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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1234386 |
審判番号 | 不服2009-3223 |
総通号数 | 137 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-02-12 |
確定日 | 2011-03-24 |
事件の表示 | 特願2007-91651「プロピレン系共重合体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年7月26日出願公開、特開2007-186714〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成6年10月6日(特許法第41条第1項の規定による優先権主張 平成5年10月6日)の特許出願(特願平6-243182号)の一部を平成14年10月16日に特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願(特願2002-302226号)とし、さらにその一部を平成19年3月30日に同規定により新たな特許出願としたものであって、平成20年3月10日付けで拒絶理由が通知され、同年5月19日に意見書及び手続補正書が提出され、平成21年1月7日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、それに対して、同年2月12日に拒絶査定不服審判が請求され、同年3月12日に手続補正書(補正対象書類名:特許請求の範囲)及び手続補正書(補正対象書類名:審判請求書)が提出され、その後、同年9月9日付けで前置審査の結果が報告され、当審で平成22年7月20日付けで審尋がなされ、同年9月22日に回答書が提出されたものである。 第2.平成21年3月12日提出の手続補正書による補正の却下の決定 [結論] 平成21年3月12日提出の手続補正書による補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成21年3月12日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、補正前の 「【請求項1】 (a)プロピレン単位を95?99.5モル%(但し、プロピレン単位を95モル%の場合を除く。)、エチレン単位を0.5?5モル%(但し、エチレン単位を5モル%の場合を除く。)含んでなり、 (b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRで測定したスペクトルから下記式により求められるトリアドタクティシティーが96.0%以上であり、 【数1】 PPP(mm) トリアドタクティシティー(%)=???????????????×100 PPP(mm)+PPP(mr)+PPP(rr) 式中、PPP(mm)、PPP(mr)、PPP(rr)は、それぞれ CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | | PPP(mm):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- CH_(3) CH_(3) | | PPP(mr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | PPP(rr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) で表される頭-尾で結合しているプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基に由来するピーク強度を示す。 (c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5以上、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあることを特徴とするプロピレン系共重合体。」 を、 「【請求項1】 (a)プロピレン単位を95?99.5モル%(但し、プロピレン単位を95モル%の場合を除く。)、エチレン単位を0.5?5モル%(但し、エチレン単位を5モル%の場合を除く。)含んでなり、 (b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRで測定したスペクトルから下記式により求められるトリアドタクティシティーが96.9%以上であり、 【数1】 PPP(mm) トリアドタクティシティー(%)=???????????????×100 PPP(mm)+PPP(mr)+PPP(rr) 式中、PPP(mm)、PPP(mr)、PPP(rr)は、それぞれ CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | | PPP(mm):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- CH_(3) CH_(3) | | PPP(mr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | PPP(rr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) で表される頭-尾で結合しているプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基に由来するピーク強度を示す。 (c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5%以上、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあることを特徴とするプロピレン系共重合体(但し、前記プロピレン系共重合体が、 (a)プロピレン単位を95?99.5モル%(但し、プロピレン単位を95モル%の場合を除く。)、エチレン単位を0.5?5モル%(但し、エチレン単位を5モル%の場合を除く。)含んでなり、 (b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRで測定した下記式で示されるトリアドタクティシティーが96?97.3%であり、 【数5】 PPP(mm) トリアドタクティシティー(%)=???????????????