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審決分類 |
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1247203 |
審判番号 | 不服2010-23874 |
総通号数 | 145 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-22 |
確定日 | 2011-11-14 |
事件の表示 | 特願2005-322919「臓器および組織の治療のための薬剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月30日出願公開、特開2006- 83183〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、1993年4月2日(パリ条約による優先権主張 1992年4月7日,米国)を国際出願日とする出願である特願平5-517575号の一部を平成12年1月6日に新たな特許出願とした特願2000-000649号の一部を、さらに平成17年11月7日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1?8に係る発明は、平成22年6月4日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項によって特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。 「【請求項1】 B細胞に特異的なマーカーに結合する抗体または抗体フラグメントを含んでなる組成物であって、前記抗体または抗体フラグメントが、コンジュゲートされていないものであり、前記抗体または抗体フラグメントが、前記B細胞上のマーカーに特異的に結合するものであり、標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を治療するために標的非悪性B細胞を切除するための医薬として用いられる組成物。」 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、本願明細書の記載が特許法第36条第4項(理由2)、同条第5項1号及び第6項(理由3)に規定する満たしていないというものであって、その根拠として次のように指摘している。 「出願時の本願明細書には、本願請求項で特定されるコンジュゲートされていない抗体及び抗体フラグメントを用い、標的非悪性B細胞の切除・除去及び標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を治療でき、また、脾臓細胞切除による免疫疾患にある正常脾臓細胞の治療ができたことを具体的に確認した薬理試験などの試験結果やそれと同視し得る程度の記載はなく、また、B細胞に特異的なマーカーに結合する抗体または抗体フラグメントであればどのようなものであっても、標的非悪性B細胞の切除・除去できるものであることや、標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患であればどのようなものであっても治療でき、また、脾臓細胞切除による免疫疾患にある正常脾臓細胞の治療ができるものであることを確認した試験結果やそれと同視し得る程度の記載はなく、裏付けを欠く。」 3.当審の判断 3-1.特許法第36条第4項(実施可能要件)について (1)特許法第36条第4項に規定する要件と医薬発明の記載要件について 特許法第36条第4項は、「発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」と規定する。 すなわち、明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できないとき(例えば、どのように実施するかを発見するために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)のみならず、明細書及び図面の記載に基づいて、当業者が発明の技術上の意義を理解することができないときもまた、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないということになる。 医薬発明は、ある物の未知の属性の発見に基づき、当該物の新たな医薬用途を提供しようとする「物の発明」である。 ここで、医薬発明における、当業者が「発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」とは、その発明が、医薬としての有用性があることの確認に他ならず、医薬発明の場合には、その有効成分である化合物が、実際にその医薬用途において有用であることが確認できなければ、新たな医薬を提供しようという課題が解決できることが理解できないから、その発明において、有用な発明が提供されたという技術的な意義を理解することができないことになる。 そして、発明の詳細な説明に医薬の調整方法や投与方法が記載されている場合であっても、それだけでは当業者は当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから、発明の詳細な説明に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をして、その用途における有用性が裏付けられていない場合には、当該化合物等が実際に医薬用途に使用し得るかどうかについて、当業者が予測することは困難であって、当業者が当該発明を実施できる程度に記載されているとはいえない。 本願発明は、「B細胞に特異的なマーカーに結合する抗体または抗体フラグメントであって、前記抗体または抗体フラグメントが、コンジュゲートされていないものであり、前記抗体または抗体フラグメントが、前記B細胞上のマーカーに特異的に結合するものである抗体又は抗体フラグメント」(以下、「B細胞特異的抗体」という。)