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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01N
管理番号 1253781
審判番号 無効2008-800109  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-06-13 
確定日 2012-01-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4027451号「蚊成虫の駆除方法」の特許無効審判事件についてされた平成22年4月7日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成22年(行ケ)第10151号、平成22年9月8日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4027451号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許第4027451号の請求項1?3に係る発明の出願は、平成9年1月16日に特許出願され、平成19年10月19日にその特許権の設定の登録がされたものである。

2 これに対し、請求人は、平成20年6月13日に請求項1?3に係る発明の特許について無効審判を請求し、平成20年10月14日に被請求人より訂正請求(以下、「第1回訂正請求」という。)がされ、平成21年2月13日に特許庁審判廷において第1回口頭審理が行われ、平成21年3月26日付けで、「訂正を認める。特許第4027451号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下、「第1次審決」という。)がされた。

3 平成21年4月29日に、被請求人より第1次審決に対する訴えが提起され、平成21年6月5日に訂正審判(訂正審判2009-390076号)が請求され、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定により第1次審決の取消の決定(平成21年(行ケ)第10115号、平成21年7月10日決定)がされ、確定した。

4 審理再開にあたり、平成21年7月23日付けで、被請求人に対し、特許法第134条の3第2項に規定する訂正を請求するための期間を指定する通知をしたが、指定された期間内に訂正の請求がされなかったため、同法同条第5項の規定により、訂正審判2009-390076号の請求書に添付された訂正明細書を援用した訂正の請求(以下、「第2回訂正請求」という。)がされたものとみなし、平成22年4月7日付けで、「訂正を認める。特許第4027451号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下、「第2次審決」という。)がされた。

5 平成22年5月13日に、被請求人より第2次審決に対する訴えが提起され、平成22年8月6日に訂正審判(訂正審判2010-390083号)が請求され、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定により第2次審決の取消の決定(平成22年(行ケ)第10151号、平成22年9月8日決定)がされ、確定した。

6 再度の審理再開にあたり、平成22年9月24日付けで、被請求人に対し、特許法第134条の3第2項に規定する訂正を請求するための期間を指定する通知をしたが、指定された期間内に訂正の請求がされなかったため、同法同条第5項の規定により、訂正審判2010-390083号の請求書に添付された訂正明細書を援用した訂正の請求(以下、「第3回訂正請求」といい、その請求書を「訂正請求書」という。)がされたものとみなす。

なお、第1回及び第2回訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
被請求人が求めている訂正の内容は、願書に添付した明細書を、訂正請求書に添付された明細書のとおりに訂正すること(以下、「本件訂正」という。)、すなわち、以下の訂正事項(1)?(4)のとおりである。

訂正事項(1)
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1の
「殺虫剤を0.1重量%以上含有する原液、および噴射剤を開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器に収納して、前記原液の容積比率が前記耐圧容器の全容積の15%以下とした蚊成虫の駆除剤を30m^(3) の空間あたり有効成分として0.1?20mg噴霧せしめることを特徴とする蚊成虫の駆除方法であって、前記原液が、殺虫剤のみ、殺虫剤を脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたもの、または殺虫剤を活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものである、蚊成虫の駆除方法。」
を、
「殺虫剤からなる原液、および噴射剤を開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器に収納して、前記原液の容積比率が前記耐圧容器の全容積の15%以下とした蚊成虫の駆除剤を30m^(3) の空間あたり有効成分として2.78?15mg噴霧せしめることを特徴とする蚊成虫の駆除方法であって、前記原液における殺虫剤は、脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたものではなく、かつ活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものでもなく、それのみで用いたものであり、前記噴射剤が液化石油ガス、ジメチルエーテル、およびハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれた少なくとも1つである、噴霧処理後は駆除効果を持続させて駆除を行う、蚊成虫の駆除方法。」
と、訂正する。

訂正事項(2)
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項3を削除する。

訂正事項(3)
願書に添付した明細書の段落0007の
「即ち、本発明の要旨は、
(1)殺虫剤を0.1重量%以上含有する原液、および噴射剤を開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器に収納して、前記原液の容積比率が前記耐圧容器の全容積の15%以下とした蚊成虫の駆除剤を30m^(3 )の空間あたり有効成分として0.1?20mg噴霧せしめることを特徴とする蚊成虫の駆除方法であって、前記原液が、殺虫剤のみ、殺虫剤を脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたもの、または殺虫剤を活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものである、蚊成虫の駆除方法、
(2)殺虫剤が・・・である前記(1)記載の蚊成虫の駆除方法、ならびに
(3)噴射剤が・・・を特徴とする前記(1)又は(2)記載の駆除方法に関する。」
を、
「即ち、本発明の要旨は、
(1)殺虫剤からなる原液、および噴射剤を開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器に収納して、前記原液の容積比率が前記耐圧容器の全容積の15%以下とした蚊成虫の駆除剤を30m^(3) の空間あたり有効成分として2.78?15mg噴霧せしめることを特徴とする蚊成虫の駆除方法であって、前記原液における殺虫剤は、脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたものではなく、かつ活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものでもなく、それのみで用いたものであり、前記噴射剤が液化石油ガス、ジメチルエーテル、およびハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれた少なくとも1つである、噴霧処理後は駆除効果を持続させて駆除を行う、蚊成虫の駆除方法、ならびに
(2)殺虫剤が・・・である前記(1)記載の駆除方法、に関する。」
と、訂正する。

訂正事項(4)
願書に添付した明細書の段落0033の
「実施例1?13、比較例1?5
殺虫剤、有機溶剤、および噴射剤を、表1に示す配合量で用いて、駆除剤を調製した。なお、比較例3?5ではそれぞれ蚊取りリキッド、蚊取りマットおよび蚊取り線香を使用した。」
を、
「実施例1?13(但し、実施例3?6、9、11?13は参考例である)、比較例1?5
殺虫剤、有機溶剤、および噴射剤を、表1に示す配合量で用いて、駆除剤を調製した。なお、比較例3?5ではそれぞれ蚊取りリキッド、蚊取りマットおよび蚊取り線香を使用した。」
と、訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項(1)について
訂正事項(1)のうち、(a)原液における殺虫剤の含有量について、「殺虫剤を0.1重量%以上含有する原液」を「殺虫剤からなる原液」とする訂正、(b)30m^(3) の空間あたりに噴霧せしめる有効成分の量について、「0.1?20mg」を「2.78?15mg」とする訂正、(c)「前記原液が、殺虫剤のみ、殺虫剤を脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたもの、または殺虫剤を活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものである」を「前記原液における殺虫剤は、脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたものではなく、かつ活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものでもなく、それのみで用いたものであり」とする訂正、及び、(d)噴射剤について、「前記噴射剤が液化石油ガス、ジメチルエーテル、およびハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれた少なくとも1つである」を加入する訂正は、いずれも特許請求の範囲を減縮するものであり、(e)「噴霧処理後は駆除効果を持続させて駆除を行う」を加入する訂正は、実質的に特許請求の範囲を変えるものではないから、これらの(a)?(e)の訂正を包含する訂正事項(1)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記(a)及び(c)は、願書に添付した明細書の段落0009の記載に基づくものであり、(b)は、同明細書の段落0029の記載及び段落0036の実施例2の記載に基づくものであり、(d)は、請求項3に基づくものであり、(e)は、同明細書の段落0005、0006、0030、0037及び0038の記載に基づくものであるから、同明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、かつ、これらの訂正は実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項(2)について
訂正事項(2)は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、かつ、実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項(3)について
訂正事項(3)は、訂正事項(1)により、特許請求の範囲の記載と整合しなくなった発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、かつ、実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項(4)について
訂正事項(4)は、訂正事項(1)により、実施例でなくなったものを参考例とするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、かつ、実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項(1)?(4)は、特許法第134条の2第1項、及び同条第5項の規定により準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許第4027451号の請求項1?2に係る発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」といい、あわせて「本件発明」ともいう。また、訂正後の明細書を「本件明細書」という。)

【請求項1】殺虫剤からなる原液、および噴射剤を開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器に収納して、前記原液の容積比率が前記耐圧容器の全容積の15%以下とした蚊成虫の駆除剤を30m^(3) の空間あたり有効成分として2.78?15mg噴霧せしめることを特徴とする蚊成虫の駆除方法であって、前記原液における殺虫剤は、脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたものではなく、かつ活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものでもなく、それのみで用いたものであり、前記噴射剤が液化石油ガス、ジメチルエーテル、およびハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれた少なくとも1つである、噴霧処理後は駆除効果を持続させて駆除を行う、蚊成虫の駆除方法。
【請求項2】殺虫剤が3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル dl-シス/トランス-クリサンテマート、3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-シス/トランス-クリサンテマート、3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-トランス-クリサンテマート、d-3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-トランス-クリサンテマート、d-2-メチル-4-オキソ-3-プロパルギルシクロペント-2-エニル d-シス/トランス-クリサンテマート、N-(3,4,5,6-テトラヒドロフタリミド)-メチル dl-シス/トランス-クリサンテマート、N-(3,4,5,6-テトラヒドロフタリミド)-メチル d-シス/トランス-クリサンテマート、2-アリル-3-メチル-2-シクロペンテン-1-オン-4-イル-2,2,3,3-テトラメチル-シクロプロパンカルボキシラート、天然ピレトリン(ジョチュウギク抽出エキス)、および合成ピレトリンからなる群より選ばれた少なくとも1つである請求項1記載の蚊成虫の駆除方法。

第4 請求人の主張
1 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書に添付して甲第1?9号証を、平成20年7月25日付け手続補正書(方式)に添付して甲第6号証の翻訳文を、平成20年11月25日付け審判事件弁駁書に添付して参考資料1を、平成21年2月13日付け口頭審理陳述要領書に添付して甲第4号証の表紙及び裏表紙、並びに甲第7号証の表紙及び裏表紙を、平成21年11月5日付け審判事件第二弁駁書に添付して甲第10?13号証を提出し、
訂正前の本件請求項1?3に係る発明は、本件特許出願前に頒布された甲第1?9号証に記載された発明に基づいて、また、甲第10?13号証に記載された周知事項を参照して、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、上記発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、
と主張する。

(証拠方法)
甲第1号証:特開昭63-203649号公報
甲第2号証:特公昭28-2650号公報
甲第3号証:特開昭59-175403号公報
甲第4号証:薬剤学、昭和44年、第29巻、第1号、第41?44頁
甲第5号証:薬剤学、1971年、第31巻、第1号、第22?29頁
甲第6号証:日本農薬学会誌(Journal of Pesticide Science)、昭和63年、第13巻、第2号、第253?260頁
甲第7号証:「家庭用殺虫剤とピレスロイド-その使い方と安全性」、日本殺虫剤工業会、1991年、第14?19頁
甲第8号証:久保亮五外3名編、「岩波 理化学辞典 第4版」、第4版、株式会社岩波書店、1987年10月12日、第890頁
甲第9号証:日本エアゾール協会技術委員会外1名著、「エアゾール包装技術<その基礎から応用まで>」、株式会社エアゾール産業新聞社、1998年10月20日、第58?59頁
甲第10号証:特表平6-500583号公報
甲第11号証:特開昭56-113703号公報
甲第12号証:特開平2-258702号公報
甲第13号証:「家庭用殺虫剤概論 III」、日本家庭用殺虫剤工業会、06-11改訂、26頁、32頁
参考資料1:特公昭46-20837号公報

