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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部無効 2項進歩性  C04B
管理番号 1250263
審判番号 無効2008-800095  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-05-22 
確定日 2011-12-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3659867号「調湿建材」の特許無効審判事件についてされた平成21年 3月24日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成21年行(ケ)第10116号平成21年8月20日決定言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯

出願 平成12年 5月19日
(特願2000-148392号)
審査請求 平成14年10月 9日
特許査定 平成17年 2月15日
登録 平成17年 3月25日
(特許第3659867号)
無効審判請求 平成18年11月15日
(無効2006-80236)
審決 平成20年 2月 4日(起案日)
確定 平成20年 3月17日
無効審判請求 平成20年 5月22日
(無効2008-800095)
答弁書 平成20年 8月29日
審決 平成21年 3月24日(起案日)
審決取消訴訟提起 平成21年 4月30日
(知的財産高等裁判所第4部係属)
(平成21年(行ケ)第10116号)
訂正審判請求書 平成21年 7月28日
(訂正2009-390093)
審決取消訴訟 取消決定 平成21年 8月20日
訂正審判 審理中止通知 平成21年 8月25日
訂正請求のための期間通知 平成21年10月14日(発送日)
訂正請求書 平成21年10月23日
弁駁書 平成21年12月 7日
職権審理結果通知 平成22年 3月17日(起案日)
訂正拒絶理由通知 平成22年 3月17日(起案日)
補正許否の決定書 平成22年 3月17日(起案日)
意見書(被請求人) 平成22年 4月19日
補正書(被請求人) 平成22年 4月19日

II.訂正請求について

II-1.訂正事項
平成21年10月23日付け訂正請求は、以下の訂正事項を内容としている。
「[3]訂正事項
a.特許請求の範囲の請求項1で、<オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物>とあるを、<「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」>と訂正する。
b.特許請求の範囲の請求項2、3で、<オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物>とあるを、<請求項1記載の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」>と訂正する。
c.特許請求の範囲の請求項1、2、3で、<天然鉱物>とあるを、<天然鉱物であって、北海道の淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物>と訂正する。」

II-2.訂正の原因
(1)訂正事項a、訂正事項b
訂正事項a、訂正事項bは、請求項1?3で共通する<オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物>が共通する旨を明らかにして、かつそれが出発物質であることを明らかにするものであり、特許法第134の2第1項第3号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(2)訂正事項c
訂正事項cは、天然鉱物の所在を発明特定事項として減縮するものであり、特許法第134の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項cは、特許明細書の【0015】にある<粒径1mm以下に粉砕したオパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とし、調湿性と自硬性とを備えた天然鉱物(浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層等の地層に広く分布している:以下、OPS粉体と略称する)>との記載に基づくものであり、特許明細書の範囲内でする訂正であり、これまで発明特定事項の記載がなかった天然鉱物の所在を発明特定事項の内容としたもので、特許請求の範囲の拡張又は変更には当たらない。

II-3.平成22年3月17日付け訂正拒絶理由
当該訂正拒絶理由の訂正の拒否についての判断は「(3)訂正事項3(審決注:訂正事項c)について
上記訂正事項3は、特許請求の範囲1、2、3の<天然鉱物>との記載を、<天然鉱物であって北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物>と訂正するものであり、特許明細書の段落【0015】の「粒径1mm以下に粉砕したオパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とし、調湿性と自硬性とを備えた天然鉱物(浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層等の地層に広く分布している:以下、OPS粉体と略称する)」の記載に基づくものであるから、本件特許明細書の範囲内でする補正であり、特許法第134条の2第5項で準用する同法126条第3項の規定を具備する。
また、上記訂正事項3は、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明白である。
しかしながら、上記訂正事項3は、各請求項が規定する「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」が広く分布している地層を単に例示したにすぎないものであって、技術的事項を特定するものとは認められない。
即ち、本件特許明細書等を参酌しても、「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれか」によっても、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」に係る特性や成分組成等の鉱物的特長を決定することはできず、単に広く分布していることを示すだけで、新たに特定できる技術的事項は認められないので、上記訂正事項3は、実質的に特許請求の範囲を減縮するものとはいえない。
そうすると、上記訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の規定に違反するものである。
したがって、上記訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書各号の何れにも該当しない。」というものである。
II-4.平成22年3月17日付け補正許否の決定
当該決定は、訂正請求に起因する請求理由の変更に関し、「請求人が提出した、上記弁駁書の(2)第2の主張は、訂正が認められたとしても、訂正後の請求項1?3の各特許発明は、特許法第123条第1項第4号の規定、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである、というものである。
そして、第2の(1)として、訂正後の請求項1?3の各特許発明は、天然鉱物が「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」か否かが、本件特許明細書や本件特許出願時の周知技術を参酌しても明確に判断することができないので、かかる特定事項は、特許を受けようとする発明を不明確にしているといわざるを得ないものであるから、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものでなく、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである、と主張する。
かかる主張は、訂正請求に起因する請求理由の変更であり、審理遅延のおそれがないことが明らかであることから、特許法第131条の2第2項の規定により、審判請求書の補正を許可する。」というものである。

II-5.平成22年4月19日付け意見書
当該意見書の(3)訂正事項3(審決注:訂正事項c)が「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正であることを示す理由についての根拠は、「訂正事項3により産地、「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」を明確に示して減縮したものである。よって、訂正事項3は特許無効審判の攻撃に備えるものであることが明らかである」及び「発明特定事項「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物」は技術的事項であり、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を具備する。」というものである。

II-6.平成22年4月19日付け手続補正
1.平成22年4月19日付け手続補正は以下の訂正請求に係る手続補正を内容としている。
(1)平成21年10月23日付け訂正請求書の訂正の理由において以下の補正をする。
(a)2頁、「[3]訂正事項中」中「c.」で「淺茅野層」とあるを「浅茅野層」と訂正する。
(b)2頁、「[4]訂正原因-1」中「(2)訂正事項c」で「淺茅野層」とあるを「浅茅野層」と訂正する。
(c)3頁、「[5]訂正原因-2-1」「(2)」で「淺茅野層」とあるを「浅茅野層」と訂正する。
(2)全文訂正明細書を添付のものに差し替える。全文訂正明細書は、請求項1?請求項3において、「淺茅野層」とあるを「浅茅野層」と訂正する。
2.補正の根拠
(1)上記補正はいずれも、単なる誤記の訂正であり、平成21年10月23日付け訂正請求の要旨を変更するものではない。
(2)「浅茅野層」は、特許明細書の【0015】の記載に基づくものである。

II-7.平成21年10月23日付け訂正請求についての当審の判断
(1)平成21年10月23日付け訂正請求の訂正事項a、訂正事項bは、いずれも特許法第134の2第1項第3号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、これらの訂正事項は、願書に添付した明細書等の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(2)平成21年10月23日付け訂正請求の訂正事項cは、天然鉱物の産地の例として挙げられていた3つの地層名のいずれかから産する、として発明特定事項を直列的に付加したものであり、本件無効審判の請求人の進歩性要件違反の無効理由に備えるためのものであるから、特許法第134の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。
この点については、III-2.弁駁書の2.理由の第2の理由において請求人も「訂正事項cによって特定される技術的事項はないとは言え、訂正事項cによって、特許請求の範囲は、文言上、減縮されている。」と特許請求の範囲の減縮の効果を文言上としてではあるが受け入れており、特許請求の範囲の減縮についての形式的要件は満たしていると認められるので、当審は、訂正事項cの実質的な判断は、訂正事項cの特定する技術的事項の存否による目的外の訂正か否かではなく、請求人の主張する無効理由との関係において検討すべきであると判断した。
さらに、訂正事項cは、特許明細書の【0015】にある<粒径1mm以下に粉砕したオパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とし、調湿性と自硬性とを備えた天然鉱物(浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層等の地層に広く分布している:以下、OPS粉体と略称する)>との記載に基づくものであり、特許明細書の範囲内でする訂正であり、これまで発明特定事項の記載がなかった天然鉱物の所在を発明特定事項の内容としたもので、特許請求の範囲の拡張又は変更には当たらない。
(3)したがって、訂正事項は、いずれも特許法第134条の2第1項及び第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項乃至第5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

II-8.平成22年3月17日付け訂正拒絶理由についての当審の判断
平成22年3月17日付け訂正拒絶理由において指摘した「上記訂正事項3は、各請求項が規定する「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」が広く分布している地層を単に例示したにすぎないものであって、技術的事項を特定するものとは認められない。
即ち、本件特許明細書等を参酌しても、「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれか」によっても、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」に係る特性や成分組成等の鉱物的特長を決定することはできず、単に広く分布していることを示すだけで、新たに特定できる技術的事項は認められないので、上記訂正事項3は、実質的に特許請求の範囲を減縮するものとはいえない。」については、上記II-7.訂正請求についての当審の判断(2)に記載のとおりであって、訂正事項3が「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」が広く分布している地層を単に例示したにすぎないものであって、技術的事項を特定するものでないので、新たに特定できる技術的事項は認められないとするよりも、たとえ、文言上であっても特許請求の範囲の減縮に該当すると判断し、減縮された技術的事項を無効理由の攻撃防御の点から実質的に判断すべきものである。
したがって、当該訂正拒絶理由を撤回する。
II-9.平成22年4月19日付け手続補正についての当審の判断
平成22年4月19日付け手続補正による補正事項は、いずれも平成21年10月23日付け訂正請求書の訂正の理由における誤記の訂正を目的とするもので、平成21年10月23日付け訂正請求の要旨を変更するものではないので、当該補正を認める。

