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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1240388
審判番号 不服2008-1920  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-24 
確定日 2011-07-20 
事件の表示 特願2002-160639「ブロー成形方法及びブロー成形容器」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日出願公開、特開2004- 1314〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年5月31日の出願であって、平成19年6月18日付けで拒絶理由が通知され、同年9月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年1月24日に拒絶査定不服審判が請求され、同年2月25日に手続補正書と共に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年4月15日に明細書の手続補正書(方式)が提出され、同年5月12日付けで前置報告がなされ、それに基いて当審において平成22年5月11日付けで審尋がなされ、それに対して同年7月13日に回答書が提出され、同年10月20日付けで拒絶理由が通知され、同年12月22日に意見書及び手続補正書が提出され、平成23年1月27日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年4月4日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.平成23年4月4日付けの手続補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年4月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成23年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第2号に掲げる場合の補正であって、平成22年12月22日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲について、

「【請求項1】 底部(4)の上方に筒状の胴部(3)を連設し該胴部(3)の上方に円筒状の口部(2)を連設した容器(1)のダイレクトブロー成形方法において、
前記口部(2)の最小径をパリソン(11)の外径に等しいかわずかに大きく成形し、
前記胴部(3)から底部(4)にかけてのブロー比を1.5以下とし、
ブロー成形用の割金型(12)のキャビティーの下方における前記パリソン(11)の扁平状の潰れ変形を規制しながらのピンチオフ部での挟みこみにより、該割金型(12)による喰い切り痕(5)を底部(4)の底面(4a)にのみに形成することを特徴とするブロー成形方法。
【請求項2】喰い切り痕(5)の幅を前記パリソン(11)の外径の1.3倍以下とする請求項1記載のブロー成形方法。
【請求項3】底部(4)の上方に筒状の胴部(3)を連設し該胴部(3)の上方に円筒状の口部(2)を連設した、請求項1または2記載のブロー成形方法によって成形されたブロー成形容器であって、
前記口部(2)の最小径と底部(4)の外径との比である、(底部(4)の外径)/(口部(2)の最小径)を1.4以下とし、
前記底部(4)の外径と割金型(12)による喰い切り痕(5)の幅の比である、(喰い切り痕(5)の幅)/(底部(4)の外径)を0.86以下としたブロー成形容器。
【請求項4】底部(4)のパーティングライン(6)方向の寸法を、口部(2)の最小径と等しいかわずかに小さくした請求項3記載のブロー成形容器。」

を、

「【請求項1】 底部(4)の上方に筒状の胴部(3)を連設し該胴部(3)の上方に円筒状の口部(2)を連設した容器(1)のダイレクトブロー成形方法において、
前記口部(2)の最小径をパリソン(11)の外径に等しいかわずかに大きく成形し、
前記胴部(3)から底部(4)にかけてのブロー比を1.5以下とし、
ブロー成形用の割金型(12)のキャビティーの下方において、前記パリソン(11)の扁平状の潰れ変形を、該割金型(12)の動作方向と直角な方向から規制しながらピンチオフ部で挟みこみ、該割金型(12)による喰い切り痕(5)を底部(4)の底面(4a)にのみに形成することを特徴とするブロー成形方法。
【請求項2】喰い切り痕(5)の幅を前記パリソン(11)の外径の1.3倍以下とする請求項1記載のブロー成形方法。
【請求項3】 底部(4)の上方に筒状の胴部(3)を連設し該胴部(3)の上方に円筒状の口部(2)を連設した、請求項1または2記載のブロー成形方法によって成形されたブロー成形容器であって、
前記口部(2)の最小径と底部(4)の外径との比である、(底部(4)の外径)/(口部(2)の最小径)を1.4以下とし、
前記底部(4)の外径と割金型(12)による喰い切り痕(5)の幅の比である、(喰い切り痕(5)の幅)/(底部(4)の外径)を0.86以下としたブロー成形容器。」
と補正するものである。

