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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22D
審判 一部無効 2項進歩性  B22D
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22D
管理番号 1231824
審判番号 無効2006-80167  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-31 
確定日 2011-01-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3489678号容器の特許無効審判事件についてされた平成20年 3月18日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10154号平成21年 2月 4日判決言渡)があったので、さらに審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 無効2005-80327号に係る審判の請求のうち、「特許第3489678号の請求項1、2、4?6に係る発明の特許を無効とする。」との請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 無効2006-80167号に係る審判の請求は成り立たない。 審判費用は請求人の負担とする。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3489678号についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成12年12月27日 国内優先出願(特願2000-399465号)
平成13年12月26日 本件出願(特願2001-395169号)
平成15年11月 7日 特許権の設定登録
平成17年11月14日 無効審判請求(無効2005-80327号)
平成18年 2月 2日 被請求人:訂正請求書、答弁書提出
平成18年 3月23日 請求人:弁駁書、上申書提出
平成18年 6月 9日 請求人:口頭陳述要領書提出
平成18年 6月 9日 被請求人:上申書、口頭審理陳述要領書提 出
平成18年 6月 9日 口頭審理
平成18年 7月19日 第1次無効審決(審判請求一部成立)
平成18年 8月24日 請求人:知的財産高等裁判所出訴
(平成18年(行ケ)第10384号)
平成18年 8月28日 被請求人:知的財産高等裁判所出訴
(平成18年(行ケ)第10390号)
平成18年 8月31日 無効審判請求(無効2006-80167号)
平成18年10月19日 訂正審判請求(訂正2006-39175号)
平成18年11月15日 差戻し決定(無効審判審決取消)
平成18年11月22日 審理の併合、訂正請求のための期間指定通 知
平成18年12月11日 被請求人:訂正請求書、答弁書、第2答弁 書提出
平成19年 1月31日 請求人:弁駁書、第2弁駁書提出
平成19年 3月30日 被請求人:上申書提出
平成19年 6月13日 第2次無効審決(審判請求成立)
平成19年 7月23日 被請求人:知的財産高等裁判所出訴
(平成19年(行ケ)第10268号)
平成19年10月22日 訂正審判請求(訂正2007-390118号)
平成19年11月 9日 差戻し決定(無効審判審決取消)
平成19年11月21日 訂正請求のための期間指定通知
平成19年12月19日 被請求人:上申書提出
平成20年 3月18日 第3次無効審決(審判請求一部成立)
(無効2005-80327号において、請求項3に係る 発明についての審判請求は成り立たない、と の審決部分は、その後出訴がなされなかった ので、確定した。)
平成20年 4月25日 被請求人:知的財産高等裁判所出訴
(平成20年(行ケ)第10154号)
平成21年 2月 4日 判決言渡(無効審判審決取消)

なお、被請求人は平成19年11月21日付け訂正請求のための期間指定通知に対して訂正請求をしなかったので、被請求人が行った平成19年10月22日付けの訂正審判請求(訂正2007-390118号)は、特許法第134条の3第5項の規定により、その訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書又は図面を援用した訂正の請求とみなされ、特許法第134条の2第4項により、この訂正請求によって平成18年12月11日付けの訂正請求は取り下げられたものとみなされた。

[2]訂正の適否についての判断
[2-1]訂正の内容
(1)訂正事項1-1
請求項1に記載された「運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される」を「運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される」と訂正する。

(2)訂正事項1-2
請求項1に記載された「かつ容器上面側の露出部まで充填され、」の後に「前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され、」を付加する。

(3)訂正事項1-3
請求項1に記載された「前記配管は、前記露出部の流路に接続され、先端の出入口が下向きである」を、
「前記配管は、前記露出部の流路に接続され、先端の出入口が下向きであり、前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し、前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられている」と訂正する。

(4)訂正事項2
請求項4、請求項5を削除し、該削除に伴い、請求項6?8を繰り上げて新たな請求項4?6とし、新たな請求項6における引用項の項番号を整合させる。
なお、この訂正事項2は、平成20年3月18日付けの審決の送達により確定しているので、訂正許否の判断はしない。

(5)訂正事項3-1
訂正前の請求項6に記載された「運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される」を、「運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される」と訂正する。

(6)訂正事項3-2
訂正前の請求項6に記載された「前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチとを有し」を、「前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチとを有し」と訂正し、同請求項6に記載された「ことを特徴とする容器。」の前に「前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられている」を付加する。

(7)訂正事項3-3
訂正前の請求項6に記載された「かつ容器上面側の露出部まで前記第1のライニングが充填されている」を、「かつ容器上面側の露出部まで前記第1のライニングが充填され、前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され、」と訂正する。

(8)訂正事項4-1
訂正前の請求項7に記載された「運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される」を、「運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される」と訂正する。

(9)訂正事項4-2
訂正前の請求項7に記載された「前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されている」を「前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されており、前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し、前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられている」と訂正する。

[2-2]訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1-1、3-1、4-1は、ユースポイントまでの容器の搬送に関し、ユースポイントが本来、材料供給側の工場とは異なる工場にあり、そのユースポイントまで搬送されることを明確化し、又は、公道を通ることを限定するものであるから、明りょうでない記載の釈明、又は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、本件特許に係る発明の容器が公道を介してユースポイントまで搬送される点は、願書に添付した明細書の段落【0025】【0031】【0065】【0066】の記載に裏付けられているから、上記訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

上記訂正事項1-2、3-3は、「前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され」を付加して「第2のライニング」の配置場所を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、第2のライニングが、流路からみて容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ流路を内在する第1のライニングの外側に配される点は、願書に添付した明細書の段落【0043】の記載及び図5に裏付けられているから、上記訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

上記訂正事項1-3、3-2、4-2は、「容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔」の「内圧調整用」を「前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するため」に限定し、「貫通孔が設けられたハッチ」について、貫通孔が設けられる位置を「ハッチの中央、または中央から少しずれた位置」に限定し、「閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うための・・・容器の上面部の中央に設けられ」ることを付加して限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、本件特許に係る発明の容器が上記のハッチを有する点は、願書に添付した明細書の段落【0014】?【0016】、【0037】、【0047】?【0049】の記載に裏付けられているから、上記訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

[2-3]むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、上記のとおり訂正が認められるから、平成19年10月22日付審判請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、
前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、
配管とを有し、
前記第1のライニングは、容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで溶融金属の流路を内在し、当該流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで充填され、
前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され、
前記配管は、前記露出部の流路に接続され、先端の出入口が下向きであり、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられていることを特徴とする容器。
【請求項2】請求項1に記載の容器であって、
前記第1のライニングは、前記容器内の溶融金属が貯留される空間から前記流路への熱伝導が促進されるように充填されていることを特徴とする容器。
【請求項3】請求項1又は請求項2に記載の容器であって、
前記流路の有効内径は、65mmより大きく、85mmより小さいことを特徴とする容器。
【請求項4】溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、
前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチとを有し、
前記第1のライニング内に溶融金属の流路が容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで内在され、
前記容器外周の前記流路に対応する位置が、当該流路に応じて、溶融金属が貯留された空間から当該流路が設けられた分だけ突き出ていて、
前記流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで前記第1のライニングが充填され、
前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられていることを特徴とする容器。
【請求項5】溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
溶融金属を貯留する貯留室と、
前記貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフェース部と、 前記貯留室下部と前記インターフェース部下部との間の連結口を有し、これらの間を仕切る壁と、
前記インターフェース部上部に接続された配管とを具備し、
前記容器の外周は金属製のフレームにより覆われており、
前記貯留室及び前記インターフェース部と、前記フレームとの間には、第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングとが前記第1のライニングを内側にして積層され、
前記壁は、前記連結口から前記インターフェース部の上部に向けて前記第1のライニングが充填されたゾーンを有し、
前記インターフェース部が当該インターフェース部と前記フレームとの間に介挿された前記第2のライニングにより保温されるとともに、前記ゾーンを介して前記貯留室内に貯留された前記溶融金属から前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されており、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられていることを特徴とする容器。
【請求項6】請求項5に記載の容器において、
前記壁は、耐火材からなることを特徴とする容器。」

[4]請求人の主張の概略
[4-1]無効2005-80327号における請求人の主張
請求人は、本件発明1?6の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件発明1、2、4?6は、本件優先権主張日前に頒布された甲第1号証に記載された発明を主にして、甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件発明1、2、4?6の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「理由1」という。)から、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであり、また、本件発明3の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「理由2」という。)から、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきであると主張し、その証拠方法として下記甲号証及び参考資料を提出している。

(1)甲第1号証:特公平4-6464号公報
(2)甲第2号証:特開昭62-289363号公報
(3)甲第4号証:特開平7-178515号公報
(4)甲第5号証:特開平11-188475号公報
(5)甲第8号証:特開平6-320255号公報
(6)甲第9号証:特公昭61-43153号公報
(7)甲第11号証:特開平5-293634号公報
(8)参考資料1:設計図(RGD4.9T/3T(公称))
(9)参考資料2:設計図(名称:BATH LINING,図番:RG D4.9T/3T(公称)炉体築炉図,記事:SF350100) (10)参考資料3:陳述書、及び富士電機株式会社の加圧式自動注湯炉 (商品名:富士ギーザ)のカタログ
(11)参考資料4:納入先表 誘導炉(No.2),1991年?20 05年3月,富士電機システムズ株式会社
(12)参考資料5:「アルミ溶融搬送取鍋 小蓋空気穴追加工」と題す る平成12年6月14日付書面
(13)参考資料6:製作手配依頼書(2000年6月20日発行)
(14)参考資料7:設計図(アルミ搬送取鍋 M8KY型小蓋組立図
(15)参考資料8:設計図(納入予定図 図番:E-207-2)
(16)参考資料9:設計図(Most Inc.作成の坩堝図面)
(17)参考資料10:平成16年(ワ)第24626号において裁判所 に提出された第10準備書面及び(別紙)
(18)参考資料11:特開平6-284966号公報

なお、請求人が平成17年11月14日付審判請求書に添付して提出した甲第3号証、平成17年12月8日付手続補正書に添付して提出した甲第3号証の2、平成18年3月23日付弁駁書に添付して提出した甲第3号証の2、甲第3号証の3、同審判請求書に添付して提出した甲第6号証の1乃至甲第6号証の3、同弁駁書に添付して提出した甲第6号証の4、同審判請求書に添付して提出した甲第7号証、甲第10号証、口頭陳述要領書に添付して提出した甲第12号証は、口頭審理において、それぞれ参考資料1乃至参考資料11として整理された(第1回口頭審理調書の請求人側の項目2を参照)。

[4-2]無効2006-80167号における請求人の主張の概略
請求人は、本件発明3の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件発明3は、本件優先権主張日前に頒布された甲第1号証に記載された発明を主にして、甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件発明3の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「理由3」という。)から、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであり、また、本件発明3の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり(以下、「理由4」という。)、また、本件発明3の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「理由5」という。)から、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきであると主張し、その証拠方法として下記甲号証を提出している。

(19)甲第1号証:特公平4-6464号公報
(20)甲第2号証:特開昭62-289363号公報
(21)甲第3号証:特開平7-178515号公報
(22)甲第4号証:特開平11-188475号公報
(23)甲第5号証:特開平6-320255号公報
(24)甲第6号証:特開平5-293634号公報
(25)甲第7号証:平成15年4月4日付手続補正書
(26)甲第8号証:平成15年9月8日付手続補正書

なお、[4-1]の「(3)甲第4号証」、「(4)甲第5号証」、「(5)甲第8号証」、「(7)甲第11号証」と、[4-2]の「(21)甲第3号証」、「(22)甲第4号証」、「(23)甲第5号証」、「(24)甲第6号証」はそれぞれ同じものであるから、表記を統一し、以下、「甲第3号証」、「甲第4号証」、「甲第5号証」、「甲第6号証」という。

[5]被請求人の主張の概略
被請求人は、本件各無効審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、理由1、理由3について、本件特許発明1?6は、甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1?6の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、また、理由2、理由4、理由5について、本件発明3の特許は、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない旨主張し、その証拠方法として下記乙号証及び参考資料を提出している。

(一)乙第1号証:管路・ダクトの流体抵抗出版分科会編「技術資料 管路・ダクトの流体抵抗」,昭和54年1月20日初版発行,昭和55年8月20日2刷発行,社団法人 日本機械学会,第25?32頁
(二)乙第2号証:日本機械学会編「機械工学便覧 基礎編 応用編」,1987年4月15日新版発行,社団法人 日本機械学会,A5-73頁?82頁
(三)参考資料1:平成18年(行ケ)10390号審決取消請求事件における原告(本件被請求人)の提出に係る平成18年10月19日付原告第1準備書面

[6]甲各号証、及び乙各号証の記載事項
(1)甲第1号証:特公平4-6464号公報
(1a)「3.それぞれ開口部に密閉装置を有する受湯口17および注湯口18と、本体20の上部少なくとも3箇所に設けた緊締用の係止部材6と、底部に設けたフオークリフトのフオーク差し込み用部材9を備えた溶融金属運搬用取鍋。」(特許請求の範囲第3項)、
(1b)〔産業上の利用分野〕として、「本発明はアルミニウム等の溶融金属を公道など一般道路を通って遠隔地運搬、長時間運搬、坂道などの傾斜面運搬ができる、溶湯のまま使用者側に配送ができるようにしたトラック等、道路上を運行する運搬用車輌による溶融金属の運搬方法に関する」(第1頁2欄10?15行)、
(1c)〔問題点の解決手段〕として、「本発明は・・・溶融金属を密閉型の取鍋に収納し、開口部を密閉した取鍋をトラック等道路上を運行する運搬用車輌の荷台上に載置固定して運搬する」(第2頁4欄4?7行)、
「長距離運搬、坂道などの傾斜運搬が可能となり、また舗装状態の悪い道路での振動に対しても緊締がゆるむことなく、従って荷台上の取鍋は公道などの一般道路上を安全に運搬でき、また取鍋の積降しも極めて迅速容易に行うことができる。また、取鍋な受湯口および注湯口に密閉装置を有する密閉型の取鍋で、運搬中の湯こぼれ等を完全に防止することができ、長時間運搬等の場合は保温用加熱装置を設けて溶湯の放冷凝固を防止するようにし、受湯口、注湯口の開閉もクランプハンドルにより極めて迅速に行い得る」(第2頁4欄23?34行)、
(1d)〔実施例〕として、第6図?第8図が示されるとともに、「第6図?第8図は取鍋の断面図を示し、13は外殻鉄皮、14は断熱材、15は内張り耐火材、16は蓋、17は受湯口、18は注湯口、19は受湯口小蓋、蓋16と取鍋本体20の各鉄皮はフランジ部21を締着22して接続してある。また、小蓋19は第7図に示すように蝶番23により蓋16に開閉自在に取付けられ、その反対側には把手24および二叉状掛止具25が突設され、これに対し蓋16にはねじ軸26が外側方に回転自在に取付けられ、図においてねじ軸26は掛止具25の二叉部に掛止められ、ねじ軸26に螺合せしめたクランプハンドル27により小蓋19が蓋16に締着されており、ハンドル27をゆるめてねじ軸26を外側方に回動することにより小蓋19を開くことができる。・・・第6図は加熱装置を備えない取鍋を示している」(第3頁5欄35行?第6欄9行)、
(1e)「溶融金属の輸送に当っては、一例として供給者側の工場において溶解炉からポンプにより送給されて来た溶湯を取鍋2の受湯口17から送給パイプを通して取鍋2内に収納した後、小蓋19を閉じ、クランプハンドル27により緊締し、また注湯口18にはストツパー31を施し、トグルクランプ35のハンドル35”により緊締すれば取鍋2は迅速かつ完全に開口部が密閉されるので、この取鍋2を差し込み用部材9,9を介しフオークリフトによりトラックの荷台1に積込み、上記固定装置3と緊締具8により固定して使用先の工場まで搬送することができる。使用先の工場に着後は取鍋2の緊締6,7,8を解除し、左右方向に傾動可能なフオークリフトを使用して、取鍋2を降ろし、ストツパー31を取除いて注湯口18を開き、フオークリフトにより取鍋2を傾動して保持炉、或は直接鋳型等に直ちに注湯することができる。従って供給者側は使用先工場の需要に応じ適時に溶融金属を配送することができる。」(第4頁7欄3?22行)、
(1f)「取鍋は厚さ約6mmの鉄板で円筒形に形成して鉄皮13とし、これに適宜補強板を設けた。内張耐火材は蓋16、小蓋19に軽量キャスタブル、本体20の胴部断熱材14に断熱性ボード、内張耐火材15にはアルミノホウ酸を含有する耐食性キャスタブル(アルガレフAC85日本坩堝株式会社製)をそれぞれ使用した。また底部には焼成した大形のブロック(アルガレフAC85 日本坩堝株式会社製)を嵌込んで受湯時の衝撃に耐えるようにした。」(第4頁7欄41行?8欄6行)が記載されている。
(1g)第6図?第8図には、取鍋の側面と底面が外殻鉄皮で覆われ、該鉄皮の内側に内張耐火材の内張りが設けられ、該鉄皮と該内張耐火材の間に断熱材が介挿されている点、及び、該取鍋上面を覆う蓋のほぼ中央に受湯口が設けられ、該受湯口上に受湯口小蓋が載置され、該小蓋により該受湯口が閉じられている点が図示されている。また、同第6図、第8図には、取鍋内の空間に収納された溶融金属に浸漬する側壁内面から該取鍋上面側の露出部の注湯口まで、該側壁の内張耐火材を貫通して溶融金属の流路が延び、該流路と該取鍋内の空間との間には、該取鍋上面側の露出部まで内張耐火材の内張りが設けられ、断熱材は介挿されておらず、該取鍋外周の該流路に対応する箇所は、該取鍋内の空間から該流路が設けられた分だけ突き出ている点も図示されている。

(2)甲第2号証:特開昭62-289363号公報
(2a)「1.溶融金属2を貯蔵する、上部で密閉した加圧可能な貯湯室1と、この貯湯室1の下部より立上る出湯路3とを有する注湯炉において、出湯路3の立上り部分8が貯湯室1の底面9よりも下方に位置することを特徴とする加圧式注湯炉。」(特許請求の範囲第1項)、
(2b)〔産業上の利用分野〕として、「溶融金属を保持して適時の注入に供する注湯炉、なかでも加圧式注湯炉の改良に関連し」(第1頁右下欄3?4行)、
(2c)〔従来の技術〕として、「鋳物の鋳造とくに逐次に連続的な鋳造を行う鋳造ラインなどでかつてのとりべを使用する手動注湯にとって代わって用いられ始めた溶融金属の注湯炉には注湯方式として加圧式、傾動式、電磁ポンプ式などがあり、そのうち注湯精度、電力消費の面から加圧式が有利であって」(第1頁右下欄7?12行)、
(2d)〔問題点を解決するための手段〕として、第1図および第2図が示されるとともに、「この発明の構成を第1図および第2図にて具体的に示す。図中1は貯湯室、2は溶融金属、3は出湯路、4は鋳型等へ注湯するための出湯口であり、5は他の溶湯保持容器から溶湯を受けるための受湯路、6,7は密閉するための蓋、8は出湯路立上り部分、9は特に出湯路立上り部分8より上方に位置する貯湯室1の底面、そして10は溶湯を加熱するための溝型誘導加熱装置である。」(第2頁左下欄11?19行)、
(2e)〔作用〕として、第3図が示されるとともに、「第3図にて出湯路3の立上り部分8に施した上記の改良前後にわたる比較を図解したように、溶融金属2の加圧注湯限界量は従来構造(b)に比較しこの発明による炉底嵩上げ構造(a)でその分だけ低減できる。なお受湯路5をも加圧することによって受湯路部分の溶湯も低減できる。配慮すべきことはこの炉底嵩上げによって溝型誘導加熱装置10による熱が出湯路3に伝わらず出湯路内で溶湯が凝固するうれいをなくすことである。・・・これは第1図の例の場合矢印α,βで示したように貯湯室1の底面9、出湯路3の立上り部分8をすべて溝型誘導加熱装置10へ向かって下りの傾斜底面をもつ連通経路11で連通させることにより解決できる。」(第2頁右下欄2行?第3頁左上欄4行)が記載されており、また、
(2f)第1図、第3図(a)(b)には、溝形誘導炉の貯湯室1の側面及び底面のライニングと同様、貯湯室1と反対側の出湯路3のライニングには、内側のライニングの外側に第2のライニングが設けられているが、出湯路3と貯湯室1との間には、該第2のライニングは設けられていない点が開示されている。

(3)甲第3号証:特開平7-178515号公報
(3a)「【請求項15】回転する冷却された運搬ベルト2の上で鋳込みノズル15に通じる融解体分配器5と、調整可能なガス源13に接続されているベルト厚さ測定装置16とを持っているものにおいて、融解体分配器5が三重室として作られていて、注入室9、ガス密圧力室10および注出室11を持ち、注入室9には鋳込みノズル15に終るサイフォン14が接続されていて、調整可能なガス源13が圧力室10に接続されていることを特徴とする鋳込み装置。
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【請求項18】回転する冷却された運搬ベルト2の上で鋳込みノズル15に通じる融解体分配器5、ベルト厚さ測定装置16及び調整可能なガス源13を持つものにおいて、融解体分配器5には注出室11を経て鋳込みノズル15に終るサイフォン14が接続されていて、・・・鋳込み装置。
【請求項19】注出室11が融解体分配器5の下端に配置されている・・・請求項18の鋳込み装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項15】【請求項18】【請求項19】)、
(3b)【実施例】として、図1、図4が示されるとともに、
「【0029】図1は、運搬ローラー3、4(4は図示されない)を介して回転する冷却された運搬ベルト2と、誘導加熱環状炉(誘導コイル5´を有する)の形の金属融解体6に対する融解体分配器5とからなる、終端寸法近傍金属ベルトを連続的に製造するための鋳込み装置を示す。
【0030】融解体分配器5は、注入室9(断面積FE)、圧力室10(断面積FO)および注出室11を持っている。圧力室10は、カバー10´によりガス密に閉鎖されている。カバー10´内にはガス接続部12が設けられていて、この接続部は調整可能なガス源13に接続されている。注出室11にはサイフォン14が接続されていて、サイフォン14は運搬ベルト平面Eの上の鋳込みノズル15に通じている。注出室11は円形断面(断面積FA)を、サイフォン14(断面積FS)と鋳込みノズル15(断面積FG)とは方形断面を持っている。」(段落【0029】、【0030】)、
「【0041】図4による変形においては、融解体分配器5は、浸漬筒19を有する湯溜まり18によりガス密に閉鎖される。・・・注出室11は融解体分配器5の下端に接続されているので、融解体分配器5は、鋳込み過程の終りに過圧により容易に空にされる。」(段落【0041】)が記載されている。

