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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1246011
審判番号 不服2009-17458  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-17 
確定日 2011-11-04 
事件の表示 特願2003-571766「閉じ込められている物体の位置を求める方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月 4日国際公開、WO03/73132、平成17年 6月23日国内公表、特表2005-518548〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年2月7日(優先権主張:2002年2月21日、ドイツ)を出願日とする国際出願であって、明細書、特許請求の範囲及び図面について平成21年3月30日付けで補正がなされ(以下、「補正1」という。)、平成21年5月15日付け(送達:同年5月20日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、当審において平成22年7月21日付けで審尋をしたところ、請求人より同年12月21日付け回答書の提出があった。

2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、以下のように補正するものである。
(本件補正前)
「少なくとも1つの容量式センサ装置を用いて検出信号を形成し、これが調査すべき媒質中に浸透するようにし、検出信号の評価、特にインピーダンスの測定を行うことにより、媒質中に閉じ込められている物体の情報を取得し、その際に
媒質中に閉じ込められている物体の深さの情報を取得するために、容量式センサ装置の変位電流に相関する測定量の位相測定を行う、
媒質中に閉じ込められている物体の位置を求める方法において、
検出信号を形成する容量式センサ装置をラテラル方向にオフセットさせ、該オフセットの量に基づいて、検出信号を測定し評価する
ことを特徴とする媒質中に閉じ込められている物体の位置を求める方法。」
(本件補正後)
「少なくとも1つのハンドヘルド型の容量式センサ装置を用いて検出信号を形成し、これが調査すべき媒質中に浸透するようにし、該検出信号の評価、特にインピーダンスの測定を行うことにより、媒質中に閉じ込められている物体の情報を取得し、その際に
前記媒質中に閉じ込められている物体の深さの情報を取得するために、前記容量式センサ装置の変位電流に相関する測定量の位相測定を行う、
媒質中に閉じ込められている物体の位置を求める方法において、
前記検出信号を形成する前記容量式センサ装置をラテラル方向にオフセットさせ、該オフセットの量に基づいて検出信号を距離センサによって測定および評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求め、当該の物体の所在している位置がわかるように、前記容量式センサ装置を有する測定装置の出力装置上に表示することを特徴とする媒質中に閉じ込められている物体の位置を求める方法。」(下線は、補正箇所を明示するために請求人が付した。)

この補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「容量式センサ装置」について、「ハンドヘルド型の」との限定を付加するとともに、「検出信号を測定し評価する」を「検出信号を距離センサによって測定および評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求め、当該の物体の所在している位置がわかるように、前記容量式センサ装置を有する測定装置の出力装置上に表示する」と限定するものであって、特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)独立特許要件について
(2-1)本願補正発明
本件補正後の請求項1の記載は、前記「(1)補正の内容」に記載のとおりのものであるところ、このうち、「検出信号を形成し、これが調査すべき媒質中に浸透するようにし、該検出信号の評価、特にインピーダンスの測定を行うことにより、」との記載、及び「容量式センサ装置をラテラル方向にオフセットさせ、該オフセットの量に基づいて検出信号を距離センサによって測定および評価し、」との記載は、必ずしも日本語として明確とはいえない。

