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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02M
管理番号 1240952
審判番号 不服2009-14594  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-12 
確定日 2011-07-29 
事件の表示 特願2000-525682「流体作動式電子制御燃料噴射ユニットシステムの電子制御及びその作動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月 1日国際公開、WO99/32786、平成13年12月25日国内公表、特表2001-527185〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯及び本願発明
本願は、1998年12月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年12月19日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成12年6月19日付けで特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出されるとともに同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、図面、及び要約の翻訳文、並びに同法第184条の8第1項に規定する条約第34条に基づく補正の翻訳文が提出され、平成20年6月3日付けで拒絶理由が通知され、平成20年12月9日付けで意見書が提出されたが、平成21年4月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年8月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に同日付けで明細書を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成21年12月14日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成22年3月11日付けで回答書が提出され、平成22年8月30日付けの補正却下の決定により平成21年8月12日付けの手続補正が却下され、平成22年9月15日付けで当審において拒絶理由が通知され、平成23年2月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

そして、本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成23年2月2日付けの手続補正書により補正された明細書並びに特許法第184条の6の規定により願書に添付した図面とみなされる国際出願日における図面(図面の中の説明を除く。)及び図面の中の説明の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 高圧作動流体源に接続され、ユニットに導入される高圧作動流体によって開閉作動させられることにより燃料の噴射及び遮断の制御が行われるように構成されており、開閉作動を行わせる前記高圧作動流体のユニットへの導入が電磁ソレノイドによって制御される流体作動式電子燃料噴射ユニット(114)を備える圧縮点火エンジン(112)に用いられる電子制御システム(110)であって、
前記流体作動式電子制御燃料噴射ユニット(114)に電気的に接続された電子制御装置(111)、及び
前記電子制御装置(111)と電気的に接続され、前記高圧作動流体の圧力に対応する圧力信号を発生する、前記高圧作動流体用の圧力センサ(185)、
を有し、
前記電子制御装置(111)が、前記流体作動式燃料噴射ユニットの作動のために該流体作動式燃料噴射ユニットに送られる前記高圧作動流体を制御する燃料噴射信号を算出し、前記燃料噴射信号を前記流体作動式電子燃料噴射ユニット(114)へ伝達するように構成され、
前記燃料噴射信号は、プルイン電流レベルとホールドイン電流レベルとを含むものであり、
前記電子制御装置(111)が、前記圧力信号に対応して、該圧力信号により表される前記高圧作動流体の圧力の低下に応じて、前記燃料噴射信号の前記プルイン電流レベルを減少させる、
ことを特徴とする電子制御システム(110)。
【請求項2】 高圧作動流動体源に接続され、ユニットに導入される高圧作動流体によって開閉制御されることにより燃料の噴射及び遮断の制御が行なわれ、電磁ソレノイドによって該高圧作動流体が制御されるように構成された流体作動式電子制御燃料噴射ユニット(114)を備える圧縮点火エンジン(112)に用いられる電子制御システム(110)であって、
前記流体作動式電子燃料噴射ユニット(114)に電気的に接続された電子制御装置(111)、及び
前記エンジン(112)の温度に対応するエンジン温度信号を発生するエンジン温度センサ(180)、
を有し、
前記電子制御装置(111)が、前記流体作動式燃料噴射ユニットの作動のために該流体作動式燃料噴射ユニットに送られる前記高圧作動流体を制御する燃料噴射信号を算出し、前記燃料噴射信号を前記流体作動式電子燃料噴射ユニット(114)へ伝達するように構成され、
前記燃料噴射信号は、プルイン電流レベルとホールドイン電流レベルとを含むものであり、
前記電子制御装置(111)が、前記温度信号に対応して、前記エンジン温度信号により表されるエンジン温度の上昇に応じて、前記燃料噴射信号の前記プルイン電流レベルを減少させる、
ことを特徴とする電子制御システム(110)。」


2 引用文献記載の発明
2-1 引用文献1記載の発明
平成22年9月15日付けで当審において通知した拒絶理由で引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許第5687693号明細書(1997年11月18日公開。以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
なお、{ }内は当審による仮訳である。仮訳に際しては、引用文献1に対応する日本での公開公報である特開平10-110658号公報を参照した。

a 「Referring now to FIG. 1, there is shown an embodiment of a hydraulically-actuated electronically-controlled fuel injection system 10 in an example configuration as adapted for a direct-injection diesel-cycle internal combustion engine 12. Fuel system 10 includes one or more hydraulically-actuated electronically-controlled fuel injectors 14, which are adapted to be positioned in a respective cylinder head bore of engine 12. Fuel system 10 includes an apparatus or means 16 for supply actuating fluid to each injector 14, an apparatus or means 18 for supplying fuel to each injector, a computer 20 for electronically controlling the fuel injection system and an apparatus or means 22 for re-circulating actuation fluid and for recovering hydraulic energy from the actuation fluid leaving each of the injectors.
The actuating fluid supply means 16 …(後略)…」(第3欄第19ないし33行)
{図1を参照すると、直接噴射式ディーゼルサイクル内燃エンジン12に用いるようになっている例示的な構造について、油圧作動式電子制御燃料噴射システム10の一実施例が示されている。燃料システム10が、エンジン12の各シリンダヘッドボア内に配置されるようになった1又はそれ以上の油圧作動式電子制御燃料噴射器14を備える。燃料システム10は、作動流体を各噴射器14に供給するための装置又は手段16、各噴射器14に燃料を供給するための装置又は手段18、燃料噴射システムを電子的に制御するためのコンピュータ20、及び作動流体を再循環させ、各噴射器から出る作動流体から油圧エネルギーを回収するための装置又は手段22を備える。
作動流体供給手段16は、…(後略)…}

