ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 A63B |
---|---|
管理番号 | 1244222 |
審判番号 | 無効2009-800025 |
総通号数 | 143 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-11-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-02-13 |
確定日 | 2011-09-30 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4155708号「球技用ボール」の特許無効審判事件についてされた平成22年 1月 7日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10162号平成23年 2月24日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概要 本件特許第4155708号に係る手続の経緯は以下のとおりである。 平成10年 5月22日 特願平10-141882号(基礎出願)出願 平成11年 5月20日 PCT/JP1999/02667号(特願20 00-550565号)出願(優先権主張平成1 0年5月22日、日本国) 平成12年10月19日 国内書面提出 平成19年11月 5日 手続補正(特許請求の範囲全文及び明細書全文) 平成20年 4月11日 手続補正(特許請求の範囲全文、他) 平成20年 7月18日 本件特許第4155708号の設定の登録 (請求項数10) 平成21年 2月13日 モルテックス リミティドより本件無効2009 -800025号審判請求(以下「本件審判」と いう。請求項1ないし4、6ないし9に係る発明 についての特許を無効とすることを求めるもので ある。) 平成21年 6月 9日 答弁書 平成21年10月 9日 口頭審理陳述要領書(請求人) 平成21年10月 9日 口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成21年10月 9日 口頭審理 平成21年11月30日 上申書(請求人) 平成21年11月30日 上申書(被請求人) 平成22年 1月 7日 審決(平成22年1月19日送達。) 第2 本件特許発明 本件特許発明は、本件特許第4155708号(以下「本件特許」という。)の特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 圧搾空気が封入された球形中空体の弾性チューブと、 該チューブ表面全面に形成された補強層と、 該補強層上に直接またはカバーゴム層を介して接着された複数枚の皮革パネルとを備えた球技用ボールにおいて、 前記皮革パネルは、その周縁部が前記弾性チューブ側に折り曲げられる折り曲げ部を有し、前記皮革パネルの折り曲げ部にて囲まれた前記皮革パネルの裏面に、厚さを調整する厚さ調整部材が接着せしめられ、 前記皮革パネルの折り曲げ部に設けられる接合部において、隣接する皮革パネルと接着されてなる球技用貼りボール。 【請求項2】 前記皮革パネルの周縁部が内側へ略180度折り込まれてなる請求項1記載の球技用貼りボール。 【請求項3】 前記皮革パネルの周縁部が内側へ略90度折り曲げられてなる請求項1記載の球技用貼りボール。 【請求項4】 前記皮革パネルの折り込まれた部分に、切り込みが形成されてなる請求項2記載の球技用貼りボール。 【請求項5】 前記厚さ調整部材が織布よりなる請求項1、2、3または4記載の球技用貼りボール。 【請求項6】 前記厚さ調整部材が衝撃緩衝部材よりなる請求項1、2、3または4記載の球技用貼りボール。 【請求項7】 前記厚さ調整部材が、織布と衝撃緩衝部材の積層構造からなる請求項1、2、3または4記載の球技用貼りボール。 【請求項8】 前記衝撃緩衝部材が発泡材、不織布、嵩高織物又はハニカム構造部材よりなる請求項6または7記載の球技用貼りボール。 【請求項9】 前記皮革パネルと前記厚さ調整部材の間に補強層が介在せしめられてなる請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の球技用貼りボール。 【請求項10】 前記補強層が、ポリエステルフィルム、PVCフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムのいずれかよりなる請求項9記載の球技用貼りボール。」(以下、請求項1ないし10に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」という。) 第3 請求人が主張する無効理由及び被請求人の主張 1 請求人が主張する無効理由 請求人が主張する無効理由は概略次のとおりである。 (1)無効理由1 本件特許発明1は、本件出願前に頒布された仏国特許出願公開第2443850号明細書(甲第3号証)及び独国特許出願公開第19619796号明細書(甲第4号証)に記載された発明に基づいて、又は甲第3号証に記載された発明及び周知技術(周知例として、実公昭33-1619号公報(甲第5号証)、実公昭38-16729号公報(甲第6号証)、登録実用新案第55967号明細書(甲第7号証)及び実願昭56-153703号(実開昭58-58098号)のマイクロフィルム(甲第8号証)を提示。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。よって、本件特許発明1は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (2)無効理由2 本件特許発明2は、本件出願前に頒布された甲第3号証、甲第4号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて、又は甲第3号証及び甲第7号証に記載された発明並びに周知技術(周知例として、甲第5号証ないし甲第8号証を提示。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。よって、本件特許発明2は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (3)無効理由3 本件特許発明3は、本件出願前に頒布された甲第3号証、英国特許第1555634号明細書(甲第9号証)及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、又は甲第3号証及び甲第9号証に記載された発明並びに周知技術(周知例として、甲第5号証ないし甲第8号証を提示。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。