×100 PPP(mm)+PPP(mr)+PPP(rr) 式中、PPP(mm)、PPP(mr)、PPP(rr)は、それぞれ CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | | PPP(mm):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- CH_(3) CH_(3) | | PPP(mr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | PPP(rr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) で表される頭-尾で結合しているプロピレン単位3連鎖を示す。 (c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5?1.5%(但し、0.5%の場合を除く。)、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系共重合体である場合を除く。)。」 と補正することを含むものである。 したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、 (1)(b)のトリアドタクシティーについて、補正前の「96.0%以上」を「96.9%以上」とする、 (2)(c)の全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合について、補正前の「0.5以上」を「0.5%以上」とする、及び、 (3)プロピレン系共重合体について、「(a)プロピレン単位を95?99.5モル%(但し、プロピレン単位を95モル%の場合を除く。)、エチレン単位を0.5?5モル%(但し、エチレン単位を5モル%の場合を除く。)含んでなり、 (b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRで測定した下記式で示されるトリアドタクティシティーが96?97.3%であり、 【数5】 PPP(mm) トリアドタクティシティー(%)=???????????????×100 PPP(mm)+PPP(mr)+PPP(rr) 式中、PPP(mm)、PPP(mr)、PPP(rr)は、それぞれ CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | | PPP(mm):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- CH_(3) CH_(3) | | PPP(mr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | PPP(rr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) で表される頭-尾で結合しているプロピレン単位3連鎖を示す。 (c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5?1.5%(但し、0.5%の場合を除く。)、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系共重合体である場合」を除外する との補正事項(1)?(3)を含むものである。 2.補正の目的について ここで、補正事項(1)及び(3)は、特許請求の範囲を減縮するものであって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第55号)附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第3項第2号に掲げる事項を目的とするものと認められる。 また、補正事項(2)は、誤記を訂正するものであって、同項第3号に掲げる事項を目的とするものと認められる。 そうすると本件補正は、同条第3項に規定する要件を満たすものである。 3.独立特許要件について 前記したとおり、本件補正は特許法第17条の2第3項第2号に掲げる事項を目的とする補正を含むものであるから、同条第4項の規定に従い、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により構成される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて以下検討する。 (1)補正発明 補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により構成される次のとおりのものと認める。 「(a)プロピレン単位を95?99.5モル%(但し、プロピレン単位を95モル%の場合を除く。)、エチレン単位を0.5?5モル%(但し、エチレン単位を5モル%の場合を除く。)含んでなり、 (b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRで測定したスペクトルから下記式により求められるトリアドタクティシティーが96.9%以上であり、 【数1】 PPP(mm) トリアドタクティシティー(%)=???????????????×100 PPP(mm)+PPP(mr)+PPP(rr) 式中、PPP(mm)、PPP(mr)、PPP(rr)は、それぞれ CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | | PPP(mm):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- CH_(3) CH_(3) | | PPP(mr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | PPP(rr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) で表される頭-尾で結合しているプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基に由来するピーク強度を示す。 (c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5%以上、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあることを特徴とするプロピレン系共重合体(但し、前記プロピレン系共重合体が、 (a)プロピレン単位を95?99.5モル%(但し、プロピレン単位を95モル%の場合を除く。)、エチレン単位を0.5?5モル%(但し、エチレン単位を5モル%の場合を除く。)含んでなり、 (b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRで測定した下記式で示されるトリアドタクティシティーが96?97.3%であり、 【数5】 PPP(mm) トリアドタクティシティー(%)=???????????????