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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1236814
審判番号 不服2009-3637  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-19 
確定日 2011-05-12 
事件の表示 特願2005-142321「ゲーム装置およびゲームプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月27日出願公開、特開2006-192246〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年5月16日(優先権主張 平成16年12月13日)に出願された特願2005-142321号であって、平成20年9月22日付けで拒絶理由が通知され、同年12月1日付けで手続補正がなされたところ、平成21年1月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月19日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで手続補正がなされた。
その後、平成22年11月8日付けで当審において拒絶理由の通知がなされ、平成23年1月11日付けで意見書の提出及び手続補正がなされたものである。


第2 本願発明
平成23年1月11日付けの手続補正(以下「本件補正という。)は、特許請求の範囲の請求項15、19及び24、並びに明細書についてするものであって、その請求項15、19及び24についてする補正は明りょうでない記載の釈明を目的とする補正であり、明細書についてする補正は特許請求の範囲についてする補正との整合を取るための補正である。

したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年1月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(請求項1は、本件補正による補正はなされていないので、平成21年2月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項と同じである。)によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
位置指定操作の無い状態から位置指定操作の有る状態に変化したときのポインティングデバイスの操作位置の2次元座標に応じて少なくとも1つのパラメータを設定するパラメータ設定手段、および
前記位置指定操作の無い状態から前記位置指定操作の有る状態に変化したときの前記ポインティングデバイスの操作位置の入力操作に後続するスライド操作に基づいて決定される軌跡が少なくとも所定領域を通るか否かに応じて異なるゲーム処理を前記パラメータ設定手段によって設定されたパラメータを用いて実行するゲーム処理手段を備える、ゲーム装置。」


第3 引用例
1 引用例の記載事項
当審で通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に販売された「Tiger Woods PGA Tour 2003」のPC版に同梱されて頒布された刊行物と認められる、Tiger Woods PGA Tour 2003のマニュアル,表紙、裏表紙、1?26,51ページ(以下「引用例」という。)には、図面、画像とともに以下の事項が記載されている。(訳は、当審で付した。)
ここで、「Tiger Woods PGA Tour 2003」のPC版は、以下(ア)?(ウ)からして、少なくとも本願の優先日前である2002年末には発売されていたと認められる。
(ア)“Tiger Woods PGA Tour 2003 for PC”、SummaryのGame Details欄[online]、GameSpotホームページ,[2010年10月29日検索]インターネット
(イ)“Tiger Woods PGA Tour 2003(PC)”[online]、GameSpyホームページ,[2010年10月29日検索]インターネット
(ウ)引用例の第51ページ、本ソフトウェアと文書のコピーライトの表記、replacementdocsホームページ,[2010年10月29日検索]インターネットから、“Tiger Woods PGA Tour 2003”で検索

(1a)裏表紙の図面の下の最初の「NOTE」欄;
「NOTE: The swing is divided into three parts: backswing, downswing, and contact. For more information, > Executing Shots on p. 23.」
「注意:スイングは、3つのパート:バックスイング、ダウンスイング及びインパクト、に分割されます。詳細は、>p.23の[ショットの実行]」

(1b)第13ページ;
「OPTIONS
Configure a wide variety of audio, video, gameplay and course options to optimize performance on your computer.
NOTE: When you first run Tiger Woods PGA TOUR 2003, a hardware checker assesses your computer’s capabilities and determines initial settings for these options. Changing these settings can severely impact performance-in particular Object Detail and Screen Size. RECOMMEND SETTINGS restores the defaults.」
「オプション
あなたのコンピュータのパフォーマンスを最適化するために、オーディオ、ビデオ、ゲームプレイ及びコースの種々のオプションを設定して下さい。
注意:Tiger Woods PGA TOUR 2003を最初に起動したときに、ハードウェアチェッカーがあなたのコンピュータの性能を評価し、これらオプションの初期設定を行います。これらの設定-特に、[オブジェクト詳細]と[画面サイズ]-を変更すると、パフォーマンスに重大な影響を及ぼします。[推奨設定]で初期設定された状態に戻ります。」

(1c)第17ページ;
「SWING TYPES
Tiger Woods PGA TOUR 2003 gives you four mechanisms for controlling your swing. Beginners may get the hang of golfing with the 2-Click swing or 3-Click swing.
TRUESWING (V)
Use your mouse to control the on-screen golfer’s swing in real-time, perfecting your rhythm and tempo, just like a real golfer.

