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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1245469
審判番号 不服2008-30055  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-26 
確定日 2011-10-17 
事件の表示 特願2004-314926「リソグラフィ装置及びデバイス製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月26日出願公開、特開2005-136423〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願の手続の経緯は、概要次のとおりである。
特許出願 :平成16年10月29日
(優先権主張の日:平成15年10月30日、欧州)
拒絶理由通知(最初):平成19年11月13日(起案日)
手続補正 :平成20年 2月15日
拒絶査定 :平成20年 8月27日(起案日)
拒絶査定不服審判請求:平成20年11月26日
手続補正 :平成20年11月26日
審尋 :平成22年 2月24日(起案日)
回答書 :平成22年 5月24日
拒絶理由通知(最初):平成22年 9月29日(起案日)
手続補正 :平成22年12月28日
意見書 :平成22年12月28日

第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年12月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
照射の投影ビームを提供するための照明システムと、
前記投影ビームの断面内にパターンを付与する役割を果たすパターン化手段を支持する支持構造物と、
基板を保持するための基板テーブルと、
前記基板のターゲット部分上に前記パターン化されたビームを投影するための投影システムと、
パージ・ガスを用いて装置の少なくとも一部分をパージするための、比較的高フローのパージ・ガスを有する第1のモード及び比較的低フローのパージ・ガスを有する第2のモードで動作可能なパージ手段と、
前記パージ手段によってパージされる部分である前記装置の一部分の前記投影ビームの強度を、前記投影ビームの方向に関して下流の位置において測定するためのセンサとを備えるリソグラフィ装置であって、
前記第2のモードから前記第1のモードへの前記パージ手段のモードの変更に応答して、前記照明システムを制御して、前記基板のターゲット部分を露光するために使用される通常の強度よりも低い強度で投影ビームを生成するように構成され、前記センサによって測定される前記投影ビームの強度を監視するように構成された制御装置を備え、該制御装置は、前記センサによって測定される前記投影ビームの前記強度が所定の判断基準を満たすまで、前記照明システムに前記通常の強度を有する投影ビームを生成させないように構成され、
前記センサが空間的に感度があり、前記所定の判断基準は、前記投影ビームの断面の少なくとも一部分にわたってのビーム強度が0.2%未満の非一様性を有することである、ことを特徴とする装置。」

第3 当審における拒絶の理由
当審で通知した平成22年9月29日付け拒絶理由通知書の理由1?4で指摘した内容は、以下のとおりである。

「理由1
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


本願発明1,6において、
「前記エネルギ・センサが空間的に感度があり、前記所定の判断基準は、その断面の少なくとも一部分を横切るビーム強度が所定の一様性を有することである」
という事項がある。
ここで、本願明細書の段落【0015】の記載によれば、本願発明1,6の「投影ビーム」にはイオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームも含むとされているが、そのような荷電粒子ビームにおいては、荷電粒子間での反発力等により投影ビームの断面の空間的な強度分布は原理的に一様な状態にはなり得ないから、段落【0036】の「非一様性<0.2%」等の条件を達成することは困難である。

よって、本願発明1?6は発明の詳細な説明に当業者がその技術的意味を把握できる程度に明確に記載されたものではない。


理由2
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。


(1)本願発明1,6において、
「前記エネルギ・センサが空間的に感度があり、前記所定の判断基準は、その断面の少なくとも一部分を横切るビーム強度が所定の一様性を有することである」
という事項がある。
ここで、当該事項に関して本願明細書の発明の詳細な説明には、
「【0010】
エネルギ・センサが、空間的に感度が良く、所定の判断基準が、その断面の少なくとも一部分を横切るビーム強度が所定の一様性をもつものであることが好ましい。その絶対的な強度の代わりにビーム強度の一様性を考慮することによって、光源出力のゆらぎによって引き起こされる強度のどのような変動も無視される。」
「【0036】
以下を含めて様々な判断基準を使用して透過率が正常なレベルにあるかどうかを判定することができる。
・・・(中略)・・・
3.投影ビームの断面にわたっての強度の一様性が、或るしきい値を超えている、例えば、非一様性<0.2%、
・・・(以下、省略)・・・」
と記載されている。
しかし、当該記載は意味が不明確である。
ここで、技術常識を踏まえると、照明装置が提供する元々の投影ビーム自体、完全に一様なものでは有り得ず、その断面は何らかの空間的な強度分布を有していることは明らかである。このことは、本願明細書の段落【0026】における「この照明装置は、断面に所望の一様性と強度分布を有する、投影ビームPBと呼ばれる調整済みの照射ビームを提供する。」という記載からも明らかである。
そうすると、「投影ビームの方向に関して下流の位置」で測定した場合の投影ビームの断面の空間的な強度分布は、ビーム経路中のパージ・ガスに影響を受けるだけでなく、照明装置が提供する元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布に依存すると考えられるが、発明の詳細な説明の上記記載事項における、「所定の一様性」、「ビーム強度の一様性」、「投影ビームの断面にわたっての強度の一様性」等の事項が、ビーム経路中のパージ・ガスの影響に基づく強度分布と照明装置が提供する元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布とのどちらについての一様性を指しているのかが明確ではないから、本願の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1,6を実施できる程度に明確に記載されているとはいえない。

(2)本願発明1,6において、
「前記エネルギ・センサが空間的に感度があり、前記所定の判断基準は、その断面の少なくとも一部分を横切るビーム強度が所定の一様性を有することである」
という事項がある。
ここで、本願明細書の段落【0015】の記載によれば、本願発明1,6の「投影ビーム」にはイオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームも含むとされているが、そのような荷電粒子ビームにおいては、荷電粒子間での反発力等により投影ビームの断面の空間的な強度分布は原理的に一様な状態にはなり得ないから、段落【0036】の「非一様性<0.2%」等の条件を達成することは困難である。
したがって、投影ビームとして粒子ビームを含む本願発明1,6を実施することが困難である。

よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1?6を実施するのに明確かつ十分に記載されたものではない。


理由3
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)本願発明1において、「前記エネルギ・センサ」という事項があるが、「エネルギ・センサ」が前出しておらず、何を指しているのかが明確ではない。

よって、本願発明1?5は明確ではない。

(2)本願発明1,6において、「・・・その断面の少なくとも一部分を横切るビーム強度・・・」という事項があるが、「その断面」が何を指しているのかが明確ではない。

よって、本願発明1?6は明確ではない。

(3)本願発明1,6において、「前記所定の判断基準は、その断面の少なくとも一部分を横切るビーム強度が所定の一様性を有する・・・」という事項があるが、「所定の一様性」とは何を意味しているのかが明確ではない。
通常、照明システムが発生する元々の投影ビーム自体もその断面における強度の空間分布完全に一様であるということは有り得ず、何らかの強度分布(比較的一様なものでもガウス分布等。)を有しているから、そのような最初から何らかの強度分布を有する投影ビームについて、「投影ビームの方向に関して下流の位置」で測定した場合の「所定の一様性」とは何を意味しているのかが定かではない。
例えば、照明システムが発生する元々の投影ビーム自体の断面が空間的にランダムな強度分布を有している場合、「投影ビームの方向に関して下流の位置」で測定した結果がどのような性質を有すれば「所定の一様性」となるのかが理解困難である。
さらに、「所定の一様性」に関して、本願明細書の段落【0036】において、「非一様性<0.2%」という記載があるが、この「所定の一様性」を示す「非一様性」というパラメータがどのような性質のものであるのかも明確ではない。

(4)本願発明6において、「デバイス製造方法」とあるが、どのような種類の製造方法に関する発明であるのかが明確ではない。


理由4
この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物(引用例)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用例:特開2001-68400号公報

1.本願発明1について;引用例

引用例(第1実施形態、特に、【0041】、【0044】?【0049】、【0059】?【0077】等参照。)には、
・フォトリソグラフィで用いる露光装置において、
・露光に先立ち、吸光物質低減装置Rによって、照明ハウジング20,マスク室5等に存在する光路空間LSにヘリウム、アルゴン、窒素等の低吸光物質の特定ガスを送り込んで光路空間LSに存在する酸素分子、水分子、二酸化炭素分子等の吸光物質を低減させる作業を行い、
・光路空間LS内部の吸光物質の濃度を検出するために、基板ホルダー61に設けられたCCDイメージセンサーからなる計測器10により露光光ELの強度及び2次元的な強度分布を測定することにより吸光物質の濃度を短時間で検出し、
・検出した吸光物質の濃度が清浄な転写を行えない状態であるとき、基板WへのマスクMのパターンの像の転写を実行せず、吸光物質低減装置Rによって光路空間LSに存在する吸光物質を低減させる作業を維持することで、
・吸光物質を低減させる作業を効率よく行える露光装置。
が記載されている(以下、「引用発明」という。)。

引用発明と本願発明1とを対比すると、以下の相違点で相違し、その他の点では一致する。

(相違点1)
センサによる投影ビームの強度の監視に関して、本願発明1は、「比較的高フローのパージ・ガスを有する第1のモード」と「比較的低フローのパージ・ガスを有する第2のモード」とを有し、「第2のモード」から「第1のモード」へのモード変更に応答して監視を行うのに対して、引用発明は、「露光に先立ち・・・光路空間LSに存在する吸光物質を低減させる作業」を開始してから監視(露光光ELの測定)を行っており、「第2のモード」(吸光物質を低減させる作業を行う前の状態)から「第1のモード」(吸光物質を低減させる作業を行う状態)への変更に応答して監視を行っているといえるが、「第2のモード」が「比較的低フローのパージ・ガス」を有するとはいえない点。

