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審決分類 審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A47J
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A47J
審判 全部無効 2項進歩性  A47J
管理番号 1236784
審判番号 無効2008-800133  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-07-24 
確定日 2011-04-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4052390号「炊飯器」の特許無効審判事件についてされた平成21年11月9日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10412号平成22年7月14日判決言渡)があり、確定したので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第4052390号の請求項1に係る発明についての出願は、平成15年 6月12日の出願であって、平成19年12月14日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
2.これに対して、請求人 中尾 泰雄は、平成20年7月24日に本件特許無効審判を請求した。
3.被請求人 三菱電機株式会社及び三菱電機ホーム機器株式会社は、平成20年11月7日に答弁書(第1回)を提出した。
4.当審は、平成20年12月24日付けで「訂正を認める。特許第4052390号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第一次審決」という。)をした。

5.被請求人は、第一次審決に対する訴え(平成21年(行ケ)第10030号)を提起するとともに、平成21年4月24日に訂正審判の請求をした。
6.知的財産高等裁判所は、平成21年4月28日に、特許法181条2項の規定により、第一次審決の取消しの決定をした。

7.請求人は、平成21年7月17日に弁駁書を提出した。
8.当審は、平成21年7月17日付け弁駁書による請求の理由の補正を許可するとの補正許否の決定をした。
9.被請求人は、平成21年8月28日に答弁書(第2回)を提出した。
10.当審は、平成21年11月9日付けで「訂正を認める。特許第4052390号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第二次審決」という。)をした。

11.被請求人は、第二次審決に対する訴え(平成21年(行ケ)第10412号)を提起した。
12.知的財産高等裁判所は、平成22年7月14日に第二次審決を取り消すとの判決をした。
13.請求人は、上告及び上告受理申立てをし、最高裁判所は、平成22年12月7日に本件上告を棄却する及び本件を上告審として受理しないと決定をした。

第2 訂正請求
特許法第134条の3第2項の規定により指定された期間内に訂正の請求がなされなかったので、同条第5項の規定により、平成21年4月24日にした訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書を援用した、訂正の請求がされたものとみなす。

1.訂正の内容
被請求人により請求された訂正の内容は、本件特許発明の明細書(以下「特許明細書等」という。)を上記援用された訂正した明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、以下のとおりである。

(訂正事項1)
特許明細書等の特許請求の範囲の請求項1について、「内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する内鍋内面側には、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されていることを特徴とする炊飯器。」とある記載を、
「内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されていることを特徴とする炊飯器。」と訂正する。
(訂正事項2)
特許明細書等の段落【0008】の「この発明に係る炊飯器は、内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する内鍋内面側には、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されているものである。」との記載を、「この発明に係る炊飯器は、内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されているものである。」と訂正する。
(訂正事項3)
特許明細書等の段落【0027】の「この発明は以上説明したように、内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する内鍋内面側には、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されているので、内鍋基材をセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成したことにより、ご飯が付着しにくく、また、蓄熱性がよくなり保温時の加熱通電時間を短くすることができ、電気エネルギーの節約による省エネルギー化が図れる炊飯器を得ることができる。」との記載を、「この発明は以上説明したように、内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されているので、内鍋基材をセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成したことにより、ご飯が付着しにくく、また、蓄熱性がよくなり保温時の加熱通電時間を短くすることができ、電気エネルギーの節約による省エネルギー化が図れる炊飯器を得ることができる。」と訂正する。

2.訂正の適否について
(1)(訂正事項1)について
凸部を形成することについて、特許明細書の段落【0010】に「12は前記内鍋収納部9に挿脱自在に取付けられ、米と水を収容する有底筒状の内鍋であり、内鍋上部開口部の外縁に形成されたフランジ部12Aと、該フランジ部12Aと対向する内鍋内面側に凸部12Bを有している。」と記載されており、図1及び2には、内鍋12の上部開口部の上端で外縁に水平に張り出すフランジ部12Aが設けられ、その内鍋12の上部開口部の上端で内鍋内面側に内鍋12が膨出して凸部12Bとなっている態様が図示されているから、フランジ部12Aが水平に張り出す内鍋12の上部開口部の上端の外縁に対向する、内鍋内面側の、位置に設けられるとともに、内鍋内面側に内鍋12が膨出して凸部12Bとなっていることから内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くするものが記載されているといえ、願書に添付した明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1については、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
そして凸部の態様について、フランジ部と対向する位置で、内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることによって形成されるものであることを限定するものといえるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、上記のとおりであるから、後記第3の1.の請求人の主張は、採用できない。

(2)(訂正事項2及び3)について
訂正事項2及び3は、新たな請求項1に対応して発明の詳細な説明の記載を整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、特許明細書等に記載した事項の範囲内でするものと認められ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2のただし書の規定に適合し、同条第5項において準用する同法第126条第3及び4項に規定する要件に適合するので、当該訂正を認める。

第3 請求人の主張
1.訂正について
被請求人が請求する訂正は、特許法第134条の2第1項の各号に該当しないから、却下されるべきものであると主張し、証拠方法として甲第14号証、甲第14号証の1、甲第15号証、甲第16号証及び甲第17号証を提出した。
甲第14号証:平成21年4月24日付け審判請求書「特許第4052390号訂正審判事件」(訂正2009-390055号)
甲第14号証の1:平成21年(行ケ)第10030号審決取消請求事件における原告(当審の被請求人)の平成21年4月24日付け上申書【訂正審判請求に伴う差戻決定の上申】
甲第15号証:平成21年(行ケ)第10030号審決取消請求事件における原告(当審の被請求人)の平成21年4月16日付け、原告第1回準備書面
甲第16号証:平成21年(行ケ)第10030号審決取消請求事件における原告(当審の被請求人)の平成21年4月14日付け上申書【訂正審判請求に伴う差戻決定の上申】(特許請求の範囲の変動一覧表)
甲第17号証:特開平11-35367号公報
そしてその理由について以下のように主張する。
(1)特許明細書に「位置」なる記載はない。そして、被請求人は平成21年(行ケ)第10030号審決取消請求事件の原告第1準備書面(甲第15号証)で「フランジ部とほぼ同じ高さで内鍋内面側に形成された凸部」と主張するが、その位置が明確でない。したがって、その構成が明確でないから、特許請求の範囲の減縮とはいえない。
(2)特許明細書に「内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより、・・・凸部が形成され」るとの記載はない。そして、凸部はフランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する役目をなすものでどのように形成したかによって役目が変化しないから、凸部の形成の仕方を限定する意味が不明瞭であり、また、フランジ部の成型の仕方と相通ずる筈であるのに凸部のみ限定することの意味が不明瞭であることから、特許請求の範囲の減縮とはいえない。
したがって、被請求人が請求する訂正は、特許法第134条の2第1項の各号に該当しないから、却下されるべきものである。
なお甲第17号証に示されるように等厚のまま凸部を形成した陶磁器は古くから知られている。

2.無効理由1
請求項1に係る特許発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであると主張し、証拠方法として甲第1?13号証及び甲第18?21号証を提出した。
甲第1号証:実願昭47-101701号(実開昭49-57555号)のマイクロフイルム
甲第2号証:特開昭61-179089号公報
甲第3号証:特開平11-251051号公報
甲第4号証:特開平11-342073号公報
甲第5号証:特開2000-225057号公報
甲第6号証:特開2001-78884号公報
甲第7号証:特開平5-199934号公報
甲第8号証:特開2001-245785号公報
甲第9号証:特開平8-150071号公報
甲第10号証:特開2000-225056号公報
甲第11号証:特開2003-61817号公報
甲第12号証:特開2003-70631号公報
甲第13号証:特開平8-154819号公報
甲第18号証:特開2000-70145号公報
甲第19号証:実公平4-27483号公報
甲第20号証:実願昭59-156124号(実開昭61-71986号)のマイクロフィルム
甲第21号証:特開2000-225065号公報

そしてその理由について以下のように主張する。
(1)請求項1に係る特許発明(以下「本件特許発明」という。)の「内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器」は甲第1?7、9?12号証に記載されている。
(2)本件特許発明の「内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成され」る構成は、甲第4号証に記載された炊飯器の鍋6が加熱コイル10により加熱される発熱層9を有しており、甲第1?3号証に示される誘導加熱用のセラミック鍋が周知であることから、甲第4号証に記載された鍋の構成と実質的に同一であるか、甲第1?7、9?12号証に記載のものから自明又は容易に想到できたものである。
(3)本件特許発明の「少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合」する構成は甲第4号証に記載されており、作用においても差異はない。
(4)本件特許発明の内鍋の「内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施」す構成は、甲第3号証に記載された釉薬、甲第5号証に記載されたフッ素樹脂などのコーティング材料からなる内面側の保護皮膜に一致し、作用においても差異がない。
(5)本件特許発明の「上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され」る構成は、甲第2?13号証に調理器具や炊飯器の内鍋の構成として記載されている。
(6)本件特許発明の「フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキン」は、甲第4及び6?13号証に記載されている。
(7)本件特許発明の「凸部が形成されている」との構成は、甲第8,10及び11号証に記載されている。
(8)本件特許発明の「フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部」について、保温中に蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断して露が内鍋内に垂れるのを防ぐものといえる。
ア.しかし、フランジ部及び凸部は露の垂れを遮断するのではなく、露を一旦受け止め、その位置からフランジ部上面及び凸部上面を迂回させ、距離を稼いでから内鍋の内側に垂れ落ちさせるものである。
しかも、本件特許発明の凸部は、図1及び2に見るように、内鍋の内周面の延長線上において、基部から内側先端まで上下でほぼ均一に丸みを持って膨らんだ形状であるから、内鍋内周面の延長線上に当たる凸部の突出基部に達した時点で、下降成分発生起点となり伝い落ちに勢いを与えるものである。
イ.甲第12号証には、保温中の鍋パッキンが鍋や放熱板に比し低温となってつゆが付着し、一定量を超えると鍋のフランジ部を伝って、鍋の側面へと滴下し、ご飯を白化させたりべちゃつかせたりする旨の上記本件特許発明と同様の技術課題が記載されている。
そして甲第12号証の図7には、鍋パッキンに付着した露が一定量を超えると、鍋パッキンが接地した位置からフランジ部の水平に延びた距離を稼いで、鍋内面側へ滴下するものが記載されている。
甲第12号証の図7のものの結露水の挙動は、本件特許発明と結露水がオーバーハング面から濡れ性により凸部から滴下したり伝い落ちしたりする点で相違するだけで、フランジ上面の鍋パッキンが接地した位置から湾曲面の垂直部分に至るまで、本件特許発明と一致し、内鍋内への結露水の挙動に大差がなく、露の滴下を遅らせる作用効果に変わりはない。
このような露の挙動は専ら表面形状に依存するので、凸部が厚みを厚くして形成するとしても、露に対する働きに変わりはない。
したがって、本件特許発明が凸部を内鍋を厚くして形成したことは関係がなく、露の滴下を遅らせる働きは弱く、甲第12号証の図7の水平なフランジと等価な技術である。
このような鍋上端と蓋パッキンの関係は甲第18号証でもみられるように電磁誘導加熱する調理器具や炊飯器において既に周知である。
ウ.そして甲第12号証には、図7におけるフランジ上面から鍋内面側へ滴下する、防ぎきれない結露水を受け止める、図1?6のような溝部を形成するものが記載されており、本件特許発明の凸部より優れた露落ち防止効果を発揮する。
特に、甲第12号証の図6の溝12dはフランジ部12fから鍋2d内側へ張り出しており、本件特許発明の凸部を有するものである。
凸部を有する土鍋類は甲第19?21号証に示されるように周知であり、甲第21号証の段落【0018】には容器の上端から鍔部材まで空間に煮汁が溜まるため吹きこぼれ難いとの記載があるように鍔部材が煮汁受部になることは既に周知である。
特に甲第19号証に記載の土鍋の庇状内縁の形状は本件特許発明の凸部そのものである。
エ.本件特許発明の凸部がフランジの水平な上面によって内鍋の内面への伝い落ちや滴下を遅らせるものと解釈しても、甲第10号証には内周に突出した凸部であるネッキング部と外顎部の内周側に位置する上側平面部に圧接するシールパッキンが記載されており、その構成や作用効果において特に変わることがない。
本件特許発明の凸部については、甲第12号証及び甲第13号証に記載されたフランジ部及びこれに当接する蓋側パッキンの関連構造や作用効果と一致する。
また、甲第8号証には、フランジ部と湾曲凸部、その繋がり境界位置付近のフランジ部水平部に達するか否かの微妙な位置関係で当接する蓋側パッキン等の関係構成が示され、作用効果においても程度の差しかないといえる。
甲第4号証の図1の角張っているものの方が濡れ伝いを長く遅らせるものであって、本件特許発明より優れている。
したがって、本件特許発明は甲第1?13、18?21号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.無効理由2
請求項1に係る特許発明の特許出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、請求項1に係る特許発明の特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものであると主張している。
そしてその理由について以下のように主張する。
本件特許発明の凸部は、保温中に蓋パッキンについた露の垂れを遮断して、露が内鍋内に垂れるのを防ぐ作用をなすもので、遮断とは露が蓋パッキンから内鍋内に垂れるのを防止するものである。
しかし本件特許明細書では、蓋パッキンから内鍋内に露が垂れるのを、凸部がどのように遮断するのか言及がなく、不明瞭である。
蓋パッキン上からフランジ上に伝わり落ちる結露水は、水平なフランジ上面では防ぎきれず、水平なフランジ上面から鍋内側の湾曲面に達し、傾きが増すとともに重力の影響を大きく受けて速度が速まり滴下するものであり、甲第12号証の図7と同様である。
本件特許発明が凸部によるオーバーハング面があるが、オーバーハング面に差し掛かる位置で滴下するか、伝い落ちするかであって、甲第12号証の図7が内鍋内への滴下ないしは伝い落ちを防止しきれないことと大差がない。
したがって、本件特許発明が蓋パッキンに付着した結露水が内鍋内に至るのを防止できるとした、作用効果に関する記載が不明瞭である。

