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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2011800083 審決 特許
無効2009800008 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  H04R
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H04R
管理番号 1240063
審判番号 無効2009-800222  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-10-27 
確定日 2011-05-31 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4006470号補聴システムの特許無効審判事件について、審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 無効2009-800008 訂正を認める。 特許第4006470号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4006470号の請求項1、3ないし33に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その64分の32を請求人の負担とし、64分の32を被請求人の負担とする。 無効2009-800222 訂正を認める。 本件審判の請求を却下する。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 【第1】経緯等
無効2009-800008
無効2009-800222

[1]本件特許
本件特許第4006470号は、平成16年2月5日(パリ条約による優先権主張:平成15年2月5日、米国)を国際出願日とする出願(特願2006-503375号)であり、
平成19年8月31日に設定登録されたものであり、登録時の請求項の数は70である。

平成16年 2月 5日 本件出願 (特願2006-503375号、
優先権主張 平成15年2月5日、米国)
平成19年 8月31日 設定登録(請求項の数70)

[2]無効審判(無効2009-800008、無効2009-800222)の手続きの経緯

〈無効2009-800008〉
無効2009-800008は、請求人より、「特許第4006470号発明の請求項1乃至61、65、68及び69の発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」ことを趣旨として、平成21年1月13日になされた無効審判の請求(甲1?甲11号証提出)であり、
これに対して、被請求人は、平成21年8月18日付けで答弁書(以下「第1答弁)」という)および訂正請求書(以下「第1訂正(請求)」という)を提出し、
これに対して、請求人は、平成21年10月14日付け弁駁書を提出し、甲12?甲16号証を追加した。
合議体は、同弁駁書による請求の理由の補正を許可(平成22年7月21日付け許否決定)し、被請求人は、平成22年8月4日付けで答弁書(以下「第2答弁」という)および訂正請求書(以下「第2訂正(請求)」という。)を提出した。これにより、上記「第1訂正」は取り下げられた。(特許法第134条の2第4項に基づくみなし取下げ。)

以上の経緯を踏まえ、合議体の暫定的な見解等を請求人及び被請求人に通知{審理事項通知書(平成22年9月27日)}した。

請求人は、これまでの被請求人の主張(第2答弁、第2訂正請求についての主張を含む)及び上記見解等に対して、口頭審理陳述要領書(平成22年11月2日)を提出し、
その後、被請求人は、これまでの請求人の主張及び上記見解等を踏まえ、口頭審理陳述要領書(平成22年11月10日)を提出した。

〈無効2009-800222〉
無効2009-800222は、請求人より、「特許第4006470号発明の請求項62乃至64、66、67及び70の発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」ことを趣旨として、平成21年10月27日になされた無効審判の請求であり(その無効を請求する請求項62乃至64、66、67及び70は、上記無効2009-800008では無効を請求していなかった請求項である。)、
これに対し、被請求人は、平成22年2月24日付けで答弁書および訂正請求書を提出し、
これに対して、請求人は、弁駁書(平成22年4月22日)を提出した。

以上の経緯を踏まえ、合議体の暫定的な見解等を請求人及び被請求人に通知{審理事項通知書(平成22年9月27日)}した。

請求人は、これまでの被請求人の主張(第2答弁、第2訂正請求についての主張を含む)及び上記見解等に対して、口頭審理陳述要領書(平成22年11月2日)を提出し、
その後、被請求人は、これまでの請求人の主張及び上記見解等を踏まえ、口頭審理陳述要領書(平成22年11月10日)を提出した。

〈訂正請求〉
無効2009-800222の審判手続きでなされた訂正請求による訂正した明細書・特許請求の範囲は、
無効2009-800008の審判手続きでなされた上記「第1訂正」により訂正した明細書・特許請求の範囲とは異なるものであったが、
その後、無効2009-800008の審判手続きで上記「第2訂正」がなされ、同「第2訂正」により訂正した明細書・特許請求の範囲と全く同じものとなった。
上記2つの訂正した明細書・特許請求の範囲は同じものであるから、以下、単に「訂正後の明細書・特許請求の範囲」(特許請求の範囲については、「訂正後の特許請求の範囲」)ともいう。

〈審理の併合〉
平成22年11月17日口頭審理の冒頭にて、無効2009-800008と無効2009-800222の審理は併合された。

平成21年 1月13日 審判請求(無効2009-800008)
平成21年 8月18日 第1答弁書(無効2009-800008)
平成21年 8月18日 第1訂正請求(無効2009-800008)
平成21年10月14日 弁駁書(無効2009-800008)
平成21年10月27日 上申書(請求人、無効2009-800008)

平成21年10月27日 審判請求(無効2009-800222)
平成22年 2月24日 答弁書 (無効2009-800222
平成22年 2月24日 訂正請求(無効2009-800222)
平成22年 4月22日 弁駁書 (無効2009-800222)

平成22年 7月21日 補正許否の決定(無効2009-800008)
平成22年 8月 4日 第2答弁書(無効2009-800008)
平成22年 8月 4日 第2訂正請求(無効2009-800008)

平成22年 9月27日 審理事項通知書(無効2009-800008)
平成22年 9月27日 審理事項通知書(無効2009-800222)
平成22年11月 2日 口頭審理陳述要領書(請求人、
無効2009-800008)
平成22年11月 2日 口頭審理陳述要領書(請求人、
無効2009-800222)
平成22年11月10日 口頭審理陳述要領書(被請求人、
無効2009-800008)
平成22年11月10日 口頭審理陳述要領書(被請求人、
(無効2009-800222)
平成22年11月17日 口頭審理、審理を併合
平成22年11月19日 上申書(請求人、無効2009-800008)

【第2】特許請求の範囲の記載(登録時、訂正後)
無効2009-800008
無効2009-800222

[1]登録時の特許請求の範囲の記載

設定登録時における本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1?70の各記載は,次のとおりである。

「【請求項1】
ユーザの耳の後ろに配置され、1以上のマイクロホン、バッテリ、メモリー、音声処理電子装置および音声増幅電子装置を収容する部分と、
ユーザの耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有するレシーバ部分と、
前記レシーバ部分とユーザの耳の後ろの部分との間に設けられる中間連結部と、
前記レシーバ部分を保持する保持手段と
を備えた補聴器。
【請求項2】
前記レシーバ部分は、ユーザの耳腔の外耳道に臨む軟骨領域内に少なくとも部分的に配置され、そして、
ユーザの耳腔の前記軟骨領域内に前記レシーバ部分が配置されたときの挿入損失は、最小になる寸法を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項3】
前記レシーバ部分の前記耳腔への挿入方向に直交する横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法よりも小さく、
前記レシーバ部分の周辺部の少なくとも一部は耳腔に接触しないことを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項4】
前記レシーバ部分はユーザの耳腔内に吊るされており、
前記レシーバ部分の周辺部の少なくとも大部分がユーザの耳腔に接触しないことを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項5】
前記レシーバ部分はユーザの耳腔内に吊るされており、
前記レシーバ部分の周辺部の実質的に全ての部分がユーザの耳腔に接触しないことを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項6】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約8デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項7】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約6デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項8】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約4デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項9】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項10】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約8デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項11】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約6デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項12】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約4デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項13】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項14】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約8デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項15】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約6デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項16】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約4デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項17】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項18】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法より小さいことを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項19】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の75%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項20】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の70%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項21】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の65%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項22】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の60%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項23】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の55%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項24】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の半分以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項25】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、約0.15インチ以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項26】
前記中間連結部およびレシーバ部分の少なくとも1つから延伸した前記保持手段を構成する保持ワイヤを更に備えており、そして、
前記保持ワイヤはユーザの耳甲介の少なくとも一部に係合する構成からなっていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項27】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分の耳腔内への最大挿入深さを規制することにより、耳腔内への過度の挿入がおきないように構成していることを特徴とする、請求項26に記載の補聴器。
【請求項28】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分が耳腔内へ挿入されたときに、耳腔の如何なる部分にも実質的に接触しないように構成されていることを特徴とする、請求項26に記載の補聴器。
【請求項29】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分を耳腔内に安定化させることを特徴とする、請求項26に記載の補聴器。
【請求項30】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分が耳腔内で動かないようにすることを特徴とする、請求項26に記載の補聴器。
【請求項31】
前記レシーバ部分は、第1端部および第2端部を有するケーシング内に少なくとも一部が閉じ込められたスピーカを備えており、
前記第1端部が前記中間連結部と連絡し、
前記スピーカが前記ケーシングの第2端部に設けられたポートに連絡していることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項32】
前記ポートは、膜またはメッシュ材によって、少なくとも部分的に、残滓であるデブリスに対してシールされていることを特徴とする、請求項31に記載の補聴器。
【請求項33】
前記ケーシングは、第1端部、および、第1端部からポートまで延伸するケーシングの全長に沿って前記デブリスに対してシールされていることを特徴とする、請求項32に記載の補聴器。
【請求項34】
前記ポートは、取り外し可能な耳垢収集器を備えていることを特徴とする、請求項31に記載の補聴器。
【請求項35】
前記レシーバ部分は、可聴周波数域で約8デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項36】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約2600Hzの間の周波数域で、約8デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項37】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約2600Hzの間の周波数域で、約6デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項38】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約2600Hzの間の周波数域で、約4デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項39】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約2600Hzの間の周波数域で、約2デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項40】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約2000Hzの間の周波数域で、約8デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項41】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約2000Hzの間の周波数域で、約6デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項42】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約2000Hzの間の周波数域で、約4デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項43】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約2000Hzの間の周波数域で、約2デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項44】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約1500Hzの間の周波数域で、約8デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項45】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約1500Hzの間の周波数域で、約6デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項46】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約1500Hzの間の周波数域で、約4デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項47】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約1500Hzの間の周波数域で、約2デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項48】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約1000Hzの間の周波数域で、約8デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項49】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約1000Hzの間の周波数域で、約6デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項50】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約1000Hzの間の周波数域で、約4デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項51】
前記レシーバ部分は、約200Hzから約1000Hzの間の周波数域で、約2デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項52】
前記レシーバ部分は、約500Hzから約1500Hzの間の周波数域で、約2デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項53】
前記レシーバ部分は、約500Hzから約1000Hzの間の周波数域で、約8デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項54】
前記レシーバ部分は、約500Hzから約1000Hzの間の周波数域で、約6デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項55】
前記レシーバ部分は、約500Hzから約1000Hzの間の周波数域で、約4デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項56】
前記レシーバ部分は、約500Hzから約1000Hzの間の周波数域で、約2デシベル以下の閉塞効果を生じることを特徴とする、請求項35に記載の補聴器。
【請求項57】
前記保持手段を構成する、前記中間連結部の少なくとも内部またはこれに接して部分的に設けられている補強装置と、
前記レシーバ部分及び/または前記中間連結部に設置され、ユーザの耳腔の一部から前記レシーバ部分を隔離するように構成されている支持面と、
のいずれか一方或いは双方によって、前記レシーバ部分の配置が容易に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項58】
前記補強装置は補強ワイヤであることを特徴とする、請求項57に記載の補聴器。
【請求項59】
前記補強ワイヤは金属または金属合金またはプラスチック材からなっていることを特徴とする、請求項58に記載の補聴器。
【請求項60】
前記補強ワイヤは熱可変特性を有するプラスチック材からなっていることを特徴とする、請求項58に記載の補聴器。
【請求項61】
前記金属または金属合金は、前記ワイヤがたわみ、元の形状に戻る記憶を有していることを特徴とする、請求項59に記載の補聴器。
【請求項62】
前記中間連結部は電気伝導性部品からなっており、
前記電気伝導性部品は少なくとも一部が第1の管路内に配置され、
前記補強ワイヤは前記第1の管路の外側に設けられていることを特徴とする、請求項58に記載の補聴器。
【請求項63】
前記補強ワイヤは第2の管路内に配置されていることを特徴とする、請求項62に記載の補聴器。
【請求項64】
前記補強ワイヤは前記レシーバ内または少なくともその一部分上に延伸していることを特徴とする、請求項58に記載の補聴器。
【請求項65】
前記補強装置は、前記中間連結部の少なくとも一部の中またはまわりに設けられた補強管からなっていることを特徴とする、請求項57に記載の補聴器。
【請求項66】
前記補強管は、前記中間連結部のレシーバ部分端部に設けられていることを特徴とする、請求項65に記載の補聴器。
【請求項67】
前記補強装置は、前記中間連結部の少なくとも内部またはこれに接して設けられた補強ワイヤからなっており、さらに、
前記補強ワイヤは、中間連結部の一部またはレシーバ部分からユーザの外耳に接触するまで延伸していることを特徴とする、請求項57に記載の補聴器。
【請求項68】
前記補強管は金属または金属合金からなっていることを特徴とする、請求項66に記載の補聴器。
【請求項69】
前記補強管はグースネック管からなっていることを特徴とする、請求項68に記載の補聴器。
【請求項70】
前記保持ワイヤは中間連結部およびレシーバ部分の少なくとも1つから延伸し、
前記保持ワイヤはユーザの耳甲介の少なくとも一部に係合する構成からなっており、そして、
前記保持ワイヤは補強装置の一部から延伸していることを特徴とする、請求項57に記載の補聴器。」


[2]訂正後の特許請求の範囲の記載

前記のとおり、無効2009-800222の審判手続きでなされた訂正請求による訂正した明細書・特許請求の範囲と、無効2009-800008の審判手続きでなされた上記「第2訂正」により訂正した明細書・特許請求の範囲とは同じであり、その特許請求の範囲(「訂正後の特許請求の範囲」)の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
ユーザの耳の後ろに配置され、耳腔から離れた集音位置に配置された1以上のマイクロホン、バッテリ、メモリー、前記集音位置の前記マイクロホンと接続された音声処理電子装置および音声増幅電子装置を収容する音声処理部分と、
ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分と、
前記レシーバ部分と、ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処理電子装置と、の間に設けられ、前記音声処理電子装置と前記スピーカとの間を電気的に接続する電気伝導性部品を含む中間連結部と、
前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段と
を備え、
前記集音位置の前記マイクロホンからの音を、増幅し、前記電気伝導性部品及び前記開放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部分に伝達させる補聴器。
【請求項2】
前記レシーバ部分は、ユーザの耳腔の外耳道に臨む軟骨領域内に少なくとも部分的に配置され、そして、
ユーザの耳腔の前記軟骨領域内に前記レシーバ部分が配置されたときの挿入損失は、最小になる寸法を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項3】
前記レシーバ部分の前記耳腔への挿入方向に直交する横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法よりも小さく、
前記レシーバ部分の周辺部の少なくとも一部は耳腔に接触しないことを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項4】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約8デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項5】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約6デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項6】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約4デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項7】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項8】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約8デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項9】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約6デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項10】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約4デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項11】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項12】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約8デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項13】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約6デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項14】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約4デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項15】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項16】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法より小さいことを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項17】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の75%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項18】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の70%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項19】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の65%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項20】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の60%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項21】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の55%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項22】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の半分以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項23】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、約0.15インチ以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項24】
前記中間連結部およびレシーバ部分の少なくとも1つから延伸した前記保持手段を構成する保持ワイヤを更に備えており、そして、
前記保持ワイヤはユーザの耳甲介の少なくとも一部に係合する構成からなっていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項25】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分の耳腔内への最大挿入深さを規制することにより、耳腔内への過度の挿入がおきないように構成していることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。
【請求項26】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分が耳腔内へ挿入されたときに、耳腔の如何なる部分にも実質的に接触しないように構成されていることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。
【請求項27】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分を耳腔内に安定化させることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。
【請求項28】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分が耳腔内で動かないようにすることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。
【請求項29】
前記スピーカは、第1端部および第2端部を有するケーシング内に少なくとも一部が閉じ込められており、
前記第1端部が前記中間連結部と連絡し、
前記スピーカが前記ケーシングの第2端部に設けられたポートに連絡していることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項30】
前記ポートは、膜またはメッシュ材によって、少なくとも部分的に、残滓であるデブリスに対してシールされていることを特徴とする、請求項29に記載の補聴器。
【請求項31】
前記ケーシングは、第1端部、および、第1端部からポートまで延伸するケーシングの全長に沿って前記デブリスに対してシールされていることを特徴とする、請求項30に記載の補聴器。
【請求項32】
前記ポートは、取り外し可能な耳垢収集器を備えていることを特徴とする、請求項29に記載の補聴器。
【請求項33】
前記保持手段を構成する、前記中間連結部の少なくとも内部またはこれに接して部分的に設けられている補強装置によって、前記レシーバ部分の配置が容易に構成されており、
前記保持手段は、補強ワイヤであり、
前記補強ワイヤは、金属または金属合金からなり、
前記金属または金属合金は、前記補強ワイヤがたわみ、元の形状に戻る記憶を有していることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。」

[3]登録時と訂正後の請求項との対応

登録時 訂正後
請求項1?3 請求項1?3
請求項4、5 削除
請求項6?34 請求項4?32
請求項35?60 削除
請求項61 請求項33
請求項62?70 削除

以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」などともいう。

【第3】当事者の主張(無効2009-800008)

無効2009-800008における当事者の主張は、以下の通りである。

第2訂正請求での訂正後に項番号が変わる請求項については、訂正後の項番号を〔〕内に記した。

【第3-1】請求人の主張(請求、無効2009-800008)

[1]請求の趣旨
特許第4006470号発明の請求項1乃至61、65、68及び69の発明についての特許を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

[2]請求の理由(概要)

(1)無効理由1(新規性欠如、進歩性欠如)
請求項1?61、65、68及び69に係る各特許発明は、
刊行物(甲1?7号証、甲11号証)に記載された発明または公然実施された発明(甲8・9号証、10号証)である(新規性欠如)、
もしくは、刊行物(甲1?7,甲11?14号証)に記載された発明、公然実施された発明(甲8・9号証,甲10号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(進歩性欠如)
から、特許法第29条第1項もしくは第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
上記甲12?甲14号証は、弁駁書により、請求項1?61、65、68及び69に係る各特許発明が容易想到(第29条第2項)であるとする基礎とする刊行物として追加されたものであるが、これら甲号証を追加する請求理由の補正は、平成22年7月21日付け補正許否決定により許可したものである。

(2)無効理由2(記載不備)
請求項1,2、3、6乃至25、35乃至57、59及び60に係る各特許発明は、特許法第36条第6項第1号、もしくは第36条第6項第2号、もしくは第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

(3)無効理由3(原文新規事項)
請求項25、65、68及び69に係る各特許発明は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないものであり、特許法第123条第1項第5号の規定により無効とすべきものである。

[3]請求人主張の無効理由1?3の具体的要点

[3-1]請求人主張の無効理由1(新規性進歩性欠如)の要点
-請求書、弁駁書、口答審理陳述要領書(平成22年11月2日)-

(1)請求書

(本件発明1)
請求項1に係る発明では、ユーザの耳の後ろに配置され、1以上のマイクロホン、バッテリ、メモリー、音声処理電子装置および音声増幅電子装置を収容する部分を有しているのに対し、甲1号証に開示された発明では、ユーザの耳の後ろに配置され、1以上のマイクロホン、バッテリ、音声処理電子装置および音声増幅電子装置収納する部分を有していることは明示されているものの、メモリーが明示されていない点でのみ相違する。
しかしながら、甲1号証には、音声処理電子装置および音声増幅電子処理装置は「収納する部分」に内蔵されるプログラム可能な回路によって制御されることが記載されている。プログラム処理が実施される以上、プログラム記憶部としてメモリーが存在することは技術常識であり、現に甲2号証に記載されているから、甲1号証にはメモリーの存在が記載されているに等しい。
仮にメモリーの存在が技術常識に該当しないとしても、甲2号証の技術は、補聴器に関するものであり、甲1号証と同一技術分野に属し、甲1号証と組み合わせて用いることは当業者にとって容易に推考できる。
(本件発明2)
レシーバ部分が、ユーザの耳腔の外耳道に臨む軟骨領域内に少なくとも部分的に配置されている点は、甲1号証に記載されている。
ユーザの耳腔の軟骨領域に配置されたときの挿入損失が最小となるように、レシーバ部分の寸法を設定することは、設計的事項である。
(本件発明3)
「レシーバ部分の前記耳腔への挿入方向に直交する横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法よりも小さいこと」および「レシーバ部分の周辺部の少なくとも一部は耳腔に接触しないこと」は、甲1号証に記載されている。

(本件発明4〔削除〕)
「レシーバ部分はユーザの耳腔内に吊るされていること」および「レシーバ部分の周辺部の少なくとも大部分がユーザの耳腔に接触しないこと」は、甲1号証に記載されている。
(本件発明5〔削除〕)
「レシーバ部分はユーザの耳腔内に吊るされていること」および「レシーバ部分の周辺部の実質的に全ての部分がユーザの耳腔に接触しないこと」は、甲1号証に記載されている。

(本件発明6〔4〕-17〔15〕)
挿入損失を可能な限り小さくするという課題は、甲4号証に記載されているように、本件特許の優先日前において当業者がすでに認識している課題である。従って、挿入損失を可能な限り小さくするようにレシーバ部分を構成することは、当業者にとって設計的事項に過ぎない。
本件発明6〔4〕、10〔8〕、14〔12〕の「約8デシベル以下の挿入損失」、本件発明7、11、15の「約6デシベル以下の挿入損失」、本件発明8、12、16の「約4デシベル以下の挿入損失」、本件発明9、13、17の「約3デシベル以下の挿入損失」という数値限定には、臨界的意義がなく、当業者が容易に推考することができる。
また、甲4号証には、「レシーバ部分において、可聴周波数域で、1デシベル以下の挿入損失を生じる補聴器」が開示されている。甲4号証の技術は、補聴器に関する技術であり、本件特許発明及び甲1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、甲4号証に記載された上記の特徴を甲1号証に記載されたものに組み合わせて用いることは当業者が容易に推考し得るものである。
さらに、甲8号証および甲9号証によれば、約2200Hzから約5300Hzの可聴周波数域で、3デシベル以下の挿入損失を生じる補聴器が、本件特許の優先日前に公然知られている。

(本件発明18〔16〕)
「レシーバ部分の横方向の最大寸法がユーザの耳腔の横方向の最大寸法より小さいこと」は、甲1号証に開示されている。
(本件発明19〔17〕-24〔22〕)
レシーバ部分の横方向の最大寸法をどのような寸法とするかは、当業者にとって設計的事項に過ぎない。
本件発明19の「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の75%以下」、本件発明20の「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の70%以下」、本件発明21の「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の65%以下」、本件発明22の「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の60%以下」、本件発明23の「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の55%以下」、本件発明24の「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の半分以下」という数値限定には、臨界的意義がなく、当業者が容易に推考することができる。
また、甲8号証によれば、レシーバ部分の横方向の最大寸法が3.9mmである補聴器が、本件特許の優先日前から公知である。仮に、「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法」を10mmとすると、その補聴器のレシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の39%に相当する。
さらに、甲10号証によれば、横方向の最大寸法が2.97mmである補聴器用のレシーバが、本件特許の優先日前から公然実施されている。あるいは、甲11号証によれば、横方向の最大寸法が3.36mm以下である補聴器用のレシーバは、本件特許の優先日前に頒布された刊行物に記載されている。このような小型のレシーバを採用し、レシーバを収容するレシーバ部分の横方向の最大寸法を、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の50%以下とすることは、当業者が容易に推考することができる。

(本件発明25〔23〕)
レシーバ部分の横方向の最大寸法をどのような寸法とするかは、当業者にとって設計的事項に過ぎない。
本件発明25の「約0.15インチ以下」という数値限定には、臨界的意義がなく、当業者が容易に推考することができる。
また、甲8号証によれば、レシーバ部分の横方向の最大寸法が3.9mmである補聴器が、本件特許の優先日前から公知である。3.9mmは0.154インチであるから、その補聴器のレシーバ部分の横方向の最大寸法は約0.15インチである。
さらに、甲10号証によれば、横方向の最大寸法が2.97mmである補聴器用のレシーバは、本件特許の優先日前から公然実施されている。あるいは、甲11号証によれば、横方向の最大寸法が3.36mm以下である補聴器用のレシーバは、本件特許の優先日前に頒布された刊行物に記載されている。このような小型のレシーバを採用し、レシーバを収容するレシーバ部分の横方向の最大寸法を、約0.15インチ以下とすることは、当業者が容易に推考することができる。

(本件発明26〔24〕)
「音声出力部分から延伸した保持手段を備えていること」および「保持手段はユーザの耳甲介の少なくとも一部に係合する構成からなっていること」は、甲3号証に記載されているように、周知技術である。
(本件発明27〔25〕)
保持手段によって音声出力部分の耳腔内への最大挿入深さを規制することは、例えば甲3号証に記載されているように、周知技術である。
(本件発明28〔26〕)
音声出力部分が耳腔内の如何なる部分にも実質的に接触しないように、保持手段が音声出力部分を保持することは、例えば甲3号証に記載されているように、周知技術である。
(本件発明29〔27〕)
保持手段が音声出力部分を耳腔内に安定化させることは、甲3号証に記載されているように、周知技術である。
(本件発明30〔28〕)
保持手段が音声出力部分を耳腔内で動かないようにすることは、甲3号証に記載されているように、周知技術である。
(本件発明31〔29〕)
本件発明31に係る特許発明においては、レシーバ部分は、第1端部および第2端部を有するケーシング内に少なくとも一部が閉じ込められたスピーカを備えているが、甲1号証にはスピーカが第1端部および第2端部を有するケーシング内に少なくとも一部が閉じ込められていることが明記されていない。また、本件発明31に係る特許発明においては、スピーカが前記ケーシングの第2端部に設けられたポートに連絡しているが、甲1号証にはスピーカが連絡しているポートがケーシングの第2端部に設けられていることが明記されていない。
しかしながら、甲1号証において、レシーバ部分に備えられたスピーカを、第1端部および第2端部を有するケーシング内に少なくとも一部が閉じ込められ、スピーカが前記ケーシングの第2端部に設けられたポートに連絡するように設計することは、例えば甲5号証に記載されているように、周知技術である。
もしくは、甲5号証の技術は、補聴器に関する技術であり、本件特許発明及び甲1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、甲5号証に記載された上記の点の構成を甲1号証に記載されたものと組み合わせて用いることは当業者が容易に推考できる。
(本件発明32〔30〕)
ポートが、膜によって、少なくとも部分的に、残滓であるデブリスに対してシールされていることは、甲1号証に記載されている。また、ポートが、メッシュ材によって、少なくとも部分的に、残滓であるデブリスに対してシールされていることは、甲7号証に記載されている周知技術である。
(本件発明33〔31〕)
甲1号証には、レシーバ部分にデブリスに対するシールを施すことが記載されている。レシーバ部分のどの範囲にまでデブリスに対するシールを施すかは、設計的事項に過ぎない。第1端部、および、第1端部からポートまで延伸するケーシングの全長に沿ってシールすることは、例えば、甲5号証に記載されているように、周知技術である。
(本件発明34〔32〕)
ポートが取り外し可能な耳垢収集器を備えていることは、甲1号証に記載されている。また、耳穴型の補聴器において取り外し可能な耳垢収集器を用いることは、例えば、甲7号証に記載されているように、周知技術である。

(本件発明35-56〔全て削除〕)
甲1号証には、補聴器において閉塞効果が問題となることが記載されているから、可能な限り閉塞効果が小さくなるようにレシーバ部分を構成することは、当業者が容易に推考することである。
本件発明35、36、40、44、48、53の「約8デシベル以下の閉塞効果」、本件発明37、41、45、49、54の「約6デシベル以下の閉塞効果」、本件発明38、42、46、50、55の「約4デシベル以下の閉塞効果」、本件発明39、43、47、51、52、56の「約2デシベル以下の閉塞効果」という数値限定には、臨界的意義がなく、当業者が容易に推考することができる。
さらに、甲8号証および甲9号証によれば、約200Hzから約2600Hzの可聴周波数域で、6デシベル以下の閉塞効果を生じる補聴器が、本件特許の優先日前に公然知られている。2デシベル以下の閉塞効果を生じる補聴器についても、当業者が容易に推考することができる。
(本件発明57〔削除〕)
甲1号証には、レシーバ部分の配置が容易となるように構成された中間連結部に設けられている補強装置(剛性を有する管)が記載されている。
また、レシーバ部分の配置を容易とするための補強装置を、中間連結部の少なくとも内部またはこれに接して部分的に設けることは、例えば甲6号証に記載されているように、設計的事項である。
あるいは、甲6号証の技術は、補聴器に関する技術であり、本件特許発明及び甲1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、甲6号証に記載された上記の点の構成を甲1号証に記載されたものと組み合わせて用いることは当業者が容易に推考できる。
(本件発明58〔削除〕)
中間連結部の内部に補強ワイヤを設けることは、例えば甲6号証に記載されているように、周知技術である。
あるいは、甲6号証の技術は、補聴器に関する技術であり、本件特許発明及び甲1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、甲6号証に記載された上記の点の構成を甲1号証に記載されたものに組み合わせて用いることは当業者が容易に推考できる。
(本件発明59〔削除〕)
補強ワイヤを金属または金属合金またはプラスチック材とすることは、設計的事項であり、当業者にとって容易に推考できる。
また、中間連結部の内部に金属製の補強ワイヤを設けることは、例えば甲6号証に記載されているように、周知技術である。
あるいは、甲6号証の技術は、補聴器に関する技術であり、本件特許発明及び甲1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、甲6号証に記載された上記の点の構成を甲1号証に記載されたものに組み合わせて用いることは当業者が容易に推考できる。
(本件発明60〔削除〕)
補強ワイヤを、熱可変特性を有するプラスチック材とすることは、設計的事項である。

(本件発明61〔33〕)
補強ワイヤとして、ワイヤがたわみ、元の形状に戻る記憶を有している金属または金属合金を用いることは、甲6号証に記載されている。甲6号証の技術は、補聴器に関する技術であり、本件特許発明及び甲1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、甲6号証に記載された上記の点の構成を甲1号証に記載されたものに組み合わせて用いることは当業者が容易に推考できる。

(本件発明65〔削除〕)
甲1号証には、中間連結部の少なくとも一部の中またはまわりに設けられた剛性の管を有することが記載されている。
(本件発明68〔削除〕)
補強管を金属または金属合金からなるものとすることは、設計的事項である。
(本件発明69〔削除〕)
補強管をグースネック管からなるものとすることは、設計的事項である。

(2)第2訂正後の発明について
〈弁駁書(平成21年10月14日)〉

ア 訂正後の請求項1について
仮に訂正請求が認容されるとしても、訂正請求後の請求項1に係る発明は、無効理由1を解消するものではないから、無効とすべきものである。

訂正後の本件発明1が有する特徴であると被請求人が主張する、
(i)保持手段は、前記レシーバ部が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する。
(ii)耳腔から離れたサンプリング位置(第2訂正後「集音位置」)に配置されたマイクロホンからの音を増幅し、前記電気伝導性部品及び前記開放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部に伝達させる。
は、
甲1号証に示唆されている事項、あるいは、単なる周知技術である。また、被請求人が主張する効果が特徴(i)(ii)から得られるとは認められない。従って、訂正請求後の請求項1に係る発明は、甲1号証と単なる周知技術から当業者が容易に想到し得たものである。

ア-1 上記特徴(i) ←甲1自体、又は+周知(甲12、甲13号証)
上記特徴(i)は、甲1号証に明らかに示唆されている。さらに、特徴(i)は、甲1号証に、甲12、甲13号証にも開示されている周知慣用技術を単に追加したものに過ぎず、当業者が容易に想到し得るものである。

〈耳腔の壁に触れないようにチューブ10を耳腔内に保持する点〉
・第一に、甲1号証のFig.5bには、チューブ10の上下が共に耳腔の壁から離れていることが明示されているのであるから、当業者であれば、この図から、図面手前側と奥側においても、チューブ10が耳腔の壁から離れるように配置するものと、当然に理解する。
・第二に、審判請求書第68頁25行-第69頁4行で主張したとおり、甲1号証の第4欄第19?22行には、「鉤状部材14は、イヤーカナルチューブ10を耳腔内で好ましい位置に保持するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し、耳珠の背後に留まっている」(The barb 14 extends outward from the ear canal tube 10 so that it lodges behind the tragus for keeping the ear canal tube 10 properly positioned in the ear canal.)と記載されている。チューブ10の位置を保持するのは耳腔の壁でなく鉤状部材14であることを示しているこの記載と、チューブ10の上下が耳腔の壁から離れていることを示しているFig.5bを合わせると、当業者は、鉤状部材14が、チューブ10が耳腔の壁に触れないようにチューブ10を耳腔内に保持するものと当然に理解する。
・甲12号証にも記載されているように、耳腔内にチューブ10等を挿入するに際して、耳腔に影響が少なくなるように、外耳道の壁から離して構成することは、当業者であれば、容易に想到し得る事項である。また、「耳腔の壁に触れないように音声出力部分であるチューブを耳腔内に保持する保持手段」は、甲12号証にも開示されている周知慣用技術である。
・第三に、甲1号証のFig.4a乃至4dに図示されている支持指21は、各支持指21の先端が耳腔の壁に触れることによって、支持指21が、チューブ10を耳腔の中央付近に、即ち耳腔の壁に触れずに支持するものであり、訂正請求後の請求項1の「レシーバ部が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」に相当するのは明らかである。即ち、特徴(i)は、明らかに甲1号証に示唆されている事項である。
・「保持手段」が耳腔に触れて「レシーバ部が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する」構成は、甲13号証にも開示されている周知慣用技術である。
・甲1号証のチューブの外径は0.05インチ(約1.27mm)未満であり、被請求人が訂正後の請求項23に記載した「レシーバ部の横方向の最大寸法」である0.15インチと比較しても十分小さい。さらに、チューブをより小さく細くすること(例えば、チューブ内径は0.030インチ未満(例えば約0.025インチ)もしくは他の現実的な寸法に、そしてチューブ外径は0.050インチ未満(例えば約0.045インチ)について記載されており、チューブの外径を耳腔の壁に触れないように設計することについても示唆されている。

〈スピーカを耳腔内に配置する点〉
甲1号証のFig.5bは、実質的に、スピーカを耳腔内に配置することを示している。特徴(i)は甲第1号証に明らかに示唆されている事項、あるいは周知慣用技術にすぎないと認められる。

ア-2 上記特徴(ii) ←甲1号証自体、又は+周知(甲5、甲14、甲13号証)
〈マイクロホンの集音位置を「耳腔から離れた位置」とする点〉
甲1号証の第2欄第51行?52行に、「これらのBTE装置のほかの問題は、マイクロホンが耳の後ろに位置するという事実である。(Another problem with these BTE devices is the fact that the microphone is located behind the ear.)」と記載されているように、マイクロホンの集音位置を耳の後ろ、即ち、「耳腔から離れた位置」とすることは、本件特許の出願日における公知技術、周知慣用技術であったことは明らかである。{甲1号証の他にも、甲5号証の第1図(マイクロホン2)、甲13号証の図1(マイクロホン42)、及び、甲14号証のFig.1-3}

ア-3 「挿入損失および閉塞効果を減じる」という効果について
「挿入損失および閉塞効果を減じる」という効果は、「レシーバ部が耳腔に触れない」ことによって達成されるものであるとは理解できない。

ア-4 上記特徴(i)(ii)←甲1号証+甲3号証
訂正請求後の請求項1に係る発明は、甲1号証に甲3号証に開示された公知技術を組み合わせることによって当業者が容易に発明し得るものであり、無効理由1によって無効とすべきものである。
・「耳腔」という用語は「耳甲介腔」を含むと認められ、
{本件特許の請求項1には「ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に」という記載があり、請求項1に従属する請求項2には、「ユーザの耳腔の外耳道に臨む軟骨領域」と記載があることから、本件明細書等では「耳腔」という用語は「外耳道」のみを意味するのではなく、さらに「外耳道に臨む軟骨領域」をも含むものとして用いられているものと推定されるところ、
甲16号証に示すように、耳甲介腔は外耳道の外側であり、外耳道の内側(耳の奥側)には鼓膜があって、鼓膜は外耳と中耳の間に位置しているから、「外耳道に臨む軟骨領域」は「耳甲介腔」である。}
他方、甲3号証には「耳甲介腔に「宙に浮いた状態で」配置された」耳科的装置が記載されているから(甲3号証、明細書第1頁第25行?第2頁第4行)、「前記耳腔に触れずに前記耳腔内に吊されて」いる耳科的装置の構成は、甲3号証に開示されている公知技術である。従って、これを甲1号証に記載された発明と組み合わせ、「前記耳腔に触れずに前記耳腔内に吊されて」いるレシーバ部分の構成とすることは、当業者にとって容易である。

イ 訂正後の請求項2?33について
訂正請求後の請求項1が当業者によって容易に発明できたものであることから、訂正請求後の請求項2?33に係る発明も、本件審判請求書で述べた無効理由により、無効とすべきものである。


[3-2]請求人主張の無効理由2(記載不備)の要点
-請求書、弁駁書(平成21年10月14日)、口答審理陳述要領書(平成22年11月2日)-

上記の通り、記載不備により無効を主張する請求項は、登録時請求項1-3、6-25、35-57、59、60である。
このうち第2訂正請求で請求項35-57、59,60は削除が請求されているので、記載不備により無効を主張する請求項は、第2訂正後では、請求項1-3、4-23となる。

以下、請求人の主張する無効理由の条文について、第36条第4項(違反)、同条第6項第1号(違反)、第6項第2号(違反)を、それぞれ、36-4、36-6-2,36-6-1とも略記する。

(0)登録時請求項61、第2訂正後請求項33について
ア 登録時請求項61
審判請求書では、登録時請求項61が引用する登録時の請求項59,58,57、1の記載については、記載不備の無効理由を主張しているものの、
登録時の請求項61自体の記載については、記載不備の無効理由を主張しておらず、請求項61についての記載不備による無効を主張していない。

イ 第2訂正後請求項33(登録時請求項61に対応)
弁駁書(平成21年10月14日)では、
第1訂正後の請求項33(第2訂正後請求項33、登録時請求項61に対応する)について、
22ページで「訂正請求後の請求項1-3、4-23、33に係る各特許発明は、請求人が審判請求書において主張した無効理由2により無効とすべきものである。」(22ページ)としていて、記載不備の無効理由を主張するも、
26ページでは、「(4-6)小括 上記のとおり、訂正請求後の請求項1-3、4-23に係る各特許発明は、請求人が審判請求書において主張した無効理由2により無効とすべきものである。」(26ページ)としていて、記載不備の無効理由を主張しておらず、
また、第1訂正後の請求項33(第2訂正後の請求項33)の記載については、同弁駁書中で具体的な無効理由を主張していない。
そして、第2訂正請求について、口答審理陳述要領書(平成22年11月2日)でも、「5-4 無効理由2および無効理由3について 本件審判請求書および弁駁書に記載のとおりである。」と主張しているに止まる。