(4)甲第4号証:特開平11-188475号公報
(4a)「【請求項1】移動、昇降ならびに前方向へ傾動可能に構成された容器本体と、前記容器本体の前部に該容器本体の底部より下方に位置する管開口部から該容器本体上部に亘って形成された外側管部と、前記外側管部と連続してその管上部から前記容器本体下部に亘って形成された内側管部と、前記内側管部の管下部に形成され容器本体内部と連通する連通部と、前記容器本体に形成された気体流出入部を介して該容器本体内部を減圧しまたは加圧するための気体制御手段とを有することを特徴とする金属溶湯のラドル装置。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)、
(4b)【発明が解決しようとする課題】として、「【0006】・・・清浄な溶湯を汲み上げ、溶湯の移送および注湯時においても溶湯を極力空気と接触させないようにした新規な金属溶湯のラドル装置の構造およびその注湯方法を提供しようとするものである。」(段落【0006】)、
(4c)【発明の実施の形態】として、図1、図7が示されるとともに、「【0013】容器本体11は、内部12にアルミニウム合金等の高温(650℃から750℃程度)の金属溶湯を収容する容器で、セラミックあるいは金属等の耐熱容器より構成される。実施例では、セラミック体14を金属板15によってバックアップしたものを示したが、経済性を考慮して金属製のものであってもよい。容器本体11は、図示のように、その両側面の軸部61を介してアーム62,62によって前方向に傾動可能に支持され、該アーム62はチェーン等の吊り下げ部材63およびホイスト等の移動昇降装置64によってレール65に対して移動、昇降可能に保持されている。なお、容器本体11の傾動機構については図示しないが、モータ等による軸61の回動あるいはワイヤ等の伸縮部材による傾動等、公知の手段が適宜選択される。」(段落【0013】)、
「【0018】気体制御手段50は、図1からよく理解されるように、容器本体11に形成された気体流出入部41,42を介して容器本体内部12を減圧しまたは加圧するためのものであって、図示のような公知の気体制御回路を含む。実施例において、符号41は容器本体11の上部に形成された制御気体の流入部、42は同じく流出部で、51、52は切換弁、53は制御気体の給排気部である。制御気体としては、窒素またはアルゴン等の不活性ガスが好ましく用いられるが、通常空気でもよい。」(段落【0018】)、
「【0025】ラドル装置10内に所定量の溶湯M1が汲み上げられた後、前記気体制御手段50の切換弁51,52を制御して容器本体11内を通常圧に戻す。ラドル装置10内に計量器(図示せず)等を設置して切換弁の制御を自動に行なうようにしてもよい。減圧による吸引状態から開放されることによって、外側管部20内の溶湯は溶湯汲み出し部70に自然流下し、一方、内側管部25および容器本体内部12内の溶湯M1は外側管部20の管上部22の堰(メタルダム)24によって堰き止められるので、そのまま残ってラドル装置10内に保持され、溶湯M1の収容が完了する。
【0026】溶湯M1を保持したラドル装置10は、図7の符号u1のようにB位置に上昇され、成型機90に向かって符号fのようにC位置まで前進する。図4はラドルのC位置状態を表すものである。ラドル装置10内に保持された溶湯M1は大気とほとんど接触することなく、また堰24によって逆流することがなく安全に移送できる。なお、溶湯M1の収容後のラドル装置10における制御弁51,52は同図のように閉状態にしておくのが好ましい。
【0027】・・・前記気体制御手段50の気体流出部41の切換弁51を閉じ、かつ気体流入部42の切換弁52を開き、気体給排気部53を作動して、容器本体内部12に制御気体を圧送する。容器本体内部12の加圧により、ラドル装置10内の溶湯M1は外側管部20の管上部22の堰(メタルダム)24を乗り超えて押し出され、外側管部20の管開口部21より成型機90の溶湯注入口91に注出される。」(段落【0025】?【0027】)が記載されている。

(5)甲第5号証:特開平6-320255号公報
(5a)「【請求項1】密閉した溶湯室の底部から立上がる出湯路の上端の出湯室と、この出湯室の底面の注湯口と、前記底部から立上がる受湯路の上端の受湯室と、前記底部に連通する溝形インダクタと、ガス導入管を介して前記溶湯室の溶湯にガスを加圧する加圧ガス制御装置とからなる加圧式注湯炉において、 前記注湯口にこれを開閉する棒状のストッパを設け、前記溝形インダクタの軸心を水平より下に45°ないし90°に向けて取付け、前記ガスを不活性ガスとし、前記溶湯室の溶湯の全量を排出するように前記加圧式注湯炉を傾動させる動力傾動装置を設けることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉。
・・・・・・・・・・
【請求項3】請求項1又は2記載の球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉において、前記出湯室及び前記受湯室をそれぞれ前記出湯路及び前記受湯路にフランジで着脱自在にすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉。」(【特許請求の範囲】【請求項1】、【請求項3】)、
(5b)【実施例】として、図1が示されるとともに、「【0011】・・・図1は実施例の断面図である。図において、この加圧式注湯炉1は、密閉した溶湯室2の底部2aから立上がる出湯路3の上端の出湯室4と、この出湯室4の底面の注湯口5と、底部2aから立上がる受湯路6の上端の受湯室7と、底部2aに連通する溝形インダクタ8と、ガス導入管9を介して溶湯室2の溶湯10にガスを加圧する加圧ガス制御装置11とからなる。」(段落【0011】)、
「(6) 出湯室4及び受湯室7は、フランジ16a、16bで着脱自在であるから、MgOスラグが堆積したら交換して加圧式注湯炉1全体の寿命を長くできる。」(段落【0014】)が記載されている。

(6)甲第6号証:特開平5-293634号公報
(6a)「【請求項1】上部に、収容する融解金属の脱ガス、脱酸等の溶湯処理口を備える溶湯運搬炉本体と、該溶湯運搬炉本体に設けた収容溶湯の鋳込温度の保持手段と、前記溶湯処理口へ気密的に対設する閉塞蓋と、溶湯運搬炉本体に設けた溶湯収容口を兼ねた掃除口と、溶湯運搬炉本体に設ける密閉した炉本体の内部圧調整手段と、溶湯運搬炉本体に設け且つ内部圧の変化に伴う収容溶湯の取出し部とより構成することを特徴とした鋳造用等の溶湯運搬炉。」(【特許請求の範囲】)、
(6b)【作用】として、「【0006】・・・本発明の溶湯運搬炉を使用して融解金属からなる溶湯を運搬する場合は、溶湯運搬炉本体の溶湯収容口を開てこれより反射炉で融解された金属を投入し、所定量収容した後、電熱器等による鋳込温度の保持手段により溶湯の温度が下らないように温度保持をしながら、溶湯処理口より溶湯の脱ガス、脱酸等の溶湯処理を行ってから、前記溶湯収容口及び鉛湯処理口に密閉蓋を当てて気密的に閉塞するするもので、更に密封した溶湯運搬炉本体をクレーン、リフト、トラバーサーなどの移動手段によって鋳造機近傍に備えた手元炉へ運搬する。更に、溶湯運搬炉本体より溶湯を取出す場合は、溶湯運搬炉本体に設けた内部圧調整手段によって気密保持した炉本体の内部圧を高めて収容した溶湯を取出し部より前記手元炉へそのまま移し替へる。前記溶湯運搬炉本体の移動中は、炉本体は密封されているからとりべのように周囲が暑くならずトラバーサー等の移動手段は、特殊構成によるものでなくて一般的なものを使用できて、安全に搬送できる。」(段落【0006】)、
(6c)【実施例】として、図1?図3が示されるとともに、「【0009】溶湯運搬炉本体2の溶湯処理口1へ対設する閉塞蓋4は、周縁を有する断面皿形状として後端部を溶湯処理口1近傍に設けた軸10へ回動自在に取付けたハッチ形構成とし、又前端に設けたU状の係止部11へ起倒自在の係止金具12を係合させて前記軸10に螺合した緊締ハンドル13の螺合緊締により溶湯処理口1へ圧接させる。この圧椄部に設けたシール材14により気密閉塞を可能としてある。・・・
【0010】次に炉本体2の内部圧調整手段6は、コンプレッサ(図示省略)とこのコンプレッサからの圧搾空気を溶湯運搬炉本体2内へ供給する配管6aと、レギュレーターと、バルブと、緊急排気バルブとより構成し、溶湯運搬炉本体2の発熱体出入口9を利用して之に前記配管6aを取付け密閉状態の溶湯運搬炉本体2内の内部圧を高めて溶湯16を取り出すもので、この場合炉内の圧力計を確認しながらレギュレーターの圧力をゆっくり上昇させる。このとき炉内圧が0.1kg/cm2になると収容された溶湯は約400mm上昇し、0.2kg/cm2程で溶湯は取出し部7より出る。」(段落【0009】、【0010】)、
(6d)【効果】として、「溶湯の取出しに際ては加圧式によるため、傾動、ポンプアップ・・・に比べきわめて安全で作業性は良好となる。」が記載されている。

(7)甲第7号証:平成15年4月4日付手続補正書 (内容略)

(8)甲第8号証:平成15年9月8日付手続補正書 (内容略)

(9)甲第9号証:特公昭61-43153号公報
従来の加圧式注湯炉として、第1図が示されるとともに、「たとえば、第1図に示すように、室の底部と連通した受湯口1を有する密閉状の貯湯室2と、この貯湯室2の底部から上方に立上る導通路3を介して連通され、上方に開口4を有するとともに、底面6aに注湯ノズル口5を有する注湯室6とを備え、図示しない圧縮空気送給装置から、貯湯室2の上部に設けた空気管7を介して、該貯湯室2に貯留された溶湯8の湯面8aに所定の空気圧を印加して溶湯8を導通路3を介して注湯室6に送給し、該注湯室6の注湯ノズル口5から、鋳型9等に注湯をおこなうようにしたものが公知である。」(第1頁第1欄23行?第2欄7行)が記載されている。

(一)乙第1号証:管路・ダクトの流体抵抗出版分科会編「技術資料 管路・ダクトの流体抵抗」,昭和54年1月20日初版発行,昭和55年8月20日2刷発行,社団法人 日本機械学会,第25?32頁
ニクラッチェの実験結果について記載されている。

(二)乙第2号証:日本機械学会編「機械工学便覧 基礎編 応用編」,1987年4月15日新版発行,社団法人 日本機械学会,A5-73頁?82頁
レイノルズ数が一定以上になれば、管摩擦係数はレイノルズ数に無関係に相対粗さ「粗さε/内径d」のみの関数となることが記載されている。

[7]当審の判断

上記平成20年(行ケ)10154号事件の判決においては、
「無効2005-80327号において、特許第3489678号の請求項1,2,4?6に係る発明についての特許を無効とする。」及び
「無効2006-80167号において、特許第3489678号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。」との部分のみが取り消され、その余の部分であるところの、
「無効2005-80327号において、特許第3489678号の請求項3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との部分(理由2による無効請求は成り立たないとした部分である。)は、出訴されなかったので、審決が確定している。
そこで、理由1、理由3?5について検討する。

[7-1]本件発明3に対する理由4及び理由5について
(1)理由4について
請求人は、発明の詳細な説明には、溶融金属の性状、容器の大きさ、形状、材質(特に表面粗さ)、加圧供給時における圧力、容器内における溶融金属の残量、液面までの高さといった種々のパラメータについての記載が不足しており、どのような条件で実施すれば、流路の有効内径の数値範囲「65mmから85mm」が好ましい範囲となるのか、発明の詳細な説明に開示されていないから、特許法第36条第4項の規定に違反する旨主張する(無効2006-80167号審判請求書第6頁32行?第7頁4行参照)。
しかしながら、流路の粘性抵抗が、溶融金属の性状、ライニングの材質、表面粗さ等、種々の要因により変動し、他方、溶融金属自体の重量やその影響が、金属の種類、流路の長さ(高さ)、流速等によって変わることが明らかであるから、流路の溶融金属の流れが上記の各パラメータの影響を受けないとはいえず、該各パラメータにより、上記流路の有効内径の好ましい範囲における溶融金属の流れ易さが変わらないとはいえないにしても、該各パラメータにより、上記流路の有効内径の好ましい範囲が大幅に変わり、該有効内径の好ましい範囲が、該各パラメータの特定の狭い範囲としか対応しないとする根拠はない。
そして、本件明細書、段落【0046】の、「本発明者等は、流路57及びこれに続く配管56の内径としては・・・65mm?85mm程度が好ましく、より好ましくは70mm?80mm程度、更には好ましくは70mmであることを見出した。・・・内径が65mmより小さいときには流路を流れる溶融金属はどの位置においても溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響を受けているが、内径が65mm以上となると流れのほぼ中心付近から内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め、その領域が次第に大きくなる。この領域の影響は非常に大きく、溶融金属の流れを阻害する抵抗が下がり始める。溶融金属を容器内から導出する際に容器内を非常に小さな圧力で加圧すればよくなる。・・・一方、内径が85mmを超えると、溶融金属自体の重量が溶融金属の流れを阻害する抵抗として非常に支配的となり、溶融金属の流れを阻害する抵抗が大きくなってしまう。」との記載により、流路の有効内径として、「65mm?85mm程度」において、溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響が比較的小さいため、溶融金属を導出する圧力を小さくできることが見出された旨述べられている。
そうすると、上記段落の記載によれば、流路の有効内径の上記数値範囲程度において、溶融金属を導出する圧力を比較的小さくできることが見出されたのであるから、上記数値範囲では、上記の各パラメータの通常用いられる範囲において、溶融金属を導出する圧力を大体において小さくできることが、実験等により確認できたものと解し得る。すなわち、流路の有効内径の上記数値範囲は、上記の各パラメータの通常用いられる範囲において、流路の有効内径と溶融金属を導出する圧力の関係において同圧力を比較的小さくするように働くことが確認された、好ましい流路の有効内径の範囲を意味するものと理解できる。また、上記の各パラメータは、溶融金属を供給する容器において通常用いられる範囲において、当業者が適宜に設定し得るものと解し得る。
そうであれば、上記のパラメータについての記載が発明の詳細な説明にないからといって、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が発明の詳細な説明に記載されていないとはいえず、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

したがって、本件発明3の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとすることはできない。

(2)理由5について
請求人は、本件発明3の特徴部分は、流路の有効内径を数値範囲で規定した発明特定事項Jのみにあるとし、明細書の段落【0013】の「前記流路の有効内径は、…。これは、発明者らが流路の径と圧送に必要な圧力との関係を調べた結果得られた知見である。」との記載及び段落【0046】の「溶融金属が流路や配管を上方に向けて流れる際に、流路や配管に存在する溶融金属自体の重量及び流路や配管の内壁の粘性抵抗の2つのパラメータが溶融金属の流れを阻害する抵抗に大きな影響を及ぼしているものと考えられる。」との記載があるにもかかわらず、請求項3には、発明の詳細な説明において言及された「溶融金属自体の重量と粘性抵抗」については記載がなく、本件発明3を実施するために必要な具体的条件(圧送に必要な圧力と溶融金属自体の重量と粘性抵抗等)が特定されていないので、発明特定事項が不足しており、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである旨主張する(無効2006-80167号審判請求書第7頁17?30行、第8頁26?30行参照)。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、溶融金属の圧送に必要な圧力、溶融金属自体の重量、粘性抵抗の大きさ等について具体的に記載されておらず、それらのパラメータの特定が、本件発明3に係る容器とするための必要不可欠な事項として記載されていない。そして、それらのパラメータが厳密に特定されなければ、本件発明3に係る容器の上記数値範囲において、本件発明3の容器の性能、効果が得られず、本件発明3を実施できないとする根拠はなく、上記[7-1](1)でも述べたように、本件発明3に係る容器の流路の有効内径以外の各パラメータは、溶融金属を供給する容器において通常用いられる範囲において、当業者が適宜に設定し得ること等を考慮すれば、上記のパラメータが請求項3に特定されていないからといって、本件発明3の発明特定事項が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるとはいえない。

したがって、本件請求項3の記載が本件明細書のサポート要件に適合していないとして、本件発明3の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとすることはできない。

[7-2]本件発明1に対する理由1について
(1)甲第1号証記載の発明
摘記事項(1a)?(1g)を総合すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「溶融金属を収納し、道路上を運行する運搬用車輌の荷台上に載置固定して公道などの一般道路を通って使用先の工場まで搬送し、該工場に着後はフオークリフトにより該工場の保持炉、或は鋳型等まで配送する密閉型の溶融金属運搬用取鍋であって、
上記取鍋の側壁及び底面に外殻鉄皮を設け、
該外殻鉄皮の内側には内張耐火材を内張りし、
該外殻鉄皮と該内張耐火材の間には断熱材を介挿し、
上記側壁の内張耐火材を貫通して、取鍋内の空間に収納された溶融金属に浸漬する側壁内面側の中段部から取鍋上面側の露出部の注湯口まで溶融金属の流路が延び、該流路と該取鍋内の空間との間には、該取鍋上面側の露出部まで該内張耐火材の内張りが設けられ、上記断熱材は介挿されておらず、
上記流路が設けられた上記側壁の部分が、該流路が設けられた分だけ溶融金属を収納する空間から突き出ており、 上記取鍋の上面部を覆うように配置され、ほぼ中央に小径の受湯口を有する蓋と、該蓋の受湯口に開閉可能に設けられた受湯口小蓋を具備する溶融金属運搬用取鍋。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件発明1と甲1発明との対比
(2-1)(ア)甲1発明における「溶融金属を収納し、道路上を運行する運搬用車輌の荷台上に載置固定して公道などの一般道路を通って使用先の工場まで搬送し、該工場に着後はフオークリフトにより該工場の保持炉、或は鋳型等まで配送する密閉型の溶融金属運搬用取鍋」において、上記「運搬用車輌・・・フオークリフト」は「運搬車輌」に該当し、上記「使用先の工場・・・の保持炉、或は鋳型等」は溶融金属の「ユースポイント」に該当し、上記「運搬用車輌の荷台上に載置固定して公道などの一般道路を通って・・・搬送し、・・・フオークリフトにより・・・保持炉、或は鋳型等まで配送する」とは、「運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される」ことに他ならない。また、上記「密閉型の溶融金属運搬用取鍋」は、密閉型の「溶融金属を収容することができ、・・・ユースポイントまで搬送される容器」に他ならない。
(イ)甲1発明における「外殻鉄皮」、「取鍋内の空間」、「該流路と該取鍋内の空間との間」は、それらが内外の圧力差を調節する容器の構成ではないにしても、溶融金属搬送用の容器の構成として共通するものであり、夫々本件発明1における「フレーム」、「容器内の溶融金属が貯留される空間」、「前記流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーン」に相当する。
(ウ)甲1発明における「内張耐火材」及び「断熱材」は、どちらも溶融金属搬送用の容器のライニングといえるところ、それらの材質については、「本体20の胴部断熱材14に断熱性ボード、内張耐火材15にはアルミノホウ酸を含有する耐食性キャスタブル・・・をそれぞれ使用した。」と記載されており(摘記事項(1f)参照)、「断熱材」については「断熱性」の「断熱性ボード」を使用する記載がある一方、「内張耐火材」については「断熱性」の材料を使用する記載はなく、また、加熱装置を備えていない取鍋の態様では(摘記事項(1b)(1d)参照)、配送中溶融金属を溶融状態に保持するに足る熱量を「内張耐火材」中に蓄えるとともに、該熱量が外側に逃げないように、「断熱材」で効率的に断熱する必要があることを勘案すれば、該「断熱材」が該「内張耐火材」より低い熱伝導率を有するべきであることは明らかであるから、上記取鍋の「内張耐火材」、「断熱材」は、夫々本件発明1における「第1の熱伝導率を有する第1のライニング」、「第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニング」に相当する。
(エ)甲1発明における「側壁の内張耐火材を貫通して、取鍋内の空間に収納された溶融金属に浸漬する側壁内面側の中段部から取鍋上面側の露出部の注湯口まで、溶融金属の流路が延び、」とは、側壁の内張耐火材(第1のライニング)が、側壁内面から取鍋上面側の露出部まで溶融金属の流路を内在している形態に他ならず、同じく「該流路と該取鍋内の空間との間には、該取鍋上面側の露出部まで該内張耐火材の内張りが設けられ、上記断熱材は介挿されておらず、」とは、同側壁の内張耐火材(第1のライニング)が、流路と取鍋内の空間との間(流路と容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーン)に、該取鍋上面側の露出部まで充填されていることに他ならない。
(オ)甲1発明における取鍋は、該取鍋の上面部を覆うように配置され、ほぼ中央に小径の受湯口を有する蓋と、該受湯口に開閉可能に設けられた受湯口小蓋を具備しており、該蓋が取鍋本体のフランジ部に締着されていて頻繁に開閉することができないとみられる一方、該受湯口小蓋は、該取鍋の上面部にあって、該蓋の受湯口に蝶番により開閉自在に取付けられており、溶湯を該取鍋内に供給する毎に開閉され、開口部を完全に密閉できるものであるから、所謂ハッチといえる(摘記事項(1c)?(1e)参照)。また、上記蓋が取鍋の上面部を覆うように配置され、該蓋のほぼ中央の受湯口を開閉するように該受湯口小蓋が設けられているのであるから、該受湯口小蓋は、つまりは該取鍋上面部の中央に設けられていることになる(摘記事項(1g)、第6?8図参照)。

(2-2)そうすると、両者は、
溶融金属を収容することができ、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、
前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、を有し、
前記第1のライニングは、容器上面側の露出部まで溶融金属の流路を内在し、当該流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで充填され、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられるハッチを有し、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられている容器。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点A:本件発明1では、容器が、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能であるのに対し、甲1発明では、そのように記載されていない点。

相違点B:本件発明1では、第1のライニングが、容器内底部に近い位置から溶融金属の流路を内在しているのに対し、甲1発明では、取鍋内の溶融金属に浸漬する側壁内面側の中段部から溶融金属の流路が延びている点。

相違点C:本件発明1では、配管を有し、該配管は、容器上面側の露出部の流路に接続され、先端の出入口が下向きであるのに対し、甲1発明では、該配管に相当するものが見当たらない点。

相違点D:本件発明1では、第2のライニングは、流路からみて容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ流路を内在する第1のライニングの外側に配されているのに対し、甲1発明では、そのように記載されていない点。

相違点E:本件発明1では、ハッチは、容器の内外を連通し、溶融金属を供給する際に容器内を加圧するための貫通孔が、該ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのものであるのに対し、甲1発明では、そのように記載されていない点。

