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審決分類 |
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する A01K 審判 訂正 2項進歩性 訂正する A01K |
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管理番号 | 1238549 |
審判番号 | 訂正2011-390031 |
総通号数 | 140 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-08-26 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2011-03-25 |
確定日 | 2011-05-26 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第4471294号に関する訂正審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4471294号に係る明細書及び特許請求の範囲を,本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件審判の請求に係る特許第4471294号(以下,「本件特許」という。)は,平成17年6月27日に出願されたものであり,その請求項1に係る発明について,平成22年3月12日に特許権の設定登録がなされたものである。 そして,平成23年3月25日付けで訂正審判の請求がなされた。 2.請求の趣旨 本件審判の請求の趣旨は,本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲(以下,「特許明細書等」という。)を,審判請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,すなわち,以下の各訂正事項のとおり訂正することを求めるものである。 (1)特許請求の範囲の訂正 (イ)訂正事項1 特許明細書等の請求項1中に 「魚釣用リール」 とあるのを, 「キャスティング操作のための魚釣用リール」 と訂正する。 (ロ)訂正事項2 特許明細書等の請求項1中に 「前記ツマミ部を前記ハンドルアームの屈曲部近傍に設け」 とあるのを, 「前記ツマミ部を前記ハンドルアームの前記屈曲部の近傍に設け」 と訂正する。 (ハ)訂正事項3 特許明細書等の請求項1中の 「近傍に設け,」 の後に, 「かつ,前記ツマミ部を設けた前記ハンドルアームの前記屈曲部から先端までの長さを,これに平行な前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までの長さよりも短くし,」 を加入する訂正をする。 (ニ)訂正事項4 特許明細書等の請求項1中に 「それによって,前記ツマミ部を掌で保持した状態でドラグ操作部を同じ手の指の操作で回転操作できるようにした」 とあるのを, 「それによって,前記ハンドルアームの両端の先端部にあるツマミ部を掌で保持した状態でドラグ操作部を同じ手の指の操作で回転操作できるようにした」 と訂正する。 (2)明細書の訂正 (ホ)訂正事項5 特許明細書等の段落【0013】に 「請求項1の発明は,リール本体と,前記リール本体に回転自在に支持したスプールと,前記リール本体に回転自在に支持したハンドル軸と,前記ハンドル軸の端部に設けたハンドルアームと,前記ハンドルアームの両端の先端部に回転自在に設けられたツマミ部と,制動力が調節可能なドラグ機構を介して前記ハンドル軸の回転を前記スプールに伝える伝動機構と,前記ハンドル軸に回転可能に支持されて前記ドラグ機構の働く制動力を調節する操作部よりなる制動力調節体を有する魚釣用リールであって,前記制動力調節体の操作部を,前記ハンドル軸の軸心から放射方向に突設して操作部の先端側をリール本体側に屈曲して屈曲部を形成し,かつ前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から両側の先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分を,前記屈曲部に倣ってリール本体側に屈曲した屈曲部に形成すると共に,前記ツマミ部を前記ハンドルアームの屈曲部近傍に設け,それによって,前記ツマミ部を掌で保持した状態でドラグ操作部を同じ手の指の操作で回転操作できるようにしたことを特徴とする。」 とあるのを, 「請求項1の発明は,リール本体と,前記リール本体に回転自在に支持したスプールと,前記リール本体に回転自在に支持したハンドル軸と,前記ハンドル軸の端部に設けたハンドルアームと,前記ハンドルアームの両端の先端部に回転自在に設けられたツマミ部と,制動力が調節可能なドラグ機構を介して前記ハンドル軸の回転を前記スプールに伝える伝動機構と,前記ハンドル軸に回転可能に支持されて前記ドラグ機構の働く制動力を調節する操作部よりなる制動力調節体を有するキャスティング操作のための魚釣用リールであって,前記制動力調節体の操作部を,前記ハンドル軸の軸心から放射方向に突設して操作部の先端側をリール本体側に屈曲して屈曲部を形成し,かつ前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から両側の先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分を,前記屈曲部に倣ってリール本体側に屈曲した屈曲部に形成すると共に,前記ツマミ部を前記ハンドルアームの前記屈曲部の近傍に設け,かつ,前記ツマミ部を設けた前記ハンドルアームの前記屈曲部から先端までの長さを,これに平行な前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までの長さよりも短くし,それによって,前記ハンドルアームの両端の先端部にあるツマミ部を掌で保持した状態でドラグ操作部を同じ手の指の操作で回転操作できるようにしたことを特徴とする。」 と訂正する。 3.当審の判断 本件審判の請求が,特許法第126条第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とし,同条第3項から第5項までの規定に適合するか否かについて,以下に検討する。 (1)第126条第1項ただし書各号(訂正の目的)について (イ)訂正事項1について 訂正事項1は,特許明細書等の請求項1の「魚釣用リール」を「キャスティング操作のための」ものに限定するものであるから,特許法第126条第1項第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (ロ)訂正事項2について 訂正事項2は,特許明細書等の請求項1の「前記ハンドルアームの屈曲部近傍に設け」との記載における「屈曲部」が,当該記載の前に記載された「屈曲部」に対応するものであることを明らかにするため,「屈曲部近傍」という単語中に「の」を追加したうえ,「屈曲部」に「前記」という修飾語を追加するものであり,特許法第126条第1項第3号に掲げられた明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 (ハ)訂正事項3について 訂正事項3は,特許明細書等の請求項1の「ハンドルアーム」について,「ツマミ部を設けたハンドルアームの屈曲部から先端までの長さを,これに平行な前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までの長さよりも短くし」たものに限定するものであるから,特許法第126条第1項第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (ニ)訂正事項4について 訂正事項4は,特許明細書等の請求項1の「掌で保持した状態でドラグ操作部を同じ手の指の操作で回転操作できるように」された「ツマミ部」を,同請求項の「ハンドルアームの両端の先端部に回転自在に設けられたツマミ部」との記載に合わせて「ハンドルアームの両端の先端部にある」ものであることを明らかにするものであるから,特許法第126条第1項第3号に掲げられた明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 (ホ)訂正事項5について 訂正事項5は,上記訂正事項1?4との整合をとるための明細書の訂正であるから,特許法第126条第1項第3号に掲げられた明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 (2)第126条第3項及び第4項(新規事項,実質拡張又は変更)について (イ)訂正事項1について 訂正事項1は, ・特許明細書等の段落【0012】に「本発明…の目的は,ハンドル長さが短くキャスティング操作と巻取り操作を頻繁に行う小型リールに適した魚釣用リールを提供することである。」と記載されていること, ・段落【0014】に「本発明によれば,…ハンドル長さが短くキャスティング操作と巻取り操作を頻繁に行う小型リールに適した構成を得ることができる。」と記載されていること,及び ・段落【0023】に「…本発明の魚釣用リールは,ハンドル長さが短くキャスティング操作と巻取り操作を頻繁に行う小型リールに適したものとなる。」と記載されていること に基づくものであるから,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではなく,特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。 (ロ)訂正事項2について 訂正事項2は,上述のとおり「の」及び「前記」との記載を追加したものにすぎず,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではなく,特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。 (ハ)訂正事項3について 訂正事項3は,本件特許の図面【図1】及び【図4】の記載に基づくものと認められるから,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではなく,特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。 (ニ)訂正事項4について 訂正事項4は,特許明細書等の請求項1に「ハンドルアームの両端の先端部に回転自在に設けられたツマミ部」と記載されていることから,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではなく,特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。 (ホ)訂正事項5について 上記のとおり,訂正事項5は,上記訂正事項1?4との整合をとるための明細書の訂正であり,訂正事項1?4は上述のとおり,いずれも,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないから,訂正事項5も,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではなく,特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。 (3)第126条第5項(独立特許要件)について 上記(1)欄で述べたように,訂正事項1及び3は,特許法第126条第1項第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,訂正特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明(以下,「本件訂正発明」という。)が同条第5項の規定に適合するか否かについて,以下に検討する。 ここで,審判請求人は,甲第1号証及び甲第2号証を示したうえで,本件訂正発明は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第2項(進歩性)の規定により特許をすることができないものではなく,独立して特許を受けることができる発明である旨を主張するので,以下,当該主張について検討する。 甲第1号証:RYOBI FISHING TACKLE CATALOG 2000 カタログ「Adventure棚」(2000年1月リョービ株式会社発行の表紙,11,12頁,奥付) 甲第2号証:the RYOBI brand fishing tackle catalog 2001 カタログ(2001年リョービ株式会社発行の抜粋) (イ)本件訂正発明 本件訂正発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「リール本体と,前記リール本体に回転自在に支持したスプールと,前記リール本体に回転自在に支持したハンドル軸と,前記ハンドル軸の端部に設けたハンドルアームと,前記ハンドルアームの両端の先端部に回転自在に設けられたツマミ部と,制動力が調節可能なドラグ機構を介して前記ハンドル軸の回転を前記スプールに伝える伝動機構と,前記ハンドル軸に回転可能に支持されて前記ドラグ機構の働く制動力を調節する操作部よりなる制動力調節体を有するキャスティング操作のための魚釣用リールであって, 前記制動力調節体の操作部を,前記ハンドル軸の軸心から放射方向に突設して操作部の先端側をリール本体側に屈曲して屈曲部を形成し,かつ前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から両側の先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分を,前記屈曲部に倣ってリール本体側に屈曲した屈曲部に形成すると共に, 前記ツマミ部を前記ハンドルアームの前記屈曲部の近傍に設け,かつ,前記ツマミ部を設けた前記ハンドルアームの前記屈曲部から先端までの長さを,これに平行な前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までの長さよりも短くし,それによって,前記ハンドルアームの両端の先端部にあるツマミ部を掌で保持した状態でドラグ操作部を同じ手の指の操作で回転操作できるようにしたことを特徴とするキャスティング操作のための魚釣用リール。」 (ロ)刊行物記載の発明 (a)甲第1号証 甲第1号証には,図面とともに次の事項が記載されている。 (1a)「手巻き リールの宿命はリーリング時の横ぶれ。これは,リールの中心からハンドルまでの位置が離れているために起こる現象です。「アドペンチャー棚」はハンドルの逆転ガタを限りなくゼロに近づける機能はそのままに,ハンドルをリール脚部に近づけました。ハンドル自体もリールの中心方向に曲げたオフセットアームにすることで,飛躍的に横ぶれを解消。浅場で大型と遭遇した場合にも,手早く快適に,そして確実に獲物をとらえます。」(第11頁右下部) (1b)「ラクラク巻上げの理由 徹底したロープロフィールデザインを実現。リールの重心と回転軸の中心をリールの脚部に限界まで近づけることで,リーリング時の横ブレを解消しています。さらに,ワンウェイクラッチをハンドル軸から分離することでハンドルをよりリールの中心に近づけるとともに,ハンドル自体もリールの中心方向に曲げたオフセットアームにすることで,驚くほど快適な巻上げを実現しました。 ハンドルのがたつき,アソビがなく,瞬時のアワセが可能なインフィニットストッパーを採用(VS)。さらにクラス最長の巻取長さを実現した大口径超硬マスターギヤーを採用したことで,快適な超高速リーリングが可能となりました。また,左手の親指1本で操作できる棚取りクラッチを装備。棚の微調整もイメージ通りに行えます。」(第12頁上部枠内) (1c)「アドベンチャー棚 VS-Ti ADVENTURE TANA VS-Ti 「手巻きなのに横ブレしないからすごくラクで一度使ったら手放せない」「親指1本でクラッチのON/OFFができる棚取りクラッチもあるので,微妙な棚調整ができて即釣果にむすびつく。これこそ攻めの船釣り用リールだ」と永井・須藤両テスターも絶賛の自信作です。一番の特徴はハンドルの位置がリール脚部に大幅に近づいたこと。ハンドルを内側に曲げたオフセットハンドルの効果も手伝って,巻上げ時の横ぶれが大幅に解消されました。さらに,ハンドルのガタツキがなく瞬時のアワセに威力を発揮するインフィニットストッパー,快適なパーミング性をもたらすロープロフィールデザイン,クラス最大の巻上げスピードを実現した大口径超硬マスターギヤー,丸洗いOKの流面形ボディ,楽々ライン設定など,釣り人に快適さをもたらす実践機能を満載。」(第12頁左下欄) (1d)「REEL ・両軸リール」(第12頁右上部) (1e) 以下に転載した第12頁の上部に掲載された写真(正面及び側面)には,以下の事項が開示されている。 ・「オフセットアーム」と記載されたハンドルアームからハンドル軸が突出してないことから,ハンドルアームがハンドル軸の端部に設けられていること ・ツマミ部を,ハンドルアームの一端の先端部に回転自在に設けること ・スタードラグの操作部を,ハンドル軸の軸心から放射状に突設すること ・ハンドル軸の軸心から放射状に突設してスタードラグの操作部の先端側を,リール本体側に屈曲して屈曲部を形成すること ・ハンドルアームのハンドル軸の軸心から先端に向かうスタードラグの操作部の操作部の屈曲部に対向する部分を,前記屈曲部に倣ってリール本体側に屈曲した屈曲部に形成すること ・ツマミ部を設けたハンドルアームの屈曲部から先端までの長さを,これに平行な前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までの長さよりも長くすること (1f) さらに,甲第1号証に開示されるような「両軸リール」において,以下の構成を具備することは,技術常識である。 ・リール本体に回転自在に支持したスプール ・リール本体に回転自在に支持したハンドル軸 ・ハンドル軸の回転をスプールに伝える伝動機構 また,以下の点についても,当該技術分野において,技術常識である。 ・「スタードラグ」が,ドラグ機構を操作するためのものであり,ドラグ機構の働く制動力を調節するものであること ・「スタードラグ」が,ハンドル軸に回転可能に支持されていること ・ドラグ機構がハンドル軸と伝動機構との間に介在すること これらの記載事項及び図示内容並びに技術常識を総合すると,甲第1号証には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「リール本体と,前記リール本体に回転自在に支持したスプールと,前記リール本体に回転自在に支持したハンドル軸と,前記ハンドル軸の端部に設けられたハンドルアームと,前記ハンドルアームの一端の先端部に回転自在に設けられたツマミ部と,制動力が調節可能なドラグ機構を介して前記ハンドル軸の回転を前記スプールに伝える伝動機構と,前記ハンドル軸に回転可能に支持されて前記ドラグ機構の働く制動力を調節する操作部よりなるスタードラグを有する魚釣用リールであって, 前記スタードラグの操作部を,前記ハンドル軸の軸心から放射状に突設して操作部の先端側をリール本体側に屈曲して屈曲部を形成し,かつ前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分を,前記屈曲部に倣ってリール本体側に屈曲した屈曲部に形成すると共に, 前記ツマミ部を設けた前記ハンドルアームの前記屈曲部から先端までの長さを,これに平行な前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までの長さよりも長くした船上から仕掛けを所定の深さの棚位置まで落下させる魚釣用リール。」 (b)甲第2号証 甲第2号証にも,上記引用発明と同様の発明が記載されている。 (c)刊行物3 本件特許の特許第4471294号公報に参考文献として記載された刊行物である 登録実用新案第3097320号公報(以下,「刊行物3」という。) には,図面とともに次の事項が記載されている。 (3a)「【0003】 【考案が解決しようとする課題】 しかしながら,ハンドルアーム103がまっすぐな場合,例えば図6に示すようにハンドル操作する際に,右手の位置がロッド104の中心軸から遠くなってしまい(距離L),ハンドルアームが回転するときのロッドに伝わるブレが大きくなることがある。」 (3b)「【0010】 (第1の実施形態) 図1,2は,本実施形態の釣り用リール1をロッド2のグリップ部付近に装着した状態を示す図である。また,図3は,本実施形態の釣り用リール1の一部斜視図である。本実施形態の釣り用リール1はベイト型と称される種類のものであり,リール本体3と,リール本体3の側方に回転可能に設けられたハンドルアーム4とを備える。 