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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01S
管理番号 1239063
審判番号 不服2008-459  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-08 
確定日 2011-06-23 
事件の表示 特願2003-343728「放送デジタルテレビジョン信号を使用する位置確認」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月 8日出願公開、特開2004-109139〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2002年1月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年2月2日、同年4月3日、同年5月25日、同年6月21日、同年8月17日 米国)を国際出願日とする実願2002-600065号を特許法第46条第1項の規定により平成15年10月1日に特許出願に変更したものであって、明細書、特許請求の範囲又は図面について平成19年4月5日付けで補正(以下、「補正1」という。)がなされ、平成19年10月3日付け(送達日 同年10月10日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年1月8日に拒絶査定不服審判が請求されたものある。
その後、当審より平成22年4月23日付け(発送:同年5月7日)で拒絶理由を通知したところ、平成22年11月8日付けで意見書の提出があった。

2 本願発明
本願の請求項1ないし95に係る発明は、補正1によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし95に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりである。

「ユーザデバイスの位置を判定する方法であり:
複数のDTVトランスミッタからの複数のデジタルテレビジョン(DTV)放送信号をユーザデバイスにおいて受信し;
DTV放送信号に基づいてユーザデバイスと各DTVトランスミッタとの間の擬似距離を判定し;
この擬似距離と各DTVトランスミッタの位置とに基づいてユーザデバイスの位置を判定することからなる方法。」(以下、「本願発明」という。)

3 当審の拒絶理由
当審において通知した上記拒絶理由の概要は、本願発明は、本願の最先の優先日前である1996年4月23日に頒布された刊行物である米国特許第5510801号明細書(以下、「引用刊行物1」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願の最先の優先日前である平成8年7月16日に頒布された刊行物である特開平8-184451号公報(以下、「引用刊行物2」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから、いずれにしても、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

4 引用刊行物1に基づく容易想到性について
(1)引用刊行物1に記載の事項・引用発明
引用刊行物1には、「LOCATION DETERMINATION SYSTEM AND METHOD USING TELEVISION BROADCAST SIGNALS(テレビジョン放送信号を用いた位置測定システム及び方法)」(発明の名称)に関して、次の事項が図面とともに記載されている。なお、訳は当審による。

(a)「A location determination system and method in which mobile receiver units are in an area of at least three fixed commercial television stations, each television station broadcasting standard television signals, including horizontal, vertical and chrominance burst synchronizing signals. (少なくとも3つの固定商業テレビ局のエリア内にあるモバイル受信機における、位置測定システム及び方法であり、各テレビ局は、水平、垂直及びクロミナンスバーストの同期信号を含む標準テレビジョン信号を送信する。」(ABSTRACT(要約)第1文)

(b)「FIG. 1 describes the basic elements of a TV Location Determination System incorporating the invention. Multiple television stations TV Station 1, TV Station 2 . . . TV Station N are utilized in the approach.
Each TV station employed must be at a different geographical location LOC 1, LOC 2 . . . LOC N than the others. Wide separations in distance provide the potential for higher location determination accuracy. It is further required that the stations' geographic locations be accurately known since the station position also affects the location determination precision. A minimum of three (3) TV stations must be utilized to determine a two dimensional (2D) location solution applicable to most terrestrial applications. (A 3D solution is achievable if a minimum of 4 stations are used and one of the stations is at a substantially different elevation than the others.) For the 2D solution, more than 3 stations can be utilized to 1) provide solutions where one or more TV signals may be unacceptable due to blockage, multipath, etc., and 2) provide improved accuracy because of the multiplicity of signals contributing to the solution.
(図1は、本発明による、TV位置測定システムの基本構成を示す。多数のテレビ局である、TV局1、TV局2・・・TV局Nが、この方法に用いられる。使用される各TV局は、他の局とは異なる地理的位置LOC1, LOC2, ... LOC Nに位置していなければならない。距離が大きな隔たりが、より正確な位置特定を可能とする。局の位置は、位置測定精度に影響を与えるものでもあるから、局の地理的位置を正確に知ることがより必要とされる。少なくとも3つのTV局が、多くの地上用途に適する2次元的な位置を測定するために利用される(3次元的な位置を求めるのには、少なくとも4つの局を使用し、かつ、そのうちの一つが他の局と異なる高さに位置すれば、可能である。)。2次元な位置決定においても、1)一つ以上のTV信号が障害物やマルチパスなどの要因で適さない場所での位置決定の提供、2)位置決定に寄与する多数の信号によって向上した正確性を提供するために、3つよりも多くの局が利用される。)(第2欄28?47行)

