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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01P
管理番号 1235791
審判番号 不服2008-12354  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-15 
確定日 2011-04-21 
事件の表示 平成10年特許願第240574号「振動又は加速度の検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月 3日出願公開、特開2000- 65853〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年8月26日の出願であって、平成17年8月25日付け及び平成20年1月21日付けで、それぞれ、明細書又は図面(以下、「明細書等」という。)についての補正(以下、それぞれ、「補正1」、「補正2」という。)がなされ、平成20年4月2日付けで拒絶査定がなされた(送達日:同年同月15日)ところ、同年5月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年6月16日付けで明細書等についての補正(以下、「補正3」という。)がなされたものである。
その後、当審より、平成22年5月10日付けで拒絶理由を通知した(発送日:同年同月18日)ところ、同年7月16日付けで意見書が提出され、さらに、当審より、平成22年9月27日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)を通知した(発送日:同年10月5日)ところ、同年12月6日付けで意見書が提出されるとともに明細書等についての補正(以下、「補正4」という。)がなされた。

第2 当審の拒絶理由
当審拒絶理由2の通知は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第1項第2号に規定する最後に受けた拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知2」という。)であり、当審拒絶理由2の概要は、本願の請求項1ないし3に係る発明は、本願の出願前に国内又は外国において頒布された刊行物である、特開平10-160459号公報(以下、「引用例」という。)に記載された発明、引用例の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第3 補正却下の決定
[結論]
補正4を却下する。
[理由]
1 補正4の内容
補正4は、特許請求の範囲の請求項1を、以下の(1)に示される補正前の特許請求の範囲の請求項1から、以下の(2)に示される補正後の特許請求の範囲の請求項1に補正することを含むものである。
(1)補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】 磁性体からなる可動部と、
前記可動部を揺動自在に両側から支持した1対のバネと、
前記可動部及びバネを収納した非磁性及び非導電性の収納体と、
前記可動部に貼り付けられた導電体の薄膜又は薄い永久磁石の一方と、
前記可動部の初期位置に対応して前記収納体に貼り付けられた導電体の薄膜又は薄い永久磁石の他方と、
前記可動部の変位を検出する誘導型センサ部と
を備える振動又は加速度の検出装置。」

(2)補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】 磁性体からなる可動部と、
前記可動部を揺動自在に両側から支持した1対のバネと、
前記可動部及びバネを収納した非磁性及び非導電性の収納体と、
前記可動部に貼り付けられた導電体の薄膜又は薄い永久磁石の一方と、
前記可動部の初期位置に対応して前記収納体に貼り付けられた導電体の薄膜又は薄い永久磁石の他方と、
前記可動部の変位を検出する誘導型センサ部と
を備え、互いに相対的に変位する前記導電体の薄膜と前記薄い永久磁石の間の渦電流損による制動作用は概ね初期位置でのみ発揮されるように構成されていることを特徴とする振動又は加速度の検出装置。」

なお、下線は補正箇所を明示するために請求人が付したものである。

2 補正4についての当審の判断
上記補正4は、当審拒絶理由通知2に応答して、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「振動又は加速度の検出装置」について、「互いに相対的に変位する前記導電体の薄膜と前記薄い永久磁石の間の渦電流損による制動作用は概ね初期位置でのみ発揮されるように構成されていることを特徴とする」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、この補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下検討する。

(1)引用例記載の事項・引用発明
当審拒絶理由2に引用された上記引用例には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、傾斜又は振動又は加速度の検出装置に関し、建設機械、自動車、工作機械、その他あらゆる分野で応用可能なものである。」