よって、本件特許発明3は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (4)無効理由4 本件特許発明4は、本件出願前に頒布された甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて、又は甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明並びに周知技術(周知例として、甲第5号証ないし甲第8号証を提示。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。よって、本件特許発明4は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (5)無効理由5 本件特許発明6は、本件出願前に頒布された甲第3号証、甲第4号証及び実公昭30-10612号公報(甲第10号証)に記載された発明に基づいて、又は甲第3号証及び甲第10号証に記載された発明並びに周知技術(周知例として、甲第5号証ないし甲第8号証を提示。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。よって、本件特許発明6は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (6)無効理由6 本件特許発明7は、本件出願前に頒布された甲第3号証、甲第4号証、及び実願平3-59560号(実開平5-5157号)のCD-ROM(甲第11号証)に記載された発明に基づいて、又は甲第3号証及び甲第11号証に記載された発明並びに周知技術(周知例として、甲第5号証ないし甲第8号証を提示。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。よって、本件特許発明7は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (7)無効理由7 本件特許発明8は、本件出願前に頒布された甲第3号証、甲第4号証、甲第10号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて、又は甲第3号証、甲第10号証及び甲第11号証に記載された発明並びに周知技術(周知例として、甲第5号証ないし甲第8号証を提示。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。よって、本件特許発明8は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (8)無効理由8 本件特許発明9は、本件出願前に頒布された甲第3号証、甲第4号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて、又は甲第3号証及び甲第11号証に記載された発明並びに周知技術(周知例として、甲第5号証ないし甲第8号証を提示。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。よって、本件特許発明9は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 2 被請求人の主張 上記1の請求人が主張する無効理由1ないし8に対し、被請求人は、本件特許発明1ないし4、6ないし9は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではなく、特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず、本件特許発明1ないし4、6ないし9の特許は無効とすべきものではない旨主張している。 第4 証拠 1 請求人は、証拠方法として、本件審判請求と同時に以下の甲第1号証ないし甲第11号証を、平成21年10月9日付けの口頭審理陳述要領書に添付して以下の甲第12号証ないし甲第18号証並びに甲第3号証、甲第4号証及び甲第9号証の翻訳文を、同年11月30日付けの上申書に添付して参考資料1及び参考資料2を、それぞれ提出している。 甲第1号証 平成20年4月11日付けの意見書 甲第2号証 平成20年4月11日付けの手続補正書 甲第3号証 仏国特許出願公開第2443850号明細書 甲第4号証 独国特許出願公開第19619796号明細書 甲第5号証 実公昭33-1619号公報 甲第6号証 実公昭38-16729号公報 甲第7号証 登録実用新案第55967号明細書 甲第8号証 実願昭56-153703号(実開昭58-58098号) のマイクロフィルム 甲第9号証 英国特許第1555634号明細書 甲第10号証 実公昭30-10612号公報 甲第11号証 実願平3-59560号(実開平5-5157号)のCD -ROM 甲第12号証 実願昭58-76649号(実開昭60-25648号) のマイクロフィルム 甲第13号証 実公昭27-3908号公報 甲第14号証 理工学辞典711?712頁及び奥付 甲第15号証 甲第3号証に対する翻訳者の宣誓書 甲第16号証 小学館 独和大辞典1472?1473頁及び奥付 甲第17号証 小学館 独和大辞典1884頁 甲第18号証 小学館 独和大辞典184頁 2 被請求人は、証拠方法として、答弁書と同時に以下の乙第1号証を、平成21年10月9日付けの口頭審理陳述要領書に添付して以下の乙第2号証ないし乙第3号証を、同年11月30日付けの上申書に添付して以下の乙第4号証を、それぞれ提出している。 乙第1号証 独国特許出願公開第19619796号明細書(甲第4号証 )の全文和訳文 乙第2号証 仏国特許出願公開第2443850号明細書(甲第3号証) の全文和訳文 乙第3号証 英国特許第1555634号明細書(甲第9号証)の全文和 訳文 乙第4号証 特開平9-19516号公報 第5 甲第3号証ないし甲第11号証の記載事項 甲第3号証ないし甲第11号証には、それぞれ以下の記載がある(下線は審決で付した。)。 1 甲第3号証(仏国特許出願公開第2443850号明細書) (括弧内に訳文を付した。) (1)「 ![]() 」(1頁1行?19行) (本発明は、サッカー、バスケット及び様々なチームスポーツに利用されるスポーツボールに関する。 一般に、こうしたボールは、縫合された断片で形成された外側の皮革外被材と、外被材の中に収容された膨張可能な空気袋とからなる。 かかるボールは、一定の重量及び一定の容積の組み立てられた皮革片を呈するが、手工業的に手作業で製造されるため高価である。 縫い目に似せた隆起部分を付与しようとの試みで縁端が装飾された皮革片を、空気袋の上に直接接着することによってかかるボールを工業的に製造することが考案されたが、しかしながらこの場合、より剛性が高く、且つ膨張が不可能で、皮革片の接着が剥がれるリスクを回避する空気袋を実現しなければならない。かかるボールは保管及び輸送に関して、当然ながら、膨張可能なボールより多くの場所を占め、さらにその外表面は、縫合されたボールと比べて低い隆起しか有しない。) (2)「 ![]() 」(1頁20行?33行) (本発明の目的の一つは、手工業的に実現されたボールの外観を有し、さらに、膨張が可能なことにより保管及び輸送が容易なボールを工業的に実現することである。 