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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01H
管理番号 1252935
審判番号 不服2009-3004  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-22 
確定日 2012-02-29 
事件の表示 特願2000-506820「遺伝子工学的に作製されるウキクサ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 2月18日国際公開,WO99/07210,平成13年 9月 4日国内公表,特表2001-513325〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は,平成10年8月11日( パリ条約による優先権主張理 平成9年8月12日,米国)を国際出願日とする特許出願であって,平成20年6月3日付けで拒絶理由通知書が通知され,同年9月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年10月20日付で拒絶査定がなされ,これに対して,平成21年1月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年2月23日に手続補正書が提出されたものである。
そして,当審において平成23年2月7日付けで審尋がなされ,これに対して同年6月6日に回答書が提出された。

第2 平成21年2月23日付けの手続補正についての補正却下の決定[補正却下の決定の結論]
平成21年2月23日付の手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正は,補正前(平成20年9月30日付け手続補正書参照)の請求項1について,
「【請求項1】
目的の核酸によりウキクサを安定的に形質転換するための方法において,
(a)ウキクサ標的組織を用意するステップと,
(b)前記核酸が前記ウキクサ標的組織の細胞の細胞壁を突き抜けて当該組織の細胞内に配置されるのに十分な速度で,前記ウキクサ標的組織に前記核酸を発射するステップと,
(c)安定的に形質転換された組織を生成するステップと
を含む方法であって,
前記核酸が微小発射体により運搬されるとともに,
前記組織に前記微小発射体を発射することにより前記核酸が前記組織に発射される
ことを特徴とする方法。」
とあるのを
「【請求項1】
目的の核酸によりウキクサを安定的に形質転換するための方法において,前記核酸は選択剤に対する耐性を付与する遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセットを含み,
(a)ウキクサ標的組織を用意するステップと,
(b)前記核酸が前記ウキクサ標的組織の細胞の細胞壁を突き抜けて当該組織の細胞内に配置されるのに十分な速度で,前記ウキクサ標的組織に前記核酸を発射するステップと,
(c)前記選択剤を含む培地で前記ウキクサ組織を培養するステップと,
(d)安定的に形質転換された組織を生成するステップと
を含む方法であって,
前記核酸が微小発射体により運搬されるとともに,
前記組織に前記微小発射体を発射することにより前記核酸が前記組織に発射される
ことを特徴とする方法。」(なお,下線は補正箇所を示す。)
と補正する事項を含むものである。

2 補正の目的
上記補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「核酸」について「前記核酸は選択剤に対する耐性を付与する遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセット」との限定を付加し,かかる耐性を付与する遺伝子による選択を行うべく,「(c)前記選択剤を含む培地で前記ウキクサ組織を培養するステップ」なる特定事項を付加したものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,上記補正事項は,願書に最初に添付した明細書の記載からみて新規事項を追加するものではなく,平成18年改正前の特許法第17条の2第2項に規定する要件を満たすものである。

3 独立特許要件
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)補正発明
補正発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1からみて,次の事項により特定される発明であると認められる。
「【請求項1】
目的の核酸によりウキクサを安定的に形質転換するための方法において,前記核酸は選択剤に対する耐性を付与する遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセットを含み,
(a)ウキクサ標的組織を用意するステップと,
(b)前記核酸が前記ウキクサ標的組織の細胞の細胞壁を突き抜けて当該組織の細胞内に配置されるのに十分な速度で,前記ウキクサ標的組織に前記核酸を発射するステップと,
(c)前記選択剤を含む培地で前記ウキクサ組織を培養するステップと,
(d)安定的に形質転換された組織を生成するステップと
を含む方法であって,
前記核酸が微小発射体により運搬されるとともに,
前記組織に前記微小発射体を発射することにより前記核酸が前記組織に発射される
ことを特徴とする方法。」

(2)引用刊行物記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物であるProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,1991年,Vol. 88,pp. 2683-2686(以下,「刊行物1」という。)及び特表平6-502533号公報(以下,「刊行物2」という。)には,次の事項が記載されている。
なお,以下の下線はすべて当審にて付記したものである。以下同様である。
ア 刊行物1記載の事項
翻訳は,当審によるものである。
(刊1-1)「ABSTRACT
We have developed a transient gene expression assay system in the aquatic monocot Lemna gibba in which DNA was introduced into intact tissue by particle bombardment. Constructs based on the Lemna rbcS gene SSU5B, which is positively regulated by phytochrome in vivo, also showed phytochrome regulation in the transient assay system. Reporter gene expression increased 12-fold over dark levels in response to a single treatment with red light. This increase was not observed if far-red light was immediately followed by the red light. A 5' deletion analysis of the promoter defined a region from position -205 to position -83 relative to the start of transcription as necessary to observe the phytochrome response.」(2683頁 ABSTRACTの欄)
(翻訳)
「要約
私たちは,DNAが粒子撃ち込みによって無傷組織へ導入された水生単子葉植物Lemna gibbaの中の一時的な形質発現アッセイ系を開発した。フィトクロムによって正に生体内で調節されるLemna rbcS遺伝子SSU5Bに基づいた構築物は,さらに一時的なアッセイ系でフィトクロム調節を示した。レポーター遺伝子発現は,赤色光単一の処理に応じて暗レベルで12倍増加した。この増加は,近赤外光がすぐに赤色光に続いた場合,観察されなかった。プロモーターの5'欠失分析は,フィトクローム反応を観察するのに必要な転写開始点と関連する位置-205から位置-83までの領域を定義した。」

