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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 A41B 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A41B 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 A41B 審判 全部無効 出願日、優先日、請求日 A41B 審判 全部無効 2項進歩性 A41B 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) A41B |
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管理番号 | 1244982 |
審判番号 | 無効2008-800254 |
総通号数 | 144 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-12-22 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-11-14 |
確定日 | 2011-09-29 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3316189号「くつ下」の特許無効審判事件についてされた、「全文訂正明細書のとおりの訂正を認める。特許第3316189号の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」とした平成21年9月28日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、平成22年1月29日に「特許庁が無効2008-800254号事件について平成21年9月28日にした審決を取り消す。訴訟費用は原告の負担とする。」との決定(平成21年(行ケ)第10356号)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3316189号は、平成10年4月30日に出願した特願平10-120756号を二以上の発明を包含する特許出願とした、特許法第44条第1項の規定によるものとして、平成10年11月11日(優先権主張、特願平9-115607号、平成9年5月6日)に特許出願され、その後、平成14年6月7日に、その特許権の設定登録がされたものであって、これに対し、請求人コーマ株式会社から本件無効審判が請求されたものである。 以下に、請求以後の経緯を整理して示す。 平成20年11月14日付け 審判請求書の提出 平成21年 1月30日付け 審判事件答弁書の提出 同日付け 訂正請求書の提出 平成21年 2月23日付け 手続補正書(補正対象;訂正請求書)の提 出 平成21年 3月27日付け 弁駁書(1)の提出 同日付け 弁駁書(2)の提出 平成21年 6月19日 口頭審尋の実施 同日付け 技術説明書の提出 平成21年 6月23日付け 訂正拒絶理由通知書の発送 同日付け 職権審理結果通知書の発送 平成21年 7月 3日付け 手続補正書(補正対象;訂正請求書)の提 出 平成21年 7月17日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より ) 平成21年 8月 7日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より) 同日付け 口頭審理陳述要領書(2)の提出(請求人 より) 平成21年 8月 7日 口頭審理の実施 平成21年 8月11日付け 証拠提出書の提出(被請求人より) 平成21年 9月28日 審決 平成22年 1月29日 決定(平成21年(行ケ)第10356号 ) 平成22年 2月22日付け 訂正請求書の提出 平成22年 4月 2日付け 弁駁書(3)の提出 平成22年 6月 1日付け 書面審理通知書の送付 なお、平成21年1月30日付け訂正請求書による訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により、取り下げられたものとみなされる。 2.請求人の主張 1)請求人は、審判請求書によれば、「本件特許である、特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の甲第1?32号証を証拠方法として提出している。また、他に、以下の参考資料1及び2も提出している。 甲第1号証;登録実用新案第3044598号公報 甲第2号証;実願平4-37323号のCD-ROM 甲第3号証の1;特願平10-320874号(本件出願)の特許願並びに、それに添付された明細書、図面及び要約書 甲第3号証の2;同号(本件出願)の平成11年6月11日付け手続補正書 甲第3号証の3;同号(本件出願)の平成13年6月26日付け拒絶理由通知書 甲第3号証の4;同号(本件出願)の平成13年8月23日付け意見書 甲第3号証の5;同号(本件出願)の平成13年8月23日付け手続補正書 甲第3号証の6;同号(本件出願)の平成14年5月2日付け特許査定 甲第4号証;特願平9-115607号(本件優先権基礎出願)の特許願並びに、それに添付された明細書及び図面 甲第5号証の1;特願平10-120756号(本件原出願)の特許願並びに、それに添付された明細書及び図面 甲第5号証の2;同号(本件原出願)の平成10年10月8日付け拒絶理由通知書 甲第5号証の3;同号(本件原出願)の平成10年11月11日付け意見書 甲第5号証の4;同号(本件原出願)の平成10年11月11日付け手続補正書 甲第5号証の5;同号(本件原出願)の平成11年2月4日付け特許査定 甲第5号証の6;特許第2895473号公報(本件原出願の特許公報) 甲第6号証;第2005-60061号特許判定公報 甲第7号証;(欠番) 甲第8号証;実願昭57-160787号(実開昭59-64904号)のマイクロフイルム 甲第9号証;特開平9-78304号公報 甲第10号証;実公昭44-24978号公報 甲第11号証;実開昭50-22994号公報 甲第12号証;実開昭62-132102号公報 甲第13号証;実開平6-33907号公報 甲第14号証;実開昭59-403号公報 甲第15号証;実開平7-24911号公報 甲第16号証;実開昭51-76722号公報 甲第17号証;特許第2592577号公報 甲第18号証;実開昭51-45293号公報 甲第19号証;特開昭60-32307号公報 甲第20号証;意匠第914675号公報 甲第21号証;意匠第165188号の類似1公報 甲第22号証;意匠第594048号公報 甲第23号証;意匠第608158号の類似1公報 甲第24号証;意匠第871046号公報 甲第25号証;意匠第959271号公報 甲第26号証;実開昭53-23619号公報 甲第27号証;特公昭48-13624号公報 甲第28号証;「靴下工学、表紙、14?17、110、111、332?339頁、奥付」、 1979年10月20日、日本靴下協会発行 甲第29号証;特開平7-145503号公報 甲第30号証;大阪地方裁判所 平成20年(ヨ)第20012号製造販売等禁止仮処分命令申立事件の平成20年11月18日付け債権者準備書面(7) 甲第31号証;特開2008-88611号公報 甲第32号証;特開2003-82502号公報 参考資料1;「本件当初・基礎当初 併記比較」と題された1?28頁からなる書面 参考資料2;「甲第6号証添付図3に基づく展開図」及び「甲第6号証添付図3に基づくつま先模式図」と題された1頁からなる書面 2)そして、請求人は、平成22年2月22日付け訂正請求書の提出前においては、それまでの審理の全趣旨、特に、第1回口頭審理調書によれば、本件出願は、以下の理由a1?a2で特許法第44条第1項の規定に違反し、同条第2項の適用を受けられないか、また、以下の理由b1?b4で、特許法第41条第2項の適用を受けられないと主張し、そして、以下の無効理由A?Fを主張していたものと認める。 <第44条違反について> a1;本件特許の請求項1に係る発明の「くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ、」と記載された事項(以下、「増加用編立要件」という。)、又は「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」と記載された事項(以下、「V字状要件」という。)は、本件出願の原出願である特願平10-120756号の願書に最初に添付した明細書又は図面(審決注;甲第5号証の1、参照。以下、「原出願当初明細書等」という。)に記載がない。 a2;本件特許の請求項1に係る発明は、原出願の特許発明である請求項1に係る発明と、カテゴリーで相違するが、実質同一である。 <第41条不適用について> b1;本件特許の請求項1又は4に係る発明の「くつ下編機によって筒編して得たくつ下」と記載された事項は、本件出願の優先権基礎出願である特願平9-115607号の願書に最初に添付した明細書又は図面(審決注;甲第4号証、参照。以下、「優先権当初明細書等」という。)に記載がない。 b2;本件特許の請求項1に係る発明の「増加用編立要件」は、優先権当初明細書等に記載がない。 b3;優先権当初明細書等には、「厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」と記載された事項は、記載があったものの、本件特許の請求項1に係る発明の「厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」と記載された事項は、優先権当初明細書等に記載がない。 b4;本件特許の請求項4に係る発明の「くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記くつ下の親指部の先端部には、親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が編み込まれている」と記載された事項(以下、「足袋様増加用編立要件」という。)は、優先権当初明細書等に記載がない。 <無効理由> A;本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、これら請求項に係る発明の本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 B;本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 C;本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第8号証、甲第27号証又は甲第28号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 D;請求項1?5に係る発明の本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。 そして、請求人は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正、即ち、平成13年8月23日付け補正、をしたとの理由として下記の点を指摘している。 記 本件特許の請求項1に係る発明の「増加用編立要件」又は「V字状要件」は、本件出願の最初に添付した明細書又は図面(審決注;甲第3号証の1、参照。以下、「本件当初明細書等」という。)に記載がない。 E;請求項1?5に係る発明の本件特許は、特許法第36条第6項第2号に適合しておらず同項の規定に違反する特許出願に対してされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 そして、請求人は、特許法第36条第6項第2号に適合していない理由として、下記の点を指摘している。 記 e1;請求項1又は4には、「該くつ下の爪先部の形状が、」との記載があるが、この記載に続く文章が不明確である。 e2;請求項1又は4には、「親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、」との記載があるが、ここにおける「近似」の程度が不明確である。 F;請求項1?5に係る発明の本件特許は、特許法第36条第4項の規定に違反し、又は、同条第6項第1号に適合しておらず同項の規定に違反する特許出願についてされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 そして、請求人は、特許法第36条第4項の規定に違反し、又は、同条第6項第1号に適合に適合していない理由として、下記の点を指摘している。 記 f1;本件特許の請求項1に係る発明は、「くつ下編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって、」と記載された事項を有するものであるが、該事項に関し、同発明を実施することができない。 f2;図1の記載にあるように、「厚み増加用編立部分」を甲側と足裏側とで相似となるように実施することはできない。 3)また、請求人は、平成22年2月22日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)が認められた場合にも、先に「2)」で述べた、本件出願は、理由a1?a2で特許法第44条第1項の規定に違反し、同条第2項の適用を受けられないし、また、理由b1?b4で、特許法第41条第2項の適用を受けられないと主張し、そして、無効理由A?Fと同趣旨の無効理由を主張していると認める。 請求人は、弁駁書(3)の「5-5」において、特許法第41条第2項の適用を受けられない理由として、本件訂正後の願書に添付した明細書又は図面(以下、「訂正明細書等」という。)における「尚、これまでの図1の説明において言う「実質的に同数」とは、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数又は増加数と、逆方向に回動した際の針数の減少数と増加数との間に、編み立てに関与する編針の針数の約10%程度が相違してもよいことを意味する。」(段落【0016】)との記載は、優先権当初明細書に、なかったことを追加すると共に、本件訂正後の請求項1?5に係る発明(以下、「訂正発明1?5」という。)は、甲第8?28号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであることを主要な根拠とする無効理由を主張しているものと認められる。 しかしながら、これらの主張は、先に「2)」で述べたことから明らかなように、上記訂正請求書の提出前においては無かったもので、実質的には、審判請求書の要旨を変更する補正といえるもので、特許法第131条の2第1項の規定に違反し、採用することはできない。 なお、この点に関して補足すると、上記主張は、被請求人に対し、訂正請求の機会を与えるなど、充分に、答弁する機会を与えるべきもので、審判請求書の要旨を変更していると判断せざるを得ないものであって、必要に応じて、別途、無効審判を請求して主張すべきものである。 3.被請求人の主張 被請求人は、審判事件答弁書によれば、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、審理の全趣旨によれば、本件訂正は認められるものであり、そして、無効理由A?Fに理由はないと主張し、以下の乙第1号証を提出している。 乙第1号証;特願2001-253145号の平成17年4月28日付け上申書 4.本件訂正について 4-1.本件訂正の内容 本件訂正は、訂正請求書及びそれに添付した全文訂正明細書の記載から見て、以下の訂正事項A?Hからなるものと認める。 訂正事項A;特許請求の範囲の記載につき、以下の旧特許請求の範囲を新特許請求の範囲に訂正する。 (旧特許請求の範囲) 【請求項1】 くつ下編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって、 該くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ、 且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されていることを特徴とするくつ下。 【請求項2】 くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分が、爪先部の先端部及び親指側の側面部を形成する請求項1記載のくつ下。 【請求項3】 くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されていると共に、 前記V字状の端縁の途中が、厚み増加用編立部分の面積を拡大する方向に曲折されている請求項1又は請求項2記載のくつ下。 