ア そこで、この点に関連する発明の詳細な説明の記載を参酌するに、その記載は、以下のとおりである。
「【0002】
この種の方法およびこの方法を実施する測定装置は容量式センサ装置を利用している。この容量式センサ装置は検出信号を例えば電磁場のかたちで形成し、これが調査すべき媒質中に少なくとも充分な規模で浸透するようにする。媒質中に閉じ込められている物体はこの検出信号に作用するので、検出信号を評価すると媒質中に閉じ込められている物体の情報を得ることができる。」
「【0003】
この形式の測定装置、例えばスタッドセンサは、媒質中に閉じ込められている物体が形成した容量式センサ装置の電気容量の変化によってこれを検出する。媒質中に閉じ込められている物体は媒質の誘電特性を変化させるので、媒質の近傍に測定コンデンサが近づくと物体に帰せられる容量変化またはインピーダンス変化を検出することができる。こうした容量変化は例えば容量式センサ装置の測定コンデンサの変位電流によって測定することができる。」
「【0020】
有利には、本発明の方法では、媒質中に閉じ込められている物体を探知するための検出信号が、これを形成する容量式センサ装置を媒質の表面に沿ってラテラル方向でオフセットしたオフセット量の関数として評価される。このようにして一方では媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置が正確に測定され、他方ではさらに測定精度を高めるために、センサ信号の測定がセンサを物体の上方でラテラル方向にオフセットしたことに依存して行われる。センサのオフセットに応じて、容量式センサ装置で形成された電場の電気力線が物体を通ったことにより別の組み合わせが生じ、これが測定される。こうして測定信号の各位相について、物体の深さとラテラル方向のオフセットとの特徴的な依存関係が得られる。」
「【0050】
DSPエレメント46はさらなる信号処理と、励振パルスおよびサンプリングパルスを形成するクロックベースの制御とを担当している。DSPエレメント46により、評価された測定値、特に壁内に閉じ込められている物体の深さと測定装置に対するその横方向の位置とがリアルタイムで、つまり測定過程中に、ディスプレイ48に表示することができる。このように本発明の方法は装置が壁に沿って動かされているあいだにすでに、物体が壁内のどこに、どのくらいの深さで閉じ込められているかをユーザにディスプレイ表示することができる。
【0051】
横方向位置を得るには、調査すべき媒質の上方で容量式センサ装置14を2つの逆方向50,52へ動かしてみればよい。相応の距離センサが容量式センサ装置14のその時点での位置をディジタルシグナルプロセッサへ供給するので、物体の深さと横方向位置とを相関させて表示することができる。」

イ 他方、この点に関して、請求人は前記回答書において、上記明細書の発明の詳細な説明の記載を根拠に、請求項1についての補正案を提示し、この補正案に基づき審理することを求めている。

ウ そこで検討するに、回答書に記載の請求項1についての補正案は、上記関連する発明の詳細な説明の記載に合致し、しかも、日本語として明確であり、本件補正後の請求項1に係る発明をより明確に特定しているものと認められる。

エ よって、独立特許要件を判断すべき本件補正後の請求項1に係る発明を、回答書に記載のとおりの以下のものと認定する。

「少なくとも1つのハンドヘルド型の容量式センサ装置を用いて、調査すべき媒質中に浸透する信号を形成し、インピーダンスの大きさおよび位相の測定によって、前記浸透する信号が前記容量式センサ装置内に生じさせる変位電流に相関する測定量を測定し、前記媒質中に閉じ込められている物体の深さ情報を取得し、 前記容量式センサ装置を横方向に移動させ、距離センサによって当該の容量式センサ装置の移動量を測定し、 前記移動量の関数として前記測定量を評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求め、当該の物体の所在している位置がわかるように、前記容量式センサ装置を有する測定装置の出力装置上に表示することを特徴とする媒質中に閉じ込められている物体の位置を求める方法。」(以下、「本願補正発明」という。下線は、本件補正後の請求項1からの変更箇所を明示するために当審が付した。)
なお、上記で認定した本願補正発明は、本件補正後の請求項1に記載された発明と、本質的に異なるものではない。

