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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1247461
審判番号 不服2008-9533  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-17 
確定日 2011-11-24 
事件の表示 特願2003-160159「乳酸系ポリエステル組成物およびその成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月24日出願公開、特開2004-359828〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年6月5日の出願であって、平成19年8月10日付けで拒絶理由が通知され、同年10月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年3月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月17日に拒絶査定不服審判が請求され、同年5月13日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、当審において、平成23年3月25日付けで拒絶理由が通知され、同年5月24日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月29日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年8月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.平成23年8月24日付けの手続補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年8月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成23年8月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第3号に掲げる場合の補正であって、平成23年5月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の

「【請求項1】
乳酸系ポリエステル組成物であって、
L乳酸に由来する乳酸単位またはD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルと、
前記乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22の化学構造式を有する乳酸系ポリエステル共重合とから構成され、
前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?50:50の範囲である、
乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項2】
乳酸系ポリエステル組成物であって、
L乳酸に由来する乳酸単位およびD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルと、
前記乳酸系ポリエステルを構成する前記乳酸単位のうち主な乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22の化学構造式を有する乳酸系ポリエステル共重合とから構成され、
前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?50:50の範囲である、乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の乳酸系ポリエステル組成物において、
前記乳酸系ポリエステル共重合体における、前記乳酸単位および前記ポリエステル単位の組成比は、重量比で10:90?90:10の範囲である乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の乳酸系ポリエステル組成物において、
前記乳酸系ポリエステル共重合体は、重量平均分子量が10,000以上であると共に、ガラス転移温度が60℃以下である乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の乳酸系ポリエステル組成物において、
前記乳酸系ポリエステル共重合は、乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール共重合体である、乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の乳酸系ポリエステル組成物はさらに、
0.1?40重量部の無機粉末および0.1?10重量部のアミド系化合物が添加されて成る乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の乳酸系ポリエステル組成物を結晶化させてなる成形体。
【請求項8】
乳酸系ポリエステル組成物の製造方法であって、
L乳酸に由来する乳酸単位またはD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルを供給し、
前記乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22の化学構造式を有する乳酸系ポリエステル共重合を供給し、前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?50:50の範囲であり、
前記供給された乳酸系ポリエステル、前記乳酸系ポリエステル共重合体および結晶化促進剤とを混練する製造方法。
【請求項9】
乳酸系ポリエステル組成物の製造方法であって、
L乳酸に由来する乳酸単位およびD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルを供給し、
前記乳酸系ポリエステルを構成する前記乳酸単位のうち主な乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22の化学構造式を有する乳酸系ポリエステル共重合を供給し、前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?50:50の範囲であり、
前記供給された乳酸系ポリエステル、前記乳酸系ポリエステル共重合体および結晶化促進剤とを混練する製造方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の乳酸系ポリエステル組成物の製造方法において、
前記乳酸系ポリエステル共重合は、乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール共重合体である、乳酸系ポリエステル組成物の製造方法。」

を、

「【請求項1】
乳酸系ポリエステル組成物であって、
L乳酸に由来する乳酸単位またはD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルと、
前記乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール共重合体である乳酸系ポリエステル共重合体とから構成され、
前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?50:50の範囲である、
乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項2】
乳酸系ポリエステル組成物であって、
L乳酸に由来する乳酸単位およびD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルと、
前記乳酸系ポリエステルを構成する前記乳酸単位のうち主な乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール共重合体である乳酸系ポリエステル共重合体とから構成され、
前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?50:50の範囲である、乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の乳酸系ポリエステル組成物において、
前記乳酸系ポリエステル共重合体における、前記乳酸単位および前記ポリエステル単位の組成比は、重量比で10:90?90:10の範囲である乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の乳酸系ポリエステル組成物において、
前記乳酸系ポリエステル共重合体は、重量平均分子量が10,000以上であると共に、ガラス転移温度が60℃以下である乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の乳酸系ポリエステル組成物はさらに、
0.1?40重量部の無機粉末および0.1?10重量部のアミド系化合物が添加されて成る乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の乳酸系ポリエステル組成物を結晶化させてなる成形体。
【請求項7】
乳酸系ポリエステル組成物の製造方法であって、
L乳酸に由来する乳酸単位またはD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルを供給し、
前記乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール共重合体である乳酸系ポリエステル共重合体を供給し、前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?50:50の範囲であり、
前記供給された乳酸系ポリエステル、前記乳酸系ポリエステル共重合体および結晶化促進剤とを混練する製造方法。
【請求項8】
乳酸系ポリエステル組成物の製造方法であって、
L乳酸に由来する乳酸単位およびD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルを供給し、
前記乳酸系ポリエステルを構成する前記乳酸単位のうち主な乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール共重合体である乳酸系ポリエステル共重合体を供給し、前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?50:50の範囲であり、
前記供給された乳酸系ポリエステル、前記乳酸系ポリエステル共重合体および結晶化促進剤とを混練する製造方法。」
と補正するものである。