【請求項4】 くつ下編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下であって、 該くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記くつ下の親指部の先端部には、親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が編み込まれていると共に、前記くつ下の他の指部にも、他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、他の指部の先端部で且つ分割部側に偏って編み込まれ、 前記爪先部の親指部の両側面の各々から見た、前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成さていると共に、前記他の指部の分割部側の側面から見た、前記分割部側の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下。 【請求項5】 爪先部の親指部に編み込まれた厚み増加用編立部分によって、親指部の先端部及び両側面部が形成され、 且つ爪先部の他の指部に編み込まれた厚み増加用編立部分によって、他の指部の先端部及び分割部側の側面部が形成されている請求項4記載のくつ下。 (新特許請求の範囲) 【請求項1】 丸編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって、 該くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ、 且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下。 【請求項2】 くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分が、爪先部の先端部及び親指側の側面部を形成する請求項1記載のくつ下。 【請求項3】 くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていると共に、 前記V字状の端縁の途中が、厚み増加用編立部分の面積を拡大する方向に曲折されている請求項1又は請求項2記載のくつ下。 【請求項4】 丸編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下であって、 該くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記くつ下の親指部の先端部には、親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が編み込まれていると共に、前記くつ下の他の指部にも、他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、他の指部の先端部で且つ分割部側に偏って編み込まれ、 前記爪先部の親指部の両側面の各々から前記爪先部の先端を上に向けて見た、前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていると共に、前記他の指部の分割部側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見た、前記分割部側の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下。 【請求項5】 爪先部の親指部に編み込まれた厚み増加用編立部分によって、親指部の先端部及び両側面部が形成され、 且つ爪先部の他の指部に編み込まれた厚み増加用編立部分によって、他の指部の先端部及び分割部側の側面部が形成されている請求項4記載のくつ下。 訂正事項B;明細書の段落【0007】の記載につき、 「・・・(審決注;「・・・」は、記載の省略を示す。以下、同様。)到達した。 すなわち、本発明は、くつ下編機によって筒編して得たくつ下が、・・・、且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されていることを特徴とするくつ下にある。 かかる本発明・・・緩和できる。 また、くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁を実質的にV字状に形成すると共に、・・・」とあるのを、 「・・・到達した。 すなわち、本発明は、丸編機によって筒編して得たくつ下が、・・・、且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下にある。 かかる本発明・・・緩和できる。 また、くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁をV字状に形成すると共に、・・・」と訂正する。 訂正事項C;明細書の段落【0008】の記載につき、 「また、本発明は、くつ下編機によって筒編して得たくつ下が、・・・、前記爪先部の親指部の両側面の各々から見た、前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていると共に、前記他の指部の分割部側の側面から見た、前記分割部側の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下にある。 かかる本発明に係る・・・」とあるのを、 「また、本発明は、丸編機によって筒編して得たくつ下が、・・・、前記爪先部の親指部の両側面の各々から爪先部の先端を上に向けて見た、前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていると共に、前記他の指部の分割部側の側面から爪先部の先端を上に向けて見た、前記分割部側の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下にある。 かかる本発明に係る・・・」と訂正する。 訂正事項D;明細書の段落【0012】の記載につき、 「・・・緩和できる。 更に、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から見た厚み増加用編立部分20a、20bの端縁HJ、HMをV字状とすることにより、後述するくつ下の製造方法によって容易に厚み増加用編立部分20a、20bを形成できる。」とあるのを、 「・・・緩和できる。 更に、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見た厚み増加用編立部分20a、20bの端縁HJ、HMをV字状とすることにより、後述するくつ下の製造方法によって容易に厚み増加用編立部分20a、20bを形成できる。」と訂正する。 訂正事項E;明細書の段落【0016】の記載につき、 「・・・回動端でもある。 かかる連結線のうち連結線HJ、HMは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であり、図1においては、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から見たときV字状である。 尚、これまでの・・・」とあるのを、 「・・・回動端でもある。 かかる連結線のうち連結線HJ、HMは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であり、図1においては、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見たときV字状である。 尚、これまでの・・・」と訂正する。 訂正事項F;明細書の段落【0021】の記載につき、 「・・・回動端でもある。 これらの連結線のうち連結線NT、VNは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であって、親指側16の側面〔図2(b)の矢印AA方向〕から見たとき略V字状である。」とあるのを、 「・・・回動端でもある。 これらの連結線のうち連結線NT、VNは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であって、親指側16の側面〔図2(b)の矢印AA方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見たとき略V字状である。」と訂正する。 訂正事項G;明細書の段落【0024】の記載につき、 「・・・減少できる。 また、親指部32の両側面の各々〔図3(b)に示す矢印BB、BBの各方向〕から見た厚み増加用編立部分32a、32bの端縁をV字状とし、且つ他の指部34の分割部36側の側面〔図3(b)に示す矢印CCの方向〕から見た厚み増加用編立部分34a、34bの端縁をV字状とすることによって、後述する丸編機を用いた製造方法によって足袋様くつ下30を容易に製造できる。」とあるのを、 「・・・減少できる。 また、親指部32の両側面の各々〔図3(b)に示す矢印BB、BBの各方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見た厚み増加用編立部分32a、32bの端縁をV字状とし、且つ他の指部34の分割部36側の側面〔図3(b)に示す矢印CCの方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見た厚み増加用編立部分34a、34bの端縁をV字状とすることによって、後述する丸編機を用いた製造方法によって足袋様くつ下30を容易に製造できる。」と訂正する。 訂正事項H;明細書の段落【0029】の記載につき、 「かかる連結線のうち連結線A_(5) A_(6) 、A_(5) A_(8 )、A_(4) A_(7) 、A_(4) A_(9) 、B_(3 )B_(5) 、B_(3 ) B_(7) は、親指部32及び他の指部34の側面部を形成する厚み増加用編立部分32a、32b、34a、34bの端縁であって、親指部32の両側面の各々から見たときV字状であり、且つ他の指部34の分割部36側〔図3(b)の矢印CC方向〕から見たときV字状である。 尚、これまで・・・」とあるのを、 「かかる連結線のうち連結線A_(5) A_(6) 、A_(5) A_(8 )、A_(4) A_(7) 、A_(4) A_(9) 、B_(3 )B_(5) 、B_(3 ) B_(7) は、親指部32及び他の指部34の側面部を形成する厚み増加用編立部分32a、32b、34a、34bの端縁であって、親指部32の両側面の各々から爪先部12の先端を上に向けて見たときV字状であり、且つ他の指部34の分割部36側〔図3(b)の矢印CC方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見たときV字状である。 尚、これまで・・・」と訂正する。 4-2.本件訂正の適否 ここ「4-2」では、願書に添付した明細書又は図面(審決注;甲第3号証の1、2及び5、参照。)を「旧明細書等」と、また、本件訂正前の特許請求の範囲請求項1については「旧請求項1」と、訂正後については「新請求項1」といい、他の請求項についても同様とする。 4-2-1.目的と記載根拠について (1)訂正事項Aについて 1)訂正事項Aは、要するに、以下の訂正事項A1?A4からなるものということができる。 訂正事項A1;旧請求項1及び4に記載されていた「くつ下編機によって筒編して得たくつ下」を、「丸編機によって筒編して得たくつ下」と訂正する。 訂正事項A2;旧請求項1及び3に記載されていた「厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」を、「厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」と訂正する。 訂正事項A3;旧請求項4に記載されていた「前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成さていると共に、」を、「前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていると共に、」と訂正する。 訂正事項A4;旧請求項1に記載されていた「前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」、旧請求項3に記載されていた「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」、及び、旧請求項4に記載されていた「前記爪先部の親指部の両側面の各々から見た、前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成さている」及び「前記他の指部の分割部側の側面から見た、前記分割部側の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」の、それぞれの「見た」の前に、「前記爪先部の先端を上に向けて」の記載を加筆訂正する。 2)訂正事項A1について、検討する。 訂正前の「くつ下編機によって筒編して得たくつ下」との記載は、ここにおけるくつ下が、編機によって筒編して得られたものであることを記載するものであって、この編機を丸編機とする訂正事項A1は、旧明細書等における「かかるくつ下編機として汎用されている丸編機、すなわち複数本の編針〔図6(a)に示す編針50と同一編針〕が周囲に配設された針釜〔図6(b)に示す針釜60と同一針釜〕を一定方向に回転して編み立てる回転動作と、この針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ丸編機によって、図1に示すくつ下10を製編する例を説明する。」(段落【0013】)や「図3に示す足袋様くつ下30もくつ下編機によって製編でき、丸編機を用いて図3に示すくつ下を製編する例について説明する。」(段落【0025】)の記載を根拠に、前記編機を技術的に限定するものといえる。 以上のことから、訂正事項A1は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、旧明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 3)訂正事項A2について、検討する。 訂正前の「厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」との記載は、「V字状に形成されている」の前に「実質的に」と記載することにより、ここに記載の端縁の形状が、これを当業者が見て、アルファベットの「V」の形状と認識できる程度のものであることを表現しているものと認められる。 その一方で、訂正後の「厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」との記載も、ここに記載の端縁の形状が、これを当業者が見て、アルファベットの「V」の形状と認識できる程度のものであることを表現しているもので、実体としては、訂正前の前記記載も、訂正後の前記記載も、その記載内容に違いはないものと認められる。 してみると、訂正前の前記記載において、上述したように、「V字状に形成されている」の前に「実質的に」と記載していたことに意味はなく、結局のところ、意味のない用語が記載されていたということができ、このような用語を削除する訂正事項A2は、明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当するといえる。 また、以上のことから、訂正事項A2が、旧明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。 4)訂正事項A3について、検討する。 訂正前の「前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成さていると共に、」における「形成さている」の記載は、日本語として不明りようであり、該記載が「形成されている」の誤りであることは明らかで、訂正事項A3は、この誤りを正すもので、明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、また、旧明細書等に記載した事項の範囲内においてしたことは、明らかである。 5)訂正事項A4について、検討する。 5-1)旧請求項1の「厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」との記載は、先に「3)」で述べたことから明らかなように、ここに記載の端縁の形状が、これを当業者が見て、アルファベットの「V」の形状と認識できる程度のものであることを記載するもので、アルファベットの「V」とは、上下の観点を有するものと認められる。そして、旧請求項1の「前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」との記載は、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている、と見えるのは、厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、であることを記載するもので、言い換えれば、厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たときではあるものの、その見る際に、上下の観点に関わりなく該側面から見たとき、該厚み増加用編立部分の端縁が、アルファベットの「V」の形状と認識できる程度のものとして、形成されていることを記載しているものと認められる。 