本発明に係るボールは、膨張可能な空気袋と、空気袋の表面に固着された皮革片からなる外被材とを備えるタイプのものであり、皮革片が、空気袋の側に向くよう定められた面において椀部を形成するように構成され、この椀部に、柔軟で弾性を有する材料が詰め込まれることを特徴とする。 好ましくは、空気袋の外表面は基材で被覆される。 好ましくは、柔軟で弾性を有する材料は多孔質である。) (3)「 ![]() 」(2頁28行?34行) (図1は、バルブ又は空気注入用ノズル(図示せず)が装着された空気袋1を図示する。この柔軟で弾性を有する空気袋は、例えば回転成形によって実現される。膨張させた空気袋1の上に、熱重合性若しくは非熱重合性プラスチック材料か、又は単に接着剤を含浸した糸2が一様に巻回される。また、布張りを形成するようにストリップを利用してもよい。このようにして被覆材10が実現される。) (4)「 ![]() 」(3頁18行?38行) (皮革要素8は個別に準備されるもので、四角形、六角形、又は他の形状を取り、且つ、柔軟で弾性を有する材料11で充填される一種の椀部9を形成するように構成され、この材料11は要素の凹面に完全に接着される。利用される材料は、気泡ゴム、発泡PVC、ポリウレタンフォームなどの多孔質であり得る。 種々の要素8は、空気袋1の被覆材10の全表面を覆い尽くすように、互いに突き当てられるように置かれ、被覆材10は、事前に接着剤を付与されるか、又は要素8の熱溶着か、あるいは非熱溶着が可能な材料が塗布される。 このように得られたボールが、空気注入用の針15と共に、2つの部品13及び14を有する成形形12の中に置かれる。成形型12の押し型16は球形であり、流動性材料の厚さ17を備える。 バルブを介し、針15を通じてボールの中に所定の圧力の空気が送り込まれることで、要素8が材料17を圧迫し、材料17は、その性質によって要素8の外径全体に適合し、要素8が被覆材10と確実に一体に連結される。) (5)「 ![]() 」(4頁4行?7行) (次にボールが成形型12から抜き出され、完了する。かかるボールは非常に耐久性が高く、完全に仕上げられた外観を呈し、且つ手工業的に実現されたボールにきわめて類似した表面を呈する。) (6)Fig.4及びFig.6から、皮革要素8の椀部の形状として、皮革要素8の中心部ではゆるやかな曲線であり周縁端部近くではより急カーブの曲線で、この急カーブな曲線領域から端に至る領域ではゆるやかな曲線あるいは直線であって、空気袋1側が凹面になるように曲がっている断面形状が見て取れ、Fig.6から、隣接する皮革要素8同士はその周縁端部のみで接触していることが見て取れる。また、皮革要素8の凸面がボールの表面を構成していることが見て取れるから、該皮革要素8の凸面が皮革要素の表面であり、皮革要素8の空気袋1側である「凹面」が皮革要素の裏面であって、皮革要素8はその裏面である凹面に完全に接着している材料11により前記被覆材10に接着していることが明らかである。 2 甲第4号証(独国特許出願公開第19619796号明細書) (括弧内に訳文を付した。) (1)「 ![]() 」(1欄3行?25行) (本発明は、周縁部において互いに接続された、特に縫合された多数の個々の要素からなるボールカバーに関するものである。 そのようなボールのカバーには、内側に空気注入式のブラダーが設けられており、例えばサッカーボールとして用いられる。ボールは、例えばサイズや重量に関する所定の条件を満たさなければならない。このような条件はサッカーボールに関しては、国際サッカー連盟によって制定されている。その条件の1つに最大許容吸水率に関するものがあり、2?3%に固定されている。この条件を満たすためには、ボールカバーはとても高価な、費用をかけて積層した材料を使用して、カバー素材への吸水を防止・抑制しなければならない。 本発明の課題は、上述したタイプのボールカバーにおいて、吸水をできるだけ簡素でかつ低廉に低減させることができるように改良することである。 この課題は、隣接する個々の要素の接合面間にシーリング部材を設けることによって解決される。) (2)「 ![]() 」(3欄41行?4欄2行) (図1に示すのは、互いに周縁部で縫い合わされた五角形のパネルと六角形のパネル2又は3である。パネル2及び3には、その周縁部に、内側への折り曲げ部4があり、その外側が接合面5となっており、隣接する個々の要素1は、この部分で互いに接合されている。 図2には、この接合されている部分がはっきりと示されている。隣接する個々の要素1の部位4の接合面5の間には、シーリング手段6が設けられ、そして、隣接する個々の要素1は、互いに押し合う部位4のところで糸7によって結合されていることが分かる。シーリング手段6は、ストリップ材料によって形成することができ、糸7によって2つの部位4の間に取り付けられている。また、シーリング手段6は他の方法で取り付けることもでき、1つ又は2つの互いに押し合う部位4に被覆材料として塗布することもできる。 図3に示すバリエーションでは、シーリング手段6は、隣接する個々の要素1の互いに接合する面5の間の空間を完全に満たしている。この形態は、特に、シーリング手段6として、加熱及び/又は加圧によって流動性を生じる素材を用いることによって達成される。この場合もシーリング手段6は、この要素1を縫い合わせる際にストリップ素材として挿入したり、個々の要素1を縫い合わせる前に、後に接合面5となる範囲に被服材料として塗布することもできる。) (3)Fig.3から、パネルの個々の要素1の折り曲げ部4は、パネルの隣接する個々の要素1の周縁部を内側へ略90度折り曲げたものであることが見て取れる。 3 甲第5号証(実公昭33-1619号公報) (1)「本案は革貼りバレーボールに係る考案である。即ち図面に示す如く、芯体となるゴムチューブ1の表面を布、糸等よりなる整形層2で被包し、更に、その上を適宜の形状をなす皮革片3で被包するに際し、各皮革片の周縁部のみに接着剤を塗布し接着被包した革貼りバレーボールの構造である。従来の革貼りバレーボールに於ては表面の皮革片3はその裏面全体に接着剤を塗布し、之を整形層2の表面と密着被包してあるため、外観は革製バレーボールと異るところなきも、使用時に於ける感触は革製バレーボールと著しく異り、全くゴム製バレーボールを取扱つている感あり、選手に不快感を与え試合の興味を半減せしめる欠点あり。 然るに本案に於ては上述の如く、バレーボールの全表面を被包する各皮革片3は、その周縁部のみにて整形層2に密着被包されている為、表面皮革の大部分は従来の革製バレーボールと同じく、整形層2と遊離し、チューブ1内の空気圧により整形層2と密接しているため、従来の革製バレーボールと全く異る事なく、その手触は謂うに及ばず、使用時に於ける感触即ちサーブ或はリシーブ時に於ける感触は全く従来の革製バレーボールと同一にして、使用者に満足感を与えるのみならず、ボールが損傷した場合(例えば釘等でボールに孔のあいた時等)にはその部分の皮革片を剥ぎとり芯体を修理したる後に新しい皮革片を接着して補修するに著しく便利である等の特徴を有するものである。」(1頁左欄5行?