ウ まとめ
以上によれば、請求人は、第2訂正後の請求項33について、記載不備であるとする無効理由を主張していない。
仮に、第2訂正後の請求項33の記載に対して、記載不備であるとする無効理由を主張しているとしても、審判請求書において主張する、登録時請求項61が引用する登録時の請求項59、58,57、1の記載について主張する記載不備の理由に止まるもので、それ以外の理由を主張をするものではない。

(1)本件発明1(請求項1の記載)
ア 「ユーザの耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法」とは、どのような寸法か不明確である。(36-6-2)
イ 明細書にかかる寸法について何ら記載されていない。(36-6-1)
ウ 請求項1の発明は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に明細書に記載されていない。(36-4)
〈弁駁書〉
「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法」のレシーバ部分は、訂正請求後の請求項1に追加された「耳腔の壁に触れずに」という要件を充足しないレシーバ部分を含むものであり、レシーバ部分の寸法に関する記載が不明瞭であることには変わりがない。

(2)本件発明2(請求項2の記載)
ア「ユーザの耳腔の軟骨領域内にレシーバ部分が配置されたときの挿入損失が最小になる寸法」とは、どのような寸法であるか不明確である。(36-6-2)
イ レシーバ部分をどのような寸法にすれば挿入損失が最小になるのか、明細書の発明の詳細な説明に記載されていない(36-6-1)
ウ 本件発明2は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に明細書に記載されていない。(36-4)
〈弁駁書〉
本件明細書の段落0008、0024には、レシーバの寸法が例示的に列挙されているだけであって、レシーバ寸法と挿入損失の関係については記載されていない。すなわち、本件明細書には、「挿入損失が最小になる寸法」については、記載も示唆もされていない。

(3)本件発明3(請求項3の記載)
「ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法」は、ユーザによって個人差があり、どのような寸法であるか不明確である。(36-6-2)
〈弁駁書〉
「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法」として、どの寸法を用いればよいか、不明確である。

(4)本件発明6〔4〕-17〔15〕(請求項6-17の記載)
ア 挿入損失の数値範囲によって特定される本件発明6-17の発明は、明細書に記載されたものとはいえない。(36-6-1)
本件特許の明細書の表1-表80には、本件特許発明に係る補聴器の挿入損失と従来の補聴器の挿入損失を比較した結果を示す実験データが記載されているが、本件特許発明に係る補聴器の挿入損失そのものを示す実験データは記載されていない。
イ 請求項6-17の発明は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に明細書に記載されていない。(36-4)
補聴器の挿入損失は、レシーバ部分の大きさや設置する位置に影響され、レシーバ部分を設置する外耳道の内径や容積といったユーザによる個人差がある要素にも影響を受けるものであるところ、本件特許の明細書には、表1-表80の実験データが得られる補聴器のレシーバ部分の具体的な寸法や設置位置等について何ら記載されておらず、請求項6-17の発明はどのように実施するかを発見するために当業者に期待し得る程度を超える思考錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものであり、本件特許の明細書から請求項6-17の発明をどのように実施するのか当業者であっても理解することができない。
ウ 請求項6-17は、明確要件違反である。(36-6-2)
本件特許の明細書の段落【0033】には、「実験誤差は、挿入効果に関して概ね5-11dBであり、閉塞効果に関して概ね3-8dBであった。」と記載されている。
請求項6-17の、
「約8デシベル以下の挿入損失」(請求項6、10、14)、
「約6デシベル以下の挿入損失」(請求項7、11、15)、
「約4デシベル以下の挿入損失」(請求項8、12、16)、
「約3デシベル以下の挿入損失」(請求項9、13、17)、
という数値限定は、いずれも明細書に記載された挿入損失の実験誤差5-11デシベルと同程度の大きさの数値を上限値として用いており、発明を明確に特定しているとはいえない。
また、約8/約6/約4/約3デシベルという数値限定は、上限値に概数が用いられており、不明確である。
請求項6-請求項9の
「約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域」、
請求項10-請求項13の
「約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域」、
請求項14-請求項17の
「約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域」
という数値限定は、上限値および下限値に概数が用いられており、不明確である。
〈弁駁書〉
段落0008、0024には、レシーバ部分の寸法が例示されているに過ぎず、例えば、表1-80に係る値を得るために、どの寸法のレシーバ部分を有する補聴器を用いたのかは記載も示唆もされていない。
さらに、比較対象とした機器に至っては、補聴器の商品名が記載されているのみであって、レシーバ部分の寸法、設置方法等の実験条件について記載も示唆もされていない。
従って、訂正請求後の請求項4-15に係る発明は、本件明細書に、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないことは明らかである。

(5)本件発明18〔16〕-24〔22〕(請求項18-24の記載)
「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法」は、ユーザによって個人差があり、どのような寸法であるか不明確である。(36-6-2)

(6)本件発明25〔23〕(請求項25の記載)
「約0.15インチ以下」という数値限定は、上限値に概数が用いられており、不明確である。(36-6-2)
〈弁駁書〉
「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法」として、どの寸法を用いればよいか、不明確である。

(7)本件発明35-56〔全て削除〕(請求項35-56の記載)
ア 閉塞効果の数値範囲によって特定される本件発明6-17の発明は、明細書に記載されたものとはいえない。(36-6-1)
本件特許の明細書の表1-表80には、本件特許発明に係る補聴器の挿入損失と従来の補聴器の閉塞効果を比較した結果を示す実験データが記載されているが、本件特許発明に係る補聴器の閉塞効果そのものを示す実験データは記載されていない。(36-6-1)
イ 請求項35-56の発明は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に明細書に記載されていない。(36-4)
補聴器の閉塞効果は、レシーバ部分の大きさや設置する位置に影響され、レシーバ部分を設置する外耳道の内径や容積といったユーザによる個人差がある要素にも影響を受けるものであるところ、本件特許の明細書には、表1-表80の実験データが得られる補聴器のレシーバ部分の具体的な寸法や設置位置等について何ら記載されておらず、請求項35-56の発明は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
ウ 請求項35-56は、明確要件違反である。(36-6-2)
本件特許の明細書の段落【0033】には、「実験誤差は、挿入効果に関して概ね5-11dBであり、閉塞効果に関して概ね3-8dBであった。」と記載されている。
請求項35?56の、
「約8デシベル以下の閉塞効果」、
「約6デシベル以下の閉塞効果」、
「約4デシベル以下の閉塞効果」、
「約2デシベル以下の閉塞効果」という数値限定は、いずれも明細書に記載された閉塞効果の実験誤差3-8デシベルと同程度の大きさの数値を上限値として用いており、発明を明確に特定しているとはいえない。
また、約8/約6/約4/約2デシベルという数値限定は、上限値に概数が用いられており、不明確である。
請求項36-請求項56の
「約200Hzから約2600Hzの間の周波数域」、
「約200Hzから約2000Hzの間の周波数域」、
「約200Hzから約1500Hzの間の周波数域」、
「約200Hzから約1000Hzの間の周波数域」、
「約500Hzから約1500Hzの間の周波数域」、
「約500Hzから約1000Hzの間の周波数域」という数値限定は、上限値および下限値に概数が用いられており、不明確である。


(8)本件発明57〔削除〕(請求項57の記載))
「レシーバ部分及び/または中間連結部に設置され、ユーザの耳腔の一部から前記レシーバ部分を隔離するように構成されている支持面」については、本件明細書に記載されておらず、「支持面」が何を意味する用語であるか不明である。(36-6-2)

(9)本件発明59〔削除〕(請求項59の記載))
補強ワイヤをプラスチック材とすることは、明細書に記載されていない。(36-6-1)

(10)本件発明60〔削除〕(請求項60の記載))
補強ワイヤを熱可変特性を有するプラスチック材とすることは、明細書に記載されていない。(36-6-1)

[3-3]請求人主張の無効理由3(原文新規事項)の要点
-請求書、弁駁書、口答審理陳述要領書(平成22年11月2日)-

口答審理陳述要領書においては、「5-4 無効理由2および無効理由3について 本件審判請求書および弁駁書に記載のとおりである。」としている。

(1)請求項25〔23〕
本件特許に係る国際出願(PCT/US2004/003449)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲及び図面には、「約0.15インチ」なる寸法は記載されていない。
〈弁駁書〉
図5に図示された外耳道が、一般的な長径、短径を有する外耳道であることは国際出願日における明細書等に記載されていない。また、仮に、図5に図示されたレシーバの横方向の径が、図5に図示された外耳道の径の1/3程度であるとしても、これによって「0.15インチ」という数値が国際出願日における明細書等に記載されているとは認められない。また、「0.15インチ」という数値が明細書等に明記されていないことは明らかであるから、「約0.15インチ」という数値に技術的意義がないことも明らかである。

(2)請求項65、68-69〔全て削除〕
本件特許に係る国際出願(PCT/US2004/003449)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲及び図面には、「中間連結部の少なくとも一部の中またはまわりに設けられた補強管」なるものは記載されておらず、「金属または金属合金からなる補強管」や「グースネック管からなる補強管」も記載されていない。

[4]証拠方法
〈審判請求書〉
甲1号証(米国特許第5,987,146号明細書およびその一部の翻訳文)
甲2号証(特開2002-152893号公報)
甲3号証(独国実用新案第29718483号明細書およびその一部の翻訳文)
甲4号証(国際公開第00/01196号およびその一部の翻訳文)
甲5号証(特開昭62-151100号公報)
甲6号証(特開平10-56698号公報)
甲7号証(米国特許第4,972,488号明細書およびその一部の翻訳文)
甲8号証(ブルコフ・アパラーテバウ・ゲー・エム・ベー・ハー(Bruckhoff Apparatebau GmbH)のヘニング・ブルコフ(Henning Bruckhoff)氏の宣誓供述書とその添付書類、およびその翻訳文)
甲9号証(デルタ(DELTA)の実験成績証明書およびその翻訳文)
甲10号証(ノウルズ・エレクトロニクス・インク(Knowles Electronics, Inc.)のダグ・エリクソン(Doug Erickson)氏の宣誓供述書とその添付書類、およびその翻訳文)
甲11号証(マイケル・バレンテ(Michael Valente),「補聴器:標準、選択および制約(Hearing Aids: Standards, Options, and Limitations)、第2版、(米国)、シーム(Thieme)社、平成14年、p.91およびその一部の翻訳文)

〈弁駁書(平成21年10月14日)〉
甲12号証(米国特許公開2002/0172386号公報およびその翻訳文である特表2003-536295号公報)
甲13号証(国際公開 第WO99/04601号公報およびその翻訳文である特表2001-510976号公報)
甲14号証(ウェイン・ジェイ・スターブ(Wayne J. Staab),「補聴器ハンドブック(HEARING AID HANDBOOK)」第1版、(米国)、タブ・ブックス(TAB BOOKS)社、昭和53年、表紙、奥付、第13頁の写しおよびその一部の翻訳文
甲15号証(「マイスター独和辞典」(抜粋)、第4版、大修館、1995年、表紙、奥付、第1431?1432頁の写し
甲16号証(ピクルス「聴覚生理学」、初版、二瓶社、1995年、表紙、奥付、第13?14頁の写し

〈口頭審理陳述要領書(平成22年11月2日)〉
甲1号証(米国特許第5,987,146号全文の翻訳文)

〈上申書(平成22年11月19日)〉
国際公開第2004/073349号(PCT/US2004/003449の国際公開)

[5]第2訂正請求について
-弁駁書、口答審理陳述要領書(平成22年11月2日)-

口答審理陳述要領書においては、「無効2009-800222号事件において提出した平成22年4月22日付けの弁駁書に記載のとおりである。」としている。

訂正は、認められない。

ア 訂正否認の理由1(明細書に記載されていない事項を含む)
本件明細書等には、マイクロホンの集音位置について何ら記載はない。
段落0027の記載は、マイクロホン自体が、耳腔から離れたユーザの耳の後ろに配置された音声処理ユニット内に収容されていることを示しているにすぎず、集音位置に関しては何ら特定してはいない。
従って、「耳腔から離れた集音位置に配置された」なる事項を追加する訂正請求は、本件明細書等に記載した範囲内でするものとはいえず、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであるから、認められるべきものではない。
仮に、マイクロホン自体の位置が即ち集音位置であると解するならば、訂正前の請求項1の「ユーザの耳の後ろに配置され、1以上のマイクロホン、・・・を収容する部分」という記載自体が既に「耳腔から離れた集音位置」にマイクロホンが配置されていることを意味するから、「耳腔から離れた集音位置」なる事項は何ら技術的意味をなさない。何ら技術的意味をなさない事項を追加する訂正請求は、特許請求の範囲の限縮、或いは、明瞭でない記載の釈明のいずれにも該当せず、本件特許権の設定登録時の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でする訂正に該当しないものであり、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第1項の規定に違反するものであるから、認められるべきではない。

イ 訂正否認の理由2(拡張・変更)
訂正前の請求項1の当該記載によれば、「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有」しているのは「レシーバ部分」であるが、訂正請求後の請求項1の記載によれば、「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有」しているのは「スピーカ」であるから、
訂正前の請求項1に係る「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有するレシーバ部分」の記載を、「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有するスピーカを含むレシーバ部分」に変更する訂正は、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当する。(同法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項)。

ウ 訂正否認の理由3(独立特許要件違反)
無効2009-800222号事件において提出した平成22年4月22日付け弁駁書記載の、無効2009-800222における訂正請求(平成22年2月24日)が認められないとする理由と同じ理由(口頭審理陳述要領書)

【第3-2】被請求人の主張(無効2009-800008)

[1]答弁の趣旨及び理由の概要

本件審判の請求は成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
訂正を請求(第2訂正請求)する。
第2訂正後の各発明には、無効理由1ないし無効理由3は存在しない。
本件特許は維持されるべきものである。

[2]答弁の理由の具体的要点

[2-1]無効理由1(新規性進歩性欠如)について
-第1答弁書、第2答弁書、口答審理陳述要領書(平成22年11月10日)-

《第2訂正後本件発明1について》

ア 甲1号証について
甲1号証には、訂正後の本件発明1の特徴的な以下の(i)(ii)の構成について、記載がない。、
(i)保持手段は、前記レシーバ部が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する。
(ii)耳腔から離れた集音位置(第1訂正後「サンプリング位置」)に配置されたマイクロホンからの音を増幅し、前記電気伝導性部品及び前記開放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部に伝達させる。

(a)上記(i)について
・甲1号証において、スピーカを耳腔内に配置することは、Fig.7、Fig.8に示されているだけである。そして、これら図において、スピーカ44を耳腔内に周りと触れずに配置することは全く示されていない。
・甲1号証には、「前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する」に相当する構成について記載がない。(第2答弁書)
・Fig.5bには、耳腔内にパイプ10が挿入されている状態が示されている。この図から、パイプ10の上下が耳腔の壁と離れていることは理解できるが、図における手前側や奥側において耳腔の壁と離れているか否かは全く示されていない。また、Fig.5bにおいて、barb14の一端はチューブ10に接続されているが、他端は耳腔のハッチングしている部分には接触していない。これより、barb14の他端は、断面でない場所で、耳の表面に接触していることが推定される。この点からも、チューブ10が耳腔の左右の壁から離れていることは、Fig.5bに示されていないことは明らかである。
・鈎状部材14がチューブ10を耳腔内に保持するという記載のみから甲1号証の鈎状部材14が、チューブ10が耳腔の壁に触れないようにチューブ10を耳腔内に保持するものとは認められない。(第2答弁書)
・甲1号証では、Fig.5bは、Fig.1のようなスピーカを含まない部材が耳腔内に保持される例を示すだけであって、スピーカを含むレシーバを耳腔内に保持するものではない。そして、チューブ10の先端部を耳腔内に壁に接触することなく、配置することについての記載はなく、ましてスピーカを含むレシーバを耳腔内に耳腔の壁から離して配置することが甲1号証に全く記載されていないことは明らかである。
さらに、甲1号証において、Fig.6?8については、スピーカ、マイクロホンの位置を変更してよいことが示されているだけであって、具体的にどのように配置するかについて全く記載がない。
・甲1号証においては、Fig.6,7,8のいずれの例においても、マイクロホンによる集音位置は耳腔内であり、スピーカまたは/およびマイクロホンを耳腔内に配置する場合、必ずチューブ30,32の2つのチューブを耳腔内に配置している。これらチューブ30,32は、比較的大きな断面積を有するものであり、これらが耳腔の壁に接触し、閉塞感を生じさせることも推定される。
・甲1号証のFig. 4 a乃至4dについて、支持指21はチューブ10の一部ではないと解釈しているが、チューブ10の先端から放射状に延びる支持指21は実質的にはチューブ10の一部を構成しており、チューブ10及び支持指21とを含む部分が第二回目の訂正請求後の請求項1に係る発明の「レシーバ部分」に相当する。
甲1号証では、支持指21を耳腔内の壁に接触させることによってチューブ10を周囲から支えるように支持するものであり、支持指21はチューブ10を耳腔内の壁に触れさせないように「吊す」ものではない。
・甲1号証では、Fig. 5 bは、Fig.1のようなスピーカを含まない部材が耳腔内に保持される例を示すだけであって、スピーカを含むレシーバを耳腔内に保持するものではない。さらに、チューブ10の先端部を耳腔内に壁に接触することなく、配置することについての記載はなく、ましてスピーカを含むレシーバを耳腔内に耳腔の壁から離して配置することが甲1号証に全く記載されていないことは明らかである。

(b)上記(ii)について
・甲1号証においては、Fig.1,6,7,8のいずれの例においても、マイクロホンによる集音位置は耳腔内である。すなわち、甲1号証では、スピーカまたは/およびマイクロホンを耳腔内に配置する場合にも、必ずチューブ30,32の2つのチューブを耳腔内に配置しており、集音位置は耳腔内である。
・甲1号証は、耳腔内を集音(サンプリング)位置とすることを前提とするものであって、集音位置を耳腔から離れた位置とすることについて、何ら記載がないことは明らかである。
・甲1号証第6欄15行?17行には、「このように、耳腔内を通過した音は、例えば耳の後で受けるより音質が改善されている。」という記載もあるが、これも耳の後などにおいて、集音することを否定するもので、耳腔内において集音すべきことを示唆しているだけである。
本件特許の請求項1に係る発明では、耳腔から離れた位置で集音することで、補聴器として十分よい音質が得られることを確認し、マイクロホンを耳腔から離れたところに配置し、これによってスピーカを含むレシーバ部を耳腔内に壁と接触することなく配置しやすくしている。
このように、本件特許の請求項1に特徴的な上述の(i)(ii)の構成について、甲1号証に全く示されておらず、またこれを示唆する記載もない。

(c)甲1号証に示されているのは、少なくとも一部を開放した状態で、耳腔内にチューブを配置することであって、レシーバを耳腔内に耳腔に触れないように吊すことは示されていない。
・甲1号証のFig.5a、5bに示されているのは、チューブ10が外耳道内にその一部が開放される状態で配置されていることであり、外耳道内に開放された状態で配置されていることは示されていない。また、スピーカを含むレシーバ部分がどのように外耳道内に配置されるかについては記載がない。
・甲1号証のFig.5a、Fig.5bには、チューブ10の一部が耳腔の壁に接触しないことを示すだけであって、それ以上の記載はない。すなわち、甲1号証のFIG.5aおよびFIG.5bには、「レシーバ部分の周辺部分の少なくとも大部分がユーザの耳腔に接触しないこと」および「レシーバ部分の周辺分実質的に全ての部分がユーザの耳腔に接触しないこと」について記載がない。

イ 本件発明1と甲2号証以下の比較について
(a)甲2号証には、耳掛け型補償器において、マイクロホン、などの他に、メモリーを有することが示されているが、本件発明1の特徴について示されていない
(b)甲3号証には、耳介において補聴器などの耳科的装置を保持する装置が記載されている。しかしながら、この甲3号証において示されているのは、外耳道の開口に向けて耳科的装置を配置する(吊す)ことであって、外耳道内にレシーバを保持することについて記載はない。
甲3号証の図1?図8にも示されているように、耳道10の入口の開口を覆うように耳科的装置20を浮かせて固定させることが記載されているだけであり、耳道10内に耳科的装置20を浮かせて固定させることはなんら開示されていない。
甲3号証における「耳甲介に「宙に浮いた状態で」配置された」耳科的装置とはまさしく耳腔の開口を覆うような形で、耳甲介に耳科的装置を配置することを意味している。
甲3号証の各図において、耳科的装置が耳腔の壁に触れないように耳腔内に配置されていることは明確に示されておらず、耳科的装置は耳甲介の中空部分に「宙に浮いた状態で」配置されているように示されていることは明らかである。
(c)甲4号証には、補聴器の挿入損失について、記載されているだけであって、本件特許の請求項1に係る発明の特徴的事項について記載がないことが明らかである。
(d)甲5号証には、「また内挿イヤホンは一般の人の外耳道に比べて小さいのでイヤーモールドシェルを必要最小限にすることにより,使用者の外耳道にすっぽりと収めることができ」と記載されている。
しかし、この甲5号証の内挿イヤホンは、イヤーモールドシェル内に収容されるものであり、このイヤーモールドシェルがユーザの耳腔に収められる。そして、イヤーモールドシェル10には、通気用のベント11も形成されており、イヤーモールドシェル10が耳腔内の壁に接触して固定されることは全く明らかである。
(e)甲6号証には、耳掛け部に形状記憶合金を使用することが示されている。しかし、この甲6号証は、耳掛け部においてユーザの耳の形状と合致させることが記載されているだけであって、本件特許各請求項に係る発明とは関係がない。
(f)甲7号証には、補聴器のケーシングに内蔵されたスピーカの出力ポートの先に設けられた障壁が示されているだけである。
(g)甲8号証には、ブルコフ・アパラーテバウ・ゲー・エム・ベー・ハーのヘニング・ブルコフ氏の宣誓供述書が示されている。
この甲8号証には、請求人がレシーバ部分と称する部分が3.9mmであることが宣誓されている。しかし、この甲8号証の補聴器が本件特許の請求項1との関係で、どのように本件特許の請求項1の記載の発明を開示しているのかは全く不明である。少なくとも、レシーバ部が外耳道の壁と接触しないことについて記載はない。従って、本件特許の請求項1に係る発明の特徴を示すものではないことは明らかである。
(h)甲9号証は、甲8号証に記載された装置の特性を示すだけであり、本件特許の請求項1に係る発明の特徴を示すものではない。
(i)甲10号証も、レシーバの最大寸法が2.97mmであると主張されているが、本件特許の請求項1との関係で、どのように本件特許の請求項1の記載の発明を開示しているのかは全く不明であり、少なくとも、レシーバ部が外耳道の壁と接触しないことについて記載はない。従って、本件特許の請求項1に係る発明の特徴を示すものではない。
(j)甲11号証は、甲10号証との関連で、レシーバのサイズについて記載があるようであるが、これが本件特許の請求項1の記載の発明を開示しているのかは全く不明である。
(k)甲12号証のFIG15には、横切る片を形成するシャンク334が端部の片340への移行部を作り、片340が外耳道タブ340に一体に結合され、外耳道タブ340が、接触なしに、外耳道326の上域に置かれると記載されている。
しかしながら、外耳道タブ340はあくまでシャンク334の端部の片340と一体に結合されている部分を意味しており、外耳道タブ340が外耳道326に接触しないように配置されているからといって、外耳から外耳道タブ340まで接続される音チューブが外耳道326に接触しないことまでを示しているとはいえない。さらに、甲12号証のFIG15では、音チューブ及びシャンク334と音チューブとの接続部分は明らかに外耳道326に接触するように記載されている。
すなわち、甲12号証において、音チューブが耳腔の壁に触れないように耳腔内に保持されていることが開示されているとは到底認められない。
また、甲12号証の図18に示された音チューブが図面の手前側と奥側においても耳腔の壁から離れているかは明確でなく、甲12号証の明細書にも音チューブが耳腔の壁から離れて配置されていることを示す記載もない。
甲12号証において例え”オープン”BTE装置は、耳への取付具が外耳道への影響が少ないために好まれ、この影響は異物による外耳道の部分閉じや塞ぎにより生じるものであることが開示されていたとしても、そのこと自体から「前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する」に相当する構成が当然に導き出されるものではない。
(l)甲13号証の明細書第3頁第22行目?第24行目には、あくまでイヤーチップの周囲の一部を通って耳内に入ることが示されているだけであり、イヤーチップの周囲全体が耳腔内の壁との間隙を有していることを示すものではない。すなわち、イヤーチップの周囲の一部が耳腔内の壁に接触していたとしても、イヤーチップの他の部分が耳腔内の壁と間隙を有するように配置されていれば外の音がイヤーチップの周囲の外耳道を通って耳内に入ることは可能であり、甲13号証の明細書第3頁第22行目?第24行目の記載はイヤーチップが耳腔内の壁に触れていないという構成を示すものではない。
中心コア56の先端から放射状に延びる花びら型部材58は実質的には音の出力部である中心コア56と一体に形成されており、中心コア56及び花びら型部材58とを含む部分が訂正請求後の請求項1に係る発明の「レシーバ部分」に相当する。
甲13号証では、花びら型部材58を耳腔内の壁に接触させることによって中心コア56を周囲から支えるように支持するものであり、花びら型部材58は中心コア56を耳腔内の壁に触れさせないように「吊す」ものではない。
(m)全般
請求人の提出したいずれの証拠にも、「音の出力部であるチューブ耳腔の壁に触れないようにチューブを耳腔内に吊されるように保持する」という構成は開示されておらず、請求人の提出したいずれの証拠に基づいたとしてもいわゆる当業者が第二回目の訂正請求後の請求項1に係る発明の構成要素(i)及び(ii)に想到することはできない。
仮に請求人の提出したいずれかの証拠に「音の出力部であるチューブが耳腔の壁に触れないようにチューブを耳腔内に吊されるように保持する」という構成が開示されていたとしても、チューブはあくまで「スピーカを含むレシーバ部」とは異なる部材であり、請求人の提出したいずれの証拠に基づいたとしてもいわゆる当業者が第二回目の訂正請求後の請求項1に係る発明の構成要素(i)及び(ii)に想到することはできない。
・本件特許権における「挿入損失および閉塞効果を減ずる」という作用効果は、耳腔の壁との間に形成されるレシー八部周辺の空間の大きさによって増減するものであり、レシーバ部が少なくとも耳腔を閉塞させない寸法を有する共に、レシーバ部が耳腔の壁に触れない状態で配置されることによって特に顕著となるものである。
・請求人が提出したいずれの証拠を如何に組み合わせたとしても第二回目の訂正請求後の請求項1に係る発明にいわゆる当業者が容易に想到することはできない。
さらに、請求人が提出したいずれの証拠にも第二回目の訂正請求後の請求項1に係る発明における上記構成要素(ii)における「マイクロホンからの音を増幅し、前記電気伝導性部品及び前記開放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部に伝達させる」という構成は開示されていない。
甲1号証には、マイクロホン及びスピーカの両方を耳腔内に配置する構成のみが開示されており、甲12号証、甲13号証には、スピーカを含まないチューブを耳腔内に配置する構成のみが開示されている。また、甲1号証、甲12号証及び甲13号証には、上記構成要素(ii)に相当する構成は何ら記載されていない。
すなわち、上記構成要素(i)及び(ii)を組み合わせた構成は、請求人が提出した多数の証拠のいずれにおいても開示されておらず、さらには上記構成要素(i)又は(ii)を組み合わせることについて示唆すらもされておらず、それ自体が上記構成要素(i)及び(ii)に想到することが当業者にとって困難であることを示している。

《訂正後本件発明2?33》
請求項2?33は、請求項1に従属しており、請求項1の構成をすべて有するものである。従って、これら請求項に係る発明も甲1号証?甲14号証から容易に発明できたものでないことは明らかである。

[2-2]無効理由2(記載不備)について
-第1答弁書、第2答弁書、口答審理陳述要領書-

口答審理陳述要領書においては、「無効2009-800008に関する平成21年8月18日付の答弁書及び平成22年8月4日付の答弁書並びに無効2009-800222に関する平成22年2月24日付の答弁書にて主張した通りである。」としている。

(1)本件発明1(請求項1の記載)
「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法」とはレシーバ部分がユーザの耳腔を閉塞させない大きさであればよいことは当業者にとって明確である。また、これによってレシーバ部分が「ユーザの耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、挿入損失および閉塞効果を減少させる」ことができる点も当業者にとって明確である。
〈第2訂正後の請求項1〉
訂正請求後の請求項1に記載の「レシーバ部分」は「少なくとも耳腔を閉塞させない寸法」を有し、かつ「耳腔の壁に触れずに耳腔内に吊されて」いるものであり、明確である。

(2)本件発明2(請求項2の記載)
明細書の段落0008,0024等のように具体的な寸法の決め方も明確に記載されており、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に明細書に記載されている。
〈第2訂正後の請求項2〉
本件明細書の段落0008,0024等に記載されているレシーバ寸法が「挿入損失が最小になる寸法」であり、訂正された請求項1において、「前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、」という構成が追加されたことを加味すれば上記構成がどのようなものであるかは十分明瞭である。

(3)本件発明3、18〔16〕-24〔22〕
「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法」にユーザによって個人差があったとしても、請求項18-24では「レシーバ部分の横方向の最大寸法」との比較によって限定しているのであるから、発明は何ら不明確ではない。「ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法」にユーザによって個人差があったとしても、ユーザ毎にその寸法を測定する等してユーザ毎の耳腔の内径方向である横方向の最大寸法に対応する寸法を有するレシーバ部分を設ければよいのであって、当該記載自体になんら不明確な点はない。
原則的には、そのユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法という明確な基準に基づいてレシーバ部分のサイズを決定すればよく、既製品として一般的な製品を提供する際には多数の被験者の平均値やKEMARのダミーヘッドの外耳道の直径に基づいてレシーバ部分のサイズを決定してもよく、「ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法」という記載は明確である。

(4)本件発明6〔4〕-17〔15〕
請求人は、特許第4006470号の請求項6-17(訂正後の請求項4-15)における「挿入損失」に係る限定は、本件特許の明細書の表1-表80において他の補聴器と本件特許発明に係る装置との比較によって示されているのであるから数値範囲は明細書に記載されたものではないと指摘している。
しかしながら、比較対象とした機器はよく知られているものであり、それらの特性は容易に測定できるものである。また、一般的な補聴器において、挿入損失は各周波数帯において0デシベル以下の値を示すものであり、本件特許の明細書の表1-表80では本件特許発明に係る装置はそれに対して各周波数帯域において請求項6-17に記載された値以下の挿入損失を示しているのであるから、特許第4006470号の請求項6-17における「挿入損失」に係る限定は本件特許の明細書に明確に記載されているものである。
レシーバ部分については本件特許明細書の段落0008,0024等のように具体的な寸法の決め方も明確に記載されており、本件特許の明細書の表1-表80に係る値を得るために特段の試行錯誤や複雑高度な実験を必要とするものではない。

(5)請求項25〔23〕
「レシーバ部分の横方向の最大寸法」が請求項1に係る限定条件を満たし、かつ「約0.15インチ以下」であればよいことを示しているのであり、概数であること自体が直ちに不明確な記載であるとはいえない。

(6)請求項35-56、57、59、60
請求項35-56、57、59、60は、訂正により削除した。

[2-3]無効理由3(原文新規事項)について
-第1答弁書、第2答弁書、口答審理陳述要領書-

口答審理陳述要領書においては、「無効2009-800008に関する平成21年8月18日付の答弁書及び平成22年8月4日付の答弁書並びに無効2009-800222に関する平成22年2月24日付の答弁書にて主張した通りである。」としている。

(請求項25〔23〕)
一般的に外耳道の径は長径10mm(0.39インチ)程度、短径8?9mm(0.31?0.35インチ)程度であり、本件特許の図面5に示すように、「レシーバ部分の横方向の最大径」は外耳道の径の1/3程度、すなわち少なくとも3.33mm(0.13インチ)以下である。このように、「レシーバ部分の横方向の最大径」は少なくとも0.15インチ以下であることは本件特許に係る国際出願の国際出願日における明細書、特許請求の範囲及び図面に記載されている。

[3]証拠方法

〈第2答弁書〉
乙1号証 『英和 ビジュアルディクショナリー 分解博物館J DK&同朋舎出版編集、株式会社 同朋舎出版、19 9 6年3月20日発行、表紙、第242頁の写し及び奥付

[4]訂正請求について

訂正を認められないとする理由はない。

【第4】当事者の主張(無効2009-800222)

無効2009-800222における当事者の主張は、以下の通りである。

【第4-1】請求人の主張(請求、無効2009-800222)
-請求書、弁駁書、口答審理陳述要領書(平成22年11月2日)-

[1]請求の趣旨
特許第4006470号発明の請求項62乃至64、66、67及び70の発明についての特許を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

[2]請求の理由

(1)無効理由1(新規性欠如、進歩性欠如)
新規性欠如〉
請求項62乃至64、66、67及び70に係る各特許発明は、
甲第1号証乃至甲14号証に記載されている発明と同一である、
進歩性欠如〉
もしくは、請求項62乃至64、66、67及び70に係る各特許発明は、
甲1号証乃至甲14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるため、
特許法第29条第1項もしくは第29条第第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

(2)無効理由2(記載不備)
請求項62乃至64、66、67及び70に係る各特許発明は、特許法第36条第6項第1号、もしくは第36条第6項第2号、もしくは第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

(3)無効理由3(原文新規事項)
請求項66、67及び70に係る各特許発明は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないものであり、特許法第123条第1項第5号の規定により無効とすべきものである。

[3]証拠方法
甲1号証(米国特許第5,987,146号明細書およびその一部の翻訳文)
甲2号証(特開2002-152893号公報)
甲3号証(独国実用新案第29718483号明細書およびその一部の翻訳文)
甲4号証(国際公開第00/01196号およびその一部の翻訳文)
甲5号証(特開昭62-151100号公報)
甲6号証(特開平10-56698号公報)
甲7号証(米国特許第4,972,488号明細書およびその一部の翻訳文)
甲8号証(ブルコフ・アパラーテバウ・ゲー・エム・ベー・ハー(Bruckhoff Apparatebau GmbH)のヘニング・ブルコフ(Henning Bruckhoff)氏の宣誓供述書とその添付書類の写し、およびその翻訳文)
甲9号証(デルタ(DELTA)の実験成績証明書の写し、およびその翻訳文)
甲10号証(ノウルズ・エレクトロニクス・インク(Knowles Electronics, Inc.)のダグ・エリクソン(Doug Erickson)氏の宣誓供述書とその添付書類の写し、およびその翻訳文)
甲11号証(マイケル・バレンテ(Michael Valente),「補聴器:標準、選択および制約(Hearing Aids: Standards, Options, and Limitations)、第2版、(米国)、シーム(Thieme)社、平成14年、p.91の写しおよびその一部の翻訳文)
甲12号証(米国特許公開2002/0172386号公報およびその翻訳文である特表2003-536295号公報)
甲13号証(国際公開 第WO99/04601号公報およびその翻訳文である特表2001-510976号公報)
甲14号証(ウェイン・ジェイ・スターブ(Wayne J. Staab),「補聴器ハンドブック(HEARING AID HANDBOOK)」第1版、(米国)、タブ・ブックス(TAB BOOKS)社、昭和53年、表紙、奥付、第13頁の写しおよびその一部の翻訳文

(上記甲1号証?甲14号証は、無効2009-800008における甲1号証?甲14号証に同じ)

[4]訂正請求について

(1)本件無効審判請求の対象となっている請求項62-64,66,67,70を削除する旨の訂正が請求されており、消滅すべきものであることについて当事者間に争いがないところ、特許法第134条の2第5項で準用する同法第128条の規定によって、遡及的に消滅されるべきである。

(2)本件無効審判請求の対象となっていない請求項(請求項1-61,65,68,69)について行う訂正は、認められるべきではないものである。

ア 訂正否認の理由1(明細書に記載されていない事項を含む)
本件無効審判請求の対象となっていない請求項について行う訂正請求は、その一部が、本件特許権の設定登録時の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でする訂正に該当しないから認められるべきではない(特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項)。
請求項1についてする「耳腔から離れた集音位置に配置された」なる事項を追加する訂正請求は、本件明細書等に記載した範囲内でするものとはいえない。

イ 訂正否認の理由2(独立特許要件違反:新規性進歩性欠如)
本件無効審判請求の対象となっていない請求項について行う訂正請求に係る発明は、本件無効審判請求書に添付した証拠に記載された発明から容易に想到し得る発明、或いは、訂正前の特許請求の範囲に記載された発明に周知慣用技術を単に付け加えた発明に過ぎず、特許法第29条第1項第3号、同第2項、の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、認められるべきではない(同法第134条の2第5項で準用する同法第126条第5項)。

ウ 訂正否認の理由3(独立特許要件違反:記載不備)
本件無効審判請求の対象となっていない請求項について行う訂正請求に係る発明は、特許法第36条第6項第1号、もしくは第36条第6項第2号、もしくは第36条第4項第1号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、認められるべきではない(同法第134条の2第5項で準用する同法第126条第5項)。


【第4-2】被請求人の主張(無効2009-800222)

[1]答弁の趣旨及び理由

本件審判の請求は成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
訂正を請求する。
本件特許の請求項62?64,66,67及び70は、訂正請求により削除したから、本件無効審判請求の請求対象自体が存在せず、無効理由も存在しない。

・請求項66,67及び70および、本件特許明細書の段落【0018】の第10行の「なお、管路34は、保持手段(補強装置)の一態様である補強管を構成している。」という記載、及び段落【0019】の第4?5行の「なお、管路38も保持手段(補強装置)の一態様である補強管を構成している。」は、訂正請求により削除したから、当該部分に係る原文新規事項追加違反はない。
・訂正後の請求項1?33は、独立特許構成要件を満たす。

[2]証拠方法
乙1号証 『マイスター独和辞典(抜粋)』、第4版、大修館、1995年、表紙、奥付、第1141?1432頁の写し
乙2号証 『英和 ビジュアルディクショナリー 分解博物館』 DK&同朋舎出版編集、株式会社 同朋舎出版、1996年3月20日発行、表紙、第242頁及び奥付の写し(無効2009-800008で提出された乙1号証に同じ。)
乙3号証 『新修ドイツ語辞典』 同学社出版、1998年2月1日発行、表紙、第390頁?第391頁及び奥付の写し


