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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B60T
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60T
管理番号 1231933
審判番号 不服2010-2504  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-04 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2001-73964号「乗用田植機」拒絶査定不服審判事件〔平成14年9月25日出願公開、特開2002-274339号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成13年3月15日の出願であって、平成21年10月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

II.平成22年2月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年2月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、平成21年4月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載、
「【請求項1】 エンジン(5)からの動力をミッションケース(6)に入力し、該ミッションケース(6)内で変速して、前輪(2)と後輪(3)に動力を伝達する乗用田植機において、該ミッションケース(6)内への入力軸(56)から、副変速機構(70)と主変速機構(71)を経た伝動下流側で、前記前輪(2)と後輪(3)への動力分岐部である変速軸(61)上に、ブレーキ機構(78)を配置し、該ブレーキ機構(78)は、該副変速機構(70)又は主変速機構(71)が中立位置にあっても、前車輪駆動軸(62)・後車輪駆動軸(69)は空回りすることなくブレーキをかけることを可能とし、該ブレーキ機構(78)は、乗用田植機をトラックの荷台に積込み、若しくは積下ろしするためにアユミ板上を走行させたり、圃場への出入りの際の畦越えする際に、乗用田植機から降車した状態でも、作業者が、連結連動する手動レバーを操作することで、乗用田植機を停止させることを可能としたことを特徴とする乗用田植機。
【請求項2】 請求項1記載の乗用田植機において、該ミッションケース(6)の左右一側方に、前記ブレーキ機構(78)を配設すると共に、該ブレーキ機構(78)の操作軸(170)をミッションケース(6)の上下方向に軸支して、上部より突設し、該操作軸(170)を水平回動可能とし、前記作業者が操作するレバーと連動連結したことを特徴とする乗用田植機。
【請求項3】 請求項1又は請求項2記載の乗用田植機において、前記ブレーキ機構(78)は、該ミッションケース(6)の側壁内方近傍に設けたことを特徴とする乗用田植機。」を、
「【請求項1】 エンジン(5)からの動力を、ミッションケース(6)の入力軸(56)に入力し、該ミッションケース(6)内で変速して、前輪(2)と後輪(3)に動力を伝達する乗用田植機において、該ミッションケース(6)内への入力軸(56)上に、エンジン(5)の動力を断接するクラッチ機構(14)を構成し、該クラッチ機構(14)の伝動下流側に副変速機構(70)と主変速機構(71)を構成し、更に下流側に、前記前輪(2)と後輪(3)への動力分岐部である変速軸(61)を設け、該変速軸(61)上にブレーキ機構(78)を配置し、該ブレーキ機構(78)は、該副変速機構(70)又は主変速機構(71)が中立位置にあっても、前車輪駆動軸(62)・後車輪駆動軸(69)は空回りすることなくブレーキをかけることを可能とし、該ブレーキ機構(78)は、前記クラッチ機構(14)を操作する主クラッチペダル(74)と、苗継ぎ時にクラッチ機構(14)を断としかつ機体を停止する為の苗継ぎレバー(76)に連動連結し、作業者が、乗用田植機から降車した状態で、該苗継ぎレバー(76)を操作することで、乗用田植機をトラックの荷台に積込み若しくは積下ろしするためにアユミ板上を走行させたり、圃場への出入りの際の畦越えする際に、乗用田植機を停止させることを可能としたことを特徴とする乗用田植機。
【請求項2】 請求項1記載の乗用田植機において、該ミッションケース(6)の左右一側方に、前記ブレーキ機構(78)を配設すると共に、該ブレーキ機構(78)の操作軸(170)をミッションケース(6)の上下方向に軸支して、上部より突設し、該操作軸(170)を水平回動可能とし、前記主クラッチペダル(74)と苗継ぎレバー(76)と連動連結したことを特徴とする乗用田植機。
