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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特37条出願の単一性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1249695
審判番号 不服2009-18770  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-02 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2007-264002「オリゴヌクレオチドが付着したナノ粒子および該粒子の利用法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月27日出願公開、特開2008- 67711〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1997年7月21日(パリ条約による優先権主張1996年7月29日、米国)を国際出願日とする出願である特願平10-508917号の一部を平成19年10月10日に新たな出願としたものであって、平成20年9月22日付けで拒絶理由が通知されたところ、出願人からは何の応答もなく、平成21年5月29日に拒絶査定がなされ、平成21年10月2日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同日付で明細書に対し手続補正がなされたものである。

第2 平成21年10月2日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年10月2日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.平成21年10月2日付け手続補正について
平成21年10月2日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、出願当初の
「【請求項1】
複数の異なるオリゴヌクレオチドが付着した金ナノ粒子であって、
前記オリゴヌクレオチドは、ナノ粒子に付着していない側の端部が蛍光分子によって標識されており、
核酸標的の存在下かつハイブリッド形成条件下で、オリゴヌクレオチドが結合した金ナノ粒子が前記核酸標的と複合体を形成し、該ナノ粒子‐核酸標的複合体は、前記核酸標的内のヌクレオチドの挿入、欠失、または誤対合を選択的に区別可能なように、ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とで形成された類似の複合体の融解特性および融解温度と比較して明瞭な融解特性と高い融解温度とを有することを特徴とするナノ粒子。
【請求項2】
2つ以上の部分を有する核酸の検出方法であって、
オリゴヌクレオチドが付着した金ナノ粒子を提供することと、前記ナノ粒子は平均径が5nm?150nmであることと、
1種類以上の連結オリゴヌクレオチドを提供し、各連結オリゴヌクレオチドは2つの部分を有し、この内の一方の部分の配列は前記核酸の前記部分の内の1つの配列に対して相補的であり、他方の部分の配列は前記ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドの配列に対して相補的であることと、
前記ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドが前記連結オリゴヌクレオチドと有効にハイブリダイズする条件下において前記ナノ粒子と前記連結オリゴヌクレオチドとを接触させることと、
前記連結オリゴヌクレオチドが前記核酸と有効にハイブリダイズする条件下において前記核酸と前記連結オリゴヌクレオチドとを接触させることと、
検出可能な変化を観測することとを含み、
核酸標的の存在下かつハイブリッド形成条件下で、オリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子が前記核酸標的と複合体を形成し、該ナノ粒子‐核酸標的複合体は、前記核酸標的内のヌクレオチドの挿入、欠失、または誤対合を選択的に区別可能なように、ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とで形成された類似の複合体の融解特性および融解温度と比較して明瞭な融解特性と高い融解温度とを有することを特徴とする方法。
【請求項3】
前記金ナノ粒子に対して前記核酸を接触させる前に前記連結オリゴヌクレオチドを接触させる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
2つ以上の部分を有する核酸の検出方法であって、
前記核酸をオリゴヌクレオチドが付着した2種類以上の粒子に接触させることと、
この内の第1の種類の粒子上のオリゴヌクレオチドは前記核酸の配列の第1の部分に対して相補的な配列を有し、エネルギー供与体により標識されることと、
第2の種類の粒子上のオリゴヌクレオチドは前記核酸の配列の第2の部分に対して相補的な配列を有し、エネルギー受容体により標識されることと、
前記接触は前記粒子上のオリゴヌクレオチドが前記核酸と有効にハイブリダイズする条件下で行われることと、
前記粒子上のオリゴヌクレオチドが前記核酸とハイブリダイズすることによって起こる検出可能な変化を観測することとを含み、
