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審決分類 審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  D06F
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  D06F
管理番号 1244449
審判番号 無効2011-800017  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-02-03 
確定日 2011-10-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第2690256号発明「アイロンローラなどの洗濯処理ユニットへフラットワーク物品を供給するための装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第2690256号の請求項1?8に係る発明(以下「本件特許発明」という。)についての出願は、平成5年1月28日(パリ条約による優先権主張1992年1月29日、デンマーク王国)に出願され、平成9年8月29日にその発明について特許権の設定登録がされた。
2.平成11年2月15日に、本件特許第2690256号の願書に添付した明細書の訂正をすることについて審判が請求され(訂正11-39016号)、同年8月16日に、同明細書を請求書に添附した明細書のとおり訂正することを認めるとの審決がなされ、これが確定した。
3.平成13年7月28日に、大豊物産株式会社より、請求項1?9に係る特許を無効とすることについて審判の請求がされ(無効2001-35330号)、被請求人から願書に添付した明細書の訂正の請求がされ、平成15年1月29日に、訂正を認める、審判の請求は成り立たないとの審決がなされ、これが確定した。
4.請求人 東都フォルダー工業株式会社は、平成23年2月3日に本件特許無効審判を請求した。
5.被請求人 イエンセン デンマーク アクティー ゼルスカブは、平成23年4月28日に答弁書を提出した。
6.請求人は、平成23年6月30日に口頭審理陳述要領書を提出した。
7.被請求人は、平成23年7月12日に口頭審理陳述要領書を提出した。
8.平成23年7月26日に第1回口頭審理を行った。

第2 請求人の主張
請求人は、本件特許は、(1)発明の詳細な説明にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度にその発明の目的・構成及び効果が記載されていないから、平成6年法律第116号附則第6条第2項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法第36条第4項の規定に違反するので、特許法123条第1項第4号に該当し、また(2)無効審判2001-035330号における訂正が、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもないから、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に違反するので、平成15年法律第47号附則第2条第11項でなお従前の例によるとされた、平成6年法律第116号による改正前の特許法第123条第1項第7号に該当する。したがって、本件特許は無効とすべきと主張し、証拠方法として甲第1?7号証を提出している。

甲第1号証 無効審判2001-35330号の審決公報
甲第2号証 無効審判2001-35330号において、平成14年11月1日に被請求人が提出した上申書
甲第3号証 被請求人の製品カタログ
甲第4号証の1 ブラウン・アルファ装置のカタログの写し
甲第4号証の2 請求人作成のブラウン・アルファ装置の全体図
甲第4号証の3 請求人作成のブラウン・アルファ装置の作動図
甲第5号証 無効審判2001-35330号において、平成14年2月21日に被請求人が提出した答弁書の写し
甲第6号証 米国特許第4967495号明細書及びその翻訳文の写し
甲第7号証 プレックス社の製品のカタログの写し

そしてその具体的理由として、概略、以下のような主張をしている。
1.取消理由1(36条4項)について
「昇降手段のレール手段」がどのような構成か、詳細な説明及び図面から明らかでない。
(1)「昇降手段のレール手段」について
詳細な説明の段落【0006】【0007】【0009】【0010】【0012】【0013】【0014】【0017】【0019】の記載や図1、2をみても明らかでない。
図2ではスライド16に取り付けられたクランプ17が上昇するとレール手段7あるいは油圧シリンダ20に接触して上昇できないように見え、明細書の記載と矛盾し、昇降手段のレール手段の構成が明らかでなく、発明を実施できない。

(2)「昇降手段のレール手段に沿って昇降移動自在のスライド」の駆動手段について
キャリッジの駆動手段については段落【0018】に説明されているのに対して、「昇降手段のレール手段」について、「昇降手段のレール手段に沿って昇降移動自在のスライド」がどのように駆動するか、その駆動手段についてすら、説明されていない。
無効審判2001-035330号(以下「先の無効審判」という。)での被請求人の上申書である甲第2号証でも「昇降手段の構成をより明瞭にして本件審判に係る無効理由1に該当する可能性をより確実に排除するためです。」と先行技術との差異を明確にするものであるから、昇降手段のレール手段は従来技術でない。