同頁右欄14行) (2)「登録請求の範囲 図面に示す如く、チューブ1の表面を整形層2で被包し、更にその上を皮革片3で被包するに際し、各皮革片の周縁部のみに接着剤4を塗布し、接着被包した革貼りバレーボールの構造。」(1頁右欄15行?19行) (3)第2図から、整形層2に皮革片3を接着するために皮革片3の周縁部のみに塗布された接着剤4が、皮革片3の周縁部と整形層2との間ばかりでなく、隣接する皮革片3の周縁部の端面同士の間にもその間隙を埋めるように存在していることが見て取れる。 4 甲第6号証(実公昭38-16729号公報) (1)「それぞれの折返し片2、3の外側縁より連接部に向つて山形の切込6、7を設けて折返し片2、3をその中心方向に寄せ合わせて山形切込み6、7をなくして皮革素子1a、1bの裏側に連接部4、5を中心としてそれぞれ折返して合成樹脂等の接着剤8をもつてそれぞれ密着させて皮革素子1a、1bの表側を中高の円弧状に形成する」(1頁右欄2行?8行) (2)「皮革素子1aと1bとにそれぞれ形成した耳と透孔を交互に咬み合わせて皮革素子1a,1bと残りの各々皮革素子1c,1d,……1nをもつて球体を構成するように接合端面を互いに接近させて組合せ、これら皮革素子1の接合面を被覆すべきテープ状クロムなめし革片またはテープ状合成樹脂片、布片等よりなる薄帯9をもつて皮革素子1の内周面よりその接合部分に跨がるように前記接着剤8にて順次貼着して第1図に示すようにボール10を構成する。この際に隣合せの各々の皮革素子間に球面構成のために生じる若干の間隙11(第6図参照)の部分には皮革素子1と同色または異色の着色剤を混合した合成樹脂接着剤12を充填させて接合する。」(1頁右欄13行?26行) 5 甲第7号証(登録実用新案第55967号明細書) (1)「皮革片(イ)(イ)ノ面ニ対シ直角ニ縫針ヲ貫通セシメテ一針抜トナシ以テ糸条(ロ)を凹凸状タラシメテ球状袋トナシテ其内部ノ縫代部ハ割リテ折返シ其各割面ニ自転車「タイヤ」等ニ使用スル「ラバーテープ」ヲ貼着シテ水ノ滲入ヲ防止シ且ツ表面ニ糸条ノ現ハレサルヲ特徴トスル「ハンドボール」ノ構造」(登録請求ノ範囲1行?4行) (2)「(ハ)ハ(イ)(イ)ノ各縫合部内方ヲ割リテ折リ返シ其の各割目ニ貼着シタル「ラバーテープ」ニシテ水の滲入ヲ防止セシメタルモノ(ニ)ハ「ゴム」球袋ヲ収容スヘキ口部(ホ)ハ其締紐(ヘ)ハ収容シタル「ゴム」球袋ナリ(図面ノ説明の欄4行?6行) (3)第三図から、皮革片(イ)が端部で略180度折返され、ラバーテープ(ハ)と貼着したハンドボールの構造が見て取れる。 (審決注:便宜上、旧字体の漢字は常用漢字で表記した。) 6 甲第8号証(実願昭56-153703号(実開昭58-58098号)のマイクロフィルム) 「従来からビニール片などを溶着して繋ぎ合せたビーチボール或いは景品用などのバルーンが多数提供されている。これらの一般的な製法はビニール片の側端部同士を折り曲げて重ね合せ、この部分を高周波ウエルダーによつて溶着したり、或いは溶着部分を外部から見えないようにして体裁よくするには、予じめある程度大きな孔部を残しておき、全ての側端部を溶着した後上記孔部を介して裏・表を逆にし、バルーンの内部に溶着部を隠すようにしている。」(1頁20行?2頁9行) 7 甲第9号証(英国特許第1555634号明細書) (括弧内に訳文を付した。) (1)「This invention relates to sportsballs. It has previously been proposed to produce a sportsball having a hollow core or bladder of reinforced rubber on the surface of which leather, or synthetic leather, panels are secured by adhesive to provide the “feel” and appearance of a sewn leather ball. Such sportsballs do not have the local flexibility when kicked that sewn leather balls have and are not acceptable for use in high class games. The present invention aims to provide a sportsball which acts more like a sewn leather sportsball than the above-mentioned previously proposed sportsballs do.」(1頁9行?23行) (本発明はスポーツボールに関する。 強化ゴムの中空コア又はブラダーを有するスポーツボールを製造することが以前に提案されており、スポーツボールの表面には、縫合革製ボールの「感触」及び外観を提供するために、皮革、又は合成皮革、パネルが接着剤によって固定される。このようなスポーツボールは、縫合革製スポーツが蹴られたときに有する局所的な可撓性を有せず、一流のゲームに使用するには受け入れられない。 本発明は、上述の以前に提案されたスポーツボールよりも縫合革製スポーツボールのように作用するスポーツボールを提供することを目的とする。) (2)「The panels 2 are each formed with in-turned edge portions 4 which in the case of knife-cut panels are turned in by compression in the presence of steam and in the case of flowmoulded panels are produced in the flowmoulding process.」(2頁4行?10行) (パネルの各々は、内側に曲がった縁部部分4が形成されており、これらの縁部部分は、ナイフで切断されたパネルの場合、蒸気の存在下で圧縮によって内側に曲げられ、また流動成形されたパネルの場合、流動射出成形工程で製造される。) (3)「The above-described ball has…略…. It also has the following advantages over previously proposed balls having a bladder with panels secured thereto,…略…and that the contoured surface of the ball and the hidden panel edges provide an appearance very similar to a hand-sewn ball.」(2頁78行?96行) (上述のボールは、…略…。 上述のボールはまた、パネルがブラダーに固定された当該ブラダーを有する以前に提案したボールと比べ、次の利点を有し、…略…、そしてボールの起伏ある表面及び隠れたパネル縁部により、手縫いボールに非常によく似た外観が提供される。) (4)FIG.1.