ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B |
---|---|
管理番号 | 1237540 |
審判番号 | 不服2009-12323 |
総通号数 | 139 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-07-07 |
確定日 | 2011-05-26 |
事件の表示 | 特願2002-378954「磁気抵抗効果素子、及びそれを備える磁気ヘッド並びに磁気記録再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月29日出願公開、特開2004-214251〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 経緯 本願は、平成14年12月27日の出願であって、平成20年10月28日付けの拒絶理由通知に対する応答期間内の同年12月22日付けで手続補正がなされたが、平成21年4月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月7日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされた。 その後、平成22年11月30日付けで前置報告の内容に基づき審尋がなされ、平成23年1月7日付けで回答書が提出されたものである。 第2 平成21年7月7日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年7月7日付け手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 平成21年7月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という)は、特許請求の範囲については本件補正前に、 (a)「【請求項1】 第1の磁性層と、 第2の磁性層と、 前記第1の磁性層と第2の磁性層との間に形成された中間層と、 前記第1の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記第2の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち、少なくとも何れか一方の面上に、ハーフメタルを含有する挿入層とを有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。 【請求項2】 前記第1の磁性層の保磁力は、前記第2の磁性層の保磁力よりも小さく、前記第1の磁性層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項3】 前記第2の磁性層の磁化の向きは、反強磁性膜により固定され、前記第1の磁性層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項4】 さらに、前記反強磁性層と前記第2の磁性層との間に軟磁性層を備えることを特徴とする請求項3記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項5】 さらに、前記第2の磁性層と前記軟磁性層との間に貴金属層を備えることを特徴とする請求項4記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項6】 前記挿入層の膜厚は、0.2nm以上5.0nm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項7】 前記第1の磁性層と第2の磁性層の膜厚は、0.5nm以上3.0nm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項8】 前記ハーフメタルは、スピン分極率の絶対値が60%をこえる高分極率材料であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項9】 前記ハーフメタルは、AB_(2)O_(4)なる構造を持つ酸化物(AはFe、Co、Znからなる群のうち少なくとも一種、BはFe、Co、Ni、Mn、Znからなる群のうち少なくとも一種)、CrO_(2)、CrAs、CrSb又はZnOに遷移金属であるFe、Co、Ni、Cr、Mnからなる群のうち少なくとも一種以上を添加した化合物、GaNにMnを添加した化合物、C_(2)D_(x)E_(1?x)F型のホイスラー合金(CはCo、Cu又はNiからなる群のうち少なくとも一種、D及びEはMn、Fe又はCrからなる群のうち少なくとも1種、FはAl、Sb、Ge、Si、Ga又はSnからなる群のうち少なくとも一種)のうち、少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項10】 前記挿入層は、請求項9の材料からなる膜の単膜か、あるいは請求項9の材料からなる膜と、Fe,Co,Ni、Cu、Pd、Pt、NiCrの少なくとも一種類からなる金属膜(第1の膜)とが積層された構造、あるいは請求項9の材料からなる膜と、Fe2O3、FeO、Fe4N、FeN、TiO、TiO2、TiN、SrTiO3、Al2O3、Cr2O3の少なくとも一種類からなる化合物膜(第2の膜)とが積層された構造、あるいは請求項9の材料からなる膜と、前記第1の膜と、前記第2の膜とが積層された構造であることを特徴とする請求項9記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項11】 前記中間層は、Cu、Cr,Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Au、Ag、TiO、またはTiNのうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項12】 前記第1の磁性層は、Co、CoFe又はNiFeのすくなくとも一種類を含有する請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項13】 前記挿入膜を透過する電子は、スピンが分極したスピン偏極電子となり、前記挿入層に接する第1の磁性膜及び/又は第2の磁性膜に注入される電子のスピン偏極率が向上することで、前記磁性膜のスピン分極がその磁性膜がもともと有する分極率よりも増大し、磁気抵抗効果率が向上する作用を及ぼす挿入膜を備えることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項14】 請求項3に記載の磁気抵抗効果素子において、 前記反強磁性膜の下層側に下地金属膜を有し、前記下地金属膜と前記挿入層との間に、Ruを中間層とする積層フェリ構造を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。 