第4 被請求人の主張
1.訂正について
「フランジ部とほぼ同じ高さで」という説明は「位置で」という訂正事項を説明するために言い換えたにすぎない。
「内鍋の厚みを厚くすることにより」という訂正事項は形状を限定するものである。
そして、これらの訂正事項が特許請求の範囲の減縮を目的とすることは明らかである。
また、上記訂正事項は特許明細書の段落【0010】及び図1、図2の図示内容に基づくものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、特許法第134条の2第1項の第1号に該当し、同条第5項において準用する同法第126条第3及び4項に規定する要件に適合する。

2.無効理由1について
(1)甲第1?3号証に記載された発明は一般の電磁調理器に用いられる鍋を対象としており、鍋には蓋すらなく、保温時に鍋と蓋の間に露が溜まるという技術的課題を想定することはできず、そのための構成も開示されていない。
(2)甲第5号証に記載された発明は内鍋全体を加熱するヒータによる炊飯器であり、甲第6号証に記載された発明は内鍋内の水を直接加熱したり水に浸した金属を電磁誘導加熱する炊飯器あって、外面に磁性材からなる加熱部材を接合したものでも、保温機能を有するものでもない。蓋パッキンに付いた露が垂れることでご飯がふやけるという課題もなく、凸部を形成することまで到底推考できない。
(3)甲第8、10及び11号証に記載された発明は内鍋に磁性材料又は同様の金属材料を用いるものであり、内鍋内面側に凸部を設けるものの、フランジ部に対向する位置ではなくフランジ部より低い位置にフランジ面から連続的に湾曲して凸状のふくらみを形成していて構成が異なる。
さらに磁性体もしくは金属にて構成された内鍋はプレス加工やしぼり加工が主体のため凸部を形成することは困難である。本件特許発明は、セラミック材又はセラミック材とガラスの混合材で構成した内鍋のフランジ部と対向する位置で、厚みを厚くして凸部を形成するもので、上記凸部の構成が採用しやすく、有機的まとまりがあって、甲第8、10及び11号証記載のものとは根本的に異なる。
上記甲第1?3、5及び6号証に記載された発明と組み合わせて本件特許発明とすることもできない。
(4)甲第4、7、9、12及び13号証には電磁誘導による加熱方式の炊飯器が記載されているが、加熱ムラを抑えるためにアルミ等の熱伝導性の高い材料が用いられている。
つまり本件特許発明の保温時の電気エネルギー節約のために蓄熱性の高いセラミック材又はセラミック材とガラスの混合材を用いることが開示されていない。
加熱ムラを小さくしたいという炊飯器本来の技術的要請を無視して、セラミック材又はセラミック材とガラスの混合材を用いるという選択は、本件特許出願時の技術水準を大きく超えるものである。
いわんや、セラミック材又はセラミック材とガラスの混合材を用いた場合、保温時に蓋パッキンに露が付きやすくなり、その露が内鍋内に垂れてご飯がふやけるという技術的課題も、そのための解決手段である、蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部をフランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより形成することまでも、到底推考できない。
ア.甲第4、7、9、12及び13号証に記載されたアルミ等の金属で構成された内鍋はプレス加工やしぼり加工を主体とするため、フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成することは困難であって、このことからも本件特許発明を容易に想到できない。
イ.甲第12号証に記載の発明はパッキンから垂れる露を溜めておこうとするものであり、フランジ部とほぼ同じ高さで内鍋内面側に形成された凸部により露の内鍋への垂れを遮断しようとする本件特許発明とは異なる。
甲第2号証にセラミック材料からなりフランジ部を具備する電磁調理器用の鍋が記載されていても、セラミック材料からなる電磁調理器用の鍋を、甲第12号証に記載された発明のように折り曲げ加工することは困難であって、甲第2号証に記載されたセラミック材料からなる電磁調理器用の鍋を甲第12号証に記載の発明に適用できない。
甲第3や5号証にガラス質の釉薬やフッ素加工が記載されて周知であっても、上記の様に本件特許発明とすることはできない。
ウ.本件特許発明は、露が凸部の上側に保持されるとともに、露が表面張力により凸部の先端を回りこんで凸部の下側にも伝わるため、露が内鍋内に垂れるのをより効果的に防ぐことができるものであり、甲第12号証に記載の発明は凸部がなくフランジ部を有するのみであって、全く異なる。
甲第12号証の図7については、本件特許発明の従来技術の課題を示すものであり、請求人の主張する、露の鍋パッキンからの鍋内への距離を稼いでからの落下挙動は記載されていない。
仮にそのような挙動があるとしても、内側の鍋の径を小さくするか、鍋の外周を大きくする必要があるが、本件特許発明は鍋の径を変えずにフランジ部の距離を稼ぐことができ、このことによるフランジ部と凸部の間の平坦部は全周に渡って設けられるため、露をとどめておける量も格段に多くできる。
エ.甲第12号証の図6のつゆ溜まりの溝部はフランジ部と対向する位置にない点で本件特許発明と相違し、本件特許発明の凸部はその上面がフランジ部の上面とほぼ同一平面となるような位置関係に形成され、内鍋の厚みを厚くすることにより形成されているものである。
本件特許発明の凸部形状はセラミック材又はセラミック材とガラスの混合材だからこそ実現可能な形状であり、甲第12号証の図6に記載される一般的金属により構成されている鍋はプレス加工やしぼり加工を主体として行うもので、本件特許発明の凸部を形成することは困難であり、削り出し等では可能だが、高価かつ煩雑で現実的でないので、つゆ溜まりの溝部に代えて本件特許発明のような凸部とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
(4)甲第18号証は、甲第12号証の図7に記載の鍋と同様のものが記載されるのみであり、本件特許発明とは異なる。
(5)甲第19号証に記載の発明は、従来よりある土鍋にハンドルを装着した点に特徴があり、甲第20号証は土鍋の底に鉄製の電磁誘導体を設けた点に特徴があり、甲第21号証は上端面より低位置の内周内向きに鍔部材を設けた容器の上端面に加工部材を載せ、鍔部材に濾し容器のフランジを係合させた点に特徴があり、いずれにも露や露の流れを遮断することに関する記載はない。
甲第19?21号証の凸部はいずれも蓋等を載せる為の凸部であって、炊飯器の内鍋に形成された本件特許発明の凸部とは形状も作用効果も全く異なり、いずれにも露や露の流れを遮断することに関する記載はない。
さらに甲第19?21号証の土鍋は蓋と鍋を密閉する蓋パッキンを有しておらず、蓋パッキンに付いた露の垂れを防止する課題すら発生せず、甲第12号証の炊飯器において、蓋パッキンに付いた露の垂れを防止するために、甲第19?21号証の凸部を適用しようとする動機付けは起こりえない。
なお、甲第21号証の段落【0018】の記載は鍔部材が容器の上端面よりかなり下の位置に設けてあり、この鍔部材の上に蓋が載せてあり、その状態で炊飯した場合、その吹きこぼれが蓋の上面と容器の側面とにより構成される大きな空間に溜まるので鍋の外に吹きこぼれないことが記載されるにすぎず、縁部材が煮汁受部になるものではない。
甲第12号証と他の証拠を組み合わせても本件特許発明を容易に導き出すことができない。
したがって、本件特許発明は、甲第1?13、18?21号証に記載の発明とは全く別のものであり、これらを組み合わせることも非常に困難であって、これら甲各号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、特許法第123条第1項第2号に該当せず、本件特許は維持されるべきものである。

3.無効理由2について
特許法第36条第4項に規定は、発明の詳細な説明についての記載要件を対象とするから、本件特許の請求項1の記載が違反するという主張は意味が不明であり、かつ同条第4項の規定満たすものである。
なお、本件特許の請求項1の記載は同条第6項の規定も満たすものである。

第5 本件特許発明
前述のとおり、訂正請求は認められるから、本件特許の請求項1に係る発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されていることを特徴とする炊飯器。」

第6 甲各号証
1.甲第1号証
甲第1号証には、第1?4図とともに以下の記載がある。
(1)「耐熱性ガラス,磁器,陶器等のセラミックスで構成された容器に誘導加熱用金属を設けて誘導加熱するようにした加熱容器」(実用新案登録請求の範囲)
(2)「第2図はセラミックス容器(1)の外側の底の部分に誘導加熱用金属体(3)を設けたもの」(明細書第2頁第2?3行)
(3)「このように本考案の加熱容器は誘導加熱用金属体を設けて、これに外部より交流等の変化磁界を作用して金属体に渦電流を誘起せしめ、この抵抗加熱により所要の加熱をおこなうものである」(明細書第2頁第13?16行)