及びFIG.2.から、ナイフで切断して折り曲げることで形成されたパネル2の縁部部分4が内側に曲がっている角度は、略90度であることが見て取れる。 8 甲第10号証(実公昭30-10612号) 「5は独立起泡を有するスポンヂゴムの緩衝帯にして最初適油の厚みのスポンヂゴム板を約1mm前後に剥き之に表皮革6(厚さ約1mm)の表面に強力接着剤にて貼合せたものを所定の球の12等分の面積、即ち凸起区劃紐4にて区劃された扇形状に切断しよく接着するために其の周縁先端部から5mm程度を160度位の角度に剥きたるものを表面が皮革になる様に凸起区劃紐4で区劃された前記球3の表面に強力接着剤にて貼着し加圧加硫して一体と成す構造である。されば本考案は、・・・スポンヂゴム5は緩衝帯にして球技上レシーブ及スパイク等の際、指先、掌、腕、肩に生ずるショックを緩和す。」(1頁左欄31行?同頁右欄12行) 9 甲第11号証(実願平3-59560号(実開平5-5157号)のCD-ROM) (1)「【請求項1】 圧搾空気が封入される球形中空体のゴム製チューブ、該チューブを被覆して形成された複数枚の人工皮革パネルを縫い合わせてなる表面層を具備してなる球技用ボールのための人工皮革パネルであって、該人工皮革パネルは、外側から合成樹脂表皮層、不織布層、単層又は複数層の布層、合成樹脂又はゴムよりなる弾力性を有する発泡層、単層又は複数層の布層を接着積層してなることを特徴とする球技用ボールのための人工皮革パネル。」 (2)「【0005】 【考案が解決しようとする課題】 図2に示すように、発泡層4を皮革パネルのバッキング材料として使用すると、蹴球時の感触が軟らかく、又足に食い込み、コントロールがし易い等サッカーボールの皮革パネルとして適している。しかしながら、かかる皮革パネルを使用したサッカーボールは、石やコーナーポスト等の鋭角部分に衝突した際に、破れ易いという問題がある。即ち図2にAにて示す如く、表皮層2及び不織布3が破れた場合、その下の層である発泡層4が機械的に極めて弱いために、この破れが簡単に拡大していき、ボールの寿命を短くしてしまうことが多い。更に、発泡層による重量アップ分、バッキング布を削減する必要があることから、強度が低下し、耐久性(使用により、ボールが大きくなる)が悪化するという問題がある。」 (3)「【0008】 【実施例】 図1は、本考案一実施例を示し、人工皮革パネル10は、外側からウレタン樹脂等耐摩耗性を有する合成樹脂表皮層2、不織布層3、綿布、ポリエステル、綿混紡布、ポリエステル布等よりなる2枚の布層11,12、EPDM、天然ゴム、クロロプレンゴム等のゴム又はウレタン、ポリエチレン、ポリスチレン、酢酸ビニル等の合成樹脂よりなる弾力性を有する発泡層14、前述の布と同様の2枚の布層15,16の積層構造よりなり、合成樹脂表皮層2及び不織布層3よりなる従来の人工皮革に、バッキング材として上記部分がそれぞれラテックスゴム糊等により接着されてなる。8は隣接する皮革パネル10,10同士を縫い合わせる糸、9はブチルゴムよりなる前述のチューブである。尚、上記布層11,12、15,16は各2枚ずつとしたが、これらは単層とすることができる。 【0009】 かかる構造であれば、ボールに鋭角的衝撃が加わり、Aにて示すように合成樹脂表皮層2及び不織布層3が破れたとしても、その下層の布層11,12が強靱であるために、これより下層に破れが拡がることはない。即ち、発泡層14は、この布層11,12にて保護される。」 第6 当審の判断 1 本件特許発明1について (1)引用発明1 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証(仏国特許出願公開第2443850号明細書)には、上記第5、1(1)ないし(6)の記載からみて、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「サッカー等に利用されるスポーツボールに関し、 一般に、こうしたボールは、縫合された断片で形成された外側の皮革外被材と、外被材の中に収容された膨張可能な空気袋とからなるが、かかるボールは、手工業的に手作業で製造されるため高価であるため、縫い目に似せた隆起部分を付与しようとの試みで縁端が装飾された皮革片を、空気袋の上に直接接着することによってかかるボールを工業的に製造することが考案されたが、皮革片の接着が剥がれるリスクを回避する空気袋を実現しなければならないことに加え、その外表面は、縫合されたボールと比べて低い隆起しか有しないという問題があったため、 手工業的に実現されたボールの外観を有するボールを工業的に実現することを目的の一つとして、 膨張可能な空気袋と、空気袋の表面に発泡PVC等からなる柔軟で弾性を有する材料により接着された複数の皮革片からなる外被材とを備えるタイプのボールにおいて、 前記皮革片は、空気袋の側に向くよう定められた面において椀部を形成するように構成され、この椀部に、前記柔軟で弾性を有する材料が詰め込まれ、四角形、六角形、又は他の形状を取り、中心部ではゆるやかな曲面であり、周辺端部に近い領域では急な曲面であり、この急な曲面領域から周辺端部に至る領域ではゆるやかな曲面あるいは平面であって、その裏面である空気袋側が凹面になるように曲げられ、該裏面である凹面には前記材料が完全に接着しており、 膨張させた空気袋の上に熱重合性若しくは非熱重合性プラスチック材料か、又は単に接着剤を含浸した糸が一様に巻回されて実現された被覆材を備え、該被覆材は、事前に接着剤を付与されるか、又は皮革片の熱溶着か、あるいは非熱溶着が可能な材料が塗布され、 前記皮革片が、空気袋の前記被覆材の全表面を覆い尽くすように、互いに突き当てられるように置かれて、その周辺端部のみで接するようにされ、前記被覆材と一体に連結された 非常に耐久性が高く、完全に仕上げられた外観を呈し、且つ手工業的に実現されたボールにきわめて類似した表面を呈するスポーツボール。」 (2)本件特許発明1と引用発明1との対比 ア 引用発明1の「膨張可能な空気袋」、「膨張させた空気袋の上に熱重合性若しくは非熱重合性プラスチック材料か、又は単に接着剤を含浸した糸が一様に巻回されて実現された被覆材」及び「『空気袋の被覆材の全表面を覆い尽くすように、互いに突き当てられるように置かれて、その周辺端部のみで接するようにされ、前記被覆材と一体に連結された』た『複数の皮革片』」は、それぞれ、本件特許発明1の「圧搾空気が封入された球形中空体の弾性チューブ」、「チューブ表面全面に形成された補強層」及び「補強層上に接着された複数枚の皮革パネル」に相当する。 イ 引用発明1の「サッカー等に利用されるスポーツボール」は、空気袋の表面に皮革片が接着されているから、「球技用貼りボール」であることは明らかである。 