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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服200520859 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23D 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23D 審判 全部無効 1項2号公然実施 A23D 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 A23D 審判 全部無効 2項進歩性 A23D |
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管理番号 | 1238544 |
審判番号 | 無効2010-800121 |
総通号数 | 140 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-08-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2010-07-15 |
確定日 | 2011-05-02 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4501035号発明「食用油脂組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第4501035号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 被請求人は、平成20年2月15日(優先権主張平成19年10月3日)に特許出願(特願2008-34867号)をし、平成22年4月30日、特許庁から特許第4501035号として設定登録を受けた。 これに対して、請求人から平成22年7月15日付で請求項1ないし6に係る発明についての特許に対して、無効審判の請求がなされたところ、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。 答弁書(被請求人): 平成22年10月 5日 訂正請求書(被請求人): 平成22年10月 5日 審理事項通知書: 平成22年10月27日 口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成23年 1月 7日 口頭審理陳述要領書(請求人): 平成23年 1月21日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人): 平成23年 1月21日 口頭審理: 平成23年 1月21日 上申書(請求人): 平成23年 2月21日 答弁書(2)(被請求人): 平成23年 2月21日 第2 訂正請求の可否 1.訂正の内容 被請求人は、平成22年10月 5日付訂正請求書を提出し、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲(以下、「登録特許請求の範囲」という。)の請求項1について、 「【請求項1】 ヨウ素価が66?80のパームオレイン、及び全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%未満のキャノーラ油を含み、パームオレインとキャノーラ油の質量比が、20:80?60:40の範囲(パームオレインのヨウ素価が66である場合、30:70を除く)にあり、かつ食用油脂組成物全体におけるパームオレイン、及びキャノーラ油の合計量が70?100質量%の範囲にある食用油脂組成物が、少なくとも一部が光透過性である容器に充填されていることを特徴とする容器入り食用油脂組成物。」を 「【請求項1】 ヨウ素価が68?80のパームオレイン、及び全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%未満のキャノーラ油を含み、パームオレインとキャノーラ油の質量比が、20:80?60:40の範囲にあり、かつ食用油脂組成物全体におけるパームオレイン、及びキャノーラ油の合計量が70?100質量%の範囲にある食用油脂組成物が、少なくとも一部が光透過性である容器に充填されていることを特徴とする容器入り食用油脂組成物。」とする訂正、すなわち、以下の訂正を求めている。 (1)訂正事項a 登録特許請求の範囲の請求項1に記載の「ヨウ素価が66?80」を「ヨウ素価が68?80」と訂正する。 (2)訂正事項b 登録特許請求の範囲の請求項1に記載の「(パームオレインのヨウ素価が66である場合、30:70を除く)」を削除する。 また、登録特許請求の範囲の請求項1を訂正することにより、それを引用する請求項2ないし6に対しても同様の訂正を求めている。 2.判断 (1)請求項1について a.訂正事項aについて 訂正事項aの訂正は、パームオレインのヨウ素価の範囲を「66?80」から「68?80」へと限定しようとするものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、上記訂正は、本件特許の設定登録時の明細書(以下、「登録明細書」という。)の段落【0008】において、「本発明の食用油脂組成物においては、上記パームオレインのうち、ヨウ素価が66以上のもの、好ましくは66?80の範囲にあるもの・・・を選択することが好ましい。」と記載され、段落【0019】、段落【0020】の【表1】の実施例1?7及び段落【0023】の【表2】の実施例8において、「パームオレイン〔ヨウ素価68〕が用いられていることから、パームオレインのヨウ素価の範囲「66?80」の下限を「68」とすることは、登録明細書及び図面の範囲内においてされたものである。また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 b.訂正事項bについて 訂正事項bの訂正は、「パームオレインとキャノーラ油の質量比が、20:80?60:40の範囲(パームオレインのヨウ素価が66である場合、30:70を除く)」のうち、上記訂正事項aの訂正により「ヨウ素価が66」の場合が削除され、その結果対象外となる「パームオレインのヨウ素価が66である場合」という条件を削除するものであるから、不整合な記載を正すものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)小活 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2ただし書き、及び同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。 (3)請求項2ないし6について 上記のとおり、請求項1についての訂正事項a及びbは、適法な訂正であり、請求項1を引用する請求項2ないし6についての訂正も同様の理由により、適法な訂正と認める。 第3 本件訂正発明 上記第2のとおり、訂正が認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明6」という。また、これらをまとめて「本件訂正発明」ということがある。)は、その請求項1?6に記載された次のとおりのものと認める。 【請求項1】 ヨウ素価が68?80のパームオレイン、及び全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%未満のキャノーラ油を含み、パームオレインとキャノーラ油の質量比が、20:80?60:40の範囲にあり、かつ食用油脂組成物全体におけるパームオレイン、及びキャノーラ油の合計量が70?100質量%の範囲にある食用油脂組成物が、少なくとも一部が光透過性である容器に充填されていることを特徴とする容器入り食用油脂組成物。 【請求項2】 前記容器の容積が、2リットル以下である、請求項1に記載の食用油脂組成物。 【請求項3】 さらにカロテンを含む、請求項1又は2のいずれか1項に記載の食用油脂組成物。 【請求項4】 さらにコエンザイムQ10を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の食用油脂組成物。 【請求項5】 さらにトコトリエノール類を含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の食用油脂組成物。 【請求項6】 食用油脂組成物が、食品材料を加熱調理するためのものである請求項1?5のいずれか1項に記載の食用油脂組成物。 第4 請求人の主張 請求人は、証拠方法として以下の甲第1号証ないし甲第21号証を提出し、以下の理由により請求項1ないし請求項6に係る発明についての特許を無効とする、との審決を求めた。 1.無効理由1及び2 本件訂正発明1ないし6は、本件特許の出願前、日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明であるから、本件訂正発明1ないし6についての特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明についてなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである(以下、「無効理由1」という。)。 また、本件訂正発明1ないし6は、本件特許の出願前、日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第1ないし3号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1ないし6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである(以下、「無効理由2」という。)。 なお、平成23年1月21日の口頭審理(以下、単に「口頭審理」という。)において、平成23年1月21日付口頭審理陳述要領書(2)における、「ヨウ素価68以上のものが周知技術であり、68?80とすることは当業者が容易に想到できる」という主張は、審判請求書では主張していなかった新たな主張であって、審判請求の理由の要旨を変更するものであるところ、当該要旨の変更は、平成22年10月5日付で提出された訂正の請求により、請求の理由を補正する必要が生じたものであるから、特許法第131条の2第2項の規定により、請求の理由を補正するものとして許可する旨の補正許否の決定がなされた(第1回口頭審理調書)。 2.無効理由3 本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が出願時の技術常識に照らして、本件訂正発明1ないし6の課題を解決できると認識できるように記載されていないから、本件訂正発明1ないし6についての特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである(以下、「無効理由3」という。)