2 甲号証等に記載された事項
(1)甲第1号証:
(甲1-1)「4.式


の(+)1R-トランス-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジクロロビニル)-シクロプロパンカルボン酸 2,3,5,6-テトラフルオロベンジルを含有することを特徴とする殺虫剤。」(特許請求の範囲第4項)
(甲1-2)「式(I)の(+)1R-トランス-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジクロロビニル)-シクロプロパンカルボン酸テトラフルオロベンジルは同一の、または僅かに高いのみの投与量で同等の殺虫作用を有する。」(4頁左下欄15?19行)
(甲1-3)「本発明記載の活性化合物は家庭内で発生する、または衛生有害生物もしくは貯蔵製品の有害生物としての有害動物(・・・)、特に昆虫の防除に適している。本件活性化合物は、通常は感受性のおよび/または抵抗性の種に対して、また、成長の全ての段階に対して、またはある段階に対して活性を有する。」(5頁右下欄2?8行)
(甲1-4)「双翅類(・・・)の目では、たとえばアエデス・エギブティ(・・・)、ハマダラカ(・・・)種、アカイエカ(・・・)種、イエバエ(・・・)種、ヒメイエバエ(・・・)種、オオクロバエ(・・・)種、キンバエ(・・・)種、オビキンバエ(・・・)種、、サシバエ(・・・)種およびアブ(・・・)種。」(6頁右上欄8?14行)
(甲1-5)「調合済み配合剤を製造するには、本件活性化合物を単独で、または他の活性活性と組み合わせて慣用の配合剤、たとえば、溶液、乳濁液・・・、水和性粉末、けん濁液、粉末、粉末散布剤、泡剤、ペースト、エアロゾル、油ベーススプレー、けん濁濃縮液、活性化合物を含浸させた天然および合成材料、特に活性化合物を徐々に、計量された量で放出する、いわゆる緩徐放出配合剤、重合体物質の微少カプセル、燃焼装置、燻蒸カートリッジ、燻蒸カン、蚊取りコイル、ULV配合剤、冷ミストおよび温ミスト配合剤、虫よけ紙(・・・)ならびに電気的および化学熱的加熱装置中で用いるための蒸発錠剤に転化させる。」(6頁右下欄13行?7頁左上欄7行)
(甲1-6)「市販の既製配合剤、または、さらに希釈することを予定した濃縮液は一般に0.005ないし96重量%の、好ましくは0.02ないし90重量%の活性化合物を含有する。
市販の配合剤より調製した使用形状中の活性化合物含有量は広い範囲で変わり得る。使用形状中の活性化合物濃度は0.001ないし100重量%、好ましくは0.01ないし20重量%が可能である。
適用は、使用形状に適した慣用の手法で行う。
スプレー配合剤および蒸発錠剤が特に好ましい。」(7頁左下欄17行?右下欄6行)
(甲1-7)「配合剤実施例
1.スプレー配合剤 重量%
活性化合物 I 0.04
脱臭ケロシン/飽和脂肪族炭化水素の混合物 5.0
香油 0.01
安定剤 0.1
噴射剤:プロパン/ブタン15:85 94.85」
(8頁右上欄下から13行?下から6行)
(甲1-8)「実施例 A
いずれの実施例においても、抵抗性の雄のイエバエ(・・・)20匹ずつを入れた金網篭3個を体積30m^(3)の部屋に吊す。ついで、この部屋に配合剤実施例1-9に対応して活性化合物I、IIおよびIII、または活性化合物混合物I+III、II+III、IV+V、IV+V+IおよびIV+V+IIを含有するスプレーカンを用いてスプレーする。
スプレーカン1個あたりの適用スプレー量は12.4gである。スプレー後、この部屋を密封し、ハエに対するスプレーミストの作用を、窓を通して連続的に観察する。実験動物の50および95%が上向きで落下する(死滅効果)までの時間(分)を記録する。続いて、1時間の試験時間ののちに死んだ実験動物の百分率を測定する。以下の表には測定値を挙げてある。」(9頁右上欄14行?左下欄10行)
(甲1-9)「




」(9頁右下欄?10頁左上欄)
(甲1-10)「実施例 B
配合剤実施例第9および10に記載したそれぞれの活性化合物を含有する小型のセルローズ錠剤を、130ないし160℃の温度に加熱し得る加熱板(・・・)または小型電気蒸発炉の上に置く。この装置をソケットを通して電源に接続し、同様に装備した同一寸法の部屋内で加熱する。
実験中、部屋の一方の窓を外側に向けて斜めに開放しておく。炉のスィッチを入れた直後に、羽化後3-4日のアエデス・エギブティ種の蚊20匹ずつを入れた金網篭2個を各部屋に吊す。蚊に対する死滅作用を半時間または1時間後に検査する。より長時間を経過して炉で錠剤が燃え尽きたのちに、新しい蚊を同様にして、さらに数回にわたって部屋に導入し、同様に半時間または1時間後に活性を試験する。加熱炉の温度、活性化合物の量、加熱時間、試験時間および死滅効果は以下の表より見ることができる。
(%死滅率:上向きで落下した蚊の百分率)
この試験においては、活性化合物I(本発明記載の化合物)およびII(フェンフルトリンの(-)1R-トランス異性体)を使用した。」(10頁右上欄1行?左下欄2行)

(2)甲第2号証:
(甲2-1)「石油系液化瓦斯に殺虫薬を直接又は他の溶剤に溶解せしめた後混合溶解せしめたるものを完全気密保持の圧力容器内に封入せしめたることを特徴とする圧力容器内に保持せる、石油系液化瓦斯を用ひた噴霧質性殺虫剤」(特許請求の範囲)
(甲2-2)「元来一般に我が国に於ては噴霧質性殺虫剤の製造には其の噴霧媒体として低級炭化水素弗素誘導体に属するデイクロロデイフロロ・メタン(・・・)の同族及びメチールクロライド(・・・)等を使用したものである」(1頁左欄5?11行)
(甲2-3)「石油系液化ガス中常温で瓦斯体となし噴霧媒体として現在の実驗結果により使用中のもの及び現在実驗中にて研究使用したきものを系統別に代表的なものを示せば下記の如くである
・・・
密接なる関係にある」(1頁右欄4?末行)
(甲2-4)「(1)普通比較的使用するに適当なるプロパンブタンに殺虫薬を混合溶解したる噴霧質の気温に依る変化は次の如くである
混合率 プロパン47%、ブタン47%、殺虫剤5.5%、香料0.5%
季節 春 夏 秋 冬
温度℃ 7.0 30?40 16 0.3
圧力kg/cm^(2) 3.0 6?8 4.2 2.1」
(2頁左欄表の下から3?10行)
(甲2-5)「(5)経済的且つ大衆的なる小型錻力製圧力容器に最も適当なる調合として
イソブタン80ノルマルブタン10ケロシン油9.5薬剤0.5の割合にて配合すれば必要条件に近い適当な蒸気圧が得られ亦大量生産をする冷却充填法の場合ブタンの沸点迄冷却すればよいので経済且つ理想的である。」(2頁右欄表の下から8?14行)
(甲2-6)「(6)殺虫効果の実施例
プロパン33%ブタン33%ケロシン油32%薬剤B.H.C.1.5%香料0.5%の噴霧質を押ボタン式300c.c.入り小型圧力容器内に封入日本家屋8畳間の障子窓を閉めボタンを5回押し5c.c.噴射したる場合の殺虫効果次の如し。
室内温度25℃瓦斯は2分間以内に拡大充満す、
・・・
蚊 5 約3分間にて死亡
・・・」(2頁右欄表の下から20?末行)

(3)甲第3号証:
(甲3-1)「1)殺虫有効成分またはこれと共力剤とをフロン系溶剤10?80容量%及び炭素数2?18の有機溶剤0?24容量%に溶解し、噴射剤として可燃性液化ガス20?90容量%を混合してなるエアゾール殺虫剤。」(特許請求の範囲の第1項)
(甲3-2)「一般に、エアゾール殺虫剤は、人畜に被害を及ぼす蚊、蠅、蚤、南京虫、油虫、家ダニ、蟻などの害虫を殺滅駆除するため、噴霧して直接虫体と接触せしめるものである。」(1頁右欄11?14行)
(甲3-3)「ところが、従来の空間用(飛翔昆虫用)エアゾール殺虫剤の処方においては、殺虫有効成分を溶解する溶剤としての石油分40容量%、及び噴射剤60容量%の処方が普通であり、このようなエアゾール殺虫剤を蠅や蚊が静止している鏡面やガラス面等に直接噴射するとかなりその表面が汚染されることから明らかなように、その汚染性は相当に高い。このため、台所や高級家具、絨毯のある部屋等での使用はひかえられる傾向にある。
従つて、人体に対する安全性や取締り法規に規定された爆発性及び引火性の条件を満たすと共に、空中に噴霧したときの粒子の状態が良好で殺虫効果に優れ、さらに低汚染性のエアゾール殺虫剤の開発が強く望まれている。」(2頁左上欄下から2行?右欄13行)
(甲3-4)「一般にエアゾール殺虫剤は殺虫有効成分を含む原液とこれを噴霧するための噴射剤とから成つており、噴射剤(エアゾール缶より噴射された後に直ちにガス化する)の配合量が多いと噴霧粒子は当然細かくなり、逆に殺虫有効成分を溶解するケロシン等の溶剤の配合量が多くなると噴霧粒子は粗くなり、噴霧液が当つた箇所は汚染されてくる。従つて、汚染性を低減するためには、溶剤の配合量を減らし、噴射剤の配合量を増せばよいわけである。」(2頁右上欄16行?左下欄5行)
(甲3-5)「噴射剤としては、ジメチルエーテル(・・・)、プロパン(・・・)、イソブタン(・・・)、ノルマルブタン(・・・)あるいはこれらの混合物などの可燃性液化ガスが使用できる。」(3頁右上欄15?20行)
(甲3-6)「空中に噴霧したときの粒子の噴霧状態に優れ、噴霧粒子がより微細となつて空気中に長時間浮遊し、虫体への浸透性が大きくなると共に殺虫効果に優れ、しかもこのように優れた殺虫効果を長時間維持できる。」(5頁右上欄5?9行)
(甲3-7)「殺虫効力試験
下記の処方のエアゾール殺虫剤を調製し、直接噴霧試験及び噴霧降下試験を行つた。
実施例1 比較例1-A 比較例1-B
原液:
フタルスリン 0.54g 同左 同左
d-レスメトリン 0.06g 同左 同左
ノルマルパラフイン 10v/v% 40v/v% 10v/v%
トリクロロトリ 20 〃 - -
フルオロエタン
噴射剤:
ジメチルエーテル 40v/v% 30v/v% 50v/v%
液化石油ガス 30 〃 30 〃 40 〃 」
(5頁右上欄下から2行?左下欄11行)

(4)甲第4号証:
(甲4-1)「II.製剤要因の粒子径に与える影響
原液対噴射剤組成比と粒子径
1)検体
噴射剤組成を変化させて,内圧を3.0kg/cm^(2),4.0kg/cm^(2),および5.0kg/cm^(2)に調製し,さらに各内圧のもとで,原液対噴射剤組成を1/9?5/5に変化させた.
各検体の処方はTableIVに示すとおりである.
2)平均粒子径および粒径分布
上記検体を用いて測定した結果を縦軸に平均粒子径(μ),横軸に原液対噴射剤の組成比をとり,Fig.3に図示した.


同一圧力の検体にあっては原液対噴射剤組成比と平均粒子径の間には直線関係が認められた.最小自乗法により求めた回帰直線および参考のため相関係数を算出し,TableVに示した.
Fig.3,TableVに示されたごとく,原液対噴射剤組成比は噴霧されたエアゾールの粒子径に大きく影響をおよぼす.」(43頁左欄8行?44頁左欄5行、Fig.3以外のFig.及びTableは略)

(5)甲第5号証:
(甲5-1)「エアゾール粒子径分布に大きな影響を与えると考えられた原液対噴射剤組成比(組成比),内部圧力(内圧),バルブ種類およびノズル形状を要因として,これら4要因を4水準または2水準にとりL_(64)型直交配列表により,実験の割り付けを行ない,各実験条件下での長さ平均径および体積平均径を求め,これら特性値に与える要因の主効果および交互作用につき検定を行なった.」(22頁下から4?1行)
(甲5-2)「2)長さ平均径または体積平均径のいずれで評価した場合も,選択した4要因はともに単独でも危険率0.5%で有意差が認められ,エアゾール粒子径の微細化に極めて大きな影響を与えることが判明した.」(29頁下から12?11行)

(6)甲第6号証:
(甲6-1)「要約
油性エーロゾル殺虫製剤の噴霧粒子径が噴霧粒子の気中存在比率に及ぼす影響
・・・
異なった噴霧粒子径(Rosin-Rammler式における平均径で19.4μm,35.8μmおよび71.4μm)を与える3種の油性エーロゾル製剤の,気中粒子の濃度変化を調べた.気中粒子の濃度は時間の経過とともに低下し,粒子が大きいほど気中濃度の低下の速度も速かった.Stokesの法則を用いた個々の粒子の計算落下時間と,測定された気中粒子の濃度の比較から,噴霧粒子はそれを構成する溶剤の蒸散ロスにより短時間のうちにやせることが示唆された.」(260頁下から15?3行)

