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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1241187
審判番号 不服2009-23847  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-03 
確定日 2011-08-02 
事件の表示 特願2006-163388「ルシフェラーゼ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月12日出願公開、特開2006-271393〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,1995年(平成7年)3月22日(パリ条約による優先権主張1994年3月23日,英国;1995年1月20日,英国)に国際出願された特願平7-524486号の一部を,平成18年6月13日に新たな特許出願(特願2006-163388号)としたものであって,平成21年7月24日付で拒絶査定がなされたが,平成21年12月3日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付で特許請求の範囲についての手続補正書が提出されたものである。

第2 平成21年12月3日付の手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年12月3日付の手続補正を却下する。

[理由]
1 平成21年12月3日付の手続補正について
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「Photinus pyralis由来の野生型ルシフェラーゼの変異型を含むルシフェラーゼ調製物であって,該調製物は,1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.02%アザイドを添加したpH7.75のHEPES緩衝液の存在中で,室温において10日間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を85%以上保持しているルシフェラーゼ調製物。」から,
「以下の(a)又は(b)で示されるタンパク質を含むルシフェラーゼ調製物。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列において残基354におけるXaaがリシンであるタンパク質。
(b)(a)において規定されるアミノ酸配列において,1若しくは数個のアミノ酸が欠失,置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し,ルシフェラーゼ活性を有するタンパク質からなり,但し,(a)における残基354におけるアミノ酸は,置換又は欠失していないタンパク質。」に補正された。

2 目的要件違反について
本件補正は,補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項である「ルシフェラーゼ調製物」について,「Photinus pyralis由来の野生型ルシフェラーゼの変異型を含む」という特定を,「以下の(a)又は(b)で示されるタンパク質を含む」という特定に変更するとともに,「1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.02%アザイドを添加したpH7.75のHEPES緩衝液の存在中で,室温において10日間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を85%以上保持している」という特定を削除し,前記タンパク質が,「(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列において残基354におけるXaaがリシンであるタンパク質。(b)(a)において規定されるアミノ酸配列において,1若しくは数個のアミノ酸が欠失,置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し,ルシフェラーゼ活性を有するタンパク質からなり,但し,(a)における残基354におけるアミノ酸は,置換又は欠失していないタンパク質。」であるものに特定するものである。
そこで検討すると,本件明細書には,上記「(a)タンパク質」に相当するE354K突然変異ルシフェラーゼが,「1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.02%アザイドを添加したpH7.75のHEPES緩衝液の存在中で,室温において10日間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を85%以上保持している」ことは記載されている(段落【0063】)が,上記「(b)タンパク質」が,このような性質又は特性を保持していることは何ら具体的に記載されていないし,1若しくは数個のアミノ酸を欠失,置換若しくは付加すれば,元のタンパク質と同等の熱安定性を保持していないものも当然に含まれるものである。
そうすると,この補正は,上記のような性質又は特性が保持されていないものを包含するように,特許請求の範囲を実質的に拡張するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
また,「1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.02%アザイドを添加したpH7.75のHEPES緩衝液の存在中で,室温において10日間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を85%以上保持している」という記載の意味自体は明確であるが,明りょうでない記載の釈明とは,それ自体意味の明らかでない記載などについて,それ本来の意味内容を明らかにすることであるから(審判便覧54-10),不明りょうであると指摘された記載の本来の意味内容を明らかにせずに,単にその記載自体を特許請求の範囲から削除する補正が,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに当たらないことは明らかである。
さらに,この補正が,誤記の訂正や請求項の削除を目的とするものでないことも明らかであるから,平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 独立特許要件違反について
仮に,本件補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても,補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,以下に示すように,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(1)特許法第39条第2項について
本件出願と同日に出願された本件の原出願である特願平7-524486号(特許第4490508号)の特許請求の範囲の請求項1には,以下の発明が記載されている。

「以下の(a)又は(b)のタンパク質。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列で示されるタンパク質であって,残基354におけるXaaが,リシン,アルギニン,ロイシン,イソロイシン,アスパラギン,バリン,トリプトファン,アラニン,チロシン,メチオニン,フェニルアラニン,ヒスチジン,トレオニン,グルタミン,システイン及びセリンからなる群から選択されるアミノ酸により置換されているタンパク質,又は
(b)(a)で規定されるアミノ酸配列において,1個又は数個のアミノ酸が置換,欠失又は付加されたアミノ酸配列からなり,ルシフェラーゼ活性を有し,但し,アミノ酸配列(a)における残基354のアミノ酸が,置換又は欠失していないタンパク質。」

