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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B23Q
審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  B23Q
管理番号 1247562
審判番号 無効2010-800115  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-07-09 
確定日 2011-11-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第3868474号発明「加工工具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
1.1 本件特許第3868474号の請求項1ないし8に係る発明についての出願は平成18年5月8日になされ、同年10月20日にその発明について特許の設定登録がなされた。
1.2 これに対し、請求人カトウ工機株式会社は平成22年7月9日に、本件特許の請求項1ないし8に係る発明について、特許を無効にするとの審決を求める無効審判の請求を行い、証拠方法として、甲第1ないし10号証を提出した。
1.3 被請求人司工機株式会社は、平成22年9月24日に答弁書を提出した。
1.4 請求人及び被請求人は、共に平成22年11月29日に口頭審理陳述要領書を提出した。
1.5 当審では平成22年12月13日に口頭審理を行い、審理を終結した。

2.本件発明
本件特許第3868474号の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1ないし8」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、同請求項1ないし8には以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け、該主軸の回転により該シャンクおよびホルダーに装着した刃具を回転駆動すると共に、
該シャンクに対し該ホルダーおよび刃具を傾動させて加工を行う加工工具において、
該シャンクの下端部外側にベアリングを介してケースが取り付けられ、該シャンクの下端軸心部に設けた軸孔に吸収ロッドが軸方向に摺動可能に配設され、該吸収ロッドと該シャンク間には該吸収ロッドを軸方向に付勢する吸収ばねが配設され、該ケース内の下部には傾動ケースが軸線に対し傾動可能に配設され、該傾動ケース内にはホルダーがベアリングを介して回転自在に配設され、該ホルダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され、該ホルダーと該摺動ホルダー間には該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され、前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手ロッドにより連結され、該自在継手ロッドの外周部の該ケース内に、多数の傾動支持ピンを下方に向けて且つばね部材により付勢して突出させてなる傾動支持ピン装置が配設され、
該傾動支持ピン装置の傾動支持ピンの先端は、該傾動ケースの上部に設けた受圧板に当接し、該自在継手ロッドは、吸収ロッドの下部と連結された第1自在継手部と、ホルダーの上部と連結される第2自在継手部とを中間軸の上部と下部に設けて構成され、
第1自在継手部は、吸収ロッドに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結され、第2自在継手部はホルダーに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結され、
該第1自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されると共に、該吸収ロッド側の下端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合し、第2自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されると共に、該ホルダー側の上端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合し、
該自在継手ロッドが該吸収ロッド及び該ホルダーに対し直線状態のとき、両側の該金属球が両側の該受入れ凹部に係合した状態を保持し、該自在継手ロッドが該吸収ロッド及び該ホルダーに対し傾動したとき、少なくとも何れか一方の該金属球が受入れ凹部の略中央から外側寄りに移動し、傾動荷重を外されて該ホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際、該金属球が該外側寄りから該受入れ凹部の略中央に移動することを特徴とする加工工具。
【請求項2】
前記傾動支持ピン装置は、円環状に形成されたピンケース内に多数の傾動支持ピンがその先端を下方に突出させて円周上に配設されると共に、各傾動支持ピンがばね部材により下方に付勢されて構成され、傾動支持ピン装置が回動自在のフリー状態でケース内に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項3】
前記傾動支持ピン装置の上側に、ボールベアリングがフリー状態で回転自在に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項4】
前記ケース内のボールベアリングの上側に、高さ調整用の調整ナットが螺合され、該調整ナットのねじ込みによりボールベアリングの上側空間の隙間幅を調整可能としたことを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項5】
前記自在継手ロッドの中間軸に、円盤部が形成され、前記第1自在継手部の先端部下寄りと第2自在継手部の下端部上寄りに、半球状凸部が突設されると共に、該吸収ロッドとホルダーの継手凹部内に、該半球状凸部が嵌合する溝部が軸方向に形成されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項6】
前記傾動ケースは、前記ケース内で球面滑り軸受を介して所定の角度範囲内で傾動可能に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項7】
前記ホルダーは、傾動ケース内で少なくとも2個のニードルベアリングを含む複数のベアリングを介して回転自在に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項8】
前記シャンクが該工作機械の主軸に装着された際、該工作機械の固定部に係合して該ケースを位置決めして静止させる位置決め係合部が前記ケースの側部に設けられ、該位置決め係合部は、位置決めピンが該ケースから側方に突出した保持部に、上下方向に摺動可能に且つばね部材により上方に付勢されて保持され、該位置決めピンの外周におねじ部が形成され、該おねじ部に調整ナットが螺合して装着されると共に、該調整ナットの外周部に回り止めキーが、その先端を該シャンクの下部に取り付けたオリエンテーションリングの係合部に係合可能に、該調整ナットの回転を許容して取り付けられ、調整ナットの回転操作により位置決めピン及び回り止めキーを上下動させることを特徴とする請求項1記載の加工工具。」

3.請求人が主張する無効理由の概要
本件特許に対して請求人が主張する無効理由を整理すると、以下のとおりと認められる。
(1)本件発明1ないし8は、甲第10号証に示されるとおり、特許を受ける権利が請求人にあることが確認された、甲第1号証の発明に依拠し、極めて緊密な利用関係があるから、発明者でもなく、特許を受ける権利も承継しない者の出願によるものというべきであるため、特許法第123条第1項第6号の規定により無効とすべきである。(以下、「主張1」という。)
(2)本件発明1ないし8は、甲第1ないし9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。(以下、「主張2」という。)

請求人は、上記主張の証拠方法として、以下の証拠を提出している。
甲第1号証: 特開2005-349549号公報
甲第2号証: 特開平11-303774号公報
甲第3号証: 特開平7-269580号公報
甲第4号証: 実願平2-47552号(実開平4-5333号)の
マイクロフィルム
甲第5号証: 実願平2-47553号(実開平4-5334号)の
マイクロフィルム
甲第6号証: 実願平2-47554号(実開平4-5335号)の
マイクロフィルム
甲第7号証: 特開2002-326183号公報
甲第8号証: 特開平7-68482号公報
甲第9号証: 特開2005-61084号公報
甲第10号証: 知的財産高等裁判所平成21年(ネ)第10017号
事件の判決書

また、請求人は口頭審理陳述要領書において、本件特許に係る発明が公衆の秩序、善良の風俗を害するものであるから特許法第32条の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである、との主張(以下、「主張3」という。)を追加するとともに、主張2を裏付ける新たな証拠として先行文献1及び2の抜粋を添付した。
先行文献1: 実開昭62-42951号公報
先行文献2: 特開2002-154040号公報

ただし、上記主張3を追加することは、請求の理由を補正するものであって、審判請求書の要旨を変更するので、特許法第131条の2第2項の規定による補正許否の決定をもって、これを不許可とした。
また、上記先行文献1及び2は、口頭審理において参考文献とされた。

4.被請求人の主張の概要
一方、被請求人の主張を整理すると、以下のとおりと認められる。
(1)甲第10号証には、本件発明1ないし8が冒認されたことを示す証拠は何ら見られない。本件発明1ないし8は、甲第1号証に記載された発明をさらに改良したものであり、甲第1号証に見られない特徴的構成が含まれる。
(2)本件発明1ないし8は、甲第1ないし9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.主張2の検討
主張1に関する検討に先立ち、主張2、すなわち、本件発明1ないし8が、甲第1号証記載の発明に、甲第2ないし9号証に記載された技術事項を組合わせて、当業者が容易に想到し得るものであるか否か、について検討する。
5.1 甲各号証に記載された発明または事項
請求人が、主張1を裏付ける証拠として提出した、甲第1ないし9号証には、それぞれ以下の記載が認められる。