TRUESWING (H)
The TrueSwing (H) type of stroke is exactly like the TrueSwing (V), except that you move right to backswing and move left to finish your stroke.」
「スイングタイプ
Tiger Woods PGA TOUR 2003 では、スイングのコントロールに4つの方式があります。初心者は、2-クリックスイングか、3-クリックスイングで、ゴルフのコツを覚えた方が良いでしょう。
TRUESWING (V)
マウスを使って画面上のゴルファーのスイングを、実際のゴルファーと全く同じようなリズムとテンポでリアルにコントロールすることができます。

TRUESWING (H)
TRUESWING (H)タイプのストロークは、(マウスを、)右に動かしてバックスイングし、左に動かしてストロークを終える以外は、TRUESWING (V)と全く同じです。」

(1d)第19ページの「TARGETING」欄;
「TARGETING
With practice, you can learn how hard you want to swing and the distance that you’re likely to achieve with any swing.
You can use the Aiming Arrow to rotate the position of the golfer around the ball, effectively aiming your shot in a different direction.
To redirect the Aiming Arrow of your golfer, press ←or →. You can also click and drag the on-screen Aiming Arrow.」(当審注:前記「←or →」の矢印は、キーボードの矢印キーを示す。以下同様。)
「ターゲティング
練習すれば、望んだスイングがどのくらいの強さか、どんなスイングで到達距離はどのくらいか、がわかるようになります。
Aiming Arrowでボール周りのゴルファーの位置を回転させ、異なる方向でも効果的にねらってショットできます。
ゴルファーのAiming Arrowの方向を変えるには、←か→を押して下さい。画面上のAiming Arrowをクリックやドラッグすることも可能です。」

(1e)第21ページの画像;



画像には、ゴルフクラブを握ったゴルファーとボールとホール、及び「Aiming Arrow」と符号が付され、ボールを内包し、画像の下から上方向に向かう枠状の矢印が見て取れる。

(1f)第23?24ページ;
「TRAJECTORY ADJUSTMENTS
To decrease/increase the loft of your shot, move the slider towards the Back/Front position.

USING TRUESWING^(TM)
TrueSwing delivers the most realistic feeling of swinging a golf club on the computer.


When using TrueSwing, think of the mouse as a golf club. The face of the club represents the side of the mouse with the cord. If the cord side is the face of the club, then executing a swing simply requires that you pull the club face straight back and then push it forward through the point at which you began the swing.

The velocity and pace at which you execute the backswing, downswing and follow-through determine the power on the shot. Deviations to the left or right in your mouse movements add spin to the ball, creating draws and fades. In severe cases, deviations can cause hooks, slices and even complete misses.
EA TIP: The results of a TrueSwing depend on how well your swing matches the type of club that you are using.
To execute a swing:
1. Move the mouse towards the top of the screen to a spot where the pointer is above the club head and level with the golfer’s hands. Make sure that the swing pointer is still displayed on-screen.
2. When you are ready to swing, click the left mouse button.
3. In a smooth motion, draw the mouse straight down to execute the backswing. Pulling the mouse further down increases the backswing and adds power to the stroke.
4. When you have reached the end of the backswing, move the mouse upward until the golf club passes through the ball, and it begins flight.
NOTE: If you don’t return to the starting position, you might hit off-center, lose power or even hit the ball off the toe or heel. Movements to the left or right add hook or slice to the ball.」

「軌道調整
ショットのロフトを減少/増加させるには、スライダーを後方/前方位置に動かして下さい。

TRUESWING^(TM) の使用
Trueswingは、コンピュータ上で、最もリアルなゴルフクラブのスイング感覚を与えてくれます。

Trueswingを使う時は、マウスをゴルフクラブだと思って下さい。クラブのフェースはマウスのコードの付いた面となります。コードの面がクラブのフェイスなら、クラブフェイスをまっすぐに下げ、それからスイング開始位置を通るよう前方へ押すだけで、スイングが実行されます。