(2-2)引用例記載の事項・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2001-508178号公報(発明の名称:地表下の対象物のマグネトメータおよびディエレクトロメータによる探知、出願人:ジェンテク・センサーズ・インコーポレーテッド、公表日:平成13年6月19日、以下「引用例」という。)には、次の事項(a)ないし(j)が図面とともに記載されている。
(a)「さらに、戦争および軍事行動中に数百万個の小爆弾がクラスタ爆弾ユニット(CDU)として敷設された。これらの爆弾の多数が誤って爆発し、戦争の行われた地域の住民をその後も脅かし続けている。ほとんどが金属製であるため、爆発しない小爆弾は、既存の手持ち式の金属探知器により容易に探知することができる。しかし、現在の金属探知器は、12インチ未満の深さに埋められることのあるそのままの小爆弾を、小爆弾の破片、または地表に近い榴散弾片、もしくは金属破片と区別することができない。」(8頁18行?25行)
(b)「本発明は、地表下に埋められた地雷、小爆弾および他の対象物を、対象物の深さ、サイズ、形状、方向および/または電気的特性を探知することによって区別できる探知装置と探知方法とに関する。金属製の対象物を探知して特徴づけるには、誘導性マグネトメータが最も適しているのに対し、非金属対象物を探知して特徴づけるには、容量性ディエレクトロメータが特に有効である。」(9頁5行?9行)
(c)「ディエレクトロメータセンサ 曲折巻線マグネトメータを用いる準静磁探知は、金属の位置、形状および方向を求めることができるのに対して、MWMセンサは、地中のプラスチック、または他の非導電性対象物を探知することができない。金属含有量の極めて少ない地雷が、多数存在する。MWMセンサが、この微量の金属を探知することができたとしても、探知された金属のサイズ、形状および方向が、センサのユーザにとって、金属が地雷の一部であるか否かを確かめるための鍵となるものではない。第2の感知能力であるディエレクトロメータ、即ち容量性センサは、後述するように、地表下のプラスチックを探知することができる。ディエレクトロメータ、即ち容量性センサは、材料の誘電体特性を感知する。材料の誘電体特性は、2つのパラメータ、即ち誘電率と導電率によって記述され得る。誘電率は、作り出された電界によって物質の中に生じる変位電流密度を表すのに対し、導電率は、導電電流密度を表す。物質の誘電体特性は、有意な変化を示し、物質の識別のための手段を提供し得る。 」(21頁下から7行?22頁9行)
(d)「好ましい一実施形態では、容量性センサ100は、米国特許第4,814,690号の「物質の導電率測定装置およびその方法」においてメルカ(Melchaer)等によって開示されたようなかみ合わせ電極ディエレクトロメータ(IDED)センサである。IDED102は、1対のかみ合わせ電極104および106を用いることによって、空間的に周期的な電界を作り出す。このような電極の代表的な配置を、図10Aに示す。
電極は、絶縁基板を有して、求める物質に隣接し、基板の反対側の平面図を示す。2つの電極の一つ104は、正弦波状に変化する電圧VDによって駆動されるのに対し、他方の電極106は、高インピーダンスバッファに接続され、浮遊電位VSの振輻と位相を測定するのに用いられる。電極構造の周期性は、空間波長λ=2p/kによってあらわされ、上記のkは波数と呼ばれる。
IDEDセンサの平面図を、図10Bに示す。駆動電極、即ち励起電極104は、複数のフィンガ108を有する。他方の電極106、即ち高インピーダンスバッファに接続され、感知電極と呼ばれる電極は、複数のフィンガ110を有する。2つの電極のフィンガは、センサ面上でかみ合っているので、第1電極のフィンガと第2電極のフィンガは、センサ面に交互に沿う。
IDED構造の一つの本質的な利点は、作りだされた場の媒体への結合が、単一面から果たされることである。例えば、薄膜の誘電測定は、金属電極をサンプルの露出面に置くことなしに実行できる。
センサの感度の深さは、電極の間隔によって決まる。図10Aのセンサの上の誘電体中の電気スカラーポテンシャルは、ラプラス方程式に従い、減衰のある線型誘電体を用いるカルテシアン幾何学では、解は次の形を有する。Φ=ΦOe-KX〔Asin ky+Bcos ky〕
これは、ラプラス方程式の解の一般特性である。励起が空間内で周期的であれば、ポテンシャルは、空間的に周期的な励起の空間波長に等しい未知の誘電体の中への浸透深さを以って、直交方向に減衰する。」(22頁20行?23頁18行)
(e)「IDEDは、、電極の間隔の1/3?1/2に及ぶ距離の範囲内(電極平面からの距離)の物質を感知することができる。したがって、異なる間隔を有するセンサは、図11Aおよび11Bに示すように、同一の励起周波数で動作しても、テスト物質中の異なる深さを感知する。異質媒体に対して、誘電体特性の空間的なプロファイルが、複数の波長センサを用いて求められるのは、各波長は、異質誘電体中への特有の浸透深さを有するからである。
IDEDセンサからの測定信号の振幅および位相は、センサの形状とセンサに接近する物質の誘電体特性によって決まる。センサの形状と材料の誘電体特性は、センサの複素アドミタンス、即ち電流と、2つの電極の間の電圧との比を決定する。
図11Cは、アレーデザインを有するIDEDセンサ112を図示する。感知電極116は、複数の素子118から構成される。各素子は、地下の対象物の位置に配置するために選ばれ得る。」(23頁19行?24頁2行)。