【請求項3】 請求項1又は請求項2記載の乗用田植機において、前記ブレーキ機構(78)は、該ミッションケース(6)の側壁内方近傍に設けたことを特徴とする乗用田植機。」(下線部は補正箇所を示す。)と補正することを含むものである。

2.補正目的
上記補正は、特許請求の範囲の請求項1に「クラッチ機構(14)」及び「主クラッチペダル(74)」を新たに追加する補正を含むものである。しかし、補正後の特許請求の範囲の請求項1に追加された「クラッチ機構(14)」及び「主クラッチペダル(74)」は、補正前の発明の発明特定事項のいずれを概念的に下位にしたものともいえないから、発明特定事項の限定に当たらない。特に、「主クラッチペダル(74)」は、補正前の発明特定事項である「手動レバー」を限定したものでないことは明らかであり、手動レバーとは全く別の新たな操作手段を追加するものである。したがって、上記補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものとは認められない。
また、原査定の拒絶の理由には、請求項の記載が明りょうでないとするものはなく、上記補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとも認められない。さらに、上記補正は、請求項の削除、あるいは、誤記の訂正のいずれを目的としたものとも認められない。
そうすると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号のいずれにも該当せず、上記改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、上記改正前の特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件
本件補正は、上記2.で示したとおり、目的要件違反で却下すべきものであるが、仮に本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとした場合、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)についても、以下に検討する。

3-1.引用例の記載事項
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭58-100064号(実開昭60-8177号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、「移動農機における制動装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「1は移動農機の一実施例として示す乗用田植機本体であつて、この乗用田植機本体1の機体には外径部にラグを有する左右の前輪2と後輪3をそれぞれ設けると共に、この乗用田植機本体1の後方には、図示しない田植機を昇降装置を介して連結する。そして機体前方にはエンジン4を搭載し、このエンジン4の出力軸に固定したプーリ4aと、機体の一部を構成するように配置したミツシヨンケース5に軸支させた入力軸6に固定のプーリ6aとの間に巻掛した伝動ベルト7により、エンジン4の動力をミツシヨンケース5内の入力軸6に伝導するようになし、この入力軸6の回転をミツシヨンケース5内に配置した歯車群により変速して前輪2と後輪3とを駆動するようにしている。」(2ページ20行?3ページ13行)
イ.「第5図に示すごとく、入力軸6上に摺動のみ自在に設けた変速歯車8,9をシフトすることににより分配軸10上の各固定歯車11,12,13,14に選択噛合させて分配軸10を回転させ、この分配軸10上の固定歯車14が常時噛合する中間軸15上の遊転歯車16、および遊転歯車16と一体形成の遊転歯車17がデフ機構20に固定の歯車19に噛合することによりデフ機構20を回転させ、このデフ機構20の回転により左右に設けたデフヨーク軸18が回転するようにしている。」(3ページ14行?4ページ3行)
ウ.「第5図に示すごとく、ミツシヨンケース5内には軸受を介して左右のクラツチ軸41をそれぞれに軸支し、この左右のクラツチ軸41が互いに対向する軸端には、分配軸10上に固定の歯車42に常時噛合して回転する遊転歯車43を設け、この遊転歯車43の左右にはクラツチ軸41上に摺動のみ自在な爪クラツチ44をそれぞれ配置し、このクラツチ軸41上には、爪クラツチ44の爪が遊転歯車43の爪と噛合することによつて、クラツチ軸41が分配軸10から駆動されるようになすと共に、爪クラツチ44の爪が遊転歯車43の爪から離脱してミツシヨンケース5に固定の固定子54により支持されることによつて、分配軸10からの伝動を断つてクラツチ軸41が停止するサイドクラツチ機構45が構成されている。このサイドクラツチ機構45は運転席49近傍に設けた図示しない足踏ペダル等に連結するようにしてある。
