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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1232713
審判番号 不服2007-33165  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-07 
確定日 2011-02-21 
事件の表示 特願2000-533892「マスクを通過する横方向のオーバーグロースによる窒化ガリウム半導体層を製造する方法及びそれによって製造された窒化ガリウム半導体の構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月 2日国際公開,WO99/44224,平成14年 2月19日国内公表,特表2002-505519〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,1999年2月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年2月27日,米国)を国際出願とする出願であって,平成19年2月8日付けの拒絶理由通知に対して,同年5月22日に手続補正書及び意見書が提出されたが,同年9月7日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年12月7日に審判請求がされるとともに,同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成19年12月7日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正のうち,特許請求の範囲についてする補正の内容は,次のとおりである。
(1)補正事項1(請求項1についての補正)
請求項1の,
「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」及び
「これにより第2の過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」
との記載を,それぞれ,次のように補正する。
「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」及び
「これにより,第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」

(2)補正事項2(請求項18についての補正)
請求項18の,
「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」及び
「これにより第2の横方向に成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」
との記載を,それぞれ,次のように補正する。
「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」及び
「これにより,第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な横方向に成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」

(3)補正事項3(請求項24についての補正)
請求項24の,
「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に形成された基底の窒化ガリウム層(104)」及び
「前記第2の縦方向の窒化ガリウム層から,前記第1の横方向の窒化ガリウム層に対向する前記第2のパターン化層上に延びる第2の横方向の窒化ガリウム層(208b)」
との記載を,それそれ,次のように補正する。
「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に形成された少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層(104)」及び
「前記第2の縦方向の窒化ガリウム層から,前記第1の横方向の窒化ガリウム層に対向する前記第2のパターン化層上に延びる,第2の連続的な横方向の窒化ガリウム全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な横方向の窒化ガリウム層(208b)」

(4)補正事項4(請求項34についての補正)
請求項34の,
「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に形成された基底の窒化ガリウム層(104)」,
「前記第1の横方向の窒化ガリウム層から延びる第2の横方向の窒化ガリウム層(208b)」及び
「前記第2の横方向の窒化ガリウム層内の複数のマイクロ電子ディバイス(210)」
との記載を,それぞれ,次のように補正する。
「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に形成された少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層(104)」,
「前記第1の横方向の窒化ガリウム層から延びる,第2の連続的な横方向の窒化ガリウム全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な横方向の窒化ガリウム層(208b)」及び
「前記第2の連続的な横方向の窒化ガリウム層内の複数のマイクロ電子ディバイス(210)」

2 補正目的の適否
(1)補正事項1について
補正事項1は,補正前の請求項1の発明特定事項である「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」及び「これにより第2の過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」を,それぞれ,「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」及び「これにより,第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」と技術的に限定するものであるから,補正事項1に係る補正は,特許請求の範囲の減縮に該当する。

(2)補正事項2について
補正事項2は,補正前の請求項18の発明特定事項である「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」及び「これにより第2の横方向に成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」を,それぞれ,「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」及び「これにより,第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な横方向に成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」と技術的に限定するものであるから,補正事項2に係る補正は,特許請求の範囲の減縮に該当する。

(3)補正事項3について
補正事項3は,補正前の請求項24の発明特定事項である「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に形成された基底の窒化ガリウム層(104)」及び「前記第2の縦方向の窒化ガリウム層から,前記第1の横方向の窒化ガリウム層に対向する前記第2のパターン化層上に延びる第2の横方向の窒化ガリウム層(208b)」を,それぞれ,「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に形成された少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層(104)」及び「前記第2の縦方向の窒化ガリウム層から,前記第1の横方向の窒化ガリウム層に対向する前記第2のパターン化層上に延びる,第2の連続的な横方向の窒化ガリウム全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な横方向の窒化ガリウム層(208b)」と技術的に限定するものであるから,補正事項3に係る補正は,特許請求の範囲の減縮に該当する。

(4)補正事項4について
補正事項4は,補正前の請求項34の発明特定事項である「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に形成された基底の窒化ガリウム層(104)」,「前記第1の横方向の窒化ガリウム層から延びる第2の横方向の窒化ガリウム層(208b)」及び「前記第2の横方向の窒化ガリウム層内の複数のマイクロ電子ディバイス(210)」を,それぞれ,「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に形成された少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層(104)」,「前記第1の横方向の窒化ガリウム層から延びる,第2の連続的な横方向の窒化ガリウム全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な横方向の窒化ガリウム層(208b)」及び「前記第2の連続的な横方向の窒化ガリウム層内の複数のマイクロ電子ディバイス(210)」と技術的に限定するものであるから,補正事項4に係る補正は,特許請求の範囲の減縮に該当する。

したがって,特許請求の範囲についての本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするもの該当する。

そこで,以下,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)について検討する。

3 独立特許要件を満たすかどうかの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,次のとおりである。

【請求項1】
「炭化ケイ素を含む基板(102a)上に窒化アルミニウムを含むバッファ層(102b)を形成して,前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップと,前記基底の窒化ガリウム層(104)を開口部のアレイを中に含むマスク(106)を用いてマスクするステップと,前記基底の窒化ガリウム層を前記開口部のアレイを通って前記マスク上に成長させ,これにより第1の過度成長した窒化ガリウムの半導体層(108)を形成するステップとを有する,窒化ガリウムの半導体層を製造する方法であって,
前記第1の過度成長した窒化ガリウム層(108)を,前記第1の開口部のアレイから横方向にオフセットしている第2の開口部のアレイを中に含む第2のマスク(206)を用いてマスクするステップと,
前記第1の過度成長した窒化ガリウム層を,前記第2の開口部のアレイを通って前記第2のマスク上に成長させ,これにより,第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップと,
をさらに備えることを特徴とする窒化ガリウムの半導体層を製造する方法。」

