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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1242300
審判番号 不服2011-5167  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-07 
確定日 2011-08-25 
事件の表示 特願2007-323481「有機光電変換素子」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 2日出願公開、特開2009-147147〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成19年12月14日の出願であって、平成22年7月26日及び同年10月22日に手続補正がなされたが拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年3月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審において同年4月15日付けで拒絶理由が通知され、同年6月9日に手続補正がなされたものである。(以下、この平成23年6月9日にされた手続補正を「本件補正」という。)

II.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、特許法第17条の2第1項第3号に掲げる場合においてする補正であって、本願特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前の
「入射光を光電変換し、信号電荷を生成する単一の有機光電変換膜を備えた有機光電変換素子であって、
同一の平面に形成された複数の画素電極と、前記複数の画素電極上に設けられた前記有機光電変換膜と、前記有機光電変換膜上に形成された単一の対向電極とを備え、
前記複数の画素電極がそれぞれ、前記信号電荷を読み出して出力部へ転送する読み出し回路に接続され、隣り合う前記画素電極同士の間の隙間が3μm以下であること特徴とする有機光電変換素子。」

「入射光を光電変換し、信号電荷を生成する単一の有機光電変換膜を備えた有機光電変換素子であって、
同一の平面に形成された複数の画素電極と、前記複数の画素電極上に設けられた前記有機光電変換膜と、前記有機光電変換膜上であって前記入射光の入射側に形成された単一の対向電極とを備え、
前記複数の画素電極がそれぞれ、前記信号電荷を読み出して出力部へ転送する読み出し回路に接続され、隣り合う前記画素電極同士の間の隙間が3μm以下であること特徴とする有機光電変換素子。」
と補正することを含むものである。
本件補正は、「対向電極」について「入射光の入射側に形成された」と限定するものであり、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められるので、以下に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、独立特許要件の検討、すなわち、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するかの検討を行う。

2.引用例
本願出願前の平成19年8月30日に頒布され、当審における拒絶理由に引用された特開2007-220941号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の記載がある。