ウ 引用発明1において、「柔軟で弾性を有する材料」は「皮革片の裏面である凹面に完全に接着している」ものであるから、引用発明1の「柔軟で弾性を有する材料」は、「皮革パネルの裏面に接着せしめられた部材」といえ、引用発明1の「椀部を形成するように構成され」、「裏面である空気袋側が凹面になるように曲げられ」た「皮革パネル(皮革片)」は、「柔軟で弾性を有する材料が詰め込まれ」ていることにより、所定の厚みを維持していることが明らかであり、その材料の量を減らすとその厚みを維持できなくなり薄くなることが明らかであるから、引用発明1の「柔軟で弾性を有する材料」は、「厚さを調整する厚さ調整部材」といえる。 よって、引用発明1の「柔軟で弾性を有する材料」は、本件特許発明1の「皮革パネルの裏面」に「接着せしめられ」た「厚さを調整する厚さ調整部材」に相当する。 エ 上記ア及びウによれば、引用発明1の「裏面に『厚さ調整部材(柔軟で弾性を有する材料)』が接着された『皮革パネル(皮革片)』」は、「チューブ表面全面に形成された補強層」に「厚さ調整部材(柔軟で弾性を有する材料)」により接着され、「空気袋の被覆材の全表面を覆い尽くすように、互いに突き当てられるように置かれて、その周辺端部のみで接するようにされ、前記被覆材と一体に連結された」ものであるから、引用発明1の「複数の皮革パネル(複数の皮革片)」は、補強層上に「直接」接着されたものである。 オ 引用発明1の「皮革パネル(皮革片)」は、「空気袋の側に向くよう定められた面において椀部を形成するように構成され、この椀部に、『厚さを調整する厚さ調整部材(柔軟で弾性を有する材料)』が詰め込まれ」、「中心部ではゆるやかな曲面であり、周辺端部に近い領域では急な曲面であり、この急な曲面領域から周辺端部に至る領域ではゆるやかな曲面あるいは平面であって、その裏面である空気袋側が凹面になるように曲げられ、該裏面である凹面には前記『厚さを調整する厚さ調整部材(柔軟で弾性を有する材料)』が完全に接着して」おり、「空気袋の被覆材の全表面を覆い尽くすように、互いに突き当てられるように置かれて、その周辺端部のみで接するようにされ、前記被覆材と一体に連結された」ものであるから、本件特許発明1の「『その周縁部が前記弾性チューブ側に折り曲げられる折り曲げ部を有し、前記皮革パネルの折り曲げ部にて囲まれた前記皮革パネルの裏面に、厚さを調整する厚さ調整部材が接着せしめられ』ている『皮革パネル』」と、「その周縁部が前記弾性チューブ側に曲げられる曲げ部を有し、前記皮革パネルの曲げ部にて囲まれた前記皮革パネルの裏面に、厚さを調整する厚さ調整部材が接着せしめられ」ている点で一致し、その「急な曲面領域」が本件特許発明1の「曲げ」の箇所に相当し、引用発明1の「急な曲面領域から周辺端部に至る領域」が本件特許発明1の「曲げ部」に相当する。そして、引用発明1において、空気袋の被覆材の全表面を覆い尽くすように、互いに突き当てられるように置かれて、その周辺端部のみで接するようにされる「皮革パネル(皮革片)」は、「曲げ部(急な曲面領域から周辺端部に至る領域)」で隣接する「皮革パネル(皮革片)」と接触していることが明らかであるところ、本件特許発明1の「皮革パネル」がその「隣接する皮革パネルとの接合部」において「隣接する皮革パネル」と接触することは明らかである。 よって、引用発明1の「皮革パネル」と本件特許発明1の「皮革パネル」とは、「その周縁部が前記弾性チューブ側に曲げられる曲げ部を有し、前記皮革パネルの曲げ部にて囲まれた前記皮革パネルの裏面に、厚さを調整する厚さ調整部材が接着せしめられ、前記皮革パネルの曲げ部において、隣接する皮革パネルと接触する」ものである点で一致する。 カ 次に、引用発明1の「弾性チューブ側に曲げられる曲げ部」が、本件特許発明1の「弾性チューブ側に折り曲げられる折り曲げ部」といえるかどうかについて検討する。 (ア)本件特許発明1の「皮革パネル」は、「皮革パネルは、その周縁部が前記弾性チューブ側に折り曲げられる折り曲げ部を有し、前記皮革パネルの折り曲げ部にて囲まれた前記皮革パネルの裏面に、厚さを調整する厚さ調整部材が接着せしめられ、前記皮革パネルの折り曲げ部に設けられる接合部において、隣接する皮革パネルと接着されてなる」ものである。 (イ)ここで、「折り曲げる」とは「折って曲げる」ことであり、「折る」とは「直線状または平面であるはずのものに力を加えて急角度にまげる」ことである(広辞苑第五版)。 してみると、通常「折り曲げる」とは、「直線状または平面であるはずのものに力を加えて急角度に曲げる」ことを意味するものである。 (ウ)一方、本件特許明細書には「【0025】図2および3に示すように、皮革パネル6,6,‥‥‥は、その端部が裏面側へ略180度折り込まれている。それ故、皮革パネル6,6,‥‥‥の接合端部は、断面ほぼ半円形となり、縫いボールの溝と同一形状の溝7が形成される。皮革パネル6,6,‥‥‥のカバーゴム層5への接着の際、皮革パネル6,6,‥‥‥同士の突き合わせた接合部を接着してもよい。かかる構造とすれば、皮革パネル6,6,‥‥‥の接合部において両者が分離することがなく、貼り目からの水分などの侵入が防止され、さらにボール自体の膨脹が抑制されることにより耐久性が向上する。 【0026】皮革パネル6の端部を裏面側に折り込むばあい、その折り込み部分は、図3に示すように折り込み部8,8,‥‥‥の中間にV字状の切り込み9,9,‥‥‥を設ける必要がある。多角形皮革パネル6の各辺S,S,‥‥‥は、球面に沿わせるためにわずか外側へ湾曲せしめられているからである。折り込み部8,8,‥‥‥の幅は、約1?10mm好ましくは約3mmとすることができる。」との記載がある。 (エ)また、本件特許明細書には「【0032】図7は、別の形態を示し、皮革パネル14の周縁部が内側へ、角部が丸みをもって略90度折り込まれ、この折り込まれた部分にて厚さ調整部材15の側面を被覆したものである。皮革パネル14には、前述の皮革パネル6と同様、その裏面に補強のため織布等のバッキング材を被着してもよく、この場合、皮革パネル14とは、かかるバッキング材を含む意味として使用される。厚さ調整部材15は、織布16と、衝撃緩衝部材17の2層構造からなる。ここで、織布16は、前述の厚さ調整部材10と同一材料が使用でき、織布1枚又は2枚重ねた層とすることができる。また衝撃緩衝部材17もまた、前述の衝撃緩衝部材12と同一材料が使用できる。これらの材料は、天然ラテックス、クロロプレン(CR)系接着剤、プリウレタン(PU)系接着剤等の接着剤にて互いに接着され、かつ皮革パネル14裏面に接着されている。厚さ調整部材15を接着した皮革パネル14は、前述の例と同様、カバーゴム層5上にCR系接着剤にて接着されている。皮革パネル14の全体の厚さは、2?10mm、このうち衝撃緩衝部材17の厚さは、1?7mmとすることができる。かかる構造であれば、略90度折り曲げた皮革パネル14の周縁に溝7が形成される。この溝7が形成される皮革パネル14の接合部が開くのを防止するために、この接合部は、PU系接着剤等にて接着される。これにより、水分が突き合わせ部から侵入するのを防ぐことができ、また接合部が開くことがないから一定の美観を長期間維持できる。また皮革パネル14及び厚さ調整部材15の剥離を防止でき、ボールの耐久性を向上させることができる。 【0033】図8?