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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1240671
審判番号 不服2007-19815  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-17 
確定日 2011-07-27 
事件の表示 特願2003-577255「光ディスク装置におけるサーボ動作制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月25日国際公開、WO03/79345、平成17年 7月14日国内公表、特表2005-521186〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2003年3月20日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2002年3月20日、大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成18年12月26日付けで通知した拒絶の理由に対し、平成19年3月23日付けで手続補正されたが、同年4月12日付けで拒絶査定され、これに対し、同年7月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付け及び同年8月16日付けで明細書について手続補正がされたものである。
その後、当審において審査官の作成した前置報告書(特許法164条第3項)の内容を利用した審尋を行ったところ、平成22年5月25日付けで回答が提出された。さらに、同年8月30日付けで、本願の明細書及び図面の記載に不備がある旨の拒絶の理由を通知したが、同年12月2日付けで意見書のみ提出があったものである。

ここにおいて、平成19年7月17日付け、及び同年8月16日付けの手続補正は、いずれも、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第1項第4号の場合にするものであるから、同法第17条の2第3項、第4項、及び第4項第2号に該当する場合には第5項に規定する要件を満たさなければならないところ、平成19年7月17日付けの手続補正は、補正前の特許請求の範囲(平成19年3月23日付けで手続補正)の請求項2ないし6を削除するものであるから、同法第17条の2第3項に規定する要件を満たすとともに、同法第4項第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

そして、平成19年8月16日付けの手続補正については、以下のとおりである。


第2 平成19年8月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成19年8月16日付けの手続補正を却下する。

〔理 由〕
1.本件補正
平成19年8月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正前に、

「 【請求項1】
光ディスク記録層までの光透過層の厚さが異なる多種の光ディスクに対するフォーカシングサーボ動作の優先順序を、光ディスク記録層までの光透過層の厚さが厚い方から順に設定する1段階と;
装置内に挿入装着された光ディスクに対するフォーカシングサーボ動作を、前記設定された優先順序で順次実施する2段階と;
前記順次フォーカシングサーボ動作を実施する途中、正常なフォーカスが成り立った場合、その光ディスクの種類に対応するトラッキングサーボ動作を実施する3段階と
を含むことを特徴とする光ディスク装置におけるサーボ動作制御方法。」
とあったものを、

「【請求項1】
光ディスク記録層までの光透過層の厚さが異なる多種の光ディスクに対するフォーカシングサーボ動作の優先順序を、光ディスク記録層までの光透過層の厚さが厚い方から順に設定する1段階と;
装置内に挿入装着された光ディスクの記録層と、装置内の光ピックアップの対物レンズとの間の垂直方向における距離が前記光透過層の厚さが厚くなるほど大きくなるように、前記光ピックアップの対物レンズを、前記光透過層の厚さに応じて事前に設定された最大移動位置までの間で移動させる前記フォーカシングサーボ動作を、前記設定された優先順序で順次実施する2段階と;
前記順次フォーカシングサーボ動作を実施する途中、正常なフォーカスが成り立った場合、その光ディスクの種類に対応するトラッキングサーボ動作を実施する3段階と
を含み、
CD、DVD、高密度DVDの前記フォーカシングサーボ動作及び前記トラッキングサーボ動作は、当該装置内において可能である
ことを特徴とする光ディスク装置におけるサーボ動作制御方法。」
と補正しようとするものである。