III.本件発明及び本件訂正発明

III-1.本件発明
本件請求項1乃至3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」乃至「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物を固化してなることを特徴とする調湿建材。
【請求項2】
オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物の単独粉体又はこれと他の原料とを配合した混合粉体を成形した後、固化してなることを特徴とする調湿建材。
【請求項3】
オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物の単独粉体又はこれと他の原料とを配合した混合粉体を成形した後、600?900℃で低温焼成することを特徴とする調湿建材。」

III-2.本件訂正発明
平成21年10月23日付け訂正請求及び平成22年4月19日付け手続補正が認められたので、訂正及び補正後の本件請求項1乃至3に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」乃至「本件訂正発明3」といい、これらをまとめて「本件訂正発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物であって、北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物」を固化してなることを特徴とする調湿建材。
【請求項2】
請求項1記載の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物であって、北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物」の単独粉体又はこれと他の原料とを配合した混合粉体を成形した後、固化してなることを特徴とする調湿建材。
【請求項3】
請求項1記載の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物であって、北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物」の単独粉体又はこれと他の原料とを配合した混合粉体を成形した後、600?900℃で低温焼成することを特徴とする調湿建材。」

IV.請求人の主張と証拠方法

IV-1.無効審判請求書
1.無効理由
請求人は、特許第3659867号を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、無効審判請求書において、証拠方法として、下記「2.」に示した証拠を提出して、次に示す無効理由を主張している。
(1)本件発明1並びに本件発明2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。
また、そうでないとしても、本件発明1並びに本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。(審判請求書第17頁第16?22行)
(2)また、本件発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。(審判請求書第17頁第23?26行)
(3)また、本件発明3は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。(審判請求書第17頁第27行?第18頁第2行)