上記本件補正は、金型による喰い切り痕を底部の底面のみに形成するために、ピンチオフ部で挟み込む際のパリソンの扁平状の潰れ変形を規制する手法について「該割金型(12)の動作方向と直角な方向から」を追加する補正(以後、「追加補正事項」という。)を含むものである。

2.補正の適否の判断
上記追加補正事項を含む本件補正が、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるかどうかについて検討する。

(1)当初明細書等の記載事項
当初明細書等には、以下の記載がある。

ア.「【発明の属する技術分野】
本発明は、ブロー成形された容器、特にはダイレクトブロー法で成形されたブロー比の小さな容器に関する。」(段落 【0001】)

イ.「【従来の技術】
ダイレクトブロー成形方法は押出機により筒状の溶融樹脂を押し出し、これをブロー成形用の割金型で型締めして挟み込み、当該金型のキャビティーの底辺に配設の刃部であるピンチオフ部で溶融樹脂の下部を切断すると共に、金型の上部ではパリソンカッターで筒状の溶融樹脂の上部を切断することで、有底筒体のパリソンを形成し、次いで金型の頂部より挿入のエアーノズルによってブローエアーがパリソンに吹き込まれて成形品に成形される。
上記、成形方法により、ダイレクトブロー成形法は射出成形法あるいは、プリフォームなる射出成形された中間成形品を使用するブロー成形方法に比較して安価に成形品を提供でき、例えば食品用容器、液体洗剤用容器等の広い分野で使用されている。
またコア-金型を使用しないので、アンダーカット性を考慮することなく容器の内面に凸凹構造を形成することができるという特徴を有する。」(段落 【0002】?【0004】)

ウ.「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ダイレクトブロー成形では必ず上記したピンチオフ部により容器の底部に喰い切り部が形成され、またこの喰い切り痕の幅は、通常円筒状のパリソンを扁平に押し潰した幅すなわちパリソンの外径の1.6倍となる。
このため、たとえばマスカラ、アイライナー等に使用する小型容器、あるいは胴部に比較して口部の口径を大きくした広口の容器等のブロー比の小さな容器においては割金型のパーティングライン側に樹脂がはみ出て、容器の底部近傍の側面に喰い切り痕が残り、特に外観が商品性の重要な要素となる化粧料容器等の分野では使用することができない。
本発明は、上記した従来の技術の問題点を解消すべく創案されたものであり、ダイレクトブロー成形法によるブロー比が小さい容器において、ブロー成形用の割金型による喰い切り痕の形成が底部の底面に限定された容器を提供することを技術的課題とし、従来にはない外観性に優れた新規なブロー成形容器を提供することを目的とする。」(段落 【0005】?【0007】)

エ.「【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を解決するための本発明のうち、請求項1記載の発明の手段は、ダイレクトブロー成形法により得られ、底部の上方に筒状の胴部を連設しこの胴部の上方に円筒状の口部を連設した容器であること、ブロー成形用の割金型による喰切り痕が底部の底面にのみ形成されていること、口部の最小径がブロー成形により容器に形成されるパリソンの外径に等しいかわずかに大きいこと、底部の底面に形成された喰い切り痕の幅がパリソンの外径の1.6倍より小さいこと、にある。
請求項1記載の上記構成により、口部の最小径を、ブロー成形により容器に形成されるパリソンの外径に等しいかわずかに大きくすることにより、口部が割金型で縦方向にピンチオフされることなく、口部に喰い切痕およびバリ痕が形成されることがない。
また、ダイレクトブロー成形では底部のピンチオフ部により容器の底部に、パーティングライン方向に沿って喰い切り痕が形成さるが、この喰い切り痕の幅は、円筒状のパリソンを扁平に押し潰し幅すなわちパリソンの外径の1.6倍になり、すなわち特には底部のパーティングライン方向のブロー比が少なくとも1.6倍以上でないとこの喰い切り痕が底部近傍の容器側面に露出してしまう。
ここで請求項1の構成にあるように、底部の底面に形成された喰い切り痕の幅をパリソンの外径の1.6倍より小さくすることにより、底部近傍のブロー比が1.6倍未満の低ブロー比の容器においても、喰い切り痕の形成を底部の底面に限定することができる。
また上記、喰い切り痕の幅をパリソンの外径の1.6倍よりも小さくすることは、割金型のキャビティーの下方においてパリソンの扁平状のつぶれ変形を規制しながらピンチオフ部で挟み込むことにより達成することができる。」(段落 【0008】?【0012】)

