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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1243918
審判番号 不服2009-17644  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-18 
確定日 2011-09-15 
事件の表示 平成9年特許願第536706号「スピロ原子を含有するポリマー類およびエレクトロルミネッセンス材料としてのそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成9年10月23日国際公開、WO97/39045、平成12年7月11日国内公表、特表2000-508686〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成9年4月7日(優先権主張 平成8年4月17日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特許出願であって、平成10年10月15日付けで条約第34条(2)(b)の規定に基づく補正に係る補正書の翻訳文が提出され、平成16年4月6日付けで手続補正書が提出され、平成19年8月27日付けで拒絶理由通知が通知され、平成20年3月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに同年8月18日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成21年2月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月8日付けで「平成21年2月26日付け手続補正書」による補正が却下されるとともに拒絶をすべき旨の査定がされ、それに対して、同年9月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成22年4月9日付けで前置審査の結果が報告され、当審において同年8月12日付けで審尋され、同年12月13日に回答書が提出されたものである。

第2.補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成21年9月18日提出の手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成21年9月18日提出の手続補正書による補正(以下、「本件補正A」という。)は、平成20年3月4日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1について、以下のとおり補正するものである。
「式(I):

[式中、記号および添字は、以下の意味を有する:
D、E、F^(1)、Gは、同一または異なり、-CR^(1)R^(1)-、-O-、-S-、-NR^(3)-または化学結合であり;
Ar^(1)、Ar^(2)は、同一または異なり、ベンゼントリイル、チオフェントリイル、フラントリイル、ピロールトリイル、ピリジントリイル、ピリミジントリイル、ピラジントリイルまたはピリダジントリイルであり、これら基の各々は、相互に独立に、1個?3個の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよく;
Ar^(3)、Ar^(4)は、同一または異なり、Ar^(1)、Ar^(2)について定義した通りであるかまたはシクロヘキサントリイル、シクロペンタントリイル、シクロヘキセントリイルまたはシクロペンテントリイルであり、これら基の各々は、相互に独立に、1個?3個の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよく;
U^(1)、V^(1)は、同一または異なり、-CR^(5)=CR^(6)-、-CR^(7)R^(8)-、-CR^(9)R^(10)-CR^(11)R^(12)-、-NR^(13)-、-SiR^(14)R^(15)-、-O-、-S-、-SO-、-SO_(2)-、-CO-または化学結合であり;
Ar^(5)、Ar^(6)、X、Y^(1)は、ヘテロ原子を含有してもよく、1個以上の基R^(4)によって置換されていてもよい、2個?100個の炭素原子を有する同一または異なる環式または非環式共役炭化水素であり、Xおよび/またはY^(1)は、また、同一または異なるHまたはR^(1)であってもよく;
R^(1)、R^(2)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)、R^(9)、R^(10)、R^(11)、R^(12)は、同一または異なり、H;1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、1個以上、好ましくは1個の-CH_(2)-基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよく、1個以上の水素原子はFによって置換されていてもよい);ヘテロ原子を含有してもよく、1個以上の基R^(6)によって置換されていてもよいアリールまたはアリールオキシ基;Br、Cl、F、CN、NO_(2)、CF_(3)であり、R^(1)およびR^(2)、R^(7)およびR^(8)、R^(9)およびR^(10)ならびにR^(11)およびR^(12)は、各々の場合に、一緒になって、環システムを形成してもよく;
R^(3)、R^(14)、R^(15)は、同一または異なり、H;または、1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、Nに直接結合しない1個以上のCH_(2)基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよい);ヘテロ原子を含有してもよく、1個以上の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよい、好ましくは2個?20個の炭素原子を有するアリール基であり;
R^(4)は、同一または異なり、F、Cl、Br、CN、NO_(2)、CF_(3);または1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、相互に直接結合していない1個以上のCH_(2)基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよく、1個以上のH原子はFによって置換されていてもよい)であり;
mは、1、2、3または4であり;
n、pは、同一または異なり、0、1、2、3または4である。]
で表される構造単位を含む共役化合物であるが、
ただし、以下の化合物:
(a)式(II):

