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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1242352
審判番号 不服2009-25385  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-22 
確定日 2011-08-25 
事件の表示 特願2006- 43412「ヘッド・サスペンション、ロード・ビーム、及びロード・ビームの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月 6日出願公開、特開2007-226851〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年2月21日に出願したものであって、平成21年7月8日付けの拒絶理由通知に対する応答期間内の同年8月31日付けで手続補正がなされたが、同年9月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月22日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされた。
その後、平成23年2月15日付けで前置報告の内容に基づき審尋がなされ、同年4月14日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成21年12月22日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年12月22日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成21年12月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という)は、特許請求の範囲については本件補正前に
(a)「【請求項1】
ロード・ビーム本体の先端部分に曲げ部を介して反ディスク側へ傾斜形成された傾斜部と、該傾斜部から突設されて記録再生装置のガイド部に摺動ガイドされる被ガイド部と、前記ロード・ビーム本体の側縁部から前記曲げ部の側縁部を渡って前記傾斜部の側縁部側に至る箱曲げ部と、前記ロード・ビーム本体に設けられたディンプルとを備え、前記曲げ部を、前記ディンプルと前記被ガイド部との間に設けたロード・ビームを製造するために、
前記ロード・ビーム本体と傾斜部と被ガイド部と箱曲げ部となる部分を平板状態のロード・ビーム半製品として形状成形する前工程と、
前記ロード・ビーム本体に、前記傾斜部と被ガイド部と箱曲げ部とを形成してロード・ビームとする後工程とを備えたロード・ビームの製造方法において、
前記前工程で前記曲げ部となる部分に対応して、前記後工程での箱曲げ部の膨出変形を規制する変形規制部並びに前記ディンプル及び前記被ガイド部間の前記曲げ部での荷重伝達を補う荷重伝達部となる部分を設けた
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のロード・ビームの製造方法であって、
前記変形規制部は、前記箱曲げ部となる部分の縁部に形成されたくぼみ又は前記箱曲げ部に対応した部分の縁部に形成された薄肉部である
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のロード・ビームの製造方法であって、
前記変形規制部は、前記箱曲げ部となる部分の縁部側が底辺となる三角形状に形成された
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項4】
請求項1?3の何れかに記載のロード・ビームの製造方法であって、
前記変形規制部は、前記曲げ部となる部分を跨ぐ位置を含めて前記傾斜部となる部分寄りの範囲の何れかに形成された
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項5】
請求項1?4の何れかに記載のロード・ビームの製造方法であって、
前記変形規制部の範囲は、前記後工程での成形後に前記箱曲げ部の高さ寸法に対する成形後の成形変形規制部の寸法を除いた残余の寸法が30%以上となるように形成された
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項6】
請求項1?5の何れかに記載のロード・ビームの製造方法であって、
前記傾斜部の前記ロード・ビーム本体に対する傾斜角度は、26°以下である
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項7】
