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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1246087
審判番号 不服2009-4502  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-02 
確定日 2011-11-02 
事件の表示 特願2000-560616「半絶縁性炭化ケイ素基板上の窒化物系トランジスタ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月27日国際公開、WO00/04587、平成14年 7月 9日国内公表、特表2002-520880〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成11年6月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年6月12日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成20年5月28日付けで拒絶理由が通知され,同年9月2日に手続補正がされ,同年11月27日付けで拒絶査定がされ,これに対して平成21年3月2日に審判請求がされ,同年3月31日に手続補正がされたものである。

第2 平成21年3月31日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の却下について

[補正却下の決定の結論]
平成21年3月31日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,そのうち補正後の請求項1については,補正前後で,以下のとおりである。

〈補正前〉
「【請求項1】高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって:
半絶縁性炭化ケイ素基板;
前記基板上の窒化アルミニウム緩衝層;
前記緩衝層上の絶縁性窒化ガリウム層であって,電子10^(15)個/cm^(3)より低い電子キャリア濃度を有する絶縁性窒化ガリウム層;
前記絶縁性窒化ガリウム層上の窒化アルミニウム・ガリウムの活性構造から形成されるヘテロ接合であって,二次元電子ガス(2DEG)が前記絶縁性窒化ガリウム層において形成される,ヘテロ接合;
前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造上のパッシベーション層;および
前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造に対するソース,ドレインおよびゲートそれぞれのコンタクト
を含んでなる,高電子移動度トランジスタ(HEMT)。
【請求項2】請求項1に記載の高電子移動度トランジスタ(HEMT)において,前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造が:
前記窒化ガリウム絶縁層上の第一のアンドープ窒化アルミニウム・ガリウム層;
前記アンドープ窒化アルミニウム・ガリウム層上の,導電的にドープされた窒化アルミニウム・ガリウム層;および
前記導電的ドープ窒化アルミニウム・ガリウム層上の第二のアンドープ窒化アルミニウム・ガリウム層
を含んでなる,高電子移動度トランジスタ(HEMT)。」

〈補正後〉
「【請求項1】高周波用途に関して総マイクロ波電力を増加させるサイズのゲート・ぺリフェリーを有する高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって:
半絶縁性炭化ケイ素基板;
前記基板上の窒化アルミニウム緩衝層;
前記緩衝層上の絶縁性窒化ガリウム層であって,電子10^(15)個/cm^(3)より低い電子キャリア濃度を有する絶縁性窒化ガリウム層;
前記絶縁性窒化ガリウム層上の窒化アルミニウム・ガリウムの活性構造から形成されるヘテロ接合であって,二次元電子ガス(2DEG)が前記絶縁性窒化ガリウム層において形成される,ヘテロ接合において,前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造が:
前記窒化ガリウム絶縁層上の第一のアンドープ窒化アルミニウム・ガリウム層;
前記アンドープ窒化アルミニウム・ガリウム層上の,導電的にドープされた窒化アルミニウム・ガリウム層;および
前記導電的ドープ窒化アルミニウム・ガリウム層上の第二のアンドープ窒化アルミニウム・ガリウム層を含んでいる,
ヘテロ接合;
前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造上のパッシベーション層;および
前記第二のアンドープ窒化アルミニウム・ガリウム層上のソース,ドレインおよびゲートそれぞれのコンタクト,
を含んでなる,高電子移動度トランジスタ(HEMT)。」

2.補正事項の整理
上記の,補正後の請求項1についての補正を整理すると次のとおりとなる。
〈補正事項a〉
補正前の請求項1を削除するとともに,補正前の請求項1を引用する補正前の請求項2を独立請求項の形式に書き換えて,補正後の請求項1とする。
〈補正事項b〉
補正前の請求項1の「高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって:」を,補正後の請求項1の「高周波用途に関して総マイクロ波電力を増加させるサイズのゲート・ぺリフェリーを有する高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって:」と補正する。
〈補正事項c〉
補正前の請求項1の「前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造に対するソース,ドレインおよびゲートそれぞれのコンタクト」を,補正後の請求項1の「前記第二のアンドープ窒化アルミニウム・ガリウム層上のソース,ドレインおよびゲートそれぞれのコンタクト」と補正する。