(相違点2)
投影ビームの強度制御に関して、本願発明1は「第2のモード」から「第1のモード」へのモード変更に応答して投影ビームの監視を行う際に、投影ビームの強度を露光時よりも低くするのに対して、引用発明は投影ビームの監視を行う際に、投影ビームの強度を変更するようにしていない点。

上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
例えば、特開2001-345255号公報(【0030】?【0036】等参照。【0031】で「・・・エアカーテン23b’は初期状態、すなわちノズル27b’のエアーの噴出を行っていない(あるいは少量のエアーを噴出している)状態となっている。」と記載されている。なお、下線は当審で付した。)等に開示されているように、ウェハを搬入して本格的なパージ・ガス(窒素等)の導入を行う前の初期状態を少量のパージ・ガスを噴出した状態にしておくことは、露光装置の技術分野における周知の技術に過ぎない。
そうすると、引用発明に当該周知の技術を付加し、初期状態である吸光物質を低減させる作業を行う前の状態を少量のパージ・ガスを噴出した状態にしておくことは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
光路が酸素を含む空気雰囲気である状態で通常の強度を有する露光光を導入すると、オゾンの発生により光学部材が損傷を受ける可能性があることは、露光装置の技術分野における技術常識である(例えば、特開平10-172899号公報(【0004】、【0010】)参照)。
また、光路が酸素を含む空気雰囲気である状態で露光光を導入する際には、露光光の強度を十分に低下した状態で行えば、光学部材の損傷が防止できることは、例えば、特開平10-172899号公報に開示されているように、周知の技術である。
ここで、引用発明は、光路空間LSに存在する酸素分子、水分子、二酸化炭素分子等の吸光物質が十分に低減しきらない状態から、露光光ELを光路空間LSに導入して測定を行う工程を含んでいるから、上記技術常識からして、オゾンの発生により光学部材が損傷を受ける可能性があることは、当業者にとって自明なことである。
そうすると、引用発明に上記周知技術を付加し、露光光ELを光路空間LSに導入して測定を行う工程において、露光光ELの強度を十分に低下したものとすることは、当業者であれば容易に想到することである。

そして、本願発明1が奏する作用効果は、引用発明ならびに周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。

よって、本願発明1は、引用発明ならびに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明2?6について;引用例

本願発明1について述べたのと同様の理由で、引用発明ならびに周知の技術または慣用手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ビームの強度制御手段として、パルス周波数を制御することや可変減衰器を用いることは、どちらも周知技術に過ぎない。また、強度の具体的な目標値の設定は、設計的事項に過ぎない。 」

第4 請求人の主張
平成22年12月18日付け意見書における請求人の主張は、概略次のとおりである。

1 拒絶の理由1(サポート要件)について
「(4)次に拒絶理由1について意見を述べます。
拒絶理由通知において、補正前の請求項1及び6に対して以下のご指摘を受けております。
『(省略)』
ご指摘のように、投影ビームが荷電粒子ビームである場合には、投影ビームの断面の空間的な強度分布を一様な状態にするのは困難かもしれません。
しかし、本願明細書の段落[0015]にご指摘の記載があったとしても、当業者であれば、本願明細書のその他の記載と出願時の技術常識とを考慮して、投影ビームとして、イオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームは適さない(除かれる)ことは、理解できるものと思料致します。
なお、このような事情を考慮しても、依然として当業者がその記述的意味を把握できる程度に明確に記載されたものではないとお考えの場合には、本願明細書の段落[0015]からイオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームを削除する補正の準備があることをお伝え申し上げます。
従って、以上の説明により、拒絶理由1の上記ご指摘は解消したものと思料致します。」

2 拒絶の理由2(実施可能要件)について
「(5)次に拒絶理由2について意見を述べます。
(a)(1)について
拒絶理由通知において、補正前の請求項1及び6に対して以下のご指摘を受けております。
『(省略)』
そこで、上記手続補正書により、請求項1及び6において「前記所定の判断基準は、前記投影ビームの断面の少なくとも一部分にわたってのビーム強度が0.2%未満の非一様性を有することである」と補正致しました。
ここで、投影ビームの断面の空間的な強度分布を完全に一様(均一)にすることは極めて困難であり、何らかの強度分布を有していることは、当業者であれば出願時の技術常識に基づいて理解することができるものと思料致します。また、投影ビームの断面の空間的な強度分布は、必ずしも単一(一つ)の要因によるものではなく、種々の要因によって変化する(影響される)ものであることも、当業者であれば出願時の技術常識に基づいて理解することができるものと思料致します。そして、補正後の請求項1及び6に係る発明は、投影ビームの断面の少なくとも一部分にわたってのビーム強度が、「結果として」、0.2%未満の非一様性を有するか否かを所定の判断基準とするものであります。すなわち、補正後の請求項1及び6に係る発明における非一様性は、ビーム経路中のパージ・ガスの影響に基づく強度分布の非一様性であるか、又は元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布の非一様性であるか、いずれか一方に限定されるものでなく、投影ビームの断面の空間的な強度分布を変化させる全ての要因を包含したものであります。例えば、補正後の請求項1及び6に係る発明では、ビーム経路中のパージ・ガスの影響に基づく強度分布と、元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布との複合要因による強度分布が0.2%未満の非一様性を有することを所定の判断基準とすることができます。このように、本願明細書におけるご指摘の箇所の記載は、本願明細書のその他の記載と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が補正後の請求項1及び6に係る発明を実施できる程度に明確に記載されているものと思料致します。
従って、前述の請求項1及び6の補正と以上の説明とにより、拒絶理由2の上記(1)のご指摘は解消したものと思料致します。

(b)(2)について
拒絶理由通知において、補正前の請求項1及び6に対して以下のご指摘を受けております。
『(省略)』
上記(4)において前述したように、本願明細書の段落[0015]にご指摘の記載があったとしても、当業者であれば、本願明細書のその他の記載と出願時の技術常識とを考慮して、投影ビームとして、イオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームは適さない(除かれる)ことは、理解できるものと思料致します。
従って、以上の説明により、拒絶理由2の上記(2)のご指摘は解消したものと思料致します。」

3 拒絶の理由3(明確性要件)の(3)について
「(6)次に拒絶理由3について意見を述べます。
・・・(中略)・・・
(c)(3)について
拒絶理由通知において、補正前の請求項6に対して以下のご指摘を受けております。
『(省略)』
そこで、上記手続補正書により、請求項1及び6において「所定の一様性」を「0.2%未満の非一様性」に変更致しました。
かかる補正により、「所定の一様性」という不明りょうな記載が削除されました。また、「非一様性」とは、パリ条約による優先権主張の基礎となった出願における”non-uniformity”の訳語であり、「不均一性」と言い換えることができます。そして、非一様性は、「投影ビームの断面の少なくとも一部分にわたってのビーム強度」の指標であるから、投影ビームの断面の空間的な強度分布が一様(または均一)ではない程度(度合い)、例えば、所定範囲における投影ビームの強度差が何%以内であるかを示す性質のものであることは、当業者であれば出願時の技術常識を考慮して理解することができるものと思料致します。
従って、前述の請求項1及び6の補正と以上の説明とにより、拒絶理由3の上記(3)のご指摘は解消したものと思料致します。」