そして、旧請求項1に関する訂正事項A4は、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている、と見えるのは、厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて見たときであると、その見る際の上下の観点について限定するもので、結果として、厚み増加用編立部分の端縁のくつ下における位置を技術的に限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。また、他の旧請求項に関する訂正事項A4も、同様の理由で、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。 5-2)旧請求項1及び3に関する訂正事項A4が旧明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるか、について検討する。 旧明細書等の段落【0011】には、「図1に左足用のくつ下10の爪先部12を示す。図1(a)はくつ下10の甲部側10bから見た図であり、図1(b)は爪先部12の先端側から見た図である。また、図1(c)はくつ下10の足裏側10aから見た図である。図1に示すくつ下10の爪先部12において、図面に示す爪先部12の左側部は親指が挿入される親指側16であり、図面に示す爪先部12の右側部は小指が挿入される小指側18である。」との記載が、また、段落【0016】には、「かかる連結線のうち連結線HJ、HMは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であり、図1においては、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から見たときV字状である。」との記載が認められる。 そして、これらの記載によれば、厚み増加用編立部分20a、20bは、図1(b)でいえば、KとJ、JとH、HとM、そしてMとKを結ぶ線で囲まれた部分であって、これを全体視すると、その親指側16の面積部分が子指側18のそれよりも拡大していることが見て取れ、また、JとHを結ぶ線とHとMを結ぶ線は、連結線HJとHMであって、厚み増加用編立部分20a、20bの端縁を構成し、これら連結線HJとHMは、V字状、すなわち、アルファベットの「V」の形状と認識できる程度の形状に形成されていること、が見て取れる。 その一方で、アルファベットの「V」とは、これまで述べたように、上下の観点を有するものであるが、図1を見ると、厚み増加用編立部分20a、20bの端縁である連結線HJとHMがV字状に形成されているように見えるのは、該厚み増加用編立部分20a、20bを爪先部12の先端を上に向けて見たときであることが見て取れる。 してみると、ここには、厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状(審決注;「実質的にV字状」とも表現できる。)に形成されていることが記載されていると認められ、旧請求項1及び3に関する訂正事項A4は、少なくとも、この記載を根拠にした訂正ということができ、旧明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 5-3)旧請求項4に関する訂正事項A4が旧明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるか、について検討する。 旧明細書等の段落【0023】には、「ところで、くつ下には、爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下がある。かかる足袋様のくつ下にも本発明を適用できる。本発明に係る足袋様のくつ下の一例を図3に示す。図3には、右足用の足袋様くつ下30の爪先部を示す。図3において、図3(a)は足袋様くつ下30の甲部側30bから見た図であり、図3(b)は爪先部の先端側から見た図である。」の記載が、更に、段落【0029】には、「かかる連結線のうち連結線A_(5) A_(6) 、A_(5) A_(8 )、A_(4) A_(7) 、A_(4) A_(9) 、B_(3 )B_(5) 、B_(3 ) B_(7)は、親指部32及び他の指部34の側面部を形成する厚み増加用編立部分32a、32b、34a、34bの端縁であって、親指部32の両側面の各々から見たときV字状であり、且つ他の指部34の分割部36側〔図3(b)の矢印CC方向〕から見たときV字状である。」との記載が認められ、ここには、図3を参照し、厚み増加用編立部分32a、32bを爪先部の親指部32の両側面の各々から見た、前記親指部32の該厚み増加用編立部分32a、32bの端縁である連結線A_(5) A_(6) 、A_(5) A_(8)と、連結線A_(4) A_(7) 、A_(4) A_(9) がアルファベットの「V」の形状と認識できる程度の形状に形成されていること、また、厚み増加用編立部分34a、34bを爪先部の他の指部34の分割部36側から見た、前記他の指部34の該厚み増加用編立部分34a、34bの端縁である連結線B_(3 )B_(5) 、B_(3 ) B_(7) がアルファベットの「V」の形状と認識できる程度の形状に形成されていること、が記載されていると認められる。 その一方で、図3を見ると、連結線A_(5) A_(6) 、A_(5) A_(8)と、連結線A_(4) A_(7) 、A_(4) A_(9) 及びB_(3 )B_(5) 、B_(3 ) B_(7)がV字状に形成されているように見えるのは、該厚み増加用編立部分32a、32bや厚み増加用編立部分34a、34bを爪先部の先端を上に向けて見たときであることが見て取れる。 してみると、ここには、爪先部の親指部の両側面の各々から爪先部の先端を上に向けて見た、前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていること、及び他の指部の分割部側の側面から爪先部の先端を上に向けて見た、前記分割部側の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることが記載されていると認められ、旧請求項4に関する訂正事項A4は、少なくとも、この記載を根拠にした訂正ということができ、旧明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 6)以上のことから、訂正事項Aは、特許請求の範囲の減縮又は明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、旧明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 (2)訂正事項B?Hについて これらの訂正は、訂正事項Aと整合を図るべく明細書の記載を訂正するもので、訂正事項Aと同じ理由を持つもので、特許請求の範囲の減縮又は明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、先の「4-2-1」で検討したことから、旧明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。 (3)まとめ 本件訂正は、特許請求の範囲の減縮又は明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、旧明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 4-2-2.実質拡張変更について 1)本件訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらない。 2)請求人は、これに対し、弁駁書(3)の「5-2」において、縷々、主張をしているが、要するに、訂正事項A4及び該事項と整合を図る訂正事項B?Hは、実質上特許請求の範囲を変更するものと主張し、その理由として、新旧請求項1に係る発明についていえば、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されていることのくつ下における技術的意義が、旧請求項1に係る発明での、厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たときと、新請求項1に係る発明での、これに加えて更に、爪先部の先端を上に向けて見たときとでは変わっていると、主張していると認められる。 なお、請求人の主張では、どのような意味で、技術的意義が変わり、そのことが、何故に、実質上特許請求の範囲を変更することになるかについては、判然とはしないが、本件訂正によって、新請求項1に係る発明の技術的意義が、旧請求項1に係る発明のそれから、実質的に変わったかについて、以下に検討する。 2-1)旧請求項1に係る発明は、「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」と記載した事項を、いわゆる、発明特定事項として有していたものと認める。 そこで、上記事項の技術的意義について検討する。 2-1-2)旧明細書等には、以下の記載a及びbが認められる。 a;「【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明者等は前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、親指が他の指よりも太い人の足の形状に、くつ下の爪先部の形状が近似するように、くつ下を履いたとき、親指が挿入される爪先部の親指側に、厚みを増加する厚み増加用編立部分を偏って編み込むことによって、親指に対する圧迫感を緩和できることを知り、本発明に到達した。」 b;【0014】・・・。図1に示す爪先部12を編み立てる際には、くつ下の足裏側10bを示す図1(c)のHI位置まで編み立てた後、編み立てに関与する編針の針数(以下、単に針数と称することがある)を順次減少させてJK位置まで編み立てる。この場合、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数と、逆方向に回動した際の針数の減少数とが実質的に同数である。 更に、JK位置まで編み立てた後、J位置側に針釜が回動する際に、針数を順次増加させてH位置まで編み立てると同時に、K位置側に針釜が回動する際に、針数を順次減少させてL位置側まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、爪先部12の足裏側10aに、厚み増加用編立部分20aを親指側16に偏って編み込むことができる。 【0015】 次いで、H位置側に針釜が回動する際に、針数を増加させてM位置まで編み立てると同時に、L位置側に針釜が回動する際に、針数を減少させてK位置側まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、甲部側10bに厚み増加用編立部分20bを親指側16に偏って編み込むことができる。この厚み増加用編立部分20a、20bは一体化されている。 この様に、MK位置まで編み立てた後、針数を順次増加させてHI位置まで編み立てることによって爪先部12を形成できる。この場合、針釜が正方向に回動した際の針数の増加数と、逆方向に回動した際の針数の増加数とが実質的に同数である。 【0016】 更に、HI位置まで編み立てた後、針数を所定本数に保持しつつ、くつ下の甲部側10bに形成された最終端となる開口部まで製編し逢着部14とする。 ここで、爪先部12を形成する部分の各端縁には、各部分の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連結線HJ、IK、KL、HMが形成されている。この連結線HJ、IK、KL、HMは、針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。 かかる連結線のうち連結線HJ、HMは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であり、図1においては、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から見たときV字状である。・・・。」 2-1-3)厚み増加用編立部分は、記載aによれば、くつ下を履いたときに、親指に対する圧迫感を緩和できるとの技術的意義を持つことが窺える。 また、記載bには、図1に示す爪先部12を編み立てる手順が記載され、まずは、爪先部12の足裏側10aに厚み増加用編立部分20aを親指側16に偏って編み込み、続けて甲部側10bに厚み増加用編立部分20bを、厚み増加用編立部分20aと一体化させた態様で親指側16に偏って編み込むと、厚み増加用編立部分20a、20bの端縁である連結線HJ、HMが現出し、これら連結線は、図1において、爪先部12の親指側16の側面から見たとき、先に「4-2-1」、「(1)」の「5-2)」での検討を踏まえれば、爪先部12の親指側16の側面から爪先部12の先端を上に向けて見たとき、V字状であることが記載されていると認められる。なお、厚み増加用編立部分20a、20bは、その親指側の面積が拡大するように編み立てられているのは、上記「5-2)」で述べたとおりである。 そして、この記載bによれば、厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されていることは、上記手順によって厚み増加用編立部分が編み込まれた場合に、付随的に生じていることと認められ、そのV字状自体に、格別な技術的意義があるとはいえないものの、結果として、その端縁が実質的にV字状に形成されて、はじめて、厚み増加用編立部分が形作られているのであるから、その厚み増加用編立部分に、上述した技術的意義を持つことが窺える以上、上記V字状に形成されていること自体の技術的意義が皆無とはいえず、少なくとも、上述した技術的意義を持つような厚み増加用編立部分を形成し得ているという技術的意義を有しているということができる。 してみると、以上のとおりの技術的意義を、「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」との事項は有するものであり、該事項を包含することが明らかな、旧請求項1に係る発明の「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」と記載された事項も、上記技術的意義を内包していたということができる。 2-2)新請求項1に係る発明は、「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」と記載された事項を、発明特定事項として有しているもので、該事項の技術的意義について検討すると、訂正明細書等からも、先に「2-1-3)」で述べたとおりの技術的意義が認められる。 そして、旧請求項1に係る発明の「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」と記載した事項は、先に「2-1-3)」で述べたように、「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状に形成されている」との事項の技術的意義を内包していたのであるから、本件訂正によっても、その技術的意義が変わったということはできない。 2-3)よって、請求人の主張は採用できない。 4-2-3.まとめ 本件訂正は、特許法第134条の2第1項の規定を満たし、また、同条第5項において準用する特許法第126条第3?4項の規定に適合するので、これを認める。 なお、請求人は、弁駁書(3)の「5-3」において、本件訂正が、いわゆる、独立特許要件の特許法第126条第5項で規定する要件に違反すると、主張するが、本件訂正が該要件を必要としないことは明らかで、請求人の主張は、失当であるが、善解すると、本件訂正が認められた場合の、無効理由Dと同趣旨の無効理由について補足的な主張をしていると認められ、これについては、後の「5-6」で触れることにする。 5.無効理由の判断 本件訂正は、先に「4」で述べたように、認められるものである。 そこで、無効理由A?F、特許法第41条や同法第44条の適用を受けられないとの理由について、順次、見ていくことにする。 5-1.無効理由Eと訂正発明について 1)本件出願の特許請求の範囲請求項1及び4の記載は、訂正明細書等によれば、先に「4-1」で訂正事項Aの新特許請求の範囲として認定した【請求項1】及び【請求項4】に記載のとおりである。 2)無効理由Eは、先に「2」の「2)」で認定したとおりであって、請求人が指摘する、特許法第36条第6項第2号に適合していない理由は、本件訂正後であっても、以下のE1及び2である。 E1;請求項1及び4には、「該くつ下の爪先部の形状が、」との記載があるが、この記載に続く文章が不明確である。 E2;請求項1及び4には、「親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、」との記載があるが、ここにおける「近似」の程度が不明確である。 5-1-1.理由E1について 請求項1には、指摘された記載に関連して、「該くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、」と記載され、ここには、「くつ下の爪先部の形状」と「親指が他の指よりも太い人の足の形状」とが「形状」という概念で対応して記載されており、「該くつ下の爪先部の形状が、」との記載に続く文章が「親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、」であることは明確である。 