(3)先の無効審判での被請求人の主張について
先の無効審判での被請求人の答弁書である甲第5号証では、本件特許発明と甲第4号証の1のパンフレットに記載されたものとほぼ同型のブラウン・アルファ装置とは、本件特許発明の特徴的部分の1つである、フラットワーク物品が前記昇降手段のレール手段(15)に沿って昇降移動自在のスライド(16)の一対のクランプ(17、18)に挿入され、前記スライド(16)が、操作位置より実質的に高い位置に設けられた前記一対のキャリッジ(8、9)に対してフラットワーク物品を上向きに動かすことを特徴とする装置である点で異なり、同じく他の証拠である甲第6号証でもその構成を示唆しない、と述べている。
そして、ブラウン・アルファ装置における昇降手段が、本件特許発明の解決する課題と同じ課題を解決する部分であって、昇降手段についての乙第1号証や参考資料1?4の装置が周知であっても、上記のように、特許法第29条第2項での当業者が、そのようなブラウン・アルファ装置に基づいて、本件特許発明について容易に発明をすることができないのであるから、特許法第36条第4項の当業者は、詳細な説明で充分で説明されていない昇降手段について、実施することができないことは明らかである。
本願の段落【0019】や図2には昇降手段のレール手段についてスライドが直線状のレール手段を往復するものという以外に記載がなく、特許法第36条第4項の当業者は乙第1号証の大型の機械を小型化し発明の装置に適用できるように改変することは困難であるとともに、乙第1号証のものの駆動手段をどのように適用するかも明らかでない。

(4)乙第2号証の「報告書」について
ベテラン従業員が実施できると述べているだけであって、明細書の実施可能要件を充足するとはいえない。
他の公報の記載が実施可能要件を充足するかどうかは本件と関係がない。
被請求人は、特許法第29条第2項の当業者が他の特許公報等の公知技術を考慮しても、挿入装置とキャリッジの間をレール手段に沿って昇降移動するものを容易に想到することができないと主張しているにもかかわらず、特許法第36条の当業者が乙第1号証に記載されたものを小型化して適用でき、さらには参考資料1?4をみれば実施できるということは認められない。
明細書の段落【0019】に記載された直線状のレール手段を往復するものと動きが異質の、乙第1号証の例えばエスカレータを、本件特許発明に適応させるように小型化し、かつフラットワーク物品を受け渡すように創作することを強いるものであって、実施できない。
したがって乙第2号証の報告は信用できない。

2.取消理由2(訂正請求の目的違反)について
訂正請求は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするとの要件を満たさなければならないが、「昇降手段のレール手段」がどのように駆動されるか、その構成が全くわからないため、減縮にあたるか否か判断ができない。
訂正前に含んでいた引用例のレールを持ち上げることを除外するものであるとしても、「昇降手段のレール手段」の構成全体や駆動手段が不明であるので、判断対象の構成が不明確で何を目的とするのか判断できない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、特許法第36条第4項の規定に違反するとして請求人が主張する無効理由は存在せず、訂正請求の目的についても違反せず無効理由は存在しないと主張し、証拠方法として乙第1及び2号証並びに参考資料1?4を提出している。

乙第1号証 日本機械学会編、「機械工学便覧」、改訂第6版、日本機械学会、昭和52年7月15日、p.16-14,16-15,16-29,16-39,16-41
乙第2号証 本件特許に係る特許権の専用実施権者である株式会社プレックスの従業員元木孝治が平成23年3月1日に作成した、本件特許の侵害差止等請求訴訟(東京地方裁判所平成22年(ワ)第17810号)において提出するための、「報告書」
参考資料1 特開平2-152500号公報
参考資料2 特開昭63-139599号公報
参考資料3 特開昭63-230448号公報
参考資料4 特開平2-77300号公報

そしてその具体的理由として、概略、以下のような主張をしている。
1.取消理由1(36条4項)について
(1)「昇降手段のレール手段」の構成について
「レール」は周知であり、レールが何かを説明する必要はなく、使用場面や使用目的、役割や機能、配置関係などが明らかにすれば、図面の実施例を参考に、通常の機械技術者は、具体的設計をすることはきわめて容易である。
そして、請求項1、並び段落【0006】、【0017】及び【0019】の記載から、上記事項は明らかである。
図2のみでなく図1もみると昇降手段のレール手段は実施しうる程度に明確である。

(2)「昇降手段のレール手段」の駆動について
請求項1の記載、図面の例示、並びに段落【0006】、【0017】及び【0019】の記載から、レール手段やそれに沿って昇降移動するスライドの使用目的、それぞれの役割、機能は、上記のとおり明らかであり、昇降手段のレール手段の構成と共にそれに沿って昇降移動するスライドの駆動機構について、これらの趣旨に適する駆動機構を任意に設計できる。
本件特許の優先日当時、機械関係の技術者にとって種々のものが周知であった。