上記本件補正のうち、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1を補正前の請求項5に規定する事項に限定した発明であって、乳酸系ポリエステル共重合体に関して、「乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール共重合体」と特定する補正(以後、「化学構造特定事項」という。)を含むものである。

2.補正の適否の判断
上記化学構造特定事項を含む本件補正が、本願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるかどうかについて検討する。

(1)当初明細書等の記載事項
当初明細書等には、以下の記載がある。

ア.「【請求項1】
乳酸系ポリエステル組成物であって、
L乳酸に由来する乳酸単位またはD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルと、
前記乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体とから構成される乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項2】
乳酸系ポリエステル組成物であって、
L乳酸に由来する乳酸単位およびD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルと、
前記乳酸系ポリエステルを構成する前記乳酸単位のうち主な乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体とから構成される乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の乳酸系ポリエステル組成物において、
前記乳酸系ポリエステル共重合体における、前記乳酸単位および前記ポリエステル単位の組成比は、重量比で10:90?90:10の範囲である乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の乳酸系ポリエステル組成物において、
前記乳酸系ポリエステル共重合体は、重量平均分子量が10,000以上であると共に、ガラス転移温度が60℃以下である乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の乳酸系ポリエステル組成物において、
前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で99:1?50:50の範囲である乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項6】
請求項5記載の乳酸系ポリエステル組成物において、
前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で95:5?70:30の範囲である乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項7】
請求項6記載の乳酸系ポリエステル組成物において、
前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?80:20の範囲である乳酸系ポリエステル組成物。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の乳酸系ポリエステル組成物を結晶化させてなる成形体。
【請求項10】
乳酸系ポリエステル組成物の製造方法であって、
L乳酸に由来する乳酸単位またはD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルを供給し、
前記乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体を供給し、
前記供給された乳酸系ポリエステル、前記乳酸系ポリエステル共重合体および結晶化促進剤とを混練する製造方法。
【請求項11】
乳酸系ポリエステル組成物の製造方法であって、
L乳酸に由来する乳酸単位およびD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルを供給し、
前記乳酸系ポリエステルを構成する前記乳酸単位のうち主な乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体を供給し、
前記供給された乳酸系ポリエステル、前記乳酸系ポリエステル共重合体および結晶化促進剤とを混練する製造方法。」(特許請求の範囲)

イ.「本発明において用いられる乳酸系ポリエステル共重合体は、乳酸系ポリエステルの主成分である乳酸、あるいは乳酸系ポリエステルの主成分である2種の乳酸のうち主な乳酸とは光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸モノマーとポリエステルモノマーとで構成されているポリマーである。すなわち、乳酸系ポリエステルがL乳酸モノマーを主成分とする場合にはD乳酸モノマーが、乳酸系ポリエステルがD乳酸モノマーを主成分とする場合にはL乳酸モノマーが、乳酸系ポリエステルがD乳酸モノマーおよびL乳酸モノマーを主成分とする場合には、いずれか重量比の大きい乳酸モノマーに対して光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸モノマーが用いられる。
乳酸系ポリエステル共重合体における乳酸モノマーとポリエステルモノマーの組成比は、重量比で10:90?90:10の範囲であることが好ましい。また、乳酸系ポリエステル共重合体は、その重量平均分子量が10,000以上であると共に、ガラス転移温度が60℃以下であることが好ましい。
乳酸モノマー成分としては、乳酸、乳酸2分子が環状2量化したラクタイドが用いられ得る。
ポリエステルモノマー成分としては、ジカルボン酸およびジオールをエステル反応させて得られたものが用いられる。
ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸;ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、フマル酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などが用いられ得る。なお、これらのジカルボン酸は2種類以上併用して用いることもできる。
ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1、3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3,3-ジエチル-1,3-プロパンジオール、3,3-ジブチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、n-ブトキシエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ダイマージオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、キシリレングリコール、フェニルエチレングリコールなどの炭素原子数2?45の脂肪族ジオールが挙げられる。これらのジオールは、2種類以上併用して使用することもできる。」(段落 【0024】?【0029】)

