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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C10M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1252770
審判番号 不服2010-10580  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-18 
確定日 2012-02-24 
事件の表示 特願2000-514976「潤滑組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 4月15日国際公開、WO99/18175、平成13年10月23日国内公表、特表2001-519457〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1998年10月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年10月3日,欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成12年4月3日に特許協力条約第34条補正の翻訳文が提出され、平成20年10月29日付けで拒絶理由が通知され、平成21年5月7日に意見書の提出、誤訳訂正及び手続補正がなされたが、平成22年1月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月18日に審判請求がなされると共に手続補正がなされ、同年12月3日付けの審尋に対し、平成23年3月14日に回答書の提出がなされたものである。

なお、平成21年5月7日に提出された誤訳訂正書と手続補正書は、前者の受付番号(50900916653)が後者のそれ(50900916751)よりも若いこと、及び同日に提出された意見書において、上記手続補正によって補正された特許請求の範囲を前提とした反論が述べられていることからみて、誤訳訂正書が先に提出され、その後に手続補正書が提出されたものと認める。(この点については、平成23年9月9日に行われた面接において、審判請求人も同じ見解を有している旨の回答を受けている。)

第2 平成22年5月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[結論]
平成22年5月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
上記補正は、特許協力条約第34条補正、平成21年5月7日付けの誤訳訂正及び手続補正によって補正された特許請求の範囲の
「【請求項1】 最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、400から5000の範囲内の分子量を有するエステルで、当該エステルにより、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる、潤滑組成物の構成要素として使用されるエステルの使用方法。
【請求項2】 そのエステルの分子量が450から2000の範囲内にある、請求項1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項3】 そのエステルの分子量が500から750の範囲内にある、請求項1にてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項4】 そのエステルが、多価アルコールとモノカルボン酸とのエステルである請求項1から3のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項5】 その酸が、最大24の炭素原子を含む、請求項1から4のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項6】 その酸が、最大18の炭素原子を含む、請求項5においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項7】 そのエステルは、2から8のエステル化可能な水酸基と、2から10の炭素原子を含む飽和脂肪族アルコールと、6から18の炭素原子を含む飽和脂肪族モノカルボン酸とのエステルである、請求項1から6のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項8】 そのエステルが、トリメチロールプロパンと、1以上のC_(8)からC_(10)のアルカノイック酸(alkanoic acids)とのエステルである、請求項7においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項9】 そのエステルが、酸価が最大5mg KOH/gである、請求項1から8のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項10】 そのエステルが、ASTM D97の流動点が最大-15℃、100℃の粘度が3から12mm^(2)/secの範囲内、及びASTM D2270の粘度指数が少なくとも120のエステルである、請求項1から9のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項11】 その潤滑組成物が、圧縮-点火エンジンのクランク室の潤滑剤である請求項1から10のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項12】 その潤滑組成物が当該組成物の全量においてそのエステルを5から50重量%含有する、請求項1から11のいずれかの1に記載された通り使用されるエステルの使用方法。
【請求項13】 その潤滑組成物がアミン系摩擦調整剤を含む、先のいずれかの請求項に記載された、エステルの使用方法。
【請求項14】 その潤滑組成物が当該組成物の全量においてそのエステルを5から50重量%含有する、請求項13においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項15】 その摩擦調整剤が第3アミンである、請求項13から14のいずれか1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項16】 摩擦調整剤が次式の化合物である請求項15においてクレームされた、エステルの使用方法。
【化1】