【請求項15】 磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子に電流を供給する一対の電極とを備える磁気ヘッドにおいて、 前記磁気抵抗効果素子は、第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と第2の磁性層との間に形成された中間層と、前記第1の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記第2の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち少なくとも何れか一方の面上にハーフメタルを含有する挿入層とを有し、 前記電極から供給される電流は前記磁気抵抗効果素子の膜厚方向に流れることを特徴とする磁気ヘッド。 【請求項16】 前記第1の磁性層の保磁力は、前記第2の磁性層の保磁力よりも小さく、前記第1の磁性層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項17】 前記第2の磁性層の磁化の向きは、反強磁性膜により固定され、前記第1の磁性層の磁の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項18】 前記挿入膜を透過する電子は、スピンが分極したスピン偏極電子となり、前記挿入層に接する第1の磁性膜及び/又は第2の磁性膜に注入される電子のスピン偏極率が向上することで、前記磁性膜のスピン分極がその磁性膜がもともと有する分極率よりも増大し、磁気抵抗効果率が向上する作用を及ぼす挿入膜を備えることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項19】 請求項17に記載の磁気ヘッドにおいて、 前記反強磁性膜の下層側に下地金属膜を有し、前記下地金属膜と前記挿入層との間に、Ruを中間層とする積層フェリ構造を有することを特徴とする磁気ヘッド。 【請求項20】 さらに、第1の磁性層の磁区を制御する磁区制御層を備えることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項21】 前記磁区制御層は、前記第1の磁性層の両端に形成されていることを特徴とする請求項20記載の磁気ヘッド。 【請求項22】 前記磁区制御層は、前記第1の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面側に形成され、反強磁性膜と磁性膜の多層膜であるこを特徴とする請求項20記載の磁気ヘッド。 【請求項23】 一対のシールド層の間に前記磁気抵抗効果素子を有する再生部と、記録磁極を有する記録部とを備えることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項24】 前記ハーフメタルは、スピン分極率の絶対値が60%をこえる高分極率材料であることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項25】 少なくとも磁気記録層を有する磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を駆動する駆動部と、磁気抵抗効果素子及び一対の電極を有する磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上の所定の位置に移動させるアクチュエーターと、前記磁気ヘッドからの出力信号再生を行う信号処理手段とを備える磁気記憶装置において、 前記磁気抵抗効果素子が、第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と第2の磁性層との間に形成された中間層と、前記第1の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記第2の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち少なくとも何れか一方の面上にハーフメタルを含有する挿入層とを有し、 前記一対の電極から供給される電流は前記磁気抵抗効果素子の膜厚方向に流れることを特徴とする磁気記録再生装置。」 とあったところを 本件補正後、 (b)「【請求項1】 自由層と、 固定層と、 前記自由層と前記固定層との間に形成された中間層と、 前記自由層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記固定層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち、少なくとも何れか一方の面上に、ハーフメタルを含有する挿入層とを有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。 【請求項2】 前記自由層の保磁力は、前記固定層の保磁力よりも小さく、前記自由層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項3】 前記固定層の磁化の向きは、反強磁性膜により固定され、前記自由層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項4】 さらに、前記反強磁性層と前記固定層との間に軟磁性層を備えることを特徴とする請求項3記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項5】 さらに、前記固定層と前記軟磁性層との間に貴金属層を備えることを特徴とする請求項4記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項6】 前記挿入層の膜厚は、0.2nm以上5.0nm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項7】 前記自由層と前記固定層の膜厚は、0.5nm以上3.0nm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項8】 前記ハーフメタルは、スピン分極率の絶対値が60%をこえる高分極率材料であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項9】 