(2)先願明細書の記載と先願発明
(2-1)先願明細書の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前の他の出願であって,本願の出願後に出願公開された特願平10-77245号(特開平11-191657号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」という。)には,「窒化物半導体の成長方法及び窒化物半導体素子」(発明の名称)に関して,図1?図6とともに,次の記載がある(下線は当審で付加したもの)。
ア 発明の背景等
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は窒化物半導体(In_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N,0≦X,0≦Y,X+Y≦1)の成長方法に係り,特に窒化物半導体よりなる基板の成長方法に関する。」
・「【0005】
【発明が解決しようとする課題】LED素子,LD素子,受光素子等の数々の電子デバイスに使用される窒化物半導体素子を作製する際,窒化物半導体よりなる基板を作製することができれば,その基板の上に新たな窒化物半導体を成長させて,格子欠陥が少ない窒化物半導体が成長できるので,それら素子の結晶性が飛躍的に良くなり,従来実現されていなかった素子が実現できるようになる。従って本発明の目的とするところは,結晶性の良い窒化物半導体の成長方法を提供することにあり,具体的には基板となる窒化物半導体の成長方法と,窒化物半導体基板を有する新規な構造の素子を提供することにある。」
イ 発明の実施の形態
・「【0020】図1乃至図6は,本発明の第1の形態の成長方法の各工程において得られる窒化物半導体ウェーハの構造を示す模式的な断面図である。なお図において,1は異種基板,2は窒化物半導体層,3は第1の窒化物半導体層,4は第2の窒化物半導体層,11は第1の保護膜,12は第2の保護膜を示す。
【0021】本発明の第1の形態の成長方法では,第1の工程において,図1に示すように異種基板1上に成長させたバッファ層の上に,窒化物半導体層2を成長させ,この窒化物半導体層2上に第1の保護膜11を部分的に形成する。本発明で用いることのできる異種基板1としては,窒化物半導体と異なる材料よりなる基板であればどのようなものでも良く,例えば,サファイアC面の他,R面,A面を主面とするサファイア,スピネル(MgA1_(2)O_(4))のような絶縁性基板,SiC(6H,4H,3Cを含む),ZnS,ZnO,GaAs,Si,及び窒化物半導体と格子整合する酸化物基板等,従来知られている窒化物半導体と異なる基板材料を用いることができる。さらに前記基板材料の主面をオフアングルさせた基板,さらに好ましくはステップ状にオフアングルさせた基板を用いることもできる。このように異種基板の主面がオフアングルされていると結晶欠陥がより少なくなり好ましい。
【0022】図1に示される異種基板1上に形成されているバッファ層2としては,例えばAlN,GaN,AlGaN,InGaN等を900℃以下の温度で,膜厚数十オングストローム?数百オングストロームで成長させてなるものである。このバッファ層は,異種基板1と窒化物半導体層2との格子定数不正を緩和するために形成されるが,窒化物半導体の成長方法,基板の種類等によっては省略することも可能である。またバッファ層は,異種基板と窒化物半導体層2との格子定数不正を緩和し結晶欠陥の発生を防止するのに好ましい。
【0023】本発明の第1の形態の成長方法において,第1の工程後に成長される窒化物半導体層2としては,アンドープ(不純物をドープしない状態,undope)のGaN,n型不純物をドープしたGaN,またSiをドープしたGaNを用いることができる。また窒化物半導体2は,高温,具体的には900℃?1100℃,好ましくは1050℃で異種基板上に成長され,膜厚は特に限定されないが,例えば1?20μm,好ましくは2?10μmである。窒化物半導体層2の膜厚が上記範囲であると窒化物半導体層2と第1の窒化物半導体の総膜厚が抑えられウエハの反り(異種基板を有する状態での反り)が防止でき好ましい。
【0024】第1の保護膜11の材料としては,保護膜表面に窒化物半導体が成長しないか,若しくは成長しにくい性質を有する材料を好ましく選択し,例えば酸化ケイ素(SiO_(X)),窒化ケイ素(Si_(X)N_(Y)),酸化チタン(TiO_(X)),酸化ジルコニウム(ZrO_(X))等の酸化物,窒化物,またこれらの多層膜の他,1200℃以上の融点を有する金属等を用いることができる。これらの保護膜材料は,窒化物半導体の成長温度600℃?1100℃の温度にも耐え,その表面に窒化物半導体が成長しないか,成長しにくい性質を有している。保護膜材料を窒化物半導体表面に形成するには,例えば蒸着,スパッタ,CVD等の気相製膜技術を用いることができる。また,部分的(選択的)に形成するためには,フォトリソグラフィー技術を用いて,所定の形状を有するフォトマスクを作製し,そのフォトマスクを介して,前記材料を気相製膜することにより,所定の形状を有する第1の保護膜11を形成できる。第1の保護膜11の形状は特に問うものではなく,例えばドット,ストライプ,碁盤面状の形状で形成できるが,後に述べるように,ストライプ状の形状で特定の面方位に形成することが望ましい。また第1の保護膜11の表面積は窓部の表面積よりも大きくした方が格子欠陥の少ない第1の窒化物半導体3が得られ易くなり好ましい。」
・「【0027】次に,第2の工程では,図2に示すように,第1の保護膜11を形成した窒化物半導体層2上に第1の窒化物半導体3を成長させる。窒化物半導体層2の上に成長させる第1の窒化物半導体3としては,特に限定されないが,好ましくはアンドープ(不純物をドープしない状態,undope)のGaN,若しくはn型不純物をドープしたGaNが挙げられる。
【0028】図2に示すように,第1の保護膜11を形成した窒化物半導体層2の上に第1の窒化物半導体層3を成長させると,第1の保護膜11の上には第1の窒化物半導体層3が成長せず,露出した窒化物半導体層2上に,第1の窒化物半導体層3が選択成長される。さらに成長を続けると,第1の窒化物半導体層3が第1の保護膜11の上で横方向に成長し,隣接した第1の窒化物半導体層3同士でつながって,図3に示すように,あたかも第1の保護膜11の上に第1の窒化物半導体層3が成長したかのような状態となる。
【0029】このように成長した第1の窒化物半導体層3の表面に現れる結晶欠陥(貫通転位)は,従来のものに比べ非常に少なくなる。しかし,第1の窒化物半導体層3の成長初期における窓部の上部と第1の保護膜11の上部のそれぞれの結晶欠陥の数は著しく異なる。つまり,異種基板1上部の第1の保護膜11が形成されていない部分(窓部)に成長されている成長初期の第1の窒化物半導体層3には,異種基板1と窒化物半導体層(例えば図2の場合はバッファ層)との界面から結晶欠陥が発生し縦方向に転位し易い傾向があるが,第1の保護膜11の上部に成長されている成長初期の第1の窒化物半導体層3には,縦方向へ転位している結晶欠陥はほとんどない。