(刊1-2)「Construction of SSU5B Promoter Fusions. The construct p5BCATNOS contains SSU5B sequence from position -%5 to position +197 joined as a translational fusion to the chloramphenicol acetyltransferase (CAT) gene with a nopaline synthase (nos) 3' untranslated region. SSU5B sequence was isolated from the phage A genomic clone λSSU5B (5) as two subclones: (i) plasmid pXB985 contained the region from position -965 to position +20 as an Xba I-BamHI fragment in the vector pUC19 and (ii) plasmid pSSU500 contained the region from position -256 to position +197 as a Sal I fragment in pBR322. The SSU5B sequences were joined as a translational fusion to the CAT gene because it has been reported that the transit peptide from the Arabidopsis rbcS gene increased expression in transgenic plants (28). To obtain the translational fusion, two fragments were ligated into the vector pBluescript SK(-) (Stratagene) digested with BamHI and EcoRI. The first fragment, containing SSU5B sequence from position +20 to position + 197, was isolated from pSSU500 by digestion with Sal I, trimming with mung bean nuclease to create a blunt end, and further digestion with BamHI.
The second fragment containing the 5' coding region of the CAT gene was isolated from pBR328 (29) by digestion with Taq, trimming with mung bean nuclease, and digestion with EcoRI.
Correct insertion of the two fragments into pBluescript SK(-) was confirmed by dideoxynucleotide sequencing using the Sequenase DNA sequencing kit (United States Biochemical).The resulting plasmid was called p5BCATA.
The remaining coding sequence of CAT and 1.13 kilobases of sequence downstream of the nos gene were isolated from pMZRI (a gift from B. Volcani, Scripps Institute, La Jolla, CA) by digestion with EcoRI and HindIII and cloned into p5BCATA to give the construct p5BCATB. SSU5B sequence from position -965 to position +20 was isolated from pXB985 by digestion with Xba I and BamHI and cloned into p5BCATB to give the construct p5BCATNOS. Deletions of the promoter were made either by digestion of pXB985 at convenient restriction sites (Sau3AI at position -83; Dra I at position -739)or by digestion with BAL-31 exonuclease (resulting in deletions to positions -480, -397, -301, -205, and -74) and cloning the resulting fragment into the BamHI site of p5BCATB. Dideoxynucleotide sequencing was used to determine the endpoints of the digested promoter.」(2684頁左欄5?47行)
(翻訳)
「SSU5Bプロモーター融合物の構築。 pBCATNOSを構築物はノパリン・シンターゼ(nos)3'非翻訳領域とクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子に翻訳融合として連結された-5%から+197のSSU5Bシーケンスを含んでいる。SSU5B配列は2つのサブクローンとしてファージAゲノミッククローンλSSU5B(5)から分離されまた:(i)プラスミドpXB985は,ベクターpUC19の中のXba I-BamHI断片として位置-965から位置+20までの領域を含んでおり,そして,(ii)プラスミドpSSU500は,pBR322中のSal I 断片として,位置-256から位置+197までの領域を含んでいた。アラビドプシスrbcS遺伝子からのシグナルペプチドが,遺伝子導入植物(28)の中の発現を増加させたことが報告されたので,SSU5B配列は翻訳融合としてCAT遺伝子につながれた。翻訳融合を得るために,2個の断片が,BamHIとEcoRIで消化されたベクターpBluescript SK(-)(Stratagene社)へ結合された。位置+20から位置+197までのSSU5B配列を含んでいる最初の断片は,Sal Iで消化し,平滑末端を作る大豆ヌクレアーゼでトリミングし,そしてBamHIでさらに消化することによりpSSU500から分離された。CAT遺伝子の5'コード領域を含んでいる第2の断片は,Taq Iで消化,大豆ヌクレアーゼでトリミングし,そしてEcoRIで消化しpBR328(29)から分離された。pBluescript SK(-)の中への2個の断片の正確な挿入はSequenase DNA塩基配列決定キット(米国 バイオケミカル社)を使用して,dideoxynucleotideシーケンシングによって確認された。生じるプラスミドはp5BCATAと呼ばれた。
CATの残りのコーディング配列とnos遺伝子の下流配列の1.13キロベースの配列はEcoRIとHindIIIの消化によってpMZRI(B.Volcani,Scripps研究所,la Jolla,CAからの贈呈)から分離され,構築物p5BCATBを与えるためにp5BCATA内にクローンされた。+20の位置を決める位置-965からのSSU5B配列はXba IとBamHの消化によってpXB985から分離され,構成物p5BCATNOSを与えるためにp5BCATBへクローンされた。プロモーターの欠失は,便利な制限部位 ( 位置 -83のSau3AI; 位置 -739のDra I )のpXB985の消化,あるいはBAL-31エキソヌクレアーゼ消化によって(位置-480,-397,-301,-205および-74に欠失を生じる)なされ,p5BCATBのBamHIサイト内へ生じる断片をクローンニングする。Dideoxynucleotideシーケンシングは消化されたプロモーターの端点を決定するために使用された。」