(c)「The signals transmitted (FIG. 1) are received by both the mobile receiver units 10 desiring the location determination or fix (Target Receiver 10) and Reference Receiver 11. The Reference Receiver's 11 position must also be accurately known. The functions of the Reference Receiver 11 are 1) to measure the time difference of arrival of a reference portion of each station's signal, 2) to measure the rate of change of the time difference of arrival, and 3) to provide these data (or a processed version of the data) to the mobile receiver units 10 desiring location determination. These data are required because the TV stations derive all their timing related signal structure from a 3.579545 MHz reference that is accurate to within 10 Hz and stable to within 1/10 Hz/sec (FCC requirement). These two characteristics make the timing signals appear to "drift" relative to each other, and, without knowledge of their timing offset and offset change, the location solution would "drift". The Reference Receiver 11 provides the necessary reference receiver correction data to achieve a stable location solution. Therefore, to make this data available to the receiver desiring location determination, there must be a communication link 12 to connect the source of the reference receiver correction data and the measurement data to the mobile receiver units 10.」
(送信される信号(図1)は、位置の測定または修正を要求するモバイル受信機10(ターゲット受信機10)と参照受信機11との両方で、受信される。参照受信機11の位置は、正確に知られていなければならない。参照受信機11の機能は、1)各局の信号の基準部の到着の時間差の測定、2)到着時間差の変化の割合の測定、3)これらのデータ(又は、加工されたデータ)を位置測定を要求するモバイル受信機へ提供すること、である。これらのデータは、TV局が、誤差が10Hz以内の精密さで1/10 Hz/sec内で安定する3.579545MHzの基準から信号の構成に関連するすべてのタイミングを得るために要求される(FCCの要求)。これら二つの特徴は、タイミング信号に互いの”ドリフト”を生じさせ、そして、そのタイミングオフセットとオフセットの変化の情報なしには、位置測定もまたドリフトしてしまう。参照受信機11は、安定した位置測定を得るために、必要な参照受信局の校正データを提供する。それゆえに、位置測定を要求する受信機に役に立つこのデータを生成するために、参照受信局の校正データと測定データをモバイル受信機10に接続するためのコミュニケーションリンク12が必要である。)(第2欄48行?第3欄7行)

(d)「The mobile receiver units 10 desiring location determination (designated as the "Target" Receiver) receives the TV stations' signals, and measures the time-of-arrival of these signals. The time of arrival can be made relative to the Target Receiver's 10 own internal reference 10R or can be made relative to a received TV station signal. In the latter case, processing is simplified, especially if the Target Receiver reference station is the same as the Reference Receiver's reference station.」
(位置測定を要求するモバイル受信機10(”ターゲット”受信機として明示される)はTV局信号を受信し、これらの信号の到着時間を測定する。該到着時間は、ターゲット受信機10自身の内部基準10R、又は、受信されるTV局信号に関連づけられる。後者のケースでは、特に、ターゲット受信機参照局が参照受信機の参照局として同じであるならば、プロセスは単純化される。)(第3欄8?16行)

