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審決分類 審判 全部無効 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  F16C
審判 全部無効 2項進歩性  F16C
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F16C
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F16C
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16C
管理番号 1236787
審判番号 無効2010-800124  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-07-16 
確定日 2011-04-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4484168号発明「ラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第4484168号に係る発明についての出願は、平成21年12月24日(優先権主張平成21年8月12日)に特許出願されたものであって、平成22年4月2日に特許権の設定登録がされたものである。
これに対して、平成22年7月16日付けで、株式会社コーワ(以下、「請求人」という。)より無効審判の請求がなされ、被請求人から平成22年9月2日付けで答弁書及び訂正請求書が提出され、請求人から平成22年10月25日付けで弁駁書が提出され、被請求人から平成23年1月7日に口頭審理陳述要領書が提出され、請求人から平成23年1月11日に口頭審理陳述要領書が提出され、平成23年1月25日に口頭審理が行われ、さらに、請求人から平成23年2月8日付けで上申書が提出され、被請求人から平成23年2月8日付けで上申書が提出されたものである。

2.訂正の適否
被請求人は、上記の訂正請求書により、本件特許の特許請求の範囲及び明細書の訂正を請求しているので、まず、この訂正の可否について検討する。

2-1.訂正の内容
上記訂正請求書による訂正は、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付した特許請求の範囲及び明細書の全文のとおり訂正しようとするものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲を、
「【請求項1】
多数の細孔を備えた管状のロール軸と、このロール軸が貫通されるロール孔を備えた弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなる高密度のポーラスなシート素材で構成したロール本体を設けた機能性ロールであって、
前記ロール本体は、前記ロール軸の内圧を作用させるラチス状気液導通路構造を備えおり、このラチス状気液導通路構造は、前記ロール軸の周面と、前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部とで構成した内圧作用室、及び、この内圧作用室に連通し、かつ前記ロール本体の径方向に設けた、前記高密度のポーラスなシート素材に比し、弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるロール孔を備えた低密度のポーラスなシート素材でなる内圧分岐作用路で構成し、
この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成とし、
前記内圧を、前記ラチス状気液導通路構造を介して、前記ロール本体に作用させることを特徴としたラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロール。
【請求項2】
請求項1に記載のラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロールであって、
前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部は、その管状内周面が軸方向において、山部と谷部で構成し、この内周面の周面積を拡大することを特徴としたラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロール。」と訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の【0016】を、
「【0016】
請求項1は、多数の細孔を備えた管状のロール軸と、このロール軸が貫通されるロール孔を備えた弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなる高密度のポーラスなシート素材で構成したロール本体を設けた機能性ロールであって、
前記ロール本体は、前記ロール軸の内圧を作用させるラチス状気液導通路構造を備えおり、このラチス状気液導通路構造は、前記ロール軸の周面と、前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部とで構成した内圧作用室、及び、この内圧作用室に連通し、かつ前記ロール本体の径方向に設けた、前記高密度のポーラスなシート素材に比し、弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるロール孔を備えた低密度のポーラスなシート素材でなる内圧分岐作用路で構成し、
この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成とし、
前記内圧を、前記ラチス状気液導通路構造を介して、前記ロール本体に作用させることを特徴としたラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロールである。」と訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の【0021】の「請求項4の発明は」を、「請求項2の発明は」と訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の【0022】の「請求項4は」を、「請求項2は」と訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の【0036】の「幅A1(小径)」を、「幅A1(大径)」と訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の【0037】の「小幅A2(大径)」を、「小幅A2(小径)」と訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の【0019】、【0020】を削除する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記の訂正事項(1)?(7)について順に検討する。なお、本件無効審判においては、訂正前及び訂正後を問わず、全請求項について無効審判の請求がなされている。

(1)訂正事項1
訂正事項1は、以下のとおり、請求項1を減縮するとともに、請求項2を削除し、それに伴い、請求項3を請求項2に繰り上げるものである。
請求項1についてみると、請求項1の「低密度のポーラスなシート素材」について「この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成とし、」という事項を付加して限定するものである。
この事項に関して、請求人は特に、弁駁書において、
「ここで、新たに追加したOの構成は、全く不明瞭である。即ち、延設部なる構成が、低密度のポーラスなシート素材のどの位置に、どのような形状で、どのような作用を奏するものであるかの説明が全くなされていない。また、上記訂正が、本件特許明細書の第5実施例に限定する趣旨であるのならば、その旨を特許請求の範囲において明確にすべきである。即ち、本件特許明細書の第1実施例?第4実施例及び第6実施例は本件特許の権利範囲外であることが明確となるように、訂正すべきである。したがって、上記訂正は不明瞭であり、特許請求の範囲の減縮には該当しない。したがって、特許法134条の2第5項において読み替えて準用する第126条第3項から第5項までの規定に適合せず、上記訂正は認められない。」(第3ページ第19?28行)と主張するとともに、
口頭審理陳述要領書において、
「(1)延設部の特定について、
合議体の暫定的な見解において、「延設部」が「低密度のポーラスなシート素材」のどの位置にあるか、また、「ロール本体の軸方向に設けた切欠き部」の領域のどの範囲までに延長して設けられているかについては特定されていない旨、指摘されている。これについては、図10に記載されているとおり、「ロール本体の軸方向に設けた切欠き部の略半分であって、高密度のポーラスなシート素材側全体を覆う位置」であり、これ以外に限定することは新規事項の追加であり、認められないと考える。何故ならば、「切欠き部に至る構成」の「至る」、という表現が非常にあいまいであり、切欠き部と「つらいち」の構成まで含むのであれば、甲第1号証に記載された発明と全く同一となるからである。」(第2ページ第6?15行)と主張している。(なお、文字のスタイル、フォント、下線等の修飾については、意味内容を損なわない範囲で適宜表記した。以下同様。)
これに対して、被請求人は特に、訂正請求書において、
「(4-1) 前記(3-1)は、特許請求の範囲の請求項1を減縮するために訂正した。尚、この「この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成とし、」は、明細書の[0037]の「内圧作用室1の切欠き部2に至る延設部702を設け、この延設部702が、前記の如く、内圧作用室1に至ることで、例えば、吸液機能の向上と、実機に適した、内圧分岐作用路6としてのシート素材7構造となる。」に基くものであり、新規事項ではありません。」(第3ページ第19?24行。なお、平成23年2月8日付け上申書の「3.」によって、第3ページに2行分追加されている。)と主張するとともに、
また、口頭審理陳述要領書において、
「(1-2) 次に、「O」の構成を特定し、その根拠を示す。
『イ』 :延設部702は、切欠き部2に至る(具体例では、ロール軸4の周面400に至る)構成である。
『ロ』 :上記構成『イ』の根拠を説明すると、図10に示した延設部702の表示と、図11に示した延設部702の表示とが根拠である。」(第4ページ下から4行?第5頁第1行)と主張している。
被請求人が主張するとおり、願書に添付した明細書には、「【0037】…図10に示した第五実施例の如く、内圧作用室1の切欠き部2に至る延設部702を設け、この延設部702が、前記の如く、内圧作用室1に至ることで、例えば、吸液機能の向上と、実機に適した、内圧分岐作用路6としてのシート素材7構造となる。…そして、この吸液機能の向上は、例えば、吸込力の低容量化に役立つこと、省エネルギーに役立つこと等が考えられる(他の実施例も同じ)。」と記載されているとともに、図10、11には、延設部702が切欠き部2に至る、すなわち、ロール軸4の周面400に至る構成が示されている。また、請求項1には、「前記ロール軸の周面と、前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部とで構成した内圧作用室」、「この内圧作用室に連通し、かつ前記ロール本体の径方向に設けた、…低密度のポーラスなシート素材でなる内圧分岐作用路」と記載されている。
以上からすると、「低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成」は、図10、11に示されているとおり、「低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部2」が「ロール軸4の周面400に至る構成」を意味していると認められる。
次に、請求項2についてみると、被請求人は特に、答弁書において、
「7.理由
(1) …尚、特許請求の範囲の請求項2の削除に伴い、請求項3を請求項2に繰上げた。」と説明している。請求項2についての訂正は、その説明のとおりである。
以上より、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正事項1に伴って、対応する明細書【0016】を訂正するものである。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、【0021】の「請求項4の発明は」を「請求項2の発明は」と訂正するものであり、これは、誤記の訂正を目的とするものである。また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、【0022】の「請求項4は」を「請求項2は」と訂正するものであり、これは、誤記の訂正を目的とするものである。また、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、【0036】の「幅A1(小径)」を「幅A1(大径)」と訂正するものである。【0036】、【0037】、図5、10、11の記載からみると、該訂正は誤記の訂正であると認められる。
したがって、訂正事項5は、誤記の訂正を目的とするものである。また、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(6)訂正事項6
訂正事項6は、【0037】の「小幅A2(大径)」を「小幅A2(小径)」と訂正するものである。【0036】、【0037】、図5、10、11の記載からみると、該訂正は誤記の訂正であると認められる。
したがって、訂正事項6は、誤記の訂正を目的とするものである。また、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(7)訂正事項7
訂正事項7は、訂正事項1に伴って、対応する明細書【0019】、【0020】を削除するものである。
したがって、訂正事項7は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書の規定、及び同条第5項において準用する特許法第126条第3項、及び第4項の規定に適合するので、適法な訂正であると認める。