(b)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明に係る傾斜又は振動又は加速度の検出装置は、本体部と、非磁性の導電体からなるものであり、重力方向を指向して前記本体部に対して相対的に変位する可動部と、前記本体部に設けられ、かつ交流信号によって励磁され、前記可動部の前記本体部に対する相対的変位に応じて生じる渦電流損に対応した検出出力を生じるコイル部と、前記本体部に設けられた磁石とを具え、前記可動部の変位に応じて前記磁石によって該可動部に生じる渦電流による電磁力により該可動部の動きが抑制されるようにしたことを特徴とするものである。
【0006】この検出装置は、傾斜又は振動又は加速度を検出しようとする対象物(例えば、建設機械の作業アームや、工作機械の可動部や、自動車の車体など)に取り付けられる。対象物の傾斜又は振れに応じて、可動部が本体部に対して相対的に変位し、この変位がコイル部によって検出されることにより、傾斜又は振動又は加速度が検出される。すなわち、コイル部に対する可動部の相対的位置が該可動部の振れの大きさに対応しており、この可動部の振れの大きさが、対象物の傾斜量又は振動の大きさ又は加速度の大きさを示している。非磁性の導電体(例えば銅又はアルミニウムなど)からなる可動部と交流励磁されたコイル部との間の相対的位置は、渦電流損に応じた誘導原理によって検出することができる。本体部に対して可動部が相対的に変位するとき、本体部側に設けられた磁石に対して非磁性の導電体からなる可動部が相対的に変位することになり、これにより、可動部の導電体に磁石の磁場による渦電流が流れ、これによる電磁力が可動部を磁石の方に吸引する方向に働く。これは「アラゴの円板」として知られた作用と同様の原理に基づいている。これによって、可動部の動きが緩衝され、慣性による無駄な動きが抑制される。従って、対象物の傾斜又は振動又は加速度を、簡単かつ正確に検出することができる。
【0007】上記とは逆に、磁石を可動部側に設け、非磁性の導電体を本体部に固定するようにしてもよい。・・・・・
【0008】一例として、前記可動部は、振り子状に揺動するものであってよい。別の例として、前記可動部は、転がり運動をするもの(例えば円板又は球体)であってもよい。なお、磁石としては永久磁石を用いるのが普通であり、構造の簡素化及び経済性の点で有利である。」

(c)「【0024】図6は、可動部3として「球」状の転がり構造体を使用した、本発明に係る検出装置10の一実施例を示す図であり、(a)は軸方向断面図、(b)は側面図である。本体部に相当する収納体1は、銅又はアルミニウムのような非磁性・良導電体のチューブからなっていて、その内部は下側にわん曲した通路1sとなっており、この通路1s内には、適宜のサイズの球状の可動部3が重力方向を指向して移動自在に収納されている。この球状の可動部3は、球状の永久磁石と磁性体の複合体からなる。例えば、球の内部が磁性体であり、その外周に球状の永久磁石を形成してなるものである。球状の永久磁石は公知であるためこれを利用し、その内部に磁性体を設ければよい。あるいは、鉄等の磁性体からなる小球の周囲に、サッカーボール表皮のようなパッチ状に複数の永久磁石を貼り付ることによっても、永久磁石と磁性体の複合体からなる可動部3を形成することができる。わん曲チューブ状からなる収納体1の周囲には、コイル部2の各コイル11?14,21?24が各極(s,c,/s,/c)順に順次巻回されている。勿論、通路1sの両端は閉じられていて、内部の可動部3が飛び出ないようになっている。
【0025】上記の構成によって、わん曲した通路1s内における可動部3のリニア位置つまり、コイル部2に対する可動部3の相対的直線位置に応じて、コイル部2における誘導結合が変化し、これに応じた出力信号を該コイル部2より得ることができる。従って、通路1s内における可動部3のリニア位置に応じた検出出力信号をコイル部2から得るようにすることができる。・・・ここで、収納体1の通路1sは、下側にわん曲しているため、該収納体1が水平位置におかれているとき、該通路1s内の球状可動部3は自重により必ず所定の位置(傾斜0に対応する一番低い位置)に位置する。収納体1が傾くと、それに応じて通路1sに沿って可動部3が転動変位し、該通路1sにおける前記可動部3の位置に応じた検出出力信号が前記コイル部2から得られる。従って、コイル部2の出力信号は収納体1の傾斜量θに応答するものであり、該傾斜量θの検出信号として適宜利用できる。また、前記各実施例と同様に、可動部3が変位したとき、該可動部3に設けられた永久磁石の作用によって、収納体1のチューブを構成している導電体に渦電流が流れ、該可動部3の動きを抑制するように作用する。既に述べた実施例と同様に、図6の変更例として、1又は複数個の永久磁石を収納体1の側に固定するようにしてもよく、その場合は、可動部3を非磁性の良導電体によって構成し、収納体1はプラスチック等の非磁性・非導電体で構成するとよい。」