前記左右に設けたクラツチ軸41の外側にはスプロケツト46をそれぞれ固定する一方、ミツシヨンケース5の両側から後方に延びその後方端部に図示しない後車軸を回転自在に支持するチエンケース47を固定し、前記スプロケツト46と後車軸に固定のスプロケツトとの間にはチエン48を巻掛け、後輪3が分配軸10から駆動されるように構成している。」(6ページ1行?7ページ5行)
エ.「ミツシヨンケース5から外側に突出する部位の分配軸10には、デフ機構20を介して駆動される前輪2と、サイドクラツチ機構45介して駆動される後輪3とを同時に制動することができる単一のブレーキ装置50が設けてあり、このブレーキ装置50は、実施例では分配軸10の一端に固定されるブレーキドラム56が内側のブレーキシユの拡張により制動されるようにした形式のものを採用している。」(7ページ6行?14行)
オ.「このブレーキ装置50は、ブレーキの作動アーム51がスプリング52とワイヤー53を介して主クラツチ55を断続操作する図示しない足踏ペダルに連繋されており、該足踏ペダルの足踏み操作により作動するようになつている。」(7ページ15行?19行)
カ.「機体の進行中、足踏ペダルを踏込むことによりエンジン4からの動力が断たれ、しかる後に前輪2と後輪3とに動力を分配する分配軸10上のブレーキ装置50が作動されることによつて、単一のブレーキ装置50で以て、デフ機構20を介して駆動される前輪2と、サイドクラツチ機構45を介して駆動される後輪3とが同時に制動されることとなる。
その制動の際、後輪3にはデフ機構を採用することなくサイドクラツチ機構45を採用しているので、機体の重量を大きく支持している後輪3を左右同時且つ確実に制動することができるため、後輪制動の安全が確保できる。」(7ページ20行?8ページ12行)
キ.第3図には、デフヨーク軸18の回転が前車軸39に装着された前輪2へ伝達されるまでの動力伝達経路が図示されている。
ク.第5図から、エンジン4の出力軸に固定したプーリ4aとミツシヨンケース5に軸支させた入力軸6に固定のプーリ6aとの間に巻掛した伝動ベルト7を備えたベルト伝動装置上に主クラツチ55を構成している点が看取できる。また、第5図から、主クラツチ55の伝動下流側に変速歯車8,9からなる変速機構を構成し、更に下流側に前輪2と後輪3とへの動力を分配する分配軸10を設け、該分配軸10上にブレーキ装置50を配置した点が看取できる。
ケ.上記オ.の記載事項からみて、ブレーキ装置50は、主クラツチ55を操作する足踏ペダルに連動連結しているということができる。
コ.上記カ.の記載事項からみて、分配軸10上に配置されたブレーキ装置50を作動させると、たとえ変速歯車8,9が中立位置にあっても、前車軸・後車軸は空回りすることなくブレーキをかけることができることは明らかである。

これらの記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「エンジン4からの動力を、ミツシヨンケース5の入力軸6に入力し、該ミツシヨンケース5内で変速して、前輪2と後輪3に動力を伝達する移動農機において、エンジン4と入力軸6との間に設けたベルト伝動装置上に、エンジン4の動力を断接する主クラツチ55を構成し、該主クラツチ55の伝動下流側に変速歯車8,9からなる変速機構を構成し、更に下流側に、前記前輪2と後輪3への動力を分配する分配軸10を設け、該分配軸10上にブレーキ装置50を配置し、該ブレーキ装置50は、該変速機構が中立位置にあっても、前車軸・後車軸は空回りすることなくブレーキをかけることを可能とし、該ブレーキ装置50は、前記主クラツチ55を操作する足踏ペダルに連動連結した移動農機。」

(2)引用例2
本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-92926号公報(以下、「引用例2」という。)には、「乗用田植機」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