5.1.1 甲第1号証
a.(特許請求の範囲)
「【請求項1】
工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け、該主軸の回転により該シャンクおよびホルダーに装着した刃具を回転駆動すると共に、該シャンクに対し該ホルダーおよび刃具を傾動させて加工を行う加工工具であって、
該シャンクの下端部外側にベアリングを介してケースが取り付けられ、該ケースには該主軸に装着された際、該工作機械の固定部に係合して該ケースを位置決めして静止させる位置決め係合部が設けられ、該シャンクの下端軸心部に設けた軸孔に吸収ロッドが軸方向に摺動可能に配設され、該吸収ロッドと該シャンク間には該吸収ロッドを軸方向に付勢する吸収ばねが配設され、該ケース内の下部には傾動ケースが軸線に対し傾動可能に配設され、該傾動ケース内にはホルダーがベアリングを介して回転自在に配設され、該ホルダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され、該ホルダーと該摺動ホルダー間には該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され、前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手により連結され、該自在継手の外周部の該ケース内に、多数の傾動支持ピンを下方に向けて且つばね部材により付勢して突出させてなる傾動支持ピン装置が配設され、該傾動支持ピン装置の傾動支持ピンの先端が該傾動ケースの上部に設けた受圧板に当接することを特徴とする加工工具。
【請求項2】
前記傾動支持ピン装置は、円環状に形成されたピンケース内に多数の傾動支持ピンがその先端を下方に突出させて円周上に配設されると共に、各傾動支持ピンがばね部材により下方に付勢されて構成され、該傾動支持ピン装置が回動自在のフリー状態で前記ケース内に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項3】
前記傾動支持ピン装置の上側に、ボールベアリングがフリー状態で回転自在に配設されていることを特徴とする請求項2記載の加工工具。
【請求項4】
前記ケース内の前記ボールベアリングの上側に高さ調整用の調整ナットが螺合され、調整ナットのねじ込みにより該ボールベアリングの上側空間の隙間幅を調整可能とした請求項3記載の加工工具。
【請求項5】
前記自在継手は、前記吸収ロッドの下部と連結された第1自在継手部と、前記ホルダーの上部と連結される第2自在継手部とを中間軸の上部と下部に設けて構成され、該第1自在継手部は該吸収ロッドに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結され、該第2自在継手部は該ホルダーに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結されていることを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項6】
前記自在継手の中間軸に円盤部が形成され、前記第1自在継手部と第2自在継手部には鋼球が嵌合する半球状の凹部が形成されると共に、前記吸収ロッドとホルダーの継手凹部内には該鋼球が嵌合する溝部が軸方向に形成されている請求項5記載の加工工具。
【請求項7】
前記傾動ケースは前記ケース内で球面滑り軸受を介して所定の角度範囲内で傾動可能に配設されていることを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項8】
前記ホルダーは、前記傾動ケース内で少なくとも2個のニードルベアリングを含む複数のベアリングを介して回転自在に配設されていることを特徴とする請求項1記載の加工工具。」
b.(明細書、段落31)
「【0031】
自在継手ロッド5は、中間軸の上部に第1自在継手部51を形成すると共に、中間軸の下部に第2自在継手部52を設けて形成され、ピンケース31の中央空間を貫通し、その上部の第1自在継手部51を吸収ロッド22の継手凹部24内に嵌入し、その下部の第2自在継手部52をホルダー本体61の上部の継手凹部63内に嵌入して取り付けられている。第1自在継手部51は自在継手ロッド5の上端半球部の外周に、球状先端を有したピンを90°の間隔でその球状先端を突き出して嵌着して形成され、第2自在継手部52も同様に、自在継手ロッド5の下端半球部の外周に、球状先端を有したピンを90°の間隔でその球状先端を突き出すように嵌着して形成されている。また、自在継手ロッド5は、第1、第2自在継手部51,52の上端と下端に突き出して嵌着される球状先端の位置を、相互に45度ずらすことにより、よりスムーズな傾動が可能となる。」
c.(明細書、段落43?45)
「【0043】
なお、上記実施形態では、吸収ロッド22とホルダー6の連結に自在継手ロッド5を使用したが、自在継手ロッド5に代えて図8に示すようなベローズ型自在継手8を使用することもできる。このベローズ型自在継手8は、蛇腹形のベローズの上部と下部に設けた連結軸56,58を介して、吸収ロッド22とホルダー本体61間に連結される。
【0044】
すなわち、吸収ロッド22の下部中央に設けられた継手凹部内に取付部材55が固定され、その取付部材55とベローズ型自在継手8の上部とが連結軸56により連結される。また、ホルダー本体61の上部中央に設けた継手凹部内に取付部材57が取り付けられ、その取付部材57とベローズ型自在継手8の下部とが連結軸58により連結される。
【0045】
このようなベローズ型自在継手8を用いて吸収ロッド22とホルダー6を連結した場合でも、上記と同様に、加工時には、刃具9がワークWから受ける側方からの押圧力に応じて、ホルダー6と刃具9を良好に傾動させることができる。」

上記摘記事項a中の請求項5の記載と、摘記事項bの記載とを対照すると、摘記事項a中の請求項1,5における「自在継手」が、摘記事項b中の「自在継手ロッド5」を指していることは自明である。そこで、技術常識を勘案しつつ、摘記事項a,bを本件発明1の記載に沿って整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認められる。
「工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け、該主軸の回転により該シャンクおよびホルダーに装着した刃具を回転駆動すると共に、
該シャンクに対し該ホルダーおよび刃具を傾動させて加工を行う加工工具において、
該シャンクの下端部外側にベアリングを介してケースが取り付けられ、該シャンクの下端軸心部に設けた軸孔に吸収ロッドが軸方向に摺動可能に配設され、該吸収ロッドと該シャンク間には該吸収ロッドを軸方向に付勢する吸収ばねが配設され、該ケース内の下部には傾動ケースが軸線に対し傾動可能に配設され、該傾動ケース内にはホルダーがベアリングを介して回転自在に配設され、該ホルダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され、該ホルダーと該摺動ホルダー間には該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され、前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手ロッドにより連結され、該自在継手ロッドの外周部の該ケース内に、多数の傾動支持ピンを下方に向けて且つばね部材により付勢して突出させてなる傾動支持ピン装置が配設され、
該傾動支持ピン装置の傾動支持ピンの先端は、該傾動ケースの上部に設けた受圧板に当接し、該自在継手ロッドは、吸収ロッドの下部と連結された第1自在継手部と、ホルダーの上部と連結される第2自在継手部とを中間軸の上部と下部に設けて構成され、
第1自在継手部は、吸収ロッドに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結され、第2自在継手部はホルダーに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結される加工工具。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)