(式中、記号及び指数は以下の意味を有する:A及びBは、同一でも異なっていてもよく、各々炭素原子数1?15の同一又は異なるアリーレン及び/またはヘテロアリーレン及び/またはビニレン基であり、これはスピロビフルオレン骨格自体と同様に非置換または置換であってもよく;C及びDは、同一でも異なっていてもよく、各々炭素原子数1?15の同一又は異なるアリール及び/またはヘテロアリール及び/またはビニル基であり、これはスピロビフルオレン骨格自体と同様に非置換または置換であってもよく;Sは同一でも異なっていてもよく、各々Hまたは置換基であり;m及びnは0または1である)の繰り返し単位を含む共役ポリマー、
ならびに、
(b)ポリ[2,7-(9,9'-スピロビフルオレニレン)-4,4'-ビフェニレン]

および
ポリ-2,7-(9,9'-スピロビフルオレン)イレン

を除く共役化合物。」

2.特許法第17条の2第3項に規定する要件についての検討
(1)本件補正Aの内容は、特許請求の範囲の請求項1において、式(I)で表される構造単位を含む共役化合物から除くものとしている化合物の(a)について、以下のとおりとするものである。(その他の事項については、本件補正Aにより変更されていない。)
「式(II):

(式中、記号及び指数は以下の意味を有する:A及びBは、同一でも異なっていてもよく、各々炭素原子数1?15の同一又は異なるアリーレン及び/またはヘテロアリーレン及び/またはビニレン基であり、これはスピロビフルオレン骨格自体と同様に非置換または置換であってもよく;C及びDは、同一でも異なっていてもよく、各々炭素原子数1?15の同一又は異なるアリール及び/またはヘテロアリール及び/またはビニル基であり、これはスピロビフルオレン骨格自体と同様に非置換または置換であってもよく;Sは同一でも異なっていてもよく、各々Hまたは置換基であり;m及びnは0または1である)の繰り返し単位を含む共役ポリマー」

(2)ところで、本願は特許法第184条の3第1項の規定により特許出願とみなされた国際出願(外国語特許出願)に係るものであるから、同法第17条の2第3項の規定は同法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用される。
また、本願においては、同法第184条の8第1項の規定により条約第34条(2)(b)の規定に基づく補正に係る補正書の翻訳文を提出しているところ、当該補正は同法第184条の8第1項第2項及び第4項の規定により、誤訳訂正書を提出してされたものとみなされる。
そうすると、本願において、同法第17条の2第3項の規定により補正ができる範囲は、国際出願日における国際特許出願の明細書又は請求の範囲の翻訳文若しくは条約第34条(2)(b)の規定に基づく補正に係る補正書の翻訳文による補正後の請求の範囲(以下、「出願当初翻訳文」という。)に記載した事項の範囲内ということになる。

(3)出願当初翻訳文に記載された事項
出願当初翻訳文には、次の事項が記載されている。
a.「1.式(I):