(3)先の無効審判での主張について
甲第2号証の上申書の引用部分は、明りょうでない記載の釈明であり、公知例を排除するための減縮とは異なる。甲第1号証の審決も明りょうでない記載の釈明的説明と認めている。
個々の要素に新規性はなくともそれらを組み合わせた全体として新規性進歩性があれば、発明は成立する。
先の無効審判(甲第1号証)での訂正請求は、懸念を払拭するものであって、レール手段自体に特徴があるのではなく、昇降手段のレール手段のキャリッジに対する組み合わせに特徴があり、明細書及び図面の記載を参照して通常の専門家であれば実施することができたものである。請求人は当業者の能力を過小評価している。

2.取消理由2(訂正請求の目的違反)について
「昇降手段のレール手段」とする訂正事項については、甲第1号証の審決も明りょうでない記載の釈明と認めており、減縮でないから無効であるとはいえない。

第4 当審の判断
1.取消理由1(36条4項)について
「昇降手段のレール手段」について、本願の発明の詳細な説明の段落【0017】には(ア)「装置には複数の挿入装置14が設けられる。・・・(中略)・・・当該挿入装置は、それぞれ斜め上に延びると共にレール手段15を持つ昇降手段からなり、該昇降手段の下側には、下向きの一対のクランプ17、18を備えたスライド(slide)16が設けられている。当該挿入装置14を用いる操作者は、おのおののクランプ17、18に角部(corner)がくるように一対のクランプ上にフラットワーク物品を置き、そののち適切に設けられた引き外し用ボタン19を押して準備信号(ready-signal)を送信する。該準備信号はPLCによって制御された挿入動作を起こす。・・・(中略)・・・キャリッジが挿入装置に対向する位置に設けられると、スライド16は上向きに動かされ、一対のクランプ17、18がクランプ10、11を通過するときに、フラットワーク物品の角部が把持される。つぎにスライド16は、ただちに戻され、フラットワーク物品を延伸するためにキャリッジ8、9は中央に移動し対称的に離れる。」と、また段落【0019】には(イ)「クランプ10は、キャリッジ8の上に設けられており、油圧シリンダ20によって動かされる。レール手段およびキャリッジの正面にレール手段15、スライド16およびクランプ17を有する挿入装置14の1つが見える。フラットワーク物品21はクランプ17に挿入され、レール手段15に沿ったスライド16の上向きの移動によって、当該フラットワーク物品がクランプ10まで上向きに動かされる。スライド16は、クランプ10をわずかに通過するまで移動するが、同時にクランプ10がシリンダー20によって閉じられる。これにより、クランプ10は、22で示される位置、すなわちコンベアベルト5からわずかに離れた位置でフラットワーク物品を掴む。ついで、スライド16はクランプ10をかなり通過するまで移動し、クランプ10によりしっかりと把持されているフラットワーク物品21はクランプ17から解放される。クランプ10が閉じた状態においても、クランプ17を備えたスライド16が当該クランプ10を通過して元に戻るための空間的余裕が残されている。」と記載されている。
(ウ)そして図1には装置の斜視図が示され、キャリッジ8の横方向にも広がる立体的装置であることが図示されており、また、図2には、斜めになったレール手段15、その下面に配置されたスライド16、スライド16の下端に設けられたクランプ17及びクランプ17に挿入されたフラットワーク物品21が図示されるとともに、レール手段15の下方に離れて設けられたキャリッジ8、キャリッジ8の下部に設けられた油圧シリンダ20とその先端のクランプ10及びキャリッジ8の下端から下方に延びるフラットワーク物品の位置22が図示されている。

