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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C21C
管理番号 1248395
審判番号 無効2011-800030  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-02-23 
確定日 2011-11-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4650226号発明「溶融還元方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4650226号に係る出願である特願2005-331125号は、平成17年11月16日に出願され、平成22年12月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求人大同エコメット株式会社、石井敦、酒井英治、岡本徹夫から、本件無効審判が請求されたものである。

以下に、請求以後の経緯を整理して示す。

平成23年 2月23日付け 審判請求書の提出
平成23年 5月11日付け 審判事件答弁書及び訂正請求書の提出
平成23年 6月24日付け 審判事件弁駁書の提出
平成23年 8月24日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より)
平成23年 9月 5日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より
)
平成23年 9月13日付け 口頭審理陳述要領書[その2]の提出(請求(同年 9月14日差出し) 人より)
平成23年 9月15日付け 口頭審理陳述要領書[その2の訂正]の提出
(請求人より)
平成23年 9月20日付け 口頭審理陳述要領書(その2)の提出(被(同年 9月21日差出し) 請求人より)
平成23年 9月21日付け 口頭審理陳述要領書[その3]の提出(請求
人より)
平成23年 9月21日 口頭審理の実施

なお、請求人からの口頭審理陳述要領書[その2]は取り下げられており、以降において、請求人からの口頭審理陳述要領書[その2の訂正]を、請求人からの口頭審理陳述要領書その2とする(第1回口頭審理調書参照)。

第2 請求人の主張
1 請求人は、審判請求書によれば、本件特許である特許第4650226号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、以下の甲第1?9号証を証拠方法として提出している。

甲第1号証;特開平9-310126号公報
甲第2号証;特開平9-95721号公報
甲第3号証;特開2005-281749号公報
甲第4号証;特開2001-181720号公報
甲第5号証;特開2001-19501号公報
甲第6号証;特開平3-140405号公報
甲第7号証;特開平1-263211号公報
甲第8号証;特開平7-11321号公報
甲第9号証;刊行物等提出書([受付番号]51002409030)

また、請求人は、審判事件弁駁書に添付して以下の甲第10?17号証を提出し、口頭審理陳述要領書に添付して以下の甲第18?20号証を提出し、口頭審理陳述要領書その2に添付して以下の甲第21号証を提出している。

甲第10号証;「LD転炉、コークス炉の溶射補修技術(「日本酸素技報」
昭和59年No.3より抜萃)、表紙、第1頁?第12頁」
、日本酸素株式会社
甲第11号証;特開昭60-208409号公報
甲第12号証;「川崎製鉄技報 Vol.21 No.3 1989年、表
紙、第22頁?第28頁」
甲第13号証;「材料とプロセス 第134回秋季講演大会 高温プロセス
、社会鉄鋼工学 Vol.10 No.4 1997年、表
紙、第845頁」、社団法人 日本鉄鋼協会
甲第14号証;「DSM」、大同特殊鋼株式会社、2000年6月
甲第15号証;「材料とプロセス 第123回(春季)講演大会 製錬凝固
プロセス Vol.5 No.1 1992年、表紙、第1
78頁、Vol.3 1990年、第1071頁、Vol.
1 1988年、第1080頁」、社団法人 日本鉄鋼協会
甲第16号証;特開昭63-7315号公報
甲第17号証;「汚泥、ばいじんに含まれるニッケル等のリサイクル事業」
、大同特殊鋼株式会社、大同エコメット株式会社
甲第18号証;「材料とプロセス 第124回(秋季)講演大会 製錬凝固
プロセス Vol.5 No.4 1992年、表紙、第1
180頁」、社団法人 日本鉄鋼協会
甲第19号証;「試験成績表」、日石三菱株式会社販売2グループ、平成1
2年11月2日
甲第20号証;「(2)ブードア平衡」、インターネット(ヤフー)「ブー
ドア反応」検索1件目(2011年8月16日現在)
甲第21号証;「鉄冶金熱力学、表紙、第205頁?第206頁」、日刊工
業新聞社

なお、甲第1?5参考資料を、甲第17?21号証と読み替えた(第1回口頭審理調書参照)。

2 そして、請求人は、審判請求書によれば、以下の無効理由A?Cを主張しているものと認める。なお、無効理由Cは、甲第9号証の記載に基づく主張である。

A;本件特許の請求項1,3に係る発明は、甲第1号証を主引用例として、甲第1?3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該請求項1,3に係る発明についての本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

B;本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証を主引用例として、甲第1?5号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該請求項2に係る発明についての本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

C;本件特許の請求項1?3に係る発明は、甲第3号証を主引用例として、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該請求項1?3に係る発明についての本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3 また、請求人は、口頭審理陳述要領書、その2、その3、第1回口頭審理調書によれば、平成23年5月11日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)が認められた場合にも、訂正後の本件特許について上記無効理由A?Cを主張している。

第3 被請求人の主張
被請求人は、訂正請求書において本件訂正を求めるとともに、審判事件答弁書において、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、以下の乙第1?4号証を証拠方法として提出している。

乙第1号証;ステンレス協会編「ステンレス鋼便覧-第3版」、日刊工業新
聞社発行、1995年1月24日、表紙、第772頁?第77
4頁、奥付
乙第2号証;社団法人 日本鉄鋼協会編「第4版 鉄鋼便覧 CD-ROM
」、社団法人 日本鉄鋼協会発行、平成14年7月30日、表
紙、「第2巻 2編 13・2・9 溶融還元法によるステン
レス粗溶湯溶製」の頁、奥付
乙第3号証;社団法人 日本鉄鋼協会編「大量生産規模における不純物元素
の精錬限界」、社団法人 日本鉄鋼協会発行、平成8年3月2
8日、表紙、第52頁?第53頁、奥付
乙第4号証;社団法人 日本鉄鋼協会編「第3版 鉄鋼便覧 II 製銑・
製鋼」、社団法人 日本鉄鋼協会発行、昭和55年2月25日
、表紙、第679頁?第683頁、奥付

第4 本件訂正について
1 本件訂正の内容
本件訂正は、訂正請求書及びそれに添付した特許請求の範囲及び訂正明細書の記載から見て、以下の訂正事項1?3からなるものと認める。

(1)訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1について、「鉱石装入ランスを設置し、」の次に、「前記上吹きランスから供給される酸化性ガスによって前記鉄浴型溶融還元炉内の溶湯を吹錬し、当該溶湯に添加される炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーを熱源として、前記鉄浴型溶融還元炉内に装入した鉱石を溶融し還元する溶融還元方法であって、」を追加する。

(2)訂正事項2
本件特許の特許請求の範囲の請求項1について、「当該バーナーから発生する火炎の中を通過するように前記鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入する」を、「当該バーナーから発生する火炎の中を通過するように前記鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入して、前記燃料の燃焼熱を鉱石に伝達し着熱させる」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許の明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の段落【0013】の
「本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、鉄浴型溶融還元炉の軸心上に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の鉱石を鉄浴型溶融還元炉内に装入する鉱石装入ランスを設置し、鉱石装入ランスの先端部に鉱石の流通孔を設けるとともに燃料と酸素を吹込む噴射孔からなるバーナーを設け、そのバーナーから発生する火炎の中を通過するように鉱石を鉄浴型溶融還元炉内に装入する溶融還元方法である。」を、
「本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、鉄浴型溶融還元炉の軸心上に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入する鉱石装入ランスを設置し、前記上吹きランスから供給される酸化性ガスによって前記鉄浴型溶融還元炉内の溶湯を吹錬し、当該溶湯に添加させる炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーを熱源として、前記鉄浴型溶融還元炉内に装入した鉱石を溶融し還元する溶融還元方法であって、前記鉱石装入ランスの先端部に鉱石の流通孔を設けるとともに燃料と酸素を吹込む噴射孔からなるバーナーを設け、当該バーナーから発生する火炎の中を通過するように前記鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入して、前記燃料の燃焼熱を鉱石に伝達し着熱させる溶融還元方法である。」と訂正する。

