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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1236793
審判番号 不服2008-4877  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-28 
確定日 2011-05-12 
事件の表示 特願2003-111512「圧粉磁心用金属粉末とその製造方法、および圧粉磁心の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月11日出願公開、特開2004-319749〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年4月16日の出願であって,平成19年10月26日付けの拒絶理由通知に対して,同年12月28日付けで手続補正書及び意見書が提出されたが,平成20年1月23日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年2月28日に審判請求がされるとともに,同年3月25日付けで手続補正書が提出され,その後,平成22年8月25日付けで審尋がされ,同年10月25日に回答書が提出されたものである。

第2 平成20年3月25日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであり,以下のとおりである。

〈補正事項a〉
・補正前の請求項1の「圧粉磁心用金属粉末」を,補正後の請求項1の「自動車用モーターに使用される圧粉磁心用金属粉末」と補正する。

2 補正目的の適否
補正事項aは,補正前の請求項1の「圧粉磁心用金属粉末」を,補正後の請求項1の「自動車用モーターに使用される圧粉磁心用金属粉末」と,その用途を限定的に減縮したものであるから,補正事項aは,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する

したがって,特許請求の範囲についての本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する要件を満たす。

そこで,以下,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを,請求項1に係る発明について検討する。

3 独立特許要件を満たすかどうかの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,次のとおりである。

【請求項1】
「金属粉末の表面が,分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂で被覆されてなり,且つ該フェノール樹脂の含有量が0.05?0.2質量%であることを特徴とする自動車用モーターに使用される圧粉磁心用金属粉末。」

(2)刊行物に記載の発明
(2-1)刊行物1:特開2002-280209号公報
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2002-280209号公報(以下「引用例1」という。)には,「高強度圧粉磁心用粉末,高強度圧粉磁心とその製造方法」(発明の名称)に関して,図1,図2とともに,次の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。以下同様。)。

ア 特許請求の範囲
・「【請求項1】 軟磁性粉末とフェノール樹脂微粉末を含むものであることを特徴とする高強度圧粉磁心用粉末。」
・「【請求項3】 前記フェノール樹脂は,分子内にメチロール基を有するものである請求項1または2に記載の高強度圧粉磁心用粉末。」
・「【請求項5】 前記フェノール樹脂微粉末が0.5?5質量%含有されているものである請求項1?4のいずれかに記載の高強度圧粉磁心用粉末。」

イ 発明の背景等
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,鉄粉や鉄基合金粉末の如き軟磁性粉末と,フェノール樹脂微粉末を主体とする圧粉磁心用材料,該材料から得られる圧粉磁心およびその製造方法に関するものである。本発明によって得られる圧粉磁心は,常温,さらには高温における機械的強度や磁気的特性に優れる。
【0002】
【従来の技術】交流磁場内で使用される磁心においては,鉄損,特に渦電流損が小さいことや磁束密度が高いことが必要であると共に,製造工程におけるハンドリングおよびコイルにするための巻き線の際に破損のないことが必要である。いわゆる圧粉磁心の場合は,鉄粉粒子間に絶縁性を有する樹脂を介在させることで渦電流損を抑制できると共に,該樹脂が鉄粉粒子間で接着剤の役割を果たすため,良好な機械的強度を確保して破損を防止することが可能である。
【0003】圧粉磁心に関する従来の技術としては,鉄粉などの軟磁性粉末と,エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂,シリコーン系樹脂,フェノール樹脂,ナイロン樹脂などの有機バインダー樹脂との混合物を所定の形状に圧縮成形して得られることが知られており,また,圧縮成形時の粉末相互間の摩擦抵抗や成形型との摩擦抵抗を減ずるベく,さらにステアリン酸亜鉛やステアリン酸リチウムなどの潤滑剤を0.8?1質量%程度混合して量産化を図ることも行われている(例えば,特開昭56-74902号,特開昭62-232102号,特公昭58-46044号,特公平4-12605号など)。」
・「【0007】また,圧粉磁心の上記渦電流損を抑制するために,十分な電気絶縁性を付与することが求められており,この点から,成形に先立ち,バインダー樹脂を軟磁性粉末と均一に混合する必要がある。こうした軟磁性粉末/バインダー樹脂の混合物の均一性は,これを成形して得られる圧粉磁心の機械的強度の向上の点からも重要であるが,例えばフェノール樹脂は液状,塊状,あるいはフレーク状であるため,トルエン,キシレン,ヘキサンなどの炭化水素系溶剤に溶解させた上で,軟磁性粉末と混合しなければならず,作業性に難点があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,上記事情に着目してなされたものであり,その目的は,軟磁性粉末とバインダー樹脂が均一に混合しており,軟磁性粉末粒子間における渦電流を抑制し得る電気抵抗を有し,且つ高い機械的強度をも有する圧粉磁心の原料となる混合粉末と,該混合粉末から得られる圧粉磁心およびその製造方法を提供することにある。」