サ.「前記ミッションケース6の変速室60の上部には、左右方向に入力軸56が軸支され、図16に示すように、入力軸56の左端部が外側に突出されて従動プーリ55が固設され、エンジン5の左側面より側方に突出されている出力軸52に固設された駆動プーリ53からの動力が、ベルト54を介してミッションケース6内に入力されている。そして、このベルト54は、テンションアーム57の先端に取り付けられたテンションローラー58によって緊張されるように構成され、主クラッチペダル74の踏み込み操作や苗継ぎレバー76のシフト操作に連動して動力の断接が行われるようになっている。また、エンジン5側の駆動プーリ53とミッションケース6側の従動プーリ56に巻回されているベルト54と、ミッションケース6とは略直線上に配設されており、前輪2及び後輪3に動力を伝達する動力伝達経路が省スペースで効率のよい配置構成となっている。」(段落【0098】)
シ.「したがって、苗継ぎレバー76を後方に向けて図34の矢印方向に回動操作すると、連動ロッド140が下方に向かって移動し、長孔140aに挿通された嵌入部材143を介してテンションアーム57を下方に回動して、テンションアーム57に取り付けられているテンションローラー58をベルト54から離し、ベルトテンションを「切」状態にするようになっている。一方、主クラッチペダル74を踏み込むと、図34、図35で示すように、ペダルの支柱に固設されたL字型ブラケット144に取り付けられたピンなどの押圧部材145が、テンションアーム57の回動軸59に固定されたカム146を押してテンションアーム57を下方に回動させるようになっており、これによってベルトテンションを「切」状態にするようになっている。このため、主クラッチペダル74を踏み込んでもテンションアーム57の嵌入部材143が連動ロッド140に穿設された長孔140a内を移動するだけで苗継ぎレバー76には何の影響も与えないし、苗継ぎレバー76を操作しても主クラッチペダル74に影響を与えないのは言うまでもない。」(段落【0152】)
ス.「また、テンションアーム57には、図15、図34、図35で示すように、ミッションケース6側の従動プーリ55の回転を停止させるブレーキ部材147が固設され、このブレーキ部材147は、テンションアーム57が下方に向かって回動することによって従動プーリ55を押圧するように構成されている。すなわち、前記テンションアーム57のミッションケース6側にスライド支持板301を突設し、該スライド支持板301下面に側面視「コ」字状の支持体303を配置し、該支持体303の前後側面に前後に摺動自在にブレーキ部材147を支持し、該ブレーキ部材147前部をゴムなどの弾性体149で構成し、該弾性体149と支持体303との間にバネ148が介装され、ブレーキ部材147を従動プーリ55側に向けて付勢している。
したがって、前記ベルト54のテンションを「切」とするとともに、弾性体149を従動プーリ55のプーリ溝内に押圧することによって回転を停止させ、機体全体にブレーキがかかるように構成することができ、走行車両1をトラックの荷台に積込み若しくは積下ろしするためにアユミ板上を走行させたり、圃場への出入りの際の畦越え時に走行車両1を降車した作業者が苗継ぎレバー76を操作することで、走行車両1を停止させることができ、操作性が非常に優れたものになっている。」(段落【0154】、【00155】)
セ.「このような苗継ぎレバー76の操作でベルト54のテンションを「切」とすると同時にブレーキをかける機構において、ブレーキをより確実なものとする構造について説明する。図99に示すように、ミッションケース6の前部に軸支された主変速軸61より左方にブレーキ軸部61aを延出し、該ブレーキ軸部61aの先端にブレーキ輪61bを固設し、該ブレーキ輪61bの前方にはブレーキ部材147を配置する。該ブレーキ部材147の前部は前記ブレーキ輪61bを摩擦接触可能な凹状ゴムなどの弾性体149からなり、該弾性体149と支持部材147との間にはバネ148が介装され、該バネ148によりブレーキ部材147はブレーキ輪61b側に向けて付勢されている。」(段落【0159】)
ソ.「主変速レバー75が中立位置にある場合は、前述したように従動プーリ55にブレーキをかけても、主変速軸61は回動可能な状態にあるため、前輪2、後輪3とも自由に回動して走行車両1を停止できないが、このように、制動対象を走行変速ギア124よりも車輪側に近い主変速軸61に変更することにより、ブレーキをかけることができるようになり、しかも、該主変速軸61は前輪2と後輪3への動力伝達が分岐する軸でもあるため、四輪とも同時にロックすることができるのである。すなわち、このような構成とすることにより、途中で変速しても車輪を完全にロックすることができ、しかも、四輪とも同時にロックすることができるため、苗継ぎレバー76によるブレーキを常に有効とすることができる。」(段落【00160】)