2 本件訂正の適否についての当審の判断
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の「溶融還元方法」について、「前記上吹きランスから供給される酸化性ガスによって前記鉄浴型溶融還元炉内の溶湯を吹錬し、当該溶湯に添加される炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーを熱源として、前記鉄浴型溶融還元炉内に装入した鉱石を溶融し還元する」という限定を付するものである。
そして、本件明細書の段落【0003】には、「溶融還元法の熱源は、炉内に酸素(O_(2))を供給することによって、炉内に装入された炭材を燃焼(いわゆる一次燃焼)させて得られる熱エネルギーと、一次燃焼によって発生する一酸化炭素(CO)をさらに燃焼(いわゆる二次燃焼)させて二酸化炭素(CO_(2))を生成することによって得られる熱エネルギーと、が使用される」と記載されており、また、段落【0022】には、「上吹きランス5から供給される酸化性ガスの流量をO_(2)量に換算して15Nm^(3)/min・・・として吹錬を開始し・・・コークスを適宜添加しながら、溶湯2を1600℃まで昇温して、鉱石装入ランス6から粉粒状の鉱石11(すなわちクロム鉱石)の装入を開始するとともに、鉱石装入ランス6の先端部に設けたバーナーから燃料12(すなわちCガス)とO_(2) とを炉内に吹込んで、溶融還元を行なった。」と記載されている。
ここで、吹錬によって達成される1600℃という溶湯温度は、段落【0023】の記載によると「溶融還元に好適な」温度である一方、段落【0020】の「つまり本発明によれば、・・・着熱効率を向上することができる」、段落【0021】の「バーナーから火炎が発生する。鉱石11は、その火炎の中を通過して炉内に装入される」との記載によると、炉内に装入される鉱石は、バーナーの火炎を通過する間に着熱するものであって、着熱によりその一部が溶融し得るにしても、その主たる溶融や還元の熱源が火炎による熱エネルギーであることを示す記載はない。
そうすると、願書に添付した明細書又は図面には、「溶融還元方法」について、その熱源が、上吹きランスから供給される酸化性ガスによって前記鉄浴型溶融還元炉内の溶湯を吹錬し、当該溶湯に添加させる炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーであるとする上記の限定が、記載されていたと認められる。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の「バーナーから発生する火炎の中を通過するように前記鉱石を・・・装入」することの作用(以下、「バーナーの作用」という。)を「燃料の燃焼熱を鉱石に伝達し着熱させる」と明りょうにして限定したものであり、本件明細書の段落【0020】には、「図1に示す装置を用いて燃焼実験を行なった結果、鉱石11への着熱効率を高められて、溶湯3への着熱効率も向上した」との記載がある。そして、段落【0019】には、図1に断面図として示す装置に関して、「バーナーからO_(2) と燃料を炉内に吹込み、バーナーから発生する火炎の中を鉱石11が通過して炉内へ装入される」ことが記載されており、バーナーから発生する火炎の中を鉱石が通過することによって、燃料の燃焼熱が鉱石に着熱されているものと認められる。
そうすると、訂正事項2は、段落【0019】,【0020】の記載に基づき、バーナーの作用を明りょう化し、限定するものであって、明りょうでない記載の釈明又は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、この訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、上記訂正事項1,2との整合を図るべく、本件明細書の段落【0013】の記載を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
そして、この訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。

(4) まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定を満たし、また、同条第5項において準用する特許法第126条第3項、及び第4項の規定に適合するので、これを認める。

第5 当審の判断
1 無効理由について
先の「第4」で述べたとおり、本件訂正は認められるものである。したがって、以下において本件訂正後の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明3」という。)に対する無効理由A?Cについて検討する。

2 訂正発明
本件訂正発明1?3は、それぞれ訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本件訂正発明1?3は次のとおりのものである。

本件訂正発明1:
「【請求項1】
鉄浴型溶融還元炉の軸心上に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入する鉱石装入ランスを設置し、前記上吹きランスから供給される酸化性ガスによって前記鉄浴型溶融還元炉内の溶湯を吹錬し、当該溶湯に添加される炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーを熱源として、前記鉄浴型溶融還元炉内に装入した鉱石を溶融し還元する溶融還元方法であって、前記鉱石装入ランスの先端部に鉱石の流通孔を設けるとともに燃料と酸素を吹込む噴射孔からなるバーナーを設け、当該バーナーから発生する火炎の中を通過するように前記鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入して、前記燃料の燃焼熱を鉱石に伝達し着熱させることを特徴とする溶融還元方法。」

本件訂正発明2:
「【請求項2】
請求項1において、燃料としてプロパンガスやCガス等の気体燃料、重油等の液体燃料およびプラスチック等の固体燃料のうちの1種または2種以上を使用することを特徴とする溶融還元方法。」

本件訂正発明3:
「【請求項3】
請求項1または2において、粉粒状の鉱石がクロム鉱石であることを特徴とする溶融還元方法。」

3 甲号証の記載事項
3-1 甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特開平9-310126号公報)には、以下の記載がある。

[1a]「【請求項1】 金属酸化物を粉粒状となし、これを反応炉内においてバーナからの高温火炎中に供給して加熱し、溶融させるとともに該反応炉内に還元剤を供給して該溶融した金属酸化物と該還元剤とを反応させて該金属酸化物を還元し、金属を得ることを特徴とする金属酸化物から金属を得る製造方法。」

[1b]「【0006】本願の発明はこのように鉄酸化物を主体とするダストを粉粒状態で高温火炎中に放出したとき、これを容易に溶融させることができるとの知見に基づき、上記発明を更に発展させて完成したものである。」

[1c]「【0043】本発明においては、基本的にバーナからの火炎によって還元反応に必要な熱量を確保することが可能であるが、場合によってアーク加熱,誘導加熱若しくは溶湯中でのCO反応熱等の他の加熱手段を併用することによって必要な熱量を補足することも可能である(請求項14)。」

[1d]「【0044】
・・・
酸素バーナ12は、図2に示しているように先端面の中心部に燃料の噴射孔14を有し、その外側に一次酸素の噴射孔16を、更にその外側に粉粒の噴射孔20を、更にその外側、つまり最外周位置に二次酸素の噴射孔18をそれぞれ同心状に配した形態をなしている。」

[1e]「【0049】尚、それぞれの供給量は以下の量とした。
重油 800l/H
O_(2) 1600Nm^(3)/H
粉鉱石 2.8t/H
コークス粒 0.75t/H
【0050】ここで重油と酸素の供給量は、重油が完全燃焼するに必要な量で供給した。」

[1f]「【0073】〈実施例4〉図5に示す設備及び方法にて・・・表9に示す成分の溶鋼10.5tを炉体10内に投入した。
【0074】・・・
【0075】この溶鋼に対し、表10に示す成分で且つ200メッシュ以下92%に粉砕したクロム鉱石を、下記の条件で酸素バーナ12により炉内に噴出して溶融させた。・・・
重油 800l/H
O_(2) 1600Nm^(3)/H
クロム粉鉱石 2.5t/H
【0076】・・・
【0077】上記処理を1時間行ってクロム鉱石の溶融及び還元反応を行わせた・・・」