ウ 発明の実施の形態
・「【0016】本発明の圧粉磁心用粉末は,上記の軟磁性粉末とフェノール樹脂微粉末を含むものであり,該フェノール樹脂がバインダー樹脂としての役割を果たす。フェノール樹脂は熱硬化性樹脂であり,圧縮成形後,熱処理して架橋反応を進行させること,すなわち熱硬化させることで,良好な機械的強度を有する圧粉磁心が得られる。よって,本発明で用いるフェノール樹脂は,分子内にメチロール基を有する自己架橋型のものが好ましい。
【0017】圧粉磁心において,良好な電気抵抗と機械的強度を獲得するためには,圧縮成形に先立ち,軟磁性粉末とフェノール樹脂とが均一に混合していることが不可欠である。上記の通り,フェノール樹脂の形態は,通常,液状や塊状,フレーク状であり,固体の場合,軟磁性粉末の平均粒径よりも10倍以上大きいため,軟磁性粉末との均一混合を図るには,フェノール樹脂を溶剤に溶解させて用いる必要がある。これに対し,本発明の圧粉磁心用粉末では,微粉末のフェノール樹脂を用いることによって,溶剤なしに軟磁性粉末との均一混合を達成し,優れた電気抵抗と機械的強度を有する圧粉磁心の製造を可能としたのである。」
・「【0026】上記フェノール樹脂は,圧粉磁心とした場合の機械的強度を確保するため,粉末全量中0.5質量%以上,好ましくは0.7質量%以上含有されることが推奨される。他方,フェノール樹脂量を増加すれば,機械的強度と電気絶縁性は向上するが,圧粉磁心における軟磁性粉末の体積率が減少して磁気的特性の低下を引き起こすため,粉末全量中5質量%以下,好ましくは2質量%以下含有されることが望ましい。」
・「【0031】また,本発明の圧粉磁心は,上記の圧粉磁心用粉末を用いて製造される。その製造方法は,
1(丸数字:審決注)上記圧粉磁心用粉末を圧縮成形する工程,および
2(丸数字:審決注)圧縮成形体中のフェノール樹脂を熱硬化する工程,を備えるものである。」
・「【0036】このようにして得られる本発明の圧粉磁心は,常温,さらには高温における機械的強度および磁気的特性に優れるものである。」

エ 発明の効果
・「【0056】
【発明の効果】本発明は以上の通り構成されており,バインダー樹脂としてフェノール樹脂微粉末を採用することで,優れた機械的強度,電気抵抗および磁気的特性を有する圧粉磁心の製造を可能とする圧粉磁心用混合粉末と,これにより得られる高強度圧粉磁心およびその製造方法を提供できた。本発明の圧粉磁心用粉末は,軟磁性粉末とフェノール樹脂微粉末が均一に混合しているため,溶媒を用いる必要がない点で,作業性が良好である。
【0057】また,上記フェノール樹脂として特定のものを用いることで,常温のみならず100℃以上の高温においても,優れた機械的強度を有する圧粉磁心の提供も可能となった。このような本発明の高強度圧粉磁心は,従来では使用不可能であった高温で荷重のかかる機器などにも適用できる。」

(2-2)引用発明
上記ア?エによれば,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「軟磁性粉末と分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂微粉末を含むものであり,前記フェノール樹脂が0.5?5質量%含有されているものであることを特徴とする高温で荷重のかかる機器に適用できる高強度圧粉磁心用粉末。」

(2-3)刊行物2:特開2002-75720号公報
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2002-75720号公報(以下「引用例2」という。)には,「圧粉磁芯」(発明の名称)に関して,図1?図4とともに,次の記載がある。