ここでR^(1)はアルキル基を示し、R^(2)はアルキル基又は水素を示し、及びm、n、pはそれぞれ1から4の範囲内の整数を示す。
【請求項17】 潤滑組成物がアルケニル アレン/ジエン共重合体粘度調整剤、及びヒンダードフェノール(hindered phenol)酸化防止剤を含有する、先のいずれかの請求項に記載された通り、エステルの使用方法。
【請求項18】 その組成物が当該組成物全量においてエステルを5から50重量%含有する、請求項17においてクレームされた通り使用される、エステルの使用方法。
【請求項19】 粘度調整剤が、スチレンとイソプレンの水素添加されたブロック共重合体、又は水素添加されたスターポリマー(star polymer)である、請求項17から18のいずれか1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項20】 粘度調整剤が、70000から100000の範囲の重量平均分子量を持つ水素添加されたスチレン/イソプレン共重合体である、請求項17から19のいずれか1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項21】 ヒンダードフェノール(hindered phenol)酸化防止剤が次式からなる、請求項17から20のいずれか1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【化2】

ここでR^(3)は第3ブチル基(tertiary butyl group)を示し、R^(4)はアルキル基を示し、任意にヘテロ原子、CH_(2)-アリール、アリール、又は(CH_(2))n
COOR^(5)が割り込まれ、nは1から4を示し、R^(5)はアルキル基を示す。
【請求項22】 その組成物は、トリメチロールプロパンとC_(8)からC_(10)のアルカノイック酸の混合物とのエステル、N-(2-ヒドロキシエチル)-N-(2-牛脂オキシエチル)-2-アミノエタノール、スチレン/イソプレン共重合体、及びC_(8)の飽和脂肪族アルコールの混合物又はC_(7)からC_(9)の飽和脂肪族アルコールの混合物とエステル化された3,5-ジ(t-ブチル)-4-ヒドロキシ-ヒドロ桂皮酸を含有する、先のいずれかの請求項においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項23】 その潤滑組成物は、請求項1から11のいずれか1に記載されたエステル、APIのグループ IIIの基油原料(API Group III base stock)、及び金属含有の洗浄剤を、当該組成物全量において10重量%から40重量%含み、当該組成物は少なくとも1.5重量%の灰分を有する、先のいずれかの請求項においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項24】 その組成物が、水素で異性化された基油原料(hydoroisomerized base stock)を含有する、先のいずれかの請求項においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項25】 その組成物はまた、先のいずれかの請求項に記載のもの以外に、1以上の洗浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、腐食防止剤、摩擦調整剤、防錆剤、流動点降下剤(pour point depressants)、粘度調整剤及び消泡剤を含む、先のいずれかの請求項においてクレームされた、エステルの使用方法。」