。 3.無効理由4 本件訂正発明1は、本件特許の出願前、日本国内又は外国において公然実施をされた発明(甲7ないし14号証に基づく公然実施発明1)である、又は、当該公然実施をされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1についての特許は、特許法第29条第1項第2号に該当する発明についてなされたものである、又は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである(以下、「無効理由4」という。)。 4.無効理由5 本件訂正発明1は、本件特許の出願前、日本国内又は外国において公然実施をされた発明(甲15ないし20号証に基づく公然実施発明2)である、又は、当該公然実施をされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1についての特許は、特許法第29条第1項第2号に該当する発明についてなされたものである、又は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである(以下、「無効理由5」という。)。 5.無効理由6 本件訂正発明1ないし6は、本件特許の出願前、日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第4及び21号証)に記載された発明である、又は、当該刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1ないし6についての特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明についてなされたものである、又は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである(以下、「無効理由6」という。)。 <証拠方法> (1)甲第1号証:「油脂」Vol.45, No.6(1992)pp26-41 (2)甲第2号証:「パームフルーツオイル 植物油健康革命」主婦と生活社(1998年6月22日)第37?41行 (3)甲第3号証:「食品と技術」2003年9月号、第1?8行 (4)甲第4号証:「ヘルシーオイル「カロチーノ」Cooking Book」(株)講談社(2006年3月1日)第11、44頁 (5)甲第5号証:「オレオサイエンス」第6巻第7号(2006)(社)日本油化学会、第39頁 (6)甲第6号証:特開2001-218558号公報 (7)甲第7号証:2004年11月5日に社内承認された「クックパルTS」の製品規格書 (8)甲第8号証:2002年7月12日に社内承認された「パームエース-10」の製品規格書 (9)甲第9号証:2002年7月12日に社内承認された「ナタネ シラシメユ」(菜種白絞油)の製品規格書 (10)甲第10号証:2002年7月12日に社内承認された「ナタネユ」の製品規格書 (11)甲第11号証:2007年5月18日に作成された原材料品質保証書 (12)甲第12号証:平成18(2006)年3月27日に納入先に提示された納入商品規格書(1)、(2) (13)甲第13号証:2005年12月27日から2007年12月25日までの間に納入されたクックパルTSの納入実績表 (14)甲第14号証:2004年5月27日に作成された新製品・改良品申請書 (15)甲第15号証:2006年9月頃に頒布された「COOKPAL PALM BLEND クックパルシリーズ」のカタログ (16)甲第16号証:2004年5月28日に作成された「クックパル ハイデラックスR」の製品規格書 (17)甲第17号証:2006年1月から2007年12月までの間に納入されたクックパル ハイデラックスの出荷実績表 (18)甲第18号証:油脂 vol 48 1995 の表紙 (19)甲第19号証:油脂 vol 57 2004 の表紙 (20)甲第20号証:油脂 vol 58 2005 の表紙 (21)甲第21号証:1998年2月頃にイエナ商事株式会社から発行された「RED PALM OIL CAROTINO カロチーノ」のパンフレット 第5 被請求人の主張 一方、被請求人は、証拠方法として以下の乙第1号証ないし乙第6号証を提出し、請求人の主張はいずれも理由がないものであり、本件審判の請求は成り立たないと主張している。 1.無効理由1及び2に対して 甲第1号証の表-1に「ヨウ素価67.5のスーパーオレイン」が記載されていたとしても、これとは別の項目に記載された図3-1?3-3においても「ヨウ素価67.5のスーパーオレインとナタネ油とのブレンド油」が記載されているとはいえず、図3-1?3-3には「ヨウ素価が不明のスーパーオレインとナタネ油とのブレンド油」が記載されているというべきであるから、本件訂正発明は甲第1号証に記載されたものではない。 また、ヨウ素価が高いほど酸化されやすいことが技術常識である食用油脂組成物において、酸化による劣化により生じる曝光後の加熱臭を改善するため、ヨウ素価68?80の高い範囲にあるパームオレインをキャノーラ油と組み合わせることを当業者は想定しないものであり、更に、ヨウ素価が高い領域にあるパームオレインを含む油脂組成物を、少なくとも一部が光透過性である容器に充填して容器入り食用油脂組成物とはしないものであって、ヨウ素価の下限である68を用いた効果も実施例によって裏付けられているから、本件訂正発明は、甲第1?6号証の開示を超えた進歩性を有する。 2.無効理由3に対して 実施例において効果が見出されたヨウ素価68、69の近傍のみならず、それよりも高く技術常識上想定し得る少なくとも80までのヨウ素価を有するパームオレインについても同様の効果が得られることは当業者にとって明らかであるから、特許法第36条第6項第1号の規定及び同第4項第1号の規定に則ったものである。 3.無効理由4に対して 審判請求人は、甲第7?14号証に基づいて本願優先日前に現実に製造、販売等された製品であると主張する公然実施発明「クックパルTS」が、本件訂正発明の構成要件を満たすことを明らかにしていないから、「公然実施された発明」に基づく新規性及び進歩性欠如の主張には理由がない。 4.無効理由5に対して 審判請求人は、甲第15?20号証に基づいて本願優先日前に現実に製造、販売等された製品であると主張する公然実施発明「クックパル ハイデラックスR」が、本件訂正発明の構成要件を満たすことを明らかにしていないから、「公然実施された発明」に基づく新規性及び進歩性欠如の主張には理由がない。 5.無効理由6に対して 本件訂正発明におけるパームオレインのヨウ素価は、訂正により「68?80」に限定されているから、ヨウ素価63?66のパームオレイン(「カロチーノ プレミアム」)を開示する甲第21号証及び当該パームオレインとキャノーラ油とのブレンド油(「カロチーノ クラシック」)を開示する甲第4号証に記載の発明に対して新規性を有する。また、甲第4及び21号証には、「カロチーノ プレミアム」のヨウ素価の技術的意義について何ら記載も示唆もしていないから、当業者は「カロチーノ プレミアム」のヨウ素価を上げることによって曝光油の加熱臭等を抑制できることを把握することができない。したがって、本件訂正発明は、甲第4及び21号証の開示を超えた進歩性を有する。 <証拠方法> (1)乙第1号証:「パーム油・パーム核油の利用」、加藤秋男著 幸書房(1990年7月31日発行) pp104-109 (2)乙第2号証:「油脂」Vol.52, No.4(1999) pp65-69 (3)乙第3号証:『第四版 油化学便覧?脂質・界面活性剤?』p435 (4)乙第4号証:「油脂」Vol.45, No.6(1992) pp46-49 (5)乙第5号証:「油脂」Vol.45, No. 6 (1992) pp37-41「フライ油として優れた特性」の著者による意見書(平成22年10月1日作成) (6)乙第6号証:特開2000-282080号公報 第6 当審の判断 1.無効理由1(特許法第29条第1項第3号)について (1)本件訂正発明1について ア 甲第1号証に記載された発明 (ア)甲第1号証:「油脂」Vol.45, No.6(1992)pp26-41 (ア-1)「フライ用にパーム油を調合することによるメリットといえば、やはり酸化安定性に優れていることだ。・・・流通の場合は、パーム油は日保ちする期間が他の油脂に比べて圧倒的に長い。AOM価は、コメ油の20時間に比べてパームオレインは60時間にも達する。酸化安定度は通常AOMで測る・・・」(26頁本文左欄11?18行) (ア-2)「パーム油は固形脂なので、揚げた物が冷めると白く固まるといった問題点もある。・・・パームオレインで17?20℃、ダブルフラクションのスーパーオレインでは10℃以下のものもある。・・・やはり液体の方が固形脂よりも使いやすく、加工する場合でも、溶解させる時の熱量が違い、その面でコストも違ってくる。」(26頁本文右欄下から9行?27頁左欄5行) (ア-3)「パームオレインはさらに分別するとことにより、冬場以外はほとんど液状に近いダブルフラクショネーション・パームオレイン、いわゆるスーパーオレインとPMF・・・に分けられる。パームオレイン、スーパーオレインは、パーム油に比べハンドリング性がよく、また酸化安定性もあまり下らない(表-1)ため、フライ用油脂として有用である。」(37頁本文左欄19?右欄7行) そして、上記「表-1」には、粗製パーム油、パームオレイン及びスーパーオレインのそれぞれについて、ヨウ素価が52.3、57.5及び67.5であり、上昇融点(℃)が34.8、24.3及び9.8であり、AOM(hr)が65、50及び45であることが示されている。 (ア-4)「パーム油を利用したフライ用油脂としては、精製パーム油、パームオレイン、スーパーオレイン(以下パーム系油脂)の単独、または他の油脂とのブレンド油・・が使用されている。そしてこれらの加工により、パーム油はハンドリング性が求められる惣菜等から、淡白な風味と酸化安定性が求められる即席めん等、より熱安定性と酸化安定性が求められる米菓、スナック等まで、またドーナツの砂糖のなき防止として幅広く使用され、市場のニーズに応えている。」(37頁本文右欄8?17行) (ア-5)「図3-1?3-3は、各種惣菜をナタネ油/スーパーオレイン=50/50(AOM安定度30時間、曇点0℃、以下ブレンド油)およびナタネ油でフライを行った時の酸価、発煙点、重合物量の経時的変化を表している。」(39頁本文右欄12?16行) (ア-6)「発煙点の変化については、ブレンド油の方が変化が少なく、また重合物量についても、ブレンド油は20時間以後余り変化がないのに対して、ナタネ油は50時間まで増加を続け、約5%に達していた。 以上より、実際の使用においても、フライ油としてのパーム系油脂およびそのブレンド油は、熱安定性がよく、特に重合物量等は明らかに低いといえる。」(40頁本文左欄1?9行) (イ)甲第2号証:「パームフルーツオイル 植物油健康革命」主婦と生活社(1998年6月22日)37?41頁 (イ-1)「ナタネ油 ほかのオイルとのブレンドによく使われます。