すると、本件補正の補正事項は、補正前の請求項1で特定されていた「フォーカシングサーボ動作」について、「光ディスクの記録層と、装置内の光ピックアップの対物レンズとの間の垂直方向における距離が前記光透過層の厚さが厚くなるほど大きくなるように、前記光ピックアップの対物レンズを、前記光透過層の厚さに応じて事前に設定された最大移動位置までの間で移動させる」との特定を加え、また、「CD、DVD、高密度DVDの前記フォーカシングサーボ動作及び前記トラッキングサーボ動作は、当該装置内において可能である」との特定事項を加えるものである。
以下、本件補正について検討する。
2.補正の根拠についての検討
前記「1.」で確認した補正事項のうち、「フォーカシングサーボ動作」について、「光ディスクの記録層と、装置内の光ピックアップの対物レンズとの間の垂直方向における距離が前記光透過層の厚さが厚くなるほど大きくなるように、前記光ピックアップの対物レンズを、前記光透過層の厚さに応じて事前に設定された最大移動位置までの間で移動させる」との特定事項について、その根拠を平成16年11月22日に提出された国際出願翻訳文提出書における「請求の範囲の翻訳文」「明細書の翻訳文」「図面の翻訳文」及び「要約書の翻訳文」(以下、これらの翻訳文を併せて「当初明細書等」という。)により確認すると、「最大移動位置」については、
「光ディスク記録層までの光透過層の厚さが1.2mmであるCDに適合するように事前に設定された最大移動位置」(0022段落)
「光ディスク記録層までの光透過層の厚さが0.6mmであるDVDに適合するように事前に設定された最大移動位置」(0026段落)
「光ディスク記録層までの光透過層の厚さが0.1mmである高密度DVDに適合するように事前に設定された最大移動位置」(0030段落)
との記載が認められる。
こららの記載からすると、「最大移動位置」は、CD、DVD、及び高密度DVDのそれぞれに「適合するように事前に設定」することが記載されていると認められるものの、前記「適合する」の技術的意義について、これ以上の記載はない。CD、DVD、及び高密度DVDのそれぞれについて、光透過層の厚さが記載されているが、それらは、単に対象とするディスクについて、事実(CD及びDVDについて、又は想定される値(高密度DVDについて)の記載にすぎず、同記載により前記最大移動位置が「光透過層の厚さに応じて」事前に設定されると記載したものとも認めるべき根拠はない。
まして、「光ディスクの記録層と、装置内の光ピックアップの対物レンズとの間の垂直方向における距離が前記光透過層の厚さが厚くなるほど大きくなるように」との記載は、当初明細書等の記載にはないもので、同記載から自明であるとすべき根拠もない。

以上のことからすると、本件補正における補正事項のうち、フォーカシングサーボ動作において、特に「事前に設定された最大移動位置」について、「光ディスクの記録層と、装置内の光ピックアップの対物レンズとの間の垂直方向における距離が前記光透過層の厚さが厚くなるほど大きくなるように」及び「前記光透過層の厚さに応じて」との特定事項を加えた点は、当初明細書等を全て精査してもその根拠が無く、新たな技術事項を付加するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものと認めることができない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件についての検討
(1)補正の目的
平成22年12月2日付けの意見書における請求人の主張に、
「「最大移動距離」がどのように設定されるのか記載されていないに関して、実際光ディスクドライブでは、フォーカシングサーボ動作を遂行する時、対物レンズを支持するアクチュエータに印加する電源の範囲を光学系ごとに互いに異なって制限することで対物レンズがディスクと衝突しない最大移動位置を設定することができます。すなわち、対物レンズが移動することができる最大移動位置をいずれかに設定するかは明細書には直接記載されていませんが、光ディスクと係わる当業者には自明な技術であると考えます。」
「2段階は、“前記光ピックアップの対物レンズを前もって設定された最大移動位置までの間に移動させる前記フォーカシングサーボ動作を前記設定された優先手順で順次実施する2段階であって、前記最大移動位置は装置内に挿入装着された光ディスクの記録層と装置内の光ピックアップの対物レンズとの間の垂直方向における距離が前記光透過層の厚さが厚くなるほど大きくなるように前記光透過層の厚さによって設定される”と解釈するのが妥当であると考えます。」
「最大移動位置は当該の光学系でフォーカシングエラー信号が検出される位置を含み対物レンズがディスクと衝突しない位置を示すものです。また、“最大移動位置までの間”において、“最大移動位置”は対物レンズが上下運動する時ディスクと一番近くの位置である上限を示し、“最大移動位置までの間”は対物レンズが上下運動する時光ピックアップの設計によって決まる対物レンズ上下運動の下限から上限までを示します。」
とある点を考慮して、仮に、前記「2.」で検討した最大移動位置についての特定が当初明細書等の記載の範囲内でしたものと認められる場合についても検討する。

仮に、本件補正が、当初明細書等の記載の範囲内でしたものと認められる場合には、本件補正は、補正前の請求項1において「フォーカシングサーボ動作」について、「光ディスクの記録層と、装置内の光ピックアップの対物レンズとの間の垂直方向における距離が前記光透過層の厚さが厚くなるほど大きくなるように、前記光ピックアップの対物レンズを、前記光透過層の厚さに応じて事前に設定された最大移動位置までの間で移動させる」との特定を加え、また、「CD、DVD、高密度DVDの前記フォーカシングサーボ動作及び前記トラッキングサーボ動作は、当該装置内において可能である」との特定事項を加えることで、それぞれ特許請求の範囲を減縮するものと認められるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日の前に頒布された刊行物である特開平9-293322公報(以下、「引用例」という)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プレーヤに装着されているディスクがCDであるかまたはDVDであるかを判別するディスク判別装置に関する。」