(刊1-3)「 Bombardment and Irradiation. Monolayers (4 cm in diameter) of dark-treated etiolated Lemna fronds were bombarded using the Biolistics Particle Delivery System (PDS 1000, Du Pont) as described (24, 25). Each sample was bombarded with 1.25 mg of 1.2-μm tungsten particles coated with 8 μg of supercoiled plasmid DNA. Control samples were bombarded with uncoated particles. A single layer of cheesecloth was placed over the sample to prevent fronds from being dislodged. All manipulations were performed under a dim green safelight.
Immediately (within 1 min) after bombardment all samples were irradiated with 2 min of FR to counteract any possible effect of the light produced by the discharge of the apparatus. Samples were then either placed in darkness or immediately illuminated with 2 min of R or with 2 min of R followed by 2 min of FR before returning to darkness. For some experiments, 2 min of R or 2 min of R and 10 min of FR treatments were given every 2 hr. Samples were incubated at 25℃ and harvested 16 hr after bombardment unless otherwise stated. Many of the fronds showed visible signs of damage after bombardment. It is not known how many individual cells are responsible for the observed activity.」(2684頁左欄48行?末行)
「撃ち込みと照射。 暗処理され白化したLemnaの葉の単層(直径4cm)は,(24,25)に記述されるようなBiolistics粒子運搬システム(PDS 1000(デュポン社))を使用して撃ち込まれた。各々の試料は,スーパーコイル化されたプラスミドDNAの8 μgで覆われた1.25mgの1.2-μmタングステン粒子状物質を打ち込まれた。コントロール試料はコーティングしていない粒子状物質で打ち込まれた。粗い布の単一層は葉が移動されるのを防ぐために試料に対して置かれた。操作はすべてかすかな緑のセーフライトの下で行なわれた。
撃ち込みの後,直ちに(1min以内に),装置の発射によって出力された光のどんな可能な影響も打ち消すために,試料はすべて2minのFRで照らされた。試料は,暗黒下に置かれるか若しくは暗黒に戻す前の2分間のFRに続き,直ちに2minのR,又は2minのRで照らされるかのいずれかであった。いくつかの実験については,2minのRあるいは2minのR,ならびに10minのFR処理は,2時間ごと与えられた。試料は25℃でインキュベートされ,特に述べない限り,撃ち込み後16時間で採取した。葉の多くは,撃ち込みの後に損傷の目に見える印がみられた。いくつの個々の細胞が観察された活性の原因であるから分からない。

(刊1-4)「CAT Activity Assays. The entire 4-cm monolayer sample was harvested for each assay. Fronds were ground in 400 μl of ice-cold 0.25 M Tris Cl, pH 7.5/5 mM EDTA/0.5 mM phenylmethylsulfonyl fluoride/1 mM dithiothreitol using a ground-glass homogenizer. The homogenate was centrifuged at 14,000 x g at 4℃ for 10 min to remove debris. Protein concentrations in the supernatant were determined using the Bradford assay method (Bio-Rad). CAT activity in the supernatant was determined as described (30) except that the incubation at 37℃ was extended to 90 min. Equal volumes (200μl) of clarified extract were used in each assay, and results were expressed as [^(14)C]chloramphenicol acetylated per mg of protein per hr after correction for background activity from control samples that had been bombarded with uncoated tungsten particles. Activity of control samples was unaffected by light treatments. 」(2684頁右欄1?16行)
(翻訳)
「CAT活性分析。 4cmの単層の試料全体が各分析のために採取された。
氷冷された0.25Mトリス Cl 400μl,pH 7.5/ 5 mM EDTA/0.5 mM /フェニルメチルスルホニル・フッ化物/ 1 mMジチオスレイトール中ですりガラスホモジナイザーを使用して,葉は粉砕された。ホモジェネートは残骸を除去するために10minで4℃で14,000× gで遠心分離機にかけられた。上澄みの中のタンパク質濃度はBradford分析方法(バイオ-ラッド)を使用して決定された。37℃のインキュベーションが90分まで延長されたという点を除いて,上澄みの中のCAT活性は(30)に記述されたように決定された。浄化された抽出物の等量(200μl)は,各分析の中で使用された。また,結果は,コーティングしていないタングステン粒子状物質で打ち込まれたコントロール試料からのバックグラウンド活性のための修正の後に、アセチル化された[^(14)C]クロラムフェニコール/mg蛋白質/時間を単位として表された。コントロール試料の活性は光処理に影響されなかった。」

(刊1-5)「RESULTS
Optimization of the Transient Assay System.
Optimal conditions for the transient assay in Lemna were established using etiolated fronds bombarded with p5BCATNOS DNA. CAT activity from fronds placed in constant white light after bombardment was first detectable at 6-8 hr and reached a maximum by 16-24 hr (19). Incubation for up to 72 hr produced no further change in activity, indicating that CAT activity produced during the transient assay was not degraded during the incubation period. Therefore, a 16-hr incubation after bombardment was used for all assays.」(2684頁右欄17?27行)
(翻訳)
「結果
一時的なアッセイ系の最適化
Lemna 中の一時的な分析用至適条件は,p5BCATNOS DNAで撃ち込まれた白化した葉を使用して確立された。撃ち込みの後に一定の白色光に置かれた葉からのCAT活性は,6-8時間に最初に検知し得,そして,16-24時間までに(19)最大に達した。72時間以内のインキュベーションは,一時的分析中に生産されたCAT活性が,インキュベーション期間中に低下されなかったことを示しており,活性のそれ以上の変化をもたらさなかった。したがって,撃ち込み後16時間のインキュベーションが,すべての分析に使用された。」

(刊行物1記載の発明)
以上のことから,刊行物1には次の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「DNAが粒子撃ち込みによって無傷組織へ導入された水生単子葉植物Lemna gibbaの中の一時的な形質発現アッセイ系において,
フィトクロムによって正に生体内で調節されるLemna rbcS遺伝子SSU5Bに基づいた構築物を含み,
暗処理され白化したLemnaの葉の単層(直径4cm)が用意され,
スーパーコイル化されたプラスミドDNAの8 μgで覆われた1.25mgの1.2-μmタングステン粒子状物質が,Biolistics粒子運搬システム(PDS 1000(デュポン社))を使用して撃ち込まれ,
葉の多くは,撃ち込みの後に損傷の目に見える印がみられ,
4cmの単層の試料に一時的な形質発現をする方法。」