オ.「【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1と図2は本発明のブロー成形容器の第1実施例を示すものであり、ダイレクトブロー成形により得られた、底部4の上方に円筒状の胴部3そしてその上方に円筒状の口部2が連設された形状の容器1であり、たとえば口部2には軸付きブラシを有したキャップが螺合により組付き固定されマスカラ用あるいはアイライナー用の容器本体に使用されるものである。
この容器1の口部2の口部最小口径は10.5mm、胴部3の径は15mm、高さは75mmである。また割金型12による喰い切り痕5は底部4の底面4aにのみ形成されており、その幅は13mmであり、底部4近傍の側面には露出していない
容器1はダイレクトブロー成形法によって得られたものであるが、図5はダイレクトブロー法における型締め工程を示した説明図である。ダイレクトブローはパリソン11を押出機21より押し出し、このパリソン11をブロー成形の割金型12が型締めして挟み込み、当該割金型12のキャビティー12aの底辺に配設の刃部であるピンチオフ部13で溶融樹脂の下部を切断すると共に、金型の上部ではパリソンカッター14で筒状の溶融樹脂の上部を切断することで、有底筒体のパリソン11を形成し、次いで割金型12の頂部より挿入のエアーノズルによってブローエアーがパリソン11に吹き込まれて成形品に成形される。
図6は第1実施例の容器1の成形時のパリソン11と割金型12の位置関係を、図5における矢視Aから見た状態を示すもであり、パリソンの外径Dpは口部2の最小径Dminよりわずかに小さい10mmであり、胴部3から底部4にかけてのブロー比は1.5(15mm/10mm)である。
パリソン11の外径Dpが10mmであるのでそのまま割金型により挟みこんで2つに折り畳むとその幅は、1.6Dpすなわち16mmになるが、割金型12のキャビティー12aの下方において、パリソン11の扁平状の潰れ変形を規制しながらピンチオフ部で挟みこむ。
なお、本願発明は、喰い切り痕5の幅がパリソン11の外径の1.6倍より小さい新規なダイレクトブロー成形法によるブロー成形容器を提供するものであるが、パリソンの肉厚によっては、喰い切り痕の幅がパリソン11の外径の1.8倍程度であっても上記した方法により初めて喰い切り痕5の形成を底部4の底面4aにのみに限定した容器を提供することができる。」(段落 【0016】?【0021】)

カ.「

」(図1、2)

キ.「

」(図5)

(2)当初明細書等の記載の検討
当初明細書等においては、上記摘示事項ウに「ダイレクトブロー成形では必ず上記したピンチオフ部により容器の底部に喰い切り部が形成され、またこの喰い切り痕の幅は、通常円筒状のパリソンを扁平に押し潰した幅すなわちパリソンの外径の1.6倍となる。このため、たとえばマスカラ、アイライナー等に使用する小型容器、あるいは胴部に比較して口部の口径を大きくした広口の容器等のブロー比の小さな容器においては割金型のパーティングライン側に樹脂がはみ出て、容器の底部近傍の側面に喰い切り痕が残り、特に外観が商品性の重要な要素となる化粧料容器等の分野では使用することができない」という「発明が解決しようとする課題」が記載され、【課題を解決するための手段】として、上記摘示事項エに「喰い切り痕の幅をパリソンの外径の1.6倍よりも小さくすることは、割金型のキャビティーの下方においてパリソンの扁平状のつぶれ変形を規制しながらピンチオフ部で挟み込むことにより達成することができる」と記載されている。
また、【発明の実施の形態】欄においては、具体的な実施例1として上記摘示事項オが記載され、関係する図面として上記摘示事項カ、キが記載されているが、喰い切り痕の形成を底部の底面に限定するブロー成形手段に具体的に係わる当初明細書の記載は、「割金型12のキャビティー12aの下方において、パリソン11の扁平状の潰れ変形を規制しながらピンチオフ部で挟みこむ」(本願明細書段落【0020】)との記載のみである。
そして、上記摘示事項カの図5においては、本件補正発明1の実施例として記載されている方法に利用される金型のピンチオフ部13が示されているが、該ピンチオフ部13周辺に何らかの構成要素が存在することを示唆する表示は存在していない。