(7)甲第7号証:
(甲7-1)「除虫菊(シロバナムシヨケギク)中に含まれる天然の殺虫成分をピレトリンと呼んでいることから、このピレトリンに似た化合物という意味でピレスロイドという言葉が生まれました。即ちピレトリンと合成されたピレトリン類似化合物を総称してピレスロイド(Pyrethroids)と呼んでいます。
実用化されている主なピレスロイドの名称、発明者、用途は次の通りです。


」(14頁2?末行)

(8)甲第8号証:
(甲8-1)「灯油[英kerosene・・・] 原油を蒸留し沸点150?280℃で留出する留分.無色ないしやや黄色を帯び,蛍光を発する.比重0.790?0.830.おもにストーブ用燃料,農業発動機用燃料として用いるほか,信号灯用,農薬噴霧用,溶剤用,機械洗浄用などの使途がある.」(890頁左欄下から8?3行)

(9)甲第9号証:
(甲9-1)「3.2.2. LPGの一般性状
表3.2,表3.3にLPGの一般性状について示した。


」(58頁17?末行)

(10)甲第10号証
(甲10-1)「1.計量装置を含むコンテナー、並びに適当な噴射剤、溶媒及び他のアジェバントに加えて20?85%w/wの活性成分を本質的に含む組成物からなるスペーススプレー用ディスペンサー。」(2頁左上欄2?4行)
(甲10-2)「場合によっては、溶媒が必要であるかも知れないが、一般に0?25%w/wの範囲であろう。」(3頁右上欄下から2?1行)
(甲10-3)「(例B2)
殺虫剤:SUMETHRIN
噴射剤:HCP58HYDROCARBON
殺虫剤%w/w 噴射剤%w/w 溶解性(20℃)
100 0 透明
90 10 透明
80 20 透明
・・・
適当な組成物は80?85%w/wの殺虫剤及び20?15%w/wの噴射剤を含むであろうことが見て取れる。」(5頁右上欄下から4行?左下欄16行)
(甲10-4)「(例B3)
殺虫剤:BIORESMETHRIN/BIOALLETHRIN 1:5
噴射剤:HCP HYDROCARBON 58
殺虫剤%w/w 噴射剤%w/w 溶解性(20℃)
100 0 透明
90 10 透明
80 20 透明
・・・
64?85%w/wの殺虫剤及び36%w/wの噴射剤を有する組成物において殺虫剤の満足な噴霧を達成しうる。」(5頁左下欄21行?右下欄15行)

(11)甲第11号証
(甲11-1)「1.耐圧容器に加圧充填されてなる液化炭酸ガスに、有機燐系あるいは、ピレスロイド系の殺虫成分を0.03?20wt%溶解せしめたものを液化炭酸ガスのもつ圧力を利用して噴霧することを特徴とする殺虫方法。」(特許請求の範囲第1項)
(甲11-2)「しかるに本発明方法は・・・粒径0.5?5μのエアロゾルを得ることができる。この微細なエアロゾル化は殺虫剤の広範囲かつ均一な撒布を可能とするばかりか、滞空時間が長いことにより特に飛翔害虫に対し効果がある。」(2頁左下欄10行?右下欄4行)
(甲11-3)「実施例3
ジクロルボス 5wt%
液化炭酸ガス 95wt%
耐圧容器に約70Kg/cm^(2)の圧力で充填された上記組成ガスを下水ピツト内に生息するチカイエ蚊を対象に適宜噴霧した処、蚊は噴霧ガスに引き込まれるように集まり、極めて短時間のうちに100%殺虫することができた。」(3頁右上欄6?13行)

(12)甲第12号証
(甲12-1)「(1)(a)有効成分が・・・
(b)上記耐圧容器は、・・・
(c)この耐圧容器に充填される・・・
(d)前記製剤は、上記有効成分が、液化炭酸ガス中に0.05?2%溶解されて成っている、
ことを特徴とする防虫器具。」(特許請求の範囲第1項)
(甲12-2)「まず、耐圧容器11内に、・・・を取り付けた後に、液化炭酸ガスを6965g充填することにより、防虫器具を製造する。」(4頁右上欄10行?左下欄2行)
(甲12-3)「(4)試験例2
5.8m^(3)(1.8m立法)の試験室の4隅の天井から、12メッシュの円筒ケージ(直径10cm、高さ30cm)を吊り下げ、その中に、アカイエカ雌成虫20頭を入れた。
・・・
結果を下記第3表に示す。
第3表(略)」(5頁右上欄1行?左下欄第3表)

(13)甲第13号証
(甲13-1)「

」(26頁表3)
(甲13-2)「

」(32頁表4)

(14)参考資料1:
(参1-1)「1 沸点100℃以下融点0℃以下の溶剤に殺虫成分を溶解した原液を10%V/V以下とし溶剤殺虫成分と相溶性のある噴射剤を90%V/V以上密閉容器に入れ、噴射口に3.4mm^(2)以上の口をつけ内圧力3.0?7.0kg/cm^(2)/20℃にて1秒間に15ml以上を噴射さすことを特徴とする殺虫噴出剤。」(特許請求の範囲第1項)
(参1-2)「本発明は密閉容器に収容された殺虫成分を極めて短時間に極微細な粒子として広範囲に噴出させる事により害虫を短時間で防除すると共に特に広い室内或いは天井裏等簡単に防除できない場所に使用できる新噴出剤である。」(1頁1欄14?18行)

第5 被請求人の答弁
1 被請求人の答弁の概要
被請求人は、平成20年10月14日付け審判事件答弁書に添付して乙第1?2号証を提出し、平成21年2月13日付け口頭審理陳述要領書に添付して乙第1号証の「緒言」の頁、乙第3?4号証を提出し、平成21年2月26日付け上申書に添付して乙第5?13号証を提出し、平成22年8月6日付け訂正請求書に添付して乙第14?17号証を提出するとともに、第2次審決までにされていた次の(1)?(5)の主張に加えて、平成22年8月6日付け訂正請求書において、次の(6)?(8)の主張をしている。

(1)駆除効果の持続性
a)甲第1号証の実施例Bでは、アエデス・エギブティ種のカについて活性試験がされ、活性があることが確認されているが、実施例Bはエアゾールではない。
実施例Aはスプレーカンを用いたイエバエに対する実験結果が示されているが、これによると、イエバエに対する殺虫効果に即効性はなく、1時間も経つとその作用を殆ど維持できる気中状態にないと判断される。
b)これに対し、本件発明の実施例では、2時間経過しても蚊成虫に対する実質的な効果が持続しており、このような駆除効果の持続性は、甲第1号証の実施例Aからは認識できない。

(2)甲第1号証の開示が阻害要因となること
本件発明は、相当時間の経過後でも駆除効果を持続させ、しかも溶剤による部屋や家具の汚染を避けるという駆除方法であり、このような課題は当業界では何ら認識されておらず、甲第1号証の実施例Aは、イエバエに対する殺虫効果に即効性がなく、寧ろ阻害要因すら存在しているといえる。

(3)ハエと蚊成虫
請求人は甲第3号証、甲第7号証に言及して、蚊についても従来エアゾールを用いた防除が存在することを主張している。しかし、従来から知られているエアゾール殺虫剤は害虫一般に対して適用されるものであり、蚊成虫の駆除専用とするものは存在しないから、蚊成虫を一度の処理操作のみによって、駆除効果を持続させることの検討において、エアゾールのハエに対する知見が直ちに役立つとはいえない。

(4)実施例Aを蚊に適用しても容易に想到しない理由
イエバエと蚊成虫とは異なる害虫であり、当然のことながら殺虫剤に対する感受性が異なる。乙第1号証の13頁の表1には、イエバエ成虫とアカイエカ成虫に対する各種ピレスロイドの効力比較が示されて、50%の害虫が致死する量であるLD_(50)の記載がある。
これからすると、ピレスロイドが示す一般的な数値として、アカイエカに対しては、イエバエに対する殺虫剤量の0.14倍でよいといえる。
そうすると、本件発明においては、蚊成虫に対して当業者が配合するであろうと推測される量を遙かに超えた、蚊成虫にとっては桁違いに大量の殺虫剤を使用しており、このような大量使用は、甲第1号証の記載からは想定できないものである。

(5)予測できない顕著な効果
本件発明では、イエバエに代えて蚊成虫を適用した場合に当業者が用いるであろうと推定される量よりも格段に多い所定量を使用しており、これにより、処理から2時間目の新しい蚊成虫に対するKT_(50)が5.73分であるという、殺虫性の持続効果が得られている。
これは、甲第1号証の実施例Aの結果からは全く理解できないものである。

(6)請求人の提出した審判事件第二弁駁書(甲第10?13号証添付)の副本の送付は、審理終結通知書と同日であり、被請求人は弁駁内容に対する意見陳述の機会を持つことなく第2次審決がされた。そこで、甲第10?13号証に対する被請求人の見解を述べてから再度審決を得るために、訂正審判を請求したのである。(訂正請求書4?6頁)

(7)本件発明1と甲第1号証の発明との対比について
(7-1)第2次審決では、本件発明1と甲第1号証発明とを対比して、相違点ア、イ、ウの3点について認定しているが、これは、以下のとおり、誤りである。

(7-2)相違点ア(害虫が、本件発明1においては、「蚊成虫」であるのに対し、甲1発明においては、「イエバエ」である点)について(訂正請求書13?16頁)
(ア)本件発明1は、飛翔害虫に向けて直接噴射し駆除するという噴霧方法というよりも、所定の噴霧空間に噴霧した後、そこに存在する蚊成虫のみならず物陰に隠れていた蚊成虫や新たに室内に侵入してきた蚊成虫に対しても駆除効果を発揮するものであり、従来の直接噴射型の駆除方法とは異なる使用方法を提供するものである。
(イ)甲第1号証の、スプレー後22分でイエバエの50%が死滅し、47分を経てやっと95%が死滅する、という効果に比べて、本件発明1の実施例のKT_(50)を見れば、その効果が持続していることがわかる。
(ウ)審決では、乙第1号証に言及して、「イエバエ成虫」と「アカイエカ成虫」に対するKT_(50)が似たような数値であるとしているが、LD_(50)値で対比すべきであり、格段に相違するものである。
(エ)したがって、相違点アについての審決の判断は誤りである。

(7-3)相違点イ(原液が、本件発明1においては、「殺虫剤からなる原液」であるのに対し、甲1発明においては、「殺虫剤を0.78重量%含有する原液」である点)について(同16?27頁)
(ア)甲第1号証の摘示(甲1-5)は、その文脈からみて、殺虫剤として本件活性化合物を単独で用いてもよく、又は、他の活性化合物と併用してもよい、旨を記載しているに留まり、摘示(甲1-6)の「100重量%」とは、使用形状中の活性化合物濃度であり、100重量%は製剤全てが活性化合物である場合を指しており、活性化合物を所定の錠剤形状に成形した蒸発錠剤を意味していると解釈するのが自然である。
(イ)甲第2号証は、非常に古い公報であり、石油系液化ガスを噴霧媒体とすることを発見したという発明であり、殺虫効果を試験しているのはケロシン油が32%配合、すなわち有機溶剤が配合されたもののみである。
(ウ)甲第10号証は、揮発性有機化合物の排出を制限するために噴射剤の量を大幅に低減した、超高濃度の活性成分を含むエアゾール製剤であって、一般的なエアゾール殺虫剤とは全く相違するものである。
(エ)甲第11号証は、噴射剤として液化炭酸ガスを高圧下に用いるものであり、甲第12号証も、噴射剤として液化炭酸ガスを用い、容積10Lのガスボンベという容器を用いるものであって、乙第14?17号証からもわかるように、一般的なエアゾール殺虫剤とは全く相違するものである。
なお、本件訂正により、本件発明1において、液化炭酸ガスは噴射剤から除かれている。
(オ)したがって、「殺虫剤からなる原液」は、普通に行っている形態のひとつではない。

(7-4)相違点ウ(駆除方法が、本件発明1では、「噴霧処理後は駆除効果を持続させて駆除を行う」ものである点)について(同27?29頁)
(ア)本件発明1は、エアゾール製剤の発明ではなく、方法の発明であるから、噴霧から例えば1時間後の有効量の粒子の浮遊を客観的に認識できない甲第1号証の開示から、本件発明1の方法の着想をもつことは容易ではない。
(イ)したがって、甲第1号証発明においても、同様に駆除効果を持続させて駆除を行う、というのは誤りである。