(1)レール手段15に関して
ア.レール手段15について
上記記載事項(ア)の「斜め上に延びると共にレール手段15を持つ昇降手段」及び「該昇降手段の下側には、下向きの一対のクランプ17、18を備えたスライド(slide)16が設けられている」、記載事項(イ)の「レール手段15に沿ったスライド16の上向きの移動によって」及び「スライド16は上向きに動かされ」、並びに図示内容(ウ)の「斜めになったレール手段15、その下面に配置されたスライド16、スライド16の下端に設けられたクランプ17」からみて、斜め上に延びるレール手段15の下面に、一対のクランプ17、18を下端に備えたスライド16が設けられ、スライド16は上向きにレール手段15に沿って動かされるよう構成されていることが記載されているといえる。
また、上記記載事項(ア)の「下向きの一対のクランプ17、18を備えたスライド(slide)16」及び「おのおののクランプ17、18に角部(corner)がくるように一対のクランプ上にフラットワーク物品を置き」、記載事項(イ)「フラットワーク物品21はクランプ17に挿入され、レール手段15に沿ったスライド16の上向きの移動によって、当該フラットワーク物品がクランプ10まで上向きに動かされる」、並びに図示内容(ウ)「スライド16の下端に設けられたクランプ17及びクランプ17に挿入されたフラットワーク物品21」からみて、スライド16の下端にクランプ17、18が設けられており、そこにフラットワーク物品21が挿入され当該フラットワーク物品が上向きに動かされように、クランプ17、18は挿入されたラットワーク物品21を把持されるよう構成されていることが記載されているといえる。
そして、スライド16はレール手段15の下面をレール手段15に沿って動かされるものであるから、レール手段15のレールに下面に移動可能に係合していることは明らかであって、このようなレールとスライドとの関係は、例えば、ランドリー工場の搬送手段でも参考資料2(第3頁左上欄第11?16行及び第5図等参照。)や参考資料3(第4頁右下欄第13行?第5頁左上欄第3行及び第4図等参照。)に示されるように周知であるとともに、乙第1号証の16-29頁の「トロリコンベア」や、モノレール、さらにはカーテンレール等でもそのような構造は知られているものであるから、そのようなレール手段15とスライド16の構造について具体的な記載がないとしても、発明としては、当業者が実施をすることができる程度に記載されているといわざるを得ない。たとえ、トロリコンベアやモノレールがレール手段15より大きいとしても、参考資料2,3やカーテンレール等もあり、工場内の装置や設備である、フラットワーク物品を供給するための装置を提供する当業者にとって、小型化して用いること、実施をすることができないとまではいえない。
イ.レール手段15の駆動手段について
駆動手段についても、上記参考資料2及び3やトロリコンベアではチェーン等の駆動で移動させることが示され、また、チェーンのみならずベルトやロープで移動させたり或いは自走させて移動させるようなすことも、レールを用いた移動体の駆動手段として一般によく知られたものといわざるを得ず、当業者が実施をすることができる程度に記載されているといえる。
フラットワーク物品21を把持するクランプ17、18についても、一般的にクランプの構造はよく知られているといわざるを得ない。

発明の詳細な説明には、他の部分であるキャリッジの駆動手段について詳しく記載されているのに対して、レール手段15のスライダ16の駆動手段としては、上記記載事項(ア)の「スライド16は上向きに動かされ、一対のクランプ17、18がクランプ10、11を通過する」及び「つぎにスライド16は、ただちに戻され」並びに記載事項(イ)の「スライド16は、クランプ10をわずかに通過するまで移動する」及び「ついで、スライド16はクランプ10をかなり通過するまで移動し」とスライド16の移動動作が記載されるのみであるとしても、上記したようであるから、そのことによって、レール手段15の駆動手段について、当業者が実施をすることができる程度に記載されていないとはいえない。

(2)キャリッジ8の構造に関して
上記記載事項(ア)の「キャリッジが挿入装置に対向する位置に設けられる」及び記載事項(イ)の「レール手段およびキャリッジの正面にレール手段15、スライド16およびクランプ17を有する挿入装置14の1つが見える」から、キャリッジ8はレール手段15に対向する位置に設けられるものである。
上記記載事項(ア)の「スライド16は上向きに動かされ、一対のクランプ17、18がクランプ10、11を通過するときに、フラットワーク物品の角部が把持される。」、記載事項(イ)の「クランプ10は、キャリッジ8の上に設けられており、油圧シリンダ20によって動かされる。」及び「当該フラットワーク物品がクランプ10まで上向きに動かされる。スライド16は、クランプ10をわずかに通過するまで移動するが、同時にクランプ10がシリンダー20によって閉じられる。これにより、クランプ10は、22で示される位置、すなわちコンベアベルト5からわずかに離れた位置でフラットワーク物品を掴む。」並びに図示内容(ウ)「レール手段15の下方に離れて設けられたキャリッジ8、キャリッジ8の下部に設けられた油圧シリンダ20とその先端のクランプ10及びキャリッジ8の下端から下方に延びるフラットワーク物品の位置22」からみて、キャリッジ8の下部に油圧シリンダ20とその先端のクランプ10が設けられ、油圧シリンダ20によりクランプ10が閉じてフラットワーク物品を把持するよう構成されるものであって、スライド16が上向きに動かされて通過するときに、スライド16の下端のクランプ17に把持されたフラットワーク物品の角部を把持できるような、レール手段15の下方に離れた位置に、クランプ10が配置されているといえる。つまりスライド16の下端のクランプ17はキャリッジ8の下部のクランプ10の近傍を通過するような位置に配置されている。
したがって、キャリッジ8の構造についても、当業者が実施をすることができる程度に記載されているといえる。