5.1.2 甲第2号証
a.(特許請求の範囲、請求項2)
「【請求項2】 ケーシングと、該ケーシングに一体的に設けられた固定スクロールと、基端側が前記ケーシングに回転可能に支持され先端側がクランクとなった駆動軸と、該駆動軸のクランクに旋回可能に設けられ前記固定スクロールとの間に複数の圧縮室を画成する旋回スクロールと、前記ケーシングと旋回スクロールとの間に設けられ該旋回スクロールからのスラスト荷重を受承する複数のスラスト荷重支持手段とからなるスクロール式流体機械において、
前記各スラスト荷重支持手段は、前記ケーシング,旋回スクロールにそれぞれ設けられた第1,第2の荷重受承部と、該第1,第2の荷重受承部にそれぞれ設けられた第1,第2の凹陥部と、前記第1,第2の荷重受承部間に位置して揺動可能に設けられた柱体と、該柱体の両端側に設けられた柱体側凹陥部と、該柱体側凹陥部と前記第1,第2の凹陥部とにそれぞれ嵌合された球体とから構成したことを特徴とするスクロール式流体機械。」
b.(発明の詳細な説明、段落17)
「【0017】このように構成したことにより、第1,第2の荷重受承部に柱体の両端側の端面をそれぞれ当接させ、旋回スクロールからのスラスト荷重を受承することができる。また、柱体側凹陥部と前記第1,第2の凹陥部とに嵌合された球体が柱体の揺動中心となるから、球体によって柱体の揺動を支持することができ、柱体を第1,第2の荷重受承部間の所定位置に保持することができる。」
c.(図1ないし3)
スラスト荷重支持手段13の柱体18の一端の衝合面18Aの中央に形成された柱体側凹陥部19に1個の球体20が転動可能に嵌入されると共に、第1の荷重受承部材14の下端部中央に設けられた第1の凹陥部16に該球体20が係合し、該柱体18の他端の衝合面18Aの中央に設けられた柱体側凹陥部19に球体20が転動可能に嵌入されると共に、第2の荷重受承部材15の上端部中央に設けられた第2の凹陥部17に該球体20が係合し、該柱体18が第1の荷重受承部材14及び第2の荷重受承部材15に対し直線状態のとき及び揺動したとき、両側の球体20が第1の凹陥部16及び第2の凹陥部17に係合した状態を保持することが理解されると認める。

以上を、技術常識を勘案しつつ、本件発明1の記載に沿って整理すると、甲第2号証には次の事項が記載されていると認められる。
「スクロール式流体機械の、ケーシングと旋回スクロールとの間でスラスト荷重を支承するスラスト荷重支持手段において、柱体18の一端の衝合面18Aの中央に形成された柱体側凹陥部19に1個の球体20が転動可能に嵌入されると共に、第1の荷重受承部材14の下端部中央に設けられた第1の凹陥部16に該球体20が係合し、該柱体18の他端の衝合面18Aの中央に設けられた柱体側凹陥部19に球体20が転動可能に嵌入されると共に、第2の荷重受承部材15の上端部中央に設けられた第2の凹陥部17に該球体20が係合し、該柱体18が第1の荷重受承部材14及び第2の荷重受承部材15に対し直線状態のとき及び揺動したとき、両側の球体20が第1の凹陥部16及び第2の凹陥部17に係合した状態を保持する接続機構。」(以下、「甲第2号証記載の事項」という。)

5.1.3 甲第3号証
a.(特許請求の範囲、請求項1?3)
「【請求項1】 駆動軸と従動軸の2軸を係合する接続機構において、
前記駆動軸と前記従動軸との対向面の一方に勾配を持つ凹部を設け、
前記駆動軸と前記従動軸との対向面の他方に凸曲面を有し軸線方向に摺動自在の摺動子を設け、
前記摺動子を前記凹部方向に押圧する弾性手段を設けたことを特徴とする接続機構
【請求項2】 前記凹部が円錐形状であることを特徴とする請求項1記載の接続機構
【請求項3】 前記摺動子が球形状であることを特徴とする請求項1記載の接続機構」
b.(発明の詳細な説明、段落13)
「【0013】
【作用】第1の本発明によれば、同じ軸芯方向で係合する駆動軸と従動軸の対向面の一方に設けられた勾配を持つ凹部に、前記対向面の他方に設けられた凸曲面を有する摺動子が弾性体により前記凹部に圧接され、駆動軸と従動軸がある一定の位置(原点)に保持される。前記の保持された状態で前記従動軸の外周方向から外力が加わる時、その外力が前記摺動子の圧接力を上回ると前記凹部の勾配部で摺動子が押され前記弾性体を圧縮しながら、前記従動軸は外力の作用する方向へ平行移動する。そして、従動軸の外周方向から加わる外力が摺動子の圧接力を下回ると摺動子により圧縮されれていた弾性体が復元し、前記摺動子が前記凹部の勾配部を滑りながら凹部の中心(原点)に復帰する。この作用は前記凹部の勾配形成全方向について行われる。」
c.(発明の詳細な説明、段落15?17)
「【0015】
【実施例】本発明の実施例を図面により説明する。図1は第1実施例の接続機構の構成を示す断面図、図2は第1実施例の要部断面図である。10は接続機構で、駆動軸11、従動軸21、ベアリングホルダ31、スラストベアリング52、鋼球50およびその他の部品により構成されており、駆動軸11の動作を従動軸21に正確に伝達し各種作業を行うもので、従動軸21の先端部に各種部品の形状に適した工具などを取り付けて自動化設備などに組み込まれ、小物部品の組み立て、調整および加工などに用いられる。
【0016】駆動軸11は、段付軸形状をなし大径部17の端面18より従動軸21の大径部25よりやや大きめの穴13と該穴の底部にスラストベアリング52を固定する穴12と該穴の底部19の中心部に円錐状の凹部14などが形成され、大径部17の端面18近くにベアリングホルダ31を取り付けるためのねじ孔15が形成されている。
【0017】従動軸21は両側に段差をもつ段付軸形状をなし、両段の始部にはスラストベアリング52の内輪が圧入される。小径軸部26の端面部には鋼球50と圧縮コイルばね51が係合する穴24が形成され、小径軸部25には回動伝達ピン53を固定する穴23が形成されている。ベアリングホルダ31は段付円筒形状をなし、孔32が貫通され大径部41には駆動軸11の大径部17が嵌合する穴34と該穴の底部38にはスラストベアリング52を固定する穴33が、端部37の近くにはベアリングホルダ固定ボルト54が挿通する孔36が形成され、小径軸部40には従動軸21に固定された回動伝達ピン53が当接して、従動軸21を回動させる穴35が形成されている。尚、駆動軸11、従動軸21、ベアリングホルダ31はいずれも材料に鋼材が用いられ旋削加工などにより形成される。圧縮コイルばね51は駆動軸11の円錐状の凹部14に鋼球50を圧接するもので、ばね用ステンレス鋼線またはばね用鋼線を巻き形成される。尚、ばね性を有するものであれば圧縮コイルばねでなくてもよく、例えば、金属または樹脂製の板ばね、ゴムなどの材料を用いてもよい。その外、空圧、液圧などの押圧手段を利用することも可能である。回動伝達ピン53は駆動軸11の回転を従動軸21に伝達するためのピンで鋼材が用いられる。」
d.(発明の詳細な説明、段落22、23)
「【0022】前記の保持された状態で従動軸21の軸芯に対して外周方向から圧縮コイルばね51の押圧力を上回る外力が加わった場合、図2(b)平行移動状態で示すように、円錐凹部14の勾配部に鋼球50が押され圧縮コイルばね51が圧縮されながらスラストベアリング52で保持された従動軸21は駆動軸11の動作に関係なく、外力が作用する方向へ設定した範囲内を平行移動する。そして、外周方向から加わる外力が圧縮コイルばね51の押圧力を下回ると鋼球50が円錐凹部14の勾配部を滑り中心部(原点)に圧接され、駆動軸11と従動軸21が同一軸線上に並ぶ。尚、従動軸21が平行移動を始める外力の大きさは円錐凹部14の角度と圧縮コイルばね51の圧縮強度などにより任意に設定することが可能である。
【0023】次に、回動動作について説明する。駆動軸11が回動すると駆動軸11に固定されたベアリングホルダ31の孔35が従動軸21に圧入され、ベアリングホルダ31の孔35に遊挿状態の回転伝達ピン53に当接し、従動軸21を回動させる。 本実施例では駆動軸11側に円錐凹部14を従動軸21側に鋼球50を設けたが、駆動軸11側に鋼球50を、従動軸21側に円錐凹部14を設けても従動軸21の動作は変わらない。」