前記ハーフメタルは、AB_(2)O_(4)なる構造を持つ酸化物(AはFe、Co、Znからなる群のうち少なくとも一種、BはFe、Co、Ni、Mn、Znからなる群のうち少なくとも一種)、CrO_(2)、CrAs、CrSb又はZnOに遷移金属であるFe、Co、Ni、Cr、Mnからなる群のうち少なくとも一種以上を添加した化合物、GaNにMnを添加した化合物、C_(2)D_(x)E_(1?x)F型のホイスラー合金(CはCo、Cu又はNiからなる群のうち少なくとも一種、D及びEはMn、Fe又はCrからなる群のうち少なくとも1種、FはAl、Sb、Ge、Si、Ga又はSnからなる群のうち少なくとも一種)のうち、少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項10】 前記挿入層は、請求項9の材料からなる膜の単膜か、あるいは請求項9の材料からなる膜と、Fe,Co,Ni、Cu、Pd、Pt、NiCrの少なくとも一種類からなる金属膜(第1の膜)とが積層された構造、あるいは請求項9の材料からなる膜と、Fe_(2)O_(3)、FeO、Fe_(4)N、FeN、TiO、TiO_(2)、TiN、SrTiO_(3)、Al_(2)O_(3)、Cr_(2)O_(3)の少なくとも一種類からなる化合物膜(第2の膜)とが積層された構造、あるいは請求項9の材料からなる膜と、前記第1の膜と、前記第2の膜とが積層された構造であることを特徴とする請求項9記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項11】 前記中間層は、Cu、Cr,Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Au、Ag、TiO、またはTiNのうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項12】 前記自由層は、Co、CoFe又はNiFeのすくなくとも一種類を含有する請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項13】 前記挿入膜を透過する電子は、スピンが分極したスピン偏極電子となり、前記挿入層に接する前記自由層及び/又は前記固定層に注入される電子のスピン偏極率が向上することで、前記自由層及び/又は前記固定層のスピン分極がその磁性膜がもともと有する分極率よりも増大し、磁気抵抗効果率が向上する作用を及ぼす挿入膜を備えることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。 【請求項14】 請求項3に記載の磁気抵抗効果素子において、 前記反強磁性膜の下層側に下地金属膜を有し、前記下地金属膜と前記挿入層との間に、Ruを中間層とする積層フェリ構造を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。 【請求項15】 磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子に電流を供給する一対の電極とを備える磁気ヘッドにおいて、 前記磁気抵抗効果素子は、自由層と、固定層と、前記自由層と前記固定層との間に形成された中間層と、前記自由層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記固定層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち少なくとも何れか一方の面上にハーフメタルを含有する挿入層とを有し、 前記電極から供給される電流は前記磁気抵抗効果素子の膜厚方向に流れることを特徴とする磁気ヘッド。 【請求項16】 前記自由層の保磁力は、前記固定層の保磁力よりも小さく、前記自由層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項17】 前記固定層の磁化の向きは、反強磁性膜により固定され、前記自由層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項18】 前記挿入膜を透過する電子は、スピンが分極したスピン偏極電子となり、前記挿入層に接する前記自由層及び/又は前記固定層に注入される電子のスピン偏極率が向上することで、前記自由層及び/又は前記固定層のスピン分極がその磁性膜がもともと有する分極率よりも増大し、磁気抵抗効果率が向上する作用を及ぼす挿入膜を備えることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項19】 請求項17に記載の磁気ヘッドにおいて、 前記反強磁性膜の下層側に下地金属膜を有し、前記下地金属膜と前記挿入層との間に、Ruを中間層とする積層フェリ構造を有することを特徴とする磁気ヘッド。 【請求項20】 さらに、前記自由層の磁区を制御する磁区制御層を備えることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項21】 前記磁区制御層は、前記自由層の両端に形成されていることを特徴とする請求項20記載の磁気ヘッド。 【請求項22】 前記磁区制御層は、前記自由層の前記中間層と対向する面とは反対側の面側に形成され、反強磁性膜と磁性膜の多層膜であることを特徴とする請求項20記載の磁気ヘッド。 【請求項23】 一対のシールド層の間に前記磁気抵抗効果素子を有する再生部と、記録磁極を有する記録部とを備えることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項24】 前記ハーフメタルは、スピン分極率の絶対値が60%をこえる高分極率材料であることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。 【請求項25】 少なくとも磁気記録層を有する磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を駆動する駆動部と、磁気抵抗効果素子及び一対の電極を有する磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上の所定の位置に移動させるアクチュエーターと、前記磁気ヘッドからの出力信号再生を行う信号処理手段とを備える磁気記憶装置において、 前記磁気抵抗効果素子が、自由層と、固定層と、前記自由層と固定層との間に形成された中間層と、前記自由層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記固定層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち少なくとも何れか一方の面上にハーフメタルを含有する挿入層とを有し、 前記一対の電極から供給される電流は前記磁気抵抗効果素子の膜厚方向に流れることを特徴とする磁気記録再生装置。」 