(f)「アドミタンスは、C=ε*EX/Φと限定される複素表面キャパシタンス密度Cから計算することができる。但し、EXはx方向の電界である。空間的に周期的なポテンシャルΦは、電極間の電圧から導かれる。感知電極の電流は、電極の全面積にわたって量ε*Eを積分して求めることができる。したがって、物質構造に関する全情報は、表面キャパシタンス密度に含まれている。」(24頁4行?8行)
(g)「特性プロファイルに対する複数波長方式は、異なった空間波長を有するIDEDを用いる。これによって、構成物表面上の特定の位置の深さにおける複素誘電率変化を測定する。複数波長IDEDの各センサ素子は、その特定素子の波長に比例する物質の深さに相当する測定値を作り出す。最短波長を有する素子は、表面に最も近い物質の誘電体性質に応答するのに対し、波長が長い素子程、それより下方の物質を、同様に感知する。したがって、物質の複素誘電率プロファイルは、複数波長IDEDを用いて得られた測定値から求めることができる。これは、本願明細書の一部をなすものとしてここに引用する1989年3月21日発行の米国特許第4,814,690号、発明の名称「導電物質測定装置およびその方法」に詳細に記述されている。」(24頁18行?27行)
(h)「 図15Aに示すように、元の単一感知電極124を、幾つかの部分に分割することによって、さらなるイメージ能力が達成され、探査される1/2空間内の対象物の深さに関して、さらに情報を提供することができる。このセンサ120は、多数の横に並んだ感知素子132の1行を利用する。好ましい実施形態では、上記の素子の数は3または5である。図14からわかるように、図15Aの中心の感知電極は、最長および最深の空間的1/2波長を感知するのに対し、図15Aの端部の感知電極は、より短く、浅い1/2波長を感知する。
図15Bに示すように、感知電極を、断面の深さに沿って、複数の素子に分割することによって、探査される1/2空間のイメージが可能となる。このセンサ120は、保護電極126によって囲まれた4つの感知素子134の1列を利用する。1対の駆動電極が両側に配置されている。4つの感知電極は、異なって接続されているので、隣接する電極の差に比例する3つの出力が生じる。好ましい実施形態では、多数の(例えば20の)感知素子の1列を使用することによって、画像の解像度を高める。1つ前の実施形態のような側方の感知素子がないので、このセンサは、空隙補償能力を有しない。各素子の出力が、確立する画像情報として直接使用される場合、単一素子を走査するのに似た結果が得られる。隣接または別の素子からの測定値の差分を出す追加の電気回路と共に用いられる場合に、素子のアレーが勝る。素子の差分を出すことによって、地雷のような対象物を探知する時のように、1/2空間内の誘電体特性の小さいが、空間的に急峻な(差分が求められている素子の間隔に関して)変化に対する感度を高めることができる。センサの定常状態で、測定された差分のアナログ信号をディジタル値に変換した後に、それを数値的に積分することによって、一次元画像が形成される。アレー素子のラインに対して、垂直方向にアレーを走査し、走査の各位置での一次元画像を組み合わせることによって、二次元画像を形成することができる。この場合に、各走査位置において素子の一つ以上の絶対測定値(即ち、微分ではない)を用いることは、表面に沿った走査時のセンサのリフトオフにおける変化の説明に役立つ。1つ前の段落に記載した各種の深さでの特性を感知する電極からの追加情報は、対象物区別を高め、3次元イメージのために用いることもできる。また、図15Aおよび15Bの構成を組み合わせた完全な二次元アレーも可能である。」(28頁16行?29頁10行)
(i)「 図15Bに示したセンサのテストが実施された。対象とする地雷サンプル(M14)が、砂床に所望の深さで埋められた。このテストに対しては、テスト床に対する走査メカニズムが作り出された。センサデータ取得システムが初期化され、走査モータに通電された。データ取得システムは、自動的にセンサの差分出力(隣接する感知素子間の差分)を記録する。
走査中に作り出されるデータは、幅が4素子で長さが約200素子のデータ点のアレーから成る。好ましい実施形態では、多数の(例えば20以上)素子が使用され、急速な走査(約1ft/秒)が提供される。このデータは、地形図が高さの等しい点を結ぶのにコンター線(等高線)を使用するように、値の等しいデータ点を、コンター線で結ぶことによって、画像を作り出すのに用いられる。コンター線の密度を増加するために、補間によって、中間値が作成される。
図17Aは、不発化されたM14地雷を砂床の中に深さを次第に増やして埋めた上で実施された一連の走査の結果を示す。示したデータは、空隙影響を除去するための処理が行われていない、粗いデータである。さらに信号を処理すれば、容量性感知アレーによって作り出された地雷の画像質が、大幅に改善されることになる。最初の走査では、地雷の頂部は砂の表面にある。第2走査以降では、地雷の頂部は、表面から1cmの深さに埋められ、以下次々と深い位置に埋められる。
地雷は、作成された画像の中で、2cmの深さまでは明瞭に見ることができる。センサのキャパシタンス値が、地雷の存在によって大幅に影響を受けるだけでなく、影響を受けない値からの勾配も全く急峻である。エッジ検出のようなパターン認識技術が、地雷とクラッタを区別するために使用できることが認識される。このデータは、単一周波数で取得された。目標とするものが探知されると、複数の周波数が偽アラームの拒絶と地雷の区別/識別のために用いられる。例えば、誘電体分光学は、プラスチックと岩石の区別を可能にする。」(30頁14?27行)
(j)「上述のセンサは、個人用のセンサであったが、局所位置決めシステム(LPS)は、現地操作者のチームによる大面積走査を調整し、埋められた軍需品とクラッタの位置とを地図で表し記録するのに用いることができることが認識されている。」(34頁12行?15行)