2.甲第2号証には、第1?3図とともに以下の記載がある。
(1)「磁性材料からなる細片若くは微粉末適宜量を均一に、若くは局部的に偏在してセラミック材料に混入し、成形・焼成してなることを特長とする電磁調理器用セラミック(ガラスを含む。)製鍋。」(特許請求の範囲)
(2)「本発明は、交番磁界を利用して調理する電磁調理器用の鍋に関するものである。」(第1頁左下欄第10?11行)
(3)「本発明は、上記不便を解消して、美観、耐久性、耐熱性、耐食性などのセラミック本来の優れた特性を保持しつつ、それ単独で電磁調理器用に使用することのできる便利なセラミック製の鍋を提供せんとするものである。」(第1頁左下欄第20行?右下欄第4行)
(4)「第2図は、本発明の第2の実施例における鍋の断面図であり、鍋の底部2のみに上記磁性材料を混入し、鍋の側部3は通常のセラミック材料のみからなるような構造となっている。
第3図は、本発明の第3の実施例における鍋の断面図であり、通常のセラミック材料からなる鍋体4の底部に上記磁性材料混入部5を接合してなる構造となっている。
以上説明したような構造の鍋を電磁調理器即ち交番磁界発生装置の上に置いて交番磁界中にさらすとき、鍋全体若くはその一部に混入されてある磁性材料がこの交番磁界に感応して発熱し鍋の温度を上昇させるので、各種の料理を実施することができる。」(第1頁右下欄第10行?第2頁左上欄第2行)
(5)第3図には、上部開口部に、外方に向かうフランジ部を有する鍋体4の底部外側に、磁性材料混入部5が設けられる態様が図示される。

3.甲第3号証には、図1とともに以下の記載がある。
(1)「低膨張性セラミック製容器本体の底面に、薄膜導電層を被着形成した電磁誘導加熱調理器用容器において、上記容器本体の素地がペタライト70%、粘土30%からなり、その表面に施釉する釉薬が、ペタライト65%?75%、粘土10?17%、焼きタルク0?8%、酸化亜鉛0?5%、石灰石0?5%、炭酸バリウム0?5%、珪酸ジルコニウム0?5%からなることを特徴とする電磁誘導加熱調理器用セラミック容器。」(請求項1)
(2)「本発明は、電磁誘導加熱調理器に使用する土鍋などのセラミック容器、特に容器本体の底面に薄膜導電層を被着してなる容器に関する。」(段落【0001】)
(3)「図において符号Aで示される電磁誘導加熱調理器用のセラミック容器は、セラミック製の容器本体1とその底面に被着形成された薄膜導電層2とからなっており、容器本体1の表面には釉薬1bが施してある。薄膜導電層2は、釉薬1bの上から容器本体1底面に、転写紙により銀ペーストを約20μm?40μmの厚さに転写して形成され、更にその外側に非導電性で耐熱性のあるガラスコート層3を被着形成してある。
上記容器本体1は、言うまでもなく、耐熱衝撃性に優れている必要があり、本発明では容器本体1を耐熱衝撃性に優れる低膨張ペタライト系のセラミック材料、具体的にはペタライト70%、粘土30%からなる素地1aで構成している。」(段落【0009】?【0010】)
(4)図1には、上部開口部の外方にフランジ部を有し、素地1aの表面に釉薬1bが施され、底部外面に薄膜導電層2が設けられた鍋状のセラミック容器Aが図示される。

4.甲第4号証には、図1?10とともに以下の記載がある。
(1)「【請求項1】 炊飯器本体と、この炊飯器本体内に収容された鍋と、前記炊飯器本体の上側に開閉自在に設けられた蓋体と、この蓋体の下面に着脱可能に設けられ前記鍋の開口部を覆う内蓋とを備え、炊飯時に前記鍋の内部から発生する蒸気を前記蓋体から炊飯器本体外へ放出する蒸気孔を前記内蓋および蓋体の下面に設け、前記内蓋の外周部と蒸気孔の外周囲において、前記内蓋を蓋体の下面に装着した状態でこれら内蓋と蓋体の下面とを接触状態にしたことを特徴とする炊飯器。
・・・(中略)・・・
【請求項3】 前記鍋と内蓋との接触部を密封する弾性部材からなる蓋パッキンを備え、この蓋パッキンを兼用して前記内蓋の外周部と蓋体の下面との接触部を密封状態にしたことを特徴とする請求項1または2記載の炊飯器。」(特許請求の範囲)
(2)「本発明の第1実施例について図1から図4を参照しながら説明する。1は炊飯器本体で、炊飯器本体1は、ほぼ筒状の外枠2と、この外枠2の下面開口を覆って固定された底板3とにより外殻が形成されている。外枠2の上部内周側には筒状の内枠上部4が形成されており、この内枠上部4の下面開口を覆って下部内枠5が固定されている。これら内枠上部4および下部内枠5は、鍋6が挿脱自在に収容される鍋収容部7を形成している。この鍋6は、上面が開口しているが、上端部にはほぼ水平に外周側へ張り出した取手部8がフランジ状に形成されている。そして、この取手部8が前記内枠上部4の上端に載ることにより、鍋6が鍋収容部7に支持されるようになっている。
また、鍋6の外面下部には、電磁誘導により発熱する発熱体としての発熱層9が設けられている。一方、前記下部内枠5の外面の底面および側面下部には加熱手段である加熱コイル10が設けられている。そして、この加熱コイル10には高周波電流が供給され、これにより、発熱層9が発熱して鍋6が加熱されるようになっている。・・・(中略)・・・
21は前記炊飯器本体1の上側に開閉自在に設けられた蓋体である。・・・(中略)・・・この蓋下面部材24は、蓋体21の下面部を構成する部材すなわち蓋体21の下面をなす部材である。また、この蓋体21の下面には、前記鍋6の上面に載置してその開口部を覆う内蓋25が着脱可能に取り付けられている。
・・・(中略)・・・
また、前記内蓋25の外周部40にはシリコーンゴムなどの弾性変形部材である弾性部材からなる環状の蓋パッキン41が取り付けられている。この蓋パッキン41は、内蓋25の外周部を覆って取り付けられており、内蓋25の下側に突出した環状の鍋シール部42と、内蓋25の上側に突出した環状の蓋下面シール部43を有している。鍋シール部42は、前記鍋6の取手部8の上面にその全周に渡り接触して、内蓋25の外周部と鍋6の取手部8との間を密封し、これにより炊飯時に蒸気の外漏れを防止するものである。」(段落【0025】?【0029】)
(3)「炊飯に際しては、水と米を収容した鍋6を炊飯器本体1の鍋収容部7に収容して蓋体21を閉じる。そして、加熱コイル10への高周波電流の供給により鍋6の発熱層9が発熱して鍋6が加熱され、炊飯が行われる。・・・(中略)・・・また、炊飯後の保温時には、加熱コイル10による鍋6の加熱によって、この鍋6内のご飯が所定温度に保たれる。また、炊飯時および保温時、特に鍋下面部材24および内蓋25への結露防止のために、蓋ヒータ85が鍋下面部材24および内蓋25を加熱する。」(段落【0038】)

5.甲第5号証には、図1?4とともに以下の記載がある。
(1)「本実施の形態に係る被膜構造は、図1で示すように、電気炊飯器の内釜などである基材1の表面上に被着された絶縁被膜2上にパターン化された被膜発熱体3が形成されており、かつ、少なくとも被膜発熱体3上には非粘着性を有する保護被膜4が被着された構成を有している。そして、ここでの基材1は、鋼やアルミニウム合金などのような金属、あるいは、セラミック系材料や絶縁性耐熱樹脂系材料などのような非金属からなるものである一方、絶縁被膜2は、セラミック系材料やアルマイト系材料、耐熱樹脂系材料からなるものであり、この絶縁被膜2は基材1の全面にわたって被着されている。」(段落【0014】)
(2)「内釜11の内表面上に対しては、熱伝導の良好な熱良導体層15、例えば、アルミニウムのような熱伝導性に優れた材料を溶射して形成され、かつ、30μm以上の膜厚を有する熱良導体層15が被着されている。そして、このような熱良導体層15を被着しておいた際には、内釜11に収納されたうえで調理されるべき内容物を加熱ムラのない状態で直接的に加熱し得ることとなるため、加熱効率の向上を図ることが可能となる。なお、この熱良導体層15上には、フッ素系樹脂などのコーティング材料からなり、かつ、膜厚が15μm以上とされた内面側の保護被膜16を被着しておくことが好ましく、このような保護被膜16を被着しておいた場合には内釜11の耐水性や耐摩耗性、清掃性などを良好とすることが可能になるという利点が確保される。」(段落【0021】)

6.甲第6号証には、図1?6とともに以下の記載がある。
(1)「【請求項1】 内鍋の少なくとも一対の対向する面に電極を形成し、前記電極間に交流電源を接続して米水に通電加熱することを特徴とする炊飯器。
【請求項2】 内鍋をセラミックなどの電気的絶縁物とした請求項1記載の炊飯器。
・・・(中略)・・・
【請求項5】 金属板を内鍋内に載置し、前記金属板に隣接した内鍋外面近傍に加熱コイルを設置して誘導加熱してなる請求項2の炊飯器。」(特許請求の範囲)
(2)「また、図1で内鍋1を電気的絶縁物、本実施例ではセラミックとした構成も考えられる。その効果は前述と同じであるが、内鍋の絶縁加工が不要となり、より安価に実施できるものである。また、内鍋1を電気的絶縁物でかつ低熱伝導性とした構成も考えられる。
従来の炊飯器では、内鍋を介して米水を加熱していたので、炊飯性能をよくするには内鍋は良熱伝導性のものが必要であったが、本発明の炊飯器は米水を直接加熱するため、内鍋を低熱伝導とすることで熱を逃がすことなく熱効率の高い炊飯器と出来るものである。」(段落【0016】?【0017】)
(3)「また、図3のような断面図である構成としたものも考えられる。すなわち、第2の実施例に加えて、内鍋1内に金属板を載置して、その載置している内鍋の外面近傍に加熱コイル6を設置し、加熱コイル6にインバータ5にて高周波電流を供給する構成としたものである。この構成により、内鍋の絶縁加工が不要となり、より安価に実施でき、かつ内鍋底面を加熱して温度低下を補い、全体として炊きむらを少なくすることが容易に達成できるものである。」(段落【0019】)