3.本件発明
上記のとおり、平成22年9月2日付け訂正請求書による明細書及び特許請求の範囲の訂正は適法であると認められるので、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】
多数の細孔を備えた管状のロール軸と、このロール軸が貫通されるロール孔を備えた弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなる高密度のポーラスなシート素材で構成したロール本体を設けた機能性ロールであって、
前記ロール本体は、前記ロール軸の内圧を作用させるラチス状気液導通路構造を備えおり、このラチス状気液導通路構造は、前記ロール軸の周面と、前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部とで構成した内圧作用室、及び、この内圧作用室に連通し、かつ前記ロール本体の径方向に設けた、前記高密度のポーラスなシート素材に比し、弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるロール孔を備えた低密度のポーラスなシート素材でなる内圧分岐作用路で構成し、
この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成とし、
前記内圧を、前記ラチス状気液導通路構造を介して、前記ロール本体に作用させることを特徴としたラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロール。
【請求項2】
請求項1に記載のラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロールであって、
前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部は、その管状内周面が軸方向において、山部と谷部で構成し、この内周面の周面積を拡大することを特徴としたラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロール。

4.請求人の主張及び証拠
請求人は、甲第1号証?甲第3号証の証拠方法を提出するとともに、本件特許には、以下の無効理由がある旨主張している。

4-1.無効理由
陳述請求人の提出した審判請求書、弁駁書、及び口頭審理陳述要領書における主張を整理すると、無効理由の要旨は次のとおりである。
(1)無効理由1
本件発明1は、優先権の主張が認められないので、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)無効理由2
本件発明2は、優先権の主張が認められないので、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)無効理由3
本件発明1は、優先権の主張が認められるとしても、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

4-2.証拠方法
甲第1号証 特開2009-280883号公報
甲第2号証 特開平5-180216号公報
甲第3号証 実願昭62-180090号(実開平1-84213号)のマイクロフィルム

5.被請求人の主張
被請求人は、各無効理由について反論するとともに、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」旨の主張をしている。

6.当審の判断
上記の無効理由ごとにその順に検討する。

6-1.無効理由1について
6-1-1.優先権主張について
被請求人は、平成23年2月8日付け上申書(第2ページ第2?3行)において、国内優先を取下げる旨、述べている。これは、本件発明1、2について優先権主張の効果を求めないという趣旨であると認められ、そうすると、甲1号証は、特許法第29条第1項第3号の「刊行物」に該当することとなる。
ただ、優先権主張の効果が認められるかどうかが本件審判における争点の一つであったという従来の経緯にかんがみて、念のため、まず、本件発明1について、優先権主張の効果が認められるかどうかについて検討することとする。
請求人は特に、弁駁書において、
「6-4 答弁書(5)優先権の主張について
(1)被請求人は、答弁書の(5-2)において、「高密度のポーラスなシート素材」とは、優先権基礎出願の「履体3(ロール作用部)即ち、ディスク状気液透過性素材7を数枚の如く、適宜数組合せ、且つ重畳圧縮した構成」に対応するとしているが、このような置き換えは、到底認められない。優先権主張の基礎出願の段落0038及び図6に示すように、ディスク状気液透過性素材7は、厚み方向の高密度部7aと、通気・通液性の高い低密度部7bの両方の機能を有する素材であり、「履体3」と同等であるとは到底認めることができない。
(2)同様に、「低密度のポーラスなシート素材」が「内圧分岐作用路2」に対応するとした置き換えは、到底認められない。「内圧分岐作用路2」は、厚み方向の高密度部7aと、通気・通液性の高い低密度部7bの両方の機能を有するディスク状気液透過性素材7で形成されているのであって、同等の対応関係を認めることは到底できない。
(3)正しい対応関係は、「高密度のポーラスなシート素材」とは、「高密度部7aと、低密度部7bを有するディスク状気液透過性素材7の高密度部7a」であり、「低密度のポーラスなシート素材」とは、「高密度部7aと、低密度部7bを有するディスク状気液透過性素材7の低密度部7b」であるから、「高密度のポーラスなシート素材」と、「低密度のポーラスなシート素材」とが各々別々の素材として記載されている請求項1及び2は、優先権の利益を受けることはできない。
(4)また、被請求人は、請求項1及び2に記載の発明の構成の一部が、別々に優先権の主張の基礎出願である特願2009-187466号に記載されていると指摘しているに過ぎない。即ち、それぞれの構成を組み合わせれば請求項1及び2に記載の発明を完成することは容易であると考えられるが、裏を返せば別発明であるということを証明しているに過ぎない。例えば、優先権の主張の基礎出願の段落0017には、「内圧分岐作用路は、通気・通液性の高い低密度素材によって形成され得る」との記載があるが、この「低密度素材」が、「弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるロール孔を備えた」ものであるとの記載はどこにもされていない。
(5)また、上述した訂正請求により、請求項1及び2は、新たな構成である、O:「この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成とし、」が付加されている。この新たな構成は、優先権の主張の基礎出願である特願2009-187466号のどこにも記載されていない。したがって、仮に上述した訂正請求が適正であると認められた場合であっても、請求項1及び2は、優先権の利益を受けることができない。」(第5ページ第2行?第6ページ第7行)と主張するとともに、
口頭審理陳述要領書において、
「(1)延設部の特定について、
合議体の暫定的な見解において、「延設部」が「低密度のポーラスなシート素材」のどの位置にあるか、また、「ロール本体の軸方向に設けた切欠き部」の領域のどの範囲までに延長して設けられているかについては特定されていない旨、指摘されている。これについては、図10に記載されているとおり、「ロール本体の軸方向に設けた切欠き部の略半分であって、高密度のポーラスなシート素材側全体を覆う位置」であり、これ以外に限定することは新規事項の追加であり、認められないと考える。何故ならば、「切欠き部に至る構成」の「至る」、という表現が非常にあいまいであり、切欠き部と「つらいち」の構成まで含むのであれば、甲第1号証に記載された発明と全く同一となるからである。」(第2ページ第6?15行)と主張している。
これに対して、被請求人は特に、口頭陳述要領書において、
「(1-1) 「O」の構成が、優先権の主張の基礎出願に開示されていることについて
優先権の主張の基礎出願の[請求項3]には、「軸方向内圧作用室履体側内壁、及び/又は、内圧分岐作用路ロール外面側外縁について、境界面を多面体、若しくは多辺形、又は波形とし」との記載がある。また、図7、及び図8の内圧作用室履体側内壁多面体8aと、明細書の[0039]に記載の「図7は、内圧作用境界部201(履体3内部、大圧力勾配発生域)にある、軸方向Xにおける内圧作用室履体側内壁多面体8a・・・・・・を示す。」との記載がある。尚、この内圧作用境界部201は、図7において、二箇所を指し示すが、その一方が、今回、重要である。履体3の内圧作用室1(管路断面形状であり、明細書「0033」に記載)と、内圧分岐作用路2との境界部である(矢視する)。そして、この履体3の境界部の具体例である、前記「多面体」、「多辺形」、又は「波形」をさらに詳述する。
尚、内圧作用境界部201と境界面は、同意語である。例えば、請求項3の「覆体への内圧作用境界部、即ち、…………内圧分岐作用路ロール外面側外縁について、境界面を多面体、若しくは多辺形、又は波形とし」から明らかである。
(1-1-1) 「多面体」について
前記履体3の「多面体」は、軸方向において、前記境界面が凹凸の立体形状(多面形状)となる。
以下、参考図として、この「多面体」の斜視図を示す。

(1-1-2) 「多辺形」について
前記履体3の「多辺形」は、径方向(円周方向)において、前記境界面が、V字形を連続させた形状となる。
(1-1-3) 「波形」について
前記履体3の「波形」は、径方向(円周方向)において、前記「多辺形」の境界面のV字形を緩やかにした、波のように上下にうねる形を連続させた形状となる。
(1-1-4) 前記履体3の「多面体」を、明細書を基に具体的に説明する。この履体3は、谷部と山部となる、凹凸の内圧作用室履体側内壁多面体8aで構成される。そして、内圧分岐作用路2は、この履体3の山部に対して、突出して設けられている。従って、前記「O」の構成が示されている。
以下に、優先権の主張の基礎出願の図7及び図8を示す。