「【0001】
本発明は、有機光電変換素子により物体のイメージを電気信号に変換して画像データを得る光電変換装置に関するものである。」

「【0035】
(実施の形態1)
図1は、本発明の光電変換装置の一例を概略的に示す断面図である。図1において、1は入射光、2は透明基板、12は光電変換素子領域、15は読み出し配線、16は電気絶縁膜、18は信号読み出し部、20は光電変換装置である。
【0036】
図2は、図1に示した光電変換装置における光電変換素子領域の拡大図であり、5Rは赤色のカラーフィルタ層、5Gは緑色のカラーフィルタ層、5Bは青色のカラーフィルタ層、5はカラーフィルタ部、6は保護層、7は透明電極、8は有機光電変換層、9は電極膜である。
【0037】
入射光1は、例えば、400nm程度から700nm程度の波長域の可視光、200nm程度から400nm程度の波長域の紫外光、700nm程度から2500nm程度の波長域の赤外光を含む。可視光は、580nm程度から700nm程度の波長域の赤色光、480nm程度から600nm程度の波長域の緑色光、および400nm程度から550nm程度の波長域の青色光に分けて考えられる。
【0038】
透明基板2は光透過性を有する基板であり、この透明基板2上に、赤色のカラーフィルタ層5Rと緑色のカラーフィルタ層5Gと青色のカラーフィルタ層5Bとによって構成されたカラーフィルタ部5が配置されている。個々のカラーフィルタ層5R,5G,5Bは、例えば染料または顔料を含有させた樹脂からなる。
【0039】
保護層6は、カラーフィルタ部5を覆うようにして形成されて、透明電極7を形成する際の熱や有機光電変換層8を形成する際の溶剤などからカラーフィルタ部5を保護する。この保護層6は光電変換素子領域12内に形成すれば足りるが、光電変換素子領域12内からその外側の領域に亘って形成することも可能である。
【0040】
個々の透明電極7は、カラーフィルタ層5R,5G,5Bのいずれかと平面視上重なるようにして保護層6上に形成されて、有機光電変換層8中の一領域および電極膜9中の一領域と共に有機光電変換素子を構成している。
【0041】
有機光電変換層8は、受光により起電力を生じる有機材料、例えば電子供与性有機材料と電子受容性有機材料とを含んでおり、各透明電極7を覆うようにして形成されている。有機光電変換層8の一領域は、有機光電変換素子の有機光電変化部として機能する。この有機光電変換層8は光電変換素子領域12内に形成すれば足り、光電変換素子領域12の外側にまで有機光電変換層8を設けなくても所望の光電変換装置を得ることができる。
【0042】
電極膜9は有機光電変換層8上に形成され、その一領域は有機光電変換素子の背面電極として機能する。この電極膜9は例えば接地されて、固定電位に保たれる。
【0043】
読み出し配線15は、1つの透明電極7に1つずつ接続されて、該透明電極7と信号読み出し部18とを電気的に接続する。これらの読み出し配線15は、例えば透明電極7または電極膜9と同じ材料によって形成される。透明電極7と同じ材料によって各読み出し配線15を形成する場合、該読み出し配線15の膜厚は透明電極7の膜厚よりも厚くすることが好ましい。電極膜9と同じ材料によって各読み出し配線15を形成する場合についても同様である。
【0044】
個々の読み出し配線15の膜厚は、例えば1nm以上1mm以下の範囲内で適宜選定可能である。また、個々の読み出し配線15の線幅は、例えば0.01μm以上100μm以下の範囲内で適宜選定可能である。そして、個々の読み出し配線15の平面視上の長さは、例えば1μm以上10mm以下の範囲内で適宜選定可能である。
【0045】
電気絶縁膜16は、有機または無機の電気絶縁材料によって形成されて読み出し配線15を覆い、電極膜9と読み出し配線15とを電気的に分離している。
【0046】
信号読み出し部18は、コンデンサ機能、スイッチング機能、リセット機能などの機能を有する集積回路を備え、透明基板2上に実装されている。この信号読み出し部18は、読み出し配線15を介して各有機光電変換素子から供給される電気信号を所定の期間蓄積することで、または所定の期間積分することで、画像データを作成する。
【0047】
図3は、光電変換装置20における各構成要素(透明電極7、有機光電変換層8、電極膜9、各読み出し配線15,および信号読み出し部18)の配置を概略的に示す平面図である。図3に示すように、光電変換装置20では各透明電極7が1つの有機光電変換層8により覆われており、その上に1つの電極膜9が設けられている。この光電変換装置20では、個々の透明電極7の平面視上の形状および大きさによって有機光電変換素子の平面視上の形状および大きさが画定される。以下、有機光電変換素子について具体的に説明する。
【0048】
図4および図5は、それぞれ、図2に示した透明電極7の1つによって画定される有機光電変換素子の一例を概略的に示す断面図である。これらの図に示す有機光電変換素子10は、図2に示した透明電極7と、図2に示した有機光電変換層8のうちで透明電極7と平面視上重なる一領域からなる有機光電変換部8Aと、図2に示した電極膜9のうちで透明電極7と平面視上重なる一領域からなる背面電極9Aとを備えている。
【0049】
有機光電変換部8Aは、電子供与性有機材料8aと電子受容性有機材料8bとを含んでおり、これら電子供与性有機材料8aおよび電子受容性有機材料8bは、図4に示す有機光電変換部8Aにおけるように互いに混合物を形成していてもよいし、図5に示す有機光電変換部8Aにおけるように互いに分離していてもよい。
【0050】
ここで、「混合物」とは、液相または固相の材料を容器に入れ、必要に応じて溶剤を添加したうえで攪拌などにより混ざり合わせた状態のものをいい、これをスピンコート法やインクジェット法などで成膜したものを含む。また、電子供与性有機材料8aと電子受容性有機材料8bとの混合状態は均一である必要はなく、不均一に混ざっていてもよいし、
一部のみが混合物を形成していてもよい。
【0051】
一方、電子供与性有機材料8aと電子受容性有機材料8bとが互いに分離している場合、各層は互いに完全に分離していなくてもよく、電子供与性有機材料8aを含む層と電子受容性有機材料8bを含む層との界面においてこれらの層が混合状態を形成してもよい。各層が完全に分離した有機光電変換部8Aを得るにあたっては、電子供与性有機材料8aを含む層と電子受容性有機材料8bを含む層とをそれぞれ別の方法で成膜することができる。
【0052】
このような構成を有する有機光電変換素子10に光を照射すると、有機光電変換部8Aで光吸収が起こり、励起子が形成される。続いてキャリアが分離され、電子は電子受容性有機材料8bを通じて背面電極9Aへと移動し、正孔は電子供与性有機材料8aを通じて透明電極7へと移動する。これにより両電極7,9A間に起電力が生じ、読み出し配線15を通じて信号読み出し部18(図1?図3参照)に電気信号が供給される。」