7.甲第7号証には、図1?6とともに以下の記載がある。
(1)「被調理物を収納し誘導加熱に対応する鍋と、この鍋を着脱自在に収納し少なくとも下部を非金属材料で構成した保護枠と、前記保護枠の非金属部の外側に配設し、前記鍋の加熱源となる誘導コイルと、前記誘導コイルに交番磁界を発生させるための電流を流す電気回路とを備え、前記鍋の外周囲と前記保護枠の内周囲との間に空気層を形成するとともに、前記誘導コイルを前記保護枠の外側の空気層に露出する状態で装着し、かつ前記鍋の外側をステンレス層で、内側をアルミニウム層で形成した電気炊飯器。」(請求項1)
(2)「4は上端開口部に外方に突出するフランジ5を形成した鍋で、この鍋は図2に示すように、肉厚1.5mmの高熱伝導率を有するアルミニウム層4aと、このアルミニウム層4aの外面に位置する肉厚0.3mmのフェライト系ステンレス層4bをクラッドしたものを使用し、さらに、アルミニウム層4aの内面にはフッソコーティング層4cを施している。また鍋4はフランジ5を保護枠3の上面に懸架状態に載置することにより、保護枠3内に着脱自在に配設されている。・・・(中略)・・・この空気層51に露出するように保護枠3の外側に配された誘導コイル7は、最内周及び最外周の巻を密にしている。」(段落【0010】)
(3)「17は合成樹脂製の外蓋で、この外蓋17は、保護枠3の上部に一体成形されたヒンジ部材18にピン19を介して回動可能に支持され、かつ上面に持ち運び用の把手部20がねじ止めされている。21は内カバーで、この内カバー21は断熱材22を介して外蓋17の内面に固着されている。・・・(中略)・・・27は内蓋で、この内蓋27は内カバー21の下面に下方に突出して設けた支持ピン28に上下動可能に支持され、かつパッキン29により常に下方に付勢されているもので、前記外蓋17を閉じたときに鍋4のフランジ5に圧接してその鍋4を密閉するようになっている。」(段落【0012】)
(4)「さらに、鍋4の外側をステンレス層4bとし、内側をアルミニウム層4aとしているので、ステンレス層4b側に発生する熱は高熱伝導率のアルミニウム層4a側に効率良く伝わり、鍋4内の被調理物を効率的に加熱する」(段落【0015】)

8.甲第8号証には、図1?7とともに以下の記載がある。
(1)「図3に本実施形態に係る炊飯器を示している。この炊飯器は、内部に内鍋収容空間1aを有する炊飯器本体1と、炊飯器本体1に回動自在に取付けられて内鍋収容空間1aの上部開口を開閉する蓋体2とを設けて構成されている。
炊飯器本体1は、有底筒状の外ケース3と、この外ケース3の内側に設けられた内ケース4と、これらケース3・4の各上端側を相互に連接する肩ケース5とを備え、内ケース4の内側空間が、上記内鍋収容空間1aとして形成されている。この内鍋収容空間1aに、お米と水とが収容された内鍋6が装着されて、後述する炊飯加熱運転が行われる。
内鍋収容空間1aの底部側には、シーズヒータ7aが平面視で略円形状に埋め込まれた熱板タイプの炊飯用ヒータ(加熱手段)7が配置されている。この炊飯用ヒータ7は、内鍋6の底壁6aと底部周縁の湾曲部6bとに下側から密着するように、内鍋6の底部側形状に沿う形状で形成されている。」(段落【0022】?【0024】)
(2)「この放熱板19は、蓋体2の閉蓋時に、その外周側が内鍋6の上端縁を越えて外側に延びる形状に形成されている。さらに、外周側端部は内鍋6の外側を下方に垂下する形状に形成され、その下端部が、前記肩ヒータ14に上方から当接するようになっている。これにより、肩ヒータ14への通電によって放熱板16の全体が加熱されるように構成されている。」(段落【0029】)
(3)「こうしてご飯の炊き上げが終了すると、その後、保温運転に自動的に移行する。」(段落【0031】)
(4)図3及び4には、内鍋6が、上端開口部の外縁に、上方に凸に湾曲したフランジを有し、上端開口部で内面側に凸状に湾曲する様子、及び放熱板19は外周側端部の直ぐ内側が内鍋6のフランジに上方から接する様子が図示される。

9.甲第9号証には、図1?6とともに以下の記載がある。
(1)「本発明の一実施例について図1、図2により説明する。図に示すように、炊飯器本体11内に有底筒状の鍋12を着脱自在に収納するよう鍋収納部13を炊飯器本体11内に設けている。炊飯器本体11の上方後部にはヒンジ14を設け、このヒンジ14を中心に開閉自在な蓋体15を取り付けている。蓋体15は鍋12の上部を覆うように炊飯器本体11の上部に位置している。鍋12はその底部を加熱部である誘導加熱コイル16、17で誘導加熱され、側部を鍋収納部13の側面外周に巻回したヒータ18により加熱される構造である。
蓋体15はその外枠を外蓋19で構成し、鍋12側の下面を発熱板20で構成し、蓋体15内には平面がリング状の蓋誘導加熱コイル21を配設している。」(段落【0015】?【0016】)
(2)「また、発熱板20の外周側には断面形状がく字状の環状パッキン30が設けられており、鍋12上部のフランジ部32の上面全周に環状パッキン30の下端部全周が密着接触し、鍋12の上部に発生する水蒸気が外部に漏れるのを防止するとともに、蓋体15内に侵入するのも防止している。環状パッキン30は蓋体15の外蓋カバー31と発熱板20との間に挟持固定されている。」(段落【0019】)

10.甲第10号証には、図1?10とともに以下の記載がある。
(1)「一般に、電気炊飯器における内鍋の側面は、鉛直面あるいは上方に向かうに従って広がる外広がりの傾斜面とされている。そして、内鍋を収納する炊飯器本体の蓋体には、該蓋体の閉蓋時に前記内鍋の口縁に圧接されて内鍋を密閉状態とするシールパッキンが設けられている。
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記したように内鍋の側面が鉛直面あるいは上方に向かうに従って広がる外広がりの傾斜面とした場合、内鍋の開口部の口径が大きくならざるを得ないため、米飯からの放熱面積が大きくなるとともに、蓋体側のシールパッキンによるシール部の口径も大きくなる。従って、保温性能の向上に限界があるとともに、シールパッキンの径も大きくなるという不具合があった。また、内鍋の側面に沿って上昇する熱気も、上方に流れてしまうこととなり、炊飯時に熱対流が生じにくくなる。」(段落【0002】?【0003】
(2)「この電気炊飯器は、外周面を構成する略四角形状の横断面を有する外ケース4と該内周面を構成するとともに磁性体材料からなる内鍋5を収納できるように構成された円形状の横断面を有する合成樹脂製の保護枠6とによって構成された炊飯器本体1と、該炊飯器本体の蓋体2と、前記保護枠6の外周側に位置して前記内鍋5に渦電流を発生させる電磁誘導コイル3とを備えて構成されている。該電磁誘導コイル3は内鍋5を加熱する加熱手段として作用する。」(段落【0017】
(3)「この内蓋36は、蓋体2の下面を構成するものであり、熱良導性金属からなっていて、ヒータリング18に取り付けられている肩ヒータ17からの熱伝導により加熱される放熱板として作用する。符号38は内蓋36に取り付けられたシールパッキンであり、後に詳述するように、蓋体2の閉蓋時に内鍋5の口縁に圧接されて内鍋5の内部を密閉する。」(段落【0029】)
(4)「この内鍋5の口縁部には、内側に湾曲された胴部5aより小径のネッキング部43が形成されている。該ネッキング部43は、胴部5aの上端から水平面に対して傾斜角度θをもつように口縁部を絞り加工することにより形成されており、胴部5aから連続する下側湾曲面43bと、該下側湾曲面43bに連続し且つ内鍋5の最小口径部を形成する湾曲面43cと、該湾曲面43cに連続する上側湾曲面43aと、該上側湾曲面43aから外側に略水平に延設される外鍔部45とからなっている。そして、前記ネッキング部43の外側は、指掛け用の環状凹部54とされている。
前記蓋体2に設けられたシールパッキン38は、該蓋体2の閉蓋時において前記ネッキング部43における上側曲面部43aに圧接されることとなっている。なお、シールパッキン38は、上側湾曲面43aから外側に延設される外鍔部45の内周側に位置する上側平面部に圧接する場合もある。・・・(中略)・・・
上記のように構成したことにより、内鍋5の開口部の口径が狭まるととともに、内鍋5口縁部とシールパッキン38とのシール部の径も小さくなる。従って、内鍋5内の米飯からの放熱面積が小さくなり、保温性能が向上する。また、炊飯時において内鍋5の側面に沿って上昇する熱気Hがネッキング部43により内鍋5内側へUターンすることとなり、熱対流が生じ、美味しいご飯が炊ける。また、洗米時において水を排出する際にネッキング部43に米が引っ掛かり、水と一緒に流れ出てしまうということがなくなる。また、ネッキング部43の外側に形成される凹部54に指を引っかけることができるので、ネッキング部43を把手としても利用でき、本体外形をコンパクトに設計できる。また、図3に示すように、ネッキング部43における湾曲面43cにご飯シャモジKを擦り付けることにより、ご飯シャモジKのご飯粒Rを容易にこさげ落とすことができる。
ところで、本実施の形態においては、蓋体2の下面(具体的には、内蓋36)が、該蓋体2の閉蓋時において前記ネッキング部43の内方に臨むように構成されている。このようにすると、内鍋5開口部における空間部が大幅に狭められることとなり、保温性能がより一層向上する。
・・・(中略)・・・
また、前記ネッキング部43の外鍔部45は、前記内鍋5の外形における最大径部(即ち、胴部5a)より外側に所定寸法Lだけ延設されている。このようにすると、ネッキング部43を内鍋5の把手として利用するとき、指を引っかけ易くなるとともに、内鍋5のネッキング部43を炊飯器本体1(具体的には、外ケース肩部4b)の口縁に吊り下げる構造をとることができる。」(段落【0032】?【0038】)
(5)「この場合、内鍋5は、有底円筒状の内筒46と該内筒46の側面に接合される略円筒状の外筒47との間に真空空間48を有する真空二重構造部49と、前記内筒46の底部により形成される単層構造部50とにより構成されている。該単層構造部50は、内鍋5において加熱手段3と対応する部位を含む底部に形成されることとなっている。つまり、本実施の形態の場合、内鍋5における側面部が、内筒46と外筒47との間に真空空間48を有する真空二重構造部49とされているのである。前記内筒46および外筒47は、加熱手段として電気ヒータを採用する場合には熱伝導性に優れた金属が望ましいが、加熱手段として電磁誘導コイルを採用する場合には少なくとも内筒46を磁性体金属とするのが望ましい。また、外筒47として有底円筒状のものを採用し、内筒46として外筒47の側面に接合される略円筒状のものを採用した場合、単層構造部50は外筒47の底部により形成される。この場合、少なくとも外筒47は、磁性体金属とするのが望ましい。
・・・(中略)・・・
上記のように構成すると、内鍋5の保温性能が向上するとともに、加熱手段により内鍋5の単層構造部50を加熱することができることとなり、加熱効率が向上する。また、単層構造部50にセンタセンサー12(図1参照)を当接する構造とすることができ、温度検知精度が向上する。」(段落【0050】?【0052】)
(6)図1には内鍋5の口縁部の内側に湾曲された小径のネッキング部43の内側上方角部にシールパッキン38が接する様子が図示される。