3.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
上記〈補正事項a〉は,特許法第17条の2第4項(平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第1項に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
上記〈補正事項c〉は,〈補正事項a〉によって,「窒化アルミニウム・ガリウム活性構造」の具体的構造が記載されたことに伴い,補正前の請求項1における「窒化アルミニウム・ガリウム活性構造に対するコンタクト」が,「窒化アルミニウム・ガリウム活性構造」の最上層である「前記第二のアンドープ窒化アルミニウム・ガリウム層上」に設けられたものであることを明記したものであるから,特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
しかし,上記〈補正事項b〉は,「高電子移動度トランジスタ(HEMT)」が有するサイズのうちの一つである「ゲート・ぺリフェリー」について,「高周波用途に関して総マイクロ波電力を増加させるサイズ」であるとするものであるところ,本願明細書の記載を参照しても,「高周波用途に関して総マイクロ波電力を増加させるサイズ」の内容と範囲を客観的に特定することができない。それゆえ,〈補正事項b〉は,特許請求の範囲の記載をより不明確にするものであり,〈補正事項b〉は,特許法第17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも,同条同項4号に掲げる明りょうでない記載の釈明にも該当しないことは明らかであり,また,特許法第17条の2第4項に掲げる他のいずれを目的とするものにも該当しない。

4.むすび
上記のとおり,本件補正は,前記〈補正事項b〉が,特許法第17条の2第4項に掲げるいずれを目的とするものにも該当せず,17条の2第4項の規定に違反するので,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.平成21年3月31日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成20年9月2日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載から見て,その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)
「【請求項1】高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって:
半絶縁性炭化ケイ素基板;
前記基板上の窒化アルミニウム緩衝層;
前記緩衝層上の絶縁性窒化ガリウム層であって,電子10^(15)個/cm^(3)より低い電子キャリア濃度を有する絶縁性窒化ガリウム層;
前記絶縁性窒化ガリウム層上の窒化アルミニウム・ガリウムの活性構造から形成されるヘテロ接合であって,二次元電子ガス(2DEG)が前記絶縁性窒化ガリウム層において形成される,ヘテロ接合;
前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造上のパッシベーション層;および
前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造に対するソース,ドレインおよびゲートそれぞれのコンタクト
を含んでなる,高電子移動度トランジスタ(HEMT)。」

2.刊行物に記載された発明
・米国特許第5192987号明細書
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に外国において頒布された刊行物である米国特許第5192987号明細書(以下「引用例」という。)には,図1a?6とともに,以下の記載がある。(翻訳及び下線の付加は当審による。以下同様)

ア 「SUMMARY OF THE INVENTION
The present invention is a high electron mobility transistor device structure based on the GaN/Al_(x)Ga_(1-x)N material system.」
(1欄53?56行)
(発明の概要
この発明は,GaN/Al_(x)Ga_(1-x)N材料系からなる高電子移動度トランジスタ構造である。)
イ 「Referring to FIG. 1b, a heterojunction 5 depicting layering typical of a high mobility transistor constructed according to the principles of the present invention as shown.・・・」
(2欄65?68行)
(FIG.1bは,提示した本発明の原理によって形成された,典型的高移動度トランジスタの層構造を示しているヘテロ接合5である。・・・)