(e)「The processor 14 utilizes the following data to compute location:
1. Target Receiver measurement data describing the time of arrival of each television signal (or the time difference of arrival of each television signal relative to another signal),
2. The Reference Receiver's correction data describing the time difference in transmission of each TV signal and the rate of change of transmission time of each signal,
3) The speed of radio wave propagation, and
4) Coordinates (location) of the TV stations used in the measurements.
With the first two sets of information, the processor can determine the length of time it took each signal to arrive at the Target Receiver.
With the third piece of information, the length of time travel can be converted to distance traveled for each signal. This information, coupled with the origin of each signal (4th set of data), permits a geometric location solution to be determined.
(プロセッサー14は、位置計算のために、以下のデータを使用する:
1.各テレビジョン信号の到着時間(又は、各テレビジョン信号と他の信号との到着時間差)を表す、ターゲット受信機の測定データ
2.各TV信号の送信時間差、及び、各信号の送信時間の変化率を示す、参照受信機の補正データ,
3)電波の伝播速度,そして
4)測定のために用いられるテレビ局の座標(位置)
最初の2組の情報により、プロセッサーは、各信号がターゲット受信機に到着するまでにかかる時間の長さを測定することができる。そして、3つ目の情報により、移動時間の長さは、各信号が進んできた距離に変換される。この情報が、各信号の原情報(4つ目のデータセット)と関連づけられて、幾何学的な位置の決定を可能にする。」(第3欄39?56行)

そして、上記記載事項(a)ないし(e)、及び、本発明によるTV信号位置決定を用いた位置決定システムの概略図であるFig.1、から、以下の技術事項(ア)ないし(ウ)をそれぞれ読み取ることができる。

・(a)、(b)、(c)から、
(ア)引用刊行物1に記載されている発明は、モバイル受信機ユニット10の位置を判定する方法である点。

・(b)、(c)から、
(イ)モバイル受信機ユニット10は、複数のTV局1、2、……、Nからの複数の水平、垂直及びクロミナンスバーストの同期信号を含む標準テレビジョン信号を受信する点。

・(d)、(e)には、各TV局から送信される標準テレビジョン信号のモバイル受信機ユニット10への到達時間を測定すること、該到着時間と電波の伝播速度とを用いて標準テレビジョン信号が進んできた距離、すなわち、各TV局とモバイル受信機ユニット10との距離を計算すること、及び、該距離とTV局の座標に基づいてモバイル受信機ユニットの位置を計算することが、それぞれ開示されているから、
(ウ)標準テレビジョン信号に基づいて、各TV局とモバイル受信機ユニットとの間で送信される標準テレビジョン信号の到達時間を測定し、該到達時間に基づいて各TV局とモバイル受信機ユニットとの距離を計算し、該距離と各TV局の位置とに基づいてモバイル受信機ユニット10の位置を計算する点。

したがって、以上の技術事項(ア)ないし(ウ)を総合勘案すると、引用刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「モバイル受信機ユニット10の位置を計算する方法であり:
複数のTV局1、2、……、Nからの複数の水平、垂直及びクロミナンスバーストの同期信号を含む標準テレビジョン信号をモバイル受信機ユニット10において受信し;
標準テレビジョン信号に基づいて、各TV局1、2、……、Nとモバイル受信機ユニット10との間で送信される標準テレビジョン信号の到達時間を測定し、該到達時間に基づいて各TV局1、2、……、Nとモバイル受信機ユニットとの距離を計算し;
この距離と各TV局1、2、……、Nの位置とに基づいてモバイル受信機ユニット10の位置を計算する方法。」(以下、「引用発明1」という。)

(2)対比
本願発明と引用発明1とを比較する。

(ア)引用発明1の「モバイル受信機ユニット10」は、本願発明の「ユーザデバイス」に相当する。また、引用発明1の「モバイル受信機ユニット10の位置を計算する方法」は、本願発明の「ユーザデバイスの位置を判定する方法」に相当する。