11.甲第11号証には、図1?8とともに以下の記載がある。
(1)「上記のように構成したことにより、肩カバーを炊飯器本体の肩部から取り外すことができることとなり、炊飯時あるいは保温時におねばや御飯粒が肩カバーに付着したとしても、肩カバーを取り外して丸洗いすることにより、おねばや御飯粒を簡単に取り除くことができる。」(段落【0008】)
(2)「この電気炊飯器は、図1および図2に示すよう、内部に炊飯用の飯器3を収納し得るように構成され且つ空間部4を有する二重構造の炊飯器本体1と、該炊飯器本体1の上部開口を開閉且つ着脱自在に覆蓋する蓋体2とを備えている。」(段落【0017】)
(3)「前記センサー穴9を包囲するように炊飯時における加熱手段として作用する環状の電磁誘導コイル(以下、ワークコイルという)10が前記保護枠6の底面および該底面から側周面に至る間の湾曲部に対応して配設されている。該ワークコイル10は、交番磁界を発生するものであり、該交番磁界の電磁誘導により前記飯器3に誘導渦電流を発生させ、該誘導渦電流の抵抗熱を利用して加熱するものとされている。なお、飯器3は、ワークコイル10により誘導渦電流を発生させることのできる材質(例えば、磁性体材料)により構成される。」(段落【0020】)
(4)「前記調圧筒22の下端には、前記蓋体2の閉止時に前記飯器3の開口部3aを密閉するための熱良導体(例えば、アルミ合金)からなる放熱板24が取り付けられている。・・・(中略)・・・29は放熱板24の周縁と飯器3の開口部3aとの間をシールするシールパッキン、30は放熱板24と蓋体下板15との間をシールするシールパッキンである。
前記外ケース肩部5bには、肩ヒータ31が設けられており、該肩ヒータ31に対しては、前記蓋体2の閉止時に放熱板24の外周縁が圧接され、放熱板24は肩ヒータ31からの熱伝導により加熱されることとなっている。この肩ヒータ31は、断面逆U字状を呈し且つ隙間S,Sを介在させた状態で形成された略半円形状の一対のヒータリング32,32(図3参照)と、該各ヒータリング32内に配設された発熱体33,33とからなっている。前記隙間S,Sには、前記飯器3の口縁において相対向して設けられた把手34,34が載置される把手載置部35,35が形成されている(図2参照)。」(段落【0026】?【0027】)
(5)「前記カバー本体41aは、凹面形状の露受け手段42が設けられている。このようにすると、炊飯時に発生するおねばや蓋体2に付着している結露水を肩カバー41で受け止めることができる。該露受け手段42に波形の凹凸(図示省略)を形成するのが着脱時あるいは移動時の露の落下を防止できる点で望ましい。」(段落【0031】)
(6)図1,2,4?6には、飯器3の開口部3aある口縁にフランジが設けられ、そのフランジに続く内壁が内側に凸状に湾曲する様子が図示されるとともに図1及び2には、飯器3の上記凸状に湾曲する内壁の上方角部にシールパッキン29が接する様子が図示されている。
また、図1?5には露受け手段42を有する肩カバー41が飯器3の外側に設けられる様子が図示される。

12.甲第12号証には、図1?7とともに以下の記載がある。
(1)「【請求項1】炊飯器本体と、前記炊飯器本体内に収納し上縁にフランジ部を有する鍋と、前記鍋および炊飯器本体の上面を覆う蓋とを備え、前記蓋は、前記鍋内の蒸気が外部に流出する蒸気口と閉蓋時に前記鍋のフランジ部に圧接される鍋パッキンとを有し、前記鍋の上縁部近傍につゆ溜まりの溝部を設けたジャー炊飯器。
・・・(中略)・・・
【請求項5】つゆ溜まりの溝部は、鍋の側面部より上縁部にかけて鍋の内方に延設した請求項1記載のジャー炊飯器、」(特許請求の範囲)
(2)「【発明の属する技術分野】 本発明は、炊飯器本体内に収納した鍋で炊飯、保温するジャー炊飯器に関するものである。
【従来の技術】従来、この種のジャー炊飯器は、図7に示すように構成していた。以下、その構成について説明する。
図7に示すように、炊飯器本体61は、上面が開口した円筒状に形成し、この炊飯器本体61の内部に、フランジ部62fを有する鍋62を収納している。蓋63は、炊飯器本体61の後方のヒンジ部64に取り付けたヒンジ軸65に軸支され、回動自在に炊飯器本体61の上面と鍋62を覆っている。
ヒータ66は鍋62を加熱し、炊飯、保温を行うようにしている。ここで、ヒータ66を誘導加熱方式で構成すれば、より高火力でおいしくご飯を炊くことができる。制御部67は、炊飯、保温時のヒータ66の通電量を制御するようにしている。
蓋63に、炊飯中に鍋62内から発生する蒸気を外部に排出する蒸気口68を設け、また、蓋69に設けた放熱板69に蓋ヒータ70を設け、鍋62内の温度をおよそ均一に保つことで、保温時のご飯の状態を向上するとともに、保温時の放熱板69へのつゆ付きを抑えている。放熱板69に設けた蒸気口69aは蒸気口68と連なっており、鍋52からの蒸気が通過するようにしている。
蒸気口68と放熱板69の間に蒸気口パッキン75を配設し、炊飯中の蒸気が蓋63の内部に浸入するのを防止している。また、放熱板69の外周は鍋パッキン74を配設し、閉蓋時、鍋パッキン74を鍋62のフランジ部62fに圧接し、炊飯中の蒸気が蒸気口68以外から外部に漏れ出すのを防止している。」(段落【0001】?【0006】)
(3)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来のジャー炊飯器では、保温中に鍋パッキン74の温度が鍋62や放熱板69の温度に比較して低温となるため、鍋パッキン74につゆが付着する。鍋パッキン74に付着したつゆは、ある一定量を超えると鍋62のフランジ部62fを伝って鍋62の側面へと滴下し、やがては鍋62の側面周辺のご飯を白化させ、べちゃつかせる。加えて、ご飯の白化やべちゃつきは、ご飯の腐敗や匂いの原因にもなる。
また、鍋パッキン74は、弾性のあるゴム系の材料がよく用いられるが、熱伝導率が金属に比して低いので、温まりにくく、よりつゆが付着しやすい。
本発明は上記従来の課題を解決するもので、鍋パッキンに付着したつゆが鍋内のご飯へ滴下するのを防止し、鍋側面のご飯の白化を抑えることで、保温時のご飯の状態を向上することを目的としている。」(段落【0007】?【0009】)
(4)「(実施例1)図1に示すように、炊飯器本体1は、上面が開口した円筒状に形成し、この炊飯器本体1の内部に、フランジ部2fを有する鍋2を収納している。蓋3は炊飯器本体1の後方のヒンジ部4に取り付けたヒンジ軸5に軸支し、回動自在に炊飯器本体1の上面と鍋2を覆っている。・・・(中略)・・・
ヒータ6は鍋2を加熱し、炊飯、保温を行うようにしている。ここで、図1のようにヒータ6を誘導加熱方式で構成すれば、鋳込みヒータタイプに比べて、より高火力でおいしくご飯を炊くことができる。鍋センサー20は鍋2の温度を検知し、信号を制御部7へ送る。制御部7は鍋センサー20の信号により、ヒータ6の通電量を制御し、炊飯、保温を行うよう構成している。
・・・(中略)・・・また、放熱板9の外周部と鍋2のフランジ部2fの間に鍋パッキン14を配設し、閉蓋時に鍋2のフランジ部2fに圧接することで、放熱板9の蒸気口9a以外から蒸気が外部に漏れ出すのを防止している。ここで、鍋2の上縁部近傍に、図2に示すように、つゆ溜まりの溝部12を全周に設けている。
上記構成において動作を説明する。鍋パッキン14は、ゴムなどの弾性体で形成しており、鍋2や放熱板9が金属製であることと比較して熱伝導率が低く、保温中、鍋2や放熱板9に比して低温となる。そのため、保温中にご飯から発生する蒸気は鍋パッキン14で冷やされ、つゆとなって鍋パッキン14に付着する。鍋パッキン14に付着したつゆは、ある一定量を超えると鍋2のフランジ部2fに滴下する。
ここで、鍋2の上縁部近傍につゆ溜まりの溝部12を全周に設けているので、鍋2のフランジ部2fに滴下したつゆは、つゆ溜まりの溝部12に溜まり、保温中のご飯に滴下することはない。そのため、保温中にご飯が白化し、べちゃつくことがなくなり、保温時のご飯のの匂いや腐敗も抑えることができ、保温時のご飯の状態を向上することができる。」(段落【0018】?【0023】)
(5)「(実施例5)図6に示すように、鍋2dは、上縁部近傍につゆ溜まりの溝部12dを全周に設けており、このつゆ溜まりの溝部12dは、鍋2dの側面部より上縁部にかけて鍋2dの内方に延設している。他の構成は上記実施例1と同じである。
上記構成において動作を説明する。保温中にご飯から発生する蒸気は鍋パッキン14で冷やされ、上記実施例1と同様に、つゆとなって鍋パッキン14に付着する。鍋パッキン14に付着したつゆは、ある一定量を超えると鍋2dのフランジ部2fに滴下し、この滴下したつゆは、鍋2dの側面を伝ってつゆ溜まりの溝部12dに溜まる。
このため、保温中にご飯が白化し、べちゃつくことがなくなり、保温時のご飯のの匂いや腐敗も抑えることができ、保温時のご飯の状態をよくすることができる。加えて、鍋dのフランジ径は広がらないので、炊飯器本体1の設置面積を大きくすることがなくなる。」(段落【0033】?【0035】)
(6)図1及び7にはヒータ66が、鍋2,62の外面に対向するように、炊飯器本体1,61の上面が開口した円筒状の部分に、配置されること、図1、2及び7には鍋パッキン14,74がフランジ部2f,62fの真ん中付近に当接する様子が図示される。
また、図6には、鍋2dの上部開口部である上縁部の上端外縁にフランジ部2fが形成され、該フランジ部2fの内側端より少し下がった部分の壁部分が内側に突出するように湾曲して凸部が形成されてその上面につゆ溜まりの溝部12dが形成され、上記凸部の下面は緩やかに鍋2dの側面部につながる様子が図示される。

上記(1)?(5)の記載事項並びに図1、2及び6の図示内容を、特に記載事項(5)及び図6の実施例5に着目して総合すると、甲第12号証には、以下の甲第12号証発明が記載されていると認められる。
「鍋2dと、前記鍋2dが収納される炊飯器本体1と、前記鍋2dの外面に対向するように配設され、前記鍋2dを誘導加熱するヒータ66を備えたジャー炊飯器であって、
前記鍋2dは金属製で、前記誘導加熱するヒータ66により加熱されるものであり、
上部開口部の外縁には、フランジ部2fが形成され、前記フランジ部2fの真ん中付近に前記上部開口部をシールする鍋パッキン14を当接させ、鍋2dの上縁部近傍の鍋2dの内方で上端より少し下がった部分が側面部より内側に突出するように湾曲して凸部が形成されてつゆ溜まりの溝部12dを形成し、鍋パッキンに付着したつゆが、一定量を超えてフランジ部62fに滴下し、フランジ部62fを伝って鍋側面に滴下しようとするとき、これを溜めて保温中のご飯に滴下しないようにしたジャー炊飯器。」

13.甲第13号証には、図1?7とともに以下の記載がある。
(1)「本発明は一般家庭などで使用する炊飯器等の調理器に関するものである。」(段落【0001】)
(2)「図に示すように、調理器本体1には有底筒状の鍋2が着脱自在に内設されている。蓋体3は調理器本体1の上面開口部の一側に軸4により開閉自在に軸支され、かつ、この上面開口部を覆っている。この蓋体3は上面を構成するポリプロピレン(PP)等の合成樹脂製の外蓋5と、同じく内面を構成する熱伝導性の良いアルミニウム等でできた蓋カバ-6とにより構成されている。鍋パッキン7は前記外蓋5に嵌合させて固着した外蓋カバ-8と蓋カバ-6との間に介在させて取り付けられ、そして蓋体3を閉じたとき、鍋2の上面開口部に全周が当接するものである。」(段落【0015】)
(3)図1及び2には、鍋2の上部開口部の外縁にフランジが形成され、その上面真ん中付近に鍋パッキン7が当接する様子が図示される。