バックスイング、ダウンスイング、及びフォロースルーを行う時の速度とペースがショットの力を決定します。マウス動作の左右の偏差によって、ボールにドローやフェードを生じさせるスピンを付加します。厳しいケースでは、偏差はフックやスライス、完全なミスの原因にすらなります。
EA TIP:TrueSwing の結果は、使用するクラブのタイプにスイングがどのくらい合っているかによります。
スイングの実行:
1.画面上のマウスを、ポインターがクラブヘッドの上かつゴルファーの手のレベルに位置する点に動かし、スイングポインターが画面上に表示されていることを確認する。
2.スイングの準備ができたところで、マウスの左ボタンをクリックする。
3.なめらかな動きで、マウスを直線的に引き下げてバックスイングを実行する。さらなる引き下げは、バックスイングを増大させるとともにストロークの力を増加させる。
4.バックスイングの終点に達したら、ゴルフクラブがボールを通過して飛ばすまで、マウスを前方に動かす。
注:スタート位置に戻らないと中心から外れてヒットし、パワーを失ったり、ヒットしても、トゥやヒールに外れてボールをヒットすることになる。その左右の動きが、ボールにフックやスライスを付加することになる。」

(1g)第25ページ;
「FADES AND DRAWS WITH TRUESWING^(TM)
Look at your mouse and envision two perpendicular lines intersecting at the center of the mouse. The vertical one indicates the path that you move the mouse to execute a straight TrueSwing. The horizontal one indicates the club face.
○Assume that you are playing with a right-handed golfer using the TrueSwing(V) swing type.
To add fade to your shot for a right-handed golfer, pull the mouse down and to the right of the vertical line. When you follow through, finish to the left of the vertical line. This diagonal movement of the mouse forces the ball to fade to the right for a right-handed golfer. To execute a good fade, the mouse must return to the point at which you began the swing. Under Club Path, a well-executed fade is listed as OUTSIDE-IN.
To add draw to your shot for a right-handed golfer, pull the mouse down and to the left of the vertical line. The mouse must return to the point at which you began the swing. Under Club Path, a well-executed draw is listed as INSIDE-OUT.
To hook or slice, increase the angle of the diagonal. A hook is a more extreme draw, and a slice is a more extreme fade.
For left-handed golfers in the game, reverse the direction of the diagonal movements. For example, a lefty adds draw by pulling down to the right of the vertical line.
HEEL AND TOE SHOTS:MIS-HITS
Failure to return the mouse to its starting position can result in Miss Hit Heel shots, which strike the ball near the shaft, and Miss Hit Toe shots, which strike the ball at the end furthest from the shaft.
PUTTING WITH TRUESWING^(TM)
When you use TrueSwing, the distance traveled with the putter depends directly on the amount of backswing and the speed of the club as it impacts the ball. A deviation to the left of the starting mouse point is equivalent to rotating the putter to the left.」
「TRUESWING^(TM)のフェードとドロー
マウスを見て、マウスの中央で交わる2本の直角をなす線を思い浮かべて下さい。垂直線は、ストレートのTrueSwingを実行する際にマウスを動かす経路を表し、水平線はクラブフェースを表します。
○TrueSwing(V)のスイングタイプを使う際は、右利きのゴルファーでプレイするものとみなします。
右利きのゴルファーがショットにフェードを付けるには、マウスを、垂直線の右に引き下げます。フォロースルーの際には、垂直線の左側へフィニッシュして下さい。右利きゴルファーに対しては、この対角線のマウスの動きでボールに右のフェードがかかります。良いフェードを打つには、マウスはスイングの開始位置に戻さなくてはいけません。フェードを上手く打てた場合は、[Club Path]の中に[OUTSIDE-IN]と表示されます。
右利きのゴルファーがショットにドローを付けるには、マウスを、垂直線の左に引き下げます。マウスはスイングの開始位置に戻さなくてはいけません。ドローを上手く打てた場合は、[Club Path]の中に[INSIDE-OUT]と表示されます。
フックまたはスライスにするには、対角線の角度を大きくして下さい。フックはより極端なドロー、スライスはより極端なフェードです。