とするものである。 本件補正は補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「第1の磁性層」「第2の磁性を」を「自由層」「固定層」と磁性層を限定するものであり、また、請求項2・3・4・5・7・12・13・15・16・17・18・20・21・22・25についても同様に磁性層を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1号によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるかものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1号によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条第5号にに規定する要件を満たすか)否かを、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という)について検討する。 ところで、本願補正発明である 「自由層と、 固定層と、 前記自由層と前記固定層との間に形成された中間層と、 前記自由層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記固定層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち、少なくとも何れか一方の面上に、ハーフメタルを含有する挿入層とを有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。」には、「前記自由層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記固定層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち、少なくとも何れか一方の面上に」という選択的な記載があるので、この選択的記載で表現されるハーフメタルを含有する挿入層の位置としては、 (1)「前記自由層の前記中間層と対向する面とは反対側の面」 (2)「前記固定層の前記中間層と対向する面とは反対側の面」 (3)「前記自由層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記固定層の前記中間層と対向する面とは反対側の面」 のいずかを含むものであるから、(1)「前記自由層の前記中間層と対向する面とは反対側の面」として、すなわち、本件補正発明を 「自由層と、 固定層と、 前記自由層と前記固定層との間に形成された中間層と、 前記自由層の前記中間層と対向する面とは反対側の面上に、ハーフメタルを含有する挿入層とを有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。」 として以下検討する。 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成13年7月27日に頒布された刊行物である特開2001-202604号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。) (1)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、磁気的に記録された情報を再生する強磁性トンネル型磁気抵抗効果ヘッド、及び磁気再生ヘッドとしてその強磁性トンネル型磁気抵抗効果ヘッドを備えた高密度磁気記録再生装置に関する。」 (2)「【0005】本発明の目的は、従来構造より高出力な強磁性トンネル型磁気抵抗効果素子を提供することにある。本発明の他の目的は、その強磁性トンネル磁気抵抗効果素子を用いた磁気抵抗効果型磁気ヘッド及び磁気記録再生装置を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】電子のスピン偏極率(P)は、回転(自転)方向の異なる電子(右回りと左回りで右回りが下向きスピン、左回りが上向きスピン)の数(状態密度)の差で一般的に理解されている。例えばスピン偏極率P=0.8は上向きスピンが下向きスピンよりも9倍多いことを示す。また、TMR素子の磁気抵抗効果(TMR比)は、この偏極率Pを用いて2P_(1)P_(2)/(1-P_(1)P_(2))で表すことができる(P_(1)はTMR素子の強磁性自由層のスピン偏極率、P_(2)はTMR素子の強磁性固定層のスピン偏極率)。よって、高いTMR比を得るためには、Pの大きい高スピン偏極率材料である半金属強磁性体(Fe_(3)O_(4),CrO_(2)等)を用いることが有効である。これらの半金属強磁性体の電気伝導を担う電子は自由電子ではなく、エネルギー準位が分裂したd軌道バンドの電子であり、伝導を主に担うフェルミエネルギー近傍の電子の状態はどちらか一方の向きの電子の数が多い、つまり、高スピン偏極した電子である。」 (3)「【0013】 【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。 [実施の形態1]図1は、本発明による強磁性トンネル型磁気抵抗効果素子の第一の構成例を示す断面模式図である。 【0014】基体50上に高偏極スピン注入層11が形成されており、それに隣接して強磁性トンネル型磁気抵抗効果(TMR)素子1が配置されている。TMR素子1は基体側から順に強磁性自由層12、絶縁障壁層13、強磁性固定層14、反強磁性層15を積層してなり、強磁性自由層12と強磁性固定層14の面内磁化は外部磁界が印加されていない状態で相互に約90°傾いた方向に向けられている。外部磁界(H)により強磁性自由層12の磁化は自由に回転し、その回転角に応じて膜面垂直方向の電気抵抗が変化し磁気抵抗効果が発生する。TMR素子1の端部には、強磁性自由層12と強磁性固定層14の間の電気的なリークを阻止するために層間絶縁層25が形成されている。 【0015】電極21は反強磁性層15上、電極22は強磁性自由層12上、電極24は高偏極スピン注入層11上にそれぞれ配置され、電極21、22間に電流を流し、その間の抵抗変化率をTMR素子1の出力とする。また、それとは別に電極24から電極21に電流を流すことで、高偏極スピン注入層11からその高スピン偏極した伝導電子がTMR素子1へ流れ込む。 【0016】次に、上記磁気抵抗効果センサーの作製方法と各種材料について説明する。Si基体50上に、高偏極スピン注入層11であるFe_(3)O_(4)を50nmの厚さにrfスパッタリングにより形成し、所定の形状にパターニングする。