[1g]「【図2】



[1h]「【図5】



3-2 甲第2号証の記載事項
甲第2号証(特開平9-95721号公報)には、以下の記載がある。

[2a]「【請求項1】 上底吹き転炉において、酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に粉状のクロム鉱石を供給するランスを設け、
両ランスから酸化性ガスとクロム鉱石粉とをそれぞれ個別に供給すると同時に、炉内に炭材を供給して、クロム鉱石粉の溶融還元を行うに際し、
炉の軸心上方に設置した上吹きランスから供給される酸化性ガスジェットに向けて、該軸心に対し5°?30°の傾斜角度でクロム鉱石粉を投入し、該クロム鉱石粉の吹き込み粉流の中心を、炉径の 0.2倍以内の炉心領域に収めることを特徴とする溶融還元炉におけるクロム鉱石粉の投入方法。」

[2b]「【0026】上吹きランスのランス高さは静止溶鋼面から 4.2m、また投入ランスのランス高さは静止溶鋼面から 5.2m、両者間の間隔は 1.0mとし、上吹き酸素量:400?800 Nm^(3)/min 、底吹き酸素量:80 Nm^(3)/min、底吹き窒素量:40 Nm^(3)/minの条件で吹錬を開始した。溶銑温度が1550℃から1600℃になるまでコークスを1.57 kg/Nm^(3)-O_(2)の割合で供給し、所定の温度になった時点で、クロム鉱石粉の供給を開始した。」

3-3 甲第3号証の記載事項
甲第3号証(特開2005-281749号公報)には、以下の記載がある。

[3a]「【請求項1】
酸化性ガスの上吹きランス及び該上吹きランスとは別の原料供給ランスを備えた鉄浴型反応容器を用い、該容器に保持した溶鉄に炭材を投入すると共に、該原料供給ランスを介して、前記上吹きランスから噴射された酸化性ガスジェットに向け、粉粒状の金属酸化物鉱石を供給する金属酸化物含有鉱石の溶融還元方法において、
前記金属酸化物含有鉱石に加え、水素含有燃料を同時に供給することを特徴とする金属酸化物含有鉱石の溶融還元方法。」

[3b]「【0003】
・・・
溶融還元法での熱源は、反応容器内に供給した炭素源を、別途該容器内へ吹き込んだ酸素ガスで燃焼(所謂、一次燃焼)させて生じる「一次燃焼熱」及び該一次燃焼により発生した一酸化炭素(記号:CO)ガスを反応容器のフリーボード(鉄浴表面上の空間)で酸素ガスにより二酸化炭素(記号:CO_(2))ガスまで燃焼させて生じる「二次燃焼熱」である。」

[3c]「【0007】
すなわち、安価な鉱石の大量使用には、上述したように、大量の加熱・還元エネルギーが必要となる。それを前記「一次燃焼熱」で達成する場合、通常供給する酸素量の増加が有効であるので、上吹きランスを介して供給される酸素の増量が行われる。しかしながら、要求に従い酸素ガスの供給速度を増加させると、炉内からのダストの発生が増大するという現象が生じる。このようなダストの発生の増大は,製造する溶鋼の歩留り低下及びその後のダスト処理コストの増大等をもたらす。また、通常、上吹き酸素を高速で供給すると、前記した2次燃焼の発生割合(二次燃焼率ともいい、炉口ガス中のCO/(CO+CO_(2)で定義される)が低下するといった問題もある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑み、炉内発生ダストの増加や炉壁耐火物の溶損を助長させることなく、安価な金属酸化物含有鉱石を大量に使用可能な金属酸化物含有鉱石の溶融還元方法を提供することを目的としている。」

[3d]「【0016】
以下、発明をなすに至った経緯をまじえ、本発明の最良の実施形態を説明する。
【0017】
・・・
【0018】
そこで、発明者は、特許文献2記載の炉内に水素を含有する燃料を添加する技術に着目し、総発熱量を増加させ、かつ溶鉄への着熱効率を高位に維持することについて検討した。ところが、この特許文献2記載の技術では、水素を含有する燃料を予熱なしの状態で耐火物側壁より添加し、前記フリーボード内で燃焼させるので、通常の炉内発生COガスの二次燃焼を増加させた場合と同様の効果しか得られなかった。そのため、発明者は、溶鉄への着熱効率を高位に維持することについて鋭意研究を重ね、特許文献1記載の技術に改良を加え、水素を含有する燃料の吹き込みを、酸素ガスの上吹きランスとは別に設けたランスを介して炉内へ供給される鉱石の粉体流に混合させるようにすれば、鉱石自体に燃料の発熱量を直接伝達でき、また、燃料自体も酸素ガスと出会う前に雰囲気により予熱され、着火も起き易くなるので、結果的に溶鉄への着熱効率が上げられるのではと考えた。」

[3e]「【0020】
その結果、図1に示すように、水素含有燃料を原料供給ランス6を介して炉内、つまり上吹きランス5からの酸素ガスジェット10に向けて吹き込んだ場合には、着熱効率が非常に高くなり、鉱石の投人量を従来より格段に増加できることを見出した。その場合、上吹きランス5からの酸素ガスの量を増加させる必要がないので、炉内発生ダストの増加はなく、また燃料は酸化性ガスジェット内で燃焼するため、炉壁耐火物の溶損も促進しないという効果もあった。」

[3f]「【実施例】
【0023】
・・・
【0024】
鉄浴型反応容器として、5トン規摸の上底吹き試験転炉を採用し、クロム鉱石の溶融還元操業を行った。予め4トンの溶銑(溶鉄)2を該転炉14に装入し、図1に示したように、鉱石を供給する原料供給ランス6と酸化性ガス(ここでは、酸素ガス)を供給する上吹きランス5とを、該転炉14の上方に鉛直に配設した。上吹き酸素ガス量:15m^(3)(標準状態)/min、底吹き酸素ガス量:5m^(3)(標準状態)/minの条件で、炭材としてのコークス粉を投入用のシュートを介して適宜供給しながら、操業を開始した。
【0025】
溶銑の温度が1600℃になるまで昇熱し、溶銑温度が上記温度に達した時点で、上記原料供給ランス6を介してクロム鉱石粉の供給を開始すると同時に、該原料供給ランス6を介して燃料として水素含有量が82.3(H_(2):54.8%,CH_(4):27.5%)容量%のCガスを供給するようにした。・・・
【0026】
・・・
【0027】
また、本発明の効果を確認するため、比較例としての操業も別途行った。ただし、比較例1では、図2で示したように、燃料のCガスを原料供給ランス6ではなく、別途設けた燃料供給専用ランス13から供給し、さらに比較例2では、燃料吹き込みを行わない条件での操業を実施した。他の操業条件は、実施例と同様である。
【0028】
各操業での総発熱量、着熱効率及びクロム鉱石の総投入量を指数化し(比較例2のあおれらの値を100として)、表1に一括して示す。表1より、本発明に係る実施例では、比較例に比較して、クロム鉱石の総投入量が多く、且つ溶鉄への着熱効率も高位であることが明らかである。つまり、本発明によれば、上吹き酸素ガス量の増加によるダストの増加や、二次燃焼による炉壁耐火物の溶損を助長させることなく、炉内に供給される鉱石に燃料の燃焼熱を効率的に着熱でき、安価な鉱石を従来より大量に使用可能であることが確認された。
【0029】
【表1】