【0011】 リール本体3の両側部間にはスプール5が回転可能に収容され,図示しないギヤ群等を介してハンドルアーム4に連動する。ハンドルアーム4は,釣り糸(ライン)の巻き取り方向には回転可能で,スプール5を回転させて糸を巻き取ることができるが,釣り糸の送り出し方向には回転規制される。リール本体3の前方には,スプール5に釣り糸を均一に巻き取るためにハンドルアーム4の回転に連動して釣り糸を案内するレベルワインダ6が設けられる。 【0012】 ハンドルアーム4は中央部で回転可能に支持されており,その両端にハンドルノブ7が回転可能に設けられる。ハンドルアーム4には段部4aが形成され,ハンドルアーム4の両端部をリール本体3側にオフセットさせるよう屈曲させている。 【0013】 リール本体3のハンドルアーム4側にはスタードラッグ8が配設される。スタードラッグ8はハンドルアーム4の両端部(ハンドルノブ7が設けられる部分)より内側に配置され,両者が干渉しないようにされている。また,リール本体3のハンドルアーム4側にはスプール5の回り方を調節するメカニカルブレーキの調節つまみ9が設けられる。 【0014】 キャスティング時には,スプール5を自由回転可能な状態にするとともに,右手でロッド2のグリップ部を握り,ラインが出ないように親指でスプール5を押さえながらロッド2を振り上げて,振り下げる。そして,ロッド2の先端が頭上を通過するときに,親指をスプール5から離すと,図示しないルアーの重さによってラインが出ていく。ラインが出ていくのに従い,親指でスプール5を押さえ,徐々に力を加えてラインの出を調節する(サミング)。ルアーが着水する寸前にはサミングでラインが出るのを完全に止めてしまう。 【0015】 このようにしてルアーが着水した後は,図2に示すように,ロッド2を左手に持ち替えるとともに,右手でハンドルノブ7を握ってハンドル操作を行う。 【0016】 このようにした第1の実施形態の釣り用リール1では,図1?3に示すように,ハンドルアーム4の両端部をリール本体3側にオフセットさせるよう屈曲させたので,ハンドル操作する際に,オフセットさせた分だけ右手の位置をロッド2の中心軸に接近させることができる(距離L´(<図6に示す距離L))。したがって,ハンドルアーム4を回転させるときに脇をしめてハンドル操作することができ,軽快な動作を行うことができ,また,ロッド2に伝わるブレを抑えることができ,操作性を向上させることができる。 【0017】 また,ハンドルアーム4の両端部をリール本体3側にオフセットさせるよう屈曲させたので,全体の重心をロッド2の中心軸に接近させることができ,重心が分散するのを避けて全体のバランスをよくすることができる。 【0018】 また,ハンドルアーム4の形状が点対称となるようにしたので,バランスをよくすることができ,滑らかな回転が可能となる。」 (3c) 以下に転載した【図2】及び【図3】には,以下の事項が開示されている。 ・符号「4」で示されるハンドルアームからハンドル軸が突出してないことから,当該ハンドルアームがハンドル軸の端部に設けられていること ・符号「7」で示されるハンドルノブが,符号「4」で示されるハンドルアームの両端の先端部に設けられていること ・符号「8」で示されるスタードラグの操作部を,ハンドル軸の軸心から放射状に突設すること ・符号「7」で示されるハンドルノブを,符号「4a」で示される段部の近傍に設けること ・符号「4」で示されるハンドルアームについて,符号「7」で示されるハンドルノブを設けた符号「4a」で示される段部から先端までの長さを,これに平行なハンドル軸の軸心から符号「4a」で示される段部までの長さよりも短くしたこと (3d) さらに,刊行物3に開示されるような「ベイト型釣り用リール」において,以下の構成を具備することは,技術常識である。 ・「リール本体3」に回転自在に支持したハンドル軸 また,以下の点についても,当該技術分野において,技術常識である。 ・「スタードラグ8」が,ドラグ機構を操作するためのものであり,ドラグ機構の働く制動力を調節するものであること ・「スタードラグ8」が,ハンドル軸に回転可能に支持されていること ・ドラグ機構がハンドル軸と「ギヤ群等」との間に介在すること これらの記載事項及び図示内容並びに技術常識を総合すると,刊行物3には次の発明(以下,「刊行物3記載の発明」という。)が記載されていると認められる。 「リール本体3と,リール本体3に回転可能に収容されたスプール5と,前記リール本体3に回転自在に支持したハンドル軸と,前記ハンドル軸の端部に設けたハンドルアーム4と,前記ハンドルアーム4の両端の先端部に回転可能に設けられたハンドルノブ7と,制動力が調節可能なドラグ機構を介して前記ハンドル軸の回転を前記スプール5に伝えるギヤ群等と,前記ハンドル軸に回転可能に支持されて前記ドラグ機構の働く制動力を調節する操作部よりなるスタードラグ8を有するキャスティング操作のための釣り用リール1であって, 前記スタードラグ8の操作部を,前記ハンドル軸の軸心から放射状に突設し,かつ前記ハンドルアーム4のハンドル軸の軸心から両側の先端に向かう部分を前記スタードラグ8に干渉しないようにリール本体3側にオフセットさせるように屈曲させた段部4aに形成すると共に, 前記ハンドルノブ7を前記ハンドルアーム4の前記段部4aの近傍に設け,かつ,前記ハンドルノブ7を設けた前記ハンドルアーム4の前記段部4aから先端までの長さを,これに平行な前記ハンドルアーム4のハンドル軸の軸心から前記段部4aまでの長さよりも短くしたキャスティング操作のための釣り用リール1。」 (ハ)対比 本件訂正発明と引用発明とを対比すると, ・後者の「スタードラグ」は前者の「制動力調節体」に相当し, ・後者の「ハンドルアームの一端の先端部に回転自在に設けられたツマミ部」と前者の「ハンドルアームの両端の先端部に回転自在に設けられたツマミ部」とは,「ハンドルアームの先端部に回転自在に設けられたツマミ部」である点で共通し, ・後者の「ハンドルアームのハンドル軸の軸心から先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分」と,前者の「ハンドルアームのハンドル軸の軸心から両側の先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分」とは,「ハンドルアームのハンドル軸の軸心から先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分」である点で共通する。 