(8)本件発明の顕著な効果について(訂正請求書30?34、38?43頁)
エアゾール製剤により効率的に害虫を駆除するには、溶剤が必要であり、溶剤は、噴霧粒子の虫体への付着性、虫体内への浸透性を高めるために使用されていたこと、溶剤の量を減らすと害虫駆除成分の虫体内への浸透性が悪くなり、殺虫効力が著しく低下することは、乙第7、8、9、13号証に記載され、これらのことからすると、エアゾール製剤において溶剤なしで、かつ噴霧粒子の微細化を図ることは、阻害要因が存在していた、というべきである。
また、本件発明1は、噴霧粒子を微細化することで、結果的に蚊取線香などと同様に、蚊の気門から薬剤粒子を吸入させて駆除するというメカニズムによるものと推定され、新規な殺虫メカニズムである。
したがって、本件発明の効果は顕著である。

(証拠方法)
乙第1号証:「家庭用殺虫剤概論 II」、日本殺虫剤工業会、1996年、第10?15頁
乙第2号証:「家庭用殺虫剤概論 II」、日本殺虫剤工業会、1996年、第17?24頁
乙第3号証:和田義人外2名著、「害虫駆除シリーズ 5 ハエ・蚊とその駆除」、財団法人日本環境衛生センター、平成2年2月20日、目次、第62?64、115?118頁
乙第4号証:日本薬業新聞社編、「殺虫剤指針解説」、日本薬業新聞社、昭和53年8月25日、第i?iii、viii頁、第475?504頁
乙第5号証:生活と環境、昭和62年、第32巻、第12号、第30?33頁
乙第6号証:Jpn.J.Sanit.Zool.、Vol.43、No.2、1992、p.71?76
乙第7号証:特開昭51-35436号公報
乙第8号証:AEROSOL AGE、May、1998、p.34?40、及びその部分訳
乙第9号証:日本農薬学会誌(Journal of Pesticide Science)、平成3年、第16巻、第3号、第533?543頁
乙第10号証:「家庭用殺虫剤概論 II」、日本殺虫剤工業会、1996年、第25?30頁
乙第11号証:日本農薬学会誌(Journal of Pesticide Science)、昭和62年、第12巻、第3号、第483?489頁
乙第12号証:特開昭59-84801号公報
乙第13号証:特開昭63-222102号公報
乙第14号証:通商産業省環境立地局保安課監修、「高圧ガス取締法規集」、高圧ガス保安協会、平成8年4月3日第23次改訂版、第ix頁、第1?5頁
乙第15号証:通商産業省環境立地局保安課監修、「高圧ガス取締法規集」、高圧ガス保安協会、平成8年4月3日第23次改訂版、第ix頁、第95?97頁
乙第16号証:通商産業省環境立地局保安課監修、「高圧ガス取締法規集」、高圧ガス保安協会、平成8年4月3日第23次改訂版、第ix頁、第803?808頁
乙第17号証:「12996の化学商品」、化学工業日報社、1996年1月24日、第226?227頁

2 乙号証に記載された事項
(1)乙第1号証:
(乙1-1)「蚊取線香は,有効成分ピレスロイドを木粉等の植物成分に混合し,更に粘結剤としてタブ粉,澱粉等を加え捏機で練り,押出機にかけて板状にしたものを渦巻型に打抜き,乾燥して製造される。蚊取線香の燃焼部分は,タバコの場合と同じで,700?800℃にも達するが,有効成分のピレスロイドは先端の燃焼部分から6?8mm手前の約250℃前後の所から揮散する(図1)。
・・・
蚊取線香は,人間の睡眠時間7?8時間にわたりピレスロイドを空中に放出し,しかもその間一定の殺虫効力を保持する。」(10頁左欄13行?右欄3行)
(乙1-2)「電気蚊取マットは,有効成分ピレスロイドを繊維質マットに含浸させ,電気発熱体の上に載せて加熱し,有効成分を揮散させる蚊取方式で,蚊取線香と比べるとピレスロイドのキャリヤーとしての煙を伴わないので拡散力はやや劣るが,煙を嫌う人や密閉家屋での使用に適している。
電気蚊取マット方式は,マット1枚について使用初期から終期まで経時的に一定量のピレスロイドを揮散させることは難しく,揮散調整剤を添加しても,殺虫効力が経時的に減少することは避けられないという問題がある。
これに対し,液体式電気蚊取は,殺虫液中に吸上芯を浸漬し,芯上部を加熱してピレスロイドを揮散させるもので,経時的に一定の殺虫効力が持続し,また,殺虫液ボトルを器具に一回セットすれば,取り替えなしで長時間使用できる等の利点がある。」(10頁右欄17行?11頁左欄1行)
(乙1-3)「いずれの電気蚊取方式であっても,揮散するピレスロイド量は極微量(数mg/1時間当たり)で,しかも,長時間安定した殺虫効力を保つためには加熱温度を厳密にコントロールできる蚊取器具でなければならない。」(11頁左欄4?8行)
(乙1-4)「エアゾールとは,「空中に浮遊する微粒子」のことで,エアゾール殺虫剤は,蚊取線香と共に一般家庭で広く使われ,ハエ,蚊を対象として室内で空間に噴霧する空間エアゾールと,匍匐昆虫の駆除,予防を目的とした塗布型エアゾールの2種類に区別される。・・・


」(11頁左欄13?末行)
(乙1-5)「


」(13頁、表1)

(2)乙第2号証:
(乙2-1)「


」(23頁左欄、図5)
(乙2-2)「


」(23頁左欄、図6)

(3)乙第3号証:
(乙3-1)「すなわち,図1.26に示すごとく,イエバエ及びヒメイエバエの冬季における典型的な活動パターンは,夜間に天井などで静止している成虫が,朝8:30,イエバエの一部が天井から離れて日当たりのよいところに出現しはじめる。・・・ヒメイエバエも活動を停止したままであった。」(62頁16?24行)
(乙3-2)「しかし,日本の主要な蚊の多くは夜間吸血性である。」(115頁下から3?2行)
(乙3-3)「アカイエカは,屋内で夜間就寝中の人から吸血することが多い。」(116頁下から6行)

(4)乙第4号証:
(乙4-1)「(1)殺虫効力試験法の種類
基礎試験の方法は、殺虫剤の適用形式から原理的には下記の5種類に分けられる。
A.微量滴下法
・・・
C.空間処理法
・・・
これらの試験法のうち、微量滴下法は、原体の有効度を評価する上には欠くことのできない、最も基礎的な試験法であり、製剤の効力試験においてはB?Eの試験法が広く用いられ、特にCの試験法では、さまざまな装置が考案されている。」(475頁下から9行?476頁3行)
(乙4-2)「A 継続接触法
この接触方式は、さらにa、b二つの方法に区別され、試験目的に基いてそのいずれかを採用する。
a.KT_(50)値(50%仰転時間)を求める場合
これはある基準量の適用薬剤に供試虫を継続的に接触させ、時間の経過に伴う仰転虫数率から、主としてKT_(50)値を求めるもので、一般に速効性を評価する目的の試験に用いられる。ときにはそのまま接触を続け、一定時間後の、例えば24時間後の死虫率や仰転率を調べて効力を評価する場合もある。」(476頁10?17行)
(乙4-3)「(1)微量滴下法
麻酔した供試虫の体表の一定の部位に、主として原体の各種濃度のアセトンなどの溶液の所定量を、マイクロシリンジを用いて正確に滴下し、一定時間後の薬量-致死率の関係から、通常、LD_(50)値を求める。
この試験法では、殺虫剤を直接に虫体に滴下付着させるので、効果を変動させる要因の介入が少なく比較的安定した結果が得られ、また、虫1頭当りの処理薬量を正確に知り得る特長がある。しかし、この試験法の性格上、実際の製剤の効力試験には利用しにくい。
・・・
供試虫:イエバエ、アカイエカ、チャバネゴキブリなど」(479頁下から12?末行)
(乙4-4)「(3)空間処理法
この試験法は、殺虫剤を直接噴霧や煙霧等の形で適用した場合の効力を評価するためのもので、規格化された装置内の一定の空間に殺虫剤の所定量を微細な粒子や気体の状態で分散させて供試虫と接触させ、主として速効性と一定時間後の致死効果を調べる。」(485頁下から10?6行)
(乙4-5)「C エアゾール剤の試験(空間噴霧用)
a 箱型装置による試験
・・・
時間の経過に伴う落下仰転虫数率を求めて速効性を調べる。ときには、短時間接触法を用いて24時間後の致死効果を求める場合もある。
供試虫:イエバエ、アカイエカ、チャバネゴキブリなど
・・・
試験方法:
i 装置内にエアゾール剤を2秒間噴射し、30秒経過後に供試虫を放つ。
ii 継続接触法aの方式で効果を調べる。
iii 短時間接触法の場合は、10分、あるいは60分間の接触とし、24時間後の死虫率を求める。」(489頁6行?20行)

(5)乙第5号証:
(乙5-1)「2.殺虫剤の虫体へ侵入する三つの経路を考え,必要に応じて併用を試みる
殺虫剤はi皮膚から,ii口から,iii気門からの三つの経路を通って昆虫体内に侵入し,標的器官(作用点)の神経などに到達して殺虫力を発揮する。iを接触毒,iiを食毒,iiiを呼吸毒と呼ぶ。
例えば,ゴキブリ防除の場合,残留処理(接触毒)と,煙霧・燻煙(呼吸毒)かベイト剤(食毒)のいずれかとの併用をするとさらに効果が期待できる。」(32頁右欄13?23行)(審決注:i、ii、iiiはいずれも丸付き数字である。)

(6)乙第6号証:
(乙6-1)「有効成分 dl,d-T80 アレスリンの蚊取線香の煙を走査型電子顕微鏡により観察した結果,煙粒子は燃焼部付近では粒径0.2μm以下,燃焼部より離れた位置では,0.4?1.0μm程度であると考えられた.またX線マイクロアナライザーによる分析より,煙粒子上または中に有効成分が存在することが明らかとなり,煙が有効成分拡散のためのキャリアとして働いていることが明らかとなった.」(76頁、「摘要」の項より)

(7)乙第7号証:
(乙7-1)「エアゾール殺虫剤としてはその使用時燃焼危険度低減のため油性原液よりも水性原液によるものが望まれる。ところがこの種の水性エアゾール殺虫剤は殺虫剤としての目的たる効力の点に於いて満足できるものは未だない。従来は主として製剤的面から開発されたため噴霧後の殺虫剤原体と昆虫体との界面張力は大きく、昆虫体に付着し難く又付着しても昆虫体を濡らす力、浸透力に乏しく、効力は十分とは言えず、主に速効的効果は非常に乏しいものであった。本発明者はこの課題を解決するため、種々研究の結果、詳しくは実施例にみられるが如き方法において、上記欠点のない水性エアゾール殺虫剤を発明した。
即ち、本発明者は従来の水性エアゾール殺虫剤の主欠点は何かを考え、種々検討した結果、効力の点であることをつきとめ、油性エアゾール殺虫剤と従来の水性エアゾール殺虫剤とを比較した場合、噴射剤は両者共大差なく、原液についてのみ大きく異なる。両者の原液について昆虫(イエバエ)を用いて、原液と昆虫の濡れについて実験してみると、効力差の原因が判然とする。即ち、前者(油性)は原液をマイクロシリンジで昆虫体(イエバエ)上に一適スポットするとき直ぐ濡れるのに対し、後者(水性)の原液は同様に操作した場合10分以上も濡れを起こさない。」(1頁左欄下から11行?右欄16行)

(8)乙第8号証:
(乙8-1)「溶剤
粒子は虫に当たり付着した後、クチクラ(表皮)を浸透する。現在、一般に使用されている殺虫剤のほとんどが神経系の毒性をもつので、殺虫スプレーの有効成分は神経部分に浸透しなければ全く効果がないだろう。
上述したように、虫の体表面はワックス層で覆われている。したがって、選択した溶媒はワックス層と親和性をもち、浸透しなくてはならない。」(39頁中欄の「Solvents」の項の1?14行。訳文で示す。)