[3g]「【図1】



3-4 甲第4号証の記載事項
甲第4号証(特開2001-181720号公報)には、以下の記載がある。

[4a]「【請求項1】 粉状の鉄酸化物および粉状の炭素質物質からなる原料を回転炉床炉に装入し、炉内上方からの輻射伝熱により原料を加熱して還元を行うにあたり、還元鉄を排出する位置の後方から前記原料を装入する位置までの間に、炉床表面を加熱する手段を設け、前記原料を装入する位置における炉床表面の温度を600℃以上とすることを特徴とする還元鉄製造方法。
・・・
【請求項3】 炉床表面を加熱する手段は、燃焼バーナーによる加熱である請求項1または2に記載の還元鉄製造方法。」

[4b]「【0040】なお、バーナー用燃料としては、従来法と同様、天然ガス、コークス炉ガス、プロパンガス、ブタンガス等のガス燃料、重油等の液体燃料、または石炭等の固体燃料のいずれであっても差し支えなく、酸素含有ガスとしては、空気または酸素富化空気を用いるのがよい。」

3-5 甲第5号証の記載事項
甲第5号証(特開2001-19501号公報)には、以下の記載がある。

[5a]「【請求項1】 製鋼排出物としての製鋼ダストと環元スラグとを混合溶融処理する溶融炉において、
廃プラスチックまたは/およびシュレッダーダストを熱源として、前記製鋼ダストおよび環元スラグを溶融することを特徴とする溶融炉の操業方法。
【請求項2】 前記溶融炉に配設した酸素バーナ(14)に酸素、重油、廃プラスチックまたは/およびシュレッダーダストを供給して形成した高温火炎に、前記製鋼ダストおよび環元スラグを供給して溶融する請求項1記載の溶融炉の操業方法。」

4 甲号証に記載された発明の認定
4-1 甲第1号証に記載された発明
[1a]によれば、金属酸化物を粉粒状となし、これを反応炉内においてバーナからの高温火炎中に供給して加熱し、溶融させるとともに該金属酸化物を還元することが記載され、[1f]によれば、[1a]に記載された金属酸化物としてクロム鉱石を採用し、溶鋼が投入された反応炉内に供給した実施例が記載されており、[1d]、図2、図5によれば、バーナの先端部に粉粒のクロム鉱石の流通孔を設けるとともに燃料と酸素を吹込む噴射孔を設けることが記載されている。
以上の記載を、本件訂正発明1の記載ぶりに沿って整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「粉粒状のクロム鉱石を溶鋼が投入された反応炉内に装入するバーナを設置し、バーナの加熱によりクロム鉱石を溶融させるとともに前記反応炉内で溶融したクロム鉱石を還元する溶融還元方法であって、前記バーナの先端部にクロム鉱石の流通孔を設けるとともに燃料と酸素を吹込む噴射孔を設け、当該バーナから発生する火炎の中を通過するように前記クロム鉱石を前記反応炉内に装入して、前記燃料の燃焼熱をクロム鉱石に伝達し着熱させることを特徴とする溶融還元方法。」(以下、「甲1発明」という。)

4-2 甲第3号証に記載された発明
[3a]によれば、鉄浴型反応容器に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の金属酸化物鉱石を前記鉄浴型反応容器内に装入する原料供給ランスを設置し、前記上吹きランスから噴射された酸化性ガスジェットに向け、前記金属酸化物鉱石と水素含有燃料とを同時に供給する溶融還元方法が記載されており、[3b]によれば、溶融還元方法の熱源が、吹錬によって溶湯に添加される炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーであることが記載され、[3e]によれば、水素含有燃料を上吹きランスからの酸素ガスジェットに向けて吹き込むと着熱効率が高まり、その場合、水素含有燃料が酸化性ガスジェット内で燃焼することが記載されている。
また、図1によれば、鉱石供給配管8、及び燃料供給配管9から原料供給ランス6に鉱石、及び燃料が供給され、前記原料供給ランスの先端部から鉱石が投入されるとともに燃料が吹き込まれている上底吹き転炉の断面図が示されており、前記原料ランスの先端部に鉱石の流通孔と燃料の噴射孔が設けられているものと認められる。
したがって、甲第3号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「鉄浴型反応容器に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の金属酸化物鉱石を鉄浴型反応容器内に装入する原料供給ランスを設置し、前記上吹きランスから供給される酸化性ガスによって前記鉄浴型反応容器内の溶湯を吹錬し、当該溶湯に添加される炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーを熱源として、前記鉄浴型反応容器内に装入した鉱石を溶融し還元する溶融還元方法であって、前記原料供給ランスの先端部に金属酸化物鉱石の流通孔を設けるとともに水素含有燃料を吹込む噴射孔を設け、前記上吹きランスから噴射された酸化性ガスジェットに向け、前記金属酸化物鉱石と前記水素含有燃料とを同時に供給し、前記水素含有燃料の燃焼熱を前記金属酸化物鉱石に伝達し着熱させることを特徴とする溶融還元方法。」(以下、「甲3発明」という。)

5 無効理由についての判断
5-1 無効理由Aについて
(1) 本件訂正発明1と甲1発明との対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「溶鋼が投入された反応炉」は、鉄浴型の反応炉であって、当該反応炉内でクロム鉱石の溶融、還元が行われているから、本件訂正発明1の「鉄浴型溶融還元炉」に相当する。また、甲1発明の「バーナ」は、先端部にクロム鉱石の流通孔が設けられ、クロム鉱石を反応炉内に装入する部材であるから、クロム鉱石を装入する鉱石装入ランスとしての機能を併せ有することが明らかである。
すると、両者は、
「粉粒状の鉱石を鉄浴型溶融還元炉内に装入する鉱石装入ランスを設置し、前記鉄浴型溶融還元炉内に装入した鉱石を溶融し還元する溶融還元方法であって、前記鉱石装入ランスの先端部に鉱石の流通孔を設けるとともに燃料と酸素を吹込む噴射孔からなるバーナーを設け、当該バーナーから発生する火炎の中を通過するように前記鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入して、前記燃料の燃焼熱を鉱石に伝達し着熱させる、溶融還元方法。」で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本件訂正発明1は、鉄浴型溶融還元炉の軸心上に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスを鉱石装入ランスとは別に設置し、前記上吹きランスから供給される酸化性ガスによって前記鉄浴型溶融還元炉内の溶湯を吹錬するのに対して、甲1発明は、上吹きランスが軸心上に設置されていない点。

相違点2:
本件訂正発明1は、溶湯に添加させる炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーを熱源として、鉄浴型溶融還元炉内に装入した鉱石を溶融し還元するのに対して、甲1発明は、バーナーの加熱により鉱石を溶融し還元する点。