以上を、技術常識を勘案しつつ、本件発明1の記載に沿って整理すると、甲第3号証には、次の事項が記載されていると認められる。
「従動軸21の小径軸部26の端面部中央に形成された穴24に1個の鋼球50が転動可能に嵌入されると共に、駆動軸11側の底部中央に設けられた凹部14に該鋼球50が係合し、該従動軸21が該駆動軸11に対し直線状態のとき、鋼球50が該凹部14に係合した状態を保持し、該従動軸21が該駆動軸11に対し平行移動したとき、該鋼球50が凹部14の中央から外側寄りに移動し、荷重を外されて該従動軸21が平行移動状態から駆動軸11に対して直線姿勢に戻る際、該鋼球50が該外側寄りから略中央に移動すること。」(以下、「甲第3号証記載の事項」という。)

5.1.4 甲第4号証
甲第4号証には、その明細書及び図面の記載を整理すると、次の事項が記載されていると認められる。
「シャンク部2が工作機械の主軸Sに装着された際、該工作機械の位置決めブロックBに係合してハウジング7を位置決めして静止させる手段が前記ハウジング7の側部に設けられ、該手段は、位置決めピン11が該ハウジング7の一側方に、上下方向に摺動可能に且つスプリング27により上方に付勢されて保持され、該位置決めピン11の外周におねじ部16が形成され、該おねじ部16に調整ナット20が螺合して装着されると共に、該調整ナット20の外周部に廻り止め部材19が、その先端を該シャンク部2の下部に取り付けた位置決め用溝18に係合可能に、該調整ナット20の回転を許容して取り付けられ、調整ナット20の回転操作により位置決めピン11及び廻り止め部材19を上下動させる工具ホルダ。」(以下、「甲第4号証記載の事項」という。)

5.1.5 甲第5号証
甲第5号証には、その明細書及び図面の記載を整理すると、次の事項が記載されていると認められる。
「シャンク部2が工作機械の主軸Sに装着された際、該工作機械の位置決めブロックBに係合してハウジング7を位置決めして静止させる手段が前記ハウジング7の側部に設けられ、該手段は、位置決めピン13が該ハウジング7の一側方に、上下方向に摺動可能に且つスプリング25により上方に付勢されて保持され、該位置決めピン13の外周におねじ部19が形成され、該おねじ部19に調整ナット24が螺合して装着されると共に、該調整ナット24の外周部に廻り止め部材22が、その先端を該シャンク部2の下部に取り付けた位置決め用溝21に係合可能に、該調整ナット24の回転を許容して取り付けられ、調整ナット24の回転操作により位置決めピン13及び廻り止め部材22を上下動させる工具ホルダ。」(以下、「甲第5号証記載の事項」という。)

5.1.6 甲第6号証
甲第6号証には、その明細書及び図面の記載を整理すると、次の事項が記載されていると認められる。
「シャンク部2が工作機械の主軸Sに装着された際、該工作機械の位置決めブロックBに係合してハウジング6を位置決めして静止させる手段が前記ハウジング6の側部に設けられ、該手段は、位置決めピン10が該ハウジング6の一側方に、上下方向に摺動可能に且つスプリング21により上方に付勢されて保持され、該位置決めピン10の外周におねじ部12が形成され、該おねじ部12に調整ナット14が螺合して装着されると共に、該調整ナット14の外周部に廻り止め部材13が、その先端を該シャンク部2の下部に取り付けた位置規制用溝18に係合可能に、該調整ナット14の回転を許容して取り付けられ、調整ナット14の回転操作により位置決めピン10及び廻り止め部材13を上下動させる工具ホルダ。」(以下、「甲第6号証記載の事項」という。)

5.1.7 甲第7号証
a.(特許請求の範囲、請求項1?4)
「【請求項1】矩形の結合部を有する中央の第1ボディ、
内側に矩形の空間部を有し、該空間部内に上記第1ボディの結合部が相対変移のための間隔を保って嵌合している矩形枠状のインナーガイド、
内側に矩形の空間部を有し、該空間部内に上記インナーガイドが相対変移のための間隔を保って嵌合しているアウターガイド、
上記インナーガイドの相対する一対の外側面とアウターガイドの相対する一対の内側面との間にそれぞれ複数のベアリングボールを転動自在に介設することにより形成され、これらのベアリングボールによって上記インナーガイドとアウターガイドとをX軸方向へ相対的に変移自在なるように連結するX方向連結部、
上記第1ボディの結合部の相対する一対の外側面とインナーガイドの相対する一対の内側面との間に複数のベアリングボールをそれぞれ、上記X方向連結部のベアリングボールと同一平面内で転動自在なるように介設することにより形成され、これらのベアリングボールによって上記第1ボディとインナーガイドとをY軸方向へ相対的に変移自在なるように連結するY方向連結部、を有することを特徴とするコンプライアンスユニット。
【請求項2】請求項1に記載のコンプライアンスユニットにおいて、矩形枠状をした上記インナーガイドが、アウターガイドの空間部内に該空間部からZ軸方向両側に突出しないように収容されると共に、このインナーガイドの空間部内に上記第1ボディの結合部が、該空間部からZ軸方向一側には突出しないように収容されていることを特徴とするもの。
【請求項3】請求項1又は2に記載のコンプライアンスユニットにおいて、該コンプライアンスユニットが、相対的に変移した上記第1ボディとアウターガイドとを原点位置に復帰させるための復帰機構を含むことを特徴とするもの。
【請求項4】請求項3に記載のコンプライアンスユニットにおいて、上記復帰機構が、上記アウターガイドに固定された第2ボディのボール孔内に該ボール孔の軸線方向に変移自在なるように嵌合する一つの復帰用ボールと、上記第1ボディに設けられてこの復帰用ボールに当接する円錐状のボール受けと、上記復帰用ボールを該ボール受け側に向けて押圧する押圧手段とを含むことを特徴とするもの。」
b.(発明の詳細な説明、段落24?26)
「【0024】図4は本発明の第2実施例を示すもので、この第2実施例のコンプライアンスユニット1Bが上記第1実施例のコンプライアンスユニット1Aと相違している点は、相対的に変移したアウターガイド4と第1ボディ6とを原点位置に復帰させるための復帰機構20を備えているところである。この点について以下に説明する。
【0025】即ち、上記コンプライアンスユニット1Bは、上記アウターガイド4に固定された第2ボディ21を有している。この第2ボディ21は、中央部に円形のばね室22を有する矩形の第1部材21aと、この第1部材21aの下部に固定されて上記ばね室22の底部を覆う第2部材21bとからなっていて、該第2部材21bの中央部に円形のボール孔23が設けられている。そしてこのボール孔23内には、金属等の硬質素材からなる一つの復帰用ボール24が、第2部材21bに係止した状態で該ボール孔23の軸線方向に変移自在なるように嵌合し、その球面の一部が第2部材21bの両面に突出している。また、該復帰用ボール24の一側には円錐状のボール受け26が設けられ、他側には、復帰用ボール24をこのボール受け26側に向けて押圧するための押圧手段27が配設され、これらの復帰用ボール24とボール受け26と押圧手段27とによって上記復帰機構20が構成されている。
【0026】上記ボール受け26は、上記第1ボディ6の上面中央部に形成された窪み内に嵌め付けられていて、上面に上記復帰用ボール24が当接する円錐状の受け面26aを有している。」
c.(発明の詳細な説明、段落30)
「【0030】上記第2実施例のコンプライアンスユニット1Bにおいて、ワークW1,W2間の軸ずれを吸収するために上記アウターガイド4と第1ボディ6とがX-Y方向に相対的に変移すると、上記復帰用ボール24が、上記第1ボディ6と一緒に変移するボール受け26の受け面26aの傾斜に沿って該受け面26aの中心から外れた位置まで押し上げられるため、押圧子30を介して板ばね31はZ軸方向に弾性変形し、復元力が蓄えられる。そして、ワークの嵌め込み作業が終わると、上記復帰用ボール24が板ばね31の弾発力により押圧子30を介して上記ボール受け26に強く押し付けられているため、該ボール受け26及び第1ボディ6は、円錐状の受け面26aの中心にボール24が位置するようにアウターガイド4に対して相対的に変移し、それによって上記第1ボディ6とアウターガイド4とが原点位置に復帰する。もちろん、インナーガイド5も同時に原点位置に復帰する。なお、この第2実施例においては、上記第2ボディ21をロボットアームに取り付けることができる。」