(b)
「【0009】
【発明の実施の形態および実施例】図1は、本発明の一実施例であるディスク判別装置20が組み込まれたディスク再生装置DS1を示すブロック図である。
【0010】ディスク再生装置DS1は、ディスク判別装置20と、操作パネル31と、ディスプレイ32と、RF信号処理部41と、ディジタル信号制御部42と、D/A変換回路43と、LPF44と、VRAM45と、ディスプレイ46と、マイクロコンピュータ47とを有する。
【0011】ディスク判別装置20は、制御部21と、フォーカスサーボ22と、トラッキングサーボ23と、送りサーボ24と、光ピックアップ25と、スピンドルサーボ26と、スピンドルモータ27とを有する。【0012】制御部21は、ディスク判別装置20の全体を制御するとともに、フォーカスサーボ22、トラッキングサーボ23、送りサーボ24、光ピックアップ25、スピンドルサーボ26を個々に制御するものである。
【0013】光ピックアップ25は、CDまたはDVDに対してレーザビームを照射し、反射ビームに基づいて、CDまたはDVDに記録されている情報を検出するものである。
【0014】フォーカスサーボ22は、光ピックアップ25が受光した反射ビームに応じて、最適なフォーカスが得られるように、光ピックアップ25の位置を制御するものである。トラッキングサーボ23は、トラッキングに関するサーボをかけるものである。送りサーボ24は、送りモードに対して所定のサーボをかけるものである。スピンドルサーボ26は、スピンドルモータ27に対して、所定のサーボをかけるものである。」

(c)
「【0017】図2は、上記実施例であるディスク判別装置20の動作を示すフローチャートである。
【0018】まず、CDまたはDVDをセットし、光ピックアップ25によるレーザビーム照射位置を、ディスクの最内周位置にセットし(S1)、この位置からディスクの外周に向って、光ピックアップ25を一定時間移動させることによって、一定距離移動させる(S2)。このようにレーザビーム照射位置をディスクの最内周位置から一定距離移動させることによって、CDにおいてもDVDにおいても、信号の書き込みエリアまで、レーザビーム照射位置を確実に移動させることができる。
【0019】そして、CD用サーボに設定し(S3)、CD用のフォーカスをかける(S4)。CD用サーボに設定する場合、面ぶれ、振動等の外来要因によってCD固有のゲイン特性、位相特性等を演算によって算出し、サーボを設定する。CD用のフォーカスをかけたときに、フォーカスがかかれば(S5)、被検出対象のディスクがCDであると判断し(S6)、CDの再生処理を実行する(S7)。なお、FOK(FOCUS OK)というフォーカス検出信号がフォーカスストラッキングサーボICから出力され、この信号を利用してフォーカスがかかったか否かを判断する。
【0020】CD用のフォーカスをかけたときに(S4)、フォーカスがかからなければ(S5)、DVD用サーボに変更して設定し(S11)、DVD用のフォーカスをかける(S12)。DVD用サーボに設定する場合、面ぶれ、振動等の外来要因によってDVD固有のゲイン特性、位相特性等を演算によって算出し、サーボを設定する。このときに、フォーカスがかかれば(S13)、被検出対象ディスクが、DVDであると判断し(S14)、DVDの再生処理を実行する(S15)。なお、DVD用のフォーカスをかける場合(S12)、シングルレヤーでフォーカスがかからなければ、ダブルレヤーでフォーカスをかける試みを行う。」

上記引用例記載事項及び図面を総合勘案し、第1引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「ディスク再生装置において、装着されているディスクがCDであるかまたはDVDであるかを判別するディスク判別装置の動作方法であって、
まず、CD用サーボに設定し、CD用のフォーカスをかけ、フォーカスがかかれば、被検出対象のディスクがCDであると判断し、CDの再生処理を実行し、 CD用のフォーカスをかけたときに、フォーカスがかからなければ、DVD用サーボに変更して設定し、DVD用のフォーカスをかけ、このときに、フォーカスがかかれば、被検出対象ディスクが、DVDであると判断し、DVDの再生処理を実行する、ディスク判別装置の動作方法。」


