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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1239341
審判番号 不服2008-12361  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-15 
確定日 2011-06-29 
事件の表示 平成 9年特許願第 50451号「型締装置及びその型締方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月14日出願公開、特開平10-244566〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成9年3月5日の出願であって、平成17年4月13日付けで拒絶理由が通知され、同年6月23日に意見書及び手続補正書が提出され、平成19年3月20日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年5月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年4月1日付けで、平成19年5月30日付けの手続補正に対する補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成20年5月15日に拒絶査定不服審判が請求され、同年6月16日に手続補正書及び審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成21年1月19日付けで前置報告がなされ、当審において平成22年9月6日付けで審尋がなされ、同年11月11日に回答書が提出されたものである。

第2.平成20年6月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年6月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年6月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合の補正であって、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は次のとおりのものとなった。

「(a)固定プラテンと、
(b)該固定プラテンに取り付けられた固定金型と、
(c)前記固定プラテンと対向させて配設され、電磁石を備えた電磁石フレームと、
(d)前記固定プラテンと電磁石フレームとの間に架設されたタイバーに沿って進退自在に配設された可動プラテンと、
(e)該可動プラテンに取り付けられた可動金型と、
(f)正方向及び逆方向に駆動され、前記可動プラテンを進退させて型開き及び型閉じを行う電動機と、
(g)前記電磁石によって前記可動金型と前記固定金型との間に型締力を発生させたときの電磁石に発生する磁束の密度を検出する磁束密度検出器と、
(h)設定された型締力に対応する磁束密度指令、及び前記磁束密度検出器によって検出された磁束の密度に基づいて、型締力をフィードバック制御する制御装置とを有することを特徴とする型締装置。」(以下、「本件補正発明1」という。)

2.補正の適否の判断
本件補正発明1を含む本件補正が、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるかどうかについて検討する。

(1)当初明細書等の記載事項
当初明細書等には、以下の記載がある。

ア.「【発明の属する技術分野】
本発明は、型締装置に関するものである。」(段落 【0001】)

イ.「【従来の技術】
従来、射出成形機においては、溶融させられた樹脂を、射出装置の射出ノズルから射出して、固定金型及び該固定金型に対して進退自在に配設された可動金型を移動させる金型装置のキャビティ空間に充填(てん)し、固化させることによって成形品を得ることができるようになっている。そして、前記可動金型を移動させて金型装置の型閉じ、型締め及び型開きを行うために型締機構が配設される。
該型締機構には、油圧シリンダに油を供給することによって駆動される油圧式の型締機構、及び電動機によって駆動される電動式の型締機構があるが、該電動式の型締機構は、制御性が高いだけでなく、クリーンであり、エネルギー効率が高いことから次第に使用されつつある。この場合、電動機を駆動してボールねじを回転させて推力を発生させ、該推力をトグル機構によって拡大し、大きな型締力を発生させるようにしている。」(段落 【0002】?【0003】)

ウ.「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来の型締機構においては、トグル機構の特性上、型締力を変更することが困難であり、応答性及び安定性が低下し、成形中に型締力を精度良く制御することができない。また、トグル機構のトグル倍率特性が、トグル機構のガタ、摩擦、熱膨張等の影響を大きく受け、精度良く型締力を発生させることができない。
本発明は、前記従来の型締機構の問題点を解決して、成形中に型締力を精度良く制御することができる型締装置を提供することを目的とする。」(段落 【0004】?【0005】)

エ.「【課題を解決するための手段】
そのために、本発明の型締装置においては、固定プラテンと、該固定プラテンに取り付けられた固定金型と、前記固定プラテンと所定の間隔を置いて配設され、第1の電磁石を備えた第1の電磁石フレームと、前記固定プラテンと第1の電磁石フレームとの間に架設されたタイバーに沿って進退自在に配設された可動プラテンと、該可動プラテンに取り付けられた可動金型と、前記第1の電磁石と対向させて配設された第2の電磁石を備え、前記第1の電磁石フレームに対して移動自在に配設された第2の電磁石フレームと、該第2の電磁石フレームと前記可動プラテンとの間を連結するリンク機構と、該リンク機構に連結され、正方向及び逆方向に駆動することができる電動機と、前記第1、第2の電磁石によって発生させられた磁束の密度を検出する磁束密度検出器と、設定された型締力に対応する磁束密度指令、及び前記磁束密度検出器によって検出された磁束の密度に基づいて、型締力をフィードバック制御する制御装置とを有する。」(段落 【0006】)