14.甲第18号証には、図1?5とともに以下の記載がある。
(1)「炊飯器の断面構成を示す図1において、1は炊飯器の本体、2はこの本体1の外郭をなす外枠で、外枠2の底部には、その開口を覆い炊飯器本体1の底面外郭を形成する底板3が嵌合し固定されている。また、外枠2の内部には有底筒状の容器収容部たる鍋収容部4が配設され、この鍋収容部4に対し調理用の容器である鍋5が着脱可能に収容される。鍋収容部4の側面を形成する鍋収容壁6は、この鍋収容部4の上部を形成する外枠2と一体に形成される。そして、鍋収容部4の側面下部から底部を形成する内枠7が、鍋収容壁6の底面開口を塞ぐようにして設けられる。前記鍋5は、アルミニウムなどの熱伝導性の良好な材料からなり、その外面には、底部と側面下部に磁性金属製の鍋発熱体8が接合される。また、鍋5の上部には、水平方向外側に延出したフランジ部9が形成される。そして、フランジ部9の下面を鍋収容部4の上端部に載置することにより、この鍋収容部4の内部にて鍋5を吊設状態に収容する構成となっている。
11は、前記内枠7の外側に設けられた加熱手段と保温手段を兼用する加熱コイルである。この加熱コイル11は、調理物に接する鍋5の底部および側面下部の鍋発熱体8に対向して配置されており、所定の高周波電流を加熱コイル11に供給することで、鍋発熱体8を電磁誘導加熱により発熱させて、鍋5を加熱し、鍋5内に収容した米や水などの調理物を炊飯加熱したり、調理後のご飯を所定の温度に保持するなどの調理加熱を行なう構成となっている。」(段落【0047】?【0048】)
(2)「鍋5の上面開口部に対向し蓋体31の下面となる内蓋44の外周囲には、蓋体31を閉じたときに本体1との隙間を塞ぐ蓋パッキン53が円環状に設けられている。蓋パッキン53は弾性変形可能な部材からなり、具体的にはシリコーンゴムやフッソゴムから形成されている。なお、本実施例のように本体1の内部に鍋5を備え、鍋5内で炊飯や保温の調理を行なう場合は、蓋パッキン53を鍋5の上面に接触させ、蓋体31と本体1との隙間から蒸気が外に漏れないようにすればよい。」(段落【0055】)
(3)「また、薄膜層81により蓋体31の下面に親水性と保水性を得ることにより、炊飯時や保温時などの調理時に発生する水分が、蓋体31の下面に水滴状に結露しにくくなる。よって、この結露した水分が水滴となって、調理物である例えばご飯の上に滴下しにくくなり、特に炊飯器においては、炊飯後のご飯の上面が水っぽくなったり、保温中に水滴が滴下してご飯がベチャ(水分過多)になることも防止でき、炊飯や保温の性能を向上できる。
なお、従来は蓋体31への結露を少なくするために、蓋体31の下面を加熱する蓋加熱手段49を設けた構成になっているが、前記親水性と保水性を有する薄膜層81による水滴滴下の抑制作用により、従来に比べて蓋体31の下面に対する加熱量を低減することも可能になり、省エネルギー効果も得られる。しかも、こうした蓋加熱手段49を有しないものでは、蓋体31の厚さをその分だけ薄くでき、調理器具全体の小型化が実現可能になる。」(段落【0070】?【0071】)
(4)図1には、鍋5の上部に水平方向外側に延出して形成されたフランジ部9の上面に、蓋パッキン53が接する様子が図示される。

15.甲第19号証には、第1?4図とともに以下の記載がある。
(1)「本考案は鍋料理用に使用する大型の土鍋に関するものである。
(従来の技術)
従来の土鍋は土鍋本体とその上縁両側に突出させた把持部が共に耐熱性陶磁器よりなるものであるため、使用時の加熱によつて把持部も高温となり、別に鍋掴み布などを用意しないと持ち上げることかできず、また、長時間使用すると一体に突出した把持部は特に局部的に高熱となるためにこの部分から破損し易いものである。そこで、金属製鍋におけると同様熱伝導性の小さい材料よりなる握り部材と金属製ブラケツトよりなるハンドルを別に製作し、このハンドルを土鍋本体に取付けることもあるが、土鍋は金属製の鍋とは異なり重いうえ歪みがあるため、金属製の鍋本体にハンドルを取付ける場合のような取付は困難であつた。」(第1頁左欄第16行?右欄第5行)
(2)「1はコーデイエライト系その他の耐熱性陶磁器よりなる直径300mm、高さ100mm程度の把持部のない大型の土鍋本体であつて、該土鍋本体1の上端縁は補強外縁2とこれに続く庇状内縁3よりなるものとして蓋受部4を形成している。5は土鍋本体1の前記補強外縁2の下方胴面に一連に形成される幅25mm、深さ2mm程度の浅い帯金係合溝であつて、該帯金係合溝5には厚さ0.5mm、幅15mm程度のステンレス鋼板よりなる帯金6が嵌装され、そして、該帯金6は両端をL字状の連結端部7a,7aに屈曲形成するとともに中間をコ字状の屈曲部7bに屈曲形成して該連結端部7a,7aの重ね合せ部分に設けられる各ねじ挿通孔を一致させてこのねじ挿通孔と前記コ字状屈曲部7bに設けたねじ挿通孔を通じそれぞれかしめナツト9,9に螺挿する締付用ねじ10,10の正逆回動により帯金6を締付自在としている。」(第1頁右欄第25行?第2頁左欄第15行)
(3)「また、把持部のない土鍋本体1自体はその上端縁の補強外縁2による補強とこれに続く蓋受部4ともなる庇状内縁3による内面補強によつて熱衝撃にも強く、高熱による破損もなく長期の使用によく耐えるものである。」(第2頁右欄第10?15行)
(4)第1及び2図には、補強外縁2の上端縁から少し下がった内壁部分から、水平の上面を有する蓋受部4ともなる庇状内縁3が、内側に凸状に突出し、その蓋受部4に蓋が載置される様子が図示される。

16.甲第20号証には、第1?3図とともに以下の記載がある。
(1)「本考案の土鍋1は、側壁および底部2とも従来の土鍋と同様に成形されており、底部2のみ従来の土鍋と対比して薄めの肉厚にしてある。そして、底部2の内側は底部2の中心線5を中心とする同心円状の浅い円形凹部4が形成してあり、円形凹部4には鉄製円板の透磁導電体3が、嵌め込む様に載せてある。詳しくは、透磁導電体3は薄い鉄板製・・・(中略)・・・で、当該電磁調理器の有効な加熱ゾーンに対応させた直径Dの円板体を成し、円の中心を含む板上に数個の流通小孔6が貫通してある。」(明細書第3頁第8?19行)
(2)第1及び3図には、土鍋1の側壁の上部において、上端より少し下がった内壁に、内側へ水平に突出する凸部が図示され、第3図には、凸部の上面に蓋状物が載置される様子が図示される。

17.甲第21号証には、図1?3とともに以下の記載がある。
(1)「上面が開口した碗状形態であって、上端面より低位置の内周に内向きの鍔部材を突設してなる容器本体と、
その容器本体の上端面に着脱自在に嵌合し、被調理物を加工するための加工手段と加工したものを前記容器本体に落下させるための落とし口とを備えてなる加工部材と、
網又は多孔による透水構造であり、上部外周に外向きのフランジを突設してそのフランジを前記容器本体の鍔部材に係合させるようにした濾し容器と、
を組み合わせてなる調理用具。」(請求項1)
(2)「本発明の調理用具1は、図1に示したように、容器本体2と、加工部材3と、濾し容器4を基本構成とする。容器本体2は全体が陶磁器製であり、上面が開口した碗状形態で側面にリング状の把手部材5が設けてある。また、容器本体2には、上端より低位置の内周に内向きの鍔部材6が突設してあり、さらに底の内表面にすり鉢と同様のきざみ目7が設けてある。鍔部材6の下側と容器本体2の内周面は緩やかに湾曲する斜面で段差なく連続している。こうすることにより鍔部材6の下側に被調理物の屑や汁が残らず、被調理物の取り出しがスムーズで、しかも使用後の洗浄がし易く衛生的である。」(段落【0008】)
(3)「また、容器本体2に水洗した米と水を入れ、鍔部材6に蓋(図示せず)を載せ、そのまま電子レンジで加熱して炊飯することもできる。この場合、容器本体2の上端から鍔部材6までの空間に煮汁が貯まるため吹きこぼれ難い。」(段落【0018】)

第7 無効理由の検討
1.無効理由1について
本件特許発明と甲第12号証発明とを対比すると、
後者の「鍋2d」は、その構成・機能からみて、前者の「内鍋」に相当し、以下同様に、後者の「鍋2dが収納される炊飯器本体1」は前者の「内鍋が収納される本体」に、後者の「鍋2dを誘導加熱するヒータ66」は前者の「内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイル」に、後者の「ジャー炊飯器」は前者の「炊飯器」にそれぞれ相当する。
また、後者の「鍋パッキン14」は「前記フランジ部2fの真ん中付近に前記上部開口部をシールする」ように「当接させ」られるものであるから、前者の「フランジ部に当接して上部開口部をシールする蓋パッキン」に相当する。
さらに、後者の「鍋2dの上縁部近傍の鍋2dの内方で上端より少し下がった部分が側面部より内側に突出するように湾曲して凸部が形成され」ることで形成された「つゆ溜まりの溝部12d」は、「鍋パッキンに付着したつゆが、一定量を超えてフランジ部62fに滴下し、フランジ部62fを伝って鍋側面に滴下しようとするとき、これを溜めて保温中のご飯に滴下しないようにした」ものであり、前者の「フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより」形成された「凸部」が、「フランジ部に当接して上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する」ものであることから、後者の「つゆ溜まりの溝部12d」を形成する「凸部」と前者の「凸部」は、「フランジ部に当接して上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する」機能を有する「凸部」である点で共通する。
したがって、本件特許発明と甲第12号証発明とは、
「内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されている炊飯器。」である点で一致し、以下の点で相違する。
A:内鍋に関して、本件特許発明が「基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し」ているのに対して、甲第12号証発明は「鍋2dは金属製」である点。
B:凸部に関して、本件特許発明が「フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に内鍋の厚みを厚くすることにより」「形成されている」のに対して、甲第12号証発明は「鍋2dの上縁部近傍の鍋2dの内方で上端より少し下がった部分が側面部より内側に突出するように湾曲して」形成されたものであって、「つゆ溜まりの溝部12dを形成」するものである点。