【第5】訂正の採否(当審の判断)
無効2009-800008
無効2009-800222

前記のとおり、無効2009-800008の審判手続きで上記「第2訂正」がなされたことにより、同審判手続きでなされた上記「第1訂正」は取り下げられた(特許法第134条の2第4項に基づくみなし取下げ)。
上記第2訂正請求と、無効2009-800222の審判手続きでなされた訂正請求は同じであり、
無効2009-800008でなされた上記第2訂正請求による「訂正後の明細書・特許請求の範囲」と、無効2009-800222の審判手続きでなされた訂正請求による「訂正後の明細書・特許請求の範囲」とは、全く同じものとなった。

《結論》
無効2009-800008
無効2009-800222
訂正を認める。

《理由》
無効2009-800008
無効2009-800222

[1]訂正内容
訂正請求の訂正内容は以下のとおりである。

(1)訂正A:請求項4,5,35-60,62-70を削除する訂正。

(2)特許請求の範囲についてする訂正(削除を除く)
(2-0)訂正B:請求項番号(従属元項番号を含む)を繰り上げる訂正
訂正前請求項項番号6?34、61を、それぞれ、4?32、33とする。
訂正前後の請求項の対応関係は、以下のとおりである。
登録時(訂正前) 訂正後
請求項1?3 請求項1?3
請求項4、5 削除
請求項6?34 請求項4?32
請求項35?60 削除
請求項61 請求項33
請求項62?70 削除

(2-1)訂正C:請求項1についてする訂正
C1:訂正前の「ユーザの耳の後ろに配置され、1以上のマイクロホン」を、「ユーザの耳の後ろに配置され、耳腔から離れた集音位置に配置された1以上のマイクロホン」とする訂正
C2:訂正前の「・・・メモリー、音声処理電子装置および・・・」を、「・・・メモリー、前記集音位置の前記マイクロホンと接続された音声処理電子装置および・・・」とする訂正。
C3:訂正前の「音声増幅電子装置を収容する部分」を、「音声増幅電子装置を収容する音声処理部分」とする訂正
C4:訂正前の「ユーザの耳腔内のうち」を、「ユーザの前記耳腔内のうち」とする訂正。
C5:訂正前の「・・・挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有するレシーバ部分・・・」を、「・・・前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分・・・」とする訂正。
C6:訂正前の「前記レシーバ部分とユーザの耳の後ろの部分との間に設けられる中間連結部」を、「前記レシーバ部分と、ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処理電子装置と、の間に設けられ、前記音声処理電子装置と前記スピーカとの間を電気的に接続する電気伝導性部品を含む中間連結部」とする訂正。
C7:訂正前の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」を、「前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」とする訂正。
C8:訂正前の「を備えた補聴器。」を、「を備え、前記集音位置の前記マイクロホンからの音を、増幅し、前記電気伝導性部品及び前記開放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部分に伝達させる補聴器。」とする訂正。

(2-2)訂正D:訂正前請求項31についてする訂正(訂正後請求項29)
訂正前請求項31の「前記レシーバ部分は、第1端子および第2端子を有するケーシング内に少なくとも一部が閉じ込められたスピーカを備えており」を、請求項29の「前記スピーカは、第1端部および第2端部を有するケーシング内に少なくとも一部が閉じ込められており」とする訂正。

(2-3)訂正E:訂正前請求項61についてする訂正(訂正後請求項33)
訂正前の、請求項59,58、57、すなわち、
-「【請求項57】
前記保持手段を構成する、前記中間連結部の少なくとも内部またはこれに接して部分的に設けられている補強装置と、
前記レシーバ部分及び/または前記中間連結部に設置され、ユーザの耳腔の一部から前記レシーバ部分を隔離するように構成されている支持面と、
のいずれか一方或いは双方によって、前記レシーバ部分の配置が容易に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項58】
前記補強装置は補強ワイヤであることを特徴とする、請求項57に記載の補聴器。
【請求項59】
前記補強ワイヤは金属または金属合金またはプラスチック材からなっていることを特徴とする、請求項58に記載の補聴器。」-、
及び請求項1を直接/間接的に引用する
請求項61、すなわち、
-「【請求項61】
前記金属または金属合金は、前記ワイヤがたわみ、元の形状に戻る記憶を有していることを特徴とする、請求項59に記載の補聴器。」を、

「【請求項33】
前記保持手段を構成する、前記中間連結部の少なくとも内部またはこれに接して部分的に設けられている補強装置によって、前記レシーバ部分の配置が容易に構成されており、
前記保持手段は、補強ワイヤであり、
前記補強ワイヤは、金属または金属合金からなり、
前記金属または金属合金は、前記補強ワイヤがたわみ、元の形状に戻る記憶を有していることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。」
とする訂正。

(3)明細書についてする訂正
(3-1)訂正F:明細書の段落【0018】の一部を削除する訂正
明細書の段落【0018】の「なお、管路34は、保持手段(補強装置)の一態様である補強管を構成している。」を削除する訂正。

(3-2)訂正G:明細書の段落【0019】の一部を削除する訂正
明細書の段落【0019】の「なお、管路38も保持手段(補強装置)の一態様である補強管を構成している。」を削除する訂正。

[2]訂正の適否判断

(1)訂正A:請求項の削除、について
上記訂正A:請求項4,5,35-60,62-70を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、合わせて「特許明細書等」ともいう。)に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、特許法第134条の2ただし書に適合し、特許法134条の2第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合する。

よって、上記訂正Aを認める。

(2)特許請求の範囲についてする訂正(削除を除く)

(2-0)訂正B:請求項番号(従属元項番号を含む)を繰り上げる訂正、について
上記訂正Bは、訂正前請求項項番号6?34、61を、それぞれ、4?32、33とするものであって、上記請求項の削除に伴い請求項番号(従属元項番号を含む)を単に繰り上げるものであるから、
特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、記載内容を変えることのない形式的なものであって、このこと自体は「特許明細書等」に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(2-1)訂正C:請求項1についてする訂正
ア 上記訂正C1は、訂正前の「マイクロホン」に「耳腔から離れた集音位置に配置された」という限定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「マイクロホン」は、図3、図1、図6,図7、
(登録時)特許明細書の
「【0016】・・・選択的に、マイクロホン27がシェルに設けられてもよい。マイクロホン27は、(図示しない)別の電気接続または電気インターフェースを介して、音声処理ユニットに接続されてもよい。」、
「【0027】・・・図示されたSPUは、一般的に、・・・;増幅器および音声処理部品68に接続されるマイクロホン70;・・・を備えている。」、
「【0029】 図7は、第2のSPUの態様を例示的に示す。増幅器および音声処理部品68は、・・・マイクロホン70およびSPU電気インターフェース66の各々を接続する回路基板として設けられている。」に記載されているところ、
同マイクロホンから耳腔まで延びる音伝達部材などの存在は全く認められず、上記に記載されたマイクロホン位置が、同マイクロホンの集音位置であると認められるから、「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてする訂正といえる。
また、上記限定事項の付加により、特許請求の範囲が実質上拡張し、又は変更されるものでもない。

イ 上記C2は、訂正前の「音声処理電子装置」に「前記集音位置の前記マイクロホンと接続された」という限定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、
当該限定事項は、上記段落【0016】【0027】に記載されているから、「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてする訂正といえ、これにより特許請求の範囲が実質上拡張し、又は変更されるものでもない。

ウ 上記C3は、訂正前の「音声処理電子装置」に「音声増幅電子装置を収容する音声処理部分」の下線部分「音声処理」を付加して限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてするもので、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

エ 上記C4は、「ユーザの前記耳腔内」の下線部分「前記」を付加するものであって明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてするもので、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

オ 上記C5は、訂正前の「レシーバ部分」について、その配置される状態について「前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、」との限定事項を付加し、さらに「スピーカを含む」という限定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、先の限定事項は、特許明細書の
「【0011】 他の態様において、保持ワイヤが、補強ワイヤおよびレシーバの1つから延伸している。保持ワイヤは、耳の耳甲介の部分内に位置するように構成されている。このような態様においては、保持ワイヤは、補聴レシーバの耳腔内への過度の挿入が起きないように構成される。保持ワイヤは、補聴レシーバが耳腔内の部分内に吊るされるように構成されて、レシーバのどの部分も耳腔の側面に触れることはない。」、
「【0026】 例えば、保持ワイヤ54、レシーバ16、および中間連結部20は、レシーバ16が耳腔60内に延伸するけれども、耳腔60の骨質の領域62内には延伸しないように構成される。更に、図5に示すように、保持ワイヤ54は、補聴レシーバ16が耳腔60内の部分内に吊るされるように構成して、レシーバ16のどの部分も耳腔60の側面に触れることはない。保持ワイヤ54はレシーバ16から延伸するものとして示されているけれども、その代わりに、保持ワイヤは、中間連結部20から延伸してもよい。」に記載され、
後ろの限定事項は、図1,図2、「レシーバはスピーカを備えており」(段落【0013】}に記載されているから、
「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてする訂正といえ、
また、これらの限定事項の付加により、特許請求の範囲が実質上拡張し、又は変更されるものでもない。

カ 上記C6は、訂正前の「中間連結部」に、「前記レシーバ部分と、ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処理電子装置と、の間に設けられ、前記音声処理電子装置と前記スピーカとの間を電気的に接続する電気伝導性部品を含む中間連結部」の下線部分の限定事項を付加して「中間連結部」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記限定事項は、特許明細書の
「【0027】
次に、図6に示すように、音声処理ユニット(SPU;Sound Processing Unit)は、例示的に符号番号52で指示されている。図示されたSPUは、一般的に、ハウジング64;雄3-ピン電気接続として示され、増幅器および音声処理部品68に接続されるSPU電気インターフェース66;増幅器および音声処理部品68に接続されるマイクロホン70;増幅器および音声処理部品68に電力を供給するバッテリ部品72;プッシュボタン76と共に図示されユーザインターフェースに増幅器および音声処理部品68および/またはバッテリ部品72を付与するスイッチ部品74および、SPU外部プログラムおよびリプログラムができる、および/または補聴装置に追加の内部部品を拡張することできるプログラムコネクタ78を備えている。」、
「【0019】
更に、図2に示すように、例示された電気伝導性部品30は、中間連結部20内の管路38内に設けられている。電気伝導性部品30は、スピーカ14から中間連結部20を通って電気インターフェース24まで延伸し、音声処理ユニット52(図4参照)とスピーカ14の間の電気的接続を行っている。」に記載され、
図5に、音声処理ユニット(本願請求項1の音声処理部分に相当する)は、耳腔から離れたユーザの耳の後ろに配置されていることが示されていることから、
「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてする訂正といえ、
また、上記限定事項の付加により、特許請求の範囲が実質上拡張し、
又は変更されるものでもない。

キ 上記C7は、訂正前の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」に、「前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」の下線部分の限定事項を付加して「保持手段」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記限定事項は、特許明細書の
「【0010】 他の例示的態様において、前記補強ワイヤは中間連結部内またはその一部の上に配置され、レシーバ内または少なくともその一部分上に延伸している。」、及び、
上記段落【0011】、【0026】に記載されているから、「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてする訂正といえ、
また、上記限定事項の付加により、特許請求の範囲が実質上拡張し変更されるものでもない。

ク 上記C8は、訂正前の「補聴器」に、「前記集音位置の前記マイクロホンからの音を、増幅し、前記電気伝導性部品及び前記開放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部分に伝達させる」との限定事項を付加して「補聴器」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記限定事項は、特許明細書の上記段落【0027】、【0019】に記載されているから、「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてする訂正といえ、
また、上記限定事項の付加により、特許請求の範囲が実質上拡張し、又は変更されるものでもない。

ケ まとめ(請求項1についてする訂正C)
以上のことから、上記訂正C(請求項1についてする訂正)は、
特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、
「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてするものであって、
特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない。

この訂正Cは、請求項1を引用する全ての請求項に影響し、訂正後請求項2?33が特定する事項の内容も、それぞれ、上記訂正Cと同様に減縮されるものである。

(2-2)訂正D:訂正前請求項31についてする訂正(訂正後請求項29)
上記訂正D(引用する請求項1についての訂正Cを除く)は、請求項1についてする上記訂正C5の「スピーカを含む」を付加する訂正に伴う訂正であり、特定事項が変わるものではなく、実質的に訂正するものではない。

もっとも、請求項31(訂正後請求項29)は、請求項1を引用するものであるから、請求項31(訂正後請求項29)についてする訂正D全体の内容としては、請求項1についてする上記訂正Cも含んでいるものであるから、
その内容についても、訂正Cと同様に判断される。
すなわち、訂正Dは、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、
「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてするものであって、
特許請求の範囲を実質上拡張し変更するものでもない。

(2-3)訂正E:請求項61についてする訂正(訂正後請求項33)
上記訂正E(引用する請求項1についての訂正Cを除く)は、訂正前の従属元となる請求項57,58及び59の削除に伴い、訂正前請求項61の構成要件に訂正前の従属元となる57,58及び59の構成要件を加えるのに、
訂正前請求項57の「前記保持手段を構成する、前記中間連結部の少なくとも内部またはこれに接して部分的に設けられている補強装置と、前記レシーバ部分及び/または前記中間連結部に設置され、ユーザの耳腔の一部から前記レシーバ部分を隔離するように構成されている支持面と、のいずれか一方或いは双方によって、」という択一的記載を、「前記保持手段を構成する、前記中間連結部の少なくとも内部またはこれに接して部分的に設けられている補強装置によって、」とそのうちの1つに限定したものであるから、
特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてする訂正であって、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない。

また、請求項61(訂正後請求項33)は、請求項1を引用するものであるから、請求項61(訂正後請求項33)についてする訂正E全体の内容としては、請求項1についてする上記訂正Cも含んでいる。
したがって、上記訂正Eは、
特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、
「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてするものであって、
特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない

(3)明細書の訂正
(3-1)訂正F:明細書の段落【0018】の一部削除
上記訂正Eは、請求項1について「保持手段」を限定する上記訂正C7に伴い、請求項1記載の「保持手段」と詳細な説明記載の「保持手段」を対応させ整合を図るための削除訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてするもので、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

(3-2)訂正G:明細書の段落【0019】の一部削除
上記訂正Fも、上記訂正Eと同様の削除訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。「特許明細書等」に記載した事項の範囲内においてするもので、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

(4)独立特許要件の検討をするべきか、について
上記訂正C?Eは、上記の通り、それぞれ、請求項1,31〔29〕、61〔33〕についてする特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正Cにより、訂正前請求項1?3、6?34、61はそれぞれ、内容的に減縮されて訂正後請求項1?3、4?32,33となるのであるところ、これらの訂正後請求項1?33について独立特許要件の検討をするべきか、について検討する。

(4-1)無効2009-800008における第2訂正請求
上記の訂正後請求項1?33(訂正前請求項1?3、6?34、61)は、
いずれも、無効2009-800008において、無効が請求されている請求項であるから、特許法第134条の2第5項でいう「特許無効審判の請求がされていない請求項」に該当しない。
したがって、無効2009-800008における第2訂正請求として、訂正後請求項1?33についての独立特許要件は判断しない。

(4-2)無効2009-800222における訂正請求
上記の訂正後請求項1?33(訂正前請求項1?3、6?34、61)は、
いずれも、無効2009-800222においては、無効が請求されていない請求項であるが、いずれも、無効2009-800008においては、無効が請求されている請求項であるから、特許法第134条の2第5項でいう「特許無効審判の請求がされていない請求項」に該当しない。
したがって、無効2009-800222における訂正請求としても、訂正後請求項1?33についての独立特許要件は判断しない。

(5)請求人の主張(無効2009-800008における第2訂正請求) について

請求人は、前記「【第3-1】請求人の主張[5]第2訂正請求について」のとおり、訂正否認の理由1?理由3を主張しているが、いずれも、以下のとおり、採用できない。

ア 訂正否認の理由1(明細書に記載されていない事項を含む)について
請求項1に「耳腔から離れた集音位置に配置された」なる事項を追加する訂正請求は、本件明細書等に記載した範囲内でするものとはいえない、との主張について

上記「(2)訂正C 訂正C1」について判断したとおり、
・上記訂正C1は、特許明細書・図面に記載した事項の範囲内においてする訂正といえ、
・その「集音位置」についての特定のない訂正前の「マイクロホン」に「耳腔から離れた集音位置に配置された」という限定事項を付加するものであるから、「何ら技術的意味をなさない事項を追加する」ものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
したがって、上記請求人の主張は採用し得ない。

イ 訂正否認の理由2(拡張・変更)について
請求項1について「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有するスピーカを含むレシーバ部分」とする訂正は、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当する、との主張について

訂正後の「ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分」は、
同訂正後の文言上も、発明の詳細な説明、図面に照らしてみても、「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有し」ているのが「レシーバ部分」であることは明らかである。
したがって、「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有」しているのが「スピーカ」であることを前提にいう、訂正が実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当する、とする上記請求人の主張は採用し得ない。

ウ 訂正否認の理由3(独立特許要件違反であるとの理由)について

無効2009-800008における第2訂正請求に対して、請求人は、口頭審理陳述要領書(平成22年11月2日)で、
「5-2 訂正についての請求人の主張
無効2009-800222号事件において提出した平成22年4月22日付け弁駁書記載の通りである。」としているところ、
同弁駁書(無効2009-800222)において、無効2009-800222における訂正(平成22年2月24日訂正請求)が認められない理由として、
無効2009-800222で無効請求の対象になっていない請求項(無効2009-800008における無効対象請求項)の訂正後の発明が独立特許要件違反であるとする理由{新規性進歩性欠如((3-3)訂正否認の理由2)、明細書の不備((3-4)訂正否認の理由3)5ページ?33ページ}を主張している。

しかしながら、無効2009-800222において無効請求の対象とされていない請求項は、いずれも、無効2009-800008においては無効請求の対象とされている請求項であることは前記のとおりである。
したがって、上記請求人の主張は採用し得ない。

(6)請求人の主張(無効2009-800222における訂正請求)
について

請求人は、前記「【第4-1】請求人の主張[4]訂正請求について(2)」のとおり、訂正否認の理由1?理由3を主張しているが、いずれも、以下のとおり、採用できない。

ア 訂正否認の理由1(明細書に記載されていない事項を含む)について
上記「(5)ア」と同じ理由で上記請求人の主張は採用できない。

イ 訂正否認の理由2・3(独立特許要件違反)について
無効2009-800222における訂正請求に対して、請求人は、本件無効審判請求の対象となっていない請求項(請求項1-61,65,68,69)について行う訂正は、訂正後の発明が独立特許要件違反であるから認められないと主張しているが、
上記(4-2)のとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。

(7)まとめ(訂正の適合性)
以上のとおりであるから、
無効2009-800008における上記第2訂正請求による訂正も、
無効2009-800222における訂正請求による訂正も、
特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、上記訂正は、共に、特許法第134の2ただし書に適合し、同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項、第5項(読み替え準用)の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

【第6】本件各発明
無効2009-800008
無効2009-800222

上記の如く、訂正を認めることから、本件特許の請求項1?33に係る発明は、訂正後の明細書・特許請求の範囲
{無効2009-800008における第2訂正請求により訂正した明細書・特許請求の範囲、
無効2009-800222における訂正請求により訂正した明細書・特許請求の範囲に同じ}及び設定登録時の図面の記載からみて、訂正した特許請求の範囲の請求項1?33に記載(【第2】[2]訂正後の特許請求の範囲の記載)のとおりのものである。

訂正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項33に記載のとおりの本件特許の請求項1?請求項33に係る発明を、改めて、以下、「本件発明1」、「本件発明2」、・・・、「本件発明33」という。

【第7】無効理由についての判断(無効2009-800008)
無効2009-800008

【第7-0】無効理由について検討を要する請求項
無効2009-800008

前記のとおり、本件第2訂正を認めることから、第2訂正前の設定登録時請求項4,5、35-60、62-70は削除されたので、これらの請求項についての請求人の主張する前記無効理由1,2,3については検討を要しない。
訂正後と訂正前登録時の請求項の対応関係は、以下のとおりである。
訂正明細書 訂正前設定登録時明細書
請求項1?3 請求項1?3
請求項4?32 請求項6?34
請求項33 請求項61

【第7-1】無効理由2(記載不備(特許法第36条))について
無効2009-800008

(0)無効理由2(記載不備)について検討を要する請求項
請求人が主張する無効理由2の要点は、前記【第3-1】[3-2]のとおりの記載不備がある、というものであるところ、
上記のとおり、訂正を認めることから、上記無効理由2(記載不備)について検討を要する請求項は、請求項1-3、4-23である。
以下、特許法第36条第6項第1号(違反)、同条第6項第2号(違反)、同条第4項(違反)を、それぞれ、サポート要件(違反)、明確要件(違反)、実施可能要件(違反)ともいう。

以下、検討する。

(1)本件発明1について
請求人は、前記【第3-1】[3-2](1)のように、明確要件違反、サポート要件違反、実施可能要件違反を主張している。

〈明確要件について〉
請求項1の「ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分」における、「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法」とは、
レシーバ部分の寸法が、ユーザの耳腔を閉塞させる大きさの寸法でなく、ユーザの耳腔を閉塞させることのない大きさの寸法であることを特定していると理解されるから、明確でないとはいえない。
また、請求項1の「前記耳腔の壁に触れずに」という要件は、レシーバ部分が「前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」によって保持される状態を特定していることは、明らかであって、「前記耳腔の壁に触れずに」なる記載があることが、上記レシーバ部分についての「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法」を不明確にするものでもない。
〈サポート要件、実施可能要件について〉
また、レシーバ部分が「少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法」を有していることは、段落【0008】、【0024】、図5に記載されていることは明らかであり、発明の詳細な説明には、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されていない、とはいえない。
請求項1及び発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について、明確要件、サポート要件、実施可能要件のいずれについても、満たしていないとは言えない。

(2)本件発明2について
請求人は、前記【第3-1】[3-2](2)のように、明確要件違反、サポート要件違反、実施可能要件違反を主張している。

〈明確要件、サポート要件、実施可能要件について〉
請求項2は、「前記レシーバ部分は、ユーザの耳腔の外耳道に臨む軟骨領域内に少なくとも部分的に配置され、そして、
ユーザの耳腔の前記軟骨領域内に前記レシーバ部分が配置されたときの挿入損失は、最小になる寸法を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。」であるところ、
「ユーザの耳腔の前記軟骨領域内に前記レシーバ部分が配置されたときの挿入損失は、最小になる寸法」とは、
その記載文言から、前記レシーバ部分が、「少なくとも部分的に」「ユーザの耳腔の前記軟骨領域内に配置され」る仕方には、
その一部分のみが、前記軟骨領域内に配置される場合と、
その全部が、前記軟骨領域内に配置される場合と、があり得ることは理解できるものの、
そのようなレシーバ部分の配置位置、すなわち、軟骨領域との位置関係でいうレシーバ部分の配置位置と、挿入損失が最小となることと、レシーバ部分の寸法との関係について、いかなることを特定しているのかは理解できず、不明である。
また、発明の詳細な説明にも、上記「ユーザの耳腔の前記軟骨領域内に前記レシーバ部分が配置されたときの挿入損失は、最小になる寸法」に関して、これを説明する記載もない。
したがって、請求項2の記載は明確とはいえないし、請求項2記載の発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ともいえない。
請求項2記載の発明が、発明の詳細な説明をみても明確でない以上、どのようにして実施するかも不明である。
発明の詳細な説明には、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているともいえない。
請求項2及び発明の詳細な説明の記載は、本件発明2について、明確要件、サポート要件、実施可能要件のいずれについても、満たしていない。

(3)本件発明3について
請求人は、前記【第3-1】[3-2](3)のように、明確要件違反を主張している。

請求項3は、「前記レシーバ部分の前記耳腔への挿入方向に直交する横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法よりも小さく、
前記レシーバ部分の周辺部の少なくとも一部は耳腔に接触しないことを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。」であって、
「前記レシーバ部分の前記耳腔への挿入方向に直交する横方向の最大寸法」については、同最大寸法を、「ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法」を基準とし、同基準との大小関係を限定する仕方で特定するものであるところ、
そのような仕方によるレシーバ部分の最大寸法の特定の仕方は、
引用する請求項1において「挿入損失および閉塞効果を減少させる」効果を奏するために「少なくとも前記耳腔を閉塞させない」と特定しており、また、明細書からみても「挿入損失および閉塞効果を減少させる」効果を奏するために「少なくとも前記耳腔を閉塞させない」構成を採っていると理解されることからみて、技術的思想の構成を表現する記載として合理的であり、明確であるということができる。
また、上記基準となる「ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法」にユーザによって個人差があったとしても、
基準となる「ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法」の測定が特段困難であるのであればともかく、同最大寸法の測定が特段困難とは言えないものであり、
特定のユーザについても、そのユーザのその寸法を測定すれば上記大小関係の基準を容易に知ることができるのであり、
また、一般的平均的なユーザを対象にするならば、一般的平均的な人の耳腔の内径方向である横方向の最大寸法を基準とすれば良いのであるから、
上記のような仕方で、「前記レシーバ部分の前記耳腔への挿入方向に直交する横方向の最大寸法」を特定しているからといって、「前記レシーバ部分の前記耳腔への挿入方向に直交する横方向の最大寸法」が明確でない、とは言えない。
請求項3の記載は、明確要件を満たしていない、とはいえない。

(4)本件発明4-15について
請求人は、前記【第3-1】[3-2](4)のように、明確要件違反、サポート要件違反、実施可能要件違反を主張している。

〈サポート要件について〉
請求項4-15で特定する挿入損失の数値範囲は、
「約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で」、「約8/6/4/3デシベル以下」(請求項4-7)
「約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で」、「約8/6/4/3デシベル以下」(請求項8-11)
「約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で」、「約8/6/4/3デシベル以下」(請求項12-15)とするものである。
確かに、明細書の表1-表80には、本件発明に係る補聴器の挿入損失と従来の補聴器の挿入損失を比較した差をデシベル値で示す実験データのみ記載されていて、本件発明に係る補聴器の挿入損失そのものを示す実験データは記載されていない。
しかし、明細書の段落【0005】には、【課題を解決するための手段】として、「【0005】
この発明の1つの態様は、耳鳴りを取り扱う改良されたシステムに関している。先行技術の上述した問題点、他の問題点および欠陥はこの発明の補聴器によって克服され、または、取り除かれる。この発明の補聴器は、補聴器を使用しない耳に較べて、可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じるように構成されたレシーバを備えている。」との記載があり、
また、実験及び実験データについての下記記載によれば、
本件発明の「ミクロレシーバおよび保持ワイヤを備えた実施態様に一致する構成のものである」Vivatone装置(V)を、「レシーバが耳腔の壁面に接触しないように軟骨領域内に配置された」(段落【0030】【0031】)状態で実験し、その結果「表の値は、デシベル差をプラス、マイナスで表した。表に示すように、Vivatone装置は、比較用装置に較べて周波数域の全体に亘って低い挿入効果を示している。実に、Vivatone装置は、可聴スペクトルで3デシベル以下の挿入損失を示している。」(段落【0035】)とされているのであり、
請求項4-15で特定する「約2200Hzから約5300Hz」「約3000Hzから約5000Hz」「約3500Hzから約4500Hz」の周波数範囲(実験結果を示す表1?80にも示されている)が、一般に上記 段落でいう「可聴周波数域」または「可聴スペクトル」に含まれることは明らかであることから、
請求項4-15に記載した、上記挿入損失の数値範囲は、発明の詳細な説明に記載されている、ということができる。

実施可能要件について〉
上記のとおり、「ミクロレシーバおよび保持ワイヤを備えた実施態様に一致する構成のものである」Vivatone装置(V)を、「レシーバが耳腔の壁面に接触しないように軟骨領域内に配置された」(段落【0030】【0031】)状態で実験した結果、「表の値は、デシベル差をプラス、マイナスで表した。表に示すように、Vivatone装置は、比較用装置に較べて周波数域の全体に亘って低い挿入効果を示している。実に、Vivatone装置は、可聴スペクトルで3デシベル以下の挿入損失を示している。」(段落【0035】)とされており、
また、レシーバ部分の寸法についても、段落【0008】【0024】のように、
「レシーバの寸法φ」を「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の」「半分以下」、「20%以下」、「10%以下」、「5%以下」とすると、具体的な寸法の決め方も明確に記載されていることから、
請求項4-15で特定する発明について、発明の詳細な説明には、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されていない、とはいえない。
また、請求人の提出した甲4号証には、「外耳道を閉塞しない細長いチューブやスピーカドライバハウジングといった機構によって提供されるオープンカナルのトランスデュース装置」で「例えば、平均的なユーザが減衰をほとんど認識しない、1dBもしくはそれ以下のオーダーにする」とされていることからみても、3デシベル以下の挿入損失とすることが、本件出願の優先権主張日前当業者が特に困難なく実施し得る程度のものと言うべきである。

〈明確要件について〉
ア 確かに、段落【0033】には、「実験誤差は、挿入効果に関して概ね5-11dBであり、」と記載されていて、その数値である5-11dBと、請求項4-15で特定する「約8/6/4/3デシベル」とは同程度の大きさの数値である。
しかし、下記「実験及び実験データについての明細書の記載」の段落【0032】?【0034】によれば、
「30の対象者に関して評価を行った。各対象者に対して4回、合計120回テストを行った。分析したデータは、試験実耳挿入応答曲線の値であり、これは補聴器無と補聴器有との間の差と、対象者が「EE」の文字を発生しながら繰り返された対応する値とからなっている。」(段落【0032】)、「モデルの分析は、各周波数に関して行われた。比較は、対象者、テスト順、先の装置に対して調整された。」(段落【0033】)とされていること、
明細書の表1-表80に記載された挿入効果の差値(Vivatone装置と比較用装置の差)は、表1では小数点以下2桁で、表2-80では小数点以下8桁で示されていること、
有意か否かのT-値による検定もなされていること、
からすれば、
上記5-11dBの誤差とは、対象者に対する1回1回の挿入損失の測定値(または測定値の上記差値)の偏差、つまり最も小さい測定値(挿入効果の差値)と最も大きい測定値の差をいうのであって、
意味のある値を示していると認められる表1-表80に示されている値は、30人の対象者に対して4回合計120回測定した測定値を統計処理・分析した結果の値であり、統計処理・分析して得た意味のある値が5-11dBの誤差を持っていることを意味するものではない、と理解されるというべきである。
そうすると、「実験誤差は、挿入効果に関して概ね5-11dBであり、」(段落【0033】)の記載をもって、直ちに、請求項4-15で特定する「約8/6/4/3デシベル」との数値限定が不明確ということはできない。
前記したように、本件出願の優先権主張日前、甲4号証で「1dBもしくはそれ以下のオーダーにする」としていて、このことからみても、「約8/6/4/3デシベル以下」と数値限定したからといって、発明として不明確であるともいえない。

イ また、請求項4-15では、可聴周波数範囲の下限値、上限値、及び、挿入損失を示すデシベル値の上限値を、「約」を用いて、「約2200Hz」「約3000Hz」「約3500Hz」、「約5300Hz」「約5000Hz」「約4500Hz」、及び「約8デシベル」「約6デシベル」「約4デシベル」、「約3デシベル」と特定するものではあるが、
これは、一般に物理量の測定には必ず誤差が含まれるから、例えば請求項4でいえば、ぴったり厳密に「2200Hzから5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で8デシベル以下の挿入損失」と言いきれず、そのような誤差を想定して「約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で約8デシベル以下の挿入損失」と記載したにすぎないと解せられ(また、表1-80の実験結果をみても、上記請求項に記載された周波数範囲の上限値・下限値をぴったり境にしてデシベル値が不連続に変化するというわけでもなく)、
請求項4-15の数値に「約」がついているからといって、発明が不明確であるとまではいえない。

ウ 請求項4-15及び発明の詳細な説明の記載は、本件発明4-15について、明確要件、サポート要件、実施可能要件のいずれについても、満たしていないとは言えない。

記(実験及び実験データについての明細書の記載)
【0030】
次の表は、4つの補聴装置(G= General Hearing Instrument、O=Oticon、S=Sebotek、V=Vivatone)を比較して集めたデータの静的な分析を要約している。
【0031】
テストに使用したVivatone装置は、ミクロレシーバおよび保持ワイヤを備えた上述した実施態様に一致する構成であった。Vivatone装置は、更に、レシーバが耳腔の壁面に接触しないように軟骨領域内に配置された。 テストに使用されたGeneral Hearing Instrumentは、canal-open-ear Auriscoe(登録商標)補聴器であった。テストに使用したOticon装置は、ロープロファイルのOpen Ear Acoustics(登録商標)構成であった。テストに使用したSebotek装置は、米国特許No.5,606,621(Reiter)に開示されたPAC(Post Auricular Canal)補聴器であって、上述した特許に記載された全ての内容が引用によってここに組み込まれる。
【0032】
30の対象者に関して評価を行った。各対象者に対して4回、合計120回テストを行った。分析したデータは、試験実耳挿入応答曲線の値であり、これは補聴器無と補聴器有との間の差と、対象者が「EE」の文字を発生しながら繰り返された対応する値とからなっている。2つの差は、挿入効果および閉塞効果と呼ばれる。値は、79種類の周波数(200Hzから8000Hzの間で、100Hzづつ増加)で与えられた。
【0033】
モデルの分析は、各周波数に関して行われた。比較は、対象者、テスト順、先の装置に対して調整された。実験誤差は、挿入効果に関して概ね5-11dBであり、閉塞効果に関して概ね3-8dBであった。
【0034】
比較結果を以下の表に示した。結果は各周波数に対して示した。絶対値2.444より大きいT-値は表1に含まれている。2.444より少ないT-値は、単に表1から除外されているというだけで、統計的に重要でないとは解釈されない。マイナスの値は、Vivatone装置に較べて、比較用装置の方が挿入効果、または閉塞効果が大きいことを示している。プラスの値は、比較用装置に較べて、Vivatone装置の方が挿入効果、または閉塞効果が大きいことを示している。
【0035】
以下の表は、各周波数における比較をまとめたものである。表の値は、デシベル差をプラス、マイナスで表した。表に示すように、Vivatone装置は、比較用装置に較べて周波数域の全体に亘って低い挿入効果を示している。実に、Vivatone装置は、可聴スペクトルで3デシベル以下の挿入損失を示している。更に、Oticon装置での500Hzから1300Hz域を除いて、Vivatone装置は、比較用装置に較べて周波数域で低い閉塞効果を示している。

(5)本件発明16-22について
例えば、請求項16は、「前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法より小さいことを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。」であり、
請求人が主張する無効理由は、「ユーザの耳腔の横方向の最大寸法」は、ユーザによって個人差があり、どのような寸法であるか不明確である(明確要件違反、36-6-2)、というものであるが、
これについては、上記(3)で論じたと同じ理由により、請求項16が明確要件を満たしていない、とはいえない。
請求項17-21についても、請求項16と同様、明確要件を満たしていない、とはいえない。

(6)本件発明23について
請求項23は、「前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、約0.15インチ以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。」であるところ、
請求人が主張する無効理由は、「約0.15インチ以下」という数値限定は、上限値に概数が用いられており、不明確である(明確要件違反、36-6-2)、というものである。
「前記レシーバ部分の横方向の最大寸法」についての上限を示す上記数値「約0.15インチ」も、上記「(4)〈明確要件について〉イ」と同様、
一般に物理量の測定には必ず誤差が含まれるから、そのような誤差を想定して「約0.15インチ」と記載したにすぎないと解せられ、
また、0.15インチなるサイズが、明細書において、耳腔反響特性の歪みというような挿入損失を減じる観点からみて、臨界的な技術的意義をもつ(当該値を境に挿入損失が不連続に変化する)値であるとはされておらず、
また、サイズは、一般に小さくなるほど耳腔反響特性の歪みというような挿入損失を減じる効果が高くなると考えられ、技術常識上も臨界的な技術的意義を持つ数値とはいえないこと、
からすれば、「約0.15インチ」と記載したからといって、発明が不明確であるとまではいえない。

(7)本件発明33について
前記【第3-1】[3-2](0)のとおり、(第2)訂正後の請求項33について、記載不備であるとする無効理由を主張していない。
仮に、第2訂正後の請求項33の記載に対して、記載不備であるとする無効理由を主張しているとしても、審判請求書において主張する、登録時請求項61が引用する登録時の請求項59、58,57、1の記載について主張する記載不備の理由に止まるものであるところ、
第2訂正後33は、
請求人が記載不備の無効理由があるとする記載事項である、
・「補強ワイヤは」「プラスチック材からなっていること」(登録時請求項59)
・「前記補強装置は補強ワイヤであること」(登録時請求項58)
・「レシーバ部分及び/または中間連結部に設置され、ユーザの耳腔の一部から前記レシーバ部分を隔離するように構成されている支持面」(登録時57)
を含んでおらず、
また、上記のとおり、引用する訂正後請求項1にも記載不備の無効理由があるとは言えないことから、
第2訂正後の請求項33には、請求人が主張する記載不備の無効理由があるとはいえない。

【まとめ(無効理由2:記載不備(特許法第36条)】

特許請求の範囲の請求項2及び発明の詳細な説明の記載は、本件発明2について、明確要件、サポート要件、実施可能要件のいずれについても満たしていない。
特許請求の範囲の請求項1、3?23の記載は、請求人が主張する、特許法第36条の記載要件{明確要件(36条6項2号)/サポート要件(36条6項1号)、実施可能要件(36条4項)}違反がある、とはいえない。

本件発明2に係る特許は、特許法第36条第4項、第6項第1号又は第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。
本件発明1、3?23に係る特許は、いずれも、特許法第36条第4項、第6項第1号又は第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

【第7-2】無効理由3(原文新規事項)について
無効2009-800008

ア 無効理由3について検討を要する請求項
請求人が主張する無効理由3の要点は、前記【第3-1】[3-3]のとおりの原文新規事項がある、というものであるところ、上記のとおり、訂正を認めることから、上記無効理由3(原文新規事項)について検討を要する請求項は、請求項23のみである。
イ 請求項23は「前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、約0.15インチ以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。」であるところ
無効理由は、本件特許に係る国際出願(PCT/US2004/003449)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲及び図面には、「約0.15インチ」なる寸法は記載されていない、というものである。

請求項23の、「前記レシーバ部分の横方向の最大寸法」についての上限を示す数値「約0.15インチ」は、
明細書からみても、また、技術常識からみても、耳腔反響特性の歪みというような挿入損失を減じる観点からみて、臨界的な技術的意義をもつ(当該値を境に挿入損失が不連続に変化する)数値とはいえないものであることは上記の通りであり、
このことからすれば、
請求項23は、「0.15インチ」という臨界的な数値を技術的事項とし、当該数値に技術的意義を持たせた特許権を要求しようとするものではなく、
単に、『「請求項1に記載の補聴器」に含まれる物のうち、その「レシーバ部」の「横方向の最大寸法」が「約0.15インチ以下」のサイズである物』だけに限定して、特許権を要求するものと認められる。
そうすると、請求項23に記載した上記事項が、外国語書面出願の同書面に記載した範囲内にあるか、については、
同書面に上記『』が記載されているか否か、すなわち、同書面のすべての記載を総合することにより、上記『「請求項1に記載の補聴器」に含まれる物のうち、その「レシーバ部」の「横方向の最大寸法」が「約0.15インチ以下」のサイズである物』が導き得るか否か、により判断するべきであって、
同書面内に、特に「約0.15インチ以下」という数値自体の記載が有るか無いかによってのみ判断すべきではない、ということができる。