オ.「【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態における型締装置の第1の状態図、図2は本発明の実施の形態における型締装置の第2の状態図である。図において、11は固定プラテンであり、該固定プラテン11と所定の間隔を置いて第1の電磁石フレーム13が配設され、前記固定プラテン11と第1の電磁石フレーム13との間に4本のタイバー14(図においては、2本のタイバー14だけを示す。)が架設される。そして、該タイバー14に沿って固定プラテン11と対向させて可動プラテン12が進退(図における左右方向に移動)自在に配設される。
また、前記固定プラテン11には固定金型15が、前記可動プラテン12には可動金型16がそれぞれ固定され、前記可動プラテン12の進退に伴って固定金型15と可動金型16とが接離させられる。なお、前記固定金型15と可動金型16とが接触させられると、固定金型15と可動金型16との間に図示しないキャビティ空間が形成され、図示しない射出装置の射出ノズルから射出された樹脂が前記キャビティ空間に充填される。
前記第1の電磁石フレーム13の前面(図における右面)には第1の電磁石18が固定され、該第1の電磁石18は、電磁積層鋼板19及び起磁力を発生させるコイル21から成る。そして、前記タイバー14に沿って移動自在に第2の電磁石フレーム20が配設される。該第2の電磁石フレーム20の背面(図における左面)には前記第1の電磁石18と対向させて第2の電磁石22が固定され、該第2の電磁石22は、電磁積層鋼板23及び起磁力を発生させるコイル24から成る。
また、前記第2の電磁石フレーム20の前面には電動機としての減速機付サーボモータ27が連結され、該減速機付サーボモータ27と可動プラテン12との間にはリンク機構としてシングルトグル式のトグル機構31が配設される。該トグル機構31は、前記減速機付サーボモータ27の出力軸28に固定された第1リンク32、前記可動プラテン12に対して揺動自在に支持された第2リンク33、該第2リンク33の中心軸になるシャフト35、及び前記第1リンク32と第2リンク33とを連結するピン36から成る。したがって、減速機付サーボモータ27を駆動することによってトグル機構31を伸縮させ、可動プラテン12及び可動金型16を進退させて型開き及び型閉じを行うことができる。
一方、第1の電磁石フレーム13の背面には型厚調整ナット25が配設され、該型厚調整ナット25と前記タイバー14の後端に形成された型厚調整ねじ14aとが螺(ら)合させられる。また、前記型厚調整ナット25は、軸方向において第1の電磁石フレーム13に拘束され、該第1の電磁石フレーム13と共に移動させられる。したがって、トグル機構31を伸展させ、固定金型15と可動金型16とを接触させた状態で、固定金型15及び可動金型16の厚さに対応させて、図示しないモータ、ギヤ等を介して前記型厚調整ナット25を回転させることによって、型厚を調整することができる。」(段落 【0007】?【0011】)

カ.「なお、本実施の形態においては、シングルトグル式のトグル機構31を使用しているが、ダブルトグル式のトグル機構を使用することもできる。また、本実施の形態においては、減速機付サーボモータ27の回転をトグル機構31に直接伝達するようにしているが、プーリベルト、ボールねじ等の別の伝動手段を使用することもできる。」(段落 【0012】)

キ.「そして、前記第1、第2の電磁石18、22は互いに対向させて配設され、型締め時においては、図示しない制御装置によってコイル21、24に、互いに逆向きの電流が供給される。このとき、前記第1、第2の電磁石18、22が同じ極性になって反発力を発生させ、該反発力は、トグル機構31を介して型締力として可動プラテン12に伝達され、型締めが行われる。また、型閉じ時及び型開き時においては、前記制御装置によって、コイル21、24に、同じ向きの電流が供給される。このとき、前記第1、第2の電磁石18、22が異なる極性になって吸引力が発生し、該吸引力は前記第1、第2の電磁石18、22が離れないようにする。この場合、必要な吸引力は、前記型締力に比べて十分小さくてもよい。したがって、コイル21、24の一方だけに電流を供給し、第1、第2の電磁石18、22の一方を吸着板として使用することもできる。
そして、前記第1、第2の電磁石18、22間には、前記コイル21、24に電流を供給したときに第1、第2の電磁石18、22間に発生させられる磁束の密度、すなわち、磁束密度を検出するための磁束密度検出器51が配設される。また、前記第2の電磁石フレーム20に対する可動プラテン12の位置を検出するために、位置検出器52が配設される。該位置検出器52は、第2の電磁石フレーム20に固定され、固定プラテン11に向けて突出させて配設されたバー53、及び可動プラテン12に固定され、前記バー53の有無を検出するセンサ54から成る。」(段落 【0013】?【0014】)