2.証拠の記載事項
(1)甲第1号証(平成9年度研究報告書「能登地域未利用資源活用事業」石川県工業試験場、平成10年3月、第1?17頁)
(1a)「珪藻土は極めて多孔性であるので、その有望な用途として一般住宅の高気密・高断熱に対処するために吸放湿建材に絞って検討することになった。」(第1頁第12?13頁)
(1b)「珪藻遺殻は含水非晶質シリカからなり、泥岩や頁岩とか粗粒凝灰岩とかの中には、微量ながら必ず混入している。
・・・能登珪藻土は、モンモリロナイト・・・などの粘土分を多く含んでおり、成型性に優れ多孔質な特性からこれまで耐火断熱レンガ、土壌改良材、コンロなどに応用されている。」(第3頁第24行?第4頁第7行)
(1c)「能登珪藻土は主要成分である珪藻殻の他に、モンモリロナイトを主とする粘土鉱物及び石英、長石等からなる非粘土鉱物を夾雑している。」(第8頁第4?5行)
(1d)「能登珪藻土に含まれる珪藻は、海水域で棲息しているCoscinodiscus属で写真3に示すように円形である。珪素殻はシャーレのように上蓋と下蓋から構成され、その表面に1?2μmの細孔を無数に有している極めて多孔質な素材であることがわかる。」(第5頁第1?4行)
(1e)「吸放湿実験に用いた珪藻土壁材の試作は、珠洲市飯塚層珪藻土を粉砕した生粉末、600℃焼成粉末の2種類について各々、セメント系固化材(日本ダイヤコム工業(株)製)と3:1の重量比率で混合した。混合原料100に対して水125を加えてよく練り混ぜた後に、石膏ボード(900×1800mm)上に左官工法で約5mmの厚みになるように塗布した後室温で固化させた。」(第8頁第27行?第9頁第2行)
(1f)「吸放湿実験に用いた分級前後の能登珪藻土の化学組成を表5に示す。・・・2μm以下の雑粘土の鉱物組成を求めたところ、珪藻殻48%、粘土32%、長石7%となり、未処理品と比較して粘土分が約2倍濃縮されている」(第10頁第18?26行)
(1g)「逆に吸湿能の高い未処理品は最初の5日間で急激に吸湿し・・・その吸湿量は228mg/gに達しており、このように吸湿性に優れているのは、粘土の介在が大きく関与していると考えられる。」(第12頁第4?7行)
(1h)「未処理品の吸湿能は、2μm以下の雑粘土に支配されている」(第13頁第3行)及び「生珪藻土が最も吸放湿能力に優れており」(第13頁下から8行)
(2)甲第2号証(特許第2652593号公報)
(2a)「稚内層珪藻土の粉砕物を単独で使用するか、あるいはこれとその他のセラミックス原料と配合して任意の形状に成形し、焼成することを特徴とする稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法。」(特許請求の範囲、請求項1)
(2b)「稚内層珪藻土の粉砕物を単独で使用するか、あるいはこれをフィラーとしてその他の材料と複合し、不焼成とすることを特徴とする稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法。」(特許請求の範囲、請求項2)
(2c)「最近の建築様式は高断熱、高気密化の趨勢にあるが、一般に使用されている内装材は調湿機能がなく、結露及びカビやダニの発生が住環境の重大問題となっており、多種多様な調湿材料が期待されている。」(段落【0001】、第1頁右欄第9?13行)
(2d)「本発明では、天然無機資源を出発原料として幅広い用途の調湿機能材料を安価に提供し、上記の問題を解決したものである。」(段落【0004】、第2頁左欄第27?29行)
(2e)「本発明で使用する稚内層珪藻土粉砕物の粉体特性の一例は下記の通りである。・・・稚内層珪藻土は、粒子に極めて微細な細孔を有していることにより、比表面積は128.9m^(2)/gを示し、一般的な珪藻土の3?4倍の大きさである。・・・稚内層珪藻土は、多孔質構造のクリストバライトを主成分とし、特有の細孔分布を示し、一般的な珪藻土とは異なる原料的特性を有している。・・・稚内層珪藻土の調湿機能は、杉材並びに一般的な珪藻土、ゼオライト等無機質多孔体と比べ、極めて卓越している。」(段落【0006】、第2頁左欄第42行?右欄第31行)
(2f)「図10は稚内層珪藻土を粉砕し、それ単独で乾式プレス成形後、800℃で焼成し、タイル状にしたものの調湿機能である。」(段落【0007】、第2頁右欄第34?37行)
(2g)「図11は稚内層珪藻土を粉砕し水を加えて練り土状にし、土練成形後800℃で焼成し、タイル状にしたものの調湿機能である。」(段落【0007】、第2頁右欄第45?47行)
(2h)「一般住宅の内壁材として利用した場合にも、その優れた調湿機能が確認できた。」(段落【0007】、第3頁左欄第9?11行)
(2i)「第2発明の稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法の構成は下記の通りである。不焼成を特徴とする材料として、石膏系、セメント系、樹脂系などがあるが、例えば、石膏に稚内層珪藻土粉砕物を添加し、その調湿機能の発現を見たのが図14である。」(段落【0008】、第3頁左欄第18?22行)
(3)甲第3号証(特許第2964393号公報)
(3a)「天然無機鉱物であり、多孔質クリストバライトを主成分とし、細孔分布において半径20?100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有する珪質頁岩の粉砕物に、成形性と強度の向上およびデザインの多様化を図る目的からその他のセラミックス原料を配合し、水、または水と有機バインダーを加えて成形し、焼成することによって連続気孔を多数形成することを特徴とする調湿セラミックス建材。」(特許請求の範囲、請求項2)
(3b)「珪質頁岩は湿度の変化に応じて速やかに吸放湿し、卓越した調湿機能を有している。」(段落【0014】、第2頁右欄第35?36行)
(3c)「実施例2?珪質頁岩とせっ器質粘土を配合した調湿セラミックス建材
粒径0.4mm以下に調製した珪質頁岩と神楽粘土の配合比が10:0,9:1,8:2,7:3,6:4,5:5の6種類の練土状素地を調製した。これらの素地で真空土練成形機を用いて大きさ110×60×15mmの板状に押し出し成形し、焼成温度900℃、1時間保持の条件で焼成して板状調湿セラミックス建材を作製した。前記神楽粘土は、せっ器質タイルなどに利用されている一般的なせっ器質粘土である。配合比別製品の物性値を図8?11に示した。調湿機能は珪質頁岩の配合比に一義的に支配され、その配合量が多いほど大きい。曲げ強度は神楽粘土の配合量が多くなるほど大きい。このように珪質頁岩粉砕物と他のセラミックス原料を配合することによって目的とする特性に応じた多種多様な調湿セラミックス建材の製造が可能である。」(段落【0019】)
(4)甲第4号証(石川県珪藻土利用研究会基礎部会編、能登産珪藻土の基礎研究、石川県工業試験場、昭和41年3月31日、第19?39頁、表5)
(4a)「表5」には「珪藻泥岩中の諸鉱物の産状」について記載され、「飯塚層」が「Opaline silica(蛋白石質シリカ)」と「Clay minerals(粘土鉱物)」を含有することが示されている。
(4b)「飯塚泥岩 S2 図21
上部の試料はモンモリロン石・イライト・ハロイサイトよりなるが、下部になるに従ってモンモリロナイトは減少し、イライトが増加する」(第28頁右欄末行?第31頁左欄第3行)
(4c)「8.珪藻土に含まれる鉱物について