「【請求項1】 最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、400から5000の範囲内の分子量を有するエステルで、当該エステルにより、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる、潤滑組成物の構成要素として使用されるエステルの使用方法。
【請求項2】 そのエステルの分子量が450から2000の範囲内にある、請求項1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項3】 そのエステルの分子量が500から750の範囲内にある、請求項1にてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項4】 そのエステルが、多価アルコールとモノカルボン酸とのエステルである請求項1から3のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項5】 その酸が、最大24の炭素原子を含む、請求項1から4のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項6】 その酸が、最大18の炭素原子を含む、請求項5においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項7】 そのエステルは、2から8のエステル化可能な水酸基と2から10の炭素原子を含む飽和脂肪族アルコールと、6から18の炭素原子を含む飽和脂肪族モノカルボン酸とのエステルである、請求項1から6のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項8】 そのエステルが、トリメチロールプロパンと、1以上のC_(8)からC_(10)のアルカノイック酸(alkanoic acids)とのエステルである、請求項7においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項9】 そのエステルが、酸価が最大5mg KOH/gである、請求項1から8のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項10】 そのエステルが、ASTM
D97の流動点が最大-15℃、100℃の粘度が3から12mm^(2)/secの範囲内、及びASTM D2270の粘度指数が少なくとも120のエステルである、請求項1から9のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項11】 その潤滑組成物が、圧縮-点火エンジンのクランク室の潤滑剤である請求項1から10のいずれかの1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項12】 その潤滑組成物が当該組成物の全量においてそのエステルを5から50重量%含有する、請求項1から11のいずれかの1に記載された通り使用されるエステルの使用方法。
【請求項13】 その潤滑組成物がアミン系摩擦調整剤を含む、先のいずれかの請求項に記載された、エステルの使用方法。
【請求項14】 その潤滑組成物が当該組成物の全量においてそのエステルを5から50重量%含有する、請求項13においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項15】 その摩擦調整剤が第3アミンである、請求項13から14のいずれか1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項16】 摩擦調整剤が次式の化合物である請求項15においてクレームされた、エステルの使用方法。
【化1】
ここでR^(1)はアルキル基を示し、R^(2)はアルキル基又は水素を示し、及びm、n、pはそれぞれ1から4の範囲内の整数を示す。
【請求項17】 潤滑組成物がアルケニル アレン/ジエン共重合体粘度調整剤、及びヒンダードフェノール(hindered phenol)酸化防止剤を含有する、先のいずれかの請求項に記載された通り、エステルの使用方法。
【請求項18】 その組成物が当該組成物全量においてエステルを5から50重量%含有する、請求項17においてクレームされた通り使用される、エステルの使用方法。
【請求項19】 粘度調整剤が、スチレンとイソプレンの水素添加されたブロック共重合体、又は水素添加されたスターポリマー(star polymer)である、請求項17から18のいずれか1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項20】 粘度調整剤が、70000から100000の範囲の重量平均分子量を持つ水素添加されたスチレン/イソプレン共重合体である、請求項17から19のいずれか1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項21】 ヒンダードフェノール(hindered
phenol)酸化防止剤が次式からなる、請求項17から20のいずれか1においてクレームされた、エステルの使用方法。
【化2】
ここでR^(3)は第3ブチル基(tertiary butyl group)を示し、R^(4)はアルキル基を示し、任意にヘテロ原子、CH_(2)-アリール、アリール、又は(CH_(2))n
COOR^(5)が割り込まれ、nは1から4を示し、R^(5)はアルキル基を示す。
【請求項22】 その組成物は、トリメチロールプロパンとC_(8)からC_(10)のアルカノイック酸の混合物とのエステル、N-(2-ヒドロキシエチル)-N-(2-牛脂オキシエチル)-2-アミノエタノール、スチレン/イソプレン共重合体、及びC_(8)の飽和脂肪族アルコールの混合物又はC_(7)からC_(9)の飽和脂肪族アルコールの混合物とエステル化された3,5-ジ(t-ブチル)-4-ヒドロキシ-ヒドロ桂皮酸を含有する、先のいずれかの請求項においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項23】 その潤滑組成物は、請求項1から11のいずれか1に記載されたエステル、APIのグループ IIIの基油原料(API Group III base stock)、及び金属含有の洗浄剤を、当該組成物全量において10重量%から40重量%含み、当該組成物は少なくとも1.5重量%の灰分を有する、先のいずれかの請求項においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項24】 その組成物が、水素で異性化された基油原料(hydoroisomerized base stock)を含有する、先のいずれかの請求項においてクレームされた、エステルの使用方法。
【請求項25】 その組成物はまた、先のいずれかの請求項に記載のもの以外に、1以上の洗浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、腐食防止剤、摩擦調整剤、防錆剤、流動点降下剤(pour point depressants)、粘度調整剤及び消泡剤を含む、先のいずれかの請求項においてクレームされた、エステルの使用方法。」
に改めるものである。

2 補正の適否
この補正は、補正前の平成21年5月7日付けの手続補正によって補正された請求項1?25において、請求項16及び21において定義されていた【化1】及び【化2】の内容を削除しただけのものであり、削除したことによってその意味が不明確となった以外は何らの変更もなされていない。
そうすると、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1?4号に掲げる、「請求項の削除」、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」、「明りょうでない記載の釈明」のいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成22年5月18日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1?25に係る発明は、平成21年5月7日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?25に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、400から5000の範囲内の分子量を有するエステルで、当該エステルにより、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる、潤滑組成物の構成要素として使用されるエステルの使用方法。」