請求項4の記載についても、同様に、明確である。 5-1-2.理由E2について 1)「該くつ下の爪先部の形状が、」との記載に続く文章は、先に「5-1-1」で述べたことから、「親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、」であることは明らかであるので、E2の理由については、「くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似する」との記載における「近似」の程度が不明確であるとの理由として、検討する。 訂正明細書等には、以下の記載(訂1)?(訂2)が認められる。 (訂1);「【0006】 しかし、一般的に、人の足は親指が他の指よりも太く且つ足の最先端の位置は親指側に位置する非対称形である。このため、図5に示す左右対称形で且つ親指側と小指側とが略同一厚さのくつ下100を非対称形の人の足に履くと、親指によってくつ下地が引っ張られて親指側に圧迫感がある。・・・。 そこで、本発明の課題は、人の足の形状に可及的に近似し、着用した際に、親指側に圧迫感等を与えることを防止し得るくつ下を提供することにある。」 (訂2);「【0011】 【発明の実施の形態】 本発明に係るくつ下の一例は、図4に示すくつ下10と略同一形状であり、図1に左足用のくつ下10の爪先部12を示す。図1(a)はくつ下10の甲部側10bから見た図であり、図1(b)は爪先部12の先端側から見た図である。また、図1(c)はくつ下10の足裏側10aから見た図である。 図1に示すくつ下10の爪先部12において、図面に示す爪先部12の左側部は親指が挿入される親指側16であり、図面に示す爪先部12の右側部は小指が挿入される小指側18である。 図1(a)(c)に示す様に、図1に示すくつ下10は、爪先部12の最先端位置Gが中心線Xよりも親指側16に偏って位置する非対称形のくつ下10である。この形状は、人の足の形状に倣っているものである。」 これらに記載の「人の足」とは、足首付近より先の足部分を指すことは明らかであって、記載(訂1)には、大凡、甲部側或いは足裏側からみて、人の足は、一般的に、その長手方向の中心軸を挟んで、その輪郭が左右非対称形であること、また、その輪郭が左右対称形であるくつ下を、人がはくと、親指側に圧迫感があるなどの不都合のあることが記載され、更に、訂正明細書等で開示する発明は、人の足、即ち、輪郭が左右非対称形である人の足の形状に近似したくつ下を提供することにより、上記不都合を解消することを課題にしていることが記載されていると認められる。 そして、記載(訂1)において、提供するくつ下を、「人の足の形状に近似したくつ下」と記載した趣旨は、同段落の記載からして、該くつ下が一般的な人の足に似せた形状であることを表現することにあると判断される。なお、くつ下が一般的な人の足に似せた形状であることに関し、記載(訂2)では、「非対称形のくつ下10である。この形状は、人の足の形状に倣っているものである。」と記載している。 してみると、訂正明細書等の請求項1及び4において、「くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似する」との記載は、くつ下の爪先部の形状が、一般的な人の足、即ち、親指が他の指よりも太い人の足、の形状に似せた形状であることを表現しているものと認められる。 なお、この似せた形状であることを「人の足の形状に近似する」と表現した記載自体が、明確さに欠けるとまではいうことはできない。 2)そして、以上の検討を踏まえると、「くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似する」とは、くつ下の爪先部の形状が、一般的な人の足の形状に似せた形状であるということで、一般的な人の足の形状に、どの程度、似せた形状であるかどうかは、当業者が見て、形状が似ていると認識できる程度のものといえるから、上記記載における「近似」の程度が不明確であるとまではいうことはできない。 5-1-3.まとめと訂正発明 無効理由Eに理由はない。 そして、理由E1やE2にあるような、請求項1及び4に、不明確な記載内容はなく、訂正発明1?5は、訂正明細書等の記載からして、その特許請求の範囲の記載のとおりのもので、その記載は、先に「4-1」で、訂正事項Aの(新特許請求の範囲)として認定したとおりのものと認められる。 5-2.特許法44条の適用について 本件出願が特許法第44条第1項の規定に違反し、同条第2項の適用を受けられないとの主張について、請求人は、その理由として、先に「2」の「2)」で認定した理由a1?a2を挙げている。 その一方で、本件訂正が認められることから、上記理由a1?a2は、以下のとおりの理由A1?A2であると認める。 A1;訂正発明1の「増加用編立要件」、すなわち、「くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ、」と記載された事項、又は「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」と記載された事項(以下、「訂正V字状要件」という。)は、原出願当初明細書等に記載がない。 A2;訂正発明1は、原出願の特許発明である請求項1に係る発明と、カテゴリーで相違するが、実質同一である。 5-2-1.理由A1の「増加用編立要件」について 1)訂正発明1は、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形のくつ下に係るものであって、「増加用編立要件」を有するものと認められる。 2)原出願当初明細書等には、以下の記載(原1)?(原2)が認められる。 (原1);「【請求項1】 くつ下編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって、 該爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の親指側に偏って編み込まれていることを特徴とするくつ下。」 (原2);「【0014】 また、図1に示す爪先部12は、図1(b)と従来のくつ下100の爪先部102の先端部を示す図5(b)との比較から明らかな様に、爪先部12の厚みを増加する厚み増加用編立部分20a、20bが余分に編み込まれていると共に、厚み増加用編立部分20a、20bが爪先部12の親指側16に偏って編み込まれている。このため、爪先部12の親指側16の厚みを小指側18の厚みよりも厚くでき、小指よりも親指が太い人の足の形状に近似させることができる。 図1に示すくつ下10の爪先部12は、図1(a)(b)に示す様に、厚み増加用編立部分20a、20bは爪先部12の先端部及び親指側16の側面部を形成するため、親指側に更なる余裕を与えることができ、くつ下を履いたとき、親指及び小指の圧迫感を更に緩和できる。」及び【図1】 3)記載(原1)には、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形のくつ下に係る発明が記載され、該発明は、「爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の親指側に偏って編み込まれている」と記載された事項を有するものと認められる。 そして、上記発明についての記載であることが明らかな記載(原2)には、厚み増加用編立部分20a、20bは、爪先部12の親指側16の厚みを小指側18の厚みよりも厚くするものであること、すなわち、小指側よりも親指側の厚みを増加するものであることが記載されていると認められる。 また、記載(原2)の図1には、厚み増加用編立部分20a、20bが、爪先部12の先端部に編み込まれていることが記載されていると認められる。 更に、記載(原2)には、厚み増加用編立部分20a、20bが編み込まれているため、小指、すなわち、「しかし、一般的に、人の足は親指が他の指よりも太く且つ足の最先端の位置は親指側に位置する非対称形である。」(段落【0006】)を併せ見れば、他の指、よりも親指が太い人の足の形状に近似させることができること、言い換えれば、くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように厚み増加用編立部分20a、20bが編み込まれることが記載されていると認められる。 4)以上の検討を踏まえると、原出願当初明細書等には、「増加用編立要件」が記載されていたと認められ、「増加用編立要件」についての理由A1に理由はない。 5-2-2.理由A1の「訂正V字状要件」について 1)訂正発明1は、先に「5-2-1」の「1)」で述べたように、非対称形のくつ下に係るものであって、「訂正V字状要件」を有するものと認められる。 2)原出願当初明細書等には、以下の記載(原3)?(原4)が認められる。 (原3);「【請求項3】 くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、前記厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状である請求項1又は請求項2記載のくつ下。」 (原4);「【0013】・・・、図1に左足用のくつ下10の爪先部12を示す。図1(a)はくつ下10の甲部側10bから見た図であり、図1(b)は爪先部12の先端側から見た図である。また、図1(c)はくつ下10の足裏側10aから見た図である。 図1に示すくつ下10の爪先部12において、図面に示す爪先部12の左側部は親指が挿入される親指側16であり、図面に示す爪先部12の右側部は小指が挿入される小指側18である。」(段落【0013】)及び【図1】 (原5);「段落【0018】・・・。 かかる連結線のうち連結線HJ、HMは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であり、図1においては、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から見たときV字状である。」(段落【0018】) 3)記載(原3)には、記載(原1)を併せ見れば、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形のくつ下に係る発明が記載され、「厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、前記厚み増加用編立部分の端縁が実質的にV字状である」との記載が認められ、ここにおける「実質的にV字状である」との事項は、「V字状である」と、その技術的内容に、何ら、違いはないものである。この点については、先の「4-2-1」、「(1)」の「3)」で指摘したことを参照されたい。 してみると、上記発明は、結局の所、「厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から見たとき、前記厚み増加用編立部分の端縁がV字状である」と記載された事項を有するものと認められる。 そして、上記発明についての記載であることが明らかな記載(原4)及び(原5)は該事項を詳しく説明するもので、ここには、厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることが記載されていると認められる。この点については、記載(原4)及び(原5)と同じ記載内容を有する、願書に添付した明細書又は図面(審決注;先の「4-2」では、「旧明細書等」と称している。)の段落【0011】、【0016】及び図1の記載を根拠にした、先の「4-2-1」、「(1)」の「5-2)」での指摘を参照されたい。 4)以上の検討を踏まえると、原出願当初明細書等には、「訂正V字状要件」が記載されていたと認められ、「訂正V字状要件」について理由A1に理由はない。 5-2-3.理由A2について 1)訂正発明1は、訂正明細書等の記載から見て、ここにおける請求項1に記載のとおりであって、同項の記載は、以下のとおりであると認める。 「丸編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって、 該くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ、 且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下。」 2)原出願の特許発明である請求項1に係る発明(以下「原発明1」という。)は、甲第5号証の6によれば、その請求項1に記載のとおりであって、同項の記載は、以下のとおりであると認める。 「くつ下編機によって筒編してくつ下を製編する際に、 該くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、前記爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を爪先部の親指側に偏って編み込むように、前記くつ下編機の編み立て方向を前記親指側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法。」 3)訂正発明1と原発明1とを対比すると、前者がくつ下という、「物の発明」であるのに対し、後者はくつ下の製造方法という、「物を生産する方法の発明」であって、そもそも、発明の対象を異にしているし、更に、訂正発明1は、「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」と記載された事項を有しているのに対し、原発明1は、厚み増加用編立部分の端縁に係る事項すら、その発明特定事項としておらず、少なくとも、この点でも相違していると認められるから、訂正発明1は、原発明1と同一でも、また、実質同一ともいうことはできない。 4)そして、理由A2が、そもそも、本件出願が特許法第44条第1項の規定に違反していることの根拠となるかについての検討は別にしても、これまで述べたことから、理由A2は是認できないものである。 5-2-4.まとめ 本件出願が特許法第44条第1項の規定に違反しているとする理由は見当たらず、本件出願は、同条第2項の適用を受けられるものである。 したがって、本件出願は、平成10年4月30日に出願したものとみなされる。 5-3.第41条不適用について 本件出願が特許法第41条第2項の適用を受けられないとの主張について、請求人は、その理由として、先に「2」の「2)」で認定した理由b1?b4を挙げている。 その一方で、本件訂正が認められることから、上記理由b1、b2及びb4は、以下のとおり理由B1、B2及びB4であると認める。なお、理由b3は、本件訂正が認められることから、その理由が無くなったことは明らかである。 B1;訂正発明1又は4の「丸編機によって筒編して得たくつ下」との記載事項は、優先権当初明細書等に記載がない。 B2;訂正発明1の「増加用編立要件」、すなわち、「くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ、」は、優先権当初明細書等に記載がない。 B4;訂正発明4の「足袋様増加用編立要件」、すなわち、「くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記くつ下の親指部の先端部には、親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が編み込まれている」と記載された事項は、優先権当初明細書等に記載がない。 5-3-1.理由B1について 1)訂正発明1は、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形のくつ下に係るものであって、また、訂正発明4は、その爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下に係るものであって、共に、「丸編機によって筒編して得たくつ下」と記載された事項を有するものと認められる。 2)優先権当初明細書等には、以下の記載(優1)?(優4)が認められる。 (優1);【請求項1】 丸編によって製編されたくつ下の爪先部における最先端位置が、親指側に偏って位置する非対称形のくつ下であって、 該爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の親指側に偏って編み込まれていることを特徴とするくつ下。」 (優2);「【請求項5】 丸編によって製編されたくつ下の爪先部が、親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下であって、 該くつ下の親指部には、親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が編み込まれ、 且つ前記くつ下の他の指部にも、他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、分割部側に偏って編み込まれていることを特徴とするくつ下。」 (優3);「【0010】 図1に示すくつ下10は、複数本の針が周囲に配設された針釜が回転して筒状部を編む丸編機によって製編される。」及び【図1】 (優4);「【0019】 図3に示す足袋様くつ下30は、複数本の針が周囲に配設された針釜が回転して筒状部を編む丸編機によって製編できる。」