(3)追加補正事項の検討
本件補正における金型による喰い切り痕を底部の底面のみに形成するための手段に係る「該割金型(12)の動作方向と直角な方向から」(追加補正事項)との事項が、当初明細書等に記載されているかどうかを検討する。
まず、追加補正事項については、上記(2)において検討したとおり、当初明細書等に直接表現されていないから、追加補正事項は、当初明細書等に明示的に記載されていた事項ということはできない。
次に、追加補正事項が、当初明細書等の記載から自明な事項といえるかどうか、すなわち、本願出願時のその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)において、喰い切り痕の形成を底部の底面に限定するために「パリソン11の扁平状の潰れ変形を規制しながらピンチオフ部で挟みこむ」手段として、「該割金型(12)の動作方向と直角な方向から規制しながらピンチオフ部で挟みこ」むことが、自明であるかどうかについて検討する。
審判請求人が本願出願時の技術常識を示す文献として提示している特開平9-262902号公報及び特開2001-150526号公報においては、ピンチオフ部の下部に金型開閉方向に移動可能な調整機構が設けられているものが記載されているが、「キャビティーの下方において、前記パリソン(11)の扁平状の潰れ変形を、該割金型(12)の動作方向と直角な方向から規制しながらピンチオフ部で挟みこ」むことは記載されていない。
そうすると、審判請求人が提示する文献を勘案しても、「金型(12)の動作方向と直角な方向から規制しながらピンチオフ部で挟みこ」むことが本願出願時において周知であったといえないものであるから、当初明細書等の上記(2)の記載事項から、追加補正事項が自明であるということはできないものである。のみならず、割金型の動作方向と直角な方向から規制しながらピンチオフ部で挟みこむ機構そのものが、本願出願時において公知であることさえ明らかとはいえないものである。

なお、補正された事項が、「当初明細書等の記載から自明な事項」といえるためには、当初明細書等に記載がなくても、これに接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、その意味であることが明らかであって、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項でなければならない。
そして、そこで現実に記載されたものから自明な事項であるというためには、現実には記載がなくとも、現実に記載されたものに接した当業者であれば、だれもが、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項であるといえなければならず、その事項について説明を受ければ簡単に分かる、という程度のものでは、自明ということはできない(東京高判平成14年(行ケ)第3号)ところ、上記において検討したように、当初明細書等の記載からは、追加補正事項が当初明細書等の記載から自明な事項とまではいうことはできない。

してみると、追加補正事項を含む本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえるから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

3.審判請求人の主張について
本件補正の根拠について、審判請求人は、平成23年4月4日提出の意見書において、

「なお、上記[特許請求の範囲]の請求項1における特に、「・・・前記パリソン(11)の扁平状の潰れ変形を、該割金型(12)の動作方向と直角な方向から規制しながらピンチオフ部で挟みこみ、・・・」と云う下線部補正については、本願の段落[0020]の、「パリソン11の外径Dpが10mmであるのでそのまま割金型により挟みこんで2つに折り畳むとその幅は、1.6Dpすなわち16mmになるが、・・・」と云う記載から、あるいは喰い切り痕(5)の幅を短くするといった本願発明の目的を考慮すれば自明な事項であるものと思料します。」と主張している。