上記において、「最大30の炭素原子を有する」のが「カルボン酸」であるのか「エステル」であるのか、その記載のみからでは必ずしも明らかではないが、国際出願に添付された外国語の特許請求の範囲には「・・・of an ester of a carboxylic acid having at most 30 carbon atoms and an alcohol・・・」(日本語訳:「最大30の炭素原子を有するカルボン酸」と「アルコール」とのエステルの・・・(注:「 」は当審が付与))と記載されていることからみて、「最大30の炭素原子を有する」のは「カルボン酸」であると認める。
(この点については、平成23年9月9日に行われた面接において、審判請求人も同じ見解を有している旨の回答を受けている。また、以下、そのように認定した請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献5(特表平7-508771号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第5 当審の判断
当審は、本願発明は、原査定の理由によって拒絶をすべきものと判断する。
以下、詳述する。

1 刊行物
刊行物1:特表平7-508771号公報(原査定における「引用文献5」)

2 刊行物の記載事項
本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:「1.主要量の潤滑粘度の油に、
(i)一般式

[式中、R^(1)は、約8?約30個の炭素原子を含有する分枝鎖又は直鎖ヒドロカルビル基であり、R_(2)(注:R^(2)の誤記と認める。以下R^(3)?R^(6)についても同様)及びR_(3)はそれぞれ1?6個の炭素原子を含有する同種又は異種の分枝鎖又は直鎖アルキレン基あり、R_(4)、R_(5)及びR_(6)はそれぞれ2?4個の炭素原子を含有する同種又は異種のアルキレン基であり、Xは酸素又は硫黄であり、pは0又は1?20の範囲内の整数であり、tは独立して0又は1であり、そしてa、b及びcはそれぞれ1?4の範囲内の整数である]を有する約0.01?約1.0重量%のアルコキシル化アミン、及び(ii)一般式

[式中、R^(7)は10?18個の炭素原子を含有するアルキレン又はアルケニレンヒドロカルビル基を表わし、R^(8)は2?5個の炭素原子及び2?4個のヒドロキシル基を含有する多価アルコールの残基であり、eは0又は1であり、そしてdは1、2又は3の整数である]を有する約0.1?約1.0重量%の少なくとも1種の脂肪酸エステル、
を混合させてなる潤滑油組成物。」(特許請求の範囲第1項)

摘記1b:「10.エステルが、グリセロールモノオレエート、グリセロールジオレエート及びそれらの混合物よりなる群から選択される請求項1記載の組成物。
11.エステルがグリセロールモノオレエートとグリセロールジオレエートとの混合物である請求項10記載の組成物。」(特許請求の範囲第10,11項)

摘記1c:「本発明の摩擦調整剤組成物を配合することができる潤滑油ベースとしては、天然及び合成潤滑油並びにそれらの混合物を含めて、ジーゼル及びガソリンエンジンの両方用の潤滑粘度の自動車用クランクケース及びトランスミッション油が挙げられる。」(5頁左下欄12?16行)