及び【図4】 3)記載(優1)には、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形のくつ下に係る発明が記載され、該発明は、「丸編によって製編されたくつ下」と記載された事項を有するもので、ここにおける「くつ下」は、上記発明についての記載であることが明らかな記載(優3)をみれば、丸編機によって製編されることが見て取れ、そして、丸編機による製編が筒編となることは、技術的に明らかである。 また、記載(優2)には、その爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下に係る発明が記載され、該発明は、「丸編によって製編されたくつ下」と記載された事項を有するもので、ここにおける「くつ下」は、上記発明についての記載であることが明らかな記載(優4)を見れば、丸編機によって製編されることが見て取れ、そして、丸編機による製編が筒編となることは、技術的に明らかである。 してみると、訂正発明1又は4の「丸編機によって筒編して得たくつ下」と記載された事項は、優先権当初明細書等に記載されていたと認められ、理由B1に理由はない。 5-3-2.理由B2について 1)訂正発明1は、先に「5-3-1」の「1)」で述べたような非対称形のくつ下に係るものであって、「増加用編立要件」を有するものと認められる。 2)優先権当初明細書等には、以下の記載(優5)が認められる。 (優5);「【0008】 【発明の実施の形態】 本発明に係るくつ下の一例は、図4に示すくつ下10と略同一形状であって、図1に左足用のくつ下10の爪先部12を示す。図1において、図1(a)はくつ下10の甲部側10bから見た図であり、図1(b)は爪先部12の先端側から見た図である。また、図1(c)はくつ下10の足裏側10aから見た図である。 図1に示すくつ下10の爪先部12において、図面に示す爪先部12の左側部は親指が挿入される親指側16であり、図面に示す爪先部12の右側部は小指が挿入される小指側18である。 図1(a)(c)に示す様に、図1に示すくつ下10は、爪先部12の最先端位置Gが中心線Xよりも親指側16に偏って位置する非対称形のくつ下10である。この形状は、人の足の形状に倣っている。 また、図1に示す爪先部12は、図1(b)と従来のくつ下100の爪先部102の先端部を示す図5(b)との比較から明らかな様に、爪先部12の厚みを増加する厚み増加用編立部分20a、20bが余分に編み込まれていると共に、厚み増加用編立部分20a、20bが爪先部12の親指側16に偏って編み込まれている。このため、爪先部12の親指側16の厚みを小指側18の厚みよりも厚くでき、小指よりも親指が太い人の足の形状に近似させることができる。」及び【図1】 3)先に「5-3-1」の「2)」で摘示した記載(優1)には、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形のくつ下に係る発明が記載され、該発明は、「爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の親指側に偏って編み込まれている」と記載された事項を有するものと認められる。 そして、上記発明についての記載であることが明らかな記載(優5)には、厚み増加用編立部分20a、20bは、爪先部12の親指側16の厚みを小指側18の厚みよりも厚くするものであること、すなわち、小指側よりも親指側の厚みを増加するものであることが記載されていると認められる。 また、記載(優5)の図1にも、厚み増加用編立部分20a、20bが、爪先部12の親指側16に偏って編み込まれていることが記載され、図1からは、更に、厚み増加用編立部分20a、20bは、爪先部12の先端部で編み込まれていることが見て取れる。 更に、記載(優5)には、厚み増加用編立部分20a、20bが爪先部12に編み込まれているため、小指、すなわち、「図5に示す如く、左右対称形に形成され、且つ親指が挿入される親指側と小指が挿入される小指側とが略同一厚さに形成された爪先部を具備するくつ下を、親指が他の指よりも太い非対称形の人の足に履くと、親指によってくつ下の爪先部が延ばされ、人の足の形状にくつ下が倣される。」(段落【0007】)を併せ見れば、他の指、よりも親指が太い人の足の形状に近似させることができること、言い換えれば、くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように厚み増加用編立部分20a、20bが編み込まれることが記載されていると認められる。 4)以上の検討を踏まえると、優先権当初明細書等には、訂正発明1の「増加用編立要件」が記載されていたと認められ、理由B2に理由はない。 5-3-3.理由B4について 1)訂正発明1は、先に「5-3-1」の「1)」で述べたような足袋様のくつ下に係るものであって、「足袋様増加用編立要件」を有するものと認められる。 2)優先権当初明細書等には、以下の記載(優6)が認められる。 (優6);「【0004】 ・・・。 しかし、一般的に、人の足は親指が他の指よりも太く且つ足の最先端の位置は親指側に位置する非対称形である。このため、図5に示す左右対称形で且つ親指側と小指側とが略同一厚さのくつ下100を非対称形の人の足に履くと、親指側に圧迫感がある。特に、親指に力が加えられるスポーツ等においては、競技中に親指に痛みを感ずることもある。 そこで、本発明の課題は、人の足の形状に可及的に近似し、履いた際に、親指側に圧迫感等を与えることを防止し得るくつ下を提供することにある。」(段落【0004】) (優7);「【0017】 ところで、くつ下には、爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下がある。かかる足袋様のくつ下にも本発明を適用できる。 本発明に係る足袋様のくつ下の一例を図3に示す。図3には、右足用の足袋様くつ下30の爪先部を示す。図3において、図3(a)は足袋様くつ下30の甲部側30bから見た図であり、図3(b)は爪先部の先端側から見た図である。また、図3(c)は足袋様くつ下30の足裏側30aから見た図である。 図3に示す足袋様くつ下30は、その爪先部が分割部36によって親指部32と他の指部34とに分割されている。この親指部32には、親指部32の厚みを増加する厚み増加用編立部分32a、32bが編み込まれ、且つ他の指部34にも、他の指部34の厚みを増加する厚み増加用編立部分34a、34bが、分割部36側に偏って編み込まれている。 このため、人の足の親指及び他の指部形状等に足袋様くつ下30の親指部32及びその指部34を可及的に倣って形成でき、足袋様くつ下30を履いたとき、親指等に対するくつ下からの圧迫感を減少できる。 【0018】 図3に示す足袋様くつ下30は、親指部32に編み込まれた厚み増加用編立部分32a、32bによって、親指部32の先端部及び両側面部を形成し、且つ他の指部34に編み込まれた厚み増加用編立部分34a、34bによって、他の指部34の先端部及び分割部側の側面部を形成するため、足袋様くつ下30を履いたとき、親指等に対するくつ下からの圧迫感を更に減少できる。」及び【図3】 3)先に「5-3-1」の「2)」で摘示した記載(優2)には、その爪先部が、親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下に係る発明が記載され、該発明は、「くつ下の親指部には、親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が編み込まれ、」と記載された事項を有するものと認められる。 そして、上記発明についての記載であることが明らかな記載(優7)の図3にも、厚み増加用編立部分32a、32bは、親指部32に編み込まれていることが記載され、図3からは、更に、厚み増加用編立部分32a、32bは、親指部32の先端部で編み込まれていることが見て取れる。 更に、上記発明についての記載であることが明らかな記載(優6)には、一般的に、人の足は、親指が他の指よりも太いもので、提供されるくつ下は、人の足の形状に可及的に近似し、履いた際に、親指側に圧迫感等を与えることを防止し得るものであることが記載され、その一方で、記載(優7)には、この圧迫感が、厚み増加用編立部分32a、32bによって、減少できることが記載されている。してみると、優先権当初明細書等には、くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、厚み増加用編立部分32a、32bが編み込まれていることが記載されていると認められる。 4)以上の検討を踏まえると、優先権当初明細書等には、訂正発明4の「足袋様増加用編立要件」が記載されていたと認められ、理由B4に理由はない。 5-3-4.まとめ 訂正発明1?5が特許法第41条第2項の適用を受けられないとする理由は見当たらない。 したがって、訂正発明1?5に対する特許法第29条の適用については、本件出願は、優先権基礎出願である特願平9-115607号の出願(出願日;平成9年5月6日)のときにされたものとみなされる。 5-4.無効理由A及びBについて 無効理由A及びBは、先に「2」の「2)」で認定したとおりである。 その一方で、本件訂正は、先に「4」で述べたように、認められるものであって、また、訂正発明1?5に対する特許法第29条の適用については、先に「5-3」で述べたように、本件出願は、特願平9-115607号の出願(出願日;平成9年5月6日)のときにされたものとみなされ、甲第1号証が平成9年12月22日に発行されたと認められることから、甲第1号証は、本件出願前に頒布されたものではなく、該甲号証を根拠にした、特許法第29条に関する無効理由A及びB部分は、その根拠を失ったものといえる。 そこで、これら無効理由A及びBを、以下の無効理由A’B’として、検討する。 A’B’;訂正発明1?5は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、これら訂正発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 1)甲第2号証には、以下の記載が認められる。 「【実用新案登録請求の範囲】 【請求項1】 外側のくつ下部の内側に別のくつ下部を挿入して二重にした二重くつ下において、内側に挿入されたくつ下部のかかと部の外側に密封性を有するシート材を装着したことを特徴とする二重くつ下。 【請求項2】 二重くつ下が、足首部に対してほぼ対称となるように二足分のくつ下部が連続して編成されて、一方のくつ下部を裏返して他方のくつ下部に挿入して成り、裏返して挿入されたくつ下部のかかと部の外側に密封性を有するシート材を装着したことを特徴とする請求項1に記載の二重くつ下。」 甲第2号証には、この記載によれば、二重くつ下についての発明が記載されていると認められるものの、訂正発明1?5が、ここに記載の発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるとする理由は、甲第2号証の記載全体を見ても、見当たらず、無効理由A’B’に理由はない。 2)よって、無効理由A及びBにも理由はない。 5-5.無効理由Cについて 無効理由Cは、先に「2」の「2)」で認定したとおりであって、本件訂正が、先に「4」で述べたように、認められることから、請求人は、以下の無効理由C’を主張するものと認める。 C’;訂正発明1?5は、甲第8号証、甲第27号証又は甲第28号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、これら訂正発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 5-5-1.各甲号証の記載 甲第8又は27号証には、以下の記載(ア)?(イ)が認められ、また、甲第28号証には、以下の表題の下での記載が認められる。 <甲第8号証> (ア);「2.実用新案登録請求の範囲 1.拇指袋(1)と、それに隣接する3指の小指袋(2)(3)(4)と、以上の4本の指袋(1)(2)(3)(4)に続く4本胴(5)と、小指袋(4)に隣接する最外側の小指袋(6)と、これらに続く胴部分(7)とを、一体に編成してある指袋付靴下であって、上記拇指袋(1)から小指袋(6)までの編地中、小指袋(2)(3)(4)の、少くとも爪先が当る部分を除いた、残りの部分(2)b・(3)b・(4)bの全部又は大部分を、胴部分(7)の編地中足巾の最も広い部分に当たる部分(7)aの編糸aよりも細い編糸bにて編成すると共に、少くとも、拇指袋(1)の爪先が当る部分(1)aを、前記編糸bよりも太い編糸cにて編成してあること、を特徴としてなる指袋付靴下。」(明細書1頁)及び第1、2図 <甲第27号証> (イ);「特許請求の範囲 1 全周を構成するコース部の間に、円周の一部を構成する多数の挿入コースの幅を順次狭くし、次に順次広く構成され、このコースの両端部が交錯され、かつその挿入コースの交錯部における遊び糸は切断されており、その挿入コースによつて所定位置にふくらみ部分を構成してヒール部及びトウ部もしくはヒール部を形成してなる円型丸編機により編み立てられた靴下。」(明細書4頁7欄3行?8欄3行)」 <甲第28号証> 表題;「第I篇 総論」の「第2章 くつ下の分類とくつ下各部の名称及び寸法」、「第II篇 ソックス」の「第3章 ソックス編機の構造と編成原理」、「第III篇 ストッキング」の「第2章 編機の構造と編成原理」及び「第3章 編機の構造、機能と調整方法」 5-5-2.訂正発明1?5と各甲号証記載の発明との対比判断 訂正発明1?5が、甲第8号証、甲第27号証又は甲第28号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるとする理由は見当たらない。 これに対し、請求人は、要するに、訂正発明1?5の甲第8号証に記載された発明との相違点は、甲第27号証又は甲第28号証に記載された発明に基いて、容易に発明をすることができたと主張するので検討する。 (1)訂正発明1?3の対比判断 1)まずは、訂正発明1が容易に発明をすることができたかについて検討する。 甲第8号証には、記載(ア)によれば、指袋付靴下に係る以下の発明(以下「引用発明8」という。)が記載されていると認められる。 「拇指袋(1)と、それに隣接する3指の小指袋(2)(3)(4)と、以上の4本の指袋(1)(2)(3)(4)に続く4本胴(5)と、小指袋(4)に隣接する最外側の小指袋(6)と、これらに続く胴部分(7)とを、一体に編成してある指袋付靴下であって、上記拇指袋(1)から小指袋(6)までの編地中、小指袋(2)(3)(4)の、少くとも爪先が当たる部分を除いた、残りの部分(2)b・(3)b・(4)bの全部又は大部分を、胴部分(7)の編地中足巾の最も広い部分に当たる部分(7)aの編糸aよりも細い編糸bにて編成すると共に、少くとも、拇指袋(1)の爪先が当たる部分(1)aを、前記編糸bよりも太い編糸cにて編成してあること、を特徴としてなる指袋付靴下。」 また、甲第27号証には、記載(イ)によれば、挿入コースによってふくらみを持たせたヒール部やトウ部を形成する、靴下についての発明が、また、甲第28号証には、くつ下の編成技術についての発明が記載されていると認められる。 2)そして、引用発明8は、その拇指袋(1)の先端位置は、記載(ア)の第1、2図を参照すれば、爪先部の最先端位置でもあり、親指側に偏って位置していることは明らかで、また、引用発明8は、全体的に見て、非対称形であるくつ下であると認められる。 また、上記拇指袋(1)は、上記図では、他の小指袋(2)(3)(4)(6)と比較して、幅広く図示されており、引用発明8は、爪先部の小指側よりも親指側の厚みが増加されるように編成されていると認められる。 そこで、訂正発明1と引用発明8と対比すると、訂正発明1は、少なくとも、以下のA点で相違していると認められる。 A;訂正発明1は、「爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ、且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」点。 そこで、このA点について検討する。 引用発明8は、上述したように、爪先部の小指側よりも親指側の厚みが増加されるように編成されているものの、その構成からして、太い編糸や細い編糸といった、糸使いに特徴を有するもので、上述のように編成するのに、これと言った、編地組織上の工夫に特徴は見られず、少なくとも、爪先部の親指側の側面から該爪先部の先端を上に向けて見たとき、その端縁がV字状に形成されるような編地組織、すなわち、厚み増加用編立部分を設けて引用発明8を編成しようとすることは、到底、思いつかないと言うべきである。 そして、このことは、甲第27号証又は甲第28号証、これらには、先に「1)」で述べたように、靴下についての発明やくつ下の編成技術についての発明が記載されているが、これら甲号証を参照しても同様である。 また、訂正発明1は、A点を有することにより、先に「4-2-2」の「2-2)」で述べたとおりの、技術的意義を持ち、格別な効果を有するといえるものである。 してみると、A点は、容易になし得るとはいえず、訂正発明1は、甲第8号証、甲第27号証又は甲第28号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたとはいえない。 