能登珪藻土については以上のべたように化石珪藻以外に種々の鉱物が含まれる。
・・・粘土鉱物としてはモンモリロン石が主要なもので次にイライト・ハロイサイト・緑泥石の順となる。・・・
能登珪藻土を利用する場合には、化石珪藻の含有量を知ると共に、その鉱物組成を詳しく検討し、特に多量を占めると思われる粘土鉱物の性質を詳細に調べて、用途に対する方策をたてることが肝要である。」(第37頁右欄第6行?第38頁左欄第10行)
(5)甲第5号証(新版地学事典の抜粋、初版、(株)平凡社、1996年10月20日、第183頁、第382頁、第657頁)
(5a)「オパーリンシリカ opalin silica X線的に無定形な二酸化珪素の水和物(SiO_(2)・nH_(2)O)で,オパールと同義。オパールは生物および無機物起原の珪酸体に対する包括的用語。土壌中には植物起原のオパール(プラントオパール),土壌の生成過程で形成されるオパール(オパーリンシリカ),デュリ盤中のシリカ集積物などがある。」(第183頁左欄第44行?右欄第1行)
(5b)「オパール opal SiO_(2)・nH_(2)O 非晶質またはそれに近い含水珪酸鉱物。蛋白石とも。・・・非晶質または結晶度の悪いトリディマイトやクリストバライト構造からなるものも多い。まったくの非晶質のものをopal-Aという。クリストバライト構造がトリディマイト構造より卓越するものをopal-CTと呼んでいる。」(第183頁右欄第10?19行)
(5c)「珪質頁岩・・・微晶質石英やオパールCTなどのシリカ鉱物と粘土鉱物などの細粒砕屑粒子との混合物からなる。」(第382頁左欄第32?38行)
(5d)「スメクタイト・・・2:1型の層状珪酸塩粘土鉱物。層間に交換性陽イオンと水分子を有する。2八面体型と3八面体型に分類される。2八面体型スメクタイトの化学式は,・・・で表され,モンモリロナイト・バイデライト・ノントロン石などがこれに属する。」(第657頁左欄第57行?右欄第4行)
(6)甲第6号証(素木洋一、わかりやすい工業用陶磁器、第1版8刷、技報堂出版(株)、1993年5月10日、第13?56頁)
「粘土というのは「一般に天然に存在する微細なアルミノ珪酸塩を主成分とする土状混合物で,その微粉末を湿らせれば可塑性を生じ,乾けば剛性を示し,相当の高温度で焼成すれば鋼のように硬くなるものをいう」と定義されている。」(第37頁第末行?第38頁第2行)
(7)甲第7号証(平成5年度共同研究報告書 本道珪藻土の高度利用と資源評価に関する研究、北海道立工業試験場・北海道立地下資源調査所、平成6年3月、第1?35頁)
(7a)「稚内層は主にクリストバライトよりなり、少量の石英とトリディマイトを含有する。また、粘土鉱物と長石は極く少量含まれる。声問層は石英と非晶質シリカおよび少量のクリストバライト・長石・粘土鉱物を含有する。粘土鉱物はいずれも少量であるが認められ、KMS-2で雲母型粘土鉱物/スメクタイト混合層鉱物が、KMS-8で雲母型粘土鉱物と雲母型粘土鉱物/スメクタイト混合層鉱物、スメクタイトが認められる。とくに、KMS-11でスメクタイトの量が多い。」(第8頁第4?8行)
(7b)「表IV-1」(第3頁)には、「珪藻土・珪質泥岩の化学分析値」が記載されており、「KMS-2」、「KMS-8」が「恵北稚内層」であることが示されている。
(7c)「稚内層はいずれもオパールCT帯に属するが、X線回折強度でみるかぎり、北側の恵北や樺岡東方地域の稚内層はクリストバライトが卓越するのに対し、豊富地域など南側ではクリストバライトを多く含有するものの石英・長石・粘土鉱物などの含有量も多い。また、声問層はオパールA帯に属する。
粘土鉱物は雲母型粘土鉱物が多く、他に雲母型粘土鉱物/スメクタイト混合層鉱物を伴っていることが多い。これは堆積粒子としての雲母型粘土鉱物が堆積時にすでに、風化により雲母型粘土鉱物/スメクタイト混合層鉱物やスメクタイトに変化したものと考えられる。また、稚内層中にスメクタイトがほとんどなく、混合層鉱物であるのは、続成過程でスメクタイトから混合層鉱物への変換が行われたためであろう。」(第19頁第2?10行)
(7d)「稚内層の調湿機能は最低でも8以上あり、声問層の3倍以上である。稚内層にあっては樺岡、上幌延が小さく上部層のTMU-29、恵北が大きい。(第31頁第18?19行)
(7e)「稚内層は主に珪質泥岩?頁岩より構成され、オパールCT帯に属する。地区毎に鉱物組成の違いが認められ、クリストバライトが卓越、Si/Al比が高いのは樺岡東方地区や恵北地区である。他の地区は石英や長石の含有量がやや多い。粘土鉱物は雲母型粘土鉱物と雲母型粘土鉱物/スメクタイト混合層鉱物よりなる。」(第34頁第22?25行)
(7d)「調湿機能は稚内層最上部付近で高く、中部から下部に向かって低下し、増幌層と声問層ではさらに低くなる。また、その機能はSiO_(2)含有率、鉱物組成、クリストバライトの結晶度とは直線的な相関関係はなく、基本的には細孔構造に支配されると考えている。(第34頁第29?31行)
(8)甲第8号証(岡部賢二他、北海道せっ器粘土鉱床開発に関する研究-その3旭川地域-、地質調査所月報、1985年、第36巻、第9号、第479?511頁)
「神楽台地区の粘土は・・・長石,有色鉱物,石英等の斑晶と,モンモリロナイト,カオリン等の粘土鉱物からなる基質で構成されている.」(第491頁右欄第28行?第494頁左欄第5行)
(9)甲第9号証(セラミックス加工ハンドブック編集委員会編集、セラミックス加工ハンドブック-基礎から応用事例まで-、株式会社建設産業調査会、昭和62年11月30日発行、第101?113頁)
(9a)モンモリロナイトがスメクタイトに分類されるものであることが記載されている。(第107頁表2.1.4)
(9b)モンモリロナイトは、「粘土鉱物のうちでも、その粒子は極めて微細で、コロイド的性質を持つ。」ことが記載されている。(第109頁左欄第5?6行)
(9c)モンモリロナイトの用途として、「セラミックス原料としては、陶磁器、耐火物などの原料に数%添加して、可塑性を高めたり、強度を増すために利用している。」ことが記載されている。(第109頁左欄第31?33行)
(10)甲第10号証(宮北啓、前川春義、能登地方における珪藻質軟岩(珪藻土)の工学的性質、The Japanese Geotechnical Society January、1983、第83?88頁)
(10a)「本軟岩は珪素の遺がいと粘土を主体とし一部に火山灰などが堆積してできたもので、その特徴としては間隙比が約2.6と非常に多孔質材料であるにもかかわらず、一軸圧縮強度が19?22kgf/cm^(2)(珠洲地区の場合)と高く、変形に対してはぜい性的な挙動を呈する。・・・また珪藻質軟岩は、・・・・固結力(セメンテーション作用)を有する。・・・飯塚珪藻泥岩層の(海成)の理化学的諸性質については次のとおりである。珪素の化石の大きさは20?40μmの大型のものから0.5μmの小型のものまで含まれ、・・・中でも円形のコシノディスクスが多く、・・・鉱物組織は粘土鉱物としてモンモリロナイト・・・が含まれ、」(第83頁左欄第12行?同右欄第15行)
(10b)「本軟岩ではw=75%付近まで若干の増加が認められるものの、・・・w≒25%で一たん最小値となり、更にwを低下させると強度は顕著な増大を示す。」(第86頁左欄下から4行?右欄第1行及び図-10)
(10c)「本軟岩は非常に多孔質でかつ比較的高い固結力のため強度的には安定した性質を有している。」(第88頁左欄下から第2行?右欄第1行)