そこで、上記相違点について検討する。
ア.相違点Aについて
(ア)基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成され、誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合することについて
甲第2号証には、美観、耐久性、耐熱性、耐食性などのセラミック本来の優れた特性を保持しつつ、それ単独で電磁調理器用に使用することのできるように、セラミック材料からなる鍋体4の底部外側に、磁性材料からなる細片若くは微粉末適宜量をセラミック材料に混入した磁性材料混入部5を接合してなる構造の電磁調理器用セラミック製鍋が記載されている(第6の2.)。
また、甲第1及び3号証にも、セラミックで構成した容器の底の外側に、ステンレス等の誘導加熱用金属体や薄膜導電層を設けた加熱容器が記載されていて(第6の1及び3.)、誘導加熱ができるセラミック製の鍋は従来周知であったともいえる。
一方、炊飯器の内釜をセラミックで構成することは、甲第5号証(第6の5.(1))、甲第6号証(第6の6.(1)及び(2))に示されるように公知である。
「そして,引用発明1(甲第12号証発明)はジャー炊飯器であり,引用発明2(甲第2号証の電磁調理器用セラミック製鍋)は電磁調理器用セラミック鍋であって,・・・(中略)・・・,両者は類似の技術分野のものであり,セラミックで作られた炊飯器の内鍋が公知であること(甲5,6)に照らすと,引用発明1(甲第12号証発明)に引用発明2(甲第2号証の電磁調理器用セラミック製鍋)を適用することにより,本件(特許)発明の上記構成を容易に想到することができる。」(平成22年7月14日判決言渡、知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)第10412号判決書(以下「判決書」という。)の第11頁第3?7行)
さらにいえば、セラミックの蓄熱性が優れていることが当業者にとって技術常識であり、甲第6号証にも炊飯器のセラミックの内鍋が低熱伝導で熱を逃がしにくいことが記載され(第6の6.(2))、甲第10号証にも電磁誘導コイル3による渦電流で加熱される電気炊飯器の内鍋5を真空二重構造部とし、内鍋5の保温性能が向上させることが示され(第6の11.(2)及び(5))ていることからも、甲第12号証発明のジャー炊飯器の鍋をセラミックとすることで保温時の蓄熱性を向上させることが当業者にとって格別とはいえない。
(イ)内面に、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施すことについて
甲第3号証には電磁誘導加熱調理器用のセラミック容器の内面を含めた素地1aの表面に釉薬1bが施されること(第6の3.)が記載され、甲第5号証にはセラミック系材料からなる電気炊飯器の内釜の内面側にフッ素系樹脂などのコーティング材料からなる保護被膜を被着すること(第6の5.)が記載されているように、セラミック製の鍋等の内側にガラス質の釉薬を施したり、炊飯器の内釜の内面側にフッ素加工を施すことは、従来周知である。
したがって、甲第12号証発明の鍋の内面に上記周知の処理を施す程度のことは、当業者が適宜なし得た設計的事項といわざるを得ない。

よって、相違点Aに係る本件特許発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことであって、そのことによる格別の効果もない。

イ.相違点Bについて
(ア)本件特許発明の凸部と甲第12号証発明の凸部はともに、蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断するではあるものの、甲第12号証発明では、鍋パッキンに付着したつゆが一定量を超えると、フランジ部62fに滴下し、そのつゆがフランジ部62fを伝って鍋側面に滴下しようとするとき、鍋2dの上縁部近傍の鍋2dの内方で上端より少し下がった部分で、側面部より内側に突出するように湾曲して形成された凸部の上面に形成された、つゆ溜まりの溝部12dにより、滴下途中の鍋側面のつゆを受けるものといえる。
つまり、「鍋パッキンの接するフランジ部において露を溜めることを示したものということはできない。」(判決書第13頁第5?6行)
一方、本件特許発明では、「内鍋の上部開口部の外縁におけるフランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより,前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部を形成」し「内鍋の上部開口部の内側に形成した凸部により,保温中に蓋パッキンに付いた露の垂れが遮断されて,露が内鍋内に垂れるのを防ぐことができ,ご飯のふやけを防止することができるという効果を奏する」(判決書第19頁末行?第10頁第9行)ものである。つまり、フランジ部およびこれと同じ上部開口部の内側であるこのフランジ部と対向する位置に形成された凸部により、露が内鍋内に垂れるのを防ぐものである。
甲第19?21号証によると、「陶磁器製の加熱調理器において,鍋の上部開口部外縁の,蓋が載置される平坦部と同じ高さ位置で,鍋の内面方向に鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成すること自体は,周知であったということはできるが,上記凸部に露を溜める機能があることを記載したものではなく,上記周知例1ないし3(甲第19?21号証)の加熱調理器における凸部の目的は,専ら蓋を載置することにあって,本件発明における凸部の目的とは全く異なり,凸部を設けて露を溜めるという技術思想はなかったものといわざるを得ない。しかも,周知例1ないし3(甲第19?21号証)における加熱調理器は,炊飯器ではないから,米を炊いて保温するものではないため,保温中に蓋パッキンに付いた露が鍋内に垂れるのを防止するという課題すらない。したがって,蓋等の部材の載置を目的とする凸部の形成自体が周知であったとしても,フランジ部との関係や課題との関係でみると,露の垂れを遮断するために凸部を設けることについて,何ら示唆はない。」(判決書第13頁第7?18行)
そうすると、「従来,陶磁器製の加熱調理器において,鍋の上部開口部外縁の,蓋が載置される平坦部と同じ高さ位置で,鍋の内面方向に鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成すること自体は,周知であったとしても,内鍋内面方向の凸部によって露を溜め,露の垂れを防止するという機能があることを記載した証拠はなく,これを示唆するものもない。加熱調理器において,内鍋内面方向に凸部を形成することは,蓋等の部材の載置を目的とするのが通常であり,蓋等の部材の載置を目的とする凸部の形成自体が周知であったとしても,フランジ部との関係や課題との関係では,何ら示唆がない。そして,引用例1(甲第12号証)の【0007】の『鍋パッキン74に付着したつゆは,ある一定量を超えると鍋62のフランジ部62fを伝って鍋62の側面へと滴下し』の記載をもって,直ちに,蓋の載置を目的とする凸部が露等を溜める効果をも奏することが当業者にとって自明であるとすることはできない。本件発明において,露の垂れを防止することを目的として内鍋内面方向に凸部を形成することは,従来のものと目的を異にするものである。」(判決書第14頁第7?24行)
「本件発明は,引用発明1(甲第12号証発明)に係る金属材質の炊飯器内鍋構造をセラミックに変更し,蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部を形成するものであるところ,別の目的で設けられている凸部を開示しているにすぎない周知例1ないし3(甲第19?21号証)等をもって,露の垂れを防止する構成とする動機付けがあるとはいえない。そして,本件発明は,特定の内外面構造を有するセラミックス内鍋を用いて,ご飯の付着防止,保温時の省エネルギー化という課題を解決させながら,露の垂れを防止する構成を検討した結果『フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすること』による凸部を形成したものである。蓋の載置を目的とする凸部の形成自体が周知であったとしても,フランジ部との関係や課題との関係で何ら示唆がない以上,金属の内鍋を用いた,異なる露垂れを防止する構造の引用発明1(甲第12号証発明)から出発して,内鍋材質と凸部の具体的位置及び構造を変更して,内鍋内面方向に内鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成することは,技術常識を参酌してもなお通常の創作能力の発揮を越えるものといわざるを得ない。
よって,引用発明1(甲第12号証発明)のフランジ部の水平部から内鍋の内方に延設して露溜まりの溝部を形成している構成を,フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成して露の垂れを防止する構成とすることは,当業者といえども容易に想到することはできないというべきである。」(判決書第14頁第25行?第15頁第15行)
(イ)ところで、甲第8、10及び11号証には、炊飯器の内鍋が上端開口部の外縁にフランジを有し、上端開口部で内面側に凸状に湾曲するものが示されている。
しかしながら、甲第8号証のものの内鍋6のフランジは上方に凸に湾曲するものでここに露を溜めたり遮断したりするようなものではなく、かつ放熱板19はフランジに上方から直接、接していてパッキンも有していない。
甲第10及び11号証に記載のものも、パッキンは、内鍋の口縁部の内側に湾曲された部分の内側上方角部に接するものであるから、露を溜めたり遮断したりするようなものではない。
そして、フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることによる凸部を形成したものでもないのであるから、上記甲第8、10及び11号証に記載の事項をみても甲第12号証発明のフランジ部の水平部から内鍋の内方に延設して露溜まりの溝部を形成している構成を、フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成して露の垂れを防止する構成とすることが容易であるとはいえない。
さらに、甲第4、9、13及び18号証には、炊飯器の内釜のフランジ部に当接するパッキンが示されているものの、フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることによる凸部を形成したものではない。
甲第7号証にもフランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることによる凸部を形成することを示唆する記載はない。
(ウ)その上、甲第10や11号証に記載の炊飯器の内鍋をセラミック材又はセラミックとガラスの混合材からなるもので構成するとしても、シールパッキンは口縁部の内側に湾曲された小径のネッキング部の内側上方角部に接しており、これによって「内鍋5の開口部の口径が狭まるととともに、内鍋5口縁部とシールパッキン38とのシール部の径も小さくなる」(第6の10.(4))ものであるから、当該目的に反して、シールパッキンをフランジ部に当接するようになし、フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより、フランジ部に当接して上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部を形成するとの構成に至ることも、当業者にとって容易であるとはいえない。
(エ)以上、述べたようであるから、本件特許発明について、甲第1?13及び18?21号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(オ)なお、請求人は、図1及び2に図示された本件特許発明の凸部は、内鍋の内周面の延長線上において、基部から内側先端まで上下でほぼ均一に丸みを持って膨らんだ形状であるから、内鍋内周面の延長線上に当たる凸部の突出基部に達した時点で、下降成分発生起点となり伝い落ちに勢いを与える、つまり内鍋の内周面の延長線上までフランジ上を伝わった露は、フランジ部上面及び凸部上面を迂回させ距離を稼ぐものの、凸部があってもその後これを遮断することができないのであるから、凸部がない甲第12号証の図7の水平なフランジと露の滴下を遅らせる作用効果に変わりはなく、等価である。すると凸部を有する土鍋類は甲第19?21号証に示されるように周知であるから本件特許発明は容易になし得た旨主張する。
本件特許発明は、フランジ部とともにフランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部を有しており、露の垂れを遮断しようとする凸部やこれに続くフランジ部があれば、大量の露は遮断できないとしても、その範囲内で露の垂れを遮断できるといえるのであり、上記したように、甲第1?13及び18?21号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、上記請求人の主張は採用できない。
(カ)したがって、請求人の主張する無効理由1については、理由があるとはいえない。

2.無効理由2について
さらに請求人の主張する無効理由2について検討する。
請求人は、蓋パッキン上からフランジ上に伝わり落ちる結露水は、水平なフランジ上面では防ぎきれず、水平なフランジ上面から鍋内側の湾曲面に達し、傾きが増すとともに重力の影響を大きく受けて速度が速まり滴下するものであり、蓋パッキンから内鍋内に露が垂れるのを、凸部がどのように遮断するのか不明瞭である旨主張する。
上記1.(オ)でも述べたように、大量の露が発生するときは遮断しきれないとしても、本件特許発明は、フランジ部とともにフランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くして形成した蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部を有しており、露の垂れを遮断しようとする凸部やこれに続くフランジ部があれば、その範囲内で露の垂れを遮断できるといえる。
さらにいえば、凸部を設けることにより、フランジ部の内側部分や凸部上面まで露の垂れを遮断するものとなり得ることは当業者にとって明らかである。
そうすると、蓋パッキンに付着した結露水が内鍋内に至るのを防止できるとした、作用効果が不明であるとまではいえない。
したがって、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとはいえず、無効理由2についても理由があるとはいえない。