上記平成20年(行ケ)10154号判決において、知的財産高等裁判所は、本件発明1と甲1発明との相違点Eに関し、以下のとおり判示している。
「(3) 相違点Eの判断の誤りに関する検討
…取消事由1(相違点Eの判断の誤り)の採否について検討するに,甲1発明の容器は,前記(2)イに説示したとおり,溶湯は受湯口から取鍋内に収納され,使用先の工場では,注湯口を開きフォークリフトにより取鍋を傾動して保持炉や鋳型等に注湯する方式の,いわゆる傾動式の取鍋であると認められるところ,この傾動式の取鍋から,これを,密閉された容器に溶融金属用の配管が設けられ加減圧用の配管が接続されるという構成(いわゆる加圧式)とすること自体は,甲10(特開平8-20826号公報,甲2(特開昭62-289363号公報,甲11(実願昭63-130228号(実開平2-53847号)のマイクロフィルム),甲12(実願平1-89474号(実開平3-31063号)のマイクロフィルム)において,加圧式の場合,注湯精度,溶湯品質等の点で傾動式よりも優れていることが記載されているから,当業者がこれを適用することは容易に想起できるものと認められる。
しかし,このことは,当業者が甲1発明から出発してこれにいわゆる加圧式の容器を採用しようと考えた後は,加圧式の容器であれば性質上当然具備するはずの構成のほかそのすべての個々の具体的構成は当然に適用できることを意味するものではない。そして,甲1発明の傾動式の容器であれば,その傾動式の容器であるという性質自体から,溶湯を出し入れするために注湯口及び受湯口が必要であることが導かれるが,加圧式の容器の場合は,一つの流路を通して溶湯の導入と導出とを行う注湯方式であり加減圧用の配管が容器に接続されていればよいのであるから,傾動式の容器で必要な受湯口及び受湯口小蓋は必須なものではない。したがって,甲1発明の傾動式の容器に接した当業者がこれを加圧式の取鍋にすることを考える際,あえて,必須なものではない受湯口及び受湯口小蓋を具備したままの構造とするのであれば,そうした構造を採用する十分な具体的理由が存する必要があるというべきである。
しかるに,上記(1)に記載したように,本件発明1は,容器内を加圧して容器内に導入された配管を介して容器内の溶融材料を外部に導出するという構成において,容器本体の上部には,開閉可能なハッチが設けられ,このハッチは容器内に溶融金属を供給する度に開けられるが,このハッチに内圧調整用の貫通孔を設けるという構成をとることにより,ハッチを開けて加熱器を容器内に挿入して予熱をする際に,内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができ,内圧調整に用いるための配管や孔の詰まりを未然に防止できるという作用効果を有するものである。そうすると,本件発明1と上記(2)に記載したような甲1発明とを対比すると,甲1発明は取鍋を運搬車輌に搭載し公道を介して工場間で運搬するという技術的課題を有し,その課題解決手段としては,上記(2)ア(ウ)?(キ)記載のような運搬用車輌に搭載し公道上を搬送されるに適した構成を採用しており,技術分野は同じくするものの,その技術的課題は,傾動式取鍋の安全な工場間運搬(甲1発明)と加圧式取鍋特有の内圧調整用配管の詰まりの防止(本件発明1)というように基本的に異なっており,その課題解決手段も,注湯口,受湯口の密閉手段や運搬用車両への係止手段が設けられた構成(甲1発明)と「前記貫通孔は,前記ハッチ…に設けられ」た構成(本件発明1の相違点E)というように異なっており,その機能や作用についても異なるものであるから,そのような甲1発明に接した当業者が,本件発明1の相違点Eの構成を容易に想起することができたと認めることはできない。
審決の相違点Eについて容易想到であるとした判断には誤りがあり,原告の取消事由1は理由がある。」

当審の審理は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、上記平成20年(行ケ)10154号判決の判断である上記判示事項に拘束されるものである。

よって、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第9号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであるとの請求人の主張は採用できない。

[7-3]本件発明2、4?6に対する理由1及び本件発明3に対する理由3について
上記平成20年(行ケ)10154号判決において、知的財産高等裁判所は、本件発明2?6に関し、以下のとおり判示している。
「また,本件発明2?6も,本件発明1の構成をすべて含んでいるのであるから,本件発明2?6についての審決の判断も,同様に誤りであることとなり,原告の取消事由2?6の主張も理由がある。」

当審の審理は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、上記平成20年(行ケ)10154号判決の判断である上記判示事項に拘束されるものである。

よって、本件発明2?6は、甲第1号証ないし甲第9号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであるとの請求人の主張は採用できない。

[8]むすび
[8-1]無効2005-80327号について
以上のとおりであるから、本件請求項1、2、4?6に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

[8-2]無効2006-80167号について
以上のとおりであるから、本件請求項3に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものではないし、また、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり決定する
 
別掲

〈参考〉平成20年3月18日付け審決(3次審決)は、以下のとおり。

「 無効2005- 80327

無効2006- 80167

愛知県西尾市法光寺町北山1
請求人 株式会社 陽紀

京都府京都市下京区烏丸通四条下ル水銀屋町637 第五長谷ビル4階 森脇特許事務所
代理人弁理士 森脇 正志

大阪府大阪市中央区道修町1丁目7番1号 北浜TNKビル 三枝国際特許事務所
代理人弁理士 三枝 英二

大阪府大阪市中央区道修町1-7-1 北浜TNKビル11階 三枝国際特許事務所
代理人弁理士 眞下 晋一

大阪府大阪市北区梅田1丁目11番4号911 森国際特許事務所
代理人弁理士 森 義明

大阪府大阪市中央区北浜2丁目5番23号 小寺プラザ12階 弁護士法人関西法律特許事務所
代理人弁護士 松本 司

大阪府大阪市中央区北浜2丁目5番23号 小寺プラザ12階 弁護士法人関西法律特許事務所
代理人弁護士 田上 洋平

大阪府大阪市中央区北浜2丁目5番23号 小寺プラザ12階 弁護士法人関西法律特許事務所
代理人弁護士 井上 義隆

愛知県豊田市堤町寺池66番地
被請求人 株式会社 豊栄商会

東京都千代田区永田町二丁目14番3号 赤坂東急ビル10階 竹田綜合法律特許事務所
代理人弁護士 竹田 稔

東京都千代田区永田町2丁目14番3号 赤坂東急ビル10階竹田稔法律特許事務所
代理人弁護士 川田 篤

東京都港区南青山2丁目13番7号 マトリス4階 南青山国際特許事務所
代理人弁理士 大森 純一

東京都港区南青山2-13-7 マトリス4階 南青山国際特許事務所
代理人弁理士 折居 章


上記当事者間の特許第3489678号「容器」の特許無効審判事件についてされた平成19年6月13日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成19年(行ケ)第10268号、平成19年11月9日)があったので、さらに審理の併合のうえ、次のとおり審決する。

結 論
訂正を認める。
無効2005-80327号において、特許第3489678号の請求項1、2、4?6に係る発明についての特許を無効とする。
無効2005-80327号において、特許第3489678号の請求項3に係る発明についての審判請求は、成り立たない
無効2006-80167号において、特許第3489678号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。
無効2005-80327号についての審判費用は、その6分の1を請求人の負担とし、6分の5を被請求人の負担とする。
無効2006-80167号についての審判費用は、被請求人の負担とする。

理 由
[1]手続の経緯
本件特許第3489678号についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成12年12月27日 国内優先出願(特願2000-399465号)
平成13年12月26日 本件出願(特願2001-395169号)
平成15年11月 7日 特許権の設定登録
平成17年11月14日 無効審判請求(無効2005-80327号)
平成18年 2月 2日 被請求人:訂正請求書、答弁書提出
平成18年 3月23日 請求人:弁駁書、上申書提出
平成18年 6月 9日 請求人:口頭陳述要領書提出
平成18年 6月 9日 被請求人:上申書、口頭審理陳述要領書提 出
平成18年 6月 9日 口頭審理
平成18年 7月19日 無効審決(審判請求一部成立)
平成18年 8月24日 請求人:知的財産高等裁判所出訴
(平成18年(行ケ)第10384号)
平成18年 8月28日 被請求人:知的財産高等裁判所出訴
(平成18年(行ケ)第10390号)
平成18年 8月31日 無効審判請求(無効2006-80167号)
平成18年10月19日 訂正審判請求(訂正2006-39175号)
平成18年11月15日 差戻し決定(無効審判審決取消)
平成18年11月22日 審理の併合、訂正請求のための期間指定通 知
平成18年12月11日 被請求人:訂正請求書、答弁書、第2答弁 書提出
平成19年 1月31日 請求人:弁駁書、第2弁駁書提出
平成19年 3月30日 被請求人:上申書提出
平成19年 6月13日 無効審決(審判請求成立)
平成19年 7月23日 被請求人:知的財産高等裁判所出訴
(平成19年(行ケ)第10268号)
平成19年10月22日 訂正審判請求(訂正2007-390118号)
平成19年11月 9日 差戻し決定(無効審判審決取消)
平成19年11月21日 訂正請求のための期間指定通知
平成19年12月19日 被請求人:上申書提出

なお、被請求人は平成19年11月21日付け訂正請求のための期間指定通知に対して訂正請求をしなかったので、被請求人が行った平成19年10月22日付けの訂正審判請求(訂正2007-390118号)は、特許法第134条の3第5項の規定により、その訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書又は図面を援用した訂正の請求とみなされ、特許法第134条の2第4項により、この訂正請求によって平成18年12月11日付けの訂正請求は取り下げられたものとみなされた。

[2]訂正の適否についての判断
[2-1]訂正の内容
(1)訂正事項1-1
請求項1に記載された「運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される」を「運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される」と訂正する。

(2)訂正事項1-2
請求項1に記載された「かつ容器上面側の露出部まで充填され、」の後に「前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され、」を付加する。

(3)訂正事項1-3
請求項1に記載された「前記配管は、前記露出部の流路に接続され、先端の出入口が下向きである」を、
「前記配管は、前記露出部の流路に接続され、先端の出入口が下向きであり、前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し、前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられている」と訂正する。

(4)訂正事項2
請求項4、請求項5を削除し、該削除に伴い、請求項6?8を繰り上げて新たな請求項4?6とし、新たな請求項6における引用項の項番号を整合させる。

(5)訂正事項3-1
訂正前の請求項6に記載された「運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される」を、「運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される」と訂正する。

(6)訂正事項3-2
訂正前の請求項6に記載された「前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチとを有し」を、「前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチとを有し」と訂正し、同請求項6に記載された「ことを特徴とする容器。」の前に「前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられている」を付加する。

(7)訂正事項3-3
訂正前の請求項6に記載された「かつ容器上面側の露出部まで前記第1のライニングが充填されている」を、「かつ容器上面側の露出部まで前記第1のライニングが充填され、前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され、」と訂正する。

(8)訂正事項4-1
訂正前の請求項7に記載された「運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される」を、「運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される」と訂正する。

(9)訂正事項4-2
訂正前の請求項7に記載された「前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されている」を「前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されており、前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し、前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられている」と訂正する。

[2-2]訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1-1、3-1、4-1は、ユースポイントまでの容器の搬送に関し、ユースポイントが本来、材料供給側の工場とは異なる工場にあり、そのユースポイントまで搬送されることを明確化し、又は、公道を通ることを限定するものであるから、明りょうでない記載の釈明、又は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、本件特許に係る発明の容器が公道を介してユースポイントまで搬送される点は、願書に添付した明細書の段落【0025】【0031】【0065】【0066】の記載に裏付けられているから、上記訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

上記訂正事項1-2、3-3は、「前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され」を付加して「第2のライニング」の配置場所を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、第2のライニングが、流路からみて容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ流路を内在する第1のライニングの外側に配される点は、願書に添付した明細書の段落【0043】の記載及び図5に裏付けられているから、上記訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

上記訂正事項1-3、3-2、4-2は、「容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔」の「内圧調整用」を「前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するため」に限定し、「貫通孔が設けられたハッチ」について、貫通孔が設けられる位置を「ハッチの中央、または中央から少しずれた位置」に限定し、「閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うための・・・容器の上面部の中央に設けられ」ることを付加して限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、本件特許に係る発明の容器が上記のハッチを有する点は、願書に添付した明細書の段落【0014】?【0016】、【0037】、【0047】?【0049】の記載に裏付けられているから、上記訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

上記訂正事項2の請求項4、請求項5を削除し、該削除に伴い、請求項6?8を繰り上げて新たな請求項4?6とし、新たな請求項6における引用項の項番号を整合させる訂正は、特許請求の範囲の減縮、及びそれに伴う、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

[2-3]むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、上記のとおり訂正が認められるから、平成19年10月22日付審判請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、
前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、
配管とを有し、
前記第1のライニングは、容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで溶融金属の流路を内在し、当該流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで充填され、
前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され、
前記配管は、前記露出部の流路に接続され、先端の出入口が下向きであり、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられていることを特徴とする容器。
【請求項2】請求項1に記載の容器であって、
前記第1のライニングは、前記容器内の溶融金属が貯留される空間から前記流路への熱伝導が促進されるように充填されていることを特徴とする容器。
【請求項3】請求項1又は請求項2に記載の容器であって、
前記流路の有効内径は、65mmより大きく、85mmより小さいことを特徴とする容器。
【請求項4】溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、
前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチとを有し、
前記第1のライニング内に溶融金属の流路が容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで内在され、
前記容器外周の前記流路に対応する位置が、当該流路に応じて、溶融金属が貯留された空間から当該流路が設けられた分だけ突き出ていて、
前記流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで前記第1のライニングが充填され、
前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられていることを特徴とする容器。
【請求項5】溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
溶融金属を貯留する貯留室と、
前記貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフェース部と、
前記貯留室下部と前記インターフェース部下部との間の連結口を有し、これらの間を仕切る壁と、
前記インターフェース部上部に接続された配管とを具備し、
前記容器の外周は金属製のフレームにより覆われており、
前記貯留室及び前記インターフェース部と、前記フレームとの間には、第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングとが前記第1のライニングを内側にして積層され、
前記壁は、前記連結口から前記インターフェース部の上部に向けて前記第1のライニングが充填されたゾーンを有し、
前記インターフェース部が当該インターフェース部と前記フレームとの間に介挿された前記第2のライニングにより保温されるとともに、前記ゾーンを介して前記貯留室内に貯留された前記溶融金属から前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されており、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられ、かつ、前記貫通孔は、前記ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられていることを特徴とする容器。
【請求項6】請求項5に記載の容器において、
前記壁は、耐火材からなることを特徴とする容器。」

[4]請求人の主張の概略
[4-1]無効2005-80327号における請求人の主張
請求人は、本件発明1?6の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件発明1、2、4?6は、本件優先権主張日前に頒布された甲第1号証に記載された発明を主にして、甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件発明1、2、4?6の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「理由1」という。)から、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであり、また、本件発明3の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「理由2」という。)から、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきであると主張し、その証拠方法として下記甲号証及び参考資料を提出している。

(1)甲第1号証:特公平4-6464号公報
(2)甲第2号証:特開昭62-289363号公報
(3)甲第4号証:特開平7-178515号公報
(4)甲第5号証:特開平11-188475号公報
(5)甲第8号証:特開平6-320255号公報
(6)甲第9号証:特公昭61-43153号公報
(7)甲第11号証:特開平5-293634号公報
(8)参考資料1:設計図(RGD4.9T/3T(公称))
(9)参考資料2:設計図(名称:BATH LINING,図番:RGD4.9T/3T(公称)炉体築炉図,記事:SF350100)
(10)参考資料3:陳述書、及び富士電機株式会社の加圧式自動注湯炉(商品名:富士ギーザ)のカタログ
(11)参考資料4:納入先表 誘導炉(No.2),1991年?2005年3月,富士電機システムズ株式会社
(12)参考資料5:「アルミ溶融搬送取鍋 小蓋空気穴追加工」と題する平成12年6月14日付書面
(13)参考資料6:製作手配依頼書(2000年6月20日発行)
(14)参考資料7:設計図(アルミ搬送取鍋 M8KY型 小蓋組立図)(15)参考資料8:設計図(納入予定図 図番:E-207-2)
(16)参考資料9:設計図(Most Inc.作成の坩堝図面)
(17)参考資料10:平成16年(ワ)第24626号において裁判所に提出された第10準備書面及び(別紙)
(18)参考資料11:特開平6-284966号公報

なお、請求人が平成17年11月14日付審判請求書に添付して提出した甲第3号証、平成17年12月8日付手続補正書に添付して提出した甲第3号証の2、平成18年3月23日付弁駁書に添付して提出した甲第3号証の2、甲第3号証の3、同審判請求書に添付して提出した甲第6号証の1乃至甲第6号証の3、同弁駁書に添付して提出した甲第6号証の4、同審判請求書に添付して提出した甲第7号証、甲第10号証、口頭陳述要領書に添付して提出した甲第12号証は、口頭審理において、それぞれ参考資料1乃至参考資料11として整理された(第1回口頭審理調書の請求人側の項目2を参照)。

[4-2]無効2006-80167号における請求人の主張の概略
請求人は、本件発明3の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件発明3は、本件優先権主張日前に頒布された甲第1号証に記載された発明を主にして、甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件発明3の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「理由3」という。)から、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであり、また、本件発明3の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり(以下、「理由4」という。)、また、本件発明3の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「理由5」という。)から、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきであると主張し、その証拠方法として下記甲号証を提出している。

(19)甲第1号証:特公平4-6464号公報
(20)甲第2号証:特開昭62-289363号公報
(21)甲第3号証:特開平7-178515号公報
(22)甲第4号証:特開平11-188475号公報
(23)甲第5号証:特開平6-320255号公報
(24)甲第6号証:特開平5-293634号公報
(25)甲第7号証:平成15年4月4日付手続補正書
(26)甲第8号証:平成15年9月8日付手続補正書

なお、[4-1]の「(3)甲第4号証」、「(4)甲第5号証」、「(5)甲第8号証」、「(7)甲第11号証」と、[4-2]の「(21)甲第3号証」、「(22)甲第4号証」、「(23)甲第5号証」、「(24)甲第6号証」はそれぞれ同じものであるから、表記を統一し、以下、「甲第3号証」、「甲第4号証」、「甲第5号証」、「甲第6号証」という。

[5]被請求人の主張の概略
被請求人は、本件各無効審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、理由1、理由3について、本件特許発明1?6は、甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1?6の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、また、理由2、理由4、理由5について、本件発明3の特許は、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない旨主張し、その証拠方法として下記乙号証及び参考資料を提出している。 記
(一)乙第1号証:管路・ダクトの流体抵抗出版分科会編「技術資料 管路・ダクトの流体抵抗」,昭和54年1月20日初版発行,昭和55年8月20日2刷発行,社団法人 日本機械学会,第25?32頁
(二)乙第2号証:日本機械学会編「機械工学便覧 基礎編 応用編」,1987年4月15日新版発行,社団法人 日本機械学会,A5-73頁?82頁
(三)参考資料1:平成18年(行ケ)10390号審決取消請求事件における原告(本件被請求人)の提出に係る平成18年10月19日付原告第1準備書面

[6]甲各号証、及び乙各号証の記載事項
(1)甲第1号証:特公平4-6464号公報
(1a)「3.それぞれ開口部に密閉装置を有する受湯口17および注湯口18と、本体20の上部少なくとも3箇所に設けた緊締用の係止部材6と、底部に設けたフオークリフトのフオーク差し込み用部材9を備えた溶融金属運搬用取鍋。」(特許請求の範囲第3項)、
(1b)〔産業上の利用分野〕として、「本発明はアルミニウム等の溶融金属を公道など一般道路を通って遠隔地運搬、長時間運搬、坂道などの傾斜面運搬ができる、溶湯のまま使用者側に配送ができるようにしたトラック等、道路上を運行する運搬用車輌による溶融金属の運搬方法に関する」(第1頁2欄10?15行)、
(1c)〔問題点の解決手段〕として、「本発明は・・・溶融金属を密閉型の取鍋に収納し、開口部を密閉した取鍋をトラック等道路上を運行する運搬用車輌の荷台上に載置固定して運搬する」(第2頁4欄4?7行)、
「長距離運搬、坂道などの傾斜運搬が可能となり、また舗装状態の悪い道路での振動に対しても緊締がゆるむことなく、従って荷台上の取鍋は公道などの一般道路上を安全に運搬でき、また取鍋の積降しも極めて迅速容易に行うことができる。また、取鍋な受湯口および注湯口に密閉装置を有する密閉型の取鍋で、運搬中の湯こぼれ等を完全に防止することができ、長時間運搬等の場合は保温用加熱装置を設けて溶湯の放冷凝固を防止するようにし、受湯口、注湯口の開閉もクランプハンドルにより極めて迅速に行い得る」(第2頁4欄23?34行)、
(1d)〔実施例〕として、第6図?第8図が示されるとともに、「第6図?第8図は取鍋の断面図を示し、13は外殻鉄皮、14は断熱材、15は内張り耐火材、16は蓋、17は受湯口、18は注湯口、19は受湯口小蓋、蓋16と取鍋本体20の各鉄皮はフランジ部21を締着22して接続してある。また、小蓋19は第7図に示すように蝶番23により蓋16に開閉自在に取付けられ、その反対側には把手24および二叉状掛止具25が突設され、これに対し蓋16にはねじ軸26が外側方に回転自在に取付けられ、図においてねじ軸26は掛止具25の二叉部に掛止められ、ねじ軸26に螺合せしめたクランプハンドル27により小蓋19が蓋16に締着されており、ハンドル27をゆるめてねじ軸26を外側方に回動することにより小蓋19を開くことができる。・・・第6図は加熱装置を備えない取鍋を示している」(第3頁5欄35行?第6欄9行)、
(1e)「溶融金属の輸送に当っては、一例として供給者側の工場において溶解炉からポンプにより送給されて来た溶湯を取鍋2の受湯口17から送給パイプを通して取鍋2内に収納した後、小蓋19を閉じ、クランプハンドル27により緊締し、また注湯口18にはストツパー31を施し、トグルクランプ35のハンドル35”により緊締すれば取鍋2は迅速かつ完全に開口部が密閉されるので、この取鍋2を差し込み用部材9,9を介しフオークリフトによりトラックの荷台1に積込み、上記固定装置3と緊締具8により固定して使用先の工場まで搬送することができる。使用先の工場に着後は取鍋2の緊締6,7,8を解除し、左右方向に傾動可能なフオークリフトを使用して、取鍋2を降ろし、ストツパー31を取除いて注湯口18を開き、フオークリフトにより取鍋2を傾動して保持炉、或は直接鋳型等に直ちに注湯することができる。従って供給者側は使用先工場の需要に応じ適時に溶融金属を配送することができる。」(第4頁7欄3?22行)、
(1f)「取鍋は厚さ約6mmの鉄板で円筒形に形成して鉄皮13とし、これに適宜補強板を設けた。内張耐火材は蓋16、小蓋19に軽量キャスタブル、本体20の胴部断熱材14に断熱性ボード、内張耐火材15にはアルミノホウ酸を含有する耐食性キャスタブル(アルガレフAC85日本坩堝株式会社製)をそれぞれ使用した。また底部には焼成した大形のブロック(アルガレフAC85 日本坩堝株式会社製)を嵌込んで受湯時の衝撃に耐えるようにした。」(第4頁7欄41行?8欄6行)が記載されている。
(1g)第6図?第8図には、取鍋の側面と底面が外殻鉄皮で覆われ、該鉄皮の内側に内張耐火材の内張りが設けられ、該鉄皮と該内張耐火材の間に断熱材が介挿されている点、及び、該取鍋上面を覆う蓋のほぼ中央に受湯口が設けられ、該受湯口上に受湯口小蓋が載置され、該小蓋により該受湯口が閉じられている点が図示されている。また、同第6図、第8図には、取鍋内の空間に収納された溶融金属に浸漬する側壁内面から該取鍋上面側の露出部の注湯口まで、該側壁の内張耐火材を貫通して溶融金属の流路が延び、該流路と該取鍋内の空間との間には、該取鍋上面側の露出部まで内張耐火材の内張りが設けられ、断熱材は介挿されておらず、該取鍋外周の該流路に対応する箇所は、該取鍋内の空間から該流路が設けられた分だけ突き出ている点も図示されている。