核酸標的の存在下かつハイブリッド形成条件下で、オリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子が前記核酸標的と複合体を形成し、該ナノ粒子‐核酸標的複合体は、前記核酸標的内のヌクレオチドの挿入、欠失、または誤対合を選択的に区別可能なように、ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とで形成された類似の複合体の融解特性および融解温度と比較して明瞭な融解特性と高い融解温度とを有することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記エネルギー供与体及び受容体は蛍光分子である請求項4に記載の方法。」
から、
「 【請求項1】
複数の異なるオリゴヌクレオチドが付着した金ナノ粒子であって、
前記オリゴヌクレオチドは、ナノ粒子に付着していない側の端部が蛍光分子によって標識されており、
核酸標的の存在下かつハイブリッド形成条件下で、オリゴヌクレオチドが結合した金ナノ粒子が前記核酸標的と複合体を形成し、該ナノ粒子‐核酸標的複合体は、前記核酸標的内のヌクレオチドの挿入、欠失、または誤対合を選択的に区別可能なように、ナノ粒子に結合した前記複数の異なるオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とでナノ粒子を含まずに形成された類似の複合体の融解特性および融解温度と比較して鋭利な融解特性と高い融解温度とを有することを特徴とするナノ粒子。
【請求項2】
2つ以上の部分を有する核酸の検出方法であって、
オリゴヌクレオチドが付着した金ナノ粒子を提供することと、前記ナノ粒子は平均径が5nm?150nmであることと、前記オリゴヌクレオチドは、ナノ粒子に付着していない側の端部が蛍光分子によって標識されていることと、
1種類以上の連結オリゴヌクレオチドを提供し、各連結オリゴヌクレオチドは2つの部分を有し、この内の一方の部分の配列は前記核酸の前記部分の内の1つの配列に対して相補的であり、他方の部分の配列は前記ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドの配列に対して相補的であることと、
前記ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドが前記連結オリゴヌクレオチドと有効にハイブリダイズする条件下において前記ナノ粒子と前記連結オリゴヌクレオチドとを接触させることと、
前記連結オリゴヌクレオチドが前記核酸と有効にハイブリダイズする条件下において前記核酸と前記連結オリゴヌクレオチドとを接触させることと、
検出可能な色変化を観測することとを含み、
核酸標的の存在下かつハイブリッド形成条件下で、オリゴヌクレオチドが結合した金ナノ粒子が前記核酸標的と複合体を形成し、該ナノ粒子‐核酸標的複合体は、前記核酸標的内のヌクレオチドの挿入、欠失、または誤対合を選択的に区別可能なように、ナノ粒子に結合した前記複数の異なるオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とでナノ粒子を含まずに形成された類似の複合体の融解特性および融解温度と比較して鋭利な融解特性と高い融解温度とを有する
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記金ナノ粒子に対して前記核酸を接触させる前に前記連結オリゴヌクレオチドを接触させる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
2つ以上の部分を有する核酸の検出方法であって、
前記核酸をオリゴヌクレオチドが付着した2種類以上のナノ粒子に接触させることと、
この内の第1の種類のナノ粒子上のオリゴヌクレオチドは、前記核酸の配列の第1の部分に対して相補的な配列を有し、ナノ粒子に付着していない側の端部が蛍光標識により標識されることと、
第2の種類のナノ粒子上のオリゴヌクレオチドは前記核酸の配列の第2の部分に対して相補的な配列を有し、ナノ粒子に付着していない側の端部が蛍光標識により標識されることと、
前記接触は前記ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドが前記核酸と有効にハイブリダイズする条件下で行われることと、
前記ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドが前記核酸とハイブリダイズすることによって起こる検出可能な色変化を観測することとを含み、
核酸標的の存在下かつハイブリッド形成条件下で、オリゴヌクレオチドが結合した金ナノ粒子が前記核酸標的と複合体を形成し、該ナノ粒子‐核酸標的複合体は、前記核酸標的内のヌクレオチドの挿入、欠失、または誤対合を選択的に区別可能なように、ナノ粒子に結合した前記複数の異なるオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とでナノ粒子を含まずに形成された類似の複合体の融解特性および融解温度と比較して鋭利な融解特性と高い融解温度とを有することを特徴とする方法。」
に補正された。

本件補正により、以下の点が補正された。
(1)補正後の請求項1について
ア ナノ粒子に結合した「オリゴヌクレオチド」を「前記複数の異なるオリゴヌクレオチド」と補正した。
イ 「ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とで形成された類似の複合体」が「ナノ粒子を含まずに」形成されたことを追加した。
ウ 「明瞭な融解特性」を「鋭利な融解特性」に補正した。