【0030】例えば,図3に示すウエハの窒化物半導体結晶の結晶欠陥による貫通転位の模式的な図のように,異種基板1から第1の窒化物半導体層3の表面方向に向かう複数の細線により示されるような結晶欠陥が発生,転位していると考えられる。図3に示される窓部の結晶欠陥は,異種基板1と窒化物半導体との格子定数のミスマッチにより,異種基板1と窒化物半導体との界面に,非常に多く発生する。そして,この窓部の結晶欠陥のほとんどは,第1の窒化物半導体層3を成長中,異種基板1と窒化物半導体との界面から表面方向に向かって転位をする。しかし,この窓部から発生した結晶欠陥は,図3に示すように,第1の窒化物半導体層3の成長初期には転位し続けているが,第1の窒化物半導体層3が成長を続けるうちに,途中で表面方向に転位する結晶欠陥の数が激減する傾向にあり,第1の窒化物半導体層3の表面まで転位する結晶欠陥が非常に少なくなる。また,第1の保護膜11上部に形成された第1の窒化物半導体層3は,異種基板1から成長したものではなく隣接する第1の窒化物半導体層3が成長中につながったものであるため,基板から成長した窒化物半導体層2上部に成長した第1の窒化物半導体層3の部分に比べて,成長のはじめから結晶欠陥が非常に少ない。この結果,成長終了後の第1の窒化物半導体層3の表面(保護膜上部及び窓部上部)には,転位した結晶欠陥が非常に少なく,あるいは透過型電子顕微鏡観察によると保護膜上部にはほとんど見られなくなる。この結晶欠陥の非常に少ない第1の窒化物半導体層3を,素子構造となる窒化物半導体の成長基板に用いることにより,従来よりも結晶性に優れた窒化物半導体素子を実現できる。また,上記のような本発明のGaNの成長による結晶欠陥の発生や,転位の傾向が見られることから,窓部の表面積を保護膜の表面積に比較して小さくすることが好ましい。
【0031】また,第1の窒化物半導体層3の表面の窓部及び保護膜の上部共に結晶欠陥が少なくなるが,成長初期に結晶欠陥が多かった窓部の上部に成長した第1の窒化物半導体層3の表面には,保護膜上部に成長したものに比べやや結晶欠陥が多い傾向がある。このことは,恐らく第1の窒化物半導体層3の成長の途中で,多くの結晶欠陥の転位が止まったものの,わずかに転位を続ける結晶欠陥が窓部のほぼ直上部に転位し易い傾向があるのではないかと考えられる。
【0032】このような結晶欠陥の転位の違いによる結晶欠陥の数を断面TEMにより観察すると,窓部上部のみに転位が観測され保護膜上部にはほとんど欠陥が見られなくなる。好ましい形態においては,窓部上部の結晶欠陥密度が,ほぼ10^(6)個/cm^(2)以下,好ましい条件においては10^(5)個/cm^(2)以下であり,保護膜上部では,ほぼ10^(5)個/cm^(2)以下,好ましい条件においては10^(4)個/cm^(2)以下である。結晶欠陥は,例えば窒化物半導体をドライエッチングした際,そのエッチング面に表出するエッチピットの数を計測することにより測定できる。」
・「【0038】次に,好ましい工程として,第2の工程後に,第3の工程及び第4の工程を行うことにより素子構造の窒化物半導体基板を結晶性よく得ることができる。まず,本発明の第3の工程において,図4に示すように,第1の窒化物半導体層3の表面に結晶欠陥が現れ易いと思われる部分,例えば窓部の上部に,また表面に現れた結晶欠陥を覆うように,新たな保護膜(第2の保護膜12)を設ける。本発明において,第2の保護膜12の形成位置は特に限定されず,第1の窒化物半導体層3の表面に部分的に,好ましくは第1の窒化物半導体層3の表面に現れている結晶欠陥を覆うように形成され,更に好ましくは第1の窒化物半導体層3の成長初期に結晶欠陥が存在する窓部の上部である。このように第2の保護膜12を設けると,第1の窒化物半導体層3の表面まで転位した結晶欠陥の更なる転位が防止でき,更に素子構造を形成した後で窓部上部の転位を中断した結晶欠陥がレーザ素子等を作動中に活性層等へ再転位する恐れが考えられるがこれを防止でき好ましい。
【0039】なお,図4では図3で成長させた第1の窒化物半導体層3表面の凹凸を少なくするため,研磨してフラットな面としているが,特に研磨せず,そのまま第1の窒化物半導体層3の表面に第2の保護膜12を形成しても良い。
【0040】好ましくは第2の保護膜12の表面積は特に問われないが,第2の保護膜で第1の窒化物半導体の表面に現れている結晶欠陥を覆うように形成されていることが望ましい。例えば第1の保護膜11がストライプ状のとき,窓部の幅より大きい幅のストライプ状の第2の保護膜12を窓部上部に形成する。第2の保護膜12の材料としては,第1の保護膜と同様のものを用いることができる。
【0041】次に,本発明の第4の工程において,第2の保護膜12が形成された第1の窒化物半導体層3上に第2の窒化物半導体層4を成長させる。図5に示すように,最初は第1の窒化物半導体層3の場合と同様に,第2の保護膜12の上には第2の窒化物半導体層4は成長せず,第1の窒化物半導体層3の上にのみ選択成長する。そして,第1の窒化物半導体層3の上に成長させる第2の窒化物半導体層4は,同じ窒化物半導体であり,しかも結晶欠陥の少ない第1の窒化物半導体層3の上に成長させているので,格子定数のミスマッチによる結晶欠陥が発生しにくい。さらに,第2の窒化物半導体層4の下地層となる第1の窒化物半導体層3には結晶欠陥が少ないため,第2の窒化物半導体層4の成長初期において転位する結晶欠陥も少なくなる。
【0042】さらに成長を続けていくと,図6に示すように,隣接する第2の窒化物半導体層4同士が第2の保護膜12の上部でつながり,第2の保護膜12を覆うように成長する。このように成長する第2の窒化物半導体層4は,結晶欠陥の少ない第1の窒化物半導体層3を下地層として成長するので,結晶欠陥の非常に少ない窒化物半導体となる。この第2の窒化物半導体4を素子構造となる窒化物半導体の成長基板に用いることにより,非常に結晶性に優れた窒化物半導体素子を実現できる。第2の保護膜12は,第1の窒化物半導体3の表面に現れた結晶欠陥を覆うように形成されているので結晶欠陥の転位を抑えることができる。また,仮にわずかな結晶欠陥が第2の窒化物半導体4の成長の初期に転位を続けたとしても,第1の窒化物半導体3の成長の場合と同様に,第2の窒化物半導体4の成長を続けるうちに結晶欠陥の転位が止まる傾向があり,第2の窒化物半導体4の表面に現れる結晶欠陥が少なくなる。このようにして得られた第2の窒化物半導体層4は第1の窒化物半導体層3より結晶欠陥が少なくなるので,第2の窒化物半導体層4上に素子構造を形成すると結晶性の良い素子がより得られやすくなる。」
ウ 発明の効果
・「【0127】
【発明の効果】窒化物半導体は理想の半導体として現在評価されているにもかかわらず,窒化物半導体基板が存在しないために,異種基板の上に成長された格子欠陥の多い窒化物半導体デバイスで実用化されている。そのためレーザ素子のような結晶欠陥が即寿命に影響するデバイスを実現すると,数十時間で素子がダメになっていた。ところが,本発明の成長方法によると,従来成長できなかった窒化物半導体基板が得られるため,この窒化物半導体基板の上に,素子構造となる窒化物半導体層を積層すると,格子欠陥の非常に少ない窒化物半導体デバイスが実現できる。例えば本発明の基板を用いてレーザ素子を作製すると,ほぼ実用化レベルまで達した素子ができる。このように従来できなかった窒化物半導体基板が本発明により得られることは,非常に産業上の利用価値が大きい。」