3)訂正発明2又は3は、訂正発明1を、更に、技術的に限定していることは明らかで、該訂正発明1が甲第8号証、甲第27号証又は甲第28号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたといえない以上、同様に、容易に発明をすることができたといえない。 (2)訂正発明4?5の対比判断 甲第8号証、甲第27号証又は甲第28号証には、先に「(1)」の「1)」で述べたとおりの引用発明8や、それぞれの発明が記載されていると認められる。 そして、訂正発明4と引用発明8と対比すると、引用発明8は、そもそも、その爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様、すなわち、「親指の分かれた和装用の足を包むはきもの」(「JISハンドブック 31 繊維」、261頁の番号6-82、2005年6月28日、財団法人 日本規格協会 発行。)様のくつ下ではなく、この点において、引用発明8と相違するし、更に、訂正発明4は、少なくとも、以下のB点で相違していると認められる。 B;訂正発明4は、「親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が編み込まれていると共に、くつ下の他の指部にも、他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、他の指部の先端部で且つ分割部側に偏って編み込まれ、前記爪先部の親指部の両側面の各々から前記爪先部の先端を上に向けて見た、前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていると共に、前記他の指部の分割部側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見た、前記分割部側の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」点。 そこで、このB点について検討すると、先に「(1)」の「2)」で述べたのと同様の理由から、少なくとも、爪先部の親指部の両側面の各々から該爪先部の先端を上に向けて見た、その端縁がV字状に形成されている編地組織、すなわち、前記親指部の厚み増加用編立部分を設けて引用発明8を編成しようとすることは、思いつかないし、また、引用発明8は、上述したように、その爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下ではないから、他の指部の分割部側の側面から爪先部の先端を上に向けて見た、前記分割部側の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されているよう、構成することも、思いつかないと言うべきである。 そして、このことは、上記「2)」で述べたのと同様の理由から、甲第27号証又は甲第28号証に記載されている発明を参照しても同様である。 また、訂正発明4は、B点を有することにより、先に「4-2-2」の「2-2)」で述べた技術的意義、すなわち、厚み増加用編立部分を形成し得ているという技術的意義を持ち、格別な効果を有するといえる。 してみると、B点は、容易になし得るとはいえず、訂正発明4が甲第8号証、甲第27号証又は甲第28号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたとはいえないし、訂正発明5は、訂正発明4を、更に、技術的に限定していることは明らかで、該訂正発明4が容易に発明をすることができたといえない以上、同様に、容易に発明をすることができたといえない。 5-5-3.まとめ 無効理由C’に理由はなく、無効理由Cにも理由はない。 5-6.無効理由Dについて 無効理由Dは、先に「2」の「2)」で認定したとおりであって、請求人が指摘する、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正、即ち、平成13年8月23日付け補正(以下、「本件補正」という。)をしたとの理由は、本件訂正が認められることから、訂正発明1の「増加用編立要件」又は「訂正V字状要件」は、本件当初明細書等に記載がない、ということであると認める。 そこで、この理由について検討すると、「増加用編立要件」又は「訂正V字状要件」は、先に「5-2-1」又は「5-2-2」で述べたように、原出願当初明細書等に記載されていたと認められ、原出願当初明細書等は、本件当初明細書等と対比して、その記載内容に相違する点は見当たらないから、結局の所、「増加用編立要件」又は「訂正V字状要件」は、本件当初明細書等に記載されていたと認められる。 してみると、本件補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正であったとの理由は、本件訂正によって、解消されたものということができる。 これに対し、請求人は、弁駁書(3)、「5-3」の「(2)」において、要するに、一度、前記要件を満たさないという瑕疵を有する補正は、明細書又は図面についての、その後の訂正や手続補正などでは、前記瑕疵を解消できないと主張するものであるが、これら訂正や手続補正についての制度が設けられた趣旨を斟酌しないもので、採用することはできない。 以上のことから、無効理由Dに理由はない。 5-7.無効理由Fについて 1)無効理由Fは、先に「2」の「2)」で認定したとおりであって、請求人が指摘する、特許法第36条第4項の規定に違反し、又は、同条第6項第1号に適合していない理由は、本件訂正が認められることから、以下の理由F1及び2であると認める。 F1;訂正発明1は、「丸編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって、」と記載された事項を有するものであるが、該事項に関し、同発明を実施することができない。 F2;図1の記載にあるように、「厚み増加用編立部分」を甲側と足裏側とで相似となるように実施することはできない。 そこで、理由F1及び2について検討する。 2)訂正発明1は、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形のくつ下に係るものであって、理由F1で指摘された記載事項を有すると共に、「厚み増加用編立部分」を有するもので、該「厚み増加用編立部分」は、V字状に形成されている端縁を有するものであると認められる。 そして、訂正明細書等には、図1が記載され、該図には、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形のくつ下が記載され、更に、訂正明細書等には、以下の記載(訂3)が認められ、これらの記載は、訂正発明1に関する記載であると認められる。 (訂3);「【0013】 図1に示すくつ下10は、爪先部12の厚みを増加する厚み増加用編立部分20a、20bを親指側16に偏って編み込むように、くつ下編機の編み立て方向を親指側16の方向にシフトさせて製編することによって得ることができる。 かかるくつ下編機として汎用されている丸編機、すなわち複数本の編針〔図6(a)に示す編針50と同一編針〕が周囲に配設された針釜〔図6(b)に示す針釜60と同一針釜〕を一定方向に回転して編み立てる回転動作と、この針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ丸編機によって、図1に示すくつ下10を製編する例を説明する。 【0014】 先ず、針釜を一定方向に回転させて所定長さの筒編部11(図4)を編み立てた後、針釜を正逆方向に交互に回動させ、編み立てに関与する編針の針数を増減させることによってくつ下の爪先部12を編み立てる。かかる針数の増減は、正逆方向に回動する針釜が回動方向を変更する際に行う。 図1に示す爪先部12を編み立てる際には、くつ下の足裏側10bを示す図1(c)のHI位置まで編み立てた後、編み立てに関与する編針の針数(以下、単に針数と称することがある)を順次減少させてJK位置まで編み立てる。この場合、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数と、逆方向に回動した際の針数の減少数とが実質的に同数である。 更に、JK位置まで編み立てた後、J位置側に針釜が回動する際に、針数を順次増加させてH位置まで編み立てると同時に、K位置側に針釜が回動する際に、針数を順次減少させてL位置側まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、爪先部12の足裏側10aに、厚み増加用編立部分20aを親指側16に偏って編み込むことができる。 【0015】 次いで、H位置側に針釜が回動する際に、針数を増加させてM位置まで編み立てると同時に、L位置側に針釜が回動する際に、針数を減少させてK位置側まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、甲部側10bに厚み増加用編立部分20bを親指側16に偏って編み込むことができる。この厚み増加用編立部分20a、20bは一体化されている。・・・。 【0016】 更に、HI位置まで編み立てた後、針数を所定本数に保持しつつ、くつ下の甲部側10bに形成された最終端となる開口部まで製編し逢着部14とする。 ここで、爪先部12を形成する部分の各端縁には、各部分の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連結線HJ、IK、KL、HMが形成されている。この連結線HJ、IK、KL、HMは、針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。 かかる連結線のうち連結線HJ、HMは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であり、図1においては、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見たときV字状である。」 3)記載(訂3)には、図1を参照しつつ、同図に示されたくつ下の爪先部12の丸編機による編立手順が記載されているもので、この記載によれば、くつ下の足裏側10aについては、HI位置まで編み立てた後、針数を順次減少させてJK位置まで編み立て、その後、J位置側に針釜が回動する際に、針数を順次増加させてH位置まで編み立てると同時に、K位置側に針釜が回動する際に、針数を順次減少させてL位置まで編み立てることが記載されていると認められる。 そして、これらのことを、図1(c)での編糸の大凡の軌跡の観点から見れば、編糸は、H位置を基点とすると、H位置とI位置を結ぶ直線上をI位置まで進み、その後、左右方向、ジグザグ状に、且つ、上方に進み、そして、J位置を経てK位置に至り、その後、編糸は、左右方向、ジグザグ状に、且つ、やや左方の上方に進み、そして、H位置を経てL位置に至っていると、解することができる。なお、このH位置からK位置に至る軌跡について補足すると、ジグザグ状の編糸は、左方に進んだときは、その度に、その最左側位置が、H位置とJ位置を結ぶ直線上をJ位置側に、順次、移行し、また、右方に進んだときは、その度に、その最右側位置が、I位置とK位置を結ぶ曲線上をK位置側に、順次、移行するもので、また、このK位置からL位置に至る軌跡についても補足すると、ジグザグ状の編糸は、左方に進んだときは、その度に、その最左側位置が、J位置とH位置を結ぶ直線上をH位置側に、順次、移行し、また、右方に進んだときは、その度に、その最右側位置が、K位置とL位置を結ぶ曲線上をL位置側に、順次、移行するものと理解でき、そして、組織上、J位置とH位置を結ぶ直線上に連結線が現出していることが理解できる。 また、甲側10bについては、上述した、この足裏側10aの編み立てに続いて、H位置側に針釜が回動する際に、針数を順次減少させてM位置まで編み立てると同時に、L位置側に針釜が回動する際に、針数を順次増加少させてK位置まで編み立てることにより、MK位置まで編み立て、その後、針数を順次増加させてHI位置まで編み立てることが記載されていると認められる。なお、上記記載の段落【0015】に「H位置側に針釜が回動する際に、針数を増加させてM位置まで編み立てると同時に、L位置側に針釜が回動する際に、針数を減少させてK位置側まで編み立てることによって、」とあるが、この記載における「増加」は「減少」の、また、「減少」は「増加」の誤記であることは、技術的に見て明らかである。 そして、同様に、これらのことを、図1(a)での編糸の大凡の軌跡で言えば、L位置の編糸は、左右方向、ジグザグ状に、且つ、やや右方上方に進み、K位置を経てM位置に至り、その後、左右方向、ジグザグ状に、且つ、上方に進み、I位置を経てH位置に至っていると、解することができる。なお、このL位置からM位置に至る軌跡について補足すると、ジグザグ状の編糸は、左方に進んだときは、その度に、その最左側位置が、H位置とM位置を結ぶ直線上をM位置側に、順次、移行し、また、右方に進んだときは、その度に、その最右側位置が、L位置とK位置を結ぶ曲線上をK位置側に、順次、移行するもので、また、このM位置からH位置に至る軌跡についても補足すると、ジグザグ状の編糸は、左方に進んだときは、その度に、その最左側位置が、M位置とH位置を結ぶ直線上をH位置側に、順次、移行し、また、右方に進むと進んだときは、その度に、その最右側位置が、K位置とI位置を結ぶ曲線上をI位置側に、順次、移行するものと理解でき、そして、組織上、M位置とH位置を結ぶ直線上に連結線が現出していることが理解できる。 そして、記載(訂3)の段落【0015】や【0016】に「厚み増加用編立部分20a、20bは一体化されている。」や「連結線のうち連結線HJ、HMは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であり、図1においては、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見たときV字状である。」とあるように、図1において、図面符号20a、20bで示される部分、即ち、図1(b)の、KとJ、JとH、HとM、そしてMとKの各位を結ぶ線で囲まれた部分を厚み増加用編立部分とし、連結線HJ、HMを、V字状に形成されている端縁としていることが見て取れる。 以上の検討を踏まえると、図1に開示された「厚み増加用編立部分」とは、V字状に形成されている端縁を有するもので、該端縁の「V」の字で、大凡、囲まれる部分、即ち、図1(b)のJ-H-M-Jを結ぶ三角形部分の、「V」の字の内側の編み地部分と、この編み地部分を形作るために編み込まれている編糸が存在する、「V」の字の内側の前記編み地部分以外の、図1(b)のJ-K-M-Jを結ぶ三角形部分の編み地部分と、からなる領域ということができる。 4)次に、訂正発明1の「親指側」について検討する。 訂正明細書等の記載全体を見渡すと、「子指側」との記載が認められ、「親指側」と「子指側」との技術的関係は、先に「5-1-2」で摘示した記載(訂1)における「一般的に、人の足は親指が他の指よりも太く且つ足の最先端の位置は親指側に位置する非対称形である。このため、図5に示す左右対称形で且つ親指側と小指側とが略同一厚さのくつ下100」の記載や、同じく摘示した記載(訂2)における「図1に示すくつ下10の爪先部12において、図面に示す爪先部12の左側部は親指が挿入される親指側16であり、図面に示す爪先部12の右側部は小指が挿入される小指側18である。」の記載によれば、人の足を、甲部側或いは足裏側から見て、その長手方向の、親指と小指とを、少なくとも、区画する線を挟んで「左側方向」と「右側方向」との関係にあり、「親指側」とは、左足の場合、つま先が上の足裏側から見て「左側方向」と解することができる。 5)そこで、図1に開示された上記「厚み増加用編立部分」を詳しく見ると、図1(c)の足裏側10bにおいては、K位置に至った編糸は、左右方向、ジグザグ状に、且つ、やや左方上方に進み、そして、H位置を経てL位置に至って厚み増加用編立部分20aを構成しており、該編糸は、全体として、左右方向中央から、左側方向、すなわち、親指側にシフトして編み込まれており、また、図1(a)の甲側10bにおいては、L位置に至った編糸は、左右方向、ジグザグ状に、且つ、やや右方上方に進み、K位置を経てM位置に至って厚み増加用編立部分20bを構成しており、該編糸は、全体として、右側方向、すなわち、小指側にシフトして編み込まれ、左右方向中央に戻っているから、得られたくつ下は、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形のものであると認められる。 また、上述した左側方向へのシフトと右側方向へのシフトを同程度のシフトすることにより、図1の記載にあるように、「厚み増加用編立部分」を甲側と足裏側とで実施することができると認められる。 してみると、訂正発明1の「丸編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって、」と記載された事項は、実施することができないとはいえない。また、訂正明細書等においては、そもそも、図1に記載の「厚み増加用編立部分」が甲側と足裏側とで相似となっていると記載している訳ではないが、いずれにしても、図1の記載にあるように、「厚み増加用編立部分」を甲側と足裏側とで実施できることは、上述のとおりである。 よって、理由F1及び2に理由はない。 6)以上のことから、無効理由Fに理由はない。 5-8.