を標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を治療するために、標的非悪性B細胞を切除するための医薬として利用する医薬についての用途発明(「以下、「医薬発明」という。)であるから、本願明細書に、B細胞特異的抗体が、医薬の用途に適するものであることが当業者に理解できるように記載されている必要がある。 以下、上記のような事情を踏まえて本願明細書の記載を検討する。 (2)本願明細書の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には、B細胞特異的抗体が、標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を治療するために標的非悪性B細胞を切除するための医薬として有用であることを裏付ける薬理データといえるものは、何ら記載されていない。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明に、薬理データと同視すべき程度の記載がなされ、その用途における有用性が裏付けられているか否か問題となる。 本願明細書には、B細胞特異的抗体の製法及び薬理活性に関連する以下の記載がある。なお、下線は当審において付したものである。 (a)「【0028】 さらに、非悪性の細胞または組織に関連するかまたはそれによって生産されるマーカーに特異的であり、かつ、細胞毒性薬剤と複合した抗体またはフラグメントは、該薬剤による治療を受ける患者の非悪性細胞または組織を切除する方法で用いられる薬剤を調製するために用い得る。」(段落【0028】) (b)「【0041】 上記の方法は、以下のような場合における造影および/または、適切な場合には治療に有用である。 (1)・・・ ・・・ (5)免疫疾患またはリンパ腫患者の脾臓、骨髄移植が必要な患者の骨髄、または特定の免疫疾患におけるある種のT-リンパ球のような病態プロセスに関与している正常細胞等の、他の治療目的のためのある種の正常臓器または組織の切除。」(段落【0041】) (c)「【0046】 このような毒性物質と結合させた臓器および組織を標的とする抗体の別の治療応用例は、別の治療法の一部として、特定の正常細胞および組織を切除するというものである。例えば、・・・、リンパ腫または免疫性血小板減少症性紫斑病のような特定の免疫疾患の患者において脾臓を細胞毒性作用により切除する場合等がある。」(段落【0046】) (d)「【0047】 ・・・既存の抗体が不適当と見なされる場合、あるいは別の、あるいはより識別力の高い特異性が必要な場合、臓器または組織に関連する、あるいは特異的な抗体を生産する幾つかの方法が、当業者に知られている。一般に、細胞全体、組織標本および/または細胞または組織の分画、細胞膜、抗原抽出物または精製抗原を使用して、マウス、ウサギ、ハムスター、ヤギ等の適切な動物の免疫機構を誘発し、必要な場合には凝集によって、および/または適切な従来のアジュバントを併用投与することによって、抗原に免疫原性を付与する。従来の手技により超免疫抗血清を分離し、ポリクローナル抗体を調製することができる。 【0048】 あるいは、現在では確立された方法によって、脾臓細胞を、不死の骨髄腫細胞と融合し、モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞を形成することができる。技術例としては、上記に引用された米国特許出願第609,607号を参照することができる。マウス、またはヒト骨髄腫細胞系等の動物と、動物またはヒトの脾臓またはリンパ球は全て本技術において公知であり、本方法のために作成し、使用することができる。例えば、“Monoclonal Antibodies and Cancer(モノクローナル抗体と癌)”Boss et al.,編、163-170 (Academic Press, 1983) の中の Glassy et al.,“Human Monoclonal Antibodies to Human Cancers (ヒト癌に対するヒトモノクローナル抗体)”を参照することができる。本技術において、現在ではやはり確立された方法となっている上記引用文献中の抗リンパ球クローンをスクリーニングするための方法により、特異的な抗血清またはモノクローナル抗体が、特異性に関してスクリーニングされる。」(段落【0047】?【0048】) (e)「【0049】 臓器に関連する抗体および臓器に特異的な抗体は、特定の哺乳動物の腫瘍または正常の臓器/組織の抽出物および/または細胞、並びに精製ホルモンレセプターまたは成長因子レセプターを用いて、適切な動物宿主を免疫感作することによって、作成できる。免疫原として腫瘍を使用すると、新生物だけでなく、時にある臓器に限定された性質を示す正常組織成分とも反応する抗体が生じることはよく知られている。身体の種々の組織および臓器間の組織発生と機能に差異があることから、別個の抗原が存在し、識別可能なことが当然示唆される。古典的な免疫感作方法を使用することによって、あるいは特異的な腫瘍によって免疫感作することによって、臓器に特異的な抗原が存在することを主張している多くの科学文献が既に存在している。このことは、GoldenbergらのCancer Res., 3455(1976)によって概説されており、このような抗原が公知であり、利用可能であることを示している。」(段落【0049】) (f)「【0050】 同様の臓器および組織に関連する特異的な抗原は、モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ法によって確認できる。