(イ)引用発明1の「距離」は、各TV局とモバイル受信機ユニット10との間で送信される標準テレビジョン信号の到達時間に基づいて計算されるものであり、モバイル受信機ユニット10に用いられる時計は、高価な原子時計と異なり、ある程度の誤差を有するもの(例えば、水晶振動子を用いたもの)と認められ、該「距離」に基づいてモバイル受信機ユニット10の位置を計算することから、本願発明の「擬似距離」に相当する。

(ウ)引用発明1の「TV局1、2、……、N」と、本願発明の「DTVトランスミッタ」とは、TV信号を送信するトランスミッタである点で、共通する。

(エ)引用発明1の「水平、垂直及びクロミナンスバーストの同期信号を含む標準テレビジョン信号」と、本願発明の「デジタルテレビジョン(DTV)放送信号」とは、テレビジョン放送信号である点で、共通する。

(オ)上記(ウ)、(エ)を考慮すれば、
引用発明1の「複数のTV局1、2、……、Nからの複数の水平、垂直及びクロミナンスバーストの同期信号を含む標準テレビジョン信号をモバイル受信機ユニット10において受信し」と、
本願発明の「複数のDTVトランスミッタからの複数のデジタルテレビジョン(DTV)放送信号をユーザデバイスにおいて受信し」とは、
複数のTVトランスミッタからの複数のテレビジョン(TV)放送信号をユーザデバイスにおいて受信する点で、共通する。

(カ)上記(ウ)、(エ)を考慮すれば、
引用発明1の「標準テレビジョン信号に基づいて、各TV局1、2、……、Nとモバイル受信機ユニットとの間で送信される標準テレビジョン信号の到達時間を測定し、該到達時間に基づいて各TV局1、2、……、Nとモバイル受信機ユニットとの距離を計算し」と、
本願発明の「DTV放送信号に基づいてユーザデバイスと各DTVトランスミッタとの間の擬似距離を判定し」とは、
TV放送信号に基づいてユーザデバイスと各TVトランスミッタとの間の擬似距離を判定する点で、共通する。

(キ)上記(ウ)を考慮すれば、
引用発明1の「この距離と各TV局1、2、……、Nの位置とに基づいてモバイル受信機ユニット10の位置を計算する」と、
本願発明の「この擬似距離と各DTVトランスミッタの位置とに基づいてユーザデバイスの位置を判定する」とは、
擬似距離と各TVトランスミッタの位置とに基づいてユーザデバイスの位置を判定する点で、共通する。

したがって、本願発明と引用発明1の両者は、
「ユーザデバイスの位置を判定する方法であり:
複数のTVトランスミッタからの複数のテレビジョン(TV)放送信号をユーザデバイスにおいて受信し;
TV放送信号に基づいてユーザデバイスと各TVトランスミッタとの間の擬似距離を判定し;
この擬似距離と各TVトランスミッタの位置とに基づいてユーザデバイスの位置を判定することからなる方法」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
TVトランスミッタ、及び、テレビジョン(TV)放送信号に関し、
本願発明のTVトランスミッタが「DTVトランスミッタ」であり、テレビジョン放送信号は「デジタルテレビジョン(DTV)放送信号」であるのに対し、
引用発明1では、TVトランスミッタはTV局であり、水平、垂直及びクロミナンスバーストの同期信号を含む標準テレビジョン放送信号は、同期信号を有するテレビジョン信号にとどまる点。

(3)判断
本願明細書の【0005】及び【0015】にも記載されているように、本願最先の優先日前において、将来アナログ方式のテレビジョン信号を停止して、デジタル方式のテレビジョン信号へ移行することが検討されていたことは、周知の事実である。このことは、例えば、郵政省、「平成11年版 通信白書」、平成11年6月、p.226、の以下の記載にも裏付けられている。
「郵政省では、地上デジタル放送の円滑な導入の在り方についての検討を目的として、9年6月から「地上デジタル放送懇談会」を開催し、10年10月に最終報告を取りまとめた。……アナログ放送からデジタル放送への全面移行の早期実現を基本方針として、2006年末までに親局レベルでの全国的導入の完了を目指している。……… なお、アナログ放送の終了時期については、放送対象地域ごとのデジタル放送普及状況により3年ごとに見直すことを前提として、2010年の終了時を目安としており、……」

