• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1240824
審判番号 不服2009-18456  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-30 
確定日 2011-07-28 
事件の表示 特願2006-344343「干渉電力を推定する無線受信機」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月31日出願公開、特開2007-135224〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年2月14日に出願した特願2002-36814号の一部を平成18年12月21日に新たな特許出願としたものであって、平成21年4月3日付けの拒絶の理由の通知に対して、同年6月8日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、同年6月23日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し同年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において、平成23年2月23日付けの最後の拒絶の理由の通知に対して、同年5月2日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成23年5月2日付けの手続補正についての却下の決定
[結論]
平成23年5月2日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の本願発明
平成23年5月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、平成21年6月8日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1(以下「補正前の請求項1」という。)は、平成23年5月2日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1(以下「補正後の請求項1」という。)に補正された。
補正前の請求項1及び補正後の請求項1は、以下のとおりである。

補正前の請求項1
「信号対干渉電力比の測定を行う無線受信機において、
該信号対干渉電力比の測定に利用するシンボルの数が1つ又は2つである個別チャネルを用いて信号電力を算出する信号電力算出手段と、
該信号対干渉電力比の測定に利用可能なシンボルの数を1スロット内に10個含む共通パイロットチャネルを利用して干渉電力を算出する干渉電力算出手段と、
該信号電力算出手段及び該干渉電力算出手段によって算出された、該信号電力及び該干渉電力を用いて、該信号対干渉電力比を求める信号対干渉電力比測定手段と、
を備えたことを特徴とする無線受信機。」

補正後の請求項1
「信号対干渉電力比の測定を行う無線受信機において、
該信号対干渉電力比の測定に利用するパイロットシンボルの数が1スロット内に1つ又は2つである個別チャネルを用いて信号電力を算出する信号電力算出手段と、
該信号対干渉電力比の測定に利用可能なパイロットシンボルの数を1スロット内に10個含む共通パイロットチャネルを利用して干渉電力を算出する干渉電力算出手段と、
該信号電力算出手段及び該干渉電力算出手段によって算出された、該信号電力及び該干渉電力を用いて、該信号対干渉電力比を求める信号対干渉電力比測定手段と、
を備えたことを特徴とする無線受信機。」

本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「シンボル」及び「シンボルの数が1つ又は2つである」について、それぞれ「パイロット」及び「1スロット内に」との限定を付加するものであって、特許法17条の2第4項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用例の記載
(1)引用例1
当審の拒絶の理由に引用された特開2001-24623号公報(平成13年1月26日出願公開。以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は信号対干渉比推定装置に関し、例えば、符号分割多元接続(CDMA:Code Devision Multiple Access )方式の通信システムの送信電力制御に適用し得るものである。
【0002】
【従来の技術】従来、CDMA方式の通信システムでは、収容回線数の増大や通信品質の向上等のために、伝搬路上で混入する干渉信号波の電力レベルに応じて、送信側からの送信電力を制御している。
【0003】具体的には、受信側において、受信した信号波から、希望信号波(受信したい目的の信号波)の電力と干渉信号波の電力とを推定して信号対干渉比(SIR:Signal to Interference Ratio)を求め、送信側において、求めたSIRに基づいて送信電力を制御している。
【0004】また、受信側において、希望信号波の電力と干渉信号波の電力とを推定する方法としては、送信側から連続的に送信されるパイロットチャネル等の既知データ(例えばオール「1」のデータ)を有する信号波を受信して逆拡散し、その逆拡散値を平均化することにより干渉信号波のレベル変動分を相殺して希望信号波の電力を推定すると共に、受信信号波の逆拡散値と平均化した逆拡散値との差分から干渉信号波の電力を推定するという方法がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、パイロットチャネルの信号波は、自システムの自動制御を行うための信号波であり、データを伝送するためのトラフィックチャネルの信号波とは異なり、送信電力の制御を受けないで(例えば一定の送信電力で)送信されることがある。
【0006】しかしながら、従来のSIRの推定方法では、パイロットチャネルの信号波が、トラフィックチャネルの信号波と同様に送信電力制御を受けていることを前提としており、パイロットチャネルの信号波が送信電力制御を受けない場合には、希望信号波の電力を推定することができなく、適用できないという課題があった。
【0007】なお、前述の説明では、SIRを推定するための信号波がパイロットチャネルの信号波である場合について説明したが、既知データを有する信号波であれば、パイロットチャネルに限定することなく他のチャネルの信号波でも勿論良い。
【0008】そのため、既知データを有する信号波が送信電力制御を受けない場合でも、SIRを推定できるSIR(信号対干渉比)推定装置が求められていた。」(段落【0001】?【0008】)