(2)甲第2号証:特開昭62-289363号公報
(2a)「1.溶融金属2を貯蔵する、上部で密閉した加圧可能な貯湯室1と、この貯湯室1の下部より立上る出湯路3とを有する注湯炉において、出湯路3の立上り部分8が貯湯室1の底面9よりも下方に位置することを特徴とする加圧式注湯炉。」(特許請求の範囲第1項)、
(2b)〔産業上の利用分野〕として、「溶融金属を保持して適時の注入に供する注湯炉、なかでも加圧式注湯炉の改良に関連し」(第1頁右下欄3?4行)、
(2c)〔従来の技術〕として、「鋳物の鋳造とくに逐次に連続的な鋳造を行う鋳造ラインなどでかつてのとりべを使用する手動注湯にとって代わって用いられ始めた溶融金属の注湯炉には注湯方式として加圧式、傾動式、電磁ポンプ式などがあり、そのうち注湯精度、電力消費の面から加圧式が有利であって」(第1頁右下欄7?12行)、
(2d)〔問題点を解決するための手段〕として、第1図および第2図が示されるとともに、「この発明の構成を第1図および第2図にて具体的に示す。図中1は貯湯室、2は溶融金属、3は出湯路、4は鋳型等へ注湯するための出湯口であり、5は他の溶湯保持容器から溶湯を受けるための受湯路、6,7は密閉するための蓋、8は出湯路立上り部分、9は特に出湯路立上り部分8より上方に位置する貯湯室1の底面、そして10は溶湯を加熱するための溝型誘導加熱装置である。」(第2頁左下欄11?19行)、
(2e)〔作用〕として、第3図が示されるとともに、「第3図にて出湯路3の立上り部分8に施した上記の改良前後にわたる比較を図解したように、溶融金属2の加圧注湯限界量は従来構造(b)に比較しこの発明による炉底嵩上げ構造(a)でその分だけ低減できる。なお受湯路5をも加圧することによって受湯路部分の溶湯も低減できる。配慮すべきことはこの炉底嵩上げによって溝型誘導加熱装置10による熱が出湯路3に伝わらず出湯路内で溶湯が凝固するうれいをなくすことである。・・・これは第1図の例の場合矢印α,βで示したように貯湯室1の底面9、出湯路3の立上り部分8をすべて溝型誘導加熱装置10へ向かって下りの傾斜底面をもつ連通経路11で連通させることにより解決できる。」(第2頁右下欄2行?第3頁左上欄4行)が記載されており、また、
(2f)第1図、第3図(a)(b)には、溝形誘導炉の貯湯室1の側面及び底面のライニングと同様、貯湯室1と反対側の出湯路3のライニングには、内側のライニングの外側に第2のライニングが設けられているが、出湯路3と貯湯室1との間には、該第2のライニングは設けられていない点が開示されている。

(3)甲第3号証:特開平7-178515号公報
(3a)「【請求項15】回転する冷却された運搬ベルト2の上で鋳込みノズル15に通じる融解体分配器5と、調整可能なガス源13に接続されているベルト厚さ測定装置16とを持っているものにおいて、融解体分配器5が三重室として作られていて、注入室9、ガス密圧力室10および注出室11を持ち、注入室9には鋳込みノズル15に終るサイフォン14が接続されていて、調整可能なガス源13が圧力室10に接続されていることを特徴とする鋳込み装置。
・・・・・・・・
【請求項18】回転する冷却された運搬ベルト2の上で鋳込みノズル15に通じる融解体分配器5、ベルト厚さ測定装置16及び調整可能なガス源13を持つものにおいて、融解体分配器5には注出室11を経て鋳込みノズル15に終るサイフォン14が接続されていて、・・・鋳込み装置。
【請求項19】注出室11が融解体分配器5の下端に配置されている・・・請求項18の鋳込み装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項15】【請求項18】【請求項19】)、
(3b)【実施例】として、図1、図4が示されるとともに、
「【0029】図1は、運搬ローラー3、4(4は図示されない)を介して回転する冷却された運搬ベルト2と、誘導加熱環状炉(誘導コイル5´を有する)の形の金属融解体6に対する融解体分配器5とからなる、終端寸法近傍金属ベルトを連続的に製造するための鋳込み装置を示す。
【0030】融解体分配器5は、注入室9(断面積FE)、圧力室10(断面積FO)および注出室11を持っている。圧力室10は、カバー10´によりガス密に閉鎖されている。カバー10´内にはガス接続部12が設けられていて、この接続部は調整可能なガス源13に接続されている。注出室11にはサイフォン14が接続されていて、サイフォン14は運搬ベルト平面Eの上の鋳込みノズル15に通じている。注出室11は円形断面(断面積FA)を、サイフォン14(断面積FS)と鋳込みノズル15(断面積FG)とは方形断面を持っている。」(段落【0029】、【0030】)、
「【0041】図4による変形においては、融解体分配器5は、浸漬筒19を有する湯溜まり18によりガス密に閉鎖される。・・・注出室11は融解体分配器5の下端に接続されているので、融解体分配器5は、鋳込み過程の終りに過圧により容易に空にされる。」(段落【0041】)が記載されている。

(4)甲第4号証:特開平11-188475号公報
(4a)「【請求項1】移動、昇降ならびに前方向へ傾動可能に構成された容器本体と、前記容器本体の前部に該容器本体の底部より下方に位置する管開口部から該容器本体上部に亘って形成された外側管部と、前記外側管部と連続してその管上部から前記容器本体下部に亘って形成された内側管部と、前記内側管部の管下部に形成され容器本体内部と連通する連通部と、前記容器本体に形成された気体流出入部を介して該容器本体内部を減圧しまたは加圧するための気体制御手段とを有することを特徴とする金属溶湯のラドル装置。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)、
(4b)【発明が解決しようとする課題】として、「【0006】・・・清浄な溶湯を汲み上げ、溶湯の移送および注湯時においても溶湯を極力空気と接触させないようにした新規な金属溶湯のラドル装置の構造およびその注湯方法を提供しようとするものである。」(段落【0006】)、
(4c)【発明の実施の形態】として、図1、図7が示されるとともに、「【0013】容器本体11は、内部12にアルミニウム合金等の高温(650℃から750℃程度)の金属溶湯を収容する容器で、セラミックあるいは金属等の耐熱容器より構成される。実施例では、セラミック体14を金属板15によってバックアップしたものを示したが、経済性を考慮して金属製のものであってもよい。容器本体11は、図示のように、その両側面の軸部61を介してアーム62,62によって前方向に傾動可能に支持され、該アーム62はチェーン等の吊り下げ部材63およびホイスト等の移動昇降装置64によってレール65に対して移動、昇降可能に保持されている。なお、容器本体11の傾動機構については図示しないが、モータ等による軸61の回動あるいはワイヤ等の伸縮部材による傾動等、公知の手段が適宜選択される。」(段落【0013】)、
「【0018】気体制御手段50は、図1からよく理解されるように、容器本体11に形成された気体流出入部41,42を介して容器本体内部12を減圧しまたは加圧するためのものであって、図示のような公知の気体制御回路を含む。実施例において、符号41は容器本体11の上部に形成された制御気体の流入部、42は同じく流出部で、51、52は切換弁、53は制御気体の給排気部である。制御気体としては、窒素またはアルゴン等の不活性ガスが好ましく用いられるが、通常空気でもよい。」(段落【0018】)、
「【0025】ラドル装置10内に所定量の溶湯M1が汲み上げられた後、前記気体制御手段50の切換弁51,52を制御して容器本体11内を通常圧に戻す。ラドル装置10内に計量器(図示せず)等を設置して切換弁の制御を自動に行なうようにしてもよい。減圧による吸引状態から開放されることによって、外側管部20内の溶湯は溶湯汲み出し部70に自然流下し、一方、内側管部25および容器本体内部12内の溶湯M1は外側管部20の管上部22の堰(メタルダム)24によって堰き止められるので、そのまま残ってラドル装置10内に保持され、溶湯M1の収容が完了する。
【0026】溶湯M1を保持したラドル装置10は、図7の符号u1のようにB位置に上昇され、成型機90に向かって符号fのようにC位置まで前進する。図4はラドルのC位置状態を表すものである。ラドル装置10内に保持された溶湯M1は大気とほとんど接触することなく、また堰24によって逆流することがなく安全に移送できる。なお、溶湯M1の収容後のラドル装置10における制御弁51,52は同図のように閉状態にしておくのが好ましい。
【0027】・・・前記気体制御手段50の気体流出部41の切換弁51を閉じ、かつ気体流入部42の切換弁52を開き、気体給排気部53を作動して、容器本体内部12に制御気体を圧送する。容器本体内部12の加圧により、ラドル装置10内の溶湯M1は外側管部20の管上部22の堰(メタルダム)24を乗り超えて押し出され、外側管部20の管開口部21より成型機90の溶湯注入口91に注出される。」(段落【0025】?【0027】)が記載されている。

(5)甲第5号証:特開平6-320255号公報
(5a)「【請求項1】密閉した溶湯室の底部から立上がる出湯路の上端の出湯室と、この出湯室の底面の注湯口と、前記底部から立上がる受湯路の上端の受湯室と、前記底部に連通する溝形インダクタと、ガス導入管を介して前記溶湯室の溶湯にガスを加圧する加圧ガス制御装置とからなる加圧式注湯炉において、 前記注湯口にこれを開閉する棒状のストッパを設け、前記溝形インダクタの軸心を水平より下に45°ないし90°に向けて取付け、前記ガスを不活性ガスとし、前記溶湯室の溶湯の全量を排出するように前記加圧式注湯炉を傾動させる動力傾動装置を設けることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉。
・・・・・・・・・・
【請求項3】請求項1又は2記載の球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉において、前記出湯室及び前記受湯室をそれぞれ前記出湯路及び前記受湯路にフランジで着脱自在にすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品用の加圧式注湯炉。」(【特許請求の範囲】【請求項1】、【請求項3】)、
(5b)【実施例】として、図1が示されるとともに、「【0011】・・・図1は実施例の断面図である。図において、この加圧式注湯炉1は、密閉した溶湯室2の底部2aから立上がる出湯路3の上端の出湯室4と、この出湯室4の底面の注湯口5と、底部2aから立上がる受湯路6の上端の受湯室7と、底部2aに連通する溝形インダクタ8と、ガス導入管9を介して溶湯室2の溶湯10にガスを加圧する加圧ガス制御装置11とからなる。」(段落【0011】)、
「(6) 出湯室4及び受湯室7は、フランジ16a、16bで着脱自在であるから、MgOスラグが堆積したら交換して加圧式注湯炉1全体の寿命を長くできる。」(段落【0014】)が記載されている。

(6)甲第6号証:特開平5-293634号公報
(6a)「【請求項1】上部に、収容する融解金属の脱ガス、脱酸等の溶湯処理口を備える溶湯運搬炉本体と、該溶湯運搬炉本体に設けた収容溶湯の鋳込温度の保持手段と、前記溶湯処理口へ気密的に対設する閉塞蓋と、溶湯運搬炉本体に設けた溶湯収容口を兼ねた掃除口と、溶湯運搬炉本体に設ける密閉した炉本体の内部圧調整手段と、溶湯運搬炉本体に設け且つ内部圧の変化に伴う収容溶湯の取出し部とより構成することを特徴とした鋳造用等の溶湯運搬炉。」(【特許請求の範囲】)、
(6b)【作用】として、「【0006】・・・本発明の溶湯運搬炉を使用して融解金属からなる溶湯を運搬する場合は、溶湯運搬炉本体の溶湯収容口を開てこれより反射炉で融解された金属を投入し、所定量収容した後、電熱器等による鋳込温度の保持手段により溶湯の温度が下らないように温度保持をしながら、溶湯処理口より溶湯の脱ガス、脱酸等の溶湯処理を行ってから、前記溶湯収容口及び鉛湯処理口に密閉蓋を当てて気密的に閉塞するするもので、更に密封した溶湯運搬炉本体をクレーン、リフト、トラバーサーなどの移動手段によって鋳造機近傍に備えた手元炉へ運搬する。更に、溶湯運搬炉本体より溶湯を取出す場合は、溶湯運搬炉本体に設けた内部圧調整手段によって気密保持した炉本体の内部圧を高めて収容した溶湯を取出し部より前記手元炉へそのまま移し替へる。前記溶湯運搬炉本体の移動中は、炉本体は密封されているからとりべのように周囲が暑くならずトラバーサー等の移動手段は、特殊構成によるものでなくて一般的なものを使用できて、安全に搬送できる。」(段落【0006】)、
(6c)【実施例】として、図1?図3が示されるとともに、「【0009】溶湯運搬炉本体2の溶湯処理口1へ対設する閉塞蓋4は、周縁を有する断面皿形状として後端部を溶湯処理口1近傍に設けた軸10へ回動自在に取付けたハッチ形構成とし、又前端に設けたU状の係止部11へ起倒自在の係止金具12を係合させて前記軸10に螺合した緊締ハンドル13の螺合緊締により溶湯処理口1へ圧接させる。この圧椄部に設けたシール材14により気密閉塞を可能としてある。・・・
【0010】次に炉本体2の内部圧調整手段6は、コンプレッサ(図示省略)とこのコンプレッサからの圧搾空気を溶湯運搬炉本体2内へ供給する配管6aと、レギュレーターと、バルブと、緊急排気バルブとより構成し、溶湯運搬炉本体2の発熱体出入口9を利用して之に前記配管6aを取付け密閉状態の溶湯運搬炉本体2内の内部圧を高めて溶湯16を取り出すもので、この場合炉内の圧力計を確認しながらレギュレーターの圧力をゆっくり上昇させる。このとき炉内圧が0.1kg/cm2になると収容された溶湯は約400mm上昇し、0.2kg/cm2程で溶湯は取出し部7より出る。」(段落【0009】、【0010】)、
(6d)【効果】として、「溶湯の取出しに際ては加圧式によるため、傾動、ポンプアップ・・・に比べきわめて安全で作業性は良好となる。」が記載されている。

(7)甲第7号証:平成15年4月4日付手続補正書 (内容略)

(8)甲第8号証:平成15年9月8日付手続補正書 (内容略)

(9)甲第9号証:特公昭61-43153号公報
従来の加圧式注湯炉として、第1図が示されるとともに、「たとえば、第1図に示すように、室の底部と連通した受湯口1を有する密閉状の貯湯室2と、この貯湯室2の底部から上方に立上る導通路3を介して連通され、上方に開口4を有するとともに、底面6aに注湯ノズル口5を有する注湯室6とを備え、図示しない圧縮空気送給装置から、貯湯室2の上部に設けた空気管7を介して、該貯湯室2に貯留された溶湯8の湯面8aに所定の空気圧を印加して溶湯8を導通路3を介して注湯室6に送給し、該注湯室6の注湯ノズル口5から、鋳型9等に注湯をおこなうようにしたものが公知である。」(第1頁第1欄23行?第2欄7行)が記載されている。

(一)乙第1号証:管路・ダクトの流体抵抗出版分科会編「技術資料 管路・ダクトの流体抵抗」,昭和54年1月20日初版発行,昭和55年8月20日2刷発行,社団法人 日本機械学会,第25?32頁
ニクラッチェの実験結果について記載されている。

(二)乙第2号証:日本機械学会編「機械工学便覧 基礎編 応用編」,1987年4月15日新版発行,社団法人 日本機械学会,A5-73頁?82頁
レイノルズ数が一定以上になれば、管摩擦係数はレイノルズ数に無関係に相対粗さ「粗さε/内径d」のみの関数となることが記載されている。

[7]当審の判断
まず、本件発明3に対する理由2、理由4、理由5について検討する。

[7-1]理由4について
請求人は、発明の詳細な説明には、溶融金属の性状、容器の大きさ、形状、材質(特に表面粗さ)、加圧供給時における圧力、容器内における溶融金属の残量、液面までの高さといった種々のパラメータについての記載が不足しており、どのような条件で実施すれば、流路の有効内径の数値範囲「65mmから85mm」が好ましい範囲となるのか、発明の詳細な説明に開示されていないから、特許法第36条第4項の規定に違反する旨主張する(無効2006-80167号審判請求書第6頁32行?第7頁4行参照)。
しかしながら、流路の粘性抵抗が、溶融金属の性状、ライニングの材質、表面粗さ等、種々の要因により変動し、他方、溶融金属自体の重量やその影響が、金属の種類、流路の長さ(高さ)、流速等によって変わることが明らかであるから、流路の溶融金属の流れが上記の各パラメータの影響を受けないとはいえず、該各パラメータにより、上記流路の有効内径の好ましい範囲における溶融金属の流れ易さが変わらないとはいえないにしても、該各パラメータにより、上記流路の有効内径の好ましい範囲が大幅に変わり、該有効内径の好ましい範囲が、該各パラメータの特定の狭い範囲としか対応しないとする根拠はない。
そして、本件明細書、段落【0046】の、「本発明者等は、流路57及びこれに続く配管56の内径としては・・・65mm?85mm程度が好ましく、より好ましくは70mm?80mm程度、更には好ましくは70mmであることを見出した。・・・内径が65mmより小さいときには流路を流れる溶融金属はどの位置においても溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響を受けているが、内径が65mm以上となると流れのほぼ中心付近から内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め、その領域が次第に大きくなる。この領域の影響は非常に大きく、溶融金属の流れを阻害する抵抗が下がり始める。溶融金属を容器内から導出する際に容器内を非常に小さな圧力で加圧すればよくなる。・・・一方、内径が85mmを超えると、溶融金属自体の重量が溶融金属の流れを阻害する抵抗として非常に支配的となり、溶融金属の流れを阻害する抵抗が大きくなってしまう。」との記載により、流路の有効内径として、「65mm?85mm程度」において、溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響が比較的小さいため、溶融金属を導出する圧力を小さくできることが見出された旨述べられている。
そうすると、上記段落の記載によれば、流路の有効内径の上記数値範囲程度において、溶融金属を導出する圧力を比較的小さくできることが見出されたのであるから、上記数値範囲では、上記の各パラメータの通常用いられる範囲において、溶融金属を導出する圧力を大体において小さくできることが、実験等により確認できたものと解し得る。すなわち、流路の有効内径の上記数値範囲は、上記の各パラメータの通常用いられる範囲において、流路の有効内径と溶融金属を導出する圧力の関係において同圧力を比較的小さくするように働くことが確認された、好ましい流路の有効内径の範囲を意味するものと理解できる。また、上記の各パラメータは、溶融金属を供給する容器において通常用いられる範囲において、当業者が適宜に設定し得るものと解し得る。
そうであれば、上記のパラメータについての記載が発明の詳細な説明にないからといって、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が発明の詳細な説明に記載されていないとはいえず、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