近年、品質改良が行なわれ、現在ではオレイン酸を60%程度に増やし、リノール酸を20%、リノレン酸も10%前後含んだものが主流となっています。」(40頁11行?41頁1行) (ウ)甲第3号証:「食品と技術」2003年9月号、1?8頁 (ウ-1)「最近の植物油は、脂肪酸組成を変えるような育種・・の結果、昔からの在来種とは全く異なった脂肪酸組成を持つ植物油が市販されるようになった。その先駆けとなったのが、菜種の育種であり、30年ほど前にその育種技術が完成した。在来種はエルシン酸(エルカ酸ともいう、22:1)を45%程度含んでいるが、エルシン酸の健康への影響が問題視されてから、菜種の主産地であるカナダでエルシン酸を低めるように品種改良され、現在のキャノーラ油(エルシン酸1%以下で、代わりにオレイン酸を60%程度含む)が世界各国で栽培されるようになった。」(1頁本文11?17行) (ウ-2)「図1に最近の植物油の脂肪酸組成を示した。」(1頁本文20行) そして、上記「図1 代表的な食用油の脂肪酸組成」(2頁)には、キャノーラ油のオレイン酸含有量が60.8%であることが示されている。 イ 判断 甲第1号証には、精製パーム油、パームオレイン及びスーパーオレインのヨウ素価が、それぞれ52.3、57.5及び67.5である旨記載され(上記摘記ア(ア)(ア-3)参照)、また、図3-1ないし3-3において、ナタネ油/スーパーオレイン=50/50(AOM安定度30時間、曇点0℃、以下ブレンド油)でフライを行った時の酸価、発煙点、重合物量の経時的変化が記載されている(上記摘記ア(ア)(ア-5)参照)ものの、当該スーパーオレインがヨウ素価68?80のパームオレインであることを示唆する記載はない。 したがって、本件訂正発明1と甲第1号証に記載された事項とは、用いるパームオレインのヨウ素価の点で相違するものであるから、本件訂正発明1が、本件特許の優先日前、日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明であるとはいえない。 (2)本件訂正発明2ないし6について 本件訂正発明2ないし6は、本件訂正発明1の発明特定事項をより限定するか、新たな発明特定事項を付加するものであるから、本件訂正発明1と同様に、本件特許の優先日前、日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明であるとはいえない。 2.無効理由2(特許法第29条第2項)について (1)本件訂正発明1について ア 甲第1号証に記載された事項との対比 甲第1号証の図3-1ないし3-3に記載される、ナタネ油/スーパーオレイン=50/50のものは、パームオレインとナタネ油の質量比が20:80?60:40の範囲に包含されるものであり、パームオレイン及びキャノーラ油の合計量が70?100質量%の範囲に包含されるものである。また、キャノーラ油はナタネ油の一種である(上記摘記1.(1)ア(ウ)参照)。 よって、本件訂正発明1と甲第1号証に記載された事項とを対比すると、両者は、「パームオレイン、及びナタネ油を含み、パームオレインとナタネ油の質量比が20:80?60:40の範囲にあり、かつ食用油脂組成物全体におけるパームオレイン、及びナタネ油の合計量が70?100質量%の範囲にある食用油脂組成物」である点で一致し、前者では「ヨウ素価が68?80のパームオレイン」を用いているのに対し、後者ではスーパーオレインを用いている点(以下、「相違点1」という。)、前者では「全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%未満のキャノーラ油」を用いているのに対し、後者ではナタネ油を用いている点(以下、「相違点2」という。)、及び、前者では「少なくとも一部が光透過性である容器に充填されている」容器入り食用油脂組成物であるのに対し、後者は容器に充填することは明記されていない点(以下、「相違点3」という。)で相違する。 イ 当審の判断 一般に、食用油脂組成物は、天然物から抽出した油脂をそのまま又は複数を混合して製品化されるものであるから、様々な用途に向けた食用油脂組成物を製品化するにあたり、複数の周知の食用油脂を単に混合(ブレンド)すること自体に阻害事由はなく、このことは、従来様々な嗜好やニーズに合わせたブレンド油が上市されていることからも明らかである。 以上のことを踏まえ、以下、検討する。 (ア)相違点1(パームオレインのヨウ素価)について 本件訂正発明1のパームオレインは、ヨウ素価68?80の範囲のものであるので、以下、当該範囲の下限であるヨウ素価68近傍のパームオレインについて、検討する。 一般に、食用油脂組成物に含まれるパームオレイン等の油脂を、融点の低いものとすることによって、冬場でも固まらず作業性のよい食用油脂組成物とすることができることは、本件特許の優先日前の当業者に自明の技術的事項であったといえる(例えば、甲第15号証3頁下段<パームの使いやすさを追求>の項、乙第2号証66頁右欄下から5?2行、請求人提出参考資料6の35頁右欄5行?36頁右欄3行参照)。 また、甲第1号証には、パーム油を配合したフライ油は酸化安定性の点で優れていること(上記摘記1.(1)ア(ア)(ア-1)参照)、及び、低融点のパームオレイン(融点17?20℃)やダブルフラクションのスーパーオレイン(融点10℃以下)を用いることによって、液状油として扱いやすく、溶解させる熱量が不要でコストも少ないというメリットがあること(上記摘記1.(1)ア(ア)(ア-2)参照)、及び、融点24.3℃のパームオレインのヨウ素価が57.5であり、融点9.8℃のダブルフラクションのスーパーオレインのヨウ素価が67.5であること(上記摘記1.(1)ア(ア)(ア-3)参照)が記載されており、また、乙第2号証及び請求人提出参考資料6には、トップオレインなどヨウ素価70を超えるパームオレインは低温での使用に適した食用油脂であること(乙第2号証の66頁本文右欄7行?67頁本文左欄2行、請求人提出参考資料6の35頁本文右欄5行?36頁本文右欄3行)が記載されていることから、ヨウ素価の高いパーム油ほど融点が低いこと、及び、冬場でも固まらない食用油脂組成物は使用時のコストを削減できることが本件特許の優先日前の当業者に自明の技術的事項であったといえる。 このように、ヨウ素価が高いパーム油をブレンドすることによって酸化安定性の面では不利になったとしても、扱いやすさやコストの面では有利になるといえるから、当業者は、そのどちらを重視するのか、又はその両者のバランスをどのように取るのか、という観点からパーム油のヨウ素価を適宜設定・選択するものであるといえる。よって、当業者が冬場でも固まらない食用油脂を開発しようとする際には、仮に酸化安定性やコストの面で不利であったとしても、パーム油のヨウ素価を高くすることが阻害されるとはいえない。 したがって、以上のような技術水準の下、甲第1号証に接した当業者は、冬場でも固まらず作業性のよい食用油脂組成物を製造するという技術的課題を解決すると同時に、使用時のコストを削減するという自明の課題も解決するため、ナタネ油より融点が高いパーム系油脂を、融点が低い、すなわちヨウ素価の範囲がより高い範囲のものとすることは、容易になし得たことである。 そして、乙第2号証66頁図5.2及び乙第3号証435頁図5.1にも記載されているように、周知の手法によりパーム系油脂を分離することによって得られる、ヨウ素価70?72のパーム系油脂であるトップオレインは、本件特許の優先日前の当業者に周知の食用油脂であったといえるから、甲第1号証に記載のブレンド油に用いるスーパーオレインに代えて、当該周知のヨウ素価70?72程度のトップオレインを採用することは、当業者は容易に想到し得たことである。 この点に関し、被請求人は答弁書及び口頭審理陳述要領書において、ヨウ素価を上げることによって曝光油を含めた油の加熱臭を抑制することができることは甲第1号証には何ら示唆されていない旨主張する(答弁書12頁下から4行?13頁9行)とともに、油脂はヨウ素価が高いほど酸化しやすいのは技術常識であり、甲第1号証油は曝光により酸化しその生成物がにおいの発生の原因となる旨の記載をみた当業者は、たとえヨウ素価68以上のパームオレインが本件特許の出願時に公知であったとしても、ヨウ素価の低いものと比べて酸化し易くなったヨウ素価68?80の高い範囲にあるパームオレインを用いることに阻害事由があり、これをキャノーラ油と組み合わせることによって、油脂組成物の曝光後の加熱臭が改善されることを想定するのは不可能である旨主張している(答弁書13頁10?下から4行、口頭審理陳述要領書3頁16行?4頁7行)。 しかしながら、上記のとおり、食用油脂組成物を製造するにあたり複数の食用油脂を混合(ブレンド)すること自体に阻害事由はないから、当業者は、例えば低温安定性、酸化安定性、扱いやすさ、コスト等の多面的な検討を行った上で食用油脂組成物に使用する食用油脂を選択するものであり、ヨウ素価68?80の高い範囲にあるパームオレインを用いることに阻害事由があるとはいえないし、また、キャノーラ油のヨウ素価が110?115程度と高く(請求人提出参考資料7の36?37頁表1.4参照)、これと混合するパームオレインとして、甲第1号証に記載されるスーパーオレインに代えて、この周知のヨウ素価70?72のトップオレインを採用しても、油脂組成物全体としてのヨウ素価はキャノーラ油単独よりも低くなるのであるから、この点からも、甲第1号証に記載されるスーパーオレインに代えて、ヨウ素価70?72のトップオレインを採用することを格別に阻害するものではない。 よって、当該被請求人の主張は採用することができない。 なお、乙第2号証68頁図6.1には、ヨウ素価57のパームオレインのAOMは40時間程度、ヨウ素価67のパームオレインのAOMは60時間程度と記載され、ヨウ素価が高いパームオレインの方が酸化に対して安定であることが示されている。このことから、ヨウ素価で示される油脂の不飽和度以外の要因も、パーム系油脂の酸化安定性に関係していることが常識的には考えられることから、単にヨウ素価のみに着目して、パームオレインのヨウ素価が高いというだけで、それを用いることが阻害されるとはいえない。 (イ)相違点2(全構成脂肪酸中のオレイン酸含量)について 本件特許の優先日前において、食用に用いられるナタネ油として、健康への影響が問題視されているエルシン酸の含量を低下させたキャノーラ油が広く用いられており、当該キャノーラ油の全構成脂肪酸中のオレイン酸含量は60質量%程度であることも広く知られていた(上記摘記1.(1)ア(イ)及び(ウ)並びに乙第6号証の段落【0004】?