接触する内側面より外側面の曲率半径が大きく形成され、振動子素子から発射される超音波ビームに収束作用を与えることができるものであり、
超音波診断装置は、
上記探触子35に対して送波パルス送出するもので、例えばl個のパルス発生器を有しており、各チャンネル毎に任意の遅延時間を与えることにより、探触子35の前方の特定距離に超音波ビームを収束させることができるようになっている送波回路36及び上記送波回路36及び整相回路37の各チャンネルに与えるべき遅延時間を制御する制御回路42及び画像データを標準テレビ信号に変換して出力するDSC40を有する超音波診断装置」

(2)原査定の拒絶理由通知で引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平9-154844号(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(2-ア)「【0011】【発明が解決しようとする課題】上述のように従来の超音波診断装置においては、スライス方向とアレイ方向の超音波ビームの集束は互いに独立の手段により行われ、アレイ方向の超音波ビームの電子フォーカスに際しては、音響レンズ層8の存在は考慮されていなかった。つまり、音響レンズ層8と生体とでの超音波の音速が相違することによる影響は考慮されていなかった。すなわち、あるフォーカス点Fに対して互いに異なる超音波経路を有し、音響レンズ層8中の経路距離が異なる振動子4間では、両音速が異なることにより、ディレイ量τが(1)式で与えられるものとは相違する。この相違は、リニア型アレイや、曲率半径R_(1)の大きなコンベックス型アレイでは比較的小さく、他のより重要な要因との関係などから従来は見過ごされてきた。しかし、より広範な生体部位の診断を可能とするといった目的で、探触子の小型化が図られており、そのためコンベックス型アレイでは曲率半径R1が小さいものが開発されている。このような小型のコンベックス型アレイでは、例えば、振動子A_(0)と例えばアレイ端部の振動子4とに対する音響レンズ層8中の経路差が顕著となり、従来のような(1)式又は(1’)式を用いた電子フォーカス法では、解像度が低下し、画質の劣化を招くという問題があった。
【0012】また、この画質の劣化は、上述のように曲率半径の小さいコンベックス型アレイにおいて特に顕著となるものであるが、リニア型アレイや曲率半径の大きなコンベックス型アレイにおいても潜在的に起こっていた問題である。
【0013】本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、振動子アレイプローブを用いる超音波診断装置において、音響レンズ層8の存在を適切に考慮したディレイ量を求め、それに応じた電子フォーカスを行うことによって画質が改善される超音波診断装置を提供することを目的とする。
【0014】【課題を解決するための手段】本発明に係る超音波診断装置は、振動子アレイにより送波又は受波される超音波ビームの電子走査を行う走査制御手段が、音響レンズ層での超音波の屈折を考慮した各振動子とフォーカス点との間の超音波経路に基づいて、前記電子走査における各振動子間の遅延時間を定めることを特徴とする。」