ク.「次に、前記構成の型締装置の動作について説明する。まず、前記制御装置は、コイル21、24に同じ向きの電流を供給し、吸引力を発生させ、第1、第2の電磁石18、22が離れない状態にするとともに、前記トグル機構31を伸展状態に置いて、型厚調整ナット25を回転させ、第1、第2の電磁石フレーム13、20、可動プラテン12及び可動金型16を前進させて固定金型15と可動金型16とを接触させる。このようにして、型厚を調整することができる。
次に、前記型開閉制御部は、減速機付サーボモータ27を駆動し、トグル機構31を収縮状態に置き、可動プラテン12及び可動金型16を高速で所定位置まで後退させる。このとき、前記制御装置は、コイル21、24に同じ向きの電流を供給して吸引力を発生させ、第1、第2の電磁石18、22が可動プラテン12の加減速による慣性力によって離れないようにする。
続いて、前記型開閉制御部は、減速機付サーボモータ27を駆動し、トグル機構31を伸展状態に置き、可動プラテン12及び可動金型16を前進させる。その結果、図2に示すように、固定金型15と可動金型16とが接触させられ、型閉じが行われる。このとき、前記制御装置は、コイル21、24に同じ向きの電流を供給して吸引力を発生させ、第1、第2の電磁石18、22が可動プラテン12の加減速による慣性力によって離れないようにする。
なお、前記可動プラテン12及び可動金型16を前進させるのに必要な力は型締力Fと比べて十分に小さい。したがって、前記減速機付サーボモータ27に大きな負荷が加わることはない。次に、前記型締力制御部は、前記第1、第2の電流指令発生器66、67によって発生させられた各電流指令に従って、コイル21、24に互いに逆向きの電流を供給し、前記第1、第2の電磁石18、22を同じ極性にして反発力を発生させる。このとき、該反発力はトグル機構31を介して可動プラテン12に型締力Fとして伝達され、可動金型16を固定金型15に押し付け、型締めを行う。この状態は型開きが行われるまで保持される。
この場合、前記コイル21、24に供給される電流の値を変更することによって、成形中において型締力Fを変更することができる。なお、前記反発力をfとし、コイル21、24に供給する電流をIとしたとき、前記第1、第2の電磁石18、22を線形領域で使用すると、反発力fと電流Iとは次の関係にある。
f∝I^(2)
そして、前記反発力fは、トグル機構31が伸展状態に置かれたときに発生させられるので、トグル機構31のトグル倍率特性が、トグル機構31のガタ、摩擦、熱膨張等の影響を受けることがない。したがって、精度良く型締力Fを制御することができる。
続いて、図示しないキャビティ空間に溶融させられた樹脂が充填され、冷却されて固化すると、前記型締力設定器61において、型締力Fをオペレータによって設定された時間で0になるような型締力指令F_(S)が、型締力/磁束密度変換器62において、前記型締力に対応する磁束密度指令B_(S)がそれぞれ発生させられる。その結果、コイル21、24に供給されていた電流は遮断され、反発力f及び型締力Fは無くなる。次に、この状態で減速機付サーボモータ27を逆方向に駆動し、トグル機構31を収縮させると、可動プラテン12及び可動金型16が後退させられる。そして、図1に示すように、固定金型15と可動金型16とが離され、型開きが行われる。このとき、前記制御装置は、コイル21、24に同じ向きの電流を供給して吸引力を発生させ、第1、第2の電磁石18、22が可動プラテン12の加減速による慣性力によって離れないようにする。」(段落 【0020】?【0026】)

ケ.「なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。」(段落 【0027】)

コ.「【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、型締装置においては、固定プラテンと、該固定プラテンに取り付けられた固定金型と、前記固定プラテンと所定の間隔を置いて配設され、第1の電磁石を備えた第1の電磁石フレームと、前記固定プラテンと第1の電磁石フレームとの間に架設されたタイバーに沿って進退自在に配設された可動プラテンと、該可動プラテンに取り付けられた可動金型と、前記第1の電磁石と対向させて配設された第2の電磁石を備え、前記第1の電磁石フレームに対して移動自在に配設された第2の電磁石フレームと、該第2の電磁石フレームと前記可動プラテンとの間を連結するリンク機構と、該リンク機構に連結され、正方向及び逆方向に駆動することができる電動機と、前記第1、第2の電磁石によって発生させられた磁束の密度を検出する磁束密度検出器と、設定された型締力に対応する磁束密度指令、及び前記磁束密度検出器によって検出された磁束の密度に基づいて、型締力をフィードバック制御する制御装置とを有する。
この場合、電動機を駆動すると、リンク機構が伸展状態に置かれ、可動プラテンは前進させられ、固定金型と可動金型とが接触させられ、型閉じが行われる。次に、第1の電磁石のコイル及び第2の電磁石のコイルに互いに逆向きの電流を供給すると、反発力が発生させられる。このとき、該反発力はリンク機構を介して可動プラテンに型締力として伝達され、可動金型を固定金型に押し付け、型締めを行う。
したがって、設定された型締力に対応する磁束密度指令に従い、前記コイルに供給される電流の値を変更することによって、成形中において型締力を変更することができる。また、前記反発力は、リンク機構が伸展状態に置かれたときに発生させられるので、リンク機構のトグル倍率特性が、リンク機構のガタ、摩擦、熱膨張等の影響を受けることがない。したがって、型締力をフィードバック制御することによって、型締力を精度良く制御することができる。」(段落 【0028】?【0030】)

サ.「

」(図1、図2)