図10は、皮革パネル14及び厚さ調整部材15の接着方法を示し、例えば6角形に裁断した皮革パネル14の裏面に厚さ調整部材15、すなわち織布16、続いて衝撃緩衝部材17が積層されて天然ラテックス、CR系接着剤、PU系接着剤等の接着剤にて接着される。皮革パネル14の周縁部には、厚さ調整部材15を覆う折り曲げ部19が形成されている。皮革パネル14の各角部は、図8に示すように、折り曲げたとき尖った部分が形成されないよう、丸く裁断されている。皮革パネル14は、折り曲げ部19に上記同様の接着剤が塗布された後、厚さ調整部材15の形状に略等しい形状の凹部20を有する金型21にて、皮革パネル14及び厚さ調整部材15をプレスすることにより形成される。このとき折り曲げ部19は折れ曲がり、厚さ調整部材15の側面を被覆してこれに接着する(図9、10)。パネル突き合わせ部の接着は、皮革パネル14の折り曲げ部19と、これに隣接する皮革パネル14の折り曲げ部19とを接着することによりなされる。」との記載もある。 (オ)上記(ウ)の「皮革パネル6,6,‥‥‥は、その端部が裏面側へ略180度折り込まれている。それ故、皮革パネル6,6,‥‥‥の接合端部は、断面ほぼ半円形となり、縫いボールの溝と同一形状の溝7が形成される。」の記載及び上記エの「皮革パネル14の周縁部が内側へ、角部が丸みをもって略90度折り込まれ、…(略)…厚さ調整部材15を接着した皮革パネル14は、前述の例と同様、カバーゴム層5上にCR系接着剤にて接着されている。皮革パネル14の全体の厚さは、2?10mm、このうち衝撃緩衝部材17の厚さは、1?7mmとすることができる。かかる構造であれば、略90度折り曲げた皮革パネル14の周縁に溝7が形成される。この溝7が形成される皮革パネル14の接合部が開くのを防止するために、この接合部は、PU系接着剤等にて接着される。」の記載によれば、皮革パネルの端部あるいは周縁部を裏面側あるいは内側へ略180度又は略90度折り込む目的は、折り込んだ後の皮革パネルの端部あるいは角部を断面ほぼ半円形または丸みをもった形状として、隣接する皮革パネルの接合部に形成される溝の形状を縫いボールの溝の形状と同一形状にすることである。 (カ)そうすると、折り込んだ後の皮革パネルの端部あるいは角部の断面ほぼ半円形または丸みをもった形状とは、皮革パネルの表面あるいは外面の形状を意味していることが明らかであるところ、折り込んだ後の皮革パネルの端部あるいは角部の表面あるいは外面の形状を、隣接する皮革パネルの接合部に形成される溝の形状が縫いボールの溝の形状と同一形状となるような断面ほぼ半円形または丸みをもった形状となすためには、折り込んだ後の皮革パネルの端部あるいは角部の裏面あるいは内面の形状は、折り目を挟んで中央部の面と周縁部の面とが区別される程度に急角度で曲がっている必要があるものと解される。 (キ)上記(オ)及び(カ)からすれば、本件特許発明1の「皮革パネル」における「その周縁部が前記弾性チューブ側に折り曲げられる折り曲げ部を有し」との発明特定事項を備えているといえるためには、完成した「球技用貼りボール」の「弾性チューブ表面全体に形成された補強層上」に「接着された複数の皮革パネル」の「周縁部」が弾性チューブ側に曲がっており、その曲がっている箇所において、皮革パネルの裏面(曲げる前の裏面)に、曲げたことによる折り目ができ、該裏面がその折り目を挟んで中央部の面と周縁部の面とに区別される程度に皮革パネルの裏面が急角度で曲がっている必要があるものと解され、そのようになっている場合に、皮革パネルの周縁部が弾性チューブ側に曲げられた箇所は「折り曲げられ」たものであるといえる。 (ク)一方、引用発明1の「皮革パネル(皮革片)」は、「中心部ではゆるやかな曲面であり、周辺端部に近い領域では急な曲面であり、この急な曲面領域から周辺端部に至る領域ではゆるやかな曲面あるいは平面であって、その裏面である空気袋側が凹面になるように曲げられ」たものであるから、その「曲げ」の箇所である「急な曲面領域」の裏面は、甲第3号証のFIG.4からみても、「曲げたことによる折り目」ができているとはいえない。 したがって、引用発明1は、「折り目を挟んで中央部の面と周縁部の面とに区別される程度に皮革パネルの裏面が急角度で曲がっている」とはいえないから、上記(キ)に照らして、引用発明1の「弾性チューブ側に曲げられる曲げ部」は、皮革パネルの周縁部が「折り曲げられ」たものではない。 よって、引用発明1の「曲げ部」は「折り曲げ部」ではない。 キ したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、 「圧搾空気が封入された球形中空体の弾性チューブと、 該チューブ表面全面に形成された補強層と、 該補強層上に直接接着された複数枚の皮革パネルとを備えた球技用ボールにおいて、 前記皮革パネルは、その周縁部が前記弾性チューブ側に曲げられる曲げ部を有し、前記皮革パネルの曲げ部にて囲まれた前記皮革パネルの裏面に、厚さを調整する厚さ調整部材が接着せしめられ、 前記皮革パネルの曲げ部において隣接する皮革パネルと接触する球技用貼りボール。」 の点(以下「一致点」という。)で一致し、次の点で相違している。 相違点1: 本件特許発明1では、前記皮革パネルの周縁部が「折り曲げられ」たものであって、前記「曲げ部」が「折り曲げ部」であるのに対して、引用発明1では、前記皮革パネルの周縁部は「折り曲げられ」たものではなく、前記「曲げ部」は「折り曲げ部」ではない点。 相違点2: 本件特許発明1では、皮革パネルが、該皮革パネルの折り曲げ部に設けられる接合部において、隣接する皮革パネルと接着されているのに対して、引用発明1では、隣接する皮革パネル同士は接触しているものの、接着されていない点。 (3)上記相違点1及び2についての判断 上記相違点1及び2について検討する。 ア 相違点1について (ア)甲第4号証には、「周縁部において互いに接続された、特に縫合された多数の個々の要素1からなるボールカバーの内側に空気注入式のブラダーが設けられたサッカーボールにおいて、 前記個々の要素1は、その周縁部を内側へ略90度折り曲げた折り曲げ部4があり、その外側が接合面5となっており、隣接する個々の要素1は、この接合面5で互いに接合されており、吸水をできるだけ簡素でかつ低廉に低減させることができるように、隣接する個々の要素1の部位4の接合面5の間には、シーリング部材6が設けられ、部位4のところで糸7によって縫い合わされて結合されているボールカバーを備えたサッカーボール。」(上記第5、2(1)ないし(3)参照。)の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 (イ)その周縁部が内側(弾性チューブ側)に折り曲げられる折り曲げ部を有する皮革パネルからなる縫いボールは、本件特許の優先日前に周知である(例.甲第4号証(上記第5、2(1)ないし(3)及びFig.2参照。「パネル2及び3の個々の要素1」が「皮革パネル」に相当する。)、甲第7号証(上記第5、5(1)ないし(3)及び第三図参照。「皮革片(イ)(イ)」、「折り返し」及び「ゴム球袋(ヘ)」が、それぞれ「皮革パネル」、「折り曲げ」及び「弾性チューブ」に相当する。)