摘記1d:「次の実施例は、本発明を更に例示するものである。
例1?3
約94容量部の鉱油に総量を100部にするのに有効な量で次の添加剤成分、
(a)ポリブテニルコハク酸無水物ポリアミン生成物(硼素化)、
(b)塩基性石油スルホン酸マグネシウム、
(c)メチルイソブチルカルビノールホスホロジチオエートの亜鉛塩、
(d)混成ノニルフェノールスルフィド、
(e)石油スルホン酸カルシウム(中性)、
(f)油溶性銅化合物酸化防止剤、
(g)ビスアルカリールアミン、
(h)解乳化剤、
(i)消泡剤、
(j)流動点降下剤、
(k)粘度調整剤、
を混合させることによってペース対照SAE1OM-30処方物を調製した。
このベース対照処方物を取り、次の摩擦調整剤成分を次の容量(V)で加えた。
例1:対照処方物+0.5%V、グリセロールオレエートエステル
例2:対照処方物+0.5%V、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミン
例3:対照処方物+0.25%V、グリセロールオレエートエステル+0.25%V、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミン
対照処方物及び例1?3の各処方物に対して、Sequence VI dynanometer fuel economy screener testを行った。記録されたEFEI試験結果は次の通りである。
EFEI 試験結果
対照 1.17
例1 2.44
例2 3.10
例3 3.14
試験結果によれば、グリセロールオレエート混合物及びN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミンの各々は、0.5容量%濃度で対照処方物に加えるとベース処方物において向上した燃費を示すことが表われているが、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミンの方が幾分優れている。
それ故に、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミン及びグリセロールオレエート混合物をそれぞれ0.25容量%濃度で組み合せることによって得られる3.14のEFEI結果は、予測されるよりもずっと高く、そして0.5容量%濃度で単独で使用したN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミンよりも一層高い。
例4?6
上記と同様の3種の追加的な油組成物を調製した。主な相違は、例1?3における添加剤成分(c)を混合ブタン-1-オール及びインソオクタノールホスホロジチオエートの亜鉛塩によって置き換えたことであった。
例4:対照処方物+0.25%V、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミン
例5:対照処方物+0.5%V、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミン
例6:対照処方物+0.25%V、グリセロールオレエート混合物+0.25%V、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミン
処方物に対して、Standard Sequence dynanometer testを行った。記録されたEFEI試験結果は次の通りであった。
EFEI試験結果
例4 1.94
例5 2.48
例6 2.67
再び、これらの結果は、0.25容量%濃度でそれぞれ存在するN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミンとグリセロールオレエート混合物との組み合わせに基づくEFEI試験結果が、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミンをそれぞれ0.25容量%濃度及び0.5等量%濃度で単独使用して得られる結果よりも優れていることを例証している。」(9頁右上欄1行?右下欄最下行)

3 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「1.主要量の潤滑粘度の油に、
(i)一般式

[式中、R^(1)は、約8?約30個の炭素原子を含有する分枝鎖又は直鎖ヒドロカルビル基であり、R_(2)(注:R^(2)の誤記と認める。以下R^(3)?R^(6)についても同様)及びR_(3)はそれぞれ1?6個の炭素原子を含有する同種又は異種の分枝鎖又は直鎖アルキレン基あり、R_(4)、R_(5)及びR_(6)はそれぞれ2?4個の炭素原子を含有する同種又は異種のアルキレン基であり、Xは酸素又は硫黄であり、pは0又は1?20の範囲内の整数であり、tは独立して0又は1であり、そしてa、b及びcはそれぞれ1?4の範囲内の整数である]を有する約0.01?約1.0重量%のアルコキシル化アミン、及び(ii)一般式

[式中、R^(7)は10?18個の炭素原子を含有するアルキレン又はアルケニレンヒドロカルビル基を表わし、R^(8)は2?5個の炭素原子及び2?4個のヒドロキシル基を含有する多価アルコールの残基であり、eは0又は1であり、そしてdは1、2又は3の整数である]を有する約0.1?約1.0重量%の少なくとも1種の脂肪酸エステル、
を混合させてなる潤滑油組成物。」が記載されており(摘記1a)、「エステルがグリセロールモノオレエートとグリセロールジオレエートとの混合物である」こと(摘記1b)、潤滑油ベースとして「天然及び合成潤滑油並びにそれらの混合物を含めて、ジーゼル及びガソリンエンジンの両方用の潤滑粘度の自動車用クランクケース・・・油が挙げられる。」こと(摘記1c)、例6として、(i)としてN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミンを、(ii)としてグリセロールオレエート混合物を使用したものも記載されている(摘記1d)。