ウ 外国語書面に、『「請求項1に記載の補聴器」に含まれる物のうち、その「レシーバ部」の「横方向の最大寸法」が「約0.15インチ以下」のサイズである物』が記載されているか、について

本件特許に係る出願は、外国語書面出願であるところ、その外国語書面である国際出願PCT/US2004/003449号(国際公開第2004/073349号参照)には下記の記載がある。
その翻訳文は、上記国際公開に対応する、本件特許に係る公表特許公報である特表2006-518152(平成18年8月3日)を採用した。

下記に摘示しない部分を含めて、上記国際公開には、特表2006-518152における日本語に翻訳される原文(明細書、請求の範囲)と図面が記載されており、
その特表2006-518152の図面、【発明の詳細な説明】に記載されている事項は、本件特許の図面、訂正明細書の【発明の詳細な説明】に記載されている事項と、段落【0002】を除き同じであり、
そして、本件発明1(訂正後請求項1)が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえることは、上記【第7-1】(1)の通りであることから、
外国語書面(国際公開第2004/073349号参照)には、
訂正後請求項1記載の事項が記載されているということができる。

そして上記外国語書面の請求項(Claim)12には、
「12.The hearing aid according to claim 11, wherein the receiver has a maximum lateral dimension that is less than five percent of the maximum lateral dimension of a user's ear canal.
(【請求項12】
前記レシーバの横方向の最大寸法が、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の5%以下であることを特徴とする、請求項11に記載の補聴器。)」と記載されているところ、
一般的に人の耳腔の横方向の最大寸法は、10mm?15mm程度であるといえ、その5%は、0.5?0.75mmであるから、
「レシーバの横方向の最大寸法が0.5?0.75mmのサイズである補聴器」が記載されていると言える。
0.15インチは約0.15×25.4mm=3.81mmであるから、上記0.5?0.75mmは、0.15インチより十分小さいことは明らかである。
したがって、外国語書面には、上記の『「請求項1に記載の補聴器」に含まれる物のうち、その「レシーバ部」の「横方向の最大寸法」が「約0.15インチ以下」のサイズである物』が記載されている、いうことができる。


記{外国語書面(国際公開第2004/073349号)}の記載
「CLAIMS
1.A hearing aid, comprising: a receiver positioned within the ear canal of a user, the receiver generating no more than about three decibels of insertion loss over audible frequencies.
2.The hearing aid according to claim 1, wherein the receiver generates no more than about two decibels of insertion loss over audible frequencies.
3.The hearing aid according to claim 2, wherein the receiver generates no more than about one decibel of insertion loss over audible frequencies.
4.The hearing aid according to claim 1, wherein the receiver generates no more than about three decibels of insertion loss over audible frequencies between about 2200 Hertz and about 5300 Hertz.
5.The hearing aid according to claim 4, wherein the receiver generates no more than about three decibels of insertion loss over audible frequencies between about 3000 Hertz and about 5000 Hertz.
6.The hearing aid according to claim 5, wherein the receiver generates no more than about three decibels of insertion loss over audible frequencies between about 3500 Hertz and about 4500 Hertz.
7.The hearing aid according to claim 1, wherein the receiver is positioned within the cartilaginous region of the ear canal of the user.
8.The hearing aid according to claim 1, wherein the receiver has a maximum lateral dimension that is less than half the maximum lateral dimension of a user's ear canal.
9.The hearing aid according to claim 8, wherein the receiver has a maximum lateral dimension that is less than thirty percent of the maximum lateral dimension of a user's ear canal.
10.The hearing aid according to claim 9, wherein the receiver has a maximum lateral dimension that is less than twenty percent of the maximum lateral dimension of. a user's ear canal.
11.The hearing aid according to claim 10, wherein the receiver has a maximum lateral dimension that is less than ten percent of the maximum lateral dimension of a user's ear canal.
12.The hearing aid according to claim 11, wherein the receiver has a maximum lateral dimension that is less than five percent of the maximum lateral dimension of a user's ear canal.
13.The hearing aid according to claim 1, further comprising a sound processing unit; and an intermediate connecting portion between the sound processing unit and the receiver, wherein the intermediate connecting portion comprises an electrical conducting component and a stiffening wire, provided on at least a portion of the intermediate connecting portion.
14.The hearing aid according to claim 13, wherein the stiffening wire comprises a metal or alloy of metals.
15.The hearing aid according to claim 14, wherein the metal or alloy of metals has memory such that the wire may deflect and return to an original orientation.
16.The hearing aid according to claim 13, wherein the electrical conducting portion is provided at least partially within a first channel, and wherein the stiffening wire is provided external to the first channel.
17.The hearing aid according to claim 16, wherein the stiffening wire is provided within a second channel.
18.The hearing aid according to claim 13, wherein the stiffening wire extends within or on at least a portion of the receiver.
19.The hearing aid according to claim 1, further comprising a sound processing unit; and an intermediate connecting portion, wherein a retaining wire extends from at least one of the intermediate connecting portion and the receiver, and further wherein the retaining wire is configured to engage at least a portion of the concha of a user's ear.
20.The hearing aid according to claim 19, wherein the intermediate portion comprises a stiffening element, and wherein the retaining wire extends from a portion of the stiffening element.
21.The hearing aid according to claim 19 or 20, wherein the retaining wire is configured such that the hearing aid has a maximum insertion depth into an ear canal.
22.The hearing aid according to claim 19 or 20, wherein the retaining wire is configured such that the hearing aid does not substantially contact any portion of an ear canal when inserted within the ear canal.
23.The hearing aid according to claim 1, further comprising a sound processing unit; and an intermediate connecting portion including at least two electrical conducting components provided within the intermediate connecting portion.
24.The hearing aid according to claim 23, wherein the at least two electrical conducting components are provided within at least two channels at least partially isolated from one another.
25.The hearing aid according to claim 24, wherein a stiffening wire is provided within an at least partially separate channel of the intermediate connecting portion.
26.The hearing aid according to claim 1, wherein the receiver comprises a speaker, at least partially enclosed within a casing having first and second end portions, the first end portion communicating with an intermediate connecting portion, the speaker communicating with a port provided at the second end portion of the casing.
27.The hearing aid according to claim 26, wherein the port is at least partially sealed to fluids by a membrane or mesh material.
28.The hearing aid according to claim 27, wherein the casing is sealed to fluids at the first end portion and along a length of the casing extending from the first end portion to the port.
29.The hearing aid according to claim 26, wherein the port includes a removable cerumen collector.
30.A hearing aid, comprising : a receiver, configured to be positioned within the cartilaginous region of a user's ear canal, the receiver dimensioned so as to minimize insertion loss upon positioning of the receiver within the cartilaginous region.
31.The hearing aid according to claim 30, wherein the receiver generates no more than about three decibels of insertion loss over audible frequencies between about 2200 Hertz and about 5300 Hertz.
32.The hearing aid according to claim 30, wherein the receiver has a maximum lateral dimension that is less than twenty percent of the maximum lateral dimension of a user's ear canal.
33.The hearing aid according to claim 30, further comprising a sound processing unit ; and an intermediate connecting portion, wherein a retaining wire extends from at least one of the intermediate connecting portion and the receiver, and further wherein the retaining wire is configured to engage at least a portion of the concha of a user's ear.
34.The hearing aid according to claim 30, further comprising a sound processing unit; and an intermediate connecting portion between the sound processing mit and the receiver, wherein the intermediate connecting portion comprises an electrical conducting component and a stiffening wire, provided on at least a portion of the intermediate connecting portion.
35.The hearing aid according to claim 30, further comprising a sound processing unit ; and an intermediate connecting portion including at least two electrical conducting components provided within the intermediate connecting portion, wherein the at least two electrical conducting components are provided within at least two channels at least partially isolated from one another.
36.A hearing aid, comprising: a receiver, configured to be positioned within a user's ear canal, the receiver having a maximum lateral dimension that is less than thirty percent of the maximum lateral dimension of a user's ear canal.
37.The hearing aid according to claim 36, wherein the receiver has a maximum lateral dimension that is less than twenty percent of the maximum lateral dimension of a user's ear canal.
38.The hearing aid according to claim 36, wherein the receiver has a maximum lateral dimension that is less than ten percent of the maximum lateral dimension of a user's ear canal.
39.A hearing aid, comprising: a receiver ; a sound processing unit; and an intermediate connecting portion, wherein a retaining wire extends from at least one of the intermediate connecting portion and the receiver, and further wherein the retaining wire is configured to engage at least a portion of the concha of a user's ear.
40.A hearing aid, comprising: a receiver; a sound processing unit; and an intermediate connecting portion, wherein the intermediate connecting portion comprises an electrical conducting component and a stiffening wire, provided on at least a portion of the intermediate connecting portion.
41.A hearing aid, comprising: a receiver ; a sound processing unit; and an intermediate connecting portion, including at least two electrical conducting components provided within the intermediate connecting portion, wherein the at least two electrical conducting components are provided within at least two channels at least partially isolated from one another.

HEARING AID SYSTEM BACKGROUND
A wide variety of hearing aid units are known in the art. Insertion of hearing aid receivers in the ear produces an insertion loss, which reflects a distortion or elimination of the patient's natural or original concha and ear canal resonant characteristics. The presently described hearing aid is configured to eliminate or significantly reduce such insertion losses.

(翻訳文:特表2006-518152
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの耳腔内に配置される、可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じるレシーバを備えた補聴器。
【請求項2】
前記レシーバが、可聴周波数域で、約2デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項3】
前記レシーバが、可聴周波数域で、約1デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項2に記載の補聴器。
【請求項4】
前記レシーバが、約2200Hzから約5300Hzの可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項5】
前記レシーバが、約3000Hzから約5000Hzの可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項4に記載の補聴器。
【請求項6】
前記レシーバが、約3500Hzから約4500Hzの可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項5に記載の補聴器。
【請求項7】
前記レシーバが、ユーザの耳腔の軟骨領域内に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項8】
前記レシーバの横方向の最大寸法が、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の半分以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項9】
前記レシーバの横方向の最大寸法が、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の30%以下であることを特徴とする、請求項8に記載の補聴器。
【請求項10】
前記レシーバの横方向の最大寸法が、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の20%以下であることを特徴とする、請求項9に記載の補聴器。
【請求項11】
前記レシーバの横方向の最大寸法が、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の10%以下であることを特徴とする、請求項10に記載の補聴器。
【請求項12】
前記レシーバの横方向の最大寸法が、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の5%以下であることを特徴とする、請求項11に記載の補聴器。
【請求項13】
前記補聴器が、音声処理ユニット、および、前記音声処理ユニットと前記レシーバの間の中間連結部を更に備え、前記中間連結部は、前記中間連結部の少なくとも一部に設けられた電気伝導性部品、および、補強ワイヤを備えていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項14】
前記補強ワイヤは金属または金属合金からなっていることを特徴とする、請求項13に記載の補聴器。
【請求項15】
前記金属または金属合金が、前記ワイヤがたわみ元の形状に戻る記憶を有していることを特徴とする、請求項14に記載の補聴器。
【請求項16】
前記電気伝導性部品は少なくとも一部が第1の管路内に配置され、前記補強ワイヤは前記第1の管路の外側に設けられていることを特徴とする、請求項13に記載の補聴器。
【請求項17】
前記補強ワイヤは第2の管路内に配置されることを特徴とする、請求項16に記載の補聴器。
【請求項18】
前記補強ワイヤは前記レシーバ内または少なくともその一部分上に延伸していることを特徴とする、請求項13に記載の補聴器。
【請求項19】
前記補聴器が、音声処理ユニット、および、中間連結部を更に備え、補強ワイヤが中間連結部およびレシーバの少なくとも1つから延伸し、そして、前記補強ワイヤがユーザの耳の耳甲介の少なくとも一部に係合する構成からなっていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項20】
前記中間連結部は補強部材を備えており、そして、前記補強ワイヤは前記補強部材の一部から延伸していることを特徴とする、請求項19に記載の補聴器。
【請求項21】
前記補強ワイヤは、前記補聴器が耳腔内への最大挿入深さを有するように構成されていることを特徴とする、請求項19または20に記載の補聴器。
【請求項22】
前記補強ワイヤは、耳腔内へ挿入されたときに、耳腔の如何なる部分にも実質的に接触しないように構成されていることを特徴とする、請求項19または20に記載の補聴器。
【請求項23】
前記補聴器が、音声処理ユニット、および、その中に設けられた少なくとも2つの電気伝導性部品を備えた中間連結部を更に備えていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項24】
少なくとも2つの前記電気伝導性部品は、相互に少なくとも一部が分離された少なくとも2つの管路内に設けられていることを特徴とする、請求項23に記載の補聴器。
【請求項25】
補強ワイヤが、前記中間連結部の少なくとも部分的に分離した管路内に設けられていることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。
【請求項26】
前記レシーバは、第1端部および第2端部を有するケーシング内に少なくとも一部が閉じ込められたスピーカを備えており、前記第1の端部が前記中間連結部と連絡し、前記スピーカがケーシングの第2端部に設けられたポートに連絡していることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項27】
前記ポートは、膜またはメッシュ材によって、少なくとも部分的に水密にシールされていることを特徴とする、請求項26に記載の補聴器。
【請求項28】
前記ケーシングは、第1端部、および、第1端部からポートまで延伸するケーシングの全長に沿って水密にシールされていることを特徴とする、請求項27に記載の補聴器。
【請求項29】
前記ポートは、取り外し可能な耳垢収集器を備えていることを特徴とする、請求項26に記載の補聴器。
【請求項30】
ユーザの耳腔の軟骨領域内に位置するように構成されたレシーバを備え、前記レシーバが、軟骨領域内に位置したときに挿入損失が最小であるような寸法であることを特徴とする補聴器。
【請求項31】
前記レシーバが、約2200Hzから約5300Hzの可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項30に記載の補聴器。
【請求項32】
前記レシーバの横方向の最大寸法が、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の20%以下であることを特徴とする、請求項30に記載の補聴器。
【請求項33】
前記補聴器が、音声処理ユニット、および、中間連結部を更に備え、補強ワイヤが中間連結部およびレシーバの少なくとも1つから延伸し、そして、前記補強ワイヤがユーザの耳の耳甲介の少なくとも一部に係合する構成からなっていることを特徴とする、請求項30に記載の補聴器。
【請求項34】
前記補聴器が、音声処理ユニット、および、前記音声処理ユニットと前記レシーバの間の中間連結部を更に備え、前記中間連結部は、前記中間連結部の少なくとも一部に設けられた電気伝導性部品、および、補強ワイヤを備えていることを特徴とする、請求項30に記載の補聴器。
【請求項35】
前記補聴器が、音声処理ユニット、および、その中に設けられた少なくとも2つの電気伝導性部品を備えた中間連結部を更に備えており、そして、少なくとも2つの前記電気伝導性部品は、相互に少なくとも一部が分離された少なくとも2つの管路内に設けられていることを特徴とする、請求項30に記載の補聴器。
【請求項36】
ユーザの耳腔内に位置するように構成されたレシーバを備え、前記レシーバの横方向の最大寸法が、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の30%以下であることを特徴とする補聴器。
【請求項37】
前記レシーバの横方向の最大寸法が、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の20%以下であることを特徴とする、請求項36に記載の補聴器。
【請求項38】
前記レシーバの横方向の最大寸法が、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の10%以下であることを特徴とする、請求項36に記載の補聴器。
【請求項39】
レシーバ、音声処理ユニット、および、中間連結部を備え、補強ワイヤが前記中間連結部および前記レシーバの少なくとも1つから延伸し、前記補強ワイヤがユーザの耳の耳甲介の少なくとも一部に係合するように構成されていることを特徴とする補聴器。
【請求項40】
レシーバ、音声処理ユニット、および、中間連結部を備え、前記中間連結部は、前記中間連結部の少なくとも一部に設けられた電気伝導性部品、および、補強ワイヤを備えていることを特徴とする補聴器。
【請求項41】
レシーバ、音声処理ユニット、および、中間連結部を備え、前記補聴器が、音声処理ユニット、および、その中に設けられた少なくとも2つの電気伝導性部品を備えた中間連結部を更に備えており、少なくとも2つの前記電気伝導性部品は、相互に少なくとも一部が分離された少なくとも2つの管路内に設けられていることを特徴とする補聴器。

【背景技術】
【0002】
多岐にわたる各種の補聴ユニットが知られている。補聴レシーバの耳内への挿入によって、挿入損失が生じる。挿入損失は、患者の自然のまたは元々の耳甲介および耳腔反響特性が歪み、または、無くなってしまうことを表すものである。ここに記述する補聴器は、このような挿入損失を取り除き、または、著しく減じるものである。)」

エ まとめ
以上によれば、訂正後の請求項23に係る発明は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないものである、とはいえないことから、
訂正後の請求項23には、請求人が主張する無効理由3(原文新規事項)があるとはいえない。

【まとめ(無効理由3:原文新規事項】
本件発明23に係る特許は、請求項23に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないから特許法第123条第1項第5号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

【第7-3】無効理由1(新規性欠如、進歩性欠如)について
無効2009-800008

[0]無効理由1について検討を要する請求項
請求人が主張する無効理由1の要点は、新規性がない又は進歩性がない{前記【第3-1】の[2](1)及び[3-1]}というものであるところ、
上記のとおり、訂正を認めることから、上記無効理由1について検討を要する請求項は、請求項1-33である。
新規性欠如の主張は、本件発明1-33(請求項1-33)は、刊行物(甲1?7号証、甲11号証)に記載された発明である、または、公然実施された発明(甲8・9号証、甲10号証)である、というものであり、
進歩性欠如の主張は、本件発明1-33(請求項1-33)は、甲1?7号証,甲11?14号証に記載された発明、公然実施された発明(甲8・9号証、甲10号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、というものである。

以下、甲1号証、甲2号証などを、「甲1」、「甲2」などともいい、
甲1号証記載の発明を「甲1発明」などともいう。

本件発明1?33は、前記【第2】[2]の、訂正後の特許請求の範囲の記載の各請求項1?33に係る発明であって、独立請求項は請求項1のみであり、まず、請求項1記載の発明(本件発明1)について検討する。

[1]本件発明1(分説)
請求項1に係る本件発明1は、下記のとおり構成要件A?Eに分説される。

記(本件発明1の構成要件の分説)
A ユーザの耳の後ろに配置され、耳腔から離れた集音位置に配置された1
以上のマイクロホン、バッテリ、メモリー、前記集音位置の前記マイク
ロホンと接続された音声処理電子装置および音声増幅電子装置を収容す
る音声処理部分と、
B ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、
前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に
吊されており、挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくと
も前記耳腔を閉塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分と、
C 前記レシーバ部分と、ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処
理電子装置と、の間に設けられ、前記音声処理電子装置と前記スピーカ
との間を電気的に接続する電気伝導性部品を含む中間連結部と、
D 前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記
耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳
腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保
持する保持手段と
を備え、
E 前記集音位置の前記マイクロホンからの音を、増幅し、前記電気伝導性
部品及び前記開放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部分に伝
達させる補聴器。

[2]本件発明1の新規性判断(甲1号証)
本件発明1が甲1号証記載の発明であるか、について

[2-1]甲1号証(米国特許第5,987,146号明細書)の記載

甲1号証には、以下の記載がある。
翻訳文は、請求人の提出した口頭審理陳述要領書添付のものを基本とし、合議体で翻訳し直した箇所は下線と共にその直後に(*)と表示した。
また、甲1発明認定の基礎となる事項等の注目箇所には下線を施した。

(K1)「1. Field of the Invention
The present invention relates to an open ear canal hearing aid system, and more particularly to an open ear canal hearing aid system including a sound processor for amplifying sounds included within a predetermined amplitude and frequency range and means for transmitting sounds to the ear canal and for receiving sounds which are in the ear canal.
((K1);1.発明の分野
本発明は、オープンイヤーカナル型の補聴器に関し、より詳細には、予め決められた振幅と周波数範囲に含まれる音声を増幅する音声処理装置と、音声を外耳道に伝達する手段および外耳道内の音声を受音する手段とを備えるオープンイヤーカナル型の補聴器に関する。)

(K2)「2. State of the Art
・・・
The largest population of people having hearing impairments includes those having mild hearing losses with normal hearing in the low frequency ranges and hearing losses in the higher frequency ranges. In particular, the most problematic sounds for people having such mild hearing losses are high frequency sounds at low amplitudes (soft sounds).
Conventional hearing aids employ electronic hearing aid devices. Through various signal processing techniques, sounds to be delivered to the ear are rebuilt and supplemented to facilitate and optimize the hearing of the user throughout the usable frequency range. However, these devices block the ear canal so that little or no sounds reach the ear in a natural, unaided manner. Furthermore, such devices have drawbacks, such as feedback, when used with communication devices such as telephones.
Conventional hearing aids generally provide adequate hearing throughout the entire speech frequency range for most hearing impairments. However, these types of devices are not optimal for people having mild hearing losses for a number of reasons. ・・・These hearing aids can therefore degrade certain sounds that the mild hearing loss user could otherwise hear adequately without any aid. Additionally, these traditional hearing aids are overly complicated and burdensome to users having mild hearing losses.
((K2);従来技術
・・・(前略)・・・
聴覚障害者のうち最も多くを占めるのは、低周波数範囲では正常な聴力を有し、より高い周波数範囲になると聴力損失を呈する軽度難聴者である。特に、このような軽度の難聴を有する人にとって最大の問題となる音は、振幅が小さい高周波数の音声(弱い音声)である。
従来の補聴器は、電子補聴装置を用いる。耳に送り込まれる音声が様々な信号処理技術を用いて再構築され、補完されることで、ユーザーの聴力は全ての有効周波数範囲にわたって促進され、最適化される。しかしながら、こうした装置は外耳道を塞ぐため、音声が補助がないときのように自然に耳に届くことは、ほとんど、または全くなくなる。さらに、かかる装置には、電話機などの通信装置と同時に使用するとき、ハウリングなどの欠点が生じる。
従来の補聴器は、概してほとんどの聴覚障害向けに全音声周波数にわたり十分な聴力を提供する。しかしながら、こうしたタイプの装置は、いくつかの理由から軽度難聴者には最適でない。・・・(中略)・・・したがって、本来ならば軽度難聴ユーザーは何ら補助がなくとも十分に聞き取ることのできる特定の音声が、こうした補聴器では劣化し得る。さらに、こうした従来の補聴器は、軽度の難聴を有するユーザーにとっては過度に複雑で煩わしいものである。)」

(K3)「Conventional hearing aid systems cause an additional problem known as the occlusion effect. The occlusion effect is the increased loudness of certain sounds due to transmission of sound by tissue conduction when the ear canal is blocked and air conduction is impeded, resulting in sounds which are both unnatural and uncomfortable for the user. In particular, the user's own voice sounds different than normal when the ear is blocked.
((K3);従来の補聴器では、閉塞効果として知られるさらなる問題を引き起こす。閉塞効果とは、外耳道が塞がれて空気伝導が妨げられる場合に、組織伝導によって音声が伝達されることに起因して、特定の音声の大きさが増大することであり、ユーザーにとって不自然で心地よくない音声をもたらす。特に、耳が塞がれると、ユーザー自身の声が通常とは異なって聞こえる。)

(K4)「In an effort to alleviate some of the aforementioned problems, some behind-the-ear (BTE) aids have been designed with a special tube fitting. These types of aids include a tube that extends into the ear canal and is held in place by an ear mold that leaves the ear canal generally unobstructed. The relatively open ear canal overcomes some of the problems mentioned above. However, these types of aids suffer from a number of other significant problems.
For example, like other BTE hearing aids, the "tube fitting" aids typically employ a rigid ear hook that connects to a soft tube which in turn connects to a rigid ear mold. The tubing is straight, but has the disadvantage that the tube does not hold the device in place. The result is that this type of BTE hearing aid requires a large ear hook and a large, hard, close-fitting ear mold to maintain the position of the tube within the ear canal. The large size of these components results in a cosmetically unattractive device. Also, the ear mold has to be custom-manufactured, which adds to the cost of the device and the time needed to fit the hearing aid.
((K4);上述の問題のいくつかを軽減する取り組みがなされるなか、特別なチューブフィッティング用に設計された耳掛け(BTE)型補聴器が設計されている。こうしたタイプの補聴器は、外耳道の中まで延伸するチューブを備え、外耳道を概して閉塞しないイヤモールドによって正しい(適切な)(*held in place)位置に保持される状態とする。比較的開放された外耳道により、上述の問題のいくつかが解消される。しかしながら、こうしたタイプの補聴器は、他にいくつかの重大な問題を抱える。
例えば、他の耳掛け型補聴器と同様に、前記の「チューブフィッティング型」補聴器は、典型的には硬質のイヤフックを用い、これが軟質のチューブに結合(*connect)され、次にそのチューブが硬質のイヤモールドに結合(*)される。チューブ材は直状であるが、そのチューブが装置を正しい(適切な)位置(*in place)に保持しない点で不利である。その結果、このタイプの耳掛け型補聴器では、外耳道内でのチューブの位置を維持するために、大型のイヤフックと、大型で硬い、密着した形で取り付けるイヤモールドとが必要となる。これらの部品の寸法が大きいことで、装置は外見上の魅力に欠けたものとなる。また、イヤモールドは特別注文に応じて製造しなければならないため、装置の費用、および補聴器の取り付けに必要な時間が増す。)」

(K5)「Another problem with these BTE devices is the fact that the microphone is located behind the ear. The microphone can have trouble picking up sounds from various directions because of being located behind the ear. In addition, the microphone can pick up too much background sound such as hair rubbing on a shirt when the user turns his/her head.
None of the above-described systems are directed to a hearing aid system which specifically solves only the hearing needs of people having mild hearing loss. Because people with mild hearing loss have normal hearing for many sounds, it is desirable to provide a hearing aid system which allows these sounds to pass through the ear canal unaided and to be heard in a natural manner and to only compensate and aid the sounds that the user has difficulty hearing. It is further desirable that such a hearing aid be cosmetically attractive and comfortable to wear while providing better sound pick-up for the microphone.
((K5);こうした耳掛け型装置の別の問題は、マイクロホンが耳の後ろ側に位置するという事実である。マイクロホンは、耳の後ろ側に位置するため、様々な方向から音声を収音することが困難であり得る。加えて、マイクロホンは、ユーザーが振り向いたときに髪の毛がシャツと擦れ合う音など、背景音を過剰に収音し得る。
上述のシステムのいずれも、軽度難聴者の必要聴力のみを特別に解決する補聴器を対象としたものではない。軽度難聴者は、ほとんどの音について正常聴力を有することから、そうした音は補助なしに外耳道を通過させて自然な形で聞こえるようにし、ユーザーが聞き取りに困難を感じる音声のみを補償および補助することが可能な補聴器を提供することが望ましい。さらに、かかる補聴器は、外見上魅力的で装用感が良いと同時に、マイクロホンの収音性の向上を提供することが望ましい。)

(K6)「SUMMARY OF THE INVENTION
An open ear canal hearing aid system is disclosed which comprises a plurality of ear canal tubes sized for positioning in an ear canal of a user so that the ear canal is at least partially open for directly receiving ambient sounds. The open ear canal hearing aid system further comprises a sound processor for amplifying ambient sounds received through one of the ear canal tubes within a predetermined frequency range and to produce processed sounds and for supplying the processed sounds through another of the ear canal tubes. According to other embodiments of the present invention, the speaker and/or microphone can be located in the ear canal at the end of the ear canal tubes. In these embodiments, the speaker and/or microphone are electrically connected to the sound processor by wires in one or more ear canal tubes.
((K6);発明の概要
オープンイヤーカナル型の補聴器が開示され、これは、直接周囲の音を受けることができるように外耳道の少なくとも一部が開放するようにユーザーの外耳道内に配置できる寸法の複数のイヤーカナルチューブを含む。オープンイヤーカナル型の補聴器は、イヤーカナルチューブの1つを通じて受音された、予め決められた周波数範囲の周囲の音を増幅して処理された音声を生成し、かつその処理された音声を別のイヤーカナルチューブを通じて提供する音声処理装置をさらに含む。本発明の他の実施形態に従えば、スピーカおよび/またはマイクロホンは、外耳道内にあるイヤーカナルチューブの先端に位置し得る。これらの実施形態では、スピーカおよび/またはマイクロホンは、1つまたは複数のイヤーカナルチューブ内のワイヤによって音声処理装置と電気的に接続される。)

(K7)「In FIG. 1, an open ear canal hearing aid system 1 includes an ear canal tube 10 sized for positioning in the ear of a user so that the ear canal is at least partially open for directly receiving ambient sounds. The ear canal tube 10 is connected to a hearing aid tube 30. This connection can be made by tapering the ear canal tube 10 so that the hearing aid tube 30 and the ear canal tube 10 fit securely together. Alternately, a connector or the like can be used for connecting the ear canal tube 10 and the hearing aid tube 30, or the hearing aid tube 30 and the ear canal tube 10 can be incorporated into a single tube.
The hearing aid tube 30 is also connected to a case 40. The case 40 encloses a sound processor 48, a receiver 44, and a microphone 42, as will be described below with reference to FIG. 9. A second ear canal tube 32 is connected to an input of the microphone and extends into the ear canal of the user. The end of the ear canal tube 32 that is in the ear canal is open so as to receive ambient sounds. The ambient sounds then travel through the tube 32 to the input of the microphone 42. By locating the end of the microphone input in the ear canal, the sounds received at the microphone have better quality due to the filtering and reception of sounds by the human ear.
According to an exemplary embodiment, the case 40 is designed to fit behind the ear.
((K7);図1において、オープンイヤーカナル型の補聴器1は、周囲の音を直接受けることができるように、ユーザの耳内に設置したとき外耳道が少なくとも一部は開放される大きさのイヤーカナルチューブ10を備えている。イヤーカナルチューブ10は、補聴器チューブ30に結合(*connect)される。この結合(*)は、イヤーカナルチューブ10をテーパ状にすることで、補聴器チューブ30とイヤーカナルチューブ10とを互いに嵌合させて固定することによって行われ得る。あるいは、コネクタなどを使用してイヤーカナルチューブ10と補聴器チューブ30とを結合(*)してもよく、または補聴器チューブ30とイヤーカナルチューブ10とを1本のチューブに組み込んでもよい。
補聴器チューブ30はまた、ケース40とも結合(*)される。ケース40には、以下で図9を参照して説明するとおり、音声処理装置48と、レシーバ44と、マイクロホン42とが内蔵される。第2のイヤーカナルチューブ32がマイクロホンの入力と接続され、これはユーザーの外耳道内まで延伸する。外耳道内にあるイヤーカナルチューブ32の端部は、周囲の音を受けることができるように開放している。次に周囲の音は、チューブ32を通じてマイクロホン42の入力まで進む。マイクロホン入力の端部を外耳道に位置決めすることで、音声のフィルタリングおよび受音が人間の耳によるため、マイクロホンで受音される音声がより良質となる。 例示的な実施形態に従えば、ケース40は耳の後ろ側に取り付けるように設計される。)

(K8)「FIG. 1 further shows a barb 14 that can be attached to one side of the ear canal tube 10. The barb 14 extends outward from the ear canal tube 10 so that it lodges behind the tragus for keeping the ear canal tube 10 properly positioned in the ear canal. The arrangement of the barb 14 in the ear canal is described in more detail with reference to FIGS. 5a and 5b. The barb 14 can be made of soft material (e.g., rubber-like material) so as not to scratch the ear tissue. At the end of the ear canal tube 10, the tip 12 can be soft so that the ear canal wall does not become scratched.
The tube 10 can be formed to the contour of the ear and can be made of a material that has some stiffness (e.g., plastic or other material). This makes the whole assembly, including the case 40, the tubes 10, 30, and 32, the barb 14, and the tip 12, work as a unit to maintain the location of the device upon the ear. The tube 10 can be made flexible enough to allow the hearing aid to be inserted and removed easily.
・・・
According to an exemplary embodiment of the present invention, the tubing can be made small and thin. For example, the tubing can have an inner diameter of less than 0.030 inches (for example, approximately 0.025 inches) or any other practical dimension, and an outside diameter of less than 0.050 inches (for example, approximately 0.045 inches) or any other practical dimension, for most uses (compared to an outer diameter of 0.125 inches in conventional hearing aid systems). This small size makes the tubing less visible and therefore more cosmetically attractive.
・・・
The tip 12 can be a separate component that fits over the tube 10 or can be formed as part of the tube. Using separate components for the tip 12 and the tube 10 permits more adjustment of each of these components and permits the materials of these components to be separately optimized.
((K8);さらに図1は、イヤーカナルチューブ10の一端に装着され得る鉤状部材(barb)14を示す。鉤状部材(barb)14は、イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置〔*properly positioned〕に保持するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し、耳珠の背後に留まっている。外耳道内における鉤状部材(barb)14の配置については、図5aおよび図5bを参照してさらに詳細に説明される。鉤状部材(barb)14は、耳の組織を傷付けないよう、軟質の材料(例えば、ゴム状材料)で作製され得る。イヤーカナルチューブ10の末端(*At the end of the ear canal tube 10)にあるチップ(*tip)12は、外耳道壁が傷付かないような柔軟なものであり得る。 チューブ10は、いくらか硬質の材料(例えばプラスチックやその他の材料など)で作られており、耳に沿う形状とすることができる。これによって、ケース40、チューブ10、30および32、鉤状部材(barb)14、そしてチップ(*tip)12を含む組立品全体が、耳上(*)における装置の位置を維持するユニットとして機能する。チューブ10は、補聴器の挿入および取り出しを簡単に行うことができるように十分な可撓性を有し得る。
・・・
本発明の例示的な実施形態に従えば、チューブ材は、細く、かつ薄いものとされ得る。例えば、チューブ材は、ほとんどの用途について(従来の補聴器における0.125インチの外径と比較して)、内径が0.030インチ未満(例えば、約0.025インチ)か、または任意の他の実際的な寸法であってもよく、および外径が0.050インチ未満(例えば、約0.045インチ)か、または任意の他の実際的な寸法であってもよい。このように細径であることにより、チューブ材が見えにくくなり、従って外見上の魅力が増す。 ・・・
チップ(*tip)12は、チューブ10に被せて嵌める別個の部品であってもよく、またはチューブの一部として形成されてもよい。チップ(*tip)12とチューブ10とに別の部品を用いると、これらの部品の各々の調節性を高めることが可能となり、かつこれらの部品の材料を個別に最適化することが可能となる。)

(K9)「Yet another advantage of using separate tips is that the tips can be easily replaced or removed for cleaning. Wax and moisture pose potential problems for the tip. FIGS. 4a-4d show open ear canal hearing aid systems for reducing wax and moisture buildup according to the present invention. In FIG. 4a, a cross-sectional slice of a tip 12 having three support fingers 21 is provided, wherein the tube orifice is covered with a wax block 18a (attached, for example, adhesively or formed as an integral component) such that, during the insertion of the tube 10 in the ear, wax is prevented from entering the tube. The wax block 18a is supported in front of tip 12 via support posts 20. FIG. 4b shows an end view of the wax block 18a associated with the open ear canal hearing aid system shown in FIG. 4a. In FIG. 4c, a cross-sectional slice of a tip 12 having four support fingers 21 is provided, wherein a thin membrane 18b covers the end of the tube. This membrane can be made of plastic. The membrane 18b prevents wax and moisture from entering the tube 10 but is nearly transparent to audio frequencies. The membrane 18b can be made relatively stiff so that low frequencies are attenuated. FIG. 4d shows an end view of the membrane of the open ear canal hearing aid system shown in FIG. 4c. The various tips for reducing wax and moisture buildup illustrated in FIGS. 4a-4d can also be used at the open end of ear canal tube 32.
((K9);別個のチップ(*tip)を使用する更なる利点は、洗浄のために簡単に取り替えたり取り外したりできることである。耳あかおよび水分は、チップ(*tip)に問題を引き起こす可能性がある。図4a乃至図4dは、本発明に係る耳あかおよび水分の蓄積を低減するオープンイヤーカナル型の補聴器を示す。図4aには、3本のサポートフィンガー21を有するチップ(*tip)12の断面が提供される。ここでは、チューブ10を耳に挿入する間に耳あかがチューブに侵入するのを防ぐため、チューブの開口が耳あか防止具18a(例えば接着することによって装着されるか、または一体の部品として形成される)により被覆されている。耳あか防止具18aは、支柱20によってチップ(*tip)12の前方に支持される。図4bは、図4aに示されるオープンイヤーカナル型の補聴器に関連する耳あか防止具18aの端面図を示す。図4cには、4つのサポートフィンガー21を有する先端12の断面が示されている。ここにおいて、薄膜18bはチューブの端部を被覆している。この薄膜は、プラスチックで作ることができる。薄膜18bは、耳あかや水分がチューブ10に侵入することを防ぐが、可聴周波数にはほとんど影響しない。薄膜18bは、低周波数を減衰するように比較的硬質とされ得る。図4dは、図4cに示されるオープンイヤーカナル型の補聴器の薄膜の端面図を示す。耳あかおよび水分の蓄積を低減するための、図4a乃至図4dに示される様々なチップ(*tip)は、イヤーカナルチューブ32の開放端にも用いることができる。)」

(K10)「FIGS. 5a and 5b show the fitting of the open ear canal hearing aid system 1 in a BTE configuration. As shown in FIG. 5a, the ear canal tube 10 fits within the ear canal, and the barb 14 is positioned to hold the ear canal tube 10 in the ear canal. To better show this, a view of the fitting of the open ear canal hearing aid system along cross section "A" of FIG. 5a is shown in FIG. 5b. The hearing aid tube 30 is then formed to extend behind the ear and connected to the case 40 which is placed, for example, behind the ear. The hearing aid tube 30 can come over the top of the ear and into the ear canal as illustrated in FIG. 5a or can come from underneath the ear before entering the ear canal.
((K10);図5aおよび図5bは、耳掛け型構成のオープンイヤーカナル型の補聴器1のフィッテイグ(*)を示す。図5aに示すように、イヤーカナルチューブ10は外耳道内にフィッテイグ(*)され、鉤状部材(barb)14はイヤーカナルチューブ10を外耳道内で保持するように配置されている。これをより分かり易く示すため、図5aの断面「A」に沿ったオープンイヤーカナル型の補聴器の取り付けの図が、図5bに示される。ここで、補聴器チューブ30は耳の後ろ側に延伸するように形成され、ケース40と結合(*)される。ケース40は、例えば耳の後ろ側に配置される。補聴器チューブ30は、図5aに示されるように耳の上側から回り込んで外耳道の中に入ってもよく、または耳の下側から出て外耳道に入り込んでもよい。)」

