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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1239003
審判番号 不服2008-9535  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-17 
確定日 2011-06-20 
事件の表示 特願2002-249545「紅麹菌を用いた血圧上昇抑制剤及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月18日出願公開、特開2004- 83529〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年8月28日の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成19年9月18日受付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成20年3月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年4月17日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、平成20年6月27日受付けで手続補正書と請求理由の補正書(方式)が提出されたが、この平成20年6月27日受付けの手続補正書に係る手続は、補正手続期間経過後の差出し(特許法第17条の2第1項第4号の補正期間経過後の差出し)の理由により、特許法第133条の2第1項の規定により却下すべきものと認めるとの却下理由通知書が通知された後、平成20年8月14日付けで手続却下の決定がなされ、この手続却下の決定は確定している。

2.本願発明
本願請求項1?3に係る発明は、平成19年9月18日受付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されたとおりのものであり、そのうち請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
特許請求の範囲の請求項2には、「【請求項2】 請求項1に記載の製造方法により得られたVal-Phe配列のジペプチド及びその塩を有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。」と記載され、その引用される請求項1には、「【請求項1】 紅麹菌を製麹し、それを原料に得られた抽出物をカラムクロマトグラフィーで処理することにより成るアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するVal-Phe配列のジペプチドの製造方法。」と記載されているから、本願発明は、請求項1の記載を援用して書き直すと次のとおりと認められる。
「紅麹菌を製麹し、それを原料に得られた抽出物をカラムクロマトグラフィーで処理することにより成るアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するVal-Phe配列のジペプチドの製造方法により得られたVal-Phe配列のジペプチド及びその塩を有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。」(本願発明)

3.引用例
原査定の拒絶理由に引用された本願出願前の刊行物である特開平6-256387号公報(以下、「引用例」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
(i)「【請求項1】

で示されるL体のアミノ酸の配列によるペプチド構造を有する新規な16種類のペプチド。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】参照)
(ii)「【0006】前記の新規なペプチドの製法としては、そのペプチドを化学的に合成する方法またはユリ科植物から分離、精製する方法を挙げることができる。本発明の新規なペプチドを化学的に合成する場合には、液相法または固相法などの通常の合成方法によって行うことができるが、好ましくは、固相法によってポリマー性の固相支持体へ前記ペプチドのC末端側(カルボキシル末端側)からそのアミノ酸残基に対応したL体のアミノ酸を順次ペプチド結合によって結合して行くのが良い。そして、そのようにして得られた合成ペプチドは、トリフルオロメタンスルホン酸、フッ化水素などを用いてポリマー性の固相支持体から切断した後、アミノ酸側鎖の保護基を除去し、逆相系のカラムを用いた高速液体クロマトグラフイー(以下、HPLCと略す。)などを用いた通常の方法で精製することができる。
【0007】本発明の新規なペプチドを、ユリ科植物から分離、精製する場合には、その新規なペプチドを含有している部分(例えば、葉、茎、根、種子、輪茎など)を取り出して、ホモジナイザーを用いて適当な溶媒(例えば、水、トリス-塩酸緩衝液、リン酸緩衝液などの中性の緩衝液など。)中で十分に粥状とし、その得られた濾液をセロファンなどの半透膜を用いて適当な溶媒(例えば、水、トリス-塩酸緩衝液、リン酸緩衝液などの中性の緩衝液など。)中で十分に透析する。その濾液中の成分で半透膜を通過した成分を減圧濃縮した液に冷アルコール(例えば、冷メタノールなど。)を添加後、冷室に30分?3時間以上放置して沈澱を生成せしめる。得られた沈澱は加水して溶液とし強酸性陽イオン交換樹脂(例えば、ダウケミカル社製のDowex 50Wなど)にかけ、その吸着溶出分画からアンジオテンシン変換酵素(以下、ACEと略す。)阻害活性を有する成分を含有する分画を得、その得られたACE阻害活性分画をゲル濾過(例えば、ファルマシア製の Sepha-dex G-25など)によって分画し、その得られACE阻害活性分画をさらにHPLC(逆相高速液体クロマトグラフィー)によって分画することによって行うことができる。」(段落【0006】?【0007】参照)
(iii)「【0009】製造例1
[新規なペプチドのニンニクからの製造]外皮を除去したユリ科植物に属するニンニク200gに脱イオン水を加え、ホモジナザー(ナショナル電気ミキサーMX 150S型)を用いて、室温下で粉砕して粥状に、ホモジネイト1Lを得た。これを濾紙(東洋濾紙No.2)を用いて吸引濾過し得られたこの濾液500mlを透析膜(分子量が1万以下の物質を透過するアミコン製のYM10型を使用。)を用いて限外濾過した。この透析膜を透過して得られた通過液400mlに冷メタノール1.6Lを加え、冷室に60分間放置して沈澱を生ぜしめた。生じた沈澱物をグラスフイルター(3G-1)による吸引濾過により得たのち、水を加えて溶液10mlとした。このメタノール沈澱物を溶解した溶液3mlを、予め脱イオン水で緩衝化したSephadex G-25カラム(φ2.5x150cm)に負荷し、流速30ml/hr、各分画量8.6mlでゲル濾過を行った。その結果は、図1に示すとおりである。さらに上記メタノール沈澱物を溶解した溶液10mlをDowex 50Wx4[H+]カラム(φ2.5x30cm)に加えた。そのカラムを脱イオン水で十分洗浄した後、2N水酸化アンモニウム液1Lを用いて溶出した。減圧濃縮によりアンモニアを除去し、濃縮液3mlを得た。この濃縮液3mlを予め脱イオン水で緩衝化したSephadex G-25カラム(φ2.5x150cm)に負荷し、流速30ml/hr、各分画量8.6mlでゲル濾過を行った。その結果は図2に示すとおりである。上記クロマトグラフ中、分画番号38?41のACE阻害活性画分を集めて凍結乾燥して精製ペプチド粉末1.8gを得た。この精製ペプチド粉末8mgを20μlの脱イオン水に溶解した後、HPLCを行った。カラムとしては野村化学(株)製Develosil ODS-5(4.5mm IDx25cm L)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する。)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0ml/min,検出波長220nmでクロマトグラフィーを行い、ACE阻害作用を有するペプチドを得た。その結果は図3に示すとおりであり、16種のペプチドの溶出時間は表1のとおりである。
【0010】このようにして得られたACE阻害作用を有するペプチドのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステム社製のプロテインシークエンサー447A型を用いて決定された。その結果、16種のペプチドはそれぞれ、