ア 発明の背景等
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,圧粉磁芯の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば,金属粉末を加圧成形して得られる圧粉磁芯は,インジェクタの電磁弁の作動用コイルの磁芯,モータ・ヨーク,スイッチング電源の直流出力側の平滑用チョークコイルや交流入力側のノーマルモード・ノイズフィルタの磁芯,力率改善用のアクティブ・フィルタの磁芯,或いはDC-DCコンバータの昇圧および降圧コイルの磁芯等の種々の分野に利用されている。このような用途に用いられる圧粉磁芯においては,一般に,エネルギー・ロス(鉄損)を可及的に少なくすることが望まれることから,保磁力を低くすると共に電気抵抗率を高くする必要がある。そのため,上記金属粉末として,例えば,シリコーン樹脂や水ガラス等で粒子毎に絶縁皮膜を施したFe-Si 系軟質磁性粉末が用いられている。なお,Fe-Si 系磁性材料は Fe(鉄) に Si(珪素) を添加することで電気抵抗率を高めたものであるが,特にその粉末を用いる圧粉磁芯では,粒子表面に酸化膜(SiO_(2))が形成されることにより粒子相互間の導通が阻害されるため,磁芯の電気抵抗率が更に高められることになる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで,上記のような用途のうち,電磁弁の作動用コイルの磁芯やモータ・ヨーク等の用途では,一層の小型化のために高い磁力・吸着力すなわち高い磁束密度が要求される。また,電磁弁のような磁芯に衝撃力や振動が与えられるような用途では,高い機械的強度も必要となる。しかしながら,粉末を加圧により相互に結合させた圧粉磁芯では,粒子相互間の空隙が多く低密度であると共に粒子相互の結合力が小さいことから,鋼板積層磁芯やアモルファス磁芯等に比べて磁束密度が低く且つ機械的強度が低い傾向にある。そのため,Fe-Si 系磁芯において,電気抵抗率を高く保ちつつ磁束密度および機械的強度を一層高くすることが望まれていた。
【0004】本発明は,以上の事情を背景として為されたものであって,その目的は,磁束密度,機械的強度,および電気抵抗率の十分に高い圧粉磁芯を提供することにある。」

イ 発明の実施の形態
・「【0013】
【発明の実施の形態】以下,本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0014】図1は,本発明の一適用例である磁芯10の全体を示す図である。磁芯10は,例えば外形28(mm),内径20(mm),厚み 5(mm)程度の大きさの円環状を成すものである。この磁芯10は,例えば,図2に示されるように,導線12が所定回数だけ巻き付けられることによってチョークコイル或いは電磁弁の作動用コイル14等に用いられる。なお,図2においては導線12が極めて粗く巻き付けられているが,巻き付け密度は必要なコイル特性に応じて適宜変更される。
【0015】上記の磁芯10は,例えば,Siを0.5 ?5.0(%)程度の割合で含むFe-Si 系軟質磁性粉末を加圧成形した圧粉磁芯である。磁性粉末は,例えば篩により測定した平均粒径が30?100(μm)程度のものであり,個々の磁性粉末粒子16は,走査電子顕微鏡により測定した得た平均アスペクト比(長径と短径との比)が1.5 ?3.0 程度で,図3に断面形状を模式的に示すように,長径に垂直な断面が略円形を成し且つ両端部に向かうに従ってその断面が小径となる紡錘状粒子である。また,この磁性粉末粒子16の表面は,個々に或いは2?3個程度が纏めて,例えば水ガラス(アルカリ珪酸系ガラスの濃厚水溶液,例えば,Na_(2)O・nSiO_(2) ・mH_(2)O)に由来する珪酸系ガラス(例えば,Na_(2)O・nSiO_(2) )から成る薄い絶縁皮膜18で略覆われており,この絶縁皮膜18によって磁芯10を構成する粒子16相互が略絶縁させられている。磁芯10は,このような被覆された磁性粉末粒子16が相互に絡み合った組織で構成されているのである。そのため,磁芯10は,磁束密度が磁界の強さを10000(A/m)としたときの値で1(T)以上,機械的強度が曲げ強さで80(MPa) 以上,電気抵抗率が500(μΩ・cm) 以上の,電磁弁の作動用コイル等の用途に好適な高い特性を備えている。
【0016】このような磁芯10は,例えば,以下のようにして製造される。以下,磁芯10の製造方法を,図4に示す工程図を参照して説明する。先ず,粉末製造工程20では,例えば,鉄(Fe)に0.5 ?5.0(%)の範囲内の割合で珪素(Si)を添加した溶湯を細孔から流出させ,これに圧縮ガスや水流ジェットを作用させて飛散させ粉末化する噴霧法等により,Fe-Si 系磁性粉末を製造する。このとき,溶湯の温度,細孔からの流出量,圧縮ガス等の吹きつけ圧や温度等の生成条件を適宜設定することにより,前記のような平均粒径および形状を備えた粉末を得ることができる。溶湯温度は例えば1500? 1650(℃) 程度に,細孔径は例えば直径3 ?10(mm)程度に設定される。なお,この噴霧の際にはSiが空気中の酸素(O_(2))と化合するため,製造されたFe-Si 系磁性粉末の表面にはSiの酸化により生成されたSiO_(2)膜(酸化膜)が,その表面全面或いは一部に存在する。
【0017】次いで,コーティング工程22においては,磁性粉末100(%)に対して1(%)程度の割合となるように,水ガラスで磁性粉末の粒子にその表面を覆う絶縁皮膜18を形成する。このコーティング工程22は,例えば,水ガラスを磁性粉末に添加して攪拌機等で攪拌混合(或いは混練)し,或いは,水ガラスをスプレした後,50?200(℃) 程度の適当な温度で乾燥すること等により行うことができる。そのため,絶縁皮膜18を形成する際に磁性粉末の一部は凝集粒となっていることから,前述したように必ずしも全ての粒子が個々に独立した状態で絶縁皮膜18を備えておらず,幾つかの粒子が凝集した凝集粒が一つの絶縁皮膜18で覆われたものも生ずることになる。なお,絶縁皮膜18は,成形後に粒子相互を絶縁するだけでなく,粒子相互を結合することにより成形体の保形性を確保するためのバインダ(結合剤)としても機能するものである。そのため,絶縁皮膜18の構成材料は,後述する加熱処理の際にも焼失せず絶縁性を保つだけの耐熱性を有するものが好ましく,本実施例ではこのようなものが選ばれている。」
・「【0033】また,実施例においては,水ガラスを混練やスプレ等により磁性粉末粒子16にコーティングしていたが,絶縁皮膜となる材料中に浸漬する等の他の方法を用いることも可能である。また,絶縁皮膜18は,水ガラスに由来するガラス膜の他,シリコーン樹脂,フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の焼鈍工程26において加熱された際にもその絶縁性を失わない種々の材料を好適に用いることができ,添加量は,実施例で示した1(%)に限られず,必要な絶縁性や成形性等に応じて適宜定められる。」