(9)乙第9号証:
(乙9-1)「殺虫効力に及ぼす溶剤の影響
殺虫剤を害虫に対して施用する際に用いる溶剤の種類が効力に影響を及ぼすことについては過去よりいくつかの報告があり,・・・溶剤自身の毒性は殺虫剤の毒性と比べるとはるかに弱く,通常の空間噴霧殺虫試験において溶剤のみを噴霧してもほとんどノックダウン活性がみとめられないことから,各溶剤による殺虫効力の差は昆虫の表皮を通じて薬剤が体内に浸透移行する際の移行速度が溶剤によって異なることによると考えられた.」(540頁左欄表の下1行?右欄下から4行)

(10)乙第10号証:
(乙10-1)「1.カ,ハエ用エアゾール
主成分はノックダウン剤(虫を速く倒す薬剤)および致死薬剤が配合されている。
ノックダウン剤としてはd-T80-フタルスリン等が使用され,また,致死剤としてはd-T80-レスメトリン等が使用されている。これらの成分をとかす溶剤としては,脱臭処理された精製灯油が使用されているため使用時の不快臭はない。噴射後の粒子は35ミクロン程度の大きさが飛んでいる虫に対して付着性が良く効果的とされている。一度噴霧し対象害虫に付着すればノックダウンの後死にいたる。」(29頁右欄表の下1?12行)

(11)乙第11号証:
(乙11-1)「Table 3
・・・(略)」(486頁Table 3)
(乙11-2)「イエバエに対する殺虫効力とエーロゾル剤噴霧粒子径との関連性を,テトラメスリンとd-フェノスリンを含む油性エーロゾル製剤を用いて調べた.噴霧粒子径は,エーロゾルバルブ孔径,原液/噴射剤比および噴射剤圧力を変化させることによって調節した.ノックダウン効力,致死効力とも粒子径に依存し,最適粒子径はRosin-Rammler分布式における平均粒径として30μm付近にあることがわかった.粒子径が30μmより大きくても小さくても殺虫効力は弱くなった.この結果は,飛翔害虫によるエーロゾル粒子補集効率が,粒子径により影響を受けることを示唆していた.この理由は,噴霧粒子の挙動が,粒子径に依存した粒子の慣性力と,沈降落下速度という二つの要因の相互作用に依存しているためであると推定された.」(489頁「要約」の項)

(12)乙第12号証:
(乙12-1)「本発明のエアゾール剤において、有効成分としてはピレスロイド系殺虫剤、有機リン系殺虫剤等の殺虫剤ほか、昆虫、ダニ類に対し生理活性を示す物質、例えば、忌避剤、誘引剤、幼若ホルモン等の害虫駆除剤が使用でき、これを必要ならば、ピペロニルブトキサイド等の共力剤とともに、ケロシンに溶解して、ケロシン溶液として用いる。
また噴射剤としてはジメチルエーテル単独あるいはこれと、20℃における圧力が2.8?3.5kg/cm^(2)の液化石油ガスとの混合物を用いることができる。これらの配合割合については、ケロシン溶液が40容量%未満では、噴射剤が60容量%を越え、爆発性、引火性の危険が増大し、前記の高圧ガス取締法の規制を満足し得ず、さらに害虫駆除効果も充分ではなく、またケロシン溶液が50容量%を越すと、引火性の危険の増大のほか、噴射性に関しても、噴霧粒子が過大になり、やはり害虫駆除効果を充分に発揮し得ないことから、ケロシン溶液:噴射剤=40?50容量%:50?60容量%である。」(2頁左上欄15行?右上欄15行)
(乙12-2)「ハエ,カの害虫駆除効力を○,△,×の3段階に評価し、・・・次に、実施例1と同様の試験を行った結果を第2表に示す。
第2表(略)」(2頁右下欄下から4行?4頁上欄)

(13)乙第13号証:
(乙13-1)「ところが、従来のエアゾール剤においては、害虫駆除成分を溶解する溶剤としての石油分40?50容量%及び噴射剤50?60容量%の処方が通常であり・・・、このようなエアゾール剤を蠅や蚊、ゴキブリ等が静止している鏡面やガラス面、床面等に直接噴射するとかなりその表面が汚染されることから明らかなように、その汚染性は相当に高い。・・・一般にエアゾール剤は、害虫駆除成分とこれを溶解するケロシン等の溶剤から成る原液と、これを噴霧するための噴射剤とから成つており、従つて、汚染性を低減するためには溶剤の配合量を減らし、噴射剤の配合量を増やせばよいわけである。しかし、この方法では、EC値が小さくなり、0.13g/l未満で爆発するため弱燃性とはなり得ず、かつ、汚染の少ない程度まで溶剤(原液)の量を減らすと、害虫駆除成分の虫体内への浸透性(量、速度)が悪くなり、殺虫効力は著しく低下する。従つて、単純に溶剤の配合量を減らし噴射剤の配合量を増しただけでは、汚染性の低減という目的は達成し得るが、逆に、爆発や火災の危険性が極めて高くなり、また殺虫効力も著しく減少するという問題が生ずる。」(2頁左上欄5行?左下欄12行)

(14)乙第14号証:
(乙14-1)「第3条 この法律の規定は、次の各号に掲げる高圧ガスについては、適用しない。
・・・
八 その他災害の発生のおそれがない高圧ガスであつて、政令で定めるもの」(3、5頁)

(15)乙第15号証:
(乙15-1)「高圧ガス取締法施行令
第3条 ・・・
3 法第3条第1項第8号の政令で定める高圧ガスは、次のとおりとする。
・・・
七 内容積一リットル以下の容器内における液化ガスであつて、温度三十五度においてゲージ圧力八・一キログラム毎平方センチメートル以下のもののうち、通商産業大臣が定めるもの」(95?96頁)

(16)乙第16号証:
(乙16-1)「高圧ガス取締法の適用を除外される液化ガスを定める等の件
[平成三年六月四日 通商産業省告示第二百三号]」(803頁)

(17)乙第17号証:
(乙17-1)「液化炭酸ガス・ドライアイス
・・・
荷姿 液化炭酸はボンベ詰(30kg)およびタンクローリー(7t)で市販。
・・・
適用法規 高圧ガス取締法 第2条(液化ガス)。」(226頁)

第6 当審の判断
1 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、式(I)の化合物を含有する殺虫剤が、特に昆虫、例えば蚊・ハエの防除に適すること(摘示(甲1-1)?(甲1-4))、エアロゾルを含む一般的な使用形態で用いられるが、スプレー配合剤および蒸発錠剤が特に好ましいこと(摘示(甲1-5)?(甲1-6))が記載され、さらに、その具体的配合例として(甲1-7)に摘示したスプレー配合剤及びこれを用いた実施例Aが記載されている(摘示(甲1-8))ので、これについて検討する。

(甲1-7)に摘示したスプレー配合剤において、「活性化合物 I」は殺虫剤であり、「脱臭ケロシン/飽和脂肪族炭化水素の混合物」は脂肪族炭化水素からなる有機溶剤といえるところ、「活性化合物 I 0.04重量%、脱臭ケロシン/飽和脂肪族炭化水素の混合物 5.0重量%、香油 0.01重量%、安定剤 0.1重量%」の配合物は原液であって合計5.15重量%であり、「噴射剤:プロパン/ブタン15:85 94.85重量%」は噴射剤であるといえる。
そこで、まず、原液中の殺虫剤量をみると、原液中の殺虫剤量は、0.04/5.15=0.0078、すなわち、0.78重量%であるといえる。
次に、耐圧容器の全容積に対する原液の容積比率をみると、原液と噴射剤で耐圧容器は満たされているといえるから、それぞれの比重からそれぞれの容積を算出すると、原液の大部分を占めているのは「脱臭ケロシン/飽和脂肪族炭化水素の混合物」であって、ケロシンの比重は甲第8号証から「0.790?0.830」であり(摘示(甲8-1))、その平均値を取り0.81とすると、原液量は、5.15/0.81=6.36、すなわち、6.36mlであるといえる。
一方、噴射剤の比重は、甲第9号証より、液化プロパンの比重は0.508であって液化ブタンの比重は0.584であるから(摘示(甲9-1))、これから噴射剤の比重は0.57となり、噴射剤量は、94.85/0.57=166.4、すなわち、166.4mlであるといえる。
そうすると、耐圧容器の全容積に対する原液の容積比率は、6.36/(6.36+166.4)=0.0368、すなわち、3.68%であるといえ、あるいは、噴射剤が耐圧容器内で気化してその容積が相対的に増加することを考慮すると、原液の容積比率は耐圧容器の全容積の3.68%以下であるといえる。
また、駆除剤の30m^(3)の空間あたりの噴霧量をみると、(甲1-8)に摘示したように、「スプレーカン1個あたりの適用スプレー量は12.4gであ」って、そのうちの0.04重量%が殺虫剤であるから、駆除剤を30m^(3)の空間あたり有効成分として12.4×0.0004=0.00496g、すなわち、4.96mg噴霧し、イエバエを駆除している。
そして、「適用は、使用形状に適した慣用の手法で行う。」(摘示(甲1-6))とあるように、甲第1号証に記載された殺虫剤適用の方法は、式(I)の化合物に限られたものというより、一般の殺虫方法といえるから、甲第1号証には、
「殺虫剤を0.78重量%含有する原液、および噴射剤をスプレーカンに収納して、前記原液の容積比率が前記耐圧容器の全容積の3.68%以下であるイエバエの駆除剤を30m^(3) の空間あたり有効成分として4.96mg噴霧せしめるイエバエの駆除方法であって、前記原液が、殺虫剤を脂肪族炭化水素からなる有機溶剤に溶解せしめたものである、イエバエの駆除方法。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

2 本件発明1についての判断
(1)甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。エアゾール容器として、本件発明1で用いられるのは、本件明細書の段落0028に「本発明に使用される開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器は、特に限定されず、従来のエアゾール製品に使用されているものと同様のものを使用することができる。」と記載されているように、普通のものといえ、甲1発明においても、スプレーカンとされるのみで特にそれ以上は説明されていないから、普通のものといえ、両者の間に差異はない。
そうすると両者は、
「殺虫剤を含有する原液、および噴射剤を開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器に収納して、前記原液の容積比率が前記耐圧容器の全容積の3.68%以下とした害虫の駆除剤を30m^(3) の空間あたり有効成分として4.96mg噴霧せしめることを特徴とする害虫の駆除方法であって、前記原液が、殺虫剤を含有するものである、害虫の駆除方法。」
で一致し、

ア 「害虫」が、本件発明1においては、「蚊成虫」であるのに対し、甲1発明においては、「イエバエ」である点、
イ 「殺虫剤を含有する原液」が、本件発明1においては、「殺虫剤からなる原液」であって、「前記原液における殺虫剤は、脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたものではなく、かつ活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものでもなく、それのみで用いたもの」であるのに対し、甲1発明においては、「殺虫剤を0.78重量%含有する原液」である点、
ウ 「害虫の駆除方法」が、本件発明1においては、「噴霧処理後は駆除効果を持続させて駆除を行う」ものであるのに対し、甲1発明においては、そのような規定はされていない点、
エ 「噴射剤」が、本件発明1においては、「液化石油ガス、ジメチルエーテル、およびハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれた少なくとも1つ」であるのに対し、甲1発明においては、そのような特定はされていない点、
で、相違する。

(2)相違点アについて
(2-1)エアゾール殺虫剤によりハエ・蚊等の昆虫の駆除をすることは、甲第3号証(摘示(甲3-2))、乙第1号証(摘示(乙1-4))、乙第10号証(摘示(乙10-1))、乙第12号証(摘示(乙12-2))等にも記載されるように、周知といえる。また、一般家庭において、一缶のエアゾール殺虫剤を用いて、イエバエも蚊成虫もともに駆除することは普通に行われていることである。
ところで甲第1号証には、甲第1号証に記載された殺虫剤が種々の虫の駆除に有効であること(摘示(甲1-3)?(甲1-4))、種々の形態で用いられること(摘示(甲1-5))が記載され、それに続いて、エアゾールによりイエバエを駆除する実施例Aと、錠剤を加熱し蚊成虫を駆除する実施例Bが、具体的に記載されているのであるから(摘示(甲1-7)?(甲1-10))、特に実施例Aのエアゾールについては、これをエアゾール殺虫剤の普通の適用害虫である蚊成虫の駆除に用いてみようと発想することは、当業者にとって不自然なことではない。