イ 刊行物2記載の事項
(刊2-1)「本発明は,単子葉植物全般,特にイネ科植物,特定的にはトウモロコシ及び他の主要穀類の迅速且つ効率的な形質転換方法に係る。本発明は特に,トランスジェニック単子葉植物を得るための,緻密な胚形成カルスを形成することが可能な無傷組織又はこのような組織から得られる緻密な胚形成カルスの使用に係る。
本発明は更に,本発明の形質転換方法により得られる新規トランスジェニックイネ科植物,特に穀類に係る。」(3頁左下欄3?10行)

(刊2-2)「次に本発明のコンピテント単子葉植物細胞を形質転換させるために,上述のように得られた損傷及び/又は分解した無傷組織又は緻密な胚形成カルスフラグメント,特にその胚形成セクターを,着目遺伝子を含む1個以上のDNAフラグメントと接触させる。着目遺伝子の少なくとも1個が形質転換単子葉植物細胞中で選択可能なマーカーとして機能するように構成すると好適である。直接遺伝子移入,特にエレクトロポレーションは最適な形質転換効率を提供すると考えられる。しかしながら,ポリエチレングリコール,DNAで被覆した微小発射体の撃ち込み(即ち例えば粒子銃を使用するバイオリスティック(biolistic)な形質転換)及びAgrobacteriumで媒介される形質転換を使用する直接遺伝子移入のような他の既知のDNA移入技術を使用してもよい。」(8頁左上欄6行?下から1行)

(刊2-3)「(例えばエレクトロポレーシヨンにより)形質転換が完了したら,形質転換した単子葉細胞を含む無傷組織又はカルスフラグメントを適切な培養培地,好ましくは選択培地(形質転換細胞が選択可能なマーカーを含む場合)に移す。この転移は形質転換後できるだけ早く,好ましくは形質転換直後,特に形質転換後1?3日間以内に実施すべきである。好ましくは,選択可能なマーカーで形質転換された無傷組織又はカルスフラグメントを,従来の培養条件及び選択剤を補充した培養培地(例えばVasil(1988)前出の引用文献参照)を使用して培養する。選択剤の選択は,以下に記載するように無傷組織の細胞又はカルスフラグメントを形質転換するためにDNAフラグメント中で使用される選択可能なマーカーに依存する0選択剤の濃度は,選択可能なマーカーを含有するDNAフラグメントを細胞のゲノムに好ましくは完全に組み込んだ安定的形質転換株のみが生存し,単離できるように,形質転換細胞に非常に高い選択的圧力を提供するように設定すべきである。このような形質転換無傷組織又はカルスフラグメントを非選択培地上で数日間培養することもできるが,選択培地にできるだけ早く移し,正常表現型植物を再生するために使用可能な形質転換した緻密な胚形成カルスのような形質転換形態形成カルスを十分量生成するように長期間(例えば6力月間),好ましくは少なくとも1力月,特に2?3力月間維持することが好ましい,更に,培地の高張性は例えば培地にマンニトールを補充することにより短期間(例えば2?3週間まで)維持すると好適である。
本発明によると,単子葉植物のゲノム,特に核ゲノムに任意のDNAフラグメントを組み込むことができる。一般に,DNAフラグメントは形質転換植物細胞において機能的であり且つこのような細胞及び細胞から再生される植物に付加的な特性を与える外来もしくは内在遺伝子又は他のDNA配列を含む。このために,DNAフラグメントは好ましくは次の作動的に連係するDNA配列:1)植物細胞中でコーディング配列を発現させることが可能なプロモーター配列(「プロモーター」),2)植物細胞内で特異的活性を有するタンパク質(「着目タンパク質」)をコードする配列(「コーディング配列」),及び3)適切な3’転写調節シグナルを含む1個以上のキメラ遺伝子を含む。タンパク質の必要な機能を得るためには,シトソール,ミトコンドリア,クロロプラスト又は小胞体のような植物細胞の1個以上の特定の区画にタンパク質を標的することも必要であり得る。シトソールに標的するためには,上述のようなキメラ遺伝子をそのまま使用することができる。一方,他の区画に標的するためには,キメラ遺伝子のDNAフラグメント1)及び2)の間に付加的な配列(「標的配列」)が存在することが必要である。必要に応じてキメラ遺伝子は更に転写及び/又は翻訳エンハンサ-を含んでもよく,DNA配列のコドン使用を植物細胞における発現のために最適化することができる。
本発明のキメラ遺伝子は十分に確立された原理及び方法に従って構築することができる。この点では,種々のDNA配列はタンパク質のコーディング配列(又は標的配列が存在する場合には標的配列)の開始コドンで翻訳が開始するように連係すべきである。
形質転換双子葉植物で遺伝子を発現させるために現在使用されている器官及び組織特異的な種々の構成プロモーターは本発明の形質転換単子葉類で使用するためにも適切であると考えられる。この点では着目タンパク質をコードするコーディング配列と,その上流(即ち5’)でコーディング配列の発現に適切な外来又は内在プロモーターとを含むキメラ遺伝子で特定の植物細胞を形質転換させることができる。適切な外来構成プロモーターは,異種遺伝子を構成的に発現させる(Odellら(1983)Nature 313:810)カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)単離株CM1841(Gardnerら(1981)Nucl.Acids.Res.9:2871)及びCabbB-3(Franckら(1980) Cell,21:285)(r35Sプロモーター」);CaMV単離物CabbB-JI(Hull及びHowell(1978) Virology 86:482)から単離することができ且つその配列(35S3プロモーターの配列はヨーロッパ特許公開明細書(EP)第359617号に開示されている)及びトランスジェニック植物における高活性(Harpsterら(1988) Mol.Gen.Genet.212:182)において35S3プロモーターと異なる関連プロモーター(r35S3プロモーター」);並びにAgrobacterium(Veltenら(1984) EMBO J.3:2723)のT-DNAの夫々1’及び2’遺伝子を発現させ且つ損傷誘導プロモーターであるTRI’及びTR2’プロモーターを含む。器官特異的,組織特異的及び/又は誘導可能な適切な外来プロモーターも知られており(例えばKuhlemeierら(1987) Ann.Rev.Plant Physiol.38:221の引用文献参照),例えば光合成組織中のみで活性な光誘導プロモーター(Krebbersら(1988)Plant Mo1.Biol.11:745)であるArabiodopsis thalianaの1,5-リブロースニリン酸カルボキシラーゼの小サブユニット遺伝子(例えばIA遺伝子)のプロモーター(「ssu」プロモーター);ヨーロッパ特許第344029号に開示されている豹特異的プロモーター-並びに例えばArabiodopsis thalianaの種子特異的プロモーター(Krebbersら(1988) Plant Physiol.87:859)を挙げることができる。ヨーロッパ特許第344029号に記載されているように単子葉類を雄性不稔性にするように形質転換するために特に有用なプロモーターは,タベート特異的プロモーターPTA29,PTA26及びPTA13,特にヨーロッパ特許第344029号のPTA29である。
同様に,形質転換した双子葉植物で使用される既知の3’転写調節配列及びポリアデニル化シグナルも本発明の形質転換単子葉類で使用できると考えられる。このような3’転写調節シグナルはコーディング配列の下流(即ち3’)に提供され得る。この点では,キメラ遺伝子の発現を得るために適切な外来又は内在転写終結及びポリアデニル化シグナルのいずれかを含むキメラ遺伝子で特定の植物細胞を形質転換することができる。例えば,遺伝子7(Velten及びSchell (1985) Nucl.Acids Res.13:6998),オクトピンシンターゼ遺伝子(Gielenら(1983)EMBO J.3:835)及びAgrobacterium tumefaciens TiプラスミドのT-DNA領域のツパリンシンターゼ遺伝子のような遺伝子の外来3’未翻訳末端を使用することができる。」(8頁右下欄11行?10頁右上欄4行)