ロード・ビーム本体の先端部分に曲げ部を介して反ディスク側へ傾斜形成された傾斜部と、該傾斜部から突設されて記録再生装置のガイド部に摺動ガイドされる被ガイド部と、前記ロード・ビーム本体の側縁部から前記曲げ部の側縁部を渡って前記傾斜部の側縁部側に至る箱曲げ部と、前記ロード・ビーム本体に設けられたディンプルと、を備え、前記曲げ部を、前記ディンプルと前記被ガイド部との間に設けたロード・ビームにおいて、
前記曲げ部に対応して前記箱曲げ部の膨出変形を規制した変形規制部並びに前記ディンプル及び前記被ガイド部間の前記曲げ部での荷重伝達を補う荷重伝達部を有する
ことを特徴とするロード・ビーム。
【請求項8】
請求項7記載のロード・ビームを備えたヘッド・サスペンション。」
とあったところを、
本件補正後、
(b)「【請求項1】
ロード・ビーム本体の先端部分に曲げ部を介して反ディスク側へ傾斜形成された傾斜部と、
該傾斜部の傾斜途中から端部が突設されて記録再生装置のガイド部に摺動ガイドされる被ガイド部と、
前記ロード・ビーム本体の側縁部から前記曲げ部の側縁部を渡って前記傾斜部の側縁部側に至る箱曲げ部と、
前記ロード・ビーム本体に設けられたディンプルとを備え、
前記曲げ部を、前記ディンプルと前記被ガイド部との間に設け、
前記曲げ部に対応して前記箱曲げ部の膨出変形を規制した変形規制部並びに前記ディンプル及び前記被ガイド部間の前記曲げ部での荷重伝達を補う荷重伝達部を有し、
この荷重伝達部は、前記被ガイド部の端部両側と前記傾斜部と該傾斜部の側縁部側の箱曲げ部と前記曲げ部からディンプル側に至る箱曲げ部とに連続しているロード・ビームを製造するために、前記ロード・ビーム本体と傾斜部と被ガイド部と箱曲げ部となる部分を平板状態のロード・ビーム半製品として形状成形する前工程と、
前記ロード・ビーム本体に、前記傾斜部と被ガイド部と箱曲げ部とを形成してロード・ビームとする後工程とを備えたロード・ビームの製造方法であって、
前記曲げ部となる部分に対応して前記後工程での箱曲げ部の膨出変形を規制する変形規制部と前記ディンプル及び前記被ガイド部間の前記曲げ部での荷重伝達を補う荷重伝達部となる部分とを前記前工程で設け、
前記後工程で前記被ガイド部を前記傾斜部の傾斜途中から突設し該被ガイド部の端部両側と前記傾斜部と該傾斜部の側縁部側の箱曲げ部と前記曲げ部からディンプル側に至る箱曲げ部とに前記膨出変形を規制して連続する荷重伝達部を形成する、
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のロード・ビームの製造方法であって、
前記変形規制部は、前記箱曲げ部となる部分の縁部に形成されたくぼみ又は前記箱曲げ部に対応した部分の縁部に形成された薄肉部である
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のロード・ビームの製造方法であって、
前記変形規制部は、前記箱曲げ部となる部分の縁部側が底辺となる三角形状に形成された
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項4】
請求項1?3の何れかに記載のロード・ビームの製造方法であって、
前記変形規制部は、前記曲げ部となる部分を跨ぐ位置を含めて前記傾斜部となる部分寄りの範囲の何れかに形成された
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項5】
請求項1?4の何れかに記載のロード・ビームの製造方法であって、
前記変形規制部の範囲は、前記後工程での成形後に前記箱曲げ部の高さ寸法に対する成形後の成形変形規制部の寸法を除いた残余の寸法が30%以上となるように形成された
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項6】
請求項1?5の何れかに記載のロード・ビームの製造方法であって、
前記傾斜部の前記ロード・ビーム本体に対する傾斜角度は、26°以下である
ことを特徴とするロード・ビームの製造方法。
【請求項7】
ロード・ビーム本体の先端部分に曲げ部を介して反ディスク側へ傾斜形成された傾斜部と、
該傾斜部の傾斜途中から端部が突設されて記録再生装置のガイド部に摺動ガイドされる被ガイド部と、
前記ロード・ビーム本体の側縁部から前記曲げ部の側縁部を渡って前記傾斜部の側縁部側に至る箱曲げ部と、
前記ロード・ビーム本体に設けられたディンプルとを備え、
前記曲げ部を、前記ディンプルと前記被ガイド部との間に設けたロード・ビームであって、
前記曲げ部に対応して前記箱曲げ部の膨出変形を規制した変形規制部並びに前記ディンプル及び前記被ガイド部間の前記曲げ部での荷重伝達を補う荷重伝達部を有し、
この荷重伝達部は、前記被ガイド部の端部両側と前記傾斜部と該傾斜部の側縁部側の箱曲げ部と前記曲げ部からディンプル側に至る箱曲げ部とに前記膨出変形を規制して連続している、
ことを特徴とするロード・ビーム。
【請求項8】
請求項7記載のロード・ビームを備えたヘッド・サスペンション。」
とするものである。

