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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G09F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F
管理番号 1240701
審判番号 不服2009-16006  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-31 
確定日 2011-07-27 
事件の表示 特願2004-521314「改善された多層ビデオ画面」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月22日国際公開、WO2004/008226、平成17年11月 4日国内公表、特表2005-533275〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年7月15日(パリ条約による優先権主張 平成14年7月15日 ニュージーランド)を国際出願日とする国際出願であって、平成17年3月14日に翻訳文(国内書面)が提出された後、平成20年10月29日付けで拒絶理由が通知され、平成21年5月2日付けで手続補正がなされたものの、同年6月4日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、上記拒絶査定を不服として平成21年8月31日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、同日付けで手続補正がなされた。その後、当審において平成22年8月19日付けで審尋を行ったところ、同年12月17日付けで回答書が提出された。

第2 平成21年8月31日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年8月31日付け手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容と目的
平成21年8月31日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の記載を補正するものであって、その請求項1についてする補正は、補正前(平成21年5月2日付けで補正。以下同じ。)の請求項1に選択的な発明特定事項として記載されていた事項の一つである「ピクセルの配置」を削除するものであって、選択肢を限定して補正前の請求項1を減縮するものであるから、本件補正のうち請求項1についてする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2 本件補正発明
本件補正発明は本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも2つの表示層を備え、これら2つの表示層は、それぞれ複数のピクセルを有しており、前記表示層の少なくとも一部は重なり合っており、前記重なり合った部分は、以下の少なくとも1つに関して互いに非類似となっており:
-ピクセルの形状;
-ピクセルのサイズ;
-構成材料;
これにより、前記非類似の表示層の間におけるモアレ干渉が、前記重なり合う部分が同一であるときに表れるモアレ干渉に比べて減少されるようになっていることを特徴とする表示装置。」

3 本願出願前に頒布された刊行物
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2002-504764号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある。
(1a)「【請求項7】 多層像を用いる表示装置であり、各層は単独の表示装置または表示装置の組み合わせからできており、正面側にあるスクリーンは選択的に透明にでき、重ねられた層の間において像のピクセルの配列構造は、互いに45゜の角度で交差している、表示装置。」
(1b)「【0010】この明細書では全体にわたって、各スクリーン層にLCDを利用するものとして本発明を説明する。しかし、本発明に関して、選択的に像を見せ選択的に透明になる他の種類のスクリーンを使うことができ、必ずしもLCDでなくてもよいことは、当業者には理解できるだろう。
【0011】本発明の好適な実施形態では、スクリーンはあらかじめ調整された距離をもって互いに平行に配置される。この距離は、スクリーンの大きさに応じた所望の奥行きレベルに従う。典型的には、この距離は正面スクリーンの縦の長さの1/4であるが、実際の距離は所望の効果に合わせて変更してもよい。また、スクリーンの間の距離は、効果を高めるためにリアルタイムで変更できるようにしてもよい。」
(1c)「【0023】本発明の好適な実施形態は、選択的に透明なスクリーンの複数の層を組み合わせることにより、奥行きを持つ改良された表示装置を提供する。簡単な多層像表示装置が図1に示されている。背景スクリーン1がいくらかの距離2をもって正面側スクリーン3の後方に配置されている。LCDのようなある種の表示装置では、バックライト4が必要とされることもありうる。各スクリーンは、像5,6を示すことができる。正面側スクリーン6で表示された像は、背景スクリーン5で表示された像よりも近くにあるように見える。」
(1d)「【0026】スクリーンの間に、わずかに光を拡散する層13がさらに配置された実施形態が図4に示されている。この層がないと、重なったスクリーン層におけるわずかなピクセルパターンの相違が組み合わさることによって、干渉14が発生してしまう。スクリーンの間にこの拡散層13を配置することにより、各スクリーンにおけるピクセルパターンをわずかに拡散し、数字15で示すように干渉をなくすことができる。あるいは、一方のスクリーンにおいてストライプのピクセルパターンを用い、他方のスクリーンに45゜傾いたピクセルパターンを用いることにより干渉をなくすことも可能である。」
(1e)【図1】には、上記(1c)の記載に即し、背景スクリーン1がいくらかの距離2をもって正面側スクリーン3の後方に配置されている図が図示されている。