・前記記載(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(j)及び図10A,B、図11AないしCより、
(ア)「個人用の容量性センサを用いて、地表下に空間的に周期的な電界を作り出し、複素アドミタンスの測定によって、前記地表下に作り出された空間的に周期的な電界に基づく複素誘電率εを測定し、前記地表下に埋められた対象物の深さを求め、地表下に埋められた対象物を探知する方法。」との技術事項が読み取れる。
・変位電流密度は、一般に、ε∂E/∂t(ここで、εは複素誘電率、Eは電場である。)と表されるように、複素誘電率と比例関係にあることを考慮すると、前記記載(c)、(g)より、
(イ)「対象物の深さの情報を取得するために、地表下に作り出された空間的に周期的な電界が容量性センサ内に生じさせる変位電流密度と比例関係にある複素誘電率εの測定を行う。」との技術事項が読み取れる。
・前記記載(h)、(i)において、対象物の3次元イメージを得るためには、対象物の深さ情報のみならず、水平方向(すなわち、アレー素子のライン方向、及びライン方向に対して垂直の方向)への走査に基づく対象物の存在する水平方向位置を求めることが不可欠であり、そのために、引用例に記載のものにおいては、走査されたアレー素子の水平方向位置を何らかの手段によって求め、各走査位置での一次元画像信号同士を組合せていると解されるから、前記記載(h)、(i)、図15A,Bより、
(ウ)「容量性センサのアレー素子を水平方向に走査し、走査されたアレー素子の水平方向位置を特定し、アレー素子の水平方向位置毎に測定された前記複素誘電率εから得られた一次元画像信号同士を組合せ、前記地表下に埋められた対象物の水平方向位置及び深さを求める。」との技術事項が読み取れる。
以上の技術事項(ア)ないし(ウ)を総合勘案すると、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「個人用の容量性センサを用いて、地表下に空間的に周期的な電界を作り出し、複素アドミタンスの測定によって、前記地表下に作り出された空間的に周期的な電界が容量性センサ内に生じさせる変位電流密度と比例関係にある複素誘電率εを測定し、前記地表下に埋められた対象物の深さを求め、
前記容量性センサのアレー素子を水平方向に走査させ、何らかの手段によって走査されたアレー素子の水平方向位置を求め、
前記アレー素子の水平方向位置毎に測定された前記複素誘電率εから得られた一次元画像信号同士を組合せ、前記地表下に埋められた対象物の水平方向位置及び深さを求めるようにした地表下に埋められた対象物の探知方法。」(以下、「引用発明」という。)