ウ.「【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1:
二軸押出機を用い、予め予備乾燥したポリ乳酸(乳酸系ポリエステル)としてPDLA(purasorb D、ピューラック製)90重量部に、乳酸系ポリエステル共重合体としてPLLA(Plamate PD-150、大日本インキ製)10重量部、タルク(Micro Ace P6、粒径4ミクロン、日本タルク製)1重量部、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド(スリパックスH、日本化成製)1重量部を加えて所定温度にて混練し、本発明の乳酸系ポリエステル組成物ペレットを得た。得られたペレットを乾燥し、絶乾状態にした後、金型温度110℃、冷却時間120秒にて射出成形し、各種試験片としての成形品を得た。
比較例1:
ポリ乳酸として、PDLA(purasorb D、ピューラック製)の代わりに、PLLA(#5000、トヨタ自動車製)を用いた以外は実施例1と同様にして、各種試験片としての成形品を得た。
実施例1の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性と比較例1の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性は表1に示すとおりである。実施例1の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は15.6(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は111.3℃であった。一方、比較例1の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は8.9(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は100.8℃であった。表1に示す機械特性の試験結果が示すように、実施例1の乳酸系ポリエステル組成物の耐衝撃性は、比較例1に対して約2倍向上し、耐熱性についても比較例1に対して向上している。なお、表2に示すように、実施例1および比較例1の双方において成型時には変形は見られなかった。
【表1】

【表2】

実施例2:
二軸押出機を用い、予め予備乾燥したポリ乳酸(乳酸系ポリエステル)としてPDLA(purasorb D、ピューラック製)80重量部に、乳酸系ポリエステル共重合体としてPLLA(Plamate PD-150、大日本インキ製)20重量部、タルク(Micro Ace P6、粒径4ミクロン、日本タルク製)1重量部、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド(スリパックスH、日本化成製)1重量部を加えて所定温度にて混練し、本発明の乳酸系ポリエステル組成物ペレットを得た。得られたペレットを乾燥し、絶乾状態にした後、金型温度110℃、冷却時間120秒にて射出成形し、各種試験片としての成形品を得た。
比較例2:
ポリ乳酸として、PDLA(purasorb D、ピューラック製)の代わりに、PLLA(#5000、トヨタ自動車製)を用いた以外は実施例2と同様にして、各種試験片としての成形品を得た。
実施例2の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性と比較例2の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性は表1に示すとおりである。実施例2の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は32.8(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は90.2℃であった。一方、比較例2の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は25.9(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は79.4℃であった。表2に示す機械特性の試験結果が示すように、実施例2の乳酸系ポリエステル組成物の耐衝撃性、耐熱性は、共に比較例1に対して向上している。なお、表2に示すように、実施例2および比較例2の双方において成型時には変形は見られなかった。
実施例3:
二軸押出機を用い、予め予備乾燥したポリ乳酸(乳酸系ポリエステル)としてPDLA(purasorb D、ピューラック製)90重量部に、乳酸系ポリエステル共重合体としてPLLA(Plamate PD-150、大日本インキ製)10重量部を加えて所定温度にて混練し、本発明の乳酸系ポリエステル組成物ペレットを得た。得られたペレットを乾燥し、絶乾状態にした後、金型温度40℃、冷却時間30秒にて射出成形し、各種試験片としての成形品を得た。得られた試験片に対して、送風乾燥機中にて100℃で、2時間アニール処理を施した。
比較例3:
ポリ乳酸として、PDLA(purasorb D、ピューラック製)の代わりに、PLLA(#5000、トヨタ自動車製)を用いた以外は実施例1と同様にして、各種試験片としての成形品を得て、アニール処理を行った。
実施例3の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性と比較例3の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性は表3に示すとおりである。実施例1の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は16.5(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は122.8℃であった。一方、比較例3の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は9.2(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は119.2℃であった。表3に示す機械特性の試験結果が示すように、低温射出後にアニール処理を施した場合であっても、実施例3の乳酸系ポリエステル組成物に耐衝撃性は、比較例3に対して約2倍向上し、耐熱性についても比較例3に対して向上している。また表2に示すように、実施例3では、成型時およびアニール処理時において若干の変形が見られた(変形小)に止まったのに対して、比較例3では、成型時およびアニール処理時において成形不可能な程の大きな変形(変形大)が見られた。
【表3】