(2-2)もっとも、ハエと蚊では、乙第3号証に記載されるように、その行動・習性は異なるものであり(摘示(乙3-1)?(乙3-3))、また、体の大きさの違いから、被請求人が平成22年8月6日付け訂正請求書15?16頁で主張するように、同じ薬剤を用いてもその致死量等に差はあると考えられるが(例えば、摘示(乙1-5)におけるLD_(50)値)、一方、殺虫効力試験においては、微量滴下法、空間処理法等の同じ方法が採用され(摘示(乙4-3)、(乙4-4))、エアゾール剤においても箱型装置による試験等の同じ方法が採用されて、50%仰転時間であるKT_(50)や一定時間後の致死効果が調べられるところである(摘示(乙4-2)、(乙4-4)、(乙4-5))。
さらに乙第1号証には、「表1 各種ピレスロイドの効力比較表」が記載されており(摘示(乙1-5))、対象昆虫として、「イエバエ成虫」と「アカイエカ成虫」とが並び記され、本件明細書で、「50%の個体がノックダウンするまでの時間(KT_(50))」でその効果を見ているので(本件明細書段落0035?0037)、同様に乙第1号証の「表1」(摘示(乙1-5))において、例えば、本件明細書の段落0011に、「前記殺虫剤としては、通常使用されているものであれば特に限定されないが、例えば、」として挙げられている、アレスリン、dl・d-T80-アレスリン、フタルスリン、d-T80-フタルスリン、d・d-T80-プラレトリンについてみると、

イエバエ成虫 アカイエカ成虫
KT_(50)(分) KT_(50)(分)
アレスリン 3.3 6.3
dl・d-T80-アレスリン 2.1 3.0
フタルスリン 1.6 2.2
d-T80-フタルスリン 1.3 2.0
d・d-T80-プラレトリン 1.2 1.1

となり、似たような数値が並んでいる。

(2-3)以上のように、エアゾール殺虫剤がイエバエにも蚊成虫にも普通に用いられ、また、イエバエについても蚊成虫についても、エアゾール殺虫剤においては、似たような効力試験が行われていることを考慮すれば、害虫の駆除において、イエバエも蚊成虫も同等に扱われているといえ、イエバエで試験された駆除方法を蚊成虫についても試してみることは、当業者が試してみる範囲内のものといえる。
そうしてみると、甲1発明において、害虫を、イエバエに代えて「蚊成虫」とすることは、当業者にとって容易である。

(3)相違点イについて
(3-1)本件発明1における「「殺虫剤からなる原液」であって、「前記原液における殺虫剤は、脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたものではなく、かつ活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものでもなく、それのみで用いたもの」」とは、「殺虫剤からなる原液」と同義といえるから、甲1発明において、「殺虫剤からなる原液」とすることが容易であるか否かについて検討する。

(3-2)甲第1号証には、「本件活性化合物を単独で、または他の活性活性と組み合わせて慣用の配合剤、たとえば、溶液、乳濁液・・・、水和性粉末、けん濁液、粉末、粉末散布剤、泡剤、ペースト、エアロゾル、油ベーススプレー、けん濁濃縮液、活性化合物を含浸させた天然および合成材料、特に活性化合物を徐々に、計量された量で放出する、いわゆる緩徐放出配合剤、重合体物質の微少カプセル、燃焼装置、燻蒸カートリッジ、燻蒸カン、蚊取りコイル、ULV配合剤、冷ミストおよび温ミスト配合剤、虫よけ紙(・・・)ならびに電気的および化学熱的加熱装置中で用いるための蒸発錠剤に転化させる。」(摘示(甲1-5))と記載され、様々な形態で幅広く用いられることが示されるところ、さらに、活性化合物濃度については、「市販の配合剤より調製した使用形状中の活性化合物含有量は広い範囲で変わり得る。使用形状中の活性化合物濃度は0.001ないし100重量%、好ましくは0.01ないし20重量%が可能である。
適用は、使用形状に適した慣用の手法で行う。
スプレー配合剤および蒸発錠剤が特に好ましい。」(摘示(甲1-6))と説明されている。
この摘示(甲1-6)において、「使用形状中の活性化合物濃度は0.001ないし100重量%」であり、「特に好ましい」のは「スプレー配合剤および蒸発錠剤」とされているところ、スプレー配合剤にあっては噴射剤は必須であり、蒸発錠剤にあっては錠剤形状とするための錠剤基剤は必須であるから、例えばスプレー配合剤において、噴射剤をも含めた全体量を基準とすると、その100重量%を活性化合物量とすることはありえない。また、蒸発錠剤においても、同様に、錠剤基剤をも含めた全体量を基準とすると、その100重量%を活性化合物量とすることはありえない。
すると、上記記載内容は、スプレー配合剤なら、噴射剤を除いた部分を基準として、活性化合物の濃度が0.001ないし100重量%、蒸発錠剤なら、蒸発基剤を除いた部分を基準として、活性化合物の濃度が0.001ないし100重量%である、と解するのが妥当といえる。
そうしてみると、甲第1号証には、「本件活性化合物」について、殺虫剤の様々な形態で幅広く用いられ、スプレー配合剤および蒸発錠剤が特に好ましく、活性化合物濃度は、噴射剤や蒸発基剤を除いた部分を基準として、0.001ないし100重量%と広く変わり得るものが開示あるいは示唆されているといえ、すなわち、「殺虫剤からなる原液」を含むエアゾール殺虫剤が、開示あるいは示唆されているといえる。

(3-3)甲第2号証は、古い公報であって、石油系液化ガスを噴霧媒体とした発明について記載されるものではあるものの、摘示(甲2-1)においては「石油系液化瓦斯に殺虫薬を直接又は他の溶剤に溶解せしめた後混合溶解せしめたるものを」とされ、噴霧媒体に直接殺虫薬を混合溶解せしめたものも、噴霧媒体に溶剤に溶解せしめた殺虫薬を混合溶解せしめたものも、同等に記載されている。また、摘示(甲2-4)には、「混合率 プロパン47%、ブタン47%、殺虫剤5.5%、香料0.5%」とされ、香料の配合量については通常特に考慮されないといえるから、ここには活性化合物と噴射剤とからなるエアゾール殺虫剤が記載されているといえる。具体的な殺虫効果に関するデータは示されていないが、摘示(甲2-4)は「噴霧質の気温に依る変化」を見ているのであって、当然に普通に用いられる殺虫剤を見ているとするのが妥当であるから、甲第2号証には、活性化合物と噴射剤とからなるエアゾール殺虫剤、すなわち、「殺虫剤からなる原液」を含むエアゾール殺虫剤が開示されているといえる。

(3-4)そうすると、「殺虫剤からなる原液」を用いてエアゾール殺虫剤とすることは当業者が普通に行っている形態のひとつといえる。

(3-5)ところで、甲1発明における「殺虫剤を0.78重量%含有する原液」を、普通の形態のひとつである「殺虫剤からなる原液」とした場合に、甲1発明における他の発明特定事項がそれにつれて必然的に変わってしまい、本件発明1と一致していた事項が一致しなくなるなら、このような原液に関する置き換えを容易とすることは到底できないので、その点について検討する。
(甲1-9)に摘示した「表1」には、「活性化合物」欄に続いて「活性化合物適容量mg/30m^(3)」なる欄があり、それ以降は、「50%死滅 95%死滅 までの時間(分)」、「1時間後の死滅率」なる欄が続き、これは、活性化合物と適用量を変化させたことによる作用効果について示されているものといえる。
そうすると、甲1発明において、例え原液中に含まれる殺虫剤の量が変化したとしても、4.96mgという適用量は保たれるものといえ、このような適用量になるように、原液の濃度により、1プッシュ量あるいはプッシュ回数を調整することは、甲1発明に包含される方法といえる。
また、「殺虫剤を0.78重量%含有する原液」が「殺虫剤からなる原液」となれば、原液量は格段に少量となり、その結果、「原液の容積比率」は、「耐圧容器の全容積の3.68%」よりは、相当小さなものになることは明らかであるものの、本件発明1を特定する事項である「耐圧容器の全容積の15%以下」であることにかわりはない。
そうすると、「殺虫剤を0.78重量%含有する原液」を、普通の形態のひとつである「殺虫剤からなる原液」とすることによって、原液量が減少することは当然であるが、このことにより、甲1発明と本件発明1との間に新たな相違点が生じるわけではない。
そうしてみると、甲1発明において、「殺虫剤を0.78重量%含有する原液」を「殺虫剤からなる原液」とすることの容易性を検討するにあたり、他の発明特定事項についての容易性等の判断とは離れて、独自に判断すれば足るのであるから、(3-2)に示したとおり、甲1発明において、「殺虫剤からなる原液」を用いてエアゾール殺虫剤とすることは当業者にとって容易になし得たものといえる。

(4)相違点ウについて
本件発明1における、「噴霧処理後は駆除効果を持続させて駆除を行う」とは、本件明細書の段落0005、同段落0030の「処理後数時間は蚊成虫を駆除できる量の薬剤が空気中にとどまるため、物陰に潜む蚊に対しても十分な効力を有する」旨の記載からすると、「噴霧処理後数時間は、蚊成虫を駆除できる量の薬剤が、落下せずに空気中に浮遊していること」であると解される。
ところで、本件発明1は、原液と噴射剤からなるいわゆるエアゾール殺虫剤であり、エアゾール殺虫剤について、噴霧粒子が細かいと粒子が長時間空気中に浮遊し、粒子が大きいほど気中濃度の低下の速度も速いことは、当業者に公知である(摘示(甲3-6)、(甲6-1))。そして、エアゾール粒子径に影響を与えるのは、原液対噴射剤組成比(組成比)、内部圧力(内圧)、バルブ種類およびノズル形状とされる(摘示(甲5-1))ものの、被請求人も口頭審理陳述要領書8頁23?26行に「そもそも、本発明のように、原液の容積比率を耐圧容器の全容積の15%以下とした場合には、噴射口の構造とエアゾール粒子の大きさは、それほどの関連性はなく、規定するまでもないものであります。」と述べ、甲第3号証、第4号証にも、原液に対し相対的に噴射剤量が多いと噴霧粒子は細かくなること(摘示(甲3-4)、(甲4-1))が記載されているのであるから、エアゾール粒子の大きさを決めるものとして、原液と噴射剤との割合が重要であることは明らかである。
そして、原液と噴射剤との割合、すなわち、耐圧容器の全容積に対する原液の容積比率は、「(1)」に示したように「3.68%以下」の範囲において本件発明1と甲1発明は相違していないのであるから、甲1発明においても、当然に「噴霧処理後数時間は、害虫を駆除できる量の薬剤が、落下せずに空気中に浮遊している」ものと推認され、「噴霧処理後は駆除効果を持続させて駆除を行う」ものであるといえる。
したがって、相違点ウは、実質的に相違していない。

(5)相違点エについて
本件発明1の「液化石油ガス」とは、「炭素数3および4の炭化水素が主となる」ものであって(必要なら、化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典 1 縮刷版」、共立出版株式会社1989年8月15日、縮刷版第32刷、第843頁等参照。)、プロパンやブタンが主となるものであるところ、甲1発明も、噴射剤として具体的には「プロパン/ブタン15:85」を使用しており(摘示(甲1-7))、ブタンが主となるものであるから、本件発明1も甲1発明も、同様の噴射剤を用いているといえる。
そして、エアゾール殺虫剤における噴射剤として、液化石油ガス、ジメチルエーテル、ハロゲン化炭化水素はいずれも普通に用いられるものであるから(「石油系液化瓦斯」(摘示(甲2-1))、「低級炭化水素弗素誘導体に属するデイクロロデイフロロ・メタン(・・・)の同族及びメチールクロライド(・・・)等」(摘示(甲2-2))、「プロパンブタン」(摘示(甲2-4))、「噴射剤としては、ジメチルエーテル(・・・)、プロパン(・・・)、イソブタン(・・・)、ノルマルブタン(・・・)あるいはこれらの混合物など」(摘示(甲3-5))、「噴射剤としてはジメチルエーテル単独あるいはこれと、・・・液化石油ガスとの混合物を用いることができる。」(摘示(乙12-1))、等)、甲1発明において、噴射剤として「液化石油ガス、ジメチルエーテル、およびハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれた少なくとも1つ」を用いることは、当業者にとって容易である。