したがって、本件発明3の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとすることはできない。

[7-2]理由2、理由5について
請求人は、本件発明3は、流路の有効内径のみを数値限定した発明であり、このような発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その数値範囲をとった場合に得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、当業者に理解できる程度に記載されるか、または、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数値範囲をとれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載されるべきであるところ、参考資料10第8?9頁の記載、及び同別紙第1?9頁の記載によれば、初期の設定条件次第では、本件発明3で限定された数値範囲の外である場合の方が、却って「出湯時間」が短くなり、本件特許明細書の記載に反する結果を奏することとなるので、流路の内径を数値限定したのみでは発明特定事項が明らかに不足しており、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである旨主張する(無効2005-80327号審判請求書第23頁参照)。
しかしながら、本件明細書、段落【0046】には、本件発明3における「流路の有効内径は、65mmより大きく、85mmより小さい」範囲に数値限定した技術的理由及びその効果について、次の記載がある。
「本発明者等は、流路57及びこれに続く配管56の内径としては・・・65mm?85mm程度が好ましく、より好ましくは70mm?80mm程度、更には好ましくは70mmであることを見出した。すなわち、溶融金属が流路や配管を上方に向けて流れる際に、流路や配管に存在する溶融金属自体の重量及び流路や配管の内壁の粘性抵抗の2つパラメータが溶融金属の流れを阻害する抵抗に大きな影響を及ぼしているものと考えられる。ここで、内径が65mmより小さいときには流路を流れる溶融金属はどの位置においても溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響を受けているが、内径が65mm以上となると流れのほぼ中心付近から内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め、その領域が次第に大きくなる。この領域の影響は非常に大きく、溶融金属の流れを阻害する抵抗が下がり始める。溶融金属を容器内から導出する際に容器内を非常に小さな圧力で加圧すればよくなる。・・・一方、内径が85mmを超えると、溶融金属自体の重量が溶融金属の流れを阻害する抵抗として非常に支配的となり、溶融金属の流れを阻害する抵抗が大きくなってしまう。本発明者等の試作による結果によれば、70mm?80mm程度の内径が容器内の圧力を非常に小さな圧力で加圧すればよく、特に70mmが標準化及び作業性の観点から最も好ましい。すなわち、配管径は50mm、60mm70mm、、、と10mm単位で標準化されており、配管径がより小さい方が取り扱いが容易で作業性が良好だからである。」
上記の記載によれば、本件発明3における、運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される容器のライニングに内在する溶融金属の流路の内径により、溶融金属自体の重量及び流路の内壁の粘性抵抗の2つのパラメータが変化し、該パラメータが溶融金属の流れに影響を及ぼし、溶融金属の流れを阻害する大きな抵抗にもなるので、該パラメータが溶融金属の流れを阻害しないように該流路の内径を設定することが好ましく、該流路の内径を「65mm?85mm程度」の範囲とすることが好ましいことが経験的、実験的に見出され、本発明者等の試作による結果によってその効果が確認されたものと理解できる。
そうすると、本件発明3における流路の有効内径を上記数値範囲としたこと自体の技術的な意味及び効果は、本件明細書の発明の詳細な説明に、上記の各パラメータの関係、及び作業性に基づいて説明されており、当業者にとって理解できないとはいえない。
また、請求人が上記の主張の根拠として提示した参考資料10第8?9頁及び同別紙第1?9頁に記載された、アルミニウム溶湯を取鍋から押し出すのに必要な圧力Hを求める「ニクラッチェの式」を用いた数式は、実際と乖離する範囲もあり、本件発明3における容器のライニングに形成された流路の溶融金属を押し出すために必要な圧力を正しく計算できるとは限らないので、該数式の計算結果のみをもって、本件特許の請求項3に係る発明で限定された数値範囲の外である場合の方が、却って「出湯時間」が短くなり、本件特許明細書の記載に反する結果を奏するとすることはできない。
また、請求人は、請求項3には、発明の詳細な説明において言及された「溶融金属自体の重量と粘性抵抗」については記載がなく、本件発明3を実施するために必要な具体的条件(圧送に必要な圧力と溶融金属自体の重量と粘性抵抗等)が請求項3に特定されていないので、発明特定事項が不足しており、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである旨主張する(無効2006-80167号審判請求書第7頁17?30行、第8頁26?30行参照)。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、溶融金属の圧送に必要な圧力、溶融金属自体の重量、粘性抵抗の大きさ等について具体的に記載されておらず、それらのパラメータの特定が、本件発明3に係る容器とするための必要不可欠な事項として記載されていない。そして、それらのパラメータが厳密に特定されなければ、本件発明3に係る容器の上記数値範囲において、本件発明3の容器の性能、効果が得られず、本件発明3を実施できないとする根拠はなく、上記[7-1]でも述べたように、本件発明3に係る容器の流路の有効内径以外の各パラメータは、溶融金属を供給する容器において通常用いられる範囲において、当業者が適宜に設定し得ること等を考慮すれば、上記のパラメータが請求項3に特定されていないからといって、本件発明3の発明特定事項が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるとはいえない。

したがって、本件請求項3の記載が本件明細書のサポート要件に適合していないとして、本件発明3の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとすることはできない。

以下、理由1、理由3について検討する。

[7-3]本件発明1について
(1)甲第1号証記載の発明
摘記事項(1a)?(1g)を総合すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「溶融金属を収納し、道路上を運行する運搬用車輌の荷台上に載置固定して公道などの一般道路を通って使用先の工場まで搬送し、該工場に着後はフオークリフトにより該工場の保持炉、或は鋳型等まで配送する密閉型の溶融金属運搬用取鍋であって、
上記取鍋の側壁及び底面に外殻鉄皮を設け、
該外殻鉄皮の内側には内張耐火材を内張りし、
該外殻鉄皮と該内張耐火材の間には断熱材を介挿し、
上記側壁の内張耐火材を貫通して、取鍋内の空間に収納された溶融金属に浸漬する側壁内面側の中段部から取鍋上面側の露出部の注湯口まで溶融金属の流路が延び、該流路と該取鍋内の空間との間には、該取鍋上面側の露出部まで該内張耐火材の内張りが設けられ、上記断熱材は介挿されておらず、
上記流路が設けられた上記側壁の部分が、該流路が設けられた分だけ溶融金属を収納する空間から突き出ており、
上記取鍋の上面部を覆うように配置され、ほぼ中央に小径の受湯口を有する蓋と、該蓋の受湯口に開閉可能に設けられた受湯口小蓋を具備する溶融金属運搬用取鍋。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)

(2)本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比
(2-1)(ア)甲第1号証記載の発明における「溶融金属を収納し、道路上を運行する運搬用車輌の荷台上に載置固定して公道などの一般道路を通って使用先の工場まで搬送し、該工場に着後はフオークリフトにより該工場の保持炉、或は鋳型等まで配送する密閉型の溶融金属運搬用取鍋」において、上記「運搬用車輌・・・フオークリフト」は「運搬車輌」に該当し、上記「使用先の工場・・・の保持炉、或は鋳型等」は溶融金属の「ユースポイント」に該当し、上記「運搬用車輌の荷台上に載置固定して公道などの一般道路を通って・・・搬送し、・・・フオークリフトにより・・・保持炉、或は鋳型等まで配送する」とは、「運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される」ことに他ならない。また、上記「密閉型の溶融金属運搬用取鍋」は、密閉型の「溶融金属を収容することができ、・・・ユースポイントまで搬送される容器」に他ならない。
(イ)甲第1号証記載の発明における「外殻鉄皮」、「取鍋内の空間」、「該流路と該取鍋内の空間との間」は、それらが内外の圧力差を調節する容器の構成ではないにしても、溶融金属搬送用の容器の構成として共通するものであり、夫々本件発明1における「フレーム」、「容器内の溶融金属が貯留される空間」、「前記流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーン」に相当する。
(ウ)甲第1号証記載の発明における「内張耐火材」及び「断熱材」は、どちらも溶融金属搬送用の容器のライニングといえるところ、それらの材質については、「本体20の胴部断熱材14に断熱性ボード、内張耐火材15にはアルミノホウ酸を含有する耐食性キャスタブル・・・をそれぞれ使用した。」と記載されており(摘記事項(1f)参照)、「断熱材」については「断熱性」の「断熱性ボード」を使用する記載がある一方、「内張耐火材」については「断熱性」の材料を使用する記載はなく、また、加熱装置を備えていない取鍋の態様では(摘記事項(1b)(1d)参照)、配送中溶融金属を溶融状態に保持するに足る熱量を「内張耐火材」中に蓄えるとともに、該熱量が外側に逃げないように、「断熱材」で効率的に断熱する必要があることを勘案すれば、該「断熱材」が該「内張耐火材」より低い熱伝導率を有するべきであることは明らかであるから、上記取鍋の「内張耐火材」、「断熱材」は、夫々本件発明1における「第1の熱伝導率を有する第1のライニング」、「第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニング」に相当する。
(エ)甲第1号証記載の発明における「側壁の内張耐火材を貫通して、取鍋内の空間に収納された溶融金属に浸漬する側壁内面側の中段部から取鍋上面側の露出部の注湯口まで、溶融金属の流路が延び、」とは、側壁の内張耐火材(第1のライニング)が、側壁内面から取鍋上面側の露出部まで溶融金属の流路を内在している形態に他ならず、同じく「該流路と該取鍋内の空間との間には、該取鍋上面側の露出部まで該内張耐火材の内張りが設けられ、上記断熱材は介挿されておらず、」とは、同側壁の内張耐火材(第1のライニング)が、流路と取鍋内の空間との間(流路と容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーン)に、該取鍋上面側の露出部まで充填されていることに他ならない。
(オ)甲第1号証記載の発明における取鍋は、該取鍋の上面部を覆うように配置され、ほぼ中央に小径の受湯口を有する蓋と、該受湯口に開閉可能に設けられた受湯口小蓋を具備しており、該蓋が取鍋本体のフランジ部に締着されていて頻繁に開閉することができないとみられる一方、該受湯口小蓋は、該取鍋の上面部にあって、該蓋の受湯口に蝶番により開閉自在に取付けられており、溶湯を該取鍋内に供給する毎に開閉され、開口部を完全に密閉できるものであるから、所謂ハッチといえる(摘記事項(1c)?(1e)参照)。また、上記蓋が取鍋の上面部を覆うように配置され、該蓋のほぼ中央の受湯口を開閉するように該受湯口小蓋が設けられているのであるから、該受湯口小蓋は、つまりは該取鍋上面部の中央に設けられていることになる(摘記事項(1g)、第6?8図参照)。

(2-2)そうすると、両者は、
「溶融金属を収容することができ、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、
前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、を有し、
前記第1のライニングは、容器上面側の露出部まで溶融金属の流路を内在し、当該流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで充填され、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられるハッチを有し、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられている容器。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点A:本件発明1では、容器が、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能であるのに対し、甲第1号証記載の発明では、そのように記載されていない点。

相違点B:本件発明1では、第1のライニングが、容器内底部に近い位置から溶融金属の流路を内在しているのに対し、甲第1号証記載の発明では、取鍋内の溶融金属に浸漬する側壁内面側の中段部から溶融金属の流路が延びている点。

相違点C:本件発明1では、配管を有し、該配管は、容器上面側の露出部の流路に接続され、先端の出入口が下向きであるのに対し、甲第1号証記載の発明では、該配管に相当するものが見当たらない点。

相違点D:本件発明1では、第2のライニングは、流路からみて容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ流路を内在する第1のライニングの外側に配されているのに対し、甲第1号証記載の発明では、そのように記載されていない点。

相違点E:本件発明1では、ハッチは、容器の内外を連通し、溶融金属を供給する際に容器内を加圧するための貫通孔が、該ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのものであるのに対し、甲第1号証記載の発明では、そのように記載されていない点。

(2-3)そこで、まず相違点Aについて検討する。
被請求人は、第2答弁書において、本件発明1では、容器の内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能であるから、該容器の密閉性は、その「気密性」を意味し、甲第1号証記載の発明における傾動式取鍋の湯こぼれを防ぐ密閉性とは相違しており、また、本件発明1における容器の上記圧力差に耐えるフレームも、甲第1号証記載の発明における傾動式取鍋の外殻鉄皮とは相違する旨主張するので、ここで、それらの点も併せて検討する。

一般的に、溶融金属の注湯炉には注湯方式として加圧式、傾動式、電磁ポンプ式などがあり、そのうち注湯精度、電力消費の面から加圧式が有利であることが、甲第2号証(摘記事項(2c))に記載されており、また、溶湯運搬炉の溶湯の取出しを加圧式にすると、傾動、ポンプアップ等に比べきわめて安全で作業性は良好となることが、甲第6号証(摘記事項(6d))に記載されており、さらに次の周知文献1?3にも、同様の記載がある。

周知文献1:特開平8-20826号公報(本件明細書中に提示された従来例)
「【0002】・・・鋳造装置の保持炉へ取鍋を傾動させて配湯したり、大型鋳物の場合等は直接鋳型への注湯を取鍋を傾動させておこなっている。
【0003】このため従来の真空脱ガス法においては、取鍋への注湯時や運搬中および溶湯使用装置部における注湯時などに、溶湯の大気との接触や大気の巻込みにより、溶湯が酸化しやすく、また溶湯が大気中の水素ガスを吸収しやすく(特に高湿度のとき著しい)、折角脱ガスをおこなっていながら溶湯品質が劣化し、鋳造製品中に気泡が発生して強度が低下するという問題があった。・・・
【0004】【発明が解決しようとする課題】この発明は上記従来の問題点を解決するもので、溶湯の取鍋内への注湯から真空脱ガス後の溶湯の溶湯使用装置への配湯までの間における、溶湯の大気との接触や大気の巻込みを減らして、溶湯の品質向上および真空脱ガスの生産性向上をはかることができ、・・・
【0005】【課題を解決するための手段】この出願の第1の発明の真空脱ガス方法は、取鍋本体に被せた蓋を貫通するスト-クをそなえた密閉式の取鍋の前記スト-クと溶解炉とを吸湯管により接続し、前記取鍋内を減圧して前記溶解炉内の溶湯を前記取鍋内に吸引し、前記溶湯を所定量吸引後密閉した前記取鍋内を減圧して該溶湯の真空脱ガスをおこなったのち、前記取鍋内に酸化防止用ガスを封入した状態で前記取鍋の運搬をおこない、溶湯使用装置と前記スト-クとを配湯管により接続し、前記取鍋内に加圧ガスを送入して前記溶湯を前記溶湯使用装置に加圧配湯する」(段落【0002】?【0005】)

周知文献2:実願昭63-130228号(実開平2-53847号)のマイクロフイルム
鋳造用取鍋において、従来「取鍋から鋳造機用保持炉への溶湯が取鍋を傾動させて行うため、溶湯中への水素ガスの吸収及び酸化物の発生を招きやすい。」(3頁12?14行)のを、「容器本体には・・・加圧用ストップバルブ10(第1図(a)、第1図(e))、・・・を取り付けてある。」(7頁15?18行)容器を用いて、「容器本体内部に加圧をすれば、給湯パイプを介して溶湯は鋳造機用保持炉へ給湯される(第2図参照)。」(8頁8?10行)、「溶湯を大気に触れることなく静かに給湯でき、水素の吸収、酸化物の発生を減少させることができる。」(8頁18?20行)

周知文献3:実願平1-89474号(実開平3-31063号)のマイクロフイルム(請求人提出の平成18年3月23日付上申書「乙第2-5号証」)
溶湯の移湯装置として、〔考案が解決しようとする課題〕欄に、「移湯取鍋の傾注容器移湯方式は、移湯取鍋の傾注時の溶湯飛散による不安全作業であるとか、溶湯の激流でガスの巻き込みにより、・・・品質不良が発生する。」(3頁7?12行)のを、「移湯密閉取鍋内の溶湯を、車載の加圧装置である過給器の加圧力によって押し上げ、保持炉に加圧静流移湯することにより解決しようとするものである。」(4頁7?10行)

以上のとおり、溶融金属の注湯炉、取鍋、移湯装置において、注湯方式として、傾動式よりも加圧式の方が注湯精度、安全性、作業性、溶湯の品質上優れていることは、本件の優先権主張日前周知の事項であるから、甲第1号証記載の発明の溶融金属運搬用取鍋において、より注湯精度、安全性、作業性、溶湯の品質を向上させるために、注湯方式として加圧式を採用しようとすることは、当業者ならば当然に試みることである。
また、甲第4号証には、金属溶湯を収容し、成型機に搬送して注湯するための、「移動、昇降ならびに前方向へ傾動可能に構成された容器本体と、前記容器本体の前部に該容器本体の底部より下方に位置する管開口部から該容器本体上部に亘って形成された外側管部と、前記外側管部と連続してその管上部から前記容器本体下部に亘って形成された内側管部と、前記内側管部の管下部に形成され容器本体内部と連通する連通部と、前記容器本体に形成された気体流出入部を介して該容器本体内部を減圧しまたは加圧するための気体制御手段とを有する・・・金属溶湯のラドル装置」(摘記事項(4a))が記載されており、該ラドル装置では、金属溶湯を収容し、成型機に搬送して注湯するために、容器本体上部に気体流出入部を形成し、該気体流出入部を介して該容器本体内部を減圧または加圧することにより、該容器本体内部へ金属溶湯を収容し、または該容器本体外部へ金属溶湯を供給することを可能とし(摘記事項(4c)参照)、さらに、上記の収容または供給のため、容器本体下部に内側管部の管下部と連通する連通部を設け、該連通部から該内側管部を該容器本体上部まで延ばし、該内側管上部から下方に延びる外側管部を連続して設けることも記載されている(摘記事項(4a)(4c)参照)。
してみると、甲第1号証記載の発明における溶融金属運搬用取鍋の注湯精度、安全性、作業性、溶湯の品質を向上させるべく、甲第4号証に記載されたラドル装置と同様の気体流出入部を該取鍋の上部に設け、内外の圧力差を調節することにより、該取鍋の内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することを可能とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

また、容器の内外の圧力差を調節することにより、該容器の内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給するためには、該容器の密閉性をその圧力差を維持できるような気密性とし、外殻鉄皮を同圧力差に耐えられるような耐圧性とする必要があることは自明であり、上記周知の注湯炉、取鍋、移湯装置においても、加圧注湯のために同様の気密性、耐圧性が与えられていることは明らかであるから、上記取鍋に内外の圧力差を調節する方式を採用するに際し、該取鍋を上記の気密性とし、上記の耐圧性とすることは単なる設計的事項にすぎない。

(2-4)次に、相違点Bについて検討する。
甲第4号証には、金属溶湯を収容し、成型機に搬送して注湯するラドル装置の容器本体上部に気体流出入部を設け、該気体流出入部を介して該容器本体内部を減圧しまたは加圧することにより、該容器本体内部へ金属溶湯を導入しまたは該容器本体外部へ金属溶湯を供給するものにおいて、該容器本体下部に内側管部の下部と連通する連通部を配置することが記載されており(摘記事項(4a)(4c)参照)、該連通部の配置により、容器本体下部の金属溶湯も加圧により導出し得るので、加圧注湯方式において、該連通部の配置が望ましいことは明らかであり、また、甲第2号証(摘記事項(2e)参照)、甲第3号証(摘記事項(3b)参照)にも同様の記載があるように、加圧注湯方式において上記連通部の配置とすることは、本件の優先権主張日前周知の事項である。
そうすると、甲第1号証記載の発明における溶融金属の流路を取鍋内の底部で連通させること、すなわち、本件発明1の容器のように、第1のライニングが容器内底部に近い位置から溶融金属の流路を内在する形態とすることは、該取鍋に上記相違点Aに係る内外の圧力差を調節する方式を採用することに伴い、当業者が容易に想到し得る事項である。

(2-5)次に、相違点Cについて検討する。
甲第4号証には、金属溶湯を収容し、成型機に搬送して注湯するラドル装置の容器本体上部に気体流出入部を形成し、該気体流出入部を介して容器本体内部を減圧または加圧することにより、該容器本体内部へ金属溶湯を導入し、または該容器本体外部へ溶融金属を供給することを可能とすることに併せて、該容器本体下部から延びる内側管部上端に、そこから下方に向かう外側管部を設けることが記載されており(摘記事項(4a)(4c)参照)、該外側管部により、容器本体内への金属溶湯の導入、及び容器本体外への金属溶湯の供給をし易くしている。
また、甲第3号証にも、鋳込み装置の圧力室の下部から立上がる注出室の上端にサイフォンを接続して、注出室を出る金属融解体の流れを下向きにするものが記載され(摘記事項(3a)(3b)参照)、また、甲第5号証にも、加圧式注湯炉の溶湯室の底部から立上がる出湯路の上端に、下向きに注湯する出湯室を着脱自在に接続するものが記載されているように(摘記事項(5b)参照)、加圧式注湯装置の下部から立上がる溶湯の流路の上端に下向きの配管を接続することは、本件の優先権主張日前周知の事項である。
なお、被請求人は、第2答弁書において、甲第4号証のラドル装置の外側管部と内側管部は一体に形成されているので、取り付けて接続することはできず、また、甲第3号証のサイフォン、甲第5号証の出湯室は公道を介して搬送できない旨主張するが、配管と流路を一体に形成するか別体に形成して接続するかは、当業者が設計上適宜に選択し得ることであるし、また、該配管を公道を介して搬送し得るものとすることは、当業者が適宜に設計し得る事項である。
そうすると、甲第1号証記載の発明における取鍋上面側の露出部の注湯口に下向きの配管を接続することは、該取鍋に上記相違点Aに係る内外の圧力差を調節する方式を採用することに伴い、当業者が容易に想到し得る事項である。

(2-6)次に、相違点Dについて検討する。
甲第2号証には、貯湯室1と反対側の出湯路3のライニングの外側に、貯湯室1の側面及び底面のライニングと同様、第2のライニングを設けている一方、出湯路3と貯湯室1との間のライニングには、該第2のライニングを設けていない溝形誘導炉が記載されており(摘記事項(2f)参照)、該第2のライニングは、下記周知文献4?7の各炉の、同様の箇所に設けられている断熱層と同様のものと解される。
上記のように甲第2号証に記載されている他、下記周知文献4?7にも同様のライニングの構造がそれぞれ記載されているように、炉内溶湯貯留部と反対側の流路のライニングには断熱層を設ける一方、該流路と炉内溶湯貯留部との間を仕切るライニングには断熱層を設けないことは、本件の優先権主張日前周知の事項である。

周知文献4:特開昭54-121205号公報
「第2図は・・・下部発熱室13が上部溶解室12の下部側面に接合される分離構造の場合の一例を示すもので、12は上部溶解室、13は下部発熱室を示し、上部溶解室12は鉄製ケース14、断熱材15、ライニング壁16及びライニング金枠17からなり、」との記載(第2頁右上欄7?12行)及び第2図により、上部溶解室の流路の溶湯貯留部とは反対側のライニングには断熱材層を設けるが、該流路と溶湯貯留部との間を仕切るライニングには断熱材層を設けないことが開示されている。

周知文献5:特開平5-264175号公報
「【0018】一方、前記バス部12は、金属製の外殻体14の内側に、断熱れんが層15及び耐火れんが層16を配すると共に、最内面に耐火ライニング17を施して構成されている。この耐火ライニング17は、不定形耐火物例えば乾式の高アルミナ質耐火物を緻密状態に充填して構成されており、また、施工時にバーナー等により加熱,焼結されて表面部に強固な焼結層が形成されている。
【0019】そして、前記バス部12の上部外周部には、外部からバス部12内に溶湯を注ぎ入れるための受湯口部18が設けられている。そして、これと共に、前記耐火ライニング17内には、その受湯口部18から注がれた溶湯をバス部12内に導く溶湯通路19が斜め方向に貫通するように延びて設けられている。この場合、溶湯通路19は断面円形をなし、図1などにも示すように、その下端の開口部19aが、バス部12内部の溶湯溜り部と連通している。」との記載(段落【0018】、【0019】)及び図1?図5により、溝型誘導炉における溶湯通路の溶湯溜り部とは反対側のライニングには断熱れんが層を設けるが、該溶湯通路と溶湯溜り部との間のライニングには断熱れんが層を設けないことが開示されている。

周知文献6:特開平6-15439号公報
「【0012】【実施例1】中子1と、外型2との間隙内に、セラミックス粉末を水練りした材料を充填してセラミックス内槽3を形成し、これを350℃?400℃で30?40時間通風乾燥する。前記により、セラミックスが固化したならば、脱型し、逆転(底を上にする)した後、外側壁にセラミックスペーパー4を全面に添着する。ついで外側壁と所定の間隙をおいて断熱板5を設置し、断熱板5と、前記セラミックスペーパー4との間に無機質粒子又は無機質繊維よりなる分離層6を層着し、前記断熱板5の外側へ鉄板7を添接し、更にスペーサー8(例えば格子状)を介して外装鉄板9を被着する。」との記載(段落【0012】)及び図1?図3により、セラミックス内槽の外側には断熱板を設けるが、セラミックス内槽内の流路を仕切るライニングには断熱板を設けないことが開示されている。