最近の進歩の1つは、特定の臓器に限定された自己免疫疾患、例えば甲状腺炎、胃炎、潰瘍性大腸炎、筋炎等の患者からのリンパ球またはプラズマ細胞を安定培養することによるヒトハイブリドーマモノクローナル抗体の生産である。公知の方法を用いて、これらの抗体生産細胞は、インビトロ(in vitro)でヒトまたはネズミの骨髄腫細胞と融合され、適切な抗臓器および抗組織抗体を形成するハイブリドーマが生産され、増殖される。特定の腫瘍タイプの患者を、そのようなリンパ球またはプラズマ細胞の供給源として利用したり、あるいは抗臓器および抗組織抗体の生産を刺激するために、このような腫瘍細胞によりこのような患者を更に免疫感作することもできる。それから、本技術において現在では公知の確立された方法により、適切な骨髄腫細胞と融合するために摘出されたリンパ組織が利用される。」(段落【0050】) (g)「【0051】 細胞内抗原を得るために、遠心分離、音波破砕等によって細胞膜の分離または細胞破壊等の本技術において公知の多くの方法によって、臓器に関連し、臓器に特異的な抗原を、ヒトより下位の霊長類、齧歯類、ウサギ、ヤギ等の別の種の免疫感作のために分離することができる。このような目的には、表面または細胞外抗原に対して、細胞内抗原を使用するのが望ましい。この方法においては、臓器に関連し、臓器に特異的な抗原が、脳、甲状腺、上皮小体、喉頭、唾液腺、食道、気管、肺、心臓、肝臓、膵臓、胃、腸、腎臓、副腎、卵巣、精巣、子宮、前立腺等の身体の多くの組織および臓器から得ることができる。更に興味深いことは、本技術においては公知のポリクローナルおよび/またはハイブリドーマモノクローナル抗体生産法によって行われているような、腎臓の糸球体部分と尿細管部分、脳の異なる領域と異なる細胞タイプ、膵臓の内分泌部および外分泌部等の1つの臓器中における異なる組織および細胞成分の、特に問題となっている個々の細胞および組織に限定される抗原と抗原決定基同定による区別である。」(段落【0051】) (h)「【0052】 生検時に(at autopsy)得られた組織から分離された細胞を用いて、抗体を生産することができる。例えば、臓器または組織に対する特異抗体の誘発に必要な一定期間、このような組織によりマウスを免疫感作することが可能である。これらのマウスの脾臓を切除し、次に標準的方法によりネズミの骨髄腫細胞系と融合させる。本技術においては既に標準的な方法を用いて、モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを選択し、増殖させ、臓器または組織に関連する抗体生産性を有するハイブリドーマを臓器または組織の抗体源としてクローン化し、拡大する。」(段落【0052】) (i)「【0054】 望ましいのは、標識される前、あるいは結合される前に、標的となる細胞、組織または臓器に対する特異的な免疫反応性を少なくとも60%は有し、他の抗原に対する交差反応性が35%以下のものである。 【0055】 具体的な例には、骨髄細胞、特に造血幹細胞、膵臓島細胞、脾臓細胞、上皮小体細胞、子宮内膜、卵巣細胞、精巣細胞、胸腺細胞、B細胞、T細胞、ヌル細胞、血管内皮細胞、胆管細胞、胆嚢細胞、前立腺細胞、FSH、LH、TSH等のホルモンレセプター、上皮成長因子、膀胱細胞、精管等の成長因子レセプターが含まれる。」(段落【0054】?【0055】) (j)「【0057】 脾臓を標的とする抗体には、Pawlak-Byczkowska, Cancer Research, 49:4568-4577 (1989) において開示されているLL2(EPB-2としても知られる)モノクローナル抗体が含まれる。これは、正常および悪性B細胞を標的とし、免疫疾患、リンパ腫、その他の疾患を有する患者において正常脾臓細胞の治療に使用され得る。子宮内膜に特異的な抗体は、適切な診断または治療剤をそれぞれ結合させれば、子宮内膜症を標的とし、治療するのに望ましい。」(段落【0057】) (k)「【実施例4】 【0100】 子宮内膜症の治療女性は子宮内膜症と診断され、治療のために婦人科医に紹介された。子宮内膜組織に関連するモノクローナル抗体IgGおよびFSHレセプターに対するモノクローナル抗体IgGをクロラミン-T法によりI-131で10mCi/mgの比放射能で標識し、この組み合わせを静注し、100mCiの線量のI-131を投与する。翌月の間を通して、末梢血液細胞を監視後、6週間後に治療を繰り返す。更に6週間後、患者は症状の完全緩寛を示した。」(【実施例4】) (l)「【0101】 前記実施例は、前記実施例に使用されている物質の代わりに、包括的あるいは具体的に記述されている本発明の反応物および/または操作条件を使用することによって、繰り返すことができ、同様に成功し得るものである。本発明は公知の抗体またはマーカーの使用に限定されるものではなく、臓器または組織によって生産される、あるいはそれらに関連する全てのマーカーに対する抗体を用いて実施できるものである。 【0102】 前記説明より、本技術に精通する者は、本発明の意図と範囲を逸脱することなく本発明の本質的な特徴を容易に確認でき、また種々の利用法と条件に適合させるために本発明に種々の変更と改変を加えることができる。」(段落【0101】?【0102】) (3)検討 本願明細書の発明の詳細な説明には、(a),(c)において、非悪性の細胞のマーカーに特異的な抗体は、細胞毒性剤と結合させて治療に応用することが記載され、その具体例として、(j)には、子宮内膜に特異的な抗体は、適切な診断または治療剤をそれぞれ結合させれば、子宮内膜症を標的とし、治療するのに望ましいことが、(k)には、実施例4として、抗体をI-131で標識して投与したことが記載される。 これらの記載から、本願発明のB細胞特異的抗体を含む、標的細胞に特異的なマーカーに結合する抗体または抗体フラグメントは、細胞毒性剤等の薬剤と結合して用いることにより、その治療効果を奏し得るものと認められるものである。 