[式中、記号および添字は、以下の意味を有する:
D、E、F^(1)、Gは、同一または異なり、-CR^(1)R^(1)-、-O-、-S-、-NR^(3)-または化学結合であり;
Ar^(1)、Ar^(2)は、同一または異なり、ベンゼントリイル、チオフェントリイル、フラントリイル、ピロールトリイル、ピリジントリイル、ピリミジントリイル、ピラジントリイルまたはピリダジントリイルであり、これら基の各々は、相互に独立に、1個?3個の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよく;
Ar^(3)、Ar^(4)は、同一または異なり、Ar^(1)、Ar^(2)について定義した通りであるかまたはシクロヘキサントリイル、シクロペンタントリイル、シクロヘキセントリイルまたはシクロペンテントリイルであり、これら基の各々は、相互に独立に、1個?3個の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよく;
U^(1)、V^(1)は、同一または異なり、-CR^(5)=CR^(6)-、-CR^(7)R^(8)-、-CR^(9)R^(10)-CR^(11)R^(12)-、-NR^(13)-、-SiR^(14)R^(15)-、-O-、-S-、-SO-、-SO_(2)-、-CO-または化学結合であり;
Ar^(5)、Ar^(6)、X、Y^(1)は、ヘテロ原子を含有してもよく、1個以上の基R^(4)によって置換されていてもよい、2個?100個の炭素原子を有する同一または異なる環式または非環式共役炭化水素であり、Xおよび/またはY^(1)は、また、同一または異なるHまたはR^(1)であってもよく;
R^(1)、R^(2)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)、R^(9)、R^(10)、R^(11)、R^(12)は、同一または異なり、H;1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、1個以上、好ましくは1個の-CH_(2)-基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよく、1個以上の水素原子はFによって置換されていてもよい);ヘテロ原子を含有してもよく、1個以上の基R^(6)によって置換されていてもよいアリールまたはアリールオキシ基;Br、Cl、F、CN、NO_(2)、CF_(3)であり、R^(1)およびR^(2)、R^(7)およびR^(8)、R^(9)およびR^(10)ならびにR^(11)およびR^(12)は、各々の場合に、一緒になって、環システムを形成してもよく;
R^(3)、R^(14)、R^(15)は、同一または異なり、H;または、1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、Nに直接結合しない1個以上のCH_(2)基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよい);ヘテロ原子を含有してもよく、1個以上の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよい、好ましくは2個?20個の炭素原子を有するアリール基であり;
R^(4)は、同一または異なり、F、Cl、Br、CN、NO_(2)、CF_(3);または1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、相互に直接結合していない1個以上のCH_(2)基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよく、1個以上のH原子はFによって置換されていてもよい)であり;
mは、1、2、3または4であり;
n、pは、同一または異なり、0、1、2、3または4である。]
で表される構造単位を含む共役化合物であるが、
ただし、以下の化合物:
(a)Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)およびAr^(4)がベンゼントリイルであり;D、E、F^(1)、G、U^(1)およびV^(1)が単結合であり、XおよびY^(1)がヘテロ原子を含有してもよくかつ置換されていてもよい環式または非環式共役炭化水素類である化合物、ならびに、
(b)ポリ[2,7-(9,9'-スピロビフルオレニレン)-4,4'-ビフェニレン]

および
ポリ-2,7-(9,9'-スピロビフルオレン)イレン

を除く共役化合物。」(平成10年10月15日付けで提出された補正書の写し(翻訳文)における請求の範囲第1項)

b.「さて、驚くべきことに、複数のスピロ中心を含有するある種の共役ポリマー類がエレクトロルミネッセンス材料として特に適していることが見いだされた。
したがって、本発明は、式(I):