b 「The computer 20 preferably includes an electronic control module 11 which controls 1) the fuel injection timing; 2) the total fuel injection quantity during an injection cycle; 3) the fuel injection pressure; 4) the number of separate injections or injection segments during each injection cycle; 5) the time intervals between the injection segments; 6) the fuel quantity of each injection segment during an injection cycle; 7) the actuation fluid pressure; and 8) any combination of the above parameters. Computer 20 receives a plurality of sensor input signals S_(1) -S_(8), which correspond to known sensor inputs, such as engine operating condition, load, etc., that are used to determine the precise combination of injection parameters for a subsequent injection cycle. In this example, computer 20 issues control signal S_(9) to control the actuation fluid pressure and a control signal S_(10) to control the fluid control valve(s) within each injector 14. Each of the injection parameters are variably controllable independent of engine speed and load. In the case of injector 14, control signal S_(10) is current to the solenoid commanded by the computer.」(第4欄第1ないし20行)
{コンピュータ20は、1)燃料噴射タイミング、2)噴射サイクル中の全燃料噴射量、3)燃料噴射圧、4)各噴射サイクル中の分離された噴射すなわち噴射セグメントの数、5)噴射セグメント間の時間間隔、6)一噴射サイクル中の各噴射セグメントの燃料量、7)作動流体圧力、及び8)上述のパラメータの組合せを制御する電子制御モジュール11を備えることが好ましい。コンピュータ20は、連続した噴射サイクルにおける噴射パラメータの精密な組合せを求めるのに用いられる、エンジン作動状態、負荷等のような既知のセンサー入力に対応する複数のセンサー入力信号S_(1) -S_(8)を受信する。本例においては、コンピュータ20は作動流体圧を制御するために制御信号S_(9) と、各噴射器14内の流体制御バルブを制御するための制御信号S_(10)を生成する。噴射パラメータのそれぞれは、エンジン速度および負荷とは関係なく可変に制御可能である。噴射器14の場合には、制御信号S_(10)は、コンピュータの命令を受けるソレノイドへの電流である。}

c 「Referring now to FIGS. 5-7, a two-way solenoid fuel injector 14' is presented as an alternative to the three-way solenoid fuel injector 14 just described. Fuel injector 14' utilizes a single two-way solenoid 130 to alternately open actuation fluid cavity 109 to actuation fluid inlet 106 or low pressure actuation fluid drain 104, and uses the same solenoid 130 to control the exposure of a needle control chamber 118 to a low pressure passage or a source of high pressure fluid. Fuel injector 14' could be substituted in for the injectors 14 shown in FIG. 1 since both injectors perform substantially similar while one uses a single three-way solenoid and the other uses a single two-way solenoid to accomplish the same tasks.」(第6欄第36ないし48行)
{図5から図7までを参照すると、デュアル2方向ソレノイド燃料噴射器14’が、上述したばかりの単一の3方向ソレノイド燃料噴射器14の代わりとして用いられている。燃料噴射器14’は、単一の2方向ソレノイド130を用いて、作動流体キャビティ109を作動流体入口106又は低圧作動流体ドレン104に対し交互に開き、同じ2方向ソレノイド130を用いてニードル制御チャンバ118が低圧通路又は高圧流体源に露出されるのを制御する。燃料噴射器14’は、図1の示した噴射器14と置き換えることができる。なぜならば、双方の噴射器とも実質的に同じであり、一方は単一の3方向ソレノイドバルブを用いて、他方は単一の2方向ソレノイドを用いて同様の作用を達成するからである。}

d 「Referring now to the fuel injector 14 illustrated in FIGS. 2-4, each injection sequence is started by applying pull-in current to solenoid 75 in order to move pin spool valve member 76 to the left.
…(中略)…
In order to provide direct control of needle valve member 86, the solenoid pull-in current is reduced to its hold-in current after fuel pressure reaches valve opening pressure.」(第8欄第51行ないし第9欄第8行)
{図2から図4に図示した燃料噴射器14について説明すると、引き入れ電流をソレノイド75に付与して、ピンスプールバルブ部材76を左に動かすことによって各噴射シーケンスが開始される。
…(中略)…
ニードルバルブ部材86を直接制御するために、燃料圧がバルブ開圧力に達した後に、ソレノイド引き入れ電流が保持電流に減少される。}