(2-2)先願明細書において,「実施例」として記載されたものは,基板にサファイヤ又はスピネルを用い,バッファ層に窒化ガリウム(GaN)を用いており,本願補正発明のような,基板に炭化ケイ素(SiC),バッファ層に窒化アルミニウムを用いたものではない。
しかし,上に摘記したように,先願明細書には,次の記載がある。
「【0021】本発明の第1の形態の成長方法では,第1の工程において,図1に示すように異種基板1上に成長させたバッファ層の上に,窒化物半導体層2を成長させ,この窒化物半導体層2上に第1の保護膜11を部分的に形成する。本発明で用いることのできる異種基板1としては,窒化物半導体と異なる材料よりなる基板であればどのようなものでも良く,例えば,サファイアC面の他,R面,A面を主面とするサファイア,スピネル(MgA1_(2)O_(4))のような絶縁性基板,SiC(6H,4H,3Cを含む),ZnS,ZnO,GaAs,Si,及び窒化物半導体と格子整合する酸化物基板等,従来知られている窒化物半導体と異なる基板材料を用いることができる。さらに前記基板材料の主面をオフアングルさせた基板,さらに好ましくはステップ状にオフアングルさせた基板を用いることもできる。このように異種基板の主面がオフアングルされていると結晶欠陥がより少なくなり好ましい。
【0022】図1に示される異種基板1上に形成されているバッファ層2としては,例えばAlN,GaN,AlGaN,InGaN等を900℃以下の温度で,膜厚数十オングストローム?数百オングストロームで成長させてなるものである。このバッファ層は,異種基板1と窒化物半導体層2との格子定数不正を緩和するために形成されるが,窒化物半導体の成長方法,基板の種類等によっては省略することも可能である。またバッファ層は,異種基板と窒化物半導体層2との格子定数不正を緩和し結晶欠陥の発生を防止するのに好ましい。」