「【0055】
図6は、上述した光電変換装置20での有機光電変換素子10の配置を概略的に示す平面図である。図6に示すように、光電変換装置20においては多数の有機光電変換素子10が3行n列(nは2以上の整数)に亘ってマトリックス状に配置されており、読み出し配線15の各々は列方向Dcに延びている。1つの行を構成する各有機光電変換素子10の平面視上の面積は実質的に同じであるが、信号読み出し部18からみて最も遠い行を構成する各有機光電変換素子10の平面視上の面積が最も広く、信号読み出し部18からみて最も近い行を構成する各有機光電変換素子10の平面視上の面積が最も狭い。
【0056】
個々の有機光電変換素子10の大きさは、光電変換装置20の用途や性能等に応じて、平面視上の面積が例えば0.01μm2程度以上100mm2程度以下となる範囲で適宜選定される。図示のように有機光電変換素子10の平面視上の形状が四角形である場合には、行方向Drに延びている辺10bと列方向Dcに延びている辺10aとの積が有機光電変換素子10の平面視上の面積となる。なお、既に説明したように、有機光電変換素子10の平面視上の形状および大きさは透明電極7の平面視上の形状および大きさによって画定される。透明電極7の平面視上の面積がほぼそのまま、有機光電変換素子10の平面視上の面積となる。個々の有機光電変換素子10の平面視上の形状は四角形に限定されるものではなく、円形や六角形など四角形以外の形状とすることもできる。
【0057】
例えば光電変換装置20によってフルカラーの画像データを得る場合には、赤、青、および緑それぞれの色信号と、輝度信号とを生成することが必要であるので、光電変換装置20では、各透明電極7がそれぞれ赤色、緑色、または青色のカラーフィルタ層の上方に配置されている。各色のカラーフィルタ層は、1つのカラーフィルタ層が1つの有機光電変換素子10に対応するようにして透明基板2(図1または図2参照)に形成することもできるし、1つのカラーフィルタ層が複数の有機光電変換素子10に対応するようにして形成することもできる。光電変換装置20におけるカラーフィルタ部5では、カラーフィルタ層5R,5G,5Bがストライプ状に配置されており、個々のカラーフィルタ層5R,5G,5Bは所定の行を構成する複数の有機光電変換素子10に対応している。
【0058】
図7は、カラーフィルタ部5での各カラーフィルタ層5R,5G,5Bの配置を概略的に示す平面図である。図7に示すように、カラーフィルタ部5ではカラーフィルタ層5R,5G,5Bがそれぞれストライプ状に配置されており、各カラーフィルタ層5R,5G,5Bは図6に示した行方向Drに延びている。信号読み出し部18からみて最も遠い位置に赤色のカラーフィルタ層5Rが配置されており、信号読み出し部18からみて最も近い位置に青色のカラーフィルタ層5Bが配置されている。緑色のカラーフィルタ層5Gは、赤色のカラーフィルタ層5Rと青色のカラーフィルタ層5Bとの間に配置されている。
【0059】
図8は、各カラーフィルタ層5R,5G,5Bと有機光電変換素子10との配置を概略的に示す平面図である。図8に示すように、個々のカラーフィルタ層5R,5G,5Bは、互いに別個に、1つの行を構成する各有機光電変換素子10に対応しており、各有機光電変換素子10(透明電極7)は、対応するカラーフィルタ層5R,5G,または5Bに平面視上含まれている。
【0060】
各カラーフィルタ層5R,5G,5Bおよび各有機光電変換素子10を上述のように配置することにより、信号読み出し部18からみて最も遠い行を構成する各有機光電変換素子10からは赤の色信号を得、信号読み出し部18からみて最も近い行を構成する各有機光電変換素子10からは青の色信号を得、真中の行を構成する各有機光電変換素子10からは緑の色信号を得ることが可能になる。また、これらの色信号に基づいて輝度信号を得ることができる。そして、これらの結果として、光電変換装置20によりフルカラーの画像データを得ることができる。
【0061】
光電変換装置20によりフルカラーの画像データを得ようとする場合、各有機光電変換素子10は、行方向に隣り合う有機光電変換素子10同士のピッチP1および列方向に隣り合う有機光電変換素子10同士のピッチP2(図9参照)がそれぞれ0.11μm程度以上20mm程度以下の範囲内となるように配置することが好ましい。また、行方向に隣り合う有機光電変換素子10同士の距離D1および列方向に隣り合う有機光電変換素子10同士の距離D2(図10参照)がそれぞれ0.0005μm程度以上20mm程度以下の範囲内となるように配置することが好ましい。そして、1つの行を構成する有機光電変換素子10それぞれに対応する読み出し配線15のピッチP5(図11参照)は、0.01μm程度以上100μm程度以下の範囲内とすることが好ましい。」