e 「Referring now to the injector 14' illustrated in FIGS. 5-7 and the graphs of FIGS. 8 and 9, each injection sequence is started by energizing the solenoid 130 in order to move ball 136 to open seat 172 and close seat 173.
…(中略)…
If a "ramp-square" injection profile of the type shown in FIG. 8e is desired, current to solenoid 130 is continued as shown in FIG. 8a throughout the duration of the injection event. After the ball and spool have moved as shown in FIGS. 8b and 8c due to the initial energization of solenoid 130, the solenoid current is dropped to a hold-in current which keeps the solenoid pin in its same position yet saves energy since less energy is required to hold pin 135 in this position.」(第10欄第14ないし55行)
{図5ないし図7に図示した噴射器14’と、図8及び図9を参照すると、各噴射シーケンスが、ソレノイド130を励磁して、ボール136を動かし、シート172を開き、シート173を閉じることによって開始される。
…(中略)…
図8eに示すような「傾斜正方形」噴射プロフィールが望まれる場合には、噴射事象の間中、ソレノイド130への電流を図8aに示すように継続する。ボールとスプールがソレノイド130の初期励磁により図8b及び図8cに示すようにうごかされた後、ソレノイド電流は保持電流に低下させられ、この保持電流がソレノイドピンを同じ位置に保持する。ピン135をこの位置に保持するに要するエネルギは少なくてよいので、保持電流を与えることによりエネルギを節約できる。}

上記aないしe並びに図面から、次のことが分かる。

f 上記cから、図1において、燃料噴射器14を燃料噴射器14’に置き換えた油圧作動式電子制御燃料噴射システム10があることが分かる。

g 上記dから、燃料噴射器14においては、ソレノイドに最初に引き入れ電流を流し、次に保持電流を流すことが分かり、上記cから、燃料噴射器14と燃料噴射器14’とは同様の作用を達成することが分かる。これらのことと上記eとから、燃料噴射器14’において初期励磁の際にソレノイドに流される電流は、引き入れ電流であることが分かる。

h 上記b、e、f、及びgから、コンピュータ20は、燃料噴射器14’に送られる作動流体を制御するために制御信号S_(10)を算出し、該制御信号S_(10)を燃料噴射器14’へ伝達するように構成されており、該制御信号S_(10)には引き入れ電流と保持電流とが含まれることが分かる。また、電子制御モジュール11と燃料噴射器14’とが電気的に接続されていることが分かる。

上記aないしh及び図面から、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。
「油圧作動式流体供給手段16に接続され、燃料噴射器14’に導入される作動流体によって開閉制御されることにより燃料の噴射及び遮断の制御が行なわれ、2方向ソレノイド130によって該作動流体が制御されるように構成された燃料噴射器14’を備えるディーゼルサイクル内燃エンジン12に用いられる油圧作動式電子制御燃料噴射システム10であって、
前記燃料噴射器14’に電気的に接続された電子制御モジュール11
を有し、
前記電子制御モジュール11が、前記燃料噴射器14’の作動のために該燃料噴射器14’に送られる前記作動流体を制御する制御信号S_(10)を算出し、前記制御信号S_(10)を前記燃料噴射器14’へ伝達するように構成され、
前記制御信号S_(10)は、引き入れ電流と保持電流とを含むものである、
油圧作動式電子制御燃料噴射システム10。」 (以下、「引用文献1記載の発明」という。)

2-2 引用文献2記載の発明
平成22年9月15日付けで当審において通知した拒絶理由で引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-103356号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アクチュエータ用ソレノイド駆動装置、特に、内燃機関の燃料噴射弁や油圧バルブ等を操作するソレノイドの駆動装置に関する。」(段落【0001】)

b 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来のアクチュエータ用ソレノイド駆動回路には、例えば油圧バルブ操作用ソレノイドのように、その動作に作動油が用いられている場合、ソレノイドが配置されている温度環境に影響されて作動油の粘性が変化し、ソレノイドの動作速度が大幅に変化してしまうという問題がある。
【0005】また、インジェクタソレノイドの場合、内燃機関の高速回転のため、ソレノイドの動作速度の遅れが例えばクランク角で数度のズレを生じることとなり、ソレノイド自身の動作速度の高速化が重要である。しかし、いたずらに高速化を進めると、低速回転時のエネルギーロスが大きくなるので、最適な動作速度の高速化、すなわち、必要最小限の動作速度の設定を実現しなければならないという問題がある。
【0006】更に、上述した従来のソレノイド駆動回路によりソレノイドの動作速度を向上させるためには、更なる昇圧回路の高圧化および大型のコンデンサを必要とすることとなり、そのためのコストアップや信頼性の低下という問題がある。そこで、本発明は、動作速度を容易に制御することができ、かつ、シンプルな回路構成を持ち、低コストで、温度ドリフトも少ないアクチュエータ用ソレノイド駆動装置を提供することを目的とする。
【0007】また、本発明は、最適な動作速度を有し、かつ、温度による動作速度の変動が少ないアクチュエータ用ソレノイド駆動装置を提供することを目的とする。
…(中略)…
【0009】また、ソレノイドが油圧バルブ操作用ソレノイドである場合、ソレノイドの温度検出手段と、その検出出力により第1のスイッチのオン時間を制御する時間制御手段とが更に設けられる。更に、ソレノイドが内燃機関の燃料噴射弁操作用ソレノイドである場合、内燃機関の回転速度に応じて第1のスイッチのオン時間を制御する時間制御手段が更に設けられる。
【0010】
【作用】上記の構成によれば、アクチュエータ用ソレノイドの通電前に、第1のスイッチのオンによってチョークコイルに電流を流しておくことにより、通電時初期にソレノイドに大電流を供給することができ、高速でソレノイドを駆動することができる。これにより、大型のコンデンサは不要となる。
【0011】また、油圧バルブ操作用ソレノイドの場合、温度に応じて駆動電流を変えて、作動油の粘性変化による動作速度の変化を補償することができる。更に、内燃機関の燃料噴射弁操作用ソレノイドの場合、高回転時のソレノイド駆動の高速化を図ることができ、低回転時のエネルギーロスを低減することができる。」(段落【0004】ないし【0011】)