(2)当初明細書等の記載の検討
当初明細書等における一般的な記載事項である【従来の技術】欄、【発明が解決しようとする課題】欄、【課題を解決するための手段】欄及び【発明の効果】欄の部分の上記摘示事項イ.?エ.及びコ.の記載において、
【従来の技術】欄には、
「油圧式の型締機構、及び電動機によって駆動される電動式の型締機構がある」旨、電動式の型締めが次第に利用されるようになっており、「電動機を駆動してボールねじを回転させて推力を発生させ、該推力をトグル機構によって拡大し、大きな型締力を発生させるようにしている」旨記載され(摘示事項イ.)、
【発明が解決しようとする課題】欄に、
「前記従来の型締機構においては、トグル機構の特性上、型締力を変更することが困難であり、応答性及び安定性が低下し、成形中に型締力を精度良く制御することができない。また、トグル機構のトグル倍率特性が、トグル機構のガタ、摩擦、熱膨張等の影響を大きく受け、精度良く型締力を発生させることができない。本発明は、前記従来の型締機構の問題点を解決して、成形中に型締力を精度良く制御することができる型締装置を提供することを目的」とすると記載され(摘示事項ウ.)、
【発明が解決するための手段】欄に、
「固定プラテンと、該固定プラテンに取り付けられた固定金型と、前記固定プラテンと所定の間隔を置いて配設され、第1の電磁石を備えた第1の電磁石フレームと、前記固定プラテンと第1の電磁石フレームとの間に架設されたタイバーに沿って進退自在に配設された可動プラテンと、該可動プラテンに取り付けられた可動金型と、前記第1の電磁石と対向させて配設された第2の電磁石を備え、前記第1の電磁石フレームに対して移動自在に配設された第2の電磁石フレームと、該第2の電磁石フレームと前記可動プラテンとの間を連結するリンク機構と、該リンク機構に連結され、正方向及び逆方向に駆動することができる電動機と、前記第1、第2の電磁石によって発生させられた磁束の密度を検出する磁束密度検出器と、設定された型締力に対応する磁束密度指令、及び前記磁束密度検出器によって検出された磁束の密度に基づいて、型締力をフィードバック制御する制御装置とを有する」型締装置が記載されており(摘示事項エ.)、
【発明の効果】欄に、
当該型締装置が、上記摘示事項ク.に沿った動作により、「設定された型締力に対応する磁束密度指令に従い、前記コイルに供給される電流の値を変更することによって、成形中において型締力を変更することができる。また、前記反発力は、リンク機構が伸展状態に置かれたときに発生させられるので、リンク機構のトグル倍率特性が、リンク機構のガタ、摩擦、熱膨張等の影響を受けることがない。したがって、型締力をフィードバック制御することによって、型締力を精度良く制御することができる」と記載されている(摘示事項コ.)。

次に、当初明細書等における【発明の実施の形態】欄において、実施例として具体的に記載されているのは、上記摘示事項オ.及びキ.にその型締装置の具体的な構成が記載され、型締装置の動作について上記摘示事項ク.で図面(摘示事項サ.)とともに説明がなされている。
そして、当該実施例として記載されている型締装置は、型開閉機構として「第1の電磁石フレームに対して移動自在に配設された第2の電磁石フレームと、該第2の電磁石フレームと前記可動プラテンとの間を連結するリンク機構」を利用し、第1の電磁石フレームに対して移動自在に配設された第2の電磁石フレームとの間の電磁石の反発力をリンク機構を介して可動プラテンに伝達して型締を行うものである。

また、該【発明の実施の形態】欄には、上記具体的に記載の型締装置における変更可能な構造として、上記摘示事項カ.において、開示された型締装置における「シングルトグル式のトグル機構」に代えて「ダブルトグル式のトグル機構」が使用できる旨、リンク機構の駆動機構に関して「減速機付きサーボモータ」の直接伝達に代えて「プーリーベルト、ボールねじ等の別の伝達手段を使用」できる旨記載がある。
さらに、上記摘示事項ケ.には、「本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない」との記載がある。

これらの記載を総合して判断すると、当初明細書等においては、固定プラテンとの間にタイバーが架設されるとともに固定プラテンと所定の間隔を置いて配設されている第1の電磁石を備えた第1の電磁石フレームと、第1の電磁石と対向させて配設された第2の電磁石を備え、前記第1の電磁石フレームに対して移動自在に配設された第2の電磁石フレームという第1及び第2の電磁石フレーム(以下、「電磁石フレーム事項」という。)と型の開閉を行うとともに電磁石による反発力を型締力として伝達する「第2の電磁石フレームと前記可動プラテンとの間を連結するリンク機構」(以下、「伝達力事項」という。)とを組み合わせている型締装置の第1、第2の電磁石によって発生させられた磁束の密度を検出する磁束密度検出器と、設定された型締力に対応する磁束密度指令、及び前記磁束密度検出器によって検出された磁束の密度に基づいて、型締力をフィードバック制御する制御装置を有する型締装置が記載されているといえる。
そして、上記の型締装置からの変形可能な構成として、上記摘示事項カ.において、「シングルトグル式のトグル機構」に代えて「ダブルトグル式のトグル機構」が使用できる旨、リンク機構の駆動機構に関して「減速機付きサーボモータ」の直接伝達に代えて「プーリーベルト、ボールねじ等の別の伝達手段を使用」できることが記載されているのみである。