ゲームにおいて、左利きのゴルファーの場合は、対角線の動きの方向を逆にして下さい。例えば、左利きの人は、垂直線の右に引き下げることでドローになります。
ヒールとトウのショット:ミスヒット
マウスをスタート位置に戻し損ねると、ボールをシャフトの近くで打撃するミスヒットヒールのショット、ボールをシャフトから最も遠い端で打撃するミスヒットトゥのショットとなります。
TRUESWING^(TM)のパッティング
TrueSwingを使う際、パターで進む距離は、直接的にバックスイング量とボール打撃時のクラブスピードに左右されます。マウスのスタート位置からの左への偏差は、パターを左に回転させるのと同じことです。」

(1h)第26ページの「THE TRUESWING^(TM) ANALYZER」欄;
「THE TRUESWING^(TM) ANALYZER
The TrueSwing Analyzer shows you important stats about your swing.


CLUB PATH
Errors in mouse movement off the desired club path.
SPEED
Percentage and overall power rating of the shot.
Power measures the speed of the club head.
NOTE: In the TrueSwing Analyzer, overswings have a power rating greater than 100%.
TEMPO
Amount of combined time for your backswing and downswing. Try to execute a smooth swing.
Deviations result in a poor tempo rating and can result in mis-hits, a reduction in power or both.
IMPACT
How close you got the mouse to the point at which you began your swing. You always want to hit the ball on the sweet spot.」
「THE TRUESWING^(TM) ANALYZER
TrueSwing Analyzer は、スイングの重要な統計を表すものです。


CLUB PATH
所望のクラブ経路から離れたマウス動作のエラーのこと。
SPEED
ショットのパーセンテージと全体的なパワー比のこと。
パワーはクラブヘッドのスピードで測定されます。
注意:TrueSwing Analyzerにおいて、オーバースイングは、100%より大きなパワー比となります。
TEMPO
バックスイングとダウンスイングにかかった合計時間の量のこと。スムーズなスイングをするように心がけて下さい。
偏差は、テンポの評価を下げたり、ミスヒットやパワーの減少、あるいはその両方の原因となります。
IMPACT
スイング始点にマウスをどのくらい近くに寄せたか、のこと。常にボールのスイートスポットを打とうとして下さい。」

(1i)第51ページ第5?7行;
「Software and documentation (c) 2002 Electronic Arts Inc. Electronic Arts, EA SPORTS, the EA SPORTS logo and Course Architect are trademarks or registered trademarks of Electronic Arts Inc. in the U.S. and/or other countries. All rights reserved.」(当審注;「(c)」は○の中にcの文字を示す。)
「ソフトウェアと文書 (c) 2002エレクトロニックアーツ社。Electronic Arts, EA SPORTS, the EA SPORTSのロゴ、Course Architect は米国及び/またはその他の国における、エレクロトニックアーツ社の商標または登録商標。」


2 引用発明の認定
(ア)上記記載事項からして、引用例には、「Tiger Woods PGA Tour 2003」というゴルフゲームについて記載されており、上記記載事項(1b)から、当該「Tiger Woods PGA Tour 2003」が、表示手段を利用したコンピュータゲームであることは明らかである。
そして、上記記載事項(1b)、(1f)及び(1i)、並びに一般的な技術常識からして、コンピュータゲームは、ユーザによる操作手段、表示手段及び制御手段を備えた装置に、ゲームのソフトウェアを実行させて遊戯するものであることは明らかであるから、引用例の「Tiger Woods PGA Tour 2003」というコンピュータゲームも、ユーザによる操作手段、表示手段、及び制御手段を備え、ゲームのソフトウェアを実行させたゲーム装置を用いて遊戯するものであるといえる。