比較例4:
二軸押出機を用い、PLLA(#5000、トヨタ自動車製)50重量部に、PDLA(purasorb D、ピューラック製)50重量部、タルク(Micro Ace P6、粒径4ミクロン、日本タルク製)1重量部、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド(スリパックスH、日本化成製)1重量部を加えて所定温度にて混練し、乳酸系ポリエステル組成物ペレットを得た。得られたペレットを乾燥し、絶乾状態にした後、金型温度110℃、冷却時間120秒にて射出成形し、各種試験片としての成形品を得た。
比較例4の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性は表4に示すとおりである。比較例4の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は9.1(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は131.0℃であった。比較例4が示すように、非共重合体の乳酸系ポリエステル(PLLAおよびPDLA)を混練して得られた乳酸系ポリエステル組成物は、耐熱性には優れるものの、耐衝撃性に劣る。
【表4】

実施例5:
二軸押出機を用い、予め予備乾燥したポリ乳酸(乳酸系ポリエステル)としてPDLA(purasorb D、ピューラック製)70重量部に、乳酸系ポリエステル共重合体としてPLLA(Plamate PD-150、大日本インキ製)30重量部、タルク(Micro Ace P6、粒径4ミクロン、日本タルク製)1重量部、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド(スリパックスH、日本化成製)1重量部を加えて所定温度にて混練し、本発明の乳酸系ポリエステル組成物ペレットを得た。得られたペレットを乾燥し、絶乾状態にした後、金型温度110℃、冷却時間120秒にて射出成形し、各種試験片としての成形品を得た。
比較例5:
ポリ乳酸として、PDLA(purasorb D、ピューラック製)の代わりに、PLLA(#5000、トヨタ自動車製)を用い、タルク並びにアミド系化合物を添加しなかった点を除いて実施例5と同様にして、各種試験片としての成形品を得た。
実施例5の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性と比較例5の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性は表4に示すとおりである。実施例5の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は40.7(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は84.3℃であった。一方、比較例5の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は30.7(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は80.2℃であった。表4に示す機械特性の試験結果が示すように、タルク、アミド系化合物といった添加剤を添加することによって、実施例5の乳酸系ポリエステル組成物の耐衝撃性および耐熱性は、共にタルク、アミド系化合物といった添加剤が添加されていない比較例5の耐衝撃性および耐熱性に対して向上している。
実施例6:
二軸押出機を用い、予め予備乾燥したポリ乳酸(乳酸系ポリエステル)としてPDLA(purasorb D、ピューラック製)50重量部に、乳酸系ポリエステル共重合体としてPLLA(Plamate PD-150、大日本インキ製)50重量部、タルク(Micro Ace P6、粒径4ミクロン、日本タルク製)1重量部、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド(スリパックスH、日本化成製)1重量部を加えて所定温度にて混練し、本発明の乳酸系ポリエステル組成物ペレットを得た。得られたペレットを乾燥し、絶乾状態にした後、金型温度110℃、冷却時間120秒にて射出成形し、各種試験片としての成形品を得た。
比較例6:
ポリ乳酸として、PDLA(purasorb D、ピューラック製)の代わりに、PLLA(#5000、トヨタ自動車製)を用い、タルク並びにアミド系化合物を添加しなかった点を除いて実施例6と同様にして、各種試験片としての成形品を得た。
実施例6の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性と比較例6の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品の機械特性は表4に示すとおりである。実施例6の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は60.3(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は78.2℃であった。一方、比較例6の乳酸系ポリエステル組成物ペレットから得られた成形品のIZOD衝撃強度は46.2(kJ/m^(2))であり、0.45MPaの作用応力下における熱変形温度は68.3℃であった。表4に示す機械特性の試験結果が示すように、タルク、アミド系化合物といった添加剤を添加することによって、実施例6の乳酸系ポリエステル組成物の耐衝撃性および耐熱性は、共にタルク、アミド系化合物といった添加剤が添加されていない比較例6の耐衝撃性および耐熱性に対して向上している。」
(段落 【0045】?【0066】)