3-2.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味又は機能などからみて、後者の「エンジン4」は前者の「エンジン(5)」に相当し、以下同様に、「ミツシヨンケース5」は「ミッションケース(6)」に、「入力軸6」は「入力軸(56)」に、「前輪2」は「前輪(2)」に、「後輪3」は「後輪(3)」に、「移動農機」は「乗用田植機」に、「主クラツチ55」は「クラッチ機構(14)」に、「分配軸10」は「動力分岐部である変速軸(61)」又は「変速軸(61)」に、「ブレーキ装置50」は「ブレーキ機構(78)」に、「前車軸・後車軸」は「前車輪駆動軸(62)・後車輪駆動軸(69)」に、「足踏ペダル」は「主クラッチペダル(74)」に、それぞれ相当する。
後者の「エンジン4と入力軸6との間に設けたベルト伝動装置上」と前者の「ミッションケース(6)内への入力軸(56)上」とは、どちらも「エンジンからミッションケース内への動力伝達経路上」である点で共通する。
後者の「変速歯車8,9からなる変速機構」は、「変速機構」である限りにおいて、前者の「副変速機構(70)」及び「主変速機構(71)」に相当する。

したがって、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は、
「エンジンからの動力を、ミッションケースの入力軸に入力し、該ミッションケース内で変速して、前輪と後輪に動力を伝達する乗用田植機において、エンジンからミッションケース内への動力伝達経路上に、エンジンの動力を断接するクラッチ機構を構成し、該クラッチ機構の伝動下流側に変速機構を構成し、更に下流側に、前記前輪と後輪への動力分岐部である変速軸を設け、該変速軸上にブレーキ機構を配置し、該ブレーキ機構は、該変速機構が中立位置にあっても、前車輪駆動軸・後車輪駆動軸は空回りすることなくブレーキをかけることを可能とし、該ブレーキ機構は、前記クラッチ機構を操作する主クラッチペダルに連動連結した乗用田植機。」の発明である点で一致し、

そして、両者は、次の点で相違する(かっこ内は、本願補正発明の対応する用語を示す。)。
相違点1:本願補正発明のクラッチ機構(14)は、「ミッションケース(6)内への入力軸(56)上に」構成されているのに対して、引用発明の主クラッチ55(クラッチ機構)は、エンジン4と入力軸6との間に設けたベルト伝動装置上に構成されている点。
相違点2:本願補正発明の変速機構は、「副変速機構(70)と主変速機構(71)」とからなる変速機構であるのに対して、引用発明の変速機構は、変速歯車8,9からなる変速機構である点。
相違点3:本願補正発明のブレーキ機構(78)は、「苗継ぎ時にクラッチ機構(14)を断としかつ機体を停止する為の苗継ぎレバー(76)に連動連結し、作業者が、乗用田植機から降車した状態で、該苗継ぎレバー(76)を操作することで、乗用田植機をトラックの荷台に積込み若しくは積下ろしするためにアユミ板上を走行させたり、圃場への出入りの際の畦越えする際に、乗用田植機を停止させることを可能とした」ものであるのに対して、引用発明のブレーキ装置50(ブレーキ機構)は、そのように構成されているか明らかでない点。

3-3.判断
(1)相違点1について
乗用田植機において、クラッチ機構を入力軸上に構成することは、例えば、特開2000-279008号公報(段落【0018】、図4の「主クラッチ9」を参照)などに見られるように、従来周知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明において、ベルト伝動装置上に構成した主クラッチ55(クラッチ機構)に代えて上記周知のミッションケース内への入力軸上に構成したクラッチ機構を採用し、相違点1に係る本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
乗用田植機において、変速機構を副変速機構と主変速機構とで構成することは、例えば特開2000-79888号公報(段落【0026】?【0028】参照)などに見られるように、従来周知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明において、変速歯車8,9からなる変速機構に代えて上記周知の副変速機構と主変速機構とからなる変速機構を採用し、相違点2に係る本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

(3)相違点3について