(6)本件発明1の効果について
本件発明1の奏する効果は、本件明細書の段落0038に記載されるように、「本発明により、従来の加熱蒸散式の製剤よりも速やかに殺虫成分の気中濃度を高め、かつ従来の手押しポンプ式またはエアゾール式の製剤のような溶剤による部屋や家具の汚染がなく、処理後数時間は蚊成虫を駆除できる量の薬剤が空気中にとどまるため、物陰に潜む蚊に対しても十分な効力を有し、薬剤の無駄な使用をおさえた安全性の高い蚊成虫の駆除剤および駆除方法を提供することが可能となった。」もの、すなわち、(i)速やかに殺虫成分の気中濃度を高めることができ、(ii)溶剤による部屋や家具の汚染がなく、(iii)処理後数時間は十分な量の薬剤が空気中にとどまるものである、といえる。
ところで、(i)については、エアゾール殺虫剤は通常、「時間の経過に伴う落下仰転虫数率を求めて速効性を調べる。」ものであるから(摘示(乙4-5))、速効性があること、すなわち、速やかに殺虫成分の気中濃度を高めることができるものであることは、当然といえる。したがって、この効果は、エアゾール殺虫剤が当然に有している効果である。
また、(ii)について、本件明細書の段落0010に、「前記噴射剤の液相および気相を合わせた容積比率は、前記耐圧容器の全容積の85%を越えるため、有機溶剤を使用する場合でも、噴射時の環境に対する有機溶剤による汚染が減少し、さらに噴霧粒子径が小さくなり、空気中に長くとどまり、殺虫効果において有効となる。」と説明されているように、噴射剤の容積比率が85%を超えることにより奏されるものであり、噴射剤の容積比率は、「(1)」に示したように、本件発明1と甲1発明で相違しておらず、しかも、溶剤の配合量を減らし、噴射剤の配合量を増せば汚染性が低減できることは、甲第3号証に記載されている(摘示(甲3-4))から、(ii)については、甲第1号証の奏する効果と同じか、あるいは、甲第1号証及び甲第3号証に記載されていることから、当業者が予測しうる程度のものであるといえる。
(iii)については、甲1発明においても、「(4)」で検討したように、「処理後数時間は、蚊成虫を駆除できる量の薬剤が、落下せずに空気中に浮遊している」、すなわち、「空気中にとどまる」ものといえ、この効果は実質的に甲1発明と相違がない。
以上のとおり、本件発明1の効果が格段のものであるとすることはできない。

(7)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1?9号証に記載された発明及び乙第1、3、4、10、12号証等に示される周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本件発明2についての判断
(1)甲1発明との対比
甲1発明は、「1」に示したとおりのものであるところ、本件発明2と甲1発明とは、「2(1)」に示した相違点「ア、イ、ウ、エ」に加えて、次の「オ」の点でさらに相違するものである。
オ 殺虫剤が、本件発明2においては特定のものであるのに対し、甲1発明においては、このような特定のものではない点

(2)相違点ア、イ、ウ、エについて
「2(2)?(5)」に示したとおりである。

(3)相違点オについて
本件発明2において特定される殺虫剤は、甲第3号証、甲第7号証に記載されるように、殺虫剤として普通に用いられるものであるから(摘示(甲3-7)、(甲7-1))、甲1発明において、殺虫剤として一般的なものである、上記特定のものにすることは当業者にとって容易である。

(4)本件発明2の効果について
本件発明2の効果は、本件発明1の効果と同じといえるから、「2(6)」に示したとおりである。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明2は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1?9号証に記載された発明及び乙第1、3、4、10、12号証等に示される周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 結論
したがって、本件発明1、2は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1、2についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

5 被請求人の主張について
被請求人は、「第5 1」において「(1)?(8)」の主張をしているので、検討する。

(6)の主張について
被請求人が甲第10?13号証についても反論した後に、総合的にこの審決で判断するところである。

(2)の主張について
各種ピレスロイドがイエバエに対してもアカイエカに対してもKT_(50)値が低いものであること(摘示(乙1-5)等)や、KT_(50)値が、一般に速効性を評価する目的の試験に用いられるものであること(摘示(乙4-2)等)は、当業者にとって技術常識といえるから、甲第1号証の記載に接した当業者は、ここに記載されたピレスロイド化合物も通常の殺虫剤と同様にイエバエやアカイエカの駆除に使用できると認識するといえる。
そうすると、甲第1号証の記載が、「1」に示した「甲1発明」を認定するに際しての阻害要因にはなり得ない。

(3)、(4)、(7-2)の主張は、いずれも、相違点アについての主張であり、「2(2)」に示したとおりである。

(7-3)の主張は、相違点イについての主張であり、「2(3)」に示したとおりである。

(7-4)の主張は、相違点ウについての主張であり、「2(4)」に示したとおりである。

(1)、(5)、(8)の主張について
これらの主張は、本件発明の効果に関する主張であり、「2(6)」に示したとおりである。
なお、(8)の主張についてさらに検討すると、ここで、被請求人は、「エアゾール製剤において溶剤なしで、かつ噴霧粒子の微細化を図ることは、阻害要因が存在していた」、「噴霧粒子を微細化することで、結果的に蚊取線香などと同様に、蚊の気門から薬剤粒子を吸入させて駆除する」と主張するが、溶剤なしのエアゾール製剤、すなわち、「殺虫剤からなる原液」を用いたエアゾール殺虫剤が普通の形態のひとつであることは、すでに示したとおりであり(「2(3)(3-2)?(3-4)」)、また、噴霧粒子の具体的な大きさや、蚊の気門から薬剤粒子が吸入されることについては、本件明細書において実証されていないのみならず、そのような説明すらされていないから、このような主張は明細書の記載に基づくものではない。
繰り返しになるが、本件明細書に記載されているのは、請求項1で特定する要件を備えた駆除方法を蚊成虫の駆除に適用したところ、蚊成虫の駆除に効果があった、ということであり、エアゾール殺虫剤において、噴射剤量が多いと粒子は微細化され、微細化されれば粒子が長時間空気中に浮遊し殺虫効果が上がることは周知といえるから(摘示(甲3-4)、(甲3-6)、(甲4-1)、(甲6-1)等)、「2(6)」に示したように、その効果は当業者の予測の範囲である。