【0005】参照)ことを踏まえると、甲第1号証に記載のフライ用の油脂組成物に用いられる、甲第1号証の図3-1ないし3-3に記載のナタネ油として、本件特許の優先日前において当業者に周知慣用の全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%未満のキャノーラ油を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 (ウ)相違点3(容器)について 本件特許の優先日前において、パーム系油脂とキャノーラ油との混合物からなる食用油脂組成物のみならず、ヨウ素価が110?115程度であるキャノーラ油(請求人提出参考資料7の36?37頁表1.4参照)からなる食用油脂組成物さえも「少なくとも一部が光透過性である容器に充填されている」状態で流通していたこと(甲第4、6、18ないし20号証、特に、甲第4号証11頁の「カロチーノ クラシック」、甲第6号証の段落【0017】参照)からみて、キャノーラ油単独よりもヨウ素価が低いため酸化されにくいと考えられるキャノーラ油とパーム系油脂とのブレンド油を流通させるに際し、「少なくとも一部が光透過性である容器に充填」することへの阻害事由があったとはいえない。 したがって、ヨウ素価68?80のパームオレインとキャノーラ油とを含む食用油脂組成物を充填するための容器として、「少なくとも一部が光透過性である容器」を採用することは、当業者が、生産・販売・流通・使用の態様に応じて適宜選択し得たことである。 この点に関し、被請求人は答弁書において、ヨウ素価が高い領域にあるパームオレインを含む油脂組成物を、少なくとも一部が光透過性である容器に充填して容器入り食用油脂組成物とはしないものである旨主張する(答弁書13頁下から4?最終行)とともに、口頭審理陳述要領書において、ナタネ油、パーム油等の食用油は、その種類により様々な風味特性や異なる風味劣化の特徴が存在し、また、食用油の種類によって、酸化の程度と風味との関連性もヨウ素価の程度も大きく異なるものであり、種類の異なる食用油またはそれらの組み合わせを比較するにあたり、単純にヨウ素価が異なるからといって、それが直接的に油の風味の劣化のし易さを示すものであるとは限らず、また、ヨウ素価の差に基づいて光による風味劣化の程度を予想できる訳でもないから、単にキャノーラ油で「少なくとも一部が光透過性である容器に充填されている」ことが知られているからといって、その性質が異なる本発明の油脂組成物であるキャノーラ油とパームオレインとの混合物において、パームオレインのヨウ素価のみを基準として、その風味の劣化のし易さを判断することはできないし、本件訂正発明1の食用油脂組成物のヨウ素価が単に「キャノーラ油(ナタネ油)からなる食用油よりもヨウ素価の低い」ことを理由として、「本件訂正発明の食用油脂組成物(ヨウ素価68?80)の流通にあたり「少なくとも一部が光透過性である容器に充填」することには阻害事由はあると主張している(口頭審理陳述要領書6頁下から6行?7頁11行)。 しかしながら、被請求人の阻害事由の主張は、キャノーラ油は単独より、キャノーラ油とパームオレインとの混合物の方が、風味が劣化しやすくなるとは予測できないというものである。風味が劣化しやすくなると予測されてこそ、当業者は「少なくとも一部が光透過性である容器に充填」することを避けようとするのであって、単に予測できないという程度では、普通に開発意欲のある当業者を阻害するような事由とはならず、当該被請求人の主張は採用することができない。 (エ)効果について 本件明細書の段落【0020】【表1】には、ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油との混合物(実施例1?7)が、ヨウ素価68のパームオレイン単独(比較例1)、キャノーラ油単独(比較例2)及びヨウ素価60のパームオレイン単独(比較例3)と比較して、曝光した場合及び曝光しない場合の両方において、加熱臭の発生が抑制されることを示す試験結果が記載され、段落【0023】【表2】には、ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油との混合物(実施例8)が、キャノーラ油単独(比較例4)と比較して、臭気成分であるアクロレインの発生量が少ないことを示す試験結果が記載され、段落【0024】ないし【0027】には、曝光した比較例4でフライしたアジフライより曝光した実施例8でフライしたアジフライの方が臭い及び味がよいと判断したパネル試験結果が記載されている。 このように、本件明細書に記載された試験結果は、いずれも、ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油との混合物(実施例1?8)について、ヨウ素価68のパームオレイン単独、キャノーラ油単独又はヨウ素価60のパームオレイン単独を比較対象として行ったものであるから、当該試験結果を示す本件明細書の具体的なデータ等の開示により把握される本件訂正発明1の効果は、「ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油との混合物が、単独の食用油よりも加熱臭の発生や調理後の風味の点で優れている」ことのみであって、被請求人が主張するような、「ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油との混合物が、異なるヨウ素価を有するパームオレインとキャノーラ油との混合物と比較して、加熱臭の発生や調理後の風味の点で格別の効果が奏される」ことについては本件明細書に記載されているとはいえない。 むしろ、後記3.(2)で述べるように、「ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油との混合物」が奏する効果は、「ヨウ素価が64?66のトップオレインとキャノーラ油との混合物」や「ヨウ素価が80程度のパームオレインとキャノーラ油との混合物」が奏する効果と同程度であるといえるから、本件訂正発明1が、甲第1号証に記載された発明(例えば、ヨウ素価65のパームオレインとキャノーラ油とのブレンド油)と比較して、予測できない優れた効果を奏するとはいえない。 この点に関し、被請求人は答弁書及び口頭審理陳述要領書において、本件訂正発明1は、請求項に規定した組成におけるパームオレインのヨウ素価を一定の値よりも高い領域とすることによって従来得られなかった効果を見出したことを特徴とするものであり、実施例において効果が見出されたヨウ素価68、69の近傍のみならず、それよりも高く技術常識上想定し得る少なくとも80までのヨウ素価を有するパームオレインについても同様の効果が得られることは当業者にとって明らかである旨主張する(答弁書14頁7?20行、口頭審理陳述要領書8頁9?22行)とともに、本件訂正発明1は、特にキャノーラ油との組み合わせにおいて、ヨウ素価が68?80の高い範囲にあるパームオレインを使用することによって、曝光油や未曝光油の加熱臭を抑制するという効果を見いだしたものであって、ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油とを混合することによる相乗効果が得られることが本件明細書から明らかであるから、ヨウ素価68について臨界的意義を求めることは不適切である旨(口頭審理陳述要領書9頁1?11行)、及び、本件明細書の段落【0006】、実施例1?7、比較例1及び2の記載からみて、本件訂正発明の食用油脂組成物は、ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油とを混合することによって相乗効果を奏することが明らかである旨(口頭審理陳述要領書10頁5?下から4行)、主張している。 しかしながら、本件明細書には、パームオレインとキャノーラ油との混合物が、それぞれの単独のものを比較例として、「曝光油や未曝光油の加熱臭を抑制するという効果」を奏することを示す実施例は記載されていると認められるものの、ヨウ素価が68未満のパームオレインを用いた混合物を比較例とした実験結果は記載されていないから、「ヨウ素価が68?80の高い範囲にあるパームオレイン」を使用したことによる効果を示す実施例が本件明細書に記載されているとはいえず、そうすると、甲第1号証に記載されるスーパーオレインとナタネ油との混合物においても、それぞれの単独のものと比較して「曝光油や未曝光油の加熱臭を抑制するという効果」が奏されていたといえるから、本件訂正発明1が格別な効果を奏しているというためには、当該公知の混合物が奏する効果と比較して、「ヨウ素価68?80」のパームオレインを採用したことによる効果を証明する、すなわち臨界的意義を求めることが適切であるといえる。 したがって、当該被請求人の主張は採用することができない。 (オ)商業的成功について 被請求人は答弁書(2)において、本件訂正発明に基づく製品は、業界紙により表彰されたものであって、優れた商業的成功を収めているから、これは進歩性の存在を示すものである旨主張している(答弁書(2)6頁8?20行)。 しかしながら、商業的成功を収めたとする商品名「日清ベジフルーツオイル」が、パームフルーツオイル、キャノーラ油及びコーン油を構成油脂とする食用油脂組成物である(被請求人提出参考資料8)とはいえるものの、当該食用油脂組成物に含まれるパームオレインのヨウ素価、及び、各食用油脂の配合比については明らかでなく、当該「日清ベジフルーツオイル」が本件訂正発明に基づくものであるとはいえず、仮に、当該「日清ベジフルーツオイル」が本件訂正発明の構成を具備するものであったとしても、当該商業的成功が、販売技術や宣伝等その他の原因によるものではなく、本件訂正発明の特徴のみに基づくものであることについて被請求人は何ら主張していないから、当該商業的成功をもって進歩性の存在を推認することができるとはいえない。 したがって、当該被請求人の主張は採用することができない。 (カ)動機づけについて 被請求人は答弁書(2)において、本件訂正発明は、キャノーラ油に対してヨウ素価の高いパームオレインを混合するという動機づけが存在しない中で、所定の範囲のヨウ素価を有するパームオレインをキャノーラ油とともに用いることによって、曝光油の加熱臭を低減するという目的を達成したものであるから、甲第1号証に記載された食用油脂組成物に基づいて、甲第1号証において記載も示唆もされていない「低温液状保持性」を改善するという本件訂正発明とは異なる動機づけをもって、当業者が本件訂正発明を容易になし得たとする判断は、平成20年(行ケ)10096号において判示されているように、後知恵に基づくものであって到底許されない旨主張している(答弁書(2)6頁下から6行?11頁16行)。 しかしながら、そもそも、本件訂正発明が属する食用油脂組成物の技術分野においては、上記イの冒頭で述べたとおり、様々な用途に向けた食用油脂組成物を製品化するにあたり、複数の周知の食用油脂を単に混合(ブレンド)すること自体に阻害事由はないから、動機づけが存在しないとはいえない。 また、一般に、本件発明とは異なる別の課題を有する引用発明に基づいた場合であっても、別の思考過程により、当業者が請求項に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であったことが論理づけられたときは、課題の相違にかかわらず、本件発明の進歩性を否定することができるとされている(特許・実用新案審査基準第II部第2章2.5(2)参照)。