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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1232461
審判番号 不服2009-21671  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-09 
確定日 2011-02-16 
事件の表示 特願2005-304940号「ステレオリソグラフィーにおける高度な構成技術」拒絶査定不服審判事件〔平成18年4月13日出願公開、特開2006-96047号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成7年4月25日に出願した特願平7-527841号(パリ条約に基づく優先権主張1994年4月25日、(US)アメリカ合衆国)の一部を平成17年10月19日に新たな特許出願としたものであって、平成21年7月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年11月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。

II.平成21年11月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年11月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「材料の層からなる3次元目的物を形成するための改良された装置であって、目的物を記述するデータを供給するための手段と、該目的物の層を形成し、層が積層された3次元目的物を構成するための構成物に基づいて目的物の層を互いに自動的に粘着するための手段を含み、この改良が、
少なくとも1つの穴又は排水路を挿入するために、少なくとも1つの層の少なくとも1部分を記述するデータを修正するための手段;及び
上記修正されたデータを、上記3次元目的物を形成するために使用する手段、
を含み、
前記少なくとも1つの穴又は排水路が、前記3次元目的物の外面を定める層に提供される、
ことを特徴とする装置。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、補正前の請求項1(平成20年8月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された発明を特定するために必要な事項である「少なくとも1つの穴又は排水路」について、「前記少なくとも1つの穴又は排水路が、前記3次元目的物の外面を定める層に提供される」との限定を付加したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である欧州特許出願公開第590957号明細書(以下、「引用例」という。)には、「Photo-solidified object having unsolidified liquid ejecting ports and method of fabricating the same.(未硬化液排出口付光硬化造形物とその造形方法)」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、当審仮訳は、パテントファミリーである特開平6-114948号公報の記載を参考にした。)
ア.「It is an object of the present invention to provide a photo-solidified object ・・・the honeycomb structure is interrupted by a process of temporarily eliminating light exposure.」(2欄23行?44行、当審仮訳:「この発明の目的は、内部に形成されたハニカム構造を有する外皮モデルの各セルから未硬化液を容易に排出できる光硬化造形物及びその造形方法を提供することである。
この発明は、輪郭に対応する外皮と該外皮を内部から支えるハニカム構造を含み、外皮とハニカム構造が光硬化性樹脂の硬化物で一体造形された光硬化造形物において、該ハニカム構造に、該ハニカム構造で区割される各セルを相互に連通させる連通口が付加されていることを特徴とする未硬化液排出口付光硬化造形物を提供する。
この発明の一態様によれば、このような光硬化造形物は、該ハニカム構造を造形するための光照射の途中に、一時的に光照射を省略する工程を割込ませる光硬化造形法によって造形される。」)
イ.「The photo-solidified object of the present invention has communication ports formed for mutual communication among cells, ・・・the ribs which serve as communication ports for communicating with the cells.」(2欄49行?3欄2行、当審仮訳:「この発明の光硬化造形物によると、各セル間に予め相互連通口が設けられているために、未硬化液はセル間を流動でき、各セルから未硬化液が容易に排出される。
この発明の光硬化造形法によると、各リブの造形用の光照射工程の途中に未照射工程が割込まれることからリブの一部に未硬化部が形成され、これによってセル間の連通口が形成される。」)
ウ.「First Embodiment (honeycomb structure of the type in which some of ribs are eliminated)・・・The communication ports WA, WB, WC and others are designed to have a dimension of more than 1 mm at the shortest side thereof so as to assure sufficient fluidability.」(3欄48行?5欄1行、当審仮訳:「第一実施例(リブの一部を省略したタイプのハニカム構造)
