ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A47C |
---|---|
管理番号 | 1240062 |
審判番号 | 無効2009-800234 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-11-12 |
確定日 | 2011-05-30 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4132056号「座椅子」の特許無効審判事件についてされた平成22年5月12日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成22年(行ケ)第10196号平成22年10月13日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第4132056号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許第4132056号の請求項1に係る発明についての出願(以下「本件出願」という。)は、平成16年6月17日に出願され、平成20年6月6日にその発明について特許権の設定の登録がなされた。 2.これに対し、請求人は、平成21年11月12日に特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の特許について無効審判を請求し、平成22年5月12日付けで、特許を無効とする審決がなされたところ、平成22年6月17日に該審決に対する訴えが提起され、同年9月2日に訂正審判(訂正2010-390093号)が請求され、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定による審決の取消しの決定(平成22年(行ケ)第10196号、平成22年10月13日決定)がなされ確定した。 3.審理再開にあたり、平成22年10月25日付けで、被請求人に対し、特許法第134条の3第2項に規定する訂正を請求するための期間を指定する通知をしたが、指定された期間内に訂正の請求がされなかったため、同法同条第5項の規定により、上記訂正審判の請求書に添付された特許請求の範囲及び明細書を援用した訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がされたものとみなすこととなった。 4.その後、請求人より平成23年1月12日付けで弁駁書が提出され、これに対し、被請求人より平成23年3月7日付けで答弁書が提出された。 第2 本件訂正の内容 本件訂正は、特許第4132056号の特許請求の範囲及び明細書を、上記訂正審判請求書に添付した特許請求の範囲(以下、「訂正特許請求の範囲」という。)及び明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正しようとするものであって、訂正の内容は、以下の訂正事項1?9のとおりである。(下線部は、訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「次第に拡大する形状の円穴を」とあるのを、 「次第に拡大するラッパ形状の円穴を」と訂正する。 (2)訂正事項2 明細書段落0004に、 「次第に拡大する形状の円穴を」とあるのを、 「次第に拡大するラッパ形状の円穴を」と訂正する。 (3)訂正事項3 明細書段落0004に、 「中央がが高く」とあるのを、 「中央が高く」と訂正する。 (4)訂正事項4 明細書段落0005に、 「殿部が落ち込む円穴を」とあるのを、 「殿部が落ち込むラッパ形状の円穴を」と訂正する。 (本件特許明細書の記載からして、「殿部」は誤記であって、正しくは「臀部」であることが明らかであるから、 訂正事項4は、 明細書段落0005に、 「臀部が落ち込む円穴を」とあるのを、 「臀部が落ち込むラッパ形状の円穴を」と訂正するものとして、以下検討する。) (5)訂正事項5 明細書段落0006に、 「低反発クッション部材を円穴の」とあるのを、 「低反発クッション部材をラッパ形状の円穴の」と訂正する。 (6)訂正事項6 明細書段落0007に、 「円穴は座面側に向かって内径が次第に拡大する形状」とあるのを、 「円穴は座面側に向かって内径が次第に拡大するラッパ形状」と訂正する。 (7)訂正事項7 明細書段落0008に、 「低反発クッション部材が円穴の」とあるのを、 「低反発クッション部材がラッパ形状の円穴の」と訂正する。 (8)訂正事項8 明細書段落0011に、 「少なくとも、その臀部の中央が浅く落ち込む穴或いは有底の窪み(以下これらを総称して円穴ともいう)を設けて、」とあるのを、 「少なくとも、その臀部の中央が浅く落ち込む穴で、」と訂正する。 (9)訂正事項9 明細書段落0012に、 「勿論、円穴3の上端側の開口縁部(縁)31は図示の形状に限らない。」とあるのを、削除する。 (本件特許明細書の記載からして、「勿論、円穴3の上端側の開口縁部(縁)31は図示の形状に限らない。」は誤記であって、正しくは「勿論、円穴3の上端側の開口縁部(縁)31は図示の形状に限られない。」(下線付加)であることが明らかであるから、 訂正事項9は、 明細書段落0012に、 「勿論、円穴3の上端側の開口縁部(縁)31は図示の形状に限られない。」とあるのを、削除するものとして、以下検討する。) 第3 当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は、本件訂正は認められない、特許第4132056号発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第13号証を提出し、無効とすべき理由を以下のように主張する。 (1)本件訂正 訂正事項1?9は、特許法第134条の2第1項の各号に掲げる特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は誤訳の訂正、明りようでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものにも該当しないから、本件訂正は、訂正要件に違反し、認められない。 (2)無効理由1 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第4号証?甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。 (3)無効理由2 本件特許の請求項1に係る発明は、第36条第6項第1号及び第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。 したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。 (4)無効理由3 本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載不備が存在し、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。 したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。 (5)無効理由4 甲第1号証の発明の技術思想に加えて、甲第2号証、甲第4号証等で開示している周知の折り畳み座椅子の構成、甲第2号証?甲第5号証等で開示している周知の座部の略中央の穴または窪みの形状、甲第6号証?甲第11号証で開示している周知のクッション材として、上層に所定の厚みのシート状(板状)の低反発発泡体を組み入れた構造は、何れも、当業者が必要に応じて選択する設計的事項であるから、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1?11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、或いは甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。 (6)本件訂正後の発明 仮に、本件訂正が認められたとしても、本件訂正により訂正された本件特許の請求項1に係る発明は、訂正前の発明と技術的範囲が実質的に同じであり、訂正前の発明と同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。 [証拠方法] ・甲第1号証:実願昭63-57584号(実開平1-159873号)のマイクロフィルム ・甲第2号証:実公昭45-33574号公報 ・甲第3号証:実願昭63-39417号(実開平1-143952号)のマイクロフィルム ・甲第4号証:実願昭63-101178号(実開平2-22142号)のマイクロフィルム ・甲第5号証:実願昭62-26203号(実開昭63-133142号)のマイクロフィルム ・甲第6号証:特開平2-52607号公報 ・甲第7号証:特開2000-106969号公報 ・甲第8号証:特開平1-280413号公報 ・甲第9号証:特開2002-336070号公報 ・甲第10号証:特開2000-5327号公報 ・甲第11号証:日経流通新聞,日本経済新聞社発行,2004年3月6日 ,p.9 ・甲第12号証:特開2005-137593号公報(先願) ・甲第13号証:特願2004-179489(本件発明)の包袋一式 甲第13号証の1 経過記録 甲第13号証の2 願書、特許請求の範囲、明細書、図面、要約書 甲第13号証の3 特許審査調査員の拒絶理由に対する予備的見解書 甲第13号証の4 拒絶理由通知書 甲第13号証の5 意見書 甲第13号証の6 手続補正書 甲第13号証の7 特許審査調査員の特許査定に対する予備的見解書 甲第13号証の8 特許査定 2.被請求人の主張 被請求人は、本件訂正を認める、本件無効審判の請求は認められない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を以下のように主張する。 (1)本件訂正 本件訂正は、訂正要件を具備し、認められる。 (2)無効理由1 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第4号証?甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)無効理由2 本件特許の請求項1に係る発明は、第36条第6項第1号及び第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。 (4)無効理由3 本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。 (5)無効理由4 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1?11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (6)本件訂正後の発明 甲第1号証に記載された座椅子の貫通穴aは円穴ではなく、該貫通穴aは予め臀部に形成された比較的ハードな成形張材で覆われており、「有底の円穴」であって、「ラッパ形状の円穴」でないばかりか、甲第1号証には、そもそも低反発部材の記載もないから、本件訂正により訂正された本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第4 訂正の可否についての判断 1.各訂正事項についての検討 (1)訂正事項1 ア.特許請求の範囲の請求項1の「次第に拡大する形状の円穴を」を「次第に拡大するラッパ形状の円穴を」と訂正する訂正事項1は、請求項1に記載された「次第に拡大する形状」を「ラッパ」形状である点で限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、本件特許明細書には、「図示の円穴3は、穴の内部側から座面11側に向かって内径が次第に拡大するいわゆるラッパ形状として、円穴3の上端側の縁即ち開口縁部31が無用に臀部に当らず、心地よい据わり感触が得られるように形成している。」(【0012】)との記載が存在するから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ.上記の点につき請求人は、概略以下のように主張する。 特許明細書の段落番号【0012】の「図示の円穴3は、穴の内部側から座面11側に向かって内径が次第に拡大するいわゆるラッパ形状」との記載は、「いわゆる」が『世間で言われている。俗に言う。(広辞苑第5版)』を意味することからして、 「穴の内部側から座面側に向かって内径が次第に拡大する」=「ラッパ形状」 と特定しているものである。 よって、本件特許発明は「座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴」と特定されており、ここで「座面側に向かって次第に拡大するラッパ形状の円穴」と「ラッパ形状」を特定したところで、同一構成を重複して特定しているだけであり、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項の各号に掲げる特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は誤訳の訂正、明りようでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものにも該当しない。 