(1-1-5) 従って、訂正請求により追加された「O」の構成が、優先権の主張の基礎出願に開示されている。」と主張している。なお、訂正請求により追加された「O」の構成とは、答弁書の第3ページ第18?19行に記載されているように、本件発明1の「この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成とし、」という事項である。
被請求人が主張するように、先の出願(優先権の主張の基礎出願)の願書に最初に添付された図面には図7、8が記載されており、その記載内容は、概ね、被請求人の主張のとおりであるが、それは、実質的に、本件特許に係る特許出願の願書に最初に添付された図面の図7、8に相当するものである(本件特許の図面においても同様)。
本件発明1の上記事項に係る「低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部2」が、図10、11に示されているとおり、「ロール軸4の周面400に至る構成」を意味していると認められることは、上記の「2-2.」の「(1)訂正事項1」で述べたとおりである。この図10、11は、先の出願の願書に最初に添付された図面には記載されていない。また、その図10について、本件特許に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書には、「【0037】…図10に示した第五実施例の如く、内圧作用室1の切欠き部2に至る延設部702を設け、この延設部702が、前記の如く、内圧作用室1に至ることで、例えば、吸液機能の向上と、実機に適した、内圧分岐作用路6としてのシート素材7構造となる。…」と説明されているが(本件特許明細書においても同様)、このような構成及び作用は、先の出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載も示唆もない。
したがって、本件発明1は、先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、本件発明1についての優先権の主張は、先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に基づいた主張ではない。よって、本件発明1について、優先権主張の効果を認めることはできない。
6-1-2.特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとの無効理由1について
上述のとおり、本件発明1は優先権主張の効果を享受できない。したがって、甲1号証は、特許法第29条第1項第3号の「刊行物」に該当することとなり、結局、無効理由1は上記のとおりのものである。
(1)本件発明1
本件発明1は上記のとおりである
(2)証拠方法及びその記載内容
(2-1)甲第1号証
甲第1号証には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
本発明は、鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールと、このロールを搭載した洗浄装置に関するものである。」
(い)「【0018】
請求項3の発明のロールは、特に、請求項1から2のロールにおいて、ロール部はロール片よりも回転外径が小である補強部材を有するもので、ロール部の表面部は、芯部に比べて硬度が低く、柔軟性が高いことから、ロールの弾力性が向上し、ロール部と被洗浄面の接触面積が広がり、被洗浄面から効率よく確実に液体が除去、搾取、洗浄される。一方、ロール部の芯部は、ロール片と補強部材が積層されているので、表面部に比べて硬く、ロールの回転中において、ロール片が本体部から位置ズレを生じ、ロール部の表面部に凹凸が発生することが防止される。その為、ロールは被洗浄面に残滓マークを発生させることがなく、被洗浄面に付着した液体を、確実に除去、搾取、洗浄することができると共に、高い耐久性を保持することができる。
【0019】
請求項4の発明のロールは、特に、請求項3のロールにおいて、補強部材の内周には切欠き部が形成されてあるもので、ロール部は補強部材が積層されてあっても、連続的に形成された流体拡散溝部が確保される為、圧縮流体の流れが補強部材により遮断されることがない。その為、圧縮流体と液体を均一にロール部の外周から排出することができる。」
(う)「【0062】
図5において、ロール21は、台座23、止め金具25、プレート26、及び複数のロール片24a、24bと補強部材39a、39bからなるロール部22より構成されている。台座23は、鉄等の金属材料からなり、外周にロール部22が形成される本体部27は開口部30を有する略円筒形状であり、本体部27の両端部に連接される継ぎ手部A28、及び継ぎ手部B29は中空部31を有する中空状であると共に、それぞれの一方の端部にはロータリージョイントが連接されるネジ部32が形成されている。ロール部22は、複数のロール片24a、24bと補強部材39a、39bが台座23を構成する本体部27の外周に積層されると共に、重ね合わされて形成されてあり、両側から止め金具25、及びプレート26にて挟み付けられて形成されてある。止め金具25には、スナップリングが使用されている。」
(え)「【0069】
補強部材39a、39bは、ロール片24a、24bより回転外径が小さく、ロール部22に吸収される液体により膨潤等により劣化しなければ、材質、形状等は、特に限定されるものではない。補強部材39a、39bの材質としては、例えば、平板状の不織布37、織布、編物等の布帛、合成樹脂板、金属板、フィルム状樹脂組成物、合成樹脂発泡体等が用いられる。好適には、液体が浸透しやすい空隙部を有する不織布37が用いられる。前記不織布37の空隙率は、強度等を考慮し、5%以上50%以下であることが望ましい。補強部材39aと補強部材39bは同一の材質であっても、異なる材質であっても構わない。また、ロール片24a、24bと補強部材39a、39bは同一の材質であっても、異なる材質であっても構わない。ロール片24a、24bと補強部材39a、39bが異なる材質である場合、補強部材39a、39bは、ロール片24a、24bよりもコストが安価な材質であれば、ロール21のコストを抑えることができる。
【0070】
ロール片24aにたいする補強部材39aの挿入枚数、及びロール片24bにたいする補強部材39bの挿入枚数は、ロール部22の表面部と芯部における硬度、コスト等を考慮して、適宜、決定すればよい。例えば、2乃至10枚のロール片24a、24bにたいして、1枚の補強部材39a、39bを挿入する。
【0071】
上記の如く構成されたロール21の動作、作用は下記の通りである。
【0072】
ロール21は、本体部27に連接する継ぎ手部A28、及び継ぎ手部B29が共に中空部31を有する中空状であり、コンプレッサーから配管を介して圧縮流体を、図5の矢印の如く、継ぎ手部A28、及び継ぎ手部B29の両方から本体部27の開口部30に向けて送出することができる。その為、本体部27に形成された開口部30に、圧縮流体が迅速に流入し、図5の矢印の如く、圧縮流体は孔部33を介して流体拡散溝部34に流れ込むので、ロール部22から液体が、ロール21の外部に排出される時間の大幅な短縮につながる。
【0073】
ロール部22は、ロール片24a、24bよりも回転外径が小さい補強部材39a、39bを有するので、ロール部22の表面部は、芯部に比べて硬度が低く、柔軟性が高いことから、ロール21の弾力性が向上し、ロール部22と被洗浄面の接触面積が広がり、被洗浄面から効率よく確実に液体が除去、搾取、洗浄される。一方、ロール部22の芯部は、ロール片24a、24bと補強部材39a、39bが積層されているので、表面部に比べて硬く、ロール21の回転中において、ロール片24a、24bが本体部27から位置ズレを生じ、ロール部22の表面部に凹凸が発生することが防止される。その為、ロール21は被洗浄面に残滓マークを発生させることがなく、被洗浄面に付着した液体を、確実に除去、搾取、洗浄することができると共に、高い耐久性を保持することができる。
【0074】
補強部材39bの内周には切欠き部40が形成されているので、ロール部22は補強部材39bが積層されてあっても、連続的に形成された流体拡散溝部34が確保される為、圧縮流体の流れが補強部材39bにより遮断されることがない。その為、圧縮流体と液体を均一にロール部22の外周から排出することができる。
【0075】
ロール片24b、及び補強部材39bの有する切欠き部40は、内周の等分6箇所に形成されているので、ロール21はバランスがよく、回転ブレを発生することがなく、安定した回転が保持される為、長期間に亘り、優れた液体除去性能が発揮される。」
(お)「【0076】
(実施例3)
図7は、本発明の第3の実施例におけるロールに用いられる台座の正面図、図8(a)は、本体部の非形成領域の外周に積層されるロール片の平面図、図8(b)は、本体部の形成領域の外周に積層されるロール片の平面図、図8(c)は、本体部の集中形成領域の外周に積層されるロール片の平面図、図8(d)は、本体部の非形成領域の外周に積層される補強部材の平面図、図8(e)は、本体部の形成領域の外周に積層される補強部材の平面図、図8(f)は、本体部の集中形成領域の外周に積層される補強部材の平面図である。なお、上記第1、第2の実施例と同一部材については、同一番号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0077】
図7において、台座43は、外周に複数の円形の孔部53が形成された略円筒形状の本体部47の両端部に、中空状の継ぎ手部A48、及び継ぎ手部B49が溶接による接合部56を介し、連接して形成されている。本体部47は、孔部53が外周に開設されていない端部の近傍における非形成領域L4、孔部53が本体部47の外周等分6箇所に設けられていると共に、本体部47の長手方向に略平行に形成された形成領域L3、孔部53が本体部47の外周等分12箇所に設けられていると共に、本体部47の長手方向に略平行に形成された集中形成領域L5からなる。集中形成領域L5は、本体部47の略中央部の近傍に形成され、形成領域L3は、本体部47の長手方向に亘る全長の内、両端部の近傍における非形成領域L4、及び略中央部の近傍における集中形成領域L5を除く範囲内にて形成されている。従って、集中形成領域L5は、本体部47の外周等分12箇所に孔部53が形成されていることから、孔部53の開口面積の比率は、本体部47の外周等分6箇所に孔部53が形成された形成領域L3よりも大きいことになる。継ぎ手部A48、及び継ぎ手部B49に形成された窪み部55には、止め金具25が嵌合挿入される。
【0078】
図8(a)において、ロール片44aは、中心部に穴部58が形成された概円環状の不織布57からなる。不織布57は、複数本の繊維を有する。ロール片44aは、台座43を構成する本体部47の長手方向に亘る両端部の近傍、すなわち孔部53が本体部47の外周に開設されていない非形成領域L4の範囲に積層される。
【0079】
図8(b)において、ロール片44bは、中心部に穴部58が形成された概円環状の不織布57からなる。不織布57は、複数本の繊維を有する。また、ロール片44bは、内周の等分6箇所に、概U字状の切欠き部50が形成されている。ロール片44bは、台座43を構成する本体部47の長手方向に亘る両端部の近傍における非形成領域L4と、略中央部の近傍における集中形成領域L5を除く孔部53が外周等分6箇所に開設された形成領域L3の範囲内に積層される。
【0080】
図8(c)において、ロール片44cは、中心部に穴部58が形成された概円環状の不織布57からなる。不織布57は、複数本の繊維を有する。また、ロール片44cは、内周の等分12箇所に、概U字状の切欠き部50が形成されている。ロール片44cは、台座43を構成する本体部47の外周等分12箇所に孔部53が開設された長手方向の略中央部の近傍における集中形成領域L5の範囲内に積層される。
【0081】
図8(d)において、補強部材59aは、中心部に穴部58を有する概円環状にて形成されている。補強部材59aは、台座43を構成する本体部47の長手方向に亘る両端部の近傍、すなわち孔部53が本体部47の外周に開設されていない非形成領域L4の範囲に、ロール片44aと共に積層される。補強部材59aの外径はロール片44aの外径よりも小さく、内径はロール片44aの内径と略同一である。
【0082】
図8(e)において、補強部材59bは、中心部に穴部58を有する概円環状にて形成されている。また、補強部材59bは、内周の等分6箇所に、概U字状の切欠き部50が形成されている。補強部材59bは、台座43を構成する本体部47の長手方向に亘る両端部の近傍における非形成領域L4と、略中央部の近傍における集中形成領域L5を除く孔部53が外周等分6箇所に開設された形成領域L3の範囲内に、ロール片44bと共に積層される。補強部材59bの外径はロール片44bの外径よりも小さく、内径はロール片44bの内径と略同一である。
【0083】
図8(f)において、補強部材59cは、中心部に穴部58を有する概円環状にて形成されている。また、補強部材59cは、内周の等分12箇所に、概U字状の切欠き部50が形成されている。補強部材59cは、台座43を構成する本体部47の外周等分12箇所に孔部53が開設された長手方向の略中央部の近傍における集中形成領域L5の範囲内に、ロール片44cと共に積層される。補強部材59cの外径はロール片44cの外径よりも小さく、内径はロール片44cの内径と略同一である。
【0084】
ロール片44bと補強部材59bの有する切欠き部50が本体部47の形成領域L3に亘って連なり、ロール片44cと補強部材59cの有する切欠き部50が本体部47の集中形成領域L5に亘って連なることにより、複数の流体拡散溝部34が形成されると共に、孔部53のロール部22側に流体拡散溝部34が位置するよう設定される。すなわち、孔部53と、流体拡散溝部34は対向するよう形成される。
【0085】
上記の如く構成された台座43を用いて、本体部47の外周にロール片44a、44b、44cと補強部材59a、59b、59cを積層させてロール部22が形成されたロール21の動作、作用は下記の通りである。
【0086】
ロール21は、本体部47の外周にたいする孔部53の開口面積の比率が、本体部47の端部の近傍における形成領域L3よりも、略中央部の近傍における集中形成領域L5の方が大きく形成されているので、本体部47の略中央部の近傍において、より多くの圧縮流体が流体拡散溝部34に沿って流れると共に、ロール部22の外周からロール21の外部に流出する。ところで、鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面は、さまざまな幅のものがロール部22に接触し、通過するが、ロール部22の略中央部の近傍は、必ず前記被洗浄面が通過する。従って、ロール部22の略中央部の近傍は、最も液体が吸収される箇所である。その為、本体部47の略中央部の近傍から、より多くの圧縮流体がロール部22に流れ込む形態とすることにより、ロール部22からの液体の排出性能が飛躍的に向上する。」