この実施例は、内部のハニカム構造を構成するリブの一部が造形されない、すなわちリブの一部に対する光照射が省略される例である。図2はこのタイプの造形物の一例を示しており、光硬化造形物MはXYZ軸によって定義される3次元空間内に位置する3次元物体であり、閉曲面Sに示される外皮と、その外皮で囲繞される空間内に形成されているハニカム構造とからなる。図中YRはハニカムを形成するリブがY方向にのみ形成されている領域、XRはリブがX方向にのみ形成されている領域、XYRはリブがX方向にもY方向にも形成されている領域を示している。
図1はハニカムの一部を拡大して示すものであり、同様の構造がXYZ方向に延びている。領域XYR,YR,XRは理解しやすくするために分離して示されているが、実際は連続している。領域XYR内ではX方向に伸びるリブHXとY方向に伸びるリブHYがともに形成されており、格子状のハニカムを形成している。領域YR内ではX方向のリブは省略されY方向に伸びるリブHYのみが形成されている。領域XR内ではY方向のリブは省略されX方向に伸びるリブHXのみが形成されている。
領域XYRでは格子状のリブHXとHYによってセルC1,C2…が区画され、各セルC1,C2…はそれぞれ分離されている。しかしながら、領域YRではX方向のリブHXが省略されているため、セルC1,C3,C5は相互に連通され、同様にセルC2,C4,C6も相互に連通される。すなわちセルC1とC3は連通口WAで相互に連通され、セルC2とC4は連通口WBで相互に連通されている。セルC3とC5,セルC4とC6間にも同様に連通口が形成されている。
領域XRではY方向のリブが省略されているため、相互に連通しているセルグループC1,C3,C5とセルグループC2,C4,C6は領域XRにおいて相互に連通する。すなわちセルグループC1,C3,C5とセルグループC2,C4,C6は連通口WCで相互に連通されている。このためセルC1,C2…C6の全部が連通口WA,WB,WC等で相互に連通される。
上部のXYR領域にも格子状にリブHX,HYが形成されており、セルC7?C12に区割されている。セルC7とC8、セルC9とC10、セルC11とセルC12はXR領域の連通口WCによってそれぞれ連通されており、またセルグループC7,C8とセルグループC9,C10はYR領域の連通口WA,WBで連通している。このようにして全部のセルC1?C12が相互に連通している。
連通口WA,WB,WC等は、充分な流動性を確保するために、最小の一辺が1mm以上となるように寸法を設定されている。」)
エ.「Referring now to FIGS. 2 and 3, the modeling method will be described. ・・・so that provision of respective exits at the upper and lower end portions of the object permits ejection of unsolidified liquid from all of the cells.」(5欄2行?15行、当審仮訳:「次に図2,図3を参照して、造形方法について説明する。
まずオペレータが光硬化造形システムのモニタ画面を見ながら、XYR領域の高さP1、YR領域の高さP2、XR領域の高さP3等を設定し入力する。ここでは図2に示すように、モデルの最大断面のところにXR,YR領域が形成されるようにする。またモデルの上端及び下端にもXR,YR領域が形成されるようにする。このようにすると全部のセルが連通し、またモデルの上端と下端の外皮に1つずつ排出口を設けるだけで全セルから未硬化液が排出される。」)
オ.「FIG. 4 shows a system construction of the photo-solidification modeling system, ・・・exposure by the laser 2 is repeated to fabricate a three-dimensional photo-solidified object 12.」(5欄16行?42行、当審仮訳:「図4は光硬化造形システムのシステム構成を示しており、容器10内に未硬化の光硬化性樹脂8が貯蔵されている。容器10内にエレベータ14が昇降可能に設定されている。エレベータ14はエレベータ昇降装置16によって上下動される。容器10に隣接してレーザ2が配置されており、レーザビームが容器10内の液面の任意の位置に照射できるように、レーザビーム走査装置4が配置されている。レーザビーム走査装置4はガルバノミラーでもよいし、光ファイバをXYプロッタで走査させるものであってもよい。レーザビーム走査装置4と液面間にシャッタ兼フィルタ6が設けられ、レーザビームの強度(ゼロを含む)を調整可能となっている。レーザ2、レーザビーム走査装置4、シャッタ兼フィルタ6、ならびにエレベータ昇降装置16は制御装置20で制御される。制御装置20はコンピュータであり、キーボード22によってデータ入力可能となっている。またモニタ画面18が付設されており、オペレータに必要な情報を提供する。さらにこの制御装置20は3次元CADシステムや3次元測定機等と接続可能となっており、3次元形状データ24を入力可能となっている。エレベータ14の高さを低下させつつレーザ2による照射を繰返すと、液中に3次元の光硬化造形物12が造形される。」)