4 拒絶の理由4(進歩性)について
「(3)次に拒絶理由4について意見を述べます。
(a)請求項1及び6に係る発明(以下、本発明という)は、従来とは異なる特徴的な構成、すなわち、「前記センサが空間的に感度があり、前記所定の判断基準は、前記投影ビームの断面の少なくとも一部分にわたってのビーム強度が0.2%未満の非一様性を有することである」構成を備えるものであります。
本発明の構成によれば、本願明細書の段落[0007],[0010],[0036]?[0037]等の記載から導き出すことができますように、ビーム強度の絶対的な強度に代わりに、投影ビームの断面にわたってのビーム強度の非一様性(一様性)を判断基準とすることにより、例えば光源出力のゆらぎによって引き起こされる強度のどのような変動も無視され、汚染の存在下におけるこの装置の光学素子に対する損傷を防止することができるという顕著な作用効果を奏するものであります。
一方、引用例には、前述した本発明の特徴的な構成について、記載はおろか示唆さえも一切されておりません。
実際に、引用例の段落[0042]には、計測器10は基板ステージ62によって水平方向(X-Y方向)に走査可能に設けられ、基板Wの露光面上に照射されるべき露光光ELの強度を2次元的に計測することが記載されております。しかしながら、この計測器10が空間的に感度を有する点、及び投影ビームの断面にわたってのビーム強度の非一様性(一様性)を判断基準とする点については、何ら開示されておりません。また、拒絶理由通知書においても『計測器10により露光光ELの強度及び2次元的な強度分布を測定する』と認定されております。よって、前述した2つの点は、引用例に記載された発明と本発明との相違点であり、拒絶理由通知書における一致点の認定は誤りであると思料致します。
また、拒絶理由通知書において、以下のご指摘を受けております。
『(1)相違点1について
・・・(中略)・・・』
しかしながら、本願出願人はかかるご指摘に承服いたしかねます。
すなわち、特開2001-345255号公報(以下、周知技術文献1という)に記載されたエアカーテン23b’は、初期状態において少量のエアーを噴出することが記載されておりますが、噴出するエアーの程度(量)について少量というのみで何ら具体的な記載はありません。これに対し、本発明における低フローのパージ・ガスは、本願明細書の段落[0004],[0033]等に記載しておりますように、装置内の光学要素を汚染から保護するのに十分なレベルであり、かつ、人にとって危険ではないレベルのフロー・レート(流量)であります。周知技術文献1は、噴出するエアーによる装置内の光学要素への影響について何ら言及していないばかりか、初期状態では、CD装置21からLL室14に搬入された状態であるため、人が出入りする状態ではありません。このため、周知技術文献1に接した当業者は、エアカーテン23b’から噴出する少量のエアーの程度(量)を、装置内の光学要素を汚染から保護し、かつ、人に対して危険が及ばないようにすることを想起し得ないものと思料致します。よって、ご指摘のように引用例に記載の発明に当該周知技術文献1に記載の技術を付加したとしても、本発明のように低フローのパージ・ガスのフロー・レート(流量)にすることは、当業者にとって容易に想到し得ることである、とは認められません。
さらに、引用例に記載された発明は、基板Wの露光面上の強度、すなわち、2次元的な強度分布に基づいて制御することを技術思想としております。これに対し、本発明は、投影ビームの断面の空間的、すなわち3次元的な強度分布に基づいて制御することを技術思想としており、かかる技術思想に基づく具体的な構成として、前述した、従来とは異なる本発明の特徴的な構成に想到したものであります。このように、引用例には前述した本発明の技術思想が開示されていないばかりでなく、引用例に開示された技術思想と本発明の技術思想とは、全く異なるものであります。
また、仮に、引用例に記載された発明に、拒絶理由通知書に記載された周知技術を適用しても、前述したように、引用例及び周知技術には計測器10が空間的に感度を有する点、及び投影ビームの断面にわたってのビーム強度の非一様性(一様性)を判断基準とする点を欠いていることから、その判断基準は依然として2次元的な強度分布であり、例えば光源出力のゆらぎによって引き起こされる強度の変動を無視することができない、という前述した本発明の顕著な作用効果を得ることはできません。
従って、引用例には、前述した本発明の技術思想さえ開示されておらず、本発明と引用例に記載された発明とは、本発明が前述の特徴的な構成を備える点で少なくとも相違し、さらに、本発明は引用例に記載された発明と比較して有利な効果を奏するものであることから、たとえ当業者といえども引用例に記載された発明に基づいて本発明に想到することは到底容易でないと思料致します。」

第5 当審の判断1(記載不備について)

1 サポート要件について(特許法第36条第6項第1号)
本願明細書の段落【0015】の記載によれば、「本明細書中で使用している用語「照射」及び「ビーム」は、(例えば、365nm、248nm、193nm、157nm、126nmの波長を有する)紫外線(UV)照射及び(例えば5?20nmの範囲の波長を有する)超紫外線(EUV)照射、並びにイオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームを含めて、すべてのタイプの電磁照射を包含している。」と明確に定義されているから、本願発明の「投影ビーム」にはイオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームも含むものと認められるが、そのような荷電粒子ビームにおいては、荷電粒子間での反発力等により投影ビームの断面の空間的な強度分布は原理的に一様な状態にはなり得ないから、本願発明の「非一様性<0.2%」等の条件を達成することは困難である。
よって、本願発明は発明の詳細な説明に当業者がその技術的意味を把握できる程度に明確に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、上述のとおり、請求人はこの点に関して、投影ビームが荷電粒子ビームである場合には、投影ビームの断面の空間的な強度分布を一様な状態にするのは困難であることを認めた上で、当業者であれば、本願明細書のその他の記載と出願時の技術常識とを考慮して、投影ビームとして、イオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームは除かれると理解できると主張している。
しかし、本願明細書の記載が技術常識に反する場合、本願明細書の記載に不備があることは明らかであるから、本願明細書の記載がサポート要件を満たしているとはいえず、当該主張は失当である。また、仮に、本願明細書からイオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームについての記載を削除しても、本願発明がそれらを包含している以上、そのような補正を行ってもサポート要件を満たしていることにはならない。

2 実施可能要件について(特許法第36条第4項)
(1)技術常識を踏まえると、照明装置が提供する元々の投影ビーム自体、完全に一様なものでは有り得ず、その断面は何らかの空間的な強度分布を有していることは明らかである。このことは、本願明細書の段落【0026】における「この照明装置は、断面に所望の一様性と強度分布を有する、投影ビームPBと呼ばれる調整済みの照射ビームを提供する。」という記載からも明らかである。
そうすると、「投影ビームの方向に関して下流の位置」で測定した場合の投影ビームの断面の空間的な強度分布は、ビーム経路中のパージ・ガスに影響を受けるだけでなく、照明装置が提供する元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布に依存すると考えられるが、発明の詳細な説明の上記記載事項における、「所定の一様性」、「ビーム強度の一様性」、「投影ビームの断面にわたっての強度の一様性」等の事項が、ビーム経路中のパージ・ガスの影響に基づく強度分布(すなわち、露光照射の透過率を低下させる酸素や水蒸気等の空気成分に起因し、それらを追放するパージ・ガスに影響を受ける、照明装置本来の投影ビームの強度分布との差分の相対的な一様性)と照明装置が提供する元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布(すなわち、照明装置本来の投影ビームの強度分布の絶対的な一様性)とのどちらについての一様性を指しているのかが明確ではないから、本願の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確に記載されているとはいえない。

なお、上述のとおり、請求人はこの点に関して、補正後の請求項1及び6に係る発明における非一様性は、ビーム経路中のパージ・ガスの影響に基づく強度分布の非一様性であるか、又は元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布の非一様性であるか、いずれか一方に限定されるものでなく、投影ビームの断面の空間的な強度分布を変化させる全ての要因を包含したものであり、例えば、補正後の請求項1及び6に係る発明では、ビーム経路中のパージ・ガスの影響に基づく強度分布と、元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布との複合要因による強度分布が0.2%未満の非一様性を有することを所定の判断基準とすることができると主張している。
しかし、本願明細書に記載されているのは、パージ・ガスの導入により、露光照射の透過率を低下させる酸素や水蒸気等の空気成分を追放することにより、投影ビームを一様にする技術のみであって、元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布を一様にする技術は記載されていないから、本願発明について、投影ビームの断面の空間的な強度分布を変化させる全ての要因を包含した非一様性を所定の範囲に収めるものとする当該主張は失当である。例えば、本願発明は、元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布が5%の非一様性を有するものにおいて、ビーム経路中のパージ・ガスの影響に基づく強度分布と、元々の投影ビーム自体の断面の空間的な強度分布との複合要因による強度分布が0.2%未満の非一様性を有するようにする装置をも包含しているが、パージ・ガスの導入だけで、元々の投影ビーム自体の空間的な強度分布よりも小さな非一様性を得ることは技術常識的に不可能であるから、そのような装置を含む本願発明の実施が困難であることは明らかである。

(2)上述のとおり、本願発明の「投影ビーム」にはイオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームも含むものと認められるが、そのような荷電粒子ビームにおいては、荷電粒子間での反発力等により投影ビームの断面の空間的な強度分布は原理的に一様な状態にはなり得ないから、本願発明の「非一様性<0.2%」等の条件を達成することは困難である。

なお、上述のとおり、請求人はこの点に関して、当業者であれば、本願明細書のその他の記載と出願時の技術常識とを考慮して、投影ビームとして、イオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームは除かれると理解できると主張しているが、本願発明に投影ビームがイオン・ビームや電子ビームなどの粒子ビームである場合が明確に包含され、かつ、本願明細書でもそれらを除外していない以上、本願発明に実施することの困難なものが含まれていることは明らかである。

上記(1)?(2)を総合すると、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

3 明確性要件について(特許法第36条第6項第2号)
本願発明の「非一様性」とは、補正前の請求項1の「所定の一様性」を「前記投影ビームの断面の少なくとも一部分にわたってのビーム強度が0.2%未満の非一様性」と言い換えたものであるが、実質的な意味は補正前の「所定の一様性」と同様に、一様さに関する状態を示す抽象的な概念に過ぎないといえる。
しかし、通常、照明システムが発生する元々の投影ビーム自体もその断面における強度の空間分布が完全に一様であるということは有り得ず、何らかの強度分布(比較的一様なものでもガウス分布等。)を有しているから、そのような最初から何らかの強度分布を有する投影ビームについて、「投影ビームの方向に関して下流の位置」で測定した場合の「非一様性」とは何を意味しているのかが定かではない。
例えば、照明システムが発生する元々の投影ビーム自体の断面が空間的にランダムな強度分布を有している場合、「投影ビームの方向に関して下流の位置」で測定した結果がどのような性質を有すれば所定の「非一様性」を有するのかが理解困難である。
さらに、「非一様性」というパラメータがどのような性質のものであるのかも明確ではない。
つまり、「所定の一様性」を「前記投影ビームの断面の少なくとも一部分にわたってのビーム強度が0.2%未満の非一様性」と言い換えても、本願発明が明確になったとはいえない。
よって、本願発明は不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