してみると,両発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「リール本体と,前記リール本体に回転自在に支持したスプールと,前記リール本体に回転自在に支持したハンドル軸と,前記ハンドル軸の端部に設けられたハンドルアームと,前記ハンドルアームの先端部に回転自在に設けられたツマミ部と,制動力が調節可能なドラグ機構を介して前記ハンドル軸の回転を前記スプールに伝える伝動機構と,前記ハンドル軸に回転可能に支持されて前記ドラグ機構の働く制動力を調節する操作部よりなる制動力調節体を有する魚釣用リールであって, 前記制動力調節体の操作部を,前記ハンドル軸の軸心から放射状に突設して操作部の先端側をリール本体側に屈曲して屈曲部を形成し,かつ前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分を,前記屈曲部に倣ってリール本体側に屈曲した屈曲部に形成すると共に, 前記ツマミ部を設けた前記ハンドルアームの前記屈曲部から先端までを,前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までと平行にした魚釣用リール。」 [相違点1] 「魚釣用リール」が,本件訂正発明では,「キャスティング操作のための」ものであるのに対して,引用発明では,「船上から仕掛けを所定の深さの棚位置まで落下させる」ものであり,キャスティング操作のためのものではない点。 [相違点2] 「先端部に回転自在に設けられたツマミ部」に関し,本件訂正発明では,ハンドルアームの「両端」に設けられているのに対して,引用発明では「一端」に設けられており,また,その結果として,ハンドルアームの「屈曲部」も,本件訂正発明では,ハンドルアームの「両端」に設けられているのに対して,引用発明では「一端」に設けられている点。 [相違点3] ツマミ部を設けたハンドルアームの屈曲部から先端までの長さと,これと平行な前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までの長さとの関係に関し,本件訂正発明では前者の長さよりも後者の長さを「短く」して,「ツマミ部をハンドルアームの屈曲部の近傍に設け」たのに対して,引用発明では「長く」して,ツマミ部をハンドルアームの屈曲部の近傍に設けていない点。 [相違点4] 「ツマミ部」と「ドラグ操作部」との関係について,本件訂正発明では「ハンドルアームの両端の先端部にあるツマミ部を掌で保持した状態でドラグ操作部を同じ手の指の操作で回転操作できるようにした」とされているのに対し,引用発明では,このような操作ができるような関係にない点。 (ニ)相違点についての判断 上記相違点1に係る構成については,刊行物3記載の発明の「キャスティング操作のための釣り用リール1」として開示され,以下同様に, ・相違点2に係る構成については,「ハンドルアーム4の両端の先端部に回転可能に設けられたハンドルノブ7」及び「ハンドルアーム4のハンドル軸の軸心から両側の先端に向かう部分を…段部4a(本件訂正発明の「屈曲部」に相当)に形成する」構成として, ・相違点3に係る構成については,「ハンドルノブ7をハンドルアーム4の段部4aの近傍に設け,かつ,前記ハンドルノブ7を設けた前記ハンドルアーム4の前記段部4aから先端までの長さを,これに平行な前記ハンドルアーム4のハンドル軸の軸心から前記段部4aまでの長さよりも短くした」構成として, それぞれ刊行物3に開示されているといえる。 また,上記相違点4に係る構成は,例えば,以下の文献に開示されるように周知な構成であり,刊行物3記載の発明においても,ハンドルノブ7(本件訂正発明の「ツマミ部」に相当。)とスタードラグ8の操作部(本件訂正発明の「ドラグ操作部」に相当。)と配置関係からして,ハンドルノブ7を掌で保持した状態でスタードラグ8の操作部を同じ手の指の操作で回転操作できると解すべきである。 ・特開平11-253079号公報 (段落【0013】及び【0014】の記載を参照) ・特開平10-98993号公報 (段落【0002】の記載を参照) しかしながら,引用発明は,上述のとおり「船上から仕掛けを所定の深さの棚位置まで落下させる」ものであるとともに,上記転載写真のハンドルの形状及びハンドルアームの屈曲位置からハンドルまでの間ハンドルアームを相当長延出している形態,並びに,上記摘記事項(1a)の「浅場で大型と遭遇した場合」との記載からみて,巻取り操作に相当程度のトルクを要するリールと解され,刊行物3記載の発明のような「キャスティング操作のための釣り用リール1」の構成を適用する動機付けが存在しない。よって,引用発明に刊行物3記載の発明の構成を適用することはできない。 一方,仮に,刊行物3記載の発明に引用発明1の「スタードラグの操作部を,ハンドル軸の軸心から放射状に突設して操作部の先端側をリール本体側に屈曲して屈曲部を形成し,かつ前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分を,前記屈曲部に倣ってリール本体側に屈曲した屈曲部に形成する」構成のみを適用できたとしても,その結果,刊行物3に記載の発明の「段部4a」はスタードラグ8の操作部に近づいて,ハンドルノブ7は段部4aから離れると共に,ハンドルノブ7を設けたハンドルアーム4の前記段部4aから先端までの長さは,これに平行な前記ハンドルアーム4のハンドル軸の軸心から前記段部4aまでの長さよりも長くなり,本件訂正発明の上記相違点3に係る構成とは,長さ関係が逆の構成となる。 したがって,相違点3に係る構成である「ツマミ部をハンドルアームの屈曲部の近傍に設け,かつ,ツマミ部を設けた前記ハンドルアームの前記屈曲部から先端までの長さを,これに平行な前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までの長さよりも短く」することが,当業者が容易になし得るとすることはできない。 そして,本件訂正発明は,全体として,ハンドル長さを短くして小型化し,かつ最適な回転操作性が得られるという格別の効果を奏するものと認められる。 (ホ)まとめ したがって,本件訂正発明は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された引用発明に基づいて当業者が容易に発明をできたものではなく,また,甲第1号証又は甲第2号証に記載された引用発明と刊行物3記載の発明との組み合わせに基づいて当業者が容易に発明をできたものでもない。 さらに,その他にも本件訂正発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができない発明とする理由を発見しない。 よって,本件訂正発明は特許法第126条第5項の規定に適合する。 4.むすび 以上のとおり,本件審判の請求は,特許法第126条第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とし,同条第3項から第5項までの規定に適合する。 よって,結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 魚釣用リール 【技術分野】 【0001】 本発明は、ドラグ(制動)機構を介してハンドル軸の回転をスプールに伝える伝動機構を備えた魚釣用リールに関し、特に、ハンドル軸と同軸にドラグ機構の制動力を調節するための操作部を有する魚釣用リールに関する。 【背景技術】 【0002】 ハンドル軸の回転をスプール伝える伝動機構を備えた従来の魚釣用リールでは、通常ドラグ機構を備えており、かつその制動力を調節するための操作部を有している。 