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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特37条出願の単一性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1251152
審判番号 不服2009-11491  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-22 
確定日 2012-01-25 
事件の表示 特願2005- 38169「リチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 2日出願公開、特開2005-235764〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年2月15日(優先権主張 2004年2月17日 韓国(KR))の出願であって、平成20年10月17日付けで拒絶理由が通知され、平成21年1月21日付けで手続補正がされ、同年3月13日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年6月22日に審判請求がされるとともに、同日付けで手続補正がされたものである。
その後、当審において、平成22年8月31日付けでした前置報告書に基づく審尋に対し、同年12月7日付けで回答書が提出され、平成23年5月9日付けでした上記の審判請求時の手続補正について却下すべき旨の審尋に対し、同年8月10日付けで回答書が提出されている。

第2 平成21年6月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年6月22日付けの手続補正を却下する。

[決定の理由]
I.補正の内容
平成21年6月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成21年1月21日付けの手続補正(以下、「先の補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の記載である以下の(A)を、(B)とする補正事項を含む。

(A)「【請求項1】 下記化学式1で表され,
CoK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが22°付近(003面)での回折線の回折強度に対する53°(104面)での回折線の回折強度の比が,10?70%であり、
前記回折強度は,測定条件が,30?40Kv/10?30mAの管電圧/電流,15°?70°の測定角度,0.02°?0.06°/ステップのステップサイズ,連続スキャンタイプで0.5?1.5sのステップ当りスキャン時間,1°?2°の発散スリット,0.1?0.5mmの受光スリットという条件下で測定した値であることを特徴とする,リチウム二次電池用正極活物質。
Li_(x)CoO_(2) ・・・(化学式1)
(前記化学式1において,xは0.90?1.04である。)
【請求項2】 前記リチウム二次電池用正極活物質は,CuK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが18°付近(003面)での回折線の回折強度に対する45°(104面)での回折線の回折強度の比が,20%以上,40%未満であることを特徴とする,請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】 前記リチウム二次電池用正極活物質は,CuK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが18°?20°付近(003面)での回折線の半価幅が,0.08?0.16であることを特徴とする,請求項1または2のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】 前記リチウム二次電池用正極活物質の平均粒子直径(D50)は,8?13μmであることを特徴とする,請求項1?3のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
下記化学式1で表され,
CuK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが18°付近(003面)での回折線の回折強度に対する45°(104面)での回折線の回折強度の比が,20%以上,40%未満であり、
前記回折強度は,測定条件が,15°?70°の測定角度,2?4/分のスキャンスピード,40?60回転/分の試料回転スピード,1°?2°の発散スリット,0.1?0.5mmの受光スリットという条件下で測定した値であることを特徴とする,リチウム二次電池用正極活物質。
Li_(x)CoO_(2) ・・・(化学式1)
(前記化学式1において,xは0.90?1.04である。)
【請求項6】
前記リチウム二次電池用正極活物質の平均粒子直径(D50)は,8?13μmであることを特徴とする,請求項6に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
下記化学式1で表され,
CuK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが18°?20°付近(003面)での回折線の半価幅が,0.08?0.16であり、
前記回折強度は,測定条件が,30?40Kv/10?30mAの管電圧/電流,15°?70°の測定角度,0.02°?0.06°/ステップのステップサイズ,連続スキャンタイプで0.5?1.5sのステップ当りスキャン時間,1°?2°の発散スリット,0.1?0.5mmの受光スリットという条件下で測定した値であることを特徴とする,リチウム二次電池用正極活物質。
Li_(x)CoO_(2) ・・・(化学式1)
(前記化学式1において,xは0.90?1.04である。)
【請求項8】
前記リチウム二次電池用正極活物質平均粒子直径(D50)は,8?13μmであることを特徴とする,請求項9に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】 リチウム原料物質及びコバルト原料物質を,コバルト1モルに対してリチウム0.90?1.04モルの比で混合する段階と;
前記混合物を950?980℃の焼成温度で6?10時間焼成する段階と;
を含み,
下記化学式1で表され,CoK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが22°付近(003面)での回折線の回折強度に対する53°(104面)での回折線の回折強度の比が10?70%であり、 前記回折強度は,測定条件が,30?40Kv/10?30mAの管電圧/電流,15°?70°の測定角度,0.02°?0.06°/ステップのステップサイズ,連続スキャンタイプで0.5?1.5sのステップ当りスキャン時間,1°?2°の発散スリット,0.1?0.5mmの受光スリットという条件下で測定した値である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
Li_(x)CoO_(2-y)A_(y) ・・・(化学式1)(前記化学式1において,xは0.90?1.04,yは0?0.5,AはF,S又はPである。)
【請求項10】 前記焼成温度は970?980℃であることを特徴とする,請求項12に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】 前記リチウム二次電池用正極活物質は,CuK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが18°付近(003面)での回折線の回折強度に対する45°(104面)での回折線の回折強度の比が,20%以上,40%未満であることを特徴とする,請求項12または13のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】 前記リチウム二次電池用正極活物質は,CuK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが18°?20°付近(003面)での回折線の半価幅が,0.08?0.16であることを特徴とする,請求項12?14のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。」