イ 「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明によるSIR(信号対干渉比)推定装置を適用した一実施形態について、図面を参照しながら詳述する。
【0011】(A) 構成の説明
図1は、この実施形態のSIR推定装置の構成を示すブロック図である。図1において、このSIR推定装置は、信号波入力端子10と、干渉信号波電力推定部20と、希望信号波電力推定部30と、SIR演算回路40とを有する。
【0012】まず、信号波入力端子10には、シングルパス波で、送信電力制御を受けていないパイロットチャネル(Pch)と、伝送レートによって電力の変動を受けない制御ビット(例えばTPCシンボル)を含んでおりかつ送信電力制御を受けているトラフィックチャネル(Tch)とが完全直交で符号多重された、同一伝搬路を通過するベースバンド信号波が入力される。なお、入力されたベースバンド信号波は、干渉信号波電力推定部20と希望信号波電力推定部30とに与えられる。
【0013】干渉信号波電力推定部20は、ベースバンド信号波に符号多重するPchの信号波から、伝搬路上で混入する干渉信号波の電力を推定するものである。なお、干渉信号波電力推定部20は、Pch相関器21と、チャネル推定器22と、遅延器23と、干渉信号波推定器24と、干渉信号波電力演算回路25とから構成される。
【0014】Pch相関器21は、Pch直交符号乗積器21Aにおいて、与えられたベースバンド信号波にPchの直交符号を乗算し、さらにNchip相関器21Bにおいて、拡散符号を乗算して逆拡散し、その逆拡散値をNチップ分加算してPch相関値としてチャネル推定器22と遅延器23とに与えるものである。
【0015】チャネル推定器22は、Pch相関器21からのPch相関値を、その相関値における干渉信号波のレベル変動分が相殺されるように、また、移動平均がとれるように平均化し、平均化した相関値を伝搬路推定値として干渉信号波信号推定器24に与えるものである。
【0016】遅延器23は、Pch相関器21からのPch相関値を、チャネル推定器22が平均化するのに要する時間分だけ、遅延させるものである。なお、この遅延器23を設けることにより、遅延器23から出力されるPch相関値の出力タイミングと、チャネル推定器22から出力される伝搬路推定値の出力タイミングとが一致することになる。
【0017】干渉信号波推定器24は、チャネル推定器22からの伝搬路推定値に基づいて、遅延器23からのPch相関値に含まれる干渉信号波成分を推定し(具体的には、伝搬路推定値とPch相関値との差分を算出し)、その推定値を干渉信号波電力演算回路25に出力するものである。
【0018】干渉信号波電力演算回路25は、干渉信号波推定器24からの推定値から、干渉信号波の電力値を演算し、演算した干渉信号波の電力値をSIR演算回路40に与えるものである。
【0019】また、希望信号波電力推定部30は、ベースバンド信号波に符号多重するTchの信号波から、そのTchの信号波の電力を推定するものである。なお、Tchの信号波はデータ伝送を行うための信号波であり、受信側で受信する目的の信号波(希望信号波)である。また、希望信号波電力推定部30は、Tch相関器31と、TPCシンボル取り出し器32と、希望信号波電力演算回路33とから構成される。
【0020】Tch相関器31は、Tch直交符号乗積器31Aにおいて、与えられたベースバンド信号波にTchの直交符号を乗算し、さらにNchip相関器31Bにおいて、拡散符号を乗算して逆拡散し、その逆拡散値をNチップ分加算してTch相関値としてTPCシンボル取り出し器32に与えるものである。
【0021】TPCシンボル取り出し器32は、前フレームのTch信号波のTPC制御で得られたTPCシンボルの位置情報を利用して、Tch相関器31からのTch相関値のTPCシンボル部分の値を取り出し、そのTch相関値を希望信号波電力演算回路33に出力するものである。
【0022】希望信号波電力演算回路33は、TPCシンボル取り出し器32からのTch相関値から、希望信号波の電力値を演算し、演算した希望信号波の電力値をSIR演算回路40に与えるものである。
【0023】さらに、SIR演算回路40は、干渉信号波電力演算回路25からの干渉信号波電力値と希望信号波電力演算回路33からの希望信号波電力値とから、SIRを演算するものである。この演算方法としては、例えば、単純に除算を行っても良いし、デシベル変換を行った後に減算を行っても良い。」(段落【0010】?【0023】)