(刊行物2から理解される事項)
摘記(刊2-1)に「本発明の形質転換方法により得られる新規トランスジェニックイネ科植物,特に穀類に係る。」と記載されているから,新規トランスジェニックイネ科植物,すなわち,安定的に形質転換された植物を前提とする理解される。
そして,摘記(刊2-2)は,かかる前提の下に記載されたものであるから,安定的な形質転換手法として,「DNAで被覆した微小発射体の撃ち込み(即ち例えば粒子銃を使用するバイオリスティック(biolistic)な形質転換)」が示されていると理解される。

(3)対比
補正発明と刊行物1発明を対比する。
ア 刊行物1発明の「水生単子葉植物Lemna gibba」は,補正発明の「ウキクサ」に相当する。また,刊行物1発明の「フィトクロムによって正に生体内で調節されるLemna rbcS遺伝子SSU5Bに基づいた構築物」は,(刊1-5)に「Lemna 中の一時的な分析用至適条件は,p5BCATNOS DNAで撃ち込まれた白化した葉を使用して確立された。」と記載されているようにプラスミドで構成される発現カセットであり,補正発明の「前記核酸は選択剤に対する耐性を付与する遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセット」とは,「遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセット」という点で共通する。
また,刊行物1発明の「一時的な形質発現アッセイ系」は,安定的ではないものの一時的に形質転換する方法であるから,補正発明の「安定的に形質転換するための方法」とは,「形質転換するための方法」という点で共通する。

イ 刊行物1発明の「暗処理され白化したLemnaの葉の単層(直径4cm)」は,プラスミドDNAで覆われたタングステン粒子状物質が撃ち込まれることになるから標的ということができ,補正発明の「ウキクサ標的組織」に相当する。

ウ 標的である刊行物1発明の「暗処理され白化したLemnaの葉の単層(直径4cm)」は,「スーパーコイル化されたプラスミドDNAの8 μgで覆われた1.25mgの1.2-μmタングステン粒子状物質が,Biolistics粒子運搬システム(PDS 1000(デュポン社))を使用して撃ち込まれ」ることにより「撃ち込みの後に損傷の目に見える印がみられ」ており,細胞壁を突き抜けないと形質が転換しないから,その速度は,細胞壁を突き抜けて組織の細胞内部に到達する速度で撃ち込まれていることは明白である。
よって,刊行物1発明の「スーパーコイル化されたプラスミドDNAの8 μgで覆われた1.25mgの1.2-μmタングステン粒子状物質が,Biolistics粒子運搬システム(PDS 1000(デュポン社))を使用して撃ち込まれ,葉の多くは,撃ち込みの後に損傷の目に見える印がみられ」るステップは,補正発明の「(b)前記核酸が前記ウキクサ標的組織の細胞の細胞壁を突き抜けて当該組織の細胞内に配置されるのに十分な速度で,前記ウキクサ標的組織に前記核酸を発射するステップ」に相当する。

エ 刊行物1発明の「4cmの単層の試料に一時的な形質発現をする方法」と,補正発明の「(d)安定的に形質転換された組織を生成するステップとを含む方法」とは,「(d)形質転換された組織を生成するステップとを含む方法」という点で共通する。

オ 刊行物1発明の「スーパーコイル化されたプラスミドDNAの8 μgで覆われた1.25mgの1.2-μmタングステン粒子状物質が,Biolistics粒子運搬システム(PDS 1000(デュポン社))を使用して撃ち込まれ」ることは,補正発明の「前記核酸が微小発射体により運搬されるとともに,
前記組織に前記微小発射体を発射することにより前記核酸が前記組織に発射される」ことに相当する。