これらの記載から,先願明細書に接した当業者は,基板に炭化ケイ素(SiC)を用い,バッファ層に窒化アルミニウム(AlN)を用いるものも,発明の出発点となる基板及びバッファ層の構成として好適なものと理解する。
したがって,先願明細書には,基板に炭化ケイ素(SiC)を用い,バッファ層に窒化アルミニウム(AlN)を用いるものも,開示されているものと認められる。
そして,このことは,基板に窒化ガリウム(GaN)の層を成長させるものにおいて,基板に炭化ケイ素(SiC),バッファ層(中間層)に窒化アルミニウム(AlN)を用いたものが,本願の優先日前に当業者に周知となっていたことに照らせば(以下の周知例参照。),いっそう明らかである。

〔周知例〕
(なお,以下の周知例1?4は,原審の拒絶の理由において,本願の優先日前の技術水準を示すものとして引用されたものである。)
〔周知例1〕
Ok-Hyun Nam,Lateral epitaxy of low defect density GaN layers via
organometallic vapor phase epitaxy,Appl. Phys. Lett.(1997年11月3日発行)71巻,18号,2638頁?2640頁
・特に,FIG.1?FIG.4及び2638頁左欄下から12行?2639頁右欄12行の記載を参照。
〔周知例2〕
T. Warren Weeks, Jr.,GaN thin films deposited via organometallic
vapor phase epitaxy on α(6H)-SiC(0001) using high-temperature
monocrystalline AlN buffer layers,Applied Physics Letters(1995年7月17日発行)67巻,3号,401頁?403頁
・特に,FIG.1?4及び401頁左欄14?404頁右欄5行の記載を参照。
〔周知例3〕
特開平09-180998号公報(1997年7月11日公開)
・図2及び段落【0001】?【0004】の記載参照。
なお,段落【0001】?【0004】の記載を摘示すると,次のとおりである。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は化合物半導体装置に関するものであり,特に,6H-SiC等の六方晶系の半導体基板上に,GaN等のウルツ鉱型化合物半導体を整合性良くヘテロエピタキシャル成長させる化合物半導体装置に関するものである。
【0002】【従来の技術】従来,青色発光素子として用いられているGaNは,ウルツ鉱型化合物半導体であるため,類似の結晶構造を有する六方晶系の6H-SiC基板上にMOVPE法(有機金属気相成長法)を用いてエピタキシャル成長させていた。
【0003】例えば,(0001)Si面の6H-SiC基板,即ち,Si面が露出した6H-SiC基板を用意し,TMA(トリメチルアルミニウム)を20?200μmol/分,アンモニア(NH_(3 ))を20000?200000μmol/分(0.02?0.2mol/分),及び,キャリアガスとしての水素を流し,成長圧力を70?760Torr,基板温度を800?1100℃とした状態で,0.02?0.1μmのAlN中間層を成長させたのち,引き続いて,TMG(トリメチルガリウム)を10?100μmol/分,アンモニア(NH_(3 ))を0.02?0.2mol/分,及び,キャリアガスとしての水素を流し,成長圧力を70?760Torr,基板温度を800?1100℃とした状態で,GaNエピタキシャル層を成長させている。
【0004】なお,この場合の成長層速度は,AlN中間層が0.1?1μm/時であり,GaNエピタキシャル層が0.5?5μm/時である。また,この場合,GaNエピタキシャル層のa軸及びc軸は,6H-SiC基板のa軸及びc軸方向に一致することになる。」
〔周知例4〕
特開平09-219540号公報(1997年8月19日公開)
・図1及び段落【0001】,【0006】?【0008】の記載参照。
なお,段落【0001】,【0006】?【0008】の記載を摘示すると,次のとおりである。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,GaN(窒化ガリウム)薄膜の形成方法に関し,さらに詳細には,SiC(シリコン・カーバイド)基板上にバッファー層としてAlN(窒化アルミニウム)薄膜を介してGaN薄膜を形成するGaN薄膜の形成方法に関する。」
「【0006】従来,GaN薄膜の欠陥密度の高さを改善するためには,薄膜構造を模式的に示した図1(b)に示すように,基板材料として,例えば,SiC基板の一種である6H-SiC(0001)基板を用い,6H-SiC(0001)基板上に厚さ10nm以上のAlN薄膜を形成し,このAlN薄膜上にGaN薄膜(例えば,厚さ1.5μm)を形成するようにしていた。
【0007】即ち,AlN薄膜は,SiC基板との格子不整合率が1%であるとともに,GaN薄膜との格子不整合率が2.5%であり,こうしたAlN薄膜をSiC基板とGaN薄膜とのバッファー層として用いたものであった。
【0008】上記した図1(b)に示す薄膜構造において,厚さ10nm以上のAlN薄膜上に1.5μmの厚さのGaN薄膜を形成した場合には,構造欠陥の中の貫通転位に関しては10^(10)cm^(-2)オーダーの転位密度が得られたが,さらに転位密度を大幅に低減することが望まれていた。」

(2-3)先願発明
先願明細書の上記(2-1)ア?ウの記載内容,及び上記(2-2)の検討によれば,先願明細書には,次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているといえる。