(2)補正後の請求項2について
ア オリゴヌクレオチドについて「ナノ粒子に付着していない側の端部が蛍光分子によって標識されていること」を追加した。
イ 検出可能な「変化」を「色変化」と補正した。
ウ 上記(1)と同様の補正をした。

(3)補正後の請求項4について
ア 補正前の請求項4を削除し、補正前の請求項5を繰り上げて補正後の請求項4とした。
イ 補正前の請求項5の粒子が「ナノ粒子」であると補正した。
ウ 補正前の請求項5のオリゴヌクレオチドについて、蛍光標識される場所が「ナノ粒子に付着していない側の端部」であることを追加した。
エ 補正前の請求項5のオリゴヌクレオチドの標識についてエネルギー供与体及び受容体としての「蛍光分子」を「蛍光標識」とした。
オ 補正前の請求項5に対して上記(1)と同様の補正をした。

2.補正の目的について
上記1.(1)アの補正は、ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドが「前記複数の異なる」オリゴヌクレオチドであるとするものであるが、補正前の請求項1の「複数の異なるオリゴヌクレオチドが付着した金ナノ粒子であって」との記載からして、補正前の「ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチド」は「前記複数の異なる」オリゴヌクレオチドであるから、当該補正はそれを明確化したものである。上記1.(1)イの補正は、「類似の複合体」が「ナノ粒子を含まずに形成された」とするものであるが、補正前の請求項1の「ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とで形成された類似の複合体」との記載から、補正前の「類似の複合体」は「ナノ粒子を含まずに形成された」ものを指し示すと考えられるから、当該補正はそれを明確化したものである。また、上記1.(1)ウの補正は、「ナノ粒子-核酸標的複合体」がナノ粒子を含まない「類似の複合体」と比較した際の融解特性に関し、「明瞭な融解特性」から「鋭利な融解特性」と補正するものであるが、明細書【0171】に「したがってナノ粒子を含まない類似の系において溶融が起きる温度範囲(12℃)と比較して、集合体の溶融が起きる温度範囲は非常に狭い(4℃)。」とあることからして、「鋭利な融解特性」を意図していたことを明確化したものである。そしてこれらは、平成20年9月22日付け拒絶理由通知書の理由2で述べた明確性違反の事項についてする、明りょうでない記載の釈明に該当する。
上記1.(2)アの補正は、オリゴヌクレオチドについて「ナノ粒子に付着していない側の端部が蛍光分子によって標識されていること」を追加しており、オリゴヌクレオチドにそれとは別の分子である蛍光分子による標識という新たな要素を付加することで特許請求の範囲を減縮するものであって、特許請求の範囲の限定的減縮であるとは認められない。そして、誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明、請求項の削除を目的としたものに該当しないことは明らかである。上記1.(2)イの補正は、検出可能な「変化」を「色変化」とするものであって、「変化」の種類を「色変化」に限定的に減縮するものであると認められる。上記1.(2)ウについては、上記1.(1)の補正のところで検討したとおりであり、平成20年9月22日付け拒絶理由通知書の理由1で述べた単一性違反を解消すべく、請求項1について述べた点を請求項2にも適用して、明りょうでない記載の釈明を行おうとしたものであり、拒絶理由に示された事項についてするものと認められる。
上記1.(3)アは、請求項の削除を目的としたものである。上記1.(3)イは粒子の種類を「ナノ粒子」に限定的に減縮するものである。上記1.(3)ウはオリゴヌクレオチドについて、蛍光標識される場所が「ナノ粒子に付着していない側の端部」であると限定的に減縮するものである。上記1.(3)エは、エネルギー供与体および受容体としての「蛍光分子」から、エネルギー供与体および受容体についての言及のない単なる「蛍光標識」としたもので、エネルギー供与体および受容体であるという限定がなくなった結果、蛍光分子間でエネルギーの移動が生じない方法(例えば、各々異なる波長の蛍光分子を用いて検出する方法等)も包含されることになるから、特許請求の範囲が拡張したものである。また、この点が拒絶理由に示されたことはなく、明りょうでない記載の釈明(拒絶理由に示された事項についてするものに限る)であるとは認められないし、誤記の訂正や請求項の削除でないことは明らかである。上記1.(3)オについては、上述のように平成20年9月22日付け拒絶理由通知書の理由1で述べた単一性違反を解消すべく、請求項1について述べた点を補正前の請求項5にも適用して、明りょうでない記載の釈明を行おうとしたものであり、拒絶理由に示された事項についてするものと認められる。