上記記載(a)ないし(c)及び図面の記載から、「傾斜又は振動又は加速度の検出装置」(発明の名称)に関して、以下の技術事項が読み取れる。
(ア)上記記載(b)の「本発明に係る傾斜又は振動又は加速度の検出装置は、本体部と、非磁性の導電体からなるものであり、重力方向を指向して前記本体部に対して相対的に変位する可動部と、前記本体部に設けられ、かつ交流信号によって励磁され、前記可動部の前記本体部に対する相対的変位に応じて生じる渦電流損に対応した検出出力を生じるコイル部と、前記本体部に設けられた磁石とを具え、前記可動部の変位に応じて前記磁石によって該可動部に生じる渦電流による電磁力により該可動部の動きが抑制されるようにしたことを特徴とするものである。」、「一例として、前記可動部は、振り子状に揺動するものであってよい。別の例として、前記可動部は、転がり運動をするもの(例えば円板又は球体)であってもよい。なお、磁石としては永久磁石を用いるのが普通であり、構造の簡素化及び経済性の点で有利である。」との記載、上記記載(c)の記載、特に、「図6は、可動部3として「球」状の転がり構造体を使用した、本発明に係る検出装置10の一実施例を示す図であり、(a)は軸方向断面図、(b)は側面図である。本体部に相当する収納体1は、銅又はアルミニウムのような非磁性・良導電体のチューブからなっていて、その内部は下側にわん曲した通路1sとなっており、この通路1s内には、適宜のサイズの球状の可動部3が重力方向を指向して移動自在に収納されている。」との記載からみて、上記記載(b)には、引用例の「本発明」に係る傾斜又は振動又は加速度の検出装置が記載されており、上記記載(c)及び図6には、その一実施例として、可動部を球状のものとし、本体部を、内部が下側にわん曲した通路となっておりこの通路内に球状の可動部が重力方向を指向して移動自在に収納した収納体とした検出装置が記載されていることが読み取れる。
そして、上記記載(b)と、上記記載(c)及び図6の記載との間の上記関係に留意しつつ、これらの記載全体を総合してみると、傾斜又は振動又は加速度の検出装置の基本構成として、「可動部と、収納体と、収納体に設けられた永久磁石と、コイル部とを備え、前記可動部の変位に応じて前記永久磁石によって前記可動部に生じる渦電流による電磁力により前記可動部の動きが抑制されるようにしたことを特徴とする傾斜又は振動又は加速度の検出装置」との技術事項が読み取れる。
(イ)上記(ア)の「可動部」、「収納体」に関して、上記記載(c)の「図6は、可動部3として「球」状の転がり構造体を使用した、本発明に係る検出装置10の一実施例を示す図であり、(a)は軸方向断面図、(b)は側面図である。。本体部に相当する収納体1は、銅又はアルミニウムのような非磁性・良導電体のチューブからなっていて、その内部は下側にわん曲した通路1sとなっており、この通路1s内には、適宜のサイズの球状の可動部3が重力方向を指向して移動自在に収納されている。この球状の可動部3は、球状の永久磁石と磁性体の複合体からなる。」、「図6の変更例として、1又は複数個の永久磁石を収納体1の側に固定するようにしてもよく、その場合は、可動部3を非磁性の良導電体によって構成し、収納体1はプラスチック等の非磁性・非導電体で構成するとよい。」との記載から、「非磁性の良導電体によって構成された球状の可動部」、「内部が下側にわん曲した通路となっており、この通路内に可動部が重力方向を指向して移動自在に収納されているプラスチック等の非磁性・非導電体で構成された収納体」との技術事項が読み取れる。
(ウ)上記(ア)の「収納体に設けられた永久磁石」に関して、上記記載(c)、特に、「図6の変更例として、1又は複数個の永久磁石を収納体1の側に固定するようにしてもよく、その場合は、可動部3を非磁性の良導電体によって構成し、収納体1はプラスチック等の非磁性・非導電体で構成するとよい。」との記載から、「収納体の側に固定された永久磁石」との技術事項が読み取れる。
(エ)上記(ア)の「コイル部」に関して、上記記載(c)、特に、「この球状の可動部3は、球状の永久磁石と磁性体の複合体からなる。」、「わん曲チューブ状からなる収納体1の周囲には、コイル部2の各コイル11?14,21?24が各極(s,c,/s,/c)順に順次巻回されている。」「わん曲した通路1s内における可動部3のリニア位置つまり、コイル部2に対する可動部3の相対的直線位置に応じて、コイル部2における誘導結合が変化し、これに応じた出力信号を該コイル部2より得ることができる。」、「該通路1sにおける前記可動部3の位置に応じた検出出力信号が前記コイル部2から得られる。」との記載から、可動部が球状の永久磁石と磁性体の複合体からなる場合に、通路における上記可動部の位置に応じた検出出力信号がコイル部から得られることが読み取れる。
そして、可動部が上記(イ)の「非磁性の良導電体によって構成された球状の可動部」である場合においても、同様に、通路における可動部の位置に応じた検出出力信号がコイル部から得られることは、上記記載(b)の「非磁性の導電体(例えば銅又はアルミニウムなど)からなる可動部と交流励磁されたコイル部との間の相対的位置は、渦電流損に応じた誘導原理によって検出することができる。」との記載から明らかである。
したがって、「通路における上記可動部の位置に応じた検出出力信号を出力するコイル部」との技術事項が読み取れる。