なお、上述のとおり、請求人はこの点に関して、非一様性は、「投影ビームの断面の少なくとも一部分にわたってのビーム強度」の指標であるから、投影ビームの断面の空間的な強度分布が一様ではない程度、例えば、所定範囲における投影ビームの強度差が何%以内であるかを示す性質のものであることは、当業者であれば出願時の技術常識を考慮して理解することができると主張しているが、当該主張は、元々の投影ビーム自体が何らかの強度分布を有しているものにおいて、投影ビームの方向に関して下流の位置で測定した場合の一様性(非一様性)とは何を意味しているのか分からないという拒絶の理由に対して、何ら回答するものではなく、妥当な主張とはいえない。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号?第2号に規定する要件を満たしておらず、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができないものである。

第6 当審の判断2(進歩性について)

1 引用例
当審で通知した平成22年9月29日付けの拒絶理由で引用した本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2001-68400号公報(以下「引用例」という。公開日:平成13年3月16日)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a.「【0002】
【従来の技術】従来より、半導体素子や薄膜磁気ヘッドあるいは液晶表示素子等をフォトリソグラフィ工程で製造する場合に種々の露光装置が使用されているが、フォトマスクあるいはレチクル(以下、「マスク」という)に形成されたパターンの像を、表面にフォトレジスト等の感光剤を塗布された基板上の各露光領域(ショット領域)に投影光学系を介して投影する露光装置が一般的に使用されている。
【0003】このような露光装置において、基板上のショット領域に投影されるパターンの形状の微細化に伴い、使用される露光用照明光(以下、「露光光」という)は短波長化される傾向にある。すなわち、これまで主流だった水銀ランプに代わって、KrFエキシマレーザー(248nm)を用いた露光装置が使用されるようになり、さらに短波長のArFエキシマレーザー(193nm)を用いた露光装置が実用化されつつある。また、さらなるパターンの形状の微細化を目指してF2レーザー(157nm)を用いた露光装置の開発も進められている。
【0004】ところで、露光光が約180nm以下といった真空紫外線光の場合、露光光の通過する空間である光路空間内に酸素分子、水分子、二酸化炭素分子などといった、かかる波長域の光に対し強い吸収特性を備える物質(以下、「吸光物質」という)が存在していると、露光光は減光され十分な強度で基板上に到達できない。したがって、真空紫外線光を用いた露光装置は、露光光の通過する光路空間の密閉性を高めて外部からの吸光物質の流入を遮断するような構造となっているとともに露光に際し光路空間内に存在する吸光物質を低減させる作業を施される。
【0005】このように、真空紫外線光を用いた露光装置において、十分な光量を有する露光光でマスクのパターンの像を基板上に転写するために、光路空間内の吸光物質を低減させる作業が重要となる。この吸光物質を低減する方法には、光路空間内を真空に引いて減圧状態に維持する方法、真空に引いた後に露光光に対する吸収性の少ない特性を有する物質(例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガス)を充填する方法、真空引きせずに前記のような不活性ガスを光路空間内に供給して低減する方法、などが挙げられる。」

b.「【0021】
【発明の実施の形態】《第1実施形態》以下、本発明の一実施形態による吸光物質検出方法、並びに露光方法及び装置を図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の吸光物質の検出装置を備えた露光装置の第1実施形態を説明するための概略構成図である。この露光装置1Aは、真空紫外域の露光用照明光(露光光)ELをマスクMに照明して、このマスクMのパターンの像を投影光学系3を介して基板(ウェーハ)W上に転写するものである。
【0022】図1において、露光装置1Aは、光源21からの光束をマスクMに照明する照明光学系2と、この照明光学系2内に配され露光光ELを通過させる開口Sの面積を調整してこの露光光ELによるマスクMの照明範囲を規定するブラインド部4と、マスクMを収容するマスク室5と、露光光ELで照明されたマスクMのパターンの像を基板W上に投影する投影光学系3と、基板Wを収容する基板室6と、基板Wに照射される露光光ELの強度に関する情報を計測する計測器10と、計測器10に接続された算出部100と、露光装置1Aの動作全体を制御する制御部(制御系)9とを備えている。
【0023】なお、この場合の露光光(光線)の強度に関する情報とは、露光光(光線)の照度(物体面上に単位面積あたりに照らされる量)、露光光(光線)の光量(単位時間あたりに放射される量)を含む。本実施形態では、計測器10は露光光(光線)の照度を計測するものとする。
【0024】光源21は、波長約120nm?約180nmの真空紫外線光を照明光学系2に射出するものであって、例えば発振波長157nmのフッ素レーザー(F2 レーザー)、発振波長146nmのクリプトンダイマーレーザー(Kr2 レーザー)、発振波長126nmのアルゴンダイマーレーザー(Ar2 レーザー)などによって構成される。なお、光源21として、発振波長193nmのArFレーザーエキシマレーザー等を用いることが可能である。
【0025】照明光学系2は、光源21から射出し反射鏡22によって導かれた光束のうち露光に必要な波長のみを通過させる波長フィルタ23と、この波長フィルタ23を通過した光束をほぼ均一な照度分布の光束に調整して露光光ELに変換するフライアイインテグレータ24(ロッドレンズタイプであってもよい)と、この露光光ELの大部分(例えば97%)をレンズ系26を介してブラインド部4に導くとともに残りの部分(例えば3%)を光量モニター7に導くハーフミラー25と、ブラインド部4によって照明範囲を規定されレンズ系27を透過した露光光ELをマスクMに導く反射鏡28とを備えている。そして、これら各光学部材及びブラインド部4は、密閉空間である照明系ハウジング20の内部に所定位置関係で配置されている。この場合、ブラインド部4はマスクMのパターン面と共役な面に配置されている。
【0026】光量モニター7は光電変換素子からなっており、ハーフミラー25によって導かれる露光光ELの一部分を光電変換し、この光電変換信号を制御部9に供給するものである。制御部9は光源21の発光開始に伴って、光量モニター7の出力に基づいて所定の演算により基板W上の積算露光量を連続的に算出し、所定の積算露光量(目標積算露光量)に達した時点で光源21の発光を停止するいわゆるオープン露光量制御を行うようになっている。すなわち、制御部9はこの光量モニター7からの情報に基づいて光源21を駆動・停止させるようになっており、これによって基板Wに対する露光量(露光光の照射量)が制御される。
【0027】なお、制御部9では、光量モニター7の出力に基づき光源21で発光されるパルスエネルギーをパルス発光毎に計測し、そのエネルギー変動を光源21にフィードバックすることで、光源21の時間当たりの発光量の変動を低減するようないわゆるパルス毎露光量制御を行ってもよい。
【0028】ブラインド部4は、例えば、平面L字状に屈曲し露光光ELの光軸AXと直交する面内で組み合わせられることによって矩形状の開口Sを形成する一対のブレードと、これらブレードを制御部9の指示に基づいて光軸AXと直交する面内で変位させる遮光部変位装置とを備えている。このとき、開口Sの大きさはブレードの変位に伴って変化し、開口Sはフライアイインテグレータ24から入射される露光光ELのうち、通過させた露光光ELのみをレンズ系27に送る。開口Sにより規定された露光光ELは、レンズ系27を介してマスク室5に配されたマスクMの特定領域をほぼ均一な照度で照明する。
【0029】マスク室5は、マスクMを真空吸着によって保持するマスクホルダー51を備えている。このマスク室5は、照明系ハウジング20及び投影光学系3の投影系ハウジング30と隙間無く接合された隔壁50によって覆われている。また、隔壁50の側壁部にはマスクMを搬入・搬出するための開口部が設けられており、この開口部には開閉扉55が設けられている。開閉扉55を閉じることによって、マスク室5は密閉されるようになっている。マスク室5の隔壁50は、ステンレス(SUS)等の材質を用いて、研磨などの処理によって表面粗さを低減させることにより、脱ガスの発生が抑制されている。
【0030】また、マスクホルダー51は、マスクM上のパターンが形成された領域であるパターン領域に対応した開口を有し、不図示の駆動機構によりX方向、Y方向、θ方向(Z軸回りの回転方向)に微動可能となっており、これによって、パターン領域の中心が投影光学系3の光軸AXを通るようにマスクMの位置決めが可能な構成となっている。このマスクホルダー51の駆動機構は、例えば2組のボイスコイルモータを用いて構成される。
【0031】マスク室5の隔壁50の天井部には、照明系ハウジング20の内部空間と、マスクMが配置されるマスク室5の内部空間とを分離するように透過窓8が配置されている。この透過窓8は、照明光学系2からマスクMに照明される露光光ELの光路上に配置されるため、真空紫外線光である露光光ELに対して透過性の高い蛍石等の結晶材料によって形成される。
【0032】投影光学系3は、開口Sによって規定されたマスクMの露光光ELによる照明範囲に存在するパターンの像を基板Wに結像させ、基板Wの特定領域(ショット領域)にパターンの像を露光するものである。この投影光学系3は、蛍石、フッ化リチウム等のフッ化物結晶からなるレンズや反射鏡などの複数(図では3つ)の光学部材31a、31b、31cを投影系ハウジング30で密閉したものである。本実施形態では、この投影光学系3として、投影倍率が例えば1/4あるいは1/5の縮小光学系が用いられている。このため、マスクMに形成されたパターンは投影光学系3により基板W上のショット領域に縮小投影され、基板W上にはパターンの縮小像が転写形成される。
【0033】投影光学系3の各光学部材31a、31b、31cは、それぞれ保持部材32a、32b、32cを介して投影系ハウジング30に支持されている。各保持部材32a、32b、32cは、各光学部材31a、31b、31cの周縁部を保持するように円環状に設けられる。そして、各光学部材31a、31b、31c及びマスク室5の隔壁50のそれぞれの間には、密閉された空間33a、33b、33cが形成されている。このとき、保持部材32a、32b、32cはガス溜まりを生じないように光軸AXに対して傾斜されたり、各光学部材31a、31b、31cの表面と保持部材32a、32b、32の表面とがほぼ一致するように構成される。したがって、各空間33a、33b、33c内部において、ガスは円滑に流れるようになっている。
【0034】基板室6は、基板Wを真空吸着することによって保持するための基板ホルダー61を備えている。この基板室6は、投影系ハウジング30と隙間無く接合された隔壁60によって覆われている。また、隔壁60の側壁部には基板Wを搬入・搬出するための開口部が設けられており、この開口部には開閉扉65が設けられている。開閉扉65を閉じることによって、基板室6は密閉されるようになっている。基板室6の隔壁60は、ステンレス(SUS)等の材質を用いて、研磨などの処理によって表面粗さを低減させることにより、脱ガスの発生が抑制されている。
【0035】基板ホルダー61は、基板ステージ62に支持されている。基板ステージ62は、互いに直交する方向へ移動可能な一対のブロックを重ね合わせたものであって、X-Y平面に沿った水平方向に移動可能となっている。あるいは、例えば磁気浮上型の2次元リニアモータ(平面モータ)等からなるウェーハ駆動系(図示略)によってベースの上面に沿って且つ非接触でX-Y面内で自在に駆動されるようになっている。すなわち、この基板ステージ62に固定された基板Wは、X-Y平面に沿った水平方向に(投影光学系3の光軸AXに対して垂直な方向に)移動可能に支持されている。
【0036】また、基板ステージ62の位置はレーザ干渉計システムによって調整されるようになっている。これを詳述すると、基板室6の隔壁60の-X側の側壁には光透過窓63が設けられている。これと同様に、隔壁60の+Y側(図1中における紙面奥側)の側壁にも光透過窓が設けられている。これらの光透過窓は、隔壁60に形成された窓部(開口部)にこの窓部を閉塞する光透過部材、ここでは一般的な光学ガラスを取り付けることによって構成されている。この場合、光透過窓63を構成する光透過部材の取り付け部分からのガス漏れが生じないように、取り付け部には、インジウムや銅等の金属シールや、フッ素系樹脂による封止(シーリング)が施されている。
【0037】基板ホルダー61の-X側の端部には、平面鏡からなるX移動鏡64XがY方向に延設されている。このX移動鏡64Xにほぼ垂直に基板室6の外部に配置されたX軸レーザー干渉計65Xからの測長ビームが光透過窓63を介して投射され、その反射光が光透過窓63を介してX軸レーザー干渉計65X内部のディテクタによって受光され、X軸レーザー干渉計65X内部の参照鏡の位置を基準としてX移動鏡64Xの位置、すなわち基板WのX位置が検出されるようになっている。
【0038】同様に、図示は省略されているが、基板ホルダー61の+Y側の端部には、平面鏡からなるY移動鏡がY方向に延設されている。そして、このY移動鏡を介してY軸レーザー干渉計によって上記と同様にしてY移動鏡の位置、すなわち基板WのY位置が検出される。X軸及びY軸それぞれのレーザー干渉計の検出値(計測値)は制御部9に供給され、制御部9は、各ショット領域間のステッピング時などにこれらのレーザー干渉計の検出値をモニターしつつ基板ステージ62の位置制御を行うようになっている。
【0039】このとき、X、Y軸の各レーザー干渉計、すなわちレーザー光源やプリズム等の光学部材及びディテクタなどは基板室6の外部に配置されているので、レーザー干渉計を構成するディテクタ等から仮に微量の吸光物質が発生しても、これが露光に対して悪影響を及ぼすことがない構成となっている。
【0040】すなわち、本実施形態の露光装置1Aにおいては、制御部9により基板W上の各ショット領域を露光位置に順次位置決めするように基板ステージ62を移動するショット間ステッピング動作と、その位置決め状態で露光光ELをマスクMに照明してマスクMに形成されたパターンの像を基板W上のショット領域に転写する露光動作とが繰り返し行われるようになっている。」