(B)「【請求項1】
下記化学式1で表され,
CuK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが18°付近(003面)での回折線の回折強度に対する45°(104面)での回折線の回折強度の比が,20%以上,40%未満であり、
前記回折強度は,測定条件が,15°?70°の測定角度,2?4/分のスキャンスピード,40?60回転/分の試料回転スピード,1°?2°の発散スリット,0.1?0.5mmの受光スリットという条件下で測定した値であり、
前記リチウム二次電池用正極活物質平均粒子直径(D50)は,8?13μmであることを特徴とする,リチウム二次電池用正極活物質。
Li_(1.03)CoO_(2) ・・・(化学式1)
【請求項2】
下記化学式1で表され,
CuK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが18°?20°付近(003面)での回折線の半価幅が,0.08?0.16であり、
前記回折強度は,測定条件が,30?40Kv/10?30mAの管電圧/電流,15°?70°の測定角度,0.02°?0.06°/ステップのステップサイズ,連続スキャンタイプで0.5?1.5sのステップ当りスキャン時間,1°?2°の発散スリット,0.1?0.5mmの受光スリットという条件下で測定した値であり,
前記リチウム二次電池用正極活物質の平均粒子直径(D50)は,8?13μmであることを特徴とする,リチウム二次電池用正極活物質。
Li_(1.03)CoO_(2) ・・・(化学式1) 」

II.補正の目的
ア 上記(A)において、請求項6が請求項6の記載を引用し、請求項8が請求項9の記載を引用し、請求項10が請求項12の記載を引用し、請求項11が請求項12又は請求項13の記載を引用し、請求項12が請求項12?14のいずれかの記載を引用しているのは、先の補正において、請求項の削除に伴う項番の繰上があったのに、引用する請求項の項番を繰り上げなかったことによる明らかな誤記と認められるから、上記(A)における請求項6は、請求項5の記載を引用し、請求項8は、請求項7の記載を引用し、請求項10は、請求項9の記載を引用し、請求項11は、請求項9又は請求項10の記載を引用し、請求項12は請求項9?11のいずれかの記載を引用しているものと認めることができる。

イ そうすると、上記の補正事項は、以下の事項よりなると認められる。
・補正前の請求項1?4,9?12を削除する。
・補正前の請求項6の引用項を「6」から「5」とし、補正前の請求項8の引用項を「9」から「7」とする。
・補正前の独立請求項5を削除し、補正前の請求項6を独立形式に表現し、かつ(化学式1)における「x」について、「0.9?1.04」を「1.03」と限定して、新たな請求項1(以下、「新請求項1」という。)とする。
・補正前の独立請求項7を削除し、補正前の請求項8を独立形式に表現し、かつ(化学式1)における「x」について、「0.9?1.04」を「1.03」と限定して、新たな請求項2(以下、「新請求項2」という。)とする。