「SiC(炭化ケイ素)からなる異種基板1上にAlN(窒化アルミニウム)からなるバッファ層を形成し,前記バッファ層の上にGaNからなる窒化物半導体層2を成長させ,前記窒化物半導体層2の上にドットやストライプの形状の複数の窓部を有する第1の保護膜11を形成し,前記第1の保護膜11を形成した前記窒化物半導体層2上にGaNからなる第1の窒化物半導体層3を成長させ,前記第1の窒化物半導体層3の成長は,まず,前記第1の保護膜11の窓部により露出した前記窒化物半導体層2上に,前記第1の窒化物半導体層3が選択成長され,さらに成長を続けると,前記第1の窒化物半導体層3が前記第1の保護膜11の上で横方向に成長し,隣接した前記第1の窒化物半導体層3同士でつながり,前記横方向に成長した前記第1の窒化物半導体層3の表面に結晶欠陥が現れ易いと思われる部分である前記第1の保護膜11の窓部の上部に複数の窓部を有する第2の保護膜12を形成し,前記第2の保護膜12が形成された前記第1の窒化物半導体層3上にGaNからなる第2の窒化物半導体層4を成長させ,前記第2の窒化物半導体層4の成長は,まず,前記第2の保護膜12の窓部により露出した前記第1の窒化物半導体層3上に前記第2の窒化物半導体層4が選択成長され,さらに成長を続けると,前記第2の窒化物半導体層4が前記第2の保護膜12の上で横方向に成長し,隣接した前記第2の窒化物半導体層4同士でつながることを特徴とする窒化物半導体の成長方法。」

(3)本願補正発明と先願発明の対比
(3-1)次に,本願補正発明と先願発明とを対比する。
ア 先願発明の「SiCからなる異種基板1」,「AlNからなるバッファ層」,「窒化物半導体層2」は,それぞれ,本願補正発明の「炭化ケイ素を含む基板(102a)」,「窒化アルミニウムを含むバッファ層(102b)」,「基底の窒化ガリウム層(104)」に対応するから,先願発明の「SiCからなる異種基板1上にAlNからなるバッファ層を形成し,前記バッファ層の上にGaNからなる窒化物半導体層2を成長させ」ることは,本願補正発明の「炭化ケイ素を含む基板(102a)上に窒化アルミニウムを含むバッファ層(102b)を形成して,前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に」「基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」に相当する。
イ 先願発明の「ドットやストライプの形状の複数の窓部」,「第1の保護膜11」は,それぞれ,本願補正発明の「開口部のアレイ」,「マスク(106)」に対応するから,先願発明の「前記窒化物半導体層2の上にドットやストライプの形状の複数の窓部を有する第1の保護膜11を形成」することは,本願補正発明の「前記基底の窒化ガリウム層(104)を開口部のアレイを中に含むマスク(106)を用いてマスクするステップ」に相当する。
ウ 先願発明の「前記第1の保護膜11の窓部により露出した前記窒化物半導体層2上に,前記第1の窒化物半導体層3が選択成長され」ること,及び「横方向に成長」することは,それぞれ,本願補正発明の「前記基底の窒化ガリウム層を前記開口部のアレイを通って前記マスク上に成長させ」ること,及び「過度成長」に対応する(本願明細書の段落【0033】の記載参照。)。
したがって,先願発明の「前記第1の保護膜11を形成した前記窒化物半導体層2上にGaNからなる第1の窒化物半導体層3を成長させ,前記第1の窒化物半導体層3の成長は,まず,前記第1の保護膜11の窓部により露出した前記窒化物半導体層2上に,前記第1の窒化物半導体層3が選択成長され,さらに成長を続けると,前記第1の窒化物半導体層3が前記第1の保護膜11の上で横方向に成長し,隣接した前記第1の窒化物半導体層3同士でつなが」るとの構成は,本願補正発明の「前記基底の窒化ガリウム層を前記開口部のアレイを通って前記マスク上に成長させ,これにより第1の過度成長した窒化ガリウムの半導体層(108)を形成するステップ」に相当する。
エ 先願発明の「第2の保護膜12」は,「第2のマスク(206)」に対応する。そして,先願発明も,「窓部の上部」に「第2の保護膜12」が形成されているから,先願発明の「前記第1の保護膜11の窓部の上部に複数の窓部を有する」こと及び「第2の保護膜12」は,それぞれ,本願補正発明の「前記第1の開口部のアレイから横方向にオフセットしている第2の開口部のアレイを中に含む」こと及び「第2のマスク(206)」に対応する。
したがって,先願発明の「前記横方向に成長した前記第1の窒化物半導体層3の表面に結晶欠陥が現れ易いと思われる部分である前記第1の保護膜11の窓部の上部に複数の窓部を有する第2の保護膜12を形成」することは,本願補正発明の「前記第1の過度成長した窒化ガリウム層(108)を,前記第1の開口部のアレイから横方向にオフセットしている第2の開口部のアレイを中に含む第2のマスク(206)を用いてマスクするステップ」に相当する。
オ 先願発明の「前記第2の保護膜12の窓部により露出した前記第1の窒化物半導体層3上に前記第2の窒化物半導体層4が選択成長され」ること,及び「前記第2の窒化物半導体層4が前記第2の保護膜12の上で横方向に成長し,隣接した前記第2の窒化物半導体層4同士でつながる」ことは,それぞれ,本願補正発明の「前記第1の過度成長した窒化ガリウム層を,前記第2の開口部のアレイを通って前記第2のマスク上に成長させ」ること,及び「第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成する」ことに対応する。
そうすると,先願発明の「前記第2の保護膜12が形成された前記第1の窒化物半導体層3上にGaNからなる第2の窒化物半導体層4を成長させ,前記第2の窒化物半導体層4の成長は,まず,前記第2の保護膜12の窓部により露出した前記第1の窒化物半導体層3上に前記第2の窒化物半導体層4が選択成長され,さらに成長を続けると,前記第2の窒化物半導体層4が前記第2の保護膜12の上で横方向に成長し,隣接した前記第2の窒化物半導体層4同士でつながる」との構成は,本願補正発明の「前記第1の過度成長した窒化ガリウム層を,前記第2の開口部のアレイを通って前記第2のマスク上に成長させ,これにより,」「第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」に相当する。
カ 先願発明の「窒化物半導体の成長方法」は,「窒化ガリウムの半導体層を製造する方法」である点で,本願補正発明と共通する。