IV-2.弁駁書
1.弁駁の趣旨
第1
平成21年10月23日付け訂正請求の訂正事項cは、文言上は、特許請求の範囲の減縮にあたるが、実質的には何ら特許請求の範囲を減縮するものとなっていない。よって、訂正事項cは、特許法第134条の2第1項第1号の規定に違反するものであり、認められるべきではない。
第2
(1)上記訂正事項cが認められたとしても、訂正後の請求項1?3の各特許発明は、特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものではなく、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。
(2)また、上記訂正事項cが認められたとしても、訂正後の請求項1?3の各特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、そうでないとしても甲第1号証に記載された発明及び甲第2?10号証(特に甲第2号証)に記載された周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものである。よって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。
2.理由
第1の理由
訂正事項cは、訂正前の特許請求の範囲を技術的に特定する事項ではない。このため訂正後の特許請求の範囲に基づいて定められる特許発明の技術的範囲は、訂正前の特許請求の範囲に基づいて定められる特許発明の技術的範囲を減縮するものではなく、訂正事項cは、特許請求の範囲の減縮を目的としたものとはいえない。
訂正事項cは、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」を「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物であって、北海道の淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物」とするものである。しかし、訂正事項cは、下記に述べる通り、各請求項に規定した「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」が広く分布している地層を単に例示したに過ぎないものであり、訂正事項cによって特定される技術的事項はない。
すなわち、訂正事項cの「北海道の淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層」のいずれの地層名によっても、一義的に決定できる特性や成分や成分比率等の鉱物的特長はないことは明らかであり、これらの地層と同様、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」が広く分布し、当該天然鉱物を産することが明確な甲第1号証に記載の能登の飯塚層等との違いを明らかにするものではない。
例えば、「淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層」と同様に北海道北の地層である「稚内層」については、甲第2号証及び甲第7号証に記載されているように、珪藻が地圧・地熱による地質的変質作用を受け、結晶化が進み、頁岩化してなるシリカ鉱物(オパーリンシリカ)を主成分とし、スメクタイトを含む天然鉱物であることに加えて、その鉱物組成や化学組成、電子顕微鏡での画像による違い等、各種の分析や試験結果に基づく基礎的性状やセラミックス特定が明らかとなっており、「稚内珪藻土」との呼称で一義的に特定される技術的事項(鉱物的特長等)が存在する。
これに対し、「淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層」は、本件明細書の段落[0015]の「・・・等の地層に広く分布している」との記載からも明らかな通り、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」が広く分布し、当該天然鉱物を産することが可能な地層名の例示に過ぎず、これらの地層名によって当然に特定されることができる技術的事項(鉱物的特長等)はない。甲第5号証からも明らかなように、オパーリンシリカはオパール系鉱物の総称で、スメクタイトはスメクタイト系粘土鉱物の総称であり、これらには天然鉱物が含有する成分の大枠を示す程度の意味合いしかなく、これらの成分からなる天然鉱物が広く分布しているとされているだけの地層名によって、それ以上に明確に特定できる、より詳細な成分組成や鉱物的特長があるわけもない。
本件特許にかかる調湿建材の原料に関する発明特定事項は「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」がその全てであり、訂正事項cの「北海道の淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物」との追加要件によって新たに特定できる技術的事項はない。このため訂正後の特許請求の範囲に基づく特許発明の技術的範囲は、訂正前の特許請求の範囲に基づく特許発明の技術的範囲と何ら変わるところがなく、訂正事項cは、実質的に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
よって、訂正事項cは、特許法第134条の1第1項第1号の規定に違反するものであり、認めるべきではない。
第2の理由
訂正事項cによって特定される技術的事項はないとは言え、訂正事項cによって、特許請求の範囲は、文言上、減縮されている。また、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」である点で一致していることが明確な、甲第1号証に記載の能登の飯塚層等から産する天然鉱物と訂正事項cによって特定された淺茅野層等から産する天然鉱物や該天然鉱物によって得られる調湿建材とは、原料の地層表示(産地表示)をする等、人為的方法で両者を区別可能にすることは、理論上、できる。このため、本件にかかる特許権のおよぶ範囲は、訂正事項cによって減縮するとも言える。
特許法第70条第1項に規定されているように、「特許請求の範囲」は特許発明の技術的範囲を画するものであり、上記したように、この点に何らの影響も与えない訂正事項cが「特許請求の範囲の減縮」を目的にしたものであることが認めら得ることはないと信じるが、万が一、訂正が認められたとしても訂正後の請求項1?3の各特許発明は、特許法第123条第1項第4号の規定、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。
第2の(1)
訂正後の請求項1?3の各特許発明は、下記に述べる通り特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものではない。
訂正事項cは「北海道の淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物」とするものであるが、かかる要件は、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」が広く分布する地層名にすぎない。一方、本件各特許を構成する「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」については、「主成分」の語の定義については議論のあるところであるが、少なくともオパーリンシリカとスメクタイトの両成分は分析が可能であり、これらの成分に関しては、天然鉱物を本件特許の対象の調湿建材とした場合も、原料状態の場合も、明確である。
しかし天然鉱物が、「北海道の淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」か否かについては、本件明細書に記載や、本件特許の出願時の周知技術を勘案しても明確にできる客観的な方法はない。甲1号証に記載の能登の飯塚層等からも「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」を産することは明らかであるが、製品或いは原料に、正直な人為的方法により産地表示がされていない限り、両者を区別する方法はなく、追加された「北海道の淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」とする要件は、特許を受けようとする発明を著しく不明確なものにしている。
よって、訂正後の請求項1?3の各特許発明は、下記に述べる通り特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものではなく、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

V.被請求人の反論と証拠方法

V-1.答弁書
被請求人は、請求人の主張に対して、
A 本件発明1は、新規な技術思想で構成されているので、甲第1号証の発明と同一でなく、また実質同一でもないので、特許法第29条第1項第3号には該当しない。甲第4乃至7号証及び甲第10号証の記載を参酌しても同様である。
B 本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではないので、特許法第29条2項の規定に該当しない。他の証拠を参酌しても同様である。
C 本件発明2は、甲第1号証の発明と同一でなく、また実質同一でもないので、特許法第29条第1項第3号には該当しない。
また、本件発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載に基づいて、当業者が容易に発明できたとすることはできないので、特許法第29条2項の規定に該当しない。甲第7号証を参酌しても同様である。
D 本件発明3は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載に基づいて、当業者が容易に発明できたとすることはできないので、特許法第29条2項の規定に該当しない。甲第7号証及び甲第8号証を参酌しても同様である。
と主張している。
Aについて
(1)甲第1号証には、少なくとも本件特許の「自硬性」を発揮できる程度に有意なスメクタイトが含まれている旨の記載が一切ない。
(1e)によれば「セメント系固化材(日本ダイヤコム工業(株)製)と3:1の重量比率で混合した。)」とあり、甲第1号証に記載の天然鉱物は、むしろ自硬性を有しないので、セメント系固化材を添加していると推定できる。
(2)本件特許に対してなされた無効2006-80236号審決では、たとえ「オパーリンシリカ」と「スメクタイト」とを有意に含んだ天然鉱物であっても、調湿性及び自硬性並びに低温焼結性という特性を有するための有意な量が含まれていなければ、本件特許の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」の要件を具備しないことが認定されている。
甲第1号証には、少なくとも「自硬性」について記載されていないので、甲第1号証に記載の天然鉱物は、調湿性及び自硬性並びに低温焼結性という特性を合わせ持った天然鉱物ではなく、甲第1号証の記載事項(1b)、(1c)、(1f)は、本件発明1の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」とは異なると共に、本件発明については記載されていない。これは、「オパーリンシリカ」、「スメクタイト」という用語の意義の問題ではないので、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第9号証を参酌しても結論は同じである。
(3)甲第9号証の(9a)、(9b)の記載事項は、本件発明の効果と関係が無く、(9c)の記載は、一般的な「可塑性」、「強度」を有していることを示すに過ぎない。また、甲第10号証の(10a)、(10b)の記載事項は、いずれも効果とは直接関係が無く、(10c)の記載「本軟岩は非常に多孔質で比較的高い固結力のため強度的には安定した性質を有している。」とされ、ここには、強度として、圧縮強度(図-10)が示されているだけであり、「OPS粉体(本件特許明細書【0015】、本件特許の請求項1に記載の特許発明の実施例)配合比100%」の材料の効果を推測できる記載内容ではない。これは、能登珪藻土がもともと耐火断熱レンガとして使われており、本件発明のように「床材としても使用できる強度と耐摩耗性を備えた調湿セラミック建材を提供とする」ことを目的としていないので、甲第10号証では、圧縮強度しか問題にしておらず、曲げ強度や摩耗減量に関する記載がないのは当然である。
乙第1号証のコンクリートの場合の圧縮強度と曲げ強度が経験値で100:20?13となっており、甲第10号証の圧縮強度は、最大でも25kgf/cm^(2)であるから、前記比率で換算すれば、本件発明とは明らかに効果が相違する。
審判請求書の「発明が同一であるので、効果も同一である。」とする主張によれば、甲第1号証に記載の発明と本件発明は効果が相違するので、甲第1号証と本件発明は明らかに異なる発明である。
(4)審判請求書によれば、甲第6号証は『粘土というのは「一般に天然に存在する微細なアルミノ珪酸塩を主成分とする土状混合物で、その微細粉末を湿らせば可塑性を生じ、乾けば剛性を示し、相当の高温度で焼成すれば鋼のように硬くなるものをいう」と定義されている。』と記載されている。したがって、甲第6号証では、一般的粘土の定義を示しているに過ぎず、甲第1号証に記載の天然鉱物がこのような性質を有することを示すものではない。さらに、剛性についても明示がなく、単に“羊羹のような軟弱なものではない”旨を示すに過ぎず、本件特許明細書表2第1欄に示す、効果を推測できる内容ではない。
なお、甲第9号証と甲第10号証に記載の天然鉱物と本件発明の天然鉱物と特性が異なることは前述のように明らかである。
Bについて
(1)審判請求書には、本件発明1が甲第1号証に記載の発明から容易に発明をすることができたとする論理付けが示されていない。
(2)上記Aのように、甲第1号証には、本件発明の特性である「自硬性」について一切記載されていない。これは、甲第2?10号証を参酌しても同じ結論である。
さらに、甲第1号証の「4.2実験方法」によれば、セメント系固化材を混合したとある。したがって、甲第1号証に記載の能登珪藻土には、必ずセメント系固化材を加え、また樹脂材料からなる固化材を加える場合もあるので、甲第1号証には、自硬性について、これを受け入れる技術的基礎が一切ないと言える。
(3)本件発明の調湿機能では、「槽内の温度は25℃、変動させる湿度は低湿側を50%、高湿度側を90%とした」条件で、実験を行い、例えば、表2の非焼成の100%OPS粉体の場合、「8.9wt%」となっている。
これに対して、甲第1号証に記載の吸湿機能については、相対湿度100%又は90%のデータである。相対湿度100%とは、雨天時の屋外を想定したような実験条件であり、本件発明の調湿機能とは比較のしようが無い。また、90%のデータについては壁材の重量が示されて折らず、本件発明の効果とは比較できない。
(4)甲第1号証には、本件発明の曲げ強度や摩耗減量についての記載は一切ない。
(5)甲第2?7号証には、本件発明の特性を有する材料については記載されていない。また、甲第8?10号証にも、本件発明の特性を有する材料については記載されていない。よって、たとえ、甲1号証の天然鉱物に、甲第2?10号証記載の材料を加えたとしても本件発明の特性を発揮することはできない。
また、甲第2?10号証記載の材料以外に、本件発明の特性を一部有する材料が得られたとしても、甲第1号証には、本件発明の自硬性をはじめ、自硬した結果の強度、「調湿建材」としての調湿性能のいずれについても、これを受け入れる技術的基盤がないので、この材料を甲第1号証に適用することはできない。
さらに、何らかの材料(添加物)を甲第1号証に記載の天然鉱物に加えて、たとえ、本件発明のような特性を得ることができたとしても、それはそもそも「天然鉱物」ではないので、進歩性の判断の前提を欠く。
Cについて
(1)本件発明2は、本件発明1の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」を出発物質として、設ける製品の特性に応じて「他の原料」を配合して成形して固化したことを特徴とする発明である。
(2)したがって、特許発明1の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」が甲第1号証と異なり、本件発明1が甲第1号証等から容易に発明できたとは言えないので、当然に本件発明2も甲第1号証とは異なり、本件発明2が甲第1号証等から容易に発明できたとは言えない。さらに、甲第7号証を参酌しても同様である。
Dについて
(1)本件発明3は、本件発明1の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」を出発物質として、設ける製品の特性に応じて「他の原料」を配合して成形して、低温焼成したことを特徴とする発明である。
(2)したがって、特許発明1の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」が甲第1号証乃至甲第3号証から容易に発明できたとは言えないので、当然に本件発明3も甲第1号証乃至甲第3号証から容易に発明できたとは言えない。さらに、甲第7号証及び甲第8号証を参酌しても同様である。

