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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1238112
審判番号 不服2009-21013  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-30 
確定日 2011-06-09 
事件の表示 特願2002-295783「水道T字管用の止水用具」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月30日出願公開,特開2004-132420〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,平成14年10月9日の出願であって,平成21年2月23日付けで拒絶理由が通知され,平成21年4月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,平成21年8月3日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成21年10月30日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けの手続補正書によって明細書を補正する手続補正がなされ,その後,当審における平成22年4月21日付けの書面による審尋に対し,平成22年6月15日付けで回答書が提出されたものである。



2.平成21年10月30日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

本件補正を却下する。


[理由]

(1)補正の内容

本件補正は,明細書の【0014】及び【0016】に関して,以下のように補正するものである。

「【0014】
本実施の形態にかかる止水用具本体1は上記のように構成されている。この使用方法は貫通孔7にハンドルバー6を挿し込んでそのハンドルバー6の両端を持った状態で止水用具本体1の下方部分を水道T字管2の突出部分の開口から内部に圧嵌入する。この際,回転シャフト5の下端は円板体8とやや離れた状態で抜け止め体9により支持された状態となっている。そして,この圧嵌入の際に,既設のバルブVを利用して水流を止めることとなる。即ち,このバルブVを止水用具本体1により操作することとなる。」

「【0016】
上記した作用によって,管内には負圧が発生し,この負圧でバルブVを作動させ水を吸い上げた状態として通水を停止させることとなる。この停止状態はハンドルバー6をさらに強く捻って作動部材(パッド)12の捻転した縮み状態を負圧力によって維持(ロック)することができる。」


(2)本件補正の適否についての判断(新規事項について)

出願当初の明細書及び図面(以下,「当初明細書等」という。)において,バルブVと止水用具本体1との関係は,【0014】に以下のように記載されており,さらに,図1にその位置関係が示されているだけである。

「【0014】
本実施の形態にかかる止水用具本体1は上記のように構成されている。この使用方法は貫通孔7にハンドルバー6を挿し込んでそのハンドルバー6の両端を持った状態で止水用具本体1の下方部分を水道T字管2の突出部分の開口から内部に圧嵌入する。この際,回転シャフト5の下端は円板体8とやや離れた状態で抜け止め体9により支持された状態となっている。また,この圧嵌入の際に既設のバルブVが存在していればこれを利用して止めることとなる。」

ここで,当初明細書等の【0014】の記載において,既存のバルブVを利用して止める対象が何であるのか特定されておらず不明であるが,仮に当初明細書等の【0014】の記載から既存のバルブVを利用して止める対象が水流であることが読み取れるとしても,それを以て「このバルブVを止水用具本体1により操作すること」及び止水用具本体1の作用によって発生する管内の「負圧でバルブVを作動させ」ることが記載ないし示唆されていたということはできない。
当初明細書等の,特に【0006】,【0016】,【0018】等には,止水用具本体1を操作することにより発生した負圧によって,通水を停止させることができること,が記載されていると認められるが,(止水用具本体1を操作することにより発生した)負圧でバルブVを作動させることは,全く記載されておらず,また,自明な事項でもない。
よって,本件補正により補正された事項のうち,「このバルブVを止水用具本体1により操作すること」という事項,及び,「この負圧でバルブVを作動させ」という事項は,当初明細書等に記載されておらず、当初明細書等に記載されている事項から自明な事項とも認められず、さらに、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものでないから,当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものとは認められない。


したがって,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



3.本件発明について

3-1.本件出願の請求項1及び2に係る発明

本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1及び2に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,平成21年4月24日付け手続補正書により補正された明細書の記載によれば,以下のとおりのものと認められる。

「【請求項1】 下端にフランジ部を有する筒体と,その筒体内に挿入された回転シャフトと,その回転シャフトの筒体より突出された先端に嵌装された円板体と,その円板体と前記フランジ間に装備され,中間部分をくびれさせたゴム製の作動部材から成ることを特徴とする水道T字管用の水圧降下用具。
【請求項2】 前記した回転シャフトの先端と円板体との間にはパッキン部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の水道T字管用の水圧降下用具。」