カ.「FIG. 3 shows a flow chart of the modeling process for the object M. At first, in Step 2, a ・・・in the region YR and X direction communication ports in the region XR is fabricated.」(5欄43行?6欄30行、当審仮訳:「図3は、図1、図2に示すモデルMの造形プロセスのフローチャートを示すものである。まずステップS2で制御装置20内に3次元の形状データを入力する。そしてステップS4において、ステップ2で入力された3次元の形状データをP4ピッチでスライスしたときの1つ断面の輪郭データを抽出する。最初にステップS4を実行するときは最下断面の処理をする。ここでP4は通常0.1mm以下であり、図2のP1,P2,P3等に比して著しく小さい。すなわち図1のYR,XR領域に示すリブHY,HXはP4の厚みが多数積層されて造形されるものである。
図3のステップS6では、ステップS4で処理された断面が図2に示すYR領域かどうかを制御装置20が判別する。イエスならばステップS8でX1のピッチでY方向に沿って輪郭内部を照射する。これにより、図1のYR領域に示すようにY方向リブHYが造形される。このときX方向のリブの造形のための光照射は省略される。
図3のステップS6でノーならば制御装置20は次にステップS10でXR領域か否かを判別する。イエスならばステップS12でY1のピッチでX方向に沿って輪郭内部を照射する。これにより、図1のXR領域に示すようにX方向リブHXが造形される。このときはY方向のリブのための光照射が省略される。
図3のステップS6とステップS10がともにノーならばXYRの領域であるために、ステップS14でX1ピッチでYラインに沿って、Y1ピッチでXラインに沿って、光照射する。これにより輪郭内部に図1に示すX方向リブHXとY方向リブHYがともに造形される。ステップS8,12,14のいずれかで1つの断面に対するリブの造形が終了すると、ステップS4に戻り隣接断面に対して同様の処理をする。これを全断面について繰返す。
以上の工程によって、YR領域ではY方向の、XR領域内ではX方向の連通口が形成されたハニカム構造で補強された外皮モデルが造形される。」)
キ.「FIG. 5 shows an example of the honeycomb structure further having ribs HZ formed ・・・by temporarily eliminating light exposure in the light exposure process for forming the ribs.」(6欄31行?50行、当審仮訳:「図5は図1に示すハニカム構造にさらにZ方向にも離隔的にZリブHZが付加される例を示している。この場合、全部のリブHX,HY,HZが省略されることなく造形されると各セルは立方体状となり、相互に分離されることになる。この場合、Z方向リブHZのピッチZ1毎に、XYR領域→YR領域→XR領域→XYR領域(以下同様)とし、HZリブをXY面内で千鳥格子状にすることで、全部のセルは連通し、未硬化液は外皮モデル中を流動することになる。このようにすると、HX,HY,HZリブからなる立体格子状の場合にも、リブの一部を未硬化とすることによってセル間の連通口を確保できる。なおこのような外皮ハニカムモデルを造形する場合にも、リブの造形用照射の途中に、光照射を一時的に省略する方法が用いられる。」)
ク.「Fourth Embodiment (honeycomb structure of the type in which through holes are formed in the ribs)・・・for forming ribs is interrupted by a process of temporarily stopping light exposure.」(8欄37行?55行、当審仮訳:「第四実施例(リブに貫通口を設けるタイプのハニカム構造)
この実施例は、第一実施例で述べたようなリブの一部を省略するものではなく、リブに貫通口を設けるものである。図11は立体格子を形成するリブHX,HY,HZの各リブの全てのコーナー近傍に貫通口Wを成形した例を示している。なおこの貫通口は1つのセルに最低2つあればよく、図11のように全コーナ毎に3つずつ貫通孔がある必要はない。
このようにしても各セルは貫通口によって連通し、外皮モデルの中から未硬化液を排出し易くなる。第四実施例による光硬化造形物は、リブを造形する光照射工程の途中に、光照射を一時的に停止させる工程を割込ませる方法によって造形される。」)
ケ.上記イ.の「輪郭に対応する外皮と該外皮を内部から支えるハニカム構造を含み、外皮とハニカム構造が光硬化性樹脂の硬化物で一体造形された光硬化造形物において、該ハニカム構造に、該ハニカム構造で区割される各セルを相互に連通させる連通口が付加されている」との記載、上記エ.の「またモデルの上端及び下端にもXR,YR領域が形成されるようにする。このようにすると全部のセルが連通し、またモデルの上端と下端の外皮に1つずつ排出口を設けるだけで全セルから未硬化液が排出される。」との記載などからみて、引用例には、輪郭に対応する外皮と該外皮を内部から支えるハニカム構造が光硬化性樹脂の硬化物で一体造形された光硬化造形物において、外皮に排出口を設けるとともに、ハニカム構造に、該ハニカム構造で区割される各セルを相互に連通させる連通口(貫通口)を付加することが記載されている。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「輪郭に対応する外皮と該外皮を内部から支えるハニカム構造が光硬化性樹脂の硬化物で一体造形された、光硬化性樹脂の層からなる光硬化造形物を形成するための光硬化造形システムであって、入力された3次元形状データを所定ピッチでスライスしたときの1つの断面の輪郭データを抽出して供給するための手段と、該光硬化造形物の層を形成し、層が積層された光硬化造形物を構成するための構成物に基づいて光硬化造形物の層を互いに自動的に粘着するための手段を含み、