c 「【0019】図7は、本発明によるアクチュエータ用ソレノイド駆動装置の第2の実施例の構成を示す回路ブロック図である。本第2の実施例は、例えば油圧バルブ操作用ソレノイドの場合、その温度環境により作動油の粘性が変化し、ソレノイドの動作速度が大幅に変動することを補償するためのものであり、そのために、図1に示されているアクチュエータ用ソレノイド駆動装置に、更に、ソレノイド10に取り付けられた温度センサ9と、その検知出力に応じて第1のスイッチ3のオン時間を制御する制御手段20とが設けられている。制御手段20には、例えば、所定の「ソレノイドの温度」対「第1のスイッチのオン時間」関係を設定するマップ、あるいは、所定の関数に基づいて「ソレノイドの温度」に対する「第1のスイッチのオン時間」を演算する演算機能が設けられている。
【0020】本第2の実施例によれば、ソレノイド10の温度が高く、動作速度が速い場合には、第1のスイッチ3のオン時間を短時間として、ソレノイド10の通電初期の電流値を低くして、動作速度を適当な速さに落とし、また、ソレノイド10の温度が低い場合には、第1のスイッチ3のオン時間を長くして、ソレノイド10の通電初期の電流値を上げて動作速度を速くすることにより、ソレノイド10の動作速度を常に一定とすることができる。
…(中略)…
【0022】上記した本発明によるアクチュエータ用ソレノイド駆動装置の第2の実施例によれば、過負荷による過熱を防止でき、しかも、フェールセーフの検出も可能であり、シンプルな回路で、信頼性が高く、低コストのソレノイド駆動装置が得られる。なお、本第2の実施例を内燃機関の燃料噴射弁駆動装置に適用する場合において、燃料噴射制御用のサーミスタの出力、例えば、冷却水温データTHWを温度センサ出力として利用し、その燃料噴射制御装置ECUに制御マップを含ませることができる。」(段落【0019】ないし【0022】)

上記aないしc及び図面から、引用文献2には、次の発明が記載されているといえる。

「作動油によって開閉制御され、操作用ソレノイドによって作動油が制御されるように構成された油圧バルブにおいて、
ソレノイドの温度検出手段を有し、
温度の上昇に応じてソレノイドの通電初期の電流値を減少させる、
油圧バルブ。」(以下、「引用文献2記載の発明」という。)

2-3 引用文献3記載の発明
平成22年9月15日付けで当審において通知した拒絶理由で引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-241137号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a 「【0002】
【従来の技術】従来、吸引初期時には高目標電流で作動コイルの励磁電流を制御して燃料噴射用電磁弁の開弁応答性を高め、開弁後の吸引保持時には低目標電流で前記作動コイルの励磁電流を制御して、作動コイルの発熱を抑えるとともに電力の浪費を回避するようにしたものが、たとえば特公昭49-45248号公報および特公昭50-7211号公報等により知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、燃料噴射量制御を広範囲かつ微妙に行なうこと、ならびにダイナミックレンジを広げる等の目的から、燃料噴射用電磁弁への燃料供給圧を機関の運転状態に応じて可変制御することが検討されている。
【0004】しかるに上記従来のものでは、吸引初期時の高目標電流ならびに吸引保持時の低目標電流はそれぞれ一定に設定されるものであり、燃料供給圧の可変制御を行なう場合には、燃料圧が最も高い状態での弁体の吸引および保持を可能として上記高目標電流および低目標電流を設定する必要があり、そうすると燃料圧が低く変化したときには高い燃料圧に対応した励磁電流が作動コイルに供給されることになる。したがって弁体が必要以上に大きな力で作動することによる衝突により燃料噴射用電磁弁の作動劣化を早めて耐久信頼性の低下を招くだけでなく、必要以上の励磁電流を供給することになって効率が低下する。
【0005】本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、燃料供給圧の変化に応じた励磁電流制御により燃料噴射用電磁弁の耐久信頼性および効率の向上を図った内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。」(段落【0002】ないし【0005】)