ウ したがって、上記の補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「旧法」という。)第17条の2第4項第1?3号に規定する請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、及び誤記の訂正を目的とするものに該当する。

III.独立特許要件
本件補正は、上記のとおり、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とする補正事項を含むから、本件補正後の新請求項1,2に記載された発明(以下、それぞれ「本願補正発明1」、「本願補正発明2」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

1.特許法第36条第6項第2号について
新請求項1に記載の「前記リチウム二次電池用正極活物質平均粒子直径(D50)」、新請求項2に記載の「前記リチウム二次電池用正極活物質」、「前記回折強度」について、新請求項1に「リチウム二次電池用正極活物質平均粒子直径(D50)」は前記されておらず、新請求項2に「リチウム二次電池用正極活物質」、「回折強度」は前記されていないから、これらが何を示すものであるのか明らかでなく、本願補正発明1,2は明確でない。
よって、本願補正発明1,2は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2.特許法第29条第2項について
以下、新請求項1に記載の「前記リチウム二次電池用正極活物質」を除いて、本願補正発明1を認定する。

<引用刊行物>
刊行物1:特開2001-167761号公報
(原審の平成20年10月17日付け拒絶理由通知書に提示の引用例3)
刊行物2:特開平6-243897号公報
(同引用例2)

<具体的な理由>
(1)刊行物1の記載及び引用発明
刊行物1の請求項1?3の記載によると、刊行物1には、基本組成をLiMeO_(2)(MeはNi、Coから選ばれる1種以上)とし、CuK_(α)線によるX線回折分析から得られる(104)面での回折ピーク強度I_((104))と(003)面での回折ピーク強度I_((003))との強度比I_((003))/I_((104))が1.5以上4以下(強度比I_((104))/I_((003))が25%以上、67%以下)であり、平均粒子径0.8?1.3μmの1次粒子が凝集して2次粒子を形成している、リチウム二次電池正極活物質用リチウム遷移金属複合酸化物が記載され、さらに、請求項5、【0034】の記載によると、LiとMeとの配合比はモル比でLi:Me=1:1?1.1:1であり、【0021】の記載によると、(104)面での回折ピークは、2θ=44°付近に出現するピークであり、(003)面での回折ピークは、2θ=18°付近に出現するピークであることも記載されている。
したがって、刊行物1には、以下の発明が記載されているといえる。

「下記化学式1で表され,
CuK_(α)線を用いるX線回折パターンにおいて,2θが18°付近(003面)での回折線の回折強度に対する44°付近(104面)での回折線の回折強度の比が,25%以上,67%未満であり、
平均粒子径0.8?1.3μmの1次粒子が凝集して2次粒子を形成しているリチウム二次電池用正極活物質用リチウム遷移金属複合酸化物。
Li_(x)CoO_(2) ・・・(化学式1)
(1≦x≦1.1) 」(以下、「引用発明」という。)

(2)対比
本願補正発明1(前者)と、引用発明(後者)とを対比すると、後者の「44°付近(104面)での回折線の回折強度」は、前者の「45°(104面)での回折線の回折強度」と同じと認められるから、以下の点で相違し、他に相違するところはない。

相違点1:前者は、2θが18°付近(003面)での回折線の回折強度に対する45°付近(104面)での回折線の回折強度の比が,20%以上,40%未満であり、前記回折強度は,測定条件が,15°?70°の測定角度,2?4/分のスキャンスピード,40?60回転/分の試料回転スピード,1°?2°の発散スリット,0.1?0.5mmの受光スリットという条件下で測定した値であるのに対して、後者は、上記の比が25%以上,67%未満であり、回折強度の測定条件が明らかでない点