(イ)そして、上記記載事項(1a)(1c)及び(1f)?(1h)を参照すると、当該ゲームには、スイングタイプとして「TRUESWING」というマウスを用いた入力システムが含まれており、その記載内容、図面及び画像から、前記TRUESWINGのスイングは、
バックスイング、ダウンスイング及びインパクトの3つのパートに分割され、
バックスイング、ダウンスイング、フォロースルーを行う時の速度とペースがショットの力を決定し、マウス動作の左右の偏差が、ドローやフェードを生じさせるボールのスピンを付加するものであり、厳しいケースでは、前記偏差はフックやスライス、ミスの原因にすらなるものであり、
1.ユーザが、スイングポインターが画面上に表示されていることを確認し、
2.ユーザが、スイングの準備ができたところで、マウスの左ボタンをクリックし、
3.なめらかな動きで直線的に引き下げることによってバックスイングを実行し、さらなる引き下げは、バックスイングを増大させるとともにストロークの力を増やし、
4.バックスイングの終点に達したら、ゴルフクラブがボールを通過して飛ばすまで、マウスを前方に動かす
ことによって、実行されるものであり、
この時、そのスタート位置に戻らないと中心から外れてヒットし、パワーを失ったり、ヒットしても、トゥやヒールに外れてボールをヒットすることになって、その左右の動きが、ボールにフックやスライスを付加することになる、
というスイングであるといえる。

(ウ)上記TRUESWINGにおいて、上記記載事項(1a)(1c)及び(1e)?(1g)から、前記「2.ユーザが、スイングの準備ができたところで、マウスの左ボタンをクリック」した位置が、マウス操作のスイングの「スタート位置」であり、かつゴルフゲームで「ゴルフクラブがボールを通過」する位置、及び「インパクト」のパートであることは明らかである。
また、TRUESWINGの動作を総合すると、前記マウスの左ボタンの「クリック」が、スタート位置を決定する動作であることも、当業者には明らかである。

(エ)上記記載事項(1a)及び(1f)?(1g)を参照すると、引用例には、上記TRUESWINGにおいて、バックスイング時のマウス動作の左右の偏差に伴う角度が、飛びにおける中心から外れる度合いを決定することが記載されている。

(オ)したがって、引用例には、以下の発明が記載されている。(以下「引用発明」という。)
「ユーザによる操作手段、表示手段、及び制御手段を備え、“Tiger Woods PGA Tour 2003”というゴルフのコンピュータゲームを実行させたゲーム装置であって、
前記ゴルフのコンピュータゲームには、スイングタイプとして“TRUESWING”というマウスを用いた入力システムが含まれており、
前記“TRUESWING”は、
バックスイング、ダウンスイング及びインパクトの3つのパートに分割され、
バックスイング、ダウンスイング、フォロースルーを行う時の速度とペースがショットの力を決定し、バックスイング時のマウス動作の左右の偏差がドローやフェードを生じさせるボールのスピンを付加し、前記偏差に伴う角度が飛びにおける中心から外れる度合いを決定するものであり、
1.スイングポインターを画面上に表示し、
2.ユーザの、マウスの左ボタンのクリックを受けてスイングのスタート位置を決定し、
3.マウスの、なめらかな動きの直線的な引き下げによってバックスイングを実行し、さらなる引き下げは、バックスイングを増大させるとともにストロークの力を増やし、
4.バックスイングの終点に達したら、ゴルフクラブがボールを通過して飛ばすよう、前記スタート位置まで、マウスを前方に動かす操作を受けて、
実行されるものであり、
この時、前記スタート位置に戻らないと中心から外れてヒットし、パワーを失ったり、ヒットしても、トゥやヒールに外れてボールをヒットすることになって、その左右の動きが、ボールにフックやスライスを付加することになる、
というスイングであるゲーム装置。」

第4 対比
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)コンピュータゲームを実行するゲーム装置における制御手段が、コンピュータゲームを実行するに際し必要な各種手段として機能することは、当業者にとって明らかであるから、引用発明の、「制御手段を備え」「コンピュータゲームを実行させたゲーム装置」も、“Tiger Woods PGA Tour 2003”というコンピュータゲームを実行させるに際し必要な、各種「手段」を有しているといえる。
また、本願の段落【0272】には、ポインティングデバイスとしてマウスを用いることが記載されているから、引用発明の「マウス」は、本願発明の「ポインティングデバイス」に相当する。