ウ 発明の効果
・「【0006】
【発明の効果】このようにすれば,圧粉磁芯は個々に絶縁皮膜を備えたFe-Si 系軟質磁性粉末で構成されるが,その磁性粉末はSiの含有量が0.5 ?5.0(%),個々の粒子形状が平均アスペクト比で1.5 ?3.0 であることから,磁束密度,機械的強度,および電気抵抗率が何れも十分に高い圧粉磁芯を得ることができる。なお,Si含有量が0.5(%)未満では十分に電気抵抗率が高められず,Si含有量が5.0(%)を越えると,磁束密度および機械的強度が不十分となる。また,アスペクト比が1.5 未満でも機械的強度が不十分になり,アスペクト比が3.0 を越えると機械的強度が不十分になると共に電気抵抗率も低くなる。因みに,珪素鋼においては,Si含有量が多くなるほど電気抵抗率が高められるが,その反面で磁束密度が低下すると共に,粒子の硬度上昇に伴い成形密度が低下し延いては機械的強度が低下する傾向にある。また,アスペクト比が大きくなるほど粒子相互の絡み合いが多くなり且つ加圧成形時の粒子の変形により粒子相互間の隙間が埋められることから,機械的強度が高められるが,その反面で電気抵抗率が低下する傾向にあり,しかも,アスペクト比が大きくなり過ぎるとその絡み合いが却って成形体の密度を低下させて機械的強度も低下させる。なお,本願において「平均アスペクト比」とは,粉末を構成する個々の粒子の最大径(長径)と最小径(短径)との比(アスペクト比)の粉末全体における平均値をいう。また,「個々に絶縁皮膜を備え」とは,磁性粉末が一つ一つの粒子毎に絶縁皮膜を有することをいうものであるが,磁芯を構成する全ての粒子がそのような理想状態にある必要はない。例えば2?3個程度の粒子が纏まってその周りに絶縁皮膜を有するような部分が存在していても差し支えない。また,本願において含有量や添加量等の「(%) 」は,特に断らない限り質量百分率である。」

(2-4)刊行物3:特開平11-195520号公報
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平11-195520号公報(以下「引用例3」という。)には,「圧粉コア用強磁性粉末,圧粉コアおよびその製造方法」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

ア 特許請求の範囲
・「【請求項1】 強磁性金属粉末に,酸化チタンゾルおよび/または酸化ジルコニウムゾルと,フェノール樹脂とが添加されている圧粉コア用強磁性粉末。
【請求項2】 前記フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂である請求項1の圧粉コア用強磁性粉末。」
・「【請求項4】 前記フェノール樹脂が前記強磁性金属粉末に対し1?30vol%添加されている請求項1?3いずれかの圧粉コア用強磁性粉末。
【請求項5】 前記酸化チタンゾルおよび/または酸化ジルコニウムゾルが,強磁性金属粉末に対し0.1?15 vol%添加されている請求項1?4いずれかの圧粉コア用強磁性粉末。」