したがって、本件訂正発明については、甲第1号証に記載された食用油脂組成物に基づいて、「曝光油の加熱臭を低減する」とは別の思考過程、すなわち、自明の課題である「低温液状保持性」を改善するという本件訂正発明とは異なる動機づけをもって当業者が本件訂正発明を容易になし得たとする判断は、後知恵に基づくものではないから、当該被請求人の主張は採用することができない。 更に、被請求人が答弁書(2)で参照する平成20年(行ケ)10096号に係る発明は、「回路用接続部材」に関するものであって、本件訂正発明とは技術分野及び解決すべき課題が異なるものであるから、当該事件における判示事項が本件訂正発明にそのまま適用できるものではない。また、仮に当該事件における判示事項、すなわち「当該発明の課題を的確に把握する」ためには、「本願明細書の記載、特に各実施例と比較例1との対比部分の記載」に照らして、本願発明と比較例1との相違点及び解決された課題を把握すべきであること、を参酌したとしても、本件明細書には、実施例の「パームオレインとキャノーラ油との混合物」が比較例の「パームオレイン単独」又は「キャノーラ油単独」よりも、「曝光油の加熱臭等の改善」という点で効果を有することが記載されているのみであるから、本件訂正発明の課題は、「パームオレインとキャノーラ油とを混合することによって、それぞれ単独よりも曝光油の加熱臭を改善する」ことであるといえる。一方、本件明細書の実施例、比較例を含め、ヨウ素価と効果の関係に着目した実施例及び比較例は記載されていないから、本件訂正発明の課題が「パームオレインとキャノーラ油との混合物中のパームオレインをヨウ素価68?80とすることによって曝光油の加熱臭等の改善」することであるとする被請求人の主張は、当該事件の判示事項に沿ったものではなく採用することができない。 ウ 小活 以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第1ないし3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件訂正発明2ないし6について ア 当審の判断 上記(1)において検討したように、本件訂正発明1は、甲第1ないし3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ア)本件訂正発明2について 本件訂正発明2は、本件訂正発明1における相違点に加え、更に、容器の容積が2リットル以下である点で、甲第1号証に記載された発明と相違するものである。 しかしながら、食用油脂が2リットル以下の容器に充填されて流通、販売されることは、本件特許の優先日前の当業者にとって周知の技術的事項であった(例えば、甲第4号証11頁、甲第19及び20号証参照)から、本件訂正発明1の容器入り食用油脂組成物の容器の容積を2リットル以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本件訂正発明2としたことによって、予測できない優れた効果を奏するともいえない。 (イ)本件訂正発明3ないし5について 本件訂正発明3ないし5は、本件訂正発明1における相違点に加え、更に、カロテンを含む点、コエンザイムQ10を含む点、及び、トコトリエノール類を含む点で、それぞれ甲第1号証に記載された発明と相違するものである。 しかしながら、パームオレイン中にはカロテンを含むカロテノイド、コエンザイムQ10、トコトリエノール類が含まれていること、及び、これらを食用油脂組成物に用いることは、本件特許の優先日前の当業者にとって周知の技術的事項であった(例えば、甲第4号証11頁、甲第5号証39頁右欄7?24行、甲第21号証最終頁「分析値」の項参照)から、本件訂正発明1の容器入り食用油脂組成物において、カロテンを含むカロテノイド、コエンザイムQ10、トコトリエノール類を含むパームオレインを用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本件訂正発明3ないし5としたことによって、予測できない優れた効果を奏するともいえない。 (ウ)本件訂正発明6について 本件訂正発明6は、本件訂正発明1の食用油脂組成物が、食品材料を加熱調理するためのものであるとしたものである。 しかしながら、甲第1号証には、食用油脂組成物が加熱調理に相当するフライ用に用いられることも記載されている(上記摘記1.(1)ア(ア)(ア-5)参照)から、この点で本件訂正発明6と甲第1号証に記載された発明とは相違していない。 イ 小活 以上のとおり、本件訂正発明2ないし6は、甲第1ないし3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正発明1ないし6は、甲第1ないし3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.無効理由3(特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号)について (1)本件明細書の記載 本件明細書には、本件訂正発明1の食用油脂組成物が解決すべき課題として、「各種材質の収容容器に食用油脂を充填した場合であっても、光等による食用油脂自体の酸化劣化を抑制することができる技術の開発が望まれていた」と記載され(段落【0004】)、パームオレイン及び菜種油を組み合わせることにより、従来に無い特性を持った油、具体的には光に曝された後の油(曝光油)の加熱臭を抑制するのみならず、曝光前の油(未曝光油)の加熱臭を抑制することもできることを見出し、この課題を解決するに至った旨(段落【0005】)記載されている。 この本件明細書に記載された試験結果は、いずれも、ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油との混合物(実施例1?8)について、ヨウ素価68のパームオレイン単独、キャノーラ油単独又はヨウ素価60のパームオレイン単独を比較対象として行ったものであるから、当該試験結果を示す本件明細書の具体的なデータ等の開示により把握される本件訂正発明1の効果は、「ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油との混合物が、単独の食用油よりも加熱臭の発生や調理後の風味の点で優れている」ことのみであって、ヨウ素価68未満のパームオレインとキャノーラ油との混合物や、ヨウ素価が80に近いパームオレインとキャノーラ油との混合物が、加熱臭の発生や調理後の風味の点で優れていることについては記載されていない。 (2)当審の判断 パーム油の分別は、乙第2号証の5.1パーム油の分別の項に説明されているように、加圧や冷却により結晶化する油脂を分画することによって行うものであり、多段の分別を行えば、曇点が低くヨウ素価の高いスーパーオレイン、トップオレインなどが得られるものである。そうすると、更に多段の分別を、より低温で行えば、よりヨウ素価の高いパームオレインが得られるといえる。そして、ヨウ素価が80程度のパームオレインが製造できないという特段の理由も明らかでないから、多段の分別を、より低温で行うことにより、ヨウ素価が80程度までのパームオレインを製造することができるとするのが相当である。 また、この分別は、結晶化する油脂を分別で除いているのであるから、よりヨウ素価の高いパームオレインは、乙第1号証の表6.3に示されるトリグリセリドのうち、融点が高いとして知られるPOPやPPOの量が、融点の低いPOO、PLO及びOOOの量と比べて、相対的に少なくなったものであるといえるが、その他の点で、含まれる成分に格別の差異が生じるものではない。 よって、「単独の食用油よりも加熱臭の発生や調理後の風味の点で優れている」という「ヨウ素価68のパームオレインとキャノーラ油との混合物」が奏する効果は、含まれるパーム油のヨウ素価にかかわらず、「ヨウ素価が64?66のトップオレインとキャノーラ油との混合物」や「ヨウ素価が80程度のパームオレインとキャノーラ油との混合物」においても同程度の効果が奏され、課題が解決できるものと認められる。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件明細書には、ヨウ素価80のパームオレインを用いた食用油脂組成物を含む本件訂正発明1ないし6について、当業者が実施することができるように明確かつ十分に記載されており、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていると認められ、また、本件訂正発明1ないし6は本件明細書に記載したものであって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものと認められる。 4.無効理由4及び5(特許法第29条第1項第2号及び第2項)について (1)甲第7ないし14号証に基づく実施発明について 甲第7号証の製品規格書によれば、「クックパルTS 802614」は、「RWが80%及びPLW10が20%」又は「RWが60%及びPLW10が40%」の油脂組成物である。また、甲第8号証の製品規格書によれば、「PLW10」はヨウ素価68.0±1.0の食用パームオレインであり、甲第9及び10号証の製品規格書及び甲第11号証の原材料品質保証書によれば、「RW」は精製したキャノーラ油である。 そして、甲第12号証の納入商品規格書、甲第13号証の納入実績表及び甲第14号証の新製品申請書によれば、「クックパルTS 802614」は、少なくとも2005?2007年において製造・販売されていたことが推認される。 (2)甲第15ないし20号証に基づく実施発明について 甲第15号証の「COOKPAL PALM BLEND クックパルシリーズ」のカタログによれば、「クックパル ハイデラックスR」は、パーム油とナタネ油とのブレンド油であり、甲第16号証の製品規格書によれば、「クックパル ハイデラックスR」は、「RWが40%及びPLW10が60%」又は「RWが40%、PLW10が35%及びその他の油脂が25%」(PLW10とRWのみに着目すればPLW10:RW=47:53)の油脂組成物である。また、「PLW10」及び「RW」については、上記(1)で述べたとおりである。 そして、甲第17号証の納入実績表によれば、「クックパル ハイデラックスR」は、少なくとも2006?2007年において製造・販売されていたことが推認される。 (3) 特許法29条第1項第2号及び第2項についての当審の判断 ア パームオレインのヨウ素価について 「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」に用いられたパームオレインについて、請求人はパームオレインを製造したときに記録したヨウ素価を記した品質管理用データといったようなものを提出せず、甲第8号証の製品規格書を提出するだけである。そして、甲第8号証の製品規格書によれば、「PLW10」はヨウ素価68.0±1.0のパームオレインとなっている。