以上を、技術常識を勘案しつつ、本件発明1の記載に沿って整理すると、甲第7号証には、次の事項が記載されていると認められる。
「第2ボディ21の下面中央に形成された円形のボール孔23に1個の復帰用ボール24が嵌入されると共に、第1ボディ6上面中央に嵌め付けられたボール受け26に形成された円錐状の受け面26aに該復帰用ボール24が係合し、第2ボディ21が該第1ボディ6に対し原点位置にあるとき、該復帰用ボール24が該受け面26aに係合した状態を保持し、該第2ボディ21が該第1ボディ6に対しX-Y方向に相対的に変位したとき、該復帰用ボール24が受け面26aの略中央から外側寄りに移動し、該第1ボディ6が変位位置から原点位置に戻る際、該復帰用ボール24が該外側寄りから該受け面26aの略中央に移動するコンプライアンスユニット。」(以下、「甲第7号証記載の事項」という。)

5.1.8 甲第8号証
a.(発明の詳細な説明、段落30?32)
「【0030】また、ハンド設置台3の一部3cに、ハンド設置台3を所定の平面原点位置に復帰させるための復帰手段26が設けられる。なお、図8(B)では復帰手段26の図示が省略されている。
【0031】図9はこの復帰手段26の説明図である。すなわち、ハンド設置台3の一部3cに円筒部26aが設けられ、基台に設けられたポスト26b?26d(26dは図9では見えず)と円筒部26aとの間に3本のコイルバネ26e?26g(26gは図9では見えず)が配置される。円筒部26aの内部にはコイルバネ26hおよび鋼球26iが設けられ、また、この鋼球26iの受け側として基台に受け台26jが設けられる。受け台26jは、位置決め用の窪み部26jaとガイド部26jbとを有する。
【0032】このような構成の復帰手段26において、ハンド設置台3の一部3cは、3本のコイルバネ26e?26gによる付勢力の均衡した位置に常に復帰しようとする。また、その均衡位置付近では復帰力が弱いので、均衡位置付近に受け台26jの窪み部26jaを配置する。これにより、コイルバネ26hの付勢力で鋼球26iが窪み部26jaに落ち込み、ハンド設置台3を所定の平面原点位置に正確に復帰させることができる。なお、ガイド部26jbは、ハンド設置台3の一部3cがコイルバネ26e?26gの付勢力に抗して大幅に移動することを阻止するためのものである。」

以上を、技術常識を勘案しつつ、本件発明1の記載に沿って整理すると、甲第8号証には、次の事項が記載されていると認められる。
「円筒部26aの内部に1個の鋼球26iが嵌入されると共に、受け台26j側に設けられた窪み部26jaに該鋼球26iが係合し、該円筒部26aが該受け台26jに対し平面原点位置のとき、該鋼球26iが該窪み部26jaに係合した状態を保持し、該円筒部26aが該受け台26jに対し平面内で変位したとき、該鋼球26iが窪み部26jaの略中央から外側寄りに移動し、該円筒部26aが変位状態から平面原点位置に戻る際、該鋼球26iが該外側寄りから該窪み部26jaの略中央に移動する復帰手段。」(以下、「甲第8号証記載の事項」という。)

5.1.9 甲第9号証
a.(要約)
「【課題】揺れの終了後に迅速に原点復帰が可能な、転動体を用いた免震システム用の支承具を提供する。
【解決手段】免震システムは、建物など設置物の重量を支えるとともに、地面や基礎から設置物への揺れの伝達を制限する支承具1を含む。この支承具は、各々が窪んだ軌道面5,6または15,16をもち、組み合わさって両者間にほぼ楕円球状の空間7を画定する一対の軌道盤2,3と、この空間に収容されて各軌道面に沿って回動するボール4とを有する。各軌道盤の軌道面は、中央部分6aをすり鉢状断面にし、その周り6bを円弧状断面に形成するか、或いは全体としてゴシックアーチ状断面に形成して、軌道中心へ戻るボール4の復元力を確保する。」
b.(明細書、段落12?15)
「【0012】
次に、本発明を、図面に示す実施の態様を参照して説明する。
図1は、第1の実施態様による免震システム用の支承具1を示している。支承具1は、一対の軌道盤2,3と、転動体であるボール4から成る。
軌道盤2,3は、各々、方形の板部材の形態であり、この板部材に設けた皿状窪みの形状の軌道面5または6を有する。軌道盤は、これら軌道面5,6を向かい合わせて間にほぼ楕円球状の空間7を画定する状態で、一方の軌道盤が設置物である建物に、また他方がその基礎にそれぞれ取り付けられるようになっている。
【0013】
各軌道盤の軌道面は、例えば図1の軌道面6に見られるように、軌道中心Cの周りの範囲Aの中央部分6aを、直線状の傾斜面をもつすり鉢ないし円錐状に形成している。
軌道面6の、すり鉢状範囲Aの外側部分6bは、図1の点Bを曲率中心とする半径Rの球面形状である。中央部分6aと外側部分6bの境界Eは、滑らかな接線状に形成している。
【0014】
ボール4は、直径Daの球体であり、軌道盤2,3間の空間7内に配置されている。ボール1は、軌道面5,6に接触し、軌道盤2,3と協同して設置物の重量を支えるとともに、これら軌道面の案内で軌道盤2,3の間を転動可能である。
【0015】
このような構造の支承具1において、設置物あるいはその基礎が揺れると、ボール4が軌道面5,6に沿って軌道盤2,3の間を転動し、軌道盤2,3の相対移動を許すことによって、揺れの伝達を制限ないし防止する。
揺れが終了すると、移動位置にあるボール4に、元の位置へ戻そうとする復元力が働き、これに応じてボール4と軌道盤2または3が原点へ復帰する。」

以上を、技術常識を勘案しつつ、本件発明1の記載に沿って整理すると、甲第9号証には、次の事項が記載されていると認められる。
「一方の軌道盤3の先端に形成された軌道面6に1個のボール4が転動可能に嵌入されると共に、他方の軌道盤2の下端部に設けられた軌道面5に該ボール4が係合し、一方の軌道盤3が他方の軌道盤2に対し直線状態のとき、該ボール4が該軌道面5の中央部に位置し、一方の軌道盤3が他方の軌道盤2に対し揺動したとき、該ボール4が軌道面5の略中央から外側寄りに移動し、該軌道盤3が揺動状態から直線姿勢に戻る際、該ボール4が該外側寄りから該軌道面5の略中央に移動する支承具。」(以下、「甲第9号証記載の事項」という。)