以上のことから、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「非磁性の良導電体によって構成された球状の可動部と、
内部が下側にわん曲した通路となっており、この通路内に前記可動部が重力方向を指向して移動自在に収納されているプラスチック等の非磁性・非導電体で構成された収納体と、
収納体の側に固定された永久磁石と、
通路における前記可動部の位置に応じた検出出力信号を出力するコイル部とを備え、
前記可動部の変位に応じて前記永久磁石によって前記可動部に生じる渦電流による電磁力により前記可動部の動きが抑制されるようにしたことを特徴とする傾斜又は振動又は加速度の検出装置。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「球状の可動部」、「プラスチック等の非磁性・非導電体で構成された収納体」、「通路における可動部の位置に応じた検出出力信号を出力するコイル部」、「傾斜又は振動又は加速度の検出装置」は、それぞれ、
本願補正発明の「可動部」、「非磁性及び非導電性の収納体」、「可動部の変位を検出する誘導型センサ部」、「振動又は加速度の検出装置」に相当する。
(イ)引用発明の「内部が下側にわん曲した通路となっており、この通路内に可動部が重力方向を指向して移動自在に収納されているプラスチック等の非磁性・非導電体で構成された収納体」(前者)は、「収納体1の通路1sは、下側にわん曲しているため、該収納体1が水平位置におかれているとき、該通路1s内の球状可動部3は自重により必ず所定の位置(傾斜0に対応する一番低い位置)に位置する。」(引用例の段落【0025】)との作用をなすものであるので、可動部に対して、傾斜0に対応する一番低い位置、すなわち、重力の作用がバランスする位置である初期位置に復帰させようとする復元力を与えるものである。
一方、本願補正発明の「可動部を揺動自在に両側から支持した1対のバネ」(後者)は、可動部が「常に所定の初期位置(両側からのバネの力がバランスする位置)に戻るように速やかに振動が収束するように作用し、慣性動を有効に抑制・緩衝させることができる。」(本願明細書の段落【0006】)との作用効果を奏するものであるので、可動部に対して、バネの弾性による作用がバランスする位置である初期位置に復帰させようとする復元力を与えるものである。
したがって、前者と後者は、ともに、可動部に対してこれを初期位置に復帰させようとする復元力を与える手段である点で共通し、その具体的構成が、前者では、「内部が下側にわん曲した通路となっており、この通路内に可動部が重力方向を指向して移動自在に収納されている」収納体それ自身であるのに対し、後者では、「可動部を揺動自在に両側から支持した1対のバネ」であり、この「1対のバネ」を可動部とともに収納体に収納した点で相違する。
(ウ)引用発明の「非磁性の良導電体によって構成された可動部」及び「収納体の側に固定された永久磁石」(前者)は、「前記可動部の変位に応じて前記永久磁石によって前記可動部に生じる渦電流による電磁力により前記可動部の動きが抑制される」との作用効果を奏するものである。
一方、本願補正発明の「前記可動部に貼り付けられた導電体の薄膜又は薄い永久磁石の一方」及び「前記可動部の初期位置に対応して前記収納体に貼り付けられた導電体の薄膜又は薄い永久磁石の他方」(後者)は、「互いに相対的に変位する前記導電体の薄膜と前記薄い永久磁石の間の渦電流損による制動作用」を可動部に対して及ぼすものである。
したがって、前者と後者は、ともに、互いに相対的に変位する導電体と永久磁石の間の渦電流損による制動作用を可動部に対して及ぼす手段(いわゆるダンパー)である点で共通する。
また、後者は、択一的な表現を用いて、導電体の薄膜、薄い永久磁石が、可動部、収納体に貼り付けられる態様として2通りの態様を特定するものであるから、そのうちの一方の態様である、「前記可動部に貼り付けられた薄い永久磁石」及び「前記可動部の初期位置に対応して前記収納体に貼り付けられた導電体の薄膜」について、引用発明の上記「非磁性の良導電体によって構成された可動部」及び「収納体の側に固定された永久磁石」と対比すると、
両者は、上述のごとく、ともに、互いに相対的に変位する導電体と永久磁石の間の渦電流損による制動作用を可動部に対して及ぼす手段であって、前記導電体又は前記永久磁石の一方が前記可動体と一体であり、他方が前記収納体に固定される点で共通し、その具体的な構成が、本願補正発明では、「前記可動部に貼り付けられた薄い永久磁石」及び「前記可動部の初期位置に対応して前記収納体に貼り付けられた導電体の薄膜」であるのに対し、引用発明では、「非磁性の良導電体によって構成された球状の可動部」及び「収納体の側に固定された永久磁石」である点で相違する。
(エ)引用発明の「前記可動部の変位に応じて前記永久磁石によって前記可動部に生じる渦電流による電磁力により前記可動部の動きが抑制されるようにした」と、本願補正発明の「互いに相対的に変位する前記導電体の薄膜と前記薄い永久磁石の間の渦電流損による制動作用は概ね初期位置でのみ発揮されるように構成されている」とは、ともに、「互いに相対的に変位する前記導電体と前記永久磁石の間の渦電流損による制動作用が発揮されるように構成されている」点で共通する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、相違点1ないし3で相違する。