V-2.訂正請求書の主張
被請求人は、訂正請求書の[6]訂正の原因-2として平成20年3月24日付け審決の内容の誤りを誤認事項1乃至9として指摘し、本件発明1乃至3につき、乙2号証乃至乙14号証を証拠方法として提出し、本件特許が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたもので、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきとした審決は誤りであり、訂正請求前の本件発明1乃至3であっても無効事由を有しないと主張する。

VI.当審の判断

VI-1.無効理由の検討
1.本件訂正発明1について
甲第1号証には、記載事項(1a)によれば、「珪藻土は極めて多孔性であるので、その有望な用途として・・・吸放湿建材に絞って検討すること」が記載され、記載事項(1b)によれば、「珪藻遺殻は含水非晶質シリカからな」ること、「能登珪藻土は、モンモリロナイトなどの粘土分を多く含んでおり、成型性に優れ」ること、また、記載事項(1c)によれば、「能登珪藻土は主要成分である珪藻殻の他に、モンモリロナイトを主とする粘土鉱物及び石英、長石等からなる非粘土鉱物を夾雑している。」ことが記載されている。そして、記載事項(1e)に「試作は、珠洲市飯塚層珪藻土を粉砕した生粉末、・・・セメント系固化材(日本ダイヤコム工業(株)製)と3:1の重量比率で混合し・・・固化させた。」ことが記載されている。
これらの記載を本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、「主要成分である含水非晶質シリカからなる珪藻殻の他に、モンモリロナイトなどの粘土分を多く含み成型性に優れた能登珪藻土からなり、セメント系固化材と混合し固化させた吸放湿建材」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、「吸放湿」の目的は「高気密・高断熱に対処するため」(1a)で「調湿」であることは明らかであるから、甲1発明の「吸放湿建材」は、本件発明1の「調湿建材」に相当する。また、甲1発明の「セメント系固化材と混合し固化させた」ことは、本件発明1の「固化」する点で共通する。さらに、甲1発明の「能登珪藻土」と本件発明1の「天然鉱物」とは、「天然鉱物」である点で共通し、甲1発明の「含水非晶質シリカからなる珪藻殻」は、「無定形な二酸化珪素の水和物」であるから、甲第5号証の記載事項によれば、本件発明1の「オパーリンシリカ」に相当し、能登珪藻土の「主要成分」であるから「主成分」であることは明らかである。一方、「モンモリナイト」は、甲第5号証の記載事項(5d)の「2八面体型スメクタイトの化学式は,・・・で表され,モンモリロナイト・・・がこれに属する。」との記載から、「スメクタイト」に属するといえ、甲1発明で「モンモリロナイトなどの粘土分を多く含み成型性に優れ」たものと記載されているので、この粘土分が成型性に寄与していることは明らかであり、粘土分の代表的成分であり、甲第6号証に「粘土というのは「一般に天然に存在する微細なアルミノ珪酸塩を主成分とする土状混合物で,その微粉末を湿らせれば可塑性を生じ,乾けば剛性を示し,相当の高温度で焼成すれば鋼のように硬くなるものをいう」と定義されている。」と記載されているから、粘土鉱物の1つである「スメクタイト」が自硬性を有することは、当業者にとって明らかなことであって、しかも、甲1発明の「能登珪藻土」に含まれる「スメクタイト」が、「能登珪藻土」に「固結力」を与えているだけの有意な量が含まれていることは、甲第10号証記載事項(10a)に記載されているから、能登珪藻土からみても「主成分」ということができる。
以上のことから、甲1発明の「主要成分である珪藻殻の他に、モンモリロナイトなどの粘土分を多く含み成型性に優れた能登珪藻土」は、「オパーリンシリカ及びスメクタイトを主成分として含有する天然鉱物」といえる。
したがって、両者は、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物を固化してなる調湿建材」で一致し、
本件訂正発明1の天然鉱物が「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」と限定されているのに対して、甲1発明では、「能登珪藻土からなる」点(以下、「相違点a」という。)
本件訂正発明1が天然鉱物を「固化」するのに対して、甲1発明では「セメント系固化材と混合し固化させた」点(以下、「相違点b」という。)
で相違している。
最初に、相違点aについて検討する。
相違点aにより特定される事項は、前記訂正事項cで述べたように天然鉱物が産する3つの地層であり、これらの地層がオパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物を産することは請求人の申し立てたいずれの証拠にも記載されておらず、これらの地層がオパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物を産することが周知であったも認められないから、当業者といえども「能登珪藻土からなる」天然鉱物に換えて「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」天然鉱物と特定することは容易に想到し得る産地の変更とすることはできない。
次に、相違点bについて検討する。
本件訂正発明1における「固化」の技術的意義は、「従来の調湿性塗材は、調湿原料として各種珪藻土、硬化剤としてセメントやプラスター、結合材として樹脂をそれぞれ使用するのが一般的であるが、硬化剤の水和生成物或いは樹脂によって調湿原料の細孔が塞がれ、その機能が阻害されるという問題があり、また、セメントや樹脂で固化した材料を再利用することは困難であるという問題もある。」(特許明細書の段落【0004】、以下同じ)という問題意識から「本発明は、調湿性と自硬性とを備えた天然鉱物と、骨材、繊維質物、解膠剤などとを混合し、現場で水と混練して施工する塗材であり、特別な硬化剤や結合剤を使用することなく固化するために、再利用が容易であることを特徴とする調湿建材である。」(段落【0009】)あるいは「この天然鉱物が備える自硬性はスメクタイトの特性に基づくものと考えられるが、特別な硬化剤又は結合剤を加えることなく固化し、その凝結力は他の粘土鉱物に比し卓越したものである。また、この天然鉱物は600℃ぐらいの低温焼成によって陶磁器質床タイルの規格を満足する強度と耐摩耗性を発現するという比類のない特徴を有する。本発明の調湿建材は、天然鉱物のこれらの特性を利用することによってはじめて可能としたものである。」(段落【0013】)と記載されるように硬化剤や結合材を混合しなくとも卓越した凝結力をもって固化するという効果を達成するものであるから、本件訂正発明1における「固化」とは、単に固まることを意味するのではない。
そして、甲第1号証の記載事項(1h)に「未処理品の吸湿能は、2μm以下の雑粘土に支配されている」及び「生珪藻土が最も吸放湿能力に優れており」と記載されるように、珪藻土の吸放湿能力は、未処理の珪藻土に支配されているとはいえ、このことから、能登珪藻土からなる天然鉱物が必須とする「セメント系固化材と混合」することを省き、自らの固結力を発揮させることには飛躍があり、当業者といえども「セメント系固化材と混合」することを省くことを困難なく想到し得ることとすることはできない。
そして、本件訂正発明1の奏する効果については、「OPS粉体を利用した左官用調湿建材は、固化した時の凝結力が大きく、セメントを硬化剤に使用するよりも耐摩耗性に優れ、それ自体の機能が付加されることによって、吸放湿機能が大きい。また、骨材等に機能性原料を利用すれば、特別な硬化剤や結合剤を使用しないためにその機能が阻害されないことから、材料設計が容易であり、作製する左官用調湿建材の機能を高度化又は多様化することができる。さらには、一旦固化したものも分離・解砕するだけで元の状態に戻るため、再利用が容易である。」(特許明細書の表1及び段落【0022】)というものであり、格別顕著と認められる。
してみると、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明でなく、甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反して特許を受けたものとはいえない。
2.本件訂正発明2について
本件訂正発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「吸放湿建材」は、本件訂正発明2の「調湿建材」に相当する。また、甲1発明の「セメント系固化材と混合し固化させた」ことは、「固化」前に成形することは記載されているに等しい事項であるので、本件訂正発明2の「成形した後、固化」することで共通する。また、甲1発明では、他の原料を配合せず、配合する「天然鉱物」は「天然鉱物の単独粉体」であるといえるので、甲1発明の「主要成分である含水非晶質シリカからなる珪藻殻の他に、モンモリロナイトなどの粘土分を多く含み成型性に優れた能登珪藻土」と本件訂正発明2の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物の単独粉体又はこれと他の原料とを配合した混合粉体」とは、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物の単独粉体」である点で共通する。
したがって、両者は、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物の単独粉体を成形した後、固化してなる調湿建材」で一致し、
本件訂正発明2の天然鉱物が「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」と限定されているのに対して、甲1発明では、「能登珪藻土からなる」点(以下、「相違点c」という。)
本件訂正発明2は天然鉱物を「固化」するのに対して、甲1発明の天然鉱物が「セメント系固化材と混合し固化させた」点(相違点d)、
本件訂正発明2が固化する前に「これと他の原料とを配合した混合粉体」にしているのに対して、甲1発明では、「これと他の原料とを配合した混合粉体」にすることについて明示されていない点(相違点e)
で相違している。
各相違点について検討すると、相違点cは、「2-1.本件訂正発明1について」で検討した「相違点a」と同じ相違点であるから、「2-1.本件訂正発明1について」で検討した理由により、当業者といえども「能登珪藻土からなる」天然鉱物に換えて「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」天然鉱物と特定することは容易に想到し得る産地の変更とすることはできない。
次に、相違点dは、「2-1.本件訂正発明1について」で検討した「相違点b」と同じ相違点であるから、「2-1.本件訂正発明1について」で検討した理由により、当業者といえども甲1発明の「セメント系固化材と混合」することを省くことを困難なく想到し得ることとすることはできない。
そして、相違点eについては、「天然鉱物の単独粉体」との選択的事項であり、しかも、例えば、甲第2号証の記載事項(2b)にあるように「珪藻土の粉砕物を単独で使用するか、あるいはこれをフィラーとしてその他の材料と複合し、不焼成とすること」は、従来から当該分野において用いられてきた周知手段にすぎないから実質的な相違点ではない。
さらに、本件訂正発明2の奏する効果については、「OPS粉体を利用した定形調湿建材は、成形・乾燥・固化によって作製したものであるが、焼成することによって作製した市販の調湿セラミックスに匹敵もしくはそれを上回る強度と耐摩耗性とを備えている。焼成しないためにOPS粉体と配合する原料には有機質物を含めて多様なものが利用でき、目的とする材料の設計が容易でありその機能を高度化又は多様化することができる。また、作製した調湿建材は解砕するだけで元の状態に戻るために再利用が容易である。」(特許明細書の表2及び段落【0028】)というものであり、格別顕著と認められる。
してみると、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明でなく、甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反して特許を受けたものとはいえない。
なお、本件訂正発明2に対する「本件発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、・・・無効とされるべきである。」との無効理由の主張については、甲第2号証に記載された不焼成を特徴とする第2発明が、「第2発明の稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法の構成は下記の通りである。不焼成を特徴とする材料として、石膏系、セメント系、樹脂系などがあるが、例えば、石膏に稚内層珪藻土粉砕物を添加し、その調湿機能の発現を見た」(甲第2号証の記載事項(2i))とあるように、いわゆる固化材の使用を前提とするものであるから、甲1発明との相違点dである天然鉱物が「セメント系固化材と混合し固化させた」点に換えて天然鉱物を「固化」することを採用することを想起することは困難であり、当業者といえども本件訂正発明2を甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に想到することはできない。
3.本件訂正発明3について
本件訂正発明3と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「吸放湿建材」は、本件訂正発明3の「調湿建材」に相当する。また、甲1発明の「セメント系固化材と混合し固化させた」ことは、「固化」前に成形することは記載されているに等しい事項であるので、本件訂正発明3の「成形した後、600?900℃で低温焼成すること」とは「成形した後、固化」することで共通する。また、甲1発明では、他の原料を配合せず、配合する「天然鉱物」は「天然鉱物の単独粉体」であるといえるので、甲1発明の「主要成分である含水非晶質シリカからなる珪藻殻の他に、モンモリロナイトなどの粘土分を多く含み成型性に優れた能登珪藻土」と本件訂正発明3の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物の単独粉体又はこれと他の原料とを配合した混合粉体」とは、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物の単独粉体」である点で共通する。
したがって、両者は、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物の単独粉体を成形した後、固化してなる調湿建材」で一致し、
本件訂正発明3の天然鉱物が「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」と限定されているのに対して、甲1発明では、「能登珪藻土からなる」点(以下、「相違点f」という。)、
本件訂正発明3は天然鉱物を「600?900℃で低温焼成する」のに対して、甲1発明の天然鉱物が「セメント系固化材と混合し固化させた」点(以下、「相違点g」という。)、
本件訂正発明3が固化する前に「これと他の原料とを配合した混合粉体」にしているのに対して、甲1発明では、「これと他の原料とを配合した混合粉体」することについて明示されていない点(以下、相違点「相違点h」という。)で相違している。
各相違点について検討すると、相違点fは、「2-1.本件訂正発明1について」で検討した「相違点a」と同じ相違点であるから、「2-1.本件訂正発明1について」で検討した理由により、当業者といえども「能登珪藻土からなる」天然鉱物に換えて「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」天然鉱物と特定することは容易に想到し得る産地の変更とすることはできない。
次に、相違点gは、「2-1.本件訂正発明1について」で検討した「相違点b」と同様に「セメント系固化材と混合」することを省くことは当業者といえども容易に想到し得ることとはいえないし、「600?900℃で低温焼成する」点は、例えば、甲第2号証に「珪藻土を粉砕し水を加えて練り土状にし、土練成形後800℃で焼成し、タイル状にした」(記載事項(2g))とあるように、従来から当該分野において用いられてきた周知手段にすぎないものということができたとしても甲第2号証に記載された発明は、本件特許明細書において「この製造法では600?900℃の低温焼成で、JIS A 5209で規定されている床タイルの規格を満足する耐摩耗性を有する調湿セラミックス建材の作製は出来ない。」(段落【0006】)とする「稚内層珪藻土」(記載事項(2a))を用いるもので、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」を出発物質としておらず、「甲第3号証に記載された発明も「焼成温度900℃、1時間保持の条件で焼成して板状調湿セラミックス建材を作製した」(記載事項(3c))ことは記載されるものの「天然無機鉱物であり、多孔質クリストバライトを主成分とし、細孔分布において半径20?100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有する珪質頁岩の粉砕物」(記載事項(3a))を用いており、「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物」を出発物質としておらず、それぞれ、相違点gを甲1発明に採用させることを動機付ける発明として適当ではない。
そして、相違点hは、「天然鉱物の単独粉体」との選択的事項であり、従来から当該分野において用いられてきた周知手段にすぎないから実質的な相違点ではない。
さらに、本件訂正発明3の奏する効果については「OPS粉体単独で作製した調湿セラミックス建材は、600℃の低温焼成で表3に示した市販の調湿セラミックスよりも強度は大きく、耐摩耗性は陶磁器質床タイルのJIS規格を満足する。」(特許明細書の表4乃至6及び段落【0035】)というものであり、格別顕著と認められる。
してみると、本件訂正発明3は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものはないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものとはいえない。