b 「【0011】先ず図1において、たとえば4気筒内燃機関の機関本体Eには、各気筒1…に摺動自在に嵌合されているピストン2…の上面を臨ませる燃焼室3…が形成されるとともに、開閉自在の吸気弁4…を介して各燃焼室3…に接続される吸気ポート5…が設けられており、各吸気ポート5…には吸気マニホールド6が連結される。而して吸気マニホールド6の機関本体E寄りの部分には、各吸気ポート5…に向けてガス燃料を噴射するための燃料噴射用電磁弁7…が取付けられる。
【0012】燃料噴射用電磁弁7…には燃料供給圧変更手段としての電磁制御弁8を介して燃料供給源9が接続されており、電磁制御弁8の作動は燃料供給圧制御ユニットU_(P) で制御される。また各燃料噴射用電磁弁7…は駆動ユニットU_(D1)で駆動されるものであり、駆動ユニットU_(D1)からは各燃料噴射用電磁弁7…に対応して#1?#4の駆動信号が出力され、該駆動ユニットU_(D1)には機関作動制御ユニットU_(F) から各燃料噴射用電磁弁7…にそれぞれ対応した4つの指令信号が入力される。
【0013】電磁制御弁8および各燃料噴射用電磁弁7…間の燃料供給系にはチャンバ10が介設されており、該チャンバ10には、燃料温度T_(F) を検出する温度検出器11、燃料供給圧P_(F) を検出する燃料供給圧検出器12、ならびに燃料成分I_(F) を検出する成分検出器13が付設される。また吸気マニホールド6には吸気負圧P_(B) を検出する吸気負圧検出器14が付設される。而して温度検出器11、燃料供給圧検出器12、成分検出器13および吸気負圧検出器14は燃料供給圧制御ユニットU_(P) に接続されており、燃料供給圧制御ユニットU_(P) は、燃料温度T_(F) 、燃料供給圧P_(F) および燃料成分I_(F) で代表される燃料状態情報、ならびに吸気負圧P_(B) および機関回転数等の機関運転状態情報に基づいて、燃料供給圧P_(F) を変更すべく電磁制御弁8の作動を制御する。
【0014】機関作動制御ユニットU_(F) は、吸気負圧P_(B) および機関回転数等の機関運転状態情報に基づいて燃料噴射および点火時期等の制御を行なうものであり、駆動ユニットU_(D1) は、機関作動制御ユニットU_(F) から入力される燃料噴射指令信号と、燃料供給圧検出器12から入力される燃料供給圧P_(F) と、吸気負圧検出器14から入力される吸気負圧P_(B) とに基づいて、各燃料噴射用電磁弁7…を駆動する。」(段落【0011】ないし【0014】)

c 「【0030】次にこの第1実施例の作用について説明すると、燃料噴射用電磁弁7の開弁時においてその弁体25を吸引作動せしめる吸引初期時には高電流制御回路64_(1)により励磁電流が制御されるものであるが、その励磁電流の最大値は、高電流制御回路64_(1) の出力がハイレベルからローレベルに変化する時期、すなわち差動増幅器58の出力に応じた高目標電流I_(H) で制御されることになり、また吸引保持時には低電流制御回路60によるスイッチ回路45のオン・オフ制御により制御されるものであるが、その励磁電流の最大値は、差動増幅器59の出力に応じた低目標電流I_(L) で制御されることになる。しかも差動増幅器58,59の出力は差動増幅器57すなわち燃料供給圧P_(F) および吸気負圧P_(B) 間の差圧(P_(F) -P_(B) )に応じて定まるものであり、高目標電流I_(H) および低目標電流I_(L) は、図5および図6でそれぞれ示すように、燃料供給圧P_(F) および吸気負圧P_(B) 間の差圧(P_(F) -P_(B) )に応じて定まることになる。これにより、燃料供給圧P_(F) および吸気負圧P_(B) 間の差圧(P_(F) -P_(B) )が比較的小さいときに定まる高目標電流I_(H1)および低目標電流I_(L1)に応じて作動コイル23の励磁電流が図4(e)の実線で示すように制御されるのに対し、燃料供給圧P_(F) および吸気負圧P_(B) 間の差圧(P_(F) -P_(B) )が比較的大きいときに定まる高目標電流I_(H2)および低目標電流I_(L2)に応じて作動コイル23の励磁電流が図4(e)の破線で示すように制御されることになる。
【0031】このようにして、燃料噴射量制御を広範囲かつ微妙に行なうため、ならびにダイナミックレンジを広げるために、燃料噴射用電磁弁7への燃料供給圧を機関の運転状態に応じて可変制御した際に、吸引初期時の高目標電流I_(H) ならびに吸引保持時の低目標電流I_(L) が、燃料供給圧P_(F) および吸気負圧P_(B) 間の差圧に応じてそれぞれ設定されることになるので、燃料噴射用電磁弁7の耐久信頼性および効率の向上を図ることが可能となる。
【0032】すなわち燃料噴射用電磁弁7の弁体25が弁座18に着座している状態では、可動コア24および弁体25には、戻しばね30のばね力に加えて燃料供給圧P_(F) および吸気負圧P_(B) 間の差圧に応じた閉弁方向の力が作用しているが、弁体25を開弁方向に作動させる励磁力を発揮させるための励磁電流を、前記差圧に応じて制御することにより、充分な作動応答性を確保しつつ弁体25が必要以上の力で開弁作動することを回避して、ストッパ31の固定コア20への衝突に伴う変形を防止して耐久信頼性の低下を防止することができるとともに、必要充分な励磁電流によって弁体25を作動させることにより効率の向上を図ることが可能となる。」(段落【0030】ないし【0032】)