また、1998年にイギリスとアメリカで地上デジタルテレビ放送が始まっている事実があることから、デジタル方式のテレビジョン信号自体も、本願の最先の優先日前における周知技術である。

したがって、引用発明1の位置測定方法に接した当業者が、当該引用発明1において用いられるテレビジョン信号の方式として、将来停止が予定されているアナログ方式ではなく、新しいデジタル方式のテレビジョン信号を利用しようとすることは、容易に想到し得る事項である。

そして、引用発明1は、同期信号を含む標準テレビジョン信号に基づいて、該標準テレビジョン信号がTV局からモバイル受信機ユニット10に到達するまでの時間から距離を測定するものであるところ、デジタル方式のテレビジョン信号もまた同期信号を有する信号であるから、「同期信号を含むテレビジョン信号の到達時間から距離を計算する」という引用発明1の測定原理にデジタル方式のテレビジョン信号を適用することに、格別の困難性があるとはいえない。

そして、本願発明が奏する効果も、引用発明1及び周知技術から、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別なものではない。

したがって、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 引用刊行物2に基づく容易想到性について
(1)引用刊行物2に記載の事項・引用発明
引用刊行物2には、「移動体測位システム」(発明の名称)に関して、次の事項が図面とともに記載されている。

(o)「【産業上の利用分野】本発明は移動体測位システムに関し、特に建物等の陰になって必要数のGPS(Global Positioning System)衛星の通信波が受信できない場合にも正確な移動体位置を知ることが可能な移動体測位システムに関する。」(【0001】)

(p)「【実施例】
(実施例1)図1において、移動体たる車両1にはGPS受信アンテナ11が設けられて、最低4個のGPS衛星2A?2Dからの通信波を受信している。車両1にはまたFM受信アンテナ12が設けられて、最低4つのFM放送局3A?3Dからの放送波を受信している。一般に使用できるGPS衛星2A?2Dの通信波は、疑似雑音符号(C/Aコード)で拡散スペクトラム変調されたL1帯(1.57542GHz)波で、24個のGPS衛星をこれらに割り当てられたC/Aコードにより識別することができる。各GPS衛星の通信波に含まれる測位情報は、当該衛星からの電波発射時刻、当該衛星の軌道情報、時計の補正値、電離層の補正係数等である。また、放送波としてFMラジオのステレオ放送用パイロット信号波を使用する場合には、その周波数は19KHzであり、1波長分が放送波による測位可能な範囲であるから、放送局(放送発信局)を中心とした半径15?16Km以内の地域で放送波測位が可能である。都市部では放送発信局の数が多いから、この程度の測位可能範囲で十分である。」(【0015】)

(q)「放送波測位の原理は基本的に上記GPS測位と同一であるが、疑似距離の算出に信号位相を使用する点が異なる。すなわち、4つの放送発信局の座標をそれぞれ(x5 ,y5 ,z5 )(x6 ,y6 ,z6 )(x7 ,y7 ,z7 )(x8 ,y8 ,z8 )とし、車両から上記各放送発信局までの疑似距離をr5 ?r8 とすると、以下の各式が成立する。
r5 =√{(x5 -x0 )^(2 )+(y5 -y0 )^(2) +(z5 -z0 )^(2) }……(9)
r6 =√{(x6 -x0 )^(2) +(y6 -y0 )^(2) +(z6 -z0 )^(2) }……(10)
r7 =√{(x7 -x0 )^(2) +(y7 -y0 )^(2) +(z7 -z0 )^(2) }……(11)
r8 =√{(x8 -x0 )^(2) +(y8 -y0 )^(2) +(z8 -z0 )^(2) }……(12)
r5 =C・(t5 +Δt)……(13)
r6 =C・(t6 +Δt)……(14)
r7 =C・(t7 +Δt)……(15)
r8 =C・(t8 +Δt)……(16)
t5 ={(φ5 -φh5)/2π}/f……(17)
t6 ={(φ6 -φh6)/2π}/f……(18)
t7 ={(φ7 -φh7)/2π}/f……(19)
t8 ={(φ8 -φh8)/2π}/f……(20)
ここで、t5 ?t8 は各放送発信局から車両までの電波到達時間、φ5 ?φ8 は検出信号の位相、φh5?φh8は後述の処理で決定される基準信号の位相、fは放送波の信号周波数(19KHz)である。なお、Δtは各放送発信局と車両の時計時刻のずれであり、GPS衛星と放送発信局が同程度の高精度な原子時計を使用していることから、上記衛星と車両の時計時刻のずれと同一とみなす。かくして、x0 ,y0 ,z0 ,Δtを変数として、上式(9) ?(20)より最小二乗法で解を計算することにより、現在の車両位置(x0 ,y0 ,z0 )が知られる。」(【0018】)