×100 PPP(mm)+PPP(mr)+PPP(rr) 式中、PPP(mm)、PPP(mr)、PPP(rr)は、それぞれ CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | | PPP(mm):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- CH_(3) CH_(3) | | PPP(mr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | PPP(rr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) で表される頭-尾で結合しているプロピレン単位3連鎖を示す。 (c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5?1.5%(但し、0.5%の場合を除く。)、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系共重合体である場合を除く。)。」 (2)明細書の発明の詳細な説明の記載事項 本件補正により補正された明細書(以下、「補正明細書」という。)の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 「本発明のプロピレン系共重合体は、たとえば、 (A)後述するような遷移金属化合物と、 (B) (B-1)有機アルミニウムオキシ化合物、および (B-2)前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、 所望により (C)有機アルミニウム化合物 からなるオレフィン重合用触媒の存在下にエチレンとプロピレンとを共重合することにより得ることができる。」(段落0026) 「本発明のプロピレン系共重合体は、上記のオレフィン重合用触媒の存在下にプロピレンとエチレンとの共重合を行うことによって製造することができる。共重合は懸濁重合、溶液重合などの液相重合法あるいは気相重合法いずれにおいても実施できる。 液相重合法では上述した触媒調製の際に用いた不活性炭化水素溶媒と同じものを用いることができ、プロピレンおよび/またはエチレンを溶媒として用いることもできる。 プロピレンとエチレンとの共重合温度は、懸濁重合法を実施する際には、通常-50?100℃、好ましくは0?90℃の範囲であることが望ましく、溶液重合法を実施する際には、通常0?250℃、好ましくは20?200℃の範囲であることが望ましい。また、気相重合法を実施する際には、共重合温度は通常0?120℃、好ましくは20?100℃の範囲であることが望ましい。共重合圧力は、通常、常圧?100kg/cm^(2)、好ましくは常圧?50kg/cm^(2)の条件下であり、共重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。さらに共重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行うことも可能である。」(段落0073?0074) 「充分に窒素置換した2リットルのオートクレーブに、ヘキサンを750ml仕込み、プロピレン/エチレン混合ガス(エチレン:2.9モル%)雰囲気下におき、25℃で20分間攪拌した。反応系にトリイソブチルアルミニウム0.25ミリモル、メチルアルミノキサン0.5ミリモル、rac-ジフェニルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-イソプロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリドをZr原子に換算して0.0015ミリモル加え、50℃に昇温し全圧を2kg/cm^(2)-Gに保ちながら1時間重合を行った。重合後、脱気して大量のメタノール中でポリマーを回収し、80℃で10時間減圧乾燥した。 得られたポリマーは26.9gであり、重合活性は17.9kgポリマー/ミリモルZr、極限粘度[η]=2.2dl/g、エチレン含量=3.0モル%、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティー=97.3%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.9%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.04%であった。また、得られたポリマーから成形されたフィルムのヒートシール開始温度は118℃であり、熱処理後のヒートシール開始温度は120℃であった。」(段落0079?0080の実施例1) 「充分に窒素置換した2リットルのオートクレーブに、ヘキサンを900ml仕込み、トリイソブチルアルミニウムを1ミリモル加え、70℃に昇温した後、エチレンをフィードして1.5kg/cm^(2)に加圧し、プロピレンをフィードして全圧を8kg/cm^(2)-Gにし、メチルアルミノキサン0.3ミリモル、rac-ジメチルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-イソプロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリドをZr原子に換算して0.001ミリモル加え、プロピレンを連続的にフィードして全圧を8kg/cm^(2)-Gに保ちながら20分間重合を行った。重合後、脱気して大量のメタノール中でポリマーを回収し、110℃で10時間減圧乾燥した。 得られたポリマーは21.2gであり、重合活性は21kgポリマー/ミリモルZr、極限粘度[η]=1.5dl/g、エチレン含量=4.7モル%、頭-尾結合からなるプロピレン連鎖部のトリアドタクティシティー=96.9%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は1.1%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.04%以下であった。また、得られたポリマーから成形されたフィルムのヒートシール開始温度は107℃であり、熱処理後のヒートシール開始温度は111℃であった。」(段落0081?0082の実施例2) (3)判断 補正発明は、上記したとおり、プロピレン系共重合体について、 (a)プロピレン単位を95?99.5モル%(但し、プロピレン単位を95モル%の場合を除く。)、エチレン単位を0.5?5モル%(但し、エチレン単位を5モル%の場合を除く。)