(2) 相違点の判断
ア 相違点1について
甲第1号証の[1b]に記載されるように、甲1発明は、鉄酸化物を主体とするダストを粉粒状態で高温火炎中に放出したとき、これを容易に溶融させることができるとの知見に基づき、これを更に発展させて完成したものであって、[1c]に、「基本的にバーナからの火炎によって還元反応に必要な熱量を確保することが可能である」と記載されているように、甲1発明は、バーナーからの火炎によって鉱石の溶融、さらに還元反応に必要な熱量を確保することを基本的な技術思想とするものである。
他方、上吹きランスを炉内の軸心上、あるいはほぼ軸心上に設置して鉱石を溶融還元することは、甲第2号証の[2a]、あるいは甲第3号証の[3a]、[3b]、図1に記載されるように、本件訂正発明1の出願前周知の技術ということができる。
しかしながら、上吹きランスを含む酸素ガス吹き込み手段を用いた溶融還元法においては、[3b]に記載されるように、吹き込まれた酸素ガスによる燃焼熱により鉱石の溶融還元に必要な熱量を確保するものであり、また、[2b]、あるいは[3f]に記載される上吹きランスからの酸素ガス吹き込み量を見れば明らかなとおり、上記燃焼熱の大部分は上吹きランスからの酸素ガス吹き込みによって供給されるものである。
そうすると、バーナーからの火炎によって必要な熱量を確保することを基本的な技術思想とする甲1発明において、主たる熱源の供給手段である上吹きランスを別途設置する動機付けを見出すことができない。
なお、甲第1号証の[1c]には、甲1発明における補足的な熱量に関して、CO反応熱を併用することも可能であることが記載されているが、CO反応熱が具体的にどのような反応に基づく反応熱であるのかが開示されていないし、バーナーの燃焼熱をより小さくして、CO反応熱を溶融還元の主たる熱源とすることについても記載も示唆もない。
したがって、仮に上記CO反応熱が酸素ガスの燃焼による反応熱を意図することが容易に想到できたとしても、上吹き、底吹き等、多様な酸素ガスの供給手段が存在する中で、主たる熱源の供給手段として慣用されている上吹きランスによる酸素ガス供給手段を甲1発明に付加することが、当業者にとって容易に想到できたものとまではいえない。
以上のとおりであるから、甲1発明において上記相違点1を解消することは、当業者が容易になし得たことではない。

イ 相違点2について
上記「5-1 (2) ア」で述べたとおり、甲1発明は、バーナーからの火炎によって鉱石の溶融、さらに還元反応に必要な熱量を確保することを基本的な技術思想とするものであるから、炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーを熱源として、鉱石を溶融し還元する手段を採用する動機付けを見出すことができない。
なお、上記「5-1 (2) ア」でも述べたが、甲第1号証の[1c]には、甲1発明における補足的な熱量に関して、CO反応熱を併用することも可能であることが記載されている。
しかしながら、甲第1号証には上記CO反応熱が具体的にどのような反応に基づく反応熱であるのかが開示されていないし、仮に上記CO反応熱が本件訂正発明1における一次燃焼、あるいは二次燃焼による反応熱を意図することが容易に想到できたとしても、鉱石を溶融し還元する熱源として、バーナーからの火炎による熱源に代え、当該反応熱による補足的な熱源を採用することが、当業者にとって容易に想到できたものとまではいえない。
したがって、甲1発明において上記相違点2を解消することも、当業者が容易になし得たことではない。

(3) 相違点についての請求人の主張について
請求人は上記相違点1,2の想到容易性について、要するに以下の主張をしているものと認める。
甲1発明には上吹きランスによる酸素ガスの供給が行われていないが、金属酸化物の還元反応に内在する炭材の一次燃焼、及び酸素バーナの残留酸素による一次燃焼、二次燃焼が明らかに存在するのであって、本件訂正発明1とは単にその量が異なるだけに過ぎない。そして量の問題は本質的な相違点ではなく、甲第2号証に記載のごとき上吹きランスによって量を増やすことは当業者にとって容易に想到し得ることである(口頭審理陳述要領書第4頁第12行?第21行、第6頁第16行?第38行)。

そこで、上記主張について検討する。
上記「5-1 (2)」でも述べたとおり、甲1発明は、鉄酸化物を主体とするダストを粉粒状態で高温火炎中に放出したとき、これを容易に溶融させることができるとの知見に基づき、これを更に発展させて完成したものであって、バーナーからの火炎によって鉱石の溶融、さらに還元反応に必要な熱量を確保することを基本とするものである。
そうすると、上記請求人が主張する、金属酸化物の還元反応に内在する炭材の一次燃焼、及び酸素バーナの残留酸素による一次燃焼、二次燃焼が甲1発明において実際に起きているとしても、かかる燃焼熱による鉱石の溶融、還元反応への寄与は、バーナーからの火炎によって供給される熱量に比して限定的であると解さざるを得ないのである。
そして、かかる燃焼熱を、バーナーからの火炎によって供給される熱量に代えて、鉱石の溶融、さらに還元反応に必要な主たる熱量とすることは、甲1発明の本質的な技術思想を変更するものであり、当業者が容易に想到し得ることということはできない。
したがって、上記請求人の主張は理由がない。

(4) 本件訂正発明3と甲1発明との対比、及び相違点の判断
本件訂正発明3は、本件訂正発明1に従属する発明であるから、本件訂正発明3と甲1発明との対比において、両者は上記「5-1 (1)」で述べた相違点を有し、その相違点についての判断は、上記「5-1 (2)」で述べたとおりのものである。

(5) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1,3は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものとすることはできず、無効理由Aは理由がない。

5-2 無効理由Bについて
本件訂正発明2は、本件訂正発明1に従属する発明であるから、本件訂正発明2と甲1発明との対比において、両者は上記「5-1 (1)」で述べた相違点を有する。
そして、甲第2号証、甲第3号証の記載に基づき、上記相違点を解消することが当業者にとって容易に想到し得るとはいえないことは、上記「5-1 (2)」で述べたとおりである。
また、甲第4号証の[4a]、[4b]、甲第5号証の[5a]には、本件訂正発明2において新たに特定された事項である、燃焼バーナに供給する燃料に関しては記載されているものの、上記相違点に関する事項である、上吹きランスの設置や、炭材の燃焼による一次燃焼や二次燃焼についての記載はないから、甲第4号証、甲第5号証の記載に基づき上記相違点を解消することも、当業者にとって容易に想到し得ないことは明らかである。
以上のとおりであるから、本件訂正発明2は、甲第1?5号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものとすることはできず、無効理由Bは理由がない。

5-3 無効理由Cについて
(1) 本件訂正発明1と甲3発明との対比
本件訂正発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「鉄浴型反応容器」、「原料供給ランス」は、それぞれ本件訂正発明1の「鉄浴型溶融還元炉」、「鉱石装入ランス」に相当する。
すると、両者は、
「鉄浴型溶融還元炉に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の鉱石を鉄浴型溶融還元炉内に装入する鉱石装入ランスを設置し、前記上吹きランスから供給される酸化性ガスによって前記鉄浴型溶融還元炉内の溶湯を吹錬し、当該溶湯に添加させる炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーを熱源として、前記鉄浴型溶融還元炉内に装入した鉱石を溶融し還元する溶融還元方法であって、前記鉱石装入ランスの先端部に鉱石の流通孔を設けるとともに燃料を吹込む噴射孔を設け、前記燃料の燃焼熱を鉱石に伝達し着熱させることを特徴とする溶融還元方法。」で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本件訂正発明1は、上吹きランスが鉄浴型溶融還元炉の軸心上に設置されているのに対して、甲3発明は、上吹きランスが鉄浴型溶融還元炉の軸心上に設置されているか不明である点。

相違点2:
本件訂正発明1は、鉱石装入ランスの先端部に酸素を吹込む噴射孔を有するバーナーを設け、当該バーナーから発生する火炎の中を通過するように鉱石を鉄浴型溶融還元炉内に装入するのに対して、甲3発明は、上吹きランスから噴射された酸化性ガスジェットに向け、鉱石と燃料とを同時に供給する点。