このような制動力を調節するための操作部を備えた魚釣用リールとして、例えば、下記特許文献1に記載されたものが知られている。図6及び図7は、それぞれ特許文献1に記された魚釣用リールの1種である両軸受リールの外観を示す斜視図と一部を断面とした魚釣用リールの正面図である。 【0003】 この魚釣用リールは両軸受リールであって、図6に示すようにリール本体101(スプール115を有する)と、リール本体101の側方に配置されたスプール回転用のハンドル組立体102(クランクアーム106、ハンドル把手107を有する)と、ハンドル組立体102のリール本体101側に配置されたスタードラグ103とを備えている。リール本体101は竿取付脚104を介して釣竿Rに装着されるようになっている。 【0004】 また、この魚釣用リールは、図7に示すように左右1対の側板110,111と、これらを連結する複数の連結部材112とを有するフレーム105と、フレーム105の両側方に装着された第1カバー113及び第2カバー114とを有し、前記の各要素を一体に組み立てて形成されている。 第2カバー114内には、ハンドル組立体102からのトルクをスプール115に伝える第1回転伝達機構120とクラッチ機構121を備える。第1回転伝達機構120は、スプール115からハンドル組立体102側にトルクが逆に伝達された場合のトルクを規制するための回転制御機構122を含んでいる。 【0005】 スプール115のスプール軸125は、各カバー113,114に軸受126を介して回転自在に支持されている。第1回転伝達機構120は、一端にハンドル組立体102が固定されたハンドル軸130と、ハンドル軸130の他端に回転制御機構122を介して連結されたメインギア131と、メインギア131に噛み合うピニオンギア132とを有している。ハンドル軸30は、一端側が側板111に回転自在に支持されている。 【0006】 クラッチ機構121は、スプール軸125に沿ってピニオンギア132を摺動させて、クラッチオンすれば、スプール軸125とピニオンギア132との間で回転力が伝達され、クラッチオフでは、スプール115は自由に回転する。ピニオンギア132は、常時クラッチオンの状態に付勢されており、第2カバー114に突出するクラッチレバー109(図7)の操作によりクラッチオフになる。 【0007】 回転制御機構122は、ハンドル軸130を糸巻取方向にのみ回転させる(糸繰り出し方向の回転を禁止する)ローラ型のワンウェイクラッチ機構140と、スプール115の糸繰り出し方向の回転に対して設定した制動力を作用させるためのドラグ機構150と、ハンドル軸130を糸巻取方向にのみ回転させる爪式のラチェット機構160とを有する。 【0008】 以上の構成からなる従来の魚釣用リールにおいて、使用時に、繰り出した釣糸を巻取るため、ハンドル組立体102を糸巻取方向に回転すると、その回転がハンドル軸130からワンウェイクラッチ機構140、ドラグ機構150を介してメインギア131、ピニオンギア132を経てスプール115に伝達されて釣り糸が巻き上げられる。このとき、魚の引きが弱ければ、釣糸が引き出される方向にスプール115が回転することはないが、魚の引きが強くなりスプール115の釣糸の巻き上げ方向の回転力が大きくなり、回転力がドラグ機構150の設定回転抵抗力を超えると、ドラグ機構150で滑りが生じてメインギア131を含むスプール115側は釣糸が引き出される方向に回転を始める。このとき、スプール115には、常にドラグ機構150から一定の抵抗力すなわちドラグ力が作用するようにして、釣糸に掛かる張力を一定に維持している。 【0009】 他方、負荷が加わっている釣糸をスプール115に巻回するためにハンドル把手107を回しているときには、その力の一部がリール本体101の竿取付部104を介して釣竿Rに作用することになり、前後及び上下方向に不規則に釣竿Rが振れて巻き上げ操作性が劣り、巻き上げ効率が低下するが、前記両軸リールではこれを抑制するため、竿取付部104とハンドル把手による回転力の作用点の間の距離を短くして釣竿Rの揺れ発生を抑制している。具体的には、クランクアーム106を、その固定部分106aからハンドル把手107の基端部に向う途中の第1位置106bでリール本体1に近づく方向に屈曲させ(なお、第2位置106cで固定部分106aにおける面と平行になるように戻している)、さらに竿取付脚104をハンドル組立体102側に偏倚させて固定している。 【0010】 ところが、前記従来の魚釣用リール(両軸受リール)では、ハンドル組立体102のリール本体101側には、ドラグ機構150に働く制動力を調節するスタードラグ103がクランクアーム106に近接して配置されており、しかも、前記制動力を調節する際にはハンドル軸130に螺合するスタードラグ103をハンドル軸130の回りで回転させる構造となっているので、スタードラグ103を回転させるとき、それがランクアーム106の屈曲部106bに当たらないように、クランクアーム106の屈曲部106bをスタードラグ103が存在する位置を避けて、つまりその長さを越える位置に設けている。そのため、前記従来の魚釣用リールでは、屈曲部から平面部、及びハンドルツマミ部を含めたハンドル全体の径方向の長さが必然的に長くなり、これではハンドル長さが短くキャスティング操作と巻取り操作を頻繁に行う小型リール(ベイトキャスティングリール)には適さないという問題がある。 【0011】 【特許文献1】特開平11-253078号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は、従来の魚釣用リールにおける前記の問題に鑑み、これを解決するためになされたものであって、その第1の目的は、ハンドル長さが短くキャスティング操作と巻取り操作を頻繁に行う小型リールに適した魚釣用リールを提供することである。 また、第2の目的は、ドラグ機構の制動力の調節操作を行うための操作部(スタードラグ)の操作性を向上させることである。 【課題を解決するための手段】 【0013】 請求項1の発明は、リール本体と、前記リール本体に回転自在に支持したスプールと、前記リール本体に回転自在に支持したハンドル軸と、前記ハンドル軸の端部に設けたハンドルアームと、前記ハンドルアームの両端の先端部に回転自在に設けられたツマミ部と、制動力が調節可能なドラグ機構を介して前記ハンドル軸の回転を前記スプールに伝える伝動機構と、前記ハンドル軸に回転可能に支持されて前記ドラグ機構の働く制動力を調節する操作部よりなる制動力調節体を有するキャスティング操作のための魚釣用リールであって、前記制動力調節体の操作部を、前記ハンドル軸の軸心から放射方向に突設して操作部の先端側をリール本体側に屈曲して屈曲部を形成し、かつ前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から両側の先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分を、前記屈曲部に倣ってリール本体側に屈曲した屈曲部に形成すると共に、前記ツマミ部を前記ハンドルアームの前記屈曲部の近傍に設け、かつ、前記ツマミ部を設けた前記ハンドルアームの前記屈曲部から先端までの長さを、これに平行な前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までの長さよりも短くし、それによって、前記ハンドルアームの両端の先端部にあるツマミ部を掌で保持した状態でドラグ操作部を同じ手の指の操作で回転操作できるようにしたことを特徴とする。 