しかしながら、追加補正事項を含む本願補正発明1は、当初明細書等の記載を精査しても、上記2.において検討したとおり、明示的な記載はなく、当初明細書等の記載から自明な事項ともいえないから、審判請求人の上記主張は採用できない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しており、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成22年12月22日付けの手続補正(以下、「当審補正」という。)により補正された明細書及び図面(以下、図面の記載を合わせて「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「底部(4)の上方に筒状の胴部(3)を連設し該胴部(3)の上方に円筒状の口部(2)を連設した容器(1)のダイレクトブロー成形方法において、
前記口部(2)の最小径をパリソン(11)の外径に等しいかわずかに大きく成形し、
前記胴部(3)から底部(4)にかけてのブロー比を1.5以下とし、
ブロー成形用の割金型(12)のキャビティーの下方における前記パリソン(11)の扁平状の潰れ変形を規制しながらのピンチオフ部での挟みこみにより、該割金型(12)による喰い切り痕(5)を底部(4)の底面(4a)にのみに形成することを特徴とするブロー成形方法。」(以下、「本願発明1」という。)

第4.当審において通知した拒絶の理由の概要
当審において平成23年1月27日付けで通知した拒絶の理由の概要は次のとおりである。

「1)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
・・・・・
1.特許法第36条第4項について
本願発明1は「ブロー成形用の割金型(12)のキャビティーの下方における前記パリソン(11)の扁平状の潰れ変形を規制しながらのピンチオフ部での挟みこみにより、該割金型(12)による喰い切り痕(5)を底部(4)の底面(4a)にのみに形成する」ことを発明を特定するための必要な事項(以下、「発明特定事項A」という。)として備えるものであるが、本願明細書等の発明の詳細な説明において、前記発明特定事項Aをどのように行うのかが記載されているのは、本願明細書等の段落【0020】において「割金型12のキャビティー12aの下方において、パリソン11の扁平状の潰れ変形を規制しながらピンチオフ部で挟みこむ」と記載されているのみであって、それ以上の具体的な記載はなく、また、審判請求人が挙げた特開平9-262902号公報に記載された技術等の出願時のその発明の属する技術分野において通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)の技術常識を参酌しても、いかなることが行われているのか理解できないから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
・・・」

第5.当審の判断
1.本願明細書等の記載事項
本願明細書等には、以下の記載がある。

a.「【発明の属する技術分野】
本発明は、ブロー成形された容器、特にはダイレクトブロー法で成形されたブロー比の小さな容器に関する。」(段落 【0001】)

b.「【従来の技術】
ダイレクトブロー成形方法は押出機により筒状の溶融樹脂を押し出し、これをブロー成形用の割金型で型締めして挟み込み、当該金型のキャビティーの底辺に配設の刃部であるピンチオフ部で溶融樹脂の下部を切断すると共に、金型の上部ではパリソンカッターで筒状の溶融樹脂の上部を切断することで、有底筒体のパリソンを形成し、次いで金型の頂部より挿入のエアーノズルによってブローエアーがパリソンに吹き込まれて成形品に成形される。
上記、成形方法により、ダイレクトブロー成形法は射出成形法あるいは、プリフォームなる射出成形された中間成形品を使用するブロー成形方法に比較して安価に成形品を提供でき、例えば食品用容器、液体洗剤用容器等の広い分野で使用されている。
またコア-金型を使用しないので、アンダーカット性を考慮することなく容器の内面に凸凹構造を形成することができるという特徴を有する。」(段落 【0002】?【0004】)

c.「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ダイレクトブロー成形では必ず上記したピンチオフ部により容器の底部に喰い切り部が形成され、またこの喰い切り痕の幅は、通常円筒状のパリソンを扁平に押し潰した幅すなわちパリソンの外径の1.6倍となる。
このため、たとえばマスカラ、アイライナー等に使用する小型容器、あるいは胴部に比較して口部の口径を大きくした広口の容器等のブロー比の小さな容器においては割金型のパーティングライン側に樹脂がはみ出て、容器の底部近傍の側面に喰い切り痕が残り、特に外観が商品性の重要な要素となる化粧料容器等の分野では使用することができない。
本発明は、上記した従来の技術の問題点を解消すべく創案されたものであり、ダイレクトブロー成形法によるブロー比が小さい容器において、ブロー成形用の割金型による喰い切り痕の形成が底部の底面に限定された容器を提供することを技術的課題とし、従来にはない外観性に優れた新規なブロー成形容器を提供することを目的とする。(段落 【0005】?【0007】)