(r)「以下、図3、図4を参照しつつ上記CPU15の処理手順を説明する。ステップ101ではGPS電波の受信処理を行う。これは、1?24までの受信衛星番号を逐次順番に更新するもので、続くステップ102で、更新された当該番号の衛星に割り当てられたC/Aコードで受信電波を復調するようGPS受信機13Aに指令を発する。ステップ103では、インターフェース14Aを介して入力した受信信号が十分なレベルを有するか否かにより、受信可あるいは不可を判定し、受信可能な衛星数が4個以上であればステップ104へ進んでGPS測位演算処理を行う。これは既に説明した式(1) ?(8) により現在の車両位置(x0 ,y0 ,z0 )を得るものである。」(【0019】)

(s)「ステップ105では、放送電波の受信処理を行う。これは各放送発信局の放送周波数をスキャンしてFM受信機13Bで復調するもので、続くステップ106でインターフェース14Bを介して入力した受信信号が十分なレベルを有するか否かにより、受信可あるいは不可を判定する。放送電波が受信可能であればステップ107で信号位相φ5 ?φ8 を検出し、続くステップ108で、上記ステップ104で得た現在の車両位置(x0 ,y0 ,z0 )および時計時刻のずれΔtを使用して前式(9) ?(20)により基準信号位相(位相補正値)φh5?φh8を算出し、ステップ109でこれを記憶しておく。」(【0020】)

(t)「なお、上記実施例におけるFMラジオのステレオ放送用パイロット信号波に代えて、テレビの画像同期信号波あるいはAMラジオのステレオ放送用パイロット信号波を利用しても良い。」(【0025】)

(u)「(実施例2)C/AコードによるGPS測位では100m程度の誤差を生じることがある。したがって、道路が入り組んだ市街地では放送波測位の方が精度が良く、有利であることが多い。そこで、本実施例においてはCPUは、図3のステップ101?109を実行して放送波の位相補正値を得ると、図6のステップ221以下でGPS局と放送発信局の組み合わせ測位処理を行う。すなわち、ステップ221で受信可能な放送発信局の数を確認し、4個ならばステップ222で放送波のみで測位を行う。3個ならばステップ223以下へ、2個ならばステップ226以下へ、1個ならばステップ229以下へ、0個ならばステップ232以下へそれぞれ進んで、受信不能で不足する放送局を、受信可能なGPS局で補って測位を行う。このようにして、放送測位を優先することにより、市街地ではより精度の良い移動体の位置測定が可能となる。」(【0026】)

そして、上記記載事項(o)ないし(u)、並びに、移動体測位システムの概念図である図1、本発明の一実施例におけるCPUの処理フローチャートである図3、本発明の他の実施例におけるCPUの処理フローチャートである図6及びクレーム対応図である図7から、以下の技術事項(サ)ないし(ソ)をそれぞれ読み取ることができる。