(2-3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア まず、引用発明における、「地表下」、「空間的に周期的な電界を作り出し」、「変位電流密度」、「比例する」、「複素誘電率ε」、「対象物」、「深さを求め」、「水平方向」及び「探知方法」は、本願補正発明における、「調査すべき媒質中」、「浸透する信号を形成し」、「変位電流」、「相関する」、「測定量」、「物体」、「深さ情報を取得し」、「横方向」及び「位置を求める方法」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明における「個人用の容量性センサ」も、本願補正発明における「ハンドヘルド型の容量式センサ装置」も、共に、「小型の容量式センサ装置」である点で共通する。

ウ 一般に、アドミタンスは電流と電圧との比のことをいい、インピーダンスはアドミタンスの逆数であるから、アドミタンスも、インピーダンスも、共に、電流と電圧との相対的な比である点で共通する。また、引用発明においては、「複素アドミタンス」を測定しているから、アドミタンスの実数部である信号の大きさと、虚数部である信号の位相とを測定していることに外ならない。
よって、引用発明の「複素アドミタンスの測定」も、本願補正発明における「インピーダンスの大きさおよび位相の測定」も、共に、「電流と電圧の相対的な比についての大きさおよび位相の測定」である点で共通する。

エ 引用発明における「容量性センサのアレー素子を水平方向に走査させ、何らかの手段によって走査されたアレー素子の水平方向位置を求め」も、本願補正発明における「容量式センサ装置を横方向に移動させ、距離センサによって当該の容量式センサ装置の移動量を測定し」も、共に、「容量式センサ装置を横方向に走査させ、当該の容量式センサ装置の走査量を把握」する点で共通する。
引用発明における「アレー素子の水平方向位置毎に測定された前記複素誘電率εから得られた一次元画像信号同士を組合せ、前記地表下に埋められた対象物の水平方向位置及び深さを求める」点についてみると、水平方向位置毎に測定された複素誘電率εに基づいて、水平方向位置毎に一次元画像信号を得て、それら一次元画像信号同士を組合せることにより、地表下に埋められた対象物の水平方向位置及び深さを求めるものであるから、走査量の関数として測定量を評価していることに外ならない。よって、引用発明における「アレー素子の水平方向位置毎に測定された前記複素誘電率εから得られた一次元画像信号同士を組合せ、前記地表下に埋められた対象物の水平方向位置及び深さを求める」も、本願補正発明における「移動量の関数として前記測定量を評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求め」も、共に、「走査量の関数として前記測定量を評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求め」る点で共通する。
したがって、上記アの相当関係も踏まえると、引用発明における「前記容量性センサのアレー素子を水平方向に走査させ、何らかの手段によって走査されたアレー素子の水平方向位置を求め、前記アレー素子の水平方向位置毎に測定された前記複素誘電率εから得られた一次元画像信号同士を組合せ、前記地表下に埋められた対象物の水平方向位置及び深さを求める」も、本願補正発明における「前記容量式センサ装置を横方向に移動させ、距離センサによって当該の容量式センサ装置の移動量を測定し、前記移動量の関数として前記測定量を評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求め」も、共に、「前記容量式センサ装置を横方向に走査させ、当該の容量式センサ装置の走査量を測定し、前記走査量の関数として前記測定量を評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求め」で共通するといえる。

オ してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「少なくとも1つの小型の容量式センサ装置を用いて、調査すべき媒質中に浸透する信号を形成し、電流と電圧の相対的な比についての大きさおよび位相の測定によって、前記浸透する信号が前記容量式センサ装置内に生じさせる変位電流に相関する測定量を測定し、前記媒質中に閉じ込められている物体の深さ情報を取得し、
前記容量式センサ装置を横方向に移動させ、当該の容量式センサ装置の移動量を測定し、
前記移動量の関数として前記測定量を評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求めるようにした、媒質中に閉じ込められている物体の位置を求める方法。」
(相違点)
・相違点1:小型の容量式センサ装置が、
本願補正発明では、「ハンドヘルド型」であるのに対し、引用発明では個人用とあるにとどまる点。
・相違点2:測定対象である電流と電圧の相対的な比が、
本願補正発明では「インピーダンス」であるのに対し、引用発明では「アドミタンス」である点。
・相違点3:横方向の走査に関し、
本願補正発明では、「前記容量式センサ装置を横方向に移動させ、距離センサによって当該の容量式センサ装置の移動量を測定し、」とあるように、距離センサによって移動量を測定しているのに対し、引用発明では、「前記容量性センサのアレー素子を水平方向に走査させ、何らかの手段によって走査されたアレー素子の水平方向位置を求め、」とあるように、容量性センサのアレー素子の移動量を測定する距離センサを備えているのかが、必ずしも明らかではない点。
・相違点4:表示に関し、
本願補正発明では、「当該の物体の所在している位置がわかるように、前記容量式センサ装置を有する測定装置の出力装置上に表示する」ようにしているのに対し、引用発明では、このような表示のための出力装置を備えているのかが、必ずしも明らかではない点。

(2-4)判断
前記相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用例には、発明の詳細な説明のうち発明の背景についての記載箇所に「・・・既存の手持ち式の金属探知器・・・」((2-2)(a))と記載されており、引用発明の「個人用」とは、手持ち式のことを意味すると解するのが自然である。そして、手持ち式とは、ハンドヘルド型のことであるから、結局、相違点1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
前記「(2-3)ウ」で説示したように、アドミタンス(Y)は、インピーダンス(Z)と、Y=1/Zの関係にある。よって、アドミタンスを測定することは、インピーダンスを測定することに外ならないから、相違点2も実質的な相違点ではない。

ウ 相違点3及び4について
相違点3及び4を併せて検討する。
一般に、地表下にある埋設物体の位置や深さを求めるために、本願補正発明のように、移動量を測定するための距離センサを備えたハンドヘルド型の探知装置を、地表に沿って移動させながら探査し、探知装置で得られた埋設物体検出信号と、該距離センサにより測定された探知装置の移動距離信号とを組み合わせて埋設物体の位置とその深さを求め、埋設物体が所在している位置や深さが分かるように、探知装置に設けられた表示画面上に表示させるようにすることは周知技術である。
この点については、例えば、特開平11-148979号公報(発明の名称:埋設物探知方法と埋設物探知システム)の、特に、図1,2,4,5及びこれらに関する発明の詳細な説明の記載箇所や、特開2001-116836号公報(発明の名称:隠蔽物探査方法及び探査装置)の、特に、図1,4及びこれらに関する発明の詳細な説明の記載箇所を参照のこと。
そして、引用発明も、地表下に埋められた対象物を探知するに際して、その探知結果について、対象物の水平方向位置とその深さが把握し易いように表示することを予定している(前記(2-2)(i)、図17AないしC参照のこと。)から、引用発明に上記周知技術を適用して、本願補正発明のように、「前記容量式センサ装置を横方向に移動させ、距離センサによって当該の容量式センサ装置の移動量を測定し、・・・当該の物体の所在している位置がわかるように、前記容量式センサ装置を有する測定装置の出力装置上に表示する」構成とすることは当業者が容易に想到し得るところといえる。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1の記載は、前記「2.(1)補正の内容(本件補正前)」に記載のとおりである。
そして、補正1によって補正された請求項1の記載は、本件補正後の請求項1の記載と同様に日本語として明確でないところがあるから、前記「2.(2-1)本願補正発明」で認定した本願補正発明に倣って、請求項1に係る発明を改めて以下のように認定する。

「少なくとも1つの容量式センサ装置を用いて、調査すべき媒質中に浸透する信号を形成し、インピーダンスの大きさおよび位相の測定によって、前記浸透する信号が前記容量式センサ装置内に生じさせる変位電流に相関する測定量を測定し、前記媒質中に閉じ込められている物体の深さ情報を取得し、 前記容量式センサ装置を横方向に移動させ前記移動量の関数として前記測定量を評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求めることを特徴とする媒質中に閉じ込められている物体の位置を求める方法。」(以下、「本願発明」という。下線は、補正1によって補正された請求項1からの変更箇所を明示するために当審が付した。)
なお、上記で認定した本願発明は、補正1によって補正された請求項1に記載された発明と、本質的に異なるものではない。

(1)引用例記載の事項・発明
原査定の拒絶の理由に引用された発明・事項は、前記2.(2-2)引用例記載の事項・引用発明に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.(2-1)本願補正発明」で検討した本願補正発明から、「容量式センサ装置」についての限定事項である「ハンドヘルド型の」との発明特定事項を省くとともに、「距離センサによって当該の容量式センサ装置の移動量を測定し、前記移動量の関数として前記測定量を評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求め、当該の物体の所在している位置がわかるように、前記容量式センサ装置を有する測定装置の出力装置上に表示する」を、「前記移動量の関数として前記測定量を評価し、前記媒質中に閉じ込められている物体の横方向位置および深さを求める」と上位概念化したものである。
してみると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加するとともに、当該発明特定事項の一部を下位概念化して限定したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(2-3)対比」、「2.(2-4)判断」に記載したとおり引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-27 
結審通知日 2011-06-02 
審決日 2011-06-14 
出願番号 特願2003-571766(P2003-571766)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
P 1 8・ 575- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中川 康文  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 松浦 久夫
山川 雅也
発明の名称 閉じ込められている物体の位置を求める方法および装置  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 矢野 敏雄  

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