【発明の効果】 【0014】 本発明によれば、ハンドル及びリール本体を保持した手の無理のない自然な動作で、制動力調節体の回転操作を行うことが可能になり、操作性が向上する。 ハンドルアームをリール本体に近づけながらハンドルアームの径方向長さの短縮化が可能となり、ハンドルの巻取り回転操作性が一段と向上するとともに、制動力調節体の回転操作(制動力調節)も容易に行え、ハンドル長さが短くキャスティング操作と巻取り操作を頻繁に行う小型リールに適した構成を得ることができる。 ハンドルアームおよびツマミ部が一対のバランスの取れた状態となるので、回転バランスが良好になり、最適な回転操作性が得られる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0015】 以下、本発明の実施形態に係る魚釣用リールについて、添付図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、魚釣用リールとして、丸形の両軸受型リールを例に採って説明する。 図1は、本実施形態に係る丸形の両軸受型リールの一部を断面で示した正面図である。図1に示すように、リール本体1は、左右フレーム2a,2bと、これら左右フレーム2a,2bの側部に配置される円形の左右側板3a,3bとを備えている。これら左右側板3a,3bは、左右フレーム2a,2bの側部に取り付けられ、本実施形態では、左側板3aは着脱自在に、右側板3bはビス4によって止められている。 【0016】 左右フレーム2a,2bは、これらの間に架設される複数の支柱と共に例えば金属材料や樹脂材料で一体成形されている。また、左右フレーム2a,2bと左右側板3a,3bとの間には、一定のスペースが形成されており、このスペース内には、駆動力伝達系やドラグ系等の各種機構が収容されている。 左右側板3a,3b間(左右フレーム2a,2b間)には、スプール軸5が軸受6を介して回転可能に支持されており、このスプール軸5には、その中央部にスプール7が設けられている。 【0017】 また、スプール軸5の左側板3a側には、スプール7の過回転を防止して釣糸放出時のバックラッシュを防止するためのバックラッシュ防止機構8が設けられており、スプール軸5の右側板3b側には、軸方向にスライドしてスプール軸5と係脱するピニオン10がピニオン軸10aに回転可能に支持されている。ピニオン10にはクラッチプレート12が係合する円周溝が形成されており、クラッチプレート12をピニオン軸10aに沿って軸方向に移動させることによって、ピニオン10をスプール軸5に係合(クラッチON)させたり、スプール軸5に非係合(クラッチOFF)にしたりすることができる。 【0018】 一方、右側板3bには、ピニオン10と噛合するドライブギヤ18を支持したハンドル軸20が、基端部側の軸受35と軸方向に移動自在な先端部側の軸受36(後述するドラグ動作と関連)で回転可能に支持されている。ハンドル軸20の先端部には、ハンドル21のハンドルアーム21aが取り付けられており、ハンドルアーム21aの先端部には、アーム21aに回転自在にツマミ部21gが設けられている。 【0019】 ハンドル軸20の中間部には、一方向クラッチ23が取り付けられている。ハンドル軸20の基端部には、ドライブギヤ18と係合するドラグ機構の摩擦板25が設けられており、かつドラグ機構の摩擦板25に働く制動力を調節するためドラグ操作部27を備えた制動力調節体26が設けられている。制動力調節体26は、ハンドル軸20に例えば螺合により支持され、ドラグ操作部27の回転操作により軸方向に移動する。制動力調節体26には、軸方向に移動自在な軸受36が発条板24の付勢により当接し、発条板24を介してドライブギヤ18と係合するドラグ機構の摩擦板25にこの付勢力を与えるので、制動力調節体26の軸方向の移動により、摩擦板25に作用する力を調節し、摩擦係合するドライブギヤ18に所定のドラグ力を作用させることができる。 【0020】 また、ドラグ操作部27は、ハンドル軸20の先端部に取り付けられたハンドル21に近接してハンドル軸20の軸心から放射方向に延びた複数の突部として形成されている(後述する図2,3,5、参照)。 また、ハンドル軸20には、ドライブギヤ18と一体回転するギヤ28が設けられており、このギヤ28は、レベルワインド機構30を駆動する駆動ギヤ33に噛合している。 【0021】 以上の構成において、ハンドル21を回転操作すると、この回転運動がドライブギヤ18からギヤ28並びにピニオン10を介して駆動ギヤ33並びにスプール7に伝達され、スプール7を回転させるとともに、レベルワインド機構30を駆動し、スプール7には、釣糸が均等に巻回される。 【0022】 次に、前記魚釣用リールのハンドル軸20にそれぞれ取り付けられ、且つ手動操作されるハンドル21及び制動力調節体26について説明する。 従来の魚釣用リールでは、既に述べたように、巻上げハンドルの操作性を高めるためにハンドルアームをリール本体側に屈曲させているが、その屈曲位置は、ハンドルアームに近接させて設けるドラグ操作部(従来例におけるスタードラグ)の制限を受け、屈曲位置をドラグ操作部が存在する部分に設けることができないために、アーム長が長くなってしまい、小型リールには適さない。 【0023】 そこで、本発明では、ハンドル軸の軸心から放射方向に突設する制動力調節体の操作部(ドラグ操作部)の先端側をリール本体側に屈曲して屈曲部とするとともに、他方、前記ハンドル軸の軸心から先端に向かうハンドルアームのドラグ操作部の前記屈曲部に対向する部分を、ドラグ操作部の屈曲部に倣ってつまりこれと略平行にリール本体側に屈曲することで、平坦な(即ち屈曲形成しない)ドラグ操作部を備える前記従来の両軸リールに比べハンドルアームの径方向長さを短縮できる。そのため、本発明の魚釣用リールは、ハンドル長さが短くキャスティング操作と巻取り操作を頻繁に行う小型リールに適したものとなる。 【0024】 図1において符号27fで示すドラグ操作部の屈曲部は、またドラグ操作時にリールを保持しながらドラグ操作部27を指で操作する際に、自然な指の動作で、制動力調節体26の回転操作を行うことを可能にする。