(イ)引用発明では「2.…、マウスの左ボタンのクリックを受けてスイングのスタート位置を決定し、3.マウスの、なめらかな動きの直線的な引き下げによってバックスイングを実行し、さらなる引き下げは、バックスイングを増大させるとともにストロークの力を増や」すのであるから、引用発明の「ストロークの力」は、バックスイングの量、すなわち、「マウスの左ボタンのクリックを受けて」決定した「スイングのスタート位置」から「3.マウスのなめらかな動きの直線的な引き下げ」を受けた「バックスイングの終点」までの引き下げ量、に応じて増大し、設定されるパラメータであることは明らかである。
ここで、マウスを用いたコンピュータ制御における技術常識を考慮すれば、引用発明のTRUESWINGの実行に際して、マウスの操作位置を随時2次元座標として検出していることは当業者にとって明らかである。
よって、引用発明のゲーム装置も、「スイングのスタート位置」及び「バックスイングの終点」の2次元座標を得ているといえる。
してみれば、引用発明の「2.ユーザの、マウスの左ボタンのクリックを受けてスイングのスタート位置を決定し、3.マウスの、なめらかな動きの直線的な引き下げによってバックスイングを実行し、さらなる引き下げは、バックスイングを増大させるとともにストロークの力を増や」す、「制御手段を備え」た「ゲーム装置」である点と、
本願発明の「位置指定操作の無い状態から位置指定操作の有る状態に変化したときのポインティングデバイスの操作位置の2次元座標に応じて少なくとも1つのパラメータを設定するパラメータ設定手段」を備える「ゲーム装置」である点とは、
「ポインティングデバイスの操作位置の2次元座標に応じて少なくとも1つのパラメータを設定するパラメータ設定手段」を備える「ゲーム装置」である点で一致する。

(ウ)引用発明において、「バックスイングの終点」を2次元座標として位置検出していることは前述(イ)のとおりであるから、マウス操作における当該「バックスイングの終点」は、ポインティングデバイスのある時点での位置に該当するといえる。
よって、引用発明の「4.バックスイングの終点に達したら」、「前記スタート位置まで、マウスを前方に動かす操作」と、本願発明の「前記位置指定操作の無い状態から前記位置指定操作の有る状態に変化したときの前記ポインティングデバイスの操作位置の入力操作に後続するスライド操作」とは、「前記ポインティングデバイスのある時点での位置に後続するスライド操作」である点で一致する。

ここで、引用発明の前記「マウスを前方に動かす操作」は、「ゴルフクラブがボールを通過して飛ばすよう」に動かすスライド操作であるから、ボールを飛ばす、というゴルフのゲーム処理に関連する操作である。
そして、引用発明では「前記スタート位置まで、マウスを前方に動か」し、「この時、前記スタート位置に戻らないと中心から外れてヒットし、パワーを失ったり、ヒットしても、トゥやヒールに外れてボールをヒットすることになって、その左右の動きが、ボールにフックやスライスを付加することになる」のであるから、引用発明の「スタート位置」は、本願においてスライド操作によって通過または打撃するための目標である本願発明の「所定領域」(本願の段落【0154】を参照)に相当し、引用発明の「前記スタート位置に戻らないと」「ボールにフックやスライスを付加することになる」点は、本願発明の「スライド操作に基づいて決定される軌跡が少なくとも所定領域を通るか否かに応じて異なるゲーム処理」を「実行する」点に相当する。

また、ゴルフクラブでボールを飛ばす行為に「ストロークの力」が関与していることは、ゴルフにおける常識であるから、前記ボールを飛ばすというゲーム処理は、前記「マウスを前方に動かす」操作とともに、「ストロークの力」、すなわち本願発明の「パラメータ設定手段によって設定されたパラメータ」(上記(イ)を参照)をも用いて実行されているといえる。