c.「【0041】基板ホルダー61には、基板Wの載値位置と異なる位置に、基板Wに照射される露光光ELの照射量を計測するための計測器10が設けられている。この計測器10は、例えばフォトダイオードやフォトトランジスタ、あるいはCCDイメージセンサなどの一般的な光センサによって構成される。
【0042】この計測器10は、露光に先立ち、基板ステージ62によって、投影光学系3からの露光光に対応する露光領域の下に配置されるように位置決めされる。すなわち、計測器10は基板ホルダー61に保持される基板Wの面とほぼ同一な面に受光面をほぼ一致させる。さらに、計測器10は基板ステージ62によって水平方向(X-Y方向)に走査可能に設けられている。したがってこの場合、基板Wの露光面上に照射されるべき露光光ELの強度(照度)は計測器10によって2次元的に計測される。
【0043】すなわち、計測器10を基板ステージ62によって、投影光学系3による投影領域内を走査させることによって、投影領域の各位置における露光光ELの強度が求められる。したがって、投影領域の各位置に対応する吸光物質の濃度が求められるので、この範囲における吸光物質の分布を求めることができる。この計測器10によって検出された吸光物質の分布は、照度データとして算出部100に送出されるようになっている。さらに、算出部100による算出結果は、制御部9に送出されるようになっている。」

d.「【0044】照明光学系2の照明系ハウジング20とマスク室5と投影光学系3の投影系ハウジング30と基板室6とのそれぞれに形成された内部空間(密閉空間)は、外部とのガスの出入りを遮断され、且つ光源21から射出され基板Wに照射される露光光ELの光路空間LSとなる。
【0045】ところで、真空紫外域の波長の光を露光光ELとする場合には、その光路空間LSから酸素、水蒸気、炭化水素系のガス等の、かかる波長帯域の光に対し強い吸収特性を有するガス(以下、「吸光物質」という)の濃度を低減させる必要がある。このため、光路空間LSは、図2に示す吸光物質低減装置Rにより、必要に応じて内部に存在する吸光物質の濃度を低減させる作業を施される。このとき、光路空間LSは真空紫外域の光に対する吸収性の少ない特性を有する窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン等のガス、またはそれらの混合ガス(以下、「低吸光物質」あるいは「特定ガス」という)を満たされる。
【0046】すなわち、光路空間LSに存在する吸光物質は特定ガスに交換(置換)されることによって低減される。また、光路空間LS内の吸光物質を低減させる方法として、上述した光路空間LS内のガスを特定ガスで置換する他に、排気減圧によっても実現することができ、ガス置換と同様の効果が得られる。
【0047】ここで、吸光物質低減装置Rについて図1及び図2を参照して説明する。吸光物質低減装置Rは、照明系ハウジング20、マスク室5、投影系ハウジング30、基板室6からなる光路空間LS内部に存在する吸光物質の濃度を低減させるものである。この吸光物質低減装置Rは、低吸光物質(特定ガス)を収容するとともに給気管路及び排気管路によって光路空間LSに接続されるガス供給装置70と、給気管路に設けられ制御部9の指示によりガス供給装置70に収容された特定ガスを給気管路を介して光路空間LSに送るポンプと、給気管路に設けられ制御部9の指示により開閉することによって光路空間LSに供給される特定ガスの量を調整する給気弁と、排気管路に設けられ光路空間LSからガス供給装置70に排出されるガスの量を調整する排気弁とを備えている。
【0048】このとき、照明系ハウジング20、マスク室5、投影系ハウジング30、基板室6の各空間のそれぞれの吸光物質の濃度は、吸光物質低減装置Rによってそれぞれ独立して低減されるように設けられている。
【0049】例えば、照明系ハウジング20内部の吸光物質を低減させる場合には、照明系ハウジング20の光源21側の一端側に設けられた給気弁11と、その給気弁11から最も遠い他端側に設けられた排気弁12と、ポンプP1とが用いられる。図2に示すように、ガス供給装置70の内部は第1室から第6室までの6つの部屋に区画されており、各部屋の内部には同一種類の低吸光物質(特定ガス)が充填されている。また、ガス供給装置70の各部屋に収容された特定ガスは不図示の温度調整装置により所定の目標温度に制御されている。このとき、給気弁11は給気管路を介してガス供給装置70の第1室の一端に接続され、排気弁12は排気管路を介してガス供給装置70の第1室の他端に接続されている。」