これらの記載および図面の図示内容からして、引用例1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「各スクリーン層にLCDが利用され、
背景スクリーンが距離をもって、選択的に透明にできる正面側スクリーンの後方に配置されることによる多層像を用いる表示装置であって、
重ねられたスクリーンの間のピクセルの配列構造を、互いに45゜傾いたピクセルパターンとすることにより、干渉をなくすことが可能である表示装置。」

(2)引用例2
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-42310号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶表示装置に関し、特に、広視角特性を有する透過型液晶表示装置に関する。」
(2b)「【0006】透過型液晶表示装置の視角特性を改善するために、特に上下方向(12時方向および6時方向)の視角依存性を小さくするために、液晶表示パネルの観察者側に複数のレンズを有するレンズアレイ(またはレンズシートと呼ぶ。)を配置した液晶表示装置が、例えば、特開平9-127309号公報、特開平7-120743号公報、特開平8-76120号公報および特開平6-230358号公報に開示されている。
【0007】
【発明が解決すべき課題】しかしながら、本願発明者が検討した結果、上記の公報に開示されている液晶表示装置においては、液晶表示パネルの観察者側にレンズアレイを配置することによって視角特性は改善されるものの、モアレ縞が発生しやすく、その結果表示品位の低下を招くという問題がある。
【0008】一般に、スリット等の周期構造を有する2つの物体を重ねると、互いの周期構造が干渉し、モアレ縞と呼ばれる明暗縞が発生する。上記の公報に開示されている液晶表示装置においては、液晶表示パネルの複数の絵素が形成する周期構造と、その前面に配置されるレンズアレイの複数のレンズが形成する周期構造とが互いに干渉し、モアレ縞を発生する。…(以下略)」
(2c)「【0023】本発明の液晶表示装置では、液晶表示パネルに形成された複数の絵素の周期方向とレンズアレイに形成された複数のレンズの周期方向とが互いに交差するように配置されている。すなわち、レンズの周期方向が絵素の周期方向に対して傾斜する(傾斜角:θ、θ>0)ように配置されている。このように配置すると、絵素とレンズとの位置関係(重なりなど)が絵素の位置によって異なるので、干渉によるモアレ縞の発生が抑制される。また、絵素とレンズとの間に特定の位置関係が要求されないので、絵素ピッチやレンズピッチの高精度な制御や高い貼り合わせ精度は要求されない。
【0024】本明細書において、「絵素」とは、表示を行うために光学的な状態が制御される最小単位を指す。カラー表示においては、典型的には、R、G、Bのそれぞれの最小表示単位を、R絵素、G絵素、B絵素と呼ぶ。1組のR絵素、G絵素およびB絵素が画素を形成する。絵素は、液晶表示装置の絵素電極ごとに規定される。複数の絵素は、典型的にはマトリクス状に配列されている。従って、複数の絵素は、行方向およびそれに直交する列方向に周期的に配列されている。行方向および列方向を絵素の「周期方向」とよぶ。また、それぞれの絵素は、典型的には略矩形の形状を有しているので、行方向および列方向とでそれぞれの周期(「絵素ピッチ」という)が異なる。絵素と同様に、レンズアレイのレンズも、一般的には行方向および列方向に互いに異なるレンズピッチで配列される。上述したように典型的には、行方向と列方向とは互いに直交するが、絵素およびレンズの配列はこれに限られず、互いに異なる方向であればよい。例えば、デルタ配列のカラー液晶表示装置においては、行方向に対して傾斜した方向に列方向が設定され得る。」