[一致点]
「可動部と、
前記可動部に対してこれを初期位置に復帰させようとする復元力を与える手段と、
前記可動部を収納した非磁性及び非導電性の収納体と、
互いに相対的に変位する導電体と永久磁石の間の渦電流損による制動作用を前記可動部に対して及ぼす手段であって、前記導電体又は前記永久磁石の一方が前記可動体と一体であり他方が前記収納体に固定される前記手段と、
前記可動部の変位を検出する誘導型センサ部と
を備え、互いに相対的に変位する前記導電体と前記永久磁石の間の渦電流損による制動作用が発揮されるように構成されていることを特徴とする振動又は加速度の検出装置。」

[相違点1]
可動部の材質について、本願補正発明では磁性体からなるのに対し、引用発明では非磁性の良導電体によって構成される点

[相違点2]
可動部に対してこれを初期位置に復帰させようとする復元力を与える手段が、本願補正発明では、「可動部を揺動自在に両側から支持した1対のバネ」であり、この「1対のバネ」を可動部とともに収納体に収納したのに対し、引用発明では、「内部が下側にわん曲した通路となっており、この通路内に可動部が重力方向を指向して移動自在に収納されている」収納体自身である点。

[相違点3]
互いに相対的に変位する導電体と永久磁石の間の渦電流損による制動作用を可動部に対して及ぼす手段が、
本願補正発明では、可動部に貼り付けられた薄い永久磁石と、可動部の初期位置に対応して収納体に貼り付けられた導電体の薄膜であるのに対し、
引用発明では、非磁性の良導電体によって構成された球状の可動部と、収納体の側に固定された永久磁石であり、
制動作用が発揮される位置について、
本願補正発明では、上記制動作用が概ね初期位置でのみ発揮されるように構成されているのに対し、引用発明にはそのような特定がない点。

(3)判断
上記相違点1ないし3について検討する。
[相違点1]及び[相違点3]について
相違点1及び相違点3について、これらをまとめて検討する。
引用例には、互いに相対的に変位する導電体と永久磁石の間の渦電流損による制動作用を可動部に対して及ぼす手段として、上記「第3」「2」「(1)」「(2)」の引用発明の認定、対比において説示したように、非磁性の良導電体によって構成された可動部と収納体の側に固定された永久磁石との組み合わせよりなるものが記載されるとともに、その他の採り得る構成について次のような言及がなされている。
すなわち、引用例1の段落【0011】?【0014】、図1(a)、(b)、(c)には、可動部として振り子状の可動部3を用いた一構成例が示されており、可動部3を、銅又はアルミニウムのような非磁性の良導電体からなるものとし、本体部1(引用発明の収納部に相当。段落【0024】の「本体部に相当する収納体1」との記載参照。)の左ベース1cの可動部3の初期位置に対応する位置を中心とした所定範囲に永久磁石を1又は複数個設けることにより、非磁性の良導電体からなる可動部3が永久磁石4に対して相対的に変位することにより可動部3に流れる渦電流に基づく電磁力が生じ可動部3の動きが抑制されるようにしたものが記載されている。