しかしながら、「いわゆる」が「世間で言われている。俗に言う。」を意味するとしても、このことから特許明細書の上記記載を直ちに「穴の内部側から座面側に向かって内径が次第に拡大する」=「ラッパ形状」と特定する厳密なものと解することはできず、該記載は「座面側に向かって次第に拡大する形状」の具体例としてラッパ形状を示している程度のものと解されるにすぎない。 したがって、請求人の上記主張は採用することができない。 (2)訂正事項2,4?7 ア.訂正事項2,4?7は、訂正事項1による「円穴」を「ラッパ形状の円穴」とする訂正に伴い、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、上記訂正事項1と同様に、訂正事項2,4?7も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ.上記の点につき請求人は、概略以下のように主張する。 「ラッパ」とは、『金管楽器(信号喇叭・トランペット・ホルンなど)の総称。真鍮管の一端に吹口をつけ、他端の広く開いたもの。金管楽器の一。無弁で簡単な倍音数個だけを発し、信号・行進の際などに用いる。信号喇叭。軍隊喇叭。朝顔型の拡声器。ホーン。「らっぱのみ」の略(広辞苑第5版)』を意味するから、「ラッパ」との用語はトランペット、トロンボーン、アルプホルン(アルペンホルン)等の金管楽器等の総称であり、一義的に構造・形状、寸法等を特定したことにならず、しかも、本件特許図面の図1及び図2をみると、円穴3は略中央位置から上方にも、下方にも、次第に拡大する形状となっているから、社会通念上の「ラッパ」の概念とは全く似つかない形態図示表現になっている。 したがって、訂正事項2,4?7は、特許法第134条の2第1項の各号に掲げる特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は誤訳の訂正、明りようでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものにも該当しない旨主張する。 しかしながら、請求人が指摘する「ラッパ」の語義からしても、社会通念上の「ラッパ」の概念として、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴」に整合する具体的「朝顔型」の形状等が理解されるといえる。 そして、訂正された特許請求の範囲の請求項1において、「ラッパ形状」は、「座面中央に座面側に向かって次第に拡大する」ことが規定されていても、下方に次第に拡大する形状であるか否かは規定されていないから、本件訂正により訂正された本件特許の請求項1に係る発明の「座面中央に座面側に向かって次第に拡大するラッパ形状の円穴」としてみる限り、訂正事項2,4?7と本件特許図面の図1及び図2の図示内容との間に格別不整合な点は見出せない。 したがって、請求人の上記主張は採用することができない。 (3)訂正事項3 明細書段落0004の「中央がが高く」を「中央が高く」と訂正する訂正事項3は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項8 明細書段落0011の「少なくとも、その臀部の中央が浅く落ち込む穴或いは有底の窪み(以下これらを総称して円穴ともいう)を設けて、」を「少なくとも、その臀部の中央が浅く落ち込む穴で、」と訂正する訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「円穴」を貫通穴に実質的に限定し、有底のものを排除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)訂正事項9 明細書段落0012の「勿論、円穴3の上端側の開口縁部(縁)31は図示の形状に限られない。」を削除する訂正事項9は、訂正事項1による「円穴」を「ラッパ形状の円穴」とする訂正に伴い、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、上記訂正事項1と同様に、訂正事項9も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 2.まとめ 以上のとおり、訂正事項1?9は、特許法第134条の2第1項の各号に掲げる事項を目的とするものにも該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、本件訂正は、認められる。 第5 訂正特許発明 以上のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、「訂正特許発明」という。)である。 「【請求項1】 座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子において、前記座部は、座面中央に座面側に向かって次第に拡大するラッパ形状の円穴を有すると共に、当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設された低反発クッション部材を有することを特徴とする座椅子。」 第6 甲各号証の記載内容 1.甲第1号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(実願昭63-57584号(実開平1-159873号)のマイクロフィルム)には図面と共に次の事項が記載されている。 a:「2 実用新案登録請求の範囲 1. 尻乗せ座(4)、背もたれ部(6)及び肘掛け部(7)を備えた座椅子であつて、前記尻乗せ座(4)を本体フレーム(1)に対し、縦軸芯まわりに回動自在に取り付けると共に、前記肘掛け部(7)を本体フレーム(1)に対し、その高さが着座者の正常着座姿勢における肘相当高さ及び肩相当高さに変更され得るように枢支連結してある座椅子。 2. 前記尻乗せ座(4)及び前記背もたれ部(6)を後傾姿勢にし、該尻乗せ座(4)に尻乗せ中心部となる凹部(41)を形成し、該凹部(41)の尻乗せ中心を尻乗せ座(4)の回動中心よりも背部側に設定してある請求項1記載の座椅子。 …… 4. 前記尻乗せ座(4)を正面向き姿勢に固定する固定具(9)が設けられている請求項1記載の座椅子。」(明細書1頁4行?2頁3行) b:「本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、安らかな休息が従来通り得られる上に、必要に応じて着座姿勢のまま積極的に軽運動を行って日頃の運動不足を簡易に解消することができる座椅子を提供することを目的とする。」