イ 発明の背景等
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,トランスやインダクタ等の磁心,モーター用コア,その他の電磁部品に用いる圧粉コアと,この圧粉コア用の粉末と,この圧粉コアの製造方法とに関する。」
・「【0003】これに対し,強磁性金属粉末を水ガラス等のバインダを用いて結着した,いわゆる圧粉コアが知られており,上記強磁性金属粉末としては鉄粉,パーマロイ粉,センダスト粉等が用いられている。圧粉コアは,複雑な形状であっても一体的に成形加工でき,また,材料歩留まりは実質的に100%となるので,積層型コアの代替品としての用途が期待されている。」
・「【0008】近年は,電気,電子機器の小型化が進み,小型で高効率の圧粉コアが要求されている。強磁性金属粉末は,飽和磁束密度が大きいためコアを小型化できるが,電気抵抗が小さいため渦電流損失が大きくなるという問題がある。このため,強磁性金属粒子表面には,通常,絶縁膜が形成される。圧粉コアの製造工程では,成形時に生じる歪み(ストレス)を低減し,圧粉コアの保磁力を下げるために,通常,アニールが行われる。強磁性金属粒子のストレスを十分に解放するためには,高温でのアニールが必要である。しかしながら,従来,絶縁材として用いられている水ガラスやシリコーン樹脂では,高温においての樹脂の減少量が多いので,アニールを行うと強磁性金属粒子間の絶縁が不十分となる。これにより,高周波領域における渦電流損失が著しく大きくなってしまい,透磁率の周波数特性が悪くなるとともに,コア損失が大きくなってしまい,十分な磁気特性が得られなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,高温でアニールすることができ,高磁束密度,低保磁力,低損失であって,機械的強度の高い圧粉コアとそのための強磁性粉末,圧粉コアの製造方法を提供することである。」
・「【0014】特開昭61-288403号公報には,アトマイズで得られた60メッシュ以下の純鉄粉に,1?5体積%のフェノール樹脂を添加し,圧縮成形,硬化処理を行って得られる圧粉磁心が開示されている。実施例では,純鉄粉に,フェノール樹脂を添加し,これに潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を加え,5ton/cm^(2)で加圧成形した後,80℃で2時間,180℃で2時間の硬化処理を施して圧粉磁心を得ている。しかしながら,この程度の温度では,成形のストレスが残り,保磁力が大きいままである。」

ウ 発明の実施の形態
・「【0016】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の圧粉コア用強磁性粉末は,強磁性金属粉末に,酸化チタンゾルおよび/または酸化ジルコニウムゾルと,フェノール樹脂とが添加されているものである。酸化チタンゾルおよび/または酸化ジルコニウムゾルと,フェノール樹脂とは,絶縁材として用いる。
【0017】コアとしての磁気特性を向上させるために,圧粉後に加熱処理(アニール)を行うことが好ましいが,高温で処理すると樹脂の減少量が多く,強磁性金属粒子間の絶縁が不十分になる。しかしながら,酸化チタンゾルおよび/または酸化ジルコニウムゾルと,フェノール樹脂とを絶縁材として用いると,高温でアニールを行っても絶縁性が劣化しにくい。従って,粉末化や成形の際に生じた歪み(ストレス)がより解放され,圧粉コアの保磁力が低下するのでヒステリシス損失が小さくなり,また,絶縁性が保持されるので渦電流損失も小さいので,総損失(コア損失)が小さくなる。
【0018】絶縁材が酸化チタンゾルおよび/または酸化ジルコニウムゾルのみであると,成形体の強度が弱く,成形後の取り扱いが難しい。
【0019】絶縁材がフェノール樹脂のみであると,アニール温度を600℃程度まで高温にすると,絶縁性が劣化し,渦電流損失が大きくなるためにコア損失が大きくなる。」
・「【0024】本発明の圧粉コア用強磁性粉末は,酸化チタンゾルおよび/または酸化ジルコニウムゾルが添加されている。
【0025】酸化チタンゾル,酸化ジルコニウムゾルのように,微小粒子で,しかも,溶媒中に均一に分散しているものを強磁性金属粉末に添加することにより,少量で均一な絶縁被膜ができ,高い磁束密度を有しながら,高い絶縁性を有することができる。」
・「【0031】また,これらゾルの溶媒には水系と非水系のものとがあり,フェノール樹脂および後述する耐熱樹脂と相溶する溶媒系のものが好ましく,特に,エタノール,ブタノール,トルエン,キシレン等の非水系溶媒を用いたものが好ましい。市販のゾルが水系溶媒である場合には,必要に応じて溶媒置換を行ってもよい。」
・「【0034】本発明の圧粉コア用強磁性粉末は,上記ゾルに加えて,さらに,フェノール樹脂が添加されている。
【0035】フェノール樹脂を添加することにより,成形体強度が向上し,アニール温度を800℃程度まで高温にしても,絶縁性が劣化しにくく,渦電流損失が小さくなるためにコア損失が小さくなる。
【0036】本発明に用いるフェノール樹脂のフェノール類としては,例えば,フェノール,クレゾール類,キシレノール類,ビスフェノールA,レゾルシン等が挙げられる。用いるフェノール類は一種のみでも,二種以上でもよい。アルデヒド類としては,ホルムアルデヒド,パラホルムアルデヒド,アセトアルデヒド,ベンツアルデヒド等が挙げられる。
【0037】フェノール樹脂には,レゾール(Resol)型樹脂とノボラック(Novolak)型樹脂とがある。フェノールとアルデヒドとを反応させて樹脂をつくるときに使用する触媒が塩基性物質であるのがレゾール型樹脂で,酸性物質であるのがノボラック型樹脂である。レゾール型樹脂は,加熱または酸触媒によって硬化し,不溶不融性になる。ノボラック型樹脂は,それ自身では熱硬化しない可溶可融性の樹脂で,ヘキサメチレンテトラミンのような架橋剤とともに加熱することにより硬化する。
【0038】本発明のフェノール樹脂はレゾール型樹脂が好ましい。ノボラック型樹脂を用いると,成形体の強度が弱く,成形以降の工程での取り扱いが難しい。ノボラック型樹脂を用いる場合は,ホットプレス等の温度をかけながらの成形が不可欠である。かける温度は,樹脂によっても異なるが,通常,150?400℃程度である。」
・「【0043】強磁性金属粉末に対するフェノール樹脂の添加量は,1?30vol%,特に2?20vol%が好ましい。フェノール樹脂が少なすぎると,コアの機械的強度が低下したり,絶縁不良が生じたりしてくる。フェノール樹脂が多すぎると,圧粉コア中の非磁性分の比率が高くなって,コアの透磁率および磁束密度が低くなってくる。
【0044】フェノール樹脂と強磁性金属粉末とを混合するときには,固体状または液状の樹脂を溶液化して混合してもよく,液状の樹脂を直接混合してもよい。液状の樹脂の粘度は,25℃において好ましくは10?5000CPS,より好ましくは50?2000CPSである。粘度が低すぎても高すぎても,強磁性金属粉末表面に均一な被膜を形成することが難しくなる。」
・「【0061】このような圧粉コアは,トランスやインダクタ等の磁心,モーター用コア,その他の電磁部品に好適に使用される。また,電気自動車のチョークコイル,エアバックのセンサーにも使用できる。使用周波数は10?500kHz,好ましくは50?200kHzである。」