VI-2.訂正請求に起因する無効理由について
平成22年3月17日付け補正拒否の決定により、審判請求書の補正が許可され、「訂正後の請求項1?3の各特許発明は、天然鉱物が「北海道の浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する」か否かが、本件特許明細書や本件特許出願時の周知技術を参酌しても明確に判断することができないので、かかる特定事項は、特許を受けようとする発明を不明確にしているといわざるを得ないものであるから、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものでなく、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである」との無効理由が審理の対象となった。
そこで、かかる特定事項が、特許を受けようとする発明を不明確にしているか、否かを検討する。
被請求人が証拠方法として提示する乙第17号証乃至乙第19号証は、北海道立地質研究所のHP(ホームページ、http://www.gsh.pref.hokkaido.jp/)に掲載された資料であって、乙第17号証の1は、5万分の1地質図幅「3旭川-11浅茅野台地」及び乙第18号証の1は、5万分の1地質図幅「3旭川-17浜頓別」の印刷物であり、これらの地質図幅とそれぞれの凡例や乙第19号証の5万分の1地質図幅/説明書「3旭川-17浜頓別」北海道開発庁、発行日:昭和42年3月を参照することにより、浅茅野層、ポンニタチナイ層及び17線川層は明確に把握することができ、それらの範囲内か外かは地質図幅に基づき認識可能であるので、それらのいずれかから産する天然鉱物の範囲は明確というほかはない。
なお、地層名を発明特定事項とする点は、被請求人の提示した乙第20号証の1?乙第20号証の6を参照するまでもなく、請求人の提示した甲第2号証が「稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法」に関し「稚内層珪藻土の粉砕物を単独で使用するか、あるいはこれとその他のセラミックス原料と配合して任意の形状に成形し、焼成することを特徴とする稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法。」(【請求項1】)を請求することからも、当該分野において行われており、同号証の明細書をみても、その地層の呼称により一義的に特定される何らかの技術的特長が存在するかは、必ずしも明らかではなく、技術的特長が請求項において特定されていない以上、その地層の内外により範囲を確定して明確性を担保している点で本願訂正発明と事情は変わりはない。

VII.結び

以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
調湿建材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物であって、北海道の淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物」を固化してなることを特徴とする調湿建材。
【請求項2】
請求項1記載の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物であって、北海道の淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物」の単独粉体又はこれと他の原料とを配合した混合粉体を成形した後、固化してなることを特徴とする調湿建材。
【請求項3】
請求項1記載の「オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物であって北海道の淺茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層のいずれかから産する天然鉱物」の単独粉体又はこれと他の原料とを配合した混合粉体を成形した後、600?900℃で低温焼成することを特徴とする調湿建材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、オパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とする天然鉱物の優れた調湿性と自硬性とを利用した、リサイクルできる調湿建材、並びに、低温焼成によって陶磁器質床タイルとして使用可能な耐摩耗性を備える調湿セラミックス建材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高気密・高断熱建築において社会的問題となっている湿害対策として調湿建材を使用する手法が注目され、各種の調湿建材が開発されている。これらの調湿建材は、材料の形態によって、不定形と定形とに大別される。
【0003】
一方、日本の産業廃棄物の最終処分量に占める建築廃材の割合は40%を超え、建築廃材のリサイクル率を高める技術を開発することが重要な課題となっている。その課題を達成するための開発は、最終処分を見越した材料設計に基づいてなされる必要があるが、環境材料である調湿建材においてもリサイクルが困難なものが殆どであるといった課題がある。
【0004】
不定形調湿建材の代表的なものは左官用調湿性塗材である。これは、調湿原料、硬化剤、骨材、繊維質原料、結合剤などをプレミックスした材料で、これに水を加えて混練し、左官が現場に合わせて施工される。従来の調湿性塗材は、調湿原料として各種珪藻土、硬化剤としてセメントやプラスター、結合材として樹脂をそれぞれ使用するのが一般的であるが、硬化剤の水和生成物或いは樹脂によって調湿原料の細孔が塞がれ、その機能が阻害されるという問題があり、また、セメントや樹脂で固化した材料を再利用することは困難であるという問題もある。
【0005】
定形調湿建材の一つに調湿セラミックス建材がある。例えば、本願発明者が発明者の一人となっている「稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法」(特許第2652593号)、並びに、「調湿セラミックス建材」(特許第2964393号)などに記載されているものである。これらは、多孔質クリストバライトを主成分とし、優れた調湿性能を有する天然鉱物を利用して作製するところに特徴がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、発明の実施の形態の項で詳述するように、この製造法では600?900℃の低温焼成で、JIS A 5209で規定されている床タイルの規格を満足する耐摩耗性を有する調湿セラミックス建材の作製は出来ない。
【0007】
上述の従来技術の問題点を鑑みてなされた本発明の目的は、リサイクルできる調湿材料、並びに床材としても使用できる強度と耐摩耗性を備えた調湿セラミックス建材を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、調湿性及び自硬性、並びに低温焼結性を備えるオパーリンシリカとスメクタイトとを主鉱物とした天然鉱物を主原料として作製することを特徴とする。
【0009】
本発明は、調湿性と自硬性とを備えた天然鉱物と、骨材、繊維質物、解膠剤などとを混合し、現場で水と混練して施工する塗材であり、特別な硬化剤や結合剤を使用することなく固化するために、再利用が容易であることを特徴とする調湿建材である。
【0010】
天然鉱物は、通常、粒径1mm以下に調整して使用し、水に対する分散性を良くするために適正な解膠剤を加える。天然鉱物の配合比が大きいほど固化体の強度と調湿性能は大きくなるが、乾燥・固化による収縮が大きくなり、亀裂が発生しやすくなるため、10?50wt%の配合比とする。骨材には種々の珪藻土、パーライトなどを使用するが、機能性の高い珪藻土の配合比が大きいほど調湿性能は大きくなる。繊維質物にはセルローズファイバー、合成繊維などを使用するが、古紙から再生したセルローズファイバーを利用すると廃棄物のリサイクル率が高まり、本発明の意義はより大きくなる。本発明の調湿建材は天然鉱物の自硬性によって固化することから、配合する原料固有の機能が阻害されないため、高機能化が容易であり、また、固化体は解砕するだけで元の状態に戻るため、再利用が容易である。
【0011】
本発明は、調湿性と自硬性とを備えた天然鉱物の単独又は混合粉体を通常の建築用セラミックスの成形法によって任意の形状に成形した後、乾燥・固化した調湿建材である。セメント、樹脂などのような特別な硬化剤又は結合剤を使用しないことから、再利用できることを特徴とする。天然鉱物の配合量が多いほど高強度となるが、JIS A 5209で規定された陶磁器質内装タイルの規格、輸送及び施工現場でのハンドリングを考慮すると、その配合割合を50wt%以上とするのが望ましい。この天然鉱物と混合する原材料には、焼成しないことから有機質、無機質など多種多様なものが使用できる。したがって、機能性原料の混合によって吸着・脱臭など新たな機能を付加することが容易であり、本発明による調湿建材の機能を多様化又は高度化することができる。また、本発明による調湿建材は天然鉱物の自硬性によって固化するため、解砕するだけで元の状態に戻り、再利用が容易である。
【0012】
本発明は、調湿性と自硬性とを備えた天然鉱物の単独又は混合粉体を通常の建築用セラミックスの成形法によって任意の形状に成形した後、焼成して作製する調湿建材であり、JIS A 5209で規定された陶磁器質床タイルの規格を満足することを特徴とする。天然鉱物の配合量が多いほど高強度となるが、JIS A 5209の床タイルの規格を満足するためには、その配合割合は50wt%以上とするのが望ましい。また、調湿性能及び焼成温度の関係は、調湿性能は焼成温度が高いほど小さくなり、強度は逆に大きくなるが、床タイルとして使用可能な調湿建材とするためには、600?900℃の焼成温度とする。600℃ぐらいの低温焼成で高強度にできるため、他の多孔質原料を配合してもその機能が阻害されないことから本発明による調湿建材の機能を多様化又は高度化することができる。
【0013】
本発明で使用する調湿性と自硬性とを備えた天然鉱物は、オパーリンシリカとスメクタイトを主成分とした天然資源を開発して得られたものである。その吸着等温線並びに吸放湿変化図を図1?2に示した。比較対照に用いたゼオライトに比べ、中・高湿度側における水蒸気吸着量並びに吸放湿機能が大きく、卓越した調湿性能を有している。この天然鉱物が備える自硬性はスメクタイトの特性に基づくものと考えられるが、特別な硬化剤又は結合剤を加えることなく固化し、その凝結力は他の粘土鉱物に比し卓越したものである。また、この天然鉱物は600℃ぐらいの低温焼成によって陶磁器質床タイルの規格を満足する強度と耐摩耗性を発現するという比類のない特徴を有する。本発明の調湿建材は、天然鉱物のこれらの特性を利用することによってはじめて可能としたものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0015】
[実施例1]:本発明の請求項1に係る調湿建材
粒径1mm以下に粉砕したオパーリンシリカとスメクタイトとを主成分とし、調湿性と自硬性とを備えた天然鉱物(浅茅野層、ポンニタチナイ層、17線川層等の地層に広く分布している:以下、OPS粉体と略称する)、解膠剤、骨材、繊維質物及び増粘剤の混合粉体に所定の水を加えて混練し、それをコテによって石膏ボード下地に塗り付け、乾燥・固化した調湿建材を作製し、吸放湿機能と耐摩耗性とを測定した。骨材には珪藻土、パーライト、火山灰を使用し、繊維質物には古紙から再生したセルローズファイバーを使用したが、それらの配合比並びに測定結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
--吸放湿機能の測定法--
恒温恒湿機を用いて槽内温度を一定にし、24時間毎に湿度を変動させて試料の吸湿率を測定し、その差を吸放湿機能とするが、槽内の温度は25℃、変動させる湿度は低温度側を50%、高湿度側を90%とした。当然ながら、吸放湿機能が大きいほど調湿性(調湿作用)も大きい。
【0018】
--耐摩耗性Aの測定法--
試料表面を荷重450グラムのブラシ(JIS A 6909で規定された黒豚の剛毛製)で左右に1000回擦った後、擦り減った量を測定する。それをグラム数で表し、摩耗減量とするが、それが小さいほど耐摩耗性は大きい。
【0019】
[比較例1]
OPS粉体の代わりにセメントを硬化剤として用いた以外は実施例1と同じ原料を使用して同じ方法で作製した試料について、同様の方法で吸放湿機能と耐摩耗性を測定した。その配合比並びに測定結果を表1に示した。
【0020】
[実施例2]:実施例1を高機能化した調湿建材
骨材の一部に高機能調湿原料を使用し、実施例1と同様の方法で調湿建材を作製し、その吸放湿機能と耐摩耗性Aを測定した。その配合比と測定結果を表1に示した。
【0021】
[実施例3]:本発明の実施例2を再利用した調湿建材
実施例2の調湿建材の石膏ボード下地から分離・解砕したものを用いて、同様の方法で調湿建材を作製し、その吸放湿機能と耐摩耗性Aを測定した。その測定結果を表1に示した。
【0022】
以上の実施例及び比較例から明らかなように、OPS粉体を利用した左官用調湿建材は、固化した時の凝結力が大きく、セメントを硬化剤に使用するよりも耐摩耗性に優れ、それ自体の機能が付加されることによって、吸放湿機能が大きい。また、骨材等に機能性原料を利用すれば、特別な硬化剤や結合剤を使用しないためにその機能が阻害されないことから、材料設計が容易であり、作製する左官用調湿建材の機能を高度化又は多様化することができる。さらには、一旦固化したものも分離・解砕するだけで元の状態に戻るため、再利用が容易である。
【0023】
[実施例4]:本発明の請求項2に係る調湿建材
OPS粉体単独又はそれと高機能珪藻土を配合した混合粉体を用いて加圧成形機でタイル状に成形後、乾燥・固化することによって調湿建材を作製し、その曲げ強度と吸放湿機能並びに耐摩耗性Bを測定した。その配合例と測定結果とを表2に示した。
【0024】
【表2】