上記の記載事項及び図面からみて、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数の孔部53を備えた略円筒形状の本体部47、中空部状の継ぎ手部A48、継ぎ手部B49からなる台座43と、本体部47の外周に積層され、概円環状の不織布57からなるロール片44a、44b、44c、補強部材59a、59b、59cで構成したロール部22を設けたロール21であって、
本体部47は、孔部53が外周に開設されていない端部の近傍における非形成領域L4、孔部53が本体部47の外周等分6箇所に設けられていると共に、本体部47の長手方向に略平行に形成された形成領域L3、孔部53が本体部47の外周等分12箇所に設けられていると共に、本体部47の長手方向に略平行に形成された集中形成領域L5からなり、
ロール片44aは、中心部に穴部58が形成され、台座43を構成する本体部47の長手方向に亘る両端部の近傍、すなわち孔部53が本体部47の外周に開設されていない非形成領域L4の範囲に積層され、
ロール片44bは、中心部に穴部58が形成され、内周の等分6箇所に、概U字状の切欠き部50が形成されていて、台座43を構成する本体部47の長手方向に亘る両端部の近傍における非形成領域L4と、略中央部の近傍における集中形成領域L5を除く孔部53が外周等分6箇所に開設された形成領域L3の範囲内に積層され、
ロール片44cは、中心部に穴部58が形成され、内周の等分12箇所に、概U字状の切欠き部50が形成されていて、台座43を構成する本体部47の外周等分12箇所に孔部53が開設された長手方向の略中央部の近傍における集中形成領域L5の範囲内に積層され、
補強部材59aは、中心部に穴部58を有し、台座43を構成する本体部47の長手方向に亘る両端部の近傍、すなわち孔部53が本体部47の外周に開設されていない非形成領域L4の範囲に、ロール片44aと共に積層され、補強部材59aの外径はロール片44aの外径よりも小さく、内径はロール片44aの内径と略同一であり、
補強部材59bは、中心部に穴部58を有し、内周の等分6箇所に、概U字状の切欠き部50が形成されていて、台座43を構成する本体部47の長手方向に亘る両端部の近傍における非形成領域L4と、略中央部の近傍における集中形成領域L5を除く孔部53が外周等分6箇所に開設された形成領域L3の範囲内に、ロール片44bと共に積層され、補強部材59bの外径はロール片44bの外径よりも小さく、内径はロール片44bの内径と略同一であり、
補強部材59cは、中心部に穴部58を有し、内周の等分12箇所に、概U字状の切欠き部50が形成されていて、台座43を構成する本体部47の外周等分12箇所に孔部53が開設された長手方向の略中央部の近傍における集中形成領域L5の範囲内に、ロール片44cと共に積層され、補強部材59cの外径はロール片44cの外径よりも小さく、内径はロール片44cの内径と略同一であり、
ロール片44bと補強部材59bの有する切欠き部50が本体部47の形成領域L3に亘って連なり、ロール片44cと補強部材59cの有する切欠き部50が本体部47の集中形成領域L5に亘って連なることにより、複数の流体拡散溝部34が形成されると共に、孔部53のロール部22側に流体拡散溝部34が位置するよう設定される、すなわち、孔部53と、流体拡散溝部34は対向するよう形成されているロール。」
(2-2)甲第2号証
甲第2号証には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高速移行する鋼帯の表面付着水分、又は高熱脱液ラインに装置される高反撥、無粘性の不織布シート状物を利用する積層ロールの製作方法と、複合構造積層ロールに関するものである。」
(き)「【0055】尚図14に示す如く、前記素材1間に、ロール第二構成部として、この素材1又は戻り防止素材2より、粗の不織布シート状物15(粗の素材)をディスク状にして適宜間隔(間隔枚数は、限定されず。以下同じ)介設し、また望ましくは、素材1より小径とする。
【0056】この粗の不織布シート状物15を、通液路として利用する複合構造積層ロール101を構成する。」
(3)対比
本件発明1と甲1発明とを比較すると、後者の「複数の孔部53」は「多数の細孔」に相当し、以下同様に、「略円筒形状の本体部47、中空部状の継ぎ手部A48、継ぎ手部B49からなる台座43」は「管状のロール軸」に、「穴部58」は「ロール孔」に、「ロール部22」は「ロール本体」に、「ロール21」は「機能性ロール」に、「概U字状の切欠き部50」は「切欠き部」に、「流体拡散溝部34」は「気液導通路構造」を構成する「内圧作用室」に、それぞれ相当する。
本件発明1の「弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなる高密度のポーラスなシート素材」と甲1発明の「概円環状の不織布57からなるロール片44a、44b、44c、補強部材59a、59b、59c」とは、「弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるポーラスなシート素材」である限りで一致する。
したがって、本件発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「多数の細孔を備えた管状のロール軸と、このロール軸が貫通されるロール孔を備えた弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるポーラスなシート素材で構成したロール本体を設けた機能性ロールであって、
前記ロール本体は、前記ロール軸の内圧を作用させる気液導通路構造を備えおり、この気液導通路構造は、前記ロール軸の周面と、前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部とで構成した内圧作用室で構成し、
前記内圧を、前記気液導通路構造を介して、前記ロール本体に作用させる気液導通路構造を備えた機能性ロール。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1の「ロール本体」が「高密度のポーラスなシート素材」で構成されるとともに、「前記ロール本体」は「前記ロール軸の内圧を作用させるラチス状気液導通路構造」を備え、この「ラチス状気液導通路構造」は、「内圧作用室」、及び、「この内圧作用室に連通し、かつ前記ロール本体の径方向に設けた、前記高密度のポーラスなシート素材に比し、弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるロール孔を備えた低密度のポーラスなシート素材でなる内圧分岐作用路」で構成しているのに対して、甲1発明は、「ロール片44a、44b、44c、補強部材59a、59b、59c」を構成する「概円環状の不織布57」の「密度」が不明であるとともに、「気液導通路構造」を構成する「流体拡散溝部34」を備えているものの、上記のような「内圧分岐作用路」を備えているかどうか、したがって、ラチス状気液導通路構造を備えているかどうかが不明である点。
[相違点2]
本件発明1は「この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成とし、」という事項を具備しているのに対して、甲1発明はそのような事項を具備しているかどうかが不明である点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
甲第1号証には、上記(え)に摘記したように、「【0069】補強部材39a、39bは、…、ロール部22に吸収される液体により膨潤等により劣化しなければ、材質、形状等は、特に限定されるものではない。補強部材39a、39bの材質としては、例えば、平板状の不織布37、織布、編物等の布帛、合成樹脂板、金属板、フィルム状樹脂組成物、合成樹脂発泡体等が用いられる。好適には、液体が浸透しやすい空隙部を有する不織布37が用いられる。前記不織布37の空隙率は、強度等を考慮し、5%以上50%以下であることが望ましい。補強部材39aと補強部材39bは同一の材質であっても、異なる材質であっても構わない。また、ロール片24a、24bと補強部材39a、39bは同一の材質であっても、異なる材質であっても構わない。ロール片24a、24bと補強部材39a、39bが異なる材質である場合、補強部材39a、39bは、ロール片24a、24bよりもコストが安価な材質であれば、ロール21のコストを抑えることができる。」と記載されており、液体が浸透しやすい空隙部を有する不織布37が用いられること、不織布37の空隙率は、強度等を考慮し、5%以上50%以下であることが望ましいこと、ロール片24a、24bと補強部材39a、39bは異なる材質であってもよく、異なる材質である場合、補強部材39a、39bは、ロール片24a、24bよりもコストが安価な材質とすることが示されている。しかし、一方で、甲第1号証には、上記(い)の【0018】、【0019】、(え)の【0073】、【0074】に摘記したように、「ロール部」が「補強部材を有する」場合、ロール部の表面部は、芯部に比べて硬度が低く、柔軟性が高いこと、ロール片と補強部材が積層されているロール部の芯部は表面部に比べて硬いことが示されているとともに、上記(い)に摘記した【0019】の「請求項4の発明のロールは、特に、請求項3のロールにおいて、補強部材の内周には切欠き部が形成されてあるもので、ロール部は補強部材が積層されてあっても、連続的に形成された流体拡散溝部が確保される為、圧縮流体の流れが補強部材により遮断されることがない。その為、圧縮流体と液体を均一にロール部の外周から排出することができる。」の記載(【0074】にも同旨の記載がある。)をみると、圧縮流体の流れが補強部材が積層されることにより遮断されることが記載ないし示唆されている。また、「補強部材59a、59b、59c」の「補強」の語義からすると、「補強部材59a、59b、59c」はそれが取付けられ、ないしは設置される部位にある「ロール片44a、44b、44c」より柔軟であるとは、通常、考えられない。以上を勘案すると、「ロール片44a、44b、44c」の「概円環状の不織布57」が「高密度」であり、「補強部材59a、59b、59c」の「概円環状の不織布57」が「低密度」であること、すなわち、「補強部材59a、59b、59c」が「気液導通路」を構成することが、甲第1号証に示されているとは認められない。また、甲第1号証には、ほかに、そのような事項を示唆する記載は見当たらない。
甲第2号証には、上記(き)に摘記したように、素材1間に、ロール第二構成部として、この素材1又は戻り防止素材2より粗の不織布シート状物15(粗の素材)をディスク状にして適宜間隔で介設すること、この粗の不織布シート状物15を通液路として利用することが示されている。そして、甲第2号証の特に図14をみると、素材1、不織布シート状物15(粗の素材)等の形状及び配置は、本件特許の特に図2、10のシート素材300、シート素材7等と類似している。しかし、本件発明1の「補強部材59a、59b、59c」の性状、機能は上述したとおりであり、それは、甲第2号証の「不織布シート状物15(粗の素材)」の性状、機能と相反するものであり、もし、甲第2号証の「不織布シート状物15(粗の素材)」に関する上記事項を甲1発明の「補強部材59a、59b、59c」に適用すると、甲1発明の目的、機能、ないし効果が減殺され、あるいは没却されてしまう。単に形状、配置が類似しているからといって、それだけの理由で、甲1発明に甲第2号証の上記事項を適用することが、当業者にとって容易に想到し得たものであるということはできない。
(4-2)相違点2について
請求人は、弁駁書(第4ページ第18?25行)において、甲第1号証の「図8(e)に示す切欠き部50が6個ある補強部材59bは、図7の形成領域L3に設置される。また、図8(f)に示す切欠き部50が12個ある補強部材59cは、図7の集中形成領域L5に設置される。したがって、形成領域L3と集中形成領域L5の境界部分においては、切欠き部50が6個しかない補強部材59bは、切欠き部50が12個ある補強部材59cの6個の切欠き部50に対応する切欠き部がないことから、その対応部分の内壁は、「内圧作用室の切欠き部に至る構成」であり、「低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部」と同一である。」と主張する。
しかし、(a)形成領域L3と集中形成領域L5の境界部分における「対応部分の内壁」が「ロール片44b」であるか「補強部材59b」であるかは不明であり、「補強部材59b」であると直ちにいうことはできない。また、「対応部分の内壁」を「補強部材59b」とすることが当業者にとって容易に想到し得たとする理由は何もない。もし、「補強部材59b」であるとしても、それを「気液導通路」とすることが容易になし得るものでないことは、(4-1)において上述したとおりである。
また、(b)本件発明1では、「前記ロール軸の周面と、前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部とで構成した内圧作用室」が要件であって、「ロール本体の軸方向に設けた切欠き部」を備えている。そして、「低密度のポーラスなシート素材」は「この内圧作用室に連通し」、さらに、「この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成」とされている。一方、甲第1号証には、上記(い)の【0018】、【0019】、(え)の【0073】、【0074】に摘記したように、圧縮流体の流れが補強部材が積層されることにより遮断されることが記載ないし示唆されていること、甲第1号証の図7にみられるように、切欠き部50が形成されていない形成領域L3の内周の6箇所には、軸方向にわたって孔部53が開設されていないこと、以上からすると、この箇所の軸方向に延びる部位が圧力流体の通路となっているとは考えられない。したがって、仮に、「対応部分の内壁」が「補強部材59b」であって、それが「低密度」であることが容易に想到し得たとしても、構造、機能からみて、それが、「内圧作用室に連通し」ているということはできない。まして、そのような「補強部材59b」が「内圧作用室の切欠き部に至る構成」である「低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部」を備えているということは到底できない。
他に、甲1発明において、相違点2に係る上記事項が容易に想到し得たものであるとする理由は見出せない。
(5)むすび
以上により、本件発明1が甲第1号証、及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるということはできない。したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