(K11)「As illustrated in FIGS. 6-8, the microphone 42 and/or the speaker 44 can be moved out of the behind-the-ear component and placed at the end of the ear canal tubes 30 and 32 so as to be located within the ear canal. As noted above, the sounds which a human ear receives are filtered by the outer ear and ear canal. Thus, the sounds which travel into the ear canal have a better quality than the sounds which would be received, for example, behind the ear. Rather than using the ear canal tube 32 to transport sounds to the microphone 42, located in the behind-the-ear component, the microphone can be moved to the end of the ear canal tube 32 which is located in the ear canal, as illustrated in FIG. 6. Alternately, the microphone can stay in the behind-the-ear component and the speaker can be moved to the end of the ear canal tube 30, as illustrated in FIG. 7. Alternately, both the microphone and the speaker can be located at the ends of ear canal tubes 32 and 30, respectively, as illustrated in FIG. 8. In all of these embodiments, when either the microphone or speaker are located in the ear canal at the end of the ear canal tubes, bidirectional wires run through the tubes from the microphone and/or speaker back to the sound processing system 46. Of course any wires which run between the components placed in the ear canal, and components located outside the ear canal, can be routed in a separate tube or in the wall of any tube used for sound transmission. It will be understood by those skilled in the art that the microphone and speaker can also be located anywhere between the case 40 and the end of the ear canal tube(s).
((K11);図6乃至図8に記載されているように、マイクロホン42および/またはスピーカ44は耳掛け部分から取り出して、外耳道内に配置するために、イヤーカナルチューブ30及び32の先端に置くことができる。上述のとおり、人間の耳が受ける音声は、外耳および外耳道によってフィルタリングされる。したがって外耳道を通る音声は、例えば、耳の後ろ側で受ける音声より良質である。イヤーカナルチューブ32を用いて音声を耳掛け部分に位置するマイクロホン42に送るのではなく、図6に示されるように、マイクロホンを、外耳道内に位置するイヤーカナルチューブ32の先端に移すことができる。あるいは、図7に示されるように、マイクロホンは耳掛け部分から動かさず、スピーカをイヤーカナルチューブ30の先端に移すことができる。あるいは、図8に示されるように、マイクロホンおよびスピーカの双方が、それぞれイヤーカナルチューブ32および30の先端に位置してもよい。これら全ての実施形態において、マイクロホンもしくはスピーカがイヤーカナルチューブの先端で外耳道内に配置される場合には、マイクロホンまたは/およびスピーカから音声処理装置46まで、2系統のワイヤが管内を通っている。当然ながら、外耳道内に配置される部品と、外耳道の外部に位置する部品との間に通るいずれのワイヤも、別のチューブに、または音声の伝送に用いられる任意のチューブの壁に配線することができる。当業者は、マイクロホンおよびスピーカが、ケース40と1つまたは複数のイヤーカナルチューブの先端との間のどこに位置してもよいことを理解するであろう。)

(K12)「FIG. 10 illustrates a block diagram of exemplary circuitry enclosed by the case 40 according to one embodiment of the present invention. A programmable multiband compressor system 60 receives a sound signal from an input 42 such as a microphone, a telecoil, or by direct audio input. The output of, for example, the microphone 42 is coupled a preamplifier 64 and an automatic gain control circuit (AGC) 62. The output of the preamplifier in the automatic gain control circuit 62 is coupled to a programmable band split filter 66, which separates the audio signal into plural (for example, high and low) frequency bands. In the FIG. 10 embodiment, the low frequency band output of the programmable band split filter 66 is coupled to a programmable compressor 68 and the high frequency band output of the programmable band split filter 66 is coupled to a programmable compressor 70. The outputs of the low band compressor 68 and the high band compressor 70 are coupled to respective inputs of a summing circuit 72, which combines the output signals to produce a composite audio signal. The composite audio signal is then applied to an amplifier which amplifies the composite audio signal to a level sufficient to drive the speaker 44.
The system 60 further includes a voltage regulator 74 for supplying a regulated voltage to various circuits of the system 60. The programmable multiband compressor system 60 can be powered by a single cell, low voltage battery 78.
The programmable multiband compressor system 60 is adapted to receive a plurality of control signals which can be generated by an external control circuit 80. The control circuit 80 is coupled to the band split filter 66 and the low and high band compressors 68 and 70, respectively. The control signals generated by the control circuit 80 are adapted to control the frequency split between the low and high frequency band as well as the gain and compression ratio of the low and high frequency compressor 68 and 70, to generate a desired response for the system to compensate for virtually any type of hearing impairment.
((K12);図10は、本発明の一実施形態に係るケース40に内蔵された回路の一例のブロック図である。プログラム可能なマルチバンドコンプレッサシステム60は、マイクロホン、テレコイル、直接の音声等の入力を受ける。例えばマイクロホン42の出力は、前置増幅器64と自動利得制御回路(AGC)62とに連結される。自動利得制御回路62の前置増幅器の出力は、プログラム可能な帯域分割フィルタ66に連結され、これにより音声信号が複数の(例えば、高および低)周波数帯域に分割される。図10の実施形態では、プログラム可能な帯域分割フィルタ66の低周波数帯域出力がプログラム可能なコンプレッサ68に連結され、かつプログラム可能な帯域分割フィルタ66の高周波数帯域出力がプログラム可能なコンプレッサ70に連結される。低帯域コンプレッサ68および高帯域コンプレッサ70の出力は、加算回路72のそれぞれの入力に連結され、加算回路72が出力信号を接続することで、複合音声信号が生成される。次に複合音声信号が増幅器にかけられ、それにより複合音声信号がスピーカ44を駆動するのに十分なレベルまで増幅される。
システム60は、システム60の様々な回路に調整された電圧を供給するための電圧調整器74をさらに備える。プログラム可能なマルチバンドコンプレッサシステム60は、単セルの低電圧電池78によって作動させることができる。
プログラム可能なマルチバンドコンプレッサシステム60は、外部制御回路80によって生成され得る複数の制御信号を受信するように構成される。制御回路80は、帯域分割フィルタ66と、低帯域コンプレッサ68および高帯域コンプレッサ70とに連結される。制御回路80により生成された制御信号は、低周波数帯域と高周波数帯域との間の周波数分割ならびに低周波数コンプレッサ68および高周波数コンプレッサ70の利得および圧縮比を制御することにより、システムに望ましい応答を生成して、実質的にいかなるタイプの聴覚障害も補償するように構成される。)

(K13)「Because people with mild hearing losses make up the largest segment of hearing aid users, an exemplary embodiment of the FIG. 1 open ear hearing canal system 1 is configured for these users. Therefore, a predetermined frequency and amplitude range that is detected for correcting these mild hearing losses includes a range of sounds at high frequencies and low amplitudes. High frequency sounds are, for example, considered to be sounds having frequencies greater than 1000 Hz or any other specified frequency band, and low frequency sounds are considered to be sounds having frequencies less than 1000 Hz or any other specified frequency band which is different from the designated high frequency band. Exemplary low amplitude sounds are those with less than 60 to 70 decibels of sound pressure level (dB SPL) or any other specified range of audible sound.
For many mild hearing loss users, there is no hearing loss in the low frequency range. Thus, at low frequencies, the dynamic range is normal and there is no need for compression. Instead of the traditional approach of linearly processing low frequency sounds with low gain, according to exemplary embodiments of the present invention, the low frequency sounds are transmitted using the natural pathway of the ear canal. This eliminates the distortion of loud low frequency signals that can be caused by compression or gain and which can degrade speech intelligibility.
In the high frequency range, mild hearing loss users experience a reduced dynamic range and a need for compression. Gain is not needed for mild hearing loss users for loud sounds in the high frequency range. Thus, according to exemplary embodiments of the present invention, gain is only provided for soft sounds in the high frequency range. This eliminates the distortion of loud high frequency signals that can be caused by over amplification and which can degrade speech intelligibility.
((K13);補聴器ユーザーのうち最も多くを占めるのは軽度難聴者であるため、図1の例示的な実施形態のオープンイヤーカナル型の補聴器1は、そうしたユーザーのために構成される。したがって、こうした軽度の難聴を矯正するために検出される予め決められた周波数および振幅範囲としては、高周波数かつ低振幅の範囲の音声が挙げられる。例えば、高周波数の音声とは、周波数が1000Hzより高いか、または他の任意の特定の周波数帯域の音声であると考えられ、低周波数の音声とは、周波数が1000Hzより低いか、または他の任意の、指定した高周波数帯域とは異なる特定の周波数帯域の音声であると考えられる。例示的な低振幅音は、60?70音圧レベルデシベル(dB SPL)より低いか、または他の任意の特定の可聴音範囲の音である。
軽度難聴ユーザーの多くは、低周波数範囲における聴力損失がない。したがって、低周波数では、ダイナミックレンジは正常で、圧縮する必要はない。低周波数の音声を低利得で線形的に処理する従来の手法に代わり、本発明の例示的な実施形態に従えば、低周波数の音声は自然の通路である外耳道を用いて伝達される。これにより、圧縮または利得によって引き起こされ得るとともに音声了解度を低下させ得る大きい低周波数信号の歪みがなくなる。
高周波数範囲では、軽度難聴ユーザーはダイナミックレンジの低下を被り、圧縮する必要がある。軽度難聴ユーザーにとって、高周波数範囲の大きい音声については利得は必要ない。したがって、本発明の例示的な実施形態に従えば、高周波数範囲の弱い音声に対してのみ利得が与えられる。これにより、過度の増幅によって引き起こされ得るとともに音声了解度を低下させ得る大きい高周波数信号の歪みがなくなる。)

(K14)「1. An open ear canal hearing aid system, comprising:
a first ear canal tube sized for positioning in an ear canal so that the ear canal is at least partially open for directly receiving ambient sounds, wherein said first ear canal tube has a first end in said ear canal with an opening for receiving said ambient sounds and a second end connected to an input of a microphone;
sound processing means for processing the ambient sound signals produced by said microphone within a predetermined amplitude and frequency range to produce processed sounds; and
a second ear canal tube sized for positioning in the ear canal so that the ear canal is at least partially open for directly receiving ambient sounds, wherein said second ear canal tube transports processed sounds into the ear canal.
4. An open ear canal hearing aid system according to claim 1, wherein said second ear canal tube comprises a barb at a tip securing said second ear canal tube in the ear canal of the user.
6. An open ear canal hearing aid system according to claim 1, wherein said sound processor includes a multiband compressor system for dividing the ambient sound signals into plural frequency bands and for providing different sound processing to each band.

7. An open ear canal hearing aid system, comprising:
a first ear canal tube sized for positioning in an ear canal so that the ear canal is at least partially open for directly receiving ambient sounds, wherein said first ear canal tube has a first end in said ear canal with an opening for receiving said ambient sounds and a second end connected to an input of a microphone;
sound processing means for processing the ambient sound signals produced by said microphone within a predetermined amplitude and frequency range to produce processed sounds; and
a second ear canal tube sized for positioning in the ear canal so that the ear canal is at least partially open for directly receiving ambient sounds, wherein said ear canal tube contains a speaker located in said ear canal for broadcasting processed sounds.
10. An open ear canal hearing aid system according to claim 7, wherein said second ear canal tube comprises a barb at a tip securing said second ear canal tube in the ear canal of the user.
12. An open ear canal hearing aid system according to claim 7, wherein said sound processor includes a multiband compressor system for dividing the ambient sounds into plural frequency bands and for providing different sound processing to each band.
((K14);【請求項1】オープンイヤーカナル型の補聴器であって、
直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第1のイヤーカナルチューブであって、前記周囲の音を受けるように前記外耳道を開放した状態で前記外耳道内にある第1の端部と、マイクロホンの入力に接続する第2の端部とを有する第1のイヤーカナルチューブと、
前記マイクロホンから発生した、予め決められた振幅と周波数範囲の周囲の音声信号を処理して処理された音声を生成する音声処理手段と、
直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第2のイヤーカナルチューブであって、処理された音声を外耳道に送る第2のイヤーカナルチューブと、を含む補聴器。
請求項2 前記予め決められた振幅および周波数範囲が、予め決められた聴力損失のレベル用に選択される請求項1に記載のオープンイヤーカナル型の補聴器。
【請求項4】前記第2のイヤーカナルチューブが、先端に(*)に、前記第2のイヤーカナルチューブを前記ユーザーの外耳道内に固定する鉤状部材(barb)を含む請求項1に記載のオープンイヤーカナル型の補聴器。
【請求項6】前記音声処理装置が、前記周囲の音声信号を複数の周波数帯域に分割し、かつ各帯域に異なる音声処理を提供するためのマルチバンドコンプレッサシステムを備える請求項1に記載のオープンイヤーカナル型の補聴器。

【請求項7】オープンイヤーカナル型の補聴器であって、
直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第1のイヤーカナルチューブであって、前記周囲の音を受けるように前記外耳道を開放した状態で前記外耳道内にある第1端部とマイクロホンの入力と接続する第2端部とを有している第1のイヤーカナルチューブと、
マイクロホンからの周囲の音声信号を、処理された音声となるように予め決められた増幅と振幅範囲で処理する音声処理手段と、
直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第2イヤーカナルチューブであって、処理した音声を伝えるためのスピーカを含み、前記外耳道内に設置される第2イヤーカナルチューブと、を含む補聴器。
【請求項10】前記第2のイヤーカナルチューブが、先端(*)に、前記第2のイヤーカナルチューブを前記ユーザーの外耳道内に固定する鉤状部材(barb)を含む請求項7に記載のオープンイヤーカナル型の補聴器。)
【請求項12】前記音声処理装置が、前記周囲の音声信号を複数の周波数帯域に分割し、かつ各帯域に異なる音声処理を提供するためのマルチバンドコンプレッサシステムを備える請求項7に記載のオープンイヤーカナル型の補聴器。)

[2-2]甲1発明

ア 課題・目的
前掲(K1)?(K11){特に(K1)?(K5)下線箇所参照}によれば、
チューブフィッティング型補聴器、耳掛け(BTE)型補聴器等のタイプの補聴器は、
外耳道の中まで延伸するチューブであって、外耳道を概して閉塞しないイヤモールドによって正しい(適切な)位置に保持される状態とするチューブを備え、外耳道を比較的開放された状態とすることにより、従来の補聴器がもつ閉塞効果として知られる問題を軽減するものではあるが、
以下の課題a?cを抱えており、甲1号証のものは、これらの課題を解決するものとされている。

課題a:全音声周波数にわたり十分な聴力を提供する従来の補聴器は、低周波数範囲では正常な聴力を有し高い周波数範囲になると聴力損失を呈する多くの軽度難聴者に適さない。
→ユーザーが聞き取りに困難を感じる音声のみを補償および補助することが可能な補聴器を提供する。
課題b:チューブは軟質であり装置を正しい(適切な)位置に保持できないため、外耳道の中まで延伸するチューブを、外耳道を概して閉塞せずに外耳道内で正しい(適切な)位置に維持するには、硬質のイヤモールド等が必要になる。しかし、その寸法が大きく外見上魅力に欠け装用感も良くない。また、特別注文に応じて製造しなければならないため、装置の費用、および補聴器の取り付けに必要な時間が増す。
→外見上魅力的で装用感が良いものを提供する。
課題c:マイクロホンが耳の後ろ側に位置すると、様々な方向から音声を収音することが困難となり、加えて、ユーザーが振り向いたときに髪の毛がシャツと擦れ合う音などの背景音を過剰に収音してしまう。
→マイクロホンの収音性の向上を提供する。

イ 甲1発明認定の基礎とするもの
本件発明1と対比する甲1号証記載の発明(甲1発明)を、本件発明1の構成を考慮し、上記の課題を解決するものであって、甲1号証の、請求項7を引用する請求項10に、請求項12を付加したもの、及び、これに対応する実施形態に基づいて認定する。

イ-1 請求項7を引用する請求項10に、請求項12を付加したものは、下記のとおりである。なお、p等は構成要素に付した記号である(p?s・s1は請求項7の構成、s2は請求項10の構成、tは請求項12の構成に対応する。)

記〈請求項7・10に請求項12を付加したもの〉
p:オープンイヤーカナル型の補聴器であって、
q:(第1のイヤーカナルチューブ)
直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第1のイヤーカナルチューブであって、前記周囲の音を受けるように前記外耳道を開放した状態で前記外耳道内にある第1端部とマイクロホンの入力と接続する第2端部とを有している第1のイヤーカナルチューブと、
r:(音声処理手段)
マイクロホンからの周囲の音声信号を、処理された音声となるように予め決められた増幅と振幅範囲で処理する音声処理手段と、
s:(第2イヤーカナルチューブ)
直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第2イヤーカナルチューブであって、
s1:(スピーカ)
処理した音声を伝えるためのスピーカを含み、前記外耳道内に設置される第2イヤーカナルチューブと、
p:を含む補聴器であって、
s2:(鉤状部材(barb))
前記第2のイヤーカナルチューブが、先端に、前記第2のイヤーカナルチューブを前記ユーザーの外耳道内に固定する鉤状部材(barb)を含む、
t:(マルチバンドコンプレッサシステム)
前記音声処理装置が、前記周囲の音声信号を複数の周波数帯域に分割し、かつ各帯域に異なる音声処理を提供するためのマルチバンドコンプレッサシステムを備える
p:オープンイヤーカナル型の補聴器

イ-2 対応する実施形態(図7の実施形態)
請求項7・10{(K14)}に対応するものは、前掲(K11)・図7記載の実施形態のものであるところ、前掲(K11)・図7には、上記s1についてのみ説明していて、他のp?s、s2については詳しい説明はされていない。
上記p?s、s2は、請求項1・4と実質的に同じであり、これらは、図1・5の実施形態で説明されている。

〈請求項7と請求項1の比較〉
なお、請求項1と請求項7は、第2イヤーカナルチューブが「処理した音声を伝えるためのスピーカを含み」(請求項7)か、「処理された音声を外耳道に送る」(請求項1)かの相違を除き、他の構成は実質的に同様なものである。(請求項10と請求項4、請求項12と請求項6の記載事項は同じである。)
「第2イヤーカナルチューブ」は、
s:「直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第2イヤーカナルチューブであって、」
請求項7では、
s1:「処理した音声を伝えるためのスピーカを含み、前記外耳道内に設
置される第2イヤーカナルチューブと、」であり、
請求項1では、「処理された音声を外耳道に送る第2のイヤーカナルチュ
ーブと、」である。

請求項7・10に対応する図7の実施形態は、
図1・5の実施形態
-すなわち、図1に示される「ケース40」を「耳の後ろ側に取り付ける」「耳掛け型構成のオープンイヤーカナル型の補聴器1」であって図5に示されるように鉤状部材(barb)14を用いて取り付ける実施形態{(K7)(K8)(K10)}-
をベースに、
「マイクロホンは耳掛け部分から動かさず、スピーカをイヤーカナルチューブ30の先端に移す」、「スピーカ44は耳掛け部分から取り出して、外耳道内に配置するために、イヤーカナルチューブ30の先端に置く」、「スピーカが、イヤーカナルチューブ30の先端に位置」し、「スピーカから音声処理装置46(正しくは「48」;審決)までワイヤが管内を通っている」{前掲(K11)}としたものであって、模式的に図7に示されている。

また、請求項12に対応する実施形態は、図10・(K12)(K13)に記載されているものである。

ウ 甲1発明が備える各構成
上記ア、イを踏まえ、甲1発明が備える各構成を認定する。

ウ-1 全体
全体は、p:「オープンイヤーカナル型の補聴器1」である。
(→甲1発明のP)

ウ-2 第1のイヤーカナルチューブ、マイクロホン
図1の実施形態を参照すれば、上記qの「第1のイヤーカナルチューブ」は「第1のイヤーカナルチューブ32」、「マイクロホン」は「マイクロホン42」である。
すなわち、
「直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第1のイヤーカナルチューブ32であって、前記周囲の音を受けるように前記外耳道を開放した状態で前記外耳道内にある第1端部とマイクロホン42の入力と接続する第2端部とを有している第1のイヤーカナルチューブ32」を備えている。(→甲1発明のQ)

ウ-3 音声処理装置48を含むケース40
上記r:(音声処理手段)及び図1・(K7)によれば、
「耳の後ろ側に取り付けるケース40であって、マイクロホン42、低電圧電池78、マイクロホン42からの前記周囲の音声信号を、処理された音声となるように予め決められた増幅と振幅範囲で処理する音声処理装置48を含むケース40」を備えている。(→甲1発明のR)

さらに、「ケース40」に内蔵される「音声処理装置48」(K7)として、図10に示される「プログラム可能なマルチバンドコンプレッサシステム60」(K12)(K13)が用いられている。
(K13)の「制御回路80により生成された制御信号は、低周波数帯域と高周波数帯域との間の周波数分割ならびに低周波数コンプレッサ68および高周波数コンプレッサ70の利得および圧縮比を制御することにより、システムに望ましい応答を生成して、実質的にいかなるタイプの聴覚障害も補償するように構成される。」によれば、
(K12)の「プログラム可能な帯域分割フィルタ66」は「低周波数帯域と高周波数帯域との間の周波数分割」をプログラムできるもので、
プログラム可能な「低周波数コンプレッサ68および高周波数コンプレッサ70」は利得および圧縮比をプログラムできるものということができる。 したがって、上記t:(マルチバンドコンプレッサシステム)、(K12)(K13)によれば、
「音声処理装置48は、周囲の音声信号を複数の周波数帯域に分割しかつ各帯域に異なる音声処理を提供するためのマルチバンドコンプレッサシステム60であって、
プログラム可能であって、前置増幅器64、自動利得制御回路(AGC)、低周波数帯域と高周波数帯域との間の周波数分割がプログラム可能な帯域分割フィルタ66、低周波数帯域出力の利得および圧縮比がプログラム可能なコンプレッサ68、高周波数帯域出力の利得および圧縮比がプログラム可能なコンプレッサ70、増幅器54を含んで、周囲の音声信号を複数の周波数帯域に分割しかつ各帯域に異なる音声処理を提供するためのマルチバンドコンプレッサシステム60」を備えている。(→甲1発明のT)

ウ-4 第2イヤーカナルチューブ(s,s1,s2関連)
認定すべきもの(図7の実施形態に対応する)は、上述したように、図1・5の実施形態{(K7)(K8)(K10)}をベースにする。

(ア)ベースとする図1、図5の実施形態のもの
ベースとする図1、図5の実施形態のものについて検討する。
(ア-1)イヤーカナルチューブ10・チップ(tip)
「ケース40」からの「補聴器チューブ30」に「イヤーカナルチューブ10」が結合され、結合は嵌合固定又はコネクタで行われ(K7)、
「図5aに示すように、イヤーカナルチューブ10は外耳道の内部に取り付けられ」(K10)、「イヤーカナルチューブ10の末端に」、「外耳道壁が傷付かないような柔軟なもの」とされる「チップ(tip)12」を設ける(K8)。
「チップ(tip)12は、チューブ10に被せて嵌める別個の部品であってもよく、またはチューブの一部として形成されてもよい。」(K8)とされる。
(ア-2)鉤状部材(barb)14 「イヤーカナルチューブ10の一端に」、「耳の組織を傷付けないよう、軟質の材料(例えば、ゴム状材料)で作製され」る「鉤状部材(barb)14」を「装着」し、「鉤状部材(barb)14は、イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し、耳珠の背後に留ま」(K8)るものとされ、
「チューブ10は、いくらか硬質の材料(例えばプラスチックやその他の材料など)で作られており、耳に沿う形状とすることができる。これによって、ケース40、チューブ10、30および32、鉤状部材(barb)14、そしてチップ(tip)12を含む組立品全体が、耳における装置の位置を維持するユニットとして機能する」(K8)ものとされる。
(ア-3)図5
ここで、図5bにおいて、ラッパ状に広がっている部分が「10」と示され、図1においては、延伸する「鉤状部材(barb)14」から「チップ(tip)12」の上下内側部分まで同じハッチングがされ、「チップ(tip)12」は、ハッチングがされていない部分でラッパ状に広がるものと示されている。
(ア-4)まとめ
以上のことを総合し、外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされるラッパ状に広がるチップ(tip)12を被せてなる先端側部分であって、ラッパ状に広がっている部分も含めたものを「イヤーカナルチューブ10」と認め、「鉤状部材(barb)14は、イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し、耳珠の背後に留ま」るものであるから、「イヤーカナルチューブ10」とは別体のものと認めることとする。
そうすると、ベースとする図1・図5の実施形態のものは、
「外耳道壁が傷付かないようなラッパ状に広がる柔軟なものとされるチップ(tip)12を被せてなる先端側部分がラッパ状に広がる形状のイヤーカナルチューブ10」、
「イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し図5bに示されるように耳珠の背後に留まるものであって、耳の組織を傷付けないよう軟質の材料(例えば、ゴム状材料)で作製される鉤状部材(barb)14」を備え、
「チューブ10は、いくらか硬質の材料で作られ、図5a図5bに示されるようにして、ケース40、チューブ10、30および32、鉤状部材(barb)14、そしてチップ(tip)12を含む組立品全体が、耳における装置の位置を維持するユニットとして機能するようにしたもの」ということができる。

イ 認定すべきもの図7の実施形態に対応するもの
これらのことを踏まえ、上述したように「マイクロホンは耳掛け部分から動かさず、スピーカをイヤーカナルチューブ30の先端に移す」、「スピーカ44」は耳掛け部分から取り出して、外耳道内に配置するために、イヤーカナルチューブ30の先端に置く」、「スピーカが、イヤーカナルチューブ30の先端に位置」し、「スピーカから音声処理装置48までワイヤが管内を通っている」(K11)とした、図7のものについて、図7を参照して検討するに、
図7・(K11)では、図1においては「補聴器チューブ30」と称される「30」が、「イヤーカナルチューブ30」と称されていることは明らかであり、
「SPKR44」の先端側に、一定径部分と先端側部分がラッパ状に広がった形状のものが認められ、この部分が、上述した、「イヤーカナルチューブ10」といえ、
「イヤーカナルチューブ30」-「SPKR44」-「イヤーカナルチューブ10」とこの順で連結している(「補聴器チューブ30」と「イヤーカナルチューブ10」が嵌合固定で行われることから、「SPKR44」も「連結」していうことができる。)といえることから、
「ケース40」からの「イヤーカナルチューブ30」の先端側に、
「スピーカ44」、
「外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされるラッパ状に広がるチップ(tip)12を被せてなる先端側部分がラッパ状に広がる形状のイヤーカナルチューブ10」、
をこの順で連結して設け、
スピーカ44から音声処理装置48までチューブ内にワイヤを通している、といえる。
また、鉤状部材(barb)14は、ベースとした図1と同様と考えられ、
{なお、図6,図7におけるSPKRの先の点線 -一定径部分からの途中から先端側部分がラッパ状に広がった形状に移行する部分の点線-で示されるものは、図1で、同一のハッチングで描かれる「鉤状部材(barb)14」と「チップ(tip)12」の上下内側部分との間で、「鉤状部材(barb)14」を取り付ける部分を示していると推定される。}
「イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し図5bに示されるように耳珠の背後に留まるものであって、耳の組織を傷付けないよう軟質の材料(例えば、ゴム状材料)で作製される鉤状部材(barb)14」を設け、
「チューブ10は、いくらか硬質の材料(例えばプラスチックやその他の材料など)で作られており、耳に沿う形状とすることができる。これによって、ケース40、チューブ10、30および32、鉤状部材(barb)14、そしてチップ(tip)12を含む組立品全体が、耳における装置の位置を維持するユニットとして機能する」ようにしたもの、
ということができる。

(ウ)まとめ(ウ-4)
以上のことと、請求項7・10の上記s、s1、および、請求項10の、
s2:「前記第2のイヤーカナルチューブが、チップ(tip)に、前記第2のイヤーカナルチューブを前記ユーザーの外耳道内に固定する鉤状部材(barb)を含む、」
を、総合すれば、認定すべき図7の実施形態に対応するものとして、以下の構成のものを認めることができる。

直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第2のイヤーカナルチューブ30(図1では「補聴器チューブ30」)とを含み、
(→甲1発明のS)
第2のイヤーカナルチューブ30は、
その先端側に、
処理した音声を伝えるためのスピーカ44、
外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされるラッパ状に広がるチップ(tip)12を被せてなる先端側部分がラッパ状に広がる形状のイヤーカナルチューブ10、
をこの順で連結して設けると共に、
スピーカ44と音声処理装置48までチューブ内にワイヤを通しているものであって、
(→甲1発明のS1)
さらに、第2のイヤーカナルチューブ30は、
イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し図5bに示されるように耳珠の背後に留まるものであって、耳の組織を傷付けないよう軟質の材料(例えば、ゴム状材料)で作製される鉤状部材(barb)14を設け、
チューブ10は、いくらか硬質の材料で作られ耳に沿う形状とし、これにより、図5a図5bに示されるようにして、ケース40、チューブ10、30および32、鉤状部材(barb)14、そしてチップ(tip)12を含む組立品全体が、耳における装置の位置を維持するユニットとして機能するようにしたもの。
(→甲1発明のS2)

エ 以上によれば、甲1号証記載の発明(甲1発明)として、下記の発明を認定することができる{各構成要素にP?T,S1,S2の記号を付した}。

記(甲1発明)
P:オープンイヤーカナル型の補聴器1であって、
Q:直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第1のイヤーカナルチューブ32であって、前記周囲の音を受けるように前記外耳道を開放した状態で前記外耳道内にある第1端部とマイクロホン42の入力と接続する第2端部とを有している第1のイヤーカナルチューブ32と、
R:耳の後ろ側に取り付けるケース40であって、マイクロホン42、低電圧電池78、マイクロホン42からの前記周囲の音声信号を、処理された音声となるように予め決められた増幅と振幅範囲で処理する音声処理装置48を含むケース40と、
S:直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第2のイヤーカナルチューブ30(図1では「補聴器チューブ30」)とを含み、
T:音声処理装置48は、周囲の音声信号を複数の周波数帯域に分割しかつ各帯域に異なる音声処理を提供するためのマルチバンドコンプレッサシステム60であって、
プログラム可能であって、前置増幅器64、自動利得制御回路(AGC)、低周波数帯域と高周波数帯域との間の周波数分割がプログラム可能な帯域分割フィルタ66、低周波数帯域出力の利得および圧縮比がプログラム可能なコンプレッサ68、高周波数帯域出力の利得および圧縮比がプログラム可能なコンプレッサ70、増幅器54を含んで、周囲の音声信号を複数の周波数帯域に分割しかつ各帯域に異なる音声処理を提供するためのマルチバンドコンプレッサシステム60を備え、
S1:第2のイヤーカナルチューブ30は、
その先端側に、
処理した音声を伝えるためのスピーカ44、
外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされるラッパ状に広がるチップ(tip)12を被せてなる先端側部分がラッパ状に広がる形状のイヤーカナルチューブ10、
をこの順で連結して設けると共に、
スピーカ44と音声処理装置48までチューブ内にワイヤを通しているものであって、
S2:さらに、第2のイヤーカナルチューブ30は、
イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し図5bに示されるように耳珠の背後に留まるものであって、耳の組織を傷付けないよう軟質の材料(例えば、ゴム状材料)で作製される鉤状部材(barb)14を設け、
チューブ10は、いくらか硬質の材料で作られ耳に沿う形状とし、これにより、図5a図5bに示されるようにして、ケース40、チューブ10、30および32、鉤状部材(barb)14、そしてチップ(tip)12を含む組立品全体が、耳における装置の位置を維持するユニットとして機能するようにしたもの。

[2-3]本件発明1と甲1発明の対比

(1)構成要件Aについて
A:ユーザの耳の後ろに配置され、耳腔から離れた集音位置に配置された1
以上のマイクロホン、バッテリ、メモリー、前記集音位置の前記マイク
ロホンと接続された音声処理電子装置および音声増幅電子装置を収容す
る音声処理部分と、

ア 「ユーザの耳の後ろに配置され、」る「音声処理部分」
甲1発明は、
P:「オープンイヤーカナル型の補聴器1であって、」、
R:「耳の後ろ側に取り付けるケース40であって、マイクロホン42、低電圧電池78、マイクロホン42からの前記周囲の音声信号を、処理された音声となるように予め決められた増幅と振幅範囲で処理する音声処理装置48を含むケース40」を含んでいるところ、
当該「ケース40」は、「ユーザの耳の後ろに配置され、」る「音声処理部分」と言えることは明らかである。

イ 「1以上のマイクロホン、バッテリ、メモリー、前記集音位置の前記マイクロホンと接続された音声処理電子装置および音声増幅電子装置を収容する」「音声処理部分」
甲1発明の上記Rによれば、「ケース40」(本件発明1でいう「音声処理部分」)は、「マイクロホン42、低電圧電池78」を含んでいるから、「1以上のマイクロホン、バッテリ」を収容しているといえる。
また、甲1発明の「ケース40」が含む「音声処理装置48」は、
「マイクロホン42からの前記周囲の音声信号を、処理された音声となるように予め決められた増幅と振幅範囲で処理する」のであるから、「音声処理電子装置および音声増幅電子装置」を含んでいるということができ、「前記マイクロホンと接続された」といえることも明らかである。
また、「音声処理装置48」が、「音声処理電子装置および音声増幅電子装置」を含んでいるということができることは、甲1発明の上記T:「音声処理装置48は、・・・各帯域に異なる音声処理を提供するためのマルチバンドコンプレッサシステム60を備え」とすることからみても明らかである。
甲1発明も、上記イを備えているといえ、この点、構成要件Aと相違はない。

ウ 「メモリ」「を収容する音声処理部分」
甲1発明の「ケース40」が含む「音声処理装置48」は、
T:「音声処理装置48は、周囲の音声信号を複数の周波数帯域に分割しかつ各帯域に異なる音声処理を提供するためのマルチバンドコンプレッサシステム60であって、・・・プログラム可能であって、・・・周波数分割がプログラム可能な帯域分割フィルタ66、・・・利得および圧縮比がプログラム可能なコンプレッサ68、・・・利得および圧縮比がプログラム可能なコンプレッサ70、・・・を含んで、周囲の音声信号を複数の周波数帯域に分割しかつ各帯域に異なる音声処理を提供するためのマルチバンドコンプレッサシステム60を備え」ていて、
「帯域分割フィルタ66」は「低周波数帯域と高周波数帯域との間の周波数分割がプログラム可能」で、「コンプレッサ68・70」は、「利得および圧縮比がプログラム可能」とされることから、
これらを含む「マルチバンドコンプレッサシステム60」/「音声処理装置48」は、プログラムにより、周波数分割のためのフィルタ係数、利得および圧縮比を記憶する記憶部を備えているということができる。
したがって、甲1発明の「ケース40」(「音声処理部分」)も、「メモリ」「を収容する音声処理部分」ということができる。

また、本件発明1の構成要件Aの「メモリー」は、明細書の記載
(段落【0028】「プログラム訂正スイッチ79によって、技術者または使用者が増幅器および音声処理部品68のプログラムおよびリプログラム制御することができる。更に、(図示しない)入力ポートをその近傍(装置のどこでもよい)に設けて、外部ソースから装置のプログラムおよびリプログラムを実行するようにしてもよい。記憶部を増幅器および音声処理部品68内、および/または、装置内のどこにでも設けて、SPUのプログラムおよびリプログラムを可能にする、および/または、ユーザが、ユーザインターフェースを介して各種プログラムを選択することができる。」)に照らし、
「音声処理電子装置および音声増幅電子装置」(甲1発明の「音声処理装置48」/「マルチバンドコンプレッサシステム60」)の「プログラムおよびリプログラムを可能にする」記憶部と解せられるところ、
甲1発明が備えているといい得る上記の「プログラムにより、周波数分割のためのフィルタ係数、利得および圧縮比を記憶する記憶部」も、上記段落【0028】の記憶部に含まれるものといい得ることからみても、
甲1発明の「ケース40」(「音声処理部分」)も、「メモリ」「を収容する音声処理部分」ということができる。

エ 「耳腔から離れた集音位置に配置された」、「前記集音位置の」(マイクロホン)
甲1発明では、
Q:「直接周囲の音を受けられるように外耳道の少なくとも一部が開放するように外耳道内に配置できる寸法の第1のイヤーカナルチューブ32であって、前記周囲の音を受けるように前記外耳道を開放した状態で前記外耳道内にある第1端部とマイクロホン42の入力と接続する第2端部とを有している第1のイヤーカナルチューブ32」を有していて、
「マイクロホン42」の集音位置は、外耳道内、すなわち、本件発明1でいう耳腔内(本件発明1の「耳腔」が「外耳道」と解されることは後記する。)であるから、
「耳腔から離れた集音位置に配置された」、「前記集音位置の」(マイクロホン)とする本件発明1の構成要件Aとは相違する。

オ まとめ(構成要件A)
以上によれば、本件発明1と甲1発明は、
A’ユーザの耳の後ろに配置され、1以上のマイクロホン、バッテリ、メモ
リー、前記マイクロホンと接続された音声処理電子装置および音声増幅
電子装置を収容する音声処理部分と、(を備え、)
とする点で一致し、
マイクロホンが、
本件発明1では、「耳腔から離れた集音位置に配置された」、「前記集音位置の」とするのに対して、
甲1発明では、「耳腔から離れた集音位置に配置された」、「前記集音位置の」ではない点で相違する。

甲1発明のマイクロホンは、「第1のイヤーカナルチューブ32」を用いて、「耳腔を集音位置とし、耳腔から離れた位置に配置された」、「前記集音位置から離れた位置の」マイクロホンである。

(2)構成要件Bについて
B ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、
前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に
吊されており、挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくと
も前記耳腔を閉塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分と、

ア 「耳腔」
構成要件Bの「ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され」のみからみれば「耳腔」と「外耳道」は異なる可能性もあるといえるものの、
本件明細書の全趣旨、図5において、「耳甲介56」「耳腔60」とされていることからすれば、請求項1でいう「耳腔」とは、「外耳道」を意味するものであって、これらは異ならないものと解すべきであることは明らかである。

イ 「ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、」、「挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分と」(を備え)