(3)対比
本願補正発明を、引用発明と比較する。
引用発明における「CD」と「DVD」は、光透過層の厚さが異なる(CDの場合、約1.2mm、DVDの場合、約0.6mm)ことは技術常識であるから、本願補正発明の「光ディスク記録層までの光透過層の厚さが異なる(2種の)光ディスク」に相当する。
引用発明では、まず「CD用サーボに設定し」、「CD用のフォーカスをかけたときに、フォーカスがかからなければ、DVD用サーボに変更して設定し、DVD用のフォーカスをかけ」るので、ディスク判別のためのフォーカスサーボをかける順序を事前に設定し、当該フォーカスサーボを掛ける処理を実行していると認められ、本願補正発明における「光ディスク記録層までの光透過層の厚さが異なる」「光ディスクに対するフォーカシングサーボ動作の優先順序を、光ディスク記録層までの光透過層の厚さが厚い方から順に設定する1段階」と、「フォーカシングサーボ動作を、前記設定された優先順序で順次実施する2段階」とを備えている。
引用発明では、CD用サーボ及びDVD用サーボのそれぞれにおいて、
「フォーカスがかかれば、被検出対象のディスクがCDであると判断し、CDの再生処理を実行」「フォーカスがかかれば、被検出対象ディスクが、DVDであると判断し、DVDの再生処理を実行」との処理を行うところ、「再生処理」には、既にかかったフォーカスはもちろんのこと、判断されたディスクに対応したトラッキングサーボをかけることは、技術常識上当然のことである。なお、この点は、引用例においても0011、0014段落、図1においてトラッキングサーボについて明記されていることからも裏付けられることである。したがって、引用発明は、本願補正発明の
「前記順次フォーカシングサーボ動作を実施する途中、正常なフォーカスが成り立った場合、その光ディスクの種類に対応するトラッキングサーボ動作を実施する3段階」を実質上備えている。
引用発明のディスク再生装置は、CD及びDVDに関して、フォーカスサーボ及びトラッキングサーボを当該装置内において実行可能であることは明らかであるから、「CD、DVD」「の前記フォーカシングサーボ動作及び前記トラッキングサーボ動作は、当該装置内において可能である」との要件を備えている。
引用発明の、ディスク判別方法は、フォーカスサーボ動作及び再生動作に含まれることが明らかなトラッキングサーボ動作を制御するものであるから、本願補正発明の「光ディスク装置におけるサーボ動作制御方法」に相当する。

以上のことからすると、本願補正発明と、引用発明とは、次の点で一致する。
(一致点)
光ディスク記録層までの光透過層の厚さが異なる光ディスクに対するフォーカシングサーボ動作の優先順序を、光ディスク記録層までの光透過層の厚さが厚い方から順に設定する1段階と;
前記フォーカシングサーボ動作を、前記設定された優先順序で順次実施する2段階と;
前記順次フォーカシングサーボ動作を実施する途中、正常なフォーカスが成り立った場合、その光ディスクの種類に対応するトラッキングサーボ動作を実施する3段階と
を含み、
CD、DVDの前記フォーカシングサーボ動作及び前記トラッキングサーボ動作は、当該装置内において可能である
光ディスク装置におけるサーボ動作制御方法。

一方で、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明では、対象ディスクに「高密度DVD」を含む「多種の光ディスク」を対象とし、フォーカシングサーボ動作及びトラッキングサーボ動作に関して、CD、DVDに加え、前記「高密度DVD」についても、当該装置内において可能であると特定しているのに対し、引用発明は、CD及びDVDの2種の光ディスクを対象とするもので、前記2種の光ディスクに対してフォーカシングサーボ動作及びトラッキングサーボ動作が当該装置内において可能であると認められる点。

(相違点2)
本願補正発明では、フォーカシングサーボ動作について、「装置内に挿入装着された光ディスクの記録層と、装置内の光ピックアップの対物レンズとの間の垂直方向における距離が前記光透過層の厚さが厚くなるほど大きくなるように、前記光ピックアップの対物レンズを、前記光透過層の厚さに応じて事前に設定された最大移動位置までの間で移動させる」と特定するのに対し、引用発明には、このような特定がない点。

(4)判断
1)相違点1について
本願優先権主張の日当時、すでに、DVDを越える高密度の光ディスクの提案がなされていたことは、当業者に周知の事項であり、その一つの提案として、0.1mm程度の保護層を通して、NA0.85程度の対物レンズにより集光したビームを入射し、記録再生する、新たな高密度のディスクは、たとえば、特開2001-67700号公報(以下、「周知例1」という。)、特開2001-344779号公報(以下、「周知例2」という。)、国際公開パンフレット2002/021520号(以下、「周知例3」という。)等にて周知の技術事項であって、前記高密度のディスクが本願補正発明の「高密度DVD」に相当するものである。
すると、ディスク再生装置において、CD、DVDに加え、このような「高密度DVD」についても判別する必要があることは当業者にとって明らかであり、引用発明において、CD用サーボに設定し、CD用のフォーカスをかけ、フォーカスがかからなければ、DVD用サーボに変更して設定し、DVD用のフォーカスをかける工程の後に、フォーカスがかからなければ、「高密度DVD」用のサーボに設定して、「高密度DVD」用のフォーカスをかけ、このときに、フォーカスがかかれば、被検出対象ディスクが、「高密度DVD」であると判断し、「高密度DVD」の再生処理を実行するとの一連の工程を付加することにより、引用発明のディスク判別装置の動作方法を、「多種の」光ディスクに対するものとするとともに、「高密度DVD」について「前記フォーカシングサーボ動作及び前記トラッキングサーボ動作は、当該装置内において可能である」ようにすることは当業者が容易に想到しうることである。