(2-イ)「【0019】まず本装置における制御の原理を、図1を用いて説明する。図1は、本装置における電子フォーカスによるアレイ方向の超音波ビームの集束の原理を説明する模式図である。図において、図4と同一の符号は同じものを指す。よって、ここではそれらの説明は省略し、ここで新たに現れる記号についてのみ、まず説明する。Ltは音響レンズ層8の厚さ、R_(2)を音響レンズ層8の表面22の曲率半径とすると、
R_(2)=R_(1)+Lt
という関係が成り立つ。
【0020】また、音響レンズ層表面22に取られる点Piは振動子Aiとフォーカス点Fとを結ぶ超音波経路が音響レンズ層表面22と交差する点である。一般に、超音波経路はこの点Piにおいて、すなわち音響レンズ層表面22において屈折する。振動子Aiとフォーカス点Fとを結ぶ超音波経路のうち、音響レンズ層8内の経路(Ai-Pi)の距離をξi、一方、生体内の経路(Pi-F)の距離をηiとする。また∠FOPiをσi、音響レンズ層8内での音速をV_(2)で表す。
【0021】さて、送信時の振動子Aiからフォーカス点Fに至る超音波、または逆に受信時のフォーカス点Fから振動子Aiに至る超音波は、ともに伝播時間が最短となる経路にて発信点から着信点に到達する。すなわち、超音波は、音響レンズ層8内での経路(Ai-Pi)での伝播時間tinと、生体内の経路(Pi-F)での伝播時間toutとの合計時間Tが最小となるような点Piを経由する。よって、合計時間TをPiの位置の関数として表し、合計時間Tが最小となるようにPiを定めることにより、超音波経路(Ai-Pi-F)が決定され、それに応じてA_(0)とAiとの間のディレイ量τiも決定される。なお、ここでは、Piの位置をσiをパラメータに用いて表す。これらの表記により次の3つの関係式(2)、(3)、(4)が得られ、これらに基づいて合計時間Tを最小とするσiが求められる。
【0022】【数3】T(σi)=ξi(σi)/V_(2)+ηi(σi)/V_(1) ………(2)
【数4】ξi(σi)={(R_(2)cosσi-R_(1)cosθi)^(2)+(R_(2)sinσi-R_(1)sinθi)^(2)}^(1/2)………(3)
【数5】ηi(σi)={(Df+R_(1)-R_(2)cosσi)^(2)+(R_(2)sinσi)^(2)}^(1/2) …(4)
T(σi)を最小とするσiは、次の条件式(5)から求めることができる。
【0023】【数6】∂T/∂σi=0 ………(5)
このようにして超音波経路(Ai-Pi-F)が決定されると、その経路でのξi、ηiを用いて、ディレイ量τiが次の(6)式により決定される。
【0024】【数7】τi=(ηi/V_(1)+ξi/V_(2))-{(Df-Lt)/V_(1)+Lt/V_(2)}………(6)
なお、上述の伝播時間Tを最小にするように超音波経路が決定され、音響レンズ層表面22での屈折も定まるという条件は、音響レンズ層表面22が平面である場合には、よく知られたスネルの法則と等価である。
【0025】図2は、本装置の概略のブロック図である。装置はコンベックスプローブ2に含まれる多数の振動子4に対応して、複数の送信駆動回路30を備える。これら送信駆動回路30は送信遅延コントロール回路32からの指示により、それぞれが分担する振動子4から超音波を放射させる。送信遅延コントロール回路32は、振動子4間の超音波の送信タイミングのディレイ量を調整し、生体内の所望の位置に超音波をフォーカスさせる。」

(2-ウ)「【0036】本装置は特にコンベックスプローブを用いて断層画像撮影を行う場合に有効である。本装置には、例えばR_(1)がおよそ20mm程度以下のコンベックスプローブ2がよく用いられ、小さいものではR_(1)が9mm程度のコンベックスプローブ2も用いられる。また、開口は例えば-45°≦θi≦45°である。音響レンズ層8は、スライス方向の長さ1?1.5cmの振動子4に対して例えば最も厚い部分で1?2mmの厚さとなる。音響レンズ層8の厚さは、スライス方向に変化するものであるが、上述の計算におけるLtとして、近似的にスライス方向の平均厚さや最大厚さを用いても良好に改善された測定結果が得られた。このような近似的な厚さを用いることによりCPUの演算負荷を大幅に軽減することができる。ちなみに、水中音速V1は例えば、およそ1530m/秒程度、レンズ内音速はおよそ1000m/秒程度である。
【0037】上述したように、本装置の特徴は走査制御手段における処理にあり、その処理を行う走査制御手段が送信遅延コントロール回路32及び受信遅延コントロール回路38であるか、システムコントロール回路54であるかは任意である。また、図2に示す装置の構成は一例であり、走査制御において上述の音響レンズ層8におけるアレイ方向の屈折を考慮する補正が行われるものであれば、図2示したブロック構成に限られない。
【0038】また、上記実施形態は、本発明をコンベックスプローブ2に適用した場合を説明した。これは、振動子アレイがコンベックス型アレイの場合、あるフォーカス点Fと最短距離にある振動子A_(0)と当該振動子から離れた他の振動子Aiとで超音波に対する経路の差が顕著となる、つまり振動子Aiに対する音響レンズ層8内の経路長と振動子A_(0)に対する音響レンズ層8内の経路長との比が大きくなるからである。特にこの差異はコンベックス型アレイの曲率半径が小さいほど顕著となる。この音響レンズ層8内での経路長の違いが大きいほど、その補正の必要性が高くなり、本発明が効力を発揮する。しかし、この経路長の違いは、コンベックス型アレイほどではないが、リニア型アレイを用いた電子フォーカスにおいても同様の原理で生じている。よって、本発明は、コンベックス型アレイだけでなく、リニア型アレイを用いたプローブを超音波診断装置に使用する場合にも有効である。本発明に係る超音波診断装置は、例えば、プローブがリニア型アレイであることを自動認識したり、操作者の設定により認識すると、CPUがリニア型アレイに応じた演算を行ったり、またはあらかじめ計算されたリニア型アレイに対応したディレイ量をROMから読み出して、振動子間での遅延量の補正を行う。」