(明細書3頁2行?6行) c:「〔課題を解決するための手段〕 本発明に係る座椅子は、尻乗せ座、背もたれ部及び肘掛け部を備えた座椅子であって、前記尻乗せ座を本体フレームに対し、縦軸芯まわりに回動自在に取り付けると共に、前記肘掛け部を本体フレームに対しその高さが着座者の正常姿勢における肘相当高さ及び肩相当高さに変更され得るように枢支連結してある点に特徴を有している。 なお、かかる座椅子としては、前記尻乗せ座及び前記背もたれ部が後傾姿勢とされ、該尻乗せ座に尻乗せ中心部となる凹部が形成され、該凹部の尻乗せ中心が尻乗せ座の回動中心よりも背部側に設定されているものが好ましく、また前記尻乗せ座の回転を規制するストッパが付設されているものや、前記尻乗せ座を正面向き姿勢に固定する固定具が設けられているものも考えられる。 〔作用〕 かかる本考案の座椅子にあっては、尻乗せ座が縦軸芯まわりに回動できるように構成されているため、該尻乗せ座は着座者の尻を乗せたまま自由に回動できることとなる。従って着座者は、その回動自在な尻乗せ座に尻を乗せたまま該尻乗せ座を回動させ、踵を床に着けつつ膝を立てた姿勢にて腰を左右に動かす軽運動を行うことができる。」(明細書3頁7行?4頁13行) d:「さらに前記固定具が付設されている場合は、該固定具を用いて前尻乗せ座を正面向き姿勢に固定することにより、前記座椅子を単なる休息用座椅子として利用することができる。」(明細書6頁5行?9行) e:「また座フレーム(3)の背部側は前記縦軸芯と略平行な方向に折曲しており、その折曲部(3a)には背もたれ(6a)を傾動自在に枢支する枢支部材(6b)が上下方向へ摺動できるように且つ止め具(6c)にて上下方向適宜位置にて固定できるように嵌合され、もって座フレーム(3)の背部に背もたれ(6a)を枢支部材(6b)にて傾動自在に且つ高さ調整自在に枢支してなる背もたれ部(6)が装着されている。」(明細書7頁19行?8頁7行) f:「なお、前記尻乗せ座(4)は具体的には、尻乗せ中心部となるべき位置に貫通孔が形成された木製ベース板(4a)を基礎とし、その貫通孔以外の部分に成形クッショク材(当審注:「成形クッション材」の誤記と認める。)(4b)を上方突出状態に付設した上でその上から成形張材(4c)、クッション材(4d)及び表面張材(4e)をこの順序で張設することによって構成されている。また最後方ポジションに位置する尻乗せ座(4)の尻乗せ中心部となる凹部(41)は、前記縦軸芯即ち尻乗せ座(4)の回動中心よりも背部側に10?50mmだけずれた位置に設けられている。」(明細書8頁8行?18行) g:「そしてこれを通常の座椅子として使用するときには、第5図及び第6図に示す如く、前記固定具(9)を用いて座フレーム(3)を正面向き姿勢に固定すると共に前記肘掛け部(7)を前記肘相当高さに変更し、その状態を維持しつつ尻乗せ座(4)に着座した着座者は座フレーム(3)を尻乗せ座(4)共々前後方向へ移動させて背もたれ部(6)の傾斜調整を行い、且つ、前記肘掛け部(7)に肘を掛けて着座者は安らかな休息を得る。」(明細書10頁5行?14行) h:上記aの「尻乗せ座(4)……を備えた座椅子であつて、前記尻乗せ座(4)を本体フレーム(1)に対し、縦軸芯まわりに回動自在に取り付ける……座椅子。」との記載、上記cの「尻乗せ座に尻乗せ中心部となる凹部が形成され、該凹部の尻乗せ中心が尻乗せ座の回動中心よりも背部側に設定されているものが好ましく」との記載及び上記cの「本考案の座椅子にあっては、尻乗せ座が縦軸芯まわりに回動できるように構成されているため、該尻乗せ座は着座者の尻を乗せたまま自由に回動できることとなる。従って着座者は、その回動自在な尻乗せ座に尻を乗せたまま該尻乗せ座を回動させ、踵を床に着けつつ膝を立てた姿勢にて腰を左右に動かす軽運動を行うことができる。」との記載からして、甲第1号証に記載された座椅子は、尻乗せ中心部となる凹部(41)を尻乗せ座(4)の回動中心よりも背部側に設定することを好ましい態様としていても、甲第1号証に記載された作用効果を奏するための必須の構成としているとまではいえない。 i:甲第1号証には、「必要に応じて着座姿勢のまま積極的に軽運動を行って日頃の運動不足を簡易に解消することができる座椅子を提供する」(摘記事項b)ために、「尻乗せ座(4)を本体フレーム(1)に対し、縦軸芯まわりに回動自在に取り付け」(摘記事項a)た「座椅子」に関し、「前記尻乗せ座(4)を正面向き姿勢に固定する固定具(9)が設けられている」(摘記事項a)態様が記載されるとともに、該態様について、「さらに前記固定具が付設されている場合は、該固定具を用いて前尻乗せ座を正面向き姿勢に固定することにより、前記座椅子を単なる休息用座椅子として利用することができる。」(摘記事項d)と記載されている。 してみると、甲第1号証には、甲第1号証に記載された座椅子に関し、尻乗せ座(4)を回転させずに単なる休息用座椅子として利用する態様が記載されているといえる。 j:上記gの「尻乗せ座(4)に着座した着座者は座フレーム(3)を尻乗せ座(4)共々前後方向へ移動させて背もたれ部(6)の傾斜調整を行い」との記載からして、甲第1号証に記載された上記iの態様の座椅子は、尻乗せ座(4)に対して傾斜調整可能な背もたれ部(6)を備えているといえる。 k:第1図(座椅子の部分断面側面図)、第5図(座椅子の斜視図)の図示内容を総合すると、甲第1号証に記載された上記iの態様の座椅子は、 k-1:尻乗せ座(4)は、尻が乗る面を有している、 k-2:尻乗せ座(4)は、尻が乗る面に凹部(41)を有している、 k-3:凹部(41)は、尻が乗る面の側に向かって次第に拡大する形状であり、 k-4:クッション材(4d)は、尻乗せ座(4)の垂直断面において、表面張材(4e)の直下に凹部(41)の内周面側から尻乗せ座(4)の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設されている、 といえる。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「尻乗せ座(4)と前記尻乗せ座(4)に対して傾斜調整可能な背もたれ部(6)、肘掛け部(7)を備えた座椅子において、 前記尻乗せ座(4)は、尻が乗る面に尻が乗る面の側に向かって次第に拡大する形状の凹部(41)を有すると共に、当該尻乗せ座(4)の垂直断面において表面張材(4e)の直下に凹部(41)の内周面側から尻乗せ座(4)の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設されたクッション材(4d)を有する座椅子。」 2.甲第3号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(実願昭63-39417号(実開平1-143952号)のマイクロフィルム)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 l:「実用新案登録請求の範囲 1.