上記記載によれば、引用例には、
「透明基板2は光透過性を有する基板であり、この透明基板2上に、赤色のカラーフィルタ層5Rと緑色のカラーフィルタ層5Gと青色のカラーフィルタ層5Bとによって構成されたカラーフィルタ部5が配置され、保護層6は、カラーフィルタ部5を覆うようにして形成され、個々の透明電極7は、カラーフィルタ層5R,5G,5Bのいずれかと平面視上重なるようにして保護層6上に形成されて、有機光電変換層8中の一領域および電極膜9中の一領域と共に有機光電変換素子を構成しており、有機光電変換層8は、受光により起電力を生じる有機材料、例えば電子供与性有機材料と電子受容性有機材料とを含んでおり、各透明電極7を覆うようにして形成され、有機光電変換層8の一領域は、有機光電変換素子の有機光電変化部として機能し、電極膜9は有機光電変換層8上に形成され、その一領域は有機光電変換素子の背面電極として機能し、読み出し配線15は、1つの透明電極7に1つずつ接続されて、該透明電極7と信号読み出し部18とを電気的に接続しており、電気絶縁膜16は、有機または無機の電気絶縁材料によって形成されて読み出し配線15を覆い、電極膜9と読み出し配線15とを電気的に分離しており、信号読み出し部18は、コンデンサ機能、スイッチング機能、リセット機能などの機能を有する集積回路を備え、透明基板2上に実装されており、読み出し配線15を介して各有機光電変換素子から供給される電気信号を所定の期間蓄積することで、または所定の期間積分することで、画像データを作成する、
物体のイメージを電気信号に変換して画像データを得る光電変換装置20であって、
各透明電極7が1つの有機光電変換層8により覆われており、その上に1つの電極膜9が設けられ、個々の透明電極7の平面視上の形状および大きさによって有機光電変換素子の平面視上の形状および大きさが画定されており、個々の有機光電変換素子10の大きさは、光電変換装置20の用途や性能等に応じて、平面視上の面積が例えば0.01μm2程度以上100mm2程度以下となる範囲で適宜選定されるものであり、また、各有機光電変換素子10は、行方向に隣り合う有機光電変換素子10同士のピッチP1および列方向に隣り合う有機光電変換素子10同士のピッチP2がそれぞれ0.11μm程度以上20mm程度以下の範囲内となるように配置することが好ましく、また、行方向に隣り合う有機光電変換素子10同士の距離D1および列方向に隣り合う有機光電変換素子10同士の距離D2がそれぞれ0.0005μm程度以上20mm程度以下の範囲内となるように配置することが好ましく、1つの行を構成する有機光電変換素子10それぞれに対応する読み出し配線15のピッチP5は、0.01μm程度以上100μm程度以下の範囲内とすることが好ましい光電変換装置20。」(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「光電変換装置20」は、「物体のイメージを電気信号に変換して画像データを得る」ものであって、「有機光電変換層8は、受光により起電力を生じる有機材料、例えば電子供与性有機材料と電子受容性有機材料とを含んでおり」、また、「各透明電極7が1つの有機光電変換層8により覆われて」いるから、引用発明の「光電変換装置20」は、本願補正発明と同様の「入射光を光電変換し、信号電荷を生成する単一の有機光電変換膜を備えた有機光電変換素子」であるといえる。
(2)引用発明の「透明電極7」は、本願補正発明の「複数の画素電極」に相当するところであり、「個々の透明電極7は、…保護層6上に形成されて」いるから、「同一の平面に形成された」ものといえる。
また、引用発明の「有機光電変換層8」及び「電極膜9」が本願補正発明の「有機光電変換膜」及び「対向電極」にそれぞれ相当するところであり、「各透明電極7が1つの有機光電変換層8により覆われており、その上に1つの電極膜9が設けられ」ているから、引用発明は、「同一の平面に形成された複数の画素電極と、前記複数の画素電極上に設けられた前記有機光電変換膜と、前記有機光電変換膜上に形成された単一の対向電極とを備え」る点で本願発明と一致する。
(3)引用発明において、「読み出し配線15は、1つの透明電極7に1つずつ接続されて、該透明電極7と信号読み出し部18とを電気的に接続しており」、「信号読み出し部18は、コンデンサ機能、スイッチング機能、リセット機能などの機能を有する集積回路を備え、透明基板2上に実装されており、読み出し配線15を介して各有機光電変換素子から供給される電気信号を所定の期間蓄積することで、または所定の期間積分することで、画像データを作成する」から、引用発明は、本願補正発明の「前記複数の画素電極がそれぞれ、前記信号電荷を読み出して出力部へ転送する読み出し回路に接続され」との事項を備える。
(4)引用発明において、「行方向に隣り合う有機光電変換素子10同士の距離D1および列方向に隣り合う有機光電変換素子10同士の距離D2がそれぞれ0.0005μm程度以上20mm程度以下の範囲内となるように配置することが好ましく」とされている。
ここで、引用発明は、「個々の透明電極7の平面視上の形状および大きさによって有機光電変換素子の平面視上の形状および大きさが画定され」るものであるから、引用発明における「有機光電変換素子10同士の距離」とは、「透明電極7同士の距離」のことに外ならない。
そして、引用発明においては、この距離が「0.0005μm程度以上20mm程度以下」とされているのであるから、引用例に透明電極7同士の距離が「0.0005μm以上3μm以下」のものが記載されていることは明らかであり、引用発明と本願補正発明は、「隣り合う前記画素電極同士の間の隙間が3μm以下である」点で一致する。