6-2.無効理由2について
(1)本件発明2
本件発明2は上記のとおりである。
なお、被請求人は、上記のとおり、国内優先を取下げる旨、述べているとともに、本件発明1について優先権主張の効果が認められないことは上述したとおりであり、実質的にそれと同じ理由により、本件発明2についても優先権出張の効果は認められない。そうすると、上述のとおり、甲1号証は、特許法第29条第1項第3号の「刊行物」に該当する。
(2)証拠方法及びその記載内容
甲第1号証、甲第2号証及びその記載内容は上記のとおりである。
甲第3号証には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(さ)「「産業上の利用分野」
本考案は、ディスク状の複合ロール構成材を圧着状に重畳して構成したロール本体と、吸引(吹出)機能を有する軸本体とでなるスポンジ吸引(吹出)ロール装置に関するものであり、この種吸引ロール装置は、例えばフィルム、ガラス、ゴム製品等のプレート状物、金属、板材、繊維製品、キーボード用プリント基板等の表面に付着又は含有する水、処理液等の流体の払拭又は除去のために使用される。」(明細書第2ページ第18行?第3ページ第6行)
(し)「図中7はディスク状の複合ロール構成材8の表層側を構成する極細繊維不織布材料とウレタン弾性体とよりなる極細繊維絡合体て、9は同複合ロール構成材8の内層側を構成する不織布等の多孔質部材でなる弾性多孔質体であり、この極細繊維絡合体7と弾性多孔質体9とを第3図、第4図に示すように、その接合部10を凹凸状、山形状、鋸歯状等とし、…」(明細書第11ページ第10?17行)
(す)「尚複合ロール構成材8の軸方向相互間では、独立しており、具体的には第5図に示すように、複合ロール構成材8の相互間にはそれぞれ隙間20が構成されるものである。」(明細書第13ページ第13?16行)
(3)対比及び判断
甲第3号証の上記摘記事項及び図面(特に第3?5図)をみると、複合ロール構成材8の表層側を構成する極細繊維絡合体7の内側が凹凸状に形成されているものが示されており、この技術事項は、その形状の点では、本件発明2の「管状内周面」が「山部と谷部で構成し、」という事項とその限りでは類似しているということもできる。しかし、本件発明1が甲第1号証、及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるということはできないことは上述したとおりであり、そうである以上、本件発明2において、本件発明2が引用する本件発明1の特定事項に加えてさらに追加されている事項と類似の構成が甲第3号証に示されているからといって、本件発明2が甲第1号証、甲第2号証、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
(むすび)
以上により、本件発明2が甲第1号証、甲第2号証、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるということはできない。したがって、本件発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