ホットカーペット上に置かれクッション部材が詰まった座部と背もたれ部とから成り、 座部の中央部分をカットして透孔に形成あるいは当該部分のクッション材を熱プレス等により薄肉部に形成したことを特徴とするホットカーペット用座椅子。」(明細書1頁4?10行) m:「第1実施例……座部3の中央部分をカットして透孔5を形成してある。……第2実施例は、座部3の中央部に薄肉部7を形成したものである。……透孔5と薄肉部7は共に矩形状に形成したが、円形や楕円形その他の形状であっても差し支えないことは勿論である。」(明細書3頁6行?4頁10行) n:第1図(第1実施例を示す斜視図)、第2図(第1実施例に係る着座状態の側面図)、第3図(第1図III-III線断面図)には、透孔5が座面側に向かって次第に拡径する形状を有することが図示されているといえる。 3.甲第5号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(実願昭62-26203号(実開昭63-133142号)のマイクロフィルム)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 o:「2.実用新案登録請求の範囲 (1)臀部をのせる座部と、該座部の一端に立設した背もたれ部とから成る座椅子において、前記座部に、臀部を受け入れる凹陥部を設けたことを特徴とする座椅子。」(明細書1頁4?8行) p:「「従来の技術」および「考案が解決しようとする問題点」 ……座部にのせたでん部が滑り易く、例えば足を伸ばして座椅子に座ったときや、座椅子に座って「こたつ」に入っているとき等、上半身の体重を背もたれ部にもたれかけていると、座部上のでん部が次第に前方にずれて不自然な姿勢になり、座り直すことがたびたびある。」(明細書1頁13行?2頁6行) q:「「問題点を解決するための手段」 以上の目的を達成する本考案の座椅子は「でん部をのせる座部とその座部の一端に立設した背もたれ部とから成る座椅子において、その座部に、でん部を受け入れる凹陥部を設けた構造が特徴である。」(明細書2頁13?18行) r:「「作用」 以上の構造の本考案の座椅子は、座部に使用者のでん部を受け入れる凹陥部が設けてあるので、使用者のでん部はその凹陥部に嵌め込むようにして受け入れられ、背もたれ部に上半身の体重をもたれかけさせていても、でん部が前方にずれることがなく、正常な座り姿勢を安定させると共に、床面等からの採暖ができる作用がある。」(明細書2頁19行?3頁6行) s:「第一実施例……座部2の中央部分は、円形に切り抜いた凹陥部5が設けてあり、その凹陥部5の前端部分は座部2の前縁部2’を切り離した形状になっている。即ち、凹陥部5は座部2の前縁部2’を狭隘な入り口部とし、座部2の中央部分で概ね円形に膨大する形状に切り抜かれた貫通孔になっている。そして、その凹陥部5の周縁5’は、下方に向かって緩やかにせばまる曲縁に成っており、座椅子1の使用者が座部2に自己のでん部をのせたとき、そのでん部の外面を滑らかに受け入れるように形成されている。」(明細書3頁9行?4頁2行) t:「第二実施例……座部2の中央部分に第1実施例と同様の凹陥部5を形成すると共に、その凹陥部5の前縁部位は、座部2より若干薄くした連結部6によって座部2の前縁部2’が連結されており、凹陥部5へでん部を嵌めたときの外力によって座部2の形状が崩れるのを防止すると共に、凹陥部5と使用者のでん部をフィットさせて使用感が向上するように配慮してある。」(明細書4頁3?11行) u:「第三実施例……前記実施例と同様に、座部2の中央部分に凹陥部5が設けてあり、その凹陥部5の底は座部2と連続した薄めの底板部7に形成してある。」(明細書4頁12?15行) v:「なお、本考案の前記の構成において,凹陥部5は前記実施例に限定するものではなく、第4図示のように座部2の中央を単に凹ませてでん部を受け入れるようにしても良い。」(明細書5頁7?10行) w: 第1図(A),(B)及び第2図には、凹陥部5が座面側に向かって次第に拡大する形状を有することが図示されているといえる。 x:第4図には、凹陥部5が円の形状をしていることが図示されている。 4.甲第6号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開平2-52607号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 y:「2.特許請求の範囲 (1)発泡シート構造体において、上層部には、反発弾性値が25%以下の低反発弾性発泡成形クッションパッドを使用し、反発弾性値が55%以上の高反発弾性発泡成形クッションパッドの下層部にて支持する構成を特徴とするシートクッション。」(1頁左下欄4?10行) z:「〔発明が解決しようとする課題〕 従来のシートクッションは、上層部の反発弾性が30%以上のものを使用しているので、着座時の圧力分散が悪く、横揺れに対する支持性の感触がよろしくなく、特に、肥満型の人は両サイドが窮屈となり、部分的に高圧力が発生しやすく、疲れやすい状態を生起することになる。 因って、本発明は、従来の発泡体の密度、硬さを主体に構成されてきた構想を変え、人体に接触する上層部の発泡体を、すぐれたヒステリシスロスによる減衰能を発揮させる構想による低反発弾性の発泡体の構成を提供することを目的としている。」(1頁右下欄20行?2頁左上欄12行) A:「〔作用〕 この発明のシートクッションは、積層体の上層部の反発弾性を25%以下の可及的低反発弾性のヒステリシスロスの大きな物性とし、下層部を高反発弾性の物性としたものであり、因って、着座する人のどんな体型の人にも、また、どんな姿勢に対しても良好な沿接形態が得られ、必要以上の圧接感を与えることなく、横揺れ等の動揺に対して良好なソフトな支持性を発揮する。また、下層部に高反発弾性クッションパッドを使用するため、上層部のソフトな接触感による緩衝性と下層部の高反発弾性との相乗作用により、より一層の動揺に対する順応性と良好な支持性と復元性作用を長期に発揮するものである。」(3頁左下欄11行?右下欄4行) これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第6号証には次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。 「着座時の感触をよくし、どんな姿勢に対しても良好な沿接形態が得られ、必要以上の圧接感を与えないように、シートクッションの上層部に低反発弾性発泡成形クッションパッドを使用し、シートクッションの下層部に高反発弾性発泡成形クッションパッドを使用すること。」 