また、本願出願日当時に、細胞毒性剤等の薬剤と結合されていない抗体、すなわち、コンジュゲートされていないB細胞特異的抗体等の抗体が、標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患等の疾患を治療する効果を奏するとの技術常識があったものとも認められない。 そうしてみると、発明の詳細な説明に、(b)において、【発明の開示】に記載した方法を引用し「上記の方法は、以下のような場合における造影および/または、適切な場合には治療に有用である。」として、免疫疾患等の患者の脾臓、特定の免疫疾患におけるある種のT-リンパ球のような病態プロセスに関与している正常細胞等の、他の治療目的のためのある種の正常臓器または組織の切除を例示し、(j)において、LL2モノクローナル抗体が、正常および悪性B細胞を標的とし、免疫疾患等の疾患を有する患者において正常脾臓細胞の治療に使用され得ることが記載されているとしても、コンジュゲートされていないLL2モノクローナル抗体等のB細胞特異的抗体が、標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を治療するために標的非悪性B細胞を切除するための医薬として有用であること、さらに、B細胞に特異的なマーカーに結合する抗体または抗体フラグメントであればどのようなものであっても、標的非悪性B細胞の切除・除去できるものであることや、標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患であればどのようなものであっても治療でき、脾臓細胞切除による免疫疾患にある正常脾臓細胞の治療ができるものであることを、本願出願日又は優先日当時に知られていた事項に基づいて、論理的に導き出せることを説明した記載はなく、また、本願出願日又は優先日の時点において、そのような技術常識が存在するものとも認められないことから、本願明細書の摘記事項(b),(j)等の記載から、コンジュゲートされていないLL2モノクローナル抗体等のB細胞特異的抗体が、標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を治療するために標的非悪性B細胞を切除するための医薬としての有用性を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載がなされているものと認めることはできない。 さらに、本願明細書の発明の詳細な説明には、摘記事項(d)?(h)に一般的な抗体の製造方法が記載されているが、このような方法によれば、多くのエピトープに対応して極めて多くの種類の抗体が得られることとなり、この中からB細胞上のマーカーに特異的に結合し、標的非悪性B細胞を切除する作用を有し、標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患の治療に応用可能な特定の組織特異的抗原をスクリーニングしなければならず、多くの試行錯誤を要することとなる。また、本願明細書には、B細胞に関しては、摘記事項(i)において、標的となる細胞の一つとして例示され、摘記事項(j)において、「脾臓を標的とする抗体には、Pawlak-Byczkowska, Cancer Research, 49:4568-4577 (1989) において開示されているLL2(EPB-2としても知られる)モノクローナル抗体が含まれる。これは、正常および悪性B細胞を標的とし、免疫疾患、リンパ腫、その他の疾患を有する患者において正常脾臓細胞の治療に使用され得る。」と記載されるにとどまり、標的非悪性B細胞を切除するために標的とするB細胞上のマーカーに特異的な抗原として具体的にどのような物質があり、それをどのようにして製造すべきかについての記載はないし、当業者が本願発明のB細胞特異的抗体を容易に入手できる手段が本願明細書に記載されているということはできない。 (4)まとめ 以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、B細胞特異的抗体の、標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を治療するために標的非悪性B細胞を切除するための医薬としての用途が形式的に述べられているのみであって、上記抗体が示す具体的な上記医薬用途における効果について何ら具体的な開示がないし、また、上記医薬用途に用いるB細胞特異的抗体を当業者が容易に製造乃至入手可能であるとも認められないから、本願発明の技術上の意義が理解できるように、発明の詳細な説明が記載されているとは到底いえない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明を当業者が容易に実施できる程度に記載されていないので、本願は、特許法第36条4項に規定する要件を満たしていない。 3-2.特許法第36条第5項第1号について (1)特許法第36条第5項第1号に規定する要件について 特許法第36条第5項第1号の規定によれば、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることとの要件に適合するものでなければならない。 特許制度は、発明を公開させることを前提に、当該発明に特許を付与して、一定期間その発明を業として独占的、排他的に実施することを保障し、もって、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして、ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は、本来、当該発明の技術内容を一般に開示するとともに、特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから、特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。 