d 「【0033】なお、燃料供給圧P_(F) に比べて吸気負圧P_(B) は小さいものであるので、吸気負圧P_(B) の変化を無視し、燃料供給圧P_(F) の変化のみに追随して励磁電流を制御するようにしてもよい。」(段落【0033】)

上記aないしd及び図面から、次のことが分かる。

e 上記b及び図1から、燃料噴射用電磁弁7及び燃料供給圧検出器12は、燃料供給圧制御ユニットU_(P) に電気的に接続されていることが分かる。また、燃料供給圧検出器12で検出される燃料供給圧P_(F) が、圧力信号の形で発生することは技術常識である。

f 上記c及びdから、燃料供給圧P_(F) に基づいて、高目標電流I_(H) を定めることが分かる。

g 上記c、e、及びf並びに図4から、燃料供給圧制御ユニットU_(P) が、圧力信号の関数として燃料噴射電磁弁7を制御する励磁電流を算出し、燃料噴射電磁弁7を制御する励磁電流を燃料噴射用電磁弁7へ伝達するように構成されていることが分かる。また、燃料供給圧P_(F) の低下に応じて、高目標電流I_(H) を減少させることが分かる。

上記aないしg及び図面から、引用文献3には、次の発明が記載されているといえる。

「燃料供給源9に接続された燃料噴射用電磁弁7を備える内燃機関に用いられる燃料噴射制御装置であって、
燃料噴射用電磁弁7に電気的に接続された燃料供給圧制御ユニットU_(P) 、及び
燃料供給圧制御ユニットU_(P) と電気的に接続され、燃料供給圧P_(F) に対応する圧力信号を発生する、燃料供給圧P_(F)用の燃料供給圧検出器12、
を有し、
燃料供給圧制御ユニットU_(P) が、圧力信号の関数として燃料噴射電磁弁を制御する励磁電流を算出し、燃料噴射電磁弁を制御する励磁電流を燃料噴射用電磁弁7へ伝達するように構成され、
励磁電流は、吸引初期時の高目標電流I_(H) と吸引保持時の低目標電流I_(L) とを含むものであり、
駆動ユニットU_(D1) が、圧力信号に対応して、該圧力信号により表される燃料供給圧P_(F) の低下に応じて、励磁電流の吸引初期時の高目標電流I_(H) を減少させる、
燃料噴射制御装置。」(以下、「引用文献3記載の発明」という。)


3 本願発明2について
本願発明2において、「流体作動式電子制御燃料噴射ユニット(114)」、「前記流体作動式電子燃料噴射ユニット(114)」、「前記流体作動式燃料噴射ユニット(114)」という記載が存在するが、これらはすべて「流体作動式電子制御燃料噴射ユニット(114)」のことであると認定し、以下判断する。

3-1 対比
本願発明2と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「油圧作動式流体供給手段16」は、その機能からみて、本願発明1における「高圧作動流動体源」に相当し、以下同様に、「作動流体」は「高圧作動流体」に、「燃料噴射器14’」は「ユニット」及び「流体作動式電子制御燃料噴射ユニット(114)」に、「2方向ソレノイド130」は「電磁ソレノイド」に、「ディーゼルサイクル内燃エンジン12」は「圧縮点火エンジン」に、「油圧作動式電子制御燃料噴射システム10」は「電子制御システム(110)」に、「電子制御モジュール11」は「電子制御装置(111)」に、「制御信号S_(10)」は「燃料噴射信号」に、「引き入れ電流」は「プルイン電流レベル」に、「保持電流」は「ホールドイン電流レベル」に、それぞれ相当する。

よって、本願発明2と引用文献1記載の発明とは、
「高圧作動流動体源に接続され、ユニットに導入される高圧作動流体によって開閉制御されることにより燃料の噴射及び遮断の制御が行なわれ、電磁ソレノイドによって該高圧作動流体が制御されるように構成された流体作動式電子制御燃料噴射ユニットを備える圧縮点火エンジンに用いられる電子制御システムであって、
前記流体作動式電子制御燃料噴射ユニットに電気的に接続された電子制御装置を有し、
前記電子制御装置が、前記流体作動式電子制御燃料噴射ユニットの作動のために該流体作動式電子制御燃料噴射ユニットに送られる前記高圧作動流体を制御する燃料噴射信号を算出し、前記燃料噴射信号を前記流体作動式電子制御燃料噴射ユニットへ伝達するように構成され、
前記燃料噴射信号は、プルイン電流レベルとホールドイン電流レベルとを含むものである、
電子制御システム。」
の点で一致し、次の相違点1で相違する。