本件補正は、概略、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「前記曲げ部を、前記ディンプルと前記被ガイド部との間に設けたロード・ビームを製造するために」を「前記曲げ部を、前記ディンプルと前記被ガイド部との間に設け、前記曲げ部に対応して前記箱曲げ部の膨出変形を規制した変形規制部並びに前記ディンプル及び前記被ガイド部間の前記曲げ部での荷重伝達を補う荷重伝達部を有し、この荷重伝達部は、前記被ガイド部の端部両側と前記傾斜部と該傾斜部の側縁部側の箱曲げ部と前記曲げ部からディンプル側に至る箱曲げ部とに連続しているロード・ビームを製造するために」と前記下線部を付加し、また「後工程」について、「前記後工程で前記被ガイド部を前記傾斜部の傾斜途中から突設し該被ガイド部の端部両側と前記傾斜部と該傾斜部の側縁部側の箱曲げ部と前記曲げ部からディンプル側に至る箱曲げ部とに前記膨出変形を規制して連続する荷重伝達部を形成する」と限定するものである。
さらに、補正前の請求項7に記載された発明特定事項である「該傾斜部から突設されて記録再生装置のガイド部に摺動ガイドされる被ガイド部」を「該傾斜部の傾斜途中から端部が突設されて記録再生装置のガイド部に摺動ガイドされる被ガイド部」と前記下線部を付加し、また、「後工程」について「前記後工程で前記被ガイド部を前記傾斜部の傾斜途中から突設し該被ガイド部の端部両側と前記傾斜部と該傾斜部の側縁部側の箱曲げ部と前記曲げ部からディンプル側に至る箱曲げ部とに前記膨出変形を規制して連続する荷重伝達部を形成する」と限定するものである。
そうすると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1号によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、上記本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1号によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条第5号に規定する要件を満たすか)否かを、本件補正後の請求項7に記載された発明(以下「本願補正発明」という)について以下検討する。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成17年6月23日に頒布された刊行物である特開2005-166203号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
(1)「【0001】
本発明は、ハードディスク装置等の記録媒体に対してデータをリード及び/又はライトする為の磁気ヘッドを支持する磁気ヘッドサスペンションに関する。」