相違点2:前者は、平均粒子直径(D50)が8?13μmであるのに対して、後者は、平均粒子径0.8?1.3μmの1次粒子が凝集して2次粒子を形成している点

相違点3:前者は、Li_(1.03)CoO_(2)であるのに対して、後者は、Li_(x)CoO_(2)(1≦x≦1.1)である点

(3)相違点についての判断
(i)相違点1について
X線回折の原理からすれば、結晶の構造を反映する回折強度比はX線の波長(X線種)が決まれば一義的に決まるから、引用発明において、X線種(CuK_(α)線)以外の回折強度の測定条件が不明である点は、実質的な相違点とはならず、その回折強度比は、測定条件が特定された本願発明における回折強度比と対比できるものである。
そして、引用発明における回折強度比の範囲は、刊行物1の【0009】、【0010】、【0024】?【0026】の記載によれば、リチウム二次電池のサイクル特性や、容量、パワー特性を考慮して選択されているのであるから、同様の観点から、引用発明における回折強度比の数値範囲と重複する本願補正発明の数値範囲を選択することは、当業者が容易になし得ることである。

(ii)相違点2について
ア 刊行物2の表6には、非水電解液二次電池のLi_(1.0?1.08)MeO_(2)系正極活物質に関して、(エ)欄に平均1次粒子径(μm)が、(オ)欄に平均2次粒子径(μm)がそれぞれ記載されており(【0048】)、平均1次粒子径(μm)と平均2次粒子径(μm)とを比較すると、平均1次粒子径が約0.8μmのものの平均2次粒子径(μm)は、平均1次粒子径(μm)の約10倍となっていることが理解できる。
そうすると、引用発明における平均粒子径0.8?1.3μmの1次粒子が凝集して2次粒子を形成している正極活物質用リチウム遷移金属複合酸化物は、平均粒子直径が8?13μmに含まれる蓋然性が高い。

イ また、そうでないとしても、刊行物2の【0019】に好ましい体積粒径分布として記載されるD(50%)=4?9μmと重複する範囲の平均粒子直径の範囲を選択することは、当業者にとって格別困難なことではない。

ウ なお、審判請求人は、平成23年8月10日付けの回答書において、刊行物2の表6によれば、2次粒子が1次粒子の約8.3倍から27倍までの大きさで分布しているから、引用発明における2次粒子径の範囲は本願補正発明1の範囲より広い旨を主張している。
しかしながら、平均2次粒子径が平均1次粒子径の27倍となるのは、1次粒径が引用発明よりかなり小さい0.21μm(C-23)の場合であり、引用発明における一次粒子径0.8?1.3μmの範囲に含まれる0.81μm(C-14)の場合、又は引用発明に近い粒子径0.78μm(C-15)、0.76μm(C-17)、0.72μm(C-22)等の場合には、約10倍であるから、上記の主張は、「ア」に示す蓋然性を否定する根拠とならない。
そして、引用発明における平均粒子直径が、8?13μmの範囲でないとしても、「イ」に示すように、刊行物2の記載に基いて8?13μmの範囲を選択することは当業者が容易になし得る設計事項である。

(iii)相違点3について
刊行物1の【0034】には、Li_(x)MeO_(2)の原料混合物におけるMeとLiとの配合比を、Li:Me=1:1?1.1:1とする理由として、Meに対するLiの配合比を1より小さくすると、岩塩ドメインが大きくなり、Meに対するLiの配合比を1.1より大きくすると、容量低下を招くことが記載され、【0024】には、岩塩ドメインが電池反応の妨げになることが記載されている。
そうすると、引用発明において、Li_(x)CoO_(2)におけるLiとCoとの比を上記の範囲に含まれる1.03:1とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項である。

(4)小括
したがって、本願補正発明1は、引用発明及び刊行物2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)補足 - 補正案に対して
ア 審判請求人は、平成23年8月10日付けの回答書において、本願補正発明1について、「本願発明の回折線の強度比率及び粒径は、化学式1の組成を有するように出発物質のモル比を調節し、また製造工程で950?980℃の温度で焼成して得られるものです。従いまして、本願発明の回折線の強度比及び粒径は、特定範囲の焼成温度で制御される固有の物性です。」と主張し、「焼成温度を限定する補正を行う準備があります。」と述べている(第2頁第2?8行)。