相違点1
本願発明2においては「前記エンジン(112)の温度に対応するエンジン温度信号を発生するエンジン温度センサ(180)」を有し、電子制御装置(111)が「前記温度信号に対応して、前記エンジン温度信号により表されるエンジン温度の上昇に応じて、前記燃料噴射信号の前記プルイン電流レベルを減少させる」のに対し、引用文献1記載の発明においては、エンジン温度センサを有さず、このような制御を行っていない点(以下、「相違点1」という。)。

3-2 判断
上記相違点1について検討する。
本願発明2と引用文献2記載の発明とを対比すると、引用文献2記載の発明における「作動油」は、その機能からみて、本願発明2における「高圧作動流体」に相当し、以下同様に、「操作用ソレノイド」は「電磁ソレノイド」に、「通電初期の電流値」は「プルイン電流レベル」に、それぞれ相当する。
また、引用文献2記載の発明における「作動油によって開閉制御され、操作用ソレノイドによって作動油が制御されるように構成された油圧バルブ」がどのようなものであるのかについて、引用文献2には明示はされていないものの、操作用ソレノイドが消磁されているときには油圧バルブが開き作動油が通過し、操作用ソレノイドが励磁されているときには油圧バルブが閉じ作動油が止まるような機構であることは、当業者にとって明らかである(必要ならば、実願昭62-116627号(実開昭64-21880号)のマイクロフィルム、特開昭63-26477号公報、特開昭60-175883号公報、特開平2-93180号公報を参照。)。してみれば、引用文献2記載の発明における「作動油によって開閉制御され、操作用ソレノイドによって作動油が制御されるように構成された油圧バルブ」は、本願発明2における「ユニットに導入される高圧作動流体によって開閉制御されることにより燃料の噴射及び遮断の制御が行なわれ、電磁ソレノイドによって該高圧作動流体が制御されるように構成された流体作動式電子制御燃料噴射ユニット(114)」に、「ユニットに導入される高圧作動流体によって開閉制御され、電磁ソレノイドによって該高圧作動流体が制御されるように構成されたユニット」という限りにおいて相当する。
さらに、引用文献2記載の発明における「ソレノイドの温度検出手段」は、作動油の粘性を変化させる温度環境を知るためのものであるから、本願発明2における「エンジン(112)の温度に対応するエンジン温度信号を発生するエンジン温度センサ(180)」に、「高圧作動流体の粘度を推定するための温度を検出する温度センサ」という限りにおいて相当する。

よって、引用文献2記載の発明は、以下のように書き換えることができる。
「ユニットに導入される高圧作動流体によって開閉制御され、電磁ソレノイドによって該高圧作動流体が制御されるように構成されたユニットにおいて、
高圧作動流体の粘度を推定するための温度を検出する温度センサを有し、
温度の上昇に応じて電磁ソレノイドのプルイン電流レベルを減少させる、
ユニット。」

ここで、引用文献2記載の発明の目的は、上記2-2のb及びcに記載されたように、温度環境により作動油の粘性が変化し、ソレノイドの動作速度が大幅に変動する問題や、低速回転時のエネルギーロスの問題を防止することにあるところ、引用文献1記載の発明においても、このような問題がその機構上当然に発生することは、引用文献1及び2に接した当業者にとって明らかな事項である。
また、圧縮点火エンジンにおいて「エンジンの温度に対応するエンジン温度信号を発生するエンジン温度センサ」を設けることは周知の技術であり、流体作動式電子燃料噴射ユニットに用いられる作動油の温度が、該エンジン温度センサによって推定できることは当業者にとって明らかである。
してみれば、引用文献1記載の発明において、上記問題を解決するために、引用文献2記載の発明を適用するとともに、「エンジンの温度に対応するエンジン温度信号を発生するエンジン温度センサ」によって高圧作動流体の温度を推定することによって、相違点1に係る本願発明2の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

そして、本願発明2を全体としてみても、本願発明2の奏する効果は、引用文献1及び2記載の発明から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。


4 本願発明1について
本願発明1において、「流体作動式電子燃料噴射ユニット(114)」、「前記流体作動式電子制御燃料噴射ユニット(114)」、「前記流体作動式燃料噴射ユニット(114)」、「前記流体作動式電子燃料噴射ユニット(114)」という記載が存在するが、これらはすべて「流体作動式電子制御燃料噴射ユニット(114)」のことであると認定し、以下判断する。

4-1 対比
本願発明1と引用文献1記載の発明とを対比すると、両発明は、
「高圧作動流体源に接続され、ユニットに導入される高圧作動流体によって開閉作動させられることにより燃料の噴射及び遮断の制御が行われるように構成されており、開閉作動を行わせる前記高圧作動流体のユニットへの導入が電磁ソレノイドによって制御される流体作動式電子制御燃料噴射ユニットを備える圧縮点火エンジンに用いられる電子制御システムであって、
前記流体作動式電子制御燃料噴射ユニットに電気的に接続された電子制御装置を有し、
前記電子制御装置が、前記流体作動式電子制御燃料噴射ユニットの作動のために該流体作動式電子制御燃料噴射ユニットに送られる前記高圧作動流体を制御する燃料噴射信号を算出し、前記燃料噴射信号を前記流体作動式電子制御燃料噴射ユニットへ伝達するように構成され、
前記燃料噴射信号は、プルイン電流レベルとホールドイン電流レベルとを含むものである、
電子制御システム。」
の点で一致し、次の相違点2で相違する。