d.「【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を解決するための本発明のうち、第1の発明の手段は、ダイレクトブロー成形法により得られ、底部の上方に筒状の胴部を連設しこの胴部の上方に円筒状の口部を連設した容器であること、ブロー成形用の割金型による喰切り痕が底部の底面にのみ形成されていること、口部の最小径がブロー成形により容器に形成されるパリソンの外径に等しいかわずかに大きいこと、底部の底面に形成された喰い切り痕の幅をパリソンの外径の1.3倍以下とすること、にある。
第1の発明の上記構成により、口部の最小径を、ブロー成形により容器に形成されるパリソンの外径に等しいかわずかに大きくすることにより、口部が割金型で縦方向にピンチオフされることなく、口部に喰い切痕およびバリ痕が形成されることがない。
また、ダイレクトブロー成形では底部のピンチオフ部により容器の底部に、パーティングライン方向に沿って喰い切り痕が形成さるが、この喰い切り痕の幅は、円筒状のパリソンを扁平に押し潰し幅すなわちパリソンの外径の1.6倍になり、すなわち特には底部のパーティングライン方向のブロー比が少なくとも1.6倍以上でないとこの喰い切り痕が底部近傍の容器側面に露出してしまう。
ここで第1の発明の構成にあるように、底部の底面に形成された喰い切り痕の幅をパリソンの外径の1.3倍以下とすることにより、底部近傍のブロー比が1.6倍未満の低ブロー比の容器においても、喰い切り痕の形成を底部の底面に限定することができる。
また上記、喰い切り痕の幅をパリソンの外径の1.3倍以下とすることは、割金型のキャビティーの下方においてパリソンの扁平状のつぶれ変形を規制しながらピンチオフ部で挟み込むことにより達成することができる。」(段落 【0008】?【0012】)

e.「【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1と図2は本発明のブロー成形容器の第1実施例を示すものであり、ダイレクトブロー成形により得られた、底部4の上方に円筒状の胴部3そしてその上方に円筒状の口部2が連設された形状の容器1であり、たとえば口部2には軸付きブラシを有したキャップが螺合により組付き固定されマスカラ用あるいはアイライナー用の容器本体に使用されるものである。
この容器1の口部2の口部最小口径は10.5mm、胴部3の径は15mm、高さは75mmである。また割金型12による喰い切り痕5は底部4の底面4aにのみ形成されており、その幅は13mmであり、底部4近傍の側面には露出していない
容器1はダイレクトブロー成形法によって得られたものであるが、図5はダイレクトブロー法における型締め工程を示した説明図である。ダイレクトブローはパリソン11を押出機21より押し出し、このパリソン11をブロー成形の割金型12が型締めして挟み込み、当該割金型12のキャビティー12aの底辺に配設の刃部であるピンチオフ部13で溶融樹脂の下部を切断すると共に、金型の上部ではパリソンカッター14で筒状の溶融樹脂の上部を切断することで、有底筒体のパリソン11を形成し、次いで割金型12の頂部より挿入のエアーノズルによってブローエアーがパリソン11に吹き込まれて成形品に成形される。
図6は第1実施例の容器1の成形時のパリソン11と割金型12の位置関係を、図5における矢視Aから見た状態を示すもであり、パリソンの外径Dpは口部2の最小径Dminよりわずかに小さい10mmであり、胴部3から底部4にかけてのブロー比は1.5(15mm/10mm)である。
パリソン11の外径Dpが10mmであるのでそのまま割金型により挟みこんで2つに折り畳むとその幅は、1.6Dpすなわち16mmになるが、割金型12のキャビティー12aの下方において、パリソン11の扁平状の潰れ変形を規制しながらピンチオフ部で挟みこむ。
なお、本願発明は、喰い切り痕5の幅がパリソン11の外径の1.6倍より小さい新規なダイレクトブロー成形法によるブロー成形容器を提供するものであるが、パリソンの肉厚によっては、喰い切り痕の幅がパリソン11の外径の1.8倍程度であっても上記した方法により初めて喰い切り痕5の形成を底部4の底面4aにのみに限定した容器を提供することができる。」(段落 【0016】?【0021】)

f.「

」(図1、2)

g.「

」(図5)