(3)本件補正発明1が当初明細書等に記載されているかどうかの検討
まず、本件補正発明1は、上記第2.1.に記載のとおりであり、(a)?(h)の各分節で示された構成要件を備える型締装置である。そして、当該構成要件(a)?(h)を備える型締装置については、当初明細書に直接表現されていないから、本件補正発明1は、当初明細書等に明示的に記載されていた発明ということはできない。
次に、当初明細書等の記載から自明な事項といえるかどうかについて検討する。
上記(2)において検討したとおり、当初明細書等に記載されている型締装置は、「電磁石フレーム事項」と「伝達力事項」とを組み合わせている型締装置の第1及び第2の電磁石フレームに配置された電磁石によって発生させられた磁束の密度を検出し、設定された磁束密度指令に従い、電磁コイルの電流値をフィードバック制御する制御装置を有する型締装置について記載されているのみである。ここで、上記摘示事項ケ.には、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能である旨記載があるが、当初明細書等の記載から理解できる本発明の趣旨は、上記一般的な記載事項である【従来の技術】欄、【発明が解決しようとする課題】欄、【課題を解決するための手段】欄及び【発明の効果】欄の記載において、電磁石の反発力を利用しての型締をおこなう前記「電磁石フレーム事項」及び「伝達力事項」を必要とする型締装置しか記載されていないから、本発明の趣旨に基づく変形が、前記「電磁石フレーム事項」及び「伝達力事項」を除外したものとなるものとは認められない。
そこで、本件補正発明1について検討すると、本件補正発明1においての「電磁石を備えた電磁石フレーム」及び「電磁石によって可動金型と固定金型との間に型締力を発生」させる機構については、具体的に特定されていないこととなっていることから、本件補正発明1は、電磁石を備えた電磁石フレームに関しては、当初明細書等に記載されている電磁石フレーム事項と異なるタイバーと架設されている電磁石フレームが可動プラテン側である場合や電磁石が一つで締結力を発生させる電磁石フレームをも含むものとなり、「電磁石によって可動金型と固定金型との間に型締力を発生」させる機構については、当初明細書等に記載されている伝達力事項と異なるボールナットを利用した機構をも包含することとなっている。
上記(2)において検討したように、当初明細書等には、特定の電磁フレームの形態である電磁石フレーム事項と特定の伝達力の形態である伝達力事項とを組み合わせることで初めて達成できる電磁石の反発力を利用して型締する型締装置しか記載されていないことから、それ以外の組み合わせの型締装置を包含することになる、一例として、電磁石フレームの吸引力が型締力となるような伝達及び型開閉機構を有する型締装置を包含することになる本願補正発明1は、当初明細書等に記載した事項の範囲を超える内容を含むものとなることから、当初明細書等の記載から自明な事項とは認められない。
なお、補正された事項が、「当初明細書等の記載から自明な事項」といえるためには、当初明細書等に記載がなくても、これに接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、その意味であることが明らかであって、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項でなければならない。
そして、そこで現実に記載されたものから自明な事項であるというためには、現実には記載がなくとも、現実に記載されたものに接した当業者であれば、だれもが、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項であるといえなければならず、その事項について説明を受ければ簡単に分かる、という程度のものでは、自明ということはできないというべきである(東京高裁平成14年(行ケ)第3号)ことから、上記(2)において検討したように、当初明細書等の記載からは、本件補正発明1が、当初明細書等の記載から自明な事項とまではいうことはできない。
加えて、補正事項が、当初明細書等に明示的に記載された事項、当初明細書等の記載から自明な事項のいずれにも該当しない場合であっても、この補正により新たな技術上の意義が追加されないことが明らかな場合といえるかを検討すると、補正事項である本件補正発明1は、上述のとおり、新たに当初明細書等に記載されていないものを包含することとなっているのであるから、当該補正により新たな技術上の意義が追加されないということはできない。

してみると、本件補正発明1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえるから、本件補正発明1を含む本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

3.審判請求人の主張について
本件補正の根拠について、審判請求人は、平成22年11月11日提出の回答書において、

「すなわち、この特許出願の出願当初の明細書の段落0002に記載されているように、従来の射出成形機においては、可動金型を移動させて金型装置の型閉じ、型締め及び型開きを行うために型締機構が配設されるようになっている。
また、前記明細書の段落0003に記載されているように、型締機構には、油圧シリンダに油を供給することによって駆動される油圧式の型締機構、及び電動機によって駆動される電動式の型締機構があり、該電動式の型締機構において、ボールねじを回転させて推力を発生させるとともに、該推力をトグル機構によって拡大して大きな型締力を発生させるようにしている。
そして、前記明細書の段落0004に記載されているように、電動式の型締機構の問題点は、トグル機構の特性上、型締力を変更することが困難であり、応答性及び安定性が低く、成形中に型締力を精度良く制御することができない点、並びにトグル機構のトグル倍率特性が、トグル機構のガタ、摩擦、熱膨張等の影響を大きく受けるので、精度良く型締力を発生させることができない点である。
そこで、前記明細書の段落0005に記載されているように、本願発明は、成形中に型締力を精度良く制御することができる型締装置を提供することを目的としている。
ところで、射出成形機は、可動金型を移動させて型閉じ及び型開きを行う型開閉機能、及び可動金型を固定金型に押し付けて型締めを行う型締機能を有する。
そして、従来の電動式の型締機構においてトグル機構を使用する場合、電動機の回転運動がボールねじ等によって直進運動に変換され、可動金型が移動させられて型閉じ及び型開きが行われ、可動金型が固定金型に押し付けられて型締めが行われる。
この場合、型締機能をさせるためにトグル機構が使用され、トグル機構によって型締力が発生させられるので、前述されたような問題点が生じる。
そこで、本願発明においては、射出成形機が有する型開閉機能及び型締機能のうちの型締機能に着目して、成形中に型締力を精度良く制御することができる型締装置を提供することを目的とし、型締機能をさせるためにトグル機構を使用せず、電磁石を使用し、電磁石によって型締力を発生させるようにしている。
この特許出願の発明の詳細な説明には、型締機能をさせるために電磁石が使用され、型開閉機能をさせるためにトグル機構が使用される実施の形態が記載されているが、前記目的を達成するために型開閉機能をさせるためにトグル機構を使用する必要はなく、トグル機構は、実施の形態において、可動プラテンを進退させて型開き及び型閉じを行うための装置として例示されているに過ぎない。
したがって、本願発明において、トグル機構は任意の付加的事項である。」と主張している。