[式中、記号および添字は、以下の意味を有する:
D、E、F^(1)、Gは、同一または異なり、-CR^(1)R^(1)-、-O-、-S-、-NR^(3)-または化学結合であり;
Ar^(1)、Ar^(2)は、同一または異なり、ベンゼントリイル、チオフェントリイル、フラントリイル、ピロールトリイル、ピリジントリイル、ピリミジントリイル、ピラジントリイルまたはピリダジントリイルであり、これら基の各々は、相互に独立に、1個?3個、好ましくは、1個の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよく;
Ar^(3)、Ar^(4)は、同一または異なり、Ar^(1)、Ar^(2)について定義した通りであるかまたはシクロヘキサントリイル、シクロペンタントリイル、シクロヘキセントリイルまたはシクロペンテントリイルであり、これら基の各々は、相互に独立に、1個?3個の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよく;
U^(1)、V^(1)は、同一または異なり、-CR^(5)=CR^(6)-、-CR^(7)R^(8)-、-CR^(9)R^(10)-CR^(11)R^(12)-、-NR^(13)-、-SiR^(14)R^(15)-、-O-、-S-、-SO-、-SO_(2)-、-CO-または化学結合であり;
Ar^(5)、Ar^(6)、X、Y^(1)は、ヘテロ原子、好ましくは、O、Nおよび/またはSを含有してもよく、1個以上の基R^(4)によって置換されていてもよい、2個?100個、好ましくは2個?20個の炭素原子を有する同一または異なる環式または非環式共役炭化水素であり、Xおよび/またはY^(1)は、また、同一または異なるHまたはR^(1)であってもよく;
R^(1)、R^(2)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)、R^(9)、R^(10)、R^(11)、R^(12)は、同一または異なり、H;1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、1個以上、好ましくは1個の-CH_(2)-基は、-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよく、1個以上の水素原子はFによって置換されていてもよい);ヘテロ原子、好ましくは、N、Sおよび/またはOを含有してもよくかつ1個以上の基R^(6)によって置換されていてもよい、好ましくは2個?20個の炭素原子を有するアリールまたはアリールオキシ基、好ましくはフェニルまたはフェニルオキシ;Br、Cl、F、CN、NO_(2)、CF_(3)であり、R^(1)およびR^(2)、R^(7)およびR^(8)、R^(9)およびR^(10)ならびにR^(11)およびR^(12)は、各々の場合に、一緒になって、環システムを形成してもよく;
R^(3)、R^(14)、R^(15)は、同一または異なり、H;または、好ましくは、1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、Nに直接結合しない1個以上のCH_(2)基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよい);ヘテロ原子、好ましくは、N、Sおよび/またはOを含有してもよく、1個以上の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよい、好ましくは2個?20個の炭素原子を有するアリール基であり;
R^(4)は、同一または異なり、F、Cl、Br、CN、NO_(2)、CF_(3);または、1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、相互に直接結合しない1個以上のCH_(2)基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよく、1個以上のH原子はFによって置換されていてもよい)であり;
mは、1、2、3または4、好ましくは、1であり;
n、pは、同一または異なり、0、1、2、3または4、好ましくは0または1である。]
で表される構造単位を含む共役ポリマーであるが、
ただし、以下のポリマー:
(a)Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)およびAr^(4)がベンゼントリイルであり;D、E、F^(1)、G、U^(1)およびV^(1)が単結合であり、XおよびY^(1)が、ヘテロ原子を含有してもよくかつ置換されていてもよい環式または非環式共役炭化水素類であるポリマー、ならびに、
(b)ポリ[2,7-(9,9'-スピロビフルオレニレン)-4,4'ビフェニレン]

および
ポリ-2,7-(9,9'-スピロビフルオレン)イレン

を除く共役ポリマーを提供する。」(明細書の翻訳文3頁1行?5頁下から9行)

出願当初翻訳文全体の記載、特に上記摘示事項a及びbからみて、出願当初翻訳文において、式(I)で表される構造単位を含む共役化合物又は共役ポリマーから除くものとしている化合物又はポリマーの(a)については次のとおりのものであったことが明らかである。
「(a)Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)およびAr^(4)がベンゼントリイルであり;D、E、F^(1)、G、U^(1)およびV^(1)が単結合であり、XおよびY^(1)が、ヘテロ原子を含有してもよくかつ置換されていてもよい環式または非環式共役炭化水素類である化合物又はポリマー」
ここで、この(a)に包含される化合物又はポリマーは、出願当初翻訳文における記載として意図的に除外されたものであるから、出願当初翻訳文に記載した事項の範囲内のものとすることはできない。