エ 発明の効果
・「【0083】
【発明の効果】以上のように,本発明によれば,高温でアニールすることができ,高磁束密度,低保磁力,低損失であって,機械的強度の高い圧粉コアとそのための強磁性粉末,圧粉コアの製造方法を提供できる。」

(3)対比
(3-1)次に,本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「軟磁性粉末」は,本願補正発明の「金属粉末」に相当する。
イ 引用発明の「分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂微粉末」における「分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂」は,本願補正発明の「分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂」に相当する。
ウ 引用発明の「高強度圧粉磁心用粉末」は,本願補正発明の「圧粉磁心用金属粉末」に相当する。

(3-2)そうすると,本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりとなる。

《一致点》
「金属粉末の表面が,分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂を含むことを特徴とする圧粉磁心用金属粉末。」

《相違点》
《相違点1》
本願補正発明は,「金属粉末の表面が,分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂で被覆されて」いるのに対して,引用発明は,「軟磁性粉末と分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂微粉末を含むもの」であり,軟磁性粉末の表面と分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂微粉末とが接触はしているものの,本願補正発明のように,「金属粉末の表面が,分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂で被覆されて」いるものではない点。

《相違点2》
本願補正発明は,「該フェノール樹脂の含有量が0.05?0.2質量%である」のに対して,引用発明は,「前記フェノール樹脂が0.5?5質量%含有されているものである」点。

《相違点3》
本願補正発明は,「自動車用モーターに使用される圧粉磁心用金属粉末」であるのに対して,引用発明は,「高温で荷重のかかる機器に適用できる高強度圧粉磁心用粉末」である点。