しかしながら、当初明細書等の記載を精査しても、審判請求人が主張する「前記目的を達成するために型開閉機能をさせるためにトグル機構を使用する必要はなく、トグル機構は、実施の形態において、可動プラテンを進退させて型開き及び型閉じを行うための装置として例示されているに過ぎない」ことを示唆する記載はまったく存在していない。そして、上記2.(2)において検討したように、当初明細書等の記載においては、電磁石の反発力を利用しての型締をおこなう前記「電磁石フレーム事項」及び「伝達力事項」を有する型締装置しか記載されていないことから、「トグル機構が任意付加的事項である」と認めることはできない。したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

また、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、

「すなわち、前記特許・実用新案審査基準によると、「補正により新たな技術上の意義が追加されないことが明らか」であることが求められる。
ところで、この特許出願の出願当初の明細書の段落0002には、従来の技術として、「可動金型を移動させて金型装置の型閉じ、型締め及び型開きを行うために型締機構が配設される」点が記載されている。
また、前記明細書の段落0003には、型締機構には、油圧シリンダに油を供給することによって駆動される油圧式の型締機構、及び電動機によって駆動される電動式の型締機構がある点、該電動式の型締機構においては、ボールねじを回転させて推力を発生させるとともに、該推力をトグル機構によって拡大して大きな型締力を発生させるようにしている点が記載されている。
そして、前記明細書の段落0004には、電動式の型締機構の問題点として、トグル機構の特性上、型締力を変更することが困難であり、応答性及び安定性が低下し、成形中に型締力を精度良く制御することができない点、並びにトグル機構のトグル倍率特性が、トグル機構のガタ、摩擦、熱膨張等の影響を大きく受け、精度良く型締力を発生させることができない点が記載されている。
このようなことから、前記明細書の段落0005には、本願発明が、成形中に型締力を精度良く制御することができる型締装置を提供することを目的とする点が記載されている。
ところで、電動式の型締機構において、電動機を駆動すると、回転が発生させられるが、型閉じ、型締め及び型開きを行うためには、可動金型を移動させたり、固定金型に押し付けたりする必要があり、電動機の回転をそのまま利用することはできない。
そこで、電動式の型締機構においては、電動機による回転運動を直進運動に変換し、可動金型を移動させて型閉じ及び型開きを行い、可動金型を固定金型に押し付けて型締めを行うようにしている。そして、本願発明においては、電動機による回転運動を直進運動に変換するためにボールねじを利用して推力を発生させ、該推力を増幅して大きな型締力を発生させるためにトグル機構を利用するようにしている。
ところが、ボールねじを利用して型閉じ、型締め及び型開きを行う場合、必ずしも、トグル機構を利用する必要はなく、トグル機構を利用することなく、型閉じ、型締め及び型開きを行うことは可能である。トグル機構は推力の増幅を行うために配設されるので、大きなトルクを発生させる電動機においては、トグル機構を配設する必要はない。
そして、トグル機構を利用することなく、型閉じ、型締め及び型開きを行うようにした型締装置においても、電動機による回転運動を直進運動に変換する必要があることから、本願発明と同じ課題が発生する。すなわち、トグル機構を利用することなく、型閉じ、型締め及び型開きを行う場合においても、型締力を変更することが困難であり、応答性及び安定性が低下し、成形中に型締力を精度良く制御することができないという問題点がある。また、型締力が、ボールねじのガタ、摩擦、熱膨張等の影響を大きく受け、精度良く型締力を発生させることができないという問題点がある。
このように、本願発明は、成形中に型締力を精度良く制御することができる型締装置を提供することを目的としているが、必ずしも、トグル機構を備えた型締装置だけを対象としているわけではなく、電動機による回転運動を直進運動に変換する型締装置を対象としている。
このことからすると、電動機による回転運動を直進運動に変換して可動プラテンを進退させるようにした型締装置において、電磁石を用いて型締力を発生させることが、本来的に技術上の意義であるので、補正により新たな技術上の意義が追加されないことは明らかであると考える。
また、同様に、電磁石を用いて型締力を発生させることが、本来的に技術上の意義であるので、「電磁石フレームが2枚からなる」点についても、補正により新たな技術上の意義が追加されないことは明らかである。
したがって、この特許出願の特許請求の範囲の記載は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていると考える。」とも主張している。