以上のとおりであって、被請求人の主張は、「4」の結論を左右しない。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由には理由があり、本件発明1、2についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
蚊成虫の駆除方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】殺虫剤からなる原液、および噴射剤を開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器に収納して、前記原液の容積比率が前記耐圧容器の全容積の15%以下とした蚊成虫の駆除剤を30m^(3)の空間あたり有効成分として2.78?15mg噴霧せしめることを特徴とする蚊成虫の駆除方法であって、前記原液における殺虫剤は、脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたものではなく、かつ活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものでもなく、それのみで用いたものであり、前記噴射剤が液化石油ガス、ジメチルエーテル、およびハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれた少なくとも1つである、噴霧処理後は駆除効果を持続させて駆除を行う、蚊成虫の駆除方法。
【請求項2】殺虫剤が3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル dl-シス/トランス-クリサンテマート、3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-シス/トランス-クリサンテマート、3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-トランス-クリサンテマート、d-3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-トランス-クリサンテマート、d-2-メチル-4-オキソ-3-プロパルギルシクロペント-2-エニル d-シス/トランス-クリサンテマート、N-(3,4,5,6-テトラヒドロフタリミド)-メチル dl-シス/トランス-クリサンテマート、N-(3,4,5,6-テトラヒドロフタリミド)-メチル d-シス/トランス-クリサンテマート、2-アリル-3-メチル-2-シクロペンテン-1-オン-4-イル-2,2,3,3-テトラメチル-シクロプロパンカルボキシラート、天然ピレトリン(ジョチュウギク抽出エキス)、および合成ピレトリンからなる群より選ばれた少なくとも1つである請求項1記載の蚊成虫の駆除方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は蚊成虫の駆除剤および駆除方法に関する。さらに詳しくは、蚊成虫を速やかに駆除し、かつ薬剤の無駄をなくし、部屋の汚染のない、安全性の高い蚊成虫の駆除剤および駆除方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、蚊成虫の駆除剤としては、例えば、蚊取り線香、蚊取りマット、液体式蚊取り製剤などの、殺虫成分を加熱蒸散させることにより揮散せしめる製剤や、溶剤に殺虫成分を溶解せしめ、圧縮空気(手押しポンプ式)または液化ガス(エアゾール式)により空気中に散布せしめる製剤が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、加熱蒸散式の製剤は殺虫成分の気中濃度が蚊の駆除に必要な濃度に達するまでに長時間を要するため、蚊の侵入に気づいてから処理を開始しても吸血を阻止できない場合がある。また、近年の住宅事情の変化により網戸が普及しているため、就寝前に部屋にいる蚊を駆除すれば駆除剤としての目的を達成できる。そのため、従来の加熱蒸散式製剤のように連続して薬剤を揮散させる必要がない場合も多い。
【0004】
また、手押しポンプ式またはエアゾール式の製剤は、殺虫成分の気中濃度は速やかに高めることができるが、溶剤による部屋や家具の汚染があり、また薬剤の粒子径が加熱蒸散式製剤と比較して大きいため空気中に散布した薬剤が早期に落下してしまう。そのため、殺虫成分が蚊成虫の潜む物陰に行き渡らず、また物陰に潜む蚊が飛行しはじめても十分な薬剤が空気中にないため効力が得られない場合がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、従来の加熱蒸散式の製剤よりも速やかに殺虫成分の気中濃度を高め、かつ従来の手押しポンプ式またはエアゾール式の製剤のような溶剤による部屋や家具の汚染がなく、処理後数時間は蚊成虫を駆除できる量の薬剤が空気中にとどまるため、物陰に潜む蚊に対しても十分な効力を有し、薬剤の無駄な使用をおさえた安全性の高い蚊成虫の駆除剤および駆除方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は殺虫剤そのもの、または微量の溶剤に溶解せしめた殺虫剤を多量の噴射剤とともに空気中に散布せしめることにより、従来の蚊成虫駆除剤より著しく速効的であり、かつ溶剤による汚染がなく、処理後数時間は効力が持続することを見出すことによって達成されたものであって、下記の手段によって上記の目的を達成した。
【0007】
即ち、本発明の要旨は、
(1)殺虫剤からなる原液、および噴射剤を開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器に収納して、前記原液の容積比率が前記耐圧容器の全容積の15%以下とした蚊成虫の駆除剤を30m^(3)の空間あたり有効成分として2.78?15mg噴霧せしめることを特徴とする蚊成虫の駆除方法であって、前記原液における殺虫剤は、脂肪族炭化水素又はアルコールからなる有機溶剤に溶解せしめたものではなく、かつ活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものでもなく、それのみで用いたものであり、前記噴射剤が液化石油ガス、ジメチルエーテル、およびハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれた少なくとも1つである、噴霧処理後は駆除効果を持続させて駆除を行う、蚊成虫の駆除方法、ならびに
(2)殺虫剤が3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル dl-シス/トランス-クリサンテマート、3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-シス/トランス-クリサンテマート、3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-トランス-クリサンテマート、d-3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-トランス-クリサンテマート、d-2-メチル-4-オキソ-3-プロパルギルシクロペント-2-エニル d-シス/トランス-クリサンテマート、N-(3,4,5,6-テトラヒドロフタリミド)-メチル dl-シス/トランス-クリサンテマート、N-(3,4,5,6-テトラヒドロフタリミド)-メチル d-シス/トランス-クリサンテマート、2-アリル-3-メチル-2-シクロペンテン-1-オン-4-イル-2,2,3,3-テトラメチル-シクロプロパンカルボキシラート、天然ピレトリン(ジョチュウギク抽出エキス)、および合成ピレトリンからなる群より選ばれた少なくとも1つである前記(1)記載の蚊成虫の駆除方法、に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の蚊成虫の駆除剤は、殺虫剤を0.1重量%以上含有する原液、および噴射剤を開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器に収納して、前記原液の容積比率が前記耐圧容器の全容積の15%以下としたことを特徴とするものである。
【0009】
前記原液は、殺虫剤のみでもよく、または有機溶剤に殺虫剤を溶解させて用いてもよいが、有機溶剤に溶解させて用いる場合、有機溶剤の噴射量を抑えつつ、一定以上の有効成分量を噴射せしめるために、殺虫剤を0.1重量%以上、好ましくは1.0重量%以上含有するものである。
【0010】
前記原液の容積比率は、前記耐圧容器の全容積の15%以下であり、好ましくは10%以下である。従って、前記噴射剤の液相および気相を合わせた容積比率は、前記耐圧容器の全容積の85%を越えるため、有機溶剤を使用する場合でも、噴射時の環境に対する有機溶剤による汚染が減少し、さらに噴霧粒子径が小さくなり、空気中に長くとどまり、殺虫効果において有効となる。
【0011】
前記殺虫剤としては、通常使用されているものであれば特に限定されないが、例えば、3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イルdl-シス/トランス-クリサンテマート(一般名アレスリン:例えば、商品名「ピナミン」(住友化学工業(株)製)等)、3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名dl・d-T80-アレスリン:例えば、商品名「ピナミンフォルテ」(住友化学工業(株)製)等)、3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-トランス-クリサンテマート(一般名dl・d-T-アレスリン)、d-3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル d-トランス-クリサンテマート(一般名d・d-T-アレスリン)、d-2-メチル-4-オキソ-3-プロパルギルシクロペント-2-エニル d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名d・d-T80-プラレトリン:例えば、商品名「エトック」(住友化学工業(株)製)等)、N-(3,4,5,6-テトラヒドロフタリミド)-メチル dl-シス/トランス-クリサンテマート(一般名フタルスリン:例えば、商品名「ネオピナミン」(住友化学工業(株)製)等)、N-(3,4,5,6-テトラヒドロフタリミド)-メチル d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名d-T80-フタルスリン:例えば、商品名「ネオピナミンフォルテ」(住友化学工業(株)製)等)、2-アリル-3-メチル-2-シクロペンテン-1-オン-4-イル-2,2,3,3-テトラメチル-シクロプロパンカルボキシラート(一般名テラレスリン:例えば、商品名「ノックスリン」(住友化学工業(株)製)等)、および天然ピレトリン(ジョチュウギク抽出エキス)、合成ピレトリンからなる群より選ばれた少なくとも1つであることが好ましい。
【0012】
前記原液は、前記殺虫剤のみ、または前記殺虫剤を脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール、エステル、エーテル、およびケトンからなる群より選ばれた少なくとも1つの有機溶剤に溶解せしめたもの、または前記殺虫剤を活性剤とともに水に乳化または懸濁せしめたものであることが好ましい。
【0013】
前記脂肪族炭化水素および脂環式炭化水素としては、例えば、n-パラフィン、i-パラフィン、n-オレフィン、i-オレフィン、シクロパラフィン等の炭素数5?16の直鎖または分岐鎖を有する脂肪族炭化水素および脂環式炭化水素が挙げられ、これらの中では、n-パラフィン、i-パラフィン等が好ましい。
【0014】
前記芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、アルキル(炭素数10?14の直鎖アルキル基)ベンゼン等の炭素数6?20の芳香族炭化水素が挙げられ、これらの中では、アルキル(炭素数10?14の直鎖アルキル基)ベンゼン等が好ましい。
【0015】
前記ハロゲン化炭化水素としては、例えば、フルオロカーボン、クロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロクロロカーボン(クロロホルム、メチルクロロホルム等)、ハイドロクロロフルオロカーボン、等の炭素数1?3のハロゲン化炭化水素が挙げられ、これらの中では、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロクロロカーボン等が好ましい。
【0016】
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の脂肪族アルコール、グリセリン等の炭素数1?10のアルコールが挙げられ、これらの中では、エタノール、プロパノール等が好ましい。
【0017】
前記エステルとしては、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、ステアリン酸エステル、安息香酸エステル、ラウリン酸エステル等の炭素数4?27のエステルが挙げられ、これらの中では、酢酸エステル等が好ましい。
【0018】
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル等の炭素数4?12のエーテルが挙げられ、これらの中では、ジエチルエーテル等が好ましい。
【0019】
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、ジイソブチルケトン等の炭素数3?9のケトンが挙げられ、これらの中では、アセトン等が好ましい。
【0020】
前記活性剤としては、通常使用されているものであれば特に限定されず、非イオン系活性界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル系界面活性剤等の各種界面活性剤が使用できる。
【0021】
前記活性剤の使用量は、通常、原液100重量部に対して、0.1?10重量部程度であることが好ましい。
【0022】
前記原液には、前記殺虫剤に加えて、必要に応じて、致死剤、共力剤、忌避剤等を適宜配合してもよい。
【0023】
前記致死剤としては、通常使用されているものであれば特に限定されないが、例えば、5-ベンジル-3-フリルメチル dl-シス/トランス-クリサンテマート(一般名レスメトリン:例えば、商品名「クリスロン」(住友化学工業(株)製)等)、5-ベンジル-3-フリルメチル d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名dl・d-T80-レスメトリン:例えば、商品名「クリスロンフォルテ」(住友化学工業(株)製)等)、3-フェノキシベンジル dl-シス/トランス-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシラート(一般名ペルメトリン:例えば、商品名「エクスミン」(住友化学工業(株)製)等)、3-フェノキシベンジル d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名フェノトリン:例えば、商品名「スミスリン」(住友化学工業(株)製)等)、α-シアノ-3-フェノキシベンジル-2-(4-クロロフェニル)-3-メチルブチレート(一般名フェンバレレート:例えば、商品名「スミサイジン」(住友化学工業(株)製)等)、α-シアノ-3-フェノキシベンジル dl-シス/トランス-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシラート(一般名シペルメトリン:例えば、商品名「アグロスリン」(住友化学工業(株)製)等)、α-シアノ-3-フェノキシベンジル d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名シフェノトリン:例えば、商品名「ゴキラート」(住友化学工業(株)製)等)、2-(4-エトキシフェニル)-2-メチルプロピル-3-フェノキシベンジルエーテル(一般名エトフェンプロックス:例えば、商品名「トレボン」(三井東圧(株)製)等)等のピレスロイド系殺虫剤、(2-イソプロピル-4-メチルピリミジル-6)-ジエチルチオホスフェート(一般名ダイアジノン)、O,O-ジメチル-O-(3-メチル-4-ニトロフェニル)チオホスフェート(一般名フェニトロチオン:例えば、商品名「スミチオン」(住友化学工業(株)製)等)、O,O-ジメチル-O-(3-オキソ-2-フェニル-2H-ピリダジン-6-イル)ホスホロチオエート(一般名ピリダフェンチオン:例えば、商品名「オフナック」(三井東圧(株)製)等)、ジメチルジカルベトキシエチルジチオホスフェート(一般名マラチオン:例えば、商品名「マラソン」(住友化学工業(株)製)等)、O-〔(E)-2-イソプロポキシカルボニル-1-メチルビニル〕O-メチルエチルホスホラミドチオエート(一般名プロペタンホス:例えば、商品名「サフロチン」(サンド(株)製)等)、O,O-ジメチル-2,2-ジクロロビニルホスフェート(一般名ジクロルボス:例えば、商品名「DDVP」)等)等の有機リン系殺虫剤、2-イソプロポキシフェニル-N-メチルカーバメート(一般名プロポクスル:例えば、商品名「バイゴン」(バイエル(株)製)等)等のカーバメート系殺虫剤、5-メトキシ-3-(2-メトキシフェニル-O-1,3,4-オキサジアゾール-2(3H)-オン(一般名メトキサジアゾン:例えば、商品名「エレミック」(住友化学工業(株)製)等)等のオキサジアゾール系殺虫剤からなる群より選ばれた少なくとも1つが挙げられる。
【0024】
前記致死剤の使用量は、原液100重量部に対して、通常、0.01?90重量部程度であることが好ましい。
【0025】
前記共力剤としては、通常使用されているものであれば特に限定されないが、例えば、ブチルカービトル 6-プロピル-ピペロニル エーテル(例えば、商品名「ピペロニルブトキサイド」(高砂香料(株)製)等)、オクタクロロジプロピルエーテル(例えば、商品名「S-421」)、イソボルニルチオシアナアセテート(例えば、商品名「IBTA」(日本精化(株)製)等)、N-オクチルビシクロヘプテンカルボキシイミド(例えば、商品名「サイネピリン222」(吉富製薬(株)製)等)、N-(2-エチルヘキシル)-1-イソプロピル-4-メチルビシクロ(2,2,2)オクト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド(例えば、商品名「サイネピリン500」(吉富製薬(株)製)等)等が挙げられる。
【0026】
前記共力剤の使用量は、原液100重量部に対して、通常、0.3?99重量部程度であることが好ましい。
【0027】
本発明に使用される噴射剤としては、通常使用されているものであれば、特に限定されないが、例えば、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、ハロゲン化炭化水素、圧縮炭酸ガス、圧縮窒素、および圧縮空気からなる群より選ばれた少なくとも1つであることが好ましく、これらの中では、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、ハロゲン化炭化水素等が特に好ましい。
【0028】
本発明に使用される開閉可能な噴射口を設けた耐圧容器は、特に限定されず、従来のエアゾール製品に使用されているものと同様のものを使用することができる。
【0029】
本発明の蚊成虫の駆除方法において、前記駆除剤の噴射量は、速やかな効力の発現を得るために、前記駆除剤を30m^(3)の空間あたり有効成分として0.1mg以上、好ましくは0.5mg以上であり、人体に対する刺激や吸入による毒性を軽減するために、20mg以下、好ましくは15mg以下である。ここで、有効成分とは、本発明に使用される殺虫剤をいう。
【0030】
本発明では、有効成分を短時間のうちに空気中に散布して気中濃度を瞬時に高めることにより、従来の加熱蒸散式の製剤よりも速やかに殺虫成分の気中濃度を高めることができ、また、殺虫剤そのものまたは微量の有機溶剤に溶解せしめた殺虫剤を多量の噴射剤とともに空気中に散布せしめることにより、従来の手押しポンプ式またはエアゾール式の製剤のような有機溶剤による部屋や家具の汚染がなく、処理後数時間は蚊成虫を駆除できる量の薬剤が空気中にとどまるため物陰に潜む蚊に対しても十分な効力を有する。
【0031】
従って、本発明の蚊成虫の駆除剤および駆除方法は薬剤の無駄な使用をおさえた安全性の高いものである。
【0032】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例によりなんら限定されるものではない。
【0033】
実施例1?13(但し、実施例3?6、9、11?13は参考例である)、比較例1?5
殺虫剤、有機溶剤、および噴射剤を、表1に示す配合量で用いて、駆除剤を調製した。なお、比較例3?5ではそれぞれ蚊取りリキッド、蚊取りマットおよび蚊取り線香を使用した。
【0034】
【表1】

【0035】
8畳(約30m^(3))の居室試験室にアカイエカ雌成虫を約100匹放ち、実施例1?13および比較例1?5で調製した駆除剤を表2に示す処理量で噴霧処理し、噴霧からの経時的なノックダウン虫数を調査した。また、噴霧から1時間後、2時間後にもアカイエカ雌成虫を約100匹放ち、蚊を放ってからの経時的なノックダウン虫数を調査した。これらの結果からBlissのProbit法により50%の個体がノックダウンするまでの時間(KT_(50))を求めた。その結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
以上の結果より、実施例1?13で調製した駆除剤は、従来の蚊取りマット、蚊取りリキッド、蚊取り線香と比較して明らかに処理直後の速効性が高まっていた。効力の持続時間は比較例1および2で調製した従来のエアゾール製剤と比較して明らかに長くなっていた。従って、実施例1?13で調製した駆除剤を用いることにより速やかに蚊成虫の駆除することができ、その駆除効果は処理後数時間持続することが期待できる。
【0038】
【発明の効果】
本発明により、従来の加熱蒸散式の製剤よりも速やかに殺虫成分の気中濃度を高め、かつ従来の手押しポンプ式またはエアゾール式の製剤のような溶剤による部屋や家具の汚染がなく、処理後数時間は蚊成虫を駆除できる量の薬剤が空気中にとどまるため、物陰に潜む蚊に対しても十分な効力を有し、薬剤の無駄な使用をおさえた安全性の高い蚊成虫の駆除剤および駆除方法を提供することが可能となった。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-03-10 
結審通知日 2010-03-24 
審決日 2009-03-26 
出願番号 特願平9-19854
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤森 知郎  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 細井 龍史
橋本 栄和
登録日 2007-10-19 
登録番号 特許第4027451号(P4027451)
発明の名称 蚊成虫の駆除方法  
代理人 小栗 昌平  
代理人 細田 芳徳  
代理人 細田 芳徳  
代理人 添田 全一  

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