(3-2)そうすると,本願補正発明と先願発明の一致点と相違点は,次のとおりとなる。

〔一致点〕
「炭化ケイ素を含む基板上に窒化アルミニウムを含むバッファ層を形成して,前記基板に対向する前記バッファ層上に基底の窒化ガリウム層を形成するステップと,前記基底の窒化ガリウム層を開口部のアレイを中に含むマスクを用いてマスクするステップと,前記基底の窒化ガリウム層を前記開口部のアレイを通って前記マスク上に成長させ,これにより第1の過度成長した窒化ガリウムの半導体層を形成するステップとを有する,窒化ガリウムの半導体層を製造する方法であって,
前記第1の過度成長した窒化ガリウム層を,前記第1の開口部のアレイから横方向にオフセットしている第2の開口部のアレイを中に含む第2のマスクを用いてマスクするステップと,
前記第1の過度成長した窒化ガリウム層を,前記第2の開口部のアレイを通って前記第2のマスク上に成長させ,これにより,第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層を形成するステップと,
をさらに備えることを特徴とする窒化ガリウムの半導体層を製造する方法。」

〔相違点〕
〔相違点1〕
本願補正発明は,「前記基板に対向する前記バッファ層上に少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層を形成する」のに対して,先願発明は,本願補正発明の「前記基板に対向する前記バッファ層上に」「基底の窒化ガリウム層を形成する」ステップに対応する「前記バッファ層の上にGaNからなる窒化物半導体層2を成長させ」るステップを有するものの,本願補正発明の「少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層を形成する」ことは明示されていない点。

〔相違点2〕
本願補正発明は,「第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成する」のに対して,先願発明は,本願補正発明の「第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成する」ステップに対応する「前記第2の窒化物半導体層4が前記第2の保護膜12の上で横方向に成長し,隣接した前記第2の窒化物半導体層4同士でつながる」ステップを有するものの,本願補正発明の「第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する」ことは明示されていない点。

(4)相違点についての検討
(4-1)相違点1について
ア 先願明細書には,「前記第1の窒化物半導体層3の結晶欠陥密度は,前記第1の保護膜11の窓部上部の結晶欠陥密度が,ほぼ10^(6)個/cm^(2)以下,好ましい条件においては10^(5)個/cm^(2)以下であり,前記第1の保護膜11上部の結晶欠陥密度が,ほぼ10^(5)個/cm^(2)以下,好ましい条件においては10^(4)個/cm^(2)以下である。」との記載がある(先願明細書の段落【0032】)。
ここで,先願発明の「第1の窒化物半導体層3」は,本願補正発明の「第1の過度成長した窒化ガリウムの半導体層」に相当するものである。
イ 先願発明の「前記第1の保護膜11の上で横方向に成長し」た「第1の窒化物半導体層3」(本願補正発明の「第1の過度成長した窒化ガリウムの半導体層」に相当する。)は,先願発明の「GaNからなる窒化物半導体層2」(本願補正発明の「基底の窒化ガリウム層」に相当する。)よりも上層に形成されているところ,先願明細書には,次の記載がある。
「この窓部の結晶欠陥のほとんどは,第1の窒化物半導体層3を成長中,異種基板1と窒化物半導体との界面から表面方向に向かって転位をする。しかし,この窓部から発生した結晶欠陥は,図3に示すように,第1の窒化物半導体層3の成長初期には転位し続けているが,第1の窒化物半導体層3が成長を続けるうちに,途中で表面方向に転位する結晶欠陥の数が激減する傾向にあり,第1の窒化物半導体層3の表面まで転位する結晶欠陥が非常に少なくなる。」(段落【0030】)
この記載から,先願発明の「第1の窒化物半導体層3」の下層である「GaNからなる窒化物半導体層2」の結晶欠陥密度は,第1の窒化物半導体層3が成長を続けるうちに,途中で表面方向に転位する結晶欠陥の数が激減して非常に少なくなる以前の結晶欠陥密度と同程度の結晶欠陥密度を有していることが分かる。 したがって,先願発明の「GaNからなる窒化物半導体層2」の結晶欠陥密度は,先願発明の「第1の窒化物半導体層3」の保護膜11の窓部上部での「欠陥密度」(結晶欠陥が最も少ない部分での欠陥密度)である「10^(6)個/cm^(2)」よりもはるかに大きいことが明らかである。
そして,本願補正発明の「基底の窒化ガリウム層」の形成に用いられているMOCVD(有機金属気相成長法/金属有機化学気相成長法)は,窒化ガリウム層の標準的な成長方法であり,この点,先願発明も同じであるから(先願明細書ではMOVPEと表記しているが,MOCVDと同じである),本願補正発明の「基底の窒化ガリウム層」に相当する先願発明の「GaNからなる窒化物半導体層2」の結晶欠陥密度の数値範囲と,本願補正発明の「基底の窒化ガリウム層」の結晶欠陥密度の数値範囲は,重なるものと推認される。
ウ このことは,上記周知例1の2638頁左欄4?7行に,基板に炭化ケイ素(SiC)を用い,バッファ層に窒化アルミニウム(AlN)を用いて,従来の方法で窒化ガリウム(GaN)薄膜を成長させた場合に,10^(8)?10^(10)個/cm^(2)の転移密度の欠陥が生じることが記載され,上記周知例2の407頁右欄22,23頁にも,10^(9)個/cm^(2)の転移密度の欠陥が生じることが記載され,上記周知例4の段落【0006】?【0008】にも,貫通転移の密度が10^(10)個/cm^(2)の程度になることが記載されていることからも,裏付けられる。
エ そうすると,先願明細書に明示の記載はないものの,先願発明の「GaNからなる窒化物半導体層2」が有すると考えられる結晶欠陥密度は,本願補正発明の「基底の窒化ガリウム層」の結晶欠陥密度と同程度と認められるから,相違点1は,実質的に相違しない。