2)相違点2について
CD、DVD、及び上記周知例1ないし3に示す「高密度DVD」については、それぞれ光透過層の厚さは、約1.2mm、約0.6mm、約0.1mmであること、及び光学系の対物レンズのNAは、それぞれ約0.45,約0.6及び約0.85である。したがって、CD、DVD、「高密度DVD」の順で、対物レンズの焦点距離は短くなり、それと連動して、ワーキングディスタンスも、同じ順で小さくなることは、また、技術常識である。したがって、例えば特開平10-55603号公報(以下、「周知例4」という。)の図11に示されるように、ディスク表面と対物レンズとの間隔を、CDの場合とDVDの場合とでほぼ同程度とることができても、±0.9mmのストロークの上端、すなわち、「最大移動位置」における記録層と対物レンズとの距離は、DVDに対しては光透過層の厚さが薄い分だけ、CDの場合より小さくなることが明らかである。因みに、同図に示された具体的な数値で確認すると、CDの場合、最大移動位置における記録層と対物レンズの垂直方向の距離は2.1mm、DVDの場合、同距離は1.5mmに設定されている。
また、「高密度DVD」の場合には、記録層と対物レンズとの関係は、さらに大きく異なるものである。すなわち、光透過層の厚さが0.1mmとCD、DVDに比較してきわめて小さいとともに、対物レンズのワーキングディスタンスについても、0.1mm程度とCD、DVDに用いられるものより遙かに小さい(周知例2の0027段落、周知例3の6頁参照)のであるから、最大移動位置における記録層と対物レンズの垂直方向の距離は、光透過層の厚さとワーキングディスタンスを合計した0.2mm程度又はそれよりも小さく設定しないと記録面にフォーカスできないことが明らかである。
以上のことからすると、周知のCD、DVD、「高密度DVD」のそれぞれにフォーカス動作を行うためには、これらディスクの記録再生に用いられる対物レンズのNA、焦点距離、ワーキングディスタンス等に関する技術常識又は周知技術も考慮すると、最大移動位置におけるディスクの記録層と対物レンズとの垂直方向の距離が、CD、DVD、「高密度DVD」の順で小さくなるように設定することは当然の配慮にすぎず、したがって「装置内に挿入装着された光ディスクの記録層と、装置内の光ピックアップの対物レンズとの間の垂直方向における距離が前記光透過層の厚さが厚くなるほど大きくなるように、前記光ピックアップの対物レンズを、前記光透過層の厚さに応じて事前に設定された最大移動位置までの間で移動させる」ようにすることは、当業者が容易に想到しうることである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は、引用例に記載された発明及び周知技術から、当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。

(5)独立特許要件についての結び
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び技術常識又は周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、仮に、本件補正が当初明細書等の記載の範囲内でしたものと認められたとしても、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成19年8月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成19年7月17日付けで手続補正書された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記「第2 〔理由〕1.」に本件補正前の請求項1として掲げたとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 〔理由〕2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2 〔理由〕」で検討した本願補正発明から、
「フォーカシングサーボ動作」について、「光ディスクの記録層と、装置内の光ピックアップの対物レンズとの間の垂直方向における距離が前記光透過層の厚さが厚くなるほど大きくなるように、前記光ピックアップの対物レンズを、前記光透過層の厚さに応じて事前に設定された最大移動位置までの間で移動させる」との特定を削除し、また、「CD、DVD、高密度DVDの前記フォーカシングサーボ動作及び前記トラッキングサーボ動作は、当該装置内において可能である」との特定事項を削除したものに相当する。

すると、本願発明を特定する事項を全て含み、更に他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 〔理由〕4.」に記載したとおり、引用発明及び技術常識又は周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び技術常識又は周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-08 
結審通知日 2011-02-15 
審決日 2011-03-09 
出願番号 特願2003-577255(P2003-577255)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 561- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古河 雅輝山崎 達也  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
酒井 伸芳
発明の名称 光ディスク装置におけるサーボ動作制御方法  
代理人 山川 茂樹  
代理人 黒川 弘朗  
代理人 山川 政樹  
代理人 西山 修  

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