3 対比・判断
本願補正発明と引用例1発明とを対比する。

(1)引用例1発明の「超音波を送受信する振動子素子を二次元方向に面状に配列したもの」は、機能・構成からみて、本願補正発明の「2次元トランスデユーサ素子マトリクスアレイ」に相当する。

(2)引用例1発明の「振動子素子全体に接着された音響レンズ56」及び「音響レンズ56は、振動子素子に接触する内側面より外側面の曲率半径が大きく形成され、振動子素子から発射される超音波ビームに収束作用を与えることができるもの」からなる構成は、音響レンズ56が曲率半径の異なる内外面を有することからみて、その厚さが不均一であるといえ、また、超音波ビームに収束作用を与える機能は、構造からみて超音波ビームを機械的に方向付ける機能であるといえる。
そして、音響レンズにより振動子が露出しないようになっていることからみて、音響レンズは保護カバーとしての機能も有しているといえる。
よって、上記構成は、本願補正発明の「前記保護カバーは前記保護カバーに入射する音響エネルギーが前記保護カバーの不均一な厚さによる合焦特性に基づき前記保護カバーにより機械的に方向付けられるよう前記2次元トランスデューサ素子マトリクス上に重ねられ」ることに相当する。

(3)引用例1発明の「探触子35」が、振動子を有していることからみて、本願補正発明の「トランスデューサ」に相当する。
そして、引用例1発明の「探触子35」は、超音波診断装置に用いるものとして構成する際に、振動子を入れるケース等の本体構造を具備することは技術常識である(例えば、特開平7-39548号に「【0002】【従来の技術】この種の超音波探触子は、振動子を一方向に並設させて形成した探触子素子を備え、その上面に音響レンズをその下面にバッキング材を配置させてなり、該音響レンズを露呈させるようにして前記探触子素子およびバッキング材を内包させたケースが備えられている。」と記載されている。)。よって、「振動子素子全体に接着された音響レンズ56」及び「超音波を送受信する振動子素子を二次元方向に面状に配列したものを有する探触子35」からなる構造は、本願補正発明の「前記トランスデューサはトランスデューサ本体と結合するよう構成される保護カバーを有し、前記トランスデューサ素子マトリクスアレイは前記保護カバー及び前記トランスデューサ本体に入れられ」る構造に相当する。

(4)引用例1発明の「音響レンズ56」は、超音波ビームに対して被検体の体内で収束する作用を与えるものであり、被検体すなわち組織に密着して診断を行うことは自明なことであるから、「組織係合領域」を有していることは明白である。
よって、引用例1発明の「音響レンズ56」と、本願補正発明の「保護カバーは所与の幅の組織係合領域及び前記組織係合領域の前記幅の少なくとも3倍の曲率半径を有し」とは、「保護カバーは所与の幅の組織係合領域を有し」という点で共通する。

(5)引用例1発明の「上記探触子35に対して送波パルス送出するもので、例えばl個のパルス発生器を有しており、各チャンネル毎に任意の遅延時間を与えることにより、探触子35の前方の特定距離に超音波ビームを収束させることができるようになっている送波回路36及び上記送波回路36及び整相回路37の各チャンネルに与えるべき遅延時間を制御する制御回路42及び画像データを標準テレビ信号に変換して出力するDSC40を有する」構造は、制御回路42による遅延時間の制御により、超音波ビームを収束、すなわち、電子的な合焦機能を有しているといえるから、本願補正発明の「前記保護カバーの合焦特性を補償しながら前記保護カバーを通る音響エネルギーが電子的に合焦されるよう、前記2次元トランスデューサ素子マトリクスアレイが音響エネルギーを時間に亘り前記保護カバーを通るよう発生及び送信し、複数の個別化された励起信号を時間に亘り複数の前記トランスデューサ素子へ与えるよう構成される、前記トランスデューサに結合される画像処理システム」との間で、「前記保護カバーを通る音響エネルギーが電子的に合焦されるよう、前記2次元トランスデューサ素子マトリクスアレイが音響エネルギーを時間に亘り前記保護カバーを通るよう発生及び送信し、複数の個別化された励起信号を時間に亘り複数の前記トランスデューサ素子へ与えるよう構成される、前記トランスデューサに結合される画像処理システム」である点で共通する。