(5)以上のことから、本願補正発明と引用発明は、
「入射光を光電変換し、信号電荷を生成する単一の有機光電変換膜を備えた有機光電変換素子であって、
同一の平面に形成された複数の画素電極と、前記複数の画素電極上に設けられた前記有機光電変換膜と、前記有機光電変換膜上に形成された単一の対向電極とを備え、
前記複数の画素電極がそれぞれ、前記信号電荷を読み出して出力部へ転送する読み出し回路に接続され、隣り合う前記画素電極同士の間の隙間が3μm以下である有機光電変換素子。」の点で一致し、次の点で相違する。

本願補正発明は、「対向電極」が「入射光の入射側に形成され」ているのに対し、引用発明は、「対向電極(電極膜9)」が「入射光の入射側に形成され」ておらず、「画素電極(透明電極7)」が「入射光の入射側に形成され」ている点。

4.相違点についての検討
上記相違点について検討する。
例えば、本願明細書の【0004】において引用されている本願出願前に頒布された刊行物である特表2002-502120号公報の図5A、B及び図6には、複数の画素電極と単一の有機光電変換膜と単一の対向電極を備える有機半導体画像センサが示されているところ(【0068】、【0074】の記載参照。)、その図5A、Bには、入射光の入射側に画素電極53が形成される構造が示される一方、その図6には、入射光の入射側に対向電極61が形成される構造が示されているところであり、複数の画素電極と単一の有機光電変換膜と単一の対向電極を備える有機光電変換素子において、入射光の入射側に形成される電極を画素電極とするか対向電極とするかは、単なる設計事項にすぎないものと認められる。
してみれば、引用発明において、対向電極である電極膜9の側から入射光を入射させる構造を採用して上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることに困難性は認められず、また、対向電極側から入射光を入射させる構造としたことによる格別の効果も認められない。

5.むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成22年10月22日に補正された本願特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記II.[理由]1.において本件補正前の特許請求の範囲の請求項1として摘記したとおりのものである。

2.判断
上記II.[理由]3.において、本願補正発明と引用発明を対比し、その一致点について検討したところであるが、本願発明は、上記一致点として摘記したものに外ならない。

3.むすび
したがって、本願発明は、上記引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-23 
結審通知日 2011-06-28 
審決日 2011-07-13 
出願番号 特願2007-323481(P2007-323481)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 575- WZ (H01L)
P 1 8・ 113- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬川 勝久  
特許庁審判長 稲積 義登
特許庁審判官 杉山 輝和
服部 秀男
発明の名称 有機光電変換素子  
代理人 木村 伸也  
代理人 高松 猛  
代理人 尾澤 俊之  
代理人 矢澤 清純  

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