以上のことから,両発明は,次の(一致点)並びに(相違点1)及び(相違点2)を有する。

(一致点)
「目的の核酸によりウキクサを形質転換するための方法において,前記核酸は遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセットを含み,
(a)ウキクサ標的組織を用意するステップと,
(b)前記核酸が前記ウキクサ標的組織の細胞の細胞壁を突き抜けて当該組織の細胞内に配置されるのに十分な速度で,前記ウキクサ標的組織に前記核酸を発射するステップと,
(d)形質転換された組織を生成するステップと
を含む方法であって,
前記核酸が微小発射体により運搬されるとともに,
前記組織に前記微小発射体を発射することにより前記核酸が前記組織に発射される
ことを特徴とする方法。」

(相違点1)
形質転換が,補正発明では「安定的」であるのに対して,刊行物1発明では「一時的」であり,
形質転換された組織を生成するステップが,補正発明では「安定的に形質転換された組織を生成するステップ」であるのに対して,刊行物1発明では,一時的に形質転換された組織を生成するものである点

(相違点2)
目的の核酸が,補正発明では「選択剤に対する耐性を付与する遺伝子」を含んでいるのに対して,刊行物1発明ではかかる遺伝子を含んでおらず,
補正発明が「(c)前記選択剤を含む培地で前記ウキクサ組織を培養するステップ」を有するのに対して,刊行物1発明ではかかるステップを有していない点。

(4)検討・判断
ア 相違点についての検討
(ア)相違点1について
刊行物1に記載のプラスミドDNAで覆われた粒子状物質を細胞に撃ち込む方法について,物理的にDNAを細胞内に送り込むため,感染可能な植物種に限られるアグロバクテリウム法のような制約がない。そして,下記刊行物Aの摘記(刊A-1)に記載のように植物に限らず,哺乳類,真菌類,藻類等の広範囲な生物に適用可能な技術であり,また,高等植物にも適用できるものである。
下記刊行物Bに記載のように,単子葉植物に限ってみても,イネ目のトウモロコシ,コメ,オート麦,サトウキビ,コムギ,ソルガム,オオムギ,Agrostis,Tritordeum,ライ麦,Lolium perenne,Triticale,トールフェスク,レッドフェスク,パールミレットについてパーティクルガン法で安定的な形質転換が確認されている。
イネ目以外の単子葉植物では,例えば,以下の目の植物についてパーティクルガン法により安定的な形質転換が確認されている。

ラン目のラン(ファレノプシス類のPhal. Dansex Dtps. Happy Valentineについて特開平7-255300号公報:要約の項,【0011】,【0024】,デンドロビウムについて刊行物Aの摘記事項(刊B-1))

ユリ目のアスパラガス(Jose Luis Cabrera-Ponce et al, Plant Cell Reports, vol.16, no,5,1997年2月,pp.255-260:ABSTRACKの欄,刊行物Bの摘記事項(刊A-1))

ショウガ目のバナナ(刊行物Aの摘記事項(刊B-1))

サトイモ目のサトイモ(榎本末男 等,「第15回日本植物西郷分子生物学会講演要旨集」,1997年7月19日,144頁)

以上のことを総合すると,
i)パーティクルガン法は,哺乳類,植物,藻類,真菌類等の広範な生物に適用可能な一般的な形質転換方法であること。
ii)高等植物において,一般的にパーティクルガン法による安定的な形質転換が可能であり,刊行物1発明の「Lemna gibba」の属する単子葉植物に限っても,多数の報告例があること。
iii)刊行物1発明の「Lemna gibba」すなわち「ウキクサ」が属するサトイモ目の植物であるサトイモにおいても,パーティクルガン法による安定的な形質転換が確認されていること。
これらのことから,当業者であれば,パーティクルガン法を,刊行物1発明のウキクサにも適用して安定的な形質転換が行えるかもしれないという強い示唆を受けるものといえる。
そうすると,前記強い示唆の下,刊行物1発明において,前記周知の安定的な形質転換が可能なパーティクルガン法を適用し,相違点1に記載の補正発明のごとく構成し,安定的な形質転換ができたことを確認する程度のことは,当業者が何の困難性もなくなし得たことといえる。

刊行物A:S M Nabulsi, N W Page, A L Duval, Y A Seabrook and K j Scott, Meas. Sci. Technol., vol5, no.3,1994, pp.267-274
なお,翻訳は当審によるものである。
(刊A-1)「Microprojectile bombardment is a simple and rapid method for the delivery of substances into intact cells and tissues and obviates the need for single-cell manipulations. The technique has been used to insert modified DNA into algal (Blowers et al 1989) ,fungal (Armaleo et al 1990) and mammalian (Zelenin et al 1989) cells. However,the widest application has been in the transformation of higher plants (Morikawa et al 1989) and in particular the cereal crops (Fromm et al 1990, Vasil et al 1992) which are resistant to infection by Agrobacterium spp.」(267頁左欄15?25行)
(翻訳)
「ミクロ粒子弾の撃ち込みは,インタクトな細胞と組織に物質の送達をする単純で迅速な方法で,単一細胞操作の必要性を回避する。その手法は,藻類(Blowers et al 1989),真菌類 (Armaleo et al 1990)および哺乳類 (Zelenin et al 1989)細胞に修飾されたDNAを挿入するために使用された。また一方,最も広い適用が,高等植物(Morikawa et al 1989),特に,アグロバクテリウムsppによる感染に抵抗性である穀類(Fromm et al 1990, Vasil et al 1992)になされた。」

刊行物B:P. VAIN et al, Biotechnology Adbances, vol.13, no.4, 1995, pp.653-671
(刊B-1)

(657頁表3)