で示されるL体のアミノ酸残基からなる配列を有するペプチドであることが確認された。新規16種のペプチド各々を、ウオターズ社製のピコタグアミノ酸分析計により分析した結果、アミノ酸組成が前記式で示したアミノ酸配列構造を有するペプチドであることが確認された。さらに、新規16種のペプチドをマススペクトルにより分析した結果、アミノ酸配列およびアミノ酸組成が前記式で示したアミノ酸配列構造を有するペプチドであることが確認された。精製して得られた本発明に係るニンニクからのペプチド16種より成る分画は、以下に示す試験によつて薬理効果が確認された。」(段落【0009】?【0010】参照)
(iv)「【0011】試験例1
[ACE阻害活性測定法]ACE(シグマ社製、酵素番号EC3.4.15.1)2.5mU,合成基質Hippuryl-L-his-tidyl-L-leucine(ペプチド研究所製)12.5mMを用いLiebermanの測定法を改良した山本等の方法(日胸疾会誌,18,297-302(1989))に準じて測定した。すなわち、生成した馬尿酸を酢酸エチルにて抽出し、225nmの吸光度で測定した。 被検液での吸光度をEs,被検液の代わりに緩衝液を加えた時の値をEc,予め反応停止液を加えて反応させた時の値をEbとして次式から阻害率を求めた。
阻害率(%)=(Ec-Es)/(Ec-Eb)×100
ACE阻害剤の阻害活性IC_(5θ)値は、ACEの酵素活性を50%(阻害率)阻害するために必要な試料の濃度(モル数M)で示した。本発明に係るニンニクからの新規16種のペプチドの牛肺血清ACEに対する阻害活性(IC_(5θ))表1に示すとおりである。」(段落【0011】参照)
(v)「【0012】試験例2
[新規なペプチドのラットへ投与時の降圧の効果]
I.実験材料
前記製造例1で得られた精製ペプチド粉末。すなわち、ニンニク抽出物からのジおよびトリペプチド16種より成る分画(図2のクロマトグラフ中、分画番号38?41)を用いた。
II. 実験方法
実験動物は日本チャールズ・リバー(株)より15週令雄性高血圧自然発症ラット(以下SHRと略記する。)を購入し、1週間の予備飼育後、収縮期血圧が160mmHg以上(体重280?330g)の動物を用いた。血圧は非観血的尾動脈血圧測定装置(株)理研開発製,PS-100型)を用いtail-cuff法により、投与前、投与後1時間,2時間、3時間、4時間、5時間、6時間のSHR尾動脈の収縮期血圧、平均血圧、および脈拍数の測定を測定時間毎に5回おこない、得られた測定値の最高値と最低値を棄却し、3回の平均値をもって各時間の測定値とした。それぞれの変動値は、投与前の平均値を0時間の測定値とし、各時間の平均値より0時間の平均値を減じその差を求めて算出した。ニンニク抽出物10mg/kgをSHRに静脈投与した時の、また、ニンニク抽出物10mg/kg,50mg/kgならびに対照としてカプトリル細粒50mg/kg,100mg/kgをSHRに強制経口投与した時の血圧値および脈拍数への作用についての結果は、表2,図4、図5および図6に示すとおりである。以上の試験の結果、本発明に係るニンニクからのペプチド16種より成る分画は、ACE阻害活性を有し、in vivoにおいても有意な血圧降下作用を示すことが確認された。したがって、本発明に係るニンニクからのペプチド16種は高血圧症の治療または予防薬として有用である。なお、本発明に係るニンニクからのペプチド16種は、構造的にそのアミノ酸配列を部分構造とするペプチドにおいて、構造中に採用することもできる。
【0013】
【表1】
ACE阻害薬投与後における降圧度と脈拍数
・・表・略・・
・・・・
【0014】
【表2】
ニンニク抽出物からのジおよびトリペプチドのHPLCにおける溶出時間、アミノ酸配列およびACE阻害活性