(4)相違点についての判断
(4-1)相違点1について
ア 引用例1には,「例えばフェノール樹脂は液状,塊状,あるいはフレーク状であるため,トルエン,キシレン,ヘキサンなどの炭化水素系溶剤に溶解させた上で,軟磁性粉末と混合しなければならず,作業性に難点があった。」(段落【0007】),「上記の通り,フェノール樹脂の形態は,通常,液状や塊状,フレーク状であり,固体の場合,軟磁性粉末の平均粒径よりも10倍以上大きいため,軟磁性粉末との均一混合を図るには,フェノール樹脂を溶剤に溶解させて用いる必要がある。」(段落【0017】)ことが記載されており,フェノール樹脂を溶解させた上で,軟磁性粉末と混合することは,その結果として,実質的に,本願補正発明の「金属粉末の表面が,」「フェノール樹脂で被覆されて」いることに対応する。
イ また,引用例2には,「また,実施例においては,水ガラスを混練やスプレ等により磁性粉末粒子16にコーティングしていたが,絶縁皮膜となる材料中に浸漬する等の他の方法を用いることも可能である。また,絶縁皮膜18は,水ガラスに由来するガラス膜の他,シリコーン樹脂,フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の焼鈍工程26において加熱された際にもその絶縁性を失わない種々の材料を好適に用いることができ」(段落【0033】)ることが,記載されており,引用例2に記載の「フェノール樹脂」により「磁性粉末粒子16にコーティング」することは,本願補正発明の「金属粉末の表面が,」「フェノール樹脂で被覆されて」いることに対応する。
ウ また,引用例3には,「本発明の圧粉コア用強磁性粉末は,強磁性金属粉末に,酸化チタンゾルおよび/または酸化ジルコニウムゾルと,フェノール樹脂とが添加されているものである。」(段落【0016】)ことが記載されている。
そして,引用例3に記載の上記のフェノール樹脂の添加については,「フェノール樹脂と強磁性金属粉末とを混合するときには,固体状または液状の樹脂を溶液化して混合してもよく,液状の樹脂を直接混合してもよい。」(段落【0044】)ので,フェノール樹脂と強磁性金属粉末との混合とはいえ,実質的に,本願補正発明の「金属粉末の表面が,」「フェノール樹脂で被覆されて」いることに,対応する。
エ そして,上記ア?ウに記載のように,金属粉末の表面をフェノール樹脂で被覆することは,周知技術である。
オ そうすると,引用発明の「軟磁性粉末と分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂微粉末を含む」ことに代えて,上記ア?ウに記載の周知技術を適用して,本願補正発明の「金属粉末の表面が,分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂で被覆されてな」るようにすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得たことといえる。
カ なお,一般に,フェノール樹脂は熱硬化による架橋の進行により,メチロール基が少なくなることから,「分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂」とは,熱硬化による架橋をしていない部分を有するフェノール樹脂と解される。

(4-2)相違点2について
ア 引用例2の「また,実施例にsおいては,水ガラスを混練やスプレ等により磁性粉末粒子16にコーティングしていたが,絶縁皮膜となる材料中に浸漬する等の他の方法を用いることも可能である。また,絶縁皮膜18は,水ガラスに由来するガラス膜の他,シリコーン樹脂,フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の焼鈍工程26において加熱された際にもその絶縁性を失わない種々の材料を好適に用いることができ,添加量は,実施例で示した1(%)に限られず,必要な絶縁性や成形性等に応じて適宜定められる。」(段落【0033】)という記載から,フェノール樹脂を採用する場合に,フェノール樹脂を磁性粉末粒子16にコーティングする際の添加量は,実施例で示した1(%)(「質量百分率」(段落【0006】);審決注)に限られず,必要な絶縁性や成形性等に応じて適宜定められることが分かる。
そして,磁気特性を改善したい場合には,例えば,圧粉磁芯の密度を高める為に,フェノール樹脂のようなバインダー樹脂の添加量を少なくすればよいことが技術常識であるから,このような場合には,上記の1(%)よりも,フェノール樹脂を磁性粉末粒子16にコーティングする際の添加量が少なくなるように設定することは、当然のことである。
イ また,上記(4-1)ウに記載のように,引用例3には,フェノール樹脂の添加について,「フェノール樹脂と強磁性金属粉末とを混合するときには,固体状または液状の樹脂を溶液化して混合してもよく,液状の樹脂を直接混合してもよい。」(段落【0044】)と記載されているので,引用例3に記載の金属粉末は,フェノール樹脂と強磁性金属粉末との混合とはいえ,実質的に,本願補正発明の「金属粉末の表面が,」「フェノール樹脂で被覆されて」いることに対応する。
そして,引用例3に記載の「前記フェノール樹脂が前記強磁性金属粉末に対し1?30vol%添加されている」(請求項4)ことは,請求人が審判請求書にて換算しているのと同様に,フェノール樹脂の比重を1,鉄の比重を7.86として計算すると,前記フェノール樹脂が前記強磁性金属粉末に対し約0.13?3.88質量%添加されていることになり,本願補正発明の「該フェノール樹脂の含有量が0.05?0.2質量%であること」と,数値範囲が重なっているから,バインダー樹脂の含有量としては,本願補正発明の「0.05?0.2質量%」という数値範囲程度でもよいことが示唆されている。
ウ また,引用例3には,従来例として「特開昭61-288403号公報には,アトマイズで得られた60メッシュ以下の純鉄粉に,1?5体積%のフェノール樹脂を添加し,圧縮成形,硬化処理を行って得られる圧粉磁心が開示されている。」(段落【0014】)ことが記載されている。
ここで,フェノール樹脂の添加の内容は,特開昭61-288403号公報の記載を参照すると,「アトメル300Mの鉄粉について,その見かけ密度および鉄の真密度からその空隙間体積を計算する。目標添加量の樹脂に対して希釈剤として,キシレンおよびエタノールを加え,空隙間体積に等しい樹脂溶液をつくり,これとエポキシ樹脂3?5体積%とを混合したのち自然乾燥で希釈剤を蒸発させる。」(2ページ左下欄15行?同ページ右下欄1行),「本実施例においては,第1発明の実施例におけるエポキシ樹脂に代えてフェノール樹脂を加え,前記実施例同様に各種試験を行なった。」(3ページ左上欄18?20行)ことであるから,実質的に,本願補正発明の「金属粉末の表面が,」「フェノール樹脂で被覆されて」いることに対応する。
また,「1?5体積%のフェノール樹脂を添加」することは,請求人と同様に,フェノール樹脂の比重を1,鉄の比重を7.86として計算すると,約0.13?0.65%のフェノール樹脂を添加することになり,本願補正発明の「該フェノール樹脂の含有量が0.05?0.2質量%であること」と,数値範囲が重なっており、従来よりフェノール樹脂添加量としては、普通の範囲であったと認められる。
エ そうすると,引用発明の「軟磁性粉末と分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂微粉末を含むもの」に代えて,(4-1)エに記載のような,金属粉末の表面がフェノール樹脂で被覆されているという周知技術を適用した際に,上記引用例2,3の記載からフェノール樹脂の含有量として,本願補正発明の「該フェノール樹脂の含有量が0.05?0.2質量%である」ようにすることは,当業者が必要に応じて適宜設定できた程度のことといえる。