まとめ 無効理由A?Fに理由はない。 6.むすび 請求人の主張する無効理由に理由はなく、他の無効理由も見当たらない。 また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 くつ下 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】丸編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって、 該くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ、 且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下。 【請求項2】くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分が、爪先部の先端部及び親指側の側面部を形成する請求項1記載のくつ下。 【請求項3】くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていると共に、 前記V字状の端縁の途中が、厚み増加用編立部分の面積を拡大する方向に曲折されている請求項1又は請求項2記載のくつ下。 【請求項4】丸編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下であって、 該くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記くつ下の親指部の先端部には、親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が編み込まれていると共に、前記くつ下の他の指部にも、他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、他の指部の先端部で且つ分割部側に偏って編み込まれ、 前記爪先部の親指部の両側面の各々から前記爪先部の先端を上に向けて見た、前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていると共に、前記他の指部の分割部側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見た、前記分割部側の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下。 【請求項5】爪先部の親指部に編み込まれた厚み増加用編立部分によって、親指部の先端部及び両側面部が形成され、 且つ爪先部の他の指部に編み込まれた厚み増加用編立部分によって、他の指部の先端部及び分割部側の側面部が形成されている請求項4記載のくつ下。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明はくつ下に関し、更に詳細にはくつ下編機によって筒編して得たくつ下に関する。 【0002】 【従来の技術】 一般的に、図4に示すくつ下10は、足の入口部から爪先部12の方向に筒編した後、くつ下状の筒編部11の甲部に形成された開口部の端部を逢着することによって得ることができる。この開口部を逢着した部分を図4においては、逢着部14として示す。 図4に示すくつ下10は、工業的にはくつ下編機、例えば複数本の編針が周囲に配設された針釜を一定方向に回転して編み立てる回転動作と、この針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ丸編機を用いて製編される。かかる編針は、図6(a)に示す様に、先端部に設けられた鉤部52を一端部で開閉するベラ54の他端部が、鉤部52の首部に設けられた釘56に回動自在に軸着されているものである。また、針釜は、図6(b)に示す様に、筒状部材62の外周面に複数本の縦溝64、46・・が形成され、この縦溝64の各々に図6(a)に示す編針50が上下動可能に挿入されているものである。この針釜60を一定方向に回転させるとき、所定箇所で編針50が順次持ち上げられて編み立て動作を行う。 【0003】 図6に示す編針50と針釜60とを具備する丸編機によって製編される従来のくつ下の爪先部は、図5に示す手順によって製編される。 先ず、針釜50を一定方向に回転させて所定長さの筒編部11を編み立てた後、針釜60を回動させてくつ下100の爪先部102を編み立てる。この爪先部102を編み立てる際には、くつ下の足裏側100aを示す図5(c)のAB位置まで編み立てた後、針釜60を正逆方向に回動させつつ編み立てに関与する編針50の針数(以下、編み立てに関与する針数と称することがある)を順次減少させてCD位置まで編み立てる。 引き続き、図5に示すCD位置まで編み立て後、くつ下の甲部側100bを示す図5(a)のAB位置まで、針釜60を正逆方向に回動させつつ編み立てに関与する針数を順次増加させて編み立てることによって、爪先部102を形成できる。 【0004】 更に、図5(a)に示すAB位置まで編み立てた後、針釜60の編み立てに関与する針数を所定本数に保持しつつ、くつ下状の筒編部11の甲部側100bに形成された開口部まで製編し逢着部14とする。 ここで、爪先部12の足裏側100aと甲部側100bとの端縁には、各側を形成するループの一部が互いに絡み合わされて成る連結線AC、BDが形成されている。この連結線AC、BDは、針釜60が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 図5に示すくつ下100は、丸編機の針釜60を正逆方向に回動させつつ編み立てに関与する針数を順次増減させて爪先部102を編み立てる際に、針数の増減は実質的に同数であるため、丸編機の編み立て方向はくつ下の中心線方向で一定している。従って、得られたくつ下100の爪先部102は、図5(a)、図5(c)に示す様に、左右対称形に形成され、且つ爪先部102の先端側から見た図である図5Bに示す様に、略同一厚さに形成される。このため、図5に示すくつ下100は、左右どちらの足にも履くことができる。 【0006】 しかし、一般的に、人の足は親指が他の指よりも太く且つ足の最先端の位置は親指側に位置する非対称形である。このため、図5に示す左右対称形で且つ親指側と小指側とが略同一厚さのくつ下100を非対称形の人の足に履くと、親指によってくつ下地が引っ張られて親指側に圧迫感がある。特に、親指に力が加えられるスポーツ等においては、競技中に親指に痛みを感ずることもある。更に、親指によってくつ下地が引っ張られるため、小指側のくつ下地も引っ張られ、小指側にも圧迫感が感じられる。この様に、親指によって引っ張られた状態で靴の内側面で擦られる親指側のくつ下地は傷み易くなる。 また、通常、逢着部14は爪先寄りに位置し、くつ下を着用したとき、逢着部14は足指先と足指の付け根との間に位置し、逢着部14に擦られて足指の甲部表面に水腫(まめ)を作り易くなることがあり、且つ外観上も改善が求められている。 そこで、本発明の課題は、人の足の形状に可及的に近似し、着用した際に、親指側に圧迫感等を与えることを防止し得るくつ下を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明者等は前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、親指が他の指よりも太い人の足の形状に、くつ下の爪先部の形状が近似するように、くつ下を履いたとき、親指が挿入される爪先部の親指側に、厚みを増加する厚み増加用編立部分を偏って編み込むことによって、親指に対する圧迫感を緩和できることを知り、本発明に到達した。 すなわち、本発明は、丸編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって、該くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ、且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下にある。 かかる本発明において、くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分によって、爪先部の先端部及び親指側の側面部を形成することにより、くつ下を履いたとき、親指に対する圧迫感を更に緩和できる。 また、くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように、前記増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて見たとき、厚み増加用編立部分の端縁をV字状に形成すると共に、前記V字状の端縁の途中を、厚み増加用編立部分の面積を拡大する方向に曲折することによって、くつ下の爪先部の最先端位置を変更することなく厚み増加用編立部分の面積を拡大できる。 【0008】 また、本発明は、丸編機によって筒編して得たくつ下が、その爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下であって、該くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、前記くつ下の親指部の先端部には、親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が編み込まれていると共に、前記くつ下の他の指部にも、他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分が、他の指部の先端部で且つ分割部側に偏って編み込まれ、前記爪先部の親指部の両側面の各々から爪先部の先端を上に向けて見た、前記親指部の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていると共に、前記他の指部の分割部側の側面から爪先部の先端を上に向けて見た、前記分割部側の厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていることを特徴とするくつ下にある。 かかる本発明に係る足袋様のくつ下において、爪先部の親指部に編み込んだ厚み増加用編立部分によって、親指部の先端部及び両側面部を形成し、爪先部の他の指部に編み込んだ厚み増加用編立部分によって、他の指部の先端部及び分割部側の側面部を形成することにより、足袋様のくつ下を履いたとき、親指や他の指に対する圧迫感を更に緩和できる。 【0009】 従来のくつ下は、図5(a)?図5(b)に示す如く、左右対称形に形成され、且つ親指が挿入される親指側と小指が挿入される小指側とが略同一厚さに形成された爪先部を具備するくつ下である。このくつ下を、親指が他の指よりも太い非対称形の人の足に履くと、親指によってくつ下の爪先部が延ばされ、人の足の形状にくつ下が倣される。このため、くつ下を履いたとき、くつ下の爪先部によって親指は他の指方向に押圧されて圧迫感を感じ、同時に小指も親指方向に押圧されて圧迫感を感ずる。 【0010】 この点、本発明では、くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分を、爪先部の先端部で且つ親指側に偏って形成し、爪先部の最先端位置を親指側に偏らせている。このため、本発明に係るくつ下は、人の足に可及的に倣った形状とすることができる結果、くつ下を履いたとき、くつ下の爪先部によって、親指を他の指方向に押圧する押圧力を可及的に減少でき、親指及び小指に対する圧迫感を減少できる。 また、本発明に係る足袋様のくつ下においても、くつ下の爪先部の形状が、親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように、このくつ下の親指部の先端部には、親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を編み込み、且つくつ下の他の指部にも、他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を、他の指部の先端部で且つ分割部側に偏って編み込んでいる。このため、人の足の親指形状等にくつ下の親指部等を可及的に倣って形成できる結果、足袋様のくつ下を履いたとき、親指等に対するくつ下からの圧迫感を減少できる。 【0011】 【発明の実施の形態】 本発明に係るくつ下の一例は、図4に示すくつ下10と略同一形状であり、図1に左足用のくつ下10の爪先部12を示す。図1(a)はくつ下10の甲部側10bから見た図であり、図1(b)は爪先部12の先端側から見た図である。また、図1(c)はくつ下10の足裏側10aから見た図である。 図1に示すくつ下10の爪先部12において、図面に示す爪先部12の左側部は親指が挿入される親指側16であり、図面に示す爪先部12の右側部は小指が挿入される小指側18である。 図1(a)(c)に示す様に、図1に示すくつ下10は、爪先部12の最先端位置Gが中心線Xよりも親指側16に偏って位置する非対称形のくつ下10である。この形状は、人の足の形状に倣っているものである。 【0012】 また、図1に示す爪先部12は、図1(b)と従来のくつ下100の爪先部102の先端部を示す図5(b)との比較から明らかな様に、爪先部12の厚みを増加する厚み増加用編立部分20a、20bが余分に編み込まれていると共に、厚み増加用編立部分20a、20bが爪先部12の親指側16に偏って編み込まれている。このため、爪先部12の親指側16の厚みを小指側18の厚みよりも厚くでき、小指よりも親指が太い人の足の形状に近似させることができる。 図1に示すくつ下10の爪先部12は、図1(a)(b)に示す様に、厚み増加用編立部分20a、20bは爪先部12の先端部及び親指側16の側面部を形成するため、親指側に更なる余裕を与えることができ、くつ下を履いたとき、親指及び小指の圧迫感を更に緩和できる。 更に、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見た厚み増加用編立部分20a、20bの端縁HJ、HMをV字状とすることにより、後述するくつ下の製造方法によって容易に厚み増加用編立部分20a、20bを形成できる。 【0013】 図1に示すくつ下10は、爪先部12の厚みを増加する厚み増加用編立部分20a、20bを親指側16に偏って編み込むように、くつ下機の編み立て方向を親指側16の方向にシフトさせて製編することによって得ることができる。 かかるくつ下編機として汎用されている丸編機、すなわち複数本の編針〔図6(a)に示す編針50と同一編針〕が周囲に配設された針釜〔図6(b)に示す針釜60と同一針釜〕を一定方向に回転して編み立てる回転動作と、この針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ丸編機によって、図1に示すくつ下10を製編する例を説明する。 【0014】 先ず、針釜を一定方向に回転させて所定長さの筒編部11(図4)を編み立てた後、針釜を正逆方向に交互に回動させ、編み立てに関与する編針の針数を増減させることによってくつ下の爪先部12を編み立てる。かかる針数の増減は、正逆方向に回動する針釜が回動方向を変更する際に行う。 図1に示す爪先部12を編み立てる際には、くつ下の足裏側10bを示す図1(c)のHI位置まで編み立てた後、編み立てに関与する編針の針数(以下、単に針数と称することがある)を順次減少させてJK位置まで編み立てる。この場合、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数と、逆方向に回動した際の針数の減少数とが実質的に同数である。 更に、JK位置まで編み立てた後、J位置側に針釜が回動する際に、針数を順次増加させてH位置まで編み立てると同時に、K位置側に針釜が回動する際に、針数を順次減少させてL位置側まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、爪先部12の足裏側10aに、厚み増加用編立部分20aを親指側16に偏って編み込むことができる。 【0015】 次いで、H位置側に針釜が回動する際に、針数を増加させてM位置まで編み立てると同時に、L位置側に針釜が回動する際に、針数を減少させてK位置側まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、甲部側10bに厚み増加用編立部分20bを親指側16に偏って編み込むことができる。この厚み増加用編立部分20a、20bは一体化されている。 この様に、MK位置まで編み立てた後、針数を順次増加させてHI位置まで編み立てることによって爪先部12を形成できる。この場合、針釜が正方向に回動した際の針数の増加数と、逆方向に回動した際の針数の増加数とが実質的に同数である。 【0016】 更に、HI位置まで編み立てた後、針数を所定本数に保持しつつ、くつ下の甲部側10bに形成された最終端となる開口部まで製編し逢着部14とする。 ここで、爪先部12を形成する部分の各端縁には、各部分の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連結線HJ、IK、KL、HMが形成されている。この連結線HJ、IK、KL、HMは、針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。 