5.2 本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、本件発明1と甲第1号証記載の発明とは、以下の諸点において一致及び相違するということができる。
<一致点>
「工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け、該主軸の回転により該シャンクおよびホルダーに装着した刃具を回転駆動すると共に、
該シャンクに対し該ホルダーおよび刃具を傾動させて加工を行う加工工具において、
該シャンクの下端部外側にベアリングを介してケースが取り付けられ、該シャンクの下端軸心部に設けた軸孔に吸収ロッドが軸方向に摺動可能に配設され、該吸収ロッドと該シャンク間には該吸収ロッドを軸方向に付勢する吸収ばねが配設され、該ケース内の下部には傾動ケースが軸線に対し傾動可能に配設され、該傾動ケース内にはホルダーがベアリングを介して回転自在に配設され、該ホルダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され、該ホルダーと該摺動ホルダー間には該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され、前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手ロッドにより連結され、該自在継手ロッドの外周部の該ケース内に、多数の傾動支持ピンを下方に向けて且つばね部材により付勢して突出させてなる傾動支持ピン装置が配設され、
該傾動支持ピン装置の傾動支持ピンの先端は、該傾動ケースの上部に設けた受圧板に当接し、該自在継手ロッドは、吸収ロッドの下部と連結された第1自在継手部と、ホルダーの上部と連結される第2自在継手部とを中間軸の上部と下部に設けて構成され、
第1自在継手部は、吸収ロッドに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結され、第2自在継手部はホルダーに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結される加工工具。」である点。
<相違点>
前者では、
a.第1自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されると共に、吸収ロッド側の下端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合し、第2自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されると共に、ホルダー側の上端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合し、
b.自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対し直線状態のとき、両側の金属球が両側の受入れ凹部に係合した状態を保持し、
c.自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対し傾動したとき、少なくとも何れか一方の金属球が受入れ凹部の略中央から外側寄りに移動し、傾動荷重を外されてホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際、該金属球が外側寄りから受入れ凹部の略中央に移動する、
のに対し、後者ではこのような特定がない点。

なお、請求人は、審判請求書の7-【4】-(2)-(b)-(四)において、上記<相違点>中のa.を「相違点丸1」、b.とc.とをまとめて「相違点丸2」として分説しているが、b.とc.はa.の発明特定事項の作用を示すものであるため、a.,b.,c.の3点を切り離して論じることは不適切であるので、上記のとおり認定した。

5.3 当審の判断
上記<相違点>について検討する。

<相違点>に関する請求人の主張の概要は、次のとおりと認められる。(審判請求書、及び口頭陳述要領書参照。)
(1)甲第1号証の明細書段落【0043】(上記5.1.1の摘記事項c.参照。)には、<相違点>に係る発明特定事項が示唆されている。
(2)<相違点>中のa.は、甲第2号証の【請求項2】に記載されている内容及び甲第3号証の【請求項1】?【請求項3】に記載されている内容と同じである。本件発明の「嵌入穴」、「受入れ凹部」のいずれについてもそのサイズ、形状に関して一切記載がないため、どのようなサイズ、形状のものでも該当する。
(3)<相違点>中のb.は、甲第2号証の【図2】、【図3】と段落【0017】及び甲第3号証の【図1】、【図2】と段落【0013】に該当する。
(4)<相違点>中のc.は、甲第3号証のほか、甲第7ないし9号証に該当する復元手段が記載されており、周知の技術であることが示されている。本件特許の明細書には金属球の作用効果に関する記載はないため、金属球に特別の機能、効果はなく、甲第3号証及び甲第7ないし9号証に記載された位置合わせ機能を有するにすぎない。
(5)<相違点>が先行文献1及び2に記載されていることは明らかである。(請求人の口頭審理陳述要領書第17ページ第17?23行には、「以上の説明の通り、本件特許の(中略)点は、甲1ないし3号証に記載されていることが明らかである。」と記載されているが、「以上の説明」に該当する記載は先行文献1及び2に関するものであるため、「甲1ないし3号証」とあるのは「先行文献1及び2」の誤記と認めた。)

5.3.1 甲第1号証の明細書段落【0043】の示唆について
甲第1号証の明細書段落【0043】には、吸収ロッドとホルダーとの連結に自在継手ロッドに代えてベローズ型自在継手を使用することができる旨の記載がある。
しかしながら、この記載をもって、自在継手ロッド端部の自在継手部先端中央に形成された嵌入穴に金属球を転動可能に嵌入し、吸収ロッド及びホルダーの端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合する構成が示唆されているということは到底できないため、<相違点>に係る発明特定事項が甲第1号証中に示唆されているという請求人の主張を採用することはできない。

5.3.2 甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の事項との組み合わせについて
甲第2号証記載の事項は、「柱体の一端の衝合面の中央に形成された柱体側凹陥部に1個の球体が転動可能に嵌入されると共に、第1の荷重受承部材の下端部中央に設けられた第1の凹陥部に該球体が係合し、該柱体の他端の衝合面の中央に設けられた柱体側凹陥部に球体が転動可能に嵌入されると共に、第2の荷重受承部材の上端部中央に設けられた第2の凹陥部に該球体が係合し、該柱体が第1の荷重受承部材14及び第2の荷重受承部材15に対し直線状態のとき、両側の球体が第1の凹陥部及び第2の凹陥部に係合した状態を保持する」ものであり、「柱体」が甲第1号証記載の発明の「自在継手ロッド」に相当するものとして見ると、<相違点>中のa.とb.を有するかのようにも見える。
しかしながら、甲第2号証記載の事項の柱体は、甲第1号証記載の発明の自在継手ロッドのように回転力を伝達するものではないうえに、<相違点>中のc.の作用も生じないため、<相違点>の発明特定事項に相当するということはできない。また、甲第2号証記載の事項はスクロール式流体機械のスラスト荷重支持手段に関するものであって、甲第1号証記載の発明とは技術分野が異なるため、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の事項を適用することが容易であったということもできない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の事項を組み合わせて容易に発明することができたものということはできない。

5.3.3 甲第1号証記載の発明と甲第3号証記載の事項との組み合わせについて
甲第3号証記載の事項は、「従動軸の小径軸部の端面部中央に形成された穴に1個の鋼球が転動可能に嵌入されると共に、駆動軸側の底部中央に設けられた凹部に該鋼球が係合し、該従動軸が該駆動軸に対し直線状態のとき、鋼球が該凹部に係合した状態を保持し、該従動軸が該駆動軸に対し平行移動したとき、該鋼球が凹部の中央から外側寄りに移動し、荷重を外されて該従動軸が平行移動状態から駆動軸に対して直線姿勢に戻る際、該鋼球が該外側寄りから略中央に移動する接続機構」であり、「接続機構」が甲第1号証記載の発明の第1または第2自在継手部に相当するものとして見ると、<相違点>中のa.,b.,c.を有するかのようにも見える。
しかしながら、甲第3号証記載の事項の接続機構は、従動軸が駆動軸に対して平行移動するものであって、甲第1号証記載の発明の自在継手部のように「円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能」なものではない。また、甲第3号証には、接続機構を駆動軸と該駆動軸に対して傾動する従動軸の接続に適用することについては記載も示唆も見当たらない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の事項を組み合わせて容易に発明することができたものということはできない。