周知文献7:特開昭49-67834号公報
「前記坩堝3は普通のように突固めセラミツク物質から成り、かつその外側では、・・・通常の形式で例えばシヤモツト製の耐火ライニング9で被覆されており、次いでその外側には付加的に、特に有効な断熱性絶縁層9aを有し、該絶縁層は例えば耐火軽煉瓦製である。注ぎ口5の内部の突固め物質内には円形横断面を有する1つの閉じられた直線的な通路10が穿設されていて、」との記載(第5頁左下欄20行?右下欄10行)及びFIG.1、FIG.2により、保熱炉の通路の金属溶湯浴とは反対側のライニングには断熱性絶縁層を設けるが、該通路と金属溶湯浴との間を仕切る突固め物質のライニングには断熱性絶縁層を設けないことが開示されている。

上記周知のライニングの構造では、流路と炉内溶湯貯留部との間を仕切るライニングには断熱層が設けられておらず、該ライニングを介して炉内溶湯貯留部の熱が流路に伝熱される一方、流路からみて炉内溶湯貯留部と反対側のライニングには断熱層が設けられて断熱されており、該伝熱と断熱とにより該流路が保温されていることは明らかである。また、甲第1号証記載の発明における溶融金属搬送用取鍋も、上記周知のライニングの構造と同様、流路と取鍋内の溶融金属を収納する空間との間には断熱材は介挿されておらず、内張耐火材のみが充填されているので、該内張耐火材の溶融金属に浸漬する部分、乃至溶融金属の揺動等によりそれと接触する部分では、該内張耐火材の断熱材よりも高い熱伝導率により、溶融金属の熱が流路に伝熱されていることは明らかである。
そこで、該取鍋に上記周知のライニングの構造と同様の断熱層を設ければ、該断熱層による断熱と上記伝熱とにより該取鍋の流路も同様に保温できることは自明である。
してみると、甲第1号証記載の発明の溶融金属搬送用取鍋において、該取鍋に上記相違点Aに係る内外の圧力差を調節する方式を採用し、上記相違点Bに係る溶融金属の流路を該取鍋内の底部で連通させることに伴い、流路からみて取鍋内の溶融金属を収納する空間とは反対側に断熱材を介挿して断熱することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2-7)次に、相違点Eについて検討する。
甲第1号証記載の発明における溶融金属運搬用取鍋は、該取鍋上面部に、ほぼ中央に小径の受湯口を有する蓋と、該受湯口に開閉可能に設けられた受湯口小蓋を具備しており、該受湯口小蓋は、取鍋上面部の中央に設けられたハッチであるといえる(上記(2-1)(オ)参照)。
また、上記受湯口小蓋は、上記蓋のほぼ中央の受湯口上に載置され、該蓋より高いほぼ中央の位置にあるので、該蓋より溶融金属面から離れており、取鍋上面部において該蓋よりも溶融金属の到達し難い位置にあることが明らかである(摘記事項(1g)、第6?8図参照)。
また、上記(2-3)で述べたように、甲第1号証記載の発明における溶融金属運搬用取鍋の注湯精度、安全性、作業性、溶湯の品質を向上させるべく、甲第4号証に記載されたラドル装置と同様の気体流出入部を該取鍋の上部に設け、内外の圧力差を調節することにより、該取鍋の内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することを可能とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
ここで、上記ラドル装置と同様の気体流出入部を該取鍋の上部に設けることとは、甲第1号証記載の発明における取鍋の上部には蓋が設けられ、また、該蓋のほぼ中央の受湯口上に受湯口小蓋が設けられているのであるから、該蓋、該受湯口小蓋等に、上記ラドル装置の気体流出入部に相当する貫通孔を設けることに他ならず、該受湯口小蓋に該貫通孔を設ける態様を含むものといえる。

そこで、該受湯口小蓋に該貫通孔を設ける態様について検討するに、溶融金属を収容する容器上面部に開閉自在に設けられる蓋の中央から少しずれた位置に、該容器内部を加圧して溶融金属を該容器外に取り出すための貫通孔を設けることは、前掲の周知文献1、下記周知文献8、9に、それぞれ下記のとおり記載されているように、本件の優先権主張日前周知の事項である。

前掲の周知文献1:特開平8-20826号公報
「【0018】【実施例】以下図1乃至図4によりこの発明の一実施例を説明する。図1および図2において1は、取鍋本体2に蓋3を密閉開放自在に被せた密閉式の取鍋である。」、
「【0020】蓋3には、該蓋を貫通して、下端部が取鍋本体2の上部空間2a(詳しくは取鍋本体2内の溶湯40の上面と蓋3の内面との間)に開口する排気管31と給気管32が固設してある。」、
「【0024】取鍋1をフォークリフト等により運搬し、図4に示すように溶湯使用装置である鋳造装置の保持炉71の近傍へ、取鍋1を置く。」、
「【0026】そして開閉弁36を開き、窒素ガスを取鍋1内に挿入して該取鍋1内をたとえば0.1?0.5Kgf/cm2程度に加圧し、該取鍋1内の溶湯40を配湯管91を経て保持炉71のるつぼ74内に配湯する。」と記載されるとともに、図1?5には、蓋3の中央から少しずれた位置に給気管32を設けている点が示されている。

周知文献8:特開平1-262062号公報(請求人提出の平成18年3月23日付上申書「乙第2-4号証」)
「断熱箱26底部外面の各隅部に車輪29が取付けられ、各車輪29を介して溶湯保温炉23を移動することができる。炉蓋30は、溶湯保温炉23に対し着脱自在であって・・・開口部24を密閉することができる。」(第3頁左下欄3?10行)、
「また炉蓋30の中央部近傍に、それを貫通して加圧ガス用導入管(搬出管を兼ねる)37が立設され、・・・導入管37からのガス圧が溶湯mの表面に作用すると、その溶湯mは給湯管32を通じて保持炉3に流入し、」(第3頁右下欄14行?第4頁左上欄5行)と記載されている。

周知文献9:実願昭60-139738号(実開昭62-50860号)のマイクロフイルム(同上申書「乙第2-3号証」)
「受湯室を小蓋で気密に覆い、前記湯室と前記受湯室とに送圧管を介して圧力制御装置を接続したことを特徴とする加圧式注湯炉。」(実用新案登録請求の範囲6?8行)、
「受湯室22の外側に移動式の小蓋23を気密フランジにて・・受湯室用送圧管12bに分岐せしめ湯室側と受湯サイフォン側を同時に加圧する」(第4頁下から4行?第5頁1行)と記載されるとともに、第1図には、小蓋23の中央から少しずれた位置に受湯室用送圧管12bを接続した点が示されている。

また、上記周知技術を用いた各容器の蓋の開放時には、貫通孔の内側部分が外側に露出し、該内側部分の金属の付着状況等が確認でき、該内側部分の付着物を取り除いて貫通孔の詰まりを解消し得ることは自明である。
また、容器の貫通孔に溶融金属が到達すれば、該溶融金属の漏れや、該溶融金属の固化による該貫通孔の詰まりが生じることにもなるので、該貫通孔をできるだけ容器の溶融金属が到達しない場所に設けるのが望ましいことは技術常識といえるところ、甲第1号証記載の発明における受湯口小蓋の方が蓋より溶融金属が到達し難い位置にあることは、上述したとおりである。
そうすると、該受湯口小蓋に貫通孔を設ければ、溶融金属の漏れ、溶融金属の付着を抑制でき、さらに、該小蓋の開放時には、該小蓋内側の溶融金属の付着状況を確認でき、取り除くことができて、貫通孔の詰まりを未然に防止できることも当業者であれば普通に予測し得ることであるから、該受湯口小蓋に貫通孔を設ける態様を採用することに、別段の困難性があったとはいえない。
また、上記相違点Aに係る内外の圧力差を調節する方式を上記取鍋に採用するに際し、上記受湯口小蓋を閉じたときに、該取鍋の内外の圧力差を維持できるように、気密を確保する必要があることは自明であり、上記周知技術を用いた各容器においても、同様の気密が確保されていることは明らかであるから、上記受湯口小蓋を閉じたときに上記の気密を確保することは単なる設計的事項にすぎない。
また、溶融金属を収容し、該溶融金属の供給、処理等を行う容器内に溶融金属を導入するに先立ち、容器上面部の蓋を開けてガスバーナを容器内に挿入し、該容器を予熱することは、前掲の周知文献2、下記周知文献10?12にそれぞれ下記のとおり記載されているように、本件の優先権主張日前周知の事項であるから、甲第1号証記載の発明における取鍋を同様に予熱するために、該取鍋の上面部に開閉自在に設けられている受湯口小蓋を、該取鍋内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて該取鍋の予熱を行うためのものとすることは、当業者が設計上適宜に採用し得ることである。

前掲の周知文献2:実願昭63-130228号(実開平2-53847号)のマイクロフイルム
「受湯口4は取鍋予熱用ガスバーナの予熱口を兼用しており、受湯前には受湯口4から容器本体をガスバーナ等にて予熱する。・・・
まず、予熱用ガスバーナにより予熱口4から容器本体を予熱する。
容器本体を予熱後、反射炉等からの受湯を行い、」(第7頁19行?第8頁6行)と記載されるとともに、第1図(a)?(e)に上記の取鍋が図示されている。

周知文献10:特開昭59-113967号公報
「この発明は冶金業で用いられているいわゆる鍋の乾燥加熱装置に関するもので、鍋の内張耐火物の乾燥、昇温を平均にかつ熱効率よく短時間で完了し得る・・・
いわゆる鍋とは・・・溶銑鍋、溶鋼取鍋、タンディッシュ等があり、・・・非鉄金属業においても多く使用されている。」(第1頁右下欄6?15行)、
「耐火物中の水分を充分に除去してから再使用しなければならない。また水分の除去に加えて内張耐火物を加熱して鍋内の温度を昇温してから溶融金属を受入れる」(第2頁左上欄7?10行)、
「鍋の乾燥加熱は、鍋蓋6で頂部を密閉したのちバーナー7でCガス等の燃料を燃焼させ下向きに燃焼ガスを噴出させ、」(第2頁右上欄8?10行)、
「このような不均一加熱を改善するために第2図に示すようにバーナー7を昇降可能にして下部に降して燃焼する」(第2頁左下欄11?13行)、
「鍋底近くに位置させた加熱用バーナーから上の空間部の大部分を、通気性ある耐熱金属かセラミックで製作した鍋状の容器(・・・)で囲いその上方開口部を鍋蓋に向けて圧着させたもので、」(第2頁右下欄4?9行)と記載されるとともに、第1図?第3図に上記の装置が図示されている。

周知文献11:特開昭61-60261号公報
「溶融金属を注入するに先立って取鍋を加熱・昇温しており、・・・
第3図に示す取鍋加熱装置は、・・・取鍋1の上端開口部を塞ぐ蓋2の中心部に、加熱用バーナ3を垂直下方に向けて取付け、」(第1頁右下欄末行?第2頁左上欄7行)と記載されるとともに、第3図に上記の装置が図示されている。

周知文献12:実願昭60-112347号(実開昭62-20744号)のマイクロフイルム
「第1図では真空蓋の上部に取鍋予熱用バーナーを取付けるとともに、真空蓋に備わる接続管と集塵配管とを接続し燃焼ガスを排気する。取鍋予熱終了後真空蓋からバーナーを取り外すとともにめくら蓋を取付け真空蓋としての気密性を確保する。そして第2図のように受鋼した取鍋上に従来通り真空蓋として被せ真空脱ガス処理を実施する。」(第3頁1?7行)と記載されるとともに、第1図、第2図に上記の装置が図示されている。

してみると、甲第1号証記載の発明における取鍋の注湯精度、安全性、作業性、溶湯の品質を向上させるべく、甲第4号証に記載されたラドル装置の気体流出入部と同様の貫通孔を該取鍋の上部に設け、内外の圧力差を調節することにより、該取鍋の内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給できるようにすることに伴い、上記取鍋上面部の開閉自在な受湯口小蓋の中央から少しずれた位置に上記貫通孔を設けるとともに、該受湯口小蓋を閉じたときに該取鍋の上記の気密を確保し得る密閉性のものとし、且つ、該受湯口小蓋を、該取鍋内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、相違点A、B、C、D、Eに係る本件発明1の特定事項によってもたらされる効果も、甲第1?6号証の記載、及び上記周知技術から普通に予測し得る程度のものであって、格別なものは認められない。

(3)したがって、本件発明1は、甲第1?6号証に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[7-4]本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の「容器」の構成を全て含み、さらに「第1のライニングは、前記容器内の溶融金属が貯留される空間から前記流路への熱伝導が促進されるように充填されていること」を限定した発明である。
そして、本件発明2と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の相違点は、「[7-3]本件発明1について」の項において述べた相違点A、B、C、D、Eに加え、上記のさらに限定した点でも一応相違する。
しかしながら、甲第1号証記載の発明でも、溶融金属の流路と取鍋内の空間との間には、取鍋上面側の露出部まで、本件発明1の第1のライニングに相当する内張耐火材の内張りのみが設けられ、同第2のライニングに相当する低い熱伝導率を有する断熱材は介挿されておらず、該内張りは、断熱材よりも高い内張耐火材の熱伝導率により、溶融金属が収納される取鍋内の空間から溶融金属の流路への熱伝導が促進されるように充填されているといえるので、上記の点は、甲第1号証記載の発明と実質的な相違点を構成しない。
そして、相違点A、B、C、D、Eについては、いずれも先に検討したとおりであり、甲第1号証記載の発明の溶融金属搬送用取鍋において、相違点Aに係る内外の圧力差を調節する方式を採用するとともに、相違点B、C、D、Eに係る各構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、本件発明2は、本件発明1と同様、甲第1?6号証に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[7-5]本件発明3について
本件発明3は、本件発明1、2のどちらかの「容器」の構成を全て含み、さらに「流路の有効内径は、65mmより大きく、85mmより小さいこと」を限定した発明である。
そして、本件発明3と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の相違点は、「[7-3]本件発明1について」の項において述べた相違点A、B、C、D、Eに加え、次の点でも相違する(以下、「相違点F」という。)。
相違点F:本件発明3では、流路の有効内径は、65mmより大きく、85mmより小さいのに対し、甲第1号証記載の発明では、流路の有効内径は特定されていない点。

そこで、まず相違点Fについて検討する。
相違点Fは、流路の有効内径について数値限定を行ったものであり、本件明細書、段落【0046】の、「内径が65mmより小さいときには流路を流れる溶融金属はどの位置においても溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響を受けているが、内径が65mm以上となると流れのほぼ中心付近から内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め、その領域が次第に大きくなる。この領域の影響は非常に大きく、溶融金属の流れを阻害する抵抗が下がり始める。溶融金属を容器内から導出する際に容器内を非常に小さな圧力で加圧すればよくなる。・・・一方、内径が85mmを超えると、溶融金属自体の重量が溶融金属の流れを阻害する抵抗として非常に支配的となり、溶融金属の流れを阻害する抵抗が大きくなってしまう。」との記載により、流路の有効内径を上記の範囲とすることのみにより溶融金属を導出する圧力を小さくできることが述べられているので、上記有効内径の範囲は、溶融金属の性状、容器の大きさ、形状、材質、加圧供給時における圧力、容器内における溶融金属の残量、液面までの高さ等のパラメータに係わりなく、該有効内径と溶融金属を導出する圧力のみの関係において設定されたものと解し得る。
すなわち、流路の内径を大きくするにつれ、流路の内壁の粘性抵抗の影響をほとんど受けない領域が生じ始め、その領域が次第に大きくなる一方、溶融金属自体の重量が溶融金属の流れを阻害する抵抗となることから、内径65mmから85mmの間において、比較的小さな加圧力で溶融金属を導出することが可能となることを見出したものであり、本件発明3は、流路の有効内径を上記の範囲に規定するものである。
しかしながら、流路の有効内径が大きくなるにつれ、該流路の内壁の粘性抵抗の影響が弱まり流体が流れ易くなり、流体を流すための加圧力を小さくできる反面、重い流体の上向きの流路であれば、流体の重量が次第に増してゆき、上向きに流体を流すための相応の加圧力が必要となることは、流体の粘性抵抗、重量等についての技術常識により自明の事項であり、溶融金属を流す流路の内径に上向きに流し易い適切な範囲が存在することは、当業者にとって普通に予測し得ることである。
そして、上記の適切な有効内径の範囲を、溶融金属の性状、容器の大きさ、形状、材質、加圧供給時における圧力、容器内における溶融金属の残量、液面までの高さ等の各パラメータの影響を考慮することなく、流体を導出する加圧力を小さくできるように設定することに格別の困難性があったとはいえず、当業者であれば、実験等を行い適宜に設定し得たものといえる。
また、上記段落【0046】の、「内径が65mm以上となると流れのほぼ中心付近から内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め、その領域が次第に大きくなる。・・・溶融金属の流れを阻害する抵抗が下がり始める」との記載によれば、内径65mmで内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め、内径が大きくなるにつれてその領域が次第に大きくなり、内壁の粘性抵抗の影響が次第に弱まり、溶融金属の流れを阻害する抵抗が下がり始めるというのであるから、内径65mm付近では、内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない流れの中心付近の領域は、まだほとんど生じておらず、流路全体の溶融金属の流れを阻害する抵抗は、内径が65mmを越すと同時に急に下がるわけではない。また、「内径が85mmを超えると、溶融金属自体の重量が溶融金属の流れを阻害する抵抗として非常に支配的となり」と記載されるものの、溶融金属の重量は、内径の増加に応じて連続的に増加するのであるから、内径85mmで急に増加するわけではなく、85mmより小さい範囲においても、内径の増加につれて、内壁の粘性抵抗の弱まりによる流れ易さを打ち消すように、次第に増加することは明らかである。また、溶融金属の性状、容器の大きさ、形状、材質、加圧供給時における圧力、容器内における溶融金属の残量、液面までの高さ等の各パラメータが溶融金属の流れに影響を与えないことはありえないので、該各パラメータの影響により、上記有効内径の範囲において、溶融金属を導出するための加圧力を十分に小さくできないことも起こり得る。
そうであれば、上記有効内径の範囲において、必ずしも、溶融金属を導出するために必要な加圧力が臨界的に小さくなるとはいえないのであるから、上記有効内径の範囲は臨界的意義を有しているとはいえない。
以上のとおり、相違点Fにおける流路の有効内径の数値限定は、その数値限定自体について臨界的意義を有さず、その効果は普通に予測し得る程度のものであり、当業者が設計上適宜に設定できたものと認められる。

そして、相違点A、B、C、D、Eについては、いずれも先に検討したとおりであり、甲第1号証記載の発明の溶融金属搬送用取鍋において、相違点Aに係る内外の圧力差を調節する方式を採用するとともに、相違点B、C、D、Eに係る各構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、本件発明3は、甲第1?6号証に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[7-6]本件発明4について
本件発明4と甲第1号証記載の発明とを対比すると、「[7-3]本件発明1について」の項で検討したとおり、両者は、
「溶融金属を収容することができ、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、
前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられるハッチとを有し、
前記第1のライニング内に溶融金属の流路が容器上面側の露出部まで内在され、
前記流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで前記第1のライニングが充填され、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられている容器。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点G:本件発明4では、容器が、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能であるのに対し、甲第1号証記載の発明では、そのように記載されていない点。

相違点H:本件発明4では、第1のライニング内に溶融金属の流路が容器内底部に近い位置から内在されているのに対し、甲第1号証記載の発明では、取鍋内の溶融金属に浸漬する側壁内面側の中段部から溶融金属の流路が延びている点。

相違点I:本件発明4では、容器外周の流路に対応する位置が、第1のライニング内に容器内底部に近い位置から内在する当該流路に応じて、溶融金属が貯留された空間から当該流路が設けられた分だけ突き出ているのに対し、甲第1号証記載の発明では、そのように記載されていない点。

相違点J:本件発明4では、第2のライニングは、流路からみて容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ流路を内在する第1のライニングの外側に配されているのに対し、甲第1号証記載の発明では、そのように記載されていない点。

相違点K:本件発明4では、ハッチは、容器の内外を連通し、溶融金属を供給する際に容器内を加圧するための貫通孔が、該ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのものであるのに対し、甲第1号証記載の発明では、そのように記載されていない点。

そこで、まず、相違点G、H、J、Kについて検討するに、相違点G、H、J、Kは、「[7-3]本件発明1について」の項で検討した、本件発明1と甲第1号証記載の発明との相違点A、B、D、Eと実質上同じであり、いずれも同項で検討したとおりであるから、甲第1号証記載の発明の溶融金属搬送用取鍋において、相違点Gに係る内外の圧力差を調節する方式を採用するとともに、相違点H、J、Kに係る各構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
次に、相違点Iについて検討するに、甲第1号証記載の発明の取鍋も、外周の流路に対応する箇所は、取鍋内の溶融金属を収納する空間から該流路が設けられた分だけ突き出ており(摘記(1g)参照)、相違点Hのように流路を形成すれば、該流路の形状に応じて外周の該流路に対応する箇所が突き出ることは明らかである。
そうすると、相違点Iに係る構成は相違点Hに係る構成に付随してもたらされるものであるから、甲第1号証記載の発明の溶融金属搬送用取鍋において、相違点Iに係る構成とすることは、相違点Hに係る構成を採用することに伴い、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、本件発明4は、甲第1?6号証に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[7-7]本件発明5について
本件発明5と甲第1号証記載の発明とを対比すると、
(ア)甲第1号証記載の発明における「溶融金属を収納し、道路上を運行する運搬用車輌の荷台上に載置固定して公道などの一般道路を通って使用先の工場まで搬送し、該工場に着後はフオークリフトにより該工場の保持炉、或は鋳型等まで配送する密閉型の溶融金属運搬用取鍋」は、[7-3](2-1)の項で検討した本件発明1の場合と同様、本件発明5における「溶融金属を収容することができ、・・・運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器」に相当する。
(イ)甲第1号証記載の発明における「外殻鉄皮」、「内張耐火材」、「断熱材」、「取鍋内の空間」、「取鍋内の空間に収納された溶融金属に浸漬する側壁内面側の中段部から取鍋上面側の露出部の注湯口まで溶融金属の流路が延び」の「溶融金属の流路」、「流路と該取鍋内の空間との間・・・内張耐火材の内張り」は、それらが内外の圧力差を調節する容器の構成ではないにしても、溶融金属搬送用の容器の構成として共通するものであり、それぞれ本件発明5における「金属製のフレーム」、「第1の熱伝導率を有する第1のライニング」、「第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニング」、「溶融金属を貯留する貯留室」、「貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフェース部」、「仕切る壁・・・第1のライニングが充填されたゾーン」に相当する。
(ウ)甲第1号証記載の発明では、外殻鉄皮と内張耐火材の間には断熱材を介挿しているのに対し、流路と取鍋内の空間との間(仕切る壁)には断熱材は介挿されず、取鍋上面側の露出部まで内張耐火材(第1の熱伝導率を有する第1のライニング)のみの内張り(第1のライニングが充填されたゾーン)とされているので、該内張りの、取鍋内の空間の溶融金属に浸漬する部分、乃至該溶融金属の揺動等により該溶融金属と接触する部分では、該内張耐火材の断熱材よりも高い熱伝導率により、該取鍋内の空間の溶融金属から流路への伝熱が促進されているといえる。
そうすると、両者は、
「溶融金属を収容することができ、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
溶融金属を貯留する貯留室と、
前記貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフェース部と、
前記貯留室と前記インターフェース部下部との間の連結口を有し、これらの間を仕切る壁と、を具備し、
前記容器の外周は金属製のフレームにより覆われており、
前記貯留室と、前記フレームとの間には、第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングとが前記第1のライニングを内側にして積層され、
前記壁は、前記連結口から前記インターフェース部の上部に向けて前記第1のライニングが充填されたゾーンを有し、
前記インターフェース部が、前記ゾーンを介して前記貯留室内に貯留された前記溶融金属から前記インターフェース部側への熱伝導が促進されており、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられるハッチを有し、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられている容器。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点L:本件発明5では、容器が、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能であるのに対し、甲第1号証記載の発明では、そのように記載されていない点。