(イ)相違点2について
安定的な形質転換をする際に,選択剤に対する耐性を付与する遺伝子を導入し,かつ,選択剤を含む培地でスクリーニングを行うことは,常套手段となっている。(例えば,刊行物2の摘記(刊2-3),下記刊行物Cの摘記(刊C-1)参照。)
そうすると,刊行物1発明において,上記「第2 3(4)ア(ア)相違点1について」で言及したように安定的形質転換とし,その際,上記常套手段である選択剤に対する耐性を付与する遺伝子を導入すると共に選択剤を含む培地でスクリーニングを行う手段を採用して,相違点2に記載の補正発明のごとく構成することは当業者が容易になし得たことといえる。

刊行物C:国際公開第95/16031号
(刊C-1)「 背景技術
高等植物に外来遺伝子を導入する方法(形質転換法)には,大別して,直接導入法,とアグロバクテリウム属細菌を介する方法がある。前者には,電気剌激を用いる方法(エレクトロポレーション法,エレクトロインジェクション法),PEGなどの化学的な処理による方法,遺伝子銃を用いる方法などが含まれる。前者は,従来後者が利用しにくかった単子葉植物に多く用いられている方法である。後者は,Agrobacterium tumefaciensやA.rhizogenesなどのアグロバクテリウム属細菌の有する高等植物細胞形質転換能力を利用した方法である。後者は,比較的大きくかつ両端の定まったDNA断片を効率良く高等植物に導入でき,かつ,プロトプラスト培養など特殊な培養技術を必要としない優れた方法である。後者は,双子葉植物に多く用いられている方法であるが,近年では,単子葉植物についても利用が始まっている。
形質転換法は,高等植物の遺伝子工学や分子生物学の研究において必須の手法となっており,任意のDNA断片を効率良く植物細胞に導入し,効率良くそのDNA断片を含む植物体を得る方法が必要とされている。遺伝子導入の際,外来遺伝子の導入された植物細胞を,外来遺伝子が導入されていない植物細胞から選び出す方法が必要である。通常は,後者の細胞がはるかに多いため,検出の容易な遺伝子を選抜マーカーとして用いる必要がある。選抜マーカーとして最も多く用いられているのが,薬剤耐性遺伝子である。例として,カナマイシン耐性遺伝子,ハイグロマイシン耐性遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子や,バスタ耐性遺伝子,ラウンドアップ耐性遺伝子など除草剤耐性遺伝子があげられる。 薬剤耐性遺伝子を選抜マーカーとして用いる場合,通常は,植物に導入する任意のDNA断片と薬剤耐性遺伝子を接続し,この接続遺伝子を植物に導入する操作を行ない,薬剤耐性細胞を選抜し,さらに薬剤耐性の植物体を再生して形質転換植物を得ることが行なわれている。このような形質転換植物には,薬剤耐性遺伝子と接続した任意のDNA断片も同時に導入されているのである。」(明細書1頁5行?2頁1行)

イ 補正発明の効果についての検討
本願発明の効果は,刊行物1記載の事項,上記周知の技術的事項及び上記常套手段から当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものとはいえない。

ウ 請求人の主張について
(ウキクサへの適用について)
請求人は,審判請求理由を補正する平成21年2月23日付けの手続補正書(方式)の4頁4?23行において,次のように主張する。
『平成20年9月30日付提出の意見書で説明いたしましたとおり,ウキクサの形質転換の困難性は,国際公開第WO99/19498号において当業者によって明瞭に表明されています。
Edelman et al. (国際公開第WO99/19498号:甲第1号証)
「単子葉植物を形質転換する方法の一つにパーティクルガンによるものがあり,それによれば,非相同DNAが形質転換対象植物体又は植物体細胞内に空気またはヘリウムによって送達される。この技術は,主として二つのデメリットがある。一つには,アオウキクサ(Lemnaceae)科の植物のような特定の植物にとって,そこから完全に形質転換した植物体の再生を可能にするために形質転換が起こる分裂組織領域に確実にDNA粒子を当てるのがきわめて困難であるということ。もう一つは,DNA粒子が分裂組織領域内の細胞に入りその核に到達したとしても,DNAは通常細胞の染色体に組み込まれることはないので,幾度かの細胞サイクルを経て,組み込まれなかった非相同DNAが失われるため,パーティクルガンによる形質転換が,通常,一時的(過渡的)なものに過ぎないこと。」
(Edelman et al. 2頁12?22行,下線は引用者による)
このように,国際公開第WO99/19498号(甲第1号証)は,本願優先日以前の時点において,当業者が,パーティクルガン法による形質転換を用いて安定的に形質転換された植物体の獲得に成功することを予想し得ないことを示すものです。この文献の記載は,拒絶理由2を否定するものであり,本願優先日前の周知技術をもって,パーティクルガン法を用いた単子葉植物(ウキクサなど)の安定的な形質転換を達成することはできないことの明白な証拠と認められます。したがいまして,パーティクルガン法による形質転換による植物の形質転換は予測不能であることから,パーティクルガン法によってウキクサの安定的な形質転換に成功することは,本願優先日当時の当業者にとって,およそ予想されなかったというべきです。』

しかしながら,国際公開第WO99/19498号(以下,「甲第1号証」という。)に「DNA粒子を当てるのがきわめて困難」であると記載されているとしても不可能なわけではない。甲第1号証から把握されるのは,分裂組織を狙うのが困難であるということであって,分裂組織以外を狙らった形質転換については言及されていない。この記載事項は,せいぜい分裂組織を狙った形質転換が困難ということにすぎず,かかる記載事項から「パーティクルガン法による形質転換を用いて安定的に形質転換された植物体の獲得に成功することを予想し得ない」とまでいうことはできない。