以下「周知技術1」という。)。 (ウ)しかるに、引用発明1は、従来の貼りボールにおける「その外表面は、縫合されたボールと比べて低い隆起しか有しないという問題」を解決するために、「皮革パネル(皮革片)」を「空気袋の側に向くよう定められた面において椀部を形成するように構成され、この椀部に、前記柔軟で弾性を有する材料が詰め込まれ、四角形、六角形、又は他の形状を取り、中心部ではゆるやかな曲面であり、周辺端部に近い領域では急な曲面であり、この急な曲面領域から周辺端部に至る領域ではゆるやかな曲面あるいは平面であって、その裏面である空気袋側が凹面になるように曲げられ、該裏面である凹面には前記材料が完全に接着」したものとしているところ、例えば、引用発明2又は周知技術1の「折り曲げ部」の構成を引用発明1の皮革片の急な曲面領域から周辺端部に至る領域に適用すると、その「折り曲げ」の箇所において、相当大きな角度で曲げられることになり、前記箇所よりも中心部に近い内側の部分は平坦に近い状態になってしまうから、大きな隆起を形成することができなくなり、引用発明1の「隆起部分」の形成という目的にそぐわない。 (エ)また、引用発明1のボールはいわゆる貼りボールであるのに対し、引用発明2及び周知技術1のボールはいずれもいわゆる縫いボールであり、引用発明2及び周知技術1の「折り曲げ部」はいずれも縫い合わせのためのものと認められるところ、縫いボールにおいて、「折り曲げ」は、縫うことによって必然的に生じるものであり、両者は一体不可分の構成ということができるから、縫いボールの発明である引用発明2又は周知技術1の「折り曲げ部」の構成を貼りボールの発明である引用発明1に適用する理由がない。 (オ)上記(ウ)及び(エ)より、引用発明1において、本件特許発明1の上記相違点1に係る構成となすことが、当業者が引用発明2又は周知技術1に基づいて容易になし得たこととはいえない。 イ 相違点2について (ア)複数の皮革パネルを下層に接着して皮革パネルで球体を構成して製造する球技用ボールにおいて、隣接する皮革パネル同士も接着することは、本件特許の優先日前に周知である(例.甲第5号証(上記第5、3(1)ないし(3)及び第2図参照。「皮革片3」及び「整形層2」がそれぞれ「皮革パネル」及び「下層」に相当する。)、甲第6号証(上記第5、4及び第6図参照。「皮革素子」及び「薄帯9」がそれぞれ「皮革パネル」及び「下層」に相当する。)以下「周知技術2」という。)。 (イ)ここで、引用発明1の曲げ部において、隣接する「皮革パネル(皮革片)」同士を接着するためには、両皮革パネルが接触する領域がある程度の広がりを持つ必要があると考えられるところ、そのようになすためには、前記「皮革パネル」の周縁部に引用発明2又は周知技術1における縫いボールの折り曲げ部のような部分を形成する必要があると認められる。 (ウ)しかるに、上記ア(ウ)のとおり、引用発明1において、引用発明2又は周知技術1に係る縫いボールの折り曲げ部の構成を採用することが、引用発明1の目的にそぐわないものである以上、たとえ隣接する「皮革パネル(皮革片)」同士を接着することが周知技術であるとしても、皮革パネルに折り曲げ部のような部分を形成して該部分に「接合部」を設け、該接合部において隣接する皮革パネル同士を接着するようになすこと、すなわち、本件特許発明1の上記相違点2に係る構成となすことが容易ということはできない。 ウ 上記ア及びイによれば、引用発明1において、上記相違点1及び2に係る本件補正発明1の構成となすことが、引用発明2、周知技術1ないし周知技術2に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。 エ まとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできず、また、甲第3号証に記載された発明及び甲第5ないし8号証に例示された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。 よって、本件特許発明1は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから、請求人が主張する無効理由1によっては、本件特許発明1についての特許を無効にすることはできない。 2 本件特許発明2ないし4、6ないし9について (1)請求項2ないし4、6ないし9は、いずれも、直接的又は間接的に請求項1を引用しており、それぞれ請求項1に係る発明を特定する事項を更に限定したものである(上記第2参照。)。 したがって、本件特許発明2ないし4、6ないし9は、いずれも、本件特許発明1の構成要素をすべて含み更に限定を付加したものに相当する。 (2)そうすると、上記1(3)エで述べたとおり、本件特許発明1が、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできず、また、甲第3号証に記載された発明及び甲第5ないし8号証に例示された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない以上、同様の理由により、本件特許発明2ないし4、6ないし9も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (3)よって、本件特許発明2ないし4、6ないし9は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから、請求人が主張する無効理由2ないし8によっては、本件特許発明2ないし4、6ないし9についての特許を無効にすることはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし4、6ないし9に係る発明についての特許を無効とすることができない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-05-09 |
結審通知日 | 2009-12-24 |
審決日 | 2010-01-07 |
出願番号 | 特願2000-550565(P2000-550565) |
審決分類 |
P
1
123・
121-
Y
(A63B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大澤 元成 |
特許庁審判長 |
服部 秀男 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 笹野 秀生 |
登録日 | 2008-07-18 |
登録番号 | 特許第4155708号(P4155708) |
発明の名称 | 球技用ボール |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 古橋 伸茂 |
代理人 | 岡本 尚美 |
代理人 | 玉串 幸久 |
代理人 | 小林 浩 |
代理人 | 小谷 昌崇 |
代理人 | 岡本 尚美 |
代理人 | 古橋 伸茂 |
代理人 | 服部 誠 |
代理人 | 服部 誠 |
代理人 | 小林 浩 |