相違点2
本願発明1においては、「前記電子制御装置(111)と電気的に接続され、前記高圧作動流体の圧力に対応する圧力信号を発生する、前記高圧作動流体用の圧力センサ(185)」を有し、電子制御装置(111)が「前記圧力信号に対応して、該圧力信号により表される前記高圧作動流体の圧力の低下に応じて、前記燃料噴射信号の前記プルイン電流レベルを減少させる」のに対し、引用文献1記載の発明においては、圧力センサを有するかどうかが明らかではなく、このような制御を行っていない点(以下、「相違点2」という。)。

4-2 判断
上記相違点2について検討する。
本願発明1と引用文献3記載の発明とを対比すると、引用文献3記載の発明における「燃料供給圧制御ユニットU_(P) 」は、その機能からみて、本願発明における「電子制御装置」に相当し、以下同様に、「燃料噴射電磁弁を制御する励磁電流」は「燃料噴射信号」に、「吸引初期時の高目標電流I_(H) 」は「プルイン電流レベル」に、「吸引保持時の低目標電流I_(L) 」は「ホールドイン電流レベル」に、それぞれ相当する。
また、引用文献3記載の発明における「燃料」は、本願発明1における「高圧作動流体」に、「高圧流体」という限りにおいて相当し、以下同様に、「燃料供給源9に接続された燃料噴射用電磁弁7を備える内燃機関に用いられる燃料噴射制御装置」は、「高圧作動流体源に接続された流体作動式電子制御燃料噴射ユニット(114)を備える圧縮点火エンジン(112)に用いられる電子制御システム(110)」に、「高圧流体源に接続された流体作動式電子制御燃料噴射ユニットを備えるエンジンに用いられる電子制御システム」という限りにおいて相当し、「燃料供給圧P_(F)」は、「高圧作動流体の圧力」に、「高圧流体の圧力」という限りにおいて相当し、「燃料供給圧検出器12」は、「高圧作動流体用の圧力センサ(185)」に、「高圧流体用の圧力センサ」という限りにおいて相当する。
よって、引用文献3記載の発明は、以下のように書き換えることができる。
「高圧流体源に接続された流体作動式電子制御燃料噴射ユニットを備えるエンジンに用いられる電子制御システムであって、
流体作動式電子制御燃料噴射ユニットに電気的に接続された電子制御装置、及び
電子制御装置と電気的に接続され、高圧流体の圧力に対応する圧力信号を発生する、高圧流体用の圧力センサ、
を有し、
電子制御装置が、圧力信号の関数として燃料噴射信号を算出し、燃料噴射信号を流体作動式電子制御燃料噴射ユニットへ伝達するように構成され、
燃料噴射信号が、プルイン電流レベルとホールドイン電流レベルとを含むものであり、
電子制御装置が、圧力信号に対応して、該圧力信号により表される高圧流体の圧力の低下に応じて、燃料噴射信号のプルイン電流レベルを減少させる、
燃料噴射制御装置。」

ここで、引用文献1記載の発明と引用文献3記載の発明とは、高圧流体の種類が「高圧作動流体」と「燃料」とで異なるものの、両発明はともに、エンジンの燃料噴射ユニットにおける燃料の噴射及び遮断のための開閉作動を、「高圧流体」の圧力に抗して制御するものである点で共通している。そして、引用文献3記載の発明の目的は、上記2-3のaに記載されたように、「弁体が必要以上に大きな力で作用することによる衝突により燃料噴射用電磁弁の作動劣化を早めて耐久信頼性の低下を招く」ことや、「必要以上の励磁電流を供給することになって効率が低下する」ことを防止することであるところ、このような耐久信頼性の低下、励磁電流の過供給等の問題が、引用文献1記載の発明のような高圧作動流体を用いた燃料噴射ユニットにおいても、その機構上当然に発生する問題であることは、引用文献1及び3に接した当業者にとって明らかな事項である。
してみれば、引用文献1記載の発明において、上記問題を解決するために、引用文献3記載の発明を採用し、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

そして、本願発明1を全体としてみても、本願発明1の奏する効果は、引用文献1及び3記載の発明から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。


5 むすび
したがって、本願発明2は、引用文献1及び2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明1は、引用文献1及び3記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2011-03-02 
結審通知日 2011-03-03 
審決日 2011-03-15 
出願番号 特願2000-525682(P2000-525682)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤間 充  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
西山 真二
発明の名称 流体作動式電子制御燃料噴射ユニットシステムの電子制御及びその作動方法  
代理人 小川 信夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 中村 稔  
代理人 西島 孝喜  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  

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