5.甲第11号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第11号証(日経流通新聞)には、次の事項が記載されている。 B:「オーダーメード感覚で選べる座いす『着せ替え座椅子(いす) バリエ』。クッションの形(四角か丸形)、中材(低反発ウレタンなど3種類)、カバー(合皮かキャンバス地)から組み合わせてオーダー。店に在庫があればその場で完成品を持ち帰ることができる。」(9頁「新製品」欄「住」欄) C:摘記事項Bからみて、座椅子において、中材に、低反発ウレタンを用いることが記載されている。 第7 訂正特許発明についての判断 1.無効理由4で挙げられた証拠について 1-1.対比 訂正特許発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「尻乗せ座(4)」は、訂正特許発明の「座部」に相当し、以下同様に、「尻乗せ座(4)に対して傾斜調整可能な背もたれ部(6)」は「座部に対して傾倒自在な背部」に、「尻が乗る面」は「座面」に、「垂直方向の断面」は「垂直断面」に、「表面張材(4e)」は「上面側表層カバー部材」に、それぞれ相当する。 甲1発明の「尻が乗る面の側に向かって次第に拡大する形状の凹部(41)」と、訂正特許発明の「座面に座面側に向かって次第に拡大するラッパ形状の円穴」とは、「尻が乗る面の側に向かって次第に拡大する形状の臀部が落ち込む窪み」である点で一致する。 甲1発明の「クッション材(4d)」と、訂正特許発明の「低反発クッション部材」とは、「クッション部材」である点で一致する。 訂正特許請求の範囲、訂正特許明細書及び特許図面の記載からして、訂正特許発明に係る「座椅子」は、「肘掛け部」を備える態様を排除するものとはいえない。 以上によれば、訂正特許発明と甲1発明とは、次の点で一致する。 (一致点) 「座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子において、前記座部は、座面に座面側に向かって次第に拡大する形状の臀部が落ち込む窪みを有すると共に、当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に臀部が落ち込む窪みの内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設されたクッション部材を有する座椅子。」 そして、両者は以下の相違点1,2で相違する。 (相違点1) 「座部」が「座面」に有する「座面側に向かって次第に拡大する形状の臀部が落ち込む窪み」につき、 訂正特許発明では、「座面中央」の「ラッパ形状の円穴」であるのに対して、甲1発明では、「凹部(41)」である点。 (相違点2) 「座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に」「配設されたクッション部材」につき、 訂正特許発明では、「低反発クッション部材」であるのに対して、甲1発明では、「クッション材(4d)」である点。 1-2.判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 甲第3号証及び甲第5号証の記載によれば、例えば甲第5号証に「使用者のでん部はその凹陥部に嵌め込むようにして受け入れられ、……でん部が前方にずれることがなく、正常な座り姿勢を安定させる」(摘記事項r)と記載されているように、座面に対する臀部の位置ずれを防止するために、座椅子の座部の座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴を設けることは、周知であったと認められる。 そして、甲第1号証に記載された座椅子は、尻乗せ中心部となる凹部(41)を尻乗せ座(4)の回動中心よりも背部側に設定することを、甲第1号証に記載された作用効果を奏するための必須の構成としているとまではいえない(前記h)ことからしても、甲1発明の座椅子において尻が乗る面(座面)に凹部(41)(臀部が落ち込む窪み)を設ける構成に、座面中央に円穴を設ける上記周知技術を適用することに格別の困難性は見出せない。 加えて、甲1発明の座椅子に上記周知技術を適用するに当たり、「次第に拡大する形状の」「円穴」について様々な形状のものを試みることは当業者の通常の創作能力に発揮にすぎないから、「次第に拡大するラッパ形状の円穴」とすることは、当業者が必要に応じて適宜成し得る設計事項である。 してみると、相違点1に係る訂正特許発明の発明特定事項は、甲1発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について 甲6発明の「シートクッション」、「低反発弾性発泡成形クッションパッド」、「高反発弾性発泡成形クッションパッド」は、それぞれ「椅子のクッション」、「低反発クッション部材」、「高反発クッション部材」といえるから、甲6発明は、 「着座時の感触をよくし、どんな姿勢に対しても良好な沿接形態が得られ、必要以上の圧接感を与えないように、椅子のクッションの上層部に低反発クッション部材を使用し、椅子のクッションの下層部に高反発クッション部材を使用すること」といえる。 そして、甲1発明の「座椅子」の「表面張材(4e)の直下に配設されたクッション材(4d)」も、「椅子のクッションの上層部に配設されたクッション部材」といえるとともに、着座時の感触をよくし良好な沿接形態を得ることは、椅子において一般的に考慮されることといえる。 加えて、甲第1号証、甲第6号証の記載を検討しても、甲1発明において、着座時の感触をよくし良好な沿接形態を得るために甲1発明に甲6発明を適用して「クッション材(4d)」を「低反発クッション部材」とするとともに、低反発クッション部材の下方に高反発クッション部材を配設する、例えば成形クッション材(4b)を高反発クッション材とすることを妨げる程の根拠は見出せない。 そして、訂正特許発明は、低反発クッション部材の下方に高反発クッション部材を配設することを排除するものとはいえないから、甲1発明の「表面張材(4e)」(上面側表層カバー部材)の直下に配設された「クッション材(4d)」を「低反発クッション部材」とし、相違点2に係る訂正特許発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 しかも、座椅子において、中材に、低反発クッションを用いることは、例えば甲第11号証(摘記事項B,C参照。)に見られるように本件特許の出願前に周知の技術で事項あって、甲1発明に該周知技術を適用し相違点2に係る訂正特許発明の発明特定事項とすることに格別の困難性は見出せないともいえる。 (3)そして、訂正特許発明による効果も、甲1発明、甲6発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。 (4)以上によれば、訂正特許発明は、甲1発明、甲6発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)なお、仮に、甲第1号証に記載された座椅子のクッション材(4d)が、尻乗せ座(4)の垂直断面において、表面張材(4e)の直下に凹部(41)の内周面側から尻乗せ座(4)の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設されているといえないとしても、甲第1号証に記載された座椅子は、成形クッション材(4b)を上方突出状態に付設した上でその上から成形張材(4c)、クッション材(4d)及び表面張材(4e)をこの順序で張設することによって構成されている(摘記事項f)ことからすれば、該座椅子に、座椅子の座部の座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴を設ける周知技術を適用した場合、座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴を構成することになる成形クッション材(4b)とその上に張設される各部材の形状を、円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるようにすることは、当業者が必要に応じて適宜成し得る設計事項である。 そして、甲第1号証に記載された座椅子のクッション材(4d)を低反発クッション部材とすることを当業者が容易に想到し得ることも上記相違点2について検討したとおりである。 してみると、上記観点からも、訂正特許発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。 (6)以上の点につき被請求人は、甲第1号証に記載された座椅子の貫通穴aは円穴ではなく、該貫通穴aは予め臀部に形成された比較的ハードな成形張材で覆われており、「有底の円穴」であって、「ラッパ形状の円穴」でもないばかりか、甲第1号証には、そもそも低反発部材の記載もないから、訂正特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張する。 しかしながら、甲第1号証には、成形張材(4c)が比較的ハードなものであることは記載されておらず、このことが自明であると認めるに足りる根拠も見出せない。 そして、その他の点については以上検討したとおりである。 したがって、被請求人の上記主張は採用することができない。 1-3.むすび 訂正特許発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第8 むすび 以上のとおりであるから、訂正特許発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、その他の無効理由について検討するまでもなく無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 座椅子 【技術分野】 【0001】 本発明は、座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子に関するものである。 【背景技術】 【0002】 この種の座椅子は、背部の傾斜度を好みに応じて比較的自由に変え座部に臀部を乗せて使用するものであるが、座部の座面が平面であるため、傾斜角度が45度に近づく程、初期の据わり位置から臀部が座面上を滑って足先方向にずれて、座り心地に違和感が生じてきたり、場合によっては痛みが生じたりする。 特に、長時間の使用では、幾度も座り位置調整のために姿勢を正す必要があった。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 本発明は、背部の傾斜角度如何に拘わらず、或いは長時間使用しても、初期の座り位置から位置ずれが生じ難い座椅子の提供を目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0004】 請求項1の座椅子の発明は、座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子において、座面中央に座面側に向かって次第に拡大するラッパ形状の円穴を有すると共に、当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設された低反発クッション部材を有することを特徴とする。 【発明の効果】 【0005】 本発明によれば、座部の座面に臀部が落ち込むラッパ形状の円穴を設けてあるので、座面に対する臀部の前後左右方向(ここで前方とは足先方向をいう)の位置連れを防止することができると共に、当該座面の表層カバー部材の直下に低反発クッション部材が配設してあるので、臀部の形状に相応した形状で臀部を座部に受けることができ、これによって更に位置ずれを防止することができると共に初期の座り心地を長時間にわたって保持することができる。 【0006】 本発明によれば、低反発クッション部材をラッパ形状の円穴の内周面側から座部の外周面側にかけて配設してあるので、臀部が座面からはみ出すほどの大きさであっても、上記と同様の作用効果を発揮させることができる。 又、座部を枕として使用する際に、後頭や後首側を低反発クッション部材がその形状に相応した形状で受けるので、枕として心地よく用いることができる。 【0007】 本発明によれば、円穴は座面側に向かって内径が次第に拡大するラッパ形状としてあるので、円穴の上端側の縁が無用に臀部に当らず、心地よい据わり感触を得ることができる。 【0008】 本発明によれば、低反発クッション部材がラッパ形状の円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設されているので、座面に対する垂直方向のクッション性を高めることができると共に、臀部の先後左右のずれを効果的に防止することができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0009】 以下、本発明を座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子の実施形態を例にして説明する。 【実施例】 【0010】 実施例に示す図1は座椅子の一部切欠斜視図、図2は座椅子の一部断面の拡大端面図である。 図1において、符号の1は座部、2は前記座部1に対して背部1が垂直状態から水平状態の範囲で自在に角度調整可能な傾倒自在な背部である。 