イ-1 「スピーカを含むレシーバ部分」
本件発明1でいう「スピーカを含むレシーバ部分」が、甲1発明のどの部分に対応するか、について検討するに、
・本件発明1では、補聴器全体を、「音声処理部分」、「レシーバ部分」、「中間連結部」、「保持手段」{構成要件D自体の記載から、「レシーバ部分」が、「レシーバ部分を保持する保持手段」を含まないことは明らかである}に分け、構成要件Cで「レシーバ部分」と「ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処理電子装置」の間が「中間連結部」であるとしている、つまり、「レシーバ部分」は「中間連結部」から先の部分であるとされていること、
・構成要件Bで、「レシーバ部分」は、耳腔内に配置されるものであって、挿入損失および閉塞効果の観点から寸法、耳腔の壁との接触関係を特定しているところ、挿入損失および閉塞効果の観点では、全体としての寸法、耳腔の壁との接触関係が重要であると認められること、
を考慮すれば、
本件発明1でいう「スピーカを含むレシーバ部分」とは、
『耳腔内に置かれ、中間連結部から先の部分で保持手段を除くスピーカと一体化される部分の全体』をいうものと解される。

そして(3)で後記するように、甲1発明の、「第2のイヤーカナルチューブ30」と上記「ワイヤ」を合わせたものが、本件発明1でいう「中間連結部」に対応するものであるから、
甲1発明の、「スピーカ44」と、当該「スピーカ44」に連結された「イヤーカナルチューブ10」すなわち、「外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされるラッパ状に広がるチップ(tip)12を被せてなる先端側部分がラッパ状に広がる形状のイヤーカナルチューブ10」を合わせたものが、本件発明1でいう「スピーカを含むレシーバ部分」に対応するものということができる。

イ-2 そして、そのような、「スピーカ44」と「イヤーカナルチューブ10」(「チップ(tip)12」を含む)を合わせたものが、
上記イ、すなわち「ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、」、「挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分」といえることは、以下のことから明らかである。
・そもそも、甲1発明は、外耳道を比較的開放された状態とすることにより、閉塞効果として知られる問題を軽減するチューブフィッティング型補聴器や耳掛け(BTE)型補聴器等のタイプの補聴器を前提に、これらのもつ更なる課題を解決するものであって、
P:「オープンイヤーカナル型の補聴器1」であり、オープンイヤーカナル型の補聴器が、「挿入損失および閉塞効果を減少させるため」に「オープン」とするものであることは技術常識であること。
・また、S2:「さらに、第2のイヤーカナルチューブ30は、
イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し図5bに示されるように耳珠の背後に留まるものであって、・・・鉤状部材(barb)14を設け、
・・・図5a図5bに示されるようにして、ケース40、チューブ10、30および32、鉤状部材(barb)14、そしてチップ(tip)12を含む組立品全体が、耳における装置の位置を維持するユニットとして機能するようにした、」としていて、
「イヤーカナルチューブ10」から外に延伸する鉤状部材(barb)14を用いて、図5bのように固定していること。

イ-3 イのまとめ
以上によれば、甲1発明も、構成要件Bのうち上記イを備えているといえ、この点、本件発明1と相違しない。

ウ 「前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、」(スピーカを含むレシーバ部分)について

この構成は、スピーカを含むレシーバ部分が、「前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、」とするものであるところ、この点の異同については、後記(6){(5)構成要件Dについての後}で検討する。

(3)構成要件Cについて
C:前記レシーバ部分と、ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処
理電子装置と、の間に設けられ、前記音声処理電子装置と前記スピーカ
との間を電気的に接続する電気伝導性部品を含む中間連結部と、
(を備え)

ア 「前記音声処理電子装置と前記スピーカとの間を電気的に接続する電気伝導性部品」
甲1発明の、「ユーザの耳の後ろに配置され、」る「ケース40」が含む「音声処理装置48」が「音声処理電子装置」を含んでいるといえることは前記のとおりであるから、
甲1発明は、「ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処理電子装置」を有しているといえ、
また、甲1発明は、S1「スピーカ44と音声処理装置48までチューブ内にワイヤを通して」いるところ、
当該「ワイヤー」は、「音声処理装置48」(「前記音声処理電子装置」)とその「スピーカ」との「間を電気的に接続する電気伝導性部品」といえるから、「前記音声処理電子装置と前記スピーカとの間を電気的に接続する電気伝導性部品」ということができる。

イ 「前記レシーバ部分と、ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処理電子装置と、の間に設けられ・・電気伝導性部品を含む中間連結部」
そして、甲1発明の、「スピーカ44」と「チップ(tip)12」を含む「イヤーカナルチューブ10」を合わせたもの(本件発明1でいう「レシーバ部分」)と、「音声処理装置48」(「ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処理電子装置」)との間は、「第2のイヤーカナルチューブ30」と上記「ワイヤ」によって「連結」しているとも言い得、これらを合わせたものは、「中間連結部」と称し得るものである。
そうすると、甲1発明も、「前記レシーバ部分と、ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処理電子装置と、の間に設けられ、」る、ワイヤを含む「中間連結部」を備えているということができる。

ウ 以上によれば、甲1発明も、本件発明1の上記構成要件Cを備えているということができ、この点、相違はない。

(4)構成要件Eについて
E 前記集音位置の前記マイクロホンからの音を、増幅し、前記電気伝導性
部品及び前記開放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部分に伝
達させる補聴器。

上記(1)?(3)で既に検討したこと、甲1発明のR:「マイクロホン42からの前記周囲の音声信号を、処理された音声となるように予め決められた増幅と振幅範囲で処理する音声処理装置48」によれば、
甲1発明も、「マイクロホンからの音を、増幅し、前記電気伝導性部品及び前記開放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部分に伝達させる補聴器。」といえ、この点においては本件発明1は相違しない。
もっとも、甲1発明のマイクロホンは、上記のとおり、「前記集音位置」、すなわち、「耳腔から離れた集音位置の前記マイクロホン」ではなく、したがって、「前記集音位置の前記マイクロホン」とする本件発明1とは相違する。

(5)構成要件Dについて
D 前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記
耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳
腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保
持する保持手段と
を備え、

ア 構成要件Dの「保持手段」の解釈について

ア-1 構成要件Dの「保持手段」とは、
(i)前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記レシーバ部分を保持する保持手段であって、
(ii)前記耳腔(外耳道)内に前記レシーバ部分が挿入された際に「前記レシーバ部分が前記耳腔(外耳道)に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔(外耳道)内に『吊されるように』保持する手段」であること、
は、構成要件Dの記載事項自体から明らかであるところ、
上記(ii)の下線部「前記レシーバ部分が前記耳腔(外耳道)に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔(外耳道)内に『吊されるように』保持する手段」とは、
(iii)「レシーバ部分と比べて相当程度細い(したがって、耳腔と比べても相当程度細い)細条物であって、
これによって、前記レシーバ部分を、前記レシーバ部分が前記耳腔(外耳道)に『触れないように』かつ、『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持する保持手段」
を意味するものと解される。

ア-2 上記(iii)のように解される理由
上記(iii)のように解される理由は以下の通りである。

(ア)「補強ワイヤー」について
発明の詳細な説明に、「32 補強ワイヤ(保持手段)」「54 保持ワイヤ(保持手段)」(【符号の説明】)とあることから、「補強ワイヤ」も保持手段の一態様であるとされ、詳細には、
態様a:「【0017】
図2に、レシーバ12および中間連結部20を詳細に例示する。スピーカ14は、少なくとも一部がケーシング16内に取り囲まれた状態で示されている。図示した中間連結部20は、中間連結部20の少なくとも一部に沿って設けられた電気伝導性部品30および保持手段の一態様である補強ワイヤ32を備えている。・・・
【0018】
図2に示すように、例示された補強ワイヤ32は、中間連結部20の内部または一部の上に設けられ、レシーバ12の内部または少なくとも一部の上に延伸している。例示した態様における補強ワイヤ32は、中間連結部20の管路34を通って延伸し、レシーバ12の第1端部(以下、「近端部」とよぶ)36内へと進み、スピーカ14に沿って延伸している。」
態様b:「【0010】
他の例示的態様において、前記補強ワイヤは中間連結部内またはその一部の上に配置され、レシーバ内または少なくともその一部分上に延伸している。」
態様c:「【0011】
他の態様において、保持ワイヤが、補強ワイヤおよびレシーバの1つから延伸している。」
とある。
しかし、構成要件Dで保持手段は、「前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び」{上記(i)}と規定していることから、「前記中間連結部」とも「前記レシーバ部」に含まれないものであることは、明らかであり、
したがって、「中間連結部20の管路34を通って延伸し、レシーバ12の第1端部(以下、「近端部」とよぶ)36内へと進み、スピーカ14に沿って延伸している。」とする上記態様a、態様bの「補強ワイヤ」は、構成要件Dでいう「保持手段」には含まれないものということができ、
残る上記態様cの「補強ワイヤから延伸している。」ものは、上記構成要件Dの上記規定{上記(i)}に合致するものであるが、
中間連結部20内の補強ワイヤから中間連結部の外へ延伸している部分だけを「保持ワイヤ」と称しているといえ、上記規定と同様、「補強ワイヤーは「保持ワイヤ」とは別の部分とするものである。

以上によれば、構成要件Dでいう「保持手段」は、「補強ワイヤ」を含まないものであり、「補強ワイヤー」に対応するものではない。
(なお、このことからすれば、請求項1を引用しかつ「前記保持手段は、補強ワイヤであり」とする請求項33は、「保持ワイヤが補強ワイヤから延伸している部分であり」と解釈されるべきである。)

(イ)『吊されるように』、「保持ワイヤ」
発明の詳細な説明に、「吊されるように」なる記載は、
「【0011】
他の態様において、保持ワイヤが、補強ワイヤおよびレシーバの1つから延伸している。保持ワイヤは、耳の耳甲介の部分内に位置するように構成されている。このような態様においては、保持ワイヤは、補聴レシーバの耳腔内への過度の挿入が起きないように構成される。保持ワイヤは、補聴レシーバが耳腔内の部分内に吊るされるように構成されて、レシーバのどの部分も耳腔の側面に触れることはない。
【0026】
例えば、保持ワイヤ54、レシーバ16、および中間連結部20は、レシーバ16が耳腔60内に延伸するけれども、耳腔60の骨質の領域62内には延伸しないように構成される。更に、図5に示すように、保持ワイヤ54は、補聴レシーバ16が耳腔60内の部分内に吊るされるように構成して、レシーバ16のどの部分も耳腔60の側面に触れることはない。保持ワイヤ54はレシーバ16から延伸するものとして示されているけれども、その代わりに、保持ワイヤは、中間連結部20から延伸してもよい。」
にのみ存在することから、
本件発明1の「保持手段」とは、「保持ワイヤー54」に対応するもので、「保持ワイヤー54」を含んで言おうとするものと解される。

(ウ)「吊す」の意味
そして、「吊す」とは、一般的には「物をひもや縄などで結んで下へ垂らす。つり下げる。ぶらさげる。」(大辞泉(小学館)(請求人))、すなわち、「物を線条物(ひもや縄)に結合して下方にへ垂らす。つり下げる。ぶらさげる。」ことを意味するとされているところ、
「保持ワイヤ54」は、図5に示されるように、レシーバ16を略側方から保持していて(重力方向で)上から下方に「つり下げる」ものではないから、上述した「吊す」の意味にぴったりとは合致しない。
とはいっても、図5に示される「保持ワイヤ54」のように略側方から保持する状態について使用すれば、意味不明となる用語である、とまではいえない。
検討するに、物を吊した場合、吊された物は、下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるものであり、逆に、下に支えがあったり、変位が許容されない状態となるとき、これを「吊す」とは一般に言わないものである。
すなわち、「吊す」とは、その本質とする属性の1つに、吊された物が、下に支えがなく変位が許容されない状態となるのではなく、変位が許容され宙ぶらりんの状態とすることを含んでいることは、容易に理解されるのである。
また、「吊す」とは、上記のように、一般的に「物を線条物(ひもや縄)に結合して下方にへ垂らす。つり下げる。ぶらさげる。」ことを意味するとされているところ、その線条物の太さについて見るに、
(対象物を下から支えるのではなく空中に保持・支持するとしても、)対象物と同等のサイズ・太さのものを対象物に結合して支持するようなときには、通常、「吊す」とは言わないものであり、物を「吊す」といえば、その物を「吊す」手段は、吊される物のサイズに比べて相当程度細いものを想定するのが普通である。

(エ)構成要件Dの「前記レシーバ部分を前記耳腔(外耳道)内に『吊されるように』保持する」
構成要件Dでは、「吊す」とはせず、『吊されるように』としていていることと、上述した(ア)?(ウ)を踏まえ、再度、図5に示される「保持ワイヤー54」を見るに、
「保持ワイヤー54」は、レシーバ16を略側方から保持していて(重力方向で上から下方に「つり下げる」ものではないものの)、「保持ワイヤー54」により、「レシーバ16」は、下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるようにされているということができるのであり、
また、「保持ワイヤー54」は、図5に示されるように、レシーバ16と比べても相当程度細い、したがって、耳腔と比べても相当程度細い細条物といえ、このことは、「挿入損失および閉塞効果を減じる」という課題に合致している。
そうすると、本件発明1でいう「前記レシーバ部分を前記耳腔内に『吊されるように』保持する手段」とは、
「レシーバ部分と比べて相当程度細い(したがって、耳腔と比べても相当程度細い)細条物であって、
これによって、レシーバ部分を『下に支えがなく(変位が許容されない状態となるように保持するのではなく、)変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持する保持手段」を意味するものと困難なく解される。

(オ)まとめ(理由)
そして、構成要件Dの下線部{上記(ii)}は、そのような細状物によって、そのように保持するも、「前記レシーバ部分が前記耳腔(外耳道)に触れないように」保持する、とするのであるから、上記ア-1のように解される。
すなわち、
構成要件Dの「前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」とは、
「レシーバ部分と比べて相当程度細い(したがって、耳腔と比べても相当程度細い)細条物であって、
これによって、前記レシーバ部分を、前記レシーバ部分が前記耳腔(外耳道)に『触れないように』かつ、『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持する保持手段」
を意味するものと解される。

ア-3 請求人の主張について(口頭審理、陳述要領書)
「吊されるように保持する保持手段」を、上記のように解釈することについて、請求人は、以下の様に主張している。

(a)主張1
請求人は、請求項27,28には、「保持ワイヤ」が「レシーバ部分」を「安定化させる」または「動かないようにする」という記載があり、これは、上記の解釈と矛盾する旨主張する。

【請求項24】
前記中間連結部およびレシーバ部分の少なくとも1つから延伸した前記保持手段を構成する保持ワイヤを更に備えており、そして、
前記保持ワイヤはユーザの耳甲介の少なくとも一部に係合する構成からなっていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項27】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分を耳腔内に安定化させることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。
【請求項28】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分が耳腔内で動かないようにすることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。

しかしながら、上記ア-1・2のように解釈される、請求項1を引用する請求項24の「保持手段を構成する保持ワイヤ」の範囲内において、例えば、その太さ・材質や、耳腔壁・耳甲介との係合関係等を特定の構成とすること等により、
より「レシーバ部分を耳腔内に安定化させる」(請求項27)ものとすること、より「レシーバ部分が耳腔内で動かないようにする」(請求項28)ことは、普通に想定し得るのであり、上記解釈と矛盾するわけではない。
請求項27、28の記載の不明確性を問うのであればともかく、請求項27、28の上記記載と矛盾するから上記解釈(請求項1に基づき明細書・図面を参酌することで構成要件Dの記載から導いた上記解釈)が相当でない、とはいえない。

(b)主張2
請求人は、以下の(b1)?(b3)の旨、主張する。(口頭審理(陳述要領書))
(b1)「吊す」とは、「物をひもや縄などに結合して下方へ垂らす。つり下げる。ぶら下げる」と一義的に明確に理解することができ、「吊す」という用語が明細書中に定義されているとも認められないことは明らかであるから、その解釈に当たって、明細書の発明の詳細な説明や図面の記載を参酌するべきではない。
(b2)「前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」は、「保持手段」によって「レシーバ部分」が「吊される」と解釈することはできず、「レシーバ部分」を吊す部材が「保持手段であると明確に理解できない。訂正後の請求項1は、文言どおりに解釈すべきであり、訂正後の請求項1に記載された「保持手段」は単に「保持する」手段であると解釈すべきである。
(b3)「吊す」の文言については、仮に明細書等の記載を参酌して理解したとしても、図5に示すように、中間連結部が耳の上部を通ってレシーバ部分に連結している構成を示しているに過ぎないと理解できる。

しかしながら、上記請求人の主張は以下の理由で採用できない。
上記(b1)について
特許法70条には、「(1)特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。(2)前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定されている。
上記ア-1,2の解釈は、特許請求の範囲の請求項1に記載されている発明(の要旨)を特定するにあたり、同範囲の請求項1に記載されている「前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」(特に、『吊されるように』)を、明細書・図面の記載(特に、明細書中の同じ『吊されるように』なる記載、これに対応する図面の記載)を考慮することにより、その意義を解釈したものである。
請求項1に「吊されるように」なる用語がないのであれば、上記解釈は、特許請求の範囲の記載を超えて、発明の詳細な説明や図面にだけ記載された技術事項を構成を付加して解釈したことになり許されないが、上記解釈はそうではないのであるから、特許請求の範囲記載の「用語」の解釈に当たって、明細書の発明の詳細な説明や図面の記載を参酌するべきではない、との上記請求人の主張は採用できない。
上記(b2)(b3)について
請求項1の「前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」は、明細書・図面の記載を考慮すれば勿論、仮にこれらを考慮しないとしても、文言通り普通に解釈すれば、「保持手段」によって「レシーバ部分」が「吊されるように」保持される、と解釈されるものであり、
また、請求項1において、構成要件Dの「保持手段」は、構成要件「中間連結部」とは別体として記載していることは明らかであり、特許請求の範囲の請求項1の記載に基づけば、「保持手段」が「中間連結部」を含むものと解釈する余地はない。
上記(b2)(b3)の主張は、請求項1に、「中間連結部」とは別のものとして記載されていて「吊されるように」と記載されている「保持手段」を、「吊されるように」を無視して単なる「保持手段」と解釈し、「吊されるように」と記載されていない「中間連結部」を、「吊されるようにする手段」と解釈すべきであるという主張であるが、かかる主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない解釈であって、採用できない。

イ 甲1発明の「鉤状部材(barb)14」
甲1発明は、本件発明の上記構成要件Dの「保持手段」に対応するものとして、「鉤状部材(barb)14」を備えており、それらの異同について検討する。
本件発明1の構成要件Dは、上記ア-1でみたように解せられることは前記のとおりであり、以下に再掲する。

構成要件Dの「保持手段」は、
(i)前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記レシーバ部分を保持する保持手段であって、
(ii)前記耳腔(外耳道)内に前記レシーバ部分が挿入された際に「前記レシーバ部分が前記耳腔(外耳道)に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔(外耳道)内に『吊されるように』保持する手段」であるところ、
上記(ii)の下線部は、
(iii)「レシーバ部分と比べて相当程度細い(したがって、耳腔と比べても相当程度細い)細条物であって、
これによって、前記レシーバ部分を、前記レシーバ部分が前記耳腔(外耳道)に『触れないように』かつ、『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持する保持手段」
を意味するものと解される。

イ-1 (i)「前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記レシーバ部分を保持する保持手段」について

甲1発明の「鉤状部材(barb)14」は、上記のとおり、
S2「さらに、第2のイヤーカナルチューブ30は、
イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し図5bに示されるように耳珠の背後に留まるものであって、耳の組織を傷付けないよう軟質の材料(例えば、ゴム状材料)で作製される鉤状部材(barb)14を設け、」
とされる「鉤状部材(barb)14」であるから、
「鉤状部材(barb)14」は、「前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び」、「イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定する」保持手段といえるところ、
前記のとおり、「イヤーカナルチューブ10」(「外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされるラッパ状に広がるチップ(tip)12を被せてなる先端側部分がラッパ状に広がる形状のイヤーカナルチューブ10」)は、「スピーカ44」と連結されているから、これらを合わせたもの(本件発明1でいう「スピーカを含むレシーバ部分」に対応する)を、「外耳道内で正しい位置に保持し固定する」保持手段ともいえ、
「前記レシーバ部分を」「保持する保持手段」といえるものである。
したがって、「鉤状部材(barb)14」は、上記イ-1を満たすものであり、この点、本件発明1と相違しない。

イ-2 (ii)「前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」について

これまでに論じたことから、
甲1発明の 図1に示される「鉤状部材(barb)14」は、
イヤーカナルチューブ10から外に延伸し図5bに示されるように耳珠の背後に留まるものであって、耳の組織を傷付けないよう軟質の材料(例えば、ゴム状材料)で作製されるもので、
「スピーカ44」と、当該「スピーカ44」に連結された「外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされるラッパ状に広がるチップ(tip)12を被せてなる先端側部分がラッパ状に広がる形状のイヤーカナルチューブ10」を合わせたもの(レシーバ部分)を、
外耳道内で正しい位置に保持し固定するための保持手段、
ということができるものであるが、

以下の(ア)(イ)でみるように、
「鉤状部材(barb)14」は、軟質の材料(例えば、ゴム状材料)で作製される図1に示されるもので、これを図5bのように耳珠の背後に留まるようにして用いるものであるが、これだけを耳珠の背後に留まるように耳腔の壁に接して置くことのみによって、上記の「スピーカ44とイヤーカナルチューブ10を合わせたもの(レシーバ部分)」を、外耳道内で正しい位置に保持し固定する(できる)ものではなく、
レシーバ部分の先端に配される「外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされるラッパ状に広がるチップ(tip)12」も耳腔(外耳道)の壁に当接することによって、上記「スピーカ44とイヤーカナルチューブ10を合わせたもの(レシーバ部分)」を、外耳道内で正しい位置に保持し固定するもの(保持手段)と解せられる。

したがって、甲1発明の「鉤状部材(barb)14」は、
「前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」とはいえないし、
『変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持するものとはいえないし、「レシーバ部分が前記耳腔に触れないように」保持するものともいえず、
上記イ-2を満たす保持手段とはいえない。

また、甲1号証には、レシーバ部分を、前記レシーバ部分が前記耳腔(外耳道)に『触れないように』かつ、『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持する技術思想を認めることはできない。

(ア)甲1発明の「鉤状部材(barb)14」は、
S2:「イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し図5bに示されるように耳珠の背後に留まるものであって、耳の組織を傷付けないようゴム状材料のような軟質の材料で作製されるものであって、
「イヤーカナルチューブ10」・「スピーカ44」を「外耳道内で正しい位置に保持し固定するため」の保持手段であることから、
「前記レシーバ部分」を、外耳道内で正しい位置に保持し固定するための「保持手段」であるといえる。
そして、固定するための「保持手段」とは、そもそも、『変位が許容されない状態となるように保持する』ための手段をいうものであり、『変位が許容されない状態となるように保持する』ものではない。

そもそも、甲1号証における「鉤状部材(barb)14」は、上記課題bの克服を目的とするものであって、
それは、外耳道の中まで延伸するチューブを、外耳道を概して閉塞せずに外耳道内で正しい(適切な)位置に維持することが必要であることを認識した上で、その維持に必要であった硬質のイヤモールド等を寸法を小さくし魅力的で装用感が良いものとしようとするために採る手段と理解され、その範囲に止まるものであり、
甲1号証に、「鉤状部材(barb)14」によって、正しい(適切な)位置に維持する仕方そのものを、『変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持する仕方とすることまでを伺わせる記載もないのであるから、
そこに、外耳道の中まで延伸するチューブを外耳道内で正しい(適切な)位置に維持することを、むしろ妨げることになりかねない『吊すように』保持する技術思想を見いだすことはできないものである。

(イ)甲1号証において、「チップ(tip)12」は、図5b上において若干ではあるが、その上側(図5b上において)は耳腔から離れて記載されており、このことから、「鉤状部材(barb)14」が「前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」といえるか、について検討するに、
以下の点を考慮すれば、「鉤状部材14」も「チップ(tip)12」も耳腔(外耳道)の壁に接しているものと解され、「鉤状部材14」は、イヤーカナルチューブ10を耳腔(外耳道)に触れないようにして保持するものともいえないし、イヤーカナルチューブ10を、耳腔(外耳道)内に『変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持するものともいえない。

(イ-1)確かに、甲1号証の図5bには、「チップ(tip)12」は、図5b上において若干ではあるが、その上側(図5b上において)は耳腔から離れて記載されているが、同様に、「鉤状部材(barb)14」も、若干ではあるが、その下側(図5b上において)は、耳腔から離れて記載されている。
しかし、「鉤状部材(barb)14」は、
S2:「イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し図5bに示されるように耳珠の背後に留まるものであって」「耳の組織を傷付けないよう」ゴム状材料のような軟質の材料で作製されるものであって、耳腔(外耳道)の壁に接していることは明らかである
(技術的に合理的に考えても、「鉤状部材(barb)14」の端部(図5b上において下側端付近のどこか)が、耳腔(外耳道)の壁に接していなければ、「イヤーカナルチューブ30の先端側部分(イヤーカナルチューブ10)を外耳道内で正しい位置に保持し固定」できないことは明らかである)
ことからすれば、
単に、「チップ(tip)12」が図5b上において若干、その上側(図5b上において)が耳腔から離れて記載されているからといって、このことのみを根拠に、「鉤状部材(barb)14」がレシーバ部分である「チップ(tip)12」
{レシーバ部分;甲1発明の「スピーカ44」と「チップ(tip)12を被せてなる先端側部分がラッパ状に広がる形状のイヤーカナルチューブ10チップ(tip)12が被せて固定される、先端側部分がラッパ状に広がる形状のイヤーカナルチューブ10」を合わせたもの}
が前記耳腔に『触れないように』かつ、『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持するものとはいえない。

(イ-2)また、甲1号証には、「鉤状部材14」が、イヤーカナルチューブ10を、耳腔(外耳道)の壁から離して保持するためのものであるとか、耳腔(外耳道)内に「下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態」で保持するためのものである、との記載は無く、「前記第2のイヤーカナルチューブを前記ユーザーの外耳道内に固定する鉤状部材(barb)」(請求項10)、「イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持する」(K8)とされているところ、
ゴム状材料等で作製される「鉤状部材(barb)14」を図5のように用いてこれだけを耳腔の壁(耳珠の背後に)に接して置くだけで、スピーカ44も加わって重くなっていると考えられ、耳腔内で図5bのサイズとなるレシーバ部分(スピーカ44、チップ(tip)12を含むイヤーカナルチューブ10)が、そのどこも耳腔の壁に接することなく外耳道内で正しい位置に保持し固定できるものとは、到底考えられず、
ぶらぶらしないように耳腔内で固定するためには、「鉤状部材(barb)14」の図5b上において下側端付近のどこかが、耳腔(外耳道)の壁に接しているだけでは十分でなく、「チップ(tip)12」の図5b上における上側端付近のどこかも耳腔(外耳道)の壁に当接していると見るのが、「固定する」「正しい位置に保持する」とすることからみて合理的且つ自然である。
このことは、「チップ(tip)12」を、「鉤状部材(barb)14」が「耳の組織を傷付けないよう軟質の材料・・・で作製される」と同様かつ同様の表現で「外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされる」ことからも、合理的且つ自然な理解というべきである。
また、このことは、甲1発明は、S2:「図5a図5bに示されるようにして、ケース40、チューブ10、30および32、鉤状部材(barb)14、そしてチップ(tip)12を含む組立品全体が、耳における装置の位置を維持するユニットとして機能するようにした」ものであるとしていて、「第2のイヤーカナルチューブ30の先端側部分(イヤーカナルチューブ10)」やその先端側の「スピーカ(レシーバ)44」は、「鉤状部材(barb)14」のみによって外耳道内で正しい位置に保持し固定されるのではないと理解されることからも、首肯し得ることである。

(イ-3)図1,図5bに示されるような「鉤状部材(barb)14」が、「イヤーカナルチューブ10」「スピーカ44」を、耳腔(外耳道)の壁から離して耳腔(外耳道)内に「変位が許容され宙ぶらりん」状態で保持するためのものであることが技術常識ともいえない。
むしろ、イヤーチップは、イヤーカナルチューブを耳腔内で正しい位置に保持するために、耳腔の壁に当接するようにして用いるのが普通である。
加えて、「鉤状部材(barb)14」と同様、柔らかい材質でかつ同様の形態で、耳珠の背後に留まってイヤーカナルチューブを耳腔内で正しい位置に保持するためのものと認められる甲13号証の、図17?21の「テール部74」「突起80」を設けたイヤーチップも、耳腔の壁に当接するようにして用いるものとされている。

甲13号証の(N4){翻訳文段落【0043】【0044】}、図17?21の「テール部74」「突起80」は、
「使用者の耳管内で保持力を備えるため、図19に示す耳管の耳珠Tの背面に引っかけられるものである。テール部74は、耳珠Tの下面を軽く押さえつけるように柔らかいスプーン状の表面を有している。ここでも、チューブ12の剛性が、グッピー型イヤーチップを耳管内の適切に方向決めおよび位置決めされた場所に維持させている。」((N4)、段落【00043】)、「突起型イヤーチップ14eは、グッピー型イヤーチップ14dより閉塞性わずかに劣り、またグッピー型イヤーチップと実質的に同じ方法で取り扱われる。」((N4)、段落【0044】)とされ、図19を参照すれば、
ゴム状材料のような軟質の材料で作製される「鉤状部材(barb)14」と同様、柔らかい材質で同様の形態をしていて、耳珠の背後に留まってイヤーカナルチューブを耳腔内で正しい位置に保持するためのものと認められる点でも「鉤状部材(barb)14」と同様の機能部材といえるものであるところ、
それら「テール部74」「突起80」は、イヤーカナルチューブを耳腔内で正しい位置に保持するために、図19に示されるように、イヤーチップを耳管の壁に当接するようにしてイヤーカナルチューブを耳腔内で正しい位置に保持するものと認められる。

(イ-4)また、甲1号証において、「チップ(tip)12」(図1)の代替物として図4a?dに示される「サポートフィンガー21」{(K9)}は、「鉤状部材14」と共に使用するものであるところ、そのフィンガーは、イヤーカナルチューブ10の先端部の周囲に複数個固設され、その各フィンガーは、耳腔(外耳道)の壁に当接し、これを支えとして、イヤーカナルチューブ10を耳腔内で正しい位置に保持し固定するものと言えるものであり、
スペーサーとしての機能を果たすものとして必要なものというべきであり、イヤーカナルチューブ10を、『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持するものではない。
仮に、「鉤状部材14」が、イヤーカナルチューブ10を、耳腔内で宙ぶらりん状態で吊されるように保持するためのものであるならば、「サポートフィンガー21」はそれを阻害することになる。
そもそも、「鉤状部材14」が、イヤーカナルチューブ10を、耳腔内で宙ぶらりん状態で吊されるように保持するためのものであるならば、上記「サポートフィンガー21」も甲1発明の「チップ(tip)12」も不要というべきである。
甲1発明における「鉤状部材14」が、「イヤーカナルチューブ10」を『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持しようとするものでないことは、明らかである。

ウ まとめ(構成要件D)
以上によれば、本件発明1と甲1発明は、
「前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び」、「前記レシーバ部分を」「保持する保持手段」を備え、とする点においては相違はなく、
保持手段が、
本件発明1では、「前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する」保持手段、であるのに対して、
甲1発明では、そのような保持手段ではない点で相違する。

(6)構成要件Bのうちの、(スピーカを含むレシーバ部分が)「前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、」について

上記「(2)構成要件Bについて」及び「(5)構成要件Dについて」の検討結果によれば、
本件発明1の「レシーバ部分」に対応する、甲1発明の、「スピーカ44」と「チップ(tip)12」を含む「イヤーカナルチューブ10」を合わせたものが、「前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、」とはいえないことは、明らかであり、この点、本件発明1と相違する。

[2-4]本件発明1と甲1発明の一致点、相違点

以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、

[一致点]
A’ユーザの耳の後ろに配置され、1以上のマイクロホン、バッテリ、メモ
リー、前記マイクロホンと接続された音声処理電子装置および音声増幅
電子装置を収容する音声処理部分と、(を備え、)
B’ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、
挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉
塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分と、
C 前記レシーバ部分と、ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処
理電子装置と、の間に設けられ、前記音声処理電子装置と前記スピーカ
との間を電気的に接続する電気伝導性部品を含む中間連結部と、
D’前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記
レシーバ部分を保持する保持手段と
を備え、
E 前記マイクロホンからの音を、増幅し、前記電気伝導性部品及び前記開
放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部分に伝達させる補聴
器。

で一致し、

[相違点]

[相違点1](集音位置の相違)
マイクロホンが、
本件発明1では、「耳腔から離れた集音位置に配置された」、「前記集音位置の」とするのに対して、
甲1発明では、「耳腔から離れた集音位置に配置された」、「前記集音位置の」ではない点、

(甲1発明のマイクロホンは、「第1のイヤーカナルチューブ32」を用いて、「耳腔を集音位置とし、耳腔から離れた位置に配置された」、「前記集音位置から離れた位置の」マイクロホンである。)

[相違点2](保持手段の相違)
スピーカを含むレシーバ部分が、
本件発明1では、「外耳道内に前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、」とするのに対して、
甲1発明では、そのようにされておらず、
前記レシーバ部分を保持する保持手段が、
本件発明1では、「前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する」保持手段、であるのに対して、
甲1発明では、そのような保持手段ではない点、

(甲1発明の保持手段は、上記イ-2と解せられるものである。)

で相違すると認められる。

《請求人の主張について》

(a)主張1(弁駁書、【第3-1】[3-1](2)のア)
請求人は、本件発明1の「保持手段は、前記レシーバ部が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する」点は、
チューブ10の位置を保持するのは耳腔の壁でなく鉤状部材14であることを示している、甲1号証の(K8)「鉤状部材(barb)14は、イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持するために、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し、耳珠の背後に留まっている。」の記載と、チューブ10の上下が耳腔の壁から離れていることを示している図5bを合わせると、
当業者は、鉤状部材14が、チューブ10が耳腔の壁に触れないようにチューブ10を耳腔内に保持するものと当然に理解する点であるから、甲1号証に記載されている旨、主張する。

しかしながら、甲1号証の図5bには、「チップ(tip)12」は、図5b上において若干ではあるが、その上側(図5b上において)は耳腔から離れて記載されているものの、これを根拠に、甲1発明の「鉤状部材(barb)14」が「前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段」とはいえないことは、上記「[2-3]本件発明1と甲1発明の対比(5)イ-2(ア)(イ)」で詳細に論じたとおりであり、上記請求人の主張は採用できない。

(b)主張2(口頭審理、陳述要領書)
訂正後の請求項1に記載の「保持手段」は、上記「[2-3]本件発明1と甲1発明の対比(5)アのような「保持手段」と解釈できず、単なる「保持する保持手段」に過ぎないものであり、中間連結部がレシーバ部分を吊している(耳の上部を通ってレシーバ部分に連結している)ことは、甲1号証に記載されているから、
また、請求項27,28に、「保持ワイヤ」が「レシーバ部分」を「安定化させる」または「動かないようにする」とするものであるから、
本件発明1の保持手段は、甲1号証に記載されている旨、主張している。

しかしながら、上記請求人の主張は、いずれも、本件発明1の「保持手段」について上記「[2-3]本件発明1と甲1発明の対比(5)ア-3」で請求人が主張したように解釈されることを前提とするものであるところ、そこで既に示したように、その前提解釈が妥当といえないのであるから、採用できない。

[2-5]まとめ{本件発明1の新規性判断(甲1号証)}
上記[2-3][2-4]のとおり、本件発明1と甲1発明は相違するから、本件発明1が甲1号証に記載された発明であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、とすることはできない。

[3]本件発明1の新規性判断(甲2?甲11号証)
本件発明1が甲2?7,11号証のいずれかに記載された発明であるか、公然実施された発明(甲8?10号証)であるか、について

[3-1]甲2?14各号証(記載事項、記載発明等)
以下に、上記甲各号証に記載されている事項を示す(摘示)。
あわせて、上記甲2?7号証,甲11?14号証に記載されていると認められる各発明(刊行物記載発明;甲2?甲7発明、甲11?甲14発明)、甲8?10号証により公然実施されていると認められる各発明(甲8?甲10発明)も示した。
なお、甲12?14号証は、新規事項欠如の根拠とする刊行物とはされていないが、進歩性欠如の根拠とする刊行物として挙げられているのでここでみておく。

(1)甲1号証については既に検討したとおりである。

(2)甲2号証(特開2002-152893号公報)
〈記載事項〉
図1には、耳掛け補聴器の補聴処理に係るブロック構成図が示され、図2には、耳掛け補聴器の外観図が示されている。
「マイクロホン1は、外部音を音響電気変換してアナログ信号を出力する。プログラム記憶部2は、各種の使用環境に適応するための複数の補聴処理プログラムを記憶している。プログラム選択部3は、プログラム記憶部2が記憶している複数の補聴処理プログラムの中からプッシュスイッチ7の操作によって所望の補聴処理プログラムを選択し、それを補聴処理部4に出力する」(段落【0010】)
「耳かけ形補聴器は、図2又は図3に示すように、マイクロホン1、プログラム記憶部2、プログラム選択部3、補聴処理部4、増幅器5、イヤホン6などを補聴器ケース8内に収納する」(段落【0013】)

〈甲2発明〉
これらの記載等によれば、甲2号証には、以下の[甲2発明]が記載されていると認められる。
[甲2発明]
耳掛け補聴器であって、補聴器ケース8内に、マイクロホン1、プログラム記憶部2、プログラム選択部3、補聴処理部4、増幅器5、イヤホン6などを収納し(図2,図3)、
マイクロホン1は、外部音を音響電気変換してアナログ信号を出力し、
プログラム記憶部2は、各種の使用環境に適応するための複数の補聴処理プログラムを記憶し、
プログラム選択部3は、プログラム記憶部2が記憶している複数の補聴処理プログラムの中からプッシュスイッチ7の操作によって所望の補聴処理プログラムを選択し、それを補聴処理部4に出力する耳掛け補聴器。

(3)甲3号証(独国実用新案第29718483号明細書)