そうすると、当該製品規格書どおりに製品が製造されたとしても、実際の商品に用いられたパームオレインは、ヨウ素価68未満であった可能性も否定できないものであり、「ヨウ素価が68?80のパームオレイン」を用いることを要件とする本件訂正発明1と比較して、パームオレインのヨウ素価が一致していると判断することはできない。 したがって、「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」が製造・販売された事実によっては、本件訂正発明1ないし6が、本件特許の優先日前に実施された発明であるとはいえないし、当該事実のみに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 イ 公然実施されたか否かについて 組成物に関する発明の場合、その組成物が製造・販売されていたとしても、分析してその組成がどのようなものであるか容易に分からない場合、技術思想としての発明が明らかにならないのであるから、公然実施されたといえないことは当然のことである。 そこで、「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」を分析することによって、その組成が明らかにできるかどうかについて、以下検討する。 (ア) 請求人は分析方法について、審判請求書において、「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」の組成は、構成脂肪酸のC16値及びトリグリセリド組成のP2O値等を分析することによって、当業者が容易に分析できる事項であって、例えば、ヨウ素価70のパームオレイン及びキャノーラ油の標準C16値に基づいて、C16値がクックパルTSのC16実測値15.1%となるような配合比を算出したところ、ヨウ素価70のパームオレイン:キャノーラ油=43.1%:56.9%であったこと、算出された配合比からなるブレンド油のP2O値を測定したところ4.9%であったこと、及び、当該ブレンド油のP2O値がクックパルTSのP2O実測値4.7%と極めて近似することから、「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」の組成は、当業者が容易に、ヨウ素価70のパームオレイン約43.1%とキャノーラ油約56.9%の組成に近いものであると算出することができる旨主張している(審判請求書28頁17行?29頁1行)。 ところが、「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」に含まれているパームオレインについては、上記アで述べたとおり、そのヨウ素価が明らかにされていないのであるから、被請求人の主張するヨウ素価70のパームオレインの標準C16値に基づく方法を、当業者が容易に想起できないというべきであり、「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」の組成は、当業者が容易に明らかにすることができないものであると認められる。 (イ) また、請求人は口頭審理陳述要領書において、参考資料1?6を提出し、パームオレインやキャノーラ油の脂肪酸組成及びトリグリセリド組成が本願優先日前に公知であったこと、油脂組成物の配合油脂組成は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によるトリグリセリド組成の分析のみからも確度高く分析できることが本願優先日前の当業者にとって周知の技術的事項であったこと、及び、パームオレインの脂肪酸組成とヨウ素価とは相関しパームオレインの種別毎に特有のものであることから、「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」の油脂組成物について測定したパルミチン酸含量、P2O含量、PO2含量、及びP2O/PO2比等から相関式を導き、「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」のパームオレインのヨウ素価、及び、パームオレインとキャノーラ油の配合比を求め得る(配合推定する)ことは、油脂分野の当業者にとって常識とも言える事項である旨主張している(口頭審理陳述要領書10頁4行?16頁11行)。 しかしながら、パームオレインとキャノーラ油は天然のものであるから、これらのトリグリセリド組成は、その品種、生産地、生産年などにより変動するものであるし、パームオレインに関しては、分別方法によってもそのトリグリセリド組成が変わってくる可能性もある。そのような状況の下で、パルミチン酸含量、P2O含量、PO2含量、及びP2O/PO2比の相関により、パームオレインのヨウ素価、及び、パームオレインとキャノーラ油の配合比をどの程度の確度で算出できるのかが全く不明であるから、請求人の主張する方法により、当業者が「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」の組成を容易に明らかにすることができるとはいえない。 また、特に、パルミチン酸含量及びP2O/PO2比に着目する点について、参考資料1?6には記載も示唆もなく、なおさらのこと、当業者が「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」の組成を容易に明らかにすることができるとはいえない。 (ウ) したがって、「クックパルTS 802614」及び「クックパル ハイデラックスR」が製造・販売された事実によっては、本件訂正発明1ないし6が、本件特許の優先日前に公然実施された発明であるとはいえないし、当該事実のみに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 5.無効理由6(特許法第29条第1項第3号及び第2項)について (1)本件訂正発明1について ア 甲第4及び21号証に基づく請求人の主張と被請求人の反論 請求人は、審判請求書において、訂正前の本件発明1は、甲第4号証に記載の食用油脂組成物に該当するから新規性がなく、また、甲第4及び21号証に基づいて当業者が容易に発明することできたものであるから進歩性がない旨主張した(無効理由6)ところ、被請求人は訂正請求するとともに、答弁書において、本件訂正発明1のパームオレインのヨウ素価及びパームオレインとキャノーラ油との配合比は訂正請求書によって訂正されたから、甲第4号証に記載の食用油脂組成物とは明確に区別された旨主張するとともに、甲第4及び21号証には、パームオレインのヨウ素価を調整することまでは示唆されているとはいえないから、甲第4及び21号証に接した当業者であっても、本件訂正発明1を容易に想到しない旨主張した。 これに対し、請求人は、本件訂正発明1について、口頭審理陳述要領書、口頭審理陳述要領書(2)及び上申書において、甲第4及び21号証に基づく無効理由6について更なる主張は何ら行っていない。 イ 当審の判断 本件訂正発明1と甲第4号証に記載された食用油脂組成物とを対比すると、当該食用油脂組成物に含まれるパームオレインのヨウ素価が、前者ではヨウ素価68?80であるのに対し、後者ではヨウ素価63?66(甲第21号証最終頁の「分析値」参照)である点で両者は相違するものであることは明らかである。したがって、この点において、本件訂正発明1は甲第4号証に記載された発明に該当するとはいえない。 また、甲第4及び21号証には、パームオレインの配合比を調整することは示唆されているものの、パームオレインのヨウ素価に着目して、それを調整することまでは示唆されているとはいえないから、甲第4及び21号証のみから、当業者が本件訂正発明1を容易に想到できたとはいえない。 よって、本件訂正発明1は、甲第4号証に記載された発明ではなく、かつ、甲第4及び21号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件訂正発明2ないし6について 本件訂正発明2ないし6は、本件訂正発明1の発明特定事項をより限定するか、新たな発明特定事項を付加するものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲第4及び21号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第7 むすび 以上のとおり、本件訂正発明1ないし6は、甲第1ないし3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 食用油脂組成物 【技術分野】 【0001】 本発明は、油を加熱した際に発生する加熱臭を、効果的に抑制することができる食用油脂組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 食用油脂は、食品を加熱加工する際に用いる加熱媒体として、又は調味料として幅広く用いられている。これら油脂組成物が従来より有する解決すべき課題として、酸化劣化による臭気の発生の問題が挙げられる。 酸化劣化は、照明や高温にさらされた場合により促進される。このような問題は、特に食用油脂の貯蔵安定性を考慮する際に、解決すべき重要な問題として認識されている。 この問題を解決するために種々の検討がなされており、以下の特許文献では、食用油脂を収容する容器に、紫外線吸収剤を添加し、容器中の食用油脂の光酸化による明所臭の発生を抑制している。 【0003】 【特許文献1】特開平7-322819号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、材質の異なる食用油脂の収容容器のすべてに、紫外線剤を添加して、成型することは難しかった。 そこで、各種材質の収容容器に食用油脂を充填した場合であっても、光等による食用油脂自体の酸化劣化を抑制することができる技術の開発が望まれていた。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、パームオレイン及び菜種油を組み合わせることにより、従来に無い特性を持った油、具体的には光に曝された後の油(曝光油)の加熱臭を抑制するのみならず、曝光前の油(未曝光油)の加熱臭を抑制することもできることを見出し、本発明に至った。 すなわち本発明は、ヨウ素価が66以上のパームオレイン及び菜種油を含むことを特徴とする食用油脂組成物に関する。 また、本発明は、パームオレイン及び菜種油を含有する食用油脂組成物であって、容積が2リットル以下の少なくとも一部が光透過性である容器に充填されていることを特徴とする食用油脂組成物に関する。 また、本発明は、ヨウ素価が64以上のパームオレイン及び菜種油を、10:90?80:20の質量比で含み、食用油脂組成物全体における該パームオレイン及び菜種油の合計が50?100質量%の範囲にある食用油脂組成物であって、容積が2リットル以下の少なくとも一部が光透過性である容器に充填されていることを特徴とする食用油脂組成物に関する。 また、本発明は、上記いずれかの食用油脂組成物を使用して、食品材料を加熱調理することを特徴とする加熱調理食品の製造方法に関する。 