(3)レール手段15とキャリッジ8の関係について
上記記載事項(ア)の「スライド16は上向きに動かされ、一対のクランプ17、18がクランプ10、11を通過するときに、フラットワーク物品の角部が把持される。つぎにスライド16は、ただちに戻され、」及び記載事項(イ)の「スライド16は、クランプ10をわずかに通過するまで移動するが、同時にクランプ10がシリンダー20によって閉じられる。これにより、クランプ10は、22で示される位置、すなわちコンベアベルト5からわずかに離れた位置でフラットワーク物品を掴む。ついで、スライド16はクランプ10をかなり通過するまで移動し、クランプ10によりしっかりと把持されているフラットワーク物品21はクランプ17から解放される。クランプ10が閉じた状態においても、クランプ17を備えたスライド16が当該クランプ10を通過して元に戻るための空間的余裕が残されている。」からみて、クランプ10がクランプ17の通過するときにシリンダー20により閉じられてフラットワーク物品の角部を把持し、クランプ17から解放されるものである。なお、フラットワーク物品のクランプ17からの解放については、クランプ10と同様にシリンダー20等により動作させて解放することや、クランプ17上に動いているのであるから、引きはがされるようなすことも、当業者であれば直ちに想到できることにすぎず、実施をすることができたといえる。参考資料2及び3にもチャックオープナが示されている。
一方、フラットワーク物品の角部はクランプ17からクランプ10へ受け渡されるものであり、近傍を通過することが必要であるが、クランプ17とクランプ10が衝突しては上記作動はできないことも自明である。
しかしながら、記載事項(イ)の「クランプ17を備えたスライド16が当該クランプ10を通過して元に戻るための空間的余裕が残されている」は、空間的に衝突しないように設計することを示唆しており、また、図示内容(ウ)「キャリッジ8の横方向にも広がる立体的装置であること」からみて、クランプ17とクランプ10が横方向にずれれば衝突しないことも当業者にとって自明であり、記載事項(イ)の「フラットワーク物品を延伸するためにキャリッジ8、9は中央に移動し対称的に離れる」とキャリッジ8は横方向に移動するものでもあるから、クランプ10の位置とクランプ17が通過する経路とを横方向にずれた近傍とし、空間的に衝突しないようにして、フラットワーク物品の角部を受け渡されるものとすることは、技術的常識を参酌すれば、当業者であれば、上記記載事項及び図面の図示内容から想到し得たものといえる。
そうすると、クランプ10がクランプ17を通過させる、レール手段15とキャリッジ8の関係についても、当業者が実施をできる程度に、発明の詳細な説明及び図面に記載されているといえる。