上述のように補正後の請求項2に対する1.(2)アの補正、および補正後の請求項4に対する1.(3)エの補正は、目的要件を満たさないものであるが、仮にこれら補正が補正の目的要件を満たすと仮定した場合、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正を行う補正後の請求項2、4、および請求項2を引用する結果、やはり特許請求の範囲の限定的減縮を目的とすることとなる補正後の請求項3について、独立特許要件が満たされているかについて、以下検討する。

3.独立特許要件について
(1)明確性について
補正後の請求項2、4には「前記複数の異なるオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する?」との記載があるが、請求項2、4中には「前記」に該当するものが存在せず、当該記載は不明確である。
したがって、補正後の請求項2、4および請求項2の記載を引用する請求項3の記載は、その特許を受けようとする発明が明確ではないので、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。

(2)サポート要件および実施可能要件について
補正後の請求項2、4には、ナノ粒子-核酸標的複合体が類似の複合体の融解温度と比較して「高い融解温度」を有することが記載されているが、本願明細書の【0181】には、「オリゴヌクレオチドナノ粒子結合体1及び2を13nMづつ含むハイブリッド形成緩衝液150μlに60ピコモル(6μl)の標的核酸4を加えると、溶液の色は直ちに赤から紫に変化した。この色の変化は金ナノ粒子がオリゴヌクレオチドによって連結され、大きな重合ネットワークが形成されたことによるものである。これによりナノ粒子の表面プラズモン共振が赤方に偏移する。この溶液を2時間静置すると、大きな巨視的集合体の沈殿が見られた。この溶液において集合体を懸濁し、「溶融分析」を行った。「溶融分析」を行うため、溶液をハイブリッド形成緩衝液にて1mlに希釈し、1分/度の温度保持時間にて温度を25℃から75℃に上昇させ、1分毎に260nmにおける集合体の光学的サインを記録した。「融解温度」(Tm)53.5℃において特徴的な急激な変化が見られた(最大値の1/2において幅最大、1次導関数のFW1/2 =3.5℃)。これは集合体のオリゴヌクレオチドナノ粒子重合体としての特徴に一致するものである。これはナノ粒子を含まないオリゴヌクレオチド(Tm=54℃,FW1/2 =?13.5℃)において見られる幅の広い変化におけるTmとは対称的である。ナノ粒子を含まないオリゴヌクレオチド溶液の「溶融分析」を、ナノ粒子を含む場合の分析と同様な条件の下で行った。ただしこの場合、温度は10℃から80℃に上昇させた。また、各オリゴヌクレオチド成分の溶液中の濃度は1.04μMとした。」とあり、ナノ粒子-核酸標的複合体の融解温度が53.5℃であるのに対し、ナノ粒子を含まない「類似の複合体」の融解温度が54℃であることが記載されている。また、他にナノ粒子-核酸標的複合体と「類似の複合体」との間の「融解温度」について対比を行った具体的な記載は存在しない。すなわち、ナノ粒子-核酸標的複合体は類似の複合体と比較して「低い融解温度」を有することが記載されているのであって、「高い融解温度」を有することは記載されていない。
したがって、補正後の請求項2、4および請求項2の記載を引用する請求項3の記載は、その特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。
さらに、上述のようにナノ粒子-核酸標的複合体は類似の複合体と比較して「低い融解温度」を有するのであるから、補正後の請求項2、4および請求項2の記載を引用する請求項3のようにナノ粒子-核酸標的複合体は類似の複合体と比較して「高い融解温度」を有するような発明を実施することは、当然できない。
したがって、本願の発明の詳細な説明には、補正後の請求項2-4に記載された発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