・(o)、(p)、(q)、(r)、(s)、(t)、(u)から、
(サ)引用刊行物2の移動体測位システムは、車両1の位置を測定する方法を開示する点。

・(p)、(u)及び図1から、
(シ)車両1は、受信可能な4個の放送局3A、3B、3C、3Dからの複数の放送波を受信する点。

・(q)、(u)及び図1、図6から
(ス)受信可能な4個の放送局3A、3B、3C、3Dからの放送波に基づいて、車両1と各放送局との擬似距離r5?r8を算出する点。

・(q)、(u)から、
(セ)擬似距離r5?r8と各放送局3A、3B、3C、3Dの位置とに基づいて、車両1の位置を算出する点。

・(t)には、実施例のFMラジオのステレオ放送用パイロット信号波に代えて、テレビの画像同期信号波を利用できることが示唆されている。そして、該テレビの画像同期信号波を放送する放送局がテレビ放送局であることは明らかであるから、
(ソ)放送局3A、3B、3C、3Dとしてテレビ放送局を利用し、利用する放送波をテレビの画像同期信号波とする点。

したがって、以上の技術事項(サ)ないし(ソ)を総合勘案すると、引用刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。
「車両1の位置を測定する方法であり:
受信可能な4個のテレビ放送局からの複数のテレビの画像同期信号波を車両1において受信し;
テレビの画像同期信号波に基づいて車両1と各テレビ放送局との間の擬似距離r5?r8を算出し;
この擬似距離r5?r8と各テレビ放送局の位置とに基づいて車両1の位置を測定することからなる方法。」(以下、「引用発明2」という。)

(2)対比
本願発明と引用発明2とを比較する。

(ア)本願発明の「ユーザデバイス」に関し、本願明細書の【0023】には、「ユーザデバイスの例には、PDA、携帯電話、自動車および車両、またはDTV位置確認を実施することができるチップまたはソフトウェアを含むことができるいずれかの対象物が含まれる。対象物は、“デバイス”であること、または“ユーザ”によって操作されることに限定されない。」と記載されている。
そして、引用発明2の「車両1」は、測位のためのシステムを有していることから、本願発明の「ユーザデバイス」に相当する。

(イ)引用発明2の「擬似距離r5?r8」は、本願発明の「擬似距離」に相当する。また、引用発明2の「車両1の位置を測定する方法」は、本願発明の「ユーザデバイスの位置を判定する方法」に相当する。

(ウ)引用発明2の「テレビ放送局」と、本願発明の「DTVトランスミッタ」とは、TV信号を送信するトランスミッタである点で、共通する。

(エ)引用発明2の「テレビの画像同期信号波」と、本願発明の「デジタルテレビジョン(DTV)放送信号」とは、テレビジョン放送信号である点で、共通する。

(オ)上記(ウ)、(エ)を考慮すれば、
引用発明2の「受信可能な4個のテレビ放送局からの複数のテレビの画像同期信号波を車両1において受信し」と、
本願発明の「複数のDTVトランスミッタからの複数のデジタルテレビジョン(DTV)放送信号をユーザデバイスにおいて受信し」とは、
複数のTVトランスミッタからの複数のテレビジョン(TV)放送信号をユーザデバイスにおいて受信する点で、共通する。

(カ)上記(ウ)、(エ)を考慮すれば、
引用発明2の「テレビの画像同期信号波に基づいて車両1と各テレビ放送局との間の擬似距離r5?r8を算出し」と、
本願発明の「DTV放送信号に基づいてユーザデバイスと各DTVトランスミッタとの間の擬似距離を判定し;」とは、
TV放送信号に基づいてユーザデバイスと各TVトランスミッタとの間の擬似距離を判定する点で、共通する。

(キ)上記(ウ)を考慮すれば、
引用発明2の「この擬似距離r5?r8と各テレビ放送局の位置とに基づいて車両1の位置を測定する」と、
本願発明の「この擬似距離と各DTVトランスミッタの位置とに基づいてユーザデバイスの位置を判定する」とは、
擬似距離と各TVトランスミッタの位置とに基づいてユーザデバイスの位置を判定する点で、共通する。