ウ 「【0037】従って、この実施形態では、送信電力制御を受けていないが既知データを有するPchを用いて干渉信号波の電力を推定し、送信電力制御を受けているTchを用いて希望信号波の電力を推定している。これを踏まえて、以下、実施形態の動作を説明する。
【0038】信号波入力端子10より入力された受信ベースバンド信号波はPch相関器21に与えられる。
【0039】Pch相関器21では、Pch直交符号乗積器21Aにおいて、与えられたベースバンド信号波にPchの直交符号Wpが乗算され、さらにNchip相関器21Bにおいて、拡散符号Pnが乗算されて逆拡散され、その逆拡散値がNチップ分加算されてPch相関値としてチャネル推定器22と遅延器23とに出力される。
【0040】チャネル推定器22では、Pch相関値の例えば移動平均を採ることにより平滑化を行い、伝搬路推定値として干渉信号波推定器24に出力される。
【0041】遅延器23では、チャネル推定器22の出力遅延を考慮して、Pch相関値が遅延されてPch遅延相関値として干渉信号波推定器24に出力される。
【0042】干渉信号波推定器24では、前述したPch遅延相関値と伝搬路推定値とが入力されてそれらの差分が演算され、その差分値が干渉信号波成分 BI(t)として出力される。ここでt は時系列を示す。
【0043】他方、信号波入力端子10より入力された受信ベースバンド信号波は、Tch相関器31にも与えられる。
【0044】Tch相関器31では、Tch直交符号乗積器31Aにおいて、与えられたベースバンド信号波にTchの直交符号Wtが乗算され、さらにNchip相関器31Bにおいて、拡散符号Pnが乗算されて逆拡散され、その逆拡散値がNチップ分加算されてTch相関値としてTPCシンボル取り出し器32に出力される。
【0045】TPCシンボル取り出し器32では、前フレームのTch信号波のTPC制御で得られたTPCシンボルの位置情報を利用して、Tch相関器31からのTch相関値のTPCシンボル部分の値が取り出され、そのTch相関値が希望信号波成分BS(t)として出力される。
【0046】ここで、干渉信号波電力演算回路25では、干渉信号波成分BI(t) が入力され、下記の(7)式に示す演算によって、干渉信号波の電力値Iが算出され、その電力値がSIR演算回路40に出力される。
【0047】
I = [1/N*Σ|BI(t)|]^2 ・・・(7)
なお、N は、BI(t) の時間平均区間であり、予め定めた定数である。
【0048】一方、希望信号波電力演算回路33では、希望信号波成分BS(t) が入力され、下記の(8)式に示す演算によって、希望信号波の電力値Sが算出され、その電力値がSIR演算回路40に出力される。
【0049】
I = [1/N*Σ|BS(t)|]^2 ・・・(8)
なお、N は、BS(t) の時間平均区間であり、予め定めた定数である。
【0050】さらに、SIR演算回路40では、それぞれ別のチャネルから演算された、干渉信号波電力Iと希望信号波電力Sとが入力されて、受信SIRが演算されて出力されることになる。ここで、受信SIRの演算方法は、例えば単純に除算を行っても良いし、さらにデシベル変換を行った後に減算を行っても良い。
【0051】なお、このように推定されたSIRは、送信側の送信電力制御装置に与えられ、送信電力制御装置では、与えられたSIRに基づいて送信電力の制御を行い(例えば与えられたSIRが所定の値よりも低い場合には送信電力を強くしてSIRを高くする制御を行い)、干渉信号波によって通信品質が劣化することを防止することができる。
【0052】(D) 効果の説明
以上のように、この一実施形態によれば、(1)送信電力制御を受けていない既知データを有するPch信号波から干渉信号波の電力を推定する干渉信号波電力推定部20と、(2)Pch信号波と同一伝搬路を通過してきた送信電力制御を受けたTch信号波から希望信号波の電力を推定する希望信号波電力推定部30と有するので、既知データを有するPch信号波が送信電力制御を受けてなく一定の場合であっても、干渉信号波電力を精度良く算出すると共に、希望信号波電力についても送信電力制御を受けたものが推定可能となり、SIRを求めることができる。」(段落【0037】?【0052】)