そして、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第5項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そのような観点に立って,以下本願について検討する。 (2)検討 上記3-1.(2)?(4)に記載したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、B細胞特異的抗体の、標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を治療するために標的非悪性B細胞を切除するための医薬としての有用性を裏付ける具体的な薬理試験結果は何ら記載されておらず、また、そのような薬理試験結果に代わる記載がなされているものとすることもできないし、上記医薬用途に用いるB細胞特異的抗体を当業者が容易に製造乃至入手可能であるとも認められないことから、B細胞特異的抗体が、実際に「標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を治療するための医薬」という医薬用途において有用であることが確認できないものであって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の新たな医薬を提供しようという課題が解決できることを当業者において認識できるように記載されていないものである。 (3)まとめ 以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超えた発明が記載されているものというほかはなく、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものとはいえず、特許法第36条第5項第1号に規定する要件に適合しないものである。 なお、請求人は、平成22年12月13日付けの審判請求書に対する手続補正書(方式)において、以下の点を主張している。 (i)本願明細書の段落【0041】並びに【0057】の記載から、当業者であれば、B細胞に特異的なマーカーに結合する抗体が標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を有する患者の治療において標的非悪性B細胞を切除ないし除去するために用いられることを理解できること。 (ii)参考資料1?5には、CD20抗体やCD22抗体のようなB細胞に特異的なマーカーに結合する抗体が標的非悪性B細胞を切除ないし除去することにより標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を治療できることが示されており、B細胞に特異的なマーカーに結合する抗体が標的非悪性B細胞に関連する免疫疾患を有する患者の治療において標的非悪性B細胞を切除ないし除去するために用いられることが本願の出願当初明細書に記載されていることと考え合わせると、本願発明は、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されており、かつ、本願明細書により十分裏付けられているというべきであること。 そこで、以下これらの主張について付言する。 (i)の主張について 上記3-1.(2)?(4)に記載したとおり、本願明細書の記載から、当業者であっても、B細胞特異的抗体が本願発明の医薬用途に使用できることを理解することはできない。 (ii)の主張について 発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に具体例を開示せず、出願日の時点の当業者の技術常識を参酌しても、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていない場合、また、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合において、特許出願後に実験デ-タを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、特許法第36条第4項に規定する要件に適合させること、また、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、特許法第36条第5項第1号に規定する要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきであるから、本願出願日から10年以上も後に発行された参考資料1?5に記載される薬理試験の結果は参酌することができないものである。 してみると、上記請求人の主張は、いずれも理由がない。 4.むすび 以上のとおり、本出願は、第36条第4項及び第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-06-17 |
結審通知日 | 2011-06-21 |
審決日 | 2011-07-04 |
出願番号 | 特願2005-322919(P2005-322919) |
審決分類 |
P
1
8・
534-
Z
(A61K)
P 1 8・ 531- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 横井 宏理 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
上條 のぶよ 内藤 伸一 |
発明の名称 | 臓器および組織の治療のための薬剤 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 横田 修孝 |
代理人 | 伊藤 武泰 |