3-2.発明の詳細な説明の記載事項

平成21年4月24日付け手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面によれば,【0004】ないし【0006】及び【0015】ないし【0017】には,本件発明が解決しようとする課題とその解決手段,及び,本件発明の作用が以下のように記載されている。

「【0004】
【発明の目的】
そこで,本発明は上記した従来の実情,問題点に着目してなされたもので,かかる問題点を解消して,簡単な操作でほとんど瞬時に止水し,また復元することができるものとし,従来はバルブ様としていたものを吸引作用で行なうため,損傷も少なく,工事の能率向上とスピードアップが図れ,格別な熟練性がなくとも誰もが作業することが可能とした水道T字管用の止水用具を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために,本発明に係る水道T字管用の水圧降下用具は下端にフランジ部を有する筒体と,その筒体内に挿入された回転シャフトと,その回転シャフトの筒体より突出された先端に嵌装された円板体と,その円板体と前記フランジ間に装備され,中間部分をくびれさせたゴム製の作動部材から成ることを特徴とし,前記した回転シャフトの先端と円板体との間にはパッキン部材を備えていることを特徴としている。
【0006】
【作用】
上記した構成としたことによって,回転シャフトの作用で円板体を引き上げると,ゴム製の作動部材(パッド)が縮められ,管内に通水に対して負圧を加えることとなり,その通水を停止させることができる。また,逆に回転シャフトを押し戻すことで前記した負圧は解消され,即時に通水状態を復元させ,開通させることができるのであり,非常に簡単な操作で何人でも容易に作業を行なうことができることとなり,作業がスピードアップされ,能率も大きく向上することとなるのである。」

「【0015】
少なくとも作動部材(パッド)12が管口内に嵌入された時点でハンドルバー6によって回転シャフト5を引き上げ,ダブルパッキン11を介して小円板体10を円板体8に押し当て,なおも回転シャフト5を引き上げることで作動部材(パッド)12をそのくびれ部12aにおいて縮み変形させる。この変形は回転シャフト5を回転させながら,作動部材(パッド)12を捻転させるようにするとより効果的であるが,縮み変形後に捻っても,捻ってから縮ませるように引き上げてもよい。
【0016】
上記した作用によって,管内には負圧が発生し,水を吸い上げた状態として通水を停止させることとなる。この停止状態はハンドルバー6をさらに強く捻って作動部材(パッド)12の捻転した縮み状態を負圧力によって維持(ロック)することができる。
【0017】
また,逆に回転シャフト5をハンドルバー6に操作し,押してやると前記した負圧状態が解消され,通水を復元することができる。これらの作業には常にフランジ部4を有する筒体3を不動の固定状態としておく必要がある。」


3-3.平成21年2月23日付けの拒絶理由の概要

平成21年8月3日付けの拒絶査定には,「この出願については,平成21年2月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものです。」と記載されており,その平成21年2月23日付けの拒絶理由通知書には,次の理由が記載されている。

「 理 由
この出願は,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1-2には「止水用具」の記載があるところ,どのようにして水が止まるのか,発明の詳細な説明の欄を参照しても,理解できない。
特に【0006】段落に「回転シャフトの作用で円板体を引き上げると,ゴム製の作動部材(パッド)が縮められ,管内に通水に対して負圧を加えることとなり,その通水を停止させることができる」との記載があり,【0016】段落に「上記した作用によって,管内には負圧が発生し,水を吸い上げた状態として通水を停止させることとなる」との記載があるところ,管内にどの程度の負圧が生じ,またその負圧により,どのような理由で管内の通水が停止するのか理解できない(「水道T字管2」には,その上流や下流に管路が接続されていると思料するから,「水道T字管2」を含めた管路の体積は,非常に大きなものであると思料する。「くびれ部12a」の縮み変形により生じた体積分だけ,管路の体積が増大するから,その増大した体積分だけ,管路内の圧力は低下するかもしれないが,「くびれ部12a」の縮み変形により増加した体積と,管路の体積とを比較すると,管路の体積が圧倒的に大きいと思料するから,管路内の圧力の低下は,ごく小さなものと思料する。管内を流通する水の全圧を相殺するほど大きな圧力低下が生じれば,通水が停止されるかもしれないが,「くびれ部12a」の縮み変形により,それほど大きな圧力低下が生じるとは考えられないので,「くびれ部12a」の縮み変形により生じる程度の小さな圧力低下により,なぜ通水が停止するのか理解できない。)。」