(4)そして、本件補正Aにおける(a)に記載された事項は、出願当初翻訳文における(a)に記載された事項とは一致しておらず、次の点で変更されている。
(ア)出願当初翻訳文における式(I)で表される構造単位において、Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)、Ar^(4)、D、E、F^(1)、G、U^(1)及びV^(1)で構成される構造は、Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)及びAr^(4)が「ベンゼントリイル」とされるのみで、その結合位置を特定していないことから、必ずしも「2,7-(9,9'-スピロフルオレニレン)」構造を表すものではなかったが、本件補正Aでは「2,7-(9,9'-スピロフルオレニレン)」構造に特定されたこと
(イ)出願当初翻訳文における式(I)で表される構造単位において、X及びY^(1)(本件補正AにおけるD及びCに相当する。)の置換位置は特定されていなかったが、本件補正Aでは置換位置は9,9'-スピロビフルオレンの2'位と7'位に特定されたこと
(ウ)出願当初翻訳文における式(I)で表される構造単位において、X及びY^(1)(本件補正AにおけるD及びCに相当する。)の定義が「ヘテロ原子を含有してもよくかつ置換されていてもよい環式または非環式共役炭化水素類」とされていたが、本件補正Aでは「同一でも異なっていてもよく、各々炭素原子数1?15の同一又は異なるアリール及び/またはヘテロアリール及び/またはビニル基であり、これは……非置換または置換であってもよく」と変更された結果、炭素原子数が限定されるとともに、選択肢の1つの「非環式共役炭化水素類」が「ビニル基」に変更されたこと(なお、ビニル基自体は共役結合を持たないことから、非環式共役炭化水素類に該当しないことは明らかである。)
(エ)出願当初翻訳文における式(I)で表される構造単位において、Ar^(5)及びAr^(6)(本件補正AにおけるA及びBに相当する。)の定義が「ヘテロ原子を含有してもよく、1個以上の基R^(4)によって置換されていてもよい、2個?100個の炭素原子を有する同一または異なる環式または非環式共役炭化水素」とされていたが、本件補正Aでは「同一でも異なっていてもよく、各々炭素原子数1?15の同一又は異なるアリーレン及び/またはヘテロアリーレン及び/またはビニレン基であり、これは……非置換または置換であってもよく」と変更された結果、炭素原子数が限定されるとともに、選択肢の1つの「非環式共役炭化水素」が「ビニレン基」に変更されたこと(なお、ビニレン基自体は共役結合を持たないことから、非環式共役炭化水素に該当しないことは明らかである。)
(オ)出願当初翻訳文における式(I)で表される構造単位において、n及びp(本件補正Aにおけるm及びnに相当する。)が「0、1、2、3または4」から「0または1」に限定されたこと

(5)上記(ア)?(オ)からみて、式(I)で表される構造単位を含む共役化合物又は共役ポリマーから除かれる化合物は、本件補正Aにより、出願当初翻訳文に記載されていたものから限定されていることは明らかである。
そして、本件補正Aにより、除くこととされる化合物の範囲が限定された結果、出願当初翻訳文に記載した事項の範囲内の共役化合物又は共役ポリマーではないものが含まれることになることから、本件補正Aが出願当初翻訳文に記載した事項の範囲内でされたものではないことは明らかである。

(6)請求人の主張
請求人は、審判請求書の請求の理由において、次の主張をしている。
「本審判請求書の手続補正書と同日付で手続補正書を提出し、特許請求の範囲の請求項1を補正した。この補正は、引用文献2との重複部分を除く目的で行ったものである。
引用文献2の特許請求の範囲の請求項1の記載中「式

(式中、記号及び指数は以下の意味を有する:A及びBは、同一でも異なっていてもよく、各々炭素原子数1?15の同一又は異なるアリーレン及び/またはヘテロアリーレン及び/またはビニレン基であり、これはスピロビフルオレン骨格自体と同様に非置換または置換であってもよく;C及びDは、同一でも異なっていてもよく、各々炭素原子数1?15の同一又は異なるアリール及び/またはヘテロアリール及び/またはビニル基であり、これはスピロビフルオレン骨格自体と同様に非置換または置換であってもよく;Sは同一でも異なっていてもよく、各々Hまたは置換基であり;m及びnは0または1である)の繰り返し単位を含む共役ポリマー」の記載があり、本審判請求書の手続補正書と同日付で提出した手続補正書により、引用文献2の記載と本願特許請球の範囲の請求項1の記載と重複する部分を除くことを目的とする。この補正は、「審査基準III部第I節4.2(4)除くクレーム」にあるとおり、請求項1に係る発明が、先行技術と重なるために新規性(特許法第29条第1項第3号)を失う恐れがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正に該当するものである。何ら新規事項を追加するものでもなく、特許請求の範囲を拡張するものでもない。」