ここで,本件補正後の請求項1に係る発明と,本件原出願の請求項1に係る発明とを対比すると,前者の「残基354におけるXaaがリシンである」は,後者の「残基354におけるXaaが,リシン,アルギニン,ロイシン,イソロイシン,アスパラギン,バリン,トリプトファン,アラニン,チロシン,メチオニン,フェニルアラニン,ヒスチジン,トレオニン,グルタミン,システイン及びセリンからなる群から選択される」における事実上の選択肢の1つに当たるものであるから,両者はXaaがリジンである点で一致し,前者が「タンパク質を含むルシフェラーゼ調製物」であるのに対し,後者が「タンパク質」である点で,一応相違している。
しかし,「タンパク質を含む」というだけでは,タンパク質以外の成分については何ら特定していないから,前者は,「タンパク質のみを含むルシフェラーゼ調製物」のことも意味することになるし,「調製物」といっても,タンパク質は,そもそも何らかの方法により調整されたものであるから,「タンパク質を含むルシフェラーゼ調製物」といっても,ルシフェラーゼ活性を持つタンパク質自体と異なることにはならない。また,本願明細書においても,段落0067に「精製したルシフェラーゼ調製物」と,精製されたタンパク質自体のことが,ルシフェラーゼ調製物と記載されている。
また仮に,ルシフェラーゼ調製物がタンパク質以外のものを含んでいなければならないものとしても,通常のタンパク質は何らかの不純物を含んでいるものであり,「タンパク質を含むルシフェラーゼ調製物」と「タンパク質」とが相違することにならないし,タンパク質以外のものが何ら特定されていないのであるから,特許請求の範囲の記載が明確でないことになる。
したがって,前者の「タンパク質を含むルシフェラーゼ調製物」は,後者の「タンパク質」と実質的に同一であると認められるから,本件補正後の請求項1に係る発明は,本件原出願の請求項1に係る発明と実質的に同一である。
なお,本件原出願は既に特許登録されているので,特許法第39条第2項に規定される協議を行うことはできない。

よって,本件補正後の請求項1に係る発明は,特許法第39条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明

平成21年12月3日付の手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1及び2に係る発明(以下,「本願発明1及び2」という。)は,平成20年3月11日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「【請求項1】Photinus pyralis由来の野生型ルシフェラーゼの変異型を含むルシフェラーゼ調製物であって,該調製物は,1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.02%アザイドを添加したpH7.75のHEPES緩衝液の存在中で,室温において10日間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を85%以上保持しているルシフェラーゼ調製物。

【請求項2】Photinus pyralis由来の野生型ルシフェラーゼの変異型を含むルシフェラーゼ調製物であって,該調製物は,1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.02%アザイドを添加したpH7.75のHEPES緩衝液の存在中で,37℃において2時間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を70%以上保持しているルシフェラーゼ調製物。」

第4 原査定の理由

原査定の理由は,本願が特許法第36条第4項の規定を満たさず,特許を受けることはできないというものであって,具体的には,以下のものである。

「請求項1-3,6-11に係る発明について,請求項1-3に記載の「ルシフェラーゼ調製(整)物」として,本件の発明の詳細な説明には,E354K突然変異ルシフェラーゼ(配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質において,354位のアミノ酸残基を,グルタミン酸からリシンに置換したタンパク質)以外のものは具的的に記載されていない。
そして,本件の出願時の技術常識を考慮しても,E354K突然変異ルシフェラーゼ以外の,請求項1-3の「ルシフェラーゼ調製(整)物」を調製することは,当業者に過度の実験を強いるものである。
よって,この出願の明細書の発明の詳細な説明には,当業者が容易にその発明を実施することができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されていない。」

第5 実施可能要件(特許法第36条第4項に規定する要件)の判断

1 本件明細書及び図面の記載
本件明細書及び図面には,本願発明に係る「ルシフェラーゼ調製物」について,以下のような記載がある。

(ア)「実施例4:37℃及び室温でのルシフェラーゼの安定性
pPW601Kリシン突然変異ルシフェラーゼ(86ng/ml),組換え野生型ルシフェラーゼ(550ng/ml)及び天然型ルシフェラーゼ(Sigma)(62.5ng/ml)を,1% BSA,保存剤として0.02%アジドを含むpH7.75HEPES緩衝液中37℃で4時間インキュベートした。残留活性を測定するために,D-ルシフェリン基質に1ngのルシフェラーゼを加え,1分当たりの発光カウント数を記録した。
37℃で2時間,室温で10日間インキュベートした後の残留活性に関する結果を以下に示す。
37℃で2時間後:
E354K突然変異ルシフェラーゼ 残留活性70%
組換え野生型ルシフェラーゼ 残留活性12%
Sigma天然ルシフェラーゼ 残留活性18%
室温で10日後:
E354K突然変異ルシフェラーゼ 残留活性85%
組換え野生型ルシフェラーゼ 残留活性59%
Sigma天然ルシフェラーゼ 残留活性71%」
(段落【0061】?【0063】)