(4-2)相違点2について
ア 先願発明の「前記第1の保護膜11の上で横方向に成長し」た「第1の窒化物半導体層3」は,本願補正発明の「第1の過度成長した窒化ガリウムの半導体層」に相当するところ,上述のように,先願明細書には,「第1の窒化物半導体層3」について,「前記第1の窒化物半導体層3の結晶欠陥密度は,前記第1の保護膜11の窓部上部の結晶欠陥密度が,ほぼ10^(6)個/cm^(2)以下,好ましい条件においては10^(5)個/cm^(2)以下であり,前記第1の保護膜11上部の結晶欠陥密度が,ほぼ10^(5)個/cm^(2)以下,好ましい条件においては10^(4)個/cm^(2)以下である。」と記載されている(先願明細書の段落【0032】)。
イ そして,先願発明の「前記第2の保護膜12の上で横方向に成長し,隣接した前記第2の窒化物半導体層4同士でつながる」「第2の窒化物半導体層4」は,「前記第2の保護膜12が形成された前記第1の窒化物半導体層3上にGaNからなる第2の窒化物半導体層4を成長させ」ることにより,結晶欠陥密度を更に小さくしているから,「第2の窒化物半導体層」の結晶欠陥密度は,先願発明の「第1の窒化物半導体層3」における「結晶欠陥密度」の小さい部分よりも,更に結晶欠陥密度が小さくなっていると考えるのが,自然であり,合理的である。
そうすると,引用発明の「第2の窒化物半導体層」の結晶欠陥密度は,本願補正発明の「第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層」の結晶欠陥密度と同様,10^(4)個/cm^(2)より小さくなるものと推認される。
ウ したがって,本願補正発明の「第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層」に対応する先願発明の「前記第2の保護膜12の上で横方向に成長し,隣接した前記第2の窒化物半導体層4同士でつながる」「第2の窒化物半導体層4」においても,結晶欠陥密度が,全体にわたって10^(4)個/cm^(2)以下となるものと認められ,本願補正発明の「第2の連続的な過度成長した窒化ガリウム層」の結晶欠陥密度と同程度と認められるから,相違点2は,実質的に相違しない。

(5)以上のとおり,上記相違点1,2は,実質的に相違しない。したがって,本願補正発明は,先願発明と同一であり,しかも,本願の発明者が上記先願発明の発明者と同一であるとも,また,本願の出願の時に,その出願人が当該他の出願の出願人と同一であるとも認められないから,特許法29条の2の規定により,出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 以上の次第で,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明
1 以上のとおり,本件補正(平成19年12月7日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正前の請求項1(平成19年5月22日に提出された手続補正書により補正された請求項1)に記載された,次のとおりのものである。

【請求項1】
「炭化ケイ素を含む基板(102a)上に窒化アルミニウムを含むバッファ層(102b)を形成して,前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップと,前記基底の窒化ガリウム層(104)を開口部のアレイを中に含むマスク(106)を用いてマスクするステップと,前記基底の窒化ガリウム層を前記開口部のアレイを通って前記マスク上に成長させ,これにより第1の過度成長した窒化ガリウムの半導体層(108)を形成するステップとを有する,窒化ガリウムの半導体層を製造する方法であって,
前記第1の過度成長した窒化ガリウム層(108)を,前記第1の開口部のアレイから横方向にオフセットしている第2の開口部のアレイを中に含む第2のマスク(206)を用いてマスクするステップと,
前記第1の過度成長した窒化ガリウム層を,前記第2の開口部のアレイを通って前記第2のマスク上に成長させ,これにより第2の過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップと,
をさらに備えることを特徴とする窒化ガリウムの半導体層を製造する方法。」

2 先願明細書の記載内容と先願発明については,前記第2,3,(2-1),(2-3)において認定したとおりである。

3 対比・判断
前記第2,1(1)及び2(1)で検討したように,本願補正発明は,補正前の請求項1において,「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」及び「これにより第2の過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」との発明特定事項を,それぞれ,「前記基板(102a)に対向する前記バッファ層(102b)上に少なくとも10^(8)cm^(-2)の欠陥密度を有する基底の窒化ガリウム層(104)を形成するステップ」及び「これにより,第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層全体にわたって10^(4)cm^(-2)以下の欠陥密度を有する第2の連続的な過度成長した窒化ガリウムの半導体層(208)を形成するステップ」と技術的に限定するものである。
逆に言えば,本件補正前の発明(本願発明)は,本願補正発明から,これらの限定をなくしたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2,3(4)(5)において検討したとおり,先願発明と同一であり,しかも,本願の発明者が上記先願発明の発明者と同一であるとも,また,本願の出願の時に,その出願人が当該他の出願の出願人と同一であるとも認められないので,本願補正発明は,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができないものであるから,本願発明も,同様の理由により,特許を受けることができないものである。

第4 結言
以上のとおり,本願発明は,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-17 
結審通知日 2010-09-22 
審決日 2010-10-12 
出願番号 特願2000-533892(P2000-533892)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 161- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 相田 義明
小川 将之
発明の名称 マスクを通過する横方向のオーバーグロースによる窒化ガリウム半導体層を製造する方法及びそれによって製造された窒化ガリウム半導体の構造体  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 有原 幸一  

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