以上のとおりであるから、本件補正後の請求項2-4に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.小括
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。また、仮に本件補正が目的要件を満たしていたとしても、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成21年10月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本出願に係る発明は、出願時の明細書の記載からみて、その請求項1-5に記載された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の異なるオリゴヌクレオチドが付着した金ナノ粒子であって、
前記オリゴヌクレオチドは、ナノ粒子に付着していない側の端部が蛍光分子によって標識されており、
核酸標的の存在下かつハイブリッド形成条件下で、オリゴヌクレオチドが結合した金ナノ粒子が前記核酸標的と複合体を形成し、該ナノ粒子‐核酸標的複合体は、前記核酸標的内のヌクレオチドの挿入、欠失、または誤対合を選択的に区別可能なように、ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とで形成された類似の複合体の融解特性および融解温度と比較して明瞭な融解特性と高い融解温度とを有することを特徴とするナノ粒子。
【請求項2】
2つ以上の部分を有する核酸の検出方法であって、
オリゴヌクレオチドが付着した金ナノ粒子を提供することと、前記ナノ粒子は平均径が5nm?150nmであることと、
1種類以上の連結オリゴヌクレオチドを提供し、各連結オリゴヌクレオチドは2つの部分を有し、この内の一方の部分の配列は前記核酸の前記部分の内の1つの配列に対して相補的であり、他方の部分の配列は前記ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドの配列に対して相補的であることと、
前記ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドが前記連結オリゴヌクレオチドと有効にハイブリダイズする条件下において前記ナノ粒子と前記連結オリゴヌクレオチドとを接触させることと、
前記連結オリゴヌクレオチドが前記核酸と有効にハイブリダイズする条件下において前記核酸と前記連結オリゴヌクレオチドとを接触させることと、
検出可能な変化を観測することとを含み、
核酸標的の存在下かつハイブリッド形成条件下で、オリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子が前記核酸標的と複合体を形成し、該ナノ粒子‐核酸標的複合体は、前記核酸標的内のヌクレオチドの挿入、欠失、または誤対合を選択的に区別可能なように、ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とで形成された類似の複合体の融解特性および融解温度と比較して明瞭な融解特性と高い融解温度とを有することを特徴とする方法。
【請求項3】
前記金ナノ粒子に対して前記核酸を接触させる前に前記連結オリゴヌクレオチドを接触させる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
2つ以上の部分を有する核酸の検出方法であって、
前記核酸をオリゴヌクレオチドが付着した2種類以上の粒子に接触させることと、
この内の第1の種類の粒子上のオリゴヌクレオチドは前記核酸の配列の第1の部分に対して相補的な配列を有し、エネルギー供与体により標識されることと、
第2の種類の粒子上のオリゴヌクレオチドは前記核酸の配列の第2の部分に対して相補的な配列を有し、エネルギー受容体により標識されることと、
前記接触は前記粒子上のオリゴヌクレオチドが前記核酸と有効にハイブリダイズする条件下で行われることと、
前記粒子上のオリゴヌクレオチドが前記核酸とハイブリダイズすることによって起こる検出可能な変化を観測することとを含み、
核酸標的の存在下かつハイブリッド形成条件下で、オリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子が前記核酸標的と複合体を形成し、該ナノ粒子‐核酸標的複合体は、前記核酸標的内のヌクレオチドの挿入、欠失、または誤対合を選択的に区別可能なように、ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とで形成された類似の複合体の融解特性および融解温度と比較して明瞭な融解特性と高い融解温度とを有することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記エネルギー供与体及び受容体は蛍光分子である請求項4に記載の方法。」

第4 原査定の理由
原査定における拒絶の理由の概要は、請求項1?5に記載される発明のうち、いずれを特定発明とした場合にも、当該特定発明と、他の請求項に記載される発明とが、特許法第37条(平成15年改正前のもの。以下同様)第1号ないし第5号に掲げるいずれの関係も有さないから、本出願は特許法第37条に規定する要件を満たしておらず、本出願は拒絶すべきである、というもの、および、請求項1の記載が不明確であるから、本出願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本出願は拒絶すべきであるというものを含む。