e.「【0050】排気弁12が設けられている排気管路には、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)あるいはULPAフィルタ(Ultra Low Penetration Air Filter)等の塵(パーティクル)を除去するフィルタ(以下、「エアフィルタ」という)AF11と、前述した酸素等の吸光物質を除去するケミカルフィルタCF11とが配置されている。同様に、給気弁11が設けられている給気管路には、エアフィルタAF12、ケミカルフィルタCF12が配置されているとともに、ポンプP1が設けられている。
【0051】給気弁11、排気弁12及びポンプP1は制御部9に接続されており、照明系ハウジング20内のガス置換を行うときには、制御部9は給気弁11及び排気弁12を開くとともにポンプP1を作動させる。これにより、ガス供給装置70に収容されている特定ガスは給気管路を介して照明系ハウジング20内部に送り込まれるとともに、照明系ハウジング20内部のガスは排気弁12を介して排気され、排気管路を介してガス供給装置70に戻されるようになっている。
【0052】排気弁12を介して排気されるガス中には、多少の不純物(パーティクル及び吸光物質を含む)が含まれているが、排気管路に設けられたエアフィルタAF11とケミカルフィルタCF11とによって、排気管路を介してガス供給装置70に戻るガス中の不純物はほどんど除去されるようになっている。一方、ガス供給装置70から給気管路を介して照明系ハウジング20内部に供給される特定ガス中の不純物は、給気管路に設けられたエアフィルタAF12及びケミカルフィルタCF12除去されるようになっている。したがって、特定ガスを長時間に渡って循環使用しても、露光に対する悪影響はほとんど生じないようになっている。
【0053】マスク室5内部の吸光物質を低減させる場合には、マスク室5の隔壁50に設けられた給気弁13及び排気弁14と、ポンプP2とが用いられる。図2に示すように、給気弁13は給気管路を介してガス供給装置70の第2室の一端に接続され、排気弁14は排気管路を介してガス供給装置70の第2室の他端に接続されている。この場合、排気弁14が設けられた排気管路には、エアフィルタAF21、ケミカルフィルタCF21が設けられている。一方、給気弁13が設けられた給気管路には、パーティクルを除去するエアフィルタAF22、ケミカルフィルタCF22及びポンプP2が設けられている。給気弁13、排気弁14、及びポンプP2は、制御部9に接続されている。制御部9は、前述した照明系ハウジング20内部のガス置換と同様の手順で、給気弁13、排気弁14の開閉及びポンプP2の作動・停止を行って、マスク室5のガス置換を行うようになっている。
【0054】投影光学系3の投影系ハウジング30内部の吸光物質を低減させる場合には、投影系ハウジング30に設けられた給気弁15a、15b、15c及び排気弁16a、16b、16cと、ポンプP3、P4、P5とが用いられる。このとき、給気弁15a、15b、15c及び排気弁16a、16b、16cは、投影光学系3の投影系ハウジング30に形成された空間33a、33b、33cに対応するように設けられている。すなわち、給気弁、排気弁及びポンプは、ガス置換を行うべき空間に対してそれぞれ個別に設けられている。
【0055】図2に示すように、それぞれの給気弁15a、15b、15cは給気管路を介してガス供給装置70の第3、4、5室のそれぞれの一端に接続され、排気弁16a、16b、16cは排気管路を介してガス供給装置70の第3、4、5室のそれぞれの他端に接続されている。この場合、排気弁16a、16b、16cが設けられた排気管路には、パーティクルを除去するエアフィルタAF31、AF41、AF51と酸素等の吸光物質を除去するケミカルフィルタCF31、CF41、CF51とが設けられている。また、給気弁15a、15b、15cが設けられた給気管路には、エアフィルタAF32、AF42、AF52、ケミカルフィルタCF32、CF42、CF52及びポンプP3、P4、P5が設けられている。これら給気弁15a、15b、15c、排気弁16a、16b、16c、及びポンプP3、P4、P5は制御部9に接続されている。制御部9は、前述した照明系ハウジング20内部のガス置換と同様の手順で、給気弁15a、15b、15c、排気弁16a、16b、16cの開閉及びポンプP3、P4、P5の作動・停止を行って、投影光学系3の投影系ハウジング30内部のガス置換を行うようになっている。
【0056】基板室6内部の吸光物質を低減させる場合には、基板室6の隔壁60に設けられた給気弁17及び排気弁18と、ポンプP6とが用いられる。図2に示すように、給気弁17は給気管路を介してガス供給装置70の第6室の一端に接続され、排気弁18は排気管路を介してガス供給装置70の第6室の他端に接続されている。この場合、排気弁18が設けられた排気管路にはパーティクルを除去するエアフィルタAF61と吸光物質を除去するケミカルフィルタCF61とが設けられている。一方、給気弁17が設けられた給気管路にはエアフィルタAF62、ケミカルフィルタCF62及びポンプP6が設けられている。給気弁17、排気弁18、及びポンプP6は制御部9に接続されている。制御部9では、前述した照明系ハウジング20内部のガス置換と同様の手順で、給気弁17、排気弁18の開閉及びポンプP6の作動・停止を行って、基板室6内部のガス置換を行うようになっている。
【0057】このように、各室50、33a、33b、33c、60の給気管路及び排気管路中のエアフィルタ及びケミカルフィルタの存在により、循環されるガス中の上記不純物はほどんど除去されるので、特定ガスを長時間に渡って循環しても、露光に対して悪影響をほとんど及ぼさないようになっている。なお、エアフィルタ、ケミカルフィルタは、いずれも十分な吸光物質除去能力があれば、単一のものを共用してもよい。」

f.「【0058】以上のような構成を持つ露光装置1Aを用いて、光路空間LSの吸光物質を検出する方法、マスクMに形成されたパターンの像を基板W上に転写する方法について説明する。
【0059】マスクMのマスク室5に対する搬入・搬出や、基板Wの基板室6に対する搬入・搬出などによって、光路空間LS(すなわち、照明系ハウジング20、マスク室5、投影系ハウジング30、基板室6)には酸素等の吸光物質が存在するようになる。したがって、この吸光物質による露光光の吸収を避けるために、露光に先立ち、上述した吸光物質低減装置Rによって光路空間LSに存在する吸光物質を低減させる作業を行う。
【0060】なお、光路空間LSに存在する吸光物質の低減を行っている間、もしくは光路空間LS内に吸光物質の濃度が所定値以下に到達した時点で、各光路空間LS内の圧力を大気圧よりわずかに高く設定する。このように、光路空間LS内の内圧を高めて設定するのは、各光路空間LS内への外部の外気の混入を防止するためである。その際、内圧は大気圧に対し1?10%程度高く設定することが望ましい。」

g.「【0061】露光に先立って吸光物質を低減させる作業が行われたら、光路空間LS内部の吸光物質の濃度を検出するために、計測器10を投影光学系3の露光領域内(結像面)に移動させる。そして、計測器10は、光源21から射出された露光光ELの強度(照度)を計測する。計測器10からの計測信号は計測器10に接続された算出部100に送出される。なお、ブラインド部4における開口Sを最大開口に設定することにより、吸光物質の濃度分布を計測することが可能となる。
【0062】光路空間LSに吸光物質が存在していると、真空紫外線光である露光光ELは吸光物質によって吸光される。したがって、光路空間LSに存在する吸光物質の濃度が高いほど、計測器10に達する露光光ELの強度は減衰される。計測器10は光路空間LSに存在する吸光物質の濃度に応じた計測信号を算出部100に送出する。
【0063】算出部100は、計測器10の計測信号に基づき光路空間LS内の吸光物質の濃度を算出する。算出部100には、吸光物質の濃度を任意に変化させたときの、基板W面上における露光光ELの強度に関する複数のデータが予め記憶されている。すなわち、算出部100には所定状態の光路空間LSを通過後の露光光ELの強度が記憶されている。算出部100は、この複数のデータ(データテーブル)と、計測器10によって検出された露光光ELの強度とを比較することによって、そのときの吸光物質の濃度を算出する。
【0064】このように、算出部100には、予め実験的に求められた、所定状態における空間内の吸光物質の濃度とこの空間を通過した露光光の強度との関係が記憶されている。なお、この関係には光学部材(光学レンズ)の透過率の情報も考慮されていることはもちろんである。
【0065】算出部100は、上述のようなデータテーブルを参照しつつ、計測器10の計測結果に基づいてそのときの吸光物質の濃度を算出する。算出部100の算出結果は制御部9に送出される。制御部9には、マスクMのパターンの像を基板Wに正常に転写できる状態の吸光物質の濃度の情報が記憶されており、制御部9はこの情報と算出部100の算出結果とを比較する。すなわち、基板Wに対するマスクMのパターンの像の転写を正常に行うことができる吸光物質の濃度と基板Wに導かれる露光光の強度(照度分布を含む)データとの関係は予め求められており、制御部9はこの関係に基づいて、マスクMのパターンの像の基板Wへの転写状態を制御する。
【0066】さらに具体的に言うと、制御部9には吸光物質の濃度を任意に変化させたときの基板Wに導かれる露光光ELの強度データに関する複数のデータが記憶されており、制御部9は、この複数のデータ(データテーブル)に基づいて、データテーブルと算出部100によって検出された吸光物質の濃度とを比較することによって、適正な転写を行えるか否かを判断する。このように、制御部9には、実験的に求められた、吸光物質の所定の濃度とこのときの基板Wに導かれる露光光の強度データとの関係が予め記憶されている。
【0067】なお、制御部9が適正な転写を行えると判断する状態とは、光路空間LSの吸光物質の濃度が、マスクMに形成されたパターンの像を基板Wに転写した際に、所望の転写精度が得られる状態を指す。
【0068】つまり、吸光物質の濃度が所定値以下(すなわち、検出した濃度が正常な転写が可能な濃度範囲内)であるという算出部100の算出結果を得た場合、制御部9は適正な転写を行える状態であると判断するとともに転写を行う判断をする。
【0069】一方、吸光物質の濃度が所定値以上(すなわち、検出した濃度が正常な転写ができない濃度範囲内)であるという算出部100の算出結果を得た場合、制御部9は適正な転写を行えない状態であると判断するとともに転写を行わない判断をする。このとき、制御部9は吸光物質低減装置Rによって前述と同様の手順で光路空間LSの吸光物質の濃度を低減させる作業を維持する。そして、この作業を行っている間、露光光ELの強度を計測器10によって計測し、この計測結果に基づいて光路空間LSの吸光物質の濃度を検出する。この検出結果の濃度が所定値以下になったとき、制御部9は転写を行える状態であると判断する。
【0070】なお、制御部9は、適正な転写を行えるか否かの判断に応じて、光源21から射出される露光光ELのオンオフを制御してもよい。この場合の露光光ELのオンオフは、光源21の駆動・停止によって実現されるが、ブラインド部4の調整によっても可能である。
【0071】以上のように、光路空間LSに露光光ELを照射し、この光路空間LSを通過した露光光ELの強度に関する情報を計測することにより、この計測結果に基づいて光路空間LS内の吸光物質の濃度は短時間で効率良く検出される。したがって、基板WへのマスクMのパターンの像の転写は効率良く行われるので、生産性は向上される。
【0072】吸光物質の濃度は短時間で検出されるので、吸光物質を低減させる作業は効率良く行える。すなわち、吸光物質を低減させる作業はある程度の時間を必要とするが、吸光物質の濃度は短時間で把握できるのでこの濃度に応じた作業を行えばよい。つまり、過剰な作業が防止されるので、作業性は向上される。
【0073】また、吸光物質の濃度検出用光線として露光光ELを用いることにより、吸光による転写への影響を直接且つ正確に把握することができる。」