エ 「【0057】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、伝搬路を介して受信する、少なくとも第1及び第2の受信信号波が混在している受信信号波から、希望信号波の電力と干渉信号波の電力とを推定し、それらの電力値に基づいて信号対干渉比を求める信号対干渉比推定装置であって、(1)前記第1の受信信号波から、希望信号波の電力を推定する希望信号波電力推定手段と、(2)前記第2の受信信号波から、干渉信号波の電力を推定する干渉信号波電力推定手段とを有するので、第2の受信信号波が送信側において送信電力制御を受けていなくても、第2の受信信号波の既知データ部分から干渉信号波の電力を推定できると共に、電力制御を受けている第1の受信信号波から希望信号波の電力を推定でき、SIRを求めることができる。」(段落【0057】)

以上の記載によれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「信号波入力端子10と、干渉信号波電力推定部20と、希望信号波電力推定部30と、SIR演算回路40とを有するSIR(信号対干渉比)推定装置において、
信号波入力端子10には、既知データを含むパイロットチャネルと、伝送レートによって電力の変動を受けないTPCシンボルを含んでおりかつ送信電力制御を受けており、かつ、データ伝送を行うための信号波であり、受信側で受信する目的の信号波(希望信号波)であるトラフィックチャネル(Tch)とが完全直交で符号多重された、同一伝搬路を通過するベースバンド信号波が入力され、入力されたベースバンド信号波は、干渉信号波電力推定部20と希望信号波電力推定部30とに与えられ、
干渉信号波電力推定部20は、ベースバンド信号波に符号多重するパイロットチャネルの信号波から、伝搬路上で混入する干渉信号波の電力を推定するものであり、
希望信号波電力推定部30は、ベースバンド信号波に符号多重するトラフィックチャネルの信号波から、そのトラフィックチャネルの信号波の電力を推定するものであり、
希望信号波電力推定部30は、Tch相関器31と、TPCシンボル取り出し器32と、希望信号波電力演算回路33とから構成され、
Tch相関器31は、与えられたベースバンド信号波にTchの直交符号を乗算し、拡散符号を乗算して逆拡散し、その逆拡散値をNチップ分加算してTch相関値としてTPCシンボル取り出し器32に与えるものであり、
TPCシンボル取り出し器32は、前フレームのTch信号波のTPC制御で得られたTPCシンボルの位置情報を利用して、Tch相関器31からのTch相関値のTPCシンボル部分の値を取り出し、そのTch相関値を希望信号波電力演算回路33に出力するものであり、、
希望信号波電力演算回路33は、TPCシンボル取り出し器32からのTch相関値から、希望信号波電力値を演算し、演算した希望信号波の電力値をSIR演算回路40に与えるものであり、
SIR演算回路40は、干渉信号波電力推定部20からの干渉信号波電力値と希望信号波電力推定部30からの希望信号波電力値とから、SIRを演算するものである、
SIR推定装置。」

(2)引用例2
当審の拒絶の理由に引用された特開2001-177436号公報(平成13年6月29日出願公開。以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