イ しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、950?980℃の焼成温度の場合に、本願補正発明1における回折線の強度比と粒径を有する正極活物質が得られることは記載されているが(【0048】?【0064】、図2)、950?980℃の焼成温度を外れた場合に、本願補正発明1における回折線の強度比と粒径とに係る物理的性質が得られないとする具体的な比較例は何ら示されていない。
したがって、本願補正発明1における回折線の強度比と粒径とが、特定範囲の焼成温度で制御される固有の物性であるとの上記主張には疑義がある。

ウ また、仮に、上記主張を認容し、上記の補正を受け入れたとしても、刊行物1の【0037】には、好ましい焼成温度として、950?980℃を含む800?1000℃が望ましいことが記載されている。
そして、引用発明において、正極活物質の回折線の強度比と粒径とに係る数値範囲を、リチウム二次電池のサイクル特性や、容量、パワー特性を考慮して本願補正発明1と同様、又は重複する範囲に選択することは、上記「(3)」に示すとおり当業者が容易になし得ることであるから、上記の選択の過程において、800?1000℃の範囲から950?980℃の焼成温度範囲を選択することも、当業者が通常行う設計事項である。

エ したがって、回答書における補正案を検討しても、本願補正発明1が当業者にとって想到容易であるという判断が覆るものではない。

IV.まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、旧法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
I.本願発明
ア 理由1に示すとおり、本件補正は却下すべきものであるから、本願の発明は、上記「第2 II.ア」において、明らかな誤記と認めた点を除いて、平成21年1月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されたとおりのものであると認める。

II.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願は、二以上の発明について、経済産業省令で定める技術的関係を有していないから、特許法第37条に規定する要件を満たしていない、というものである。

III.当審の判断
1.各発明群の技術的特徴の認定
独立請求項1及び請求項1の引用項である請求項2?4に係る発明(以下、「請求項1発明群」という。)に共通する技術的特徴は、リチウム二次電池用正極活物質について、「CoK_(α)線」を用いて測定した「回折強度比」を特定したことである。
独立請求項5及び請求項5の引用項である請求項6に係る発明(以下、「請求項5発明群」という。)に共通する技術的特徴は、リチウム二次電池用正極活物質について、「CuK_(α)線」を用いて測定した「回折強度比」を特定したことである。
独立請求項7及び請求項7の引用項であると解される請求項8に記載された発明(以下、「請求項7発明群」という。)に共通する技術的事項は、リチウム二次電池用正極活物質について、「CuK_(α)線」を用いて測定した「回折線の半価幅」を特定したことである。
独立請求項9及び請求項9の引用項であると解される請求項10?12に記載された発明(以下、「請求項9発明群」という。)に共通する技術的事項は、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法について、「CoK_(α)線」を用いて測定した「回折強度比」を特定したものを製造することである。

2.各発明群の技術的特徴の関係
請求項1発明群と請求項9発明群とは、共通の技術的事項を有する物の発明と、その製造方法の発明との関係にあるから、単一性を満たすものである。また、請求項5発明群は、請求項1発明群と測定に用いる線源が異なるが、「回折強度比」の特定により反映される「結晶の構造」に技術的特徴を有する点で請求項1発明群と共通する技術的事項を有すると解されるから、単一性を満たすものといえる。
しかし、請求項7発明群は、請求項1発明群と測定に用いる線源が異なるばかりでなく、「回折線の半価幅」の特定により反映される「結晶の配向性」に技術的特徴を有するから、他の発明群と異なる技術的特徴を有するものである。
したがって、この出願は、単一性を欠いている。

第4 むすび
以上のとおりであるから、原査定の拒絶の理由は妥当であり、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-17 
結審通知日 2011-08-23 
審決日 2011-09-08 
出願番号 特願2005-38169(P2005-38169)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 537- Z (H01M)
P 1 8・ 64- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知植前 充司  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 大橋 賢一
野田 定文
発明の名称 リチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法  
代理人 アイ・ピー・ディー国際特許業務法人  
代理人 亀谷 美明  

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