(2)「【0010】
以下、本発明に係る磁気ヘッドサスペンションの好ましい実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施の形態に係る磁気ヘッドサスペンション1を、ハードディスク等の記憶媒体の記憶面とは反対側から視た上面斜視図である。
又、図2は、本実施の形態に係る磁気ヘッドサスペンション1の上面図である。
【0011】
図1及び図2に示すように、本実施の形態に係る磁気ヘッドサスペンション1は、磁気ヘッドスライダ100を支持する磁気ヘッド搭載領域11を有するフレクシャ部10と、前記磁気ヘッドスライダ100を記憶媒体の記憶面へ向けて押し付ける荷重を発生させる荷重曲げ部30と、前記荷重を前記磁気ヘッド搭載領域11へ伝達するロードビーム部20と、前記荷重曲げ部30の基端領域を支持する基部40とを有している。」

(3)「【0014】
該ロードビーム部20は、少なくとも先端部位21aが記憶媒体の記憶面と略平行な第1平面に沿って延びる本体21と、前記先端部位21aから先方へ延びるリフトタブ22とを一体的に備えている。
【0015】
該リフトタブ22は、磁気ヘッドサスペンション1がロード状態からアンロード状態へ移行される際にランプ(図示せず)と係合して、磁気ヘッドスライダ100を記録面から離間させる為の引き剥がし力を生じさせるように構成されている。
詳しくは、該リフトタブ22は、前記第1平面と略平行な第2平面であって、該第1平面よりも前記記憶媒体の記憶面から離間する上方に位置する第2平面に沿って延びる係合部位22aと、前記本体21の先端部位21a及び前記係合部位22aの間に延びる傾斜部位22bとを備えている。
好ましくは、前記係合部位22aは、上方(記録面から離間する方向)に開く凹状とされる。
このように、該係合部位22aを凹状とすることにより、該係合部位22aと前記ランプとの係合動作を介して、該ロードビーム部20に適切に前記引き剥がし力が作用する。
なお、より好ましくは、前記係合部位22aの凹状が前記傾斜部位22bまで達するように構成し得る。
詳しくは、前記係合部位22a及び前記傾斜部位22bの境界を跨ぐように前記凹状を形成することができる。
斯かる構成を備えることにより、前記係合部位22a及び前記傾斜部位22bの境界部分の剛性を高めることができ、結果として、リフトタブ22の剛性を向上させることができる。
【0016】
該ロードビーム部20は、さらに、幅方向両縁部に一対のフランジ25を有している。
図3(a)に該ロードビーム部20の部分拡大上面図を示す。又、図3(b)及び(c)に、それぞれ、図3(a)におけるIII(b)線断面図及びIII(c)線断面図を示す。
【0017】
図3に示すように、前記フランジ25は、少なくとも前記先端部位21a及び前記傾斜部位22bに跨るように配設されている。
より詳しくは、前記フランジ25は、前記先端部位21aの幅方向両端部に設けられた第1部分26と、前記傾斜部位22bの幅方向両端部に設けられた第2部分27であって、前記第1部分26と一体化された第2部分27とを備えている。
本実施の形態においては、前記フランジ25は、前記本体21及び前記傾斜部位22bの長手方向全域に亘って配設されている。
即ち、前記フランジ25の第1部分26は前記本体21の長手方向略全域に亘って延び、且つ、前記フランジ25の第2部分27は前記傾斜部位22bの長手方向略全域に亘って延びている。
【0018】
なお、本実施の形態においては、前述の通り、前記ロードビーム部20及び前記フレクシャ部10はそれぞれ異なる部材によって形成されている。
このように、ロードビーム部20及びフレクシャ部10が異なる部材で形成されている場合、該ロードビーム部20の先端部位21aには、前記フレクシャ部10の磁気ヘッド搭載領域11の上面(磁気ヘッドスライダ100が搭載される搭載面とは反対側の面)と当接するディンプル28が設けられる。
斯かるディンプル28を設けることにより、前記磁気ヘッド搭載領域11のピッチ剛性及びロール剛性を向上(低下)させることができる。従って、該磁気ヘッド搭載領域11に搭載される磁気ヘッドスライダ100の記録面に対する追従性を向上させることができる。」

(4)「【0021】
前記先端部位21a及び前記傾斜部位22bに跨るように配設された前記フランジ25を有するロードビーム部20は、例えば、該ロードビーム部20を形成する板材に対して、前記フランジ25の曲げ加工及び前記リフトタブ22の曲げ加工を同時に行うか、若しくは、交互に行うことによって製造することができる。
なお、前記フランジ25の曲げ加工及び前記リフトタブ22の曲げ加工は、適宜、曲げ量を調整しながら複数回に分けて行うのが好ましい。
又、前記第1部分26及び前記第2部分27の境界領域は絞り加工することによって滑らかに成形され得る。」

(5)「【0029】
図4から明らかなように、本実施の形態に係る磁気ヘッドサスペンション1は、従来の磁気ヘッドサスペンションに比して、限界加速度の悪化を防止しつつ、リフトタブ剛性を向上させることができる。
例えば、比較例が板厚0.05mmの際に有するリフトタブ剛性(約48gf/mm)を得るのに、実施例においては板厚を0.038mmにすれば良いことになる。ここで、両者の限界加速度を比較すると、板厚0.05mmの比較例が約270G/gfであるのに対し、板厚0.038mmの実施例においては約328G/gfである。
逆に、限界加速度を同程度に設定する場合には、実施例は比較例に比してリフトタブ剛性を格段に向上させることができる。
【0030】
これは、以下の理由によるものと考えられる。
即ち、先端部位21aから上方へオフセットされた係合部位22aを有するリフトタブ22においては、曲げ加工部位(先端部位21aと傾斜部位22bとの境界)が最も低剛性となる。つまり、斯かる構成のリフトタブ22の剛性は、曲げ加工部位の剛性に依存する。
【0031】
この点に関し従来の磁気ヘッドサスペンションを検討すると、該従来の磁気ヘッドサスペンションにおいては、先端部位21aを含む本体21にはフランジが設けられているが、前記曲げ加工部位にはフランジが存在しない。
これに対し、本実施の形態に係る磁気ヘッドサスペンション1においては、前述の通り、前記フランジ25は、前記先端部位21a及び前記傾斜部位22bに跨るように配設されている。
さらに、本実施の形態に係る磁気ヘッドサスペンション1は、従来の磁気ヘッドサスペンションに比して、前記フランジの第2部分27に相当する質量しか増加していない。
即ち、本実施の形態に係る磁気ヘッドサスペンション1においては、質量の増加を可及的に抑えつつ、最も低剛性となる前記曲げ加工部位を跨ぐようにフランジ25を設けており、これにより、耐衝撃性の悪化を防止しつつ、剛性の向上が可能となっている。」
上記摘示事項および図面の記載を総合勘案すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「先端部位が記憶媒体の記憶面と略平行な第1平面に沿って延びる本体と、前記先端部位から先方へ延びるリフトタブとを一体的に備えているロードビーム部において、
前記リフトタブは、ロード状態からアンロード状態へ移行される際に磁気ディスク装置のランプと係合するものであって、前記第1平面よりも前記記憶媒体の記憶面から離間する上方に位置する係合部位と、前記本体の先端部位及び前記係合部位の間に延びる傾斜部位とを備え、
前記ロードビーム部は、さらに、幅方向両縁部に一対のフランジを有し、
前記フランジは、前記先端部位及び前記傾斜部位に跨るように配設され、前記先端部位の幅方向両端部に設けられた第1部分と、前記傾斜部位の幅方向両端部に設けられた第2部分であって、前記第1部分と一体化された第2部分とを備え、
前記ロードビーム部の先端部位には、ディンプルが設けられ、そして、前記第1部分及び第2部分の境界領域は絞り加工によって滑らかに成形されているロードビーム部。」