オ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は移動通信システムにおけるAFC制御装置及びその方法並びにそれを使用した移動通信機に関し、特にベースバンド信号を位相変調して拡散処理された信号を受信し、この受信信号とローカル信号とを乗算してベースバンド信号に変換し、このベースバンド信号を逆拡散処理するようにしたCDMA移動通信機におけるAFC制御方式に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、移動通信システムに用いられる通信方式として、干渉や妨害に強いCDMA(Code Division Multiple Access )通信方式が注目されている。このCDMA通信システムとは、送信側では送信したいユーザ信号を拡散符号により拡散して送信し、受信側ではその拡散符号と同一の拡散符号を用いて逆拡散を行うことにより元のユーザ信号を得る通信システムである。
【0003】そのため、CDMA通信システムでは、送信側と受信側の拡散符号系列の位相の同期をとらなければ受信側において逆拡散を行うことができない。このため移動局では、基地局から受信した信号の復調を行う際に用いられる基準周波数信号(ローカル信号)を生成するための基準発振器TCXO(Temperature Controlled Xtal Oscillator )を用いると共に、その基準周波数信号の周波数を送信側である基地局の基準周波数信号の周波数と合わせるためのAFC(Automatic Frequency Control )制御が行われている。このAFC制御は基地局から送信されてくるデータに含まれているパイロットシンボルを基準にして行われている。
【0004】ここで、基地局から移動局に対して送信される回線である下り回線の物理フォーマットを図5を参照して説明する。基地局からの送信データは、10ms間隔の複数の無線フレームによって構成されている。そして、この無線フレームの各々は16のタイムスロットにより夫々構成されており、各タイムスロットは、オーディオチャネルと共通パイロットチャネルとが時間的に同時に送出されており、これ等両チャネルは別の拡散コード(共に既知)により拡散されている。オーディオチャネルでは、オーディオデータがデータシンボルとされて複数のパイロットシンボル(例えば2個のシンボル)と共に送信される。また、パイロットチャネルでは、各種制御情報を含むパイロットシンボルのみが送信されており、例えば、10個のパイロットシンボルが含まれている。
【0005】オーディオチャネルのパイロットシンボルは各タイムスロットによって異なる値となっているが、そのパターンは予め定められたパターンとなっている。そのため、移動局はパイロットシンボルを受信する前に送信されてくるはずのシンボルを知ることができる。また、データシンボルは音声等の情報に用いられる。そして、移動局では、このパイロットシンボルを使用して基地局との周波数誤差を測定することができる。」(段落【0001】?【0005】)

3 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明の「SIR(信号対干渉比)」は、本願補正発明の「信号対干渉電力比」に相当する。
引用発明の「SIR推定装置」は、SIRの測定を行う信号波の受信を無線により行っていることは明らかであるから、本願補正発明の信号対干渉電力比の測定を行う「無線受信機」に相当する。
引用発明において、Tch相関値のTPCシンボル部分の値から、SIRの算出に利用する希望信号波電力値を演算していることから、TPCシンボルは、SIRの測定に利用するものであるといえる。また、引用発明の「TPCシンボル」と本願補正発明の「パイロットシンボル」は、「シンボル」である点で一致する。さらに、引用発明の「トラフィックチャネル」は、本願補正発明の「個別チャネル」に相当する。加えて、引用発明の「希望信号波電力値」は、本願補正発明の「信号電力」に相当する。そして、引用発明において、希望信号波電力推定部30は、TPCシンボルを含むトラフィックチャネルから希望信号波電力値を算出しているといえる。したがって、引用発明の「希望信号波電力推定部30」と本願補正発明の「該信号対干渉電力比の測定に利用するパイロットシンボルの数が1スロット内に1つ又は2つである個別チャネルを用いて信号電力を算出する信号電力算出手段」は、「該信号対干渉電力比の測定に利用するシンボルを含む個別チャネルを用いて信号電力を算出する信号電力算出手段」である点で一致する。
引用例1の摘記である前記「2(1)ア」の段落【0004】を参照すると、引用発明の既知データは、SIRの測定に利用可能なものであることは明らかである。したがって、引用発明の「既知データ」は、本願補正発明の該信号対干渉電力比の測定に利用可能な「パイロットシンボル」に相当する。また、引用発明の「パイロットチャネル」は、本願補正発明の「共通パイロットチャネル」に相当する。さらに、引用発明の「干渉信号波電力値」は、本願補正発明の「干渉電力」に相当する。そして、引用発明において、干渉信号波電力推定部20は、既知データを含むパイロットチャネルから干渉信号波電力値を算出しているといえる。したがって、引用発明の「干渉信号波電力推定部20」は、本願補正発明の該信号対干渉電力比の測定に利用可能なパイロットシンボルを含む共通パイロットチャネルを利用して干渉電力を算出する「干渉電力算出手段」に相当する。
引用発明において、SIR演算回路40は、干渉信号波電力推定部20からの干渉信号波電力値と希望信号波電力推定部30からの希望信号波電力値とから、SIRを演算するものであるから、引用発明の「SIR演算回路40」は、本願補正発明の該信号電力算出手段及び該干渉電力算出手段によって算出された、該信号電力及び該干渉電力を用いて、該信号対干渉電力比を求める「信号対干渉電力比測定手段」に相当する。