(2)当初明細書等の記載の検討
当初明細書等においては、乳酸系ポリエステル共重合体に関しての一般的な記載として、上記摘示事項イに「ポリエステルモノマー成分としては、ジカルボン酸およびジオールをエステル反応させて得られたものが用いられる。ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、・・・セバシン酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸;ダイマー酸等の脂肪族カルボン酸、フマル酸等の不飽和脂肪族カルボン酸・・・ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1、3-プロパンジオール・・・プロピレングリコール・・・」と記載されている。
当該記載においては、乳酸系ポリエステル共重合体に利用されるポリエステルモノマー成分であるジカルボン酸成分の多数の例示の一つとして「セバシン酸」が、同じくジオール成分の多数の例示の一つとして「プロピレングリコール」(化学構造特定事項における「1,2プロパンジオール」に相当)が記載されているが、それぞれの多数の選択肢からいずれを選択するかについての指針や考え方は示されておらず、好ましい選択肢についての記載もない。
また、当初明細書等の上記摘示事項ウには、実施例及び比較例において実際に利用されている乳酸系ポリエステル共重合体として「PLLA(Plamate PD-150、大日本インキ製)」が用いられているが、当該PD-150について、具体的にどのような化学構造をとっているものであるかの記載はない。

(3)化学構造特定事項の検討
当初明細書等においては、化学構造特定事項について、上記(2)において検討したとおり、ポリエステルモノマー成分として多数の例示された中の特定の一つの組み合わせとして記載されているのみである。
そして、実施例に利用されている「PD-150」が、「乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール共重合体」であることを示す当初明細書中の記載はなく、審判請求人が提示した特開2010-163203号公報の明細書段落【0127】の記載を確認しても、当該公報が、本願出願時に存在していない文献であること、「PD-150」という商品の普遍性は担保されていないことから、本願出願時におけるその発明における技術分野において通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)の技術常識として、「PD-150」が、ただちに「乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール」を意味するものとは認められない。
一般に、ポリマー等の化学物質においては、モノマー成分が異なれば、別の化学物質であり、その性質や活性も異なるのが通常であるのだから、実施例として記載がない、モノマー成分として例示されている多数の選択肢から組み合わわれることで構成されるポリマーについては、当該記載のみをもっては、当該明細書に記載されているとすることはできないものである。
そうすると、本願の当初明細書等には、多数の組み合わせの中から特定の一つの組み合わせを選択したものである乳酸系ポリエステル共重合体が「乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール」であるものについて、いずれの箇所にも記載されておらず、また、当初明細書等の記載から自明な事項ということもできない。

なお、補正された事項が、「当初明細書等の記載から自明な事項」といえるためには、当初明細書等に記載がなくても、これに接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、その意味であることが明らかであって、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項でなければならない。
そして、そこで現実に記載されたものから自明な事項であるというためには、現実には記載がなくとも、現実に記載されたものに接した当業者であれば、だれもが、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項であるといえなければならず、その事項について説明を受ければ簡単に分かる、という程度のものでは、自明ということはできない(東京高判平成14年(行ケ)第3号)ところ、上記において検討したように、当初明細書等の記載からは、化学構造特定事項が当初明細書等の記載から自明な事項ということはできない。

してみると、化学構造特定事項を含む本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえるから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