〈記載事項〉
原文において、a,u,oにウムラウト記号が付いたもの及びエスツェットはそれぞれ ae,ue,oe,ss と代用表記する。
また、摘示部分毎に(L1)等の記号を付した。
(L1)「Die Erfindung betrifft eine Haltevorrichtung zur Befestigung von otologischen Geraeten, wie Hoergeraeten, Tinitusmaskern und Geraeuschgeneratoren, in der Ohrmuschel gemaess Anspruch 1.(第1頁第9行?第12行)
(請求項1に係る本発明は、耳介において補聴器、耳鳴りマスカおよび雑音発生器といった耳科的装置を固定する保持装置に関する。)」
(L2)「Otologische Geraete wie Hoergeraete, werden immer kleiner und leistungsfaehiger. Aus psychologischen Grueden versucht man die Hoergeraete moeglichst "unsichtbar" zu plazieren und die sogenannten Concha-Geraete werden in den Gehoergang bzw. in die Concha eingefuehrt und sind von aussen kaum sichtbar.(第1頁第14行?18行)
(補聴器のような耳科的装置は、ますます小型で効果的なものとなってきている。心理的な理由から、補聴器を可能な限り見えないように配置しようとする試みがなされており、いわゆる耳甲介装置は耳道内や耳甲介内に挿入され、それらは外部からはほとんど見えない。)」
(L3)「Dieses Einstecken der Hoegeraete in den Gehoergang bzw. in die Concha ist fuer manche Patienten bzw. Kunden unangenehm. Darueber hinaus laesst die therapeutische Wirkung von Tinitusmaskern und Geraeuschgeneratoren, die derart plaziert werden, zu wuenschen uebrig.(第1頁第20行?第24行)
(一部の患者あるいは顧客は、耳道内や耳甲介内に補聴器を挿入・差し込む(einstecken)ことに、不快感を覚える。その上、このように配置された耳鳴りマスカや雑音発生器の治療効果は、とても満足できるものではない。)」
(L4)「Es ist daher Aufgabe der vorliegenden Erfindung, eine Haltevorrichtung fuer otologische Geraete, und insbesondere fuer Tinitusmasker und Geraeuschgeneratoren zu schaffen, die einen verbesserten Tragekomfort ermoeglichen und zu einer Verbesserung der therapeutischen Wirkung fuehren.(第1頁第26行?第1頁第30行)
(従って、本発明は、装着時の快適性を改善しつつ、治療効果の改善をもたらす、特に耳鳴りマスカや雑音発生器といった耳科的装置のための保持装置を提供することを目的とする。)」
(L5)「Durch den federnden Buegel, der sich durch eine leichte Federkraft selbsttaetig am Rand der Concha fixiert, ist es moeglich, das otologische Geraet "frei schwebend" in der Cavum Conchae ueber dem Gehoergang zu plazieren. Durch diese offene Trageweise wird zum einen der Tragekomfort erhoeht und zum anderen hat sich insbesondere bei Tinitusmaskern und Geraeuschgeneratoren eine verbesserte therapeuticsche Wirkung herausgestellt.(第1頁第35行?第2頁第4行)
(弾性を有する弓状部材は、わずかな弾性によって耳甲介の縁に自動的に密着し、耳科的装置を耳甲介腔内に(in der Cavum Conchae)「宙に浮いた状態で」(frei schwebend)、耳道(dem Gehoergang)から離れて上方に(ueber )配置することを可能にする。このようなオープンな装置の装着方法は、一方において装着時の快適性を向上させ、他方において、特に耳鳴りマスカや雑音発生器の場合には、治療効果を改善する。)」
(L6)「Fig.1 zeit eine erste Ausfuehrungsform der erfindungsgemaessen Haltevorrichtung das in eine Ohrmuschel 1 mit Helix2, Crura anthelicis 3, Anthelix 5, Concha 6, bestehend aus Cymba conchae 7 und Cavum conchae 8, Antitragus 9, Meatus acustics externus 10 bzw. Oeffnung des Gehoergangs in die Cavum conchae 8, Tragus 11 und Fossa triangularis 12 eingesetzt ist. Die erste Ausfuehrung der Haltevorrichtung nach Fig. 1 umfasst einen C-foermingen Buegel 14 aus einem federnden Material, der in den Rand der Concha 6 gebildet durch Anthelix 5, Antitragus und Tragus in der Ohrmuschel 1 fixiert wird. Hierbei ist die offene Seite des c-foermingen Buegels 14 dem Gehoergang 10 zugewandt. Im unteren Drittel des C-foermingen Buegels 14 erstreckt sich in etwa im Bereich des Antitragus 9 ein Traegermittel in Form eines Traegererms 15 von dem C-foermingen Buegel 14 in Richtung Gehoergang 10 weg. Der Traegerarm 15 ist mit einem Ende 16 fest mit dem C-foermigen Buegel 14 verbunden und an seinem anderen Ende 18 ist das jeweilige otologische Geraet 20 befestigt und schwebt somit ueber dem Gehoergang 10.(第3頁第11行?第29行)
(図1に係る保持装置の第1実施例は、弾性材料から成っており、耳介1内の対耳輪5、対珠および耳珠によって形成される耳甲介6の縁内に固定される、C字型の弓状部材14を備えている。本実施例では、C字型の弓状部材14の開いた側が、耳道10に向いている。C字型の弓状部材14の下側3分の1の、おおよそ対珠9の領域において、支持アーム15の形態の支持手段が、C字型の弓状部材14から耳道10に向けて伸びている。支持アーム15の一方の端部16はC字型の弓状部材14に剛結合されており、各耳科的装置20は他方の端部18に固定されて、耳道10に吊るされている。)」
(L7)「Fig.2 zeigt eine zweite Ausfuehrungsform der Erfindung. Die Ausfuehrungsform nach Fig. 2 umfasst ebenfalls einen C-foermingen Buegel 14 der in gleicher Weise wie die Ausfuehrungsform nach Fig. 1 in der Concha 6 bzw. am Rand der Concha befestigt wird. Im Gegensatz zu der Ausfuehrungsform von Fig. 2 ist das Tragemittel fuer das otologische Geraet 20 als Verlaengerung 22 des C-foermingen Buegels 14 ausgebildet. Die Verluengerung 22 erstreckt sich von dem Rand der Concha im Bereich des Antitragus 9 weg in Richtung Gehoergang 10. An dem dem Gehoergang 8 zugewandten Ende der Verluengerung 22 des Buegels 14 ist widerum das jeweilige otologische Geraet 20 befestigt.(第3頁第31行?第4頁第5行)
(図2は、図1の実施例と同様に、耳甲介6内あるいはその縁に固定された、C字型の弓状部材14を備える、本発明の第2実施例を示す。図1の実施例とは対照的に、耳科的装置20の支持手段は、C字型の弓状部材14の延長部22として構成される。延長部22は、対珠9の領域において耳甲介の縁から耳道10に向けて伸びている。ここでも、各耳科的装置20は、弓状部材14の延長部22の、耳道8に向かう端部に固定される。)」

〈甲3発明〉
これらの記載等によれば、甲3号証には、以下の[甲3発明]が記載されていると認められる。
[甲3発明]
耳道内や耳甲介内に補聴器等の耳科的装置を挿入・差し込む(einstecken)不快感を軽減し、装着時の快適性を改善するため、
わずかな弾性によって耳甲介の縁に密着する弾性を有する弓状部材により、耳甲介装置を、耳甲介腔内に(in der Cavum Conchae)「宙に浮いた状態で」(frei schwebend)、耳道(dem Gehoergang)から離れて上方に(ueber )配置することを可能にする耳科的装置を固定する保持装置であって{上記(L1)?(L5)}、
弾性材料から成り、耳介1内の対耳輪5、対珠および耳珠によって形成される耳甲介6の縁内に固定されるC字型の弓状部材14であって、その支持アーム15の形態の支持手段が、その端部を耳科的装置20に固定し、耳道(dem Gehoergang)から離れて上方に(ueber)宙ぶらりんにしている{図1、上記(L6)(L7)}、
保持装置。

(4)甲4号証(国際公開第00/01196号)
〈記載事項〉
「In accordance with embodiments of the invention, sound is provided near the entrance of the user's ear canal, for example just inside the ear canal entrance, by a mechanism such as a slender tube or a speaker driver housing that does not occlude the ear canal. The mechanism does not significantly disturb the natural resonance of the ear canal, and minimally attenuates ambient sounds that enter the ear and pass through the ear canal to tympanic membrane. For example, the attenuation of ambient sounds due to the presence of the mechanism can be on the order of 1 dB or less, an attenuation which (as described further below) is imperceptible to the average user.(第3頁第18?26行)
(本発明の実施例によれば、外耳道を閉塞しない細長いチューブやスピーカドライバハウジングといった機構によって、音声はユーザの外耳道の入口付近、例えば外耳道の入口のすぐ内側で提供される。その機構は外耳道の自然な共鳴を大きく妨げることはなく、耳から入って外耳道を通過し鼓膜に到達する周囲の音声を最小限度で減衰させる。例えば、その機構が存在することによる周囲の音声の減衰は、(後述するように、)平均的なユーザが減衰をほとんど認識しない、1dBもしくはそれ以下のオーダーにすることができる。)」

〈甲4発明〉
上記の記載事項等によれば、甲4号証には、以下の[甲4発明]が記載されていると認められる。
[甲4発明]
音声は、ユーザの外耳道の入口付近、例えば外耳道の入口のすぐ内側で、外耳道を閉塞しない細長いチューブやスピーカドライバハウジングといった機構によって提供されるオープンカナルのトランスデュース装置であって、
その機構は外耳道の自然な共鳴を大きく妨げることはなく、耳から入って外耳道を通過し鼓膜に到達する周囲の音声の減衰(本件発明でいう「挿入損失」)を最小限度、例えば、平均的なユーザが減衰をほとんど認識しない、1dBもしくはそれ以下のオーダーにするオープンカナルのトランスデュース装置。

(5)甲5号証(特開昭62-151100号公報)
〈記載事項〉
第1図には、内装イヤホン1が内装されるイヤーモールド10-ケーズル被覆12(ケーブル13)ーハンガ9-本体ケース7と連結される耳掛け型補聴器が示されている。
「また内装イヤホンは一般の人の外耳道に比べ小さいのでイヤーモールドシェルを必要最小限に小さくすることにより、使用者の外耳道にすっぽりと収めることができ」(2頁右下欄の第9?12行)

〈甲5発明〉
上記記載事項等によれば、甲5号証には、以下の[甲5発明]が記載されていると認められる。
[甲5発明]
内装イヤホン1が内装されるイヤーモールド10-ケーズル被覆12(ケーブル13)-ハンガ9(「耳掛け」ということができる。)-本体ケース7と連結される耳掛け型補聴器において、内装イヤホンを一般の人の外耳道に比べ小さくすることにより、イヤーモールドシェルを必要最小限に小さくして、使用者の外耳道にすっぽりと収めることができるようにする耳掛け型補聴器。

(6)甲6号証(特開平10-56698号公報)
〈記載事項〉
「【請求項1】 スピーカ部が構成され耳介の窪み部内に位置される装着部と、
上記装着部を支持し耳介の外周に掛け合わされる耳掛け部とを備え、
上記装着部は、上記耳掛け部に対し伸縮自在に長さ調節が可能となされると共に、回転自在に角度調節が可能となされることを特徴とする電気音響変換装置。
【請求項2】 上記耳掛け部には、芯材に形状記憶合金が用いられたことを特徴とする請求項1記載の電気音響変換装置。」
「【従来の技術】従来より難聴者のための補聴器が提案されている。この補聴器は、マイク部とアンプ部と電池収納部とが構成された電源部と、耳介の窪み部内に収納されるスピーカ部が構成されたイヤホン部と、上記電源部とイヤホン部とを連結し耳介に掛けられるハンガー部とから構成される。また、これら電源部、イヤホン部及びハンガー部は、その筐体が合成樹脂材料等の剛体により形成されいる。そして、このように構成された補聴器は、使用時にはユーザの耳介にイヤホン部が装着され、耳介の外周部にハンガー部が掛け合わされる。」(段落【0002】)
「この耳掛け部4は、心材となるハンガースプリング41を覆うカバー42とから構成される。このハンガースプリング41は、心材として構成され、形状記憶合金により形成される」(段落【0019】)

〈甲6発明〉
図1及び上記記載事項によれば、甲6号証には、以下の[甲6発明]が記載されていると認められる。
[甲6発明]
スピーカ部が構成され耳介の窪み部内に位置される装着部と、上記装着部を支持し耳介の外周に掛け合わされる耳掛け部とを備える補聴器において、
上記装着部は、上記耳掛け部に対し伸縮自在に長さ調節が可能となされると共に、回転自在に角度調節が可能となされ、
上記耳掛け部の芯材(ハンガースプリング)に形状記憶合金を用いた補聴器。

(7)甲7号証(米国特許第4,972,488号明細書)
〈記載事項〉
図11-13には、補聴器のケーシングに内蔵されたレシ-バ208の前に設けられたバリア(障壁部)200が示され、
図22には、スクリーン320を有する(図11-13の)障壁部が示され、
更に別の実施形態を示す図34および図35には、取り外し可能な障壁部200が示されている。
「As shown in FIGS.22,23,24, and 28-31, the screen 320 provided a second line of defense against ear wax migration. The screen acts as a further wax catcher for wax particles that may pass through the barrier. A large mesh screen protects the receiver and the interior of the hearing aid from major wax particles. A fine screen, of course, provides protection against smaller particles.(第15欄第20-26行)
(図22、23、24および28-31に示されているように、スクリーン320は耳垢の移動に対する第2の防衛線を提供する。スクリーンは障壁部を通過する耳垢粒子に対する耳垢捕集器として機能する。大きなメッシュのスクリーンは大きな耳垢粒子から補聴器のレシーバ等の内部構造を保護する。細かいスクリーンは、勿論、より小さな粒子に対する保護を提供する。)」
「By using the barrier driver 340, the barrier 200 may be easily removed and cleaned, or replaced with a new barrier, when ear wax degrades the performance of the hearing aid 22.(第16欄第63-66行)
(障壁ドライバ340を使えば、たまった耳垢が補聴器の性能を低下させている場合に、障壁部200を容易に取り外して汚れを取り除いたり、新しい障壁部と取り替えたりすることができる。)」

〈甲7発明〉
これらの記載によれば、甲7号証には、以下の[甲7発明]が記載されていると認められる。
[甲7発明]
補聴器のケーシングに内蔵されたレシ-バ208の前に、耳垢粒子に対する耳垢捕集器として機能するスクリーン320を有するバリア(障壁部)200を設け、バリア(障壁部)を取り替え可能とした補聴器。

(8)甲8号証(ブルコフ・アパラーテバウ・ゲー・エム・ベー・ハー(Bruckhoff Apparatebau GmbH)のヘニング・ブルコフ(Henning Bruckhoff)氏の宣誓供述書とその添付書類、およびその翻訳文)
甲8号証の宣誓供述書、
添付1(ブルコフ社製のfreestyle補聴器の写真の写し、第1頁;freestyle補聴器の全体、第2頁;freestyle補聴器をユーザが装着した状態)、
添付2(ブルコフ社製のfreestyle補聴器の寸法をmm単位で示した図面の写し、第1頁;freestyle補聴器の全体、第2頁;freestyle補聴器のレシーバ部分においてレシーバを収容するケース)、
添付3(ブルコフ社製のfreestyle補聴器に関する広告が掲載された雑誌ヘラクスティク(H?rakustik)平成14年12月号の抜粋の写し、第1頁;その雑誌の表紙の写し、第2頁はその雑誌の目次の写し、第3頁;その雑誌において広告が掲載された頁の写し)、
添付4(ブルコフ社が日本の阪神補聴器センターにfreestyle補聴器を販売した際に発行した請求書の写し)、
添付5(ブルコフ社がコ/エス ホ・イ・エム・ピー・ピーのメンバーであるフォナック(Phonak)社に計測を目的としてfreestyle補聴器のサンプルを提供した際に発行した請求書の写し)
によれば、以下の[甲8発明]が本件特許出願の優先日前公然実施されている、と認められる。
[甲8発明](ブルコフ社製のfreestyle補聴器)
ユーザの耳の後ろに配置される部分と、レシーバ部分とユーザの耳の後ろの部分とを連結した上記添付1,添付2の補聴器(ブルコフ社製のfreestyle補聴器)であって、
レシーバ部分を、ユーザの外耳道内にオープンエアー(外耳道を閉塞しない状態)で配置し、横方向の最大寸法が3.9mm程度とした、補聴器。

(9)甲9号証(デルタ(DELTA)の実験成績証明書およびその翻訳文)
甲9号証及び甲8号証によれば、
上記公然実施されていると認められる甲8発明のブルコフ社製のfreestyle補聴器とは、レシーバを収容するケースの継ぎ手部が、ねじ込み式継ぎ手であるか、押込み式継ぎ手であるかの機械的な構造だけが異なる製造番号FD26294のfreestyle補聴器は、2200Hzから5300Hzの可聴周波数域で、挿入損失が3デシベル以下であること、が認められ、
レシーバを収容するケースの継ぎ手部が、ねじ込み式継ぎ手であるか、押込み式継ぎ手であるかの機械的な構造だけが甲8発明の補聴器と異なる補聴器が、2200Hzから5300Hzの可聴周波数域で、挿入損失が3デシベル以下であるのであることから、以下の[甲9発明]が本件特許出願の優先日前公然実施されている、と認められる。
[甲9発明]
ユーザのーザの耳の後ろに配置される部分と、レシーバ部分とユーザの耳の後ろの部分とを連結した上記添付1,添付2の補聴器(ブルコフ社製のfreestyle補聴器)であって、
レシーバ部分を、ユーザの外耳道内にオープンエアー(外耳道を閉塞しない状態)で配置し、横方向の最大寸法が3.9mm程度であり、2200Hzから5300Hzの可聴周波数域で、挿入損失が3デシベル以下である、補聴器。

(10)甲10号証(ノウルズ・エレクトロニクス・インク(Knowles Electronics, Inc.)のダグ・エリクソン(Doug Erickson)氏の宣誓供述書とその添付書類、およびその翻訳文)
甲10号証によれば、以下の[甲10発明]が本件特許出願の優先日前公然実施されている、と認められる。
[甲10発明]
横方向の最大寸法を2.97mm程度とする補聴器用のレシーバ(ノウルズ社製のFKシリーズレシーバ)。

(11)甲11号証(マイケル・バレンテ(Michael Valente),「補聴器:標準、選択および制約(Hearing Aids: Standards, Options, and Limitations)、第2版、(米国)、シーム(Thieme)社、平成14年、p.91およびその一部の翻訳文)
〈記載事項〉
第91頁の図2-27には、ノウルズ社が販売していた補聴器用のFKシリーズレシーバの外観を示す写真と寸法が記載されており、FKシリーズレシーバは角部が丸みを帯びた矩形の断面形状を有していて、その幅方向の寸法が2.7mm、高さ方向の寸法が2.0mmであることが示されている。
〈甲11発明〉
上記記載事項によれば、甲11号証には、以下の[甲11発明]が記載されていると認められる。
[甲11発明]
横方向の最大寸法が3.36mm程度とした、補聴器用のレシーバ。

(12)甲12号証(米国特許公開2002/0172386号公報)
翻訳文は、特表2003-536295号公報記載のものを基本とし、合議体で翻訳し直した箇所は下線と共にその直後に(*)と表示した。

〈記載事項〉{(M1)等の記号を付した。}
(M1)「1. Earpiece for behind-the-ear (BTE) parts of hearing acoustics devices, by means of which a signal conductor, preferably a flexible one, that comes from the BTE device, such as a sound tube (28), can be positioned in the auditory canal, where the earpiece is individually adapted to the anatomy of the patient, and its part that provides the hold essentially has the shape of a clip, which follows the outer edge (36) of the cavum conchae (22) in an arc shape, at least in segments, characterized in that a shank (32) that follows the edge of the cavum conchae makes a transition, above the antitragus (30), into an angled traverse segment (34) that passes through the cavum conchae, which runs in the direction of the porus acusticus externus, and broadens to hold the signal conductor (42) at its end segment (40), which comes to rest in the upper region of the auditory canal (26).
2. Earpiece according to claim 1, characterized in that the end segment (40) makes a transition to an auditory canal tab (44) that also comes to rest only in the top region of the auditory canal (26).
3. Earpiece according to claim 2, characterized in that the auditory canal tab (44) has a bore (46) to hold the signal conductor (42).
(【請求項1】 補聴器の耳に隠される(BTE)装置としてのイヤーピース(耳への取付具)(*)であって、音チューブ(28)のような信号伝導体、好ましくは、柔軟にして、BTE装置からくる信号伝導体が耳管に位置し、イヤーピース(*)が使用者の患部に適合し、保持部を作る部分がクリップの形を有し、クリップが弧状の耳甲介腔(22)の外縁(36)につづき、耳甲介腔の縁につづくシャンク(32)が対珠(30)の上に角度付の横切片(*)(34)に移行部を作り横切片(*)(34)が外耳孔の方に延びる耳甲介腔を貫通して、その端部の末端部(*)(40)で信号伝導体(42)を保持するよう拡大され、耳管(26)の上域に静止することを特徴とする耳への取付具。
【請求項2】 末端部(*)(40)が耳管タブ(44)に移行部を作り、タブが耳管(26)の頂部域にのみ静止する請求項1記載の耳への取付具。
【請求項3】 耳管タブ(44)が孔(46)を有し、孔(46)が信号伝導体(42)を保持する請求項2記載の耳への取付具。)
(M2)「[0002] However, the sound tube must be precisely positioned in or on the auditory canal, and for this purpose, an ear fitting piece, i.e. an earpiece is regularly used, which is individually adapted to the human anatomy of the ear of the patient to be treated. Up to the present date, various forms of earpieces have become common, with some, namely the so-called "open" BTE earpieces, being particularly preferred, in order to have the minimum possible effect on the auditory canal, caused by partially covering or closing it off in some regions, with a "foreign body." These "open" BTE devices have the further advantage that the hearing capacity that still exists is impaired as little as possible in terms of its natural effect.
(【0002】
しかしながら、音チューブは耳管の中または耳管に接して(*)正しく配さねばならない。この目的のために、耳への取付具-これにはイヤーピースが通常使われる(*)-使用されようとする人の耳の器官に個々に適合されねばならない。現在迄、様々な形のイヤーピース(*)が一般化し、その内いくつかとして、いわゆる“オープン”BTEイヤーピース(*)は、耳管への影響-“異物”(*)による耳管の部分閉じや塞ぎにより生じる-が少ないため(*)好まれる。これらの“オープン”BTE装置は、自然力という観点から、現在まだ残っている聴力を可能な限り傷つけないという利点(*)を持つ。)」

(M3)「[0055] FIGS. 12 to 15 show a variant of the earpiece according to FIGS. 1 to 5. In order to simplify the description, those components that correspond to the components of the earpiece according to FIG. 1 and 2 are provided with the same reference numbers, but with a 3preceding them.
[0056] In contrast to the structure according to FIGS. 1 and 2, the clip of the earpiece 320 is modified in such a way that it essentially has the shape of a Euro-E. The shank 332 that follows the edge of the cavum conchae 322 is extended beyond an angled location 370 for the traverse segment 334 and runs along the anthelix 362, so that it forms another shank 364 there. The hatched areas indicate that the individual shanks make a transition into each other via roundings 332A. ・・・
[0058] FIGS. 14 and 15 explain the modification of the earpiece once again, using representations that correspond to the views of FIGS. 1 and 2. It is evident that also in this embodiment, the shank 334 that forms the traverse segment makes a transition to an end segment 340, which is connected in one piece with the auditory canal tab 340. The auditory canal tab 340 in turn is placed in the upper region of the auditory canal 326, without making contact. 」
([0055]図12乃至15は図1乃至5によるイヤーピース(*)の変形例を示す。説明を簡単にするために、図1と2によるイヤーピース(*)の構成に相当するこれらの構成は同じ基本引照番号、ただし、300を付加して説明している。
[0056]図1と2による例に反して、イヤーピース(*)320のクリップはEの字状に変形されている。耳甲介腔322の縁につづく茎即ちシャンク332が対輪362に沿い延在しかつ横切片(*)334のための角度付位置370を越えて延在する。その結果他のシャンク364を作る。ハッチングした面は個々のシャンクが円形部332Aを介して互いに移行する。
[0058]図14と図15は、図1と2に対応する表現でイヤーピースの変形例を示す(*)。 この変形例においても、横切片を形成するシャンク334が末端部340(*)への移行部を形成し(*)、末端部340が耳管タブ340に一体に結合される。耳管タブ340は、今度は、耳管(auditory canal)326の上域に接触せずに置かれる。(*))」

上記記載事項等(特に、(M3)、図14、図15)によれば、甲12号証には、以下の[甲12発明]が記載されていると認められる。
[甲12発明]
“オープン”BTE型の補聴器の音チューブを保持するイヤーピース(耳への取付け具)であって、図14、図15に示されるように、
E字状クリップの横切片を形成するシャンク334が末端部340への移行部を形成しシャンクの末端部340が耳管タブ340に一体に結合されるようにされ、耳管タブ340は、耳管326の上域に接触せずに置かれるもの。

(13)甲13号証(国際公開 第WO99/04601号公報)
翻訳文は、特表2001-510976号公報記載のものを採用した。

〈記載事項〉{(N1)等の記号を付した。}
(N1)「The eartip is configured to fit within the ear canal while allowing sounds outside and within the ear to pass through the ear canal around the eartip.(3頁第22?24行)
(イヤーチップは、外耳道内にぴったり合うように形成される一方、外の音が自身周囲の外耳道を通って耳内に入るように形成されている。)」
(N2)「FIGS. 12-15 illustrate a flower-shaped eartip 14b including a central core 56 and three flower petals 58 extending from the central core. Each of the petals 58 has a substantially ellipsoidal shaped end 60. Most people have a first bend B in the ear canal that allows one or more of the petals 58 to extend behind the bend and grab the ear canal behind the bend to retain the flower-shaped eartip 14b in the ear canal. (12頁23行?27行)
(図12?図15は、中心コア56と、この中心コアから延びる3つの花びら型部材58と、を備える花型イヤーチップ14bを示すものである。各花びら型部材58は、実質的に楕円形状端部60を有している。ほとんどの人々は、耳管内に第1湾曲部Bを有している。第1湾曲部Bは、一つ以上の花びら型部材58が湾曲部背面に延びかつ湾曲部背面に延びる耳管内で花型イヤーチップ14bの形を保持するようにして耳管内の位置を保持させている。)(段落【0040】)」
(N3)「The tube 12 has a first end 16 which is configured to be attached to the hearing aid case 10 and a second end 18 which is configured to be inserted into the eartip 14. The tube 12 has a preformed shape which is shown in the views of FIGS. 1-5. The tube 12 includes a hook portion 20 near the first end 16 which is designed to extend from the case 10, located behind the ear, over the connecting point of the ear to the head. The hook portion 20 of the tube is curved substantially in a plane as seen in FIG. 4. From the hook portion 20, the tube continues to curve to a location where the tube bends to enter the ear canal. Just before the tube bends to enter the ear canal, a reverse bend 22 is provided which allows the tube to curve through the crus of the helix and behind the tragus. A lower bend 24 of the tube 12 extends from the outside of the ear into the ear canal. The lower bend 24 is located substantially in a plane which is approximately perpendicular to the plane in which the ear hook portion 20 lies. (第7頁第18?30行)
((N3);チューブ12は、補聴器ケース10に取り付けられるように形成された第1の端部16と、イヤーチップ14内に挿入されるように形成された第2の端部18とを有している。チューブ12は、図1?図5に示す定形を有している。チューブ12は、第1の端部16近傍にフック部20を備えている。フック部20は、耳の後ろに位置したケース10から耳と頭の付け根にわたって延設されている。チューブのフック部20は、実質的に図4に示すような曲線を有している。チューブは、フック部20からチューブが耳管に入るように曲げられている場所まで曲線を描き続ける。チューブが耳管に入るように曲げられた箇所の直前部には逆曲げ部が設けられ、この逆曲げ部によってチューブが耳輪脚および耳珠を通ったカーブを描くようになっている。チューブ12の下側曲げ部24は、耳の外側から耳管内に延びる。下側曲げ部24は実質的に、イヤーフック部20を含む平面に対してほぼ垂直な平面内に位置される。(段落【0021】))

(N4)「A fourth eartip design is the guppie-shaped eartip 14d of FIGS. 17-19 which includes a central body portion 72 and a tail 74. As seen in the top view of FIG. 18 the tail 74 is a rounded petal shaped member. The tail 74 hooks behind the tragus T of the ear canal as shown in FIG. 19 to provide retention in the ear canal of a user. The tail 74 has a soft spoon shaped surface which is pressed gently against the surface under the tragus T. Again, the stiffness of the tube 12 keeps the guppie-shaped eartip 14d properly oriented and positioned within the ear canal.
A fifth eartip design shown in FIGS. 20 and 21 is the barb-shaped eartip 14e including a central body portion 78 and a barb 80 extending from the central body portion. The barb-shaped eartip 14e is somewhat less occluding than the guppie- shaped eartip 14d and operates in substantially the same manner as the guppie-shaped eartip. The guppie or barb-shaped eartips according to one embodiment may have an overall length of about 14.0 mm and a diameter at a widest part of about 5.6 mm However, the dimensions which have been described are merely examples of the eartip dimensions which may be used. (13頁19行?14頁3行)
((N4);イヤーチップの第4実施形態は、図17?図19に示す、中央本体部72およびテール部74を備えるグッピー(guppie)型イヤーチップ14dである。図18の平面図に示したように、テール部74は丸みのつけられた花びら型部材である。テール部74は、使用者の耳管内で保持力を備えるため、図19に示す耳管の耳珠Tの背面に引っかけられるものである。テール部74は、耳珠Tの下面を軽く押さえつけるように柔らかいスプーン状の表面を有している。ここでも、チューブ12の剛性が、グッピー型イヤーチップを耳管内の適切に方向決めおよび位置決めされた場所に維持させている。(段落【0043】)
イヤーチップの第5実施形態は、図20および図21に示す、中央本体部78および中央本体部から延設された突起80を備える突起型イヤーチップ14eである。突起型イヤーチップ14eは、グッピー型イヤーチップ14dより閉塞性わずかに劣り、またグッピー型イヤーチップと実質的に同じ方法で取り扱われる。一実施形態によるグッピー型あるいは突起型イヤーチップは、全長約14.0mmおよび最も幅広の部分で直径約5.6mmを有している。しかしながら、上述した寸法は、使用することができるイヤーチップ寸法のごくまれな例である。(段落【0044】))」

〈甲13発明〉
上記(N1)?(N3)、FIG1、FIG2、FIG12?FIG14等によれば、以下の[甲13発明]が記載されていると認められる。
[甲13発明]
補聴器装置において、耳の後ろに配置される補聴器ケース10であって、集音するマイクロホン42を有する補聴器ケース10に取り付けられるように形成された第1の端部16と、イヤーチップ14内に挿入されるように形成された第2の端部18とを有するチューブ12であって、第1の端部16近傍にフック部20を備え、
イヤーチップ14は、音を外耳道内に入るように形成された貫通孔(bore)62を有する中心コア(central core)56と、中心コア56から伸びており、外耳道の内壁に接触する3つの楕円形状端部(ellipsoidal shaped end)60を有する花びら型部材(flower petals)58を備えている補聴器装置。

(14)甲14号証(ウェイン・ジェイ・スターブ(Wayne J. Staab),「補聴器ハンドブック(HEARING AID HANDBOOK)」第1版、(米国)、タブ・ブックス(TAB BOOKS)社、昭和53年、表紙、奥付、
〈記載事項〉
第13頁のFig1-3には、耳の後ろに設置する部分に"MICROPHONE OPENING"(マイクロホンオープニング)、すなわちマイクロホンの開口部を有する耳掛け型補聴器が開示されている。
〈甲14発明〉
これによれば、甲14号証には、以下の[甲14発明]が記載されていると認められる。
[甲14発明]
マイクロホンの集音位置を耳の後ろに設置する補聴器。

[3-2]新規性判断(本件発明1、甲2?甲11)
甲2?甲7号証,甲11号証には、上記[3-1]で示したとおりの甲2発明?甲7発明、甲11発明が記載されていると認められるところ、
そのいずれの発明も上記本件発明1の上記構成要件A?Eの全てを含んでいる発明といえないことは、それら各発明と本件発明1とを詳細に比較検討するまでもなく、明らかである。
すなわち、本件発明1は甲2?甲7号証,甲11号証のいずれかに記載された発明である、とすることはできない。

また、上記[3-1]で示したとおり、甲8?甲10号証により甲8?甲10発明が公然実施されていると認められるところ、
そのいずれの発明も上記本件発明1の上記構成要件A?Eの全てを含んでいる発明といえないことは、それら各発明と本件発明1とを詳細に比較検討するまでもなく、明らかである。
すなわち、本件発明1は甲8?甲10号証により公然実施されていると認められるいずれの発明であるとすることもできない。

したがって、本件発明1は、
甲2?7号証,甲11号証のいずれかに記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、とすることはできないし、
甲8?甲10号証により公然実施されていると認められる発明であるから特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができない、とすることもできない。

そして、本件発明1は、前記[2]のとおり、甲1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、とすることはできないのであるから、
本件発明1に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

[4]本件発明1の進歩性判断(甲1?甲14)

請求人は、訂正後の本件発明1について、甲1号証記載の発明を主引用発明とし、本件発明1は甲1?甲14号証に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である、と主張している。

[4-0]本件発明1と甲1発明との一致点・相違点
本件発明1と甲1発明との一致点・相違点は、上記[2-4]のとおりであり、以下に再掲する。

[一致点]
A’ユーザの耳の後ろに配置され、1以上のマイクロホン、バッテリ、メモ
リー、前記マイクロホンと接続された音声処理電子装置および音声増幅
電子装置を収容する音声処理部分と、(を備え、)
B’ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、
挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉
塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分と、
C:前記レシーバ部分と、ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処
理電子装置と、の間に設けられ、前記音声処理電子装置と前記スピーカ
との間を電気的に接続する電気伝導性部品を含む中間連結部と、
D’前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記
レシーバ部分を保持する保持手段と
を備え、
E 前記マイクロホンからの音を、増幅し、前記電気伝導性部品及び前記開
放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部分に伝達させる補聴
器。

[相違点1](集音位置の相違)
マイクロホンが、
本件発明1では、「耳腔から離れた集音位置に配置された」、「前記集音位置の」とするのに対して、
甲1発明では、「耳腔から離れた集音位置に配置された」、「前記集音位置の」ではない点、

[相違点2](保持手段の相違)
スピーカを含むレシーバ部分が、
本件発明1では、「外耳道内に前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、」とするのに対して、
甲1発明では、そのようにされておらず、
前記レシーバ部分を保持する保持手段が、
本件発明1では、「前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する」保持手段、であるのに対して、
甲1発明では、そのような保持手段ではない点。

[4-1]相違点の克服

(1)[相違点1(集音位置の相違)の克服]
甲1発明の、「第1のイヤーカナルチューブ32」をなくすることで、上記[相違点1]は克服される。
すなわち、「第1のイヤーカナルチューブ32」をなくすることで、「第1のイヤーカナルチューブ32」を用いて、「耳腔を集音位置とし、耳腔から離れた位置に配置された」、「前記集音位置から離れた位置の」マイクロホンは、
「耳腔から離れた集音位置に配置された」、「前記集音位置の」マイクロホンとなって、上記[相違点1]は克服される。

(2)[相違点2(保持手段)の相違の克服]
甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」を、
「前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する」保持手段とすることで、上記[相違点2]は克服される。

甲1発明の上記「前記レシーバ部分を保持する保持手段」(「鉤状部材(barb)14」)は、上記「[2-3]本件発明1と甲1発明の対比(5)イ-2」で検討したことから、以下のとおり解されるものである。

《甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」》
図1に示される「鉤状部材(barb)14」であって、
耳の組織を傷付けないよう軟質の材料(例えば、ゴム状材料)で作製され、イヤーカナルチューブ10から外に延伸し図5bに示されるように耳珠の背後に留まるようにして用いて、「スピーカ44」と当該「スピーカ44」に連結された「外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされるラッパ状に広がるチップ(tip)12を被せてなる先端側部分がラッパ状に広がる形状のイヤーカナルチューブ10」を合わせたもの(レシーバ部分)を、外耳道内で正しい位置に保持し固定するための保持手段ではあるが、
図5bに示されるように耳珠の背後に留まるように耳腔の壁に接して置くことのみによって、上記の「スピーカ44とイヤーカナルチューブ10を合わせたもの(レシーバ部分)」を、外耳道内で正しい位置に保持し固定するものではなく、
レシーバ部分の先端に配される「外耳道壁が傷付かないような柔軟なものとされるラッパ状に広がるチップ(tip)12」も耳腔(外耳道)の壁に当接することによって、上記「スピーカ44とイヤーカナルチューブ10を合わせたもの(レシーバ部分)」を、外耳道内で正しい位置に保持し固定するもの(保持手段)。

以下、これを、『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』と略していう。

そして、上記『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』は、
上記課題b:チューブは軟質であり装置を正しい(適切な)位置に保持できないため、外耳道の中まで延伸するチューブを、外耳道を概して閉塞せずに外耳道内で正しい(適切な)位置に維持するには、硬質のイヤモールド等が必要になる。しかし、その寸法が大きく外見上魅力に欠け装用感も良くない。また、特別注文に応じて製造しなければならないため、装置の費用、および補聴器の取り付けに必要な時間が増す。
→外見上魅力的で装用感が良いものを提供する。
という課題を解決をするために採る特徴構成と認められるものである。

上記[相違点2の克服]は、
上記『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』を、
本件発明1の「前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する」保持手段とすること、
すなわち、
上記『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』を、
前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に、
(iii)「レシーバ部分と比べて相当程度細い(したがって、耳腔と比べても相当程度細い)細条物であって、
これによって、前記レシーバ部分を、前記レシーバ部分が前記耳腔(外耳道)に『触れないように』かつ、『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持する保持手段
(以下、『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』と略す。)
に『変更』すること、で克服される。

(3)そして、上記[相違点1の克服]と上記[相違点2の克服]を共に行うことで、本件発明1に到達する。

[4-2][相違点2の克服]の容易想到性の判断

上記『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』を、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』に『変更』することで、上記[相違点2の克服]がなされるところ、
この『変更』が、甲1号証記載の事項、甲2?甲14記載の発明・記載事項に基づいて当業者が容易になし得ることであるか否か、について検討する。

上記甲各号証には、上記[3-1]に示したとおりの記載事項、各甲発明が認められる。
以下、甲1号証を、単に「甲1」などと略していう。

(1)甲1について
甲1には、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』とする技術思想を認めることができないことは、前記のとおりである([2-3]本件発明1と甲1発明の対比(5)イ-2)。

(2)甲2、4、6?10、14について
甲2発明は、耳掛け補聴器の音声処理、補聴処理プログラムに関するものであり、
甲4発明は、挿入損失に関するものであり、
甲6発明は、耳掛け部の芯材材料に関するものであり、
甲7発明は、耳垢粒子に対する耳垢捕集器にに関するものであり、
甲8発明は、レシーバの横方向の最大寸法に関するものであり
甲9発明は、レシーバの横方向の最大寸法と挿入損失に関するものであり、
甲10発明は、レシーバの横方向の最大寸法に関するものであり、
甲11発明は、レシーバの横方向の最大寸法に関するものであり、
甲14発明は、マイクロホンの集音位置に関するものであり、
いずれも、レシーバ部分の保持手段に関するものではなく、
そのいずれにも、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も構成も何ら見いだすことはできない。