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成7年5月2日に頒布された刊行物である特開平7-112213号公報(以下「引用例2」という。)には、金属板の曲げ加工に関し、図面と共に次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(6)「【0007】上記のような側板5の角隅部9を形成するには、絞り成形手段によるか、角隅部9の部位の直角折曲部7および平行部8の一部を切除した状態でプレス曲げ加工を実施した後、溶接接合するか、何れかによらなければならない。しかしながら、絞り成形手段による場合には、専用の絞り成形用金型が必要であり、場合によっては複数工程用のものが必要となり、金型制作費も含めた加工コストが嵩むのみならず、側板5の部分的設計変更に対しても新規の成形用金型が必要となるため、更に加工コストの高騰を招来する。」

(7)「【0027】図5は本発明の更に他の実施例を示す要部斜視図であり、前記図1および図3における平行部8を欠如する場合の例である。なお図5に示すものは、前記図12における側板5の下端縁部に相当するものである。図5において、角隅部9における直角折曲部7の幅寸法w_(1)を他の部位の直角折曲部7の幅寸法wより小に形成したことにより、前期実施例と同様に曲げ加工を容易かつ円滑に遂行することができる。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「本体」「先端部位」「記憶媒体」及び「傾斜部位」は、本願補正発明の「ロード・ビーム本体」「先端部分」「ディスク」及び「傾斜部」にそれぞれ相当する。そして、引用発明の「先端部位」と「傾斜部位」との境界は、曲げ加工部位であるから(摘示事項(5))、「傾斜部位」が「先端部位」に曲げ部を介して傾斜形成されていることは明らかである。
(2)引用発明の「磁気ディスク装置」「ランプ」及び「係合部位」は、本願補正発明の「記録再生装置」「ガイド部」及び「被ガイド部」にそれぞれ相当するから、引用発明と本願補正発明とは、「該傾斜部の傾斜途中から端部が突設されて記録再生装置のガイド部に摺動ガイドされる被ガイド部」を備えている点で共通する。
(3)引用発明の「フランジ」は、「前記先端部位及び前記傾斜部位に跨るように配設され、前記先端部位の幅方向両端部に設けられた第1部分と、前記傾斜部位の幅方向両端部に設けられた第2部分であって、前記第1部分と一体化された第2部分とを備え」ているものであるから、本願補正発明の「前記ロード・ビーム本体の側縁部から前記曲げ部の側縁部を渡って前記傾斜部の側縁部側に至る」「箱曲げ部」に相当する。
(4)引用発明と本願補正発明の「ディンプル」は共通する。そして、引用発明の「フランジ」は、曲げ加工部位を介して第1部分と第2部分とが一体化されているのであるから、本願補正発明の「前記ディンプル及び前記被ガイド部間の前記曲げ部での荷重伝達を補う」「荷重伝達部」に相当する構成を備えている。
(5)引用発明の「フランジ」においては「前記第1部分及び前記第2部分の境界領域は絞り加工によって滑らかに成形されている」のであるから、該境界領域は「膨出変形を規制」されているといえるから、引用発明は、本願補正発明の「この荷重伝達部は、前記被ガイド部の端部両側と前記傾斜部と該傾斜部の側縁部側の箱曲げ部と前記曲げ部からディンプル側に至る箱曲げ部とに」「膨出変形を規制して連続している」に相当する構成を備えている。
(6)引用発明の「ロードビーム部」は、本願補正発明の「ロード・ビーム」に相当する。
そうすると、引用発明と本願補正発明とは、次の点で一致する。