引用例2には、「苗継ぎレバー76を後方に向けて図34の矢印方向に回動操作すると、連動ロッド140が下方に向かって移動し、長孔140aに挿通された嵌入部材143を介してテンションアーム57を下方に回動して、テンションアーム57に取り付けられているテンションローラー58をベルト54から離し、ベルトテンションを「切」状態にするようになっている。」(上記シ.参照)との記載からみて、苗継ぎレバー76はクラッチ機構を断とする機能を果たすことが記載されている。また、上記ス.の「このブレーキ部材147は、テンションアーム57が下方に向かって回動することによって従動プーリ55を押圧するように構成されている。」との記載、同じく上記ス.の「前記ベルト54のテンションを「切」とするとともに、弾性体149を従動プーリ55のプーリ溝内に押圧することによって回転を停止させ、機体全体にブレーキがかかるように構成することができ」との記載からみて、苗継ぎレバー76は、クラッチ機構を断とする機能だけでなく、機体を停止する機能を有していることは明らかである。
引用例2には、さらに「一方、主クラッチペダル74を踏み込むと、図34、図35で示すように、ペダルの支柱に固設されたL字型ブラケット144に取り付けられたピンなどの押圧部材145が、テンションアーム57の回動軸59に固定されたカム146を押してテンションアーム57を下方に回動させるようになっており、これによってベルトテンションを「切」状態にするようになっている。」(上記シ.参照)と記載され、「前記ベルト54のテンションを「切」とするとともに、弾性体149を従動プーリ55のプーリ溝内に押圧することによって回転を停止させ、機体全体にブレーキがかかるように構成することができ」(上記ス.参照)と記載され、「このベルト54は、テンションアーム57の先端に取り付けられたテンションローラー58によって緊張されるように構成され、主クラッチペダル74の踏み込み操作や苗継ぎレバー76のシフト操作に連動して動力の断接が行われるようになっている。」(上記サ.参照)と記載されていることからみて、ブレーキ部材147が主クラッチペダル74と苗継ぎレバー76に連動連結しているということが理解できる。
また、引用例2には、「走行車両1をトラックの荷台に積込み若しくは積下ろしするためにアユミ板上を走行させたり、圃場への出入りの際の畦越え時に走行車両1を降車した作業者が苗継ぎレバー76を操作することで、走行車両1を停止させることができ」る(上記ス.参照)と記載されている。
さらに、引用例2には、上記ソ.に摘記したように、制動対象を従動プーリ55に代えて主変速軸61に変更することが記載又は示唆されており、その場合、前輪及び後輪を完全にロックすることができることが記載されている。
これらの記載事項を総合すると、引用例2には、ブレーキ部材147を、ベルトテンションを「切」にする主クラッチペダル74と、苗継ぎ時にベルトテンションを「切」状態にしかつ機体を停止させるための苗継ぎレバー76に連動連結し、作業者が、走行車両1から降車した状態で、該苗継ぎレバー76を操作することで、走行車両1をトラックの荷台に積込み若しくは積下ろしするためにアユミ板上を走行させたり、圃場への出入りの際の畦越えする際に、走行車両1を停止させることを可能にすることが記載されている。
してみると、引用例2には、本願補正発明の用語を用いて表現すると、「ブレーキ機構は、クラッチ機構を操作する主クラッチペダルと、苗継ぎ時にクラッチ機構を断としかつ機体を停止する為の苗継ぎレバーに連動連結し、作業者が、乗用田植機から降車した状態で、該苗継ぎレバーを操作することで、乗用田植機をトラックの荷台に積込み若しくは積下ろしするためにアユミ板上を走行させたり、圃場への出入りの際の畦越えする際に、乗用田植機を停止させることを可能とした」発明が記載されていると認められる。
そして、引用発明と引用例2に記載された発明とは、どちらも乗用田植機に関する発明であり、同一技術分野に属するものである。
そうすると、引用例1及び引用例2に接した当業者であれば、引用発明に引用例2に記載された発明を適用し、相違点3に係る本願補正発明のように構成することは、格別の創意を要することなく容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書の中で、引用文献1(審決注:本審決における「引用例1」に対応する。)である実願昭58-100064号(実開昭60-8177号)のマイクロフィルム、引用文献2である特開2001-39185号公報、引用文献3である特開2000-354409号公報においては、いずれにも「『苗継ぎレバー(76)』の技術が開示されておらず、『苗継ぎレバー(76)とクラッチ機構(14)』とを連動し、『作業者が、乗用田植機から降車した状態』で操作可能としたという技術は開示されていないのである。」(「(3).引用文献に記載された技術との比較対比 」の項参照)と主張する。
しかしながら、「苗継ぎレバー(76)とクラッチ機構(14)」とを連動し、「作業者が、乗用田植機から降車した状態」で操作可能とする技術は、上記「(3)相違点3について」の項で述べたとおり、引用例2に記載されている。