本願の出願の経緯によれば、平成19年8月27日付けで拒絶理由が通知されており、その拒絶の理由4として特願平7-265799号(以下、「先願」という。なお、拒絶理由通知書には「特願平08-188641号」と記載されているが、明らかな誤記であり、その後の経緯からみて、出願人(請求人)も併記された特許番号に基づき正しい出願番号を理解しているものと認められる。)に基づく特許法第39条第1項違反を指摘されており、当該先願は現在特許第3390591号として設定の登録がされており、その請求項1に係る発明は、
「式(I):

(式中、記号及び指数は以下の意味を有する:
A及びBは、同一でも異なっていてもよく、各々炭素原子数1?15の同一又は異なるアリーレン及び/またはヘテロアリーレン及び/またはビニレン基であり、これはスピロビフルオレン骨格自体と同様に非置換または置換であってもよく;C及びDは、同一でも異なっていてもよく、各々炭素原子数1?15の同一又は異なるアリール及び/またはヘテロアリール及び/またはビニル基であり、これはスピロビフルオレン骨格自体と同様に非置換または置換であってもよく;
Sは同一でも異なっていてもよく、各々Hまたは置換基であり;
m及びnは0または1である)
の繰り返し単位を含む共役ポリマー。」(以下、「先願発明」という。)
というものである。
ところで、この拒絶理由が通知された時点での本願の請求項1に係る発明は「式(I)で表される構造単位を含む共役化合物」ではなく、「式(I)で表される構造単位を含む共役化合物から(a)及び(b)を除くもの」であったから、上記先願発明を除く場合は、「式(I)で表される構造単位を含む共役化合物から(a)及び(b)を除くもの」からさらに先願発明を除く必要があり、単に「式(I)で表される構造単位を含む共役化合物」から先願発明を除くことは認められない。
なお、本願当初翻訳文には、(a)の化合物を「式(I)で表される構造単位を含む共役化合物」から除くこととした理由について、何ら記載されておらず、上記先願発明との関連性は明らかではない。そもそも、先願の願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1には、本願当初翻訳文における(a)のとおりの発明が記載されていたわけではなく、先願発明がそのまま記載されていたのである。。
したがって、本願当初翻訳文で(a)に含まれる化合物は請求人が自らの判断で除くものとして記載し、それによって本願当初翻訳文に記載した事項の範囲から除外されることになったものであるから、この(a)の記載を、単に「除くクレーム」が認められるものであるとの理由のみで先願発明の共役ポリマー又は共役化合物に変更して、除外される範囲を減縮することは、許容できるものではない。

また、請求人は平成22年12月13日付け回答書において、「共役化合物のエレクトロルミネッセンス材料としての使用」と、用途発明に変更する旨の補正案を提示しているが、当該補正案における「共役化合物」は本件補正Aにおける「共役化合物」と同じものであり、「式(I)で表される構造単位を含む共役化合物」から除くこととしていた(a)の化合物に変更はなく、また先願の請求項7には用途発明としての「請求項1に記載のポリマーを含むエレクトロルミネッセンス材料」の発明が存在していることから、上記判断について何ら変更すべき点は存在せず、当該補正案は採用し得るものではない。

3.むすび
したがって、本件補正は、特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する同法第17条の2第3項の規定に違反しているものと認められるから、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.原査定について
1.本願に係る発明
上記のとおり、平成21年9月18日提出の手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成20年3月4日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものとなる。

2.原査定における拒絶理由の概要
原査定における拒絶の理由は、平成20年8月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由、すなわち、平成20年3月4日付けでした手続補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない、というものである。

3.判断
(1)平成20年3月4日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正B」という。)は、平成16年4月6日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1について、以下のとおり補正するものである。
「式(I):