即ち、ドラグ操作時に、釣人が手で保持したリールの制動力調節体26のドラグ操作部27を回転操作する人指し指や親指は、通常、ハンドル軸20に対して斜めに位置した状態でドラグ操作部27の操作面に当接するのが自然な指の動作であるから、屈曲部27fを設けることで、指と操作部の回転押圧操作時のフィット性が向上できるので、従来の平坦な(即ち屈曲形成しない)操作部のものよりも操作性を向上させることができる。特に、ハンドルツマミ部21gを掌で保持しながらドラグ調節を行う場合には、人指し指で締める方向に又親指で緩める方向にそれぞれドラグ操作部27を回転操作するが、この回転操作を無理のない自然な指の動作で行うことができる。 【0025】 なお、以上の説明では、屈曲部27fを備えたドラグ操作部27と、屈曲部21fを備えたハンドルアーム21aを組み合わせた実施形態について説明したが、本願発明はこの構成に限定されず、ドラグ操作部27のみに屈曲部27fを備えた構成であってもよい。 【0026】 図2は、図1に示した魚釣用リールの右側面を示す図である。同図に示すように、ハンドル軸20の先端部に取り付けたハンドル21のハンドルアーム21aは、軸心を通る直線を中心線として延びるアームの先端部にそれぞれ回転自在にツマミ部21gが設けられている。この一対のツマミ部21gは、回転バランスが良く、最適な操作性が得られるようハンドル軸20の軸心から等距離、即ち軸心に対称に設けられている。 また、ツマミ部21gは、図1に示すように、屈曲部21fに続くアームの先端部21eを平行面(ハンドル軸20への取り付け部と平行な面)にし、その面に設けられている。 【0027】 制動力調節体26は、ハンドル21と同軸に回転可能に(図2中に矢印にて示す)設けられ、ハンドル軸20の軸心から放射方向で周方向に複数延びたドラグ操作部27を有する。ドラグ操作部27は、ハンドル21がどの回転位置にあってもハンドル21に邪魔されずに、締める(制動力増加)方向/緩める(制動力減少)方向の両方向への回転操作が行える操作面を備えている。ドラグ操作部27は、図2に示すように、複数の突部によってスター(星)形を有し、かつ操作面の傾きを回転方向によって変える、即ち締める(制動力増加)方向の人差し指が当たる面と緩める(制動力減少)方向の親指が当たる面の傾きを変えるようにしてもよい(図2では、時計回り方向に締め付ける方向にドラグ操作部27が傾斜している)。 また、このドラグ操作部27の突部形状を、図3(図1に示した魚釣用リールの右側面を図2と同様の図である)におけるように、図2に比べて先端を先細状にして、小型のリールに適した形状にしてもよい。 【0028】 図4及び図5は、ドラグ操作部27にドラグ機構150の制動力を緩和或いは強化する回動方向を示す指示手段である指標部を付加した実施形態を示す。図4は、図1と同様の図面でその要部を示し、図5は、図2と同様の側面図でその要部を示す。 ドラグ操作部27に付加する指標部は、ドラグ(制動力)調節を行う際に、使用者にドラグ操作部27の回転方向が、締める(制動力増加)方向であるか、或いは緩める(制動力減少)方向であるかを示すものである。 具体的には、図5に示すように、ドラグ操作部27の突部の一つを基準(図中、突部の先端に「O」の指標を示したもの)として、右回り(時計回り)が締める(制動力増加)方向であれば、基準の右側にある突部に「+」の指標を示し、左回りが緩める(制動力減少)方向であれば、基準の左側にある突部に「-」の指標を示し、行おうとするドラグ(制動力)調節の方向を知らせることができるようにする。 【0029】 ドラグ操作部27の突部において指標を設ける位置は、屈曲部27fにすると見難いので、屈曲部27fに続く先端部27eを平行面(ハンドル軸20への取り付け部と平行な面)にし、その面に設けるのが好ましい。 【図面の簡単な説明】 【0030】 【図1】一部を断面で表した本発明の実施形態に係る丸形の両軸受型リールの正面図である。 【図2】本発明の実施形態に係るリールの右側図である。 【図3】図2に示したリールのドラグ操作部の突部形状を変形した例を示す。 【図4】本発明の実施形態に係るリールのドラグ操作部に指標部を付加した実施形態を示す。 【図5】本発明の他の実施形態に係るリールの要部右側面図である。 【図6】従来の両軸受リールの外観を示す斜視図である。 【図7】一部を断面で表した従来の両軸受リールの構成を示す正面図である。 【符号の説明】 【0031】 1・・・リール本体、 5・・・スプール軸、 7・・・スプール、 10・・・ピニオン、 12・・・クラッチプレート、 18・・・ドライブギヤ、 20・・・ハンドル軸、 21・・・ハンドル、 21a・・・ハンドルアーム、 21g・・・ツマミ部、 25・・・摩擦板、 26・・・制動力調節体、 27・・・ドラグ操作部。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 リール本体と、前記リール本体に回転自在に支持したスプールと、前記リール本体に回転自在に支持したハンドル軸と、前記ハンドル軸の端部に設けたハンドルアームと、前記ハンドルアームの両端の先端部に回転自在に設けられたツマミ部と、制動力が調節可能なドラグ機構を介して前記ハンドル軸の回転を前記スプールに伝える伝動機構と、前記ハンドル軸に回転可能に支持されて前記ドラグ機構の働く制動力を調節する操作部よりなる制動力調節体を有するキャスティング操作のための魚釣用リールであって、 前記制動力調節体の操作部を、前記ハンドル軸の軸心から放射方向に突設して操作部の先端側をリール本体側に屈曲して屈曲部を形成し、かつ前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から両側の先端に向かう前記操作部の屈曲部に対向する部分を、前記屈曲部に倣ってリール本体側に屈曲した屈曲部に形成すると共に、 前記ツマミ部を前記ハンドルアームの前記屈曲部の近傍に設け、かつ、前記ツマミ部を設けた前記ハンドルアームの前記屈曲部から先端までの長さを、これに平行な前記ハンドルアームのハンドル軸の軸心から前記屈曲部までの長さよりも短くし、それによって、前記ハンドルアームの両端の先端部にあるツマミ部を掌で保持した状態でドラグ操作部を同じ手の指の操作で回転操作できるようにしたことを特徴とするキャスティング操作のための魚釣用リール。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2011-05-16 |
出願番号 | 特願2005-186170(P2005-186170) |
審決分類 |
P
1
41・
856-
Y
(A01K)
P 1 41・ 121- Y (A01K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 木村 隆一 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
仁科 雅弘 鈴野 幹夫 |
登録日 | 2010-03-12 |
登録番号 | 特許第4471294号(P4471294) |
発明の名称 | 魚釣用リール |
代理人 | 根本 恵司 |
代理人 | 根本 恵司 |