ウ 「Referring again to FIG. 2, as shown by curve b, the electron mobility of sample 5 is seen to have increased to 620 cm^(2) per volt second at room temperature to 1,600 cm^(2) per volt second at 77°K. The electron mobility remain constant as the temperature was decreased further to 4°K.
・・・
The dramatic increase in carrier mobility values in sample 5 may be attributed to the presence of a two dimensional electron gas at the interface between the Al_(0.09)Ga_(0.91)N and the GaN layer 7.
・・・
The carrier concentration of the Al_(0.09)Ga_(0.91)N material 8, in bulk, is measured as approximately 5×10^(18) per cm^(3) has an electron mobility of approximately 35 cm^(2) per volt second.」
(3欄10?34行)
(再びFIG.2を参照すると,曲線bで表されるように,試料5の電子移動度は室温で620cm^(2)/Vs,77Kで1600cm^(2)/Vsへと増加したように見受けられる。温度がさらに4Kに低下すると,電子移動度は一定に保たれる。
・・・
試料5におけるキャリア移動度の劇的な増加は,Al_(0.09)Ga_(0.91)NとGaN層7との界面の二次元電子ガスの存在によるものとされる。
・・・
Al_(0.09)Ga_(0.91)N材8のキャリア濃度は,バルクでは約5×10^(18)/cm^(3)と測定され,約35cm^(2)/Vsの電子移動度を有する。)

エ 「Assuming a two dimensional gas structure, conduction must be based on contributions both from the two dimensional gas and from the bulk GaN and the Al_(0.09)Ga_(0.91)N material. Therefore, the measured electron mobilities of FIG. 2 are in essence averaged values and the actual two dimensional gas mobilities are higher than the indicated values. By using a parallel conduction model, one would estimate that the true mobility of the two dimensional electron gas at 300°K. would be 820 cm^(2) per volt second and the sheet carrier density would be approximately 5.times.10^(13) per cm^(2).」
(3欄35?45行)
(二次元ガス構造が呈されるならば,導電は,二次元ガスと,バルクGaNとAl_(0.09)Ga_(0.91)N材料の双方からの寄与に基づくものであるはずである。それゆえ,FIG.2の,測定された電子移動度は本質的に平均化された値であり,実際の二次元ガスの移動度は,ここに示された値よりも高い。並行導電モデルを用いることにより,二次元電子ガスの300Kにおける真の移動度が820cm^(2)/Vsで,シートキャリア密度がおおよそ5×10^(13)/cm^(2)であろうことが見積もられるだろう。)

オ 「This model may be further described by reference to FIG. 3a. The sample 10 of FIG. 3a includes a sapphire substrate 11 having a thickness of approximately 350 microns, followed by an aluminum nitride buffer layer of 12 having a thickness of approximately 50 angstroms. Deposited on layer 12 is a GaN layer 13 having a thickness of approximately 6,000 angstroms. Finally, an Al_(0.09)Ga_(0.91)N layer 14 having a thickness of approximately 500 angstroms is deposited. Referring to FIG. 4, curve b, increasing the GaN layer thickness and hence the bulk conduction reduced the room temperature mobility of the single heterojunction from 620 cm^(2) N-s to 450 cm^(2) N-s but had little effect on the 77 K. mobility which remained at 1600 cm^(2) N-s for both samples. The increased bulk GaN conduction at room temperature causes the average value of the heterojunction mobility to be pushed closer to that for bulk GaN. At 77 K., the high mobility of the interface dominates the measured mobility for both structures.」
(3欄46?64行)(なお,原文の'cm^(2) N-s'は,'cm^(2)/V-s'の誤記と認める。)
(このモデルは,FIG.3aを参照して,さらに詳述される。FIG.3aの試料10は,厚さ約350μのサファイア基板11,それに続く,厚さ約50Åの窒化アルミニウムバッファ層12を含む。層12の上には,厚さ約6000ÅのGaN層13を堆積させる。最後に,厚さ約500ÅのAl_(0.09)Ga_(0.91)N層14が堆積される。FIG.4の曲線bを参照すると,GaN層の厚さが増加することにより,バルク導電が,単一ヘテロ接合の室温における移動度を,620cm^(2)/Vsから450cm^(2)/Vsへと減少させるが,77Kでは影響は少ししかなく,両試料において1600cm^(2)/Vsが維持される。室温でバルクGaNの導電が増加することは,ヘテロ接合の移動度の平均値を,バルクGaNの移動度に近づけさせる原因となる。77Kでは,どちらの構造においても,界面での高移動度が,測定された移動度を決定づける。)

カ 「Referring to FIGS. 5 and 6, the details of construction of a high mobility transistor based on the materials just described can be seen. The substrate material 37 may be of silicon, gallium arsenide, silicon carbide, aluminum oxide or indium phosphide. Substrate 37 is coated of a buffer layer 38, typically formed of an aluminum nitride layer having a thickness of approximately 50 angstroms. The channel region 39 of transistor 40 is a gallium nitride layer between 500 and 2,000 angstroms thick. The thickness of layer 39 is such that it can be completely depleted at a few volts applied to a schottky barrier formed on it. The gallium nitride layer 39 is coated with a thin (approximately 500 angstroms thick) Al_(x)Ga_(1-x)N layer 41. Depending on the application of the particular device 40, the aluminum composition of layer 41 may be varied. The effects of band bending to cause electrons from layer 41 to spill over to layer 39 at the interface 42 residing between them. This will create a sheet charge density of a two dimensional electron gas with mobilities several times greater than bulk material electrons.」
(4欄13?34行)
(FIG.5及び6を参照すると,上述した材料に基づく高移動度トランジスタの詳細構造が見られる。基板材料37は,ケイ素,砒化ガリウム,炭化ケイ素,酸化アルミニウム,又はリン化インジウムでありうる。基板37は,典型的には,厚さ約50Åの窒化アルミニウム層で構成されたバッファ層38で被覆される。トランジスタ40のチャネル領域39は,窒化ガリウム層で,厚さは500から2000Åの間である。層39の厚さは,その上に形成されたショットキバリアに印加される数ボルトによって,完全に空乏化されるような厚さとされる。窒化ガリウム層39は薄い(約500Å厚)Al_(x)Ga_(1-x)N層41によって被覆される。素子40の用途によって,層41のアルミニウム組成比は変わるだろう。界面42においては,層41から層39へと電子をこぼすバンドベンディングの効果が,両層の間に存在する。これは,バルク材料の電子の移動度の数倍の移動度を持つ二次元電子ガスからなるシート電荷密度を形成する。)

キ 「Following epi-layer depositions just described, the device structure will be fabricated as follows. First, photomasking is used to define the source pad 43 and the drain contact pad 44. Ohmic metal contact 45 is deposited on the Al_(x)Ga_(1-x)N region 41 defined as source 43, with a similar ohmic pad 46 being deposited on drain 44.
Various metal material may serve as a the ohmic contacts 45, 46 such as gold, silver, aluminum or indium.
A schottky barrier 47 is deposited using thin metal layers in the region between source contact 43 and drain contact 44, thereby defining a gate contact 47. Several metal combinations can be used from the schottky barrier formation, such as titanium, gold, aluminum, silver, chromium, tungsten and indium. Electrical conductors 48, 49 and 50 are bonded to ohmic contacts 45 and 46 and schottky contact 47.」
(4欄35?53行)
(上述したエピ層の堆積に続いて,次のように素子構造が製造される。まず,ソースパッド43及びドレインコンタクトパッド44を画定するために,フォトマスク法が用いられる。オーミック金属コンタクト45が,ソース43として画定されたAl_(x)Ga_(1-x)N領域41に堆積され,これとともに,ドレイン44上に同様なオーミックパッド46が堆積される。
オーミックコンタクト45,46には様々な材料を用いうることができ,例えば,金,銀,アルミニウム,インジウムである。
ショットキバリア47がソースコンタクト43とドレインコンタクト44の間の領域に細い金属層として堆積され,それによって,ゲートコンタクト47が画定される。ショットキバリア形成には,いくつかの金属の組合せを用いることができ,例えば,チタン,金,アルミニウム,銀,クロム,タングステン及びインジウムである。導電材48,49及び50が,オーミックコンタクト45,46及びショットキコンタクト47に接続される。)

ここで,上記カ,キの記載によれば,FIG.5および6に示された高移動度トランジスタについて,「上述した材料に基づく高移動度トランジスタ」とされていることから,上記イ?オに記載された材料(ただし,Al_(x)Ga_(1-x)N層41のAl組成比xについては変えられる。)を用いているものと言える。また,上記カの記載から,基板37の材料として,炭化ケイ素を選択できることが明らかである。また,上記カの記載とともにFIG.5を見ると,バッファ層38上に,チャネル領域を構成する窒化ガリウムからなるチャネル領域層39,及びその上のAl_(x)Ga_(1-x)N層41が形成され,窒化ガリウム層39とAl_(x)Ga_(1-x)N層41の界面42において,二次元電子ガス層が形成されることが明らかである。
また,上記カ,キの記載から,ゲートコンタクト47がショットキバリアゲートを構成しており,チャネル領域層39の厚さが,該ショットキバリアゲートへの数ボルトの印加によって,完全に空乏化されるように選択されていることが分かる。

したがって,引用例には,高電子移動度トランジスタについて,以下の発明が記載されているものと認められる。(以下「引用発明」という。)

「高電子移動度トランジスタであって,
炭化ケイ素を材料とした基板37,
基板37を被覆する,窒化アルミニウムで構成されるバッファ層38,
バッファ層38上に形成された,窒化ガリウムからなるチャネル領域層39,
チャネル領域層39を被覆する,Al_(x)Ga_(1-x)N層41,並びに,
Al_(x)Ga_(1-x)N層41に設けられた,ソースコンタクト43,ドレインコンタクト44,及び,ショットキバリアゲートコンタクト47,
を含んでおり,
前記チャネル領域層39とAl_(x)Ga_(1-x)N層41との界面42において,二次元電子ガス層が形成され,
前記チャネル領域層39は,前記ショットキバリアゲートコンタクト47への数ボルトの印加によって,完全に空乏化されるような厚さとされている,
高電子移動度トランジスタ。」

3.本願発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「炭化ケイ素を材料とした基板37」と,本願発明の「半絶縁性炭化ケイ素基板」とは,炭化ケイ素基板である点で共通する。
イ 引用発明の「基板37を被覆する,窒化アルミニウムで構成されるバッファ層38」は,本願発明の「前記基板上の窒化アルミニウム緩衝層」に相当する。
ウ 引用発明の「バッファ層38上に形成された,窒化ガリウムからなるチャネル領域層39」と,本願発明の「前記緩衝層上の絶縁性窒化ガリウム層であって,電子10^(15)個/cm^(3)より低い電子キャリア濃度を有する絶縁性窒化ガリウム層」とは,前記緩衝層上の窒化ガリウム層である点で共通する。
エ 引用発明の「窒化ガリウムからなる」「前記チャネル領域層39とAl_(x)Ga_(1-x)N層41との界面42において,二次元電子ガス層が形成され」る構成において,「前記チャネル領域層39とAl_(x)Ga_(1-x)N層41」がヘテロ接合を構成していることは明らかであり,「Al_(x)Ga_(1-x)N層41」は活性構造であるということができるから,引用発明の上記構成と,本願発明の「前記絶縁性窒化ガリウム層上の窒化アルミニウム・ガリウムの活性構造から形成されるヘテロ接合であって,二次元電子ガス(2DEG)が前記絶縁性窒化ガリウム層において形成される,ヘテロ接合」とは,窒化ガリウム層上の窒化アルミニウム・ガリウムからなる活性構造から形成されるヘテロ接合であって,二次元電子ガス(2DEG)が前記窒化ガリウム層において形成される,ヘテロ接合である点で共通する。
オ 上記エによれば,引用発明の「Al_(x)Ga_(1-x)N層41」は,本願発明の「窒化アルミニウム・ガリウム活性構造」に対応するから,引用発明の「Al_(x)Ga_(1-x)N層41に設けられた,ソースコンタクト43,ドレインコンタクト44,及び,ショットキバリアゲートコンタクト47」は,本願発明の「前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造に対するソース,ドレインおよびゲートそれぞれのコンタクト」に相当する。

カ したがって,引用発明と本願発明とは,
「高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって:
炭化ケイ素基板;
前記基板上の窒化アルミニウム緩衝層;
前記緩衝層上の窒化ガリウム層;
前記窒化ガリウム層上の窒化アルミニウム・ガリウムの活性構造から形成されるヘテロ接合であって,二次元電子ガス(2DEG)が前記窒化ガリウム層において形成される,ヘテロ接合,;
前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造に対するソース,ドレインおよびゲートそれぞれのコンタクト
を含んでなる,高電子移動度トランジスタ(HEMT)。」
である点で一致する。

キ 一方,両者は以下の各点で相違する。
〈相違点1〉
本願発明は,「半絶縁性炭化ケイ素基板」を含んでいるのに対して,引用発明は,「炭化ケイ素基板」を有するものの,「半絶縁性」のものではない点。
〈相違点2〉
本願発明においては,「絶縁性窒化ガリウム層であって,電子10^(15)個/cm^(3)より低い電子キャリア濃度を有する絶縁性窒化ガリウム層」を含んでいるのに対して,引用発明においては,「窒化ガリウムからなるチャネル領域層39」が,「前記ショットキバリアゲートコンタクト47への数ボルトの印加によって,完全に空乏化されるような厚さとされている」ことから,ショットキバリアゲートコンタクト47に電圧を印加しない状態では,一定程度の電子キャリア濃度を有するものであって,「絶縁性」とは言えず,また,具体的な電子キャリア濃度も明らかではなく,同様に,ヘテロ構造を構成する窒化ガリウム層についても,本願発明では「絶縁性窒化ガリウム層」であるのに対して,引用発明では,上述のとおり,そのようなものではない点。
〈相違点3〉
本願発明は,「前記窒化アルミニウム・ガリウム活性構造上のパッシベーション層」を含むのに対して,引用発明は,「パッシベーション層」を有しない点。

4.当審の判断
〈相違点1について〉
炭化ケイ素基板として,半絶縁性の炭化ケイ素基板を用いることは,以下の周知例1及び2にも示されているように,従来より周知の技術である。
・周知例1: 特開平9-307100号公報
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-307100号公報には,図9(a)とともに次の記載がある。
「【0079】(第6の実施形態)本発明の第6の実施形態の構成を,図9(a)の模式的な断面図を参照して説明する。
【0080】図9(a)の構成において,半絶縁性SiC基板91の上に,ノンドープSiCワイドギャップバッファ層92,n型GaAsチャネル層(活性層)93,ショットキー層として機能するノンドープSiCワイドギャップ層94,及びn型SiCワイドギャップオーミックコンタクト層95が,順に形成されている。半絶縁性SiC基板91の上の各層92?95は,例えばMBE法或いはCVD法などのエピタキシャル成長により,積層する。」

・周知例2: 特開平5-175239号公報
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平5-175239号公報には次の記載がある。
「【請求項12】 前記基板は半絶縁性炭化シリコンであることを特徴とする請求項1?5の何れかに記載のトランジスタ。」
「【0023】以上,本発明の好適実施例につて記載したが,上述した第1エピタキシャル層は随意に省略し,半絶縁基板又はp型基板上に形成したn導電型SiC の単一エピタキシャル層を有するトランジスタを形成することもできる。単一エピタキシャル層装置を形成するには,装置の基板として上述したp型埋込層につき述べたキリャア濃度を有するp導電型炭化シリコン基板又は半絶縁性基板を用いるのが好適である。」

したがって,引用発明において炭化ケイ素基板を半絶縁性のものとすることは当業者が適宜になし得たことである。
よって,相違点1は,当業者が容易になし得たことである。

〈相違点2について〉
高電子移動度トランジスタを構成する,界面に二次元電子ガス(2DEG)が形成されるヘテロ接合において,前記二次元電子ガスが形成される側の半導体層をアンドープとすることは,以下の周知例3及び4にも示されているように,従来より周知の技術である。
・周知例3: 特開平9-307097号公報
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-307097号公報には,図6,7とともに次の記載がある。
「【0042】次に,この発明の第2の実施形態によるAlGaN/GaN HEMTについて説明する。図6はこの第2の実施形態によるAlGaN/GaN HEMTを示し,図7はこのAlGaN/GaN HEMTのエネルギーバンド図である。なお,図6においては,図4に示す第1の実施形態によるGaN MESFETと同一または対応する部分には同一の符号を付す。
【0043】図6に示すように,この第2の実施形態によるAlGaN/GaN HEMTにおいては,c面サファイア基板11上に,AlNまたはGaNからなる低温成長によるバッファ層(図示せず)を介して,チャネル層としてのアンドープGaN層12が積層されている。チャネル部におけるこのアンドープGaN層12上には,電子供給層としてのn型AlGaN層19およびアンドープAlGaN層20が順次積層されている。アンドープGaN層12の厚さは例えば3μmである。n型AlGaN層19の厚さは例えば10nm,Al組成比は例えば0.2,キャリア濃度は例えば10^(18)cm^(-3)である。また,アンドープAlGaN層20の厚さは例えば40nm,Al組成比は例えば0.2である。ソース電極およびドレイン電極形成部におけるアンドープGaN層12上には,所定形状のn型GaInNコンタクト層14がn型AlGaN層19およびアンドープAlGaN層20の両側壁にそれぞれ接触して設けられている。第1の実施形態におけると同様に,このn型GaInNコンタクト層14の厚さは例えば200nm,In組成比は例えば0.13,キャリア濃度は例えば3×10^(18)cm^(-3)である。その他のことは,第1の実施形態によるGaN MESFETと同様であるので,説明を省略する。」
ここで,図7を参照すると,アンドープGaN層12に二次元電子ガスが形成されていることが見て取れる。

・周知例4: 特開平9-330916号公報
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-330916号公報には,図7?11とともに次の記載がある。
「【0042】次に,この発明の第2の実施形態によるGaN/GaInN擬似構造(pseudomorphic)高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor,HEMT)の製造方法について説明する。
【0043】この第2の実施形態においては,まず,図7に示すように,c面サファイア基板1上にAlNまたはGaNからなるバッファ層(図示せず)を介してアンドープGaN層2およびチャネル層10をMOCVD法により順次成長させる。アンドープGaN層2の厚さは例えば800nmである。
【0044】この場合,チャネル層10は,図8に示すように,n^(+) 型GaN層101,アンドープGaInN層102,n^(+) 型GaN層103およびアンドープAlGaN層104からなる。ここで,n^(+) 型GaN層101のキャリア濃度は例えば2×10^(18)cm^(-3),厚さは例えば10nmである。また,アンドープGaInN層102のIn組成比は例えば0.2,厚さは例えば15nmである。また,n^(+)型GaN層103のキャリア濃度は例えば2×10^(18)cm^(-3),厚さは例えば10nmである。さらに,アンドープAlGaN層104のAl組成比は例えば0.5,厚さは例えば30nmである。
【0045】次に,図9に示すように,第1の実施形態におけると同様にして,チャネル層10上にストライプ形状のSiO2 マスク4を形成した後,このSiO_(2) マスク4をエッチングマスクとして,チャネル層10およびアンドープGaN層2の上層部を例えば700℃で例えば200nmだけ選択的に気相エッチングする。この気相エッチングにより,チャネル層10およびアンドープGaN層2の上層部がストライプ形状にパターニングされる。
・・・
【0049】以上により,目的とするGaN/GaInN擬似構造HEMTが製造される。図11に,このGaN/GaInN擬似構造HEMTのエネルギーバンド図を示す。」
ここで,図11を参照すると,アンドープGaInN層102に二次元電子ガスが形成されていることが見て取れる。

また,一般に,半導体をアンドープとすることにより,キャリア濃度が低くなるとともに導電性も低下し,絶縁性となることは技術常識である。
したがって,上記周知の技術に照らし,引用発明においても,二次元電子ガスが形成される「チャネル領域層39」をアンドープの窒化ガリウム層とし,「絶縁性」と言える程度まで電子キャリア濃度が低いものとすることは,当業者が適宜になし得たことである。また,本願明細書を見ても,電子キャリア濃度を10^(15)個/cm^(3)より低い値とすることに臨界的意義は見いだせないので,該値とすることは,単なる設計事項である。
また,これに伴い,引用発明において,ヘテロ構造を構成する窒化ガリウム層が,「絶縁性窒化ガリウム層」となることは明らかである。
よって,相違点2は当業者が容易になし得たことである。

なお,引用例には,前記第3 「2.刊行物に記載された発明」のエに摘記したように,「導電は,二次元ガスと,バルクGaNとAl_(0.09)Ga_(0.91)N材料の双方からの寄与に基づくもの」である旨の記載があるが,これは,この記載に続く「それゆえ,FIG.2の,測定された電子移動度は本質的に平均化された値であり,実際の二次元ガスの移動度は,ここに示された値よりも高い。並行導電モデルを用いることにより,二次元電子ガスの300Kにおける真の移動度が820cm^(2)/Vsで,シートキャリア密度がおおよそ5×10^(13)/cm^(2)であろうことが見積もられるだろう。」との記載から,実際に測定されたデータから,「二次元電子ガスの」「真の移動度」を見積もるために用いられた,「並行導電モデル」についての説明であることが分かる。すなわち,前記「並行導電モデル」は,得られた測定データを解釈するためのものであって,引用発明に係る素子において,「窒化ガリウムからなるチャネル領域層39」を,アンドープの窒化ガリウム層に置き換えることを何らを妨げるものではない。

〈相違点3について〉
一般に,半導体素子において素子上にパッシベーション層を設けることは,以下の周知例5にも示されているように,従来より周知の技術である。
・周知例5: 特開平6-140436号公報
本願の出願/優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-140436号公報には,図1とともに次の記載がある。
「【0015】図1は,本発明の化合物半導体装置の一実施例を示す断面図,図2?4は本発明の化合物半導体装置の製法の各工程を示す断面説明図である。
【0016】図1において,1は半絶縁性のGaAs基板であり,該GaAs基板1の上には,アンドープ半導体結晶層としてアンドープGaAsバッファ層2,アンドープInGaAs層3が形成されている。ついでInxGa1-xPからなるアンドープ半導体結晶層4およびSiドナーが高濃度にドープされたn^(+)型のIn_(x)Ga_(1-x)P結晶層5が順次積層されている。さらに,前記ドープ半導体結晶層5の表面には,Siドナーが高濃度にドープされたn^(+)型のGaAsからなるキャップ層6が形成され,その上部にはソース電極7およびドレイン電極8がそれぞれ形成されている。また,ソース電極7とドレイン電極8のあいだのキャップ層6の一部が除去されてテーパ形状のリセス9が形成されている。さらに,前記リセス9の底に露出したドープ半導体結晶層5の表面にゲート電極10が形成されている。なお,11は,基板表面を保護するために形成されたパッシベーション膜である。」

それゆえ,引用発明においても,素子構造上にパッシベーション層を設けることは当業者が適宜になし得たことである。
よって,相違点3は当業者が容易になし得たことである。

5.まとめ
上述したように,本願発明は,技術常識及び周知技術を勘案して,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-06 
結審通知日 2011-06-07 
審決日 2011-06-23 
出願番号 特願2000-560616(P2000-560616)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 57- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村岡 一磨  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 松田 成正
近藤 幸浩
発明の名称 半絶縁性炭化ケイ素基板上の窒化物系トランジスタ  
代理人 小野 新次郎  
代理人 上田 忠  
代理人 社本 一夫  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 富田 博行  

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