[式中、記号および添字は、以下の意味を有する:
D、E、F^(1)、Gは、同一または異なり、-CR^(1)R^(1)-、-O-、-S-、-NR^(3)-または化学結合であり;
Ar^(1)、Ar^(2)は、同一または異なり、ベンゼントリイル、チオフェントリイル、フラントリイル、ピロールトリイル、ピリジントリイル、ピリミジントリイル、ピラジントリイルまたはピリダジントリイルであり、これら基の各々は、相互に独立に、1個?3個の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよく;
Ar^(3)、Ar^(4)は、同一または異なり、Ar^(1)、Ar^(2)について定義した通りであるかまたはシクロヘキサントリイル、シクロペンタントリイル、シクロヘキセントリイルまたはシクロペンテントリイルであり、これら基の各々は、相互に独立に、1個?3個の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよく;
U^(1)、V^(1)は、同一または異なり、-CR^(5)=CR^(6)-、-CR^(7)R^(8)-、-CR^(9)R^(10)-CR^(11)R^(12)-、-NR^(13)-、-SiR^(14)R^(15)-、-O-、-S-、-SO-、-SO_(2)-、-CO-または化学結合であり;
Ar^(5)、Ar^(6)、X、Y^(1)は、ヘテロ原子を含有してもよく、1個以上の基R^(4)によって置換されていてもよい、2個?100個の炭素原子を有する同一または異なる環式または非環式共役炭化水素であり、Xおよび/またはY^(1)は、また、同一または異なるHまたはR^(1)であってもよく;
R^(1)、R^(2)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)、R^(9)、R^(10)、R^(11)、R^(12)は、同一または異なり、H;1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、1個以上、好ましくは1個の-CH_(2)-基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよく、1個以上の水素原子はFによって置換されていてもよい);ヘテロ原子を含有してもよく、1個以上の基R^(6)によって置換されていてもよいアリールまたはアリールオキシ基;Br、Cl、F、CN、NO_(2)、CF_(3)であり、R^(1)およびR^(2)、R^(7)およびR^(8)、R^(9)およびR^(10)ならびにR^(11)およびR^(12)は、各々の場合に、一緒になって、環システムを形成してもよく;
R^(3)、R^(14)、R^(15)は、同一または異なり、H;または、1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、Nに直接結合しない1個以上のCH_(2)基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよい);ヘテロ原子を含有してもよく、1個以上の同一または異なる基R^(4)によって置換されていてもよい、好ましくは2個?20個の炭素原子を有するアリール基であり;
R^(4)は、同一または異なり、F、Cl、Br、CN、NO_(2)、CF_(3);または1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基(ここで、相互に直接結合していない1個以上のCH_(2)基は-O-、-CO-O-または-O-CO-によって置換されていてもよく、1個以上のH原子はFによって置換されていてもよい)であり;
mは、1、2、3または4であり;
n、pは、同一または異なり、0、1、2、3または4である。]
で表される構造単位を含む共役化合物であるが、
ただし、以下の化合物:
(a)Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)およびAr^(4)がベンゼントリイルであり;D、E、F^(1)、G、U^(1)およびV^(1)が単結合であり、XおよびY^(1)が、同一または異なり、各々H、1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基、アルコキシ基、またはエステル基、アリールおよび/またはアルコキシ基、ここで、芳香族はC_(1)?C_(22)-アルキル、C_(1)?C_(22)-アルコキシ、Br、Cl、F、CNおよび/またはNO_(2)、Br、Cl、F、CN、NO_(2)、CF_(3)により置換されてもよく、ならびに、
(b)ポリ[2,7-(9,9'-スピロビフルオレニレン)-4,4'-ビフェニレン]

および
ポリ-2,7-(9,9'-スピロビフルオレン)イレン

を除く共役化合物。」

(2)特許法第17条の2第3項に規定する要件についての検討
(2-1)本件補正Bの内容は、特許請求の範囲の請求項1において、式(I)で表される構造単位を含む共役化合物から除くものとしている化合物(a)について、以下のとおりとするものである。(その他の事項については、本件補正Bにより変更されていない。)
「Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)およびAr^(4)がベンゼントリイルであり;D、E、F^(1)、G、U^(1)およびV^(1)が単結合であり、XおよびY^(1)が、同一または異なり、各々H、1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基、アルコキシ基、またはエステル基、アリールおよび/またはアルコキシ基、ここで、芳香族はC_(1)?C_(22)-アルキル、C_(1)?C_(22)-アルコキシ、Br、Cl、F、CNおよび/またはNO_(2)、Br、Cl、F、CN、NO_(2)、CF_(3)により置換されてもよく、」