2.当審の判断
本願発明1は、上記摘示事項cに記載の「発明が解決しようとする課題」を解決するためになされたものであり、喰い切り痕の形成を底部の底面に限定する手段として、【課題を解決するための手段】の記載である上記摘示事項dには、「喰い切り痕の幅をパリソンの外径の1.3倍以下とすることは、割金型のキャビティーの下方においてパリソンの扁平状のつぶれ変形を規制しながらピンチオフ部で挟み込むことにより達成することができる」と記載されている。
また、【発明の実施の形態】欄においては、具体的な実施例1として上記摘示事項e、関係する図面として上記摘示事項f、gが記載されているが、喰い切り痕の形成を底部の底面に限定する手段に係わるものは、「割金型12のキャビティー12aの下方において、パリソン11の扁平状の潰れ変形を規制しながらピンチオフ部で挟みこむ」(本願明細書段落【0020】)のみである。
当業者が、上記の記載に基いて、本願の発明が解決しようとする課題を解決する喰い切り痕の形成を底部の底面に限定する容器を得ることができるかについて検討すると、「パリソン11の扁平状の潰れ変形を規制しながらピンチオフ部で挟みこむ」動作が、いかなることが行われているのか、どのような動作が行われているのか、本願出願時の当業者の技術常識を勘案しても理解できないものである。
そうすると、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

3.審判請求人の主張の検討
審判請求人は、平成23年4月4日提出の意見書において、以下の主張を行っている。

「2)当業者の技術常識について
2.1) 審判請求人はこれまで特開平9-262902号公報(参考文献1とする)を参考文献として引用、本発明のブロー成形方法に係る当業者の技術常識について言及してきましたが、ここで、この技術常識に係る他の参考文献である特開2001-150526号公報(参考文献2とする。)に記載される技術内容について説明すると共に、当業者の技術常識に係る審判請求人の見解を説明します。
なお、当該参考文献2の図1を[参考図2]として本意見書の末尾に添付します。また、同様に添付した[参考図1]は上記参考文献1の図1です。
2.2)参考文献2にはブロー成形金型に係る発明が記載されており、この金型構造の構成は、その[要約]に記載されているように、
「ブロー成形用金型100 であって、割り型110A,110B の底部キャビティ113A,113B のピンチオフ114A,114B の下方位置の分割面115A,115B に、割り型の開閉方向にスライドするパリソン挟持用プレート120A,120B を設ける。(参考図2参照)」と云うものである。
そして、このパリソン挟持用プレート120A,120Bでパリソン210をピンチオフ114A,114Bの下方位置で挟持することにより、段落[0003]に記載されるように「ブロー成形用金型内でパリソンが倒れ込んで、・・・」と云うパリソンの姿勢に係る問題が解消できるとしている。
2.3) ここで、参考文献1に関し、先の起案日が平成22年10月20日付けの拒絶理由通知書の第14頁の後段で「引用文献2(ここでいう参考文献1に相当する。)に示された調整機構ではピンチオフ部の肉厚は調製することができても、パリソンを潰して形成される幅を規制することはできないから引用文献2に示された調整機構と本願のパリソンの偏平状の潰れ変形を記載する手段とは、その作用効果からみて異なるものである。」と云う指摘があります。
2.4) 審判請求人は上記指摘については必ずしも同意するものではありませんが、参考文献2に記載されるパリソン挟持用プレートは、参考文献1の「調整機構24」のような金型の下方で、最終的にパリソンを押潰してその喰切り部の肉厚を調整するための補助的な装置とは異なり、パリソンを両側から、スライド機構の作用も含めて挟持するための補助的な装置です。
2.5) 従って、参考文献2に記載されるような金型の下方に配置される「パリソン挟持用プレート」でパリソンを挟持することは当業者には良く知られている技術的事項であります。
そして、この参考文献2に記載されるパリソン挟持用プレートで挟持することは、まさしく、パリソンの偏平状の潰れ変形を規制することにも相応するものであり、そして、割金型のピンチオフ動作に起因するパリソンの偏平状の潰れ変形を規制するにあって、この種のパリソン挟持用プレートを、その挟持方向が割金型の開閉方向と直角な方向になるように配設することは、当業者が容易に想起することができる技術的事項であるものと思料されるものです。
3)特許法第36条第4項の規定係る拒絶理由に対する見解
本願の明細書の記載により、本願発明の全般的な技術内容、「小さなブロー比のブロー成形容器で、喰い切り痕の形成を底部の底面に限定する」と云う本発明の課題、また本願の段落[0012]、[0020]に記載のあるブロー成形方法について知ることができた後では、
本願の請求項1に記載されたブロー成形方法を実施するにあたって、上記説明したように当業者にとってよく知られた参考文献2に記載される「パリソン挟持用プレート」のような挟持機構を、金型の下に挟持方向が割金型の開閉方向と直角な方向になるように配設して実施するできることは、当業者が容易に想起できるものであり、請求項1のブロー成形方法に係る記載は、当業者が、実施ができる程度に記載されているものと思料致します。
(5)以上説明したように、本願発明の創造性は請求項1に記載される成形方法により、胴部から底部にかけてのブロー比が1.5以下で、割金型による喰い切り痕の形成が底部の底面に限定された、と云う、従来にないブロー成形容器を提供できることを見出した点に存し、また特許法第36条第4項の規定についてもその要件を満たすものであり、本願発明は特許を受けることができるものであると思料致します。
[参考図1]
特開平9-262902号公報」