【0011】 図1において、この座部1には、座面11の中央に垂直上下方向に貫通する円穴3が設けられている。この円穴3は座部1の座面11に乗せられる臀部が、少なくともその臀部の中央が浅く落ち込む穴で、座面11に対する臀部の前後左右方向(ここで前方とは足先方向をいう)の位置連れを防止させている。 【0012】 図示の円穴3は、穴の内部側から座面11側に向かって内径が次第に拡大するいわゆるラッパ形状として、 円穴3の上端側の縁即ち開口縁部31が無用に臀部に当らず、心地よい据わり感触が得られるように形成している。 尚、図中の符号4は、座部1の座面11の表面を覆う布製或いは樹脂製の上面側表層カバー部材である。 【0013】 図1及び図2に示すように、座部1の垂直断面において、上面側表層カバー部材4の直下には、通常の反発力を備えた一般的なクッション部材としてのウレタンフォームではなく、通従よりは弱い抑制された反発力を備えた低反発クッション部材5を配設、例えば低反発ウレタンフォームを敷き詰めている。 これにより、臀部の形状に相応した形状で臀部を座部1に受けることができるので、更に位置ずれを防止することができると共に初期の座り心地を長時間にわたって保持することができる。 【0014】 又、低反発クッション部材5は、座部1の垂直断面において円穴3の内周面側、例えば、図示されていない臀部が触れる円穴3の上端側の開口縁部(縁)31側から座部1の外周面側12にかけて配設するとよい。 これにより、臀部が座面11からはみ出すほどの大きさであっても、座部1の外周面側12において、臀部の形状に相応した形状で臀部を座部1に受けることができるので、位置ずれを防止きるし、初期の座り心地を比較的長時間にわたって保持することもできる。 【0015】 又、座部1を枕として使用する際に、後頭や後首側を低反発クッション部材5がその形状に相応した形状で 座部1の外周面側12が受けるので、枕として心地よく用いることができる。 【0016】 更に、この例に示す低反発クッション部材5は、座部1の垂直断面において円穴3の内周面側(31)から座部1の外周面側12にかけて、その長さ方向の中央が高く全体として弧状となるように配設してある。 これにより、座部1の座面11に対する垂直方向のクッション性を高めることができるだけでなく、臀部の先後左右方向のずれを更に効果的に防止することができる。 【0017】 図1及び図2において、符号の6は中層クッション部材であり、座部1の垂直断面において、低反発クッション部材5の直下に配設される部材であって、座部1の形態を保つ基本部分をなす。 従って、低反発クッション部材5は、この中層クッション部材6の上面側を覆うように配設される部材であるから当該中層クッション部材6の断面形状を所望の形に成形しておけば、低反発クッション部材5は適当な厚みを均等にもつシート状部材であっても良い。 【0018】 例えば、図示の如く、中層クッション部材6の断面形状を楕円形にしておけば、その中層クッション部材6の外表面を上下に2分割した領域の上面側に均等の厚さのシート状低反発クッション部材5を重ねて接着するだけで、低反発クッション部材5を円穴3の上端側の開口縁部(縁)31側から座部1の外周面側12にかけて配設することができるし、座部1の垂直断面において円穴3の内周面側(31)から座部1の外周面側12にかけて、その長さ方向の中央が高く全体として弧状となるように配設することもできる。 尚、上記の中層クッション部材6としては、低反発クッション部材5や後述の一般的なウレタンフォームより硬質のクッション部材として、例えば、使用済みのウレタンフォームをチップ上にして固めたいわゆるチップフォームを用いている。 【0019】 図1及び図2において、符号の7は座部1の骨格を成すフレームパイプであり、このフレームパイプ7は、円穴3を巡るように中層クッション部材5中に還状に配設されている。一般にこのフレームパイプ7は金属製のものを用いるため、垂直断面において、中層クッション部材5の下部側に配設する方が、臀部にフレームパイプ7の存在を感じさせない点で好ましい。 尚、符号8は座部1の副骨格を成すテープであり、還状のフレームパイプ7の一部間に緊張させた状態にて張り設けている。 【0020】 更に、図1及び図2において、符号9は座部1の底面側即ちこの例では、中層クッション部材5の外表面を上下に2分割した領域の下面側に配設された下層側クッション部材であり、この下層側クッション部材9としてはこの例では、通常の反発力を備えた一般的なクッション部材としてのウレタンフォームを用いている。 こうして、上記中層クッション部材5は上半分の上面側が低反発クッション部材5で、下半分の下面側が一般的なクッション部材としてのウレタンフォームで覆われている。 【産業上の利用可能性】 【0021】 本発明は、背部の傾斜度を好みに応じて比較的自由に変え座部に臀部を乗せて使用する座椅子において効果的に利用できる。 【図面の簡単な説明】 【0022】 【図1】座椅子の一部切欠斜視図である。 【図2】座椅子の一部断面の拡大端面図である。 【符号の説明】 【0023】 1 座部 2 背部 3 円穴 4 上面側表層カバー部材 5 低反発クッション部材 11 座面 12 外周面側(座部) 31 開口縁部(円穴の縁) (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子において、前記座部は、座面中央に座面側に向かって次第に拡大するラッパ形状の円穴を有すると共に、当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設された低反発クッション部材を有することを特徴とする座椅子。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2011-03-24 |
結審通知日 | 2011-03-28 |
審決日 | 2010-05-12 |
出願番号 | 特願2004-179489(P2004-179489) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(A47C)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 平瀬 知明、熊倉 強 |
特許庁審判長 |
横林 秀治郎 |
特許庁審判官 |
寺澤 忠司 蓮井 雅之 |
登録日 | 2008-06-06 |
登録番号 | 特許第4132056号(P4132056) |
発明の名称 | 座椅子 |
代理人 | 首藤 俊一 |
代理人 | 特許業務法人 Vesta国際特許事務所 |
代理人 | 首藤 俊一 |