相違点M:本件発明5では、貯留室とインターフェース部下部との間の連結口が貯留室下部にあり、該連結口から上に第1のライニングが充填されたゾーンを有するのに対し、甲第1号証記載の発明では、取鍋内の溶融金属に浸漬する側壁内面側の中段部から溶融金属の流路が延びている点。

相違点N:本件発明5では、インターフェース部上部に接続された配管を具備するのに対し、甲第1号証記載の発明では、該配管に相当するものが見当たらない点。

相違点O:本件発明5では、インターフェース部とフレームとの間に、第2のライニングが、第1のライニングを内側にして積層されており、該インターフェース部が該第2のライニングにより保温されるとともに、ゾーンを介して貯留室内に貯留された溶融金属から前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されているのに対し、甲第1号証記載の発明では、取鍋内の空間(貯留室)に収納された溶融金属の流路(インターフェース部)側への熱伝導が、断熱材を介挿しないことにより促進されているものの、流路と外殻鉄皮(フレーム)との間には断熱材(第2のライニング)が介挿されず、断熱材により保温されていない点。

相違点P:本件発明5では、ハッチは、容器の内外を連通し、溶融金属を供給する際に容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し、当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち、開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのものであり、上記貫通孔は、ハッチの中央、または中央から少しずれた位置に設けられているのに対し、甲第1号証記載の発明では、そのように記載されていない点。

そこで、相違点L、M、N、Pについて検討するに、相違点L、M,N、Pは、「[7-3]本件発明1について」の項で検討した本件発明1と甲第1号証記載の発明との相違点A、B、C、Eと実質上同じであり、いずれも同項で検討したとおり、当業者が容易に想到し得る事項である。
次に、相違点Oについて検討するに、相違点Oの「本件発明5では、インターフェース部とフレームとの間に、第2のライニングが、第1のライニングを内側にして積層されており、該インターフェース部が該第2のライニングにより保温される・・・のに対し、甲第1号証記載の発明では・・・流路と外殻鉄皮(フレーム)との間には断熱材(第2のライニング)が介挿されず、断熱材により保温されていない点」は、「[7-3]本件発明1について」の項で検討した、本件発明1と甲第1号証記載の発明との相違点Dと重複しており、同項で検討したとおり、甲第1号証記載の発明の取鍋の流路(インターフェース部)と外殻鉄皮(フレーム)との間に断熱材(第2のライニング)を介挿することは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、該断熱材の介挿により該流路が保温されることは明らかである。
また、相違点Oの「本件発明5では、・・・ゾーンを介して貯留室内に貯留された溶融金属から前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されている」点は、「[7-4]本件発明2について」の項で検討した本件発明2の「第1のライニングは、前記容器内の溶融金属が貯留される空間から前記流路への熱伝導が促進されるように充填されていること」と同じであり、同項で検討したとおり、甲第1号証記載の発明と実質的な相違点を構成しない。

したがって、本件発明5は、本件発明2と同様、甲第1?6号証に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[7-8]本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の「容器」の構成を全て含み、さらに「壁は、耐火材からなること」を限定した発明である。
そして、本件発明6と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の相違点は、「[7-7]本件発明5について」の項において示した相違点L、M、N、O、Pに加え、上記のさらに限定した点でも一応相違する。
しかしながら、甲第1号証記載の発明でも、本件発明6の「壁」に相当する溶融金属の流路と取鍋内の空間との間には内張耐火材の内張りが設けられており、該内張りが耐火材からなることは明らかであるから、上記の点は、甲第1号証記載の発明と実質的な相違点を構成しない。
また、相違点L、M、N、O、Pについては、いずれも「[7-7]本件発明5について」の項で検討したとおり、当業者が容易に想到し得る事項である。

したがって、本件発明6は、本件発明5と同様の理由により、甲第1?6号証に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[8]むすび
[8-1]無効2005-80327号について
以上のとおりであるから、本件請求項3についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、特許法第123条第1項第4号に該当しない。
また、本件請求項1、2、4?6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その6分の1を請求人が負担すべきものとし、6分の5を被請求人が負担すべきものとする。

[8-2]無効2006-80167号について
以上のとおりであるから、本件請求項3についての特許は、特許法第36条第4項、及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、特許法第123条第1項第4号に該当しない。
また、本件請求項3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり決定する。