そうすると、刊行物1には、
「主要量の潤滑粘度の油に、
N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)牛脂アミン
及び
グリセロールモノオレエートとグリセロールジオレエートとの混合物
を混合させてなる組成物を、ジーゼルエンジンの自動車用クランクケース油として使用する方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「グリセロールジオレエート」はグリセロールとオレイン酸(炭素数18)とのジエステルであり、その分子量は620であるから、それは、本願発明の「最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、400から5000の範囲内の分子量を有するエステル」に相当する。
また、引用発明の「主要量の潤滑粘度の油に、
・・・
グリセロールモノオレエートとグリセロールジオレエートとの混合物
を混合させてなる組成物を、・・・として使用する方法。」は、グリセロールジオレエートを含む混合物を、主要量の潤滑粘度の油に混合して、すなわち潤滑組成物の構成要素として使用することを意味するから、それは本願発明の「最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、・・・潤滑組成物の構成要素として使用されるエステルの使用方法。」に相当する。

そうすると、両者は、
「最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、400から5000の範囲内の分子量を有するエステルで、潤滑組成物の構成要素として使用されるエステルの使用方法。」
である点において一致し、以下の点で相違する。

相違点
本願発明では、「当該エステルにより、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる」ものであるのに対し、引用発明ではそのことが明らかでない点

5 相違点についての判断
特許協力条約第34条補正、平成21年5月7日付けの誤訳訂正及び平成21年5月7日付けの手続補正により補正された本願の明細書(以下「本願明細書」という。)には、「【0001】本発明は、潤滑組成物に関し、特にピストンエンジン、とりわけジーゼル(圧縮-点火の)エンジン、クランク室の潤滑に用いるのに好適な組成物に関する。本発明はまた、改良された性能を一定の観点で与える一定の成分の使用に関するものである。
・・・
【0004】クランク室の潤滑剤の更なる目的は、クランク室内にて見出せる燃焼副生成物を浮遊状態において維持し、エンジンに悪影響を与えるスラッジや付着物(ディポジット deposits)の形成を阻止するところにある。かかる潤滑組成物の機能および性能全てにおいて改良を行う必要がある。
【0005】本発明は、浮遊状態に粒子状の燃焼物質を保持する潤滑組成物の能力を改善するために、最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、その分子量が400から5000の範囲内にある当該エステルの使用を提供する。さらにとりわけ、本発明は、当該組成物のすす処理の特性を改良するための、かかるエステルの使用を提供する。」と記載されている。
上記記載からみて、本願発明は、最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、その分子量が400から5000の範囲内にある当該エステルを、ピストンエンジン、とりわけジーゼルエンジンのクランク室の潤滑に用いることによって、クランク室内にて見い出せる燃焼副生成物(粒子状の燃焼物質)を浮遊状態において維持し、エンジンに悪影響を与えるスラッジや付着物の形成を阻止するものであると認められる。
よって、本願発明における「当該エステルにより、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる」という構成要件は、本願発明のエステルを、粒子状の燃焼物質が混入するような条件、例えばジーゼルエンジンのクランク室の潤滑油構成成分として使用したときに必然的に生じる現象を表しているものといえる。
一方、引用発明も、本願発明と同じエステルを、「ジーゼルエンジンの自動車用クランクケース油として使用する」ものである。
そうすると、引用発明においても、本願発明と同じエステルを、粒子状の燃焼物質が混入するような条件である「ジーゼルエンジンの自動車用クランクケース油として」使用するのであるから、当然、「当該エステルにより、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる」という現象を生じるものである。
したがって、この点は実質的な相違点とはいえない。

6 請求人の主張について
審判請求人は、平成23年3月14日付けの回答書において、主に以下の4点を主張する。
(1)先行技術は、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持することを開示していない。
(2)洗浄剤に、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持する作用があると考える理由がないため、当業者にとって、その効果を検証することは自明ではなかった。
(3)ある用途が見つけられたことの容易さは、その新たな用途の発見に進歩性があるかないかということには無関係。粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持する分散剤の効果は、本願の優先日には完全に予期できないものであり、請求された内容は進歩性を有する。
(4)以下の補正案を提示する。
1.「最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、400から5000の範囲内の分子量を有するエステルで、当該エステルにより、クランク室に進入する粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる、クランク室の潤滑組成物の構成要素として使用されるエステルの使用方法。」