(3)引用例3
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-202793号公報(以下「引用例3」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある。
(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は液晶パネル等の空間変調子を備えた表示装置に関する。」
(3b)「【0006】種々の画素の配列に対して、集光要素の配列は画素の配列と全く同じ(合同)とすれば良さそうである。しかしながら、1つの集光要素が3つの色ドットをカバーしなければならないので、集光要素の配列を画素の配列と同じにすることができない場合もある。従来、画素の配列に対して、好ましい集光要素の配列が明らかにされていなかった。
【0007】また、液晶パネルでは、偏光子を用いると光の利用効率が低下する。従って、この場合にも、光の利用効率を高くすることのできる表示装置が望まれる。本発明の目的は、光の利用効率を高くすることのできる表示装置を提供することである。本発明の他の目的は、種々の配列で配置された画素に対して集光要素が適切な配列で配置された表示装置を提供することである。」
(3c)「【0048】画素46と集光要素16を組み合わせる上で、集光要素16の単位体積当たりの個数が画素46の単位体積当たりの個数と同数又は又は整数倍であることが好ましい。また、画素46の形状が集光要素16の形状と合同であるか相似であれば、画素46と集光要素16との対応をとりやすい。しかし、これから述べる実施例においては、集光要素16の形状が画素46の形状と異なっていることが多い。それにもかかわらず、画素46と集光要素16との対応をとることができる。」
(3d)「【0049】図16は正方配列の画素46を示す図である。正方配列においては、4つの隣接する画素46の中心が正方形を形成する。あるいは、正方配列の画素46は互いに直交する第1の方向(図において水平な方向)及び第2の方向(図において垂直な方向)に周期性を備えた配列と言うことができる。あるいは、正方配列を色ドットR、G、Bの配列で表現することもできる。すなわち、図16においては、色ドットR、G、Bは互いに垂直な第1及び第2の方向に周期性を備え、1つの画素の3つの色ドットR、G、Bが第1及び第2の方向の一つと平行な線上にある。図16においては、1つの画素の3つの色ドットR、G、Bが水平な線上にある。
【0050】図17は正方配列の集光要素16を示す図である。正方配列の集光要素16は画素の場合と同様に第1及び第2の方向に周期性を備えた配列と言うことができる。図18は図16に示す正方配列の画素46と図17に示す正方配列の集光要素16とを組み合わせた構成を示す図である。画素46と集光要素16とは一対一で対応する。図19はこのときの集光要素16の特徴を示す。」
(3e)「【0051】図20は正方配列の集光要素16の変形例を示す図である。この場合にも、4つの隣接する集光要素16の中心が正方形を形成し、また、集光要素16は第1及び第2の方向に周期性を備えている。図20においては、各集光要素16は縦横の辺の比が1対2の長方形の形状に形成されている。長方形の辺は、水平に対して45°で斜め方向に延びる。言い換えれば、集光要素16は、第1及び第2の方向とは異なる第3の方向に平行な1対の辺を含む多角形(長方形)の形状を有している。
【0052】図21は図16に示す正方配列の画素46と図20に示す正方配列の集光要素16とを組み合わせた構成を示す図である。図22はこのときの集光要素16の特徴を示す。画素46と集光要素16とは一対一で対応し、集光要素16の中心の周期は画素46の周期と一致している。集光要素16の形状は画素46の形状とは異なるので、表示を劣化させるモワレが発生しにくい特徴がある。」

4 本件補正発明と引用発明の対比
本件補正発明と上記引用発明を対比する。
ア 引用発明の、「背景スクリーンがいくらかの距離をもって、選択的に透明にできる正面側スクリーンの後方に配置される」「表示装置」であるという事項は、本件補正発明の「少なくとも2つの表示層を備え」、「前記表示層の少なくとも一部は重なり合って」いるという事項と一致する。
イ 引用発明の「LCD」が液晶表示装置を意味することは技術常識であって、「各スクリーン層にLCDが利用され」という事項からして、引用発明の各スクリーン層が複数のピクセルを有していることは明らかであるから、引用発明の当該事項は、本件補正発明の「これら2つの表示層は、それぞれ複数のピクセルを有しており」という事項と一致する。
ウ 引用発明の「重ねられたスクリーンの間のピクセルの配列構造を、互いに45゜傾いたピクセルパターンとすることにより、干渉をなくすことが可能である」という事項と、本件補正発明の「前記重なり合った部分は、以下の少なくとも1つに関して互いに非類似となっており:
-ピクセルの形状;
-ピクセルのサイズ;
-構成材料;
これにより、前記非類似の表示層の間におけるモアレ干渉が、前記重なり合う部分が同一であるときに表れるモアレ干渉に比べて減少されるようになっている」という事項を対比すると、引用発明の「干渉」は、スクリーン同士が重なり合った部分で発生することは明らかであるから、両者は、「表示層の間におけるモアレ干渉が、前記重なり合う部分が同一であるときに表れるモアレ干渉に比べて減少されるようになっている」点で一致することは明らかであるといえる。