第5 当審の判断
1.単一性について
(1)請求項1に記載された発明を特定発明とした場合
ア 請求項2、3に記載された発明について
請求項1に記載された発明は「ナノ粒子」に関する物の発明であるのに対し、請求項2、3に記載された発明は、2つ以上の部分を有する核酸の検出方法に関するものである。
ここで、請求項1に記載された発明のナノ粒子は「ナノ粒子に付着していない側の端部が蛍光分子によって標識」されている一方、請求項2、3に記載された発明で使用されているナノ粒子は蛍光標識についての記載がなく、請求項2、3で使用されるナノ粒子に蛍光標識されている必要は全くないのであるから、請求項2、3に記載された発明は請求項1に記載されたナノ粒子に適した使用方法等であるとは言えない。また、請求項1に記載された発明のナノ粒子は粒径についての具体的範囲が限定されていないのに対し、請求項2、3に記載された発明で使用されているナノ粒子は「平均径が5nm?150nm」であるとの限定があり、使用されるナノ粒子の平均径が具体的に規定されている請求項2、3に記載された方法が、平均径の限定されていない請求項1に記載された発明のナノ粒子に適した使用方法等であるとは言えない。
とすると、請求項1に記載された発明を特定発明とする場合、請求項2、3に記載された発明は、その物を生産する方法の発明、その物を使用する方法の発明、その物を取り扱う方法の発明のいずれにも該当しない。

イ 請求項4、5に記載された発明について
請求項1に記載された発明は「ナノ粒子」に関する物の発明であるのに対し、請求項4、5に記載された発明は、2つ以上の部分を有する核酸の検出方法に関するものである。
ここで、請求項1に記載された発明の粒子は、「ナノ粒子に付着していない側の端部が蛍光分子によって標識」されているものであるのに対し、請求項4、5に記載された発明で使用されている粒子はエネルギー供与体/エネルギー受容体/蛍光分子で標識されている部分についての限定はない。そして、請求項4、5では標識がエネルギー供与体とエネルギー受容体として機能するためには両者が近接する必要があるのに対し、請求項1に記載された発明のナノ粒子ではそのような必要性はないのであるから、請求項4、5に記載された方法は請求項1に記載された発明のナノ粒子に適した使用方法等であるとは言えない。
とすると、請求項1に記載された発明を特定発明とする場合、請求項4、5に記載された発明は、その物を生産する方法の発明、その物を使用する方法の発明、その物を取り扱う方法の発明のいずれにも該当しない。

(2)請求項2?5を特定発明とした場合
上記(1)で検討したとおり、請求項1に記載された発明の粒子は請求項2?5に記載された方法に適しているとは言えず、請求項2?5のいずれを特定発明とした場合も、請求項1に記載された発明は、その方法の発明の実施に直接使用する機械、器具、装置その他の物の発明のいずれにも該当しない。

(3)小括
したがって、本願は、特許法第37条第1号ないし第5号に掲げるいずれの関係も満たさないものである。

2.明確性について
請求項1には「ナノ粒子‐核酸標的複合体」が、「ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドと同一の配列を有する非標識のオリゴヌクレオチドと前記核酸標的とで形成された類似の複合体の融解特性および融解温度と比較して明瞭な融解特性」を有することが記載されている。しかしながら、本願明細書には「明瞭な融解特性」がどのようなものであるかについての記載がなく、また、当業者にとって自明でもないから、何を基準として融解特性が「明瞭」であるというのかが不明確である。
したがって、本願の請求項1は特許を受けようとする発明が明確ではない。

第6 まとめ
以上のとおりであるから、本願は、特許法第37条第1号ないし第5号に掲げるいずれの関係も満たさず、特許法第37条に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。また、本願の請求項1は特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本願は特許を受けることができない。

第7 付記
上記第2 3.(2)で検討したサポート要件違反および実施可能要件違反の根拠となった「高い融解温度」という表現は、請求項1にも存在するため、同様の理由によって、請求項1についてもサポート要件違反および実施可能要件違反が認められる。

よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2011-08-01 
結審通知日 2011-08-02 
審決日 2011-08-25 
出願番号 特願2007-264002(P2007-264002)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (C12N)
P 1 8・ 64- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 巌  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 加々美 一恵
内田 俊生
発明の名称 オリゴヌクレオチドが付着したナノ粒子および該粒子の利用法  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 池上 美穂  

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