5.3.4 甲第1号証記載の発明と甲第7号証記載の事項との組み合わせについて
甲第7号証記載の事項は、「第2ボディの下面中央に形成された円形のボール孔に1個の復帰用ボールが嵌入されると共に、第1ボディ上面中央に嵌め付けられたボール受けに形成された円錐状の受け面に該復帰用ボールが係合し、第2ボディが該第1ボディに対し原点位置にあるとき、該復帰用ボールが該受け面に係合した状態を保持し、該第2ボディが該第1ボディに対しX-Y方向に相対的に変位したとき、該復帰用ボールが受け面の略中央から外側寄りに移動し、該第1ボディが変位位置から原点位置に戻る際、該復帰用ボールが該外側寄りから該受け面の略中央に移動するコンプライアンスユニット」であり、「コンプライアンスユニット」が甲第1号証記載の発明の第1または第2自在継手部に相当するものとして見ると、<相違点>中のa.,b.,c.を有するかのようにも見える。
しかしながら、甲第7号証記載の事項の第1ボディ第2ボディとはX-Y方向に互いに平行移動のみするものであって、甲第1号証記載の発明の自在継手部のように「円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能」なものではない。また、甲第7号証には、コンプライアンスユニットを第1ボディと第2ボディとが互いに傾動する場合に適用することについては記載も示唆も見当たらない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証記載の発明に甲第7号証記載の事項を組み合わせて容易に発明することができたものということはできない。

5.3.5 甲第1号証記載の発明と甲第8号証記載の事項との組み合わせについて
甲第8号証記載の事項は、「円筒部の内部に1個の鋼球が嵌入されると共に、受け台側に設けられた窪み部に該鋼球が係合し、該円筒部が該受け台に対し平面原点位置のとき、該鋼球が該窪み部に係合した状態を保持し、該円筒部が該受け台に対し変位したとき、該鋼球が窪み部の略中央から外側寄りに移動し、該円筒部が変位状態から平面原点位置に戻る際、該鋼球が該外側寄りから該窪み部の略中央に移動する復帰機構」であり、「復帰機構」が甲第1号証記載の発明の第1または第2自在継手部に相当するものとして見ると、<相違点>中のa.,b.,c.を有するかのようにも見える。
しかしながら、甲第8号証記載の事項の復帰機構は、甲第3号証及び甲第7号証記載の事項と同様、円筒部が受け台に対して平面内でのみ移動するものであって、甲第1号証記載の発明の自在継手部のように「円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能」なものではない。また、甲第8号証には、復帰機構を円筒部と受け台とが互いに傾動する場合に適用することについては記載も示唆も見当たらない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証記載の発明に甲第8号証記載の事項を組み合わせて容易に発明することができたものということはできない。

5.3.6 甲第1号証記載の発明と甲第9号証記載の事項との組み合わせについて
甲第9号証記載の事項は、「一方の軌道盤の先端に形成された軌道面に1個のボールが転動可能に嵌入されると共に、他方の軌道盤の下端部に設けられた軌道面に該ボールが係合し、一方の軌道盤が他方の軌道盤2に対し直線状態のとき、該ボールが該軌道面の中央部に位置し、一方の軌道盤3が他方の軌道盤に対し揺動したとき、該ボールが軌道面の略中央から外側寄りに移動し、該軌道盤が揺動状態から直線姿勢に戻る際、該ボールが該外側寄りから該軌道面の略中央に移動する支承具」であり、「支承具」が甲第1号証記載の発明の第1または第2自在継手部に相当するものとして見ると、<相違点>中のa.,b.,c.を有するかのようにも見える。
しかしながら、甲第9号証記載の事項の軌道盤は、甲第1号証記載の発明の自在継手ロッドのように回転力を伝達するものではないため、<相違点>に係る発明特定事項に相当するということはできない。支承具を、甲第1号証記載の発明の自在継手部のように「円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能」なものに適用することについて、甲第9号証には記載も示唆も見当たらない。また、甲第9号証に記載されたものは免震システム用の支承具であって、甲第1号証記載の発明とは技術分野が異なるため、甲第1号証記載の発明に甲第9号証記載の事項を適用することが容易であったということはできない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証記載の発明に甲第9号証記載の事項を組み合わせて容易に発明することができたものということはできない。

5.3.7 甲第1号証記載の発明と甲第4ないし6号証記載の事項との組み合わせについて
上記5.1.4ないし5.1.6に示したように、甲第4ないし6号証には、<相違点>に係る発明特定事項に関する記載はない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証記載の発明に甲第4ないし6号証記載の事項を組み合わせて容易に発明することができたものということはできない。

5.3.8 甲第1ないし9号証記載の発明または事項の組み合わせについて
甲第1ないし9号証のいずれにも、円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能である、自在継手ロッドのような軸部材において、該軸部材の一端または他端の先端中央に形成された嵌入穴に1個の球体が転動可能に嵌入されると共に、軸部材の先端に対向する部材の端部中央に設けられた受入れ凹部に該球体が係合する構成を示唆する記載は見当たらず、しかも、このような構成を,回転力を伝達する自在継手の自在継手ロッドの両端に適用することを示唆する記載が見当たらない。
したがって、甲第1ないし9号証記載の発明または事項をいかに組み合わせても、<相違点>に係る発明特定事項を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

なお、参考文献として添付された先行文献1及び2と甲第1号証記載の発明との組み合わせについてもここで予備的に検討しておく。

5.3.9 甲第1号証記載の発明と先行文献1記載の事項との組み合わせについて
先行文献1には、甲第1号証記載の発明と同様に回転駆動される刃具が傾動可能となる自在継手を持つ加工工具において、「ドリブンホルダ13の先端中央に形成された凹部13bに1個の鋼球12が転動可能に嵌入されると共に、スライドサポート11側の下端部中央に設けられた凹部11aに該鋼球12が係合し、ドリブンホルダ13がスライドサポート11に対し直線状態のとき、鋼球12が凹部11aに係合した状態を保持する、回転工具用従動継手。」(以下、「先行文献1記載の事項」という。)が記載されていると認められ、「ドリブンホルダ13」が甲第1号証記載の発明の「自在継手ロッド」に相当するものとして見ると、先行文献1記載の事項が<相違点>中のa.,b.を有するかのようにも見える。
しかしながら、先行文献1には、ドリブンホルダ13がスライドサポート11に対し傾動したとき、鋼球12が凹部11aの略中央から外側寄りに移動し、過大なラジアル荷重がなくなりドリブンホルダ13が傾動状態から直線姿勢に戻る際、該鋼球12が外側寄りから凹部11aの略中央に移動すること、及び、ドリブンホルダ13の上下両端にそれぞれ凹部を形成して各凹部に鋼球を嵌入すること、とくにドリブンホルダ13の下端に対向する部材に凹部を設けて鋼球を係合させること、について、記載も示唆も見当たらない。
したがって、先行文献1記載の事項が、甲第1号証記載の発明と同様に回転駆動される刃具が傾動可能となる自在継手を持つ加工工具に関わるとしても、先行文献1記載の事項を、刊行物1記載の発明のように上下両端に自在継手部を持つ自在継手ロッドを使用する形式の自在継手に適用することが、当業者にとって容易であったということはできず、また、仮に適用したとしても、<相違点>中のc.の作用を生じるとは認められない。よって、本件発明1は、当業者が甲第1号証記載の発明に先行文献1記載の事項を組み合わせて容易に発明することができたものということはできない。