平成20年 3月18日

審判長 特許庁審判官 綿谷 晶廣
特許庁審判官 市川 裕司
特許庁審判官 前田 仁志 」
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
容器
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、
前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、
配管とを有し、
前記第1のライニングは、容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで溶融金属の流路を内在し、当該流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで充填され、
前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され、
前記配管は、前記露出部の流路に接続され、先端の出入口が下向きであることを特徴とする容器。
【請求項2】請求項1に記載の容器であって、
前記第1のライニングは、前記容器内の溶融金属が貯留される空間から前記流路への熱伝導が促進されるように充填されていることを特徴とする容器。
【請求項3】請求項1又は請求項2に記載の容器であって、
前記流路の有効内径は、65mmより大きく、85mmより小さいことを特徴とする容器。
【請求項4】請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の容器であって、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ、前記容器内部の気密を確保するハッチを具備することを特徴とする容器。
【請求項5】請求項4に記載の容器であって、
前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられていることを特徴とする容器。
【請求項6】溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
フレームと、
前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、
前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられ、前記容器内部の気密を確保するハッチとを有し、
前記第1のライニング内に溶融金属の流路が容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで内在され、
前記容器外周の前記流路に対応する位置が、当該流路に応じて、溶融金属が貯留された空間から当該流路が設けられた分だけ突き出ていて、
前記流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで前記第1のライニングが充填され、
前記第2のライニングは、前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で、かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配されていることを特徴とする容器。
【請求項7】溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって、
溶融金属を貯留する貯留室と、
前記貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフェース部と、
前記貯留室下部と前記インターフェース部下部との間の連結口を有し、これらの間を仕切る壁と、
前記インターフェース部上部に接続された配管と
を具備し、
前記容器の外周は金属製のフレームにより覆われており、
前記貯留室及び前記インターフェース部と、前記フレームとの間には、第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングとが前記第1のライニングを内側にして積層され、
前記壁は、前記連結口から前記インターフェース部の上部に向けて前記第1のライニングが充填されたゾーンを有し、
前記インターフェース部が当該インターフェース部と前記フレームとの間に介挿された前記第2のライニングにより保温されるとともに、前記ゾーンを介して前記貯留室内に貯留された前記溶融金属から前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されていることを特徴とする容器。
【請求項8】請求項7に記載の容器において、
前記壁は、耐火材からなることを特徴とする容器。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば溶融したアルミニウムの搬送に用いられる容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
多数のダイキャストマシーンを使ってアルミニウムの成型が行われる工場では、工場外からアルミニウム材料の供給を受けることが多い。この場合、溶融した状態のアルミニウムを収容した容器を材料供給側の工場から成型側の工場へと搬送し、溶融した状態のままの材料を各ダイキャストマシーンへ供給することが行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、こうした容器からダイキャストマシーン側への材料供給を圧力差を利用して行う技術を提唱している。すなわち、この技術は、容器内を加圧して容器内に導入された配管を介して容器内の溶融材料を外部に導出するものである。そして、このような容器としては、例えば特開平8-20826号に開示された装置を用いることが可能である。
【0004】
しかしながら、特開平8-20826号に開示された装置では、ストークが容器内の溶融金属に晒され続けるために、ストークの基材金属が酸化、腐食を生じて、ストークを交換する必要性がしばしば発生する、という問題がある。
【0005】
また、このような容器を工場間で搬送する場合には、まず容器内をガスバーナ等を用いて予熱してから容器内に溶融材料を供給しているが、特開平8-20826号に開示された装置では、予熱の際に容器内のストークが邪魔となるため、例えばストークをこれを保持する大きな蓋と共に取り外して予熱を行う必要があるため、作業性が非常に悪い、という問題もある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、ストーク等の部品交換を行う必要のない容器を提供することを目的としている。
【0007】
本発明の別の目的は、予熱を効率的に行うことができる容器を提供することにある。
【0008】
本発明の更なる目的は、溶融金属の受湯時や給湯時における溶融金属の温度低下を極力抑えることができる容器を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するため、本発明の主たる観点に係る容器は、溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される容器であって、フレームと、前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、配管とを有し、前記第1のライニングは、容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで溶融金属の流路を内在し、当該流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで充填され、前記配管は、前記露出部の流路に接続され、先端の出入口が下向きであることを特徴とする。本発明では、前記第1のライニングは、前記容器内の溶融金属が貯留される空間から前記流路への熱伝導が促進されるように充填されていることを特徴とする。本発明では、前記流路の有効内径は、65mmより大きく、85mmより小さいことを特徴とする。本発明では、前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられたハッチを具備することを特徴とする。本発明では、前記ハッチは、前記容器の上面部の中央に設けられていることを特徴とする。本発明に係る容器は、溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される容器であって、フレームと、前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと、前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチとを有し、前記第1のライニング内に溶融金属の流路が容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで内在され、前記容器外周の前記流路に対応する位置が、当該流路に応じて、溶融金属が貯留された空間から当該流路が設けられた分だけ突き出ていて、前記流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで前記第1のライニングが充填されていることを特徴とする。本発明に係る容器は、溶融金属を収容することができ、内外の圧力差を調節することにより、内部へ溶融金属を導入し、または外部へ溶融金属を供給することが可能で、運搬車輌により搭載されてユースポイントまで搬送される容器であって、溶融金属を貯留する貯留室と、前記貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフェース部と、前記貯留室下部と前記インターフェース部下部との間の連結口を有し、これらの間を仕切る壁と、前記インターフェース部上部に接続された配管とを具備し、前記容器の外周は金属製のフレームにより覆われており、前記貯留室及び前記インターフェース部と、前記フレームとの間には、第1の熱伝導率を有する第1のライニングと、前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングとが前記第1のライニングを内側にして積層され、前記壁は、前記連結口から前記インターフェース部の上部に向けて前記第1のライニングが充填されたゾーンを有し、前記インターフェース部が当該インターフェース部と前記フレームとの間に介挿された前記第2のライニングにより保温されるとともに、前記ゾーンを介して前記貯留室内に貯留された前記溶融金属から前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されていることを特徴とする。本発明では、前記壁は、耐火材からなることを特徴とする。
【0010】
本発明では、例えば第1のライニングとして耐火材を用い、第2のライニングとして断熱材を用いる。耐火材は相対的に断熱材よりも密度、熱伝導率が高いものである。すなわち耐火系材料は、溶融アルミニウムに対する強度が大きい材料を選択する。このような耐火材としては例えば緻密質の耐火系セラミック材料をあげることができる。また断熱材は相対的に耐火材よりも密度、熱伝導率が小さいものである。断熱材としては、例えば断熱キャスター、ボード材料など断熱系のセラミック材料をあげることができる。
【0011】
本発明では、特開平8-20826号に開示された装置と比較すると、容器内の溶融金属に晒されるストークのような部材は不要となるので、ストーク等の部品交換を行う必要はなくなる。また容器の予熱の際に、ストークが過熱により酸化されて孔があいたり、損傷を受けることが多い。本発明では容器内にストークを設けず、ライニング内に流路を内在させる構造を採用しているので、このような損傷を受けることがない。また、本発明では、容器内にストークのように予熱を邪魔するような部材は配置されないので、予熱のための作業性が向上し、予熱を効率的に行うことができる。また容器に溶融金属を収容した後、溶融金属の表面の酸化物等をすくい取る作業が必要なことが多い。内部にストークがあるとこの作業がやりにくい。本発明によれば容器内部にストークのような構造物がないので作業性を向上することができる。また、本発明では、流路が熱伝導率の高い第1のライニングに内在されるように構成されているので、容器内の熱が流路に伝達し易い。従って、流路を流通する溶融金属の温度低下を極力抑えることができる。
【0012】
ここで、本発明では、前記流路が容器内底部に近い位置から容器上面の第1のライニングの露出部まで第1のライニングに内在していることが好ましく、また前記第1のライニングの露出部の流路には配管が接続されるが、この場合には当該接続部の近傍は断熱部材により包囲されていることが好ましい。これにより、流路や配管を流通する溶融金属の温度低下を更に抑えることができる。特に、配管の上記接続部近傍は溶融金属が冷えやすくしかも容器搬送の際に液面が丁度揺れる位置にあるので、溶融金属が固化することが多かった。これに対して本発明では、配管の接続部の近傍を断熱部材により包囲することでこの位置における溶融金属の固化を防止することができる。
【0013】
また、前記流路の有効内径は、約50mmより大きく、約100mmより小さいことが好ましく、より好ましくは65mm?85mm程度、更に好ましくは70mm?80mm程度、最も好ましくは70mmである。これは発明者らが流路の径と圧送に必要な圧力との関係を調べた結果得られた知見である。
【0014】
更に、前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチを具備することが好ましく、前記ハッチは、前記容器の上面部のほぼ中央に設けられていることがより好ましい。
【0015】
本発明では、このようなハッチを有することで例えば容器内に溶融金属を導入するに先立ちハッチを空けてガスバーナを挿入して容器を予熱すること可能であり、このような予熱により耐火材を熱伝導の経路として流路が温められ、流路の詰まりをより効果的に防止することができる。また流路の温度を高く保てると溶融金属の粘性が小さくなるので、より小さな圧力差で溶融金属を容器内外に導入出することが可能となる。本発明では、溶融金属を流路を介して容器内に導入する際に、上記のように予め流路を温めておくことが可能であるので、このような場合に特に有効である。
【0016】
上記のように容器内に溶融金属を供給するに先立ちガスバーナにより容器を予熱している。この予熱は、ハッチを開けてガスバーナを容器内に挿入することで行われる。従って、ハッチは容器内に溶融金属を供給する度に開けられるものである。本発明では、このようなハッチに内圧調整用の貫通孔を設けているので、容器内に溶融金属を供給する度に内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができる。そして、例えば貫通孔に金属が付着しているときにはその都度それを剥がせばよい。従って、本発明では、内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを未然に防止することができる。
【0017】
本発明の別の観点に係る発明は、溶融金属を貯留可能な密閉容器本体と、前記容器本体内周の該容器本体底部に近い位置に設けられた開口を介し、該容器本体外周の上部に向けて延在する溶融金属の流路と、前記容器本体内の圧力を調整する手段とを具備することを特徴とするものである。
【0018】
本発明の更に別の観点に係る発明は、溶融金属を貯留する貯留室と、前記貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフェース部と、前記貯留室と前記インターフェース部との間を仕切る、例えば耐火材からなる壁とを具備することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の別の観点に係る容器は、溶融金属を貯留可能で、内圧を調整するために用いられる貫通孔を有する密閉型の容器本体と、前記容器本体内周の該容器本体底部に近い位置に設けられた開口を介して上部に向けて外部に延在する溶融金属の流路を有し、かつ、前記容器本体の内壁を覆うように設けられた耐火壁とを具備することを特徴とするものである。
【0020】
本発明では、溶融金属の流路が容器本体の内壁を覆うように設けられた熱伝導性の高い耐火壁により構成されているので、容器内に溶融金属を貯留したときにこの貯留されている溶融金属の熱が耐火壁を伝導し、流路は貯留されている溶融金属とほぼ等しい温度となる。予熱の時にも同様に耐火壁を熱伝導の経路として流路が効率的に過熱される。従って、流路を流通する溶融金属が流路で冷却されて流路の表面に固化して付着するようなことはなくなる。すなわち、流路に溶融金属が固化して付着していくと流路(従来の配管)が詰まり易くなるが、本発明により流路の詰まりを効果的に防止することができる。また、本発明では、流路が貯留されている溶融金属とほぼ等しい温度となるので、流路の表面付近を流通する溶融金属の粘性が低下することがなくなり、より小さいな圧力差で容器からの溶融金属の導出及び容器内への溶融金属の導入を行うことができる。すなわち、本発明の容器は、溶融金属の流路を容器本体の内壁を覆うように設けられた熱伝導性の高い耐火壁より構成し、該流路を貯留されている溶融金属とほぼ等しい温度となるようにしたので、圧力差を利用して溶融金属を容器内外に導入出するようなシステムに非常に有効なものとなる。
【0021】
本発明の容器には、内圧を調整するために用いられる貫通孔が設けられているので、例えば貫通孔を介して容器内を陰圧とすることで流路を介して容器内に溶融金属を導入することが可能である。本発明では、このように流路を介して容器内に溶融金属を導入することでその流路を流通するよりホットな溶融金属により流路の表面に付着する金属が洗浄される。従って、本発明では、内圧を調整するために用いられる貫通孔を有することで流路の詰まりを効果的に防止することができる。本発明の一の形態に係る容器は、前記容器本体の内壁と前記耐火壁との間に介挿された断熱部材を更に具備することを特徴とするものである。容器は全体として保温性を高める必要があるから断熱性能の高い部材をライニングしてある。そして溶融金属に直接接する部分は、耐火系の部材をライニングしてある。本発明の容器では容器の内側と流路とを分離しているゾーンに耐火系のキャスター材料を配し、この領域の熱伝導率を他の領域より意図的に、相対的に大きくしている。耐火材は断熱材よりも密度、熱伝導率が大きくなるように設定する。耐火材としてはたとえが緻密質の耐火キャスターを、断熱材としては例えば断熱キャスターやボード材等をあげることができる。このような構成を採用することで、容器内の溶融金属を保温することに加えて、上記の流路へ熱が供給されやすくなる。したがって流路が外部からの影響を受けて冷えるようなことが少なくなり、流路の詰まりをより効果的に防止することができる。また溶融金属の粘性を小さく抑制することができるので、小さな圧力差で溶融金属を容器内外に導入出することが可能となる。
【0022】
本発明の一の形態に係る容器は、前記容器本体底部が前記開口に向けて前記開口が低い位置となるように傾斜していることを特徴とするものである。これにより、容器内の溶融金属が少なくなったときに、上記流路近傍の耐火材が容器内の溶融金属と接する実質的な面積が流路とは離れた場所における当該面積に比べて大きくなる。従って、上記の流路が冷えることを極力さけることができ、流路の詰まりをより効果的に防止することができ、またより小さな圧力差で溶融金属を容器内外に導入出することが可能となる。加えて、容器を傾斜させて容器内に残存する溶融金属を流路から導出することを、傾斜角を少なくしてしかも流路の詰まりを極力小さくして効率的に行うことが可能となる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0024】
図1は本発明の一実施形態に係る金属供給システムの全体構成を示す図である。
【0025】
同図に示すように、第1の工場10と第2の工場20とは例えば公道30を介して離れた所に設けられている。
【0026】
第1の工場10には、ユースポイントとしてのダイキャストマシーン11が複数配置されている。各ダイキャストマシーン11は、溶融したアルミニウムを原材料として用い、射出成型により所望の形状の製品を成型するものである。その製品としては例えば自動車のエンジンに関連する部品等を挙げることができる。また、溶融した金属としてはアルミニウム合金ばかりでなくマグネシウム、チタン等の他の金属を主体とした合金であっても勿論構わない。各ダイキャストマシーン11の近くには、ショット前の溶融したアルミニウムを一旦貯留する保持炉(手元保持炉)12が配置されている。この保持炉12には、複数ショット分の溶融アルミニウムが貯留されるようになっており、ワンショット毎にラドル13或いは配管を介して保持炉12からダイキャストマシーン11に溶融アルミニウムが注入されるようになっている。また、各保持炉12には、容器内に貯留された溶融アルミニウムの液面を検出する液面検出センサ(図示せず)や溶融アルミニウムの温度を検出するための温度センサ(図示せず)が配置されている。これらのセンサによる検出結果は各ダイキャストマシーン11の制御盤もしくは第1の工場10の中央制御部16に伝達されるようになっている。
【0027】
第1の工場10の受け入れ部には、後述する容器100を受け入れるための受け入れ台17が配置されている。受け入れ部の受け入れ台17で受け入れられた容器100は、配送車18により所定のダイキャストマシーン11まで配送され、容器100から保持炉12に溶融アルミニウムが供給されるようになっている。供給の終了した容器100は配送車18により再び受け入れ部の受け入れ台17に戻されるようになっている。
【0028】
第1の工場10には、アルミニウムを溶融して容器100に供給するための第1の炉19が設けられており、この第1の炉19により溶融アルミニウムが供給された容器100も配送車18により所定のダイキャストマシーン11まで配送されるようになっている。
【0029】
第1の工場10には、各ダイキャストマシーン11において溶融アルミニウムの追加が必要になった場合にそれを表示する表示部15が配置されている。より具体的には、例えばダイキャストマシーン11毎に固有の番号が振られ、表示部15にはその番号が表示されており、溶融アルミニウムの追加が必要になったダイキャストマシーン11の番号に対応する表示部15における番号が点灯するようになっている。作業者はこの表示部15の表示に基づき配送車18を使って容器100をその番号に対応するダイキャストマシーン11まで運び溶融アルミニウムを供給する。表示部15における表示は、液面検出センサによる検出結果に基づき、中央制御部16が制御することによって行われる。
【0030】
第2の工場20には、アルミニウムを溶融して容器100に供給するための第2の炉21が設けられている。容器100は例えば容量、配管長、高さ、幅等の異なる複数種が用意されている。例えば第1の工場10内のダイキャストマシーン11における保持炉12の容量等に応じて、容量の異なる複数種がある。しかしながら、容器100を1種類に統一して規格化しても勿論構わない。
【0031】
この第2の炉21により溶融アルミニウムが供給された容器100は、フォークリフト(図示せず)により搬送用のトラック32に載せられる。トラック32は公道30を通り第1の工場10における受け入れ部の受け入れ台17の近くまで容器100を運び、これらの容器100はフォークリフト(図示せず)により受け入れ台17に受け入れられるようになっている。また、受け入れ部にある空の容器100はトラック32により第2の工場20へ返送されるようになっている。
【0032】
第2の工場20には、第1の工場10における各ダイキャストマシーン11において溶融アルミニウムの追加が必要になった場合にそれを表示する表示部22が配置されている。表示部22の構成は第1の工場10内に配置された表示部15とほぼ同様である。表示部22における表示は、例えば通信回線33を介して第1の工場10における中央制御部16が制御することによって行われる。なお、第2の工場20における表示部22においては、溶融アルミニウムの供給を必要とするダイキャストマシーン11のうち第1の工場10における第1の炉19から溶融アルミニウムが供給されると決定されたダイキャストマシーン11はそれ以外のダイキャストマシーン11とは区別して表示されるようになっている。例えば、そのように決定されたダイキャストマシーン11に対応する番号は点滅するようになっている。これにより、第1の炉19から溶融アルミニウムが供給されると決定されたダイキャストマシーン11に対して第2の工場20側から誤って溶融アルミニウムを供給するようなことをなくすことができる。また、この表示部22には、上記の他に中央制御部16から送信されたデータも表示されるようになっている。
【0033】
次に、このように構成された金属供給システムの動作を説明する。
【0034】
中央制御部16では、各保持炉12に設けられた液面検出センサを介して各保持炉12における溶融アルミニウムの量を監視している。ここで、ある保持炉12で溶融アルミニウムの供給の必要性が生じた場合に、中央制御部16は、その保持炉12の「固有の番号」、その保持炉12に設けられた温度センサにより検出された保持炉12の「温度データ」、その保持炉12の形態(後述する。)に関する「形態データ」、その保持炉12から溶融アルミニウムがなくなる最終的な「時刻データ」、公道30の「トラフィックデータ」、その保持炉12で要求される溶融アルミニウムの「量データ」及び「気温データ」等を、通信回線33を介して第2の工場20側に送信する。第2の工場20では、これらのデータを表示部22に表示する。これらの表示されたデータに基づき作業者が経験的に上記保持炉12から溶融アルミニウムがなくなる直前に保持炉12に容器100が届き、且つその時の溶融アルミニウムが所望の温度となるように該第2の工場20からの容器100の発送時刻及び溶融アルミニウムの発送時の温度を決定する。或いはこれらのデータを例えばパソコン(図示せず)に取り込んで所定のソフトウェアを用いて上記保持炉12から溶融アルミニウムがなくなる直前に保持炉12に容器100が届き、且つその時の溶融アルミニウムが所望の温度となるように該第2の工場20からの容器100の発送時刻及び溶融アルミニウムの発送時の温度を推定してその時刻及び温度を表示するようにしてもよい。或いは推定された温度により第2の炉21を自動的に温度制御しても良い。容器100に収容すべき溶融アルミニウムの量についても上記「量データ」に基づき決定してもよい。
【0035】
発送時刻に容器100を載せたトラック32が出発し、公道30を通り第1の工場10に到着すると、容器100がトラック32から受け入れ部の受け入れ台17に受け入れられる。
【0036】
その後、受け入れられた容器100は、受け入れ台17と共に配送車18により所定のダイキャストマシーン11まで配送され、容器100から保持炉12に溶融アルミニウムが供給される。
【0037】
図2に示すように、この例では、レシーバタンク101から高圧空気を密閉された容器100内に送出することで容器100内に収容された溶融アルミニウムが配管56から吐出されて保持炉12内に供給されるようになっている。なお、図2において、103は加圧バルブ、104はリークバルブである。
【0038】
ここで、保持炉12の高さは各種のものがあり、配送車18に設けられた昇降機構により配管56の先端が保持炉12上の最適位置となるように調節可能になっている。しかし、保持炉12の高さによっては昇降機構だけでは対応できない場合がある。そこで、本システムにおいては、保持炉12の形態に関する「形態データ」として、保持炉12の高さや保持炉12までの距離に関するデータ等を予め第2の工場20側に送り、第2の工場20側ではこのデータに基づき最適な形態、例えば最適な高さの容器100を選択して配送している。なお、供給すべき量に応じて最適な大きさの容器100を選択して配送してもよい。
【0039】
次に、このように構成されたシステムに好適な容器(加圧式溶融金属供給容器)100について、図3及び図4に基づき説明する。図3は容器100の断面図、図4はその平面図である。
【0040】
容器100は、有底で筒状の本体50の上部開口部51に大蓋52が配置されている。本体50及び大蓋51の外周にはそれぞれフランジ53、54が設けられており、これらフランジ間をボルト55で締めることで本体50と大蓋51が固定されている。なお、本体50や大蓋51は例えば外側が金属であり、内側が耐火材により構成され、外側の金属と耐火材との間には断熱材が介挿されている。
【0041】
本体50の外周の1箇所には、本体50内部から配管56に連通する流路57が設けられた配管取付部58が設けられている。
【0042】
ここで、図5は図3に示した配管取付部58におけるA-A断面図である。
【0043】
図5に示すように、容器100の外側は金属のフレーム100a、内側は耐火材(第1のライニング)100bにより構成され、フレーム100aと耐火材100bとの間には耐火材よりも熱伝導率の小さな断熱材(第2のライニング)100cが介挿されている。そして、流路57は容器100の内側に設けられた耐火材100bの中に形成されている。すなわち、流路57は、容器100内底部に近い位置から容器100上面の耐火材100bの露出部まで耐火材100bに内在している。これにより、流路57は、熱伝導率の大きな耐火部材によって容器内部と分離されている。このような構成を採用することにより、容器内からの放熱が流路に伝わりやすくなる。流路の外側(容器内とは反対側)には、耐火部材の外側に断熱材を配している。耐火材は断熱材よりも密度、熱伝導率が高いものを用いる。耐火材としては例えば緻密質の耐火系セラミック材料をあげることができる。また断熱材としては、断熱キャスター、ボード材料など断熱系のセラミック材料をあげることができる。
【0044】
配管取付部58における流路57は、本体50内周の該容器本体底部50aに近い位置に設けられた開口57aを介し、該本体50外周の上部57bに向けて延在している。この配管取付部58の流路57に連通するように配管56が固定されている。配管56は逆U字状の形状(曲率を有する形状)を有しており、これに対応して配管56内の流路も逆U字状の形状(曲率を有する形状)を有しており、これにより配管56の一端口59は下方を向いている。配管56がこのような形状を有することで溶融金属がスムーズに流れるようになる。すなわち、配管の内側に不連続な面があるとその位置にぶつかるに溶融金属が流れようとして、その位置が侵食され、最終的には穴が明く等の不具合がある。これに対して、配管の流路が曲率を有する形状であれば不連続な面がなく、上記のような不具合は発生しない。
【0045】
また、配管取付部58近傍の配管56の周囲には、この配管56を包囲するように、断熱部材56aが配設されている。これにより、配管56側が流路57側の熱を奪い、流路57の温度低下が発生することを極力抑えることができる。特に、配管取付部58近傍の配管56の周囲は溶融金属が冷えやすくしかも容器搬送の際に液面が丁度揺れる位置にあるので、溶融金属が固化することが多いのに対して、このように配管取付部58近傍の配管56の周囲を断熱部材56aにより包囲することでこの位置における溶融金属の固化を防止することができる。
【0046】
流路57及びこれに続く配管56の内径はほぼ等しく、65mm?85mm程度が好ましい。従来からこの種の配管の内径は50mm程度であった。これはそれ以上であると容器内を加圧して配管から溶融金属を導出する際に大きな圧力が必要であると考えられていたからである。これに対して本発明者等は、流路57及びこれに続く配管56の内径としてはこの50mmを大きく超える65mm?85mm程度が好ましく、より好ましくは70mm?80mm程度、更には好ましくは70mmであることを見出した。すなわち、溶融金属が流路や配管を上方に向けて流れる際に、流路や配管に存在する溶融金属自体の重量及び流路や配管の内壁の粘性抵抗の2つパラメータが溶融金属の流れを阻害する抵抗に大きな影響を及ぼしているものと考えられる。ここで、内径が65mmより小さいときには流路を流れる溶融金属はどの位置においても溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響を受けているが、内径が65mm以上となると流れのほぼ中心付近から内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め、その領域が次第に大きくなる。この領域の影響は非常に大きく、溶融金属の流れを阻害する抵抗が下がり始める。溶融金属を容器内から導出する際に容器内を非常に小さな圧力で加圧すればよくなる。つまり、従来はこのような領域の影響は全く考慮に入れず、溶融金属自体の重量だけが溶融金属の流れを阻害する抵抗の変動要因として考えられており、作業性や保守性等の理由から内径を50mm程度としていた。一方、内径が85mmを超えると、溶融金属自体の重量が溶融金属の流れを阻害する抵抗として非常に支配的となり、溶融金属の流れを阻害する抵抗が大きくなってしまう。本発明者等の試作による結果によれば、70mm?80mm程度の内径が容器内の圧力を非常に小さな圧力で加圧すればよく、特に70mmが標準化及び作業性の観点から最も好ましい。すなわち、配管径は50mm、60mm70mm、、、と10mm単位で標準化されており、配管径がより小さい方が取り扱いが容易で作業性が良好だからである。
【0047】
上記の大蓋52のほぼ中央には開口部60が設けられ、開口部60には取っ手61が取り付けられたハッチ62が配置されている。ハッチ62は大蓋52上面よりも少し高い位置に設けられている。ハッチ62の外周の1ヶ所にはヒンジ63を介して大蓋52に取り付けられている。これにより、ハッチ62は大蓋52の開口部60に対して開閉可能とされている。また、このヒンジ63が取り付けられた位置と対向するように、ハッチ62の外周の2ヶ所には、ハッチ62を大蓋52に固定するためのハンドル付のボルト64が取り付けられている。大蓋52の開口部60をハッチ62で閉めてハンドル付のボルト64を回動することでハッチ62が大蓋52に固定されることになる。また、ハンドル付のボルト64を逆回転させて締結を開放してハッチ62を大蓋52の開口部60から開くことができる。そして、ハッチ62を開いた状態で開口部60を介して容器100内部のメンテナンスや予熱時のガスバーナの挿入が行われるようになっている。
【0048】
また、ハッチ62の中央、或いは中央から少しずれた位置には、容器100内の減圧及び加圧を行うための内圧調整用の貫通孔65が設けられている。この貫通孔65には加減圧用の配管66が接続されている。この配管66は、貫通孔65から上方に伸びて所定の高さで曲がりそこから水平方向に延在している。この配管66の貫通孔65への挿入部分の表面には螺子山がきられており、一方貫通孔65にも螺子山がきられており、これにより配管66が貫通孔65に対して螺子止めにより固定されるようになっている。
【0049】
この配管66の一方には、加圧用又は減圧用の配管67が接続可能になっており、加圧用の配管には加圧気体に蓄積されたタンクや加圧用のポンプが接続されており、減圧用の配管には減圧用のポンプが接続されている。そして、減圧により圧力差を利用して配管56及び流路57を介して容器100内に溶融アルミニウムを導入することが可能であり、加圧により圧力差を利用して流路57及び配管56を介して容器100外への溶融アルミニウムの導出が可能である。なお、加圧気体として不活性気体、例えば窒素ガスを用いることで加圧時の溶融アルミニウムの酸化をより効果的に防止することができる。
【0050】
本実施形態では、大蓋52のほぼ中央部に配置されたハッチ62に加減圧用の貫通孔65が設けられている一方で、上記の配管66が水平方向に延在しているので、加圧用又は減圧用の配管67を上記の配管66に接続する作業を安全にかつ簡単に行うことができる。また、このように配管66が延在することによって配管66を貫通孔65に対して小さな力で回転させることができるので、貫通孔65に対して螺子止めされた配管66の固定や取り外しを非常に小さな力で、例えば工具を用いることなく行うことができる。
【0051】
ハッチ62の中央から少しずれた位置で前記の加減圧用の貫通孔65とは対向する位置には、圧力開放用の貫通孔68が設けられ、圧力開放用の貫通孔68には、リリーフバルブ(図示を省略)が取り付けられるようになっている。これにより、例えば容器100内が所定の圧力以上となったときには安全性の観点から容器100内が大気圧に開放されるようになっている。
【0052】
大蓋52には、液面センサとしての2本の電極69がそれぞれ挿入される液面センサ用の2つの貫通孔70が所定の間隔をもって配置されている。これらの貫通孔70には、それぞれ電極69が挿入されている。これら電極69は容器100内で対向するように配置されており、それぞれの先端は例えば容器100内の溶融金属の最大液面とほぼ同じ位置まで延びている。そして、電極69間の導通状態をモニタすることで容器100内の溶融金属の最大液面を検出することが可能であり、これにより容器100への溶融金属の過剰供給をより確実に防止できるようになっている。
【0053】
本体50の底部裏面には、例えばフォークリフトのフォーク(図示を省略)が挿入される断面口形状で所定の長さの脚部71が例えば平行するように2本配置されている。また、本体50内側の底部は、流路57側が低くなるように全体が傾斜している。これにより、加圧により流路57及び配管56を介して外部に溶融アルミニウムを導出する際に、いわゆる湯の残りが少なくなる。また、例えばメンテナンス時に容器100を傾けて流路57及び配管56を介して外部に溶融アルミニウムを導出する際に、容器100を傾ける角度をより小さくでき、安全性や作業性が優れたものとなる。
【0054】
このように本実施形態に係る容器100では、容器100内の溶融金属に晒されるストークのような部材は不要となるので、ストーク等の部品交換を行う必要はなくなる。また、容器100内にストークのように予熱を邪魔するような部材は配置されないので、予熱のための作業性が向上し、予熱を効率的に行うことができる。また容器100に溶融金属を収容した後、溶融金属の表面の酸化物等をすくい取る作業が必要なことが多い。内部にストークがあるとこの作業がやりにくいが、容器100内部にストークのような構造物がないので作業性を向上することができる。更に、流路57が熱伝導率の高い耐火材100bに内在されるように構成されているので、容器100内の熱が流路57に伝達し易い(特に図5参照)。従って、流路57を流通する溶融金属の温度低下を極力抑えることができる。
【0055】
また、本実施形態に係る容器100では、ハッチ62に内圧調整用の貫通孔65を設け、その貫通孔65に内圧調整用の配管66を接続しているので、容器100内に溶融金属を供給する度に内圧調整用の貫通孔65に対する金属の付着を確認することができる。従って、内圧調整に用いるための配管66や貫通孔65の詰りを未然に防止することができる。
【0056】
更に、本実施形態に係る容器100では、ハッチ62に内圧調整用の貫通孔65が設けられ、しかもそのハッチ62が溶融アルミニウムの液面の変化や液滴が飛び散る度合いが比較的に小さい位置に対応する容器100の上面部のほぼ中央に設けられているので、溶融アルミニウムが内圧調整に用いるための配管66や貫通孔65に付着することが少なくなる。従って、内圧調整に用いるための配管66や貫通孔65の詰りを防止することができる。
【0057】
更にまた、本実施形態に係る容器100では、ハッチ62が大蓋52の上面部に設けられているので、ハッチ62の裏面と液面との距離が大蓋52の裏面と液面との距離に比べて大蓋52の厚み分だけ長くなる。従って、貫通孔65が設けられたハッチ62の裏面にアルミニウムが付着する可能性が低くなり、内圧調整に用いるための配管66や貫通孔65の詰りを防止することができる。
【0058】
次に、第2の工場20における第2の炉21から容器100への供給システムを図6に基づき説明する。
【0059】
図6に示すように、第2の炉21内には溶融アルミニウムが貯留されている。この第2の炉21には供給部21aが設けられ、この供給部21aには吸引管201が挿入されている。この吸引管201は、供給部21aの溶融されたアルミニウムの液面から一端口(吸引管201の他方の先端部201b)が出没するように配置されている。すなわち、吸引管201の一方の先端部201aは第2の炉21の底部付近まで延在し、吸引管201の他方の先端部201bは供給部21aから外側に導出されている。吸引管201は、保持機構202により基本的には傾斜して保持されている。その傾斜角は例えば垂線に対して10°程度傾いており、上記容器100における配管56の先端部の傾斜と合致するようになっている。この吸引管201の先端部201bは容器100における配管56の先端部に接続されるものであり、このように傾斜を合致されることによって吸引管201の先端部201bと容器100における配管56の先端部との接続が容易となる。
【0060】
そして、配管66に減圧用のポンプ313に接続された配管67を接続する。次に、ポンプ313を作動させて容器100内を減圧する。これにより、第2の炉21内に貯留されている溶融アルミニウムが吸引管201及び配管56を介して容器100内に導入される。
【0061】
本実施形態では、特に、このように第2の炉21内に貯留されている溶融アルミニウムを吸引管201及び配管56を介して容器100内に導入するようにしているので、溶融アルミニウムが外部の空気と接触することはない。従って、酸化物が生じることがなく、本システムを用いて供給される溶融アルミニウムは非常に品質が良いものとなる。また、容器100内から酸化物を除去するための作業は不要となり、作業性も向上する。
【0062】
本実施形態では、特に、容器100に対する溶融アルミニウムの導入と容器100からの溶融アルミニウムの導出を実質的に2本の配管56、312だけを使って行うことができるので、システム構成を非常にシンプルなものとすることができる。また、溶融アルミニウムが外気に接触する機会が激減するので、酸化物の生成をほぼなくすことができる。
【0063】
図7は以上のシステムを自動車工場に適用した場合の製造フローを示したものである。
【0064】
まず、図6に示したように、第2の炉21内に貯留されている溶融アルミニウムを吸引管201及び配管56を介して容器100内に導入(受湯)する(ステップ501)。
【0065】
次に、図1に示したように、容器100を公道30を介してトラック32により第2の工場20から第1の工場10に搬送する(ステップ502)。
【0066】
次に、第1の工場(ユースポイント)10では、容器100が配送車18により自動車エンジン製造用のダイキャストマシーン11まで配送され、容器100から保持炉12に溶融アルミニウムが供給される(ステップ503)。
【0067】
次に、このダイキャストマシーン11において、保持炉12に貯留された溶融アルミニウムを用いた自動車エンジンの成型が行われる(ステップ504)。
【0068】
そして、このように成型された自動車エンジン及び他の部品を使って自動車の組み立てが行われ、自動車が完成する(ステップ505)。
【0069】
本実施形態では、上述したように自動車のエンジンが酸化物を殆ど含まないアルミニウム製であるので、性能及び耐久性のよいエンジンを有する自動車を製造することが可能である。
【0070】
次に、本発明の他の実施形態に係る容器を図8に基づき説明する。
【0071】
図8に示すように、この容器400の内部は、溶融金属を貯留する貯留室401と、外部との間で溶融金属を流通するためのインターフェース部402とを備える。
【0072】
また、貯留室401とインターフェース部402との間には、これらの間を仕切る壁403が設けられている。壁403の下部には貯留室401とインターフェース部402との間における溶融金属の流路となる貫通部404が設けられている。
【0073】
容器400は最初に示した実施形態と同様にフレーム405と断熱材406と耐火材407の3層構造を有している。ここで、壁403は、耐火材407と同様の部材から構成されている。例えば、壁403及び耐火材407は、例えば緻密質の耐火系セラミック材料をあげることができる。
【0074】
本実施形態に係る容器400は、このように熱伝導率の高い部材からなる壁403を貯留室401とインターフェース部402のとの間に介在させることで、貯留室401に貯留された溶融金属の熱がこの壁403を介してインターフェース部402に伝達され、インターフェース部402の温度が低下するのを効果的に防止することが可能となる。これにより、溶融金属の受湯時や給湯時における溶融金属の温度低下を極力抑えることができる。
【0075】
なお、この実施形態における配管や蓋等の構造については最初に示した実施形態と同様の構造であるので、同一の要素には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0076】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その技術思想の範囲内で様々に変形して実施することが可能である。
【0077】
例えば、上述した実施形態では配管56を逆U字状の形状としたが、例えば図9に示すようにT字上の配管556としても勿論構わない。
【0078】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ストーク等の部品交換を行う必要のない容器を提供することができる。また、予熱を効率的に行うことができる。更に、溶融金属の受湯時や給湯時における溶融金属の温度低下を極力抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施形態に係る金属供給システムの構成を示す概略図である。
【図2】
本発明の一実施形態に係る容器と保持炉との関係を示す図である。
【図3】
本発明の一実施形態に係る容器の断面図である。
【図4】
図3の平面図である。
【図5】
図3における一部断面図である。
【図6】
本発明の一実施形態に係る第2の工場における第2の炉から容器への供給システムの構成を示す図である。
【図7】
本発明のシステムを使った自動車の製造方法を示すフロー図である。
【図8】
本発明の他の実施形態に係る容器の構成を示す図である。
【図9】
本発明の更に別の実施形態に係る容器の構成を示す図である。
【符号の説明】
56 配管
56a 断熱部材
57 流路
58 配管取付部
60 開口部
62 ハッチ
65 貫通孔
66 加減圧用の配管
100 容器
100a フレーム
100b 耐火材
100c 断熱材
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-05-23 
結審通知日 2007-05-25 
審決日 2007-06-13 
出願番号 特願2001-395169(P2001-395169)
審決分類 P 1 123・ 537- ZA (B22D)
P 1 123・ 121- ZA (B22D)
P 1 123・ 536- ZA (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中澤 登金 公彦  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 鈴木 正紀
加藤 浩一
登録日 2003-11-07 
登録番号 特許第3489678号(P3489678)
発明の名称 容器  
代理人 三枝 英二  
代理人 竹田 稔  
代理人 折居 章  
代理人 竹田 稔  
代理人 眞下 晋一  
代理人 森脇 正志  
代理人 田上 洋平  
代理人 大森 純一  
代理人 折居 章  
代理人 松本 司  
代理人 大森 純一  
代理人 森 義明  
代理人 川田 篤  
代理人 川田 篤  
代理人 井上 義隆  

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