(4)先の無効審判での被請求人の主張について
被請求人は答弁書の第9頁第11?15行で「第1の釈明的訂正は、ブラウンアルファ装置は先ず物品を保持したレール端部自体を持ち上げ、その後物品をレールに沿って水平移動させるものであるのに対し、本発明の昇降手段はフラットワーク物品を、操作位置から昇降レールに沿ってスライドにより、高い位置にある延伸装置のキャリッジに向けて持ち上げる昇降動作をするものであり、この趣旨が、引用例のレール自体が持ち上げるものも含んでいるように誤解されないかという懸念を払拭するための、明りょうでない記載を明確にする釈明的訂正である。」と主張する。
請求人は陳述要領書の第4頁第39?45行で「さらに『また本件発明では昇降手段のレール手段(15)に沿って昇降移動自在のスライド(16)が操作位置より実質的に高い位置に設けられた前記一対のキャリッジ(8,9)に対してフラットワーク物品(シーツ類)を上向きに動かすが、ブラウン・アルファ装置では、スライドは円弧状のレールに沿って水平移動するだけで、フラットワーク物品(シーツ類)を上向きに動かすのは装置中央に片持ち状態で軸支された重いレール自体であり、それゆえフラットワーク物品(シーツ類)を持ち上げるには多くのエネルギーが必要になる。」と先の無効審判で被請求人が述べていたと主張する。
先の無効審判の審決公報(甲第1号証)の第8頁の5.(1)(i)(ア)には「ブラウン・アルファの昇降手段のレールは、半円形(正確には4分の1円形)の形状をしており、合計4本設置されている。それぞれのレールには、1対のクランプが設けられている。各レールは、前端が下方に、下から約130cmの位置まで下がっており、一対のクランプにシーツの両角を把持させてスイッチを押すと、半円形レールの前端が、レール後部にあるレバーの作用により、水平面になるまで上昇してシーツを持ち上げる。その後、シーツを把持したままクランプがレールの後端(装置全体の中央部)に移動し、そこで、シーツを延伸装置であるスプレッドクランプに引き渡す。」と記載されている。
そうすると、「昇降手段のレール手段」について、ブラウン・アルファ装置では、軸支されたレール自体が水平になるまで上昇され、その後クランプがレールに沿って水平移動するのに対して、本願のレール手段は上記(1)ア.で述べたように、「斜め上に延びるレール手段15の下面に、一対のクランプ17、18を下端に備えたスライド16が設けられ、スライド16は上向きにレール手段15に沿って動かされる」ものであって、レールについて、本願では、斜め上に延びている状態のままであるのに対して、ブラウン・アルファ装置ではレール自体が水平になるまで上昇され、その後クランプがレールに沿って移動するものであり、レールを上昇させるか否か、及び、スライダを移動させるタイミングとその時レールが水平か斜めかの違いにすぎない。
そうすると、従来の装置とするブラウン・アルファ装置とは、レール自体について、上昇させないことが異なるのであって、レール自体の上昇のための構造を取りやめることについて、具体的なレールとスライダの構造が記載されていないとしても、上昇のため以外の構造はブラウン・アルファ装置として知られているのであるから、当業者は実施をすることができないとはいえない。
また、スライダを移動させることについても、動作開始とともに移動させるものであり、当業者が実施をすることができるものといわざるを得ない。

(4)まとめ
以上、述べたようであるから、「昇降手段のレール手段」については、図面を参酌すれば、発明の詳細な説明には当業者がその実施をすることができる程度に記載されているといえ、発明の詳細な説明にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度にその発明の目的・構成及び効果が記載されていないとはいえない。

2.取消理由2(訂正請求の目的違反)について
上記1.で述べたように、「昇降手段のレール手段」は、当業者が実施をすることができる程度に記載されているといえる。
そうすると、特許請求の範囲に記載される「昇降手段のレール手段」は、「フラットワーク物品が前記昇降手段のレール手段(15)に沿って昇降移動自在のスライド(16)の一対のクランプ(17、18)に挿入され、前記スライド(16)が、操作位置より実質的に高い位置に設けられた前記一対のキャリッジ(8、9)に対してフラットワーク物品を上向きに動かす」との記載から、その構成を理解できるものである。
したがって、請求人の「昇降手段のレール手段」の構成全体や駆動手段が不明であるので、判断対象の構成が不明確で何を目的とするのか判断できないとの主張は採用できない。
そして、先の無効審判における補正前の請求項2に対応する補正後の請求項1に関する「昇降手段のレール手段」についての訂正は、補正前の請求項2が引用する補正前の請求項1に「フラットワーク物品がレール手段(15)に沿って移動自在のスライド(16)の一対のクランプ(17、18)に挿入され、操作位置より実質的に高い位置に設けられた一対のキャリッジ(8、9)に対してフラットワーク物品を上向きに動かす」と記載されていたのであって、スライド(16)はレール手段(15)に沿って上向きに動くものであるから、先の無効審判の審決(甲第1号証、審決公報第3頁第44行?第4頁第15行)で判示するように、明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては本件特許の請求項1?8に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-08-23 
出願番号 特願平5-12971
審決分類 P 1 113・ 531- Y (D06F)
P 1 113・ 853- Y (D06F)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 冨岡 和人
松下 聡
登録日 1997-08-29 
登録番号 特許第2690256号(P2690256)
発明の名称 アイロンローラなどの洗濯処理ユニットへフラットワーク物品を供給するための装置  
代理人 井澤 洵  
代理人 井澤 幹  
代理人 茂木 康彦  
代理人 藤谷 史朗  

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