(6)引用例1発明の「超音波診断装置」は、超音波を用いて画像データを得る装置であるから、本願補正発明の「音響撮像システム」に相当する。

以上、(1)?(6)の考察から、両者は、

(一致点)
「音響撮像システムであって、2次元トランスデューサ素子マトリクスアレイを含み、前記トランスデューサはトランスデューサ本体と結合するよう構成される保護カバーを有し、前記トランスデューサ素子マトリクスアレイは前記保護カバー及び前記トランスデューサ本体に入れられ、前記保護カバーは所与の幅の組織係合領域を有し、前記保護カバーは前記保護カバーに入射する音響エネルギーが前記保護カバーの不均一な厚さによる合焦特性に基づき前記保護カバーにより機械的に方向付けられるよう前記2次元トランスデューサ素子マトリクス上に重ねられ、
前記音響撮像システムは、
前記保護カバーを通る音響エネルギーが電子的に合焦されるよう、前記2次元トランスデューサ素子マトリクスアレイが音響エネルギーを時間に亘り前記保護カバーを通るよう発生及び送信し、複数の個別化された励起信号を時間に亘り複数の前記トランスデューサ素子へ与えるよう構成される、前記トランスデューサに結合される画像処理システムを更に含む、
音響撮像システム。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
画像処理システムにおける電子的な合焦機能が、本願補正発明では、「保護カバーの合焦特性を補償しながら」なされるものであるのに対し、引用例1発明では、そのようなものであるか否かが不明である点。

(相違点2)
保護カバーが、本願補正発明では、「組織係合領域の前記幅の少なくとも3倍の曲率半径を有」するものであるのに対し、引用例1発明の「音響レンズ」は曲率半径の大きさが不明な点。

4 当審の判断
(1)上記(相違点1)について検討する。
上記「3(2)」の摘記事項(2-ア)?(2-ウ)の記載事項からみて、引用例2には、超音波診断装置の技術分野において、音響レンズ層での超音波の屈折により生じる経路差を考慮し、音響レンズ層の厚みを含む式からディレイ量を求め、それを用いて電子フォーカスを行う技術が記載されており、このことは、音響レンズが有する合焦特性を考慮した補償技術といえる。

また、上記「3(2)」の摘記事項(2-ア)に記載された「このような小型のコンベックス型アレイでは、例えば、振動子A_(0)と例えばアレイ端部の振動子4とに対する音響レンズ層8中の経路差が顕著となり、従来のような(1)式又は(1’)式を用いた電子フォーカス法では、解像度が低下し、画質の劣化を招くという問題があった。
【0012】また、この画質の劣化は、上述のように曲率半径の小さいコンベックス型アレイにおいて特に顕著となるものであるが、リニア型アレイや曲率半径の大きなコンベックス型アレイにおいても潜在的に起こっていた問題である。」及び引用例2の他の記載からみて、引用例2の記載事項から、次の2点が読み取れる。
(ア)曲率半径が大きいほど、音響レンズでの超音波の屈折に基づく経路差の影響が少ない点。
(イ)補正の程度の差はあるものの、曲率半径の大きさに関係なく、音響レンズでの超音波の屈折に基づく経路差の影響は発生している点。

上記(ア)、(イ)からみて、引用例2に記載された補償技術は、特に、曲率半径の大きさ等による特定形状の音響レンズにおいてのみ適用可能というものともいえず、音響レンズでの超音波の屈折に基づく経路差の影響があると考えられるすべての場合に適用できるものといえるから、音響レンズ層の厚みがその位置によって変化するものにも特に困難なく適用できるといえる。

したがって、音響レンズを有する超音波診断装置である引用例1発明において、電子フォーカスを行うための回路系に対して、引用例2に記載されたような音響レンズが有する合焦特性を考慮した補償技術を適用し、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

(2)上記(相違点2)について検討する。
上記「(1)」で指摘したとおり、引用例2の記載事項から、曲率半径が大きいほど、音響レンズの影響が少ないことが読み取れる。

一方、本件の明細書において、本件発明1の保護カバーの曲率半径に関連する記載として次のものがある。
(ア)「【0066】この概算は、トランスデューサ面に対する操縦角度が約45度よりも大きいとき、又はトランスデューサ202の有効径が所望の焦点までの距離よりも大きいとき、又は保護カバー206が入射超音波エネルギーの約3つの波長よりも大きい厚さを有するとき、又は保護カバー206が湾曲が生じている領域の幅の約3倍よりも小さい曲率である領域を有するときは、十分に正確でないことがある。」

(イ)「【0081】図7Bに示すように、図7Aに示す実施例の変形例の複合的な幾何学構造が示される。より特定的には、図7Bに示すように、保護カバー706は、主に(平面図では)半径R_(1)によって画成される組織係合面712を含む。曲率半径R_(1)によって決まる面は、その各端において、曲率半径R_(2)で決まる面へと遷移する。望ましくは、曲率半径R_(2)は、患者との良い音響結合と高い度合いの心地よさを維持することを共に可能とする長さによって決まる。半径R_(2)は半径R_(1)の長さよりも僅かに短いものとして示されているが、図7Aに示すように保護カバー706の外面によって形成される略球状の組織係合面を含む多数の可能な関係がある。」