しかし、審判請求人が当業者の技術常識を提示する文献として提示している特開平9-262902号公報に記載されているのは、容器のピンチオフ部の肉厚を調整するために、ダイレクトブローのパリソンを金型の下方に配置された金型の開閉方向で挟持する挟持機構であり、特開2001-150526号公報に記載されているのは、ブロー比が4以上又は胴部の肉厚が0.3mm以下のプラスチック製ボトルを成形しても品質が良好なボトルが得るための、ダイレクトブローのパリソンを金型の下方に配置された開閉方向で挟持する挟持機構であって、喰い切り痕の形成を底部の底面に限定する手段である「パリソン(11)の扁平状の潰れ変形を規制しながらのピンチオフ部での挟みこみ」について記載されたものでないから、前記文献の記載事項が出願時の当業者の技術常識であったとしても、本願明細書等の発明の詳細な説明に基いて「パリソン11の扁平状の潰れ変形を規制しながらピンチオフ部で挟みこむ」ことを当業者が容易に実施をすることができるものとは認められない。
また、「割金型12のキャビティー12aの下方における、パリソン11の扁平状の潰れ変形を規制しながらのピンチオフ部での挟みこみ」を実施するためには、審判請求人も認めているように、単に審判請求人が周知であるという「金型の下方に配置される金型の開閉方向のパリソン挟持用プレート」を採用することのみでは実施できず、「パリソン挟持用プレート」のような挟持機構を、金型の下に挟持方向が割金型の開閉方向と直角な方向になるように配設して実施する必要があるのであり、前記したとおり、本願出願時において金型の動作方向と直角方向の挟持機構について開示する公知文献さえ存在していないこと、一般に型開閉方向と直角な方向での挟持機構を金型に設けることには困難性が伴うことを考慮すれば、出願人が提示する周知の挟持機構について全く開示のない本願明細書等の記載から、当業者が「パリソン11の扁平状の潰れ変形を規制しながらピンチオフ部で挟みこみ」との技術事項を実施できるとは認められない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

第6.むすび
以上のとおり、当審において平成23年1月27日付けで通知した拒絶の理由は妥当なものであるから、本願は、この理由により拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-10 
結審通知日 2011-05-17 
審決日 2011-05-30 
出願番号 特願2002-160639(P2002-160639)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (B29C)
P 1 8・ 561- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小野寺 務
大島 祥吾
発明の名称 ブロー成形方法及びブロー成形容器  
代理人 渡辺 一豊  

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