しかしながら、出願人が主張する「ボールねじを利用して型閉じ、型締め及び型開きを行う場合、必ずしも、トグル機構を利用する必要はなく、トグル機構を利用することなく、型閉じ、型締め及び型開きを行うことは可能である。トグル機構は推力の増幅を行うために配設されるので、大きなトルクを発生させる電動機においては、トグル機構を配設する必要はない。そして、トグル機構を利用することなく、型閉じ、型締め及び型開きを行うようにした型締装置においても、電動機による回転運動を直進運動に変換する必要があることから、本願発明と同じ課題が発生する。すなわち、トグル機構を利用することなく、型閉じ、型締め及び型開きを行う場合においても、型締力を変更することが困難であり、応答性及び安定性が低下し、成形中に型締力を精度良く制御することができないという問題点がある。また、型締力が、ボールねじのガタ、摩擦、熱膨張等の影響を大きく受け、精度良く型締力を発生させることができないという問題点がある」点は、当初明細書等を精査しても全く記載されていない事項であり、同じく、審判請求人が主張している「本願発明は、・・・必ずしも、トグル機構を備えた型締装置だけを対象としているわけではなく、電動機による回転運動を直進運動に変換する型締装置を対象としている」との主張は、当初明細書等を精査しても、この点の記載はなく、それを示唆する記載すら存在していない。そして、当初明細書等の【発明の効果】の欄においては、「反発力は、リンク機構が伸展状態に置かれたときに発生させられるので、リンク機構のガタ、摩擦、熱膨張の影響を受けることがない。したがって、型締力をフィードバック制御することによって、型締力を精度良く制御することができる」と記載されていることからみて、リンク機構(審判請求人がいうところの「トグル機構」に相当)の伸展状態時にフィードバック制御を行うこととされていることから、リンク機構との関係での効果が記載されているといえ、当初明細書等の記載においてはリンク機構を除外することを想定しているとはいえず、上記主張を採用するはできない。
そして、この点を根拠とする「このことからすると、電動機による回転運動を直進運動に変換して可動プラテンを進退させるようにした型締装置において、電磁石を用いて型締力を発生させることが、本来的に技術上の意義であるので、補正により新たな技術上の意義が追加されないことは明らか」との主張も失当である。
さらに、「同様に、電磁石を用いて型締力を発生させることが、本来的に技術上の意義である」との主張も、当初明細書等を精査しても、この点に関する記載はなされておらず、示唆もされていない。したがって、この請求人の主張も受け入れられるものではない。

さらに、審判請求人は、平成19年5月30日提出の意見書において、下記の主張を行っているので検討する。

「ところで、この特許出願の「当初明細書等」の段落0004に記載されているように、従来のトグル機構を備えた型締装置においては、型締力を発生させる際に、「トグル機構の特性上、型締力を変更することが困難であり、応答性及び安定性が低下し、成形中に型締力を精度良く制御することができ」ず、また、「トグル機構のトグル倍率特性が、トグル機構のガタ、摩擦、熱膨張等の影響を大きく受け、精度良く型締力を発生させることができない」という課題を有する。
そこで、この特許出願の特許請求の範囲に記載された発明(以下「本願発明」という。)においては、所望の型締力を発生させるためにトグル機構を使用しないようにした型締装置を提供することを目的としている。
そのために、例えば、図1に示される型締装置においては、型閉じ及び型開きを行うためにトグル機構を使用しているが、型締力を発生させるために電磁石を使用するようにしている。
ところで、前述されたように、本願発明の目的は、所望の型締力を発生させるためにトグル機構を使用しないようにすることであり、そのために、電磁石を使用することは、発明の課題を解決するために当然必要となるが、「電磁石フレームが2枚からなる」点は、任意の付加的な事項である。
また、型閉じ及び型開きを行うためにリンク機構を使用する点も、任意の付加的な事項である。
したがって、平成17年6月23日付けでした手続補正は、「当初明細書等」に記載した事項の範囲内においてしたものと考える(「特許・実用新案審査基準」第III 部明細書、特許請求の範囲又は図面の補正、第IV節明細書、特許請求の範囲又は図面の補正に関する事例集、新規事項の判断に関する事例1参照。)。」