そして、段落【0020】、【0021】には、上記一構成例の変更例として、「上記の例では可動部3のダンパ作用のために設ける永久磁石4と導電体の関係は、永久磁石4を本体部1に固定するようにしているが、これとは逆に、永久磁石4を可動部3に設けて移動可能とし、非磁性・良導電体の方を本体部1に固定するようにしてもよい。図4はその一例を示す。」、「図4においては、(a),(c)に示されるように、左ベース1cの側に非磁性の良導電体5(例えば銅又はアルミニウム)を所定の範囲で固設し、(b)に示されるように、可動部3の所定位置に永久磁石4を固設している。」、「図4の場合、可動部3における主たる材質は、図1と同様に非磁性の良導電体からなっていてもよいし、それとは逆に、鉄のような磁性体からなっていてもよい。」と記載され、図4(a)、(b)、(c)にその図示がなされている。
これらの記載から、可動部3の主たる材質として鉄のような磁性体を採用するとともに、上記制動作用を可動部に対して及ぼす手段として、上記可動部3に設けた永久磁石4と、図4(a)、(c)に示されるごとく、上記可動部3の初期位置に対応する部位を中心とした本体部(引用発明の収納体に相当。)の所定の範囲に固設した板状の非磁性の良導電体5とからなるものを採用し得ることが読み取れる。
そして、このような構成のものにおいて、可動部が振り子状であることは制動作用が生じるための要件として必須ではなく、可動部に設けた永久磁石と本体部(収納体)に固設した良導電体が相対的に変位するものであればよく、引用発明のようにわん曲した収納体に球状の可動部が収納されたものにおいても同様に上記制動作用が生じることは、その原理からみて明らかである。
してみると、引用発明において、可動部の材質として鉄のような磁性体を採用するとともに、上記制動作用を可動部に対して及ぼす手段として、可動部に設けた永久磁石と、可動部の初期位置に対応する部位を中心とした収納体の所定の範囲に固設した板状の非磁性の良導電体とからなるものを採用することは必要に応じて当業者が適宜なし得ることである。
その際に、永久磁石と非磁性の良導電体とをどのような厚み、形状のものとするかは、必要とされる制動作用の大きさ、スペース、製造の容易性等の要件を考慮して適宜決めればよいことであり、薄い永久磁石、薄膜の導電体とすることは当業者が適宜なし得ることである。
さらに、上記制動作用が、可動部に設けた永久磁石と収納体に固設した導電体との相対速度が最大となる初期位置において最大であり、初期位置から遠ざかるにつれて減衰することを考慮すれば、収納体に固設する導電体の位置を可動部の初期位置に対応した位置とし、制動作用が概ね初期位置でのみ発揮されるように構成することも当業者が適宜採用し得ることである。
また、貼り付けは固定の一態様にすぎないものである。
したがって、引用発明に引用例の上記記載事項を適用して、上記相違点1及び相違点3に係る本願補正発明のごとく構成することは当業者が容易になし得たことである。