含んでなり、 (b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRで測定したスペクトルから下記式(省略)により求められるトリアドタクティシティーが96.9%以上であり、 (c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5%以上、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にある との要件を発明の構成に欠くことができない事項とするとともに、ただし書において、 (a)プロピレン単位を95?99.5モル%(但し、プロピレン単位を95モル%の場合を除く。)、エチレン単位を0.5?5モル%(但し、エチレン単位を5モル%の場合を除く。)含んでなり、 (b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRで測定したスペクトルから下記式(省略)により求められるトリアドタクティシティーが96?97.3%であり、 (c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5?1.5%(但し、)0.5%の場合を除く。)、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系共重合体を除外するものである。 ところで、補正明細書に具体的に開示されたプロピレン系共重合体は、実施例1及び2に記載されたもののみであり、これらは以下の特徴を有するものである。 ○実施例1: (a)エチレン単位3.0モル%、したがって、プロピレン単位97.0モル% (b)トリアドタクティシティー:97.3% (c)全プロピレン中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合0.9%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合0.04% (d)極限粘度[η]2.2dl/g ○実施例2: (a)エチレン単位4.7モル%、したがって、プロピレン単位95.3モル% (b)トリアドタクティシティー:96.9% (c)全プロピレン中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合1.1%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合0.04%以下 (d)極限粘度[η]1.5dl/g そうすると、補正明細書に記載される実施例1及び2のプロピレン系共重合体は、補正発明において、除外することとしているプロピレン系共重合体に該当することは明らかである。 そして、補正明細書では、オレフィン重合用触媒における(A)の遷移金属化合物については段落0027?0040に、(B)の(B-1)有機アルミニウムオキシ化合物については段落0040?0045に、(B-2)前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物については段落0046?0050に、さらに(C)の有機アルミニウム化合物については段落0050?0054にそれぞれ記載されているものの、これらの触媒成分と得られるプロピレン系共重合体のトリアドタクシティー、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合及び1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合との関係については、何ら記載されていない。 また、重合温度及び重合圧力についても、本願明細書の段落0073?0074に記載されているものの、重合温度及び重合圧力と、得られるプロピレン系共重合体のトリアドタクシティー、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合及び1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合との関係については何ら記載されていない。 そうすると、発明の詳細な説明における触媒の種類、重合温度及び重合圧力に関する記載からは、これらの条件をどのように変化させることにより、プロピレン系共重合体のトリアドタクシティー、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合及び1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合がどのように変化するのかが明らかでないから、例えば、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合及び1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合を補正発明の範囲内に維持しつつ、トリアドタクシティーが99.4%以上のプロピレン系共重合体を製造することは明らかとはいえず、補正発明は、発明の詳細な説明に記載されていないものを含むものといわざるを得ない。 なお、請求人は、審判請求書及び回答書にて、公知文献の参考資料3、4に「重合温度を下げると、トリアドタクシティーが大きくなる」こと、参考資料6に「重合温度を下げると、2,1-挿入の割合及び1,3-挿入の割合が小さくなること」が記載されているとの主張(以下、「主張1」という。)、及び、実験報告書(2)(参考資料2)の重合実験1及び重合実験2、さらに実験報告書(3)(参考資料5)の重合実験の内容は、これらが詳細な説明に記載された重合条件の範囲のものであり、本願明細書の記載範囲の追認であると主張(以下、「主張2」という。)しているので、それらについても検討する。 ○主張1について: たとえ、「重合温度を下げると、トリアドタクシティーが大きくなる」ことや「重合温度を下げると、2,1-挿入の割合及び1,3-挿入の割合が小さくなること」がよく知られた一般的な事項であったとしても、それぞれの部分的な一般的な記載にとどまるものであり、補正発明における、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合及び1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合を補正発明の範囲内に維持しつつ、トリアドタクシティーが99.4%以上のプロピレン系共重合体を製造することについては、依然として明りょうなものとはいえない。 ○主張2について: 実験報告書(2)及び(3)の内容は、出願当初の明細書に記載されたものでなく、そこから自明な事項とはいえないものであるとともに、それらを参酌したとしても、得られたプロピレン系共重合体のトリアドタクシティーは、それぞれ98.2%、97.6%及び99.1%であり、トリアドタクシティーが99.4%以上のプロピレン系共重合体の製造については依然として不明であるとともに、さらに、トリアドタクシティーが最も高い99.1%の場合、2,1-挿入の割合が0.5%(重合温度0℃、重合圧力が常圧)とあり、重合温度、重合圧力を変化させて、トリアドタクシティーを99.4%以上にしようとしても、2,1-挿入の割合が下限値である0.5%を下回る蓋然性が高く、補正発明における、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合及び1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合を補正発明の範囲内に維持しつつ、トリアドタクシティーが99.4%以上のプロピレン系共重合体を製造することは不可能といわざるを得ない。 したがって、トリアドタクシティー、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合及び1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合のいずれもが補正発明の規定を満たすプロピレン系共重合体については、発明の詳細な説明には記載されておらず、また、発明の詳細な説明の記載内容と出願時の技術常識を参照してもそれらを製造することは自明なものとすることはできないものであるから、補正発明は発明の詳細な説明に記載したものとすることはできない。 さらに、請求人は回答書において以下の主張を行っている。 「本願明細書には、(a)エチレン単位を特定量含み、(b)トリアドタクティシティーが96.9%以上であり、(c)2,1-挿入の割合が0.5%以上、1,3-挿入の割合が0.05%以下であり、(d)極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系共重合体、すなわち補正前の範囲にあるプロピレン系共重合体は、ヒートシール性などに優れていることが記載されています(本願明細書[0002]、[0004]、[0007]?[0009]、[0021]、[0025])。このため、実施例1、2は補正により除かれた範囲に含まれますが、補正後の範囲にあるプロピレン系共重合体が、ヒートシール性などに優れていることは本願明細書から明らかです。」 しかし、本願明細書の発明の詳細な説明においてヒートシール性などに優れていることが具体的に記載されているのは、結局のところ実施例1及び2のみであり、この実施例1及び2に係るプロピレン系共重合体は本件補正により特許請求の範囲から除外されたのであるから、この除外されたプロピレン系共重合体以外のものについて発明の詳細な説明においてヒートシール性などが優れていることが裏付けされているということはできない。 (3)まとめ そうすると、補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていないものであり、したがって、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.原査定について 1.本願発明 上記のとおり、平成21年3月12日に提出された手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年5月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により構成される以下のとおりのものである。 なお、(d)要件に係る2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は「0.5以上」と記載されているが、「0.5%以上」の誤記であることは明らかであるので、「0.5%以上」と認定する。 「(a)プロピレン単位を95?99.5モル%(但し、プロピレン単位を95モル%の場合を除く。)、エチレン単位を0.5?5モル%(但し、エチレン単位を5モル%の場合を除く。)含んでなり、 (b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRで測定したスペクトルから下記式により求められるトリアドタクティシティーが96.0%以上であり、 【数1】 PPP(mm) トリアドタクティシティー(%)=???????????????×100 PPP(mm)+PPP(mr)+PPP(rr) 式中、PPP(mm)、PPP(mr)、PPP(rr)は、それぞれ CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | | PPP(mm):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- CH_(3) CH_(3) | | PPP(mr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | PPP(rr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) で表される頭-尾で結合しているプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基に由来するピーク強度を示す。 (c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5%以上、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあることを特徴とするプロピレン系共重合体。」 2.原査定における拒絶理由の概要 これに対して、原査定における拒絶理由は、平成20年3月10日付け拒絶理由通知書に記載された理由1(2)、2(2)、3(1)及び6であるが、このうち理由6は、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、特許出願4として特願平6-243182号(特許第3795090号公報)を提示している。 そして、平成21年1月7日付け拒絶査定には次の点が付記されている。 「(理由6について) 出願人は、意見書において、本願発明と特許出願4に係る発明とは、要件(b)と要件(c)が異なっており、両者は上位概念と下位概念の関係にあるから、同一でない旨主張する。 しかし、両者の要件(b)はトリアドタクティシティーが「96.0%以上」と「96?97.3%」であり、96?97.3%の範囲で明らかに重複しており、上位下位の関係には該当しない。 また、両者の要件(c)は、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が「0.5以上」(「0.5%以上」の誤記と認められる。)