(4-3)相違点3について
ア 引用例2には,「金属粉末を加圧成形して得られる圧粉磁芯は,・・・モータ・ヨーク・・・に利用されている。」(段落【0002】)ことが記載されており,引用例3には,「本発明は,・・・モーター用コア・・・に用いる圧粉コアと,この圧粉コア用の粉末・・・に関する。」(段落【0001】)ことが記載されており,圧粉磁心用粉末を種々のモーターに用いることは,周知技術である。
イ また,モーターとして,自動車用モーターは周知であり,セルモーター等も含む自動車用のモーターは,必ずしも高温環境で使用されるものではないし,引用発明の「高強度圧粉磁心用粉末」は,「高温で荷重のかかる機器に適用できる」ものであるから,引用発明の「高強度圧粉磁心用粉末」は,自動車用のモーターが高温環境で使用される場合も用いることができるものである。
ウ したがって,引用発明の「高温で荷重のかかる機器に適用できる高強度圧粉磁心用粉末」の「高温で荷重のかかる機器」として,上記ア,イに記載の圧粉磁心用粉末を用いることができる種々のモーターのうちの周知である自動車用モーターを選択して,本願補正発明のような「自動車用モーターに使用される圧粉磁心用金属粉末」とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(5)以上のとおり,引用発明において,上記相違点1?3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できたものである。

したがって,本願補正発明は,引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 以上の次第で,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。


第3 本願発明
1 以上のとおり,本件補正(平成20年3月25日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正前の請求項1(平成19年12月28日に提出された手続補正書により補正された請求項1)に記載された,次のとおりのものである。

【請求項1】
「金属粉末の表面が,分子内にメチロール基を有するフェノール樹脂で被覆されてなり,且つ該フェノール樹脂の含有量が0.05?0.2質量%であることを特徴とする圧粉磁心用金属粉末。」

2 引用例1の記載,引用発明と,引用例2,引用例3の記載については,前記第2,3,(2-1)?(2-4)において認定したとおりである。

3 対比・判断
前記第2,1〈補正事項a〉及び第2,2で検討したように,本願補正発明は,本件補正前の発明の「圧粉磁心用金属粉末」を,「自動車用モーターに使用される圧粉磁心用金属粉末」と限定したものである。逆に言えば,本件補正前の発明(本願発明)は,本願補正発明から,「自動車用モーターに使用される」という上記の限定をなくしたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2,3において検討したとおり,引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 結言
以上のとおり,本願発明は,引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-10 
結審通知日 2011-03-15 
審決日 2011-03-28 
出願番号 特願2003-111512(P2003-111512)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正文  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 西脇 博志
酒井 英夫
発明の名称 圧粉磁心用金属粉末とその製造方法、および圧粉磁心の製造方法  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 二口 治  
代理人 植木 久一  
代理人 菅河 忠志  
代理人 植木 久彦  

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