[相違点2]について
加速度の検出装置において、可動部に対してこれを初期位置に復帰させようとする復元力を付与する手段として、可動部を揺動自在に両側から支持した1対のバネを可動部とともに収納体に収納したものを採用することは、当審拒絶理由2において引用した、実願平1-40739号(実開平2-131663号)のマイクロフィルム、実願平1-57467号(実開平2-148471号)のマイクロフィルムに示されるように周知技術にすぎない。
してみると、引用発明において、上記周知技術を適用して、上記復元力を付与する手段として、下側にわん曲した通路1sを有する収納部に代えて、可動部を揺動自在に両側から支持した1対のバネを可動部とともに収納体に収納したものを採用して、上記相違点2に係る本願補正発明のごとく構成することは当業者が容易になし得たことである。

そして、本願補正発明が奏する効果は、引用発明、引用例の記載事項及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであり、格別のものではない。

よって、本願補正発明は、引用発明、引用例の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)まとめ
以上のとおり、補正4は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4 本願発明
補正4は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、補正1、補正2及び補正3によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は上記「第3」の「1」の「(1)」の補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。

第5 引用例の記載事項・引用発明
当審拒絶理由2に引用された引用例の記載事項及び引用発明は、上記「第3」の「2」の「(1)」に記載したとおりのものである。

第6 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は、上記「第3」で検討した、本願補正発明の発明を特定するために必要な事項である「振動又は加速度の検出装置」についての上記「互いに相対的に変位する前記導電体の薄膜と前記薄い永久磁石の間の渦電流損による制動作用は概ね初期位置でのみ発揮されるように構成されていることを特徴とする」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明を特定するために必要な事項をすべて含み、さらに上記限定を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第3」の「2」の「(3)」に記載したとおり、引用発明、引用例の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願発明(請求項1に係る発明)が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2、3に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-07 
結審通知日 2011-02-15 
審決日 2011-02-28 
出願番号 特願平10-240574
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (G01P)
P 1 8・ 121- WZ (G01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 智史森口 正治  
特許庁審判長 下中 義之
特許庁審判官 松浦 久夫
飯野 茂
発明の名称 振動又は加速度の検出装置  
代理人 飯塚 義仁  

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