しかしながら、審判請求人の「前述されたように、本願発明の目的は、所望の型締力を発生させるためにトグル機構を使用しないようにすること」との主張は、上記第2.2.(1)の当初明細書等における【発明が解決しようとする課題】欄において「従来の型締機構においては、トグル機構の特性上、型締力を変更することが困難であり、応答性及び安定性が低下し、成形中に型締力を精度良く制御することができない。また、トグル機構のトグル倍率特性が、トグル機構のガタ、摩擦、熱膨張等の影響を大きく受け、精度良く型締力を発生させることができない。本発明は、前記従来の型締機構の問題点を解決して、成形中に型締力を精度良く制御することができる型締装置を提供することを目的とする」との記載があり、直接的に「所望の型締力を発生させるためにトグル機構を使用しないようにすること」を目的として記載されていないこと、一般的な記載事項である【従来の技術】欄、【発明が解決しようとする課題】欄、【課題を解決するための手段】欄及び【発明の効果】欄における上記摘示事項イ.?エ.及びコ.の記載においては、記載されている全ての型締装置が、リンク機構(審判請求人がいうところの「トグル機構」に相当)を有する型締装置であること、当初明細書等における【発明の実施の形態】欄において記載されている全ての型締装置もリンク機構(審判請求人がいうところの「トグル機構」に相当)を有する型締装置であることから、審判請求人の「本願発明の目的は、所望の型締力を発生させるためにトグル機構を使用しないようにすること」との主張は失当である。
そして、当該目的に基づく「本願発明の目的は、所望の型締力を発生させるためにトグル機構を使用しないようにすることであり、そのために、電磁石を使用することは、発明の課題を解決するために当然必要となるが、「電磁石フレームが2枚からなる」点は、任意の付加的な事項である。また、型閉じ及び型開きを行うためにリンク機構を使用する点も、任意の付加的な事項である。」との主張も、審判請求人の論理の前提となる本願発明の目的が誤っていることから、失当であるし、任意付加的な事項であるとの主張も、上記において検討したとおりであって、審判請求人の主張を採用することはできない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明1を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しており、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成17年6月23日付けの手続補正(以下、「当初補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は次のとおりである。(なお、平成19年5月30日付け手続補正による補正は、原審において平成20年4月1日付けで決定をもって却下されている。)

「(a)固定プラテンと、
(b)該固定プラテンに取り付けられた固定金型と、
(c)前記固定プラテンと対向させて配設され、電磁石を備えた電磁石フレームと、
(d)前記固定プラテンと電磁石フレームとの間に架設されたタイバーに沿って進退自在に配設された可動プラテンと、
(e)該可動プラテンに取り付けられた可動金型と、
(f)正方向及び逆方向に駆動され、前記可動プラテンを進退させて型開き及び型閉じを行う電動機と、
(g)前記電磁石によって型締力を発生させたときの磁束の密度を検出する磁束密度検出器と、
(h)設定された型締力に対応する磁束密度指令、及び前記磁束密度検出器によって検出された磁束の密度に基づいて、型締力をフィードバック制御する制御装置とを有することを特徴とする型締装置。」(以下、「本願発明1」という。)

第4.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成19年3月20日付けで通知した最後の拒絶理由の概要は次のとおりである。

「平成17年 6月23日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。



補正前請求項1においては、型締装置が、第1、第2の電磁石フレームを有し、第2の電磁石フレームと可動プラテンとの間を連結するリンク機構を有するものであったが、上記手続補正により、請求項1に係る発明の型締装置は、電磁石フレームを有するとされ、リンク機構が削除されたから、電磁石フレームの構成が特定されず、可動プラテンを進退させる機構が特定されないものとされた。
しかしながら、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)においては、型締力を発生させる電磁石フレームが2枚からなるものしか記載されず、それ以外の構成により型締力を発生させるものについては何ら記載されておらず、また、示唆もされていない。
さらに、当初明細書等には可動プラテンを進退させる機構についても、リンク機構以外のもの、例えば、拒絶理由通知で提示した引用文献1に記載されるようなボールネジにより進退されるものについては何ら示されておらず、また、リンク機構のトグル倍率特性が、リンク機構のガタ、摩擦、熱膨張等の影響を受けることがなく、精度良く型締力を発生させるというそもそもの課題の一つからも、リンク機構以外のものが示されているとは認められない。
よって、上記補正はいずれも、当初明細書等に記載した事項の範囲に記載がなく、また、当初明細書等に記載した事項から自明なものとも認められないから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではない。
そして、補正により新たに追加された請求項1の従属請求項である請求項2及び請求項1の型締装置と同じ装置構成を有する型締装置の型締方法である請求項3についても、同じく新規事項の追加がなされている。
また、発明の詳細な説明についての補正も同様である。
(意見書においても、補正の根拠について何ら説明がなされず、新規事項の追加でないとする釈明もない。)」

第5.当審の判断
本願発明1は、上記第2.において検討した本件補正発明1(平成20年6月16日付け手続補正書により補正された請求項1)の(g)について「前記電磁石によって前記可動金型と前記固定金型との間に型締力を発生させたときの電磁石に発生する磁束の密度を検出する磁束密度検出器」を「前記電磁石によって型締力を発生させたときの磁束の密度を検出する磁束密度検出器」とするものであるが、この点は上記第2.2.(2)における検討に何ら影響しないことである。
そうすると、本願発明1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえるから、本願発明1を含む当初補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

以上のとおり、当初補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

第6.むすび
以上のとおり、原査定の理由は妥当なものであるから、本願は、原査定の理由により拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-13 
結審通知日 2011-04-19 
審決日 2011-05-09 
出願番号 特願平9-50451
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B29C)
P 1 8・ 55- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上坊寺 宏枝  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
大島 祥吾
発明の名称 型締装置及びその型締方法  
代理人 川合 誠  
代理人 清水 守  

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