3.審判請求人の主張について
本件補正の適法性に関して、審判請求人は、平成23年8月24日提出の意見書において、

「上記拒絶理由通知書によれば、「PD-150」と「乳酸-セパシン酸-1,2プロパンジオール共重合体」との同一性の観点、すなわち、特許法第36条第6項第1号の判断基準に基づいてから補正の適法性が判断されているが、特許法第17条の2第3項の適用の有無は、手続補正書における補正が、出願時明細書、出願時特許請求の範囲および出願時図面の記載から、当業者をして自明な範囲であるか否かの観点から判断されるべきである。
本願出願時明細書の段落0024?0029には、本願発明において用いられ得る乳酸系ポリエステル共重合体について記載されており、乳酸モノマー成分として乳酸が、ポリエステルモノマー成分としてジカルボン酸およびジオールをエステル反応させて得たものが用いられる旨、記載されている。そして、ジカルボン酸としてはセバシン酸が、ジオールとしてはプロピレンジオール、すなわち、1,2プロパンジオールが用いられ得ることが開示されている。
したがって、平成23年5月24日提出の手続補正書による補正前請求項5および10の補正は、出願当時明細書、特許請求の範囲、および図面の記載から当業者をして自明な範囲内にて行われた補正であることは明らかである。
なお、平成23年5月24日提出の手続補正書による補正が適法であることを受けて、本願が特許法第36条第6項第1号の規定を満たすか否かが問われることとなるが、特許法第36条第6項第1号の判断にあたっては、当該発明の解決課題、出願当時の技術常識等、特許法第17条の2第3項の要件判断とは異なる判断基準が適用されることは、知的財産高等裁判所の判決例が判示する通りである。
ここで、同日付手続補正書において特定された乳酸系ポリエステル共重合体は、発明の詳細な説明に記載されていることは明らかである。
また、本願出願時に、「PD-150」が一般的に流通し、利用されていたことは紛れもない事実であり、一般的な商慣習上、製品名または製品番号を通じて取引されるのが常であるから、特開2010-163203号公報の段落0127の記載に基づいてPlamate PD-150と乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール共重合体である乳酸系ポリエステル共重合体とを対応付けることには十分に一意性があると言うべきである。
さらに、発明の詳細な説明に記載されているPlamate PD-150を、乳酸-セバシン酸-1,2プロパンジオール共重合体として特許請求の範囲に記載することは、出願時の技術常識に照らして、十分に許容される程度の事項に該当する。」

しかしながら、化学構造特定事項は、当初明細書等の記載を精査しても、上記第2.2.において検討したとおり、多数の例示の中から選ばれる特定の組み合わせとして記載されているだけであって、構成する化学物質によりその性質が異なるものとなる化学分野においては、マーカッシュ等の網羅的に記載されている事項のみをもっては、それら全てが実質的に記載されているということはできないものである。
そして、本願明細書の実施例において乳酸系ポリエステル共重合体として利用されている「PD-150」は、上記検討のとおり「乳酸-セパシン酸-1,2プロパンジオール共重合体」とは認められないことは上述のとおりであるから、審判請求人の上記主張は採用できない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しており、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成23年5月24日付けの手続補正(以下、「当審補正」という。)により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「乳酸系ポリエステル組成物であって、
L乳酸に由来する乳酸単位またはD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルと、
前記乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22の化学構造式を有する乳酸系ポリエステル共重合とから構成され、
前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?50:50の範囲である、
乳酸系ポリエステル組成物。」(以下、「本願発明1」という。)

第4.当審において通知した拒絶の理由の概要
当審において平成23年6月29日付けで通知した拒絶の理由1)の概要は次のとおりである。

「 1)平成23年5月24日提出の手続補正書による補正は、下記の点で出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないので、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
・・・・・
(3-1)平成23年5月24日提出の手続補正書により、補正前の特許請求の範囲の請求項1における「乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体」が、「乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22の化学構造式を有する乳酸系ポリエステル共重合」(以下、「化学構造式特定事項」という。)に補正された。
そして、審判請求人は、上記補正の根拠に関して、「請求項1、2、8および9における補正は、出願時請求項5の記載、出願時明細書の段落0027?0029および0045?0066の記載、並びに証拠として提出する日本バイオプラスチック協会に寄託されている生分解性プラスチックのポジティブリストの記載(寄託番号A42101)に基づく。
なお、本願の出願時明細書には、乳酸系ポリエステル重合体としてPlamate PD-150を用いることは明示されており、Plamate PD-150が日本バイオプラスチック協会発行のポジティブリストに記載されている化学構造式を有することは事実に他ならない。したがって、本願の出願時明細書に記載されている製品名であるPlamate PD-150に基づいて、日本バイオプラスチック協会発行のポジティブリストを参照して化学構造式を特定する同日付手続補正書における補正は、本願出願時における事実を事後的に確認する補正に他ならず、日本バイオプラスチック協会発行のポジティブリストに記載のPlamate PD-150の化学構造式を本願特許請求の範囲に加える補正は新規事項の導入には該当しない。」との主張を行っている。
そこで、上記化学構造式特定事項を有する補正後の請求項1に係る発明とする補正が、審判請求人の上記主張も踏まえて、当初明細書等の記載の範囲内の補正といえるか否かについて検討する。
まず、化学構造式特定事項で追加された化学構造式である「(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22」は、日本バイオプラスチック協会発行のポジティブリスト(グリーンプラPL,Ver.2011.1(Feb):分類番号A(生分解性プラスチック))」によれば「PD-350」についてのものであるから、本願明細書に記載されている「PD-150」に対応するものではない。
また、「日本バイオプラスチック協会発行のポジティブリスト(グリーンプラPL,Ver.2011.1(Feb):分類番号A(生分解性プラスチック))」に記載の「PD-150」に対応する化学構造式は、記載中にn,x、mを利用していることから、多数のバリエーションを包含しており、PD-150の実際の化学構造式の上位概念化したものとなっていることは明らかである。そうすると、そのような上位概念としての化学構造式である「(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22」は、「PD-150」の開示を超えるものであり、本願の当初明細書等に記載されていたものとは認められない。
さらに、「PD-150」という商品名の「物」が、日本バイオプラスチック協会に寄託された後、審判請求人が提示した「日本バイオプラスチック協会発行のポジティブリスト(グリーンプラPL,Ver.2011.1(Feb):分類番号A(生分解性プラスチック))」の作成時まで変更されていないものであるとしても、「PD-150」の寄託が本願出願時前に行われていたことは不明であるから、当初明細書等に記載の「PD-150」と当該資料上の「PD-150」とが同一であるとも認めることはできない。
そうすると、化学構造式特定事項を含む補正後の請求項1に係る発明は、当初明細書等に記載の「PD-150」を単に記載を改めただけとは認められないことから、補正後の請求項1に係る発明については、当初明細書等に記載されていた発明と認めることはできない。補正後の請求項2、8,9に係る発明についても同様である。
・・・」