1.「最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、400から5000の範囲内の分子量を有し、酸価が最大で5mg KOH/gであるエステルで、当該エステルにより、クランク室に進入する粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる、クランク室の潤滑組成物の構成要素として使用されるエステルの使用方法。」

1.「最大30の炭素原子を有するカルボン酸とアルコールとのエステルであって、400から5000の範囲内の分子量を有し、酸価が最大で5mg KOH/gであり、5から50重量%の割合いで存在するエステルで、当該エステルにより、クランク室に進入する粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる、クランク室の潤滑組成物の構成要素として使用されるエステルの使用方法。」

そこで、上記主張について検討する。
まず、主張(1)、(2)について検討する。上記5で指摘したように、本願発明における「当該エステルにより、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる」という構成要件は、本願発明のエステルを、粒子状の燃焼物質が混入するような条件、例えばジーゼルエンジンのクランク室の潤滑油構成成分として使用したときに必然的に生じる現象を表しているものであり、引用発明においても、本願発明と同じエステルを、粒子状の燃焼物質が混入するような条件である「ジーゼルエンジンの自動車用クランクケース油として」使用するのであるから、当然、「当該エステルにより、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる」という現象を生じるものである。
したがって、「当該エステルにより、粒子状の燃焼物質を浮遊状態に保持させる」ということが刊行物1に記載されていなくても、引用発明の方法を実施すれば必然的にその現象が生じるのであるから、その点は両者の実質的な相違点とはいえない。
次に、主張(3)について検討する。請求人の主張は進歩性、すなわち特許法第29条第2項の規定によっては本願を拒絶することができないことの根拠にはなっても、新規性、すなわち特許法第29条第1項第3号に該当することを理由として本願を拒絶することができないことの根拠にはならない。
次に、主張(4)について検討する。特許出願について、拒絶理由通知を受けた後、補正をすることができるのは、特許法第17条の2第1項第1号?第4号に掲げる場合に限られるところ、上記主張の後、審理の終結までにそのような場合に該当する事情は生じていない。また、拒絶査定不服審判は、原査定の拒絶の理由が適法か否かを審理すべきものであり、原査定の拒絶の理由が適法であるのに、それを取り消して別途請求人に補正の機会を与えることは適当でない。
(参考判決:平成22(行ケ)10190号
『第4 当裁判所の判断 …
1 裁量権の逸脱,濫用について
原告は,審判合議体が,請求人の提出に係る回答書(補正案が添付記載されている。)の当否について審理せず,これに対する理由を示さなかった点において,審判合議体の有する裁量権を逸脱,濫用したものであり,違法であると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
特許法158条には,「審査においてした手続は,拒絶査定不服審判においても,その効力を有する」と規定されている。同規定によれば,拒絶査定不服審判は,審査における手続を有効なものとした上で,必要な範囲で更に手続を進めて,出願に係る発明について特許を受けることができるか否かを審理するものであり,審査との関係では,いわゆる続審の性質を有する。
そして,審判手続の過程で請求人の提出した書面に記載された意見の当否について,審決において,個々的具体的に理由を示すことを義務づけた法規はない。
したがって,審決において,請求人の提出に係る回答書(補正案が添付記載されている。)について,その当否について,個々的具体的な理由を示さなかったとしても,当然には裁量権の濫用又は逸脱となるものではない。』)

また、念のために付言すれば、仮に請求人が主張するような補正、例えば3つの補正案のうちの1番目の補正がなされたとしても、引用発明は「ジーゼルエンジンの自動車用クランクケース油として使用する」方法である以上、引用発明との間に新たな相違点が生じるものでもない。
以上のとおりであるから、請求人の主張は採用することができない。

7 小括
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-20 
結審通知日 2011-10-03 
審決日 2011-10-17 
出願番号 特願2000-514976(P2000-514976)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C10M)
P 1 8・ 57- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂井 哲也  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 小出 直也
木村 敏康
発明の名称 潤滑組成物  
代理人 宮崎 伊章  
代理人 宮崎 伊章  

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