3-4.平成21年4月24日付けで提出された意見書における請求人の主張

上記拒絶理由に対して,審判請求人は,平成21年4月24日付けで提出した意見書(以下,単に「意見書」という。)において,次のとおり主張する。

「(1)本願発明の要旨は,今般別途に提出した手続補正書によって補正した特許請求の範囲に記載されたところに存する。今回の補正は,段落0006,同0016の記載に基づき,より出願対象となる用具の作用を明確にしたものである。
(2)本願に係る用具は水道T字管の止水に関するもので,より具体的には止水を行なう前段階として,T字管内における水圧を降下させる作業に用いるものである。この本願に係る用具を用いてT字管内の水圧を降下させ,出願人のホームページ等に掲載されている凍結工法を施し,その凍結によって管内の完全な止水を行なうこととなる。
(3)凍結工法は,液化したガス(窒素,空気等)を用いて,管の外側から冷却し,内部に流通している水を凍結させ,通水を止めるものである。そのため,凍結させるための水の流量は少ない方が望ましく,効率的で短時間での凍結作用を得ることができることとなる。従って,本願に係る用具を使用して,水圧を降下させることは,即ち,流量を低減させることとなり,凍結工法を行なう際に大きな効果をもたらすこととなる。
(4)以上,述べたように,本願に係る用具は水道T字管の止水に関して,非常に大きな効果をもたらすものであり,十分に特許要件を具備しているものと思料するので,何卒,本意見書に御留意のうえ,本願発明は特許する旨の御査定を賜りたい。」


3-5.当審の判断

発明の詳細な説明は,特許法第36条第4項において委任する経済産業省令の定めるところにより記載しなければならないところ,経済産業省令第24条の2には,次のとおり規定されている。
「特許法第三十6条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」

本件発明が解決しようとする課題は,上記【0004】に記載されたとおりのものと認められる。
それに対し,その解決手段が,上記【0005】に記載されており,その作用として上記【0006】には,「回転シャフトの作用で円板体を引き上げると,ゴム製の作動部材(パッド)が縮められ,管内に通水に対して負圧を加えることとなり,その通水を停止させることができる。また,逆に回転シャフトを押し戻すことで前記した負圧は解消され,即時に通水状態を復元させ,開通させることができる」と記載されており,それにより,「非常に簡単な操作で何人でも容易に作業を行なうことができることとなり,作業がスピードアップされ,能率も大きく向上することとなるのである。」と記載されている。
ここで,上記課題は,まず「簡単な操作でほとんど瞬時に止水」できるものとする,という課題が解決できなければ,他の課題も解決できないことは上記【0006】の記載などからも明らかであるので,上記手段が「簡単な操作でほとんど瞬時に止水」できるものであるのか否か,以下で検討する。

本願の発明の詳細な説明には,例えば図1に示された水道T字管において,どこからどこへ水が流れて,どの水の流れを止めたいのか,全く例示されていないが,仮に,図1に示された水道T字管における左側に延びた管の先にポンプ等の高圧水源が設けられており,上記水道T字管における右側及び上側に水が流れるものと仮定する。