さらに、本発明は、上記いずれかの食用油脂組成物を使用して製造されたことを特徴とする食品に関する。 【発明の効果】 【0006】 本発明の食用油脂組成物は、光に曝された後の油(曝光油)の加熱臭を抑制するのみならず、曝光前の油(未曝光油)の加熱臭を抑制することもできる。したがって、本発明の食用油脂組成物を使用すると、臭い及び味の良好な加熱調理食品を作ることができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0007】 本発明の食用油脂組成物は、パームオレイン及び菜種油、並びに必要に応じてその他の成分を配合することにより得ることができる。以下に各成分及びその配合量等について詳細に説明する。 【0008】 パームオレイン 本発明において、「パームオレイン」とは、アブラヤシの果実から採取した油を分別・精製して得られる、食用に適した液体油を意味する。 本発明の食用油脂組成物においては、上記パームオレインのうち、ヨウ素価が66以上のもの、好ましくは66?80の範囲にあるもの、さらに好ましくは66?74の範囲にあるもの、最も好ましくは66?72の範囲にあるものを選択することが好ましい。ヨウ素価を66以上にすることで、光に曝された後の油(曝光油)の加熱臭を抑制するのみならず、曝光前の油(未曝光油)の加熱臭を抑制することもできる。 ここで、上記ヨウ素価は、例えば、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.3.4.1-1996」等の方法により容易に測定することができる。 また、本発明において使用するパームオレインは、構成脂肪酸として炭素数が18であり、不飽和結合を少なくとも一つ有する脂肪酸を、パームオレインの全構成脂肪酸中に好ましくは58?68質量%、さらに好ましくは60?65質量%、最も好ましくは62?65質量%含むものが使用できる。パームオレインの構成脂肪酸が、上記の範囲であることにより、光に曝された後の油(曝光油)の加熱臭をさらに抑制するのみならず、曝光前の油(未曝光油)の加熱臭をさらに抑制することもできる。 【0009】 上記のようなパームオレインは、パーム油から分別して得ることができる。具体的には、アブラヤシの果房を蒸気で処理した後、圧搾法により採油する。採油された油は、遠心分離を行い繊維や夾雑物を取り除き、乾燥する。その後、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭の精製を経る。精製方法として、化学的精製や物理的精製等があるが、いずれを用いることも可能である。 パームオレインを得るためのパーム油の分別方法は、特に限定が無く、通常は冷却による自然分別法を用いるが、界面活性剤や溶剤により分別する方法を用いることが可能である。パームオレインは、パーム油を分別して得られる、中融点部分又は低融点部分である(高融点部分は、一般にパームステアリンと呼ばれる)。この分別は2回分別、3回分別でも良く、複数回分別処理して得られる低融点部分、特に上記の方法を用いて測定したヨウ素価が、上記の範囲にあるものを回収して、本発明の食用油脂組成物に使用することができる。 【0010】 菜種油 本発明に使用する菜種油には、一般に流通している食用の菜種油を使用することができる。菜種油としては、全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%未満のキャノーラ油や、全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%以上の高オレイン酸低リノレン酸種キャノーラ油等が挙げられる。コスト面を考慮すると、全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%未満のキャノーラ油を使用するのが好ましい。 【0011】 その他の成分 本発明の食用油脂組成物については、本発明の目的を逸脱しない範囲において、食用油に通常使用される他の油、添加剤等を任意に配合することができる。 前記油は、通常使用される食用油、例えば、サフラワー油、グレープシードオイル、大豆油、ひまわり油、コーン油、綿実油、ごま油、太白ごま油、米油、落花生油、オリーブ油、アマニ油、エステル交換油脂、中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂、及び中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とを構成脂肪酸とする油脂等が挙げられる。特に、他の油を多く配合する場合には、サフラワー油、ひまわり油、太白ごま油、中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂、及び中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とを構成脂肪酸とする油脂を使用することが好ましい。 前記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、栄養強化剤、乳化剤、着色成分、及び消泡剤等が挙げられる。 酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、トコトリエノール類、カロテン、フラボン誘導体、没食子酸誘導体、カテキン及びそのエステル、セサモール、テルペン類等が挙げられる。 栄養強化剤としては、トコフェロール類、トコトリエノール類、植物ステロール、植物ステロールのエステル、γ-オリザノール、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、カロテン、カプサイシン、及びカプシエイト等が挙げられる。 乳化剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステルの有機酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、及びレシチン等が挙げられる。 消泡剤としては、微粉末シリカ、及びシリコーン等が挙げられる。 【0012】 本明細書において、トコフェロール類としては、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、及びδ-トコフェロール等が挙げられる。また、トコトリエノール類としては、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、及びδ-トコトリエノール等が挙げられる。 前記その他の成分の中でも、カロテンを含むことがより好ましい。カロテンとしては、例えば、α-カロテン、β-カロテン等が挙げられる。カロテンを含むことにより、さらに夜間の視力維持や、皮膚・粘膜の健康維持の効果が期待される。 また、食用油脂組成物は、コエンザイムQ10を含むことがより好ましい。コエンザイムQ10を含むことにより、食用油脂組成物に対して、さらに抗酸化作用、抗加齢作用等のより高い効果を付与することが期待される。さらに、食用油脂組成物は、トコトリエノール類を含むことがより好ましい。トコトリエノール類を含むことで、トコトリエノール類の有する油脂に対する抗酸化作用により、食用油脂組成物の臭いや風味の劣化をさらに抑制できる。また、さらに生体内での抗酸化作用、コレステロール低下作用、動脈硬化症改善作用を期待することができる。 【0013】 食用油脂組成物の配合 本発明の食用油脂組成物は、上記パームオレイン及び菜種油を含む。各成分の配合量は特に制限を受けないが、本発明の目的を達成するためには、以下の量で配合されることがより好ましい。 本発明の食用油脂組成物は、パームオレイン及び菜種油の合計量が、好ましくは50?100質量%、さらに好ましくはは70?100質量%、最も好ましくは90?100質量%である。食用油脂組成物全体における前記2成分の配合量を50質量%以上とすることにより、本発明の効果をより高めること、すなわち、光に曝された後の油(曝光油)の加熱臭をさらに抑制するのみならず、曝光前の油(未曝光油)の加熱臭をさらに抑制することもできる。 また、本発明の食用油脂組成物は、パームオレインと菜種油の質量比が、10:90?80:20の範囲であることが好ましく、20:80?80:20の範囲であることがさらに好ましく、20:80?60:40の範囲であることがさらにより好ましく、20:80?50:50の範囲であることがさらにより好ましく、25:75?45:55の範囲であることがさらにより好ましく、25:75?40:60の範囲であることがさらにより好ましく、30:70?40:60の範囲であることがさらにより好ましく、30:70?35:65の範囲であることが最も好ましい。パームオレインと菜種油の質量比を、10:90?80:20の範囲とすることにより、本発明の効果をより高めること、すなわち、光に曝された後の油(曝光油)の加熱臭をさらに抑制するのみならず、曝光前の油(未曝光油)の加熱臭をさらに抑制することもできる。 食用油脂組成物がカロテンを含む場合には、食用油脂組成物全体において、1?600ppm、好ましくは1?400ppm、さらに好ましくは5?300ppm含む。この範囲でカロテンを含むことにより、前記カロテンを含むことによる効果を、より効率よく得ることができる。 食用油脂組成物がコエンザイムQ10を含む場合には、食用油脂組成物全体において、好ましくは0.1?200ppm含む。この範囲でコエンザイムQ10を含むことにより、前記コエンザイムQ10を含むことによる効果を、より効率よく得ることができる。 食用油脂組成物がトコトリエノール類を含む場合には、食用油脂組成物全体において、好ましくは50?900ppm含む。この範囲でトコトリエノール類を含むことにより、前記トコトリエノール類を含むことによる効果を、より効率よく得ることができる。 なお、前記カロテン、コエンザイムQ10及びトコトリエノール類の量は、本発明の食用油脂組成物を構成するパームオレイン及び菜種油に、これら成分が元々含まれる場合には、この元々含まれる量も上記数値の計算において加算される。従って、これら成分を新たに添加することなく、上記数値が達成される場合がある。また、前記カロテン、コエンザイムQ10及びトコトリエノール類を添加剤として配合して、前記数値を達成することももちろん可能である。 【0014】 食用油脂組成物の製造方法 本発明の食用油脂組成物の製造方法は特に限定されず、上記パームオレイン及び菜種油、並びに必要に応じて上記他の成分を撹拌混合する。これら成分の配合順序は特に限定されず、必要に応じて混合時に加熱してもよい。 【0015】 本発明の食用油脂組成物の商品形態 本発明の食用油脂組成物は、いかなる商品形態を取ることも可能である。ここで、商品形態とは、食用油脂組成物その物を輸送、貯蔵及び販売する際に取られる形態のことを指す。本発明の食用油脂組成物の商品形態は、例えば、プラスチック性ボトル、金属性缶、ピロー包装等の形態を取ることができる。