<一致点>
「ロード・ビーム本体の先端部分に曲げ部を介して反ディスク側へ傾斜形成された傾斜部と、
該傾斜部の傾斜途中から端部が突設されて記録再生装置のガイド部に摺動ガイドされる被ガイド部と、
前記ロード・ビーム本体の側縁部から前記曲げ部の側縁部を渡って前記傾斜部の側縁部側に至る箱曲げ部と、
前記ロード・ビーム本体に設けられたディンプルとを備え、
前記曲げ部を、前記ディンプルと前記被ガイド部との間に設けたロード・ビームであって、
前記曲げ部に対応して前記箱曲げ部の膨出変形を規制し前記ディンプル及び前記被ガイド部間の前記曲げ部での荷重伝達を補う荷重伝達部を有し、
この荷重伝達部は、前記被ガイド部の端部両側と前記傾斜部と該傾斜部の側縁部側の箱曲げ部と前記曲げ部からディンプル側に至る箱曲げ部とに前記膨出変形を規制して連続している、
ロード・ビーム。」
そして、次の点で相違する。

<相違点>
本願補正発明は、「前記曲げ部に対応して前記箱曲げ部の膨出変形を規制した変形規制部」を有しているのに対し、引用発明は、そのような変形規制部を有していない点。

4.当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。

本願補正発明の「変形規制部」は、本願の実施例1を参照すると、箱曲げ部の曲げ部のくぼみを一例とするものである。
金属板の曲げ加工に関し、引用発明及び本願補正発明と同一の技術分野に属する上記引用例2には、絞り成形手段に代えて、角隅部における直角折曲部の幅寸法を他の部位の直角折曲部7の幅寸法より小に形成したことにより、曲げ加工を容易かつ円滑に遂行することができることが記載されており、幅寸法を小に形成した角隅部にはくぼみが形成されているものである。
そうすると、引用発明において、膨出変形を規制するために、変形規制部(くぼみ)を設けることとすることは引用例2の上記技術を適用することにより当業者が容易に想到できたものである。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は引用例1,2から当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
1.本願発明
平成21年12月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成21年8月31日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1.」の本件補正前の「請求項7」として記載した次のとおりのものである。
「【請求項7】
ロード・ビーム本体の先端部分に曲げ部を介して反ディスク側へ傾斜形成された傾斜部と、該傾斜部から突設されて記録再生装置のガイド部に摺動ガイドされる被ガイド部と、前記ロード・ビーム本体の側縁部から前記曲げ部の側縁部を渡って前記傾斜部の側縁部側に至る箱曲げ部と、前記ロード・ビーム本体に設けられたディンプルと、を備え、前記曲げ部を、前記ディンプルと前記被ガイド部との間に設けたロード・ビームにおいて、
前記曲げ部に対応して前記箱曲げ部の膨出変形を規制した変形規制部並びに前記ディンプル及び前記被ガイド部間の前記曲げ部での荷重伝達を補う荷重伝達部を有する
ことを特徴とするロード・ビーム。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、前記「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]3.4.」で検討した本願補正発明から「この荷重伝達部は、前記被ガイド部の端部両側と前記傾斜部と該傾斜部の側縁部側の箱曲げ部と前記曲げ部からディンプル側に至る箱曲げ部とに前記膨出変形を規制して連続している」を削除したものである。
そうすると本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]4.」に記載したとおり引用例1,2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1,2に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項7に係る発明は、特許法29条第2項の規定より特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-24 
結審通知日 2011-06-28 
審決日 2011-07-11 
出願番号 特願2006-43412(P2006-43412)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 重幸  
特許庁審判長 小松 正
特許庁審判官 関谷 隆一
酒井 伸芳
発明の名称 ヘッド・サスペンション、ロード・ビーム、及びロード・ビームの製造方法  
代理人 須藤 雄一  

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