したがって、引用発明の「4.バックスイングの終点に達したら、ゴルフクラブがボールを通過して飛ばすよう、前記スタート位置まで、マウスを前方に動か」し、「この時、前記スタート位置に戻らないと中心から外れてヒットし、パワーを失ったり、ヒットしても、トゥやヒールに外れてボールをヒットすることになって、その左右の動きが、ボールにフックやスライスを付加することになる」「制御手段を備え」た「ゲーム装置」である点と、
本願発明の「前記位置指定操作の無い状態から前記位置指定操作の有る状態に変化したときの前記ポインティングデバイスの操作位置の入力操作に後続するスライド操作に基づいて決定される軌跡が少なくとも所定領域を通るか否かに応じて異なるゲーム処理を前記パラメータ設定手段によって設定されたパラメータを用いて実行するゲーム処理手段を備える、ゲーム装置」である点とは、
「ポインティングデバイスのある時点での操作位置に後続するスライド操作に基づいて決定される軌跡が少なくとも所定領域を通るか否かに応じて異なるゲーム処理を前記パラメータ設定手段によって設定されたパラメータを用いて実行するゲーム処理手段を備える、ゲーム装置」である点で、一致する。

2 一致点・相違点
以上のとおりであるから、本願発明と引用発明とは、
「ポインティングデバイスの操作位置の2次元座標に応じて少なくとも1つのパラメータを設定するパラメータ設定手段、および
ポインティングデバイスのある時点での位置に後続するスライド操作に基づいて決定される軌跡が少なくとも所定領域を通るか否かに応じて異なるゲーム処理を前記パラメータ設定手段によって設定されたパラメータを用いて実行するゲーム処理手段を備える、ゲーム装置。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1> パラメータ設定手段が設定する、少なくとも1つのパラメータが、本願発明では「位置指定操作の無い状態から位置指定操作の有る状態に変化したときのポインティングデバイスの操作位置の2次元座標」に応じて設定されるのに対し、引用発明は、マウス操作におけるスイングのスタート位置からバックスイングの終点までの引き下げ量に応じて設定している点。

<相違点2> 所定領域を通るか否かを判断するための軌跡を決定する「スライド操作」が、本願発明が「前記位置指定操作の無い状態から前記位置指定操作の有る状態に変化したときの前記ポインティングデバイスの操作位置の入力操作」に後続する操作であるのに対し、引用発明は、バックスイングの終点に後続する操作である点。


第5 当審の判断
1 相違点1について
引用発明における「ストロークの力」(本願発明の「パラメータ」に相当)は、バックスイングの量、すなわち、マウス操作のスイングのスタート位置からバックスイングの終点までの引き下げ量に応じて設定されるものであり、前記スタート位置と前記バックスイングの終点の2次元座標が得られれば、前記引き下げ量を把握できることは幾何学上明らかである。
すなわち、マウス操作のスイングのスタート位置(バックスイングの始点)とバックスイングの終点の2点の2次元座標が得られれば、ストロークの力を設定することが可能であるといえる。

そこで、前記スタート位置について検討すると、引用発明において、マウス操作のスイングの「スタート位置」は、ゴルフゲームで「ゴルフクラブがボールを通過」する位置であり(上記「イ 引用発明の認定」の(ウ)を参照)、上記記載事項(1c)には、TRUESWING(V)が、マウスを使って、画面上のゴルファーのスイングをリアルにコントロールするものであることが記載され、上記記載事項(1e)の画像には、ゴルフクラブを握ったゴルファーとボールとホールが表示されていることが見て取れるから、前記マウス操作のスイングの「スタート位置」と画面上でゴルフクラブがボールを通過する時のボール位置とは互いに対応する座標であるといえる。
そして、画面上にボールが表示されているのであるから、引用発明の制御手段が前記ボール位置の2次元座標データを有していることは明らかであり、かつ、ゲームのユーザに、画面上でボールの位置、すなわち、「マウスを前方に動かす操作」時に「ゴルフクラブがボールを通過して飛ばすよう」スイングする時の戻り目標位置でもあるスタート位置の2次元座標を、左クリックという操作に代えて、単に画面から把握させるようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