また、本発明の食用油脂組成物は光に曝された後においても、加熱臭の発生を抑制することができるので、少なくとも一部が光透過性である容器に充填することが可能である。ここで、少なくとも一部が光透過性である容器とは、少なくとも容器の一部が、蛍光灯の下で内容物を目視で確認できる程度の透過性を有する容器のことをいう。具体的には、容器の一部又は全部が、着色されていないPET、着色されていないラミコン、及び着色されていないガラス等の素材を使用している容器を挙げることができる。 このような容器の中でも、とりわけその容器の容積が2リットル以下、好ましくは0.5?1.5リットルである。このような容器に充填することにより、家庭での使用に適した食用油脂組成物を提供することができる。 【0016】 本発明の食用油脂組成物を用いた加熱調理食品の製造方法 本発明の食用油脂組成物を用いて、加熱調理食品を製造することが可能である。加熱調理食品は、具体的には、焼き物(例えば焼き肉、お好み焼き等)、炒め物(例えば焼きそば、野菜炒め等)、揚げ物(天ぷら、コロッケ、魚フライ、トンカツ)等が代表的なものとしてあげられる。また、食用油脂組成物を離型油として使用することも、本発明における加熱調理食品の製造方法に含まれる。 具体的な製造方法としては、調理器具中に食用油脂組成物を適量加え、加熱し、食品材料を添加して焼く、炒める又は揚げる等の加熱処理を行う。食用油脂組成物の量、加熱温度及び加熱時間については、使用する食品の種類、調理の方法等により適宜変化させることが可能である。 【0017】 本発明の食用油脂組成物を使用して製造された食品 本発明の食用油脂組成物を用いた食品は、調味料や前記加熱調理食品の製造方法により得られた食品(焼き物、炒め物、揚げ物)、煮物、和え物等が挙げられる。 食品中の本発明の食用油脂組成物の含有量としては、例えば、調味料においては10?80質量%、焼き物においては1?20質量%、炒め物においては1?20質量%、揚げ物においては1?40質量%、煮物において1?10質量%、和え物においては5?50質量%を例示することができる。 【0018】 以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。尚、以下の実施例が本発明の範囲を何ら制限しないことは言うまでもない。 【実施例】 【0019】 以下実施例において、「%」及び「部」と言うときには、他に記載のない限り「質量%」及び「質量部」を意味するものとする。尚、ヨウ素価の値は、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.3.4.1-1996」の方法により測定した値である。 食用油脂組成物の曝光臭の確認 使用する食用油脂組成物 パームオレイン〔ヨウ素価60〕(日清オイリオグループ(株)社製、商品名スーパーオレイン(S)、全構成脂肪酸中の不飽和結合を少なくとも一つ有する炭素数18の脂肪酸含量56.6質量%)、パームオレイン〔ヨウ素価68〕(INTERCONTINENTAL SPECIALTY FATS SDN.BHD社製、全構成脂肪酸中の不飽和結合を少なくとも一つ有する炭素数18の脂肪酸含量63.1質量%、構成脂肪酸中のオレイン酸含量48.4質量%、構成脂肪酸中のリノール酸含量14.4質量%、構成脂肪酸中のリノレン酸含量0.3質量%)及びキャノーラ油(菜種油)(日清オイリオグループ(株)社製、商品名日清キャノーラ油、構成脂肪酸中のオレイン酸含量61.0質量%、構成脂肪酸中のリノール酸含量質量19.6%、構成脂肪酸中のリノレン酸含量10.3質量%)の各油脂を、単独又は以下の表1に示す配合で使用して評価を行った。 曝光条件 油脂組成物に対する曝光を、以下の方法により行った。以下の表1に記載する油脂組成物を、着色されていないPET容器(油1000g充填用)に1000g充填した。当該食用油脂組成物を充填した着色されていないPET容器を、蛍光灯を用いて7000ルクスの光に16時間曝し、曝光油を得た。 試験の具体的な方法 表1に示す各サンプルを200mLのビーカーに100gはかり取り、180℃まで加熱して生じる臭気を評価する。加熱して臭気を測定する食用油脂組成物として、曝光前の油(表1中「未曝光油」)及び、上記方法により曝光した後の油(表1中「曝光油」)を使用した。 評価方法は、具体的には、10人のパネルが、上記加熱した油の臭気を確認し、以下の評価基準で評価を行い、10人のパネルの各評価結果を平均して、各食用油脂組成物の有する臭気の評価結果とした。 ○評価基準 10?8 : 加熱臭をほとんど感じない 8未満?6 : やや加熱臭を感じる 6未満?4 : 加熱臭で刺激を感じる 4未満 : 強い刺激臭を感じる 試験の結果 【0020】 【表1】 【0021】 表1に示すように、本発明の範囲にある実施例は、未曝光油、及び曝光油の加熱臭の発生を抑制していることがわかる。 これに対して、比較例であるパームオレイン及びキャノーラ油を単独で使用した場合においては、未曝光のものでも若干の臭気を発生させ、さらに曝光後における臭気の発生が、本発明の油脂組成物と比較して多いことが確認できる。 【0022】 加熱時のヘッドスペースに発生する臭気成分の分析 食用油脂組成物を上記のように加熱した際に発生する臭気について、定量的に確認することを目的として以下の試験を行った。 以下の表2に示す各サンプルを、バイアル瓶(10ml)に2g採取し、180℃で10分間振盪加熱後、バイアル瓶のヘッドスペースに発生した臭気成分をGC-MS(ヒューレットパッカード社製、商品名GC-MSDシステム、使用カラムDB-WAX(J&W)、キャリアーガス:ヘリウム、昇温分析)を用いて分析し、解析を行った。解析においては、油の臭気の指標とされる揮発成分のアクロレインについて、GC-MSのクロマトグラムのピーク面積比(キャノーラ油のピーク面積を1.0としたときの面積比)を算出した。結果を以下の表2に示す。 【0023】 【表2】 上記表2に示すように、本発明の範囲にある実施例8は、比較例4と比べてアクロレインの発生量が少なく、加熱臭の発生を抑制することができる。 【0024】 本発明の食用油脂組成物を用いた揚げ物の製造、及び油の曝光の有無による揚げ物の臭い、味の評価 (1)使用した油 実施例8及び比較例4の油各1000gを着色されていないPET容器に入れ、蛍光灯を用いて1000ルクスの光に3週間曝した曝光油を使用した。 【0025】 (2)揚げ物の製造方法 曝光油を用いて揚げ物を製造した。具体的には、曝光油を用いてアジフライを作成した。 アジフライについては、各油1000gを180℃まで加熱し、パン粉の付いた冷凍アジを4分間揚げることによりアジフライを製造した。 【0026】 (3)製造した揚げ物の評価 12人のパネルによる実食調査により揚げ物の評価を行った。評価は、実施例8の曝光油を使用してフライしたアジフライ、及び比較例4の曝光油を使用してフライしたアジフライの両方を実食し、臭い及び味の良い方を選択してもらうことにより行った。 【0027】 (4)評価結果 12人すべてのパネルが、実施例8の曝光油を使用してフライをしたアジフライの方が、比較例4の曝光油を使用してフライしたアジフライよりも臭い及び味が良いと判断をした。 【0028】 トコトリエノール類及びコエンザイムQ10の量の測定 以下の表3に記載する配合の食用油脂組成物について、トコトリエノール類及びコエンザイムQ10の量を測定した。ここで、測定をしたトコトリエノール類の量は、α-トコトリエノール量、β-トコトリエノール量、γ-トコトリエノール量、及びδ-トコトリエノール量の合計量である。 なお、パームオレインは、日清オイリオグループ(株)試作品で、ヨウ素価が69であり、全構成脂肪酸中の不飽和結合を少なくとも一つ有する炭素数18の脂肪酸含量が63.4質量%のものを使用した。キャノーラ油は、日清オイリオグループ(株)社製の商品名日清キャノーラ油で、構成脂肪酸中のオレイン酸含量61質量%のものを使用した。油脂中のトコトリエノール類及びコエンザイムQ10の量は、HPLCで測定した。 【0029】 【表3】 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ヨウ素価が68?80のパームオレイン、及び全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%未満のキャノーラ油を含み、パームオレインとキャノーラ油の質量比が、20:80?60:40の範囲にあり、かつ食用油脂組成物全体におけるパームオレイン、及びキャノーラ油の合計量が70?100質量%の範囲にある食用油脂組成物が、少なくとも一部が光透過性である容器に充填されていることを特徴とする容器入り食用油脂組成物。 【請求項2】 前記容器の容積が、2リットル以下である、請求項1に記載の食用油脂組成物。 【請求項3】 さらにカロテンを含む、請求項1又は2のいずれか1項に記載の食用油脂組成物。 【請求項4】 さらにコエンザイムQ10を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の食用油脂組成物。 【請求項5】 さらにトコトリエノール類を含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の食用油脂組成物。 【請求項6】 食用油脂組成物が、食品材料を加熱調理するためのものである請求項1?5のいずれか1項に記載の食用油脂組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2011-03-08 |
結審通知日 | 2011-03-10 |
審決日 | 2011-03-23 |
出願番号 | 特願2008-34867(P2008-34867) |
審決分類 |
P
1
113・
113-
ZA
(A23D)
P 1 113・ 537- ZA (A23D) P 1 113・ 121- ZA (A23D) P 1 113・ 112- ZA (A23D) P 1 113・ 536- ZA (A23D) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 長谷川 茜 |
特許庁審判長 |
平田 和男 |
特許庁審判官 |
鵜飼 健 田中 耕一郎 |
登録日 | 2010-04-30 |
登録番号 | 特許第4501035号(P4501035) |
発明の名称 | 食用油脂組成物 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 田代 玄 |
代理人 | 辻居 幸一 |
代理人 | 辻居 幸一 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 平山 孝二 |
代理人 | 田代 玄 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 平山 孝二 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |