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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1247141
審判番号 不服2010-13115  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-16 
確定日 2011-11-16 
事件の表示 特願2005-154614「液晶表示装置のパッド構造及び液晶表示装置のパッド製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月19日出願公開、特開2006- 18239〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年5月26日(パリ条約による優先権主張2004年6月30日、大韓民国)の出願であって、平成20年8月13日付けで拒絶理由が通知され、同年11月19日付けで手続補正がなされ、平成21年6月19日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年9月24日付けで手続補正がなされ、平成22年2月8日付けで前記平成21年9月24日付け手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月16日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成22年6月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年6月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成22年6月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前(平成20年11月19日付け手続補正後)の、請求項1を引用する請求項5を、以下のように補正することを含むものと解される。

「アレイ基板上に複数形成された信号配線の一端に所定面積で形成されたパッド下部電極と、
前記パッド下部電極の上部に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の所定領域をエッチングして前記パッド下部電極を露出させることにより形成されたコンタクトホールと、
前記コンタクトホール上に形成されて前記パッド下部電極と接触するパッド端子電極と
が含まれて構成され、
前記パッド下部電極は、アルミニウム合金層とモリブデン層との二重層構造であって、前記コンタクトホールの形成時にオーバーエッチングが発生した場合にも、前記モリブデン層全体がエッチングされることを防止するために、前記アルミニウム合金層は、2000Åの厚さに形成されて、前記モリブデン層は、500Å?1000Åの厚さに形成され、前記コンタクトホールのスロープを減らすために、前記パッド端子電極は、前記下部電極を構成する前記モリブデン層と接触する
ことを特徴とする液晶表示装置のパッド構造。」

2 目的外補正
本件補正は、補正前の請求項1の「前記パッド端子電極は、前記下部電極を構成する前記モリブデン層と接触する」との記載を、「前記コンタクトホールのスロープを減らすために、前記パッド端子電極は、前記下部電極を構成する前記モリブデン層と接触する」とするものである。しかしながら、この「前記コンタクトホールのスロープを減らすために、前記パッド端子電極は、前記下部電極を構成する前記モリブデン層と接触する」との記載は、その意味するところが不明であって、本件補正は、本件補正前の上記記載について、特許請求の範囲の減縮を目的として行ったものとはいえないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
また、本件補正の目的は、同法第17条の2第4項第1号、第3号、第4号の、請求項の削除、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明、のいずれにも該当しない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願について
1 本願発明
平成22年6月16日付けの手続補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成20年11月19日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。

「アレイ基板上に複数形成された信号配線の一端に所定面積で形成されたパッド下部電極と、
前記パッド下部電極の上部に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の所定領域をエッチングして前記パッド下部電極を露出させることにより形成されたコンタクトホールと、
前記コンタクトホール上に形成されて前記パッド下部電極と接触するパッド端子電極と
が含まれて構成され、
前記パッド下部電極は、アルミニウム合金層とモリブデン層との二重層構造であって、前記コンタクトホールの形成時にオーバーエッチングが発生した場合にも、前記モリブデン層全体がエッチングされることを防止するために、前記モリブデン層の厚さが少なくとも前記モリブデン層の下部に形成される前記アルミニウム合金層の厚さの1/4より大きく形成され、
前記パッド端子電極は、前記下部電極を構成する前記モリブデン層と接触する
ことを特徴とする液晶表示装置のパッド構造。」(以下「本願発明」という。)

2 拒絶の理由
平成21年6月19日付けで通知された拒絶の理由は、次に抜粋して示すとおりのものである。

「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号又は第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



・・・
・・・技術常識に鑑みれば、オーバーエッチングによってモリブデン層全体がエッチングされるか否かは、モリブデン層の絶対的な膜厚に依存するものと考えられるところ、本願明細書にはアルミニウム合金層の厚さとの相対関係において規定することの技術的な根拠が記載されていないため、請求項1、9に係る発明についての理論的又は実験的な裏付けがなされていない。また、モリブデン層厚をアルミニウム合金層の厚さとの相対関係において規定することの技術的意義が不明である。
・・・
よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1-12に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない(審決注:以下、この拒絶の理由を「理由a」という。)。

2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(審決注:以下、この拒絶の理由を「理由b」という。)。。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-12
・引用文献1-2
備考:
・・・引用文献1-2に記載された発明に基いて、本願請求項1-12に係る発明のような構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2002-357844号公報
2.特開平9-148586号公報」

3 記載不備(特許法第36条第4項第1号)について
(1)本願明細書の記載
平成21年6月19日付けの拒絶の理由(上記2(1)参照。)において指摘された1.(理由a)に関連する記載として、本願明細書(平成20年11月19日付けのもの)には、以下のア?カがある。

ア 「【0001】
本発明は、液晶表示装置に係り、特に液晶表示装置のゲート/データパッド構造及びその製造方法に関する。」

イ 「【0005】
図1は、一般的な液晶表示装置の下部基板であるアレイ基板の一部を示した拡大平面図である。
・・・
【0007】
前記下部基板10は、アレイ基板とも言い、スイッチング素子である薄膜トランジスタTがマトリックス状に配置され、このような複数の薄膜トランジスタを交差して通り過ぎるゲート配線25とデータ配線27が形成される。
・・・
【0009】
前記ゲート配線25とデータ配線27の一端には、外部からの信号入力を受けるゲートパッド29とデータパッド31が構成される。
・・・
【0013】
一方、前記基板10上にゲート配線25とゲート配線25の一端に所定面積でゲートパッド29が形成される。前記ゲートパッド29は、ゲートパッド下部電極28が形成された基板10の上部にゲート絶縁膜30が形成されて、前記下部電極28が形成された領域上部に具備されたゲート絶縁膜30及び保護層70をエッチングして前記下部電極28を露出するゲートパッドコンタクトホール59が形成されており、前記コンタクトホールに前記下部電極28と連結されたゲートパッド端子電極65が形成されることによってゲートパッドを構成する。
【0014】
また、前記ゲート絶縁膜30上に、前記ソース電極60と垂直に延びたデータ配線27と、データ配線の一端に所定面積のデータパッド31とが形成されている。
【0015】
前記データパッド31もデータパッド下部電極32が形成された領域上部に具備された保護層70をエッチングして前記下部電極32を露出するデータパッドコンタクトホール61が形成されており、前記下部電極32と連結されたデータパッド端子電極67が形成されている。
・・・
【0017】
一方、前記ゲート/データ配線25、27の一端に所定面積で形成されているゲート/データパッド下部電極28、32上には、ゲートパッド端子電極(ITO65またはIZO67)がパターニングされている。
【0018】
前記ゲート/データ配線25、27の材料でアルミニウムやアルミニウム合金(AlNd)を用いる場合、ゲート/データパッド下部電極28、32とゲート/データパッド端子電極65、67との接触時に酸化膜が形成される。
【0019】
したがって、酸化膜は、アルミニウム金属とゲート/データパッド端子電極65、67との直接の接触を妨害しているので、アルミニウム金属と端子電極65、67間にモリブデン(Mo)による緩衝層が形成される。
【0020】
すなわち、前記ゲート/データ配線25、27をアルミニウム合金(AlNd)及びモリブデン(Mo)の二重層で形成することによって、前記ゲート/データ配線がゲート/データパッド端子電極65、67と接触する時に発生する酸化膜を除去することができる。」

ウ 「【0021】
図3は、従来のゲートパッドの構造をさらに詳細に示す断面図であって、これは、ゲートパッドをその例にしているが、データパッドにも同様に適用できる。
【0022】
図3に示したように、従来の場合、ゲートパッド下部電極310を形成するアルミニウム合金(AlNd)312及びモリブデン(Mo)314の二重層構造において、前記モリブデン層314は約500Å、アルミニウム合金層312は2000Åの厚さを有するように形成される。
【0023】
また、前記ゲートパッド下部電極310上部に形成されるゲート絶縁膜320/保護層330は、4000/2000Åの厚さを有する。
【0024】
ここで、前記ゲートパッド下部電極310にゲートパッド端子電極350を接触させるようにコンタクトホール340を形成するが、従来の場合、前記コンタクトホール340を形成するためにエッチング工程を遂行する。
・・・
【0025】
しかし、従来の場合、前記エッチング工程進行中にオーバーエッチングになる場合が頻繁に発生してエッチングによるコンタクトホール形成時に、前記ゲート絶縁膜320/保護層330が除去されるだけでなく、前記下部電極310のモリブデン314が全部除去される場合が発生する問題がある。
【0026】
すなわち、図3に示したように、オーバーエッチングにより前記モリブデン層314がエッチングされた場合には、ITOまたはIZOで構成されたゲートパッド端子電極350と下部電極310のアルミニウム合金層312が直接接触するようになって、それによってその界面において腐蝕が発生する。」

エ 「【0030】
本発明は液晶表示装置のパッド構造において、前記パッドを構成するアルミニウム合金/モリブデンの二重層構造で、前記モリブデンの厚さを少なくともアルミニウム合金厚さの1/4より厚く形成することにより、また、前記パッドを露出させるコンタクトホールの形成時に遂行されるエッチング工程を調節して、前記コンタクトホールのスロープ、すなわち、傾斜度を緩やかに形成することにより、パッドの腐蝕を防止する液晶表示装置のパッド構造及びその製造方法を提供することにその目的がある。」

オ 「【0031】
前記目的を達成するために、本発明による液晶表示装置のパッド構造は、アレイ基板上に複数形成された信号配線の一端に所定面積で形成されたパッド下部電極と、前記パッド下部電極の上部に形成された絶縁層と、前記絶縁層の所定領域をエッチングして前記パッド下部電極を露出させることにより形成されたコンタクトホールと、前記コンタクトホール上に形成されて前記パッド下部電極と接触するパッド端子電極とが含まれて構成され、前記パッド下部電極は、アルミニウム合金層とモリブデン層との二重層構造であって、前記コンタクトホールの形成時にオーバーエッチングが発生した場合にも、前記モリブデン層全体がエッチングされることを防止するために、前記モリブデン層の厚さが少なくとも前記モリブデン層の下部に形成される前記アルミニウム合金層の厚さの1/4より大きく形成され、前記パッド端子電極は、前記下部電極を構成する前記モリブデン層と接触することを特徴とする。
【0032】
また、本発明による液晶表示装置のパッド製造方法は、アレイ基板上に複数形成された信号配線の一端に所定面積でアルミニウム合金層とモリブデン層との二重層構造からなるパッド下部電極を形成する段階と、前記パッド下部電極の上部に絶縁層が形成する段階と、前記絶縁層の所定領域をエッチングして前記パッド下部電極を露出させるようにコンタクトホールを形成する段階と、前記露出したパッド下部電極と接触するように前記コンタクトホール上にパッド端子電極を形成する段階とが含まれ、前記パッド下部電極を形成する段階は、前記二重層構造からなるパッド下部電極を形成する際に、前記コンタクトホールの形成時にオーバーエッチングが発生した場合にも、前記モリブデン層全体がエッチングされることを防止するために、前記モリブデン層の厚さが少なくとも前記モリブデン層の下部に形成される前記アルミニウム合金層の厚さの1/4より大きくなるようにして前記パッド下部電極を形成し、前記パッド端子電極を形成する段階は、前記下部電極を構成する前記モリブデン層と接触するように前記パッド端子電極を形成することを特徴とする。
【0033】
このような本発明によれば、パッドを構成するアルミニウム合金/モリブデンの二重層構造で、前記モリブデンの厚さを少なくともアルミニウム合金厚さの1/4より厚く形成することにより、前記アルミニウム合金が腐蝕されることを防止する効果がある。」

カ 「【0036】
図4は、本発明による液晶表示装置のパッド構造を示す断面図である。
・・・
【0039】
本発明によるゲートパッドは、液晶表示装置のアレイ基板に複数形成されたゲート配線の一端に所定面積で形成されている。
【0040】
前記ゲートパッドは、ゲートパッド下部電極410が形成された基板400の上部に、ゲート絶縁膜420及び保護層430が形成されて、前記下部電極410が形成された領域上部に具備されたゲート絶縁膜420及び保護層430をエッチングして、前記下部電極410を露出するゲートパッドコンタクトホール440が形成されている。
【0041】
そして、前記コンタクトホール440に前記下部電極410と連結されたゲートパッド端子電極450が形成されることによってゲートパッドを構成する。
【0042】
また、前記ゲートパッド下部電極410は、前記ゲートパッド端子電極450との接触による酸化膜形成を防止するために、アルミニウム合金(AlNd)412/モリブデン(Mo)414の二重層で構成される。
【0043】
ここで、本発明は、前記コンタクトホール440を形成するためのエッチング工程進行時に、オーバーエッチングになることにより前記モリブデン層414までエッチングされて発生する問題点を克服するために、前記モリブデン層414の形成厚さを既存より厚く形成することをその特徴とする。
【0044】
すなわち、従来の場合、前記アルミニウム合金(AlNd)412及びモリブデン(Mo)414の二重層構造において前記モリブデン層は約500Å、アルミニウム合金層は2000Åの厚さを有するように形成されたが、本発明においては、前記モリブデン層414が500Å?1000Åの厚さに形成される。
【0045】
言い換えれば、本発明の場合、前記モリブデン層414の厚さは、少なくともその下部に形成されるアルミニウム合金層412の厚さの1/4より大きく形成することをその特徴とする。ただし、前記モリブデン層414は、前記アルミニウム合金層412の厚さの1/2よりは小さく形成することが望ましい。
【0046】
図4に示したように、前記モリブデン層414をアルミニウム合金層412の厚さの1/4よりも厚く形成することによって、前記コンタクトホール440形成時にオーバーエッチングが発生しても、モリブデン層414全体がエッチングされる場合が発生せず、従来の腐蝕問題を克服できるようにした。」

キ 「【0051】
図5Aないし図5Cは、本発明による液晶表示装置のパッドの製造工程を説明する工程断面図である。
・・・
【0054】
図5Aに示したように、先にゲートパッド下部電極410がアレイ基板400上で各ゲート配線の一端に所定の面積で形成されて、その上部にゲート絶縁膜420及び保護層430が形成される。
【0055】
ここで、前記ゲートパッド下部電極410を構成する金属は、アルミニウム合金(AlNd)412及びモリブデン(Mo)414の二重層構造であって、本発明は、前記モリブデン414層の厚さが少なくともその下部に形成されるアルミニウム合金層412の厚さの1/4より大きく形成して、アルミニウム合金層412の厚さの1/2よりは小さく形成することをその特徴とする。
【0056】
一例として、前記アルミニウム合金412層は、2000Åの厚さを有して、前記モリブデン層414が500Å?1000Åの厚さで形成することが望ましい。
【0057】
これは、以後、コンタクトホール440を形成するためのエッチング工程進行時にオーバーエッチングになる場合、前記モリブデン414層までエッチングされて前記アルミニウム合金412が露出される問題点を克服するためである。
・・・
【0059】
次に、図5Bに示したように、前記ゲートパッド下部電極410が形成された領域上部に具備されたゲート絶縁膜420及び保護層430をエッチングして、前記下部電極410を露出するゲートパッドコンタクトホール440が形成される。
・・・
【0061】
最後に、図5Cに示したように、前記コンタクトホール440が形成されると、その上部にITOまたはIZO等のような透明電極でなったゲートパッド端子電極450を形成し、これによりゲートパッドが完成される。」

(2)理由aについての当審の判断
ア 上記1によれば、本願発明は、「前記パッド下部電極は、アルミニウム合金層とモリブデン層との二重層構造であって、前記コンタクトホールの形成時にオーバーエッチングが発生した場合にも、前記モリブデン層全体がエッチングされることを防止するために、前記モリブデン層の厚さが少なくとも前記モリブデン層の下部に形成される前記アルミニウム合金層の厚さの1/4より大きく形成され」との特定事項を備えるものである。

イ 一方、上記(1)イ、ウ及びカ(【0036】?【0044】)によれば、本願明細書には、「(アルミニウム合金層とモリブデン層との二重層構造からなる)(ゲート)パッド下部電極」の上部に形成された「ゲート絶縁膜」及び「保護膜」をエッチングして「(ゲートパッド)コンタクトホール」を形成し、前記「(ゲート)パッド下部電極」を露出させた際に、オーバーエッチングにより当該「(ゲート)パッド下部電極」の「モリブデン層」が全部除去される場合が発生する、との問題を克服するために、従来の場合、「アルミニウム合金(AlNd)」及び「モリブデン(Mo)」の二重層構造において、前記「モリブデン層」は約500Å、「アルミニウム合金層」は2000Åの厚さを有するように形成されたが、前記「モリブデン層」を500Å?1000Åの厚さに形成すること、が記載されているものと認められる。

ウ しかしながら、オーバーエッチングにより「モリブデン層」が全部除去されるという上記問題が、本願発明の上記アの特定事項(前記コンタクトホールの形成時にオーバーエッチングが発生した場合にも、前記モリブデン層全体がエッチングされることを防止するために、前記モリブデン層の厚さが少なくとも前記モリブデン層の下部に形成される前記アルミニウム合金層の厚さの1/4より大きく形成され)と、何故、また、どのように関係するのかという点、さらにいえば、その下部に配置される「アルミニウム合金層」の厚さに何故、また、どのように関係するのかという点については、本願明細書(上記(1)ア?キ参照。)を見ても何ら具体的に説明されてはいない。そして、当業者といえども、本願発明において、オーバーエッチングにより「モリブデン層」が全部除去されるという問題を解決するために、該「モリブデン層」の厚さを「アルミニウム合金層」の厚さとの相対関係において規定することの技術的意義を理解することはできない(なお、上記イのとおり、本願明細書には、「従来の場合、・・・『モリブデン層』は約500Å、『アルミニウム合金層』は2000Åの厚さを有するように形成されたが、前記『モリブデン層』を500Å?1000Åの厚さに形成する」ことにより、「オーバーエッチングにより・・・『モリブデン層』が全部除去される場合が発生する、との問題を克服」すると説明されているが、「500Å?1000Åの厚さに形成する」とは、500Åあるいは500Åをわずかに超える程度の厚さに形成するものであってもよいものと解されるところ、「モリブデン層」の厚さが500Åである場合に生じていた問題が、単に「500Å?1000Åの厚さに形成する」ことによりなぜ克服されるのかが理解できないから、その厚さを500Å?1000Åとすることの技術上の意義も理解することができない。)。

エ 以上のとおり、「前記コンタクトホールの形成時にオーバーエッチングが発生した場合にも、前記モリブデン層全体がエッチングされることを防止するために、前記モリブデン層の厚さが少なくとも前記モリブデン層の下部に形成される前記アルミニウム合金層の厚さの1/4より大きく形成され」との特定事項を備える本願発明は、「モリブデン層」の厚さを「アルミニウム合金層」の厚さとの相対関係において規定することの技術的意義を理解することができないものであって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術的意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできない。

(3)小括
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術的意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないから、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載されたものであるということはできない。

4 進歩性(特許法第29条第2項)(理由b)について
(1)本願発明
本願発明は、上記1のとおりである。

(2)刊行物記載の発明
平成21年6月19日付けで通知された拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-357844号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図とともに下記の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶表示装置及びその製造方法に関し、特に反射電極を有する反射型液晶表示装置もしくは反射、透過型(以下半透過型と呼ぶ)液晶表示装置及びその製造方法に関する。」

イ 「【0021】
【発明の実施の形態】本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。・・・
【0022】図1、図3に示すように、TFT基板10には、透明絶縁性基板10a上に複数の走査線11と複数の信号線12がほぼ直交して配設され、その交点近傍にこれらに接続されてスイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT)14が設けられ、これらがマトリクス状に配置されている。・・・
【0023】また、走査線11の端部にはアドレス信号を入力する走査線端子15が、信号線12の端部にはデータ信号を入力する信号線端子16がそれぞれ設けられている。
・・・
【0032】次に、上記構成のTFT基板の製造方法について説明する。・・・
【0033】まず、厚さ0.5mmの無アルカリガラスからなる透明絶縁性基板10a上に、スパッタにより厚さ100nm?300nmのCr等の金属膜を成膜し、公知のフォトリソグラフィー技術及びエッチング技術を用いて、ゲート電極41、走査線11(図示せず)、共通配線13(図示せず)、走査線端子15、信号線端子16、共通配線端子18の端子部金属膜61を形成する。なお、配線材料としては、Crに限らず、MoやAlもしくはAl合金上にCr、Mo、チタン(Ti)等のバリアメタルを形成した積層構造の配線膜のように、抵抗が低く、薄膜形成及びフォトリソグラフィー技術によるパターンニングが容易な材料であればよい。(図5(a)、図8(a))
次に、プラズマCVDにより厚さ300nm?500nmの窒化シリコン(SiN_(x))からなるゲート絶縁膜53を成膜し、引き続きプラズマCVDによりゲート絶縁膜53上に厚さ150nm?300nmのドーピングされていないアモルファスシリコン(a-Si)と厚さ30nm?50nmのn^(+)型にドーピングされたアモルファスシリコン(n^(+)型a-Si)を成膜し、フォトリソ工程を通してパターンニングし、a-Si層44aとn^(+)型a-Si層44bからなる半導体層44を形成する。・・・
次に、スパッタにより厚さ100nm?300nmのCr等の金属膜を成膜、フォトリソ工程を通してパターンニングし、ドレイン電極42、ソース電極43、信号線12を形成する。その後、ドレイン電極42、ソース電極43をマスクにしてドライエッチングを行い、ドレイン電極42とソース電極43の間のn^(+)型a-Si層44bを除去する。・・・
次に、プラズマCVDにより厚さ100nm?300nmの窒化シリコンを成膜してパッシベーション膜54を形成し(図8(c))、ソース電極43上のパッシペーション膜54と、走査線端子15、信号線端子16、共通配線端子18の端子部金属膜61上のパッシペーション膜54及びゲート絶縁膜53とをパターニングして、それぞれコンタクトホール55および端子部コンタクトホール62を開口する。・・・次に、スパッタにより厚さ40nm?100nmのITO等の透明導電膜を成膜、フォトリソ工程を通してパターンニングし、走査線端子15、信号線端子16、共通配線端子18の端子部金属膜61上に接続電極63と、共通配線13の端部上に共通配線結束線17(図示せず)と、信号線端子16の端子部金属膜61と信号線12とを接続するための接続電極(図示せず)とを形成する。・・・」

ウ 上記イから、「走査線端子15」は、「(液晶表示装置の透明絶縁性基板10a上に配設される複数の)走査線11の端部に」「設けられ」、「アドレス信号を入力する」ものであって、「厚さ0.5mmの無アルカリガラスからなる透明絶縁性基板10a上に、スパッタにより厚さ100nm?300nmのCr等の金属膜を成膜し、公知のフォトリソグラフィー技術及びエッチング技術を用いて」「端子部金属膜61を形成」し、「なお、配線材料としては、Crに限らず、MoやAlもしくはAl合金上にCr、Mo、チタン(Ti)等のバリアメタルを形成した積層構造の配線膜」であってもよく、「次に、プラズマCVDにより厚さ300nm?500nmの窒化シリコン(SiN_(x))からなるゲート絶縁膜53を成膜し」、「次に、プラズマCVDにより厚さ100nm?300nmの窒化シリコンを成膜してパッシベーション膜54を形成し」、「端子部金属膜61上のパッシペーション膜54及びゲート絶縁膜53とをパターニングして」「端子部コンタクトホール62を開口」し、「次に、スパッタにより厚さ40nm?100nmのITO等の透明導電膜を成膜、フォトリソ工程を通してパターンニングし」、「端子部金属膜61上に接続電極63」「を形成」して製造されるものである、といえる。

よって、これらの記載を総合すると、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「液晶表示装置の透明絶縁性基板10a上に配設される複数の走査線11の端部に設けられ、アドレス信号を入力する走査線端子15であって、
厚さ0.5mmの無アルカリガラスからなる透明絶縁性基板10a上に、スパッタにより厚さ100nm?300nmのCr等の金属膜を成膜し、公知のフォトリソグラフィー技術及びエッチング技術を用いて端子部金属膜61を形成し、なお、配線材料としては、Crに限らず、MoやAlもしくはAl合金上にCr、Mo、チタン(Ti)等のバリアメタルを形成した積層構造の配線膜であってもよく、次に、プラズマCVDにより厚さ300nm?500nmの窒化シリコン(SiN_(x))からなるゲート絶縁膜53を成膜し、次に、プラズマCVDにより厚さ100nm?300nmの窒化シリコンを成膜してパッシベーション膜54を形成し、端子部金属膜61上のパッシペーション膜54及びゲート絶縁膜53とをパターニングして端子部コンタクトホール62を開口し、次に、スパッタにより厚さ40nm?100nmのITO等の透明導電膜を成膜、フォトリソ工程を通してパターンニングし、端子部金属膜61上に接続電極63を形成して製造される、走査線端子15。」

(3)対比
本願発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「端子部金属膜61」は、「複数の走査線11の端部に設けられ」たものであるといえるから、引用発明の「透明絶縁性基板10a」、「複数の走査線11」及び「(複数の走査線11の端部に設けられた)端子部金属膜61」は、それぞれ、本願発明の「アレイ基板」、「複数形成された信号配線」及び「(複数形成された信号配線の一端に所定面積で形成された)パッド下部電極」に相当する。

イ 引用発明の「『(プラズマCVDにより厚さ300nm?500nmに成膜された窒化シリコン(SiN_(x))からなる)ゲート絶縁膜53』及び『(プラズマCVDにより厚さ100nm?300nmに形成された窒化シリコンからなる)パッシベーション膜54)』」は、本願発明の「前記パッド下部電極の上部に形成された絶縁層」に相当する。

ウ 引用発明の「(端子部金属膜61上のパッシペーション膜54及びゲート絶縁膜53とをパターニングして開口した)端子部コンタクトホール62」は、該パターニングをエッチングにより行うことは明らかであるから、本願発明の「(前記絶縁層の所定領域をエッチングして前記パッド下部電極を露出させることにより形成された)コンタクトホール」に相当する。

エ 引用発明の「(スパッタにより厚さ40nm?100nmのITO等の透明導電膜を成膜、フォトリソ工程を通してパターンニングし、端子部金属膜61上に形成される)接続電極63」は、本願発明の「(前記コンタクトホール上に形成されて前記パッド下部電極と接触する)パッド端子電極」に相当する。

オ 引用発明の「端子部金属膜61」は、「Crに限らず、・・・Al合金上に・・・Mo・・・のバリアメタルを形成した積層構造の配線膜であってもよ」いから、引用発明は、本願発明の「前記パッド下部電極は、アルミニウム合金層とモリブデン層との二重層構造であって」との事項を備える。

カ 引用発明の「接続電極63」は、「(端子部金属膜61の)Mo」と接触するといえるから、引用発明は、本願発明の「前記パッド端子電極は、前記下部電極を構成する前記モリブデン層と接触する」との事項を備える。

キ 引用発明の「走査線端子15」は、本願発明の「液晶表示装置のパッド構造」に相当する。

したがって、両者は、
「アレイ基板上に複数形成された信号配線の一端に所定面積で形成されたパッド下部電極と、
前記パッド下部電極の上部に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の所定領域をエッチングして前記パッド下部電極を露出させることにより形成されたコンタクトホールと、
前記コンタクトホール上に形成されて前記パッド下部電極と接触するパッド端子電極と
が含まれて構成され、
前記パッド下部電極は、アルミニウム合金層とモリブデン層との二重層構造であって、
前記パッド端子電極は、前記下部電極を構成する前記モリブデン層と接触する
液晶表示装置のパッド構造。」
である点で一致し、以下の点において相違する。

相違点
本願発明は、コンタクトホールの形成時にオーバーエッチングが発生した場合にも、モリブデン層全体がエッチングされることを防止するために、前記モリブデン層の厚さが少なくとも前記モリブデン層の下部に形成されるアルミニウム合金層の厚さの1/4より大きく形成されるのに対し、引用発明は、モリブデン層の厚さをアルミニウム合金層の厚さの1/4より大きく形成するのか否か明らかでない点。

(4)判断
上記相違点につき検討する。
引用発明の「走査線端子15」は、「端子部金属膜61」として、「Al合金上に・・・Mo・・・のバリアメタルを形成した積層構造の配線膜」を用い、「パッシペーション膜54及びゲート絶縁膜53とをパターニングして」「開口」した「端子部コンタクトホール62」に「ITO等の透明導電膜を成膜、フォトリソ工程を通してパターンニングし、端子部金属膜61上に接続電極63を形成して製造される」ものであるところ、アルミニウム(合金)とITOとを直接接触させると高抵抗化しやすい等の問題があるため、アルミニウム(合金)層とITO層との間にモリブデンの層を設けることは本願の優先日時点で広く知られていた技術であることを踏まえると(必要なら、特開昭61-13227号公報(第1頁右下欄第8行?第2頁右上欄第12行)、特開平3-246524号公報(第2頁左上欄第1?4行、同頁左下欄第4?8行)、特開2001-166336号公報(【0003】?【0006】)、特開2003-89864号公報(【0006】)、特開2003-66489号公報(【0005】)参照。)、引用発明の「Moのバリアメタル」は、Al合金とITOとが直接接触するのを防ぐために設けられたものであることは明らかである。しかるところ、「端子部金属膜61上のパッシペーション膜54及びゲート絶縁膜53とをパターニングして端子部コンタクトホール62を開口」する引用発明において、当該「端子部コンタクトホール62」を開口する際に、オーバーエッチングにより「Moのバリアメタル」の層全体がエッチングされないようにすることは当業者が当然考慮すべき事項であるから、前記「Moのバリアメタル」の層全体がエッチングされることを防止するために当該「Moのバリアメタル」の層の厚さを「Al合金」の層の厚さより相対的に大きく形成し、その結果、「Moのバリアメタル」の層の厚さが、少なくとも前記「Moのバリアメタル」の下部に形成される「Al合金」層の厚さの1/4より大きくなるように形成して、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものである。

(5)小括
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上、3及び4のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載されたものであるといえず、また、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
 
審理終結日 2011-06-08 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-05 
出願番号 特願2005-154614(P2005-154614)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G02F)
P 1 8・ 121- Z (G02F)
P 1 8・ 572- Z (G02F)
P 1 8・ 573- Z (G02F)
P 1 8・ 571- Z (G02F)
P 1 8・ 574- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 奥田 雄介  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 松川 直樹
服部 秀男
発明の名称 液晶表示装置のパッド構造及び液晶表示装置のパッド製造方法  
代理人 上田 俊一  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 古川 秀利  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  

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