(イ)「実施例3:ルシフェラーゼの熱安定性
E.coliにおいて実施例1に記載のものと類似の方法で作製したベクター中の本発明の他の354位突然変異に対応するSDM改変luc遺伝子により発現された多くのルシフェラーゼの熱安定性を測定し,結果を図10にグラフで示す。
Promega溶解緩衝液中40℃でt1/2の比較を行い,以下のようなt1/2(分)の結果を得た:
【表3】

」(段落【0059】?【0061】)

(ウ)図10



(エ)「実施例9:37℃での突然変異ルシフェラーゼの安定性に対する緩衝液の作用
1% BSA及び0.02% アジドを含むHEPES pH7.75緩衝液中,A215L,E354K,E354K+A215L,組換え野生型及びSigmaルシフェラーゼそれぞれの10ng/ml溶液を調製し,37℃での熱安定性を,2mM EDTA及び2mM DTTを添加した同一組成物と比較した。結果を図14及び図15に示す。該結果は,A215L及びE354Kの37℃での相対安定性が緩衝液によって変化することを示している。」(段落【0070】)

(オ)図14,図15



2 当審における判断
本願発明1又は2は,「室温において10日間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を85%以上保持している」又は「37℃において2時間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を70%以上保持している」という性質又は特性によって特定されているものであり,Photinus pyralis由来の野生型ルシフェラーゼの変異型のアミノ酸配列は任意のものであってよいというものである。
しかし,本件明細書及び図面において,上記性質又は特性を満たすルシフェラーゼ変異型として客観的に開示されているものは,E354K突然変異ルシフェラーゼ(配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質において,354位のアミノ酸残基を,グルタミン酸からリシンに置換したタンパク質)のみであり(上記記載事項(ア)),それ以外のルシフェラーゼ変異型がこのような性質又は特性を満たすか否かは何ら具体的に記載されていない。
確かに実施例3(上記記載事項(イ)及び(ウ))をみると,E354R突然変異ルシフェラーゼ(354位のアミノ酸残基を,グルタミン酸からアルギニンに置換したタンパク質)も,E354K突然変異ルシフェラーゼと同等の熱安定性を有しているようにみえるが,実施例9(上記記載事項(エ))にあるように,ルシフェラーゼの熱安定性は,使用する緩衝液によって変化するものであるから,実施例3のProgema溶解緩衝液とは異なる,本願発明1又は2の「1% BSA及び0.02% アジドを含むHEPES pH7.75緩衝液」中において,どのような熱安定性を奏するかは当業者といえども予測がつかないものである。また,出願時の技術常識を参酌しても,異なるアミノ酸配列からなるE354R突然変異ルシフェラーゼが,E354K突然変異ルシフェラーゼと同様に,「室温において10日間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を85%以上保持している」又は「37℃において2時間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を70%以上保持している」蓋然性が高いとは認められない。
また,実施例9には,E354K+A215L二重突然変異ルシフェラーゼ(354位のアミノ酸残基を,グルタミン酸からリシンに置換するとともに,215位のアミノ酸残基を,アラニンからロイシンに置換したタンパク質)が,E354K突然変異ルシフェラーゼと同等以上の熱安定性を有することが記載されているが,図14及び15(上記記載事項(オ))によれば,このような二重突然変異ルシフェラーゼであっても,37℃で2時間貯蔵した後の初期活性残存率は70%未満になっているものと認められるから,このような二重変異体も「37℃において2時間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を70%以上保持している」ものには該当しない(なお,図14及び15では,E354K突然変異ルシフェラーゼの初期活性残存率も70%を下回っている。)。
してみると,本件明細書及び図面には,354位を変異させたものに限っても,E354K突然変異ルシフェラーゼ以外に,本願発明1又は2の性質又は特性を満たすような,Photinus pyralis由来の野生型ルシフェラーゼの変異型は具体的に記載されていないし,354位は変異させないでおいて,他の位置を変異させることによって,本願発明1又は2のルシフェラーゼが得られるかどうかさえ明らかにされていないのであり,このような本件明細書及び図面の開示に基づいて,当業者がE354K突然変異ルシフェラーゼ以外の変異型を得るためには,配列番号2のアミノ酸配列に基づいて種々の変異型を作製し,その1つ1つについて,1% BSA及び0.02% アジドを含むHEPES pH7.75緩衝液中に存在させ,「室温において10日間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を85%以上保持している」か否か,又は「37℃において2時間貯蔵後に,そのルシフェラーゼ活性を70%以上保持している」か否かを個別的に確認しなければならないから,当業者に過度の試行錯誤や実験を強いるものである。
したがって,本願の発明の詳細な説明は,本願発明1又は2について,当業者がその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているとは認められない。

第6 むすび

以上まとめると,本願は,請求項1及び2に係る発明について,特許法第36条4項に規定する要件を満たしていないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-02 
結審通知日 2011-03-07 
審決日 2011-03-18 
出願番号 特願2006-163388(P2006-163388)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 巌  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 引地 進
鵜飼 健
発明の名称 ルシフェラーゼ  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 浅井 賢治  
代理人 小川 信夫  

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