また、審判請求人は、審尋に対する平成22年9月21日付けの回答書の中で、「本出願に関して、拒絶理由通知書が提示されたのは、平成21年2月17日の1回であり、該1回の拒絶理由通知書においては、今回の『審尋』において引用した『前置報告書』において記載されている『特開2000-092926号公報』(審決注:本審決の「引用例2」に対応する。以下同様。)は、引用されていないのである。
また、『拒絶理由通知書』に対して、『意見書・手続補正書』を提出し、それに対して、『拒絶査定』が下されたが、該『拒絶査定の謄本』においても、上記の『特開2000-092926号公報』は引用記載されていないのである。
その『特開2000-092926号公報』が、『前置報告書』において、引用されて、今回の『審尋』において、提示されている。
確かに、該引用文献『特開2000-092926号公報』は、同一出願人の同一代理人の先願公知文献であるから、『出願人も代理人』に周知している筈であり、『拒絶理由通知書』においては、引用文献に入れなかった。だが、『前置報告書』においては、該『特開2000-092926号公報』を引用文献として入れたと、審査官は指摘されるかも知れない。
しかし、上記した『特開2000-092926号公報』と、本発明の明細書及び図面に記載されている発明との間には、明確な相違点が存在し、出願人としては、もし、『拒絶理由通知書』や『拒絶査定』の段階におてい、上記『特開2000-092926号公報』が提示されていれば、『審判請求時の手続補正書』に記載したように、請求項を1と2と3の、3項とし記載せずに、その時点で、請求項1と2と3を一体的にした新請求項1とする補正をして、『特開2000-092926号公報』との間の相違点も明確にしていた筈である。」(「(2).引用文献である『特開2000-092926号公報』について」の項参照)と主張し、補正の機会を与えるよう求めている。
しかしながら、特許法第159条第2項で準用する同法第50条によれば、「審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第17条の2第1項第3号に掲げる場合において、第53条第1項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。」とされ、補正の却下について意見書を提出する機会は与えなくてよいとされているのであるから、本件補正の却下に当たり、補正の却下の理由を事前に通知する必要がないことは明らかであり、また、補正の機会を与える必要がないことも明らかである。
また、引用例2は、審判請求時の補正が特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正に該当しないことに起因して、新たに引用する必要が生じたものであって、しかも、引用例2は、本願明細書の段落【0002】に記載された本願発明の前提となった従来技術を開示した文献であり、審判請求人が回答書において、「本発明者は、上記の『特開2000-092926号公報』の如く構成した、従来技術の、『クラッチ機構』および『ブレーキ機構』及びその『連動機構』が、『ベルトテンションクラッチ機構』と『プーリー押圧制動機構』である為に、組立や調整に手間取りという不具合があったので改良したものである。」(同上)と述べているとおり、審判請求人も出願時においてその内容を十分承知していたはずの文献である。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成21年4月16日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「エンジン(5)からの動力をミッションケース(6)に入力し、該ミッションケース(6)内で変速して、前輪(2)と後輪(3)に動力を伝達する乗用田植機において、該ミッションケース(6)内への入力軸(56)から、副変速機構(70)と主変速機構(71)を経た伝動下流側で、前記前輪(2)と後輪(3)への動力分岐部である変速軸(61)上に、ブレーキ機構(78)を配置し、該ブレーキ機構(78)は、該副変速機構(70)又は主変速機構(71)が中立位置にあっても、前車輪駆動軸(62)・後車輪駆動軸(69)は空回りすることなくブレーキをかけることを可能とし、該ブレーキ機構(78)は、乗用田植機をトラックの荷台に積込み、若しくは積下ろしするためにアユミ板上を走行させたり、圃場への出入りの際の畦越えする際に、乗用田植機から降車した状態でも、作業者が、連結連動する手動レバーを操作することで、乗用田植機を停止させることを可能としたことを特徴とする乗用田植機。」