(3)甲5について
甲5には、前記のとおりの甲5発明が認められ、
内装イヤホン1が内装されるイヤーモールドを必要最小限に小さくして、使用者の外耳道にすっぽりと収めることができるようにするものであるが、
同イヤーモールドは、「寸法が大きく外見上魅力に欠け装用感も良くない。」という上記課題bを解決するために採る『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』より、大きく目立つもので外耳道に接触するものであって後退発明的であり、
そこには、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も構成も見いだすことはできない。

(4)甲13について
甲13には、前記のとおりの甲13発明が認められ、
外耳道の内壁に接触する3つの楕円形状端部60を有する花びら型部材を有するイヤーチップ14は、その貫通孔62に(イヤー)チューブ12を挿入して、(イヤー)チューブ12を保持するものであるから「保持手段」といい得るものであり、
イヤーチップ14の花びら型部材は、既に検討した主引用例である甲1の図4a?dに示される「サポートフィンガー21」と同様、耳腔(外耳道)の壁に当接し、これを支えとして、(イヤー)チューブ12を耳腔内で正しい位置に保持し固定するものと言えるものであり、スペーサーとしての機能を果たすものであり、これにより、(イヤー)チューブ12の先端部(スピーカを含むレシーバ部分ではないが)を耳腔(外耳道)の壁に触れないように保持するものではある。
しかしながら、かかる保持の仕方は、(レシーバ部分)を前記耳腔内に吊されるように保持するとする本件発明1の保持の仕方、すなわち、『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持する仕方とは、全く異なる支持の仕方である。
そこには、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も構成も見いだすことはできない。

(5)甲3について
甲3には、前記のとおり、以下の[甲3発明]が記載されていると認められる。
[甲3発明](再掲)
耳道内や耳甲介内に補聴器等の耳科的装置を挿入・差し込む(einstecken)不快感を軽減し、装着時の快適性を改善するため、
わずかな弾性によって耳甲介の縁に密着する弾性を有する弓状部材により、耳甲介装置を、耳甲介腔内に(in der Cavum Conchae)「宙に浮いた状態で」(frei schwebend)、耳道(dem Gehoergang)から離れて上方に(ueber )配置することを可能にする耳科的装置を固定する保持装置であって{上記(L1)?(L5)}、
弾性材料から成り、耳介1内の対耳輪5、対珠および耳珠によって形成される耳甲介6の縁内に固定されるC字型の弓状部材14であって、その支持アーム15の形態の支持手段が、その端部を耳科的装置20に固定し、耳道(dem Gehoergang)から離れて上方に(ueber)宙ぶらりんにしている{図1、上記(L6)(L7)}、
保持装置。

上記甲3発明の保持装置と、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』とを比較すれば、
甲3発明の保持装置である、弓状部材14(支持アーム15を含む)の保持の仕方(保持形態)は、「耳腔(外耳道)に『触れないように』かつ、『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持する」点では、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』と相違しないものと言うことができるものではある。
しかしながら、甲3発明のものは、
(a)保持する対象物が「補聴器等の耳科装置」とするだけで「スピーを含むレシーバ部分」とはしていない点の他、
(b)対象物を、耳腔内ではなく耳甲介腔内に保持する点で、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』と異なるものである。
後者(b)の相違は、レシーバ部分を耳腔内で保持するという、本件発明1がそもそも前提とする補聴器とは大きく異なるものである。

そして、『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』を、上記甲3発明の保持装置に変更適用することについて検討するに、
甲3発明の上記(b)の点は、レシーバ部分を耳腔内で保持するという、甲1発明がそもそも前提とする補聴器(本件発明1と同様)と異なるものであるから、適用対象が異なると言うべきであり(適用対象の相違)、
さらに、「耳介1内の対耳輪5、対珠および耳珠によって形成される耳甲介6の縁内に固定されるC字型の弓状部材14(支持アーム15を含む)」は、外から見えない甲1発明の「鉤状部材(barb)14」とは異なり外見上目立つ(耳腔外の「中間連結部」相当部分は見えることは変わらない)ものであってこれを採用することは、外見上魅力的で装用感が良いものを提供する、という上記課題bに反することになり、課題bを解決するために採る上記特徴構成を全て放棄しなくてはならなくなる。このことは、そもそも上記変更適用を妨げる要因と言うべきである(阻害要因)。

したがって、『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』を、上記甲3発明の保持装置に変更適用することは、適用対象が相違する上、阻害要因があり困難である。
また、仮に、変更適用しても上記(b)の相違があり、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』に至らない。
そこには、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も構成も見いだすことはできない。

《請求人の主張について》
請求人は、甲3号証に開示された保持手段は、本件発明に係る「外耳道内に「吊されるように保持する」保持手段」とは保持する対象物の位置が異なるが、外耳道内に挿入する場合であっても、外耳道への影響が少ない方が装着感が良好であることは、当業者にとって常識であり、
甲1号証の「イヤーカナルチューブ10を好ましい位置に配置する」との記載は、「イヤーカナルチューブ10を外耳道の壁に接しないように配置する」ことを適用することを阻害するものではないから、甲1号証に記載された「スピーカが配置されているイヤーカナルチューブの先端」を外耳道内に配置するに際して、甲3号証に記載されているように、「変位し得る宙ぶらりんの状態となるように」保持するように「鈎状部材14」を構成することは、当業者にとって容易である、と主張している。

しかしながら、耳腔と(耳腔外の)耳甲介腔は、空間の大きさも大きく異なり、そのどちらにレシーバを配するかは補聴器の機能・性能を大きく左右する重要な事項といえ、これらを同一視することはできない。甲3発明は、あくまで、耳甲介腔に吊すことを示すに止まるものである。
また、甲1号証の「イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定するために」なる記載のみをもって、甲1発明の保持手段が、上記『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』であると解しているわけではないし、
甲1号証が「イヤーカナルチューブ10を外耳道の壁に接しないように配置する」ことを適用することを阻害するものでないとしても、どこにも「耳腔内に吊す」技術思想は示されていないのである。
また、上記のように、甲3発明を甲1発明に適用することを妨げる事情があることからも、そのような適用は困難であるといえる。
したがって、上記請求人の主張は理由がなく採用できない。

(6)甲12について
甲12には、前記のとおり、以下の[甲12発明]が記載されていると認められる。

[甲12発明](再掲)
“オープン”BTE型の補聴器の音チューブを保持するイヤーピース(耳への取付け具)であって、図14、図15に示されるように、
E字状クリップの横切片を形成するシャンク334が末端部340への移行部を形成しシャンクの末端部340が耳管タブ340に一体に結合されるようにされ、耳管タブ340は、耳管326の上域に接触せずに置かれるもの。

甲12発明は、「E字状クリップの横切片を形成するシャンク334が末端部340への移行部を形成しシャンクの末端部340が耳管タブ340に一体に結合される」こと、図15においてシャンク334(茎)、末端部340/耳管タブ340を含むE字型のイヤーピース全体が同じハッチングで示されていることからすれば、
イヤーピースは一体物として形成されているもので、そのシャンク334(茎)の中間で耳チューブを受け入れ耳チューブの通路につながるようにシャンク334をくり抜いて先端まで続く孔を形成し、その孔の先端開口付近を「耳管タブ340」と称するものとしたもの、すなわち、「耳管タブ340」は実質的に「シャンク334」の一部をなすものであって耳チューブに続く通路で音の出口を構成する部分をいうものといえ、
耳管タブ340の先端側部分は確かに外耳道に接触していないものの、耳管タブ340と一体物であるシャンク334は耳管タブ340の直ぐ後ろ(くり抜いた孔付近)で耳腔の上側(の開口部)と接していることは図15より明らかであり、
この接している部分、すなわち、シャンクの耳管タブの直ぐ後ろ部分と、E字型取付け具の下側片端部で耳腔の下側(の開口部)に接する部分と、E字型取付け具の上側片端部で耳介に接する部分の3つの部分を支点として、一体物に形成したイヤーピースの耳管タブ340部分を保持するものと理解される。

かかる上記甲12発明のイヤーピース(保持手段)と、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』とを比較すれば、
甲12発明のイヤーピースの、耳管タブ340を除く部分が、耳管タブ340を保持する保持の保持形態は、
「耳管タブ340」が音の出口を構成する部分として、「レシーバ部分」と同じであるとしてみれば、それが耳腔に(外耳道)に触れないように保持されている点では、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』と相違しないものと言うことができるものではある。
しかしながら、甲12発明の保持手段(イヤーピースの、耳管タブ340を除く部分)は、
(a)保持する対象物が「耳管タブ」であって「スピーを含むレシーバ部分」とはしていない点の他、
(b)保持する対象物(耳管タブ)と、これを保持手段(イヤーピースの、耳管タブ340を除く部分)は、太さもほぼ同じで一体物に形成されたもので、その一体物に形成されたイヤーピースの、シャンクの耳管タブの直ぐ後ろ部分と、E字型取付け具の下側片端部で耳腔の下側(の開口部)に接する部分と、E字型取付け具の上側片端部で耳介に接する部分の3つの部分を支点として、耳管タブ340部分を保持するものであって、
「前記レシーバ部分を前記耳腔(外耳道)内に『吊されるように』保持する手段」とする、
すなわち、「レシーバ部分と比べて相当程度細い(したがって、耳腔と比べても相当程度細い)細条物であって、
これによって、前記レシーバ部分を、『下に支えがなく変位が許容され宙ぶらりんの状態となるように』保持する保持手段」
とする上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』とは全く異なるものである。

そして、『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』を、上記甲12発明の保持装置に変更適用することについて検討するに、
甲12発明の、イヤーピースは、図14、図15、(M3)[0056]に示されるように、耳腔内ではなく耳腔外の耳甲介に配置されるものであり、先の甲3発明のC字型の弓状部材14(支持アーム15を含む)と同様、
外から見えない甲1発明の「鉤状部材(barb)14」とは異なり外見上目立つものであってこれを採用するこは、外見上魅力的で装用感が良いものを提供する、という上記課題bに反することになり、課題bを解決するために採る上記特徴構成を全て放棄しなくてはならなくなる。このことは、そもそも上記変更適用を妨げる要因と言うべきである(阻害要因)。

したがって、『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』を、上記甲12発明の保持装置に変更適用することは、阻害要因があり困難である。
また、仮に、変更適用しても上記(b)の相違があり、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』に至らない。
そこには、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も構成も見いだすことはできない。

《請求人の主張について》
請求人は、甲1号証の「イヤーカナルチューブ10を好ましい位置に配置する」との記載は、「イヤーカナルチューブ10を外耳道の壁に接しないように配置する」ことを適用することを阻害するものではないから、甲1号証に記載された「スピーカが配置されているイヤーカナルチューブの先端」を外耳道内に配置するに際して、甲12号証に記載されているように、「外耳道の壁から離して」保持するように「鈎状部材14」を構成することは、当業者にとって容易である、と主張している。
しかし、甲1号証の「イヤーカナルチューブ10を外耳道内で正しい位置に保持し固定するために」なる記載のみをもって、甲1発明の保持手段が、上記『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』であると解しているわけではないし、甲1号証が「イヤーカナルチューブ10を外耳道の壁に接しないように配置する」ことを適用することを阻害するものでないとしても、どこにも「耳腔内に吊す」技術思想は示されていないのである。
また、上記のように、甲12発明を甲1発明に適用することを妨げる事情がある上、甲1号証に甲12発明を適用しても、本件発明1に至らない。
したがって、上記請求人の主張は理由がなく採用できない。

(7)まとめ([相違点2の克服]の容易想到性)
以上、検討したとおり、上記『甲1発明の「前記レシーバ部分を保持する保持手段」』を、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』に『変更』することで、上記[相違点2の克服]がなされるところ、
かかる『変更』は、甲1号証記載の事項、甲2?7、甲11?14号証記載の各発明、甲8?10号証により公然実施されたと認められる各発明に基づいて当業者が容易になし得ることである、とはいえない。
したがって、上記[相違点2の克服]は困難である。

[4-3]まとめ(相違点の克服)
上記のとおり、[相違点2の克服]は困難であって、当業者が容易に克服し得るとはいえないから、[相違点1の克服]について特に検討するまでもなく、本件発明1と甲1発明の上記相違点を克服することは困難である。 甲1号証記載の事項、甲2?7、甲11?14号証記載の各発明、甲8?10号証により公然実施されたと認められる各発明に基づいて、本件発明1と甲1発明の上記相違点を克服することが当業者が容易になし得るとはいえない。

[4-4]本件発明1の進歩性判断(まとめ、甲1?甲14)
上記のとおり、甲1発明から出発して、本件発明1と甲1発明の上記相違点を、甲1号証記載の事項、甲2?7、甲11?14号証記載の各発明、甲8?10号証により公然実施されたと認められる各発明に基づいて克服し本件発明1に到達することは当業者にとって容易であるとはいえない。
そして、既に検討したとおり、甲1?甲14号証のいずれにも、上記『本件発明1の触れないように吊す保持手段の構成』に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も構成も見いだすことはできないのであるから、
甲2発明?甲14発明のいずれを出発点として甲1?甲14発明を組み合わせても、本件発明1に至ることが当業者容易想到であるとはいえない。

以上によれば、本件発明1は、甲1?7、甲11?14号証記載の各発明、及び甲8?10号証により公然実施されたと認められる各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
したがって、本件発明1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

[5]本件発明2?33の新規性進歩性判断

本件発明2?33は、前記【第2】[2]の、訂正後の特許請求の範囲の記載の各請求項2?33に係る発明であって、いずれも請求項1を引用する発明で本件発明1に限定事項を付加する発明であるところ、
上記[2]?[4]で検討したとおり、
本件発明1が甲2?7、11号証のいずれかに記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、とすることはできず、
本件発明1が甲8?10号証により公然実施されていると認められる発明であるから特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができない、とすることもできないのであるから、
本件発明2?33も、本件発明1と同様、
甲2?7、11号証のいずれかに記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、とすることはでないし、甲8?10号証により公然実施されていると認められる発明であるから特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができない、とすることもできない。
また、
本件発明1が甲1?7、甲11?14号証記載の各発明及び甲8?10号証により公然実施されたと認められる各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできないのであるから、
本件発明2?33も、本件発明1と同様、甲1?7、甲11?14号証記載の各発明及び甲8?10号証により公然実施されたと認められる各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
したがって、本件発明2?33に係る特許は特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

【まとめ(無効理由1:新規性欠如、進歩性欠如)】
本件発明1?33に係る特許は、いずれも、特許法第29条第1項又は第2項に規定する要件に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

【第8】むすび(無効2009-800008)

以上のとおりであるから、
本件発明2に係る特許は、特許法第36条第4項、第6項第1号又は第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1、3?33に係る特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、請求人の訂正請求による削除された請求項を考慮し、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条及び第62条の規定により、その64分の32を請求人の負担とし、64分の32を被請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。


【第9】本件無効審判の請求について(無効2009-800222)
無効2009-800222

《当審の判断》

特許無効審判の請求人は,特許第4006470号に係る設定登録時の請求項62?64、66、67及び70に記載された発明についての特許を無効とすることを求めているところ、前記【第5】のとおり、平成22年2月24日の訂正請求による訂正が適法な訂正と認められ,設定登録時の請求項62?64、66、67及び70は削除されたことから,本件特許無効審判の請求の対象が存在しないものとなった。

したがって,本件特許無効審判の請求は,不適法な審判の請求であって,その補正をすることができないものであるから,特許法第135条の規定によって却下すべきものである。

そして,審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条及び第62条の規定により被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
補聴システム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの耳の後ろに配置され、耳腔から離れた集音位置に配置された1以上のマイクロホン、バッテリ、メモリー、前記集音位置の前記マイクロホンと接続された音声処理電子装置および音声増幅電子装置を収容する音声処理部分と、
ユーザの前記耳腔内のうち特に外耳道内に開放された状態で配置され、前記開放された状態となるように前記耳腔の壁に触れずに前記耳腔内に吊されており、挿入損失および閉塞効果を減少させるために、少なくとも前記耳腔を閉塞させない寸法を有し、スピーカを含むレシーバ部分と、
前記レシーバ部分と、ユーザの耳の後ろの部分に配置された前記音声処理電子装置と、の間に設けられ、前記音声処理電子装置と前記スピーカとの間を電気的に接続する電気伝導性部品を含む中間連結部と、
前記中間連結部及び前記レシーバ部分の少なくとも1つから延び、前記耳腔内に前記レシーバ部分が挿入された際に前記レシーバ部分が前記耳腔に触れないように前記レシーバ部分を前記耳腔内に吊されるように保持する保持手段と
を備え、
前記集音位置の前記マイクロホンからの音を、増幅し、前記電気伝導性部品及び前記開放された状態の前記耳腔を通して前記レシーバ部分に伝達させる補聴器。
【請求項2】
前記レシーバ部分は、ユーザの耳腔の外耳道に臨む軟骨領域内に少なくとも部分的に配置され、そして、
ユーザの耳腔の前記軟骨領域内に前記レシーバ部分が配置されたときの挿入損失は、最小になる寸法を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項3】
前記レシーバ部分の前記耳腔への挿入方向に直交する横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の内径方向である横方向の最大寸法よりも小さく、
前記レシーバ部分の周辺部の少なくとも一部は耳腔に接触しないことを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項4】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約8デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項5】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約6デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項6】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約4デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項7】
前記レシーバ部分では、約2200Hzから約5300Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項8】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約8デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項9】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約6デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項10】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約4デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項11】
前記レシーバ部分では、約3000Hzから約5000Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項12】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約8デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項13】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約6デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項14】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約4デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項15】
前記レシーバ部分では、約3500Hzから約4500Hzの特定範囲内の可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項16】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法より小さいことを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項17】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の75%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項18】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の70%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項19】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の65%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項20】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の60%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項21】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の55%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項22】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の半分以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項23】
前記レシーバ部分の横方向の最大寸法は、約0.15インチ以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項24】
前記中間連結部およびレシーバ部分の少なくとも1つから延伸した前記保持手段を構成する保持ワイヤを更に備えており、そして、
前記保持ワイヤはユーザの耳甲介の少なくとも一部に係合する構成からなっていることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項25】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分の耳腔内への最大挿入深さを規制することにより、耳腔内への過度の挿入がおきないように構成していることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。
【請求項26】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分が耳腔内へ挿入されたときに、耳腔の如何なる部分にも実質的に接触しないように構成されていることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。
【請求項27】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分を耳腔内に安定化させることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。
【請求項28】
前記保持ワイヤは、レシーバ部分が耳腔内で動かないようにすることを特徴とする、請求項24に記載の補聴器。
【請求項29】
前記スピーカは、第1端部および第2端部を有するケーシング内に少なくとも一部が閉じ込められており、
前記第1端部が前記中間連結部と連絡し、
前記スピーカが前記ケーシングの第2端部に設けられたポートに連絡していることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【請求項30】
前記ポートは、膜またはメッシュ材によって、少なくとも部分的に、残滓であるデブリスに対してシールされていることを特徴とする、請求項29に記載の補聴器。
【請求項31】
前記ケーシングは、第1端部、および、第1端部からポートまで延伸するケーシングの全長に沿って前記デブリスに対してシールされていることを特徴とする、請求項30に記載の補聴器。
【請求項32】
前記ポートは、取り外し可能な耳垢収集器を備えていることを特徴とする、請求項29に記載の補聴器。
【請求項33】
前記保持手段を構成する、前記中間連結部の少なくとも内部またはこれに接して部分的に設けられている補強装置によって、前記レシーバ部分の配置が容易に構成されており、
前記保持手段は、補強ワイヤであり、
前記補強ワイヤは、金属または金属合金からなり、
前記金属または金属合金は、前記補強ワイヤがたわみ、元の形状に戻る記憶を有していることを特徴とする、請求項1に記載の補聴器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補聴システムに関する。
【背景技術】
【0002】
多岐にわたる各種の補聴ユニットが知られている。補聴ユニットにあっては、補聴レシーバの耳内への挿入によって、挿入損失が生じる。この挿入損失とは、患者の自然の状態のときの耳腔反響特性または元々の耳甲介での耳腔反響特性に比べてみると、補聴レシーバを耳内へ挿入したときの耳腔反響特性が歪み、または、耳腔反響特性が無くなってしまうことを表すものである。ここに記述する補聴器は、このような挿入損失を取り除き、または、著しく減じるものである。
【0003】
ある補聴器においては、レシーバは、耳腔内に位置して、閉塞効果を生じる。多くの場合には、特注の器具のように補聴器が耳内に納まるか、または耳の後ろに配置するかにかかわらず、閉塞の問題が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これは、患者自身の声に対する不快感によって、その増幅が患者に拒絶されるということに関係している。即ち、閉塞効果は、患者の頭部が樽の底にある感情と感覚と結びつき、患者自身の声が耐えられないほど大きくなる。
特注の補聴器のイヤーモールド、または、シェルを耳腔内に嵌め込むと、患者の声が、約20?30デシベルの間で低周波増幅される。これは、患者の声の実際の大きさの約4倍に増大された声の大きさと感じることに関係している。
従って、上述した挿入損失および閉塞効果のない耳腔レシーバが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の1つの態様は、耳鳴りを取り扱う改良されたシステムに関している。先行技術の上述した問題点、他の問題点および欠陥はこの発明の補聴器によって克服され、または、取り除かれる。この発明の補聴器は、補聴器を使用しない耳に較べて、可聴周波数域で、約3デシベル以下の挿入損失を生じるように構成されたレシーバを備えている。
【0006】
他の態様において、マイクロ-レシーバはユーザの耳腔内で、開放された耳を構成するように配置され、音声処理ユニットはマイクロ-レシーバから離隔して設けられている。
上述した補聴器は、挿入効果および閉塞効果を減じる利点を有している。
【0007】
他の態様において、ユーザの耳腔内に耳が開放された状態で、マイクロ-レシーバが配置され、そして、音声処理ユニットが、マイクロ-レシーバから離隔して設けられる。開示した補聴器は、挿入効果および閉塞効果を減じる利点がある。
【0008】
他の例示的態様においては、レシーバは、横方向の最大寸法φを有している。この寸法は、レシーバの最大寸法または直径を表している(レシーバの横断面が円形または楕円形であることを示唆するものではない)。1つの例示的態様において、レシーバの寸法φが、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の半分以下である。他の態様において、レシーバの寸法φが、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の20%以下である。他の態様において、レシーバの寸法φが、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の10%以下である。他の態様において、レシーバの寸法φが、ユーザの耳腔の横方向の最大寸法の5%以下である。なお、ここで、レシーバの「横方向」とは、耳腔に挿入するときの方向に対してこれに直交する断面方向のことを指すものとする。
【0009】
他の態様において、補聴器が、音声処理ユニット、レシーバ、および、前記音声処理ユニットと前記レシーバの間の中間連結部を更に備え、前記中間連結部は、前記中間連結部の少なくとも一部に設けられた電気伝導性部品、および、補強ワイヤを備えている。他の例示的態様において、前記補強ワイヤは金属または金属合金からなっている。他の例示的態様において、前記金属または金属合金が、前記ワイヤがたわみ元の形状に戻る記憶を有している。これらは、ステンレス鋼であってもよい。形状記憶合金であってもよい。
【0010】
他の例示的態様において、前記補強ワイヤは中間連結部内またはその一部の上に配置され、レシーバ内または少なくともその一部分上に延伸している。このような態様においては、レシーバは、中間連結部上に安定して弾性を備えた位置している。更に、補強材が使用されると、中間連結部およびレシーバは特注で製造されまたは造形されて耳腔内にレシーバを最も適した配置にする、および/または、中間連結部の配置を最適にする。
【0011】
他の態様において、保持ワイヤが、補強ワイヤおよびレシーバの1つから延伸している。保持ワイヤは、耳の耳甲介の部分内に位置するように構成されている。このような態様においては、保持ワイヤは、補聴レシーバの耳腔内への過度の挿入が起きないように構成される。保持ワイヤは、補聴レシーバが耳腔内の部分内に吊るされるように構成されて、レシーバのどの部分も耳腔の側面に触れることはない。
【0012】
他の態様において、電気伝導性部品は、中間連結部内の、別の管路、または、相互に分離された管路内に設けられた2つのワイヤからなっている。他の態様において、補強材が、別の管路内またはワイヤから分離した管路内の、中間連結部内または上に設けられている
【0013】
他の態様において、レシーバはスピーカを備えており、第1端部および第2端部を有するケーシング内に少なくとも一部が閉じ込められており、前記第1の端部が前記中間連結部と連絡し、前記スピーカがケーシングの第2端部に設けられたポートに連絡している。他の態様において、ケーシングは、第1端部、および、第1端部から第2の端部に設けられたポートまで延伸するケーシングの全長に沿って水密にシールされている。ポートは、膜またはメッシュ材によって、水密にシールされていてもよい。
以下の詳細な記述および図面から、当業者は、この発明の上述したまたは他の特徴、利点を容易に理解するものである。
【発明の効果】
【0014】
開示した補聴器は、挿入効果および閉塞効果を減じる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に示すように、この発明の補聴システムとして、レシーバ部(これが、レシーバ部分を構成する)および連結部が、符号番号10で例示されている。1つの態様において、補聴システムは完全な開腔(COC;Completely Open Canal)システムとして構成されている。図1に例示するように、符号番号12で指示されているレシーバ部は、少なくとも一部がケーシング16で囲まれているスピーカ14を備えている。レシーバ部(以下、「レシーバ」と略す)12は、符号番号18で指示されている連結部に取り付けられており、連結部18は、中間連結部20および音声処理部品(ユニット)コネクタ22を備えている。
【0016】
音声処理部品(ユニット)コネクタ22は、音声処理ユニット上の(図示しない)対応する電気インターフェースに合致するように構成された電気インターフェース24を備えている。図示した電気インターフェース24は、コネクタシェル(以下、「シェル」と略す)26によって囲まれた3-ピン雌インターフェースである。シェル26はロックピン28によって接合される2つの部分のシェルとして図示されているが、シェル26は、あらゆる便宜な形状であってもよく、または、インターフェース24は、単に、電気インターフェース24からなっており、シェル26が最小の形状であっても、または無くても良い。選択的に、マイクロホン27がシェルに設けられてもよい。マイクロホン27は、(図示しない)別の電気接続または電気インターフェースを介して、音声処理ユニットに接続されてもよい。
【0017】
図2に、レシーバ12および中間連結部20を詳細に例示する。スピーカ14は、少なくとも一部がケーシング16内に取り囲まれた状態で示されている。図示した中間連結部20は、中間連結部20の少なくとも一部に沿って設けられた電気伝導性部品30および保持手段の一態様である補強ワイヤ32を備えている。他の例示的態様において、補強ワイヤ32はステンレス鋼からなっている。他の例示的態様において、補強ワイヤ32は、記憶を備え、ワイヤが歪曲し元の状態に戻る金属または金属合金からなっている。例えば、補強ワイヤ32は形状記憶合金からなっている。
【0018】
図2に示すように、例示された補強ワイヤ32は、中間連結部20の内部または一部の上に設けられ、レシーバ12の内部または少なくとも一部の上に延伸している。例示した態様における補強ワイヤ32は、中間連結部20の管路34を通って延伸し、レシーバ12の第1端部(以下、「近端部」とよぶ)36内へと進み、スピーカ14に沿って延伸している。このような態様において、更に、補強ワイヤ32がレシーバ12および中間連結部20またはその一部において使用されるときはいつでも、レシーバ12は、中間連結部20に関して、安定し弾性を備えて配置される。更に、補強ワイヤ32が使用される場合には、中間連結部20およびレシーバ12は特注で製造されまたは造形されて耳腔内にレシーバを最も適した配置にする、および/または、中間連結部20の配置を最適にする。
【0019】
更に、図2に示すように、例示された電気伝導性部品30は、中間連結部20内の管路38内に設けられている。電気伝導性部品30は、スピーカ14から中間連結部20を通って電気インターフェース24まで延伸し、音声処理ユニット52(図4参照)とスピーカ14の間の電気的接続を行っている。
【0020】
図3に示す態様において、電気伝導性部品30は、管路内に設けられた2つのワイヤ40、42を備えている。この態様においては、両方のワイヤ40、42が同一管路内に設けられているが、他の構成も考えられる。例えば、両方のワイヤ40、42が、補強ワイヤ32と同じ管路を利用してもよい。更に、各ワイヤ40、42が、別の管路内に設けられてもよいし、連結部の中で、相互に分離されてもよい。
【0021】
更に、図2に示すように、例示するレシーバケーシングは、近端部36および第2端部(以下、「遠端部」とよぶ)44を有しており、第1の端部は中間連結部20と連絡し、スピーカ14はケーシング16の第2端部44に設けられたポーロ46と連絡している。
【0022】
例示した態様として記述しているように、ケーシング16は、スピーカの周りの中間連結部20からポート46にかけて設けられている。ケーシング16には、非透過性材料が使用され、近端部36、および、近端部36から遠端部44に設けられたポート46まで延びるケーシング16の全長に沿って水密にシールされる。図示されているように、ポート46は、膜またはメッシュ材48によってそれ自体が水密にシールされている。
【0023】
ケーシングに使用される材料は、2つのシェルを組み合わせる、表面を覆うように成形する、収縮させて覆う等を含む数々の方法によって形成される。如何なる材料でも使用することができる。1つの例示態様として、上述した材料は、ポリプロピレンである。他の態様においては、材料はナイロンまたはポリエチレンである。ポートには、永久または取り外し可能な耳垢収集器を備えることができる。
【0024】
更に、図2に示すように、レシーバ16は最大横方向寸法φを有している。このような寸法は、レシーバ16の全体の最大寸法または直径(但し、レシーバの横断面が円形または楕円を示唆するものではない)である。なお、ここで、図2に示すレシーバ16の横方向寸法φの「横方向」とは、[課題を解決するための手段]の欄で説明したように、レシーバ16の耳腔60への挿入方向に直交する方向を指すものである。1つの態様において、レシーバは寸法φを有し、その寸法は、使用者の耳腔の最大横方向の寸法または直径の半分以下である。他の態様においては、レシーバは寸法φを有し、その寸法は、使用者の耳腔の最大横方向の寸法または直径の20%以下である。他の態様においては、レシーバは寸法φを有し、その寸法は、使用者の耳腔の最大横方向の寸法または直径の10%以下である。他の態様においては、レシーバは寸法φを有し、その寸法は、使用者の耳腔の最大横方向の寸法または直径の5%以下である。
【0025】
図4に示すように、例示している第2の補聴システムが符号番号50で指示されている。レシーバ16、中間連結部20および音声処理ユニット52が組み立てられて示されている。音声処理部品(ユニット)コネクタ22は、音声処理ユニット52と接合されて示されている。例示的に図示するように、保持ワイヤ54がレシーバ16から延伸している。図5に示すように、保持ワイヤ54は、符号番号58で示す、耳の耳甲介56の部分内に位置するように構成されている。このような態様においては、補聴レシーバ16の耳腔60内への最大挿入を示すように構成される。
【0026】
例えば、保持ワイヤ54、レシーバ16、および中間連結部20は、レシーバ16が耳腔60内に延伸するけれども、耳腔60の骨質の領域62内には延伸しないように構成される。更に、図5に示すように、保持ワイヤ54は、補聴レシーバ16が耳腔60内の部分内に吊るされるように構成して、レシーバ16のどの部分も耳腔60の側面に触れることはない。保持ワイヤ54はレシーバ16から延伸するものとして示されているけれども、その代わりに、保持ワイヤは、中間連結部20から延伸してもよい。
【0027】
次に、図6に示すように、音声処理ユニット(SPU;Sound Processing Unit)は、例示的に符号番号52で指示されている。図示されたSPUは、一般的に、ハウジング64;雄3-ピン電気接続として示され、増幅器および音声処理部品68に接続されるSPU電気インターフェース66;増幅器および音声処理部品68に接続されるマイクロホン70;増幅器および音声処理部品68に電力を供給するバッテリ部品72;プッシュボタン76と共に図示されユーザインターフェースに増幅器および音声処理部品68および/またはバッテリ部品72を付与するスイッチ部品74および、SPU外部プログラムおよびリプログラムができる、および/または補聴装置に追加の内部部品を拡張することできるプログラムコネクタ78を備えている。
【0028】
プログラム訂正スイッチ79によって、技術者または使用者が増幅器および音声処理部品68のプログラムおよびリプログラム制御することができる。更に、(図示しない)入力ポートをその近傍(装置のどこでもよい)に設けて、外部ソースから装置のプログラムおよびリプログラムを実行するようにしてもよい。記憶部を増幅器および音声処理部品68内、および/または、装置内のどこにでも設けて、SPUのプログラムおよびリプログラムを可能にする、および/または、ユーザが、ユーザインターフェースを介して各種プログラムを選択することができる。
【0029】
図7は、第2のSPUの態様を例示的に示す。増幅器および音声処理部品68は、バッテリ部品72、スイッチ部品74、マイクロホン70およびSPU電気インターフェース66の各々を接続する回路基板として設けられている。
他の例示的態様において、耳ユニットの背後に、追加的に、1以上の音声を発するために使用されるノイズ発生器を備えている。音声は、耳鳴りに対処するために有効な特定の周波数領域において発生させる。ノイズ発生器は、治療のために、このような信号をレシーバに送る。
【0030】
次の表は、4つの補聴装置(G=General Hearing Instrument、O=Oticon、S=Sebotek、V=Vivatone)を比較して集めたデータの静的な分析を要約している。
【0031】
テストに使用したVivatone装置は、ミクロレシーバおよび保持ワイヤを備えた上述した実施態様に一致する構成であった。Vivatone装置は、更に、レシーバが耳腔の壁面に接触しないように軟骨領域内に配置された。
テストに使用されたGeneral Hearing Instrumentは、canal-open-ear Auriscoe(登録商標)補聴器であった。テストに使用したOticon装置は、ロープロファイルのOpen Ear Acoustics(登録商標)構成であった。テストに使用したSebotek装置は、米国特許No.5,606,621(Reiter)に開示されたPAC(Post Auricular Canal)補聴器であって、上述した特許に記載された全ての内容が引用によってここに組み込まれる。
【0032】
30の対象者に関して評価を行った。各対象者に対して4回、合計120回テストを行った。分析したデータは、試験実耳挿入応答曲線の値であり、これは補聴器無と補聴器有との間の差と、対象者が「EE」の文字を発生しながら繰り返された対応する値とからなっている。2つの差は、挿入効果および閉塞効果と呼ばれる。値は、79種類の周波数(200Hzから8000Hzの間で、100Hzづつ増加)で与えられた。
【0033】
モデルの分析は、各周波数に関して行われた。比較は、対象者、テスト順、先の装置に対して調整された。実験誤差は、挿入効果に関して概ね5-11dBであり、閉塞効果に関して概ね3-8dBであった。
【0034】
比較結果を以下の表に示した。結果は各周波数に対して示した。絶対値2.444より大きいT-値は表1に含まれている。2.444より少ないT-値は、単に表1から除外されているというだけで、統計的に重要でないとは解釈されない。マイナスの値は、Vivatone装置に較べて、比較用装置の方が挿入効果、または閉塞効果が大きいことを示している。プラスの値は、比較用装置に較べて、Vivatone装置の方が挿入効果、または閉塞効果が大きいことを示している。
【0035】
以下の表は、各周波数における比較をまとめたものである。表の値は、デシベル差をプラス、マイナスで表した。表に示すように、Vivatone装置は、比較用装置に較べて周波数域の全体に亘って低い挿入効果を示している。実に、Vivatone装置は、可聴スペクトルで3デシベル以下の挿入損失を示している。更に、Oticon装置での500Hzから1300Hz域を除いて、Vivatone装置は、比較用装置に較べて周波数域で低い閉塞効果を示している。
表1 比較のまとめ
【0036】
【表1】




【0037】


【0038】

【0039】


【0040】

【0041】


【0042】


【0043】

【0044】


【0045】

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【0047】


【0048】

【0049】


【0050】


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【0055】


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【0059】

【0060】


【0061】

【0062】

【0063】


【0064】

【0065】


【0066】


【0067】

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【0090】

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【0093】

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【0096】

【0097】


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【0100】


【0101】

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【0103】


【0104】

【0105】


【0106】

【0107】

【0108】


【0109】

【0110】


【0111】


【0112】

【0113】


【0114】

【0115】


以上、好ましい態様を示し説明してきたが、この発明の精神および範囲から逸脱することなく、これらに対する各種の改良、置き換えをすることができる。従って、この発明は、説明のために記述されたものであり、それに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0116】
例示的な図面を示す。類似の構成要素には同一番号を付している。
【図1】図1は、補聴システムための、レシーバ、中間連結部、および音声処理部品(ユニット)コネクタを例示的に示す概略図である。
【図2】図2は、レシーバおよび中間連結部の断面図である。
【図3】図3は、補聴システムための、レシーバ、中間連結部、および音声処理部品(ユニット)コネクタの分解図である。
【図4】図4は、保持ワイヤを含む補聴システムを組み立てた状態を示す図である。
【図5】図5は、補聴システムをユーザの耳に装着した状態の断面図である。
【図6】図6は、音声処理ユニットを例示的に示す図である。
【図7】図7は、他の音声処理ユニットを例示的に示す図である。
【符号の説明】
【0117】
10 補聴システム
12 レシーバ部(レシーバ部分)
14 スピーカ
16 ケーシング
18 連結部
20 中間連結部
22 音声処理部品(ユニット)コネクタ
24 電気インターフェース
26 コネクタシェル
28 ロックピン
30 電気伝導性部品
32 補強ワイヤ(保持手段)
36 近端部(第1端部)
38 管路
40、42 ワイヤ
44 遠端部(第2端部)
46 ポート
52 音声処理ユニット
54 保持ワイヤ(保持手段)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-01-06 
結審通知日 2011-01-11 
審決日 2011-01-25 
出願番号 特願2006-503375(P2006-503375)
審決分類 P 1 123・ 832- XA (H04R)
P 1 123・ 851- XA (H04R)
最終処分 審決却下  
前審関与審査官 志摩 兆一郎  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 藤内 光武
小池 正彦
登録日 2007-08-31 
登録番号 特許第4006470号(P4006470)
発明の名称 補聴システム  
代理人 吉田 研二  
代理人 堀江 哲弘  
代理人 石田 純  
代理人 堀江 哲弘  
代理人 吉田 研二  
代理人 堀江 哲弘  
代理人 石田 純  
代理人 石田 純  
代理人 吉田 研二  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  

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