と「0.5?1.5%」であり、0.5?1.5%の範囲で明らかに重複しており、上位下位の関係には該当しない。 よって、本願請求項1に係る発明は、特許出願4の請求項1に係る発明と同一である。」 3.判断 そこで、本願発明が特許出願4(特願平6-243182号)の請求項1に係る発明(以下、「引用出願4発明」という。)と同一であるか検討する。 (1)引用出願4発明 特許出願4は、本願の分割の基礎となった出願に係るものであって(本願は特許出願4からみていわゆる孫出願に該当する。)、すでに特許第3795090号として特許権の設定登録がなされているものである。そして引用出願4発明は、特許出願4の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により構成される次のとおりのものと認める。 「(a)プロピレン単位を95?99.5モル%(但し、プロピレン単位を95モル%の場合を除く。)、エチレン単位を0.5?5モル%(但し、エチレン単位を5モル%の場合を除く。)含んでなり、 (b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRで測定した下記式で表されるトリアドタクティシティーが96?97.3%であり、 【数1】 PPP(mm) トリアドタクティシティー(%)=???????????????×100 PPP(mm)+PPP(mr)+PPP(rr) 式中、PPP(mm)、PPP(mr)、PPP(rr)は、それぞれ CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | | PPP(mm):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- CH_(3) CH_(3) | | PPP(mr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) CH_(3) CH_(3) | | PPP(rr):-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))-(CH-CH_(2))- | CH_(3) で表される頭-尾で結合しているプロピレン単位3連鎖を示す。 (c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5?1.5%(但し、0.5%の場合を除く。)、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあることを特徴とするプロピレン系共重合体。」 (2)対比・判断 両者は、(a)要件、(c)要件のうち1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合及び(d)要件の極限粘度の各数値範囲において一致している。 そして、(b)要件のトリアドタクティシティーについては、引用出願4発明では「96?97.3%」と規定しているのに対し、本願発明においては「96.0%以上」と規定しており、また、(c)要件の2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合については、引用出願4発明では「0.5%以上」と規定しているのに対し、本願発明においては「0.5?1.5%(但し、0.5%の場合を除く。)」と規定しているが、これらの数値範囲は重複一致しているものであり、したがって相違点とすることはできず、両発明は同一というべきものである。 なお、請求人(出願人)は、平成20年5月19日提出の意見書において「本願発明と引用出願4に係る発明とは、要件(b)と要件(c)が異なっており、両発明は上位概念と下位概念の関係にある。」と主張している。 しかし、数値範囲を構成要件とする発明について、単に請求項に記載された数値範囲の大小をもって上位概念、下位概念の関係にあると解することは適切ではなく、発明の詳細な説明、特に具体的な開示との関係でその重複について検討すべきである。そして、本願発明と特許出願4に係る発明との関係を精査するに、両発明の(b)要件及び(c)要件のうちの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合の各数値範囲についての相違は、同一の実施例に基づく発明についての単なる請求項における発明表現上の差異というしかなく、このような両発明をもって上位概念、下位概念の関係にあるということはできない。 そうでないとしても、(b)要件についての規定は、引用出願4発明の方が下位概念であり、本願発明が上位概念であるから、この点については相違点ということはできないし、また、(c)要件のうちの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合についての規定は、その出願経緯(本願発明では、願書に最初に添付した特許請求の範囲においては「0.5%以上」と規定していたところ、平成20年3月10日付け拒絶理由通知書において特許法第36条第4項違反の拒絶理由を提示されたことに伴い、「0.5?1.5%(但し、0.5%の場合を除く。)」と補正したものである。)からすると、本願発明と同一の実施例に基づく引用出願4発明においても同様の拒絶理由(無効理由)が存するということもでき、そのような瑕疵を含む引用出願4発明との間に上記したような記載上の差異があることのみをもって、両発明が相違するということはできない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、本願と同日の出願に係る引用出願4発明と同一であり、当該引用出願4発明はすでに特許権の設定登録がなされているものであることにかんがみれば、本願発明は特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-01-21 |
結審通知日 | 2011-01-25 |
審決日 | 2011-02-07 |
出願番号 | 特願2007-91651(P2007-91651) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F) P 1 8・ 575- Z (C08F) P 1 8・ 113- Z (C08F) P 1 8・ 4- Z (C08F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小出 直也 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
小野寺 務 ▲吉▼澤 英一 |
発明の名称 | プロピレン系共重合体 |
代理人 | 牧村 浩次 |
代理人 | 特許業務法人SSINPAT |