h.「【0074】計測器10を2次元的光学情報を検出可能なCCDイメージセンサなどによって構成することにより、計測器10を走査させることなく2次元的な露光光ELの強度分布が求められるので、吸光物質の濃度及び分布が求められる。
【0075】吸光物質の分布が偏っている場合には、吸光物質低減装置Rによって光路空間EL内のガスをフローさせる等により、吸光物質の分布は均一化される。
【0076】この露光光ELを用いた吸光物質の濃度の検出は、基板Wの交換時に行うことによって、効率良く行われる。すなわち、露光光ELを用いた吸光物質の濃度の検出は、基板W上へのマスクMのパターンの像の非転写時に行われる。
【0077】制御部9は、吸光物質の濃度によって転写を行うか否かを判断する他に、基板Wに転写されたパターンの像の形状が適正か否かを判断することができる。この場合、基板Wに形成されたパターンの形状を計測するための形状計測機(線幅計測機)を設け、この形状計測機の計測結果に基づいて、制御部9は適正な転写状態か否かを判断してもよい。」

〔引用例に記載された発明の認定〕
これらの記載事項a?hからして、引用例には、
「フォトリソグラフィで用いる露光装置において、
露光光ELをマスクMに照明する照明光学系2と、
マスクMを真空吸着によって保持するマスクホルダー51と、
基板Wを真空吸着することによって保持するための基板ホルダー61と、
マスクMの露光光ELによる照明範囲に存在するパターンの像を基板Wに結像させ、基板Wの特定領域にパターンの像を露光する投影光学系3と、
低吸光物質(特定ガス)を収容するとともに給気管路及び排気管路によって光路空間LSに接続されるガス供給装置70と、給気管路に設けられ制御部9の指示によりガス供給装置70に収容された特定ガスを給気管路を介して光路空間LSに送るポンプと、給気管路に設けられ制御部9の指示により開閉することによって光路空間LSに供給される特定ガスの量を調整する給気弁と、排気管路に設けられ光路空間LSからガス供給装置70に排出されるガスの量を調整する排気弁とを備えている吸光物質低減装置Rと、
基板ホルダー61に設けられた2次元的光学情報を検出可能なCCDイメージセンサからなる計測器10とを備え、
照明系ハウジング20、マスク室5、投影系ハウジング30、基板室6の各空間のそれぞれの吸光物質の濃度は、吸光物質低減装置Rによってそれぞれ独立して低減されるように設けられており、
露光に先立ち、吸光物質低減装置Rによって、照明ハウジング20,マスク室5等に存在する光路空間LSにヘリウム、アルゴン、窒素等の低吸光物質の特定ガスを送り込んで光路空間LSに存在する酸素分子、水分子、二酸化炭素分子等の吸光物質を低減させる作業を行い、
光路空間LS内部の吸光物質の濃度を検出するために、CCDイメージセンサーからなる計測器10により、計測器10を走査させることなく2次元的な露光光ELの強度分布が求められ、露光光ELの強度及び2次元的な強度分布を測定することにより吸光物質の濃度及び分布を短時間で検出し、
吸光物質の濃度が所定値以上、すなわち、検出した濃度が正常な転写ができない濃度範囲内である場合、制御部9は適正な転写を行えない状態であると判断するとともに転写を行わない判断をし、適正な転写を行えるか否かの判断に応じて、光源21から射出される露光光ELのオンオフを制御し、基板WへのマスクMのパターンの像の転写を実行せず、吸光物質低減装置Rによって光路空間LSに存在する吸光物質の濃度を低減させる作業を維持することで、吸光物質を低減させる作業を効率よく行える露光装置。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

<対応関係A>
引用発明の「露光光ELをマスクMに照明する照明光学系2」は、本願発明の「照射の投影ビームを提供するための照明システム」に相当する。

<対応関係B>
引用発明の「マスクMを真空吸着によって保持するマスクホルダー51」は、本願発明の「投影ビームの断面内にパターンを付与する役割を果たすパターン化手段を支持する支持構造物」に相当する。

<対応関係C>
引用発明の「基板Wを真空吸着することによって保持するための基板ホルダー61」は、本願発明の「基板を保持するための基板テーブル」に相当する。

<対応関係D>
引用発明の「マスクMの露光光ELによる照明範囲に存在するパターンの像を基板Wに結像させ、基板Wの特定領域にパターンの像を露光する投影光学系3」は、本願発明の「基板のターゲット部分上にパターン化されたビームを投影するための投影システム」に相当する。

<対応関係E>
引用発明の「照明系ハウジング20、マスク室5、投影系ハウジング30、基板室6の各空間のそれぞれの吸光物質の濃度」を「それぞれ独立して低減されるように設けられており」「低吸光物質(特定ガス)を収容するとともに給気管路及び排気管路によって光路空間LSに接続されるガス供給装置70と、給気管路に設けられ制御部9の指示によりガス供給装置70に収容された特定ガスを給気管路を介して光路空間LSに送るポンプと、給気管路に設けられ制御部9の指示により開閉することによって光路空間LSに供給される特定ガスの量を調整する給気弁と、排気管路に設けられ光路空間LSからガス供給装置70に排出されるガスの量を調整する排気弁とを備えている吸光物質低減装置R」と、本願発明の「パージ・ガスを用いて装置の少なくとも一部分をパージするための、比較的高フローのパージ・ガスを有する第1のモード及び比較的低フローのパージ・ガスを有する第2のモードで動作可能なパージ手段」とは、「パージ・ガスを用いて装置の少なくとも一部分をパージするためのモードで動作可能なパージ手段」である点で共通する。

<対応関係F>
引用発明の「基板ホルダー61に設けられた2次元的光学情報を検出可能なCCDイメージセンサからなる計測器10」は光路空間LSを経由して照射される露光光ELを計測するものであるから、本願発明の「パージ手段によってパージされる部分である装置の一部分の投影ビームの強度を、前記投影ビームの方向に関して下流の位置において測定するためのセンサ」に相当する。