ここで,図1に示されているように,上記水道T字管における上側に分岐する管に止水用具本体を圧嵌入すると,当該止水用具本体は,その作用より当該管に対して気密(水密)に圧嵌入されるものであることは明らかであり,よって,上側への水の流れは止まるものと認められる。
しかしながら,このことは,止水用具本体を管に圧嵌入することにより止水することを示しているにすぎず,当該止水用具本体(水道T字管用の水圧降下用具)が,下端にフランジ部を有する筒体と,その筒体内に挿入された回転シャフトと,その回転シャフトの筒体より突出された先端に嵌装された円板体と,その円板体と前記フランジ間に装備され,中間部分をくびれさせたゴム製の作動部材から成るものであり,回転シャフトの作用で円板体を引き上げると,ゴム製の作動部材(パッド)が縮められ,管内に通水に対して負圧を加えることとなり,その通水を停止させることができることを示すものではない。

次に,上記水道T字管における右側への流れについて,検討する。
水は,圧力差によって流れるものであり,上記の仮定のように,図1に示された水道T字管において左側に延びた管の先にポンプ等の高圧水源が設けられて管の左側から右側へ水が流れる場合は,上記水道T字管の右側に延びる管の先は,例えば大気開放のように,高圧水源の吐出圧よりも低圧であり,そこに圧力差が生じているものと認められる。
当該水道T字管における上側に分岐する管に嵌入された止水用具本体の上記のような操作により,管内の通水に対して負圧を加え,当該水道T字管の左側に延びる管の先に生じる圧力と,上側に分岐する管に生じる圧力との差を一時的に大きくしたとしても,依然として当該水道T字管の左右方向に生じる圧力差は存在する。そして,止水用具本体の作用によって生じる当該水道T字管の左方と上方との圧力差が,左右方向に生じる圧力差を無視できる程大きいものであるとも認められず,水道T字管における右側への通水を一時的にも停止できるものではない。
さらに,当該止水用具本体の操作により,止水用具本体を嵌入することにより閉鎖された上側に分岐する管の容積を一時的に増大させて,管内の通水に対して負圧を加えたとしても,流入する水により当該増大された容積は充満されるので,負圧が維持されるものではない。よって,当該水道T字管の左方と上方との間に生じる圧力差は,持続するものではない。
仮に,当該水道T字管の上側に分岐する管に真空ポンプのような,高い負圧を加え続けられるものを接続すると,当該水道T字管の左右方向に生じる圧力差を無視できるような圧力差を当該水道T字管の左方と上方との間に加え続けられるかもしれず,そのような場合は,水道T字管における右側への水の流れを止めることができるかもしれないが,上記止水用具本体が,そのようなものでないことは明らかである。
よって,本願の発明の詳細な説明に記載された止水用具本体(水道T字管用の水圧降下用具)は,水道T字管における右側への通水を停止できるものではない。

以上のことは,水道T字管における右側に延びた管の先にポンプ等の高圧水源が設けられていても同様であることは,明らかであり,また,水道T字管の上側に分岐する管には,止水用具本体が嵌入されているので,水道T字管の上側に分岐する管の先にポンプ等の高圧水源を設けることは,想定していないと認められる。

したがって,本願の発明の詳細な説明に記載された止水用具本体(水道T字管用の水圧降下用具)は,「簡単な操作でほとんど瞬時に止水」できるものではないので,本願の発明の詳細な説明の記載は,発明が解決しようとする課題の解決手段のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりされたものではなく,よって,本願の発明の詳細な説明は,本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,本件発明が解決しようとする課題を解決するように,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載されたものではない。


なお,審判請求人は,上記3-4.で示したように主張しているが,当該主張は,発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない「凍結工法」によって管内の完全な止水を行なうことを主張するものであり,本願の発明の詳細な説明に記載された止水用具本体(水道T字管用の水圧降下用具)が,「簡単な操作でほとんど瞬時に止水」できることの根拠を示すものではない。


3-6.むすび

以上のとおり,本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができない。


よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-11 
結審通知日 2011-04-12 
審決日 2011-04-25 
出願番号 特願2002-295783(P2002-295783)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (F16L)
P 1 8・ 55- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 刈間 宏信  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 倉橋 紀夫
藤井 昇
発明の名称 水道T字管用の止水用具  
代理人 佐藤 彰芳  

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