したがって、本願発明と引用発明2の両者は、
「ユーザデバイスの位置を判定する方法であり:
複数のTVトランスミッタからの複数のテレビジョン(TV)放送信号をユーザデバイスにおいて受信し;
TV放送信号に基づいてユーザデバイスと各TVトランスミッタとの間の擬似距離を判定し;
この擬似距離と各TVトランスミッタの位置とに基づいてユーザデバイスの位置を判定する方法」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点2]
TVトランスミッタ、及び、テレビジョン(TV)放送信号に関し、
本願発明のTVトランスミッタが「DTVトランスミッタ」であり、テレビジョン放送信号は「デジタルテレビジョン(DTV)放送信号」であるのに対し、
引用発明2では、TVトランスミッタはテレビ放送局であり、テレビジョン放送信号はテレビの画像同期信号波にとどまる点。

(3)判断
上記相違点2は、上記「4(2)」の[相違点1]と実質的に同じであるから、その判断についても、上記「4(3)」で判断したのと同様である。

そして、本願発明が奏する効果も、引用発明2及び周知技術から、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別なものではない。

したがって、本願発明は、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、平成22年11月8日付けで提出した意見書において、概略、次のような主張をしている。

(ア)引用刊行物1及び引用刊行物2には、位置の判定のためにデジタルテレビジョン(DTV)信号を使用する点については、開示も示唆もない。また、アナログテレビジョン信号の方式とデジタルテレビジョン信号の方式とは全く異なるものであるから、テレビジョン信号をアナログ信号からデジタル信号に切り替えるだけで、本願発明を実現できるものではない。

(イ)引用刊行物1は、アナログテレビジョン信号を利用することができるという可能性について言及しているのみであり、位置の判定に際してアナログテレビジョン信号をどのように用いることができるかについては何ら示唆していない。

(ウ)引用刊行物2に記載されている発明は、GPS衛星からの通信波を受信することを必須の構成要素としている以上、引用刊行物2を読んだ当業者にとって、本願発明におけるDTV放送信号を用いてユーザデバイスの位置を判定することが容易想到であったとはいえない。」

(2)しかしながら、上記主張(ア)?(ウ)については、次の理由により、いずれも採用できない。

・主張(ア)について
主張(ア)に対する判断は、上記「4(3)判断」及び「5(3)判断」ですでに説示したとおりである。
したがって、「テレビジョン信号をアナログ信号からデジタル信号に切り替えるだけで、本願発明を実現できるものではない。」とする請求人の主張(ア)は、妥当でない。

・主張(イ)について
上記「4(1)引用刊行物1に記載の事項・引用発明」で説示したとおり、引用刊行物1には、水平、垂直及びクロミナンスバーストの同期信号を含む標準テレビジョン信号の到達時間を測定し、該到達時間から距離を測定し、該距離に基づいて位置を測定する方法の発明が、十分に開示されている。
したがって、引用発明1がアナログテレビジョン信号をどのように用いることができるかについては何ら示唆していない、とする請求人の主張(イ)は、妥当でない。

・主張(ウ)について
GPS衛星からの通信波の有無は本願発明の発明特定事項と関連する事項ではなく、しかも引用刊行物2には、上記「5(1)引用刊行物2に記載の事項・引用発明」で説示したとおり、4つの放送局からのテレビの画像同期信号波のみで測位をおこなう発明が、開示されている。
したがって、請求人の主張(ウ)は妥当でない。

7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから、やはり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-25 
結審通知日 2011-01-26 
審決日 2011-02-09 
出願番号 特願2003-343728(P2003-343728)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川瀬 徹也宮川 哲伸  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 下中 義之
松浦 久夫
発明の名称 放送デジタルテレビジョン信号を使用する位置確認  
代理人 浜田 治雄  
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