6-3.無効理由3について
無効理由3は、無効理由1、2の優先権主張に関する前提が否定された場合の予備的な主張である。
請求人が主張するように、本件発明1、2について優先権主張の効果が認められないことは、上述したとおりである。したがって、無効理由3はその前提を欠き、無効理由として意義のない不適格なものとなる。ただ、念のため、その優先権主張の効果が認められると仮定して、無効理由3についても検討した。結果は次のとおりである。
本件発明1が甲第1号証(これは、甲第1号証に係る出願について出願公開をした特許公報である。)に記載された発明と比較して相違点を有し、それが、当業者にとって容易に想到し得たものでないことは上述したとおりである。したがって、本件発明1が甲第1号証に記載された発明と同一でないことは明らかである。よって、本件発明1は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張、及び提出した証拠方法によっては、本件発明1、2(請求項1、2に係る発明)についての本件特許を無効とすることはできない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。

追記
なお、請求人は、平成23年2月8日付け上申書の第6ページ第1行?第
8ページ第1行において、本件発明1、2は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとの無効理由について、その根拠を詳しく主張している。しかし、それは、要するに、甲第2号証に記載された発明と本件発明1とを対比して一致点と相違点を認定し、相違点は甲第1号証に記載された発明を適用することにより容易に発明をすることができたと主張するものであって、従来の無効理由とは異なり、いわば甲第1号証と甲第2号証とを入れ換えたものである。このような主張は、無効理由の論理構成を変更ないし追加する補正であって、請求理由の要旨を変更するものである。そして、上記上申書が口頭審理後に提出されていること、及び、訂正後の本件発明1、2について上記弁駁書、口頭審理陳述要領書において請求理由が主張されていること、以上からみて、特許法第131条の2第2項による許可の決定はしないこととする。
ただ、上記上申書の主張について、念のため、検討した。その結果は以下のとおりである。
請求人は、「相違点」について、「(3)したがって、甲第2号証に開示された上記参考図1?5に記載の構成を見た当業者が、軸体3側に形成された嵌合溝4を、甲第1号証に記載されているロール本体の軸方向に設けた切欠き部に変更し、上記参考図2及び3に記載された粗の不織布シート状物15に形成されている突片を前記切欠き部に至る構成として、被請求人が提出した口頭審理陳述要領書の6頁に記載された参考図のような構成とすることは、日常的に行われている設計変更に過ぎないものであり、…」と主張する。しかし、甲第2号証の例えば【0006】?【0010】、【0020】、【0035】をみると、素材1の内周面に突設された突片1aを軸本体3aの嵌合溝4に挿入、嵌着することは甲第2号証に記載された発明に必須の基本的構成であり、「軸体3側に形成された嵌合溝4を、甲第1号証に記載されているロール本体の軸方向に設けた切欠き部に変更」することは当業者が容易に想到し得たということは到底できない。また、「粗の不織布シート状物15に形成されている突片」は嵌合溝4に挿入、嵌着するためのものであるから、仮に、「嵌合溝4を、甲第1号証に記載されているロール本体の軸方向に設けた切欠き部に変更」したとき、その「突片」を「切欠き部に至る構成」とする理由は何もない。
以上のとおり、上記上申書における甲第2号証に記載された発明の認定、一致点・相違点の認定が妥当であるとしても、相違点の判断については上述のとおりであるから、上記上申書における主張に理由がないことは明らかである。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロール
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気、及び/又は、通液透過性を備えたロール軸と、このロール軸の外周面に設けたロール本体(ロール作用部)で構成した機能性ロールであって、このロール軸の内圧を制御し、このロール本体で、被処理物の溶液、洗浄水等を吸収、又は被処理物に溶液、洗浄水等を供給する機能(吸液機能とする)を、持続的に維持する構造を備えた液の除去、又は付与(塗布等)を行う機能性ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、ロール軸の細孔構造による孔数、孔径、その配置と、このロール軸の外周面に設けたロール本体の性質、その厚み寸法等の物理的な選定で構成し、この構成を基にして、ロール軸の内圧を、ロール本体に分散・配分し、このロール本体の吸液機能が図られている。そして、この吸液機能の圧損減少と、配分の均一化を図ることを意図し、通常(管状)のロール軸に替え、ロール軸構造をフィン状、又は溝状とするとともに、このロール本体のロール軸側内面の内圧に対する働き表面積(露出面積)を最大化する構造がある。その一例を、先行文献から検討する。
【0003】
以下、ロール軸の構造に関する先行技術の文献について説明する。
【0004】
文献(1)は、本出願人が発明した、特開平5-180216号「高反撥、無粘性の不織布シート状物を利用する積層ロールの製作方法と、複合構造積層ロール」である。この発明は、円筒状の軸本体と、その両端に設けられた鍔体、及び軸受部とでなる軸体と、この軸本体の周壁面に開設し、かつ軸本体の空洞部に連通する多数の細孔と、この軸本体に套嵌される吸液機能を有するロール本体とで構成した複合構造積層ロールであって、前記軸受部に設けた貫通孔が、この軸本体の空洞部に連通する構成である。この発明の特徴は、ロール本体を、密の不織布シート状体(密のパッド:細かい密度)と、粗の不織布シート状物(粗のパッド:粗い密度)を、重畳圧縮して積層ロールを形成し、所定密度(細かい密度)のポーラス(微細な孔)を備えたロール本体を構成する。これにより、高速移行する鋼帯の表面に残留する水分、薬液等の流体を、効率的に排除し、かつ吸水、吸液(吸液機能)することにある。
【0005】
しかし、この発明では、軸本体の空洞部と細孔とは、確実に連通するが、この細孔と、重畳圧縮成型された粗のパッドとが必ずしも連通する保証がなく、十分な吸液機能を達成しない状況となることが考えられる。
【0006】
文献(2)は、本出願人が考案した、実開平1-84213号「ディスク成形された複合ロール構成材でなる吸引ロール装置」である。この考案は、円筒状の軸本体と、その両端に設けられた鍔体、及び軸受部とでなる軸体と、この軸本体の周壁面に開設し、かつ軸本体の空洞部に連通する多数の細孔と、この軸本体に套嵌される弾性多孔質体と、この弾性多孔質体の外周面に設けた極細繊維絡合体とでなる吸液機能を有するロール本体とで構成した吸引ロール装置であって、前記軸受部に設けた貫通孔が、この軸本体の空洞部に連通する構成である。この考案の特徴は、ロール本体と軸本体との接続部にスペーサーによる液溜り副室部を設けた構成である。これにより、文献(1)と略同じ吸液機能することにある。
【0007】
しかし、この考案は、軸本体にスペーサー構造を必要とし、構造が複雑となること、また、ロール本体の保持安定性が劣り、かつ軸本体の機械強度上の面で問題があること、等の改良点が考えられる。
【0008】
【特許文献1】特開平5-180216号
【特許文献2】実開平1-84213号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の機能性ロールの特質上から、実際の能力は、ロール軸の内圧を、このロール本体に対して、どのようにして作用させるかが、このロール本体の作用特性、効率に大きく依存する。
【0010】
しかし、このロール本体の素材、密度等に基づく性質、寸法等を把握し、より良い作用特性、効率を得ようとしても、単に、この性質、寸法等では、解決できない問題がある。また、その反面、この性質、寸法等とは、相反した、悪い作用特性、効率となることも少なくない。
【0011】
その解決策の一つとして、前述の文献(1)、(2)、並びに市販の機能性ロールの如く、ロール軸に設けた細孔に改良をする方法がある。例えば、この細孔の数、孔径、配置に関する構造である。しかし、この構造は、ロール軸としての役割りである強度等の機械的、構造的必要と条件を考慮した場合には、自ずから、制限があって、目的とする細孔の数、孔径、配置を確保できない問題と、また、細孔の均一な配分が得られにくく、かつ一般に圧損が大きること、等が考えられる。そして、また、この構造のみでは、ロール本体が高い効率で、均質な効果を発揮し得る状態には程遠く、実用に即した設計を余儀なくされると考えられる。
【0012】
また、文献(1)、(2)、並びに市販の機能性ロールの如く、ロール本体のロール軸側内面の内圧に対する働き表面積を最大化するロール軸構造は、その構造、かつ形状よりして、ロール本体の形状を保持し、かつその安定を保つのが難しくなり、実用上の応用に限界が考えられる。
【0013】
尚、文献(1)、(2)、並びに市販の機能性ロールにおいて、一定の分野において、その機能も一定の評価は得ている。しかしながら、本発明が意図する、高速移行する鋼帯の表面付着水分、又は高熱脱液ライン等の過酷な状況下で長時間に亙り,吸液機能を発揮し、かつ形態維持を図り得る、弾性不織布シート素材(高反撥、無粘性の不織布シート素材)、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材で構成した機能性ロールとして最適な特質を十分に引出し得ているものではないと考えられる。
【0014】
本発明の目的を総括すると、ロール軸の内圧を、ロール本体に分散・配分し、このロール本体の吸液機能を効率的に発揮しつつ、この吸液機能の圧損減少と、配分の均一化を図ることを意図し(低損失で効率が良い合理的な構造を実現し、これにより内圧により作用するロール本体本来の機能を最大限引き出すことを目的とし)、また、このロール本体のロール軸側内面の内圧に対する働き表面積(露出面積)を最大化する構造を提供することを意図する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明は、[A]高密度のポーラスなシート素材(ディスク状気液透過性素材)で構成したロール本体(ロール作用部であり、気液透過性ロール本体、又は作用部ロール本体)を、管状で、かつ通気・通液構造を備えたロール軸の周面に設けた機能性ロールであって、吸液装置に接続し、ロール軸の内圧の作用をロール作用部に及ぼす構造を備え、このロール作用部によりロール軸の空洞部に作用する液量を制御し、液を吸収、又は付与する機能を持続的に維持する構造の機能性ロールを提供する。[B]前記ロール軸の内圧を、ロール本体に分散・配分し、このロール本体の吸液機能を効率的に発揮しつつ、この吸液機能の圧損減少と、配分の均一化を図ることを意図し(低損失で効率が良い合理的な構造を実現し、これにより内圧により作用するロール本体本来の機能を最大限引き出すことを目的とし)、また、このロール本体のロール軸側内面の内圧に対する働き表面積(露出面積)を拡充する構造を提供する。
【0016】
請求項1は、多数の細孔を備えた管状のロール軸と、このロール軸が貫通されるロール孔を備えた弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなる高密度のポーラスなシート素材で構成したロール本体を設けた機能性ロールであって、
前記ロール本体は、前記ロール軸の内圧を作用させるラチス状気液導通路構造を備えおり、このラチス状気液導通路構造は、前記ロール軸の周面と、前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部とで構成した内圧作用室、及び、この内圧作用室に連通し、かつ前記ロール本体の径方向に設けた、前記高密度のポーラスなシート素材に比し、弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるロール孔を備えた低密度のポーラスなシート素材でなる内圧分岐作用路で構成し、
この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成とし、
前記内圧を、前記ラチス状気液導通路構造を介して、前記ロール本体に作用させることを特徴としたラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロールである。
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
請求項2の発明は、請求項1の目的を達成しつつ、さらに、この目的達成に最適な、ロール本体の軸方向に設けた切欠き部の内周面構造(ロール軸と、ロール本体の切欠き部の内周面との境界面の面積の拡充)と、合せてロール作用部に対して、ロール軸の内圧機能を十分に発揮でき、かつ、実機に適した、多孔構造であって、しかも、このロール軸の機械的強度を確保できる孔数、孔径等のロール軸構造を提案することを意図する。
【0022】
請求項2は、請求項1に記載のラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロールに於いて、
前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部は、その管状内周面が軸方向において、山部と谷部で構成し、この内周面の周面積を拡大することを特徴としたラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロールである。
【発明の効果】
【0023】
効率:本発明の技術の場合、同一規模のロールに対し、大出力を効率良く作用させることが可能になる。下記の[図表1]は、比較真空値、[図表2]は、風量、Qとの関係を示す。従来技術では、Ia、Ibに示されるように損失が大きく、出力のロスが大きく、効率が低い。本発明の技術の場合、損失が少なく、大出力を用いても、フラットなQ特性域で効率の高い結果が得られる。
【0024】