次に、フォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィーを用いて規定の形状にリフトオフパターンを形成した後、強磁性自由層12であるCoFeを5nm、絶縁障壁層13を形成するためのAlを1nm形成する。この金属Alを10Torrの酸素雰囲気中で20分間自然酸化させた。その後、強磁性固定層14のCoFeを2nm、反強磁性層15のIrMnを8nm、保護膜23であるTaを5nmの厚さにrfスパッタリングにより順次積層し、リフトオフする。その後、フォトリソグラフィー、イオンミリングを用いて強磁性自由層12まで接合部のパターニングを行う。作製した接合部の面積は5×5(μm2)である。次に、層間絶縁層25であるSiO_(2)を15nm形成し、レジストをリフトオフする。その後、電極22、24であるAuをフォトリソグラフィーとイオンミリングにより配置するためのフォトレジストパターンを形成後、電極Auを5nm厚にrfスパッタリングにより形成し、電極21を所定の形状に、電極22は強磁性自由層12上に電極24は高偏極スピン注入層11上に配置するように加工して、磁気抵抗効果センサーを作製する。」 上記摘示事項および図面の記載を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「基体上に高偏極スピン注入層が形成され、それに隣接して順に、強磁性自由層、絶縁障壁層、強磁性固定層が積層されてなる強磁性トンネル型磁気抵抗効果素子。」 3.対比・判断 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「強磁性自由層」「絶縁障壁層」「強磁性固定層」及び「強磁性トンネル型磁気抵抗効果素子」は、本願補正発明の「自由層」「中間層」「固定層」及び「磁気抵抗効果素子」にそれぞれ相当していることは明らかである。 (2)引用発明の「高偏極スピン注入層」については、「Si基体50上に、高偏極スピン注入層11であるFe_(3)O_(4)を50nmの厚さにrfスパッタリングにより形成し、」(摘示事項(3)の段落【0016】)の記載から、「Fe_(3)O_(4)」層の例が示されている。 一方、本件補正発明の「ハーフメタルを含有する挿入層」についても、本願明細書における「【0048】したがって、前記ハーフメタルは、前記ハーフメタルは、Fe_(3)O_(4)に代表されるAB2O4なる構造を持つ酸化物で、……」や「【0049】前記ハーフメタルを含有する挿入層とは、図8(a)記載のような前記請求項4の材料からなるハーフメタル膜801の単膜か、……」の記載から、「Fe_(3)O_(4)」層の例が示されている。 してみれば、引用発明の「高偏極スピン注入層」は、本願補正発明の「ハーフメタルを含有する挿入層」に実質的に相当している。 以上のとおりであるから、引用発明は本願補正発明の全ての構成を実質的に備えているものであるから、本願補正発明は引用発明と同一である。または構成要件の表現上の相違点があるとしても当業者が適宜容易になし得る程度のものである。 なお、審判請求人は意見書、審判請求理由において、「引用文献4(引用例)では、強磁性自由層、強磁性固定層にスピン偏極率の高い材料(Fe_(3)O_(4))などを用いることが開示されているが、その具体的な配置については開示がない。」旨主張している。 しかしながら、「第2[理由]2.」で示した引用例の段落【0014】には、「基体50上に高偏極スピン注入層11が形成されており、それに隣接して強磁性トンネル型磁気抵抗効果(TMR)素子1が配置されている。TMR素子1は基体側から順に強磁性自由層12、絶縁障壁層13、強磁性固定層14、反強磁性層15を積層してなり」と記載され、高偏極スピン注入層11、強磁性自由層12、絶縁障壁層13、強磁性固定層14の具体的な配置関係が明記されているのであるから、請求人の上記主張は採用できない。 したがって、本願補正発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、または特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので同法59条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明 1.本願発明 平成21年7月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項25に係る発明は、平成20年12月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1.」に本願補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2[理由]2.引用例」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、上記「第2[理由]3.」で検討した本願補正発明における「自由層」及び「固定層」をそれぞれ上位概念化して「第1の磁性層」及び「第2の磁性層」としたものである。 そうすると本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]3.」に記載したとおり引用例に記載された発明と同一又は引用例に記載された発明から当業者が適宜容易になし得る程度のものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明と同一又は引用例に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条第1項第3号に該当し、または特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものである。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-23 |
結審通知日 | 2011-03-29 |
審決日 | 2011-04-11 |
出願番号 | 特願2002-378954(P2002-378954) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B) P 1 8・ 113- Z (G11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石坂 博明 |
特許庁審判長 |
小松 正 |
特許庁審判官 |
月野 洋一郎 酒井 伸芳 |
発明の名称 | 磁気抵抗効果素子、及びそれを備える磁気ヘッド並びに磁気記録再生装置 |
代理人 | 井上 学 |