・・・」(段落【0012】?【0014】参照)

なお、上記引用例の摘示(iv),(v)の表2における阻害活性「IC_(5θ)」は、50%阻害率である(摘示(iv)参照)から、「IC_(50)」の誤記と認める。また、摘示(iv),(v)における本文中の表1,表2の説明によると、その技術内容からみて、表1と表2が入れ替わっていることが明白であるが、段落【0014】の表2はそのまま表2として採用することとする。

これらの記載からみて、特に、16種類のペプチドの中にVal-Phe配列のジペプチドが明記されていて、表2中にVal-Phe配列のジペプチドのACE阻害活性(即ち、アンジオテンシン変換酵素阻害活性)IC_(50)値の測定値が示されていることに着目すると、引用例には、次の発明(以下、「引用例発明」ともいう。)が記載されているものと認められる。
「Val-Phe配列のジペプチドを有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。」

4.対比、判断
本願発明と引用例発明を対比すると、両発明は、
「Val-Phe配列のジペプチドを有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。」
で一致し、次の点で一応相違している。
<相違点>
「Val-Phe配列のジペプチド」に関し、本願発明では、「紅麹菌を製麹し、それを原料に得られた抽出物をカラムクロマトグラフィーで処理することにより成るアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するVal-Phe配列のジペプチドの製造方法により得られた」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのような表現では規定されていない点

そこで、この相違点について検討する。
「Val-Phe配列のジペプチド」は化学物質であり、その入手手段や合成手段によって異なるものではない。そして、引用例では、合成であるか、ニンニクなどのユリ科植物からの抽出物であるかにかかわらず、「Val-Phe配列のジペプチド」自体に「アンジオテンシン変換酵素阻害活性」があることが明らかにされている。また、本願でも、アンジオテンシン変換酵素阻害ジペプチドを精製することも示されている(本願明細書段落【0037】参照)。
そうすると、前記で一応の相違点とした「紅麹菌を製麹し、それを原料に得られた抽出物をカラムクロマトグラフィーで処理することにより成るアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するVal-Phe配列のジペプチドの製造方法により得られた」との特定は、格別の技術的意味を有さないものであるといえるから、前記一応の相違点は実質的な相違であると言うことができない。
よって、本願発明は、実質的に引用例に記載された発明であると認められる。

5.むすび
以上のとおり、本願請求項2に係る発明は、引用例に記載された発明であると認められるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない。それ故、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-26 
結審通知日 2011-04-27 
審決日 2011-05-10 
出願番号 特願2002-249545(P2002-249545)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 春田 由香  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 森井 隆信
大久保 元浩
発明の名称 紅麹菌を用いた血圧上昇抑制剤及びその製造方法  
代理人 島袋 勝也  

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