第5.当審の判断
1.補正の内容
当審補正は、平成19年10月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1について、

「【請求項1】乳酸系ポリエステル組成物であって、
L乳酸に由来する乳酸単位またはD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルと、
前記乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体とから構成される乳酸系ポリエステル組成物。」



「【請求項1】
乳酸系ポリエステル組成物であって、
L乳酸に由来する乳酸単位またはD乳酸に由来する乳酸単位を主成分とする乳酸系ポリエステルと、
前記乳酸系ポリエステルを構成する乳酸単位の由来元である乳酸と光学異性の関係にある乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体であって、(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22の化学構造式を有する乳酸系ポリエステル共重合とから構成され、
前記乳酸系ポリエステルと前記乳酸系ポリエステル共重合体の組成比は、重量比で90:10?50:50の範囲である、
乳酸系ポリエステル組成物。」

とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。

上記補正事項1は、補正前の請求項1においての「乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体」を「(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22の化学構造式を有する乳酸系ポリエステル共重合」とさらに特定する補正(以後、「化学構造式特定事項」という。)を含むものである。
そこで、上記化学構造式特定事項を含む補正事項1が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるかどうかについて検討する。

2.当初明細書等の記載事項
当初明細書等には、上記第2.2.(1)に記載した事項が記載されている。

3.当審の判断
まず、当初明細書等には化学構造式特定事項に関する記載は、一切存在しない。
そして、本願出願時の当業者の技術常識を考慮して、乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体に関する一般的な記載である上記摘示事項イ及び実施例の記載である上記摘示事項ウの記載を見ても、本願発明の解決しようとする課題を実際に解決している乳酸に由来する乳酸単位とポリエステル単位とから成る乳酸系ポリエステル共重合体が、化学構造式特定事項を満足するものであるとは認めれない。
さらに、化学構造式である「(C_(3)H_(4)O_(2))_(n)-(C_(x+2)H_(2x)O_(4))_(m)、x=4?22」は、日本バイオプラスチック協会発行のポジティブリスト(グリーンプラPL,Ver.2011.1(Feb):分類番号A(生分解性プラスチック))」によれば「PD-350」についてのものであるから、当初明細書等の上記摘示事項ウに記載されている「PD-150」に対応するものではない。
そうすると、化学構造式特定事項を含む補正事項1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえるから、補正事項1を含む当審補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

第6.むすび
以上のとおり、当審において平成23年6月29日付けで通知した拒絶の理由1)は妥当なものであるから、本願は、この理由により拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-20 
結審通知日 2011-09-27 
審決日 2011-10-11 
出願番号 特願2003-160159(P2003-160159)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (C08L)
P 1 8・ 55- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 智之  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 大島 祥吾
藤本 保
発明の名称 乳酸系ポリエステル組成物およびその成形体  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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