すると、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「信号対干渉電力比の測定を行う無線受信機において、
該信号対干渉電力比の測定に利用するシンボルを含む個別チャネルを用いて信号電力を算出する信号電力算出手段と、
該信号対干渉電力比の測定に利用可能なパイロットシンボルを含む共通パイロットチャネルを利用して干渉電力を算出する干渉電力算出手段と、
該信号電力算出手段及び該干渉電力算出手段によって算出された、該信号電力及び該干渉電力を用いて、該信号対干渉電力比を求める信号対干渉電力比測定手段と、
を備えたことを特徴とする無線受信機。」

一方、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
個別チャネルの信号対干渉電力比の測定に利用するシンボルについて、本願補正発明では、シンボルがパイロットシンボルであり、その数が1スロット内に1つ又は2つであるのに対し、引用発明では、シンボルがTPCシンボルであり、その数について明確な記載がない点。
<相違点2>
本願補正発明では、共通パイロットチャネルがパイロットシンボルの数を1スロット内に10個含むであるのに対し、引用発明では、共通パイロットチャネルのパイロットシンボルの数について明確な記載がない点。

4 当審の判断
上記相違点について検討する。
<相違点1及び2についての検討>
データを送信するチャネル(本願補正発明の「個別チャネル」に相当。)に含まれるパイロットシンボルを利用して受信希望信号電力(本願補正発明の「信号電力」に相当。)を算出する技術は、例えば、特開平10-13364号公報(特に、段落【0035】?【0037】参照。)及び特開2001-127702号公報(特に、段落【0039】?【0040】参照。)に記載されているように、本願出願前周知である。よって、引用発明において、当該周知技術を適用し、個別チャネルの信号対干渉電力比の測定に利用するシンボルとして、TPCシンボルに代えて、パイロットシンボルとすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、引用例2には、CDMA通信システムにおいて、オーディオチャネルが1タイムスロット内に2個のパイロットシンボルを含み、共通パイロットチャネルが1タイムスロット内に10個のパイロットシンボルを含む技術が記載されている。ここで、引用例2に記載された技術の「オーディオチャネル」及び「タイムスロット」は、本願補正発明の「個別チャネル」及び「スロット」に相当する。
そして、引用発明及び引用例2に記載された技術の属する技術分野は、パイロットシンボルを含むパイロットチャネルを用いるCDMA通信システムである点で共通する。
したがって、引用発明において、周知技術及び引用例2に記載された技術を適用して、信号対干渉電力比の測定に利用するパイロットシンボルの数が1スロット内に1つ又は2つである個別チャネルとし、また、信号対干渉電力比の測定に利用可能なパイロットシンボルの数を1スロット内に10個含む共通パイロットチャネルとするように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

また、本願補正発明の構成によって生じる効果も、引用発明、周知技術及び引用例2に記載された技術から当業者が予測できる程度のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明、周知技術及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成23年5月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、補正前の請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2 1」に記載したとおりのものである。

1 当審の拒絶の理由
当審において平成23年2月23日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

2 引用例
引用例1及び2並びにそれらの記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 当審の判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から、「パイロット」及び「1スロット内に」との構成を省いたものである。そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 4」に記載したとおり、引用発明、周知技術及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、周知技術及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について論及するまでもなく、本願は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-25 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-14 
出願番号 特願2006-344343(P2006-344343)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04W)
P 1 8・ 575- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 真之  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 近藤 聡
中野 裕二
発明の名称 干渉電力を推定する無線受信機  
代理人 大菅 義之  
代理人 ▲徳▼永 民雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