外皮に排出口を設けるとともに、ハニカム構造に、該ハニカム構造で区割される各セルを相互に連通させる連通口(貫通口)を付加する、光硬化造形システム。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能などからみて、引用発明の「光硬化性樹脂」は本願補正発明の「材料」に相当し、以下同様に、「光硬化造形物」は「3次元目的物」又は「目的物」に、「光硬化造形システム」は「改良された装置」又は「装置」に、「入力された3次元形状データを所定ピッチでスライスしたときの1つの断面の輪郭データを抽出して供給するための手段」は「目的物を記述するデータを供給するための手段」に、「外皮」は「3次元目的物の外面を定める層」に、「排出口」又は「連通口(貫通口)」は「少なくとも1つの穴又は排水路」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「外皮に排出口を設けるとともに、ハニカム構造に、該ハニカム構造で区割される各セルを相互に連通させる連通口(貫通口)を付加する」点は、その排出口及び連通口(貫通口)がどのような手段によって形成されるかは相違点として検討するとしても、本願補正発明の「前記少なくとも1つの穴又は排水路が、前記3次元目的物の外面を定める層に提供される」点にひとまず相当する。
そうすると、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「材料の層からなる3次元目的物を形成するための改良された装置であって、目的物を記述するデータを供給するための手段と、該目的物の層を形成し、層が積層された3次元目的物を構成するための構成物に基づいて目的物の層を互いに自動的に粘着するための手段を含み、
少なくとも1つの穴又は排水路が、前記3次元目的物の外面を定める層に提供される、
装置。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点]
本願補正発明は、「この改良が、少なくとも1つの穴又は排水路を挿入するために、少なくとも1つの層の少なくとも1部分を記述するデータを修正するための手段;及び上記修正されたデータを、上記3次元目的物を形成するために使用する手段、を含」んでいるのに対して、引用発明は、「少なくとも1つの穴又は排水路を挿入するために」、そのような手段を含んでいるかどうか明らかでない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
引用例には、第四実施例について「図11は立体格子を形成するリブHX,HY,HZの各リブの全てのコーナー近傍に貫通口Wを成形した例を示している。なおこの貫通口は1つのセルに最低2つあればよく、図11のように全コーナ毎に3つづつ貫通孔がある必要はない。」(上記ク.参照)と記載されており、貫通口Wは、1つのセルに最低2つ設ければ、貫通口を設ける位置や個数は必要に応じて適宜変更し得ることが示唆されている。
そして、引用例には、「第四実施例による光硬化造形物は、リブを造形する光照射工程の途中に、光照射を一時的に停止させる工程を割込ませる方法によって造形される。」(上記ク.参照)と記載されていることからもわかるように、貫通口は、リブHX,HY,HZを形成するときに、光照射を一時停止する工程を割り込ませることで形成されるものであるから、貫通口の位置や個数を変更する場合には、リブHX,HY,HZを形成するためのデータを修正する必要があることは、技術的にみて自明の事項である。また、外皮に形成される排出口についても、ハニカム構造の貫通口と同様の方法で形成されるものと推察される。
しかも、複数の材料層を積層することにより3次元目的物を形成する装置において、形状を変更可能とするために、層の形状を記述するデータを修正をするための手段、及び修正されたデータを3次元目的物を形成するために使用する手段を設けることは、例えば、特開平4-118222号公報(4ページ左上欄7?16行には「造形希望形状データ記憶手段1-7に記憶されたデータは、データ編集手段1-8により、第2図のステップ2-8に示すように編集可能となっている。この編集作業では造形希望形状をデータ上拡大、縮少、回転させたり、あるいは形状を修正することが可能である。この修正作業では造形過程で形状を保持するための補強形状を追加することができる。また修正機能を用いて全く新しく3次元形状データを創成することも可能である。」と記載されている。)などに見られるように従来周知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明において、外皮に設けた排出口やハニカム構造に設けた連通口(貫通口)の位置や個数を変更し得るようにするために、上記周知技術を適用し、少なくとも1つの層の少なくとも1部分を記述するデータを修正するための手段;及び上記修正されたデータを3次元目的物を形成するために使用する手段を設け、上記相違点に係る本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。そして、このようにしたものは、実質的にみて、上記相違点に係る本願補正発明の構成を具備しているということができる。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「引用文献2(審決注:本審決の「引用例」に対応する。以下同様)においては、各セルが貫通口Wによって連通し、外皮モデルの中から未硬化液を排出し易くなることが記載されていますが、引用文献2に記載される光硬化造形物は、輪郭に対応する外皮と該外皮を内部から支えるハニカム構造が光硬化性樹脂の硬化物で一体造形されるものであって、連通口はそのハニカム構造で区割される各セルを相互に連通させるために立体格子状の各面に設けられているだけのものであります。引用文献2においては、光造形物の内部のグリッドパターン中に閉じ込められた樹脂を対象とするものであって、光造形物のグリッドパターンにおいてその内部のグリッド中に開口部を提供し、その後、液体樹脂を内部の四角形の容積のそれぞれから排出しようとするものでありますから、引用文献2において開口部はむしろ光造形物の内表面に形成されるものであり、本願発明(審決注:本審決の「本願補正発明」に対応する。以下同様)の特徴とする3次元目的物の外面を定める層に少なくとも1つの穴又は排水路を挿入する構成とは全く異なるものであります。」(「(c)引用発明の説明、および本願発明と引用発明との対比」の項参照。)と主張する。