(安定的な形質転換が達成できるか予測不能であることについて)
また,請求人は,甲第1号証において,「DNAは通常細胞の染色体に組み込まれることはないので,幾度かの細胞サイクルを経て,組み込まれなかった非相同DNAが失われるため,パーティクルガンによる形質転換が,通常,一時的(過渡的)なものに過ぎないこと」と記載されていることを強調する。加えて,請求人は,安定的な形質転換が達成できるか予測不能であることについて,審判請求理由を補正する平成21年2月23日付けの手続補正書(方式)の4?5頁において,甲第2?6号証の記載事項を示した。甲第2?6号証には,次の旨が記載されている。
甲第2号証:「一過性形質転換から安定的形質転換が起こる頻度は低い。」甲第3号証:「shoot meristem bombardmentでは,)導入された遺伝子を受けて一過性の発現が見られる細胞のうち安定的な事象を産むのは,ほんのわずかな割合だけである。」
甲第4号証:本願優先権主張日以後において,テンサイの微粒子子銃による形質転換が不成功であった。
甲第5号証:2003年にテンサイの微粒子銃打ち込みより安定的な転換が確認された。
甲第6号証:「微粒子銃打ち込み技術による遺伝子導入を成功させるためには,多数の変数の開発及び相互最適化が必要である。そのような変数には,(1)打ち込みプロセス自体に関する物理パラメータ,(2)導入遺伝子の挿入前後の植物組織の生物学的要件が含まれる。これら(1)および(2)に含まれる変数の最適化および相対的な重要性を根拠づける実験データを記す多くの文献が1990年代を通じて,植物種の範囲をまたいで,作成されました。にもかかわらず,依然として新しい遺伝子導入プログラムには,所与の標的組織への効率的な導入遺伝子の挿入を確かなものとするため,以下に記載する物理的パラメータおよび生物学的パラメータを調整し適合させるための実験による研究をある程度行う必要がある。」(Taylor et al. 967頁)

しかしながら,甲第2号証及び甲第3号証のように安定的な形質転換が起こる頻度が低いとしても,パーティクルガン法は,一度に大量の細胞に粒子を撃ち込むことが可能であり,選択マーカーで選択することで,効率的に形質転換細胞のみを選抜できるものである。選択マーカー及び大量の細胞を扱うことで,頻度の低さは問題にならないのだから,安定的な形質転換が達成できるか予測不能であるとまではいえない。加えて,実際に安定的な形質転換が確認されていることは上記「第2 3(4)ア(ア)相違点1について」で述べたとおりである。
また,甲第6号証に記載のように,物理的パラメータおよび生物学的パラメータを調整し適合させるための実験による研究をある程度行う必要があるとしても,単なる条件の最適化にすぎず,安定的な形質転換が達成できるか予測不能であるとまではいえない。
さらに,甲第4号証及び甲第5号証において,本願優先権主張日前にパーティクルガン法で安定的な形質転換が行えなかった植物があることを請求人は強調するが,甲第4号証は,本願優先権主張日以後に頒布された刊行物であり,テンサイにおいて安定的な形質転換が行えなかった事実は本願優先権主張日に知り得ないことであり,しかも,刊行物1発明の「水生単子葉植物Lemna gibba」についての報告でもない。よって,刊行物1発明及び周知の技術的事項に基づいて補正発明のごとく発明することを妨げる事情とはならない。
仮に,本願優先権主張日前にパーティクルガン法で安定的な形質転換が行えなかった植物の報告があるとしても,上記「第2 3(4)ア(ア)相違点1について」に記したように,実際に安定的な形質転換が確認されている植物が多数存在するし,安定的な形質転換を行うことは誰しも望む課題であるから,安定的な形質転換が試みられていない刊行物1発明の「水生単子葉植物Lemna gibba」について,安定的な形質転換を試してみようと当業者が思うことはあるとしても,試すことを妨げる事情とはなり得ない。

(5)補正却下のむすび
したがって,補正発明は,刊行物1に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって,本件補正は,平成18年改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?44に係る発明は,平成20年9月30日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?44に記載された事項により特定される発明であると認められる。
そして,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次の事項により特定される発明である。
「【請求項1】
目的の核酸によりウキクサを安定的に形質転換するための方法において,
(a)ウキクサ標的組織を用意するステップと,
(b)前記核酸が前記ウキクサ標的組織の細胞の細胞壁を突き抜けて当該組織の細胞内に配置されるのに十分な速度で,前記ウキクサ標的組織に前記核酸を発射するステップと,
(c)安定的に形質転換された組織を生成するステップと
を含む方法であって,
前記核酸が微小発射体により運搬されるとともに,
前記組織に前記微小発射体を発射することにより前記核酸が前記組織に発射される
ことを特徴とする方法。」

(1)引用刊行物及び引用刊行物記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例,その記載事項は,上記「第2 3(2)引用刊行物記載の事項」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は,上記「第2 3 独立特許要件」で検討した補正発明から「核酸」についての限定事項である「前記核酸は選択剤に対する耐性を付与する遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセット」との特定事項を省き,「(c)前記選択剤を含む培地で前記ウキクサ組織を培養するステップ」なる特定事項を省いたものである。
本願発明と刊行物1発明を対比すると,相違点は上記「第2 3(3)対比」に記載の(相違点1)のみとなる。
本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,上記「第2 3(4)検討・判断」に記載したとおり,刊行物1に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができず,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-28 
結審通知日 2011-10-04 
審決日 2011-10-17 
出願番号 特願2000-506820(P2000-506820)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01H)
P 1 8・ 121- Z (A01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 齊藤 真由美
秋月 美紀子
発明の名称 遺伝子工学的に作製されるウキクサ  
代理人 橋本 千賀子  
代理人 村木 清司  
代理人 塚田 美佳子  
代理人 関口 一秀  
代理人 松原 伸之  
代理人 ▲高▼部 育子  
代理人 松嶋 さやか  
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