【0025】

【0026】
除去能力:前述の効率により、入口条件([図表3]参照)の影響が著しい従来の技術に比べ、その影響を受けにくく、高い能力を示す。そして、[図表4]に示した如く、低い入口液量条件での絶対値の比較した場合、明らかに高い能力を示すが、特に、比較的粘性の高い液体の取扱いにおいては、従来得られなかった水準の達成が可能となる。
【0027】


【0028】

【0029】
安定性-I:実運用条件下における、ロール本体(ロール作用部)表面吸収性(g/m2・sec、単位面積・時間当たり)変化測定結果を[図表5]に示す。吸収性の変化は、運用条件下の汚れ等の影響により、定期的なロール本体(ロール作用部)表層部の研削除去(ドレッシング)整備により更新されるが、本発明の技術による場合、前述の効率の寄与が、ロール本体表面面吸収性の変化特性としても認められ、従来の技術と比較して、高い水準を持続することが可能となる。
【0030】


【0031】
安定性-II:従来技術による場合、液特性によっては、[図表6]に示すように、吸収量、即ち液透過性の不規則な変動や、抵抗(真空値)の累積的増大、即ち不安定性を示しやすい。例えば、非等質性の液であるエマルション系オイルの場合、油成分サイズ、濃度等により大きな抵抗生じるほか、不均一な流動性を示すこと等から、こうした傾向が発生する。本発明の技術では、前述の効率と、これを更にロール本体表面に効率良く及ぼす構造により、[図表6](同一条件下加速度試験比較評価)に示すように、安定した結果を得ることが可能である。
【0032】