次に、前記バックスイングの終点について検討すると、引用発明では、バックスイングの終点でクリック等の操作(本願発明における「位置指定操作の無い状態から位置指定操作の有る状態に変化したときのポインティングデバイスの操作」に相当)を行っていないが、例えば、上記「第3」「2 引用発明の認定」「(ウ)」で「また、TRUESWINGの動作を総合すると、前記マウスの左ボタンの『クリック』が、スタート位置を決定する動作であることも、当業者には明らかである。」と述べたように、マウスのクリックに伴いパラメータ(上記記載では、スイングのスタート位置の2次元座標)の決定を行うことは、マウスを用いたコンピュータ制御における周知慣用手段にすぎない。

そうすると、上述のように、引用発明は前記スタート位置と前記バックスイングの終点の2次元座標が得られれば、ストロークの力を設定することが可能であるところ、マウス操作のスイングのスタート位置(バックスイングの始点)を、画面上のボールによって制御手段及びゲームのユーザに把握させることは当業者が容易になし得ることであるから、引用発明の2.?4.のバックスイングの終点に達するまでの操作に代えて、画面上のボールに基づいてバックスイングの終点の2次元座標をクリックによって決定し、ストロークの力を設定するようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。
よって、上記周知慣用手段に照らせば、引用発明から上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

2 相違点2について
引用発明では、「4.バックスイングの終点に達したら、…、前記スタート位置まで、マウスを前方に動かす」というスライド操作を行っているから、当該スライド操作は、バックスイングの終点に後続する操作であるといえる。
そして、上記相違点1について述べたように、引用発明のバックスイングの終点を、ボールの位置(スイングのスタート位置)とは独立したクリックによって決定するものに変えることは、当業者が容易になし得たことであるから、このような技術的事項の置き換えを行えば、スライド操作の始点も「前記位置指定操作の無い状態から前記位置指定操作の有る状態に変化したときの前記ポインティングデバイスの操作位置の入力操作」となることは明らかである。
したがって、上記技術常識に照らせば、引用発明から上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことである。

3 請求人の主張について
(1)請求人は、平成23年1月11日付けの意見書において、次の主張をしている。
「引例1では、バックスイング、ダウンスイング及びインパクト(フォロースルー)の3つのパートに分割され、実際のゴルファーのようなリズムとテンポでスイングするようにマウスを動かしてスイングを制御(TRUESWING)するものです。さらにまた、引例1には、スイングの操作の一部を省略することやスイング操作の一部をクリックに代えることについては、何ら教示も示唆もありません。したがいまして、引例1を見た当業者が、バックスイングのみをクリックの操作に代えることは、発想し得ないと思います。仮に、バックスイングのみをクリックの操作に代えた場合には、実際のゴルファーのようなリズムとテンポでスイングするようにマウスをどのように動かすのかが不明であり、また、そのような操作は非常に困難であると考えます。つまり、このような発想は、本願発明をヒントにしない限り生じ得ません。」

(2)しかしながら、当該主張に対しては既に上記「1 相違点1について」で述べたとおりであり、引用発明のゲーム装置がゲームとして成立するものであることも明らかである。
そして、ゲーム中の操作を、どの程度、実社会の動作に近づけたリアルな動きにしようとするかは、当業者が適宜変更し得るゲーム演出であって、技術的な相違ではない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

4 本願発明の作用効果
本願発明の奏する作用効果についても、引用発明に記載されていない格別有利な作用効果は認められない。

5 まとめ
よって、本願発明は、周知慣用技術及び技術常識に照らせば、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に基いて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

また仮に、引用例が刊行物(本願の優先日前に販売された「Tiger Woods PGA Tour 2003」のPC版に同梱されて頒布されたマニュアル)でないとしても、「Tiger Woods PGA Tour 2003」のPC版は、上記「第3」「1 引用例の記載事項」に記したように、ゲームのソフトウェアとして本願優先日前に販売されたものであるから、上記「第3」「1 引用例の記載事項」に記載したものと同様の技術が、日本国内又は外国において公然実施をされたものであるといえる。
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第2号に掲げる発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-09 
結審通知日 2011-03-15 
審決日 2011-03-28 
出願番号 特願2005-142321(P2005-142321)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宇佐田 健二  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 今関 雅子
樋口 信宏
発明の名称 ゲーム装置およびゲームプログラム  
代理人 山田 義人  

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