5.3.10 甲第1号証記載の発明と先行文献2記載の事項との組み合わせについて
先行文献2には、図5の例を参照すると、「連結軸12の先端中央に形成された嵌入穴に1個のボールからなる接触部25aが転動可能に嵌入されると共に、加工部27側の中央に設けられた受入れ凹部に該接触部25aが係合し、連結軸12が加工部27に対し直線状態のとき、接触部25a球が受入れ凹部に係合した状態を保持し、連結軸12が加工部27に対し傾動したとき、接触部25aが受入れ凹部の略中央から外側寄りに移動し、傾動荷重を外されて連結軸12が傾動状態から直線姿勢に戻る際、該接触部25aが外側寄りから受入れ凹部の略中央に移動する、回転工具。」(以下、「先行文献2記載の事項」という。)が記載されていると認められ、「連結軸12」が甲第1号証記載の発明の「自在継手ロッド」に相当するものとして見ると、先行文献2記載の事項が<相違点>中のa.,b.,c.を有するかのようにも見える。
しかしながら、先行文献2には、連結軸12の上下両端にそれぞれ嵌入穴を形成して各嵌入穴に接触部25aを嵌入し、上下両端に対向する部材それぞれに受入れ凹部を設けること、とくにドリブンホルダ13の下端に対向する部材に凹部を設けて鋼球を係合させること、について記載も示唆も見当たらないうえ、上下両端に自在継手部を持つ自在継手ロッドを使用する形式の自在継手に適用すること、についても記載も示唆も見当たらない。
したがって、先行文献2記載の事項を、刊行物1記載の発明のように上下両端に自在継手部を持つ自在継手ロッドを使用する形式の自在継手に適用することが、当業者にとって容易であったということはできない。よって、本件発明1は、当業者が甲第1号証記載の発明に先行文献2記載の事項を組み合わせて容易に発明することができたものということもできない。

5.4 まとめ
以上のとおり、<相違点>に係る発明特定事項は、甲第1ないし9号証及び参考文献に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものということができない。
また、本件発明1は、<相違点>に係る発明特定事項の存在により、刃具をワークの加工面から離したときに高速回転する刃具の回転負荷が急激に減少し、かつ自在継手及びホルダーが傾動状態から直線状態に戻るように傾動荷重が外されたとき、吸収ロッドが吸収ばねにより軸方向下方に付勢されることと、ホルダーが摺動ホルダーとの間に配置されたばね部材により軸方向上方に付勢されること、とによって、傾動時に受入れ凹部の外側寄りに移動した自在継手ロッド先端の金属球を、受入れ凹部の略中央に強制的に移動させて、自在継手ロッドを直線状態に復帰させるものであることは、当業者が容易に理解し得るところである。これにより、回転するホルダーと刃具が傾動状態から直線状態により素早くスムーズに戻り、刃具がランダムに振れるという現象を解消するという作用効果が生じることを否定することができない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明及び甲第2ないし9号証並びに各参考文献記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
また、本件発明2ないし8は、いずれも上記<相違点>に係る発明特定事項を含むから、本件発明1と同様に、甲第1号証記載の発明及び甲第2ないし9号証並びに各参考文献記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
よって、請求人の主張2には理由がない。

6.主張1の検討
ここでは、本件特許が、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しない者の特許出願に対してなされたものか否か、について検討する。

甲第10号証には、甲第1号証記載の発明について、特許を受ける権利が請求人カトウ工機株式会社に属するとの知的財産高等裁判所の判決が示されており(判決主文及び発明目録を参照。)、この判決はその後、上告が最高裁判所において棄却された(平成22年(オ)第936号、平成22年9月24日決定)ことにより、確定している。
本件発明1ないし8と甲第1号証記載の発明とは、上記5.2において述べたとおり、前者では、
a.第1自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されると共に、吸収ロッド側の下端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合し、第2自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されると共に、ホルダー側の上端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合し、
b.自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対し直線状態のとき、両側の金属球が両側の受入れ凹部に係合した状態を保持し、
c.自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対し傾動したとき、少なくとも何れか一方の金属球が受入れ凹部の略中央から外側寄りに移動し、傾動荷重を外されてホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際、該金属球が外側寄りから受入れ凹部の略中央に移動する、
のに対し、後者ではこのような特定がない点で相違する。
上記判決には、上記相違点に係る発明特定事項を含む発明についての記載は見当たらず、上記相違点に係る発明特定事項を含む発明について、被請求人が特許を受ける権利を承継していないことを示す記載も、特許を受ける権利が請求人に属することを示す記載もない。
また、上記5.3において述べたとおり、甲第1ないし9号証及び先行文献1及び2のいずれにも、円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能である、自在継手ロッドのような軸部材において、該軸部材の一端または他端の先端中央に形成された嵌入穴に1個の球体が転動可能に嵌入されると共に、軸部材の先端に対向する部材の端部中央に設けられた受入れ凹部に該球体が係合する構成を示唆する記載は見当たらず、しかも、このような構成を,回転力を伝達する自在継手の自在継手ロッドの両端に適用することを示唆する記載が見当たらないから、上記相違点に係る発明特定事項が周知技術であったということはできない。
一方、本件発明1ないし8は、その明細書の背景技術の欄に記載されるように、甲第1号証記載の発明が有する課題を解決することを目的として、甲第1号証記載の発明の加工工具をさらに改良したものである。すなわち、この種の加工工具は、ワークの加工面に刃具を押し当ててバリ取り加工を行う間に自在継手ロッド、ホルダー、刃具等が傾動し、刃具をワークの加工面から離したときには、高速回転する刃具の回転負荷が急激に減少し、かつ高速回転する自在継手ロッド、ホルダー、刃具に傾動状態から直線状態に戻る力が作用するため、ホルダーや刃具がランダムに振られ、刃具が暴れるという現象が生じやすいものである。これに対し、本件発明1ないし8は、自在継手ロッドの第1自在継手部及び第2自在継手部と吸収ロッド及びホルダー間に、金属球と受入れ凹部を配することにより、刃具をワークの加工面から離したときに高速回転する刃具の回転負荷が急激に減少し、かつ自在継手及びホルダーが傾動状態から直線状態に戻るように傾動荷重が外されたとき、吸収ロッドが吸収ばねにより軸方向下方に付勢されることと、ホルダーが摺動ホルダーとの間に配置されたばね部材により軸方向上方に付勢されること、とによって、傾動時に受入れ凹部の外側寄りに移動した自在継手ロッド先端の金属球を、受入れ凹部の略中央に強制的に移動させて、自在継手ロッドを直線状態に復帰させるものであることは、当業者が容易に理解し得るところである。これにより、回転するホルダーと刃具が傾動状態から直線状態により素早くスムーズに戻り、刃具がランダムに振れるという現象を解消する作用が生じることは否定することができないから、上記相違点に係る発明特定事項に技術的な意義がないということはできない。したがって、本件発明1が甲第1号証記載の発明と実質的に同一であるということもできない。
以上のとおり、本件発明1ないし8には、甲第1号証には見られない特徴的構成が含まれ、その構成によって本件特許発明特有の効果を奏するものであるから、甲第1号証記載の発明と同一ではない。したがって、甲第1号証記載の発明に係る特許を受ける権利が請求人に属するとしても、甲第10号証に、本件発明1ないし8に係る特許を受ける権利までも被請求人に属さないことが示されているということはできない。
よって、請求人の主張1には理由がない。

8.むすび
以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がないから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明は、請求人の主張及び証拠方法によっては無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
.
 
審決日 2011-01-07 
出願番号 特願2006-129379(P2006-129379)
審決分類 P 1 113・ 152- Y (B23Q)
P 1 113・ 121- Y (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 筑波 茂樹大川 登志男  
特許庁審判長 豊原 邦雄
特許庁審判官 所村 美和
千葉 成就
登録日 2006-10-20 
登録番号 特許第3868474号(P3868474)
発明の名称 加工工具  
代理人 村松 孝哉  
代理人 飯田 昭夫  
代理人 上田 千織  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  
代理人 江間 路子  

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