かかる連結線のうち連結線HJ、HMは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であり、図1においては、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見たときV字状である。 尚、これまでの図1の説明において言う「実質的に同数」とは、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数又は増加数と、逆方向に回動した際の針数の減少数と増加数との間に、編み立てに関与する編針の針数の約10%程度が相違してもよいことを意味する。 【0017】 図1に示すくつ下10の爪先部12において、先端位置Gを親指側16に偏って位置させつつ、厚み増加用編立部分20a、20bの親指側16の面積を増大すべく、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁を形成する連結線HJ、HMの挟角を大にするほど、連結線HJ又は連結線IKと、H位置とI位置とを結ぶ直線HIとの各傾斜角αが小さくなり、爪先部12の幅(最先端Gと直線HIとの間隔)が狭くなる傾向にある。 この点、図2に示す編立て方法によれば、爪先部12の先端位置Gを親指側16に偏って位置させつつ、爪先部12の幅を一定に保持して厚み増加用編立部分の親指側16の面積を拡大できる。 【0018】 図2には、左足用のくつ下10の爪先部12を示し、図2(a)はくつ下10の甲部側10bから見た図であり、図2(b)は爪先部12の先端側から見た図である。 また、図2(c)はくつ下10の足裏側10aから見た図である。図2に示すくつ下もくつ下編機によって製編でき、丸編機を用いて図2に示すくつ下を製編する例について説明する。 先ず、丸編機の針釜を一定方向に回転させて所定長さの筒編部を編み立てた後、針釜を正逆方向に回動させつつ針数を増減して爪先部12を編み立てる。 この際に、図2(c)に示すNO位置まで編み立てた後、針数を順次減少させつつ、針数の減少数割合が変更される変曲点N′、O′を通りPQ位置まで編み立てる。この針数の正逆方向の減少数は実質的に同数である。 【0019】 更に、PQ位置まで編み立てた後、針数を順次増加させて変曲点N′O′の位置まで編み立てる。その後、針数を順次減少させてTS位置まで編み立てる。変曲点N′O′からTS位置までの針数の正逆方向の減少数は実質的に同数であるが、その減少割合は変曲点N′、O′からPQ位置まで編み立てる際の針数の減少割合よりも少割合である。 次いで、TS位置まで編み立てた後、T位置側に針釜が回動する際に針数を増加させて変曲点N′を通りN位置まで編み立てると同時に、S位置側に針釜が回動する際に針数を減少させてU位置まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、爪先部12の足裏側10aに厚み増加用編立部分20aを、親指側16に偏って編み込むことができる。ここで、変曲点N′において、T位置側に針釜が回動する際の針数の増加割合が変更される。 【0020】 引き続いて、UN位置まで編み立てた後、N位置側に針釜が回動する際に針数を減少させて変曲点V′を通りV位置まで編み立てると同時に、U位置側に針釜が回動する際に針数を増加させてS位置まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、甲部側10bに厚み増加用編立部分20bを親指側16に偏って編み込むことができる。ここで、変曲点V′において、N位置側に針釜が回動する際の針数の減少割合が変更される。この厚み増加用編立部分20a、20bは一体化されている。 この様に、VS位置まで編み立てた後、変曲点V′、O′の位置まで針数を順次増加させて編み立てた後、針数を減少させてWY位置まで編み立て、更に針数を増加させてNO位置まで編み立てることによって爪先部12を形成できる。VS位置からNO位置までの正逆方向の針数の増減数は実質的に同数であるが、変曲点V′、O′において、針数の増加割合又は減少割合が変更される。 【0021】 更に、NO位置まで編み立てた後、針数を所定本数に保持し、くつ下の甲部側10bに形成された最終端となる開口部まで製編して逢着部14とする。 ここで、爪先部12を形成する部分の各端縁には、各部分の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連結線NP、OQ、NT、OS、SU、VN、WN、YOが形成されている。かかる連結線は、針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。 これらの連結線のうち連結線NT、VNは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であって、親指側16の側面〔図2(b)の矢印AA方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見たとき略V字状である。 【0022】 また、厚み増加用編立部分20a、20bの端縁を形成する連結線NT、VNは、変曲点N′V′によって外方に曲折されているため、図1に示す方法によって形成した厚み増加用編立部分20a′、20b′〔図2Bにおいて、一点鎖線で囲む部分〕に比較して、厚み増加用編立部分20a、20bの面積を親指側16に偏って広く形成できる。 このため、図2に示すくつ下10を履いたとき、親指に対する圧迫感を更に一層軽減できる。 尚、これまでの図2の説明における「実質的に同数」とは、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数又は増加数と、逆方向に回動した際の針数の減少数又は増加数との間に、編み立てに関与する編針の針数の約10%程度が相違してもよいことを意味する。 【0023】 ところで、くつ下には、爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下がある。かかる足袋様のくつ下にも本発明を適用できる。 本発明に係る足袋様のくつ下の一例を図3に示す。図3には、右足用の足袋様くつ下30の爪先部を示す。図3において、図3(a)は足袋様くつ下30の甲部側30bから見た図であり、図3(b)は爪先部の先端側から見た図である。また、図3(c)は足袋様くつ下30の足裏側30aから見た図である。 図3に示す足袋様くつ下30は、その爪先部が分割部36によって親指部32と他の指部34とに分割されている。この親指部32には、親指部32の厚みを増加する厚み増加用編立部分32a、32bが編み込まれ、且つ他の指部34にも、他の指部34の厚みを増加する厚み増加用編立部分34a、34bが、分割部36側に偏って編み込まれている。 【0024】 このため、人の足の親指及び他の指部形状等に足袋様くつ下30の親指部32及びその指部34を可及的に倣って形成でき、足袋様くつ下30を履いたとき、親指等に対するくつ下からの圧迫感を減少できる。 図3に示す足袋様くつ下30は、親指部32に編み込まれた厚み増加用編立部分32a、32bによって、親指部32の先端部及び両側面部を形成し、且つ他の指部34に編み込まれた厚み増加用編立部分34a、34bによって、他の指部34の先端部及び分割部側の側面部を形成するため、足袋様くつ下30を履いたとき、親指等に対するくつ下からの圧迫感を更に減少できる。 また、親指部32の両側面の各々〔図3(b)に示す矢印BB、BBの各方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見た厚み増加用編立部分32a、32bの端縁をV字状とし、且つ他の指部34の分割部36側の側面〔図3(b)に示す矢印CCの方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見た厚み増加用編立部分34a、34bの端縁をV字状とすることによって、後述する丸編機を用いた製造方法によって足袋様くつ下30を容易に製造できる。 【0025】 図3に示す足袋様くつ下30もくつ下編機によって製編でき、丸編機を用いて図3に示すくつ下を製編する例について説明する。 図3に示す足袋様のくつ下30は、針釜を一定方向に回転させて所定長さの筒状部11(図4)を編み立てた後、針釜を正逆方向に交互に回動させて親指部32と他の指部34とを個別に編み立てることによって得ることができる。 以下、親指部32を編み立てた後、他の指部34を編み立てる足袋様くつ下30の製造方法について説明する。 図3(c)において、針釜を一定方向に回転させて所定長さの筒編部11を製編してA_(1)A_(2)位置まで編み立てた後、A_(2)位置からA_(3)位置まで編み得る針数に減少して親指部32を編製する。 この様に、針数を減少させた針釜を正逆方向に回動させつつ、針数を順次減少させてA_(4)A_(5)位置まで編み立てる。この際の針数の正逆方向の減少数は実質的に同数である。 更に、A_(4)A_(5)位置まで編み立てた後、針数を順次減少させつつA_(6)A_(7)位置まで編み立てる。このA_(4)A_(5)位置からA_(6)A_(7)位置までの針数の正逆方向の減少数は実質的に同数であるが、A_(3)A_(2)位置からA_(4)A_(5)位置まで編み立てる際の針数の減少割合よりも高い割合で針数を減少させる。 【0026】 A_(6)A_(7)位置まで編み立てた後、針数を順次増加しつつA_(4)A_(5)位置まで編み立てる。かかる編み立てによって、足裏側30aの厚み増加用編立部分32aを形成できる。A_(4)A_(5)位置まで編み立てた後、引き続き針数を順次減少しつつA_(8)A_(9)位置まで編み立てることによって、甲部側30bの厚み増加用編立部分32bを形成できる。この様にして編み立てられた厚み増加用編立部分32a、32bは一体化されている。 更に、A_(8)A_(9)位置まで編み立てた後、針数を順次増加しつつA_(4)A_(5)位置まで編み立てる。その後、針数を順次増加しつつA_(3)A_(2)位置まで編み立てることによって、親指部32を形成できる。A_(8)A_(9)位置からA_(3)A_(2)位置までの編み立ての際に、A_(8)A_(9)位置からA_(4)A_(5)位置までの針数の増加割合は、A_(4)A_(5)位置からA_(3)A_(2)位置までの針数の増加割合よりも高い。 【0027】 次いで、針釜の針数を図3(c)に示すA_(1)位置からA_(3)位置まで編み得る針数に調整し、他の指部34を製編する。 このように針数を調整した針釜を正逆方向に回動させつつ、針数を順次減少させてB_(2)B_(3)位置まで編み立て、更に針数を順次減少させつつB_(4)B_(5)位置まで編み立てる。このB_(2)B_(3)位置からB_(4)B_(5)位置までの針数の正逆方向の減少数は実質的に同数であるが、A_(1)A_(3)位置からB_(2)B_(3)位置まで編み立てる際の針数の減少割合よりも高い割合で針数を減少させる。この際の針数の正逆方向の減少数は実質的に同数である。 更に、B_(4)B_(5)位置まで編み立てた後、B_(5)位置側に針釜が回動する際に針数を増加させてB_(3)位置まで編み立てると同時に、B_(4)位置側に針釜が回動する際に針数を減少させてB_(6)位置まで編み立てることにより、編み立て方向を分割部36側の方向にシフトさせて編み立てることができる。その結果、足裏側30aに厚み増加用編立部分34aを分割部36側に偏って編み込むことができる。 【0028】 B_(3)B_(6)位置まで編み立てた後、B_(6)位置側に針釜が回動する際に針数を減少させてB_(7)位置まで編み立てると同時に、B_(6)位置側に針釜が回動する際に針数を増加させてB_(4)位置まで編み立てることによって、編み立て方向を分割部36側の方向にシフトさせつつ編み立てる。その結果、甲部側30bに厚み増加用編立部分34bを分割部36の方向に偏って編み込むことができる。この厚み増加用編立部分34a、34bは一体化されている。 更に、甲部側30bのA_(1)A_(3)A_(2)まで編み立てた後、針数を所定本数に保持しつつ、甲部側30bに形成された最終端となる開口部まで製編し逢着部14とする。 ここで、親指部32及び他の指部34を形成する部分の各端縁には、各部分の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連結線が形成されている。この連結線は、針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。 【0029】 かかる連結線のうち連結線A_(5)A_(6)、A_(5)A_(8)、A_(4)A_(7)、A_(4)A_(9)、B_(3)B_(5)、B_(3)B_(7)は、親指部32及び他の指部34の側面部を形成する厚み増加用編立部分32a、32b、34a、34bの端縁であって、親指部32の両側面の各々から爪先部12の先端を上に向けて見たときV字状であり、且つ他の指部34の分割部36側〔図3(b)の矢印CC方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見たときV字状である。 尚、これまでの図3の説明における「実質的に同数」とは、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数又は増加数と、逆方向に回動した際の針数の減少数又は増加数との間に、編み立てに関与する編針の針数の約10%程度が相違してもよいことを意味する。 【0030】 以上の説明においては、足袋様くつ下30を親指部32から製編する場合について述べてきたが、他の指部34から製編してもよい。 これまでの説明において、くつ下編機として、丸編機を用いてくつ下を製編する例について説明してきたが、横編機を用いてくつ下を製編してもよい。 また、甲部側に逢着部14を形成しているが、模様等の関係で足裏側に逢着部14を形成してもよい。 更に、これまでの説明は、履いたとき、くるぶし程度の長さとなるソックスについて行ってきたが、履いたとき、くるぶしを越える長さとなるロングソックス、太股以上の長さとなるタイツやストッキングについても本発明を適用でき、踵部が形成されていないくつ下でも本発明を適用できる。 【0031】 【発明の効果】 本発明に係るくつ下によれば、くつ下を履いたとき、くつ下の爪先部によって、親指を他の指方向に押圧する押圧力を可及的に減少でき、親指及び小指に対する圧迫感を減少できる。このため、親指に力が加えられるスポーツに用いられるスポーツ用くつ下に好適であり、親指の外反母趾や小指の外反小趾の防止にも有効である。更に、くつ下地が親指で引っ張られた状態で靴の内壁面で擦られることを防止できるため、くつ下の耐久性を向上できる。 また、くつ下状の筒編部の開口部の端部を逢着した逢着部の位置を、足指の付け根近傍に位置させることができるため、くつ下を着用したとき、逢着部に擦られて足指の甲部に水腫(まめ)を作りことも防止できる。しかも、くつ下の爪先部で足指を包み込むため、足指を付け根からサポートすることができ、且つ着用したときの外観も良好とすることもできる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明に係るくつ下の一例を説明するための説明図である。 【図2】 本発明に係るくつ下の他の例を説明するための説明図である。 【図3】 本発明に係る足袋用のくつ下の一例を説明するための説明図である。 【図4】 一般的なくつ下を示す正面図である。 【図5】 従来のくつ下の爪先部を説明するための説明図である。 【図6】 くつ下編機の一種である丸編機に装着される編針の正面図、及び針釜の斜視図及び部分拡大図である。 【符号の説明】 10 くつ下 10a 足裏側 10b 甲部 11 筒編部 12 爪先部 14 逢着部 16 親指側 18 小指側 20a、20b 厚み増加用編立部分 30 足袋様くつ下 32 親指部 34 他の指部 32a、32b 親指部32の厚み増加用編立部分 34a、34b 他の指部34の厚み増加用編立部分 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2009-09-08 |
結審通知日 | 2009-09-10 |
審決日 | 2009-09-28 |
出願番号 | 特願平10-320874 |
審決分類 |
P
1
113・
536-
YA
(A41B)
P 1 113・ 113- YA (A41B) P 1 113・ 03- YA (A41B) P 1 113・ 832- YA (A41B) P 1 113・ 121- YA (A41B) P 1 113・ 537- YA (A41B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 植前 津子 |
特許庁審判長 |
鈴木 由紀夫 |
特許庁審判官 |
谷治 和文 栗林 敏彦 |
登録日 | 2002-06-07 |
登録番号 | 特許第3316189号(P3316189) |
発明の名称 | くつ下 |
代理人 | 中根 敏勝 |
代理人 | 中根 敏勝 |
代理人 | 田代 攻治 |
代理人 | 麻生 利勝 |
代理人 | 田代 攻治 |
代理人 | 児玉 喜博 |
代理人 | 小南 明也 |
代理人 | 麻生 利勝 |
代理人 | 佐藤 荘助 |
代理人 | 長谷部 善太郎 |