3.まとめ
以上1.及び2.で検討したとおり、請求人の主張する無効理由1及び2は、いずれも理由がない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
炊飯器
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されていることを特徴とする炊飯器。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、一般家庭などで日常的に使用される炊飯器の内鍋に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の炊飯器は、上面を開口した本体で、この本体は鍋収納部としての枠体となるプラスチック製内枠と、本体の外郭を形成する外枠と、本体上部において内枠と外枠とを係合支持する枠部とにより構成され、本体の上部開口を開閉自在に覆う蓋体がある。そして、前記内枠に被炊飯物を収容する有底筒状の鍋が挿脱自在に収容される。前記鍋は基材となる熱伝導性の良好なアルミニウム層の外側面にフェライト系ステンレス層からなる磁性金属材料層をクラッドし、前記アルミニウム層の内側面には非粘着層を有するフッ素樹脂コーティング層を施している。また、前記内枠の外底面中心部及び外側面下部から外底面外周部にわたり、共通する1本の線からなる加熱コイルが渦巻状に取付け固定されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のように構成され従来の炊飯器は、被炊飯物を収容した鍋を前記内枠に収納し、蓋体を閉じた後に炊飯動作を開始すると、所定の手順に従って前記加熱コイルに高周波電流が供給される。そして、加熱コイルに発生する交番磁界により、前記磁性金属材料層に渦電流が流れ、この渦電流によるジュール熱で誘導加熱され、その熱が内側の前記アルミニウム層へと伝達され、フッ素樹脂コーティング層を介して被炊飯物を加熱する。このとき、熱の一部はアルミニウム層を通して鍋の底面部から外側部へと伝わり、鍋全体が熱くなって被炊飯物が加熱される。
【0004】
【特許文献1】
特開平7-100054号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の炊飯器は上記のように、鍋内面にフッ素樹脂加工が施されているが、使用しているうちに剥がれてしまい、基材のアルミニウム等が露出してしまって、ご飯が鍋内面に付いて取れにくくなってしまう問題点があった。
【0006】
また、基材にアルミニウム、外面にステンレス等を使用しているため、蓄熱性が悪く保温時の消費エネルギーが多くなってしまう問題点があった。
【0007】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、ご飯が付着しにくい内鍋を得るとともに、保温時の省エネルギー化が図れる炊飯器を得ることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る炊飯器は、内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されているものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における炊飯器の断面図、図2は内鍋の断面図、図3は前記図2のA部を拡大した内鍋の構成を示す要部拡大図である。
尚、上記図1?3において同一又は相当部分には同一符号を付す。
図において、1は本体で、正面にメニュー等の選択や炊飯ボタン等の操作を行う操作パネル部2と後部に蓋開閉用のヒンジ部3を備え、中央に内鍋を入れる円形の開口部を有する上枠4と、本体側面部を形成する外枠5と、底板6及び前記開口部を閉塞する蓋体7とから構成される。8は本体前面部に位置し前記蓋体7の開閉時の係止ボタン、9は有底筒状で、前記上枠開口部と円形筒状の内遮熱板10及び中央に後述する温度センサーの突出穴を備えたコイル台11で構成される内鍋収納部である。
【0010】
12は前記内鍋収納部9に挿脱自在に取付けられ、米と水を収容する有底筒状の内鍋であり、内鍋上部開口部の外縁に形成されたフランジ部12Aと、該フランジ部12Aと対向する内鍋内面側に凸部12Bを有している。13は例えば渦巻き状に形成された誘導加熱コイルであり、前記内鍋収納部9に取付けられる前記内鍋12の例えば外底面に対向する部分の前記コイル台11の外面に当接して設けられている。
【0011】
前記内鍋12は、図3に示すように、内鍋の基材21として、例えば蓄熱性の高いセラミック材、又はセラミックとガラスの混合材で構成し、その内面側には、光沢を出し滑らかにするために、例えばリチウム系結晶化ガラスなどからなるガラス質の釉薬22を施している。また、前記コイル台11の内鍋12の外底面に対向する部分に配設された誘導加熱コイル13と対向する前記内鍋12の外面側には、例えば溶射により、例えば鉄、ステンレス等の磁性材からなる加熱部材23を配設し、内鍋外面に加熱部材23が接合している。
【0012】
尚、前記図3においては、内鍋の内面側にガラス質の釉薬22を施すようにしたが、これに限定されるものではなく、例えばフッ素樹脂コーティング加工を施すようにしてもよい。
【0013】
また、上記ガラス質の釉薬22又はフッ素樹脂コーティング加工を内鍋の全面に施すようにしてもよい。
【0014】
14は前記蓋体7に備えられ、前記内鍋12の上部開口部を覆う内蓋である。15は前記内蓋14の外縁部に設けられ、前記内鍋12のフランジ部12Aに当接して内鍋開口部をシールする例えばシリコンゴム等の蓋パッキン、16は前記コイル台11の中央に形成された突出穴を通して、前記内鍋12の底部に当接して、内鍋底部の温度を検出する温度センサーである。この温度センサー16により検出された温度情報に基いて、制御手段(図示せず)により、前記誘導加熱コイル13の例えば通電制御等が行われる。
【0015】
上記のように構成された炊飯器は、前記操作パネル部3での操作によって、炊飯動作が開始すると、所定の手順に従って前記誘導加熱コイル13に高周波電流が供給される。そして、誘導加熱コイル13に発生する交番磁界により、該誘導加熱コイル13と対向した部分の前記内鍋12の外底面に配設された磁性材からなる加熱部材23が磁気結合して渦電流が流れる。この渦電流によるジュール熱で誘導加熱され、その熱が加熱部材23の内側の内鍋基材21へと伝達され、そして内面側に施された前記ガラス質の釉薬22、又は前記フッ素樹脂コーティング加工を介して米と水を加熱する。このとき、熱の一部は前記基材21を通して内鍋12の底面部から外側部へと伝わり、内鍋12全体が温められて米と水が加熱される。
【0016】
以上のような本実施の形態の炊飯器においては、内鍋基材をセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成したことにより、ご飯の付着しにくい内鍋が得られる。また、内鍋の内面に光沢を出し滑らかにするために施された前記ガラス質の釉薬又はフッ素樹脂コーティング加工等が剥がれた場合であっても、ご飯の付着しにくい内鍋が得られる。
【0017】
また、前記内鍋基材をセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成したことにより、蓄熱性がよくなり保温時の加熱通電時間を短くすることができ、電気エネルギーの節約による省エネルギー化の図れる炊飯器が得られる。
【0018】
また、内鍋の少なくとも内面にガラス質の釉薬又はフッ素樹脂コーティング加工を施したことにより、ご飯が付着しにくく、また汚れが付着しても簡単に落とすことができる。
【0019】
また、内鍋上部開口部の内側に形成した凸部により、保温中に前記蓋パッキンに付いた露の垂れが遮断されて、露が内鍋内に垂れるのを防ぐことができ、ご飯のふやけを防止することができる。
【0020】
実施の形態2.
図4は、本実施の形態2における、上記実施の形態1の図3に示した内鍋の構成の他の例を示す要部拡大図である。
尚、本実施の形態においては、内鍋の構成のみが異なるもので、他の構成は上記実施の形態1と同様であるため、ここでの炊飯器構成図等の図示と説明を省略する。また、図4において、上記実施の形態1の図3と同一又は相当部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0021】
本実施の形態の内鍋は、前記図4に示すように、内鍋の基材24として、例えば鉄、ステンレス等の磁性材の粉体を混入したセラミック材、又は前記鉄、ステンレス等の磁性材の粉体を混入したセラミックとガラスの混合材で構成し、その内面側には光沢を出し滑らかにするために、例えばフッ素樹脂コーティング加工25を施し、外面側には例えばガラス質の釉薬22を施したものである。
【0022】
このように、本実施の形態においては、内鍋の基材として、予め磁性材を混入したセラミック材、又は磁性材を混入したセラミックとガラスの混合材で構成したことにより、前記誘導加熱コイルへの通電により発生する交番磁界により、前記内鍋基材が磁気結合して渦電流が流れる。この渦電流によるジュール熱で直接内鍋基材が誘導加熱されるため、熱効率がよくなり電気エネルギーが節約でき省エネルギー化の図れる炊飯器が得られる。
【0023】
また、予め磁性材を混入しているため、上記実施の形態1の図3に示すような磁性材からなる加熱部材との接合がなくなり、内鍋の製作が容易となる。
【0024】
また、上記実施の形態1同様に、内鍋の少なくとも内面にガラス質の釉薬又はフッ素樹脂コーティング加工を施したことにより、ご飯が付着しにくく、また汚れが付着しても簡単に落とすことができる。
【0025】
さらに、上記実施の形態1同様に、内鍋上部開口部の内側に形成した凸部により、保温中に蓋パッキンに付いた露の垂れが遮断されて、露が内鍋内に垂れるのを防ぐことができ、ご飯のふやけを防止することができる。
【0026】
尚、上記実施の形態1、2においては、内鍋の外底面に対向する位置に誘導加熱コイルを配設したものを示したが、これに限定されるものではなく、内鍋の外底面及び外周面に対向する位置に配設してもよい。この場合、加熱能力が高まり、短時間でおいしいご飯を炊くことができる。
【0027】
この発明は以上説明したように、内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されているので、内鍋基材をセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成したことにより、ご飯が付着しにくく、また、蓄熱性がよくなり保温時の加熱通電時間を短くすることができ、電気エネルギーの節約による省エネルギー化が図れる炊飯器を得ることができる。さらに、内鍋の上部開口部の内側に形成した凸部により、保温中に蓋パッキンに付いた露の垂れが遮断されて、露が内鍋内に垂れるのを防ぐことができ、ご飯のふやけを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態1における炊飯器の断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る内鍋の断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る内鍋構成の上記図2の要部拡大図である。
【図4】この発明の実施の形態2における内鍋の構成の他の例を示す要部拡大図である。
【符号の説明】
1 本体、4 上枠、5 外枠、6 底板、7 蓋体、8 係止ボタン、9 内鍋収納部、11 コイル台、12 内鍋、12A フランジ部、12B 凸部、13 誘導加熱コイル、14 内蓋、15 蓋パッキン、16 温度センサー、21、24 内鍋の基材、22 ガラス質の釉薬、23 加熱部材、25 フッ素樹脂コーティング。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-10-23 
結審通知日 2008-12-10 
審決日 2008-12-24 
出願番号 特願2003-167602(P2003-167602)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (A47J)
P 1 113・ 851- YA (A47J)
P 1 113・ 531- YA (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川端 修  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 鈴木 敏史
長浜 義憲
登録日 2007-12-14 
登録番号 特許第4052390号(P4052390)
発明の名称 炊飯器  
代理人 家入 久栄  
代理人 家入 久栄  
代理人 高橋 省吾  
代理人 小川 文男  
代理人 高橋 省吾  
代理人 家入 久栄  
代理人 高橋 省吾  
代理人 小川 文男  
代理人 小川 文男  

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