【0033】
以上のような効果は、少なくともその一部は、本発明の技術・構造によらないで、ロール本体の密度を極めて低くする、ロール本体の厚みを極薄くする、ロール軸の通気・通液構造をなす多孔構造の孔数、孔径を極大化する等によっても可能となるが、このロール軸としての役割である強度等の機械的、構造的必要と条件と、このロール軸の作用の均質性、処理品質(除去能力等)等を十分に満たすものとしては実勢的ではなく、目的に適うものとはならない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第一実施例の機能性ロールの円周方向の一部欠截断面模式図
【図2】第一実施例の機能性ロールを一部省略し、軸方向において一部を断面で示した一部欠截模式図
【図3】図1に示した矢印イと、矢印ロの端面箇所を欠截し、表面視するロール軸の細孔と、ラチス状気液導通路(内圧作用室と内圧分岐作用路)を示した一部欠截拡大模式図
【図4】図2の要部拡大模式図
【図5】各実施例に共通する高密度のポーラスなシート素材の拡大側面図
【図6】第二実施例の機能性ロールの内圧分岐作用路が、直接ロール本体表面に達して作用する構造を示した一部欠截要部拡大断面模式図
【図7】第三実施例で、機能性ロールの他の内圧作用室(切欠き部に山部と谷部を設けた)を示した一部欠截断面模式図
【図8】図7の一部欠截要部拡大断面模式図
【図9】第四実施例で、低密度のポーラスなシート素材の外周面を凹凸形状とし、この周面積の拡充を図る構造を示した一部欠截断面模式図
【図10】第五実施例で、内圧作用室に、低密度のポーラスなシート素材を突出させた機能性ロールの円周方向の一部欠截断面模式図
【図11】図9の要部拡大模式図
【図12】第六実施例の機能性ロールであり、高密度のポーラスなシート素材と、環状孔を備えた高密度のポーラスなシート素材との組合せで、空間の内圧分岐作用路とする構造を示した円周方向の一部欠截断面模式図
【図13】図11の環状孔を備えた高密度のポーラスなシート素材の側面図
【図14】第七実施例の機能性ロールであり、高密度のポーラスなシート素材と、環状孔を備え、かつ内周面を凹凸形状とし、この周面積の拡充を図る高密度のポーラスなシート素材との組合せで、空間の内圧分岐作用路とする構造を示した円周方向の一部欠截断面模式図
【図15-1】図13の機能性ロールの他の内圧作用室(切欠き部に山部と谷部を設けた)を示した一部欠截要部拡大断面模式図
【図15-2】図13の環状孔を備え、かつ内周面を凹凸形状とし、この周面積の拡充を図る高密度のポーラスなシート素材の側面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の実施形態を、実施例に基づき図面を参照して説明する。
【0036】
図1は、第一実施例の機能性ロールの円周方向Bの一部欠截断面模式図を示す。図において、1は内圧作用室で、この内圧作用室1は、適宜の幅A1(大径)でなる弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるロール孔301を備えた高密度のポーラスなシート素材300の内面3bに切欠き形成した管状断面形状の切欠き部2と、このシート素材300のロール孔301に貫設される管状のロール軸4の周面400とで構成される。そして、このロール軸4の周面400に多数の細孔5(通気・通液構造)を開設する。また、このロール軸4は、管状(円筒状)で空洞部401を有する軸本体4a、及び、この軸本体4aの両端に設けられた鍔体4b・4b、及び一方に連通孔402を有する軸受部4c・4c(軸承部)で構成する。また、図5、図7及び図8の如く(第三実施例)、内圧作用室1の切欠き部2は、その管状内周面200が軸方向Xにおいて、山部2aと谷部2bで構成することで、この管状内周面200の内周面面積Z1(周面積)を拡大し、流路抵抗の少ない管状断面形状とするとともに、ロール軸4と、ロール本体3の切欠き部2の内周面200との境界面の面積の拡充を図る。この切欠き部2の管状断面形状、及び/又は、境界面の面積の拡充を図ることで、例えば、吸液機能の向上と、実機に適した(実用に供する)、ロール軸4の機械的強度を確保できる孔数、孔径等(細孔5)のロール軸構造を提案できる。尚、前記切欠き部2は、シート素材300のロール孔301の周面外方(径方向Y)に向かって、かつその軸方向Xに切欠き形成した管状断面形状とする。また、この切欠き部2は、その円周方向Bにおいて複数条設ける構造とする。
【0037】
そして、この内圧作用室1は、内圧分岐作用路6に連通するが、この内圧分岐作用路6は、適宜の小幅A2(小径)でなる一枚の弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるロール孔700を備えた低密度のポーラスなシート素材7(シート素材7)で構成する。そして、このシート素材7(内圧分岐作用路6)は、前記切欠き部2(内圧作用室1)と交差して設け、かつこのロール本体3の一部を形成する。また、このシート素材7は、第一実施例では、内圧作用室1の切欠き部2と相似する切欠き部701を形成するが、図10に示した第五実施例の如く、内圧作用室1の切欠き部2に至る延設部702を設け、この延設部702が、前記の如く、内圧作用室1に至ることで、例えば、吸液機能の向上と、実機に適した、内圧分岐作用路6としてのシート素材7構造となる。さらに、図示しないが、この延設部702を、ロール本体3の表面3aに至らしめることで、この内圧分岐作用路6の吸液機能を、直接、ロール本体3の表面3aに作用させる構造も可能となり、有益性を有する。そして、この吸液機能の向上は、例えば、吸込力の低容量化に役立つこと、省エネルギーに役立つこと等が考えられる(他の実施例も同じ)。
【0038】
そして、図2に示した第一実施例の模式図では、五枚のシート素材300と、一枚のシート素材7との組合せで、内圧分岐作用路6を形成する構造を示している(一例である)。この図においては、この五枚のシート素材300が圧縮されて、その両側面3cの形状が変化する状態を実線で模式的に示してある。
【0039】
尚、図6に示した第二実施例では、シート素材7の外周面703をロール本体3の表面3aまで至らしめることで、このロール本体3の全周面に吸液機能を付与する構造である。この一例では、内圧分岐作用路6の吸液機能を、直接、ロール本体3の表面3aに作用させる構造も可能となり、有益性を有する。その他は、前述の例に準ずる。
【0040】
また、図9に示した、第四実施例は、シート素材7の外周面703に山形、波形、その他の凹凸形状を設けて、この外周面703の外周面面積Z2を拡大することで、吸液機能の拡充と、ロール本体3の表面3aの吸液機能の向上とが図れる実益がある。また、その他は、前述の例に準ずる。
【0041】
以上で説明した、内圧作用室1と、内圧分岐作用路6が交差複合して、図3に示した、ラチス状気液導通路8が形成される。図において、ラチス状気液導通路8は、ロール軸4の細孔5と、正確に、かつ多数個が適確に連通することで、例えば、このラチス状気液導通路8は、ロール本体3の内周面表面3aに対峙する、このロール本体3の内周面内面3b(ロール軸4の周面400に接する側でロール孔301を備えた)に、このロール軸4の内圧を作用させ得ること、また、この内圧を分散・配分できる特徴があり、もって、吸液機能の有効性に寄与できる。さらに、このロール本体3の表面3aにおいて、均一な内圧作用分布、即ち、この内圧は、このロール本体3(ロール作用部)への望ましい作用特性と効率化として機能する。また、この効率化は、吸込力の低容量化に役立つこと、省エネルギーに役立つこと等が考えられる(以下、同じ)。
【0042】
そして、この内圧作用室1、及び内圧分岐作用路6を、好ましくは、図3に示した如く、ロール軸4の周面400上に、交差し、格子状を形成するよう位置関係で組込み、ラチス状気液導通路8(ラチス状構造の気液導通路)を形成して一体構造とする発明であり、複雑、かつロール本体3のポーラスな構造と、吸液機能、並びにロール本体3の全域に亙る、前記内圧構造を、極めて合理的、かつシンプルな構造をもって可能とすること、又はこの合理的、かつシンプルな構造は、一つには、構成部品数の増加回避により、コスト面での合理性、コンサベーションにも当然適すること、更には、品質の維持、性能の安定にも少なからず寄与できること、等の実益性と有効性とを備えている。尚、ロール軸4の空洞部401に連通して設け、かつ外部に開口された連通孔402には吸引機構等内圧作用機用の配管(図示せず)が接続される。従って、このロール軸4に作用する吸引力は、細孔5より、格子形状のラチス状気液導通路8(内圧作用室1→内圧分岐作用路6)からの有効な吸液(通気・通液)作用は、ロール軸4の内圧を負圧(真空)作用させる場合は、このロール本体3の表部液吸収を活性化される。そして、この吸収された液体は、負圧により、ラチス状気液導通路8(内圧分岐作用路6→内圧作用室1)と、細孔5を通じ、ロール軸4の空洞部401→連通孔402を経由して、確実、かつ効率的に流出する。
【0043】
また、望ましくは、複数の図において示す如く、ロール軸4に開設した細孔5の外側(周面400)を管状凹み部500とすることで、この細孔5の吸液機能を拡充することも可能である。但し、このロール軸4の機械的強度を確保できる構造とする。
【0044】
続いて、図12に示した第六実施例では、図13に示した、弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるシート素材300a(シート素材300aとする)であって、そのロール軸4用のロール孔301より、円周外方に向って、カットした環状孔301bを形状した大径内面3b-1を有するドーナツ形状の形状とする。そして、このシート素材300aと、前記シート素材300との組合せ構造で、ラチス状気液導通路8を形成する一例である。この一例では、一枚、又は複数枚積層したシート素材300間に、一枚、又は複数枚積層したシート素材300aを介設することで、この隣接するシート素材300のそれぞれ側面3cと、このシート素材300aの環状孔301bとで空間9を形成する。この空間9は、内圧作用室1に連通するとともに、この内圧作用室1に交差する(軸に向かった)内圧分岐作用路6であって、ラチス状気液導通路8となる。そして、この空間9を、前記内圧分岐作用路6とする構造の一例では、シート素材7の省略と、コストの削減化が図れる特徴がある。
【0045】
また、図14に示した第七実施例は、前記第六実施例の他の実施例である。そして、第七実施例は、図15-2に示した、シート素材300aであって、その環状孔301bを形状した大径内面3b-1の内周面3b-2に山形、波形、その他の凹凸形状を設けて、この内周面3b-2の内周面面積Z3を拡大することで、吸液機能の拡充と、ロール本体3の表面3aの吸液機能の向上とが図れる実益がある。また、その他は、前述の第六実施例の例に準ずる。尚、図15-1は、この第七実施例に、前記第三実施例の山部2aと谷部2bを設けた構造であり、その特徴は、第三実施例に準ずる。
【0046】
その他、本発明の機能性ロールの機能復帰と、再利用の製造方法としては、ロール本体3を、ロール軸4から外した状態において、切削、薬品処理等により、ロール本体3内部の内圧作用室1と、内圧分岐作用路6、又は細孔5の修理(機能回復)、リサイクルに役立つ実益がある。
【符号の説明】
【0047】
1 内圧作用室
2 切欠き部
200 内周面
2a 山部
2b 谷部
3 ロール本体
300 シート素材
300a シート素材
301 ロール孔
301b 環状孔
3a 表面
3b 内面
3b-1 大径内面
3b-2 内周面
3c 側面
4 ロール軸
400 周面
401 空洞部
402 連通孔
4a 軸本体
4b 鍔体
4c 軸受部
5 細孔
500 凹み部
6 内圧分岐作用路
7 シート素材
700 孔
701 切欠き部
702 延設部
703 外周面
8 ラチス状気液導通路
9 空間
A1 幅(大径)
A2 小幅(小径)
B 円周方向
X 軸方向
Y 径方向
Z1 面積
Z2 面積
Z3 面積
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の細孔を備えた管状のロール軸と、このロール軸が貫通されるロール孔を備えた弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなる高密度のポーラスなシート素材で構成したロール本体を設けた機能性ロールであって、
前記ロール本体は、前記ロール軸の内圧を作用させるラチス状気液導通路構造を備えおり、このラチス状気液導通路構造は、前記ロール軸の周面と、前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部とで構成した内圧作用室、及び、この内圧作用室に連通し、かつ前記ロール本体の径方向に設けた、前記高密度のポーラスなシート素材に比し、弾性不織布シート素材、又は不織布に架橋弾性体を付与し得られた機能性複合シート素材でなるロール孔を備えた低密度のポーラスなシート素材でなる内圧分岐作用路で構成し、
この低密度のポーラスなシート素材に設けた延設部は、前記内圧作用室の切欠き部に至る構成とし、
前記内圧を、前記ラチス状気液導通路構造を介して、前記ロール本体に作用させることを特徴としたラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロール。
【請求項2】
請求項1に記載のラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロールであって、
前記ロール本体の軸方向に設けた切欠き部は、その管状内周面が軸方向において、山部と谷部で構成し、この内周面の周面積を拡大することを特徴としたラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-02-15 
結審通知日 2011-02-18 
審決日 2011-03-02 
出願番号 特願2009-293388(P2009-293388)
審決分類 P 1 113・ 853- YA (F16C)
P 1 113・ 841- YA (F16C)
P 1 113・ 121- YA (F16C)
P 1 113・ 852- YA (F16C)
P 1 113・ 851- YA (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 高弘  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 倉田 和博
川本 真裕
登録日 2010-04-02 
登録番号 特許第4484168号(P4484168)
発明の名称 ラチス状気液導通路構造を備えた機能性ロール  
代理人 大矢 広文  
代理人 大矢 広文  
代理人 竹中 一宣  
代理人 大矢 広文  
代理人 竹中 一宣  
代理人 竹中 一宣  
代理人 中村 繁元  

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