(2) 相違点の判断
まず相違点2について、以下に検討する。
甲第3号証の[3b]には、溶融還元法の熱源が、反応容器内に供給した炭素源を、別途該容器内へ吹き込んだ酸素ガスで燃焼(所謂、一次燃焼)させて生じる「一次燃焼熱」及び該一次燃焼により発生した一酸化炭素ガスを反応容器のフリーボードで酸素ガスにより二酸化炭素ガスまで燃焼させて生じる「二次燃焼熱」であることが記載され、また、[3f]には、炉内に供給される鉱石に燃料の燃焼熱を着熱した実施例における総発熱量指数が107.5であるのに対して、燃料吹き込みを行わない比較例2における総発熱量指数が100である実施結果が示されているから、甲3発明における主たる熱源は、反応容器内に供給した炭素源を、別途該容器内へ吹き込んだ酸素ガスで燃焼させて生じる「一次燃焼熱」及び該一次燃焼により発生した一酸化炭素ガスを酸素ガスにより二酸化炭素ガスまで燃焼させて生じる「二次燃焼熱」であるといえる。
他方、甲第1号証の[1a]には、粉粒状の金属酸化物をバーナからの高温火炎中に供給して加熱し、溶融させるとともに該金属酸化物を還元する方法が記載されており、[1c]の記載から、上記方法は、上記バーナからの火炎によって、金属酸化物の溶融、還元反応に必要な主たる熱量を確保しているものと認められる。
そうすると、甲3発明において、上吹きランスから噴射された酸化性ガスジェットに向け、鉱石と燃料とを同時に供給する手段に代えて、甲第1号証に記載されるような、主たる熱量の供給手段であるバーナの火炎中を通過させる供給手段を採用することは、主たる熱源を酸化性ガスジェットとバーナによる火炎とで二重に設けることとなるから、甲3発明に、甲第1号証に記載されるバーナを適用することは、阻害要因を含むものといえる。

また、甲第3号証の[3d]には、甲3発明をなすに至った経緯に関して、水素を含有する燃料を予熱なしの状態で添加する従来技術に改良を加え、燃料自体が酸素ガスと出会う前に雰囲気により予熱され、着火を起き易くすることにより、着熱効率が上げられるのではと考えたことが記載されており、燃料が酸素ガスに供給される前に雰囲気により予熱することで着火を起き易くすることが、甲3発明の主要な技術思想の一つであるものと認められる。
この点からも、甲3発明に、燃料が酸素ガスに供給される前に雰囲気により予熱されることのない、甲第1号証に記載されたバーナを使用した鉱石の供給手段を適用することには、阻害要因が存在するものといえる。

したがって、甲3発明において上記相違点2を解消することは、当業者が容易になし得たことではない。

(3) 相違点についての請求人の主張について
請求人は上記相違点2の想到容易性について、要するに以下の主張をしているものと認める。
甲1号証に記載された酸素バーナを甲3発明に適用することによって本件訂正発明1をなすことは、甲1号証に記載された発明と、本件訂正発明1とが「鉄浴型溶融還元炉における鉱石装入方法」という同一の技術分野であること、および両者が「燃料の発熱量を効率よく鉱石に伝達する」という共通の課題を持つことから、当業者にとって容易に想到し得ることである(口頭審理陳述要領書第7頁第34行?第8頁第7行)。

そこで、上記主張について検討する。
甲1号証に記載された酸素バーナを甲3発明に適用することの想到容易性を検討するに当たっては、甲1号証に記載された発明と、甲3発明との技術分野の関連性、及び課題の共通性を検討することが必要であって、甲1号証に記載された発明と、本件訂正発明1との技術分野の関連性、及び課題の共通性が、甲1号証に記載された酸素バーナを甲3発明に適用することの想到容易性を肯定する根拠とはなり得ない。
そうすると、上記請求人の主張は、その根拠に誤りがあるといわざるを得ない。
そして、甲1号証に記載された発明と、甲3発明とは、金属酸化物を炉内で溶融、還元させる点で共通する技術分野に属するものということができるが、主たる熱源について見ると、前者がバーナからの高温火炎である([1a]、[1c]参照)のに対して後者が上吹きランスを使用した吹錬による燃焼熱であって、両者は主たる熱量の供給手段が異なっている。それゆえ、甲1号証に記載された発明は、[1a]、[1b]の記載から、金属酸化物を粉粒状態でバーナからの高温火炎中に放出することにより溶融させ、さらに還元剤によって還元して金属を得ることを課題としているものといえるのに対して、甲3発明は、[3c]、[3e]の記載によれば、上吹きランスを使用することによって発生する炉内ダストの増加や炉壁耐火物の溶損を助長させることなく、金属酸化物含有鉱石を大量に使用可能な金属酸化物含有鉱石の溶融還元方法を提供することを課題としており、両者の課題も異なっており、共通性は認められない。
さらに、甲1号証に記載された酸素バーナを甲3発明に適用する際に阻害要因が存在することは、上記「5-3 (2)」で述べたとおりである。
以上のとおりであるから、上記請求人の主張は理由がない。

(4) 本件訂正発明2,3と甲3発明との対比、及び相違点の判断
本件訂正発明2,3は、本件訂正発明1に従属する発明であるから、本件訂正発明2,3と甲3発明との対比において、両者は上記「5-3 (1)」で述べた相違点を有し、その相違点についての判断は、上記「5-3 (2)」で述べたとおりのものである。

(5) 小括
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1?3は、甲第1,3号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものとすることはできず、無効理由Cは理由がない。

5-4 他の証拠について
ア 甲第6?8号証には、溶融還元法において、上吹きランスから酸素を供給することで、一次燃焼、二次燃焼が発生することが記載されている(甲第6号証の特許請求の範囲、第8頁左下欄第3行?第10行、甲第7号証の第2頁左上欄第1行?左下欄第16行、甲第8号証の段落【0001】?【0006】)。
甲第9号証には、特願2005-331125の請求項1?3の各発明が、刊行物1(甲第3号証)に記載のものに、刊行物2(甲第1号証)に記載のものを適用することにより容易に推考し得るものであることが記載されている((原稿)第2頁第7行?第9行)。
甲第10号証には、LD転炉の火炎溶射補修技術に関して、溶射バーナーの燃焼特性が記載されている(第1頁右欄?第5頁右欄)。
甲第11号証には、溶融還元による金属溶湯の製造方法に関して、ランスから火炎を発生させ、この火炎中にクロム鉱石を通過させることが記載されている(特許請求の範囲、第4頁右上欄第4行?左下欄第3行)。
甲第12,13号証には、溶融還元法に供されるクロム鉱石の形状について記載されている(甲第12号証の第28頁左欄、甲第13号証の第845頁「2.」の欄)。
甲第14号証には、電炉ダストと還元スラグを特殊な酸素バーナーで混合
溶融し、溶融スラグと2次ダストを得るプロセスの概要が記載されている(「プロセスの概要」の頁)。
甲第15号証には、溶融還元法における二次燃焼率について記載されている(「15号証1/3」の頁の「3.結果と考察」の欄、「15号証2/3」の頁の「2.試験方法」の欄、「15号証3/3」の頁の「2.試験方法」の欄)。
甲第16号証には、酸素底吹き転炉におけるCOガスの2次燃焼方法が記載されている(特許請求の範囲)。
甲第17号証には、粉体を高温火炎の酸素バーナーで溶融還元するプロセ
スの概要が記載されている(「プロセスの概要」の頁)。
甲第18号証には、多量のスラグが存在する条件での溶融還元における酸化鉄還元反応機構が記載されている(「1.緒言」、及び「4.まとめ」の欄)。
甲第19号証には、重油の密度、組成等に関する試験成績表が記載されている。
甲第20号証には、固体炭素を還元剤として、酸化鉄である鉄鉱石を還元する場合のブードア平衡について記載されている(「(2)ブードア平衡」の欄)。
甲第21号証には、各種物質の標準生成熱と標準エントロピーが記載されている。

イ しかし、上記の各甲号証には、上吹きランスとは別に鉱石装入ランスを設置し、当該鉱石装入ランスから発生する火炎中に鉱石を通過させる構成は記載されておらず、示唆するところもない。