(ウ)「【0083】図8Aに示すように、トランスデューサ802は、音響エネルギーの伝搬を容易とするよう選択される幅X_(8)を有する組織係合面812を形成するよう構成されうる。しかしながら、図示のように、幅は、適当に選択された音響ウィンドウを利用するよう選択されてもよい。更に特定的には、保護カバー806が胸部音響撮像手順中に使用される場合は、例えば、幅X_(8)は撮像されるべき体30の隣り合って配置される肋骨、例えば肋骨832及び834の間のトランスデューサの位置決めを改善しようとするよう選択されうる。このように位置決めされると、トランスデューサ802からの音響エネルギーの、肋骨間の、そして体のより深くへの効率的な伝搬が容易とされうる。図8Aに示すように、保護カバー806は、肋骨832及び834によって形成される音響ウィンドウを通して音響エネルギーを効率的に伝搬させるために略円筒状でありうる。」

本件発明1の「前記組織係合領域の前記幅の少なくとも3倍の曲率半径を有」することに関して、上記(ア)?(ウ)の記載及び明細書における関係する記載からみて、「少なくとも3倍」という数値限定に関しては、特に臨界的意義を有するものとはいえず、引用例2に記載の「曲率半径が大きいほど、音響レンズの影響が少ない」ことを適宜の閾値である「少なくとも3倍」により規定している程度のものといえる。

よって、引用例1発明の音響カバーにおける組織係合側の曲率半径として、引用例2に記載されたような適宜の大きさを有する曲率半径に適宜設計して、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば、容易になし得たことである。

そして、本願補正発明の奏する効果について、引用例1及び2の記載事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

(3)請求人の主張について
請求人は、平成22年8月9日付け回答書において、「引用文献6(上記引用例2に相当)は図1に示されるような音響レンズ層8の使用を前提としています。この音響レンズ層8は本願明細書の段落0008に記載の『一定の曲率の機械的レンズをプローブ面』という従来技術に対応します。」なる主張と共に、請求項1を「前記保護カバーの幅の少なくとも3倍の曲率半径を有する部分を有し」のように補正することを検討している旨の補正案を示している。

しかしながら、引用例2に記載された補償に用いる式では、レンズの厚さに係る量であるLtを用いた補償を行っていることから、上記「(1)」で説示したとおり、厚さが異なる領域を有するレンズにも適用可能であるといえる。
また、音響撮像システムとして、その用途からみて、「組織係合領域の幅」を「保護カバーの幅」と変更したとしても、技術的にみて実質的な変更がなされるものとはいえず、上記補正案によってもその進歩性があるとはいえない。
よって、上記主張は採用できない。

(6)小括
したがって、本願補正発明は、引用例1発明及び引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。

5 本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年11月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1乃至16に係る発明は、平成20年2月12日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至16に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】2次元トランスデューサ素子マトリクスアレイを含み、トランスデューサ本体と結合するよう構成される保護カバーを有し、前記トランスデューサ素子マトリクスアレイは前記保護カバー及び前記トランスデューサ本体に入れられ、前記保護カバーは前記保護カバーに入射する音響エネルギーが前記保護カバーの不均一な厚さによる合焦特性に基づき前記保護カバーにより機械的に方向付けられるよう前記2次元トランスデューサ素子マトリクス上に重ねられる、トランスデューサと、
前記保護カバーの合焦特性を補償しながら前記保護カバーを通る音響エネルギーが電子的に合焦されるよう、前記2次元トランスデューサ素子マトリクスアレイが音響エネルギーを時間に亘り前記保護カバーを通るよう発生及び送信し、複数の個別化された励起信号を時間に亘り複数の前記トランスデューサ素子へ与えるよう構成される、前記トランスデューサに結合される画像処理システムとを含む、
音響撮像システム。」

2 引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及び2は、前記「第2[理由]2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]」で検討した本願補正発明から、
本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項に関し、保護カバーとして、「前記保護カバーは所与の幅の組織係合領域及び前記組織係合領域の前記幅の少なくとも3倍の曲率半径を有し」たものとの限定を除いたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定的な発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]4」に記載したとおり、引用例1発明、及び、引用例2に記載さえた事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである以上、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-02 
結審通知日 2010-09-07 
審決日 2010-09-21 
出願番号 特願2003-509173(P2003-509173)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右▲高▼ 孝幸  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 郡山 順
居島 一仁
発明の名称 超音波トランスデューサ  
代理人 伊東 忠彦  

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