【0025】
--耐摩耗性Bの測定法--
JIS A 5209で規定されている陶磁器質床タイルの摩耗試験法で摩耗減量を測定し、それをグラム数で表して耐摩耗性を評価した。なお、JIS規格の陶磁器質床タイルの耐摩耗性は摩耗減量が0.1g以下である。
【0026】
[比較例2]
実施例4と比較対照するために、市販されている2種類の調湿セラミックスの吸放湿機能と耐摩耗性Bとを測定した。それらの主原料と測定結果とを表3に示した。
【0027】
【表3】

【0028】
以上の実施例及び比較例から明らかなように、OPS粉体を利用した定形調湿建材は、成形・乾燥・固化によって作製したものであるが、焼成することによって作製した市販の調湿セラミックスに匹敵もしくはそれを上回る強度と耐摩耗性とを備えている。焼成しないためにOPS粉体と配合する原料には有機質物を含めて多様なものが利用でき、目的とする材料の設計が容易でありその機能を高度化又は多様化することができる。また、作製した調湿建材は解砕するだけで元の状態に戻るために再利用が容易である。
【0029】
[実施例5]:本発明の請求項3に係る調湿建材
OPS粉体を用いて加圧成形機でタイル状に成形後、600?900℃で焼成することによって調湿建材を作製し、その曲げ強度と吸放湿機能並びに耐摩耗性Bを測定した。焼成温度別測定結果を表4に示した。
【0030】
【表4】

【0031】
[実施例6]:実施例5を高機能化した調湿建材
OPS粉体と高機能珪藻土を配合した混合粉体を用いて、加圧成形機でタイル状に成形後、850℃で焼成することによって調湿建材を作製し、その曲げ強度と吸放湿機能並びに耐摩耗性Bを測定した。その配合比と測定結果を表5に示した。
【0032】
【表5】

【0033】
[比較例3]
実施例4及び6で使用した高機能珪藻土粉体単独を用いて、同様の方法で成形後、850?1150℃で焼成することによって調湿建材を作製し、その吸放湿機能と耐摩耗性Bとを測定した。焼成温度別測定結果を表6に示した。ここで使用した高機能珪藻土は従来技術の項で述べた、特許第2652593に記載されている稚内層珪藻土である。
【0034】
【表6】

【0035】
以上の実施例から明らかなように、OPS粉体単独で作製した調湿セラミックス建材は、600℃の低温焼成で表3に示した市販の調湿セラミックスよりも強度は大きく、耐摩耗性は陶磁器質床タイルのJIS規格を満足する。
【0036】
OPS粉体単独で作製した調湿セラミックス建材の焼成温度と吸放湿機能、耐摩耗性及び曲げ強度の関係を図3?5に示す。吸放湿機能は焼成温度と負の相関関係となるが、耐摩耗性と曲げ強度は正の相関関係となる。床タイルの耐摩耗性の規格を満足し、市販の調湿セラミックスBの吸放湿機能以上とするためには900℃以下の焼成温度とする。
【0037】
OPS粉体に高機能珪藻土を配合して高機能化することができるが、表5並びに図4に示した高機能珪藻土のセラミックス特性から明らかなように、耐摩耗性はOPS粉体のセラミックス特性に支配されることから、その配合比は最大50%とする。
【0038】
比較例の高機能珪藻土単独で作製した調湿セラミックスの焼成温度と吸放湿機能、耐摩耗性及び曲げ強度の関係を示したものが図6?8である。これらの図から明らかなように表2に示したOPS粉体単独で作製した不焼成の調湿建材の曲げ強度及び耐摩耗性に匹敵するものとするためには、1050℃以上で焼成する必要があるが、焼結によって吸放湿機能がほとんど失われる。床タイルの規格を満足する耐摩耗性を有するものとするためには、1100℃以上の高温焼成が必要となり、吸放湿機能が無くなることから調湿建材とならない。しかし、実施例6で示したように、OPS粉体に配合する原料として使用することによって、床タイルとして使用可能な耐摩耗性を有する調湿セラミックス建材を作製することができる。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の調湿建材はいずれも調湿性能が優れていることから、建築物の各部位に使用することによって、建築物の湿害を防止し、室内環境を快適かつ健康的に保つばかりでなく、建築物の耐久性を向上することができながら、セメントや樹脂などの特別な硬化剤又は結合剤を使用しないことから、リサイクルが容易であり、建築廃材の削減と環境負荷の低減に寄与する。
【0040】
さらに、セラミックスとした調湿建材は優れた強度と耐摩耗性とを有していることから、建築物のフロアや家具の部材として使用することができ、住環境をより健康的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】OPS及びゼオライトの25℃における水蒸気吸着等温線図である。
【図2】OPS及びゼオライトの25℃における吸放湿変化図である。
【図3】OPS粉体単独で作製した調湿セラミックス建材の焼成温度と吸放湿機能との相関図である。
【図4】OPS粉体単独で作製した調湿セラミックス建材の焼成温度と曲げ強度との相関図である
【図5】OPS粉体単独で作製した調湿セラミックス建材の焼成温度と摩耗減量との相関図である。
【図6】高機能珪藻土単独で作製した調湿セラミックス建材の焼成温度と吸放湿機能との相関図である。
【図7】高機能珪藻土単独で作製した調湿セラミックスの焼成温度と曲げ強度との相関図である。
【図8】高機能珪藻土単独で作製した調湿セラミックスの焼成温度と摩耗減量との相関図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-03-06 
結審通知日 2009-03-10 
審決日 2011-01-17 
出願番号 特願2000-148392(P2000-148392)
審決分類 P 1 113・ 113- YA (C04B)
P 1 113・ 121- YA (C04B)
P 1 113・ 537- YA (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武重 竜男  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 深草 祐一
木村 孔一
登録日 2005-03-25 
登録番号 特許第3659867号(P3659867)
発明の名称 調湿建材  
代理人 鈴木 正次  
代理人 近藤 利英子  
代理人 涌井 謙一  
代理人 梶原 克哲  
代理人 山本 典弘  
代理人 涌井 謙一  
代理人 涌井 謙一  
代理人 鈴木 正次  
代理人 山本 典弘  
代理人 山本 典弘  
代理人 鈴木 正次  

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