ウ 以上のとおりであるから、上記の各甲号証に記載された事項が全て周知の技術であるとしても、甲1,3発明と組み合わせて本件訂正発明1?3を導くことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件訂正発明1?3についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
溶融還元方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉等の鉄浴型溶融還元炉にて金属酸化物や酸化物系鉱石の粉体または粒体を還元して金属溶湯を得る溶融還元方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高価な合金鉄の代わりに安価な鉱石(たとえばクロム鉱石)を、炭材(たとえばコークス等)とともに転炉等の鉄浴型溶融還元炉に装入して、鉱石を炉内で溶融還元することによって有価金属(たとえばクロム等)を含有する溶湯を溶製する技術は、溶融還元法と呼ばれている。溶融還元法では粒径の小さい粉粒状の鉱石が使用されるが、その鉱石中の有価金属を溶湯として回収するためには、大量の熱エネルギーを必要とするばかりでなく、大規模な還元反応を生起させる必要がある。
【0003】
溶融還元法の熱源は、炉内に酸素(O_(2))を供給することによって、炉内に装入された炭材を燃焼(いわゆる一次燃焼)させて得られる熱エネルギーと、一次燃焼によって発生する一酸化炭素(CO)をさらに燃焼(いわゆる二次燃焼)させて二酸化炭素(CO_(2))を生成することによって得られる熱エネルギーと、が使用される。有価金属を含有する溶湯の溶製コストを削減するために安価な鉱石の装入量を増加すると、大量の熱エネルギーが消費されるので、一次燃焼と二次燃焼を促進する必要がある。
【0004】
一次燃焼と二次燃焼を促進するためには、炉内に供給するO_(2)量を増加することが有効である。しかしO_(2)の供給量を増加することは上吹きランスから供給される酸化性ガスの流量を増加させることを意味しており、ダストの発生量の増加や有価金属の歩留りの低下等の問題を引き起こす。また、COやCO_(2)の発生量が増加するので炉内の上昇気流の風量も増大し、粉粒状の鉱石を炉内に装入することが困難になる。
【0005】
このような問題点を解決するために、鉄浴型溶融還元炉の軸心上に設置された上吹きランスとは別に、粉粒状の鉱石を炉内に装入する鉱石装入ランスを設置する溶融還元法が提案されている。この技術は、鉱石の添加歩留りの向上を可能にしたものである。
【特許文献1】特開平2-104608号公報
【特許文献2】特開平5-171235号公報
【特許文献3】特開平1-96314号公報
【特許文献4】特開昭60-208409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような上吹きランスと鉱石装入ランスを個別に設置する技術は、鉱石の安定供給,歩留り向上を可能にしたが、鉱石装入量の増加に対応するためには下記のような問題点が残されていた。
溶融還元法にて安価な鉱石を大量に使用するにあたって、大量の熱エネルギーと大規模な還元反応が必要であることは既に説明した。
【0007】
まず、一次燃焼を促進して発熱量を増加するためには、O_(2)の供給量を増加することが有効である。ところがO_(2)は酸化性ガスとして大部分が上吹きランスから炉内に供給されるので、O_(2)の供給量を増加(すなわち酸化性ガスの供給量を増加)すると、ダストの発生量が増加する。ダストには粉粒状の鉱石が含まれており、ダスト発生量の増加は、炉内に装入された鉱石が炉外に放出されることを意味している。
【0008】
したがってO_(2)供給量を増加すると、鉱石から回収される有価金属の歩留りが低下し、しかも環境汚染の防止やダストの処理に多大な費用を要する。また、O_(2)供給量を増加するためには酸化性ガスの流速を増速しなければならないので、二次燃焼の効率が低下し、熱エネルギーの大幅な増加は期待できない。
次に、二次燃焼を促進するためには、上吹きランスの先端位置(以下、ランス高さという)を上昇させる、あるいは上吹きランスの先端部から噴射される酸化性ガスの流速を低下させる等の方法がある。しかし二次燃焼の燃料となるCOは比較的燃焼しにくいので、これらの方法を採用しても、二次燃焼の大幅な促進は期待できない。
【0009】
そこで特許文献1には、水素原子(H)を含む物質を炉内に吹き込んでHを燃焼させ、Hの燃焼熱を加えて総発熱量を増加する技術が開示されている。この技術では、炉内の総発熱量を増加させて、鉱石使用量の増加に対応することが可能となる。しかし、Hは全て炉内の溶湯近傍で燃焼するとは限らず、Hの一部が未燃焼のまま炉外へ排出されたり、あるいは炉内の上部空間で燃焼する。その結果、溶湯への着熱が減少し、しかも耐火物の溶損を助長する惧れがある。
【0010】
また特許文献2,3,4には、燃料となる石炭粉とともに鉱石を炉内に装入する技術が開示されている。特許文献2,3は、単に石炭の歩留りを高めるための技術である。特許文献4は、上吹きランスから酸化性ガスとともに鉱石と石炭粉を吹き込むものである。この特許文献4に開示された技術は、炉内に吹き込んだ石炭の一部を燃料として上吹きランスから火炎を発生させ、その火炎の中を鉱石が通過するように装入する。しかし石炭は、他の固体燃料(たとえばプラスチック等),気体燃料(たとえばプロパン,Cガス等),液体燃料(たとえば重油等)と比べて着火しにくいので、火炎が不安定になるという問題が生じる。なおCガスとは、コークス炉から発生するガスを指す。
【0011】
本発明は、上記の問題を有利に解決するものであり、耐火物の溶損を助長することなく、炉内での総発熱量を増加させることによって、安価な鉱石の使用量を増加できる溶融還元方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明らは、小型試験転炉を用いて種々の観点から溶融還元法の研究を重ねた。その結果、燃料の燃焼位置に応じて、炉内の総発熱量や溶湯への着熱効率が変化することを見出した。つまり、燃料が燃焼する火炎の中を鉱石が通過するように装入することによって、燃料の発熱量を効率良く鉱石に伝達すれば、溶融還元法における鉱石の使用量を増加できる。
【0013】
本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、鉄浴型溶融還元炉の軸心上に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入する鉱石装入ランスを設置し、前記上吹きランスから供給される酸化性ガスによって前記鉄浴型溶融還元炉内の溶湯を吹錬し、当該溶湯に添加される炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーを熱源として、前記鉄浴型溶融還元炉内に装入した鉱石を溶融し還元する溶融還元方法であって、前記鉱石装入ランスの先端部に鉱石の流通孔を設けるとともに燃料と酸素を吹込む噴射孔からなるバーナーを設け、当該バーナーから発生する火炎の中を通過するように前記鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入して、前記燃料の燃焼熱を鉱石に伝達し着熱させる溶融還元方法である。
【0014】
本発明の溶融還元方法においては、燃料としてプロパンガスやCガス等の気体燃料,重油等の液体燃料およびプラスチック等の固体燃料のうちの1種または2種以上を使用することが好ましい。また、粉粒状の鉱石がクロム鉱石であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶融還元法において、ダストの発生や耐火物の溶損を助長することなく、炉内に装入される鉱石に燃料の燃焼熱を効率良く伝達することによって溶湯への着熱効率を向上することができるので、安価な鉱石を大量に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明を具体的に説明する。