そうすると、本件補正発明と引用発明は、
「少なくとも2つの表示層を備え、これら2つの表示層は、それぞれ複数のピクセルを有しており、前記表示層の少なくとも一部は重なり合っており、前記重なり合った部分は、表示層の間におけるモアレ干渉が、前記重なり合う部分が同一であるときに表れるモアレ干渉に比べて減少されるようになっている表示装置。」の点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉
重なり合った部分におけるモアレ干渉を減少せしめる手法について、
本件補正発明は「ピクセルの形状、ピクセルのサイズ、構成材料の少なくとも1つに関して互いに非類似となっている」ことによりなされるのに対し、
引用発明は、重ねられたスクリーンの間のピクセルの配列構造を、互いに45゜傾いたピクセルパターンとすることによってなされている点。

5 相違点についての検討、判断
引用例2に記載されている(上記(2b)の【0008】参照)ように、一般に、スリット等の周期構造を有する2つの物体を重ねると、互いの周期構造が干渉し、モアレ縞と呼ばれる明暗縞が発生し、液晶表示パネルでは、複数の画素が形成する周期構造と、例えばレンズアレイ等の複数のレンズが形成する他の周期構造が互いに干渉し、モアレ縞として観察されることは当業者に極めてよく知られた事項であるといえ、当該モアレ縞は、レンズの周期方向を画素の周期方向に対して傾斜させることで、画素とレンズの位置関係が画素の位置によって異ならしめることにより抑制できることは、本願の優先日において公知の事項である(上記(2c)の【0023】参照)ということができる。
また、引用例3の上記(3d)と(3e)の記載をあわせ読めば、液晶表示パネルにおいて、当該パネルの画素の周期構造と複数のレンズが形成する他の周期構造によって生じる干渉は、画素の形状とレンズの形状が同じ場合に比べて両者の形状が異なる場合の方が少なく、画素形状とレンズ形状を異ならしめることによりモアレの抑制を図ることができることは、本願の優先日において公知の事項であるといえる。
そうすると、液晶表示装置の技術分野において、画素配列と他の光学部材の周期構造同士の干渉によって発生するモアレを抑制するための手法として、一方の周期構造を傾斜させて互いの位置関係の一致性を壊したり、周期構造そのものの形状を相違させて互いの周期構造の一致性を壊すことは、いずれも本願の優先日前に当業者に公知の手法であるといえる。
してみると、引用例2,3に接した当業者であれば、「重ねられたスクリーンの間のピクセルの配列構造を、互いに45゜傾いたピクセルパターンとすることにより、干渉をなくすことが可能である表示装置」である引用発明において、干渉をなくすための手法として、「ピクセルの配列構造を、互いに45゜傾いたピクセルパターンとする」という手法に代えて、ピクセルそのものの形状を相違させるという手法、すなわち、「ピクセルの形状」を「互いに非類似」にするという手法を採用すれば、同様にモアレの抑制が図られるであろうことに想到することは、容易であるといわざるを得ない。
したがって、引用発明において上記相違点に係る構成を得ることは、引用例2,3に記載されている技術的事項に基いて当業者が容易になし得ることであり、そのことによって得られる作用効果も、引用発明ならびに引用例2,3から示唆される作用効果を越えるものでもない。

以上検討したとおりであるから、本件補正発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 平成22年12月17日付け回答書における請求人の主張
請求人は、平成22年12月17日付けで回答書において、引用例2,3について、反論の機会の欠落(以下「前者」という。)と、本件補正発明の「表示層」との相違(以下「後者」という。)を主張しているから、念のため検討する。
前者については、本件補正が審判請求時の補正であって特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であることは既に述べたとおりであって、拒絶理由の通知について規定した特許法第50条には、「第53条第1項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。」と規定されているとおりであるから、補正の却下の決定を、その理由を前もって通知することなく行うことに違法性はない。
また、後者については、モアレの発生が、周期構造相互間の光の干渉によって発生するものであることに照らせば、その周期構造を有する部材自体が表示を行うものであっても、単に光が透過するだけの部材であっても、それらの重なり合いによって同様な光の干渉が生じることは明らかであるから、重なり合う部材の機能にかかわらず、同様の対策を施すことによりモアレの発生が抑制されることも明らかであるといえる。
したがって、請求人の前記主張を考慮しても、下記7のとおり、本件補正が却下すべきものであることに変わりはない。