しかしながら、引用例には、「この発明の目的は、内部に形成されたハニカム構造を有する外皮モデルの各セルから未硬化液を容易に排出できる光硬化造形物及びその造形方法を提供することである。」(上記ア.参照)と記載されており、この記載からもわかるように、引用発明の目的は、光硬化造形物の中に閉じ込められた未硬化液を外に排出できるようにすることであるから、ハニカム構造で区割される各セルを相互に連通させただけでは、未硬化液が外に排出できないことは明らかであり、当然、外皮にも排出口が必要となることは明らかであるところ、引用例には、「またモデルの上端及び下端にもXR,YR領域が形成されるようにする。このようにすると全部のセルが連通し、またモデルの上端と下端の外皮に1つずつ排出口を設けるだけで全セルから未硬化液が排出される。」(上記エ.参照)と記載されており、外皮に排出口を設けることも記載されている。そして、外皮は本願補正発明の「3次元目的物の外面を定める層」に相当するものである。
したがって、引用文献2に記載される光硬化造形物は、「本願発明の特徴とする3次元目的物の外面を定める層に少なくとも1つの穴又は排水路を挿入する構成とは全く異なるもの」であるとの審判請求人の主張は、理由がない。
また、審判請求人は、「引用文献2においては、審査官殿もご指摘の通り、光造形物に穴を設けるために、光照射を一時停止する工程を割り込ませなければならないものでありますが、このような構成では、光造形物の完成に時間がかかるばかりか、光照射の一時停止により樹脂の硬化が不規則となり、精度良く光造形物を形成することは困難なものでありますから、引用文献2に記載の発明は、3次元目的物を構成する最中にデータを修正して穴又は排水路を形成して、目的物の構成後に固化していない材料を自動的に排出する本願発明とは全く異なるものであります。」(「(c)引用発明の説明、および本願発明と引用発明との対比」の項参照。)と主張する。
しかしながら、光照射の走査工程において、走査経路に穴等の硬化させない部分を含むのであれば、光源を移動させつつも、当該部分における光照射を一時停止させることは、技術的にみて当然のことであり、本願補正発明においてもそのような一時停止は行われているものと認められる。また、「引用文献2に記載の発明は、3次元目的物を構成する最中にデータを修正して穴又は排水路を形成して、目的物の構成後に固化していない材料を自動的に排出する本願発明とは全く異なるものであります。」との主張については、本願の特許請求の範囲の請求項1には、「少なくとも1つの穴又は排水路を挿入するために、少なくとも1つの層の少なくとも1部分を記述するデータを修正するための手段」を有する旨が特定されているにすぎず、「3次元目的物を構成する最中にデータを修正して穴又は排水路を形成」することに関しては何も記載されていないから、この主張は、本願補正発明に基づかない主張である。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成20年8月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「材料の層からなる3次元目的物を形成するための改良された装置であって、目的物を記述するデータを供給するための手段と、該目的物の層を形成し、層が積層された3次元目的物を構成するための構成物に基づいて目的物の層を互いに自動的に粘着するための手段
を含み、この改良が、
少なくとも1つの穴又は排水路を挿入するために、少なくとも1つの層の少なくとも1部分を記述するデータを修正するための手段;及び
上記修正されたデータを、上記3次元目的物を形成するために使用する手段
を含むことを特徴とする装置。」

2.引用例の記載事項
引用例の記載事項及び引用発明は、前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記II.1.の本願補正発明から、「少なくとも1つの穴又は排水路」についての限定事項である「前記少なくとも1つの穴又は排水路が、前記3次元目的物の外面を定める層に提供される」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3.及び4.に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-17 
結審通知日 2010-09-21 
審決日 2010-10-04 
出願番号 特願2005-304940(P2005-304940)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 575- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 晋也  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官
常盤 務
山岸 利治
発明の名称 ステレオリソグラフィーにおける高度な構成技術  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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