二次燃焼は炉内の上部空間で生じるので、溶湯の内部や表面近傍で生じる一次燃焼と比べて、溶湯への着熱効率(=着熱量/総発熱量)が低い。しかしながら二次燃焼が促進されると、炉内の総発熱量が増加するので、溶融還元法における鉱石の装入量を増加するために二次燃焼は不可欠である。一方で、二次燃焼が促進されてその発熱量が増加すると、溶湯への着熱効率が低下するので、耐火物に吸収される熱量が増大して、耐火物の溶損が助長される。
【0017】
また、二次燃焼を促進するためには、ランス高さを上昇させる、あるいは上吹きランスから噴射される酸化性ガスの流速を低下させる等の方法があるが、いずれも十分な効果は得られないという状況は既に説明した通りである。
そこで本発明者らは、特許文献1に着目し、炉内の総発熱量を増加するとともに溶湯への着熱効率を高める技術について詳細に検討した。その結果、特許文献1に開示された技術は、
(a)燃料を炉内で燃焼させるので、二次燃焼の促進による発熱量の増加と同様の効果しか得られない、
(b)燃料が全て炉内で燃焼するとは限らず、未燃焼の燃料が炉外へ放出される等の問題点を有することが分かった。
【0018】
これらの問題点を解決するためには燃料を効率良く燃焼させる必要があるので、本発明者らは図2に示す装置を用いて燃焼実験を行なった。図2は、上吹きランス5,鉱石装入ランス6,燃料噴射ランス13を各々個別に設置して、酸化性ガス10に含まれるO_(2)で燃料12を燃焼させながら鉱石11を装入する装置を模式的に示す断面図である。なお、上吹きランス5は炉体1の軸心上に設置した。
【0019】
図2に示す装置を用いて燃焼実験を行なった結果、燃料の燃焼効率が高められて発熱量が増加する一方、溶湯3への着熱効率は低下した。そのため、炉体1の耐火物の熱負荷が増大し、耐火物の溶損が著しくなった。
そこで本発明者らは、炉内に装入される粉粒状の鉱石11への着熱効率を高めるために、鉱石11が火炎の中を通過して炉内へ装入されるように改造した図1に示す装置を用いて燃焼実験を行なった。これが本発明の溶融還元方法の実証テストである。図1に断面図として示す装置では、鉱石装入ランス6の先端部に鉱石11が炉内に装入される流通孔を設ける。さらに鉱石装入ランス6の先端部には、燃料12とO_(2)を炉内に吹込む噴射孔(以下、バーナーという)が設けられる。そして、そのバーナーからO_(2)と燃料を炉内に吹込み、バーナーから発生する火炎の中を鉱石11が通過して炉内へ装入される。なお、上吹きランス5は炉体1の軸心上に設置した。
【0020】
図1に示す装置を用いて燃焼実験を行なった結果、鉱石11への着熱効率を高められて、溶湯3への着熱効率も向上した。そのため、鉱石11の装入量を大幅に増加することができた。
つまり本発明によれば、安価な鉱石11を大量に使用するにあたって、上吹きランス5から供給される酸化性ガス10の流量(すなわちO_(2)の供給量)を増加することなく、溶湯への着熱効率を向上することができる。したがって、ダストの発生や耐火物の溶損を抑制できる。
【実施例】
【0021】
図1に示す上底吹き転炉(容量5ton)の炉体1に溶湯2(すなわち溶銑4ton)を収容して、下記の手順でクロム鉱石の溶融還元を行なった。炉体1の他は、上吹きランス5を炉体1の軸心上に設置し、さらに鉱石装入ランス6を個別に設置した。鉱石装入ランス6の先端部に鉱石11が炉内に装入される流通孔を設ける。さらに鉱石装入ランス6の先端部には、燃料12とO_(2)を炉内に吹込むバーナーが設けられる。燃料12はO_(2)によって燃焼し、バーナーから火炎が発生する。鉱石11は、その火炎の中を通過して炉内に装入される。
【0022】
上吹きランス5から供給される酸化性ガスの流量をO_(2)量に換算して15Nm^(3)/min,底吹きプラグ4から供給される酸化性ガスの流量をO_(2)量に換算して5Nm^(3)/minとして吹錬を開始した。その後、コークスを適宜添加しながら、溶湯2を1600℃まで昇温して、鉱石装入ランス6から粉粒状の鉱石11(すなわちクロム鉱石)の装入を開始するとともに、鉱石装入ランス6の先端部に設けたバーナーから燃料12(すなわちCガス)とO_(2)とを炉内に吹込んで、溶融還元を行なった。
【0023】
このようにして溶融還元を行ないながら溶湯2の温度を測定し、溶融還元に好適な1600℃を維持するように、鉱石11の装入速度を調整した。所定の時間(=60分)が経過した後、鉱石11,燃料12,O_(2)の供給を停止し、鉱石装入ランス6を上昇させた。このようにして上吹きランス5および底吹き羽口4から供給される酸化性ガス10のみで吹錬を3分間継続した。これを発明例とする。
【0024】
一方、比較例1として、図2に示すような上吹きランス5,鉱石装入ランス6,燃料噴射ランス13を各々個別に設置した装置を用いて溶融還元を行なった。その他の条件は発明例と同じであるから説明を省略する。
比較例2として、図2に示す装置の燃料噴射ランス13を使用せず、燃料12の供給を呈して溶融還元を行なった。
【0025】
発明例および比較例1,2の方法で溶融還元を行なったときの総発熱量,溶湯2への着熱効率,鉱石12(すなわちクロム鉱石)の総装入量は表1に示す通りである。なお表1では、比較例2のデータを100とする指数を用いて示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、クロム鉱石の総装入量が多く、かつ溶湯2への着熱効率も向上している。したがって本発明によれば、炉内に装入される鉱石12への着熱効率を高めることによって、溶湯2への着熱効率も向上できる。その結果、安価な鉱石を大量に使用するが可能となり、しかもダストの発生や耐火物の溶損を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用する装置模式的に示す断面図である。
【図2】比較のために使用した実験装置を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 炉体
2 溶湯
3 スラグ
4 底吹き羽口
5 上吹きランス
6 鉱石装入ランス
7 O_(2)配管
8 鉱石配管
9 燃料配管
10 酸化性ガス
11 鉱石
12 燃料
13 燃料噴射ランス
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄浴型溶融還元炉の軸心上に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入する鉱石装入ランスを設置し、前記上吹きランスから供給される酸化性ガスによって前記鉄浴型溶融還元炉内の溶湯を吹錬し、当該溶湯に添加される炭材を燃焼させる一次燃焼と当該一次燃焼によって発生する一酸化炭素をさらに燃焼させる二次燃焼とにより生成する熱エネルギーを熱源として、前記鉄浴型溶融還元炉内に装入した鉱石を溶融し還元する溶融還元方法であって、前記鉱石装入ランスの先端部に鉱石の流通孔を設けるとともに燃料と酸素を吹込む噴射孔からなるバーナーを設け、当該バーナーから発生する火炎の中を通過するように前記鉱石を前記鉄浴型溶融還元炉内に装入して、前記燃料の燃焼熱を鉱石に伝達し着熱させることを特徴とする溶融還元方法。
【請求項2】
請求項1において、燃料としてプロパンガスやCガス等の気体燃料、重油等の液体燃料およびプラスチック等の固体燃料のうちの1種または2種以上を使用することを特徴とする溶融還元方法。
【請求項3】
請求項1または2において、粉粒状の鉱石がクロム鉱石であることを特徴とする溶融還元方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2011-10-14 
出願番号 特願2005-331125(P2005-331125)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (C21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 田中 則充
長者 義久
登録日 2010-12-24 
登録番号 特許第4650226号(P4650226)
発明の名称 溶融還元方法  
代理人 鈴木 葉子  
代理人 沼澤 幸雄  
代理人 小林 英一  
代理人 沼澤 幸雄  
代理人 鈴木 葉子  
代理人 小林 英一  

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