7 本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものである。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年8月31日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成21年5月2日付け手続補正書によって補正された、特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも2つの表示層を備え、これら2つの表示層は、それぞれ複数のピクセルを有しており、前記表示層の少なくとも一部は重なり合っており、前記重なり合った部分は、以下の少なくとも1つに関して互いに非類似となっており:
-ピクセルの形状;
-ピクセルのサイズ;
-ピクセルの配置;
-構成材料;
これにより、前記非類似の表示層の間におけるモアレ干渉が、前記重なり合う部分が同一であるときに表れるモアレ干渉に比べて減少されるようになっていることを特徴とする表示装置。」

2 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物およびその記載事項、ならびに引用発明は、前記「第2 [理由]3」の「(1)引用例1」に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明の対比、検討・判断
本願発明は、上記「第2 [理由]2」に記載した本件補正発明において選択的に記載された発明特定事項ついて、「ピクセルの配置」を更なる選択肢として追加したものに相当する。
そこで本願発明と引用発明を対比すると、本願発明と引用発明は、上記「第2 [理由]4」の「ア」、「イ」で一致するとした点で一致する。
そして、引用発明の「重ねられたスクリーンの間のピクセルの配列構造を、互いに45゜傾いたピクセルパターンとすることにより、干渉をなくすことが可能である」という事項と、本願発明の「前記重なり合った部分は、以下の少なくとも1つに関して互いに非類似となっており:
-ピクセルの形状;
-ピクセルのサイズ;
-ピクセルの配置;
-構成材料;
これにより、前記非類似の表示層の間におけるモアレ干渉が、前記重なり合う部分が同一であるときに表れるモアレ干渉に比べて減少されるようになっている」という事項を対比すると、引用発明において「重ねられたスクリーンの間のピクセルの配列構造を、互いに45°傾いたピクセルパターンとする」ことにより、重ねられたスクリーンのそれぞれのピクセルは、互いに45°傾いて重なり合うことは明らかであって、互いのピクセルの配置が非類似であるといえるから、両者は、「重なり合った部分は、ピクセルの配置に関して互いに非類似となって」いる点で一致する。さらに、既に述べた(「第2 [理由]4 ウ」参照)とおり、引用発明の「干渉」は、スクリーン同士が重なり合った部分で発生することは明らかである。
したがって、両者は、「重なり合った部分は、ピクセルの配置に関して互いに非類似となっており:
これにより、前記非類似の表示層の間におけるモアレ干渉が、前記重なり合う部分が同一であるときに表れるモアレ干渉に比べて減少されるようになっている」点で一致する

そうすると、本願発明と引用発明は、
「2つの表示層を備え、これら2つの表示層は、それぞれ複数のピクセルを有しており、前記表示層の少なくとも一部は重なり合っており、前記重なり合った部分は、以下に関して互いに非類似となっており:
-ピクセルの配置;
これにより、前記非類似の表示層の間におけるモアレ干渉が、前記重なり合う部分が同一であるときに表れるモアレ干渉に比べて減少されるようになっている表示装置。」である点で一致する。
してみると、複数の選択肢をもって記載された本願発明うち、「ピクセルの配置」という一つの選択肢を発明特定事項として選択した発明と引用発明は何ら相違がなく、本願発明うち「ピクセルの配置」という一つの選択肢を発明特定事項とした発明は引用発明と同一である。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明を含むものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-28 
結審通知日 2011-03-01 
審決日 2011-03-16 
出願番号 特願2004-521314(P2004-521314)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09F)
P 1 8・ 575- Z (G09F)
P 1 8・ 113- Z (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中塚 直樹田辺 正樹北川 創  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 岡田 吉美
樋口 信宏
発明の名称 改善された多層ビデオ画面  
代理人 成瀬 重雄  

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