(2-2)ところで、本願において特許法第17条の2第3項の規定により補正ができる範囲は、上記したとおり、出願当初翻訳文に記載した事項の範囲内である。
ところで、出願当初翻訳文には、第2.2.(3)に摘示したとおりの事項が記載されている。
そして、上記したとおり、出願当初翻訳文全体の記載、特に上記摘示事項a及びbからみて、出願当初翻訳文において、式(I)で表される構造単位を含む共役化合物又は共役ポリマーから除くものとしている化合物又はポリマーの(a)については次のとおりのものであったことが明らかである。
「(a)Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)およびAr^(4)がベンゼントリイルであり;D、E、F^(1)、G、U^(1)およびV^(1)が単結合であり、XおよびY^(1)が、ヘテロ原子を含有してもよくかつ置換されていてもよい環式または非環式共役炭化水素類である化合物又はポリマー」
ここで、この(a)に包含される化合物又はポリマーは、出願当初翻訳文における記載として意図的に除外されたものであるから、出願当初翻訳文に記載した事項の範囲内のものとすることはできない。

(2-3)ここで、本件補正Bにおける(a)に記載された事項は、出願当初翻訳文における(a)に記載された事項とは一致しておらず、次の点で変更されている。
◎出願当初翻訳文における式(I)で表される構造単位において、X及びY^(1)の定義が、「ヘテロ原子を含有してもよくかつ置換されていてもよい環式または非環式共役炭化水素類」とされていたが、本件補正Bでは「同一または異なり、各々H、1個?22個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基、アルコキシ基、またはエステル基、アリールおよび/またはアルコキシ基」と変更されたこと
なお、「ここで、芳香族はC_(1)?C_(22)-アルキル、C_(1)?C_(22)-アルコキシ、Br、Cl、F、CNおよび/またはNO_(2)、Br、Cl、F、CN、NO_(2)、CF_(3)により置換されてもよく」とあわせて特定されている点は、「芳香族」がどの部分を指しているのか不明であることから、その意味を理解することができない。

(2-4)そうすると、式(I)で表される構造単位を含む共役化合物又は共役ポリマーから除かれる化合物は、本件補正Bにより、出願当初翻訳文に記載されていたものとは異なるものとなったことが明らかである。
そして、本件補正Bにより、除くこととされる化合物の範囲が異なるものとなった結果、出願当初翻訳文に記載した事項の範囲内の共役化合物又は共役ポリマーではないもの(すなわち、除外することとなっていた化合物又はポリマー)が含まれることになることから、本件補正Bが出願当初翻訳文に記載した事項の範囲内でされたものではないことは明らかである。

(3)請求人の主張について
請求人は、平成20年3月4日付け意見書にて、「この補正の根拠は、本願明細書全体に基づく」と主張しているが、具体的に出願当初翻訳文のどこに記載された事項に基づくのか理解できず、当該主張は受け入れられない。

(4)まとめ
そうすると、本件補正Bは、特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものであるから、同法第49条第1号に該当し、本願は拒絶をすべきものである。

4.むすび
上記のとおりであるから、原査定の拒絶の理由は妥当なものと認められ、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
したがって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-18 
結審通知日 2011-04-19 
審決日 2011-05-06 
出願番号 特願平9-536706
審決分類 P 1 8・ 55- Z (C08G)
P 1 8・ 561- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智橋本 栄和村上 騎見高  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小野寺 務
藤本 保
発明の名称 スピロ原子を含有するポリマー類およびエレクトロルミネッセンス材料としてのそれらの使用  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 沖本 一暁  
代理人 社本 一夫  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  

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