<対応関係G>
引用発明において、「露光光ELの強度及び2次元的な強度分布を測定することにより吸光物質の濃度及び分布を短時間で検出し、吸光物質の濃度が所定値以上、すなわち、検出した濃度が正常な転写ができない濃度範囲内である場合、制御部9は適正な転写を行えない状態であると判断するとともに転写を行わない判断をし、適正な転写を行えるか否かの判断に応じて、光源21から射出される露光光ELのオンオフを制御」することは、技術常識を踏まえれば、適正な転写を行えない期間中は露光に用いる露光光ELはオフにする(吸光物質の濃度の検出に用いる露光光ELの照射時のみオンにする)ということであるから、引用発明の「光路空間LS内部の吸光物質の濃度を検出するために、CCDイメージセンサーからなる計測器10により、計測器10を走査させることなく2次元的な露光光ELの強度分布が求められ、露光光ELの強度及び2次元的な強度分布を測定することにより吸光物質の濃度及び分布を短時間で検出し、吸光物質の濃度が所定値以上、すなわち、検出した濃度が正常な転写ができない濃度範囲内である場合、制御部9は適正な転写を行えない状態であると判断するとともに転写を行わない判断をし、適正な転写を行えるか否かの判断に応じて、光源21から射出される露光光ELのオンオフを制御」することと、本願発明の「センサによって測定される投影ビームの強度を監視するように構成された制御装置を備え、該制御装置は、センサによって測定される投影ビームの強度が所定の判断基準を満たすまで、照明システムに通常の強度を有する投影ビームを生成させない」こととは、「センサによって測定される投影ビームの強度を監視するように構成された制御装置を備え、該制御装置は、センサによって測定される投影ビームの強度が所定の判断基準を満たすまで、照明システムに露光に用いる投影ビームは生成させない」点で共通する。

<対応関係H>
引用発明の「2次元的光学情報を検出可能なCCDイメージセンサ」は少なくとも2次元の空間的な感度があるから、本願発明の「センサが空間的に感度があ」ることに相当する。

なお、平成22年12月28日付け意見書において、請求人はこの点に関して、
「引用例に記載された発明は、基板Wの露光面上の強度、すなわち、2次元的な強度分布に基づいて制御することを技術思想としております。これに対し、本発明は、投影ビームの断面の空間的、すなわち3次元的な強度分布に基づいて制御することを技術思想としており、かかる技術思想に基づく具体的な構成として、前述した、従来とは異なる本発明の特徴的な構成に想到したものであります。このように、引用例には前述した本発明の技術思想が開示されていないばかりでなく、引用例に開示された技術思想と本発明の技術思想とは、全く異なるものであります。」
と主張しているが、本願の請求項1には、投影ビームの3次元的な強度分布に基づいて制御することは記載されていない。また、本願明細書の発明の詳細な説明を参照しても、「センサが空間的に感度があ」ることに関して、請求人の主張するような投影ビームの3次元的な強度分布を検出するセンサは開示されておらず、かつ、空間的な感度の「空間」についても、1次元空間や2次元空間を排除して3次元空間に限定していると認められる記載も存在しないので、当該主張は、特許請求の範囲の記載に基づく主張でなく、また、発明の詳細な説明の記載に基づく主張でもないから、採用できない。そもそも、投影ビームの3次元的な強度分布を検出することのできるセンサは一般的なものではないし、3次元的な強度分布をどのように利用するかも定かでないから、本願明細書中に請求人の主張するような投影ビームの3次元的な強度分布を検出する技術が記載されていると認めることもできない。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「照射の投影ビームを提供するための照明システムと、
前記投影ビームの断面内にパターンを付与する役割を果たすパターン化手段を支持する支持構造物と、
基板を保持するための基板テーブルと、
前記基板のターゲット部分上に前記パターン化されたビームを投影するための投影システムと、
パージ・ガスを用いて装置の少なくとも一部分をパージするためのモードで動作可能なパージ手段と、
前記パージ手段によってパージされる部分である前記装置の一部分の前記投影ビームの強度を、前記投影ビームの方向に関して下流の位置において測定するためのセンサとを備えるリソグラフィ装置であって、
前記センサによって測定される前記投影ビームの強度を監視するように構成された制御装置を備え、該制御装置は、センサによって測定される投影ビームの強度が所定の判断基準を満たすまで、照明システムに露光に用いる投影ビームは生成させないように構成され、
前記センサが空間的に感度がある装置。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
センサによって投影ビームの強度の監視をする制御装置による制御に関して、本願発明は、「比較的高フローのパージ・ガスを有する第1のモード」と「比較的低フローのパージ・ガスを有する第2のモード」とを有し、「第2のモード」から「第1のモード」へのモード変更に応答して監視を行うのに対して、引用発明は、「露光に先立ち・・・光路空間LSに存在する・・・吸光物質を低減させる作業」を開始してから監視(露光光ELの測定)を行っており、吸光物質を低減させる作業を行う前の状態から吸光物質を低減させる作業を行う状態への変更に対応させて露光光ELの監視を行っているが、吸光物質を低減させる作業を行う前の状態で低フローの特定ガスを有するとはいえない点。

(相違点2)
制御装置による投影ビームの強度制御に関して、本願発明は「第2のモード」から「第1のモード」へのモード変更に応答して投影ビームの監視を行う際に、投影ビームの強度を露光時よりも低くするのに対して、引用発明はそのような構成を採用していない点。

(相違点3)
制御装置が照明システムに露光に用いる投影ビームを生成させるために用いる測定された投影ビームについての所定の判断基準に関して、本願発明は「投影ビームの断面の少なくとも一部分にわたってのビーム強度が0.2%未満の非一様性を有すること」を判断基準としているのに対して、引用発明はそのような構成を採用していない点。

3 判断
上記相違点について検討する。

(相違点1について)
例えば、特開2001-345255号公報(【0030】?【0036】等参照。【0031】で「・・・エアカーテン23b’は初期状態、すなわちノズル27b’のエアーの噴出を行っていない(あるいは少量のエアーを噴出している)状態となっている。」と記載されている。)等に開示されているように、ウェハを搬入して本格的なパージ・ガス(窒素等)の導入を行う前の初期状態を少量のパージ・ガスを噴出した状態にしておくことは、露光装置の技術分野における周知の技術に過ぎない。
そうすると、引用発明に当該周知の技術を付加し、初期状態である吸光物質を低減させる作業を行う前の状態を少量のパージ・ガスを噴出した状態にしておくようにすることで、相違点1に係る構成を得ることは当業者であれば容易になし得ることである。

なお、平成22年12月28日付け意見書において、請求人はこの点に関して、上記例示した周知文献には、少量のエアーの噴出の程度(量)について少量というのみで何ら具体的記載はないのに対して、本発明における低フローのパージガスは、装置内の光学要素を汚染から保護するのに十分なレベルであり、かつ、人にとって危険ではないレベルのフローレート(流量)であると主張しているが、請求人の主張は特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に基づいておらず、採用できない。本願の特許請求の範囲の記載では、「比較的低フローのパージ・ガス」とされているのみであり、かつ、発明の詳細な説明でも「比較的低フローのパージ・ガス」の意味を特定のフローレートのパージ・ガスに限定するような定義は為されていないから、「比較的低フローのパージ・ガス」について、その具体的なフローレートや作用効果は何ら特定されていない。

(相違点2について)
光路が酸素を含む空気雰囲気である状態で通常の強度を有する露光光を導入すると、オゾンの発生により光学部材が損傷を受ける可能性があることは、露光装置の技術分野における技術常識的な事項である(例えば、特開平10-172899号公報(【0004】、【0010】)参照)。
また、光路が酸素を含む空気雰囲気である状態で露光光を導入する際には、露光光の強度を十分に低下した状態で行えば、光学部材の損傷が防止できることは、例えば、特開平10-172899号公報(【0010】参照)に開示されているように、周知の技術である。
ここで、引用発明は、露光に先立ち、吸光物質低減装置Rによって特定ガスを送り込んだ後、光路空間LS内部の吸光物質の濃度を検出するため、光路空間LSに存在する酸素分子、水分子、二酸化炭素分子等の吸光物質が十分に低減しきらない状態から、露光光ELを光路空間LSに導入して測定を行う工程を含んでいるから、上記技術常識に照らしてみれば、オゾンの発生により光学部材が損傷を受ける可能性があることは当業者にとって明らかなことである。
そうすると、引用発明に上記周知技術を付加し、露光光ELを光路空間LSに導入して測定を行う工程の時、露光光ELの強度を十分に低下したものとしておくことは、当業者であれば容易に想到することである。
その際、どのタイミングで露光光ELの強度を低下させるかは、測定に間に合う期間内で当業者が適宜に設定し得る設計的事項に過ぎない。光源等の強度の変更に所定の時間がかかるという技術常識を踏まえれば、吸光物質を低減させる作業の開始を契機として露光光ELの強度を低下させること、すなわち吸光物質低減装置Rの動作状態(動作モード)の変更に応じて予め低下させることは格別のことではない。
そうすると、相違点2に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(相違点3について)
測定された投影ビームの濃度分布が具体的にどのようになった場合に、露光に用いる投影ビームを生成させるかという判断基準は当業者が適宜に定め得る設計的事項に過ぎない。
したがって、引用発明においても上記判断基準について、「露光光ELの断面の少なくとも一部分にわたってのビーム強度が0.2%未満の非一様性を有すること」とすることは格別のものとは認められない。
そうすると、相違点3に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。
そもそも、上述のとおり、この判断基準については、技術的意味も明確ではなく、格別の作用効果を奏するものではない。

そして、本願発明が奏する作用効果は、引用発明及び周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号?第2号及び第29条第2項に規定する要件を満たしておらず、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-25 
結審通知日 2011-05-26 
審決日 2011-06-07 
出願番号 特願2004-314926(P2004-314926)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 536- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉浦 淳  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
橋本 直明
発明の名称 リソグラフィ装置及びデバイス製造方法  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  

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