2.引用例の記載事項
引用例1の記載事項及び引用発明は、前記II.3-1.に記載したとおりである。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、その意味又は機能などからみて、後者の「エンジン4」は前者の「エンジン(5)」に相当し、以下同様に、「ミツシヨンケース5」は「ミッションケース(6)」に、「入力軸6」は「入力軸(56)」に、「前輪2」は「前輪(2)」に、「後輪3」は「後輪(3)」に、「移動農機」は「乗用田植機」に、「主クラツチ55」は「クラッチ機構(14)」に、「分配軸10」は「動力分岐部である変速軸(61)」又は「変速軸(61)」に、「ブレーキ装置50」は「ブレーキ機構(78)」に、「前車軸・後車軸」は「前車輪駆動軸(62)・後車輪駆動軸(69)」に、それぞれ相当する。
したがって、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は、
「エンジンからの動力をミッションケースに入力し、該ミッションケース内で変速して、前輪と後輪に動力を伝達する乗用田植機において、該ミッションケース内への入力軸から、変速機構を経た伝動下流側で、前記前輪と後輪への動力分岐部である変速軸上に、ブレーキ機構を配置し、該ブレーキ機構は、該変速機構が中立位置にあっても、前車輪駆動軸・後車輪駆動軸は空回りすることなくブレーキをかけることを可能とした乗用田植機。」の発明である点で一致し、

そして、両者は次の点で相違する。
相違点A:本願発明の変速機構は、「副変速機構(70)と主変速機構(71)」とからなる変速機構であるのに対して、引用発明の変速機構は、変速歯車8,9からなる変速機構である点。
相違点B:本願発明のブレーキ機構(78)は、「乗用田植機をトラックの荷台に積込み、若しくは積下ろしするためにアユミ板上を走行させたり、圃場への出入りの際の畦越えする際に、乗用田植機から降車した状態でも、作業者が、連結連動する手動レバーを操作することで、乗用田植機を停止させることを可能とした」ものであるのに対して、引用発明のブレーキ装置50(ブレーキ装置)は、そのように構成されているか明らかでない点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点Aについて
乗用田植機において、変速機構を副変速機構と主変速機構とで構成することは、例えば特開2000-79888号公報(段落【0026】?【0028】参照)などに見られるように、従来周知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明において、変速歯車8,9からなる変速機構に代えて上記周知の副変速機構と主変速機構とからなる変速機構を採用し、相違点Aに係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

(2)相違点Bについて
乗用田植機において、「乗用田植機をトラックの荷台に積込み、若しくは積下ろしするためにアユミ板上を走行させたり、圃場への出入りの際の畦越えする際に、乗用田植機から降車した状態でも、作業者が、連結連動する手動レバーを操作することで、乗用田植機を停止させることを可能と」することは、例えば、引用例2(上記ス.参照)、特開2001-39185号公報(段落【0056】、【0058】参照)、特開2000-354409号公報(段落【0022】、【0026】参照)などに見られるように、従来周知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明において、上記周知技術を適用し、相違点Bに係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-01 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-27 
出願番号 特願2001-73964(P2001-73964)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60T)
P 1 8・ 121- Z (B60T)
P 1 8・ 57- Z (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河内 誠村上 聡  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 川上 溢喜
倉田 和博
発明の名称 乗用田植機  
代理人 矢野 寿一郎  
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